情報産業 1996 ◎解説の角度〔1996 年版 現代産業〕 ●日本産業は歴史的な転換期を迎えており、90 年代後半は次の発展に向けて条件整備に費やされることになろう。日本産業が直面する環境は、ボーダーレス化、 情報ネットワーク化が進行し、変化が早く競争の激しい「メガ・コンペティションの時代」である。この新しい環境に適応するためにはこれまでの日本産業の 成長を支えてきた経済・産業システムの基本的な見直しが不可欠である。とりわけ、規制緩和を進め、自由で効率的な市場メカニズムが機能し、企業家精神が 発揮できるシステムへの転換が課題といえる。 ●平成不況からの回復が遅れる中で、さらなる円高の進展、アジア地域の経済発展、流通環境の変化と価格破壊の進行、事業環境の高コスト化がクローズアッ プされている。海外への本格的な生産移転(空洞化)や情報ネットワーク化も産業のあり方に大きなインパクトを与えている。特にインターネットやCALS による大きな影響がが確実視されており、企業の関心が一挙に高まってきた。 ●このように環境変化が加速化する中で、企業は、意思決定のスピードを早め、グローバルな視野に立った企業活動の最適配分・立地を求められている。 ▲産業発展と産業構造〔1996 年版 現代産業〕 先進国水準へのキャッチアップを終えた日本の産業は、円高や貿易摩擦に直面する中でアジア地域をはじめ海外を巻き込んだグローバルなレベルでの産業構造 の変革を進めている。日本は、賃金・土地価格にはじまりエネルギー、輸送費その他産業の活動を支える投入要素の費用が世界の中で最も高い国になってしま った。従来と同じ製品を同じ方法で国内生産するのでは、コスト的に競争できないために海外に生産移転が行われ、その海外工場からの製品輸入が増える。日 本は新製品の開発や、海外向け生産設備などに製造業の主力が移り、貿易の対象にならない第三次産業のウェイトが高まっている。 ◆産業構造の高度化〔1996 年版 現代産業〕 高次の発展段階への移行をともなう産業構造の変化のこと。農林漁業(第一次産業)の支配的な産業構造が、鉱・工業(第二次産業)のウェイトの高い構造へ と移行する工業化、初期の工業化を主導した軽工業(消費財産業)から重化学工業(生産財・資本財産業)へと工業内部のウェイトが変化する重工業化、加工 度の低い素材産業から、加工産業や組立産業、とりわけ組立産業のウェイトが増大する高加工度化の傾向や、サービス産業(第三次産業)のウェイトが増大す るサービス化などの発展段階がある。産業構造の高加工度化、サービス化が進む一方、エレクトロニクス・情報分野の技術革新が進み、金融、流通、情報通信 等、ソフトウェアを中心に産業の情報化・知識集約化、さらに情報そのものをビジネスの対象とする情報の産業化が進展する。最近のコンピュータ関連機器の 値下がりと普及で高度情報社会に向かう産業構造の変化が加速する兆しをみせている。 ◆産業空洞化(hollowing out)〔1996 年版 現代産業〕 ディインダストリアリゼーション(deindustrialization)とも。主要産業の海外進出に伴い国内の産業活動、特に製造業が衰退に向かうこと。急激な円高傾向 や貿易摩擦の激化などによる輸出の停滞に伴い、自動車・エレクトロニクスなどわが国の代表的なハイテク輸出産業の現地生産化に拍車がかかった一九八○年 代後半に空洞化が議論された。ちなみに、九三(平成五)年度の海外直接投資額は三六○億ドルと対前年比五・五%増となった。地域別に見ると、北米・ヨー ロッパ向けが減少から増加に転じたが、アジアではとりわけ中国向けの増加が顕著であった。 このような産業の現地生産化はわが国の地域的産業・経済の発展を損ない、マクロ的な産業・経済活動にも支障をきたすと空洞化が危惧されたが、実態はむし ろ国際分業をすすめ、わが国産業の高度化を促しているといえよう。ところで九五年に入り円高が進み、改めて空洞化問題が登場している。八○年代に設立し た海外の組立工場向けに日本から部品を輸出するという戦略が円高でコスト的に成立しなくなり、本格的な生産設備を現地に移行せざるをえなくなったためで ある。いま必要とされるのは、次の技術開発、とりわけ新製品開発のための本格的な取組みであり、これによってのみ空洞化は回避できる。 ◆工程間分業〔1996 年版 現代産業〕 部品・半製品の貿易により、多段階にわたる生産工程の一定部分を他国と分業し、部品・半製品と完成品、もしくは部品・半製品同士の相互供給・補完を行う 国際分業形態のこと。例えば、半導体の生産工程において化学処理、露光処理などを終えた半製品を日本の工場から輸出し、東南アジア諸国で組み立て、検査 などの後工程を行い完成品に仕上げる場合、これを工程間分業といい、この課程で生じる貿易を工程間貿易という。一般的な傾向として様々な部品、中間製品 からなる加工組立型産業製品では、消費者ニーズの多様化に対応した多機能化・多品種化が進み、その生産工程も複雑化・多段階化する。また部品・中間製品 の性能・品質の専門化・多品種化も不可欠である。 しかも多様な部品・中間製品の生産は、それぞれの生産方式や工程に合わせて分割され、生産コストの低減や品質の向上が追及される。このため、工程間分業、 工程間貿易は増大している。 ◆地域ベンチャー〔1996 年版 現代産業〕 「地方の時代」を迎え健康・医療や環境をはじめ、地域密着・生活関連型の「地域ベンチャー」の成長に期待が集まっている。八○年代に脚光を浴びたハイテ ク技術やソフトウェア開発など研究開発型ベンチャー・ビジネスや、大分県の一村一品運動から全国的に広がった地域産業おこしが一段落するなど、最近はベ ンチャーの不振が続いてきた。例えば、九○年代はじめの新規開業率(全法人に占める新規設立法人の割合)はピーク時の半分近くまで低下している。しかし、 平成不況からの回復過程で、普通の中小企業や大企業の下請けで技術を蓄積した企業が時代のニーズを巧みに捉え様々なビジネスに挑戦しはじめた。 内需型成長をめざす日本経済の構造変化が進む中で、地域が新しい消費市場として浮上し様々なビジネスが各地に育つ可能性が出てきた。一例を挙げると、生 ゴミを肥料に変えるプラント、廃棄プラスチックの再処理技術、マイタケの人工栽培、学習塾などであり、産業の活性化、雇用の受け皿として地域ベンチャー への期待は大きい。 ◆主導産業(リーディング・インダストリー)(leading industries)〔1996 年版 現代産業〕 経済発展の各段階で、成長を牽引し一国の経済や国民生活に多大な影響を及ぼす産業のこと。主導産業の基準には、産業の規模と成長性、他産業の発展を誘発 する波及効果の大きさ、輸出や雇用に対する寄与などがあげられよう。戦後の経済復興期から高度成長期における主導産業は、石炭・繊維・鉄鋼・造船、化学、 自動車・家電などのエネルギー多消費型の重化学工業や耐久消費財の製造業であった。一九八○年代に入り、技術革新の新しいうねりが生じ、マイクロエレク トロニクス革命・高度情報化の推進役であるエレクトロニクス産業や広義の情報産業が、リーディング・インダストリーとして登場した。半導体技術や液晶技 術、光エレクトロニクス、バイオテクノロジーなどが革命的に進歩しつつあり、マルチメディアを軸にした人類未知の新しい時代が到来しようとしている。 ◆サポーティング・インダストリー(Supporting industry)〔1996 年版 現代産業〕 鋳物、鍛造など素形材や金型、部品および工作機械など機械工業の生産活動を支える裾野、周辺産業のこと。アジア諸国の工業化は一九八○年代から輸出産業 に主導されて急速な勢いで進行しており、引き続き二一世紀に向けて成長が期待されている。 その中で、エネルギー、港湾・輸送・通信施設など社会資本の不足とともにアジア諸国のサポーティング・インダストリーの脆弱性が問題になっている。これ らの分野は中小企業で3K業種に属しているものが多く、わが国では人手を集めにくくなっている。一九九三(平成五)年一月宮沢首相がASEAN諸国を訪 問した際にその育成への協力が表明されており、今後わが国からサポーティング・インダストリーのアジア諸国への工場進出や技術移転が増大することになろ う。 ◆産業用財産業〔1996 年版 現代産業〕 産業用電子機器、半導体などの高度機能部品や金型など熟練を要する機械部品、あるいは工作機械、産業用ロボット、半導体製造装置などの技術集約的な資本 財を供給する産業の総称。世界的に競争が激しくなる中で、生産技術の高度化、効率化が進み、また品質要求が厳しくなってきたために、エレクトロニクス製 品、自動車など消費財の加工・組立てを行っている産業やその部品産業などを中心に内外の需要が増えている。わが国が、これまでに蓄積した高度な生産技術 を生かせる分野であり、独壇場といえるものも多い。海外に展開するわが国企業向けだけでなく、世界各地の企業向けに今後の需要拡大が期待される。 ◆文化産業〔1996 年版 現代産業〕 急速な工業化を軸とした経済の高度成長によって、わが国の国民所得が先進国間の比較でみてもトップグループ水準に上昇したことを背景に、余暇=消費生活 と就業=勤労生活の内容をもっと豊かでゆとりあるものにしようという主張が強くなり、最近では生活大国構想が提唱されている。豊かさとは選択の多様性で あるという主張もある。産業発展のうえでは、「脱工業化」「サービス経済化」「第三次産業化」の段階に達したというべきであり、文化教室、旅行、音楽、各 種イベント、ファッション、演劇、伝統工芸、そして多様な余暇商品・サービスの供給といった文化的、情緒的な満足を与える多様な文化産業が成長している。 また、文化や福祉事業を企業が支援するフィランソロピーも注目を浴びはじめた。欧米企業には、税引前利益の一%程度を社会に還元するのはあたりまえのこ ととする考え方がある。わが国でも利益の一%を社会への貢献に寄付しようという活動が出ている。 ◆プロセス・イノベーション(process innovation)〔1996 年版 現代産業〕 既存の製品の生産工程や生産技術を改良したり、新工程を創り出すことによって製品コストを削減する、あるいは品質・性能を改善する技術革新のこと。これ に対応するのがプロダクト・イノベーション(product innovation)で、従来存在しなかった画期的な新製品を開発する技術革新である。最近世界から注目さ れる日本の研究開発能力は、多くの分野でアメリカと対等ないし、それを上回る水準に到達しているが、内容をみると基礎研究よりも応用・開発研究にすぐれ、 それに裏打ちされたプロセス・イノベーション指向が特徴である。 VTR、テレビ、半導体、コンピュータ等は、いずれもアメリカで発明されたが、日本がこれに継続的な改良を加え、生産工程の技術革新によってコスト削減 を実現した。現在、世界市場での競争力は日本が強いが、アジア諸国を中心に発展途上国の追い上げも進展している。日本の今後の課題はプロダクト・イノベ ーションといえよう。 ▲産業政策と産業動向〔1996 年版 現代産業〕 鉄鋼、自動車など欧米諸国で既に確立した産業を日本に輸入・育成する場合の産業政策と、欧米でも産業として創成期にあるマルチメディア、バイオテクノロ ジーなど新産業を育成するための産業政策は異なる。日本は、既存産業を欧米から導入する際に、官の主導の下に効率的に技術導入を行ったり、新設備の特別 償却を実施するなど産業の育成に成功した。 しかし、製品コンセプトの創造や市場の開発を、それもリスク負担しながら進めなければならない新産業の場合、政府の果たすべき役割ははっきり異なる。現 在の政府規制や縦割り行政が制約になっているという見方がある。 ◆日米包括経済協議〔1996 年版 現代産業〕 一九九三(平成五)年七月、日米包括経済協議がスタートした。八九(昭和六四)年の日米首脳会談で始まった日米構造問題協議の延長であり、さらに冷戦後 の新しい日米経済関係の構築を目指している。具体的には、両国間の対外不均衡問題等マクロ経済問題、日本市場開放のための分野別協議や規制緩和、政府調 達問題、さらに地球規模の協力問題の三つの課題について九三年九月から両国の協議が始まった。協議の中では、日本の経常収支黒字削減や政府調達の増加に ついて、数値目標を設定したり、合意事項の進捗度を測るための客観的基準を定めようとするアメリカと、それに反対する日本の主張が対立し協議が難航して いる。目標や基準を設定することは、管理貿易につながりかねないとする日本側の主張は、アメリカの学者等からも支持されており最近は、アメリカ側も軟化 する兆しを見せている。しかし、日本側についても問題解決に関する前向きの提案が出ていないという批判もある。 ◆産業構造審議会と二一世紀の産業構造〔1996 年版 現代産業〕 産業構造審議会基本問題小委員会は、一九九四(平成六)年三月、二一世紀の産業構造と新しい産業政策のあり方を展望した報告書をまとめた。この報告書に よると、規制緩和、競争促進策など構造改革を早急に進めれば、住宅、情報・通信、医療福祉、環境等一二分野で市場規模が拡大し、雇用者が増えると展望し ている。具体的には、一二の分野の市場規模は九三年の一三○兆円から二○○○年には二一○兆円、二○一○年には三五○兆円に膨らむ。この間雇用者数は九 三年の八五○万人から二○○○年には一一○○万人、二○一○年には一三七○万人に増える見通しとなっている。その中で最も高い伸びを示し、しかも市場規 模が大きいのは、情報・通信分野であり、映像ソフトウェア、在宅医療、遠隔教育、電子新聞、テレビ電話、携帯電話等が成長商品としてあがってくる。 ◆エネルギー・環境の基盤技術開発〔1996 年版 現代産業〕 通産省は、一九九四(平成六)年度から一○年計画でエネルギー・環境関連の共通基盤技術の開発に取り組む。エネルギー変換、輸送、貯蔵、利用、排出の各 分野にまたがる革新技術で、(1)耐熱性材料などを研究する「革新的エネルギー効率発現材料」、(2)新たな触媒などを開発する「物質・エネルギー変換技 術」、 (3)生物機能をエネルギー変換などに応用する「バイオエネルギー技術」、および(4) 「新エネルギー構成・創生技術」の四分野から、三○テーマを取 り上げる予定である。実際の開発は、国立研究機関や民間企業の共同研究で実施することになっており初年度予算は約二○億円の予定。 ◆独占禁止法(独禁法)〔1996 年版 現代産業〕 財閥解体のあとを受け、経済民主化のために一九四七(昭和二二)年に制定された法律で、正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」と いう。 事業者の公正かつ自由な競争を確保し、国民経済の民主的で健全な発達を図ることを究極の目的として、(1)私的独占、(2)不当な取引制限、(3)不公正 な取引方法の禁止、を三本柱とする。 独禁法の運営には、学識経験者によって構成され、内閣から独立し、調査、勧告、審判などの権限をもつ公正取引委員会(公取委)があたる。七三∼七四年の 物価狂乱における企業行動への社会的批判のもとに、七七年に成立した改正独禁法は、(1)独占的状態が認められる場合に公取委は営業の一部譲渡などを命 ずることができる(企業分割規定)、 (2)違法カルテルに対する課徴金規定、 (3)価格の同調的引上げ理由の報告に対する規定、 (4)株式保有制限の強化規 定などである。 経済大国になった日本は、例えば株式の持ち合いや系列、行政指導など海外から批判の高まる日本型経済システムを世界に通用するフェアーで透明なシステム へと変えていかなければならないが、その過程で独禁法の果たす役割は大きい。日米包括経済協議でも独禁法の運用強化が論じられその対応が迫られている。 ◆海外生産比率〔1996 年版 現代産業〕 製造企業の売上高に占める海外現地法人売上高の比率。円高、貿易摩擦等各種要因により生産拠点の海外シフトが進行している。わが国製造企業の海外生産比 率は、一九八五(昭和六○)年度の三%から九三年度には六・四%程度にまで高まっている。しかし、アメリカは九一年度ですでに二七%台に達していると推 定されており、今後円高等を背景にわが国企業の国際的な企業内分業が進み、さらにこの比率は高まる見通しである。この比率は、グローバルな視点からする 経営資源の最適配分を示しているが、この点でもわが国製造業の活動は一段と高度化することになろう。 ◆系列(KEIRETSU)〔1996 年版 現代産業〕 日本の企業間あるいは企業グループにみられる長期継続的取引関係で最近海外で注目され、かつ日本企業の競争力の強さの源泉であるとする見方もある。企業 間、グループ内取引だけではなく、役員の派遣など人的関係や、株式を保有する資本関係などが併存する場合が多く、それらも強弱さまざまな関係がある。 系列のタイプは大別すると旧財閥系企業グループで三井、三菱、住友など有力銀行をメインバンクとする異業種の企業集団と、独立型企業グループとして日立、 松下、トヨタなど有力大企業を核として形成される関連企業群の二つのタイプがある。系列は、グループ内での取引を優先している閉鎖集団であり、海外企業 による日本市場への参入を阻害しているという指摘もあるが、実態をみると必ずしもそうはいえない部分が多い。また、環境に合わせて系列の内容が変化して いることも見逃せない。 ◆事業革新法〔1996 年版 現代産業〕 正式名称は、 「特定事業者の事業革新の円滑化に関する臨時措置法」。急激な円高、アジア諸国の急速な成長、国内設備投資の低迷など環境変化に直面している 日本産業が、国際競争力を低下させ「空洞化」することへの対応策として、今年四月に施行された。法律の狙いは、対象企業の事業の効率性や新規性を追求す る仕組みを低利融資や設備投資減税、試験研究促進税制などで支援することにより、国内生産活動の活性化を図ることにある。過去にも石油危機やプラザ合意 後の急速な円高など環境変化に対応した企業の不況対策やリストラを支援する施策がとられたが、今回の企業革新法は、(1)既存の経営資源を活用した事業 革新、(2)対象業種は、一六五業種が指定され製造業に加えて関連卸、小売などに範囲が広げられた。また(3)企業間の経営資源の異動および(4)対象 企業の子会社などが行う事業革新のための取組みも支援対策になっている。 ◆インキュベータ(incubator)〔1996 年版 現代産業〕 生まれたばかりの乳児を育てる保育器の意。独自の創造性に富んだ技術、経営ノウハウ等を持つ研究開発型中小企業(ベンチャー・ビジネス)の旺盛な企業化 意欲に着目し、自治体などが中心となって研究施設・機器、資金などの援助を行い、新たな産業創出の場と機会を与える方法をいう。いわば雛を若鳥に育てる 機能のことで、研究開発を行う中小企業などを対象とし、自立化を支援するものである。貸与する施設・機器としては共同研究を行う部屋、事業所の用に供す る部屋、電子計算機、事務機器、視聴覚機器などが考えられる。アメリカが発祥の地であるが、日本においても熊本県のマイコン・テクノハウス、大分県の地 域技術振興財団などリサーチ・コアの中心施設の一つとしてインキュベータ的機能をもつ第三セクターが誕生した。また川崎市に本格的なインキュベータ施設 である「かながわサイエンスパーク」(KSP)が誕生し、大手企業以外にハイテク関連ベンチャー企業が入居している。 ▲産業立地・技術進歩〔1996 年版 現代産業〕 一ドル八○∼九○円台の円高が実現する中で、長い間世界の供給基地としてモノ作りを担当した産業立地としての日本の見直しが進んでいる。単純な労働力や 機械を使ったモノ作りの場としては、日本はもはや対象外になり、海外からの輸入品で置き換えられている。その代わりに、モノを作るための機械設備や高級 部品を生産し、それを世界に輸出するという資本財供給基地としての役割が強まっている。 ◆ゼロ・エミッション計画(Zero Emission Recycle Initiative)〔1996 年版 現代産業〕 産業廃棄物ゼロという新しい産業社会のあり方を探るめに国連大学が推進しているプロジェクト。ビールの醸造かすを再利用する等のテーマが取り上げられて いる。 一九九五(平成七)年四月には東京で国際会議も開催された。ゼロ・エミッション計画は、「自然界では無駄に失われるものは何もない。唯一廃棄物を出して いる生物種は人間だ」という認識に立っている。しかし人間が作り上げた産業社会でも、ある企業の廃棄物は別の企業にとって原料という関係が成り立ち、様々 な産業を組み合わせることで個々の企業活動に伴って発生する廃棄物を社会全体としてゼロにすることができる。これがゼロ・エミッション計画の狙いである。 こうした考え方は決して新しいものではない。しかし、日常身の回りに廃棄物が溢れゴミの山ができている状況が出現すると、これまでは夢物語でしかなかっ た異端の発想が現実味を帯びる。今の産業・技術を続ける限り、産業社会の今後の発展は維持できなくなっているといえる。 ◆マイクロマシン〔1996 年版 現代産業〕 一立方センチ程度のスペースに収まる自律的な走行機械の総称で、現在、次のような三種類のマイクロマシンが考えられている。 ミリシステム(小型化機械) ミリオーダーの精密加工や組立技術を極限化したもの。 マイクロシステム(微小電気機器システム) ミクロンオーダーのチップ状の機械装置で、多くの機械システムを同時に組み立てた状態で作ることができる。 ナノシステム(分子機械) 分子・原子操作によって組み立てられるナノメーターオーダーの高分子機械のことであり、分子生物学の発達によって可能性が開 けてきた。 マイクロマシンは、機械の概念を根本的に変えると考えられており、その応用は、医療、バイオテクノロジーをはじめ微細加工、組立て、半導体製造装置など、 広い分野で期待される。通産省が、一九九一(平成三)年度から一○カ年計画で総額二五○億円を投じるなど、マイクロマシン技術の開発に向けた動きもすで に始まっている。従来のプロジェクトに比較して、異例ともいえる力の入れようであり、しかも最初から、国際協力を広く呼びかけられるなど、新しい動きも みられる。 ◆産業用ロボット(industrial robot)〔1996 年版 現代産業〕 人間の各種機能を代替する自動化機械のこと。人間が操作する簡単なマニピュレータから、あらかじめ設置された順序と条件および位置にしたがって各段階の 動作を逐次行うシーケンス・ロボット、人間が教示した作業を反復できるプレイバック・ロボット(以上第一世代のロボット)、順序・位置・その他の情報を、 さん孔紙テープやカードなどの数値により指令されたとおりに作業を行える数値制御ロボット(第二世代ロボット)、感覚機能および認識機能によって行動決 定のできる知能ロボット(第三世代ロボット)などが開発されている。 日本における産業用ロボットの普及は、世界各国の中で圧倒的に高く、自動車、電気機械、金属加工産業から食品・鉄鋼など全製造業に浸透している。現在は 第一世代ロボットから第二世代ロボットへの代替期にあるが、将来的にはセンサーの向上により、原子力、宇宙開発といった特殊な環境下で使用される極限ロ ボット、自身で学習・推論する知能ロボットが普及するものと期待される。 ◆アミューズメント・サイエンス〔1996 年版 現代産業〕 ソーラーカーレースやロボットコンテストなど、ゲーム感覚でハイテク技術を駆使したユニークな研究開発や技術の商品化を目指す新しい試み。研究開発が本 来持つ面白さや感動を呼び戻し、組織や発想が硬直化して行き詰まっているといわれる日本企業や大学の研究開発の現場に、柔軟な発想やダイナミックな組織 活力をもらたすきっかけとして注目されてきた。大企業の中には、意図的にアミューズメントサイエンスに取り組む企業が増えている。遊びごころが新規事業 につながるケースも少なくない。大手時計メーカーが売り出したマイクロロボットは、山登りコンテストに参加し人気を博した作品を商品化したものである。 センサーや超小型モーター、CPUなど時計の最先端技術を駆使した世界最小のロボットである。個性的な車を開発するためには、個性的な技術者と活性化し た組織が必要だとして積極的にソーラーカーレースに参加する自動車メーカーもある。 ◆バーチャル・リアリティ(Virtual Reality)〔1996 年版 現代産業〕 バーチャル・リアリティ(仮想現実感)とは、コンピュータ技術を駆使して現実には存在しない空間を再現し、その中に置かれた人間に、あたかもその空間に いるかのような疑似体験をさせようとするものである。しかも再現性が高く、体験者の動きに対応して空間自体が自由に変化するところに特徴がある。宇宙体 験やレーシング体験などエンターテインメント、さらに医療分野への応用も期待されている。市場規模は今後二一世紀にかけて飛躍的に増大することが予想さ れている。 ◆ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)(Human Frontier Science Program)〔1996 年版 現代産業〕 科学技術の分野において日本が国際貢献を図ると共に、基礎研究の推進による国際公共財を創出する目的で、一九八七(昭和六二)年六月のベネチア・サミッ トで日本が提唱した大型基礎研究プロジェクト。生体の持つ優れた機能の解明のための基礎研究を国際協力を通じて推進しようとするもので、わが国のイニシ アチブが高く評価されている。八八年に正式に合意され、八九年には、フランスのストラスブールに実施主体として国際ヒューマン・フロンティア・サイエン ス・プログラム推進機構(HFSPO)が設立された。プログラムの事業内容は、国際共同研究チームへの研究費助成、研究者の海外研究費助成、国際研究集 会開催助成などとなっている。また助成対象分野は、脳機能の解明、生体機能の分子論的アプローチによる解明の二分野が合意されている。ちなみに九四年に は、合計三三三名がこのプログラムの助成対象者となった。 ◆マクロ・エンジニアリング(ME)(macro-engineering)〔1996 年版 現代産業〕 古代のピラミッド、近代のスエズ運河、現代の宇宙開発のように、その時代の最高の技術と最大の組織、巨大な資金を投入して営まれる巨大プロジェクトの計 画・運営・管理のためのトータル・システムのこと。投資規模が大きく長期間にわたるので、経済分野や技術分野への波及効果が大きい点に特色がある。二一 世紀に向けて、世界経済の活性化をめざし技術革新により身近となってきたニューフロンティア(宇宙・海洋など)開発、パナマ第二運河開発などグローバル な再開発への関心が高まっている。 日本ではすでに日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が活動。八八年には世界のマクロエンジニアリング学会が連合した組織(IAMES)も発足した。 ◆ISO9000〔1996 年版 現代産業〕 国際標準化機構(ISO)の品質保証規格である「ISO9000 シリーズ」とは、工場や事業所の品質管理システムそのものを第三者(審査登録機関)が検査 し、品質保証システムが適切に機能していることを制度的に保証することである。製品それ自体の形状や材質、信頼性を保証する日本工業規格のJISマーク 表示許可制度とは異なり、品質管理のシステムそのものを評価する。一九七○年代欧米諸国では、品質管理システムを向上することにより企業の競争力を強め、 同時に製品の信頼性・安全性の確立をめざした。その後国ごとにバラバラだった規格を共通化しようという動きが強まり、八七年に英米規格をベースに制定さ れたのが「ISO9000」である。EC域内での商取引にはこの規格の取得が必要条件とされている場合が多いため、わが国企業も一斉にその取得を始めている。 「ISO9000 シリーズ」の認証取得は、PL訴訟への対応やトラブル防止の上でも強力な武器になるメリットが認識され、取得件数は製造業を中心に二○○ ○件を超えている。 ◆CALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)(Continous Acquisition and Life-cycle Support)〔1996 年版 現代産業〕 標準化と情報統合化技術を用いて、デジタル・データの生成・交換・管理・利用をよりいっそう効率的に行い、設計・開発・生産・調達・管理・保守といった ライフサイクル全般に関わる、経費の節減、リードタイムの短縮、品質の向上を目標とする。 一九八五年、アメリカ国防省がコンピュータによる調達とロジスティック(後方支援活動)を効率化するための構想として発表したもの。最近では、アメリカ 商務省が製造業の競争力向上に役立つものとして注目し防衛産業から一般産業へと発展、内容も高度化している。さらに今後は、世界の企業をネットワークで 接続し、あらゆる企業情報をデジタル化し、自由に交換できるネットワークとデータベースを構築する壮大な構想に変わろうとしており、現在の産業を根本的 に変化させる可能性がでてきた。 ◆テクノマート(技術取引市場)〔1996 年版 現代産業〕 技術交流、技術移転などを円滑に進めるための場として創設された技術取引のための仲介・斡旋システムである。この制度のねらいは(財)日本テクノマート により全国各地域においても独自に創造的な自主技術開発を促進する基盤を整備することにある。このために、技術情報流通を軸とする異業種間、技術領域間、 地域間などで技術移転を促進する必要から設立されたものである。技術情報の提供を行う新たなインフラストラクチュアといえる。テクノマートでは、主とし て工業所有権情報、新製品開発情報、共同研究開発パートナー情報を本部のコンピュータに登録し、オンライン・サービスを行うことで、情報の提供者と利用 者を結びつけるシステムを用いる。テクノマートの会員は、各々の地方中核都市のテクノマート支部を中継点とするオンライン・サービスにより日々登録され る新しい情報を直接入手できる。今後数年間程度で全国的なネットワークを形成し、将来は世界的スケールでのネットワークを目指している。現在、東京、大 阪の正副本部、地方中核都市に支部が置かれ、地域のハイテク化に役立っている。 ◆空間開発エンジニアリング〔1996 年版 現代産業〕 都市部の未利用空間を有効活用するための技術のことで、高層空間開発技術、地下空間開発技術などがある。いずれも多くの要素技術からなり、それらのシス テム化、エンジニアリング技術が必要になる。例えば、高層空間開発技術は、高層空間での防災・安全技術、耐震構造設計技術、材料技術、高層に物資や人を 輸送する搬送技術など各要素技術を組み合わせたものである。 これらの技術は開発途上にあるもの多いが、都市空間を地価あるいは高層に拡大させ空間を有効に利用することで、地価の高騰や交通渋滞など都市問題の緩和 につながる。 また空間開発エンジニアリングが活用されるためには、都市環境に配慮することはもちろんだが容積率の拡大など錯綜した規制の見直しが不可欠である。 ◆フロン規制(Fluorine regulation)〔1996 年版 現代産業〕 ここでいうフロンとは塩素を含むフッ素化合物(フロン 113、フロン 134a など)であって、電子部品の洗浄用あるいは冷蔵庫・クーラーの冷媒用としてハイ テク産業に欠くことのできない物質となっている。このフロンは、大気中に放出されると成層圏に滞留してオゾン層を破壊、地球に降り注ぐ紫外線の増加によ って地球上の生物が多大な影響を受けるといわれている(地球規模の環境問題)。フロンによる環境破壊の危険性がカリフォルニア大学のローランド教授によ って指摘されたのが一九七四年のこと。その後、国連環境計画(UNEP)が中心となって対策を検討し、八七年にはフロン生産量の半減を盛り込んだ「モン トリオール議定書」が制定されている。日本もこの議定書にサインするとともに、八八(昭和六三)年には「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する 法律」を制定、積極的にフロン規制にのり出した。今後はオゾン層保護対策とともにフロン代替品の開発が急務となっている。 ▲新産業・新製品〔1996 年版 現代産業〕 日本産業は、これまでの輸出に依存する成長から内需に依存する成長に切り替えることを迫られている。しかも早いテンポでの転換を要求されている。具体的 には国内市場向けの新商品・技術開発による新市場の開拓や新産業の創出である。マルチメディアを中心とする情報通信分野、環境、医療・福祉、住宅等の分 野が市場として有望とされているが、これらの分野は政府の規制が相対的に厳しいという点でも共通点がある。平岩委員会(平成六年)のレポートでも指摘さ れたことだが政府規制、とりわけ新産業・新製品の妨げとなっている経済規制の原則撤廃が急がれる。 ◆先端的基盤科学技術〔1996 年版 現代産業〕 各分野の科学技術の発展に伴い科学技術が複雑化する中で、異なる分野の間で共通に利用できる基盤となり、またそれらの分野をいっそう発展させる鍵となる 技術。これらの技術は、異分野科学技術の相互乗り入れを促進し、新しい応用分野の開拓や従来の発想では困難であった課題に対してのブレークスルーを提供 することが期待される。具体的な技術の事例を挙げると、極微小な物質を高精度で計測・操作する技術、リアルタイム・多次元の観測・表示技術、あるいは微 小要素デバイス技術、微小制御技術、微小設計技術等を総合したマイクロエンジニアリング技術等がある。 さらに、地球環境への影響を与えない永続的な生産活動、高齢化に適応した機械システムの構築技術など自然環境との調和、人間・社会との調和など人類の活 動を取り巻く複雑な問題を解決するための基盤技術が重要になっている。 先端的基盤技術の研究開発を計画的に推進するために科学技術会議で四三課題・一七七テーマを決め今後一○年間で一兆二○○○億円の研究資金を想定した開 発基本計画が策定されている。 ◆CIM(computer integrated manufacturing)〔1996 年版 現代産業〕 コンピュータによる統合生産のこと。製品の企画・設計・開発・生産・製品管理・流通等の各部門をコンピュータ・ネットワークで結び、情報を有効活用する ことによって生産性の向上と企業競争力の強化を図ろうというもの。消費者ニーズの多様化による少量多品種化、労働力不足と労働時間短縮という環境変化の 中で、これまでの模索の段階から普及段階に入ろうとしている。通産省では、知的生産システムの国際共同研究にも着手している。 これは、知能化された機械と人間の融合を図りつつ、受注から設計、生産、販売までの企業活動全体を柔軟に統合、運用し生産性を向上させる生産システムで ある。 ◆グリーン・テクノロジー(green technology)〔1996 年版 現代産業〕 地球環境を守り、再生させるグリーン・テクノロジーが注目されている。そのなかでも省エネルギー技術が期待され、効率向上のためのコージェネレーション、 ヒートポンプなどがクローズアップされている。また、CO2は日本でも年間一人当たり二・五トン排出され、その抑制は大きな課題となっている。これ以外 では、国際貢献としての砂漠化防止技術がある。砂漠化地帯で水分をいかに貯蔵するか、地下にダムを建設したり、吸水性素材の開発などの実験が行われてい る。 ◆航空・宇宙産業(aero craft,space industry)〔1996 年版 現代産業〕 航空機、ロケット、人工衛星、推進剤、通信機器、誘導・制御用のエレクトロニクス機器の製造など、高々度空間や宇宙空間利用に係るハードウェアの生産お よびソフトウェアの開発を行う産業のこと。ハイテクの粋を集めた産業であるだけに、技術波及効果は大きく、国の技術基盤強化に結びつく。また、冷戦崩壊 に伴う軍縮の進展のため、新しい環境に対応するための生き残り競争が展開されており、世界的な産業の再編成はさけられない。しかし、二一世紀に向けてH ‐2ロケット開発、有人型の宇宙実験である国際宇宙ステーション計画(JEM)、新素材や新薬開発を目ざした宇宙実験、スペースプレーン(宇宙往還機)、 超音速輸送機(SST/HST)、月面基地建設(一九八八年一一月、民間企業二○社により「月面基地と月資源開発研究会」が発足)など、大型プロジェク トが目白押しの状況である。宇宙開発委員会では、二○○○年の市場規模を一兆円と予測している。 ◆社会開発産業〔1996 年版 現代産業〕 社会開発という言葉は、昭和三○年代の後半から、しばしば使われるようになったが、「生活大国」という一九九○年代の日本の最大の課題がクローズアップ される中で、改めてその活性化が必要になってきた。一般的には社会開発を、「人間の諸活動の社会的環境・基盤を改善・整備すること」と規定することがで きよう。(1)住環境・医療・保健・教育・レジャーなどの生活環境基盤の整備、(2)地域・都市開発・交通・輸送通信、情報など国土の開発・整備、(3) 立地、廃棄物処理、流通など産業活動の環境整備などが含まれる。こうした開発には、社会的な共通部門、共同消費的なものが多いため、市場経済にゆだねる ことは不可能または不適当なものも多い。したがって、社会開発推進の主体は一般に公共部門ないし第三セクターや、それに準ずるものとなっている。他方、 社会開発には複雑で大規模なシステム技術を必要とするものが多いので、民間のディベロッパー、エンジニアリング産業の取組みが期待される。 ◆人材派遣業〔1996 年版 現代産業〕 企業や家庭の要望に応じて随時要員を派遣するサービス業の新しい形態である。古くは家政婦紹介所などがあったが、労働力不足が深刻かつ長期化する中で、 コンピュータ関連技術者、建築関連技能者などの不足が目立つ一方、主婦を主力とするパートタイマーの供給増大など、需給構造は変化している。その中で、 派遣業の要員はプログラマーなどの専門職から便利屋まで、広範囲にわたる状態である。企業、家庭におけるサービス需要増大とともに、働く側の「終身雇用 よりも拘束されない働き場所を」という選好の変化も背景にある。しかし、「登録社員」としての派遣要員の地位と労働条件、労働環境が不安定で、何らかの 規制が必要とされている。 一方、高齢化にともなって、高齢者の長年の経験と技能を生かすため、地方自治体の事業団体として「シルバー人材センター」が増加している。営利より高齢 者の働きがいと福祉に重点がおかれているため、今後、営利事業とのあつれきが問題となろう。 ◆ヘルス・ケア産業〔1996 年版 現代産業〕 現在は物質的充足の時代といわれ、「物ばなれ」の傾向が著しい時代である。この波に乗っていくには物的製品の中に新しいニーズや変わりつつある価値を組 み込むことが重要になろう。「物ばなれの時代」において、人々が最も関心を抱いている生命・健康に関して新しい視点から将来の発展可能性を模索している 状態にある。栄養の過剰摂取、運動不足から文明病といわれる生命・健康への歪みが顕在化してきた。西暦二○○○年には六五歳以上の老人が二一三三・八万 人程度に達することからも、健康産業への支出は増大するものと考えられる。同産業の内容を概観するに、(1)生体開発分野として、レーザー診断・治療、 生体代替治療、新薬品、漢方薬、 (2)健康開発分野として電子血圧計、スポーツ飲料、乳酸菌食品、 (3)食料分野として、ニューフード・プロセス、植物工 場、 (4)アスレチッククラブやスポーツクラブがある。この分野を支える技術には、エレクトロニクス、ニュー・マテリアル、ライフサイエンスなどがある。 ◆静脈産業〔1996 年版 現代産業〕 人体で静脈機能に相当する部分を産業界で担う産業のこと。廃棄物処理業や、リサイクル事業などが該当する。 酸素や栄養素を乗せた血液を運ぶ動脈に対し、静脈は役目を果たした血液を再び心肺まで運搬する。このメカニズムを産業界に置きかえると、脳や筋肉(消費 者)が必要とする血液(消費財)は、動脈(卸売・流通業)を通して心肺(メーカー)より運搬され、不要になった血液(廃棄物)は、再び利用(リサイクル) するために静脈を通して心肺(メーカー)へ運ばれる。生産力が増大し、豊かな生活環境を求める人間の営みが、自然界の緩衝作用だけでは間に合わなくなり、 改めてこの静脈産業が注目されるようになった。通産省の推定によると、再生品製造業の市場規模は、現在の一・六兆円が二○○○年には二兆円に、また再生 資源卸売業は、二・二兆円が二・八兆円に拡大すると予測されている。 ◆光産業(opt electronics industry)〔1996 年版 現代産業〕 光産業とは、光技術を応用した製品を製造する産業の総称であり、発光・受光素子、光ファイバー、コネクターなどの光部品、光測定器、光ディスク装置、レ ーザー加工装置などの光機器・装置、さらに光通信システムなどの光応用システム分野から構成されている。光産業分野は半導体レーザー、光ディスク用の新 素材や液晶ディスプレイ(LCD)などの成長も期待が大きい。 壁掛けテレビ の実現という年来の夢の実現につながる液晶ディスプレイは、日本企業の独 占分野となっている。今後は半導体レーザーや追記型光ディスク装置の高い伸びが予測されており、九○年代のリーディング産業に発展しよう。 ◆情報サービス産業(infomation service industry)〔1996 年版 現代産業〕 情報サービス産業とは社会・経済・技術に関連する各種の情報やデータ類を、収集、分析、計算・加工するとか、それらをもとにコンピュータシステムを開発 するなどにより、顧客に情報サービスを提供する産業のこと。具体的には、調査・コンサルティング、受託計算、ソフトウェア開発、システム等管理運営受託、 データ通信事業等の業務がある。コンピュータやエレクトロニクス等の技術革新、産業・経済から家庭分野にまで及ぶソフト化、サービス化の傾向に伴い、情 報サービス産業も急速な発展を遂げており、売上高も一九七五(昭和五○)年の二七五○億円から九一(平成五)年の六兆五一四三億円へと伸長している。し かし、九一年後半から成長率に翳りが出て、九二年は、対前年比売上高の伸び率が一・二%に低下、さらに九三年はマイナス八・六%となり、業界が技術的・ 構造的に大きな変化の時期を迎えつつあることが明らかになってきた。特に、これまでの成長を支えてきた製造業や金融業で情報化投資の落ち込みが激しく、 情報サービス業界は初めて需要変動の波をこうむることになった。 ◆遠赤外線効果(ultrared ray effect)〔1996 年版 現代産業〕 遠赤外線とは赤外線の一種で、波長が五ミクロンから一ミリメートル程度の電磁波を指している。その波長は高分子化合物などの固有の振動数(波長)に近い ので、物質に対する透過力が弱く、物質によく吸収される。吸収されても化学変化を起こすほどエネルギーレベルは高くないので、そのまま熱エネルギーに変 換される。遠赤外線の加熱効率が高く、クリーンなのは、この故である。加熱効率が高くなれば、加熱時間、乾燥時間が短くなるので、塗装工業、機械・金属 工業、自動車工業、プラスチック工業、電機・電子工業、木材・建材工業・繊維・染色工業、食品工業など熱を利用するあらゆる産業分野で適用されている。 最近では、グルメ志向や健康志向に支えられ、遠赤外焙煎コーヒーや遠赤外マッサージまで出現するに至っている。 ●最新キーワード〔1996 年版 ●製販一体化〔1996 年版 現代産業〕 現代産業〕 これまで異なる会社が別々に分担してきた開発・生産部門と販売部門を合併・提携等で統合し一体的に運営すること。スピーディーで効率的な商品開発や入り 組んだ流通段階の合理化を図ることで市場指向を徹底すると共にコストの削減が可能になる。作れば売れる時代が終わり新しい時代に入ったことを象徴する現 象である。末端の消費者情報を迅速に取り入れる商品作りでヒット商品を生み出す、計画的な生産体制や在庫管理など種々のメリットが期待できる。円高が進 む中でアジアからの輸入品との競合が厳しくなり、また価格破壊が進行する家電製品や衣料分野さらには自動車などで日本企業の生き残り戦略として登場した。 ●マルチメディア(multi media)〔1996 年版 現代産業〕 従来の通信、放送といった異なったサービス形態を融合して音声、データ、画像をデジタルで高速に送受信できる形態を指す。