世界の 水資源の動き

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「世界の
水資源の動き」
水は生命の維持に不可欠なだけでなく、豊かな暮ら
しと健全な生態系の維持に欠かすことができないもの
です。その水は現在、どう消費されているのか、ヴァ
ーチャルウォーター(仮想水)という考え方を含めて
捉えてみましょう。
国・地域で格差がある水資源
いった経済成長著しい国では2.1千t/年と1.7千t/年、さらに中東
地球上の水の量は約140京tといわれます。そのうち、約97.5%
の国、たとえばサウジアラビアでは100t/年にも満たない状態で
が海水で、淡水は約2.5%。しかも淡水のほとんどは南極や北極
す。水資源は国や地域によって大きな差があるのです(図表1)
。
の氷で、われわれが比較的容易に利用できる水は河川・湖沼な
その差を埋めるため、水の豊富な地域から乏しい地域へ水を
どわずか0.01%しかありません。
運ぶことは現実的には難しいことです。水の値段はあらゆる生
世界における年間1人当たりの水の資源量をみると、カナダが
産財の中できわめて安く、倉庫やコンテナ輸送などで保管・輸
9万t/年を越えるのに対して、日本は3.3千t/年、中国、インドと
送するにはコストがかかりすぎるためです。
● 図表1 世界における年間1人当たりの水の資源量(2003−2007年)
80,000以上
〜80,000
〜60,000
〜40,000
〜20,000
〜10,000
〜5,000
〜2,500
〜1,000
500以下
(t/年)
90,000
80,000
40,000
30,000
(単位:t/年 )
20,000
10,000
0 カ
ナ
ダ
ノ
ル
ウ
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ニ
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ラ
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ド
ブ
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ル
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資料:FAO AQUASTAT(2008.1.16)より作成
フ
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ラ
ビ
ア
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「世界の水資源の動き」
世界の水の7割は農業用に利用
発展途上国の人口増が水需要を押し上げるのです。
実際に水がどう使われているかというと、世界では農業用・
用途別にみると、人口増加に伴う食料の生産拡大のため、農
工業用が9割で、特に農業用は全体の7割を占めます。地域別で
業用水は1995年と比較して2025年には約3割アップする見通し
は、農業用はアフリカ、アジア、オセアニア、ラテンアメリカ、
です。他の用途と比べて増加率は低いのですが、全体での割合
工業用はヨーロッパ、北アメリカで高くなっています(図表2)
。
は6割を大きく越えます。この人口増加による農業用水の増大、
今後、アジアを中心に人口が拡大する中で、水の需要も当然
そして経済発展に伴う水利用の増大などによって、今後、世界
アジアを中心に高まっていくものと考えられます(図表3)。
の水需給がさらに厳しさを増すのは間違いないと考えられます。
●図表2
世界の水資源の使用状況(2001年)
世界の水の7割は農業用に使用されている
(%)
100
80
32
29
70
60
86
81
71
農業
72
68
工業
40
53
48
10
20
20
4
10
10
0
世界
11
19
23
ラテンアメリカ
カリブ諸国
7
アフリカ
アジア
9
10
生活
13
18
15
北アメリカ
オセアニア
ヨーロッパ
資料:FAO.2006.AQUASTAT DATABASEより作成
●図表3
世界の人口と水需要の将来の見通し
アジアを中心とする人口増加に伴い、水需要もアジアを中心に増大する見通しとなっている
(億人)
80
〈世界の人口〉
オセアニア
70
79
南米
アフリカ
56.7
60
(億t)
50,000
〈世界の水需要量〉
オセアニア
北米
南米
アフリカ
欧州
40,000
35,720
欧州
50
〈1995年と2025年の用途別内訳〉
49,120
北米
1995年
35,720 (億t)
農業用 25,040
工業用 7,140
生活用 3,540
30,000
40
30
20,000
25.2
アジア
13,600
20
アジア
0
1950年
1995年
2025年
49,120(+38%)
(億t)
農業用
31,620(+26%)
10,000
10
0
2025年
生活用
工業用
11,060(+82%) 6,450(+55%)
1950年
1995年
2025年
※カッコ内の数値は1995年との比較アップ分
資料:総務省統計局「世界の統計」、農林水産省「我が国の食料自給率 2003年度食料自給レポート」(I.A.Shiklomanov「Assessment of Water Resources and Water