通信、AV(オーディオ・ビジ ュアル)、コンピュータ等総合的な技術力が不可欠になる。マルチメディアの市場は、郵政省では二○一○年に一二三兆円で、国内生産額の五・七%に相当す ると推定している。その内訳は、映像番組配信、テレビ・ショッピング、ソフト配信、ネットワーク端末等光ファイバー網整備により創出される新市場が五六 兆円、既存のマルチメディアが光ファイバー網で加速化する市場が六七兆円に拡大する。なお、新市場により二四○万人の新たな雇用が創出される。 ●人工生命〔1996 年版 現代産業〕 人工生命とは、自己組織化、発生、増殖、適応、成長、進化等自然界に見られる生命と生態系が持つ特徴と行動を人工的に生成するシステムである。高度情報 化社会においては、工業製品の中身がますます複雑化し、あらかじめすべてを計画・制御したり設計するというこれまでのやり方では通用しない時代がくると 見られている。人間のような高等生物を生み出した生命とその進化の仕組みは、こうした現代技術社会とは正反対の方向である。生命現象の基本となる行動原 理を理解しそれを人間社会に生かそうという試みが人工生命研究であり、応用分野としては、知能ロボット技術の開発、組織の活性化、社会・芸術・文化の進 化、経済動向予測にまで及んでいる。 ●電気自動車〔1996 年版 現代産業〕 悪化する大都市の大気汚染を緩和するための有望技術として脚光を浴びている。電池で自動車を走らせるという発想は古く、自動車の発明直後にガソリン車よ り普及した時期もあるが、性能で劣り出番がなくなった。現在最も多く使用されている鉛電池のエネルギー密度は、ガソリンの三○○分の一にすぎず車載可能 なエネルギー量はガソリン車に比べてけた違いに小さい。しかし電池の材料技術、製造技術等の発展により新電池の開発が進められており「一充電走行距離性 能」の改善に期待がかかっている。ちなみに、現在日本で使用されている電気自動車は約一四○○台(四輪登録車)である。 ●リバース・エンジニアリング(reverse engineering)〔1996 年版 現代産業〕 製品を分析・分解してその構造や性能、製法等を知ることを指す。製品の生産プロセスを逆方向に進む技術という意味でリバースと呼ばれ、新製品や競争相手 の製品の分析・評価をする目的で産業界で利用されている。混ぜて使うと危険な洗剤の使用説明書を作成する際には、他の洗剤の成分を知る必要がある。 しかし類似品が容易に作れる等悪用の問題が生じる可能性がある。特にコンピュータ・ソフトは、内容が解明できれば容易に類似品がつくれることもあって、 アメリカは最近、知的所有権保護のために制度として認めるべきでないと主張している。 ●環境JIS〔1996 年版 現代産業〕 原料の調達、生産、販売、リサイクルなど企業活動のあらゆる面で環境への影響を評価・点検し、改善を進めるための指針。工業製品の材質や品質管理方法な どを定めた日本工業規格(JIS)の一部として工業技術院が一九九六(平成八)年末までに作成する方針が決まっている。JISそのものに強制力はないが、 業界標準として採用されたり政府調達の条件となる場合が多く、企業は事実上取得を義務づけられている。世界的に環境問題に対する関心が高まる中で、世界 各国が加盟する国際標準化機構(ISO)は九六年はじめをめどに、国際環境規格を採択する見通しであり、環境JISは、これに準拠して細目を定めること になっている。 ●次世代メモリー〔1996 年版 現代産業〕 現在パソコンやオフコンなどに使われている四・一六メガビットDRAMといったIC(半導体集積回路)に対しより記憶量の大きい六四・二五六メガビット DRAM等を総称する用語。一九九七(平成九)年以降に本格的な普及期を迎える見通しで半導体メーカーの開発競争が激化している。さらに二○○○年頃に は一ギガ(一○億)ビットの時代が予想されている。ちなみに一ギガの半導体メモリーには、新聞紙面四○○○ページの情報量を蓄積することが可能である。 現行DRAMの場合、シリコンウェファーにICチップを焼き付ける時の線幅が○・五ミクロンの微細加工能力をもつ半導体製造装置で量産できる。しかし次 世代メモリーでは○・三五ミクロン以上の加工技術が必要であり、一工場当たりの投資額も現在の五○○億円が一○○○億円に倍増する。このため一社単独で 次世代メモリーの開発や量産工場を建設することが厳しく、半導体メーカーは提携の動きを強めている。 ●華人経済圏〔1996 年版 現代産業〕 今日世界には、東南アジアを中心に三○○○万人の華僑・華人がいる。華人は、中国から海外に移住した一世の華僑に対し、現地生まれで現地語を話す二、三 世である。一九八○年代から、台湾、香港、シンガポールをはじめとし各地で中国系資本の活躍がめざましく、今や世界で最もダイナミックな経済発展を遂げ つつある。その中で、台湾、香港と中国大陸の結び付きが強まっており、この中国系三地域を華人経済圏と呼ぶ。ただし広義の使い方、すなわち中国人、中国 系人全体を含むエスニックな結び付きを指すこともある。二一世紀には中国経済の本格的な発展も期待されるが、その行方を占う重要な条件の一つが華人経済 圏の動向といえよう。 ◎解説の角度〔1996 年版 エネルギー〕 ●1995 年 11 月の首脳会議において、APEC諸国の備蓄政策など将来エネルギー需給ギャップによって起こる石油等エネルギー価格の急騰を引き起こさない ための枠組づくりがスタートする。 ●アジアAPEC10 カ国のエネルギー需要は 92 年から 2010 年に年率 5%で伸びるがエネルギー生産は同期間年率 3%しか増えない。石油は 800 万バレル/ 日の輸入増となるが、これはほとんど中東からの追加輸入になる。92 年から 2010 年までの同諸国の電力需要は年率 8%で伸び、電力供給設備と送配変電設備 を加えて 1 兆 6000 億ドルの投資が必要になる。電源別にみると全体の 6 割が石炭火力発電所へのものである。 ●アジアAPEC諸国は 93 年から 2010 年に実質GDPは年率 7%で成長するが、それを支えるインフラ建設が重要である。特にエネルギー供給分野では、電 力関連だけでなく、石油精製設備や天然ガスの輸送設備(特にパイプライン)等の設備に莫大な資金が必要となる。その半分近くを外資導入によってカバーし なければならず、そのために規制緩和や法的設備、料金(価格)の是正による自己資本の強化が課題となっている。 ▲エネルギー政策〔1996 年版 エネルギー〕 わが国のエネルギー政策は エネルギー資源が乏しく、中東石油への依存度が大きく、石油危機に対して脆弱な供給基盤 から脱却することを主要目標として きた。そのため、省エネルギーを重視し、原子力を中心とした準国産代替エネルギーの開発推進に力を置いてきた。 最近では、地球環境問題が注目され、地球温暖化防止のため化石燃料燃焼に伴う炭酸ガス排出の抑制がエネルギー政策の大きな枠組みとなり、省エネルギー原 子力推進が、新たな視点からも重要課題となってきた。 一九九五(平成七)年五月に総合エネルギー調査会国際エネルギー部会は中間報告を出し、アジアAPEC(アジア太平洋経済協力会議諸国)を中心にエネル ギー政策の国際展開をみせている。 ◆総合エネルギー調査会〔1996 年版 エネルギー〕 エネルギー問題についての調査、意見聴取を依頼するため通産大臣が設置した諮問機関である。一九六一(昭和三六)年、いわゆるエネルギー革命・流体革命 により、石炭の取り扱いが問題になったとき、エネルギー懇話会を通産省の非公式諮問機関として設置したのが始まりで、六二年、産業構造審議会に総合エネ ルギー部会が置かれた。総合エネルギー調査会は六五年、正式に通産大臣の諮問機関として設置された。現在、全体を総括する総合部会・需給部会と省エネル ギー、石油代替エネルギー、石炭、石油、原子力、都市熱エネルギー、低硫黄化対策の各部会がある。九四(平成六)年に入って一○回目の長期エネルギー需 給見通しの改訂と規制緩和のための検討が行われた。長期見通し改訂は需給部会、規制緩和は総合部会の基本政策小委員会を中心に検討が行われた。九五年に なって、国際エネルギー部会が創られ、アジア地域を中心に日本の果たすべき役割についての中間報告が出ている。 ◆長期エネルギー計画〔1996 年版 エネルギー〕 一九九四(平成六)年六月、総合エネルギー調査会、電気事業審議会が、九○年六月に発表した 長期エネルギー需給見通し を四年ぶりに改訂した。その改 訂の直接的理由は、九二年六月の地球サミットを受けて、九四年三月に発効した気候変動枠組み条約事務局に、同年九月までに「二○○○年に一九九○年水準 に温室効果ガスの排出量を安定化する」ための各先進国の対応策を通報する義務があったからである。長期エネルギー需給見通しは、予測というより政策目標 を設定するためのエネルギー需給の枠組みづくりである。政策目標としては、二○○○年に一人当たりの炭酸ガスの排出量を一九九○年水準に安定化すること が最重要課題となった。今回の見通しでは政策上の努力が重要であることを強調するために、二つのケースを設定している。すなわち「現行施策織込ケース」 「新規施策追加ケース」の二ケースである。ただし、ベース・ケースは政策強化ケースの後者である。ここでは主として後者を紹介する。一次エネルギー総供 給は二○○○年度で石油換算五億八二○○万キロリットル、二○一○年度は同六億三五○○万キロリットルで、前回見通しより三三・五%、四・七%の小幅下 方修正である。実質経済成長率一九九二∼二○○○年度が三%、二○○○∼二○一○年度が二・五%、一次エネルギーの総供給伸び率がそれぞれ○・九%、○・ 九%で、弾性値は○・三○、○・三六で前回の○・四五、○・三七に比べ二○○○年まで極めて小さくなっている。これは二○○○年の炭酸ガス排出量を抑え るために、極端な省エネルギーをしなければならないことを意味している。 エネルギー政策の中心は、省エネルギーに加えて、原子力推進、脱石油にある。原子力は、立地難等で発電能力(キロワット)は、二○○○年で約一○%、二 ○一○年で約四%下方修正されたが、約三%設備利用率を上げることによって発電量(キロワットヘルツ)では、前回見通しに比べ二○○○年度では約六%下 方修正、二○一○年度では約二%の上方修正としている。実際原子力発電設備を一九九二年度末の三三四○万キロワットを二○一○年度末に七○五○万キロワ ット、しかも設備利用率を七七・七%まであげることが可能であろうか。 脱石油については、石油依存度は二○○○年度五二・九%、二○一○年度四七・七%と前回見通しよりも一・三%、一・七%も引き上げているが、予測の発射 台が二億七六○○万キロリットル(一九八八年度)から三億一五○○万キロリットル(一九九二年度)へ一四%上がり、二○○○年度は発射台を下回る三億八 ○○万キロリットル、二○一○年度は三億三○○万キロリットルと一九九二∼二○一○年度まで年率○・二%と減少することとなった。天然ガスは二○○○年 度五三○○万トンと前回比六○○万トン(一三%)上方修正、二○一○年度五八○○万トンと前回比一○○万トン(二%)の上方修正が行われた。石炭は二○ ○○年度一億三○○○万トンと一二○○万トン(八・五%)下方修正(原料売中心)、二○一○年度は一億三四○○万トンと八○○万トン(六%)下方修正さ れた。新エネルギーについては、一次エネルギー総供給中二○○○年度については三%から二%、二○一○年度は五・三%から三%へ下方修正されたが、新し い供給形態としてコ・ジェネレーションなどの二次エネルギーを加えると、二次エネルギー合計中二○○○年度に三・三%、二○一○年度に五・八%とやや次 元の異なる新しい目標が設定された。 今後はさらにアジアの発展途上国に対するエネルギー分野での協力も計画の中に含まれていくだろう。 ◆エネルギー低成長時代〔1996 年版 エネルギー〕 バブル崩壊、冷夏、円高による景気低迷によってエネルギー低成長時代がしばらく続くことになろう。一九八七(昭和六三)年∼九一年度のわが国の年平均G NP伸び率は四・八%、最終エネルギー消費の年平均伸び率は四・一%で弾性値(伸び率対伸び率)は○・八五と高かったが、九二年度の最終エネルギー消費 は○・三%、九三年度は○・七%の伸びにとどまり、円高が一ドル一○○円前後が続けば、円ベースのエネルギー価格は下がるものの景気の底割れによって年 率一%以下の年が三年続くことになる。九四年度は三・七%増と素材系生産増と、猛暑で大幅に伸びたが、これは例外的な年でその後は再び低い伸びに戻るこ とになろう。 これは、政府がめざした省エネルギーによる一人当たりの炭酸ガス排出量を九○年水準で安定化するために、最終エネルギー消費の伸びを年率で一%伸びにと どめる目標を、経済成長の急激な鈍化というもうひとつの目標である年率三・五%程度の成長を犠牲にして達成するという皮肉な結果になった。 戦後、二度のオイル・ショック以外には、平成不景気のようなことは八六年の円高ショックという一過性(翌年には急回復)の動きを除けばわれわれ日本人は 経験をしたことがない。エネルギー消費においてもオイル・ショック直後の高エネルギー価格時代を除けば今回ほど低価格時代にかかわらず低迷したことはな い。七三(昭和四八)年のオイル・ショックによってそれまで関心を集めた、資源問題、環境問題がしばらく忘れ去られたように、今回も長期不況で、環境問 題が軽視される可能性は大きい。 しかし、大きな違いがあるとすれば、日本の一人負け(悪循環の経常収支黒字、円独歩高)になる可能性が大きい。円高は、実はエネルギーの世界でも種々の 問題を引き起こしている。 例えば、輸入エネルギーである石油、石炭、天然ガスが円高によって大幅に安くなり、ほとんど国産エネルギーに近い原子力発電、太陽等新エネルギーが相対 的に高く、経済性の劣るエネルギーになることである。また省エネルギーの経済性も、化石エネルギーの円高により、極めて悪くなるということである。これ はわが国が推進しているエネルギー政策の要である、原子力、新エネルギーなどの非化石エネルギーの拡大、省エネルギーの飛躍的増進に極めて強い逆風が吹 いていることを国民は知る必要がある。 ◆国際エネルギー機関(IEA)(International Energy Agency)〔1996 年版 エネルギー〕 一九七四年九月に、ベルギーの首都ブリュッセルで開かれた石油消費国会議調整グループ(ECG Energy Control Group)は、国際的石油緊急融通システム で合意に達した。この緊急融通計画がIEPであり、この緊急融通計画を効果的に作動させるため、平時から準備を進めてゆくための超国家的な機関がIEA である。この国際的な協調制度は同年一一月に一一カ国が署名して発効したが、その後二一カ国に達している。ただ、フランスはEC条約に違反するとしてこ の協定に加わらず、OPEC(石油輸出国機構)も敵対的性格のものとして非難している。日本も、石油の大量消費、輸入国でありながら、この協定に加わる ことにより備蓄義務をはじめ、エネルギー節減という形で、自らエネルギー供給制約をうけるはめに陥ることも懸念された。しかし政府はIEAを国会審議の 対象とせずに行政協定として処理した。その後、わが国の脱石油政策はIEAによって支えられてきたといっても過言ではないだろう。特に石油火力の新設禁 止については、日本は律儀に守ってきたが、国際石油需給バランスが緩和したこともあって、老朽した石油火力のスクラップアンドビルドの方向も検討されて いる。その他、石油代替エネルギーの技術開発、石油市場分析、長期エネルギー政策の調整、緊急時の融通、消費規制など石油危機への集団的な対応力の強化 を目指している。九二年になってフランスがIEAに加盟した。また、EUが旧ソ連を含めた欧州地域のエネルギーの安定供給・活用のために検討を進めてい る「欧州エネルギー憲章」についての、アメリカ、日本など域外国の参加が、IEAの閣僚理事会共同声明の形で認められた。 ◆地球に優しいエネルギー〔1996 年版 エネルギー〕 一九九二年六月、ブラジルのリオデジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)が開かれ、地球規模での環境問題解決のための対応策が、依然あいまいな 部分を残しながら条約化する方向で決まった。 エネルギーに関連しては、地球温暖化ガス(炭酸ガス等)を二○○○年までに一九九○年水準に排出量を戻すというものであった。 ただし、これは欧米、日本などの先進諸国に対して求められているもので、経済移行過程(旧ソ連、東欧)、発展途上国については条約を批准したとしても、 先進諸国からの資金、技術援助に対応して行えばよいとされている。 酸性雨の原因となる硫黄酸化物、窒素酸化物の元となる硫黄分や窒素分、地球温暖化の主原因とされる炭酸ガスの元となる炭素分を含有する化石燃料(石炭、 石油、天然ガス等)に代わりうるエネルギー、すなわち 地球に優しいエネルギー に対する期待が高まってきている。 原子力もそういった意味では、化石燃料に代わりうるエネルギーであるが、核による環境破壊の恐れもあるということで、地球に優しいエネルギーには入って いない。 エネルギー源ではないけれども、エネルギーの利用を節約したり、効率的に行うことによってエネルギーの消費そのものを減らす省エネルギーが最も地球に優 しいエネルギーとして位置付けられている。 化石燃料でも、天然ガスは相対的に(石炭や石油に比べて)クリーンであるということで天然ガスへのシフトも起きており、今後も一層の拍車がかかるだろう。 ▲省資源・省エネルギー〔1996 年版 エネルギー〕 従来は資源枯渇に対応することに重点が置かれていた省資源・省エネルギーも、エネルギー需給が緩和基調にあることもあって、むしろ地球環境問題の視点か らいわれるようになった。しかし、原油価格が実質で第一次石油危機前の水準に戻っていて経済的インセンティブ、特に民生用、輸送用の省エネルギーはあま り進んでいない。しかし、政府は一九九三(平成五)年になって、さらなる省エネルギー推進のために省エネルギー二法(省エネルギー法改正と省エネ・再資 源化事業促進法)を国会で成立させ、アメ(税額控除、利子補給)とムチ(罰金)の両面からの政策を展開している。 九四年六月に発表された政府の見通しでは、省エネルギー政策は最重大なものとして位置付けられている。 ◆省資源/省エネルギー(conservation of resources and energy)〔1996 年版 エネルギー〕 産業・生活・社会活動全般における資源・エネルギーの効率利用をはかることをいう。このような課題は、第一次石油危機以降わが国をはじめとする先進工業 諸国で、きわめて現実的な政策課題としてとりあげられるようになった。そして第二次石油危機でさらに政策は強化された。省資源・省エネルギー化を進める 方策としては、(1)各産業における資源・エネルギー消費原単位の低下(省資源・省エネルギー技術の開発)、(2)製品利用の面での省資源・省エネルギー (耐用年数の延長・節電型テレビの普及等)、(3)資源の再利用の促進、(4)エネルギー生産性の高い高付加価値産業の発展などが考えられる。 一九八○年代に入って、エネルギー・石油需給が緩和基調となり、特に八六年以降価格も大幅に下がったため省エネルギーは鈍化し、省エネルギーの重要さが 忘れられがちになってきたが、長期的にも緩和基調が予想され、経済的インセンティブは小さいが、地球規模の環境問題で、地球温暖化を防ぐための化石燃料 の使用を制限する動きがあり、環境負荷を小さくするためにも、省エネルギーが強調されるようになった。 九三(平成五)年には、資源エネルギー庁では、第二次石油危機後の七九(昭和五四)年に施行されたエネルギー使用合理化法(省エネ法)を改正し、オフィ ス・ビルにも工場なみの省エネ対策の実施を義務づける方針を決めた。さらに省エネ徹底のため省エネ義務を怠った企業には罰金を科す。その省エネ法改正の 骨子は、(1)一定量以上のエネルギーを消費する工場(指定工場)に、使用状況報告を義務づける、(2)非協力的な企業に対しては勧告や改善命令を出す。 この命令に従わない企業には罰則適用を積極的に行っていく。さらに新しく省エネ・再資源化事業促進法が九三年春に成立した。 九四年一月、普及率が高く、省エネ効果が大きい蛍光灯、テレビ、複写機によって消費電力を最高それぞれ七%、二五%、三%(平均)二○○○年度までに達 成することが閣議で決まった。 最近、電力需要の省エネ促進(DSM=デマンド・サイド・マネジメント)のための工夫が、コストの高い電源開発のスローダウンに対応するものとして注目 されている。 輸送用エネルギー需要の省エネルギーについてはTDM(輸送需要管理)がアメリカを中心に提唱されている。 ◆複合発電(power generation by combined cycle)〔1996 年版 エネルギー〕 燃料を燃やして得た蒸気で発電するだけでなく、燃料を燃やした時に発生する高温ガスでタービンを回して発電し、その余熱で蒸気を発生させ再度発電に利用 するもの。これにより熱効率は従来、限界とされてきた四○%の壁を打ち破る高効率が実現し、出力も一系列で一四万キロワットから一○○万キロワットまで 自由に変換できるなどの利点がある。東京電力の千葉・富津のLNG火力をはじめ、急速に導入が行われている。 ◆揚水発電(power generation by pumped up water)〔1996 年版 エネルギー〕 夜間の電力が余ったときなどに、揚水発電所の発電機に電気を送って、水車をポンプとして使って、水を上流の貯水池に汲み上げておく。そして、電力の需要 がピークになったときに、この水で発電する方法。とくに原子力発電所は、出力をあまり変えないことが望ましいので、揚水発電所と組み合わせるとよいとい われている。今後は、原子力発電の比重が大きくなり、電力需要の負荷パターンの面(電力需要の変動幅が大きくなる)からも、揚水発電はますます重要にな ってくる。 世界最大級のものは二○○二年度に関西電力が二一六万キロワットのものを、二○○三年度に東京電力が二七○万キロワットのものを完成予定。 ◆マグマ発電〔1996 年版 エネルギー〕 地熱利用の一方法であるが、日本、アメリカ、ニュージーランドの三国で共同開発をすることが一九九三(平成五)年初めに決まった。日本は通産省、工業技 術院が担当する。地下のマグマだまりに熱交換器を入れ、発生する水蒸気を利用してタービンを回す方式で、二酸化炭素の発生は火力発電の一○○分の一であ り、国産エネルギーでもある。 地中のマグマの状態は全くの未知の世界で、高温下での掘削技術の開発や、まだ基礎段階にあるマグマの熱を水蒸気に変える「坑井同軸熱交換システム」の開 発に共同研究の力点が置かれる。従来型の地熱発電は一○カ所で二七万キロワットと総発電設備の○・一%強にすぎない。 ▲新エネルギー〔1996 年版 エネルギー〕 新エネルギーといわれているものは、大きく分けて、 (1)太陽熱・光(ソーラー)、 (2)風力・潮力などの自然エネルギー、 (3)オイルサンド、オイルシェ ール、石炭液化・ガス化などの合成燃料、の三つに分けられる。 一九九四年六月発表の長期エネルギー需給の見通しでは新エネルギーを 新たな供給形態 として二次エネルギーのコ・ジェネレーションなどを含めて次のよ うに分類している。再生エネルギー(太陽光発電、風力発電、太陽熱、温度差エネルギー)、リサイクル型エネルギー(廃棄物発電、ゴミ処理廃熱等、廃材等)、 従来型エネルギーの新形態利用(コ・ジェネレーション、燃料電池、メタノール・石炭液化等、クリーンエネルギー自動車)。 ◆エコ・ステーション〔1996 年版 エネルギー〕 ガソリン、軽油の代わりに電気、天然ガス、メタノールを使う「環境対策自動車」の開発が本格化しているが、通産省は新しい自動車燃料の補給場所に、全国 五万九○○○カ所のガソリンスタンドを活用する方針を一九九二(平成四)年四月決めた。二○○○年までに約二○○○カ所に新燃料の供給施設を設置したい 考えだ。通産省によると、従来のガソリンスタンド(SS)を「エコ・ステーション」(ES)と改名する。九五年までに関東、関西地区にESを一○○カ所 前後設置する。その後は全国に広げ、各種の環境対策自動車が九五年に一○万台、二○○○年には約二○○万台普及すると想定している。日本では、最も普及 している電気自動車は自治体や電力会社などを中心に一一○○台、天然ガス自動車も全国に五○台前後、メタノール車も約二○○台ある。 ◆新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)〔1996 年版 エネルギー〕 第二次石油危機後の、脱石油戦略の一環として、通産省は「代替エネルギー公団」構想を打ち出したが、行政改革との関連から、石炭合理化事業団を吸収する 形で、一九八○(昭和五五)年一○月、「新エネルギー総合開発機構」の発足が決定した。同年五月成立した代替エネルギー法によって、石油に代わるエネル ギーのうち、原子力関係以外で技術的に実用化の見通しのあるものの研究開発に限定される。また、バイオマス(生物エネルギー)は、工業技術院が担当し、 地熱、石炭、太陽エネルギーが中心となり、石炭合理化事業は、石炭合理化事業本部が行う。八八年一○月一日から新名称になった。 ◆サンシャイン計画(Sun Shine Project)〔1996 年版 エネルギー〕 エネルギー危機に対処するとともに、無公害社会の建設を目ざして通産省が打ち出した新エネルギー技術開発計画。アポロ計画のように計画達成の期日を決め、 国立研究機関、民間企業、大学などの力を結集して推進する大型プロジェクトである。計画は一九七四(昭和四九)年度からスタート、二○○○年までの長期 計画と数年程度のテーマ別中期計画をつくって進める。二○○○年には新技術によって、国内総エネルギーの二○%の充足を見込んでいた。九○(平成二)年 七月、産業技術審議会新エネルギー技術開発部会において「サンシャイン計画」のあり方について一六年ぶりの基本的見直しを行い、中間報告をとりまとめた。 その報告のポイントは、新たな視点として「地球環境問題への最大限の対応」を考慮したことだ。西暦二○○○年を超えた中長期の新エネルギー技術開発の策 定が必要な時期にあると考えられる。このような基本的認識のもと、(1)これまで取り組んできた技術の実用化を促進し、早期にエネルギー供給構造の一翼 を担わせるとの観点から、二○○○年頃を目標とする短期的課題、(2)将来のエネルギー選択の多様化に資するとの観点から、二○一○年ないし二○二○年 頃を目標とする中期的課題、(3)世界的な規模での供給の安定化を図るというグローバルな観点から、二○二○年以降を目標とする長期的課題の三つに分類 し、体系的計画の策定を行うことになった。そして、九三年一月一日付で、サンシャイン計画やムーンライト計画など工業技術院で進めていた研究開発国家プ ロジェクトの再編・統合を実施することになった。 集約された六分野の主要テーマは「エネルギー・環境企画及びシステム」が燃料電池、「再生可能エネルギー」が太陽光、地熱、風力、「エネルギー高度変換・ 利用」が、石炭の液化、ガス化とセラミックスガスタービン、 「エネルギー輸送・貯蔵」は超電導と分散型電池、 「環境基盤技術」は水素と基礎技術、そして「地 球環境技術」は二酸化炭素(CO2)固定化、安定化となっている ◆再生可能エネルギー(renewable energy)〔1996 年版 エネルギー〕 石炭・石油など、いずれ枯渇する化石燃料に対して、太陽、風力、波力、水力、バイオマス(生物エネルギー)など、地球の自然環境そのものの中で、繰り返 し生起している現象の中から得られるエネルギーのこと。無限に近いエネルギーであるが、経済性のあるものは少ない。 ◆ソフトエネルギー(soft energy)〔1996 年版 エネルギー〕 アメリカのエモリー・ロビンスが一九七七年に出版した「ソフトエネルギーパス」からことばを借りたものであるが、基本的な考え方は変わっていない。ただ、 当時は反原発色などのイデオロギー的色彩が強かったのに対し、地球環境保全や分散化電源などへの期待が高まってきた結果、一般的にも受け入れられるよう になった。 (1)太陽、風力などの再生可能な自然エネルギー、 (2)発電施設の需要地のそばにおける送電ロスの小さい燃料電池、コ・ジェネレーションなど の分散エネルギー、(3)その他の自然や生物に害を及ぼさないクリーンエネルギーをソフトエネルギーという。 ◆合成液体燃料(synthetic fuel)〔1996 年版 エネルギー〕 オイルサンド、オイルシェール、石炭液化から得られる石油類似の液体燃料油を総称してよぶ。オイルサンド、オイルシェールは、元来が重質炭化水素を地下 からとり出すもので、超重質のため、石油のように自噴することなく、鉱石のように、採掘するのが一仕事である。また、採掘跡の復元にも問題がある。石炭 液化は、第二次大戦中、日本、ドイツの「持たざる国」で実施済みで、技術的には問題なく、大量の水素を必要とするため経済性が伴うかどうかだけが課題。 一九九一年九月、南米ベネズエラのオリノコ川流域に埋蔵されている超重質油「オリノコタール」を使った発電が茨城県鹿島コンビナート内の発電所で始めら れた。その後、関西電力や北海道電力も将来の利用のためにオリノコタールから作ったオリマルジョン(オリノコタールと水を七対三の割合で混ぜ、これに界 面活性剤を添加して混濁化した燃料、石炭並みの価格で石油とみなされない)を燃料とした火力を実証。現在、実際にオリマルジョンを火力に使っているのは 鹿島北共同火力(一二・五万キロワット)と三菱石油水島(七万キロワット)であり、両者で五年間にわたって年五五万トンを消費する契約をしている。 ◆燃料電池〔1996 年版 エネルギー〕 天然ガスなどから抽出した水素を、空気中の酸素と電気化学的に反応させることによって電気をとりだすシステム。東京電力が五井火力発電所に四八○○キロ ワットの実証プラントを建設し一九八二(昭和五七)年三月から運転を開始している。通産省では、この発電方式が無公害なうえ、発電の際に出る一○○度の 癈熱が、給湯・暖房に利用できるため、大都市の病院、ホテルなどの自家発電用に普及させる考えでいる。現在、第一世代のリン酸水溶液型(発電効率四○%) が中心であるが、八四年には都市ガス大手三社(東京・大阪・東邦)と三菱電機が第二世代の一つである内部リフォーミング式溶融炭酸塩型(MCFC発電効 率五○%)の共同開発を発表している。その後それを核にMCFC組合が作られ、電力中央研究所が参加し、九三年にはさらに電力九社と電源開発が加盟した。 一○○○キロワット級プラントは九三年秋から製作、運転試験を始める計画。MCFCは大容量化が可能なことから、第一世代であるリン酸型が小規模の自家 発電用に適しているのに対し火力発電所の代替など大規模電源として期待されている。第三世代としては固定電解質型になることが考えられている。 ◆水素エネルギー(hydrogen energy)〔1996 年版 エネルギー〕 水素を燃焼させたりして得られるエネルギーで、人類究極のエネルギーともいわれている。水素は水を分解すればできるもので無尽蔵である。燃やしても空中 の酸素と化合して水となるだけなので公害の心配がない。しかも一グラム当たりガソリンの三倍もの熱をだす。液体水素としてサターン5型をはじめ大型ロケ ットの燃料として使われている。将来、自動車やジェット機の燃料に代わるものと期待され、石油の枯渇につれ石油文明が水素文明時代にかわるとの見方もあ る。 半導体に太陽光線を当てて作る方法や核分裂や核融合の高温度で水を直接分解する方法などが考えられ、また水素貯蔵合金の開発利用なども研究中で、通産省 のサンシャイン計画でも新エネルギー技術開発の重要課題の一つである。 ▲エネルギー一般〔1996 年版 エネルギー〕 エネルギーは、エネルゲア(仕事をする能力)というギリシャ語に語源があるが、日本でも、燃料、動力などの言葉に代わって外来語として定着した。内容的 には、薪、木炭、石炭、石油、さらに天然ガス、原子力、太陽エネルギー等の新エネルギーと、時代とともに主役・内容が変わってきている。最近では、地球 環境問題との関わりから、クリーンな地球や人間に優しいエネルギーへという概念が強く打ち出されてきている。 ◆一次エネルギー/二次エネルギー〔1996 年版 エネルギー〕 エネルギーは、それを保有している石炭や石油をそのまま燃焼させて、熱エネルギーとして使用したり、あるいは、燃焼により水蒸気をつくり、その圧力で発 電機が回され、電気に変換されて使用されるなど、いろいろな形態をとっているが、最初にエネルギーの源となっている石炭や石油、天然ガス、また水力や原 子力エネルギーのことを一次エネルギーといい、次にこのエネルギーが、変形、変換、加工されてできる石油製品(直接輸入されたものを除く)、電気や都市 ガスさらに製鉄用のコークスなどのことを二次エネルギーという。一国のエネルギー統計を作成する際は、一次、二次のどの形態で、どの段階で、どの需要先 で使用量を測るのかをはっきりと区別しながら作業する(エネルギーバランス表を作る)ことが大切である。 ◆コ・ジェネレーション・システム(co-generation system)〔1996 年版 エネルギー〕 コ・ジェネレーションとは、電力と熱を併給することをいい、発電と同時にそれに使った排熱の利用をすることでもある。燃料を燃やして得られる熱を電力に 変えると同時に、蒸気、熱水を暖房・給湯などにも利用するシステムで、熱効率(省エネルギー効果)が極めて高いのが特徴である。熱需要と電気への需要の バランス次第では、コ・ジェネレーションの総合効率は五○%台に落ちる場合がある。今後実用化が期待されている燃料電池もコ・ジェネレーションタイプの ものが多い。民生用コ・ジェネレーションの発電機は、ディーゼル、ガスエンジン、ガスタービンの三種である。今後導入が見込まれる施設としては、常時熱 を必要とするホテル、病院、スポーツセンター、スーパーマーケット、山間・離島のリゾート施設などである。 九四年六月に発表された長期エネルギー需給見通しでは、現状(一九九二年度)の二七七万キロワット(スチームタービンを除く)に対し、二○○○年度には 四五五万∼五四二万キロワット、二○一○年度には八一三万∼一○○二万キロワット導入することを目標としている。 ◆トータル・エネルギー・システム(TES)(Total Energy System)〔1996 年版 エネルギー〕 CES(コミュニティ・エネルギー・システム)が都市ガスによって発電と排熱利用(給湯等)を組み合わせたエネルギー利用効率の高いコ・ジェネレーショ ン(熱併給発電)であるのに石油業界が対抗して考えているもの。灯油、A重油、LPGを燃料にしてディーゼルエンジン、ガスタービンで発電し、排熱を、 冷房(吸収式冷凍機)、給湯・暖房、蒸気の形で使う方式。買電、石油ボイラーによる給湯・暖房を行う方式では総合エネルギー利用効率は五二%程度にしか ならないが、TESでは、七○∼八○%になるという。石油業界としては、消費拡大の一環として開発、販売に積極的である。試算によると、燃料費節約によ り三、四年で建設コストを回収できるとしている。電気、都市ガスなどの公共料金の硬直性に対し、エネルギー多様化による選択の自由の確保を売りものにし て、市場拡張を図ろうとしている。実際例として有名なのは、石和温泉観光ホテル、ホリデイイン豊橋などである。 ◆未利用エネルギー(disutilized energy)〔1996 年版 エネルギー〕 省エネルギーの有効な方法の一つとして、未利用エネルギーの活用がエネルギー政策として強調されている。都市生活から出てくる排熱や、大気との温度差を 利用した河川水、下水処理などの熱といった、今まで利用されなかったエネルギーを有効に活用すること。社会システムの中に省エネルギーの観点を取り込ん だ「予防的な省エネ」で炭酸ガス、窒素酸化物などの削減もでき、環境保全の促進にも役立つ。資源エネルギー庁では「エネルギーインフラ整備室」を発足さ せ、未利用エネルギー活用システムの導入方策の検討を開始した。現在、大気中などへ放出している未利用熱エネルギーを再生、利用することで、既存の冷暖 房システムを使う場合に比べ窒素酸化物を六○∼八○%削減できるほか、二○一○年までの国内の炭酸ガス増加量を約一○%減少させることができ、地球環境 の保全を促進する効果がある。排熱活用システムの事業化に向けた二○一○年までのインフラ整備には総額二四兆円の多大な投資が必要になる。 ◆エネルギー弾性値/原単位(energy-GNP elasticity/energy intensity)〔1996 年版 エネルギー〕 エネルギー消費の伸び率と経済成長率の比。日本では一九七三年の石油危機以前は、エネルギー弾性値は一以上であったが、七三∼八六(昭和四八∼六一)年 度は○・三と、エネルギー多消費産業の停滞、省エネルギーの進行で小さかった。八七∼九二(昭和六二∼平成四)年度は○・九程度に戻っている。省エネル ギーの後退とエネルギー多消費産業の活況による。最近ではむしろGNP(またはGDP)一単位のエネルギー消費量の傾向値(原単位)でみたほうが適切で あると考えられている。エネルギー価格が上昇し、エネルギー利用の効率が進むにつれてエネルギー弾性値は○・六∼○・四と小さくなるということが省エネ ルギーの一つの指標ともなっている。八○年六月のベネチア・サミットでは、九○年までにエネルギー弾性値を○・六まで引き下げることが目標とされた。九 四(平成六)年六月発表の長期見通しでは一九九二∼二○一○年に○・三(エネルギーの伸び率○・九%をGNPの伸び率三%で割ったもの)となっている。 皮肉なことに、九三、九四年度はGNPがほとんど横ばいだったにもかかわらず、一・二%、五・四%と、猛暑、物量景気(デフレ)等で大幅に伸びた。 ◆電力不足〔1996 年版 エネルギー〕 一九九○(平成二)年の夏は、記録的な猛暑と好景気が重なり、例年、七月、八月にみられる電力需要のピークが一挙に数年分増加した。特に東京電力の供給 地域である首都圏では、ピーク需要がこれまでの年平均約一五○万キロワットの増加であったのに対し、その四倍の約六○○万キロワットにも急増した。東京 電力は他の電力会社や一部自家発電から融通を受ける(自家電力融通)一方、割安な料金を条件に需給調整契約を結んでいる大口需要家(主とし工場)への電 力供給を最大一○○万キロワット削減して(緊急カット契約)、電力不足を切り抜けた。これは家庭や事務所ビルなどのエアコンや、最近普及しはじめた工場 空調などの高稼働が、好景気で高水準で推移する産業用需要に加わったためであるが、都市がヒートアイランド化し、コンクリートやアスファルトの蓄熱効果 が大きくなり、熱を吸収すべき樹木が少なくなったことなどによって自然の暑さ以上に暑くなりピーク需要を押しあげたものと考えられる。一方、発電設備の 建設計画が予想を上回る電力需要の伸びに追いつけないことや、首都圏への一極集中の問題や、広域運営の必要性からの九電力体制見直し論まで出ている。通 産省では、導入ずみの時間帯別料金制度とは別に、家庭向け電気料金を夏の電力需要拡大期だけ割高にする季節別料金制度の導入を検討しているという。九三 (平成五)年は冷夏で表面化しなかったが、九四年は記録的な猛暑で不況下にもかかわらず電力不足が表面化した。九五年も八月は史上最高の暑さになりピー クを更新した。今後も景気や気温しだいではあるが、基本的には電力不足は解消されない。九五年の電気事業法改正で、大都市圏では電気事業者以外も卸発電 事業が認められたが、背景には大都市での電力不足がある。 ◆東京大停電シミュレーション〔1996 年版 エネルギー〕 東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉、人口三二○○万人、一一五○万世帯が住む)で八月下旬の月曜日午後一時から三日間停電した場合どのような社会的、経 済的影響が出るかをシミュレーションしたもの。停電の原因は、暑さに対するクーラー等の電力消費が急上昇し、供給が対応できないという設定。実際、一九 八七(昭和六二)年七月二三日に同様の理由で約二八○万戸が停電の経験をしている。被害額の推定は、日本エネルギー経済研究所のモデルを用いた推定だと、 その後の一年間の波及効果を含めて一兆八○○○億円にのぼるという。停電による一番深刻な影響は、断水である。東京圏に住む世帯の約三割の三五○万世帯 が三階以上の高層建物に住む。そこは汲み上げポンプ式で停電になると数時間で水道は止まる。次いで病院等の医療機関での停電である。大病院等は自家発電 設備が義務付けられているが、日頃の点検が十分でない場合や、燃料確保が不十分だと自家発電が停電後すぐに機能を発揮しない。その次は交通である。私鉄、 地下鉄は保安用にのみ自家発電があるが、運行や信号機用の電源はない。JRも自家発電があるが、運転や信号機の作動に大きな支障が出てくるためかなりの 部分がストップする。バスやタクシーに乗っても、交通信号がすべて消えてしまい大渋滞のため職場や移動先から当日中に帰宅できない人が多い。その他多く の問題が起こるが家庭生活での被害額はモデルシミュレーションによると世帯当たり二万一四○○円と推定された。これは生活水準が平均で普段に比べ半分に なることを意味している。しかし、断水でトイレに行けないとか、熱帯魚が死んでしまうとか定量化できない影響や、東京に情報ネットワークの中枢が一極集 中しているため、全国への波及や国際的な波紋を考慮すると被害額は一○倍以上(一八兆円以上)になることも考えられるという。このシミュレーションは、 「フォーラム・エネルギーを考える(元経済企画庁長官高原須美子代表)」が日本エネルギー経済研究所に調査を委託したもの。 ◆電源ベストミックス(best power sorce mix)〔1996 年版 エネルギー〕 電力需要に対応する電力供給において、いかなるエネルギー源をミックスさせるか経済性、安定性、負荷追従性、クリーン性など多様な観点から判断するもの。 全国ベースと各電力会社では、地域性、立地条件、需要構造などにより変わってくる。また発電能力設備での組合せと発電量ベースでの組合せがある。組合せ においては、経済性、安定性に優れている原子力をどこまで入れるかが鍵となる。発電設備で四割、電力量ベースで六割が最終目標とされている。火力(石炭、 天然ガス、石油)は化石燃料の価格、為替レートや発電所の建設費などの見通しによって、経済性が原子力との比較において異なってくるが、原子力がベース ロードを受け持ち、火力はミドルロード・ピークロードを操作性(負荷追従性)のよさもあって受け持つことになろう。 ◆発電原価(cost of power generation)〔1996 年版 エネルギー〕 石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料が、原油安を背景に値下がりしている状況で、とくに石炭火力の発電コストの相対的安さと、原子力発電の年々のコスト 上昇が目立っている。通産省・資源エネルギー庁がまとめた一九八九(平成一)年度発電原価試算によると一キロワット/時当たりの原価は、生涯年ベースで 原子力が九円、石炭火力が一○円となり、原子力に廃炉コスト、高レベル放射性廃棄物処理費用を加えると原子力が特段安いとはいえなくなった。 石炭火力は地球温暖化問題があり、原子力発電の建設コスト削減の可能性があるなど原子力に有利な点もあり、電力会社も原子力優先の方針は変えていない。 しかし、原子力は安いと単純にいえなくなったことは確かである。なお、石油火力、天然ガス火力は一キロワット時当たり一○∼一一円、水力一三円程度とな っている。日本エネルギー経済研究所の試算によると、一九九四年度運転開始分の発電コストは、原子力発電が一キロワット/時当たり九・九円、石炭火力が 一○・二円、LNG火力が一○・○円。ただし、二○○○年度運用開始分では、原子力発電が一○・一円、石炭火力一一・一円、LNG火力が一一・○円とな っている。 ▲石油問題と石油政策〔1996 年版 エネルギー〕 石油産業の規制緩和は、特石法の期限切れ(九六年三月)を控えて九四年度に廃止が決まり、備蓄義務と品質維持ができれば精製能力を持たなくても石油製品 の輸入ができるようになる。具体的には、商社、農協などすでに供給ルートを確保している企業が中心となると予想されている。 ガソリン価格などは特石法廃止後、安い韓国、シンガポールなどからの輸入を見込んで値下げ競争に入っている。 ◆OPEC(石油輸出国機構)(Organization of Petroleum Exporting Countries)〔1996 年版 エネルギー〕 一九六○年九月一四日、イラク政府の招請によって、イラン、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの代表が集まり、五カ国で結成した石油生産輸出国の 協議会。現在の加盟国は、前記創設国に加えカタール、インドネシア、リビア、アラブ首長国連邦、アルジェリア、ナイジェリア、エクアドル、ガボンの一三 カ国の国際組織となっている。石油需要の増加が続いている時期には、石油価格引上げで足並みが揃っていたが、石油需給が緩和してくると、生産調整、原油 価格差設定をめぐって、内部対立が目立ってきた。最近では合計二五○○万バレル/日の生産枠が決まっているので、価格の高い軽質原油の増産圧力が強く、 重質原油との価格差が小さくなっている。また、二○○○年頃には、OPEC依存度はアジア、アメリカ等からの輸入増で、OPECは有利な立場になり値上 げ攻勢をかけてくるだろうといわれている。 ◆スポット市場(spot oil market)〔1996 年版 エネルギー〕 原油と製品のスポットマーケット(現物市場)がある。製品のスポットマーケットはオランダのロッテルダムをはじめ従来から一般的であった。スポット市場 で取引される原油の量は、世界の原油貿易量のうち三∼五%と比較的小さかったが一九八三年以降、ヨーロッパではイギリスが安値のスポット販売に対して有 利になるような税制を採用したため、産油国も大半をスポット販売するようになり、スポット比率は急増。OPEC原油販売の大半がスポットか、スポット価 格連動となっている。日本着原油輸入価格もドバイとオーマン原油のスポット価格に連動している物が大半といわれている。 ◆石油先物市場(future market for oil)〔1996 年版 エネルギー〕 石油取引を世界の有力商品取引所で取り扱い、通常の市場経済に組み込んでいこうという動き。メジャーの勢力が強かった時期には、原油取引の九五%程度が メジャーの内部取引であったが、産油国の国有化方針が増え、それにつれてスポット取引も増えつつあるため、これを機に、シカゴ、ロンドン、ニューヨーク などで原油の先物取引を開始し、需給、価格の先行指標として、市場の安定化に役立てようというもの。現在ニューヨークとロンドン市場では原油と軽油、暖 房油、シンガポール市場では重油が対象として相場が立っている。先物市場としてはニューヨークのNYMEXが最大である。取引高は実際の原油取引高を大 きく上回ることがある。先物市場は価格高騰調整機能がある半面、投機的な動きを加速する恐れもある。 ◆メジャーズ(国際石油資本)(major oil companies)〔1996 年版 エネルギー〕 エクソン、モービル、テキサコ、シェブロン(スタンダード・オブ・カリフォルニア)、ガルフ(以上、アメリカ系)と、BP(ブリティッシュ・ペトロリア ム・イギリス)、ロイヤル・ダッチ・シェル(イギリス・オランダ)の七社(セブン・シスターズともいわれた)をいう。フランス石油を加えて八大メジャー ズということもあった。 石油産業の採掘、輸送、精製、販売のうち、原油採掘もしくは精製業の一部門だけ扱う独立系(インデペンデント)に対し、全段階にわたる大企業という意味 でメジャーズとよばれる。 長年、世界の石油の宝庫中東での石油生産の九九%以上を一手に掌握してきたが、一九五一年のイランの石油資源国有化を皮切りに、六○年、イラクの鉱区接 収、七二年、同じくイラクのイラク石油の国有化、七三年一月からのアラビア湾岸諸国の二五%資本参加、七三年五月、イランの石油資産全面国有化、さらに、 七九年以降の中東、南米、アフリカにわたる全面国有化の波により、メジャーズの資産・施設は大半の産油国で接収され原油の支配力もなくなった。 ガルフは、八四年三月、スタンダード・カリフォルニアに吸収合併されて姿を消した。他のメジャーズも、かつての一貫操業体制に固執せず、採算のよい部門 に特化するなど大きく変わってきている。しかし、メジャーズの資金力、技術力は、油田等の所有権は小さくなっても、その力は巨大で収益力は抜群である。 ◆中国の石油市場〔1996 年版 エネルギー〕 石油生産で世界第五位(二九○万バレル/日)の中国は一二億の国民の生活水準の向上、特に改革開放で沿岸地域の高度成長による石油需要増で石油輸入が増 え、一九九三年に輸出国から輸入国に転じてしまった。 中国は、モータリゼーションの進行、電化製品の普及、非商品エネルギー(薪、わらなど)から商品エネルギーへのシフトなどで、ガソリン、軽油などの石油 製品、民生用の電力(その発電燃料である石炭)など消費が年二桁以上の率で伸びているが、国内供給(生産、輸送)に限度があり二○一○年頃には石油で二 五○万∼三○○万バレル/日、石炭で五∼六○○○万トンの輸入が必要になり、世界のエネルギー市場に大きな影響を与えることが予想されている。 ◆石油製品輸入法〔1996 年版 エネルギー〕 正確には、特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)といい、一九八六(昭和六一)年一月六日から施行されている。石油業法第一二条の石油輸入業の届出の規 定を補完する特別法で、それは行政指導で原則的に輸入が認められなかったガソリン・軽油、灯油の三製品について、(1)輸入中断時に石油製品の代替的な 生産・供給能力、 (2)製品の品質の検査と調合する能力、 (3)備蓄能力、のいずれをも有する者を輸入資格者として登録させることで、石油供給の安定性を 維持しようとしたものである。実際には精製元売二三社だけが資格者となった。その後、三製品の輸入は急速に拡大したが、九二年より原油処理枠がなくなり、 原油で輸入し精製した方が有利になったため、製品輸入は縮小した。九五年四月、特石法の有効期限切れ(九六年三月末)と同時に廃止されることが決まった。 九六年四月からは備蓄、品質管理義務が決まれば誰でもガソリン等を輸入することができるようになった。しかし、その義務を果たすには経験、備蓄コスト負 担能力からいって商社、農協等に限定されるといわれている。 ◆石油市場規制自由化のアクションプログラム〔1996 年版 エネルギー〕 石油審議会は、一九八七(昭和六二)年六月、石油市場の規制緩和のプログラムを発表した。六二年に石油業法が制定されて以来わが国の石油産業は、輸入、 精製、販売まで過度の規制が行われてきた。全般的なディレギュレーション(規制撤廃)の動きの中で、内外の要請に応えて、民間の活力を生かすべく行政指 導の緩和が行われる「一九九○年代に向けての石油産業・石油政策のあり方について」の報告に基づくもので八七∼九一年度に段階的に行っていく。骨子は以 下のとおり。 (1)精製設備新増設の認可の弾力化―八七年度中、(2)ガソリン生産割当(PQ)の廃止―八八年度中、(3)原油処理量の規制の廃止―九一年度末まで、 (4)給油所の建設指導、給油所転籍ルールの廃止―八九年度内、であったが、すべて実行された。一部懸念された市場の混乱は起きていない。 ◆石油備蓄法〔1996 年版 エネルギー〕 石油の供給中断にそなえて、一九七五(昭和五○)年一二月に公布され、翌年一○月から、備蓄量増強が実施された。七九年度末までに九○日分の石油をスト ックする体制をつくるための法律。スエズ紛争をはじめとして、中東戦争など中東の石油供給事情が不安定なために、OECD諸国の共通エネルギー政策の重 要な一項目となっている。たとえば緊急時の相互融通を受けるには、この備蓄業務を達成していることが要件となる。九○年八月のイラクのクウェート侵攻で 注目されたが、備蓄は一九九三年三月末現在一四○日(国家備蓄六三日分、民間備蓄七七日分)あるが、原油価格の安定に対して、取り崩しがどれだけ有効か が試されている。国家備蓄は五○○○万キロリットル達成を目標としている。 他方、LPガス(プロパン‐ブタン)も輸入に頼っている以上、備蓄を強化すべきだという考えが強まり、八一年四月に法改正して、LPガスも備蓄の対象に 加えられた。通産省資源エネルギー庁は、九五年度から国家備蓄基地の建設に着手し、二○一○年度に年間輸入量の約四○日分に相当する約一五○万トンの備 蓄達成を目標とすることを九二年五月に発表している。民間備蓄の五○日分と合わせると、九○日の備蓄体制が整う。 ●最新キーワード〔1996 年版 エネルギー〕 ●エネルギー産業の規制緩和〔1996 年版 エネルギー〕 エネルギー産業の規制緩和は、経済・産業の活性化、サービスコストの低下を目標として規制緩和の目玉商品として強力に行われた。特に電力産業の規制緩和 は、数年前には予想もできなかった強度で行われた。もちろん、国際的な大きなトレンドとしての 市場経済化、自由化の波 という外圧もあったことは確か である。 一九九五(平成七)年四月に公布された新しい電気事業法は、卸発電市場の自由化や直接供給への参入を促進する大幅な変更点を含んでいる。これらは発電部 門への新規参入の拡大のために行われたものである。一般及び大規模な卸電気事業者以外で、卸供給(一般電気事業者に対する)を事業とするものを卸供給事 業者といい、事業許可はいらないことになった。そして電気事業者は、卸供給事業者の能力を活用しなければならないことになった。発電市場に他産業や資本 の参入が自由化された意味は大きい。 透明性の高い公平な電源調達の仕組みを実現するために入札制度が導入された。活発な競争の場とするために、入札による場合(別に認可制もあるが)、届出 制となった。卸託送は、法律では「振替供給」となっているが、電気事業者の所在地を供給区域としない一般電気事業者に対して卸供給ができるようになった。 従来法にはなかった「特定電気事業」を特定の供給地点における需要に応じ電気を供給する事業と規定し、許可事業となった。これによって既に一般電気事業 者の供給地域に含まれる地点でも、使用者への直接的な電気の供給を事業とすることができるようになった。特定電気事業者は、需要家に対しては当然義務を 負うが、その供給条件は届出制になった。料金制度の改善については、設備の効率的使用に資するために、電気の使用者が選択できる供給約款を定めることが できるようになり、届出制となった。これはいわゆるDSM(需要管理 Demand Side Management)の推進による効率化を支援する制度である。 石油産業の規制緩和はここ数年急速に進んできた。九五年四月、石油製品輸入に関する時限立法の特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)の期限切れ廃止と石 油備蓄法、揮発油販売法の改正をまとめて取り扱った法案が可決された。特石法は、海外からの石油製品輸入者の条件として(1)代替生産能力、(2)備蓄 能力、 (3)品質調整能力の三つが必要であったが、九六年四月より、備蓄、品質管理義務を果たせば、誰でも輸入可能(ガソリンなど)となる。品質面から、 輸入先としては、韓国、シンガポール等に限られ、備蓄コストを負担し、石油製品流通網を持っている商社、全農などに国内的には限定されるといわれている。 今後は、九七年一○月をもって、揮販法の競争抑制的な側面が強い指定地区制度は廃止し、所要の法的措置を講ずることとなった。 都市ガス事業については、電気事業の規制緩和の影響が大きく、産業用大口料金の自由化が行われることになった。 ●地球温暖化と長期エネルギー需給〔1996 年版 エネルギー〕 地球温暖化問題は、一九八九年一一月のオランダのノルドベイクの環境関係閣僚会議での宣言を受け、なるべく早い時期に炭酸ガスを現状水準に安定化させる 方向に進んでいる。九○年一一月の世界気象会議を経て、九二年六月には地球サミットで地球温暖化ガスの排出抑制について条約案がまとまった。それが気候 変動枠組み条約で、九四(平成六)年三月に発効した。同年九月に先進各国は事務局へ対応策を通報し、九五年三月第一回条約会議が開かれてそれらを討議す る。 わが国は、このように国際的に対応して、九四年六月に通産大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会が、二○○○年度、二○一○年度までの長期エネルギ ー需給見通しを発表した。主要な目標として化石燃料(石炭、石油、天然ガス等)の燃料による炭酸ガスの排出量を二○○○年に一人当たりで九○年水準に抑 え、その後安定化するとの目標を織り込んだ。しかし、一九九二∼二○○○年度の一次エネルギー需要を年率○・九%に省エネルギーで抑えることと同時に、 経済成長率を年率三%成長させることを同時に達成することは極めて難しい(いわゆる弾性値○・三)。原子力は二○一○年度には九二年度の二倍以上の七○ 五○万キロワットを運用させる。太陽光発電は二○一○年度に現在の約一○○○倍の四六○万キロワットにするなど、実現可能性の少ない前提を目標としてい る。 ●ゴミ発電システム〔1996 年版 エネルギー〕 ゴミ焼却排熱を利用した発電は、わが国では一九六五(昭和四○)年に完成した大阪市の西淀清掃工場(五四○○キロワット)が最初である。昭和五○年代初 めに電力会社の協力を得て東京都葛飾清掃工場において所内使用電力の約三倍(一万二○○○キロワット)の発電出力を持った、売電を目的としたゴミ発電所 が稼働した。発電を行っている清掃工場は、全国約二○○○カ所のうち九○(平成二)年度末現在で一○五カ所(全体の五%)であるが、数、発電出力は年々 増加傾向にある。四六カ所の清掃工場で電力会社に売電されている。全国における発電設備の合計は約三二万キロワットで、八九年度には、全工場で約一二億 キロワット時の電力を発電し、うち五億キロワット時が電力会社に売電されている。九二年度には三六万キロワットになったが、九四年六月発表の電気事業審 議会の見通しでは二○○○年に二○○万キロワット、二○一○年に四○○万キロワットの完成を目指している。リサイクル型エネルギーと重要な位置付けをさ せている。 九三年、自治省は各市町村のゴミ焼却場から排出される蒸気熱を動力として活用する「スーパーゴミ発電」事業計画をまとめ九四年度から実施する方針。未利 用エネルギー有効利用の一環として、焼却場にガスタービンによる発電機を別途設置。ゴミ焼却場から排出される二五○度の蒸気に発電機から出る五○○度の 蒸気を付加し、三五○度まで上昇させ、発電効率を一○∼一五%から二○∼二五%に高めることが可能だとし、このパワーアップ作戦で日量約三○○万トンの 処理能力のゴミ焼却場で一万四○○○キロワット、約九万世帯が一年間に使用する量の発電が可能と試算している。 ●国土縦貫天然ガス・パイプライン〔1996 年版 エネルギー〕 広域パイプライン研究会(三菱総研、東電、東京ガス、新日本製鉄など民間三二社で組織)は一九九二(平成四)年初め、今後の天然ガス需要を踏まえ国土縦 貫天然ガス・パイプラインの建設構想をまとめた。 同研究会では、二○一○年の天然ガス需要は現在の三五○○万トンから二倍の七○○○万トン程度に達すると予測。生産地で液化してLNGで運ぶ現在の方法 では限界があり、日本列島の隅々まで供給するためには従来型のパイプラインが必要と提言している。 具体的には稚内から鹿児島まで約三三○○キロのパイプラインで、東京、名古屋、大阪、福岡の既存LNG輸入基地や、臨海部の大都市をくし刺しにする。サ ハリンやシベリアのヤクーツクと直結させる。サハリン沖の開発などを見込んで、着工は二○○○年、五年後の完成を目指す。二○二○年には、日本海側ルー トを完成させ、将来的には中国、アメリカ・アラスカなどと結ぶアジア・太平洋圏のネットワークも検討している。敷設地は高速道や新幹線の高架下など公有 地の地下が主体で、建設費は約三兆円。 これとは別に東京―名古屋―大阪間を中心としたパイプライン構想が出ている。通産省はこれらの動きに対応して九三年夏、天然ガス供給基盤検討委員会をス タートさせた。 ●旧ソ連・東欧のエネルギー市場の縮小と世界のエネルギーバランス〔1996 年版 エネルギー〕 西側先進諸国(アメリカ、西ヨーロッパ等)、旧ソ連地域、東欧などの経済全般にわたる停滞により、一九八三年以降九○年までの八年間平均二・五%の高い 伸びを示してきた世界一次エネルギー消費は、九一年には一%増、九二年、九三年は○・二%増へと急激に鈍化した。特に旧ソ連がマイナス二・三%、マイナ ス九・七%、それを含めOECD以外のヨーロッパ諸国合計がマイナス四%、マイナス八・二%と東側の社会主義体制の崩壊から市場経済への移行過程の経済、 産業、国民生活の混乱が大きな減少要因となった。九四年は、日本を含め西側諸国の経済活動の回復はアメリカを除くと弱く、旧ソ連、東欧諸国経済の一層の 落ち込みが重なり、世界の一次エネルギー消費は引き続いて微増(○・九%増)にとどまった。エネルギー生産では、旧ソ連の石油生産が、九一年一七・八% 減、九二年一七・七%減、九三年一二・三%減と油田管理の不備、資材不足等の混乱からなかなか脱出できず、九四年も引き続いて減少(一○・七%減)した。 ▽執筆者〔1996 年版 高田 交通運輸〕 邦道(たかだ・くにみち) 日本大学教授 1941 年大分県生まれ。日本大学理工学部卒。現在、日本大学理工学部教授。著書は『地区交通計画』『都市交通計画』など。 ◎解説の角度〔1996 年版 交通運輸〕 ●交通問題への対応は日常的な交通が主であった。日常的交通は、需要の変動が生じるもののその周期規律性を把握できる範囲で比較的安定している。そのた め、少数の問題部分は運用管理することで効率性を重視した資本投下が行われてきた。これに対して、レジャー交通、災害時の交通、イベント交通等の非日常 的交通は、現在の効率優先の手法の範ちゅうではその対策が難しい。何故なら、需要の変動が著しく大きいうえに、日常交通では観測できない需要パターンが 生じるためである。 ●しかし、阪神大震災で多くの問題が露呈されたように、日常的交通への対応だけでは、災害を大きくし、復興を遅らせ、限定された地区の問題のみならず、 全国的な問題に拡大してしまう。そのため、日本全体の経済活性化を鈍らせ、十分な復興への資金投下ができなくなる。 ●また、週休 2 日制に代表されるような余暇社会への進行に当たって、休暇時間のかなりの時間を渋滞等による移動時間に費やすため、真の余暇社会を構築で きない。危機管理や余暇社会基盤までも視野に入れた交通運輸分野での整備体制が期待される。 ▲未来の交通プロジェクト〔1996 年版 交通運輸〕 二○○○年という区切りのよい目標に向かっていくつかの交通プロジェクトは着々と整備が進んでいる。しかし、技術的あるいは資金的な困難さのため、実現 が二○○○年初頭以後になると予想されるいわゆる未来の交通プロジェクトもいくつか存在する。時代がこれらのプロジェクトを誕生させない場合もあるが、 交通に興味をもつ者にとっては期待をはずませるプロジェクト群である。 ◆スペースプレーン(space plane)〔1996 年版 交通運輸〕 レーガン大統領が、一○年前に一般教書演説の中で研究開発等の構想を示した極超音速旅客機(HST スプレス(新オリエント特急 Hypersonic Transport)。ニュー・オリエント・エク New Orient Express)ともよばれる。まだ概念段階で、(1)水素エンジンの搭載、(2)既存滑走路で発着、(3)運航スピー ドはマッハ一二∼二五、(4)飛行高度は三○∼一○○キロが明記されているにすぎない。しかし、これが実現すると東京∼ワシントン間をわずか二時間で結 び、海外日帰り一日経済圏が実現する。現在の航空技術ならばHSTの開発は十分可能とされているが、マッハ二・○五のSST(超音速旅客機/コンコルド Supersonic Transport)が大西洋線に就航し、採算がとれなかったことから、民間旅客機として定着するか懸念されている。なお、ヨーロッパでも、ESA (European Space Agency)を中心にスペースプレーンのコンセプトを検討している。具体的にはフランスがHERMES計画、イギリスがHOTOL (Horizontal Take-Off and Landing)計画である。日本航空宇宙工業会でも国際共同開発を前提として、巡航速度マッハ二・五、三○○人乗り、航続距離一 万∼一万四○○○キロの次世代超音速旅客機の開発計画を検討している。九○年から日米欧の次世代SSTの共同開発が進められているが、資金難から開発は 大幅に遅れる見込み。 ◆チャレンジシップ計画〔1996 年版 交通運輸〕 運輸技術審議会が一九九三(平成五)年一二月に答申した「新時代を担う船舶技術開発のあり方ついて」の計画名。この計画は、先進安全船計画、トータルク リーンシップ計画、先端的技術の開発計画からなる。先進安全船計画は、ヒューマンエラー防止技術から衝突・座礁予防システム、新救命システムなど、トー タルクリーンシップ計画は、メタノール機関、NOx等排ガス対策、原子力船、水素利用システムなど、先端的技術の開発計画は、「超」超高速船、超電導推 進船、新形式輸送システムなど、それぞれの課題についてその推進方策が提言されている。 ◆リニアエキスプレス(The Linear Express)〔1996 年版 交通運輸〕 中央リニア新幹線、中央リニアエキスプレスともいう。構想段階の基本計画線に位置づけられている中央新幹線にリニアモーターカーを走らせようとする構想。 輸送力が限界に近づき、老朽化が進む東海道新幹線のバイパスあるいは災害時の危険分散としての必要性とともに、中央線が整備新幹線構想から離れたことも あってJR東海、地元の政財界から急浮上してきた。まだ正式に認知されたわけではないが、東京の地価高騰と社会資本の効率悪化を解消するため、二一世紀 の日本を関東、関西、中部の三大都市圏を超高速交通で連結しようとする拡大都市構想を支える基盤施設としても考えられている。理想的には、東京∼名古屋 ∼大阪の三駅を高速で結ぶことであるが、リニア実験線の活用、採算性などを考慮して、ルートについての地形・地質の調査を進めている。とくに、大島地震 や伊豆地震のぼっ発は、建設の促進剤となってきている。 ◆中部新国際空港〔1996 年版 交通運輸〕 東海地方で建設の検討がはじめられた本格的な国際空港。構想は四○○○メートル滑走路二本を整備して、超音速旅客機(SST)が離着陸できる二四時間使 用の伊勢湾上の海上空港。空港建設の一般的難問の騒音、アクセス、伊勢湾の環境汚染があるが、九六年度から二○○○年度までの新しい第七次空港整備五カ 年計画に組み入れられ一歩前進した。中部新国際空港は、名古屋市の南約三○キロの常滑沖の海上を埋め立てて建設し、三五○○メートル滑走路一本で二○○ 五年までに開港する構想。面積は約五○○ヘクタールで、建設費は六三○○∼八二○○億円。 ◆首都圏第三空港〔1996 年版 交通運輸〕 若手経済学者などで組織する二一世紀経済基盤開発国民会議が提言している羽田、成田に次ぐ首都圏第三番目の国際空港の略称。首都第三空港とも、単に第三 空港ともよばれる。国際化の進展は国際空港の容量増と世界の各都市との全時間的対応が求められている。そのため、二四時間発着可能の国際空港が必要とさ れている。第六次空港整備五カ年計画(一九九一∼九五年)で調査費が盛り込まれ、国家プロジェクトとして動き出した。二四時間使用でき、国際・国内線併 用の大規模な海上空港建設をと東京商工会議所からの要望が出された。 ◆NAGT(新全自動化軌道交通機関)(New Automated Guideway Transit)〔1996 年版 交通運輸〕 最新のコンピュータ制御技術を応用し、比較的狭い範囲内の多様な短距離トリップをカバーする完全自動運転の新しい都市交通システムの総称。例としては、 GRT(Group Rapid Transit 中量高速交通機関)、PRT(Personal Rapid Transit 個別高速交通機関)などがあげられる。GRTは、小型バス程度の大 きさの乗り合いの車両が、複数ルートをもつ路線を柔軟に自動運行するシステム。PRTは、乗り合いをせず、個別乗車の小型車両がネットワーク状につくら れた軌道上をタクシーのように乗客の要望に従い自動的に運行するシステム。オイルショックの後、これらシステムが検討されたが実施をみなかった。しかし、 交通結節点での連絡や面開発地区で車の抑制に代わる手段として再浮上してきている。 ◆300X〔1996 年版 交通運輸〕 300X新幹線、300X試験車両とも呼ばれる。既存の新幹線方式で、最新最良の高速鉄道システムのあり方を追求するための試験車両。この車両は試験のみを目 的とした純粋な試験車で、一般の営業用車両とはかなり異なる仕様となっており、九四年二月から走行試験が開始した。台車車軸三・○メートル(現行二・五 メートル)軽量車両、車体を支える空気ばねの高さ一・七メートル(一・○メートル)の主要性能規格を変えて、乗り心地改善、空気抵抗、集電、ブレーキ性 能などの高速車両として性能試験を行っていく。 ▲運輸関係社会資本整備〔1996 年版 交通運輸〕 九四年一○月に閣議決定された投資総額約六三○兆円は、二一世紀初頭に予定されているわが国の社会資本をおおむね整備することを目標としている。この整 備計画は、これまでの整備の延長線上にあるため、新幹線をはじめとする南北主要幹線交通施設のつながりでひと息ついていたところである。そこに阪神・淡 路大震災がぼっ発し、これまで何気なく利用されている運輸関係社会資本の果たす役割を再認識するに至った。 ◆国際ハブ空港〔1996 年版 交通運輸〕 国際線から国際線あるいは国際線から国内線へと乗り継ぎをするための拠点空港。ハブ(hub)とは、自転車の車輪の中心部にあるこしきのこと。スポーク(spoke) からハブに、またハブからスポークへ力が伝導することからこのようなシステムをハブシステムあるいはハブ・アンド・スポーク・システムという。二一世紀 初頭の超音速旅客機の就航する空港は世界に六カ所必要とされ、これをスーパーハブあるいはグローバルハブという。このうちアジアに一カ所必要と考えられ ている。わが国の国際空港である成田空港が、国内線の羽田空港との乗り継ぎが極めて不便なため成田以外に日本を代表する国際ハブ空港の整備が急がれてい る。その理由は、一九九七年開港予定のソウル(新ソウル・メトロポリタン空港)や香港(チェク・ラップ・コック空港)で国際ハブ空港化構想が進んでいる ことによる。そこで、関西新空港や中部新空港が当てにできないため、新千歳空港がその候補に上がっている。 ◆成田空港二期工事〔1996 年版 交通運輸〕 日本の空の表玄関、新東京国際空港(通称成田空港)の二期工事。一九七八(昭和五三)年五月に開港した成田空港は、A滑走路(四○○○メートル)だけで 運用してきたが、三四カ国四一社の乗り入れ航空会社をもち、年間九万五○○○回を上回る離着陸便数となってほぼ限界の状態。そこで、八一年一一月より二 期工事(二五○○メートルのB滑走路と横風用三二○○メートルのC滑走路)にとりかかったが、本格工事に入ったのは八七年四月。反対運動との交渉が話し 合いに徹するため長引くことが予想されるが、滑走路の完成に先立ち、第二旅客ターミナルビルが開設した。完成規模は、総面積一○六五ヘクタール(羽田の 約二・六倍)。年間離着陸回数の限界は二六万回(羽田は一七万五○○○回)程度。なお、現在の旅客取扱数は年間一八○○万人で世界第六位、貨物取扱量は 一三○万トンで世界第一位。 ◆運輸多目的衛星システム〔1996 年版 交通運輸〕 静止気象衛星を利用した運輸に関する行政・民間分野の多様なニーズを満たす業務の高度化・情報化のためのシステム。例えば、現行の人工衛星を利用した捜 索救難通信システムは、極軌道周回衛星を利用しているため、衛星が上空にいないときに最大で一時間半程度の通信不可能な時間帯が生じる。静止衛星を利用 したシステムは、この欠点を補完し、遭難信号を常時リアルタイムで受信することが可能。運輸省では、静止気象衛星 573 を用いてこのシステムの実証実験を 行っている。 ◆羽田空港沖合展開〔1996 年版 交通運輸〕 空港機能の増強と航空機騒音問題を解決するために東京・羽田空港の大きさを三倍にして沖合に移転拡張する事業。年間離着陸回数が約一五万七○○○回にの ぼり、容量限界に近い羽田空港を現在の三倍に近い面積(一一○○ヘクタール)に拡張する。計画は三本の滑走路を整備、年間の離着陸処理能力を一・五倍(約 二三万回)にする。工期は三期に分け、新A(三○○○メートル)、新B(二五○○メートル)、新C(三○○○メートル)の三本の滑走路を整備する。着工開 始は一九八四(昭和五九)年一月、八八年七月から新A滑走路が使用開始で第一期工事は完了。二期工事は九三年九月に完了、新旅客ターミナルが完成。この ターミナルはビッグバードの愛称でよばれる。三期工事は新C滑走路が九六年度末、新B滑走路が九九年度末に供用予定。 ◆テクノスーパーライナー〔1996 年版 交通運輸〕 ガスタービン・エンジンを動力源とし、ジェット水流の力で時速九三キロ以上で航行する超高速貨物船。計画によると、航続距離は九三○キロ、貨物積載量は 約一○○○トン、普通のコンテナ船の二・五倍のスピードをもつため、中国、台湾、韓国とは一日輸送圏になる。そのため海のハイウェイあるいは海の新幹線 とよばれる。運輸省では造船各社と共同で開発を進めており、実験船での最終的な総合実験に入った。九四年七月から全国三三港に寄港し、荷物積み込みなど のデータを集めている。実験船「飛翔(ひしょう)」は全長七○メートル、全幅一八・六メートルで実船の二分の一の大きさ。速力は時速一○○キロで、空気 の圧力で船体を浮かし、水の抵抗を少なくする気圧式複合支持船。今後、航海実験を経て、一九九八年度末の実用化を目指すが、技術面ではメドがたったもの の高い運航費に課題が残されている。ほかに、水中翼船タイプの実験船の「疾風(はやて)」もある。tecno(技術 tecnology の略)、super(超越)と liner(定 期船)を組み合わせた造語。略してTSLともよぶ。 ◆モーダルシフト(modal shift)〔1996 年版 利用交通機関(modal 交通運輸〕 輸送形態)間の転移(Shift)をいう。排出ガスの抑制あるいは運転手不足のため、トラックから鉄道、あるいは船に輸送モードを変え ること。しかし、末端輸送はトラック輸送に依存せざるを得ないので、協同一貫輸送が必要となる。協同一貫輸送の典型的な例としては船とトラックのフェリ ー輸送や鉄道とトラックのピギーバック輸送(piggyback transportation)などの組み合わせ輸送。また、コンテナやパレットを使用したひとまとめ輸送があ る。わが国では、このような協同一貫輸送ができる環境がまだ構築されていない。なかでもトラックから内航海運への切り替えが有効であるといわれているが、 内航海運業の船舶供給量を抑制するためのカルテルである「船舶調整事業(略して船腹カルテル)」がネックとなっている。そこで、運輸省は、コンテナ積載 トラックをそのまま運べる船(RORO船)など、モーダルシフトの受血になる内航船については船腹調整を二年後には廃止する検討をはじめた。なお、船腹 とは船舶の隻数を表す呼び方。 ◆リニア新実験線〔1996 年版 交通運輸〕 リニアモーターカーの実用化のための実験線ルートに指定された山梨県秋山村∼境川村間四二・八キロ区間をいう。したがって、リニア山梨実験線ともいう。 これまで宮崎に実験線ルートがあったが、時速五五○キロ以上の高速走行実験を長区間で実験する必要性がでてきた。そのため高速トンネル突入実験、高速す れ違い試験あるいは耐久試験を行う計画のため、八、九割がトンネル部分となっている。将来中央リニア新幹線に転用される予定。九四年、先行工事区間の朝 日トンネルが貫通、残りの九鬼、初狩など四本のトンネルも九五年に完成し、実験走行は九七年春に先送りされた。 ◆リニアモーターカー(linear motor car)〔1996 年版 交通運輸〕 車輪を用いた鉄道では時速三○○キロが限度といわれ、より高速をねらって研究開発されている次世代の鉄道。リニアモーターとは、通常の回転モーターを線 状(linear)にしたもので、無限大の半径をもつ回転モーターと考えられ、回転部分がないために騒音、振動、故障等がほとんど生じない長所をもつ。これを 推進力としたものが、リニアモーターカーである。 車体の支持は、車輪のかわりにエアークッション、あるいは磁気を用いて浮上するのが一般的で、正式には磁気浮上式リニアモーターカー、あるいはリニアモ ーターカー・マグレブという。磁気浮上方式には磁石の吸引力を利用した吸引式(HSST、トランスピッド)と、反発力を利用した反発式(MLUに代表さ れるJR超伝導方式)がある。 ◆リニアモーターカー・マグレブ〔1996 年版 交通運輸〕 国鉄から(財)鉄道総合研究所が引き継いで開発中の超電導磁石を応用した磁気浮上式リニアモーターカー。JRリニア、単にマグレブともよばれている。目 標は時速五○○キロ。実験車ML500 は、一九七九(昭和五四)年一二月、時速五一七キロを記録(陸上交通の世界最高)。その後ガイドレールを逆T字型か らU字型に改造し、八○年末から乗客スペースのある新型の「MLU001」試験車で浮上実験走行を行い、八三年には時速二○三キロ、八七年には四○○・八 キロの有人浮上走行に成功した。八七年からは、実験用と営業用の中間に当たる四四人乗りの車両MLU002 による実験に移り、九五年一月には有人走行で四 一一キロの有人浮上式鉄道では最高速度を記録した。MLは Magnetic Levitation(磁気浮上)の略でUは軌道がU字型のためにつけられた。 ◆HSST(High Speed Surface Transport)〔1996 年版 交通運輸〕 日本航空が開発中の超電導磁気吸引浮上式リニアモーターカー。英文を訳して高速地表輸送機関ともいう。都市内交通用HSST‐一○○(最高時速一三○キ ロ)、都市圏交通用HSST‐二○○(二三○キロ)、都市間交通用HSST‐三○○(三五○キロ)の三タイプで開発を進めている。低速領域では、一九八五 (昭和六○)年の「つくば科学博」、八六年の「バンクーバー交通博」、八八年の「埼玉博」、さらに八九年の「横浜博」でそれぞれ成功を収めた。そして、名 鉄の築港支線(大江∼東名古屋港)に分岐線(八○メートル)をもつ実験線(約一・五キロ)を建設し、実用化に向けての実験も最終段階を迎えている。また、 実用路線として、運行休止して四半世紀になるモノレール「ドリーム線(延長五・三キロ)」敷地を活用したJR大船駅と遊園地「横浜ドリームランド」間に 導入が決った。総投資額は約三○○億円、九七年着工、九九年開業予定。 ◆アトラス計画(ATLAS)〔1996 年版 交通運輸〕 次世代高速新幹線の開発計画。鉄道総合技術研究所が最高時速四○○キロで営業ができる新幹線システムを、一九九二(平成四)年度から五年後をメドに開発 する。新型車両の開発のみならず騒音の発生を防止する軌道構造や架線など列車の運行システム全体を開発する予定。なお、このプロジェクトの名称アトラス は、Advanced Technology for Low-noise and Atractive Shinkansen の略。 ◆整備新幹線〔1996 年版 交通運輸〕 一九七三(昭和四八)年にできた全国新幹線鉄道整備法に基づいて建設される路線のうち次期建設候補をいう。国鉄の経営危機を理由に七七年から工事を凍結 していたが、八七年に凍結解除。この時、区間ごとに優先順位を決め、青森∼札幌、盛岡∼青森、高崎∼富山∼大阪、福岡∼長崎、福岡∼鹿児島を新幹線整備 五線とよんでいた。並行在来線問題、財源の問題などで着工が遅れていたが、九一(平成三)年の予算で当面の合意がなされた。その内容は、高崎∼長野、石 動(富山)∼金沢、糸魚川∼魚津、盛岡∼青森、八代∼西鹿児島の三線五区間が九二年度から本格着工。これに加え、北海道、九州・長崎ルートなどを含む全 五線の東海道型フル規格開業を目指すことは確認されているが、財源確保策を折り込んだ建設計画は九六年度中に策定すると先送りされている。 ◆常磐新線法案〔1996 年版 交通運輸〕 正式名称は「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法案」。この法案が、常磐新線(第二常磐ともいう)を念頭においてで きているための通称名。大都市地域の鉄道建設は地価高騰で建設しにくい。そこで、土地所有者が土地を持ち寄って住宅団地などを開発する土地区画整理事業 を適用し、鉄道や駅舎用地を道路と同じように優先的に安い価格で提供してもらう。鉄道や駅ができれば土地の値段も上がり、土地所有者の利益にもなる。地 方自治体も固定資産税などが増加となるので、助成などを行っても見合うという図式。なお、現在の私鉄の新線建設に対する国の補助金はP線方式、この常磐 新線への補助は、スーパーP線方式とよばれている。なお、P線のPは private。常盤新線は、東京・秋葉原から茨城・つくば市までの五八・三キロ、一九駅。 総事業費八○○○億。二○○○年の開業を目指し、九四年一○月に起工式が行われた。 ◆メガフロート(mega-float)〔1996 年版 交通運輸〕 数キロメートルの規模、耐用年数一○○年の超大型浮体式構造物。海洋空間の有効利用のためにこれまで埋立て方式や桟橋方式で対応してきた。しかし、海流 変更や海水汚濁の問題など環境時代にふさわしくないことからこの方式が検討されている。実現が可能になれば陸海空の融合が図れる総合物流基地や二四時間 空港としての利用が予定される。関西国際空港の拡張工事には浮体式滑走路が構想として上っており、試算では埋め立て方式に比べて約二割安くなっている。 なお、メガフロートの研究開発は九五年度から始まる。メガ(mega)とは「大」、フロート(float)とは「浮き袋」の意。 ◆コンテナバース〔1996 年版 交通運輸〕 港内において荷役などを行うため、船舶を停泊・けい留する所定の陸域場所の総称をバース(berth、船席)という。コンテナバースは、コンテナ専用のバー スのこと。コンテナ船が大型化してきている今日、バース長(船舶の長さに一五∼二五メートルの余裕長を加えた長さ)とバース水深(海底面と最低潮位時の 水準面との間の深さ)が問題となる。オーバーパナマックス型といわれる大型コンテナ船は船長三○○メートル余、水深一五メートルが必要。また、アジアで の拠点港になるためには、このクラスのバースが必要となる。この規格が適用できるバースは、現在香港に一、シンガポールに五あるのみ。二○○○年の供用 を目指し、東京港一、横浜港二、神戸港二が計画されているが、その時点で香港、シンガポールは各々一六のコンテナバースを保有する見込み。 ◆内貿ユニットロードターミナル〔1996 年版 交通運輸〕 海陸一貫輸送による物流の効率化を推進するために、貨物の積みおろしから保管まで連続的・一体的に行うことができるフェリー、内航コンテナ船など船舶の 基地。地球環境対策などでモーダルシフトが求められているが、トラックの持つ戸口までの輸送機能を欠くことができない。そこで、トラックとの良好な関係 が求められており、そのドッキング施設として期待される。また、このターミナルを生かすために市街地までのアクセスを確保する整備を行っている。昨年三 月まで一九港でターミナル整備を、一七港で幹線臨港道路の整備を行っている。 ◆エコポート〔1996 年版 交通運輸〕 生物、生態系に配慮し、自然環境と共生した、アメニティ豊かな、環境への負荷の少ない総合的かつ計画的取組みを施し、将来世代への豊かな港湾環境の継承 を目指す港湾。環境共生港湾ともいう。九二年一二月に設置された「港湾・海洋環境有識者懇談会」の提言と九三年一一月に制定された環境基本法の理念を踏 まえて九四年三月に策定された新たな港湾環境政策。港湾局長がモデル港(地区)を指定し、モデル事業の認定を行った上で、港湾環境インフラの総合的な整 備を重点的、先行的に行う事業。 ▲道路関係社会資本整備〔1996 年版 交通運輸〕 運輸関係の社会資本整備に対し、道路関係の社会資本整備は第二次道路整備五カ年計画に沿って行われる。その目玉となるIHVと交通需要マネジメントは別 項にまとめた。ここでは、第二東名、名神、東京湾横断道、道の駅といった次なるレベルの道路づくりが中心である。 ◆第一一次道路整備五カ年計画〔1996 年版 交通運輸〕 揮発油税を特定財源とする道路整備の計画で、五カ年を一区切りとする整備プログラム。一九五四(昭和二九)年に第一次が開始し、九三年から第一一次がス タートした。建設相の諮問機関である道路審議会の提言を受けて建設省がまとめた。政策目標は、(1)豊かな生活の実現、(2)活力ある地域づくり、(3) 人や自然に優しい環境の形成、をあげている。モーダルミックス計画、マイカーの相乗りや時差出勤、地方主要都市と周辺地域一体の「強い地方圏」を育成で きるよう地域高規格道路網の整備等、これまでにない道路を中心とした幅の広い構想が考えられている。 ◆第二東名/第二名神〔1996 年版 交通運輸〕 東京∼大阪間の高速道路の交通需要の増大への対応と、二一世紀の高速交通体系の基幹路線としての位置づけによって建設される第二東海自動車道(第二東名) と近畿自動車道(第二名神)の通称。横浜市∼愛知県東海市(二九○キロ)、愛知県飛鳥村∼神戸市(一六五キロ)の二路線に、すでに着工中の伊勢湾岸道路、 未定の東京∼横浜間で構成される。両路線とも全線六車線(片側三車線)、設計速度一四○キロ。その他主要な道路構造は、一車線三・七五メートル(現行は 三・五メートル)、道路幅三五∼三六メートル(現行は三○メートル)、勾配一○○○分の二(現行は一○○○分の四)に格上げされる。開通は二○○○年の見 込み。 ◆高規格道路〔1996 年版 交通運輸〕 高速で走れるような幾何線形、アクセスコントロール(access control 道路への出入をインターチェンジ、あるいは信号交差点に制限すること)、照明整備な どの基準をもった道路のこと。高速道路とよばれている国土開発幹線自動車道はもちろん高規格道路ではあるが、次のような定義をして高速道路と区別してい る。すなわち、一般道路よりは高い基準だが従来の高速道路と比べて車線数の減少や制限速度のダウンした自動車専用道のこと。高速道路網の計画は当初一万 四○○○キロであったが、採算の見込みがたたないなど大幅に計画が遅れている。そのため、四全総の全国一日行動圏構想をバックアップするためには国土開 発幹線自動車道を補完する新たな高速道路、ここでいう高規格道路が必要となり約二三○○キロメートルが計画されている。一九九五(平成七)年三月現在、 国土開発幹線自動車道を除く供用区間は本四架線(一○八キロ)を含めて五七二キロ。 ◆東京湾横断道〔1996 年版 交通運輸〕 東京湾をはさんで東京都に隣接する神奈川県川崎市と千葉県木更津市の間一五・一キロを結ぶ一般有料道路。川崎市川崎区浮島町から九・一キロは直径一三・ 九メートルの二本の海底トンネルを掘り、木更津中島から四・四キロは長大橋を架ける。このトンネルと橋を結ぶため六・五ヘクタールの人工島を、さらにト ンネル区間の中央部にも換気施設用の小さな人工島をつくる。当面は片側二車線、将来はさらに一本のトンネルを掘り、計六車線にする計画。設計速度は八○ キロ。したがってこの道路を利用すると、横浜∼木更津間が五○分(現在は陸路で三時間一七分)、東京∼木更津間が五三分(同二時間二五分)になる。