Availability in the World」より)
、国土交通省「平成19年版 日本の水資源」ほかより作成
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「世界の水資源の動き」
日本は大量の水輸入国
えると、日本の生活はかなりの部分で外国からの水に依存して
ところで、われわれは「自国で利用できる水」だけでなく
「目に見えない水」も利用しています。それがヴァーチャルウォ
※
いることになります。
沖研究室によると、食料1tを生産するのに必要な水は、牛肉
ーター(仮想水)という考え方です。日本の食料自給率は39%、
(正肉)がトップで20,700t、トウモロコシの1,900tと比べると約
残りの食料は海外からの膨大な輸入に頼っています。その食料
10倍の量です(図表5)
。輸入量のうち、肉類の占める割合が多
を育てるため、
「目に見えない水」が使われているのです。
ければヴァーチャルウォーターの量も当然大きくなります。た
東京大学生産技術研究所・沖大幹教授の研究室(以下、沖研
だ2000年以降は、「BSEによる米国産牛肉の輸入停止措置で、
究室)では、仮にその食料を輸入せずに日本で作ったとしたら、
ヴァーチャルウォーターの輸入量は減少しています」
(沖教授)
。
どれだけの水が必要になるかを調べています。これによると、
2000年のヴァーチャルウォーターの総輸入量は640億t/年に及び
ます(図表4)
。国内の水の使用量が約835億t/年であることを考
●図表4
※食料の輸入によって節約できた水資源をヴァーチャルウォーター(仮想水)と呼
びます。もともとは1990年代初頭にロンドン大学のアンソニー・アラン教授が提唱
した概念です
日本のヴァーチャルウォーター輸入量(2000年)
日本は大量のヴァーチャルウォーターを輸入している
デンマーク
14
カナダ
中国
49
22
アメリカ
389
タイ・
ベトナム
13
オーストラリア・
ニュージーランド
89
総輸入量:640億t/年
その他
39
資料:東京大学生産技術研究所 沖・鼎研究室より
●図表5
食料を1t生産するのに必要な水の量
牛肉にはトウモロコシの約10倍の水が必要
牛肉
(正肉)
20,700
5,900
豚肉
(正肉)
4,500
鶏肉
(正肉)
卵
3,200
米
3,600
大麦
2,600
大豆
2,500
小麦
2,000
トウモロコシ
1,900
0
5,000
10,000 15,000
資料:東京大学生産技術研究所 沖・鼎研究室より
20,000(t)
アルゼンチン・
ブラジル 25
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「世界の水資源の動き」
世界の水問題は日本にとっても重要なこと
沖研究室ではヴァーチャルウォーターを考慮した各国の水の
●図表6
ヴァーチャルウォーターを考慮した各国の
水の自給率(2000年)
日本、韓国、中東は100%を割り込んでいる
自給率(2000年)も算出しています。オーストラリアやカナダ
水の自給率は以下の方式によって算出
など1人当たりの水資源の多い国では100%を大きく上回ってい
ますが、中国や日本、韓国では100%を割り込んでいます。ま
た、中東やアフリカの中にはきわめて自給率の低い国がありま
す(図表6)
。
世界では人口の2割が安全な飲料水にアクセスできないでいま
す。日本では水不足を日常的に感じることはあまりないとはい
え、世界の水問題はわれわれにとって無縁ではありません。世
界の水問題が深刻化すれば、海外で十分な食料を生産すること
ができず、日本は必要とする量の食料を輸入することができな
くなります。
今、そこにある水問題にわれわれはどう取り組んでいくべき
なのでしょうか。沖教授は「節水農業や節水家電の普及、ある
いは水価格の適正化といった 水需要の削減策 と、水循環予
測に基づく効率的な貯水池運用や再生水利用の拡大、あるいは
雨水利用の促進による 水供給量の増大策 の両面から、安定
した持続的な水利用社会を実現することが大事」と指摘します。
企業の保全活動はすでに始まっています。水の大切さを理解
し、さらなる取り組みを進めることが重要です。
国内取水量+農業用天水
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
国内取水量+農業用天水+VW輸入量−VW輸出量
※国内取水量=河川等から取り入れた水の量
農業用天水=降水量×農地面積×蒸発散量
VW=ヴァーチャルウォーター
カ
ザ
フ
ス
タ
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ア
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ラ
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ン
ア
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ブ
首
長
国
連
邦
シ
ン
ガ
ポ
ー
ル
資料:東京大学生産技術研究所 沖・鼎研究室「2007年度 生研公開 地球水循環
と社会〜今日の洪水と世紀末の水需給〜」より