一九 八九(平成一)年五月に起工式が行われ、開通は一年遅れて九七年春。総工費は約一兆四三八四億円。日本道路公団と県、民間企業などが出資している第三セ クターの「東京湾横断道路株式会社」が建設を担当。 ◆外環道〔1996 年版 交通運輸〕 東京外郭環状道路の略称。通称は外環。東京都大田区から市川市に至る八五キロの環状道路。併設の国道二九八号や植樹帯などを含めた幅員は六○メートル。 このルートは、一都三県の住宅密集地を通るので環境問題を理由に約二○年間住民の反対運動が続いている。しかし、東京にとっては都心を通過する車を減ら す重要な道路であり、外周県にとっては主要な高速道路へのアクセスルートである。したがって、一方ではその建設が急がれていた。外環の構造は標準区間が 六二メートルの幅員の四○メートル分を、植樹帯、地域生活道路、歩道にあてている。一九九二(平成二)年に和光市から三郷市までの二六・七キロメートル が開通。九四年三月には常磐自動車道と関越自動車道がつながった。難航している市川や練馬地区でも立体道路制度の導入が可能となり解決の方向がみえてき た。 ◆圏央道〔1996 年版 交通運輸〕 首都圏中央連絡道路の略称。都心から放射状に延びている東名、中央、関越、東北、常磐、東関東の各高速道路を四、五○キロで、また東京湾岸、東京湾横断 道と結ぶ環状高速道路。東京圏の多極分散型への改造と、交通混雑緩和のための国土庁提唱による基幹プロジェクト。路線は一都四県にまたがり、総延長二七 ○キロ。一期工事分は、関越から中央までの埼玉県部分五○キロ。そのうち埼玉県入間市から鶴ケ島町の関越自動車道までの約一九・八キロは八九年着工、九 八年完成予定。全線にわたる供用開始は二○一○年から一五年の間、総事業費は三兆円と想定されている。 ◆明石大橋〔1996 年版 交通運輸〕 本州四国連絡道路神戸・鳴門ルートの北半分に当たる明石海峡を渡す長大橋。正式には明石海峡大橋。全長三九一○メートル、ケーブルが支える二本の主塔の 間隔が一九九○メートルで、完成すれば世界最長のつり橋となる。一九八七(昭和六二)年、建設が本格的にスタートした。完成予定は九八年で、二一世紀の 幕開けに間に合う。まさに二一世紀への夢のかけ橋である。 ◆本四架橋〔1996 年版 交通運輸〕 本州と四国を橋で結ぶ神戸∼鳴門、児島∼坂出、尾道∼今治の三ルートの総称。石油ショック後三ルートの同時着工を凍結していたが、一九七五(昭和五○) 年から再開。このうち大三島橋(三二八メートル)が七九年五月、因島大橋(一三三九メートル)が八三年一二月、大鳴門橋(一七二九メートル)が八五年六 月、伯方(はかた)∼大島大橋(伯方橋部分三三四メートル)が八八年一月に開通した。そして、八八年四月に瀬戸大橋が完成し、児島∼坂出間(道路部三七・ 三キロ、鉄道部三二・四キロ)が開通、本州と四国が陸続きとなった。さらに、明石海峡大橋と来島大橋(第一大橋九九メートル、第二大橋一四九○メートル、 第三大橋一六五○メートル)が着工の運びとなり、完成に一歩近づいた。 ◆道の駅〔1996 年版 交通運輸〕 パーキング・オアシス(parking oasis 造語)ともいう。一般道路に設けられた高速道路のパーキングエリアのような休憩施設。駐車場、休憩所、トイレを設 置するだけでなく、近所で採れた野菜やお惣菜、地域の特産品の販売所をつくり、さらに周辺の市町村情報や観光情報の提供を行う。交通の中心となった道路 に地域情報の基地を設けるとともに地域の人と運転者の交流なども図れれば、ムラおこしにつながるとして岐阜県の市町村で始まった。全国的に設置熱を帯び てきたこともあって建設省も本格的に取り組むことになった。 ◆エコロード〔1996 年版 交通運輸〕 生態系に配慮し、環境に対する影響を極力減らすべく設計された道路。道路建設によって、いわゆる「けものみち」が遮断され、生息地帯が分断されたり、小 動物が側溝に落ちて死亡するなど自然環境への影響が指摘された。そのため、動物たちが通るために道路下にトンネルや切り土部分でオーバーブリッジを設け たりしてけものみちをつくり、道路建設と生態系との調和を図ることを目的としている。大分県高崎山にサル専用の橋を架けたが、「ただいまの利用○匹」と 話題になっている。生態学(ecology)のエコと道路(road)のロードを組み合わせた造語。 ▲ITS〔1996 年版 交通運輸〕 わが国における道路交通インテリジェント化(ITS)の歴史は意外に古く、一九七三年に通産省工業技術院がCACS(自動車総合管制システム、 Comprehensive Automobile Control System)のプロジェクトを実施した。その後、警察庁指導のAMTICS等世界をリードしていた感があったが、最近は プロメテウスやARTSなどの影響が強く、ITSの変遷をみるに逆輸入の様相である。狭い国土の中で多くの車両がより迅速に動くための支援システムは欧 米よりはより必要なシステムである。ITSがより高度なシステムに日本で成長することが期待されている。 ◆ITS(Intelligent Transportation Systems)〔1996 年版 交通運輸〕 情報通信技術を駆使して事故も渋滞もない道路をつくることを目指した次世代知的道路情報システム。インテリジェント交通システムとも呼ばれる。これまで アメリカでIVHS(Intelligent Vehile Highway Systems)という名称で、車と道路をインテリジェント化し、安全で円滑快適な道路交通環境を実現しよう と検討されてきた。しかし、IVHSはもはや自動車と道路に限らず、二一世紀の交通体系を支える技術として捉えられ始めたことから、九四年九月にITS と名称を発展的に変更した。同様の概念の開発を日本ではARTS、欧州ではドライブ、プロメテウスと呼んでいるが、ITSの名称で国際会議なども開かれ ており、ITSが一般的名称になる雰囲気にある。 ◆プロメテウス(PROMETHEUS)計画〔1996 年版 交通運輸〕 Programme for a European Traffic with Highest Efficiency and Unprecedented Safey の略称。一九八五年七月の欧州閣僚会議で合意された欧州先端技術共 同研究計画「ユーレカ(EURECA)計画(European Research Coordination Action)」の一環として、事故防止、燃費向上、輸送率向上、運転者の負担軽 減、環境汚染の軽減を目的とした自動車中心のインフラ開発計画。ベンツ、ボルボ、BMWなど自動車メーカー一四社を主体に、推進されている。 ◆ドライブ(DRIVE)計画〔1996 年版 交通運輸〕 Dedicated Road Infrastructure for Vehicle Safety in Europe の略。新たな道路交通システムの研究が目的。EU内の事故、渋滞、排気ガス等の自動車交通問 題と道路と自動車の情報化技術、レーダーシステムの開発のほか、経路誘導システムの開発などがあげられている。 ◆ARTS計画〔1996 年版 交通運輸〕 Advanced Road Transportation System(次世代道路交通システム)の略称。アメリカのITS計画、ヨーロッパのプロメテウス計画、ドライブ計画と同様に、 わが国における道路と車のリアルタイムの双方向通信等により、安全で、輸送効率が高く、快適な道路交通を道路と車が一体化して実現をはかることを目的と して計画が提案されている。将来的には、自動運転システム、最適経路案内システム、および高度運行システムをめざしている。このARTS計画を支える技 術としてVICS、AHSS、ATESがある。 ◆道路交通情報通信システム〔1996 年版 交通運輸〕 VICSともいう。VICSは Vehicle Information Communication Systems の略称。極超短波やマイクロ波などの電波を利用し、走行中の運転席わきの画 面で前方の道路形態や混雑具合などが確認できる一般自動車用道路情報システムで、建設省、警察庁、郵政省の三省庁が協力して進めている。車載ディスプレ ー装置からリアルタイムに道路交通情報を提供するなど、道路交通状況、最適経路誘導、目的地や駐車場などの道路案内、走行中の車両位置や路線名の確認と いった情報を路上に設置したビーコン等から送信、道路交通の高速情報化を促進させる計画である。かつて、建設省がRACS計画(Road Automobile Communication System)を、警察庁がAMTICS計画(アムティックス Advanced Mobile Traffic Information & Communication System)を独自に 進めてきたが、これらがVICS計画として統合され、一九九一(平成三)年一○月には、VICS推進協議会(民間の任意団体)も組織された。建設省が主 要道路に発進施設を設置したことを機に、日産自動車では、世界初のVICS受信装置の販売を九一年から始めた。ただ価格が約一○万円もするためその普及 を疑問視する向きもある。 ◆道路安全システム〔1996 年版 交通運輸〕 AHSS(Advanced Highway Safety System)ともいう。路外逸脱防止システム、衝突防止システム、路面状況警戒システム、道路構造警戒システム、事故 通報システムなどの総称。システムの最終目標は、自動運転システムであるが、例えば衝突回避機能は追突(車間距離)だけでなく、側面や出会い頭などの衝 突まで含めると、まだその道は遠い。しかし、人系、車系、道系の三者がよりよい関係になるためには車のインテリジェント化は必要である。そのため、機能 のステップアップで対応していくことが重要で、現段階はワーニング(ブザーなどによる警告)、続いてワーニングと自動制御(ブレーキの場合)およびワー ニングと自動操舵(ハンドルの場合)、そして最後は自動運転になる。 ◆輸送効率化システム〔1996 年版 交通運輸〕 ATES(Advanced Transport Efficiency System)ともいう。高度運行を目指したシステムで高密運行システム、トラック・バス運行管理システム、料金自 動徴収システムの総称。車両間隔を小さくして、かつ安全な運行を無人化によって実現を目指す高密度運行システム、車両ID技術などを用いて道路上を走る 個別の車両を把握することによって最適経路で管理できるトラック・バス運行管理システム、高速道路の料金所の通過などをキャッシュレスでできる料金自動 徴収システムなどの開発が進んでいる。 ◆路車間情報システム〔1996 年版 交通運輸〕 道路沿いに、一定間隔に設置された情報通信基地ビーコン(beacon)の電波を自動車のマイコンがキャッチ、車の現在位置や経路誘導(ナビゲーション navigation)を画面表示して、目的地までの最短経路情報を提供するなどのシステム。ほかに渋滞、工事、給油施設、サービスエリアの内容、駐車情報などを 知る交通情報およびデータサービス、基地との個別通信機能の設置などの機能拡大を目指している。これらの実用化実験を東京都心部で繰り返している。 ◆アティス/ATIS(交通情報サービス)(Advanced Traffic Information Service)〔1996 年版 交通運輸〕 警視庁の交通情報をタクシーや運送会社に、リアルタイムで有料提供するシステム名。第三セクター方式で会社を設立、警視庁交通管制システムと連動して、 事故発生地点や通行規制区間などの交通情報をパソコン通信などで提供するシステムで、全国初の試み。この情報収集によって渋滞地域を避けた効率的な配車、 運行計画がつくられることが期待されている。将来的には一般家庭や自動車などへの提供の拡大が見込まれている。 ◆オムニトラックス〔1996 年版 交通運輸〕 通信衛星による輸送情報サービスのシステム。走行中の車両と本部を衛星で結び、双方向の通信ができる。したがって、走行中のトラックにターミナルへの立 ち寄りなどの指示が自由にでき、積載率の向上のほか緊急出荷された荷物などこれまで臨時便で対応してきた分の節約が可能と期待されており、トラック輸送 の品質保証には欠かせないシステムとなりつつある。オムニ(omni)とは「全」とか「総」の意で、乗合バス(omnibus)のトラック版。 ◆UTMS(Universal Traffic Management Systems)〔1996 年版 交通運輸〕 新交通管理システムと呼ぶ。光センサーの双方向通信機能により、交通情報をきめ細かく収集し、かつ提供することにより、交通流を総合的に管理し、 「安全、 快適にして環境に優しい車社会」を実現するためのシステム。警察庁指導の下、UTMS推進協議会が九三年から研究開発を始め、九四年七月に横浜でデモ実 験を行った。今後はVICSに併せて実用化することが検討されている。 ◆SSVS(Super Smart Vehicle Systems)〔1996 年版 交通運輸〕 スーパースマートビークルシステムと和製英語でカナガキを使っているが、長いので通常SSVSの略称が用いられる。電子技術情報処理技術、通信技術等を 駆使して、危険検知・回避技術、運転支援技術、交通輸送制御技術等を総合的に発展させ、実効道路容量の増大、高度な輸送サービスと安全要求への対応、高 齢化社会のイメージオペレーション化等を同時に目指すシステム。クルマ社会の健全化、高度化を目的に、具体的には、 (1)車間通信を利用して、情報交換、 意思疎通を図る協調走行システム、(2)超小型車システム、(3)緊急回避等積極的運転システム、(4)交差点の通信設備の充電とそれから情報を入手する 高知能交差点システム、(5)インテリジェント物流情報システム等の提案を行い、二○∼三○年後を目途にこれらのシステム開発を進めている。九○年から 通産省主導で、(財)自動車走行電子技術協会で検討している。 ◆VERTIS(Vehicle Road and Traffic Intelligence Society)〔1996 年版 交通運輸〕 道路・交通・車両インテリジェント化推進協議会の略称。道路・交通・車両のインテリジェント化に関連して、大学、研究機関、企業等、推進省庁の違いから 類似の課題を競争して、独自に研究しているきらいがあった。しかし、技術的にはある一定レベルまで達したので、これからは協力して行こうということで、 警察庁、通産省、運輸省、郵政省および建設省の五省庁が協力できる仕組みとして九四年に設けたものである。 ▲交通需要マネジメント〔1996 年版 交通運輸〕 渋滞、省エネルギー、環境のいずれの問題においても顕在化需要に対応しての対策は困難になってきた。そこで、便利で、自由性の大きい自動車交通を永続的 に利用していくためには、必ずしも必要としない交通需要を潜在化させていくことが望まれている。欧米では、交通計画や都市計画のプログラムの中に積極的 に採り入れられるようになったが、わが国ではこのような多省庁にわたる対策はどうも苦手のようで、シンポジウムのテーマ止まりの所が気になる。 ◆交通需要マネジメント(transportation demand management)〔1996 年版 交通運輸〕 これまで道路交通円滑化の施策のために、交通容量の拡大を図ってきた。しかし、増加し続ける需要に対応できなくなってきたので、交通需要を抑制する施策 が必要となった。しかし、ただ単に抑制するだけでは国民生活に支障をきたすので、車の利用の仕方や生活の工夫によって自動車交通量を削減する方法で道路 交通を管理していくことを交通需要マネジメントという。具体的には相乗り制度や効率的な物流システムを構築することで交通量を削減したり、時差通勤によ って交通需要を平準化することをいう。アメリカではTDMの略称でよばれている。 ◆バンプール〔1996 年版 交通運輸〕 会社が購入したバンの運転者を社員から公募して同じ地域に住む通勤者を相乗りさせるシステム。運転者は副収入を得、同乗者は通勤費の節約ができ、会社は 自動車交通量を削減することで社会貢献ができる。アメリカの3Mではじめたのが最初。第二次オイルショック後、カーター政権時代の節エネの交通対策の一 つとしてとり上げられ、普及した。バン(van)の本来の意は有蓋貨物運搬車で、これを数人から二○人程度の旅客用に改造した。マイカーに相乗りするもの をカープールという。自治体等で義務化され、HOVレーンの運用やカープール車等の優先駐車場の設置など都市交通政策の後押しがあって、車社会の通勤交 通として定着してきた。 ◆HOVレーン〔1996 年版 交通運輸〕 多人数乗車車両レーン。複数、できるだけ多人数が乗り込んだ車をHOV(High Occupancy Vehicle)という。このHOVだけが走れるレーンのこと。通勤時 の自動車交通量を削減するために相乗り車を奨励し、その後押しとしての交通政策の一つ。車線数の多いアメリカの大都市での交通政策ならではの策ともいえ る。 ◆時差出勤〔1996 年版 交通運輸〕 地域あるいは会社内で出勤時間を転移させて通勤ピークを崩そうとする方法。JRは国鉄時代から毎年一一月から二月までの冬期の着ぶくれラッシュのために、 始業時間を三○分程度前後させることを、都心部の企業にお願いしてきた。これを制度化できるかについて運輸・労働両省などで設けている「快適通勤推進協 議会」で検討している。具体策としては、一○∼三○%割引する時差定期券制度を検討している。フレックス・タイム制の導入も同様の効果がある。 ◆フレックス週休二日制〔1996 年版 交通運輸〕 週休二日のうち、一日を土曜日に特定せず他の曜日に会社内で振り分け、通勤交通需要を分散させようとするシステム。国際交通安全学会の提言によるもので、 平均的に休日分散ができれば、通勤交通需要は、一六・九%減少し、ゴルフなどの施設も安価に有効利用できるとしている。東京都心では、完全週休二日制(全 ての土日休み)が八九%まで進んでおり、土曜日のラッシュ交通需要は激減している。交通施設の有効利用の面からも有効なシステムである。官公庁および全 ての企業の足並みが揃えば実施可能性は高い。 ◆地下物流システム〔1996 年版 交通運輸〕 都市の地下空間を利用して都市内貨物輸送を行うシステム。都市内の小口貨物の輸送をトラックから代替することを目的としており、労働力、環境、道路混雑 等の面で、その効果が期待されている。建設省の構想では、地下専用レーンでは電気モーターで誘導、各端末からはトラック自体のエンジンで移動できる「デ ュアル・モード・トラック」方式による方法を検討している。しかし、都心部のターミナル建設には検討しなければならない課題も多い。 ◆ロード・プライシング(road pricing)〔1996 年版 交通運輸〕 混雑する道路施設をさらに効率的に利用するという観点から混雑税(congestion tax)あるいは混雑料金(congestion charges)を課す道路料金制度。この考え 方を世に広めたのは一九六四(昭和三九)年のスミード・レポート(イギリス)。最近では、混雑対策だけでなく、自動車公害の発生源対策のひとつとして自 動車使用状況に応じて発生する社会的限界費用に対応した料金を課し、自動車利用者の交通行動を社会的に望ましい方向に誘導することもできるとして再び注 目されはじめた。これまでは七五年にシンガポールで、朝のピーク時間帯に都心部へ流入する車に特別な乗り入れ許可証を購入させた地域ライセンス制(area licensing scheme)を実施している。現在はプリペイド式のERP(電子式道路料金制 Electronic Road Pricing)システム導入の検討をしている。また、オ スロ(九○年導入)などノルウェーの三都市ではトールリング(Toll Ring)と呼ばれる自動車から都心流入料金を徴収し、交通施設整備の財源とするシステム を導入している。 ◆パーク・アンド・バスライド・システム〔1996 年版 交通運輸〕 インターチェンジ周辺に駐車場を設け、そこから高速バスに乗り換えて目的地へ向かう方式。アメリカではオイルショック以来、一人乗り乗用車の削減を目指 し、HOV(High Occupancy Vehicle 高密度乗車車両)対策を行っている。特に、郊外のショッピングセンターの駐車場やインターチェンジの未利用地を使 って乗用車による集散とバスの大量性を組み合わせている。鉄道輸送の少ないアメリカでは、これもパーク・アンド・ライドとよんでいるが、わが国では鉄道 利用のパーク・アンド・ライドと区別して用いている。運輸省が実現を目指して東関東自動車道を利用して四街道市をモデルに検討を進めている。混雑の著し い鉄道を補完するシステムとして、全員がすわっていける高速バス通勤の導入は注目されている。問題は、都心部近くの道路混雑への対応と帰宅時間が不規則 なわが国の通勤事情に適するかという点である。前者は都心周辺の最寄駅でバスから鉄道にさらに乗り継ぐトリプル・モード・システム、後者は帰りの鉄道利 用割引制度など弾力的な都市交通の運用が図れれば、実現可能であり、その整備が急がれる。 ◆コンソリデーション・システム(consolidation system)〔1996 年版 交通運輸〕 都市内でランダムに発生している雑貨の小口・短距離の配送を一定のルールに基づいて「結束化」「統合化」し、混載化して都市交通の緩和に寄与しようとい う地域共同集配送システム。わが国では、通産省が一九七三(昭和四八)年度に研究発表したが、集配は営業を兼務、コンソリデーションのためのデポ(depot 荷物集荷所)が必要などの理由で、実現へ向けての研究さえ行われなかった。しかし、昨今の交通事情、運転手不足などから再開発地域などへの導入に検討の 価値があるとして、にわかに浮上してきている。 ▲交通安全の技術〔1996 年版 交通運輸〕 利用者が交通機関に要求する要素の中で、「安全」は絶対的かつ前提的である。実際に安全を確保するには、技術だけでなく、交通機関を使う人、使う環境、 および保守点検など総合システムとして機能させなければならない。しかし、安全の負担の大部分は技術に依存している。それは莫大な費用を伴っても要求さ れ続ける。 ◆エアバッグ(air bag)〔1996 年版 交通運輸〕 衝突時、前方からの強い衝撃をセンサー装置が感知してバッグ内に高圧ガスを自動的に注入、膨らんだバッグが人の顔面を自動的に受け止める装置のこと。交 通事故対策には決め手がなく、衝突事故からドライバーや同乗者を守るこの装置は、これまで上級車のオプションによる装備が中心であったが、最近は大衆車 にも標準装備される気運が生れてきた。また、歩行者と衝突した場合、頭部をフロントフードに打ち付けるのを防ぐためのエアバッグシステムも開発されてい る。なお、アメリカではエアバッグと自動シートベルトなど自動防御装置の装備が乗用車、軽トラック、ミニバンなどの九○年型車から義務づけられている。 ◆アンチロックブレーキシステム(ABS)(Anti-Lock Brake System)〔1996 年版 交通運輸〕 急制動時または滑りやすい路面における制動時に発生する車輪のロック現象(車輪の回転が止まり、自動車が路面を滑走する現象)を防止する装置。車輪の回 転を検出しながらコンピュータによってブレーキの効きを自動制御してロックを防止する結果、制動距離の短縮、姿勢安定性の確保および操縦性が向上する。 すでに一部に実現されているが、値段的にも性能的にも一般に普及するにはもう数年を必要としている。トヨタ、日産とも二○○○年を目標に標準装備化する 方針。 ◆ASV/先進安全自動車(Advanced Safety Vehicle)〔1996 年版 交通運輸〕 エレクトロニクス技術の応用により自動車を知能化し、ドライバーが運転する車としての安全性を格段に高め、事故予防、被害軽減に役立たせる目的で開発さ れる自動車。九一年から運輸省に設置されたASV推進検討会で研究開発が進められている。ASVが目指す安全対策は、予防安全対策、事故回避対策、衝突 時の被害軽減対策、衝突後の災害拡大対策である。 ◆CTC(列車集中制御装置)(Centralized Train Control)〔1996 年版 交通運輸〕 各駅での列車の発着を指示する信号取扱装置、ポイントの切り替え装置、列車位置の表示装置などをキーステーションの指令室にまとめ、線区の列車の位置と 進路の状態を監視しながら列車の運行を一括管理制御する装置。CTCと組み合わせて列車の進路制御の自動化をより積極的に進めたものをPRC (Programmed Route Control)という。類似のシステムとして、都営地下鉄のITC(Integrated Traffic Control)、新幹線のCOMTRAC(コムトラック computer aided traffic control system)などがある。 ◆列車間隔制御〔1996 年版 交通運輸〕 列車運転を安全に保つために、列車間隔を自動的に制御すること。安全運転は、信号、軌道、車両の設備と、運転士の運転環境などが総合的にかかわってくる。 最終的には運転士の判断にゆだねられるが、列車の運転が高速度、高密度になってくると運転士の負担が増加してくる。そのために列車間隔を自動的に制御す る次の三つの装置がある。(1)自動列車停止装置(ATS Automatic Train Stop)列車が停止信号機に接近したとき、地上からの制御信号により、運転室 内に警報で運転士に注意をうながし、自動的にブレーキが動作して列車を停止信号機の手前に停止させる装置、(2)自動列車制御装置(ATC Automatic Train Control)信号が示す制限速度を超えたら、自動的にブレーキを動作して列車速度を下げ、制限速度以下になったらブレーキを緩める装置、(3)自動列 車運転装置(ATO Automatic Train Operation)多段階の速度信号および速度条件に従って、列車を自動的に加減速制御する装置。 ◆ATS‐P〔1996 年版 交通運輸〕 従来のATSは、停止を指示している信号機に接近すると警報を発し、必要なブレーキ操作が行われないと非常ブレーキがかかる。しかし、運転士が信号を確 認してATSを解除した後は防護機能がなくなるという弱点を持ったシステム。そこで、運転士へのバックアップとしての機能のため運転士自身の判断が必要 となる。それをさらに抜本的に低減しようとしたシステム。すなわち、地上より受信した先行列車の速度と距離情報の出力や速度パターンに応じたブレーキ動 作を行うことができる。なお、Pは車上パターンの意。 ◆MLS方式(Microwave Landing System)〔1996 年版 交通運輸〕 マイクロ波着陸装置のこと。進入経路を自由に設定できるマイクロ波を用いた、航空機の進入から着陸までを誘導する装置。これまでは、一本の直線ルートし か使えない計器着陸装置(ILS方式 Instrument Landing System)誘導方式を用いていた。これがMLS方式に変わると、誘導ルートは上下、左右方向に 帯のように広げた誘導電波帯の中から選べる。したがって、この方式を用いると、住宅密集地上空を避けた着陸による騒音の軽減、着陸の能率アップ、電波の 乱れの少ないルートへの誘導、積雪の影響の解消などの効果が期待できる。 ◆FMS‐ACARS〔1996 年版 交通運輸〕 第四世代機といわれているMD‐11 に搭載されている安全な航空交通を目指した空地データ通信のナビゲーションシステム。B767 はFMS、B747‐400 は ACRSが就航時にそれぞれ実用化されている。FMS(Flight Management System)は、空港・滑走路、ウェイポイント、エアポイントなどの情報を有し、 これらを基に離陸速度や最適巡航速度などの自動計算ができるというもので、離陸から着陸までの全飛行領域にわたる操縦・推力調整などの自動化システム。 一方、ACARS(Aircraft Communications & Addressing Reporting System エーカーズ)は空地データ通信の機上側の装置。ACARSはデジタル データをVHF、あるいは衛星通信システムで送受信することができる。 この搭載で、気象データやノータムなど安全運航に必要な情報を送信することができ、機上からはパイロットによる送信のほかに、ACARSに接続された航 空機内の様々なセンサーからの情報によって、現在位置をはじめ刻々と変化する飛行中の航空機の状態を自動的に地上に知らせることができる。 ◆ACAS(航空機衝突防止装置)(Airborne Collision Avoidance System)〔1996 年版 交通運輸〕 航空機に搭載された装置の相互間で電波信号をやりとりすることにより、衝突の危険の生ずる可能性のある航空機の接近を検知し、その航空機の位置と安全な 回避方向をパイロットに知らせるシステム。 ◆ウインド・シアー(wind shear)〔1996 年版 交通運輸〕 短い距離で起こる風向、風速(いずれか一方あるいは両方)の突然の変化をいう。温暖な空気の流れが、冷い凪(な)いだ空気の上を通過して行くときには、 二つの空気の境界に典型的なシアー・ゾーンが形成されるが、詳しいメカニズムはわかっていない。日本エアシステムが旅客機に検知システムを搭載して実測 した結果では、事故例の多いアメリカより国内の発生率が三○倍も高いことがわかった。ウインド・シアー警報システムは機体に取り付けたが速度センサーで 周囲の風の強さを探知、急変動状態が二秒程度続くと、ウインド・シアーが発生したとしてパイロットに回避指示などを出す。一九九一年からアメリカ国籍の 飛行機は義務付けられているが、日本ではその規定はないが、同システムの導入を航空各社が自主的に進めている。空港側の対策として、風に流される雨粒や ほこりに電波を照射、反射電波を受信して、風の状態を調べるドップラーレーダー(doppler rader)の利用が有望視されている。 ◆コンプレッサ・ストール(compressor stall)〔1996 年版 交通運輸〕 圧縮機失速という。飛行機の主翼の迎え角がある限度を越すと失速をおこし、揚力は激減して抗力が増大するようになるが、これと同様なことが主翼を小型化 したと考えられる圧縮機の極く限られたせまい範囲に発生する場合をいう。一九九四(平成六)年四月に名古屋空港で起きた中華航空機事故で、機首の急激な 上昇が起きたことから、エンジンに流入する空気が不足し、出力低下や異常燃焼などの原因となるコンプレッサ・ストールが発生したのではないかという仮説 の下に原因究明がなされている。 ◆ゴー・アラウンド(go around)〔1996 年版 交通運輸〕 着陸復行という。着陸進入の航空機が、管制塔からの指示、気象不良、進入高度不良等の理由から着陸を断念し、再上昇して着陸をやり直すこと。一九九四(平 成六)年四月の中華航空機事故では、着陸やり直しに使うゴーレバーが入ったためにコースから上方へそれ始め、その直後から、操縦室が自動制御機器の操作 を巡って混乱、最終的には機体がバランスを失って墜落したといわれている。事故機のエアバスA300‐68Rはエンジン推力レバーの内側に二本のゴーレバー があり、着陸態勢時にどちらかを押すと作動し、エンジン推力が自動的に上昇、操縦系統のコンピュータが「着陸やり直しモード」に切り替わる。自動操縦ス イッチがオンになっていると、完全自動で着陸やりなおしに入る。そのため、今回の事故では、機首を下げようとする副操縦士の操作に対し、コンピュータに 制御された水平尾翼は上昇を維持しようと機首を上げ方向で反発したため、パイロットコントロールができなかった。このようにコンピュータ制御が進んだハ イテク機と人間の操作の関係が、事故原因の解明の焦点となる一方、機体の設計思想に論議が及んでいる。 ◆航空交通流管理センター(フロー・コントロール・センター)〔1996 年版 交通運輸〕 全国の航空交通流を一元的に制御するための管理センター。運輸省の計画は、一五分後や三○分後の空港や航空路の交通量を予測し、航空路の迂回や出発機の 地上待機などの指示である。現在の空港の整備が九○年代の中葉にほぼ完了するが、この時の民間航空の定期便の大幅増加に対応するための計画である。 当初は航空交通システムセンターとして、コンピュータを利用した航空業務を進めるためのソフトウェアの開発などを行う「開発評価」と、地震などの大規模 災害や、テロ攻撃などで主要空港や管制施設が破壊された事態に対応する「危機管理」の機能も合わせたセンターにするべく準備が進められている。 ◆GPS(Global Positioning System)〔1996 年版 交通運輸〕 人工衛星の発信した電波を捉え、緯度や経度など位置を検出する全地球航空測位システム。GPSはアメリカが開発したシステムで、ほかにソ連のGLONA SS(グラナス)がある。双方とも地球周回軌道に打ち上げた衛星群のうち、三個の衛星から電波を同時に受信することで二次元の位置が瞬時にわかる。四個 の衛星を使えば、飛行高度を含む三次元の位置も正確に測定できる。目的地まで自動操縦ができる現行のINS(inertial Navigation System 慣性航法装置) に比べ、誤差は最大で一○○分の一から一○○○分の一の高精度。 ◆ASDE(アズデ/空港探知装置)(Airport Surface Detecting equipment)〔1996 年版 交通運輸〕 空港地表面の交通情報を監視するための高解像度のレーダー施設。空港面探知レーダー、あるいは地上監視レーダーとよんでいる。滑走路、誘導路、エプロン がレーダースコープに記入されており、この図上に航空機や車両の動きが映し出される。霧などで視界が悪くなると、空港管制官がASDEを活用して空港内 を移動する航空機や車両に適切な指示を与え、安全を守る。わが国では霧の発生の多い成田と羽田、大阪、名古屋の四空港に設置されている。 ◆GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System)〔1996 年版 交通運輸〕 海上における遭難および安全通信の世界的制度。海上人命安全条約(SOLAS条約)の改正により一九九二(平成四)年二月より導入されることになった。 GMDSSは、衛星通信技術、デジタル通信技術等の最新の通信技術を採用しており、(1)どの海域で遭難しても衛星通信等を用い陸上局や他船と交信がで きる、 (2)沈没時、自動浮揚する発信機により自動的に遭難通報が行われる、 (3)テレックスや無線電信を主体とするためモールス信号の打電といった特殊 技術を必要としない、等の特徴を有している。 ◆ロランC(LORAN C)〔1996 年版 交通運輸〕 複数の発信局から送信される電波の到達時間の差を受信機で測定して位置を知る電波航法援助システム。電波の灯台ともよばれている。電波航法援助システム としては、ほかに日本沿岸用のデッカ(利用船舶数約三○○○隻)やロランA(同約一万六○○○隻)が運用されている。ロランCは、その有効海域が昼間で 約一三○○キロ、夜間で約二六○○キロに及び、位置測定の精度も高い。そのうえ、受信機が安く、使いやすく、ヨットを含めて三万隻が受信機を積み込んで いる。ところが、衛星測位システムを導入したアメリカがロランCの発信局を全廃したため、沖合・遠洋を漁場とするわが国は大・中型漁船などへの影響が大 きいとして独自のロランCチェーンの運用体制を一九九三(平成五)年からスタートさせた。海上保安庁が、十勝太(北海道)、慶佐次(沖縄)、硫黄島および 南鳥島の四局を引き継いだ。ロランとは Long Range Navigation の略。 ▲都市交通問題〔1996 年版 交通運輸〕 ここでは駐車問題と環境問題が主となった。この二つの問題は、自動車交通の抱える主要課題で、便利で手軽なモビリティ手段である自動車を長く確保し続け るためには、真正面から取り組まなければならない。 ◆交通整備公団〔1996 年版 交通運輸〕 船舶整備公団と鉄道整備基金の二法人統合構想の仮称。この二法人は、資金源や援助方法、対象業界が全く異なるため、統合効果が薄いとされている。そこで、 「陸海空でバランスのとれた交通体系整備を目指す」とする観点から運輸省は、さらに離島航路や地方バスへの援助金交付を新たに加えるよう検討中。実現す れば、地方の中小交通機関を総合的に整備できると期待されている。 ◆駐車施設整備基本計画〔1996 年版 交通運輸〕 各市町村が、駐車問題の現況およびそれを踏まえた市町村の駐車対策についての基本方針を定め、駐車施設の整備推進方策を明らかにする計画。バブル時代に 起きた駐車問題は、駐車場不足に原因ありとし、駐車場建設の補助、融資をはじめ国営駐車場が建設できるまでに駐車場整備のための制度は確立した。一方、 都市サイドにおいてはむやみに駐車場建設がなされても困ることから、各市町村の実態と上位計画の将来的推移を念頭に効果的かつ適切に駐車施設の整備を計 画している。今回の諸規則の改正に伴い駐車施設整備計画を定めたのは名古屋市が最初。東京では足立区が一九九二(平成四)年六月に定めたのが最初。 ◆付置義務駐車場〔1996 年版 交通運輸〕 地方公共団体は、三○○○平方メートル以上の建築物を新築、もしくは増築しようとする者に対して駐車場を合わせて設置するよう義務づけることができる。 このような駐車場を付置義務駐車場という。都市部での駐車場不足を解消するため、建設省では「付置義務」を強化する方針を打ち出し、対象としていた付置 義務対象建築物を一○○○∼一五○○平方メートル程度に引き下げる一方、一台当たりの駐車所要面積を二・五メートル 六メートルから二・三メートル 五 メートルに縮小した。しかし、問題は付置義務の対象にならない中小雑居ビルと一世帯六○平方メートル程度の大規模住宅である。前者はいくつかのビルをま とめて共同の駐車場をつくり、所有者から負担金を徴収し、自治体も交えて整備する共同駐車場制度を、後者は世帯数に合わせた駐車台数を義務づけること等 を行政指導している。 ◆車庫法〔1996 年版 交通運輸〕 一九六二(昭和三七)年に制定された自動車の保管場所の確保等に関する法律のこと。自動車の保有にあたって保管場所を確保すること(車庫の確保義務)を 義務づけ、同一場所に一二時間以上駐車することや夜間八時間以上駐車すること(青空駐車)を禁止した。車の保有にあたっては警察による車庫証明を必要と し、これを車庫証明制度という。この制度は、増加する車のねぐら確保の方法として諸外国から評価されているが、折からの駐車場不足と激増する車保有から 諸々の駐車問題を提起してきた。これに対応すべく、警察庁では九一(平成三)年七月から、 (1)車庫の所在地は二キロ以内、 (2)車庫証明を受けた車にス テッカー(保管場所標章)を貼る、(3)軽自動車にも車庫証明制度を導入等の改正車庫法を施行した。軽自動車の車庫確保義務付けは、九六年一月から人口 三○万人以上の市などにも拡大する。 ◆車輪止め〔1996 年版 交通運輸〕 違法駐車車両のタイヤを固定する装置。右前輪を二本の金属パイプで挟み、カギ付きの鎖でがっちり固定する仕組み。警察官が持っている合いカギがないとは ずせない構造になっているため、違反者は必ず出頭せねばならないので、とり逃すことがない。一九九四(平成六)年スタートした改正道路交通法の目玉。ロ ンドンで数年前からはじめており、この名称をとってクランプ(clamp ◆窒素酸化物自動車排出総量削減法〔1996 年版 締め金の意)ともいう。 交通運輸〕 ディーゼル車から排出される窒素酸化物(NOx)の総量削減を目指した特別措置法。これまで車種別排ガス濃度を規制(単体規制)していたのに対し、単に 総量規制、NOx規制ともいう。トラック、バスの使用者にNOx排出の少ない車種の使用を義務づけるための排出基準を作り、NOx汚染のひどい大都市を 対象とした特定地域で基準不適合車の使用を制限する。また特定地域の一般、運輸事業に対し、関係省庁が電気自動車など低公害車の導入や共同配送システム を取入れるなどの対策を求める。地域としては、東京二三区、横浜市、川崎市、大阪市とこれらの都市の周辺地域、千葉、埼玉、兵庫の各県の一部が対象。 ◆ノーマイカーデー〔1996 年版 交通運輸〕 大気汚染や、違法駐車、道路渋滞、交通事故などいっこうに改善されない自動車公害問題の解決の糸口として日を決めて不要不急の自動車利用を自粛する呼び かけ。東京都および周辺の県市で節車デーとして毎週水曜日をこの日にあてている。したがって、水曜カー規制あるいは水曜カー抑制ともよばれる。東京都の 経過報告では、水曜前後の火曜と木曜に交通量が増加しているなど効果ははかばかしくないが、さらにキャンペーンを続け、電気自動車等を導入していく方針 である。 ◆エコステーション〔1996 年版 交通運輸〕 環境対策の一つの柱は電気や圧縮天然ガス、メタノールなどクリーンエネルギーを使う自動車の普及である。エコステーションはこれら石油代替エネルギーの 自動車への供給所である。クリーンエネルギーの自動車を普及させるには、エコステーションの全国ネットの整備が必要で日本エネルギー経済研究所は、第一 段階として、現在のガソリンステーションに三種類のエネルギーの充てん設備を一九九五(平成七)年までに併設、第二段階として二○○○年までにこれを全 国二○○○カ所に増やすことを推進すべきことをまとめた報告書を資源エネルギー庁へ九二年六月に提出した。なおエコは economy(経済)ではなくて ecology (生態学)の略称。 ◆LRT(Light Rail Transit)〔1996 年版 交通運輸〕 わが国では、軽快電車、ライトレール、次世代路面電車とよばれている。欧州では(liner)と呼ばれる方が多い。理由は、かっての路面電車に比べて高速性に 秀れており、都心部ではこれまでの駅間の短かい低速で、車や歩行者と共存し、郊外部では郊外電車並の 50∼70 キロ/時で走る。これに加えて低騒音・低振 動、輸送力(時間当たり一万五○○○人の旅客輸送が可能)に優れ、地下鉄とバスの中間に位置する交通システムとしてヨーロッパを中心に人気がでている。 建設コストも低廉で、環境にやさしい都市交通として、にわかに注目を集めはじめた。そのうえ、電車の床が停留所と同じ平面の超低床車で、お年寄りや車い すも乗り降りが簡単の福祉型でもある。したがって、スーパー市電とも呼ばれる。わが国では、路面電車が生き残っている広島、長崎などを中心に、その普及 が進められている。 ◆バス運行制御システム〔1996 年版 交通運輸〕 路線バスの運行にコンピュータを導入し、だんご運転の解消を図るシステム。ふだんの運行状況、直前の走行データなどから自動的にダイヤを編成、さらに変 化する到着予定時刻をバス停でデジタル表示する。東急が乗客の呼び戻しをねらって利用客へのサービスを図ったもので、一日約三万六○○○人が利用する山 手線目黒駅を起点とする四路線に導入した。到着を知らせる表示は都内の路線バス、だんご運転を解消するシステムはロンドンなどで実施されたことがあるが、 両システムを組み合わせたのは最初である。 ◆バス・ロケーション・システム(bus location system)〔1996 年版 交通運輸〕 車両の走行位置をリアルタイムで把握し、停留所および営業所においてバスの運行状況を表示し、利用者利便の向上、運行管理の効率化を図るシステム。一九 八○(昭和五五)年ごろから試験的に導入されてきたが、鉄道なみのサービスを目指してより多くの路線に、採用される。 ◆タクシー自由運賃〔1996 年版 交通運輸〕 タクシー運賃は、初乗り運賃といわれる基本料金と、それに走行距離と走行時間によって追加される料金とで構成される。さらに深夜早朝には割増料金が追加 される。そして、「同一地域・同一運賃」制が原則で、運輸省の許可を必要とした。この運賃体系が、「タクシー運賃が必ず同じ基準で統一される必要がない」 との大阪地裁の判断などから一九九三(平成五)年五月の運輸政策審議会の答申で自由化への道が開かれると期待された。しかし、(1)今後の値上げの際、 値上げしたくない人の据え置き運賃の許可、 (2)迎車料金や早朝予約料金の事業者ごとの個別認可、 (3)タクシーの台数制の緩和などの限定的な規制緩和に 止まった。それでも同一地域内で幾通りかの運賃を認める多重運賃制を導入したことでタクシー運賃の自由化へ一歩踏み出したといえる。 ◆AVMシステム(車両位置等自動表示システム)(Automatic Vehicle Monitoring System)〔1996 年版 交通運輸〕 車両の位置や空車の情報を、無線を使って自動的に把握し各地に散らばっているタクシーを効率的に配車するシステム。地域ごとに設置したサインポスト(分 散送信局)が位置情報を特定の周波数で常時送り出し、ポストの地域内に入ったタクシーは、位置情報をキャッチすると同時に、位置情報と車両番号、空車か どうかの情報を基地局に発信、基地局と公衆回線で結ばれた配車指令室のコンピュータが検索し、配車指定場所の近くにいる空車タクシーの車両番号を表示す る。したがって、利用者に車両番号がすぐに知らされ、待ち時間が少なくなるほかに、タクシーの運転手も配車呼び出しを待つ必要がなく、配車も公平にでき、 無線配車を待つ無駄な走りが必要なくなった。また、このような移動体と外部との情報交換が行えるトラック運送業におけるシステムをMCA(Multi Channel Access)という。 ▲交通管理〔1996 年版 交通運輸〕 警察の交通部、すなわち交通管理者の一セクションとして都市交通対策課が誕生して少しずつ定着してきた。これまでの地点あるいは区間から、面あるいは地 域まで対象を拡大した交通管理に脱皮しつつある。それに加えて、ユーザー側の観点からのアプローチもみえてきた。 ◆ゾーン 30〔1996 年版 交通運輸〕 時速三○キロメートル以下の速度規制を実施している地区。幹線道路は多くの交通量を高速にさばくことを目的とする一方、非幹線道路では速度を抑え、歩行 者の安全を確保して歩行者と自動車の共存を目指している。自動車交通の自由性は人類が勝ち得た最大の機械文明であるが、交通事故や交通公害などのマイナ ス面も大きい。そこで車の機能を発揮できる区間と車のマイナス面を小さくする区間との使い分けをすることが車社会を維持できる最大のポイントと考えての 策である。ゾーン 30 では幹線道路から非幹線道路へはスピードを落して流入するよう非幹線道路からは飛び出さないよう出入口を絞るとか、地区内はハンプ (hump=路面の部分的な盛り上げ舗装)、シケイン(chicane=クランクやスラローム型による車道の蛇行)、ボラード(bollards=柱状の車止め)などの工夫 で車の速度を抑制してある。ドイツでは法制化され、わが国でも導入の検討が求められている。 ◆ゾーンシステム〔1996 年版 交通運輸〕 正確にはトラフィック・ゾーン・システム。都心部を数個のゾーン(zone)に分け、互いのゾーンへの自動車交通の行き帰りを禁じた交通システム。歩行者や 市電・バスなどの公共交通を優遇し、自動車利用の抑制や歩行空間の確保による都心の交通秩序化を求めるとともに都心域の活性化を推進することを狙いとし ている。典型例は一九七○年に導入したスウェーデンのイエテボリ。欧州各都市で類似のシステムを採用している。 ◆バスレーン(bus lane)〔1996 年版 交通運輸〕 バスの定時運行を確保するために、区間や時間帯を限って、バス専用あるいはバス優先に指定された車線。客を乗せたタクシー、一定人数以上が乗っている乗 用車(HOV)のバスレーン走行を認める場合もある。バス専用レーン(exclusive bus lane)は、路線バス等が独占して使用し得る車線をいう。バス専用線、 バス専用通行帯ともいう。バス優先レーン(bus priority lane)は、路線バス等が他車両に優先して使用し得る車線。バス優先車線、バス優先通行帯ともいう。 また、広幅員道路での一方通行で逆方向へバスレーンだけ認める場合を、バス逆行レーン(リバーシブル・レーン)という。これらの策は道路幅員の狭いわが 国でこれまであまり効果を上げていなかったが、交通渋滞、環境対策の一環として自家用車の削減が必要である。 ◆右折矢印信号〔1996 年版 交通運輸〕 右折専用レーンに溜った車を捌くために、赤信号の時でも右方向を指す補助の矢印信号(青矢ともいう)を点灯させる。この矢印の付いている信号機のこと。 これまで赤信号に矢印が点灯した後、すぐに赤に変っていたが、まじめなドライバーは急ブレーキをかけるので追突の心配があり、赤でもつっ走るドライバー の場合、交差道路からフライングする車との錯綜の問題があった。そこで、青矢の後に再び黄を入れるパターンを使う場合が生まれた。これはカーブして交差 点に接近した場合、はじめの黄か後の黄かの区別が難しく、交差部への進入に逡巡があった。いずれにしても長短があって地元の警察に運用が任せられていた。 しかし、ばらつきがあるのも事故原因の一つだとして「青→黄→赤+矢印→黄→赤」に統一するよう警察庁は各県警察本部に指示を出した。 ◆ゴールド免許〔1996 年版 交通運輸〕 正確にはゴールドカード運転免許証。運転免許証の有効期間中に無事故、無違反であった優良運転者に、次の更新期間を五年に延長するメリット制度が導入さ れた運転免許証。ねらいは、ゴールド免許というアメを与えることで安全意識の向上を誘発することにある。同時に若者の事故に対しては教習課程の強化、高 齢者の事故に対しては運動機能検査や講習の義務化というムチが加えられた。また、最初の免許を取った人用は若葉免許(黄緑色)として区別した。これに現 行の有効期間三年の一般用免許は青色とした。この免許制度が三種の色分けになったことから、免許証色分け制ともよばれている。一九九四(平成六)年の五 月から実施された。 ▲路上駐車管理〔1996 年版 交通運輸〕 数年前の熱病のような駐車問題は、鎮静化したようにみえる。しかし、東京都内の路上の駐車台数は、数万台減ったとはいえ今なお一七万台を数える。わが国 のどの都市をみても、この路上駐車に貨物車の占める割合は大きい。路上における駐車管理策は、交差点等で徹底排除を必要とする区間、路上駐車を必要とし た車の案内・誘導、集配活動の時間帯等で路上駐車を是認するなどいくつかの施策を組み合わせることで地道にすすめられている。 ◆トラックタイム・プラン〔1996 年版 交通運輸〕 これまで道路上に設置されたパーキング・メーターのスペースを集配時間帯は貨物車に利用させるシステムの実験計画。警視庁が東京日本橋繊維問屋街に九四 年六月から実験を開始。午前七時から一○時まで、午後四時から七時までを貨物車による集配時間帯、午前一○時から午後四時までを乗用車専用の時間帯とし、 道路空間を二次元利用(デュアル・ユース dual use)させ、道路混雑の解消と駐車スペースの確保が狙い。乗用車専用時間帯は従来通り有料、貨物専用時間 帯は集配貨物車ステッカー掲出制度を導入して無料。トラック業界は大歓迎だが、地元商店は、時間帯によっては自社あるいは顧客の駐車がままならないため の不服はあるが、地元の自主管理と物流業界の協力、行政の進行役が、うまくかみ合って成功するか注目されている。 ◆レッド・ゾーン〔1996 年版 交通運輸〕 交通流への影響の大きい交差点付近において駐停車禁止をドライバーに強く訴えるために交差点から約三○メートル区間の路側帯を赤色にぬると同時に立看 板をたて、ドライバーの自発的な違法駐車の抑止気運を促す交通管理の方法。警視庁が東京靖国通り・専大前交差点から須田町交差点までの六交差点で九三年 八月から実験中。レッド・ゾーンの導入で路上駐車が全くなくなったわけではないが、タクシー等の乗降など停車に分類できる短時間駐車に限られてきており、 効果はでているとみられている。しかし、この方策を拡大しても罰則等がないため問題も多く、ローディングゾーンやタクシーの乗降区間の設置などと合せて 実施することが求められている。 ◆駐車場案内・誘導システム〔1996 年版 交通運輸〕 商業・業務地、あるいは観光地などに訪ねる客を、駐車場の場所まで標示板によって案内あるいは誘導するシステム。案内システムは対象地区あるいは対象駐 車場までの案内。一方、誘導システムは駐車場の「空き」情報によって掲示駐車場までの車の誘導。最近では、駐車場の入出庫状況を自動的に把握し、コンピ ュータで計算して、道路上の標示板に掲示できるようになった。したがって、利用者が便利になる一方、駐車場の有効利用が図られ、さらに交通管制システム とリンクさせれば地区の交通渋滞の解消にもなる。東京・新宿地区に九三年四月導入された。 ◆レッドルート〔1996 年版 交通運輸〕 ロンドンやパリの市内幹線での駐停車禁止規制が実施されている路線。路側帯が赤でひかれている所からこうよばれている。一九九一年一月からロンドン北部 のルートA1の全長一二・五キロの区間で実験的に実施されている。その規制内容は、(1)終日駐停車禁止区間(赤色二本線と標識で表示)、(2)時間帯を 限定した駐停車禁止区間(赤色一本と標識で表示)。 (3)表示された時間帯の荷さばき駐車を除く時間帯限定駐停車禁止区間(赤色点線の駐車スペースと標識 で表示)、(4)短時間に限定した駐車可能区間(白線点線の駐車スペースと標識で表示)の四区間からなる。 パリでは、道路・広場下の駐車場整備が終了した区間から順次駐停車禁止規制をし、同じくレッドルートとよんでいる。この規制で最外側線の駐車車両を排除 できラッシュ時にバス専用車線を導入した。貨物の積みおろしのための駐車スペースはレッドルートに結合する街路の入口から一一メートル分が手当てされて いる。 ◆ポケット・ローディング・システム(pocket loading system)〔1996 年版 交通運輸〕 ポケット・ローディングとは、二∼三台程度の路外に設置された貨物の積みおろしスペースのこと。再開発事業等で狭小の余剰区画を利用してのミニ公園をポ ケット・パークとよんでいるが、ポケット・ローディングはこれの貨物の積みおろし版。ただし、ポケット・ローディングの対象スペースは、再開発などの余 剰区画だけでなく、公民館など公共施設あるいは民間施設の専用駐車場、および月極駐車場。これらの一部を利用して、おおむね一○○メートル以内の間隔で 設置し、地区あるいは都市の単位でネットワーク化して、利用状況の情報提供あるいは次の移動先への予約システムを付加したものをポケット・ローディング・ システムという。タイヤロック駐車装置(駐車区画内にストッパーをとりつけパーキングメーターと連動して、規定の駐車時間を超えると自動的にせり上がっ て、車が移動できる装置)を用いることで自動取締りが可能で、路外で貨物の積みおろしができる。一つ一つは小規模な施設だが都市単位でネットワーク化で きることから公共的施設として取り扱うことができる。特に路線型商業地あるいは五・五メートル以下の道路の多い地区で特に有効。また、住宅地など一般に 時間貸し駐車場のない場所では、パーキング用を付加あるいは時間帯による併用をすればなお有効に機能する。東京都の板橋区と練馬区で駐車施設整備基本計 画に折り込まれている。なお、ポケット・ローディング・システムは造語。 ▲自動車と道路〔1996 年版 交通運輸〕 道路交通のインテリジェント化(ITS)、交通管理と最近注目されている分野を別項に整理したが、自動車と道路については話題が多い。自動車が国民の足 としてすっかり定着し、それを支える技術および制度は、自動車、道路および利用システムのいずれの側からも日進月歩に開発が進んでいる。その中でも自動 車は環境対策用車両の開発、道路は利用システムの開発がメインである。 ◆選択ナンバー〔1996 年版 交通運輸〕 車の登録の際に、希望のナンバーを申請し、空きがあれば可能な範囲で好きなアルファベットや数字の組み合せができる制度。現行の制度だと数年後にナンバ ー不足が生じる。その打開策として、車種番号の三ケタ化、陸運支局の新設により地名を増やす方法、自家用乗用車だけは二九文字の平仮名を組み合せる方法 等が考えられている。後者二つのいずれかになると、登録可能な番号が大幅に増加するので、誕生日やゴロ合せで好きなナンバーが愛車に選べることが可能。 しかし、車社会ゆえにドライバーの希望を聞く必要性が生じるとともに料金徴収等の自動化もあってあまり複雑にすると対応ができなくなる。そこで、ナンバ ーに関わる管轄間で調整が図られてきたが、本年中に結論がでる予定。 ◆ユーザー車検〔1996 年版 交通運輸〕 いわゆる車検とは、道路運送車両法の「継続検査」のこと。安全な走行ができるためにブレーキランプ、サイドスリップ、排ガスなどの検査が義務づけられて いる。この検査の手段が複雑なことや車検のための点検整備事業をすることができるのは自動車整備士の資格を持つ技術者のいる認定工場に限られる。このよ うに車検代行に委託する車検に対し、ユーザー自ら車検場とよばれる運輸省の陸運支局や自動車検査登録事務所へ出向いて継続検査を受けることをユーザー車 検と呼称している。ちなみに、アメリカは州によって異なり車検のない州も八州ある。イギリスは初回は三年目で、その後は毎年、フランスは初回が四年、二 回目からは二年ごと。 ◆低公害車〔1996 年版 交通運輸〕 現行のガソリン車やディーゼル車に比べて、大気汚染あるいは地球温暖化物質といわれているCO2、NO、NOxなどの排出量が少ないメタノール、天然ガ ス、水素、電気、ソーラーなどを動力源とする自動車をいう。クリーンカーともいう。現段階ではガソリン車の性能とは、相当の開きがあり、一般的な普及に は時間を要するとみられているが、一部公用車などには採用が始まっているが消極的でそのあり方が問われている。都心部あるいはリゾート地において低公害 車しか走れない地域をつくり、これを少しずつふやしていくのが最も実用的だといわれている。 ◆ハイブリッドバス〔1996 年版 交通運輸〕 減速時の制動エネルギーを用いて充電し、加速時にエンジンを補助する機能をもつディーゼル・電気の両用エネルギーによるバス。東京や大阪の大都市のほか、 奥日光地区の観光地で試験的に運行している。CO、HC、NOx、黒煙いずれも少ない。ハイブリッド(hybrid)とはあいのこ、混成物の意。 ◆電気自動車(electric vehicle)〔1996 年版 交通運輸〕 電池をエネルギー源として走る車。略してEVあるいはEV車ともいう。ガソリン車に比べて走行距離、充電、最高速度などにまだ課題が残されているが、配 送車や、低公害の要求が強い工場内、リゾート地、公園内など限定された利用には十分耐えうるまで技術は上がってきている。公共団体で試用されているほか 補助金つきの電気自動車試用制度などができ、約一五○○台が登録され、実用化への腕だめしが行われている。ただ技術が上がってきても普及に最もネックと なるのは充電。充電ステーションの建設は、EV車の普及にとって不可欠である。そこで、地方自治体、電力会社、ガス会社などの駐車場をEV専用のパーキ ングとして、共同利用できるEVコミュニティ構想、あるエリアまで従来の交通機関を利用し、エリア内はすべてEV車を移動システムとするEVシティ構想、 原子力発電所の周辺市町村などにEV車を購入し、電池をカセット式にし、電池交換型EV車の利用構想を基本にもつEVビレッジ構想などが提案され、その 実現に向けて研究中である。 ◆天然ガス車〔1996 年版 交通運輸〕 天然ガスを燃料とする車。天然ガス貯蔵運搬方式の違いにより圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas CNG車)自動車のほかに液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)自動車および活性炭等による吸着貯蔵天然ガス(Absorbed Natural Gas)自動車に分類される。この中でCNG車が世界的にみて主流である。 CNG車はNOx(窒素酸化物)だけでなく、SOx(硫黄酸化物)、一酸化炭素もほとんど排出しない低公害車。開発に取り組んでいた通産省と日本ガス協 会は、地方自治体に貸し出し、公道上でのテストを始めた。欧米各国ではすでに七○万台以上、日本では一七六台が走っており、大気汚染対策として早急に実 用化すべく取り組んでいる。 ◆メタノール自動車〔1996 年版 交通運輸〕 メタノール(メチルアルコール)を燃料とした自動車。略してメタノール車。メタノールは硫黄分や重金属など不純物を含まず、窒素酸化物の排出量が少ない クリーンな燃料。メタノールは沸点が摂氏六五度なので、常温でも液体のため石油やガソリンなどと同様、輸送や貯蔵が簡単。一酸化炭素と水素から作られる ので資源が豊富。さらに製造方法が確立していることから石油に変わる次世代の燃料と考えられ、メタノール車の実用化研究が進んでおり、テスト車が二五六 台国内を走り回っている。実験結果では軽油を用いるディーゼル車に比べて窒素酸化物は二分の一以下、粒子状物質(ディーゼル黒煙)は二分の一から五○分 の一に低減されると報告されている。ただ、発熱量が石油系の半分、低温時の始動が困難、メタノール車の排ガスに混じっているホルムアルデヒドなどの環境 に与える影響が未解決などの問題も残っている。 ◆高速自動車国道(national expressway)〔1996 年版 交通運輸〕 自動車の高速交通の用に供する道路で、道路法による道路分類の一つ。日本道路公団が建設管理する有料道路。一九六五(昭和四○)年七月に開通した小牧∼ 西宮間の、名神高速道路が最初。国土開発幹線自動車道(national development arterial expressway)の建設法では、全国の都市、農村からおおむね二時間 以内で到達できることを目標に三二路線、約七六○○キロが定められている。九五年八月末現在までに六三八六キロを供用。高速道路ではないが、国の道路整 備計画に基づいて都市内にネットをもつ自動車専用道路に首都高速道路、阪神高速道路などがある。 ◆斜張橋(cable-stayed bridge)〔1996 年版 交通運輸〕 橋梁上の塔から、斜めに直線上に張られたケーブルによって、桁を支間の中間でつった橋梁形式。都市に建設される道路は、その機能だけでなく構造物自体の 美観も求められる。特に、市街地のみの道路を対象にしている首都高速道路では、この点に神経を使い、これからの建設予定地には斜張橋の優雅な姿をたっぷ り見せようとしている。 一九八七(昭和六二)年秋開通した葛飾江戸川線に架かるのはS字形曲線斜張橋で愛称を「かつしかハーブ橋」として地元になじんでもらえるようにした。ま た、九四年一二月に完成した高速湾岸線(四期)の横浜市大黒埠頭と扇島を結ぶ鶴見つばさ橋は橋長一○二○メートル、主径間長五一○メートルをもつ世界最 大の斜張橋になった。 ◆交通アセスメント〔1996 年版 交通運輸〕 大型店などを建てた場合に付近の交通に及ぼす影響を事前に予測し、駐車場の拡大や道路沿い部分に駐車待機用の車線を作るなどの対策を講ずるための制度。 ある程度の規模の店舗や娯楽施設、オフィスビルなどを建設する場合、計画段階で完成後にどの程度の車の出入量があるかを予測し、その数値に基づいて対策 を検討する。具体的な対策は、自治体や建設省と、建設者が協議して決める。アセスメント(assessment)は環境などを事前に評価すること。 ◆立体道路制度〔1996 年版 交通運輸〕 道路建設予定地で再開発がなされる場合、新築のビルや低層部などに区分地上権などを取得、ここに道路を通すことができる制度。これまでの道路建設は用地 の所有権を取得することを原則に行われてきたが、道路とビルが一体的に建設できるこの制度は、地権者が細分化している地域、騒音問題などで沿道住民が反 対している地域で有効であるとみられている。ベルリンのシュランゲンバター通り沿いのアウトバーンを包み込んだ住宅が最初。わが国でも外環道和光ICと 大泉IC(練馬区)間の道路上に住都公団が住宅団地を建設した。また、首都高速道路一号上野線二期分の高架下に住宅を入れる計画が進んでいる。 ◆ポインタープロジェクト(POINTER)(Positioning and Orientating Information for Traffic en Route)〔1996 年版 交通運輸〕 一九八二(昭和五七)年四月に道路サービス高度化懇談会から提言された道路案内システム。路線番号、標識、キロポスト、地図の連動によるユーザーのため のわかりやすい道路案内システムを内容としている。このシステムを高速道路、国道、県道を対象に実施していく予定となっている。 ◆ノンストップ料金自動徴収システム〔1996 年版 交通運輸〕 車を止めずに通行料金の支払いができるシステム。ロードカードシステムともいう。有料道路の料金所が渋滞のボトルネックになるケースが多く、この解消に 頭を悩ませている。建設省では第一一次道路整備五カ年計画を受けて道路技術五カ年計画をまとめたが、これが開発の目玉。このシテスムはあらかじめバック ミラーの裏などにICカードを挿入した発進装置を取り付けておく。自動車が有料道路に入る際、アンテナの横を通過するだけで瞬時に道路管理者側の電算機 と交信し、積載したICカードにどの入り口を使ったかを記録する。出口でも同様の交信を行い距離に応じた料金が確定する仕組みになっている。別名「ワイ ヤレスカード」ともよばれる。一九九四(平成六)年、論議を呼んだ首都高速の料金値上げもこのシステムの導入によって短区間の料金を安く設定できるなど 早い実現化へ期待が寄せられている。 ▲鉄道〔1996 年版 交通運輸〕 道路交通の環境問題から、鉄道が再び脚光を浴びて一○年近くになる。しかし、鉄道の使い勝手は今一つと感じる方も多いことと思う。欧米の鉄道に比べて、 バス等との接続の悪さ、料金の高さ、乗り換え駅の不便さ、乗り換えごとの切符購入など改善の余地は多く、問題となった自動車からの需要を受け入れるので はなく、利用者の立場にたった鉄道の運用システムの構築が望まれる。自動化などの機械システムの改善は進んでいるが、経営の合理化のための改善に限られ ているように思える。 ◆新幹線鉄道〔1996 年版 交通運輸〕 日本の主要都市を結ぶ、標準軌間(レールの内幅一四三五ミリメートル)のJR超高速鉄道。東海道新幹線は一九六四年一○月、東京オリンピックの開催に合 わせ、最高時速二○○キロを常時維持して、東京∼新大阪を約三時間で結ぶ世界最高速の鉄道として華々しく開業した。その後、山陽新幹線の建設に着手し(六 六年一一月)、七二年三月に新大阪∼岡山間を開業、七五年三月には博多まで全通。当初六時間四○分の東京∼博多間は、八六年秋のダイヤ改正では、時速二 二○キロ運転を実現して五時間五九分で、六時間を切った。八二年六月に東北新幹線、一一月に上越新幹線が大宮発で暫定開業し、八五年三月両新幹線が上野 に接続し、九一年六月には、東京∼上野間がつながった。また、九二(平成四)年三月からは、時速二七○キロで、低騒音の「のぞみ」が登場し、東京∼新大 阪間が二時間三○分、東京∼博多間が五時間四分となった。 ◆ミニ新幹線〔1996 年版 交通運輸〕 既存の在来線を活用して新幹線を乗り入れようとするプロジェクトの愛称。正式には「新幹線直行特急」。軌道は新幹線と同じ標準軌道(一四三五ミリメート ル)を用い、車両高は在来線に合わせた三・五三五メートル。スピードは、新幹線区間が最高時速二四○キロ、新線区間が一三○キロ。なお、一九九一(平成 三)年の走行実験で時速三三六キロを記録した。建設費は線路などの改造と車両製作費で新幹線の一○分の一。福島∼山形間(山形ミニ新幹線)が九二年七月 開通。まだ、安全面に課題を残しているものの運輸省は採算面、お客の満足度などからこの山形新幹線方式が有効との評価を下している。 ◆スーパーひかり〔1996 年版 交通運輸〕 新幹線と同じ軌道幅をもつフランス国鉄のTGVや、イギリス国鉄のAPT(Advanced Passenger Train ロンドン∼グラスゴー間、最高時速二五○キロ)計 画に刺激され、輸送能力(定員)よりスピードを前面に打ち出し、軽量・小型化をすすめてスピードアップを図る次世代新幹線車両(三○○系)。一九九一(平 成三)年二月の実験では、時速三二五・七キロを達成、九二年三月から東京∼新大阪間が約二時間半で結ばれた。さらに、JR西日本ではWIN350 を開発中 で、八四年の実車実験で時速三○○キロを記録、九六年春の時速三○○キロの営業運転を目指している。また、JR東日本ではSTAR21 を開発中で、目標最 高時速四三○キロ、営業時速三○○キロ。高速テストで四二五キロ、世界第二位を達成。ちなみに一位はTGVの五一五キロ、三位はICEの四○六キロ。 ◆高速特急〔1996 年版 交通運輸〕 JR西日本が、大阪から北陸線を通り、上越新幹線の越後湯沢に至る新ルートで時速一六○キロ運行される新型高速特急。現在の在来線特急は、曲率(カーブ) 半径や踏切通過などの安全面から、最高速度が一三○キロに抑えられている。計画ルート上の湖西線と北陸北線はカーブの少ない高架線のため一六○キロ運転 が可能。将来は、整備新幹線ルート北陸本線も使用できるのでほぼ全線にわたり時速一六○キロ運転が可能となる。使用される車両は、軽量化の進んだ「ニュ ー雷鳥」が有力で、一九九七年から運行開始の見込み。 ◆ストアードフェアカードシステム〔1996 年版 交通運輸〕 磁気カードを直接自動改札機に挿入し、利用料金を差し引くシステム。運賃自動引き落としカードシステムともいう。JR共通のオレンジカードなどのプリペ イドカードは小銭のやりとりが不要という便利さはあるが、カードで直接に乗れず、他の民鉄、営団、市営などのカードは使えないという不便さがある。そこ で、第一ステップはJR東日本のイオカードのように直接自動改札を通ることができるものを各鉄道会社共通に使えるようにしようとするもの。第二ステップ は共通なストアードフェアカード。利用できる乗り物をバスやタクシー、さらに定期券や割引券、乗り物以外のサービスにまで広げるシステムへの拡張である。 横浜市では、一九九二(平成四)年三月より地下鉄とバスに共通で利用できるストアードフェアカードを発行。stored(貯える)、fare(運賃)、card(券)の 合成語。 ◆ミューカード(mu-Card)〔1996 年版 交通運輸〕 無線を用いた非接触式のIC(集積回路)カード。(財)鉄道総合研究所が、定期入れに入れたまま自動改札機の案内板にかざすだけで通過できるIC利用の 無線式カード定期券と新型改札機の開発に成功。ストアードフェアカードの一種で、開発されたカードは四○○キロヘルツ前後の中波方式を取り入れ、改札機 入り口のカードの読み取りをする案内板に三○センチぐらいの距離でかざすと、○・二秒という瞬時に約一メートル離れた出口の標示板が「セーフ」なら緑色、 「アウト」なら赤色で示す。偽造防止のため、ICがカード内に組み込まれ、通過駅と通過時間を記憶するのでキセル防止にもなる。現在研究所の職員が、タ イムカードや図書館の閲覧カードに使って耐久性を実験中。正式名称が長いので、ギリシャ語のμの英語綴りで、マイクロエレクトロニクスのマイクロ、また 無線のムを掛けた愛称名で紹介されている。 ◆スラブ式路床〔1996 年版 交通運輸〕 平らなコンクリート板(スラブ slab)を敷きつめた路床。鉄道の路床はバラスト(砕石 ballast)を敷きつめていたが、高速化に伴い砂利をはね上げる事故 が起きた。山陽、東北、上越の新幹線はすでにスラブ式を採用しているが、最も古い新幹線はバラスト式。スラブ式は、バラスト式の二∼三倍の建設費がかか るが、走行時の揺れは少なく、通常の保守管理作業が大幅に省力化される。ただ騒音は二∼三ホン上がるといわれている。保線要員の不足と事故防止のため、 東海道新幹線も一兆二○○○億円かかるスラブ式に全線敷き替える予定。 ◆リニア地下鉄(linear metro)〔1996 年版 交通運輸〕 リニアモーター電車を用いた地下鉄。正式にはリニアモーター駆動小型地下鉄。また、LIM地下鉄あるいはリニアメトロともよぶ。リニアモーターカーは高 速性だけでなく、建設費、車両、電気設備、保安費の安価性、省エネ性、低騒音性、急こう配走行などの優れた特性をもつ。この特性に着目し、モノレールに 代わる都市の新しい交通システムとして注目されている。大阪市の京橋∼花博会場間全長五・二キロを結ぶリニア地下鉄は世界で初めて。東京都の「地下の山 手線」と称される都営一二号線でも採用が決まり、一九九二(平成四)年三月から一部開業した。全面開業は九七年。 ◆車間距離自動調整システム〔1996 年版 交通運輸〕 各電車に搭載したコンピュータが、前の電車との距離を基に走行スピードを自動的に制御し、これまでの車間距離を短くする方式。従来の鉄道運行システムは、 閉そく区間(一定ゾーン)に一列車が原則で、一つの閉そく区間内に複数の電車を絶対に入れないATSやATCなどによる速度の集中制御であった。新シス テムでは、閉そく区間を撤廃し、沿線の地上局から、前の列車との距離を無線情報で受信し、それに基づいて走行速度や制動地点などを判断し、各列車が自動 運転を行う。 このシステムだと理論上は前の列車とすれすれまで近づくことも可能。駅での停車もあり後続列車が数珠つなぎになることなどを考慮しても山手線では一分半 ほどの間隔で運転でき、通勤ラッシュ解消の切札と期待されている。ただ、実現までにはもう少し時間を要する。 ▲船舶〔1996 年版 交通運輸〕 船舶の改善は、地味ではあるが着実にその効果は上がっている。その改善理念は省力化にある。船員の不足は切実であり、費用の節減になることからも取り組 みに真剣である。ただ、安全という制約は、削減の対象になってほしくない。 ◆国際船舶登録制度〔1996 年版 交通運輸〕 国際航海を主な目的として登録した日本籍船の保有コストを外国籍船並みにするための制度。外航船(貿易物資を運ぶ船)や日本人船員が減り続ける「外航海 運の空洞化」を改善するために、日本人船員の乗船を原則として義務付けている日本籍船への規制を緩和して、人件費の安い外国人船員の乗船を認めたり、船 にかかる固定資産税を軽減するなど税制上の優遇措置も設けてある。このように、海運会社が日本国籍船を保有しやすいようにする一方、日本人船員の所得税 を軽減するなどして、外国人船員が増えるなかでも一定数の日本人船員を確保できるようになっている。なお、イギリスやスウェーデンなどに同様な制度があ る。 ◆高速船〔1996 年版 交通運輸〕 時速七○キロ以上で走る船舶。これまで、高速船には、揺れの問題があって乗り心地に弱点があった。最近になって航空機の技術を応用し、揺れを防ぐ方法が 開発された。すなわち、水中翼のフラップをコンピュータでコントロールして船体の揺れを抑える仕組み。船底に翼がついている双胴船か、ホーバークラフト と双胴船の混血が新鋭高速船の特徴。西日本を中心に定期航路が開発されているが、主な新タイプの高速船の就航路線は次のとおり。広島∼松山および大阪・ 深日∼洲本のスーパージェット(時速七○キロ)、隠岐∼境港のスーパーシャトル(時速七四キロ)、八幡浜∼臼杵のジェットピアサー(時速六五キロ)、長崎 ∼串木野のにっしょう(時速一二○キロ)。 ◆インテリジェント船〔1996 年版 交通運輸〕 万一、東京に大災害が発生し、国家機能が崩壊した際に、洋上で救難活動、復旧活動を直接指揮するとともに外国や地方との折衝、連絡にあたるという危機管 理上の対応策としての船舶造船構想である。「超高速最新鋭インテリジェント災害救助船」の略称。伊豆大島噴火の教訓に端を発し、打ち出された大構想。最 新鋭の情報通信施設、会議・宿泊施設を完備、ホバークラフトやヘリコプターを搭載した二万トン級で、時速三○ノット(約六○キロ)の高速船。システムと しては、ほかに医療救護船、電気・ガスなどの諸技術者のための宿泊施設と機材を備えた都市機能回復船、被災者収容船など四隻で船団を組む。 ◆省エネ船〔1996 年版 交通運輸〕 人件費の高騰、マイホーム主義の普及などで機関部員をはじめ船員の確保が困難な環境になり、運航や荷役の自動化を図ったり、一方、燃料の節約のため、自 然の風力エネルギーを用いた船舶の開発が進められており、これらを総称して省エネ船とよぶ。前者は、エンジン・ルームに人を配置しないのでMゼロ船とよ ばれ、RoRo 船(Roll on Roll off 車輪つきの車両をランプウェーを通して船に自走または牽引により積み下ろしできる船。カーフェリーは、大部分この形式)、 コンテナ船などに適応されている。後者は帆をエンジンの補助として使うことから帆装商船ともよばれている。在来船に比べて燃料費は五一・四%節約できた。 また、運賃全体の五○%近くも占めるバンカーオイル(船舶用重油)を節約するための工夫として大型船でゆっくり運んだほうが効果的として二一万トン級の 鉱石・石炭兼用船「新豊丸」「邦英丸」が誕生した。 ◆パイオニアシップ〔1996 年版 交通運輸〕 船舶の技術革新に対応した新しい船員制度づくりをめざす船員制度近代化委員会(官公労使の四者で構成)の「合理化」実験船のことを特に近代化船とよんで いる。この計画のことをパイオニアシップ計画という。この計画でつくられた船を近代化船あるいは超自動化船とよぶ。六○人近い乗組員がいた外航定期貨物 船に一四∼一八人乗務を実現させた。さらに、一一人という世界最小の定員で走るパイオニアシップが五年の実験航海を経て完成した。主たる省力化の内容は、 集中監視制御システムなどの技術革新にともない甲板部と機械部技士を総合して船舶技士、航海士は運航士とし、それぞれの専門はもっているものの職務の壁 を取りはらう教育訓練である。ちなみに、世界最初の自動化船は定員を四○人にした三井造船建造の貨物船〔一九六一(昭和三六)年〕金華丸、パイオニアシ ップの第一号は、コンテナ船「まんはったんぶりっじ」(四万二四一四総トン)で乗務員は一一名。 ◆超細長双胴型高速フェリー〔1996 年版 交通運輸〕 二、三年後の実用化を目指し開発中の新世代フェリー。従来のフェリーより速力が五∼一○ノツト(時速九・五∼一九キロ)以上速く、乗り心地がよいという のが売り物。速力向上の要因となる船体の形状に工夫をこらし、最大速力二八ノツト(時速五三・二キロ)、全長三○メートルの実験船ができている。完成す れば、関西新空港との連絡や大型離島などの船路など需要は多い。 ◆二重船側構造タンカー〔1996 年版 交通運輸〕 ミッドデッキタンカーともいう。衝突または座礁事故に遭遇した場合の大量の油流出を防止するために中間甲板付二重船殻(ミッドデッキ)構造にした石油タ ンカー。一九九二年一月英シェットランド諸島沿岸でリベリア船籍のタンカー「ブレイア」が座礁、大量の原油が流出する事故が起こった。この時、原油を被 った鳥がテレビのニュース画面に飛び込み世界中の茶の間を震撼させた。これがタンカーの安全性の問題を浮き彫りにし、国連の専門機関である国際海事機関 (IMO)で、二重船殻(ダブルハル double hull)にするかが議論された。最終的には海洋汚染防止条約を改正し、ミッドデッキが承認された。 ◆ハイドロフォイル(hydrofoil)〔1996 年版 交通運輸〕 水中翼船のこと。新世代高速船ともよばれる。船底に水中翼を設け、航行時に翼に生じる揚力によって船体を浮上させ、没水体積を減少させて高速化を図った 船舶。水中翼が水面を貫通(半没水)する水面貫通型と水中翼が完全に没水している全没水型に分けられる。水面貫通型は一九六二(昭和三七)年から建造さ れている。全没水型としては、ジェットフォイル(エンジンで吸い込んだ海水を船尾から噴射させて走る)がある。近年、高速で走る(毎時八○キロ)ジェッ トフォイルが開発され、走行安定性も確認され、夜間の航行も可能になった。したがって、沖合に展開される空港のアクセス、都心部の交通混雑回避あるいは 離島とのアクセスのための交通手段として注目されてきた。また、九一(平成三)年三月から就航した博多∼釜山航路をはじめ韓国、中国、台湾との間に九つ の外航旅客定期航路の開設に至っている。 ▲航空機と空港〔1996 年版 交通運輸〕 航空輸送は高速交通ニーズの高まり等を背景として、貨客ともに飛躍的な発展を遂げた。それに伴って、航空機の開発や空港の整備が進んできた。これからは 次の段階の整備で、交通需要が「疎」の地域の整備のあり方や、鉄道や道路との連絡性が問われている。 ◆関西国際空港〔1996 年版 交通運輸〕 大阪湾南東部の泉州(せんしゅう)五キロの海上に建設された二四時間利用可能な国際空港。経営主体は国、地元自治体、財界の出費による特殊法人関西国際 空港株式会社。約二○○○ヘクタールの空港島を埋め立てて、四○○○メートルの主滑走路二本、三四○○メートルの補助滑走路一本を建設する計画。第一期 分は、約五○○ヘクタールの島に三五○○メートルの滑走路。この建設費は約一兆四○○○億円。出費比率は国、自治体、民間で四対一対一。二期工事は第七 次空港整備計画(一九九六―二○○○年度)に盛り込まれ、二○○七年ごろの供用開始を目標に建設に着手することになった。事業方法は、浮体式で、空港建 設を自治体が受け持ち、第三セクターが空港施設を建設する上下分離方式が有力。 ◆第四世代のジェット旅客機〔1996 年版 交通運輸〕 「空飛ぶコンピュータ」といわれるほどの最新のエレクトロニクス技術を駆使したほか炭素繊維などの新素材の採用などで抜群の信頼性、低騒音、低燃費、短 距離離着陸性能を誇るジェット機。B747‐400、A310、DC10(MD11)がこの世代機である。ちなみに第一世代(一九五○年代後半)はコメット、B707、 DC8に代表されるプロペラ機からジェット機に切り替わった最初の時期の機種。第二世代(一九六○年代)は、「より早く、より高く飛べるように」したB 727、B737、DC9など。第三世代(一九七○年代前半)は、いわゆるワイドボディ(広胴)機。B747、L1011、DC10、A300 がこの世代機で大量需要を 満たすエアバス群である。 ◆YXX(次次期民間ジェット旅客機)〔1996 年版 交通運輸〕 YXに続く民間ジェット旅客機のこと。中型の開発計画のため次期中型旅客機ともいう。YXは国産機YS11 の後継機としてわが国の民間輸送開発協会が、政 府の援助を受けて、ボーイング社(アメリカ)、アリタリア社(イタリア)と共同で開発を進めてきた民間ジェット旅客機。Yはローマ字で輸送機の頭文字を とったものでXは experiment(科学上の実験)で次期開発を期待した試作機のことを表し、今後機種を決定していくことを意味している。現状ではYXXが 次期民間旅客機。YXがすでに固有名詞化しているためこれにXを重ねたもの。通産省では、(1)騒音が少ない、(2)燃料効率がよい、(3)機体をできる だけ軽くするなどに開発の力点を置き、 (1)国際共同開発、 (2)一○○∼一五○人乗りの中型旅客機を基本的な考え方として検討してきた。この開発は米ボ ーイング社と共同で進めてきたが、計画を見直すことになった。その理由は、ボ社がYXXと同程度の 737Xの開発を優先することになったため。 ◆B767(Boeing 767)〔1996 年版 交通運輸〕 三菱重工業、川崎重工業、富士重工業の三社の共同出資会社民間航空機とアメリカのボーイング社が生産している二○○人乗り級の双発中距離旅客機。YX機 として開発され、一九八一(昭和五六)年九月初飛行。全日空では、ボーイング 767‐200(三二九席)が八三年六月から東京∼松山に就航した。この仕様は、 七列二三六席、巡航速度八八○キロ/時、航続距離三八○○キロ(中距離用は五一一○キロ)。さらに、B767‐200 の胴体を六・四メートル延長した長胴機B 767‐300(座席数二七九∼二九○)が全日空で採用された。 ◆B777(Boeing 777)〔1996 年版 交通運輸〕 アメリカのボーイング社と日本の航空機メーカーとで共同開発する新型旅客機。YXX機として開発された三○○人乗り(三五○∼三七五席)の三発中・長距 離旅客機。航続距離は一万二二三○キロ。主翼の先が自動的に上に折れ曲がるウイングチップ(wing chip)の働きで省エネルギー性を高め、先進の炭素繊維 強化プラスチックを大量に使用して、機体を軽量化しているのが特色。開発費は五○○○億円が見込まれ、日本側は約二○%を負担する見通し。 ◆MD11(McDonnell Douglass 11)〔1996 年版 交通運輸〕 アメリカのマクドネル・ダグラス社製作の次世代の中型旅客機。DC10 の発展型で、座席数は二四八∼三二二席程度まで設定できる。ボーイング社のB747(ジ ャンボ)よりひと回り小さいが、次世代の近・中距離の国際線の主力機といわれている。巡航速度は九四五キロ/時、最大航続距離一万二七四六キロ。二人乗 務や燃料コスト三%低減など経済性が売り物。すでに日本航空の国際線に投入されることが決定している。 ◆YS‐X〔1996 年版 交通運輸〕 戦後、日本で初めて国産開発した旅客機「YS11」(六○人乗り、エンジンはイギリス製)の後継機種。次期小型ジェット機の生産計画をYSX計画という。 YS11 の生産はストップし、就航中の寿命も短いため、一九八九(平成一)年度から日本航空機開発協会を中心に企業化調査を進めてきた。九六年度から、正 式開発を目指し、米ボーイングと一○○席級の機体を共同開発する案が浮上し、協会技術者ら二○人をボーイング社に派遣して機体の詳細を詰めていた。とこ ろが、三菱、川崎、富士の重工業三社が、米ボーイングの小型ジェット旅客機「737」の生産計画に参画することに昨年三月同意し、YSX計画の後退が予想 される。なお、新 737 は一○○∼一九○席。YSXの開発構想は、低価格、低騒音、高速性能を目指し、巡航速度は時速八○○キロ、一○○人乗り級の短距離 小型ジェット旅客機。YSはYS11 を製造した日本航空機製造の前身の輸送機設計研究協会の頭文字。Xは、次機開発を期待した試作機のことで、experiment (科学上の実験)からとっている。 ◆コミューター航空(commuter airlines)〔1996 年版 交通運輸〕 近距離区間の航空輸送のことで、比較的小型の航空機を使用して五○キロから二五○キロ以下の短い路線を定期的に運航する航空輸送事業。エアコミューター ともよぶ。コミューター(commuter)は定期乗車券使用者の意味。幹線航空輸送に対して地域航空輸送あるいは小型地域間航空とよばれる。第二次大戦後、 アメリカで四∼六人乗りの空のタクシーから発達。アメリカでは同一路線に毎週五往復以上運航する近距離航空企業をコミューター航空と指定している。日本 では、この事業を二地点間航空とよんでおり、座席数が一九以下しか許可されていなかったが、規制緩和策の一つとしてアメリカ並みの六○席まで拡大が可能 となった。わが国の第一号は、一九八三(昭和五八)年に奄美大島を中心に四路線の運航を開始した日本エアコミューター。 ◆チルト・ウイング・システム(tilt wing system)〔1996 年版 交通運輸〕 垂直離着陸機で、主翼全体がプロペラごと九○度上を向き垂直に飛び上がったり、空中で停止できる機種。滑走しないで、ほぼ垂直に離着陸できる航空機を垂 直離着陸機(VTOL/ブイトール Vertical Take-Off and Landing)という。ヘリコプターも広い意味ではVTOLの一種だが、一般にはこれを除外してあ る。交通整備の行きわたらない地域、都市が大きくて混雑している地域では小型航空機の開発が求められている。その一つが「TW68」(チルトウイング 68) で日米の合資で開発が進められている。双発ターボ・プロップエンジン、定員一六名、巡航速度四九五キロ/時、航続距離三○○○キロ。一九九三(平成五) 年初飛行。もう一つの日米共同開発に「バルカン・スターファイヤー」がある。巡航速度五六○キロ/時、航続距離一六○○キロ。九二年度初飛行。 ◆成田空港アクセス〔1996 年版 交通運輸〕 東京から七○キロ離れた成田空港への高速鉄道によるアクセス手段。当初、新幹線、北総開発鉄道、県営鉄道の三本が予定されていたが諸般の事情でいずれも 計画が中断していた。そこで、運輸省では一九八一(昭和五六)年五月に委員会を設け、成田新高速鉄道の三ルートを技術、経営の両面から調査、検討した。 その結果は八二年五月に報告されたが、暫定案としてC案、長期的にはA、B案で、採算面でわずかにB案有利と特定のルートを採用する裁定は避けたもので あった。八五年七月の運輸政策審議会答申では、二○○○年を目標に千葉ニュータウン中央∼印旛松虫∼成田空港間を新設することが盛り込まれたB案が支持 されている。ところが成田空港が二期工事に本格的に着手したことから暫定措置(C案)の実施が打ち出され、八九年三月建設に着手した「空港高速鉄道線」 が完成。成田空港ターミナルへのJR、京成の直接乗り入れが、九一(平成三)年三月から始まった。 特に、JRは成田エクスプレスと命名し、その車両のスマートさと横浜、新宿などからの乗り入れの便利さで人気を博している。しかしこれと並行して、千葉 県の北総地域の振興を図るうえで重要な鉄道であることから、B案に基づく実現のための調査が進められている。さらに、日米構造協議における公共投資比率 の加増で、A案も浮上してきた。いずれにしても、東京とのアクセスが整備されない限り、成田空港は世界の玄関口とはいえない。 ▲海外のプロジェクト〔1996 年版 交通運輸〕 海外のプロジェクトを収集した。ほかに道路交通のインテリジェント化や地域開発における交通運輸のプロジェクトはあるが、前者は別項で特別に取り上げ、 後者は省略することにした。軌道系のプロジェクトが注目されがちだが、いく度かチャレンジして失敗に終わったクルマを活用した新交通システム「チューリ ップ作戦」が注目される。 ◆英仏海峡トンネル〔1996 年版 交通運輸〕 イギリスとフランスを鉄道で結ぶ英仏海峡(ドーバー海峡)トンネル。ユーロトンネル(Euro-tunnel)ともいう。一九九四年五月に開業。着工から約六年半 で、一○○億ポンド(約一兆五八○○億円)をつぎこんで完成。調達の四分の一は邦銀。ナポレオン時代からの構想で欧州統合の基幹交通路と期待されている。 しかし、建設費の高騰と不人気でフェリー各社との運賃割引競争が激化している。海峡トンネルのサービスは、乗用車、バス、貨物トラックを運搬する「ル・ シャトル」とロンドンとパリあるいはブリュッセルを結ぶ専用直通列車「ユーロスター」の二本立。 ◆TGVアトランティック〔1996 年版 交通運輸〕 フランス国鉄の誇る超高速列車。TGV‐Aあるいは新世代TGVともよばれている。一九八一年に在来線を利用して最高時速二六○キロ(現在は二七○キロ) で営業して世界に注目された。二一世紀をにらんで改良、延伸計画を実施し、時速三○○キロで営業できるTGVアトランティックを生み出した。実験では九 ○年五月に時速五一○・八キロの世界最高を記録した。九三年一二月には時速三○○キロで脱線したが、ケガ人なしで、連接台車(車両間を貫くしん棒で強化 されている連続構造)の性能が論議された。 ◆トランスラッピッド(transrapid)〔1996 年版 交通運輸〕 ドイツで開発中のリニアモーターカー。トランスラッピッド社で研究開発しているところから一般にこの名でよばれる。時速四○○∼五○○キロの乗り物とし てドイツのエムスランドにある延長三二キロの両端がループ状のテストコースで走行実験を重ねている。 一九八五年一二月の有人実験で時速三五五キロを出し、八八年一月には時速四一二キロを、九三年には四五二キロを記録。実用化段階に入り、時速四二○キロ でベルリン・ハンブルク約二九○キロを結ぶことが決まった。実現の目標は二○○五年。 ●最新キーワード〔1996 年版 交通運輸〕 ●リバーシブル・レーン(reversible lane)〔1996 年版 交通運輸〕 一日のうちの時間帯により、車両の通行方向を切り換えて使う車線。可逆車線ともいう。奇数車線がとれる幅員をもつ道路で、朝夕の需要に合せて上下線の通 行を逆転させる方式で、欧州では古くから採用されていた。警視庁交通部では九四年四月から渋滞の激しかった隅田川の永代橋で時間帯によって五車線のうち 中央の一車線の通行を逆転させる方法をとった。中央車線の切り換え時の混乱を防ぐために、センターラインを光らせたり、車線ごとに○ 式の信号機を設け たりする工夫をしている。 ●キセル乗車防止システム〔1996 年版 交通運輸〕 例えば、両端の一区間ずつ正規の切符を使用し、中間は切符を持たない不正乗車を、吸口とたばこの詰め口とを金具を使い、途中は竹筒を使ったキセルに模し てキセル乗車という。このキセル乗車を防止するシステム。一九六七年に阪急が初めて自動改札機を導入して以来、券売機の自動化など駅業務の自動化システ ムが開発されてきたが、キセル乗車防止システムは懸案であった。ところが九四年九月に一枚の定期券を複数のお客さんが連続使用することの防止システムと、 入場券で入場後、二時間経過後は出場不可となるシステムの開発に成功した。そして昨年秋には、定期券での降車時に、入場情報がない場合は出場不可となる システムが導入された。このシステムの愛称をフェアライドシステム(fair ride system ●シャトル便〔1996 年版 正しくご乗車いただくためのシステム)という。 交通運輸〕 予約不要、八割搭乗で即フライトする国内航空便のこと。新幹線「のぞみ」の出現で需要が極端に減少した航空界の立て直しとして日航、全日空、日本エアシ ステム三社で運航しようと、航空同盟が示した構想。東京・大阪の新幹線との競争に勝つには、運賃競争のほかに運航頻度の増大、空港までのアクセス時間の 短縮、フライトまでの待ち時間の短縮が挙げられている。アメリカでは、予約不要で、バス利用と同様に時刻表に合せて空港に行き、利用するいわゆるエアバ スがすでに普及している。日航は歓迎の意を示しているが、他二社は消極的。シャトル(shuttle)とは、ミシンの縫い口の往復運動のことで、近距離往復の意 で用いられている。この構想は出発時刻にならなくても八割搭乗で出発する点と三社相乗り方式が特徴。 ●チューリップ作戦(TULIP)〔1996 年版 交通運輸〕 フランスのプジョー・シトロエンが開発した乗り捨てコミューターと呼ばれる新しい都市交通システム。TULIPとは Transport Urbain Libre Individuel Public の略で、公共的乗り物でありながら、個人が自由に乗り回せる都市型交通との意。都市内に何カ所かのステーションを作り、それぞれにチューリップモ ービルと呼ぶ小型の電気自動車を数台ずつ配備する。年会費を払ってリモコン装置を受け取った利用者は登録した暗証番号を使って、リモコンで予約、ドアの 開閉、ハンドルロックの解除を行う。リモコンは携帯電話の機能をもち、交通情報も得られる。どのステーションでも乗り捨て可能。二人乗りで最高時速七五 キロ。一回の充電で六○キロの走行可能。使用料金は、日本円で約六四○円/時。フランス西部ツールで九七年から試験が開始される。 ▽執筆者〔1996 年版 村田 マーケティング〕 昭治(むらた・しょうじ) 1932 年生まれ。慶大経済学部卒。現在、同大商学部教授。著書は『マーケティング』『活性経営の知恵』『心と感性の経営』『評判が市場を創る』など。 斉藤 通貴(さいとう・みちたか) 慶応義塾大学助教授 1955 年東京生まれ。慶大商学部卒。現在、同大商学部助教授。著書に『消費者行動の社会心理学』(共著)。 ◎解説の角度〔1996 年版 マーケティング〕 ●今日、経営・マーケティングをとりまく環境は大きく変動しており、この変化に対する新たな適応の試みがなされている。このような変革の時代において、 市場の科学であるマーケティングは、これまでには見られないような問題を山積みしている。 ●経済成長が人々にとっての豊かさを大きくしていくことにはならない、といった認識の高まりと共に、効率性や経済的価値とは異なる基準への希求と、多元 的な価値をひとつにまとめられるマーケティング・パラダイムが模索されている。 ●単に市場(顧客)満足だけを追求するマーケティングへの疑問は、エコ(生態的)・マーケティングやソーシャル・マーケティングの問題を提起している。 価格だけに着目した「価格破壊」といった近視眼的な見方ではなく、顧客・社会・生態系にとっての価値を高めるマーケティングやニュー・ビジネスのあり方 が議論されている。 ●モノローグ・マーケティングからダイアローグ・マーケティング型のコミュニケーションの切り口が、マルチ・メディアなどの情報技術の発展にともない、 ハードとしてだけでなく注目されている。 ▲環境変化とマーケティング〔1996 年版 マーケティング〕 経済環境の変化のみならず、ビジネスを取り巻く諸環境は大きく変化している。高度な生活情報ネットワークによって緊密に結びつけられた顧客は、グローバ ル消費者として企業・製品を評価する能力を高めている。また、情報を中心とした技術とインフラストラクチャーの発展・整備もビジネスのあり方を大きく変 えようとしている。 ◆市場成熟化(market maturization)〔1996 年版 マーケティング〕 市場の発展段階をちょうど人間の一生にたとえた場合に、成長過程から熟年に相当する時期を意味する。成熟化の特徴はつぎの経済・社会のさまざまな局面で みることができる。 (1)産業構造面からは、第三次産業への比重の高まり、 (2)物質的側面から、精神的側面へ、 (3)消費者ニーズの個性化、多様化傾向、 (4)経済成長率は鈍化し、福祉の充実がすすむ、(5)社会全般の安定化傾向。近年の市場成熟化、経営環境の厳しさは、企業の対応行動に大きな変化をも たらす要因となっている。 ◆飽和化市場(saturation market)〔1996 年版 マーケティング〕 一世帯当たりの普及率がほぼ限界普及率近くに達し、買替えによる購入比率が高く、市場そのものの伸びが、限界に達しているマーケット。化粧品、カメラ、 菓子、医薬品などのマーケットに広く見られる。飽和化市場では従来の普及率を高める市場開拓方法にだけ頼ることには無理があり必然的に発想基盤を変えた 市場開拓方法が求められる。そこに新製品開発、商品イメージの転換、従来のターゲットから新しいターゲットへの切替えなどによる新市場の創造、新規需要 の開発のもつ重要性がある。その意味で、水口健次(日本マーケティング研究所)のいう 選択率需要 を迎えている現在、消費を丹念に掘り起こし、飽和市 場を打開することは容易ではないが、独自性の普及や保有の真空地帯・空白世代をねらうことで、市場拡大の機会は存在する。消費財関連企業を中心に、飽和 市場の打開策は、今後のマーケティング活動の主流をなすテーマとなろう。 ◆脱・飽和化市場(postsaturated market)〔1996 年版 マーケティング〕 飽和状態になっているマーケットからの企業努力による脱出作戦。企業多角化、異分野への進出、成長分野への参入などによって、ゴーイング・コンサーン(先 進企業体)としての存続を図る脱出志向は、業種・業界の如何を問わず、一層強化されそうである。 ◆創客の時代〔1996 年版 マーケティング〕 顧客を、新規につくり出すこと。マーケティングの究極的な目標は「顧客の創造」である。しかし経済の成熟化が進展し、飽和市場の様相を呈するなかで、新 規顧客の開拓・獲得を目指し、新製品開発、セールス・キャンペーンにしのぎを削っている。最近の販促キャンペーンの特徴は、(1)サンプリング(見本配 布)に基づき、試用者→使用者→愛用者にまで高めようとする努力、 (2)モニター募集による消費者への接近、 (3)メーカーと小売店頭が連動した企業サイ ドからの積極的提案、などである。いずれにせよ、従来のような間接的な形ではなく、できるだけ顧客への接近をはかり、店頭とドッキングした形でその活性 化をはかるところに大きな特徴がある。市場飽和の時代を迎えて、販売戦略、販促戦略そのもののあり方が屈折点にさしかかっていることを物語るものである。 ◆顧客満足(CS)(Customer Satisfaction)〔1996 年版 マーケティング〕 今日のマーケティングの基本的な考え方は、顧客のニーズを満たすこと=顧客満足を追求し、その結果として企業は利益を享受することにある。この意味では、 顧客満足という概念自体は決して新しいものではないが、あらためて顧客満足(CS)についての関心が高まっている。 従来は、売上げや収益によってCSを間接的に測っていたが、CSを経営全体の目標として置き、直接的に測定していこうという考え方が、今日のCSである。 ◆ヒューマニスティック・マーケティング・コンセプト/ソサイエタル・マーケティング・コンセプト(humanistic marketing concept/societal marketing concept)〔1996 年版 マーケティング〕 顧客のニーズ(欠乏感)やウォンツ(欠乏感を満たすための商品やサービスにたいする欲求)を満たし、その結果として企業は価値を実現し利益を獲得してい こうというマーケティング・コンセプトにたいして、その問題点を解決するためのマーケティング理念として考えられたもの。P・コトラーによれば、従来の マーケティング・コンセプトでは、消費者の短期的なウォンツのみが考えられており、長期的なニーズは軽視されてきた。たとえば、タバコへのウォンツを満 たすことは、長期的な消費者の利益にはならない。ヒューマニスティック・マーケティング・コンセプトは、消費者の長期的利益を考えたマーケティングを展 開すべきだというマーケティング理念である。しかし、消費者の利益に貢献することは、必ずしも社会の利益を生むことにはならない。そこで、単に標的市場 の利益にとどまらず、社会の利益を同時に実現できるマーケティングが望まれる。こうした理念がソサイエタル・マーケティング・コンセプトである。 ◆従業員満足(ES)(Employee Satisfaction)〔1996 年版 マーケティング〕 CS(顧客満足)は企業の環境(市場)にたいする考え方であるが、ES(従業員満足)は、CSを実現する企業内組織の満足がCS同様に重要であり、企業 の業績を左右する問題であるとして議論をよんでいる。多元的価値社会の到来と共に、いかにESを高め組織のモラルやモチベーションを向上させていくか、 ESを高める新たな組織観とは何かが模索されている。 ◆感性消費(emotional consumption)〔1996 年版 マーケティング〕 感覚や気分を基準において物・サービスを消費すること。さまざまの消費場面における選択肢が増大し、消費の多様化・個性化・分散化傾向が強まっている。 とくに人並意識が希薄になるにつれて、人々が「良い・悪い」という社会的規範や価値観に従った消費行動よりも、むしろ「好き・嫌い」という価値観に従っ た消費行動をとるようになってきている。この「好き・嫌い」という選択基準を「感性」と称している。このような消費行動をとる具体的な商品ジャンルには、 ファッション性・嗜好性の強いもので、機能的・品質的に商品間の差異がほとんどないもの、例えば雑誌、文房具、食品といった分野で顕著な傾向を示してい る。しかもこうした行動をとるのはヤング層・女性層に多い。感性消費の底流にある見方や考え方は消費の「質的」側面を重視したものであり、マーケティン グ活動にとって多くの示唆を含んでいるが、感性そのものの分析手法はまだ緒についたばかりで、今後の解明努力に待つ部分が多く残されている。 ◆ハイ・クオリティ型消費(high quality consumption)〔1996 年版 マーケティング〕 消費と所得は不可分の関係にあるが、本物、真の高級品に糸目をつけずに消費するものをハイ・クオリティ型消費と呼ぶ。オーセンティック(authentic)型 消費ともいう。成熟社会に見られる一つの消費性向である。 ◆階層消費時代〔1996 年版 マーケティング〕 「中流意識」が、上、下に分化し、消費面の格差が拡大しつつあるとの時代認識。大衆消費時代の終焉は各方面で議論され「分衆の時代」 「階層の時代」 「小衆 の時代」といった呼び方がなされている。現実に、明日の食事にもこと欠くというほどの貧乏層は見当たらないにせよ、そうだからといって余裕はないという ニュープア層の増加は「中流層」を分化させると同時に、消費市場にも大きなインパクトを与えている。階層消費社会の出現は、経済面への影響だけではなく、 社会構造の基盤を揺り動かすものとして、大いに注目される。 ◆消費のUカーブ〔1996 年版 マーケティング〕 高額商品に対する所得と支出の傾向を描いたカーブ。一般に、所得が高い人ほど高級商品を購入すると考えられるが、アメリカでの高級車の購買者調査によれ ば、図のような結果が得られた。ここでの所得は納税額を基準にしているため、低所得者層にはドラッグ・ディーラー(麻薬の販売者)などのアンダーグラウ ンド・ビジネスでの高所得者が実際には含まれていること、また、一台の車を共同で購入している例もみられる。興味深い点は、状況は異なるが、日本でも同 じような傾向がみられることである。この理由は、中間層が家やマンションのローン、子供の教育などへの支出額が大きい傾向があるのに対し、若い独身層は 所得の絶対額が低いにもかかわらず、すべての所得を自分一人のために支出できるからであろう。こうした傾向は自動車、オーディオ、レジャー関連支出に顕 著にみられる。 ◆バイイング・パワー(buying power)〔1996 年版 マーケティング〕 大規模小売業とくに量販店がもつ巨大な販売力を背景にした仕入力・購買力を意味する。これはスケール・メリットによる流通効率化、消費者利益に貢献する 一方、他方では合理的、公正な商取引から逸脱した範囲で売り手へのパワー・プレッシャー、取引における優越的地位の乱用といった経済的摩擦を起こしやす い。メーカー、卸売業者と大規模小売業者との確執、相反する利害関係は根深いものがあり、流通システム化へむけてのバランスのとれた調整が望まれている。 ◆デモンストレーション効果(demonstration effect)〔1996 年版 マーケティング〕 もともとは経済学用語で、「人々はより高い所得層の消費にひかれ、経済的なゆとりができると消費を増大させる傾向」があり、これをデモンストレーション 効果と呼ぶ。略してデモ効果ともいう。今日の消費社会のなかでは、このデモ効果が薄れ、必ずしも企業側の期待する成果をもたらさなくなりつつある。 ◆テスト・マーケティング(test marketing)〔1996 年版 マーケティング〕 全国マーケットを狙った商品企画やイベント企画を、いきなり打ったのでは、もし失敗した場合、そのこうむるリスクは計り知れない。そのため限定した市場 で本番と同じマーケティング活動をテスト的に行い、その実施結果から、本格展開の際に修正する点があれば調整して、本番に備えるというもの。そのような 目的で実施されるものであるため、テスト・マーケティングの対象地域としては広島、静岡、札幌など全国市場をコンパクトにした平均的な市場特性をもった ところが、一般的には選択される。 ◆マーチャンダイジング(merchandising)〔1996 年版 マーケティング〕 一般に商品化計画と訳されている。適正な商品を、適正な値段で、適正な時期に、適正な数量を提供するための計画。つまり、科学的な手法をもとにした売れ る製品づくり、または適切な品揃え計画のこと。前者はメーカーの立場、後者は流通業者の立場に立ったものであるが、マーチャンダイジングは、とくに後者 を意味する場合が多い。 ◆プロダクト・プランニング(product planning)〔1996 年版 マーケティング〕 製品計画という。消費者ニーズに、的確に適応するための計画をさす。マーチャンダイジングが主として流通業者のそれを意味するのに対し、製品計画はメー カーのそれを意味する。その内容は科学的な市場調査に立脚し、 (1)製品・パッケージの開発・改良、 (2)ブランドの設定、 (3)価格決定、 (4)製品に付 随したサービスの開発、(5)製品ミックスの構成などが含まれる。 ◆定番商品(定番)〔1996 年版 マーケティング〕 毎年、デザインはそのままでコンスタントに一定量の売上げが期待できる商品。例えばワイシャツで、白のシャツなどはその典型。 ◆シングル市場(single market)〔1996 年版 マーケティング〕 一人暮らしの一人世帯からなる市場。ここでいうシングルとは「単身者」の意味。単身者のなかには寮、下宿、間借り住まいをしている単身者のほかに、ビジ ネスマンの単身赴任、別居化などによるやむを得ない事情に基づく一人世帯などが含まれる。こうした形で単身者市場が増大している背景には未婚率、離婚率 の上昇や、住宅事情の悪化、価値意識の変化といった要因がある。したがってシングル市場をかつてのように「結婚するまでの独身者市場」という画一的なと らえ方はできなくなりつつある。消費行動面におけるシングル市場の存在は企業のマーケティング戦略に根本的な見直しを迫るものである。 ◆ビジュアル・プレゼンテーション(visual presentation)〔1996 年版 マーケティング〕 視覚に訴える商品演出。消費の多様化、個性化時代を迎えて、経営戦略に視覚的な要素が重視されるようになってきた。特に小売業では、その店独自のドラマ づくりを目標に掲げ、ある統一テーマのもとに商品と宣伝が一体となった売り場の演出を行う傾向が顕著になりつつある。ひとつの新しい販売戦略として注目 される。 ◆テレ・マーケティング(telephone and telegraph marketing)〔1996 年版 マーケティング〕 電話を中心とした通信手段によるマーケティング活動。ダイレクト・マーケティングのひとつ。訪問販売と比較し、相対的に低コストで、販促活動と連動させ れば消費者へのそれなりの効果も期待できるため、関係者の関心を集めている。アメリカでは急成長を遂げているといわれるが、わが国ではいまだ電話セール スの印象がよくなく、その普及には多くの壁を乗り越えなければならないだろう。 ◆ビジュアル・マーチャンダイジング(visual merchandising)〔1996 年版 マーケティング〕 視覚にうったえる商品政策のこと。商品企画の段階から商品演出にストーリーをもたせ仕入れから宣伝までの全部門を連動させ、商品政策に視覚的な特徴を備 えたもの。大半の商品普及率が高まり、ほとんど何でも揃っている消費生活の中で視覚的要素を取り入れ、売ろうとする商品を浮かびあがらせようとするビジ ュアル・マーチャンダイジングは今後の販売戦略におけるひとつの方向である。 ◆パーソナル・マーチャンダイジング(personal merchandising)〔1996 年版 マーケティング〕 文字どおり、個人を対象とした品揃えのこと。マーケティングの世界では、これまで不特定多数の大衆相手に商売を行ってきたところが多いが、これからは「あ なただけ」という限定付の商売が必要とされている。しかし行き過ぎたパーソナル・マーチャンダイジングは、結局、注文生産、注文販売とならざるを得ない だけに企業としてのプロフィットをどう確保していくか、消費の多様化・差別化といわれながらも極めて類型的・均質的といわれる時代背景のなかでどのよう なコンセプトでロットをくくるかが大きな問題である。今後解決すべき点を多く残してはいるが、消費社会の基調変化として認識しておく必要があろう。 ◆ダイレクト・マーケティング(direct marketing)〔1996 年版 マーケティング〕 流通チャンネルを少しでも短くし、マーケティング担当機関の数を減らすことを指向する考え方。最近は、とくにニューメディアを活用して顧客に関するデー タ・ベースを武器とした通信販売等の無店舗販売を指して用いられることが多い。その背景には、大衆消費社会の到来、知的水準の高度化、女性の社会進出と いった社会的要因とともに、日常の義務的買物行動が苦痛となってきた消費者の心理的要因も考えられる。わが国におけるダイレクト・マーケティングはここ のところ多様な広がりを見せており、この分野への新規参入業者が盛んである。しかもメーカー、商社、卸売業、スーパー、小売業、出版社といった多種多様 の業種・業態にまたがっており、通信販売、訪問販売をはじめとしたダイレクト・マーケティングは消費生活に革新をもたらす要素を多分に含んでいる。 ◆マーケット・セグメンテーション(market segmentation)〔1996 年版 マーケティング〕 市場細分化。市場を、顧客の所得、地域、嗜好、年齢、職業等、およそ販売に影響を与える要因をすべて考慮に入れて細分化し、それぞれの特性に応じたきめ 細かい商品政策によりマーケティングを行うこと。それを生産、製品、販売の側からいうと、ディファレンシエーション(differentiation)すなわち多種化、 多様化になる。自動車会社が、小型大衆車から大型高級車までフルラインの乗用車をもとうとするのは、この戦略に立つものである。 ◆インテグレーション戦略(integration strategy)〔1996 年版 マーケティング〕 あまりにも微細化・細分化・マイナー化されすぎた市場を逆に統合化し有効なマーケティング戦略を打ち出そうとするもの。インテグレーションとは「統合」 という意味。一九八六(昭和六一)年電通・大阪支社のまとめた報告書のなかで示されている考え方。従来のマーケティング戦略は差異化(differentiation) を追求するあまり、差異化が進めば進むほどかえって戦略の有効性を低下させてしまうという自己矛盾に陥ってしまい、すでに一部の業界では差異化戦略その ものが行きつくところまで行きついてしまったというのが現状である。こうした問題点を克服するために考え出されたのがインテグレーション戦略であるが、 従来の差別化戦略とのバランス、具体的なマーケティング・テクニックの面でまだ解決すべき点は多い。 ◆すきま戦略(niche strategy)〔1996 年版 マーケティング〕 市場のすきまを埋めていく戦略。niche(ニッチ)とは、くぼみ、適所という意味。たとえばコンビニエンス・ストアの急成長の背景には、大手スーパー、一 般小売店のカバーしえないマーケット・ニーズ(すきま)があったからだといわれる。そのすきまに応えるべくコンビニエンス・ストアは、立地的便宜性、品 揃え面での便宜性、時間的便宜性をもって対応している。さらに最近では、宅配便、クリーニング、DPEの取次など、商品以外のサービス合戦が展開されて いる。こうしたすきま戦略は、市場の成熟度が増すほど、いっそう重視される。 ◆セールス・プロモーション(SP)(Sales Promotion)〔1996 年版 マーケティング〕 広義では販売促進、狭義では、広告、人的販売、パブリシティを除いたものをいう。各種の方法を通じて需要を喚起し刺激すること。つまり、見込顧客にたい し、商品なりサービスなりについて需要をもつよう仕向け、あるいは、その欲望をさらに大きく、さらに強くさせるように仕向けることである。質的レベルで の競争が激化する中で、このセールス・プロモーション活動は現代マーケティングの中心課題のひとつとなっている。 ◆消費者インセンティブ(consumer's incentive)〔1996 年版 マーケティング〕 セールス・プロモーション(SP)の一環として、消費者を対象に企業が行う購買刺激、動機づけのこと。具体的な方法にはサンプリング(見本配布)、キャ ンペーン、各種講演会、工場見学会などがある。近年、市場の成熟化、飽和化傾向が強まるなかで、消費者の商品(商店)選択基準が企業そのもののイメージ と密接に結びつくようになってきた。消費者インセンティブは間接的な形ではあるが消費者の信頼感を高め、消費刺激効果のある手段として重要な位置を占め る。最近では知名度、認知度を高める広告と同時にSP活動の主流となりつつある。 ◆パッケージング(packaging)〔1996 年版 マーケティング〕 製品を包装すること。JIS(日本工業規格)の定義によれば、「包装とは、物品の輸送、保管などにあたって、価値や状態を保護するために、適切な材料、 容器などを物品に施す技術および施した状態」をいう。この定義から包装の目的は、内容物の保護と商品価値を高めることにある。近年では、包装のもつ販売 促進の意義が強く前面に打ち出されている。「包装は沈黙のセールスマンである」とされるのはこの点からである。 ◆島陳列(island display)〔1996 年版 マーケティング〕 小売店の通路上に陳列台、山積みされたダンボールなどをおいて、そこだけ独立させた形で行われる陳列方法。特価品、季節商品など小売店の売りたい商品を 並べ、顧客がどこからでも商品に手を伸ばせることによる心理的効果を狙ったものである。選択眼の厳しさを備えるようになった今日の消費者にたいする、売 り手のテクニックのひとつである。購買単価を高め、売り場を活性化する点で、今後の小売マーケティングにはこの種のきめ細かな工夫がいっそう必要とされ てこよう。 ◆サインレス・カード〔1996 年版 マーケティング〕 クレジット・カードによる支払いは、スーパーやコンビニエンス・ストアではサインが必要であったり、信用照会を行うために時間がかかり、混雑時には他の 客への気兼ねがあった。 こうした問題を解決するために、自社カード(他のカードを使える店もある)によるサイン不要、またPOSレジにカードリーダを組み込み、数秒で信用照会 のできるシステムの開発が進んでいる。 一九九四(平成六)年から食料品売場でサインレス化を導入した東急ストアでは、売上げの約一割がカードで支払いをし、その七五%が東急グループ発行のT OPカードを利用している。 ◆POSシステム(Point Of Sales system)〔1996 年版 マーケティング〕 販売時点情報管理システム。販売時点(小売店頭)における販売活動を総合的に把握するシステム。本社(本部)と各店舗の端末(レジスター)を連結させる ことで、販売時点での売上管理、在庫管理、商品管理などが容易にできる仕組みである。このシステムを信用販売に適用すれば、端末機にセットされたカード によって、利用者の信用照会、計算処理ができる。これをさらに利用者の銀行口座と結べば、自動振替による決済もでき、情報管理の合理化、イノベーション 手段として、流通業界で広く採用されつつある。一三桁のバーコードを使ってすべてが管理できる仕組みになっている。一三桁ある数字のうち、最初の二桁が 国名、次の五桁が会社名、その次の五桁が商品名を表し、最後の一桁は数字(コード)のエラーをチェックするための数字。このため価格は別途に表示される。 ◆物流バーコード〔1996 年版 マーケティング〕 POSが店頭でバーコードを用いるのに対して、物流上の検品、仕分け、在庫管理のためにダンボールに表示され、用いられるバーコードで、アメリカやヨー ロッパで普及してきている。わが国では、菓子、日用雑貨、化粧品、医薬品メーカー、大手量販店などが採用しはじめており、今後、入荷のさいの検品自動化 などを目的として、普及することが予想される。一般に日本共通商品コード(JAN)に商品の数(入数)を加えた標準物流シンボル(ITF)が国際コード 協会(EAN)で決められ、用いられている。 ◆新型コード(new code)〔1996 年版 マーケティング〕 従来のバーコードに対し、漢字の「田」の字を基本パターンとしたコード。従来のバーコードは世界的コンピュータ・メーカーのIBMが特許をもっており、 極めて高い印刷精度が要求されている。新型コードは、たとえ多少の誤差があったとしても読取りには差し支えないうえ、原版一点あたり二○円と割安で、盛 り込める情報量も多く、二段重ねにすれば二五六種の表現が可能とあって、関係各方面に大きな反響を与えている。この新型コードは、「カルラコード」と名 づけられ、特許を申請中。現在、カルラシステム(株)が、その運営にあたっている。幅広い利用法が考えられ、今後、情報化社会の申し子ともいうべき役割 を果たす可能性を秘めている。 ◆ベリコード(beli-code)〔1996 年版 マーケティング〕 アメリカのベリテックス社が開発したもので、POSで用いられる従来のバーコードの八倍以上の情報量が入力可能な商品管理システムに用いられるコード。 新製品の急増に伴うバーコード不足が深刻化している現在、有望な代替システムと考えられる。正方形を升目状に区切ったところに白と黒の模様により商品情 報を記録、読み取り装置とコンピュータで情報の解析が可能となる。 ◆サンプル・セーリング・システム(sample selling system)〔1996 年版 マーケティング〕 商品のサンプルだけで小売するシステム。スーパーや百貨店で商品のサンプルだけを陳列しておき、顧客が好みの商品を買うとき、その商品のコードナンバー が打ってあるカードを店員から受け取って、それを売り場に持って行くと、帰るまでに無人倉庫から品物が受渡し口に届く。大型スーパーの今後を示唆するひ とつの形といえる。 ◆ワンストップ・ショッピング(one stop shopping)〔1996 年版 マーケティング〕 一カ所で顧客の要望するほとんどすべてのものが買えることをいう。この代表が百貨店、GMS(General Merchandise Store)タイプの店である。この傾向 は金融機関にまで波及し、立地条件、店舗規模などの違いにより、投資相談、信販カード、生・損保、ゴルフ会員権の売買など、およそ金融機関の商品なら何 でも揃えようとするところが出現しつつある。財テクブームや銀行と証券会社の激しい競争が生んだ一つの動きである。 ▲流通活動〔1996 年版 マーケティング〕 景気後退、大店法の見直し、国際的競争の展開、情報・通信技術の発展による新業態の出現、メーカーとの取り組みによる製販同盟など、ビジネス環境の変化 に伴って新しい流通の動きが進行している。 ◆物流管理(physical distribution management)〔1996 年版 マーケティング〕 物流とは、物的流通の略であり、生産から消費にいたる物の流れを、経済的、技術的に合理化するための計画的・組織的マネジメント体系の一環をいう。物流 は、流通近代化として国民経済の課題であると同時に、個別企業の立場からマーケティング活動の合理化を促進する課題となっている。後者の観点からは、物 的流通を表す用語としてビジネス・ロジスティックス(business logistics)または、単にロジスティックスと表現することもある。 ◆コントラクト・ウェアハウス(contract warehouse)〔1996 年版 マーケティング〕 物流業の新しい経営形態で、委託倉庫(コントラクト・ウェアハウス)型の物流サービス業務を行う。コントラクトとは本来「契約」という意味。食品、化粧 品、家庭用品などの直接的に競合関係のない異業種メーカーからの委託を受け、保管、配送業務を協業化し、受注や配送情報もコンピュータで処理して効率的 な物流管理を行うところに特徴がある。通常、一社のコントラクト・ウェアハウスは二○∼三○社のメーカーからの委託を受ける。アメリカを中心に最近台頭 してきたが、わが国においても大手運輸業者(西濃運輸)と中堅倉庫業者(鈴与倉庫)による共同出資で同様の新型物流サービス業への全国展開が見られる。 ◆パレチゼーション(palletization)〔1996 年版 マーケティング〕 商品自体は全然動かさずに、商品をのせたパレット(荷台)だけを動かすというユニット輸送システムの一つ。 パレット輸送は物流における荷役の陰の主役といわれ、一般的なパレットの普及は年平均三○%の割合で伸長しており、今後ともこのパーセンテージはくずれ ないとされている。しかし、通産省が一貫パレチゼーション用に決定した規格パレット(八型と一一型)の普及率が低く、パレットプール制、パレットレンタ ル、輸送体制におけるパレチゼーションの未確立など多くの問題を残している。 ◆コンテナリゼーション(containerization)〔1996 年版 マーケティング〕 輸送のコンテナを工場にもちこみ、そのまま積載し、トレーラーで引いて直接、生産者から需要者へと運ぶ。梱包、荷役のコストダウン、輸送のスピードアッ プをねらったもので、これを陸上コンテナという。新鮮な野菜、魚介類を小売へ直送するコールドチェーンの花形にもなる。陸上コンテナをそのまま船に積ん で、港から港まで運ぶとすれば、大洋を越えて、工場と需要者を直結するドア・ツー・ドアが実現する。これを海上コンテナという。コンテナリゼーションは、 積みおろしの時間と労力をこれまでよりも大幅に短縮できる輸送革命である。 ◆ピッキング・システム(picking system)〔1996 年版 マーケティング〕 商品を仕分けし、それを取り出す一連の仕組み。ピッキングとは、商品を小分けすること。物流を担当する卸売業の主要な業務のひとつであり、この合理化は 受・発注業務や在庫管理と密接に結びつき、業績そのものを左右する重要な問題となっている。かつての人海戦術に頼ったやり方から、今日ではコンピュータ を駆使したものに変化し、得意先からの少量多頻度注文に的確に対応すべく機械化が進展している。卸売業の真剣勝負をかけたサバイバル競争の一端を示した ものでもある。 ▲販売形態と新商法〔1996 年版 マーケティング〕 マルチ・メディアをはじめとする技術革新によって、消費者の多元的な選択に適応するさまざまな販売形態の可能性を飛躍的に増大させている。特に、インタ ーネットに代表される新しい媒体を用いた無店舗販売が注目される。 ◆大規模小売店舗法(大店法)改正と関連四法〔1996 年版 マーケティング〕 大規模小売店舗法の改正案と関連四法案が成立した。その主要ポイントは以下のとおりである。 ◎大規模小売店舗法(改正) ・大型店の出店調整期間を最長一年半から一年に短縮。 ・これまで出店調整を行ってきた商業活動調整協議会(商調協)を廃止し、出店調整機能を大規模小売店舗審議会(大店審)に移管し一元化する。 ・地方自治体独自の出店規制を抑制する。 ・施行二年後に必要があれば見直しを行う。 ◎輸入品売り場に関する特例法 ・大型小売店内の輸入品売り場については、一○○○平方メートル以下での設置は自由化する。 ◎民活法(改正) ・小売業、食品流通業の高度化を促進するために、共有型の商業集積施設などを、開発銀行無利子融資の対象にする。 ◎中小小売商業振興法(改正) 商店街の経営合理化への支援強化。 ◎商業集積法 良好な都市環境の形成と中小小売商業の振興を目的とし、コミュニティ施設などの商業基盤施設と商業施設を組み合わせた商業集積施設の整備計画への公共事 業費の優先配分などを行い、支援していく。 こうした大店法と関連四法の成立は、「大店法」および「輸入品売り場に関する特例法」が大規模小売店の出店規制を緩和する方向にはたらき、一方、残りの 三法は、中小小売業の支援を目的としている。大店法の緩和以後、中堅のディスカウンターなどの出店、営業時間の延長がみられるようになった。 ◆再販指定商品の見直し〔1996 年版 マーケティング〕 一九九三(平成五)年四月一日より、メーカーが定価を決めている再販指定商品(化粧品と医薬品)について、公正取引委員会は、一部を除外することを決定 した。メーカーによる再販価格の維持は独占禁止法によって禁じられているが、再販指定を受けた商品は例外とされている。今回、再販指定から外された商品 は消費税込み小売価格が一○三○円以下のシャンプーやリンスを含む化粧品一三品目と医薬品一○品目で、そのほか化粧品一四品目と医薬品一六品目は、これ までどおり残されるが、九五年からはドリンク剤と混合ビタミン剤が指定から除外され、そのほかについては九八年に再検討される。 ◆ストア・コンセプト(store concept)〔1996 年版 マーケティング〕 店づくり、店舗運営における基本をなす考え方、理念。小売業における経営戦略の出発点をなすものであって、百貨店、専門店といった業態においては、とく にこのストア・コンセプトが明確化されていない限り、マーチャンダイジング政策やイメージ戦略など市場標的と離れたところで見当外れの経営努力を行いか ねない。既存店舗のリニューアル作戦がストア・コンセプトの洗い直しからスタートするのは、このためである。消費者ニーズの変動が激しい今日、コンセプ トそのものの常に新しい視角からの見直しが求められている。 ◆スーパー・マーケット(super market)〔1996 年版 マーケティング〕 食料品など日用品を中心に、セルフサービス、現金販売、大量・廉価販売を原則とする小売店。アメリカで不景気の一九三○年ごろから大都市郊外のあき倉庫 を使って超格安で、ビン・かん詰食料品などを大量販売したのが起源である。その特色は、(1)客は入口でバギー(手押車の一種)または手さげかごをとっ て、店内に入る。 (2)特殊な売場以外は店員がいない。 (3)商品はすべての客の手のとどく範囲内に陳列されている。 (4)必ず価格の表示がある。 (5)客 は自分の欲する品物をバギーまたは手さげかごに入れて、出口で会計をする。(6)買物は袋に入れて持ち帰る。日本では単にスーパーと呼ぶのが一般的であ る。一定の条件を具備した小規模なスーパーをコンビニエンス・ストア、衣料品の比重の高いものをスーパー・ストアという。またイギリスでは平屋で売場面 積が五万平方フイートを超え駐車場と倉庫をもつものをハイパー・マーケットという。スーパーマーケット名鑑 91(商業界)ではスーパーと名のつくもの〔企 業体単位に売場面積二三一平方メートル(七○坪)以上、もしくは年間販売額一億円以上で、セルフサービス方式を採用している大量販売店〕は全国で一万三 三三二店となっている。 ◆無店舗販売〔1996 年版 マーケティング〕 店舗を構えずに、日用品、食料品、雑貨等の商品を販売する仕組みで、通信販売、カタログ販売、テレフォン・ショッピングなどの長所をとり入れた新しい小 売業態の一つである。消費者への時間や利便性にアピールするものとして注目を集めており、生活変化に応じた利用者層の存在はその発展の行方を握っている。 こうした無店舗販売の市場規模は、推定で一兆円にのぼるものとされ、その売上げは年率二桁の伸びを示している。 ◆バラエティー・ストア(variety-store)〔1996 年版 マーケティング〕 一定の価格帯を設定し、回転率の高い商品(非食品類)を中心として取り扱う小売店の一タイプ。原則的には生鮮食品や流行商品は取り扱わず、セルフサービ ス方式の販売形態をとる。アメリカで独自の発達を遂げたが、当初は日常雑貨品を中心とした一○セントストア(均一店)がそのスタートであった。アメリカ のウールワースはこのタイプの代表的企業。わが国では、当初はバラエティー・ストアからスタートしたものが現在では、スーパー・マーケット化、百貨店化 したものが多い。 ◆ウェアハウス・ストア(warehouse store)〔1996 年版 マーケティング〕 新しいタイプのディスカウント・ストア。できるだけ低コストな店づくりで、商品を安く提供することを目的とした小売業。ウェアハウスとは、「倉庫」を意 味する。しかし、近年アメリカでは、カラフルな店内装飾を施し、顧客獲得に工夫を凝らした店舗づくりで成長を遂げるところが多くなってきた。この傾向は 消長の激しいアメリカ小売業界における競争の激しさを端的に示すものであり、わが国においても小売の未来業態のひとつとして大いに注目される。 ◆カテゴリー・キラー(category killer)〔1996 年版 マーケティング〕 アメリカのトイザラスのように、ある商品分野における圧倒的な品揃えとメーカーとの直接取引などによる、徹底したディスカウントを特徴とする巨大専門店。 大規模店舗法の改正による出店規制の緩和によって、海外のこうした小売業の参入が進展していくと考えられる。 ◆ホールセール・クラブ(wholesale club)〔1996 年版 マーケティング〕 ホールセールとは「卸売」という意味で、コストをかけない倉庫のような店舗で、一定の会費を払った会員はディスカウント価格で買物ができる、一九七○年 代にアメリカで登場した小売形態。日本では九二(平成四)年一○月にダイエーが兵庫県神戸ハーバーランドに会員制のホールセール・クラブ「Kou's」 (コウ ズ)を開店した。Kou's では、食品、衣料、靴、スポーツ用品、電気製品などを倉庫に在庫するかのような店舗で、会員となった顧客にディスカウント価格で 販売している。 しかし、アメリカではホールセール・クラブの成長は頭打ちになり、代わってパワーセンターが成長している。 ◆ファクトリー・アウトレット(工場直販店)(factoty outlet)〔1996 年版 マーケティング〕 有名ブランド商品が割安で買える工場直販店のこと。アメリカではじまった新業態で、通常の使用では気にならない程度のキズもの(通常の販売には適さない 商品)を、直営店でかなり安く売っている。数年前から非常に人気を集めており、日本でも直営店ではないが、ファクトリー・アウトレットで買い付けた商品 を売る店も現れている。 ◆ショッピング・センター・エイジ〔1996 年版 マーケティング〕 大規模店舗法の運用改善と規制緩和、都市郊外地域の人口増加による、多核テナント型の郊外型ショッピング・センターや、食品スーパー・マーケットを中心 とした小型のショッピング・モールなどの出店ラッシュを意味している。カナダのエドモントン・モールをはじめ、多くのショッピング・センターの出店が予 想される。 ◆コンビニエンス・ストア(convenience store)〔1996 年版 マーケティング〕 大規模小売業が提供できないような便利さ(コンビニエンス)を顧客に提供することを目的とした小型スーパー・ストアで、一名ミニ・スーパーともいわれる。 便利さのなかには、 (1)立地的便利さ―大半が住宅地に近接して立地し、周辺に住む顧客に生活必需品を中心として手軽に購入できる便利さを提供。 (2)時 間的便利さ―交代制、ところによっては二四時間営業、一般小売店の営業時間外や休日にも開店することによって、いつでも消費者に商品を提供できる便利さ を提供。(3)品揃え面の便利さ―緊急度の高い日常生活の必需品をできるだけ幅広く揃えることによって、顧客の生活に密着したどのような注文にもその場 で応じうる便利さの提供、といった三本の柱が含まれる。地域密着型の小売業態として、今後の動向が大いに注目される。 ◆ストア・オートメーション(SA)(Store Automation)〔1996 年版 マーケティング〕 現代のハイテク機器を駆使した、小売店舗の自動化システム。たとえば、POSシステムと連動した陳列棚の価格表示自動化システム、光ファイバーによる店 内情報システムなど。こうした小売店舗の装置化は演出効果、雰囲気づくりに効果を発揮しようが、業態や業種による人間を重視したイメージ展開が新しい時 代に即した店づくりの基本的課題として残されている。 ◆量販店〔1996 年版 マーケティング〕 大量に商品を販売できる小売店。具体的には、ダイエー、西友ストア、イトーヨーカ堂などをはじめとする大手スーパーを暗黙裡に指すことが多いが、家庭電 気専門店でも特定のメーカー系列に属することなく、各地域に支店をもち大きな売上高を誇る店舗をも含めて使われる。商品に基づく業種区分ではなく、店舗 数や売上高を基準にした業態区分のひとつである。 ◆質販店〔1996 年版 マーケティング〕 「質」を販売することに主眼を置いた店。いわゆる量販店の対語。戦後に登場したわが国のスーパーは大量仕入、大量販売を中心とした安売り哲学で急成長を 遂げてきた。しかしここへきて、消費者の購買行動における品質重視の傾向、競争の激化に伴う差別化戦略の必要性から、画一的な商法では、企業の存続その ものが危ぶまれる情勢となっている。 「質販店」という言葉で表現される裏には、流通業界首脳の危機感、現状打開にかける意気込みをみてとることができる。 品質重視の経営姿勢は、終局的には高級化路線を歩むことになり、低価格を志向する消費者の存在がどのようにスーパー経営のなかにとり入れられるかが、成 否の鍵を握っているようである。今後の動向が大いに注目される。 ◆専科店〔1996 年版 マーケティング〕 専門店よりも、さらに顧客を絞り、自店のコンセプトに適合する顧客だけを対象とした店。例えばアニメキャラクターの商品ばかりを取り揃えた店、アメリカ 製の古着や雑貨だけを品揃えした店、インドの商品のみを集めた店など。専科店はマニアをターゲットとしているだけに、経営コンセプトの明確化が成否の鍵 を握っている。ユニークな小売業の新業態の一つとして、今後の展開が楽しみである。 ◆複合店(complexed shop)〔1996 年版 マーケティング〕 異業種・異業態との組合せによる店舗。自動車ディーラーと外食フードサービス業との結びつき、玩具店と子供服、菓子店と喫茶店などの例がある。相互の集 客効果や店舗への投資効率を考え合わせると今後こうした傾向は、ますます強まることが考えられる。 ◆ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア(general merchandise store)〔1996 年版 マーケティング〕 小売業における業態の一つで総合的な品揃えをはかり一般大衆消費者を対象に販売するところから、総合小売業(GMS)といわれる。アメリカ流通業界の雄、 シアーズ・ローバック社はGMSの典型である。百貨店とはマーチャンダイズ・ポリシーの面で一線を画し超高級品は取り扱わない。わが国では、大手スーパ ーチェーンの一部の店舗(準百貨店ともいうべき大型店舗)にこの傾向がうかがえる。 ◆フランチャイズ・チェーン(franchise chain)〔1996 年版 マーケティング〕 商品の流通やサービスについて、フランチャイズ(特権)をもっている親業者(フランチャイザー イジー franchiser)が、チェーンに参加する独立店(フランチャ franchisee)に対し、一定地域内の独占的販売権を与え、サービスを提供する契約を結び、その見返りとして、加盟独立店から特約料を徴収するよう なチェーンをいう。契約チェーンと訳すこともある。このチェーンは強力な中央統制力(経営力)というレギュラー・チェーンの長所と、独立した資本・経営 手腕・意欲というボランタリー・チェーンの長所を組み合わせようとするところに特色がある。加盟独立店は、本部が指導する標準化された経営手法に従って いれば、商品管理や販売促進策を本部がやってくれるから、地域特権を利用して、販売に専念すればよいことになる。この制度はアメリカで発達したものであ るが、わが国にも、一九七○年代に入って急速に普及した。しかし、最近、急成長にともなってフランチャイズ商法をめぐる紛争も表面化し、公正な競争確保 の面から問題視されつつある。それにたいし、フランチャイズ協会が反論をまとめ、関係筋に配布するなど、フランチャイズ・チェーンをとりまく環境は厳し いものになりつつある。 ◆アンテナ・ショップ/パイロット・ショップ/センサー・ショップ(antenna shop/pilot shop/sensor shop)〔1996 年版 マーケティング〕 メーカーや問屋が、消費動向、売れ筋商品、地域特性を把握し、自社の経営管理に役立てることを目的に、通常は直営方式で展開する店舗。情報収集や実験が 本来の目的であるが、最近の小売経営環境の激化にともなって、本格的な小売店経営に乗り出すところがふえている。最近では、有名企業が全く会社名を伏せ た形で独自の事業として展開する覆面ショップも出てきている。実験段階にとどまっているうちはよいが、本格的展開にあたっては、経費面、人材面でネック になることがある。アパレル業界、ファッション業界をはじめとする変化の激しい業界に多くみられる。 ◆通信販売(mail-order selling)〔1996 年版 マーケティング〕 新聞・雑誌・ラジオ・テレビ・カタログ等で広告し、郵便・電話等で注文を受け、商品を配送する販売方法。世界最大のアメリカの小売商シアーズ・ローバッ ク社は、この方法で成長した。わが国では小売業売上げ全体に占める通販の比率は極めて低いが、他の販売形態による売上げの伸びが低下するなかで、近年、 その伸び率の高いことが注目を集めている。また「訪問販売等に関する法律」では、その適正化のための法律関係を明確化し、とくにネガティブ・オプション を全面的に規制している。 ◆カタログ・ショッピング(catalog shopping)〔1996 年版 マーケティング〕 カタログを参考に購買するもので、通信販売の一形態である。使用される媒体が印刷媒体(新聞、雑誌、DM等)であるところに特徴がある。この電波媒体版 がいわゆるテレビ・ショッピング、ラジオ・ショッピングとよばれるものである。カタログ販売はかつての郵便主体の注文方法から電話主体へ、代金の決済方 法にもクレジット・カードや銀行口座からの引落しが用いられるようになり、時代背景の変化とともに変貌を遂げつつある。カタログ販売も市場の成熟化、知 的水準・文化水準の高度化といった背景に支えられ、カタログを使った通信販売を利用する家庭が増えている。商品を見る目の肥えた現代の消費者は、しっか りした商品の品揃え能力、価格設定の妥当な業者を選別する力を備えているだけに、消費者の支持が得られるよう評価を高めることが、次の飛躍につながる要 因となろう。 ◆訪問販売(call sales)〔1996 年版 マーケティング〕 販売員が直接顧客を戸別訪問し、必要な商品・サービス説明を行って販売するもの。伝統的な販売方法のひとつであるが、近年はダイレクト・マーケティング やニューメディアの発達によって、訪問販売に参入する企業が多い。その背景には、 (1)店舗への設備投資が不要、 (2)潜在需要の開拓が可能、といった企 業側の積極的な市場開発努力がある。しかし、訪問販売は通信販売と同様、トラブルの発生が多いため「訪問販売等に関する法律」を強化し、消費者の便益を 守るよう一一二国会で改正された。改正のポイントは、 (1)これまで規制の対象外とされていたサービス商品も含む、 (2)場合によっては刑事罰の対象とな りうることを盛り込んでおり、一九八八(昭和六三)年秋から実施されている。訪問販売の対象となる商品は多様であるが、化粧品・ミシン・書籍・ベッドな どはその代表である。 ◆ケータリング・サービス(catering service)〔1996 年版 マーケティング〕 ケータリングとは要求される品物を手渡すことを意味するが、それが転じて宴会、パーティー・イベントなどの設営・演出・料理の仕出しまでも含んだサービ ス事業を意味するようになってきている。大手都市ホテルが新たな市場として力を注いでいるが、最近は大手レストラン・チェーンも参入し、競争が展開され つつある。新しいサービス事業分野のひとつとして、その行方が注目される。 ◆アポイントメント・セールス(appointment sales)〔1996 年版 マーケティング〕 訪問販売の新種の一つ。同窓会名簿や組織団体のリストを手懸りに特定の人を電話で呼び出し、日時、場所を約束したうえで特典を説明し商品を売るやり方を とる。商品には語学用教材、海外旅行などがつきもので、支払能力のない学生などが被害にあうことが多い。強引な勧誘方法、不要不急の商品、契約段階での トラブルなど問題の多い商法。 ◆コンサルティング営業(consulting business)〔1996 年版 マーケティング〕 単に得意先や取引先に製品を販売するだけでなく、得意先・取引先と一緒になって諸々の企画を提案していくこと。コンサルティングとは、いろいろな形で相 談に乗ることを意味する。これからの営業マンには本来の営業マンの役割にプラスし、コンサルタント的能力が強く要請される。 ◆業態〔1996 年版 マーケティング〕 小売業における営業形態。つまり、電気店、金物店、菓子店といった区分が取扱商品に基づく業種分類であるのに対し、百貨店、専門店、コンビニエンス・ス トアなどは小売業態に関するものである。「業態」という言葉が出現してきた背景には、消費者の生活ニーズの多様化、新しい経営形態の小売業が出現してい るなど、多くの変化が潜んでいる。 ▲製品とブランド〔1996 年版 マーケティング〕 プロダクト・ライアビリティ(製品責任)についての関心は、近年、とみに高まっている。日付や製造年月日、ブランドに対する細かな注意は、その表れとみ てよい。PB商品もかつてのライバル意識で、ただ造りさえすればといった姿勢から、質と価格の高い次元でのバランスが求められ、個店ブランドにより流通 業者の良心を売ろうとする意味合いが色濃く感じられる。さらにエコロジー、環境問題からみた商品の責任が問われている。 ◆プロダクト・ライアビリティ(PL)(Product Liability)〔1996 年版 マーケティング〕 製造物責任・生産物責任などと訳されているが、定訳はない。プロダクト・ライアビリティとは、狭義には、企業がその生産・販売した製品について消費者や 社会一般に対する責任を意味し、広義には、製品の品質・機能・効用への責任はもとより、当該製品の使用中・使用後の環境への影響にまで責任をもつべきだ とする企業の姿勢・基本理念をも含んだものである。 ◆Sマーク〔1996 年版 マーケティング〕 消費生活用製品安全法により日常生活で活用されるものの中から安全性について問題がありそうな製品について、そのものの安全性を確保するために必要な構 造、強度、爆発性、可燃性などについての基準を作成し、検定、型式承認などを行い、適合すると認めたものに「S」マークをつける。 Sマークは一般消費者の生命・身体に対して特に危害を及ぼすおそれが多いものを「特定製品」として政令で指定し、安全基準に適合していれば、 「S」 (Safety の略)マークをつけ、かつ、Sマークのない製品の販売は禁止されている。 ◆リパック(repack)〔1996 年版 マーケティング〕 再包装すること。一度包装されたものをすべて外して再び包装しなおし、それと同時に日付を変えること。とくにスーパーでは生鮮品などがパック入りの状態 でセルフ形式中心に販売されるために、パックにつけられた「日付」が消費者にとって重要な意味をもっている。したがって、リパックは、製造年月日、加工 年月日の適正表示に対する業者側の苦肉の対応策ともいえるが、消費者の日付に対する関心の高さから今後は論議をよぶであろう。 ◆ブランド戦略〔1996 年版 ブランド(brand マーケティング〕 商標)を売り込み、他の同一製品と自己の製品とを差別し競争上有利な地位を築くマーケティング戦略。高価な商品や嗜好品のような商品 はもとより、従来ブランドなど問題にならないとされてきた分野にも、この戦略は広まりつつある。 従来は、メーカー・ブランドが中心であったが、百貨店・スーパー・生協など流通業者が自社ブランドをメーカーにつけさせ、自己の責任で販売する例が急増 している。今後この傾向はあらゆる商品に広まるであろうが、それにつれて消費者はブランドの内容に目を向けなければならない。 ◆ナショナル・ブランド(NB)(National Brand)〔1996 年版 マーケティング〕 AMA(アメリカ・マーケティング協会)の定義によれば「通常、広い地域にわたる適用を確保している、製造業者あるいは生産者のブランド」である。一般 に製造業者ブランドと呼ばれ、PB(プライベート・ブランド)に対応する用語として使われる。 ◆ストア・ブランド(SB)(Store Brand)〔1996 年版 マーケティング〕 PB(プライベート・ブランド)の同義語。従来のPBがむだなコストを省き、実質価値を重視するという、本来の意味を失い、消費者に悪いイメージを印象 づけ、単にNB(ナショナル・ブランド)の対立語になり下がってしまったことを考慮した大手スーパーの一部では、ブランドと新しい店舗イメージとの一体 化をはかるために、ことばそのものを替えて、あえてSBの呼称を採用している。 ◆デザイナーズ・アンド・キャラクター・ブランド(DC商品)(designer's and character brand)〔1996 年版 マーケティング〕 有名デザイナーの手になるブランド商品。著名ブランドの商品群を揃えることで多様化した消費者の差別欲求を充足させ、デザイン・品質に対する価値を高め、 店舗イメージや店格の向上を図ろうとするもの。最近では、大手百貨店が独自の売り場展開を行い、需要の掘り起こしや独特のイメージ作りを競っており、小 売マーチャンダイジングの軸となっている。 ◆シングル対象商品(goods for single market)〔1996 年版 マーケティング〕 一人暮らしを対象とした商品。パーソナル用の家電品、デザインや機能に工夫をこらした時計や電話機など、その数は確実に増えている。単身赴任世帯、一人 暮らしの女性世帯などを念頭においた商品の開発は、多様に分解するマーケット・ニーズに応える一方で、シングル・ライフをあるボリューム・ゾーンとして 把握するには感性をみがく必要があり、それだけに、絶えずヒットする要因をていねいに分析しておくことが重要となる。 ◆プライベート・ブランド(private brand)〔1996 年版 マーケティング〕 略してPBともいう。ブランド戦略のひとつだが、商品開発は、安価で良質の商品を求める消費者のニーズに合わせている。すなわち、既存の生産、流通ルー トでは安くて品質がよい商品を仕入れるには限界があるところから、主としてスーパー・マーケットなどの大手小売業者が、自社の顧客に合わせて独自のブラ ンドによる商品の開発を行い、売り出したものをさす。この場合の製造業者は、いわゆる一流メーカーであることが多く、生産されたものはすべて発注者であ る小売業者が買い取る。したがって、メーカーの危険負担は小さくてすみ、消費者は一流メーカーの品を安く買うことができる。 生協のコープ商品もPB商品の一種である。 ◆ノーブランド(no brand)〔1996 年版 マーケティング〕 加工食品、日用雑貨品などの家庭用品を中心として、ブランド名をまったくつけず、白紙にその商品の一般名称(マヨネーズ、洗剤、ウイスキーなど)と容量 および法律で定められた事項のみ記されている商品。カラー印刷のラベルや写真の類も全くなく、その分だけSB(ストア・ブランド)商品と比べ一○∼三五% 程度安価である。ジェネリック・ブランド(generic brand)、ノーネーム(no name)、プレインラップ(plain wrap)などともよばれる。 ブランド離れをはじめた、わが国消費者にとっても、低価格志向の強い層を中心に、ノーブランド商品が受け入れられていく可能性は大きいとみられている。 一部の大手スーパーやボックス・ストアでは、ノーブランド商品を主力とした品揃えで、消費者への浸透をはかっているところもあるが、品質における信頼性 の面では、解決すべき問題も多い。 ◆個店ブランド(individual store brand)〔1996 年版 マーケティング〕 その店でしか購入できない、独自のブランド。PBのバリエーションの一つと考えられるが、PBやSBが増える中で、どれだけの地位を築くことができるか は、未知数の要素が多い。 ◆無印良品〔1996 年版 マーケティング〕 ノーブランド商品の一種。大手スーパーのひとつ、西友が一九八三(昭和五八)年に青山通りに面したところに無印良品を専門に扱う店を開店した。無印良品 は余分な装飾、過剰包装を省略し、機能性、実用性を優先させたものばかりである。 ノーブランドではあるが、「無印良品」という一つのブランドを独自に打ち立てたという見方もできる。ブランドのもつ意味がさまざまに変化する中で、ノー ブランド商品の一つのあり方を示すものとして注目される。 ◆エコロジー商品/環境関連商品〔1996 年版 マーケティング〕 フロンガス、ゴルフ場の雑草駆除のための農薬使用、森林資源への配慮など、エコロジー(生態系)、環境問題への関心の高まりを背景に登場した商品のこと。 ダイエーによる太陽光で分解するポリ袋や、フロンガス使用からプライベート・ブランドのヘアスプレーのLPG(プロパンガス)への切り替え、ニチイによ る古紙再生紙を用いた包装紙の採用などが例として挙げられる。メーカーもこうした動向に対応していくことが予想される。 ◆愛着型仕様商品〔1996 年版 マーケティング〕 ノーブランド商品の別名。この名称はダイエーが使用している。他のスーパーでも、たとえばニチイは「生活発の」店、ユニーは「私と生活」ショップといっ た形で使われている。かつての流通業界におけるノーブランド競争と異なる点は、ブランド訴求のできるノーブランド商品競争(ニューPB競争)ということ である。安かろう、悪かろうという域を脱したコスト・パフォーマンス追求型のPB競争は、違った局面を迎えようとしている。 ●最新キーワード〔1996 年版 マーケティング〕 ●対話型マーケティング(dialogue marketing)〔1996 年版 マーケティング〕 顧客との対話によってマーケティングを成功に導こうとする新しいマーケティング戦略の考え方。 マーケティング戦略を策定する上で、まず標的市場のニーズを確定し、その市場ニーズに適合したマーケティング・ミックスを計画することが重視されてきた。 マーケティングの成功は、出発点である市場ニーズの的確な把握、そのニーズへの製品・価格・プロモーション・流通チャネルの適合化に鍵があると考えられ てきた。 しかし、今日の新製品開発の現場では、市場ニーズは先に存在・確定するものではなく、不断の顧客との対話のプロセスを通じて徐々に理解され、明らかにな っていくという構成的な立場がよく見られるようになった。市場が多様化・多次元化すればするほど市場ニーズを最初に確定することは困難になり、むしろ顧 客との対話を通じて発見し、マーケティング・ミックスも調整されていくという視点が重要であるという戦略論である。 ●スーパー・タグ(super tag)〔1996 年版 マーケティング〕 商品に取り付けられた送受信のための小さいIC素子と印刷されたアンテナ(約三センチ四方)に電波を当てると、商品の種類と値段を示す電波を発信し、商 品五○個の値段を一秒で読みとることができる装置。これによって、これまでのPOSレジのように、いちいち値段を読みとることが必要なくなり、買い物カ ートのごちゃ混ぜになった商品の値段が一度にわかるようになる。この技術は、イギリスのブリティッシュ・テクノロジー・グループと南アフリカの研究開発 機関であるCSIRによって開発されている。現在では、IC一つ当たり数百円かかるが、大量生産できれば二円以下になる見込みで、実用の可能性が期待さ れる。 ●戦略的同盟/製販同盟(strategic alliance)〔1996 年版 マーケティング〕 生活者である顧客に対しての価値づくりこそが、今日のメーカー・サービス業・小売業を問わず重要な問題であるという認識が高まっている。この価値づくり を行うためには、関係する企業間の協働関係が必要であり、この関係を戦略的に作り上げようとする同盟関係を戦略的同盟という。その代表的なものとして、 小売の大規模化による交渉力の増大とともにメーカーと小売間に発展していったこれまでの競争関係に代わって、川下の顧客の生活情報をもつ小売業とその情 報を活かして自らの製品開発力を発揮できるメーカーとの製販同盟が挙げられる。 戦略的同盟を結んでいる企業としてアメリカのウォルマートとP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)、日本ではダイエーと味の素、セブン・イレブン・ ジャパンとアメリカの食料品メーカー、フィリップ・モリスなどがある。 ウォルマート社では、顧客に対する価値づくりの観点から、メーカーとの価値観の共有・強い協力体制・コスト圧縮と効率改善と高いレベルのサービスの両立 を果たすために、メーカーとの戦略的同盟を結んだ。同社の全店のPOSデータは、衛星通信によってリアル・タイムに同盟関係のメーカーに送られ、それに よって効果的な製品開発を可能にし、在庫管理・物流などのコスト効率を改善し、特売ではないEDLP(Every Day Low Price 安定的に毎日安い)を実現 している。こうした企業間の同盟関係は、顧客満足型経営の重要性の認識の高まりと共に、ますます進展していくことが予測される。 ●オープン価格〔1996 年版 マーケティング〕 定価や標準価格、メーカー希望小売価格とは異なり、小売店が自由に値をつけることができる価格(制度)で、家電、食品、玩具業界などで増えている。オー プン価格への移行傾向の背景には、実売価格との差が大きい、地域・店舗によって流通・人件費などの小売側のコストが異なるために小売店が価格を決めた方 がよいという考え方がある。 公正取引委員会は、家電製品についてのオープン価格への切り替え基準として、「半数以上の店が二割以上値引きしている場合か、三分の二以上の店が一五% 以上の値引きをしている商品はオープン価格にする」と定めている。今日、この基準に該当する製品が増加しており、一九九三(平成五)年一一月、公取委に よるオープン化の徹底がはかられ、ビデオカメラなど家電メーカー八社は、三六四機種のオープン価格移行を行った。オープン価格化された商品では、メーカ ー希望小売価格と実際の小売価格を対照させて表示することは不当景品類及び不当表示法で禁じられている。紳士服ディスカウンターで問題になっている仕入 れ価格を大幅に上回る自店通常販売価格との比較によって値引率が高いように見せかける不当な二重価格表示などの問題の解決や、小売努力による低価格化の 進展、といった望ましい点がある反面、基準価格が表示されなくなるために、消費者の商品知識や品質を見る目が必要となる。 ●パワー・センター(power center)〔1996 年版 マーケティング〕 一九八○年代にアメリカで生まれ、急成長した流通形態。一店でも相当の集客力を持つ多くのディスカウンターやカテゴリー・キラーを同じ敷地内に集め、運 営されている。 日本では現在新潟県長岡市のアークプラザなど一○カ所ほどのパワー・センター形式のものが見られるが、アメリカに比べ、強力なディスカウンター、カテゴ リー・キラーの生育が遅いため、こうした事態の発展が本格的なパワー・センターの成長の鍵となる。 ●ブランド・エクイティ(資産)(brand equity)〔1996 年版 マーケティング〕 ブランド、ブランド・ネーム、シンボル性によって形成されるブランドの資産と負債であり、ブランド・エクイティがプラスの資産となる時は企業とその製品・ サービスの価値を増大させ、一方負債となる時は減少させるというブランドに対する考え方である。 D・A・アーカーによればブランド・エクイティは次の五つから構成され、ブランドを育成することによって競争上の優位性を獲得し、効果的ブランド戦略を 展開する上で重要な概念であるといえよう。 (1)ブランド・ロイヤルティ、 (2)ブランド・ネームの認知度、 (3)知覚される品質、 (4)ブランド連想、 (5)ブランドに関する特許・商標・チャネル などの所有権。 ▽執筆者〔1996 年版 小林 広告宣伝〕 太三郎(こばやし・たさぶろう) 早稲田大学名誉教授、埼玉女子短期大学学長 1923 年群馬県生まれ。早大文学部社会学専攻卒、同大大学院修了。日本学術会議会員。著書は「広告管理の理論と実際」 「現代広告入門」 「広告」 「産業広告」 「広告のチェックリスト」「広告宣伝」「生きる広告」ほか。 ◎解説の角度〔1996 年版 広告宣伝〕 ●わが国の 1994 年の広告費は 5 兆 1682 億円、前年比 100.8%で、3 年ぶりに前年を上回った。総広告費に占める各媒体広告費は新聞 21.7%、雑誌 6.7%、ラ ジオ 3.9%、テレビ 31.8%(マスコミ4媒体広告費計 64.1%)、DM5.0%、折込広告 7.0%、屋外広告 6.3%、交通広告 4.6%、POP広告 2.7%、電話帳広告 3.4%、展示・映像他 6.6%(これらSP広告費計 35.6%)、ニューメディア広告費 0.3%である。 ●広告主の 95 年における広告問題。小林監修ADCON調査による、有力広告主 221 社の回答。1 位企業広告への取組み、2 位パブリシティ、3 位広告・PR 全般への取組み、6 位トレード・プロモーション、7 位地域広告、8 位プレミアム・プロモーションへ、9 位ダイレクト・マーケティング、10 位口コミ戦術へ の取組み。 ●95 年 7 月の広告活動実態調査によると、産業広告主の現在のマーケティング活動の重点は、新製品の開発が 74.1%で 1 位、これに製品の品質・性能 72.8%、 製品の価格政策、顧客への技術サービス、顧客への製品・ソフトサービス、流通対策、広告宣伝活動、セールスマンの育成・管理、市場調査などが続く。 ★1996年のキーワード〔1996 年版 広告宣伝〕 ★ブランド資産評価(brand asset valuator)〔1996 年版 広告宣伝〕 これはアメリカの大手広告会社(ヤング・アンド・ルビカム社)が開発したブランド資産評価(システム)で、ブランドがどのような課程で構築され、知覚・ 評価されるかを調査し、ブランドの力、潜在力を測定するシステムである。全世界を通じ、三万人の消費者、六○○○種のブランド(グローバル・ブランド四 五○種類が含まれる)を対象に、なぜあるブランドが成功・失敗したかについて、ブランド構築プロセスの中から差別(differentiation)、関連(relevance)、 尊重(esteem)、親密(familiality)の四要因の視点から調査分析する。この成果は、得意先の広告主を担当するブランド・マネジャー、クリエイターなどに、 広告戦略・戦術面での開発に利用されている。同社によれば、ブランド構築と商品が売れるプロセスは異なるようである。 ★スタンバイ・コミュニケーション(standby communications)〔1996 年版 広告宣伝〕 スタンバイ・コミュニケーションの「スタンバイ」は「緊急時用に用意されている」 「いざというときに頼りになる」 「待機している 用意されている、 いざ鎌倉時 」などを意味する。この を待っている、コミュニケーションのことが、スタンバイ・コミュニケーションである。 この緊急時の「思いがけないたいへんな不幸」がディザスター(disaster)と呼ばれ、このディザスターの抑制がディザスター・コンテインメント(Disaster containment)と呼称されている。不慮の出来事をうまく抑える計画が、広告とかPRの世界では「ディザスター・コンテインメント・プラン」 (災難抑制計画) といわれるところのものである。 この災難抑制のために用意するコミュニケーションが、企業にとってますます大切となるのは必至。コーポレート・コミュニケーション、PR、企業広告視点 などから、その重要性はいっそう増すことになろう。 アメリカの広告主は、スタンバイ・コミュニケーション計画に一般に注意をはらっている。「貴社は災難抑制用のスタンバイ・コミュニケーション計画をお持 ちですか?」との質問に対する回答は表の通りである。(アメリカ広告主協会は企業コミュニケーション委員会を通じスタンバイ・コミュニケーションを時系 列的に調査している)。 ★クライシス・コミュニケーション(crisis communications)〔1996 年版 広告宣伝〕 スタンバイ・コミュニケーションは緊急事態に対応するメッセージであるので、クライシス・コミュニケーションとも呼ばれる。ジャーナリスト高雄宏政氏は、 緊急事態を、アクシデント(災害、事故、事件)、企業内不祥事(反社会的行為、経営危機、企業機密の漏洩)、企業・業界問題(企業・業界への告発、誤報、 誹謗中傷)の三つに区分している。 ★カテゴリー広告(category advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 市場環境の変化とともに、個々のブランドを対象としたブランド管理にとって代わり、最近では一つのカテゴリー(範疇)に属する多種類の製品ブランド全体 の利益を一括して考える管理方法、すなわちカテゴリー・マネジメントが一部からより注目されるようになってきている。例えば、プロクター・アンド・ギャ ンブル社の食器洗い用洗剤のカテゴリー広告(印刷広告の場合)では、四つのブランド(ジョイ、アイボリー、キャスケード、ドーン)がいずれも食器の衛生 問題を解決すると訴求し、また同社の洗濯用洗剤カテゴリー広告(テレビCM)では、濃縮洗剤がゴミの量を少なくするのに役立つと環境問題をも取り上げて いる。 カテゴリー広告はカテゴリー内の各ブランドに共通する強力なメッセージで、PB商品や他の低価商品との競争に対抗するためといわれているが、長期的には ブランド・アイデンティティ、ブランド・エクイティを弱める要因にもなるのではないかという見方が、マーケティング・コミュニケーション業界にもある。 ★イン・フロア広告(in-floor advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 小売店のフロア・スペースを使用したPOP広告で、ダラスのインドア・メディア・グループ社で開発したもの。二フィート 二フィート、二フィート 四フ ィートの四色刷広告パネルが床スペースに埋め込まれたもので、表面は透明で丈夫なポリカーボネート製タイルでカバーされており、パネルの変換は簡単。イ ン・ストアの戦略的な場に置けるから効果も大きい。この広告の媒体料金はマーケットごとに店舗数と各店の買物客取引回数に基づいて体系付けられ、一年が 四サイクルに区分され、一二週間で一サイクルというプログラム単位で契約が行われている。 ★屋外広告のリースボード〔1996 年版 広告宣伝〕 リースボードはリース形式の屋外広告板で、広告費の効果・効率的利用化、特定地域の集中メッセージ化、市場細分化、販売刺激化のためにいっそう注目され るようになってきた。これは、(1)都市型リースボード(例:ファッション・ボード〈ジュンファッションボード事業部〉、D‐1ボード〈第一通信社〉、パ シフィックメディア・スーパービジョン〈パシフィックメディカ〉、コミュニケーション・リースメディア〈富士アド〉など)、(2)駅対象型(例:トランジ ット・リースボード〈トモエ製作推進局〉、ステーション・ビジャル・アドボード〈江泉〉、ターミナルボード〈NKB〉など)、 (3)特定立地型(例:Kボー ド〈川鉄コミュニケーションズ〉、SPボード(ブリズマビジョンやゴルフ場ボード〈第一企画アドボード事業局〉、ユー・エヌ・エス・メッセージボード〈U・ N・S〉)、 (4)学校対象型(例:キャンパスボード〈キョーシン・アド〉、カレッジ・ボード〈弘亜社〉、スチューデント・ボード〈東京電装〉)に区分される。 広告主は広告の設置地域、サイズ、料金・契約期間、目標のターゲット、外照設備、屋外広告効果資料(サーキュレーション、インパクト係数、到達率、露出 回数、その他など)を踏まえてリースボードを選んでいる。 ★新オープン懸賞(new open sweepstake)〔1996 年版 広告宣伝〕 オープン懸賞とは懸賞によって一般消費者に賞品・賞金などを提供するもので、その告知を主に広告を通じて行う場合をいう。いかなる場合でも取引に付随し ないことを条件とする。 「取引に付随しない」とは、 「商品を買わなければならないというものでない」の意。また買うことにつながる可能性がある場合は、取 引に付随するとみなされるので注意が必要(商品の容器や包装に問題を表示すること、容器や包装に示されている文字・模様などを模写したものを掲示させる こと、容器・包装に問題の答・ヒントが書いてあって、買うことで回答を容易にすること、小売店舗に応募用紙・応募箱を置くこと、小売店に行かないと応募 内容が明らかでないこと、などがないようにすること)。 一般業種オープン懸賞の制限内容は一○○万円以内(総額制限なし)である(一九九五年一○月現在)が、公正取引委員会は九五年六月末に公表した景品表示 法の運用基準を緩和するための改正案につき各方面から意見を聴取中で、公聴会開催の方向で努力中である。公取委の改正案は、オープン懸賞の上限を一○○ 万円から一○○○万円に引き上げる、商品購入者・小売店の入店者全員にもれなく景品類を提供する総付け景品の最高額五万円の上限枠を撤廃する、百貨店や スーパーでの景品付き販売を解禁するなどの案を考えているが、九六年春ごろ改正案が承認されると、インセンティブ・プロモーション、特にこの新オープン 懸賞のインパクトは一段と強力なものになろう。一部の広告会社はこの種のプロモーションをどう効果的・効率的に戦略・戦術に用いるかをねらった関係筋に 配付するパブリケーションを準備・制作中。 ★安全顧客指数(secured customer index)〔1996 年版 広告宣伝〕 アメリカのバーグ顧客満足社(BCSC)は、このほど安全顧客指数を作るようになった。この作業担当者は同社の調査・開発ディレクター、アマンド・プラ ス氏。同社によれば、顧客ロイヤルティは商品試用のための提供物への反応物ではないし、このロイヤルティは強力な市場占有でもない。また、これは繰返し 購入とか習慣購入でもない。顧客ロイヤルティは顧客満足の上昇で高まるし、ブランドとか企業に顧客が続いて投資することにもかかわっているし、顧客の態 度と行動の組み合わせにも反映している。 前述の担当者は顧客の態度と行動に次のような見方を寄せている。態度には、 (1)同一企業からの再購入の意図、追加商品・サービスの購入意向、 (2)その 企業を他の人々に喜んで推薦すること、(3)競争相手の方への切替えに抵抗することでの、その企業へのコミットメントの三つが含まれる。一方ロイヤルテ ィに反映する消費者行動としては、(1)商品・サービスの繰返し購入、(2)同じ企業からのいっそうかつ他の商品・サービスの購入行動、(3)企業を他の 人々に推奨すること、これら態度・行動分野の諸要因の一つだけでロイヤル顧客が説明できるというわけでもないとのこと。こういう考え方を踏まえ、BCS C社は顧客ロイヤルティ測定をするためSCI(セキュアード・カストマー・インデクス、安全顧客指数)を開発するに至った。 顧客ロイヤルティ測定のための主要三構成要因 (1)全体的顧客満足(繰返しビジネスの見込み) (2)他人への企業推奨 (3)(産業によるが)指数に含められる他の要因 以上三項目が意味ある顧客ロイヤルティ指数の中核となる。つまり、これらが一緒になって顧客ロイヤルティ、またはより広い意味での顧客安全(セキュリテ ィ)を物語るものになるというのが、この社の所見。例えば、レストランの顧客の全体的、かつ包括的な満足を調べるために、「このレストランにあなたはど の程度満足していますか?」、推薦程度をみるため、「あなたは友人や同僚にこのレストランをどの程度お奨めしていますか?」、繰り返し購入の度合いを見る ため、「このレストランをどの頻度で利用になりますか?」と質問し、その三回答に基づきSCIを求めることになると確かで、安全な顧客は「全体的にたい へん満足している」、そして「確かにそれを推奨する」加えて「確かに続けて使う」人である。この三満足、推奨、継続利用に連動する顧客が安全なカストマ ーでSCIスコアの高い人である。自社ブランド、これと競合する他社ブランドのSCIを求め、相互に比較することで、市場発展に努めることは重要な戦略 事項となる。 ★クリッピング・サービス/広報効果分析レポート〔1996 年版 広告宣伝〕 広告主に代わって、広告主関係の新聞のパブリシティを切り抜き、朝一番に契約企業側に届けるサービスを、デスクワン(東京・本郷、社長 瀧川忠雄)はク ライアント七○社に提供中。記事抽出対象新聞は東京地区最終版の朝日、読売、毎日、日経、産経の五つで、パブリシティ記事を収集し、特定企業に関する記 事のスペースに一平方センチメートル当たりの出稿単価を掛け、広告換算値を算出している。記事が企業のイメージ創成に役立つなら「好意」、逆に事故・事 件などの加害者として扱われるものは「非好意」、自己責任のない事件・減益決算などの場合のものはニュートラルとして評価される。一九九五(平成七)年 度好意記事トップ一○として、一位NTT(広告換算値、一億二八三三万六○○○円)、二位東芝(一億一六六一万三○○○円)と順位を報じているし、また 企業人のコメント、経営、人事・組織、商品、販売、生産、技術などの項目別トップを算出している。同社発行の「広報効果度分析レポート」の料金は平均一 ○万円だが、九五年九月から広告会社電通との業務提携が行われる可能性は大きい。この種のクリッピング・サービス会社は全国で約二○社だが、広報効果度 の分析はこの業界では初めてとの由。 ★テレ・コン ワールド〔1996 年版 広告宣伝〕 深深夜といってもよい午前三時、四時台に放送されるTVショッピングへの興味・関心が一段と高まっているが、その走りともいえるのが、テレビ東京が一九 九四(平成六)年七月から放送終了間際の時間帯に流している新手の買い物情報番組「テレ・コン ワールド」(月∼金)というプログラム。このプログラム の特徴は、商品紹介の方法がドラマ型で、一商品に一五分程度の時間をかけ、広告商品の特性に合わせ、時には公開ショー番組風、ときに郊外ロケをかなり入 れ込むアプローチをとることもある。約一時間の放送時間に広告商品が四点ほど扱われ、それぞれが独立したプログラムような感じを与え、オーディエンスを 惹きつける力は強力。この手法はフィラデルフィアをベースにするナショナル・メディア社が考案したもの。この種のものはインフォマーシャルとも呼べる。 広告商品は、ナショナル・メディア社の子会社、クアンタム・インタナショナル(本社はロンドン)が自社開発し製造している。この動きは地方にも広がり始 め、地方のローカル局が相次いで参入しているのが現況。 ▲広告の機能と広告環境〔1996 年版 広告宣伝〕 広告に求められる機能は、ますます拡大・高質化している。ブランド・エクイティ(資産)と広告、環境保全と広告、製造物責任と広告、公共広告機構と広告、 規制と広告、などの関係をみるだけでも現代広告は進んできているといえよう。 ◆広告の差別化〔1996 年版 広告宣伝〕 広告表現の差別化、広告による商品の差別化などと同じ意味で、広告表現面での差づくりを意味する。トヨタ自動車がテレビCMと新聞を連動させて「話そう。 ―いいクルマってなんだろう」の企業広告を一九九四(平成六)年に展開した。テーマを「クルマと幸福について」とし、九五年六月、七月、一五段を用い全 国紙五紙から県紙まで計五三紙に広告を出稿。テレビCMは各掲載目前の木∼日曜日の午前にスポットで集中広告。CMの構成は従来のクルマ広告とは違う。 そして「日曜日の朝刊で」とアピール。両媒体の共通キーワードは「そのクルマに 幸福 、ついてますか?」。その新聞広告では、環境、安全などを軸にクル マと人間の関係をめぐるいろいろな問題を提起。これは企業広告だが、差別化の点では高印象で記録新たなものがある。広告表現面で、他社のものと差をつけ、 より効果・効率的な、強力な市場インパクトをねらおうと、広告主側が強く心掛けているのが現況といえよう。表現方法の一つとして奇抜とか珍奇な広告コミ ュニケーションを効果的にする一つの要因だが、所定の広告メッセージ目標の遂行にこれが同調していなければもとより意味はない。 ◆リセッション広告(recession advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 リセッション(景気後退)を全面的または部分的に扱った広告である。大別して扱い方に二つの流れがみられよう。(1)ウォール・ストリート・ジャーナル が行った広告、たとえば、リセッションのとき広告出稿を減退すると景気がよくなる時には企業の伸長とか上昇の時期が遅れるようになるなどと、これまでの 調査・観察資料を踏まえて、リセッション時には広告の出稿が戦略的に大切だとアピールする広告、 (2)リセッションを逆に利用し、 「ダウンした市場にいか に入り込むか、その方法を教えます」からリード文が始まる新聞広告の対住宅購買助言広告が一例となる。 ◆おとり広告〔1996 年版 広告宣伝〕 広告である一部商品価格が非常に安い旨を強調する場合、広告主にその商品を売る意思がなく、店に誘導した消費者に他のより高い商品や広告主にとってより 有利な商品を買わせようと意図しているときは、その広告はおとり広告として広告規制の対象となる。一九八二(昭和五七)年六月公正取引委員会は景品表示 法四条三号の規制により、「おとり広告に関する表示」を不当表示として規定、同年一二月から施行されたが、広告に掲載された商品やサービスが「実際に取 引することができないもの」とか「取引の対象となり得ないもの」である場合に、その広告が「おとり広告」と規定されたのである。しかし、九三年四月二八 日に「おとり広告に関する表示」は下表のように変更され、九三年五月から施行さている。 ▼おとり広告に関する表示 [1993(平成5)年4月 28 日,公正取引委員会告示第 17 号] 一般消費者に商品を販売し,又は役務を提供することを業とする者が,自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引す る手段として行う次の各号の一に掲げる表示 1 取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は 役務についての表示 2 取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず,その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務に ついての表示 3 取引の申出に係る商品又は役務の供給期間,供給の相手方又は顧客の一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず,その限定の内容が明瞭に記 載されていない場合のその商品又は役務のついての表示 4 取引の申出に係る商品又は役務について,合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその 商品又は役務についての表示 ◆日本広告審査機構(日広審 JARO)(Japan Advertising Review Organization)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告主、媒体、広告代理業を主体とする会員から構成されている広告の審査機関で、広告問題の審査、処理にあたる部門と、この機構の運営にあたる二つの部 門からなっている。その事業内容は次のとおりである。 (1)広告、表示に関する問い合わせの受付、処理、 (2)広告、表示に関する審査、指導、 (3)広告、 表示に関する諸基準の作成、(4)広告主、媒体、広告代理業の自主規制機構との連携、協力、(5)消費者団体、関係官庁との連絡、協調、(6)企業、消費 者に対する教育、PR活動、 (7)情報センター機能の確立、 (8)その他、目的達成のための必要事項、などである。一九七四(昭和四九)年一○月から業務 を開始したが、その審査、処理部門には関係団体協議会、業務委員会、審査委員会をおき、諸々の問い合わせの審議と処理に当たる。審査委員会の裁定の結果、 広告主側に非ありとすれば、広告主に広告の修正・停止を求める。広告主がこれに従わない場合、この委員会は公表、媒体各社に広告掲載の差止め処理ができ る。事務局は問い合わせの窓口となり、可能な範囲で処理することとなっている。 ◆公共広告機構(Public Service Advertising Organization)〔1996 年版 広告宣伝〕 一九七一(昭和四六)年、関西に発足し、現在では東京にも本部を構える、公共広告を推進する非営利団体である。 アメリカには、広告協議会(AC Advertising Council)があって、小児マヒ、町の清潔、山火事、汚染防止などをテーマにした公共広告を展開してきたが、 これをお手本にした機関が公共広告機構といえる。機構の会員となった企業から資金を、媒体側から割安な紙面や時間を提供してもらい、資源、食糧、福祉、 身体障害者、留学生の扱い、道徳、その他をテーマにした広告を行ってきている。 九二年五月発行の、 (1)公共広告機構二○年史、 (2)七二年∼九一年までのキャンペーン作品集は機構を知る上で大いに役立とう。九三年三月の、ヘッドで 「高く高く、大空を舞いたい。もう一度 。」のトキを取り上げた新聞広告、九五年の「これは人間と地球との約束です」のラムサール条約、ロンドン条約、 マルポール条約、ワシントン条約、ウィーン条約の提示、「自然環境を地球的規模で考え、足元から行動を 」を訴えるものは、あなたの記憶には残っている 広告かも知れない。 ◆国際広告のエージェンシー・ネットワーク(agency network of international advrertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 エージェンシー・ネットワークは、競合的でない、経営規模もだいたい類似したいくつかの広告会社が、参加広告会社相互間でのアイディア交換、必要情報の 収集・提供、広告・マーケティング・サービスの提供などを通じ、相互の利益をたかめるためにつくられるエージェンシーのグループで、これは国内的と国際 的のネットワークに区分される。このエージェンシー・ネットワークは一九二○年代にアメリカに登場した。リン・エリス・グループが二九年に発足、これが 最初のエージェンシー・ネットワークとなったのである。中堅広告会社がエージェンシー・ネットワークに参加するケースが一般的である。広告会社の多くは、 グローバル・コミュニーケーション時代、広告会社のサービスの国際化に対応するため、国際広告のネットワーク問題に関心を強めている。 ▲広告業界〔1996 年版 広告宣伝〕 一九九五(平成六)年、広告会社のトップマネジメントは何を重視しているのかを簡単にまとめておこう(小林太三郎監修「九五年広告会社第一四回ビジネス サーベイ」〈ADCON発行〉による)。わが国の上位広告会社の経営指針の一部である〔トップ広告会社(年間取扱高三九九億円以上 一三社の一部)〕。 (1)一九九五年という「潮目」の年を迎え、勇断を持って社の変革に取り組め。 (2)個個人の能力・個性を結集して、成果を出すこと。 (3)革新の年、革 新の中にビジネス・チャンスあり。 (4)創業二世紀に入り、時代認識をして「変革に向かって行動する年」がスローガンである。 (5)競争力強化、国際化の 推進。 (6)構造改革への変革に対応。生産性向上、営業収益の拡大、人事制度の見直し、社内システム化の推進。 (7)当社でなければできない仕事を明確に 打ち出して、クライアントの信頼に応えることを遂行する。(8)英知と行動を結集して体質改善に取り組む。(9)常に新しいものへの挑戦。(10)広告主の 様々な価値に対応した、その存在意義をより明確にすべき年。 ◆クリエイティブ・エージェンシー(creative agency)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告代理業の一種であるが、おもに広告のクリエイティブ・サービス(広告制作サービス)を、広告主に対して提供する代理業である。アメリカでは発達して いる。マーケティング・サービス、市場調査、広告効果測定、その他の総合広告代理業が提供しているようなサービスは、できる限り外部の専門機関を利用し てこれらの面を適当に処理しつつ、ユニークな広告クリエイティビティ面に主力をおく代理業といえる。 ◆ハウス・エージェンシー(house agency;inhouse agency)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告代理業の特殊なタイプで一般に、特定の広告主によって、財務的に管理、所有されている広告代理業をさす。広告主からみれば、自社だけの専属代理業と いったものになる。広告主専属広告会社または代理業ともよばれている。大規模広告主の場合には、広告予算がきわめて大であるので、これを使うと媒体手数 料が回収でき、経済的であると同時に、企業機密を保持することができるといった長所はあるが、独立の広告代理業のもつ客観性、広告表現の創造性、媒体支 配力(または共生力)、豊富な広告知識と広告経験、バイタリティ、機動力といったものに欠けるおそれがある。とくにクリエイティビティのマンネリ化を防 ぐのがむずかしくなる。この種のエージェンシーは現在販売促進の分野で利用されているのが目につく。 ◆広告ネット(advertising network)〔1996 年版 広告宣伝〕 たとえば、ある親会社(広告会社)がその傘下各広告会社ネットワーク内の特定部門を統合し、その特定領域を表示したグローバル・ネットワークのことを「広 告ネット」と呼ぶ。この好例はS&S(サーチ&サーチ)で、傘下各会社ネットワーク内のヘルスケア部門を統合、グローバル・ヘルスケア広告ネットワーク 「ヘルスコム」という機関を創設した。大型広告会社のグローバル・サービス提供の戦略的提供方法として関心を集めている。 ◆ビリング(billing)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告代理業が取引先の広告主(クライアント〈client〉、またはアカウント〈account〉ともよばれる。なお、一般によく使われているスポンサー〈sponsor〉は、 ラジオとかテレビの広告主を意味するもので、印刷媒体には適用されない。)に請求する媒体料金に、広告スペースやタイムの購入以外の代理業が提供するサ ービスの代金の合計がビリングになる。これは広告代理業の「取扱い高」ともいわれている。広告会社が広告主に請求する金額のこと。 ◆プレゼンテーション(presentation)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告代理業が、見込み広告主および取引中の広告主などを対象にして提出する広告キャンペーン計画書をふくむ提示・説明活動をいう。もっとも広告代理業が これまで取引してきた広告主に対して、取引継続のために提出する広告計画書の提示説明活動を、レコメンデーション(recommendation)と区別してよぶこ ともある。プレゼンテーションとは、一般的に広告代理業が広告主を対象にして行う場合が多いが、また媒体社がタイム・スペース販売のために広告代理業ま たは広告主に対してあるいは独立制作プロダクションが広告代理業、媒体社、広告主に対して行う特定キャンペーンに関するクリエイティブ企画、特定問題に 対する一連の解決策の提示説明、などをさしていう場合もある。 ◆VPコーディネーター(visual presentation coordinator)〔1996 年版 広告宣伝〕 デパートなどでの、消費者に伝えるメッセージの視覚的伝達がビジュアル・プレゼンテーションである。VPコーディネーターは、商品を陳列するデコレータ ー、照明をデザインする照明デザイナーではなく、視覚面のプレゼンテーションのアイディア、プランをあつかい、その領域に関係する人々をまとめあげる人 である。 ▲広告計画・広告管理とその周辺〔1996 年版 広告宣伝〕 広告計画の立案、広告戦略・戦術の展開には各種の重要関連要因が伴うので、プランナーは細心の注意をもって、これらの諸問題に対応するよう努めなければ ならない。広告はマーケティング・コミュニケーション、マーケティングなどに連動しているので、プランナー、広告主の幹部はこれらについての幅広い知識・ 経験が必要になる。「広告計画・広告管理とその周辺」で扱った項目はもとより、他区分での用語をも理解いただいた上で、計画・戦略問題に対応されたい。 ◆パブリック・リレーションズ(PR)(public relations)〔1996 年版 広告宣伝〕 個人または組織体が、相手の意見とか態度を好ましい方向に指向する際にみられるもので、「個人ないし組織体で持続的または、長期的な基礎に立って、自身 に対して公衆の信頼と理解をかち得ようとする活動」と定義されている。企業に例をとれば、一般大衆、消費者、従業員(その家族とか関係筋)、販売業者、 資材仕入先の関係業者、株主、債権者、銀行などの金融関係、政府諸機関、教育機関、その他のグループなどがPR活動の対象となりうる。活動に際しては、 (1)各関係グループの意見、または態度調査を行う、(2)好ましくないと思われている面を是正し、好ましいと思われている面をいっそう助長するような 考え方がなされていなければならない。PR活動の種類にはいろいろ含まれるが、パブリシティ、MPRおよびCPRもPRの一部である。 ◆コーポレート・コミュニケーション(corporate communication)〔1996 年版 広告宣伝〕 これは次のように解される。(1)PRと同意語、(2)PRとコーポレイト・アイデンティティ(CI)を含む用語、(3)企業または機関とか組織体の各部 門、段階のコミュニケーションを統合する統一的コミュニケーション活動。 アメリカのある企業はコーポレート・コミュニケーションの中に、 (1)プレス関係、社内コミュニケーション、 (2)エディトリアル・サービス(講演、文献・ 資料提供、投資家関係など)、(3)パブリック・アフェアー(政府関係、地域社会関係、消費者関係、慈善活動関係など)、(4)広告などを含ませているが、 これは広義的なものとみてよい。 アメリカのPR・コンサルタントの一部は「コーポレート・コミュニケーションズ」というコトバをPRの代わりに使っている。 ◆メディア・ミックス(media mix)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告媒体、つまり新聞、雑誌、ラジオ、テレビはじめ屋外広告媒体、交通広告媒体、ダイレクト・メール、劇場媒体(または映画広告媒体)、POP広告、新 聞折込広告、その他の広告媒体などを組み合わせることをいう。メディア・ミックスは広告媒体戦略に関するもので、広告主(企業側)にとって所定の広告メ ッセージを見込市場に効率的に伝達するためにはこれがどうしても必要になる。 ◆広告質(quality of advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 最近、テレビの視聴質が話題となっているが、広告質は広告の一面をあらわすもの。現在、わが国の広告産業界で云々されている広告「質」問題はおよその次 のとおり。 (1)新聞媒体の質=新聞広告の注目率(媒体サーキュレーション∼媒体到達率∼広告(物)露出・注目率関係視点からの)、クーポン広告の新聞媒 体・広告の活性化問題など、 (2)テレビ媒体の質=視聴質【ピープルメーター方式やフルパッシブメーター方式によるテレビの視聴】、電波料金の考え方・扱 い方、CM著作権への対応など、(3)雑誌媒体の質=雑誌発行・販売部数のいっそうの明確化による雑誌媒体・広告質の向上。 ◆流通広告(trade advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 チャンネル広告ともよばれている。これは消費者用品、または産業用品メーカーや卸商などが、小売業者を対象にして、当該商品のストックと売上げ増進をめ ざして行う広告。つまり、流通経路上の販売機関を対象にする広告。流通広告には主としてDM広告と業界紙・誌が用いられるが、ときに業界紙・誌の代わり として一般紙・誌が用いられることもある。 ◆意見広告(opinion advertising;issue advertising;advocacy advertising;protest advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 個人ならびに組織体が特定の重要な事柄についてそれぞれの意見を陳述する広告が意見広告である。わが国のある新聞社は、これについて「(1)表現が妥当 なものは掲載する。ただしその意見について署名者が責任をもち得ないと判断されるものは掲載しない。(2)広告および広告の機能を否定するものは掲載し ない。 (3)紛争中の意見は公共性が高いもので表現の妥当なものに限り掲載する。ただし裁判中の関係当事者の意見は原則として判決確定前は掲載しない。 (4) 個人の意見広告は内容、肩書きを問わず掲載しない」と広告掲載基準で規定している。 ◆アドボカシ広告(advocacy advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 企業と消費者間の信頼関係を回復しようとする広告。企業の動き、実態を知らせて、特定の企業活動とか利潤獲得がいかに適正であるかを理解させ、その企業 を支持させ支援を求めるための広告である。定訳はないがいまのところ擁護広告、または主張広告といえよう。これまでの企業広告とは広告姿勢がいささか異 なる。わが国でもこの種の広告は次第に考えられるようになるだろう。 ◆タイ・アップ広告/タイ・イン広告(tie-up ad./tie-in ad.)〔1996 年版 広告宣伝〕 ある広告主が同業者とか関連産業界の諸企業または商店街の諸企業などとタイ・アップする広告(水平的共同広告)、さらには広告主が自社の流通経路(たと えば販売店など)と共同して行う広告(垂直的共同広告)をタイ・アップ広告、タイ・イン広告、ジョイント広告、または共同広告という。 ◆リスポンス広告(response advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告の受け手から反応を直接得ることを目的とした広告を意味する。この目的に基づいたダイレクト・メール、通信販売用の広告などがその一例である。最近 は新聞、雑誌、新聞折込、ラジオ、テレビなどにもこの広告が掲載または流されるようになった。別名としてダイレクト・リスポンス広告、リザルト広告、直 接反応広告などがある。 ◆カギつき広告(keyed advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 「カギ」 (key)とは、広告でクーポンの返送をねらうとか、カタログ、サンプルなどを請求させる場合に、どの媒体、あるいは、どのコピーをみてそうしたの かを確認するための符号である。カギつき広告の使用目的は、(1)媒体価値測定、(2)コピー測定、(3)新製品の興味測定などで、一般には媒体価値測定 に使用されることが多い。つまり、新聞ごと雑誌ごとに送り先の番地や係名を変えたり、購読紙・誌を書かせたりして、回答を分析できるようにする。また、 このカギを各広告コピーごとに変えるようにするとコピーの評価もできる。これは、スプリットラン・テスト(splitrun test 分割掲載法)で、よくみられる ものである。 ◆ティーザー広告(teaser advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告キャンペーンの際、とくにその冒頭で「何の広告だろうか?」という疑問を消費者に抱かせることで、それらへの注意と関心を集めるために商品名とか広 告主などを判別できるようなメッセージを用いず、回を追って徐々にその商品名、広告主名を明らかにしていくか、あるいはある一定時点でそのベールを一挙 に脱ぐかのいずれかの方法により、その注意と関心の高まりはいうまでもなく、さらにこれらを確信・購買の段階へまで押し上げようとする広告のテクニック を意味する。印刷広告の場合は、シリーズ形式の広告をこのために用いる。覆面広告はこの別名である。 ◆マルティプル・ページ広告(multiple pages advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 マルティプル広告ともいわれ多ページ広告、すなわち雑誌広告でいえば、たとえば、八ページ、一○ページというように数ページ構成の広告を意味する。 ▲広告媒体と広告表現〔1996 年版 広告宣伝〕 ターゲットに、何を、どう効果的に伝えるか、それをどんな媒体とか手段で流すかといったところで、表現戦略と媒体戦略が登場することになる。この部門で は、メインフロア番組の変則統合CM、電子新聞用双方向広告システム、CD‐ROM広告媒体、視聴質問題、ピープルメーター、ストア配布媒体、その他な どの用語を取り上げてみた。 ◆変則統合CM〔1996 年版 広告宣伝〕 統合CMとはラジオやテレビの番組の主なパフォーマンスの中で流されるCMで、番組内容がCMの一部になるといったコマーシャルのこと。 番組とCMの区分が視聴者にははっきり分からないので、この種の広告への批判も一部には出ている。電波広告のタイプの一つに「統合(型)広告」がすでに あるが、この「メイン・フロア」番組は、番組とCMの差をいっそう分からなくしているので、筆者は変則統合CMと名付けている。 ◆CD‐ROM広告媒体(Compact Disc Read Only Memory advertising medium)〔1996 年版 広告宣伝〕 CD‐ROMを広告媒体として利用する動きが目立ってきた。ソフトバンク社が発行するCD‐ROM付き雑誌のCD‐ROMに、コンピュータグラフィック ス(CG)技術を使い新たに制作した広告を入れる。ソフトバンク社が一九九四(平成六)年七月二○日に創刊した「D‐GMAG」(デジタルマガジン・フ ォー・マッキントッシュ)」に広告を入れた。同誌は紙媒体とCD‐ROMで構想され、創刊号には、編集番組としてCGアーティストの作品、マック用のソ フト紹介などが掲載され、発行部数は二万五○○○部。広告の画像は博報堂がCD‐ROM用に制作している。制作費はテレビCMの一○分の一以下のようだ。 ◆電子新聞用双方向広告システム〔1996 年版 広告宣伝〕 電子新聞の画面構成を想定し、それに広告を組み込む形で制作したもので、新聞記事の見出しが並ぶ画面では記事の下方に広告を配置し、画面上の広告部分を クリックすると詳細な広告を見ることができる仕組みのもの。テレビCMのように画面を映し出すのではなく、双方向型の特徴を出し、詳細な商品カタログの 検索やくじ引きなどができる。加えて、広告商品をその場で発注できるオンライン・ショッピング機能や割引券を出力する機能なども盛り込まれている。電通 は一九九四(平成六)年七月、この種の双方向型広告システムの試作品を開発、注目された。 ◆パルシング(pulsing)〔1996 年版 広告宣伝〕 電波広告を波形に流す戦略・戦術。これはウェーブ理論とかフライティング(flighting)ともいわれ、ある時期に広告量を増大し、その後減少、再び増やすと いうようなウエーブ状の広告量・広告投入の技法。このパルシング・キャンペーンには、広告メッセージの質、フライト間の間隔、メディア・ミックスなどが 考慮される。 ◆アール・エフ・エム(RFM)(recency,frequencyand monetary value)〔1996 年版 広告宣伝〕 「リーセンシィ」は特定の顧客リストに掲載されている人または企業の、最も最近の購入・問い合わせ・その他の記録ずみ行動、「フリークエンシィ」はそれ らの購入・その他の活動の回数、「マネタリー・バリュー」は所定の期間(通常一二カ月)に顧客が支払った金額を意味する。ダイレクト・マーケティングや ダイレクト・リスポンス広告の効果・効率を高めようとすれば、顧客別のRFMのデータベースがつくられていなければならない。 ◆メディアジャック〔1996 年版 広告宣伝〕 広告主が広告のために電車や新聞などの広告スペースを占領すること。キリンビールが東京急行電鉄の東横線、田園都市線それぞれ一編成八両、一○両をハイ ネケン、ドライビールの広告だらけにしたこと、明治製菓が江の島電鉄などでマーブルチョコレートやスナック菓子の独占広告を行うなどはこの一例。この種 の広告はブロックバスター(高性能爆弾広告)ともよばれているが、高インパクトをねらう広告として広告主の間では話題となっていた。 ◆クーポン広告(coupon ad.,couponing)〔1996 年版 広告宣伝〕 「日米構造協議」の影響を受け、いっそう目立つようになったものの一つにクーポン問題がある。クーポン広告はクーポンつきの広告を意味する(クーポンと は一種の割引券で、消費者はクーポン券をその売り手に示し、所定額を割り引いてもらう)。クーポンは、新規購入者の試用・試買の促進、反復購入の刺激づ け、市場シェアの防衛、広告の補強、販売店の在庫プッシュ、小売店側の協力を得るなどの面で役立つ。新聞本紙、雑誌、DM、新聞特集紙が利用されるよう になった(メーカー・クーポンの場合)。 日本においてクーポン広告産業が成長するには、広告主、広告会社、販促会社、印刷会社、調査会社、さらには消費者などのクーポンの受け手が、クーポニン グの仕組みや機能を理解していなければならないし、クーポン産業の発展に欠くことのできない、クーポン・リデンプション(償還)、クーポン・クリアラン ス(精算)などのシステムの確立、関連会社・協会の成長も大切となるし、加えて、流通業者のクーポンを十分に理解したうえでの協力(メーカー・クーポン の場合)が必要となるところである。九○(平成二)年はクーポン広告元年となった。九一年初め関連地区で、読売新聞と朝日新聞のメーカー・クーポンが流 れたが、残念ながらクーポン広告が日本市場に定着するまでにはなおもある程度の期間が必要。広告会社、広告媒体側は本格的なクーポン時代の到来はここし ばらくは、見込めないとみているのが現状。これを踏まえても、ストア・クーポンはメーカー・クーポンより進展する機会は多いといえよう。なお、クーポン の実践については、「実践クーポン広告」(一九九三年三月、電通)を参照のこと。 ◆FSI(free standing insert)〔1996 年版 広告宣伝〕 アメリカでクーポン広告配布手段として最も利用されているのがこのフリー・スタンディング・インサートで、インサート、フリー・スタンディング・スタフ ァーともよばれ、また日曜付録版(サンディ・サプルメント)の新聞に挿入されるので、日曜新聞インサートともいわれている。日曜新聞のFSIには単独ク ーポン・インサート、共同クーポン・インサートの二種類があるが、わが国の場合は後者に関心が高まるようになるだろう(日米の新聞事情が異なるので、F SIは日曜新聞に限定せず、もう少し幅広く解釈してよい)。 ◆コーポレート・カラー(CC)(corporate color)〔1996 年版 広告宣伝〕 企業カラーを意味する。コニカ株式会社は、コニカブルーを企業カラーとしている。これは明るく、さわやかで、清潔感のあるブルーである。清水建設株式会 社は、純白、青、赤、黒からなる四色をCCとしている。純白は光を、青は空と海と水、赤は生命ある血液イメージから人間、黒は無限空間のイメージから宇 宙を意味しているようである。日本中央競馬会は深みと落ち着きのある緑色をシンボルカラーとしている。CCはコーポレート・アイデンティティ(CI)の 一部となるもので、CIと無関係では存在しない。 ◆タイトル・スポンサーシップ(title sponsorship)〔1996 年版 広告宣伝〕 スポーツの試合名の前に広告主名がつくとすると、これはタイトル・スポンサーシップによるものとなる。アメリカで人気のある「ゲーター・ボウル」の前に 「マツダ」がついての「マツダ・ゲーター・ボウル」、 「サン・ボウル」の前に保険会社名がつく「ジョンハンコック・サン・ボウル」はこの一例。日本関係で は、KDDの名を冠した第一回ラグビーワールドカップ、サントリー・ジャパン・オープンテニス、三洋証券ニッポンカップヨットマーチレースなどがその一 例。テレビネットワーク側の経営財務事情から特定期間、特定スポンサー料を払ってもらい、タイトル・スポンサーになってもらうという動きも出てきた。タ イトル・スポンサーシップのほうが、試合中にCMをいれるより効果的という考え方も広告主側の一部にあるようだ。 冠 つきのゲームが増えている。冠つ きはその番組のイメージ、内容に深く関係するので、広告主は企業にそぐわなくなるとき、他の戦略に変えるようになる。 ◆サーキュレーション(circulation)〔1996 年版 広告宣伝〕 一般に広告媒体の伝達流布の度合いをさす用語であるが、その意味するところは媒体ごとに異なる。新聞と雑誌についてはその発行部数もしくは販売部数を、 ラジオ・テレビについてはある時点で使用されているセット数、もしくは一定地域(聴取・視聴地域)内のラジオあるいはテレビの所有セット数を意味してい る。また、屋外広告については、ある特定の屋外広告を見る機会をもっている歩行者、車両利用者の数をいい、交通広告では広告掲載中の乗客数もしくは各駅 の乗降客数をいう。最近、特にアメリカの媒体分析の専門家の間ではサーキュレーション概念を新聞と雑誌だけに限定し、他の媒体については、オーディエン ス(audience 視聴者・聴取者など)概念を用いる傾向がでているが、これは新聞と雑誌についてのサーキュレーション数字を、定期的に公表しているABC (Audit Bureau of Circulation 発行部数公査機関)の活動に負うところが大きいといわれる。わが国では一九五八(昭和三三)年に創立された日本ABC協 会がこれを行っている。 ◆OHM/移動オーディエンス(Out-of-Home Media and mobile audiences)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告オーディエンスの中で移動性の強いものは、「モービール(オートバイル)オーディエンス」と呼ばれる。屋外広告や交通広告の対象者がこの種のオーデ ィエンスとなる。この屋外広告媒体と交通広告媒体は屋外に配置・掲出されるから、OHMと呼ばれる。家庭内にはいり込む媒体(広告)、さらには、消費者 が購入決定をしたり購入行動をとるPOPでの媒体(広告)についての戦略・戦術の理論と実際は今日ではかなり高度化してきたが、この両者間、または両者 の繋ぎとなるものがOHMである。このOHM(広告)のうまいブリッジ戦略・戦術が適切かつ効果的に計画・処理されていないと、これら両者の力と効果が、 下回りがちになることはここに云々するまでもない。 ◆空中メディア〔1996 年版 広告宣伝〕 空中に新しい展示空間や広告スペースをつくり出す媒体が空中メディアで、次のようなものはその一例。ライトシップ(=昼間はこれまでのものと変わらない 大型有人飛行船だが、夜間は搭載した発電機と水銀灯により全体が発光体となる光る飛行船。大正製薬がゼナの新発売キャンペーンの一環に使用ずみ)。バル ーンサーカス(=空中をコミカルなカバのバレリーナが愛嬌よく飛び回ったりする巨大空間でのイベントとして人気のある飛行船による不思議なサーカス)。 スカイメッセージ(=三○○○メートル上空に航空機五機の編隊で飛行、コンピュータにより噴出される点状の白煙が文字となるもの。一文字が四メートル大 の巨大な文字を書き上げるメッセージ・ボードがスカイメッセージと呼ばれる)。ジェットスクリーン(=噴射ノズルで放出した霧に映像を投射、その映像の 中を来場者が通り抜けることができ、臨場感あふれる夢体験を演出するシステム)。特殊熱気球(=商品キャラクターなどをデザインした熱気球、シェイプト・ バルーンのこと)。 ◆ダイレクト・メール広告(DM)(direct mail advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 郵便によって直接見込客へ送り届けられる広告。ダイレクト・アド(直接広告 direct advertising)の一種で、俗に宛名広告ともよばれる。郵送先の宛名が明 記され、受信人へ直接に届けられるという個人的な性格をもつだけに、選ばれた人という優越感を対象者に与えることができる広告である。実施のタイミング やスペースの利用などの表現上の問題、それにもまして適切な対象者の選定という点に意をはらえば、かなりの効果が期待できる広告である。通信販売店、百 貨店を中心に現在盛んに利用されている。 ◆ハウス・オーガン(house organ)〔1996 年版 広告宣伝〕 機関誌。企業が、グッド・ウィル(好意とか信頼)の育成、売上高の増加、一般大衆の意見の創成を意図して、従業員、セールスマン、販売店、消費者一般の 理解と信頼を得るために発行する定期・不定期刊行物のこと。一般に無料であり、形式はブックレット形式、新聞形式、会報形式などがあり、ほとんどは企業 の総務部、広報部、広告部、販売部、販促部あるいは人事部などで作られる。別名、カンパニー・マガジン(company magazine)とか、カンパニー・ペーパ ー(company paper)といわれる。 ◆ストア配布媒体(store-delivered media)〔1996 年版 広告宣伝〕 顧客が店内にいる間にメッセージを流すシステム、媒体・販促手段のこと。 (1)客の購買頻度を高めるプログラム、 (2)インストア・コミュニケーション【シ ョッピング・カートに広告メッセージを付ける、小売店のフロア・タイルを広告のスペースにする(アドバータイル)、ストアのアイル上に掲出されるアイル ビジョン、ショッピング・カートの前に掲出されるビルボード、カートにつけられるビデオカート、POPラジオ、インストアのクーポニングおよびサンプル 配布】、 (3)特殊援助(インストアのマーチャンダイジングのプロモーションを担当する販売促進活動、商品調査から販売員の補足サービスまで提供するシス テム)、(4)テーク・ワン(インストアでのクーポン配布システム、店舗用で広告・促進メッセージを配るシステム)などが、主要項目となる。 ◆ストーリー・ボード(story board)〔1996 年版 広告宣伝〕 テレビCMを作る場合の基礎となる「絵の部分」と「コピーの部分」からなるスクリプト(原稿)をストーリー・ボードという(絵コンテともよばれる)。つ まりCMのストーリーまたは流れにそって一連の絵とか映像が描かれ、その下または横に映像の説明文が加えられたもので、このボードにはチャート式、アコ ーディオン式などの種類がある。 ◆コピー(copy)〔1996 年版 広告宣伝〕 一般に印刷媒体に掲載される広告メッセージの活字になる部分、電波広告の場合ではCMの部分、さらにはアナウンサーやCMタレントがCM用として話す部 分などをいい、印刷広告の場合には、 (1)見出し(ヘッド)、 (2)副見出し(サブ・ヘッド)、 (3)本文(ボディ・コピーまたはテキスト)、 (4)小説明(キ ャプション)、(5)ブラーブ(またはバルーン)、(6)ボックス(またはパネル)、(7)スローガン、ロゴタイプの諸要素からなる。 ◆否定訴求(negative appeal)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告商品の特徴・便益点を、マイナスのシーンや状況を醸しながら訴えること。不安感や恐れをかきたて、これをいわんとするところに結びつけるのが、否定 訴求のねらいだがあまり暗すぎると否定訴求も逆効果になることもある。この逆が肯定訴求(positive appeal)である。これはこういうプラス、便宜があるか ら魅力的とストレートに訴えるもので、広告では一般にこの種のアピールが用いられる。 ◆シズル広告(sizzle advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に訴え、実感として感じさせる五感広告の一つで、シズルとは(油で揚げたり、熱したり鉄板に水を落としたときなどのような) ジュージューとかシューシューという音のこと。魅力的な音をたてて、相手にその商品を食べたくならせるような広告がシズル広告である。その音からの高ま る感じがシズル感と呼ばれる。ビールの泡は、シズル広告、シズル感を説明するうえでの好例。 ◆比較広告(comparison advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 特定広告商品の特徴を他社商品(または自社のこれまでの商品)と比較する比較型の広告を比較広告という。自社のこれまでの商品と自社新商品の比較広告は、 今までにもよく行われてきているが、他社商品との比較はややもすると中傷・誹謗となるので、わが国の広告産業界ではこの点を恐れている。 公正取引委員会は貿易摩擦問題に関連し、外国企業を考慮し、景品表示法では比較広告を制限または禁止していないことを再確認するとともに比較広告のガイ ドラインの作成や比較広告基準の設定に心掛け、ついに一九八七(昭和六二)年四月「比較広告に関する景品表示の考え方」(比較広告のガイドライン)を発 表した。比較広告は広告主間でいまのところ自粛されているので、ガイドラインの実践的利用化は目立たない。なおJARO(日本広告審査機構)は比較広告 のガイドラインを九○(平成二)年に制定している。 九一年、日本ペプシコーラはコカコーラとの比較広告を流したが、広告業界ではその賛否両論があった。ターゲットに誤認を与えないか、広告フォーマット(ユ ーモア・スタイル)の適正性と利用の限界などに意見がみられた。ペプシコーラの九一年秋のTV比較広告では、比較のコーラ名は視聴者にわからないよう作 られていた。また、日本ゼネラルモーターズの、トヨタ、日産のライバル車種とGM車を並べ、性能、価格などを比較した広告は話題となった比較広告の一例。 「ダイエットペプシは、おすすめできません。 ダイエットペプシは、コカ・コーラ・ライトの一二分の一カロリーだから。」の新聞広告も記憶に残る比較 広告である。急激ではないが、徐々に目につくようになろう。銀行広告面での比較広告は九三年から解禁された。 ◆奇抜広告〔1996 年版 広告宣伝〕 広告表現のインパクト効果を高めるため、相手に 奇抜 な印象を与える広告メッセージのこと。一九九一年、イタリアの代表的ファッションメーカー、ベネ トンは、へその緒がついたままの新生児の広告ポスターを流した。イギリス広告協会は同社に対しそのポスター撤去を命じた経緯がある。広告界では、古くか らキュリオシティ広告(珍奇とか奇異広告)というコトバが用いられているが、ベネトン式のものは、単に注意・関心喚起だけのものでなく、広告主のトップ の哲学がその背景となっているようで、その点これまでのものといささか異質である。 ◆3Bの法則〔1996 年版 広告宣伝〕 3Bはビューティ(Beauty 美女)、ベイビィ(Baby 赤ちゃん)、ビィースト(Beast 動物)を意味する。これらの要素は広告の注目率や閲読率を高めやす いから、広告メッセージをつくる際は、3Bを考慮することが大切というのが、3Bの法則である。 ◆記事体広告(editorial advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 記事のような構成でつくられている広告のこと。記事広告、記事型(または体)広告ともよばれているもので、広告メッセージの一つの型(フォーマット)。 最近の広告は、生活情報、商品情報を意欲的に提供するものが多くなったが、そのためによく記事型の広告が利用されている。日本新聞協会は新聞記事と混同 されるおそれがあるので、この種の広告には「広告」とか「PR」と表示するよう関係者に働きかけている。 ◆AIDMA(アイドマ)の原則〔1996 年版 広告宣伝〕 消費者の購買心理過程を表したものといわれ、広告制作での基本原則とされている。Aは注意(attention)、Iは興味(interest)、Dは欲求(desire)、Mは記 憶(memory)、Aは行為(action)を意味する。 「注意させ、興味を抱かせ、欲しがらせ、心にきざみつかせ、買わせる」ように意図した広告制作が、最も有効な広告物を誕生させるということである。この 原則とならんで、AIDCAまたはAIDAの原則も広くいわれている。この場合のCは確信(conviction)を意味する。 ◆5Iのルール〔1996 年版 広告宣伝〕 広告コピーをつくるときのコピー・ライティング・ルールのなかに5Iのルールがある。広告は、すばらしいアイデア(idea)から出発すること、直接的なイ ンパクト(immediate impact)という観点からつくられていること、メッセージは最初から最後までずっと興味(incessant interest)をもって見られ読まれ るように構成されていること、見込客にとっての必要な情報(information)が十分かつうまく盛り込まれていること、衝動を駆り立てる力(impulsion)を備 えていることを意味する。 ◆バイソシエーション(bisociation)〔1996 年版 広告宣伝〕 テレビCMの一つのスタイルで、アーサー・ケスターによる新造語である。ある要素に関係のない要素を、また一般的な視覚的な要素に似つかわしくない言葉 などを結びつけて(つまり「ニュー・コンビネーション」により)テレビCMの表現力をより強めようとするCMの一フォーマット(型)を意味する。「反コ ピー」(例、ミスタードーナツのCMで、二人の客が「結局、景品は景品やな」というのに対し、店員に「物の価値のわからないお客さんですね」と言わせる のも、反コピーの一例)も拡大解釈すれば、ニュー・コンビネーション、つまり、バイソシエーションの一作品例といえよう。 ◆インフォマーシャル(informercial)〔1996 年版 広告宣伝〕 インフォメーション(情報)とコマーシャルの二つの言葉から合成されたもので、ニューメディアを通じての情報提供型広告、つまりニューメディア時代の情 報量の多い長めのコマーシャルを意味する ◆クレスタ賞(CRESTA Awards/Creative Standards Awards)〔1996 年版 広告宣伝〕 国際広告協会(IAA)がクリエイティブ・スタンダード・インターナショナルと共同で制定した国際広告賞で、公共広告を含む消費者広告と産業広告の二つ の分野に同じ比重を置いて審査する賞。一九九三年から設けられた新しい国際賞である。世界各地のクリエイティブおよびIAA支部クリエイターによる第一 次選考を行い、国際審査委員会において、二七カ国の審査員による最終審査が行われる。審査基準はクリエイティブ・アイディアのオリジナリティーと作品の 質にあるとのこと、この賞についての日本での問い合わせ先はIAA日本支部。 ▲広告調査と方法〔1996 年版 広告宣伝〕 広告調査と方法面では、いろいろな問題が登場してくるが、ここでは一部のみをながめるにすぎない。この分野に関心のある方は、小林太三郎監修『新広告効 果測定ハンドブック 理論編』、『新広告効果測定ハンドブック 実践編』(ともに日本能率協会一九九一年また小林太三郎監修・執筆「IMC技法ハンドブッ ク」〔一九九四年、日本能率協会総合研究所〕を参照されたい。 ◆タキストスコープ(tachistoscope)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告コピーの事前テストに、この器具がよく用いられている。これは各種の速度・メッセージ露出・照度という条件の下で、いろいろな刺激の呈示を可能にす るアタッチメントをともなうスライド・プロジェクターである。広告中に盛り込まれた、イラストレーション、コピー、シンボル・マーク、その他が特定の時 間や照度の下でどのくらい広告の受け手にわかるものかが、この器具から明らかになるので、制作者には効果の可能性の判断や広告メッセージを改良したりす るのにこの結果は役立つ。 このテスト時のメッセージ露出秒数は、一○○○分の一秒から数秒まであり、また照度も、適当に変えることもできるが、これらの条件はテスト広告物のねら い、種類、掲示される場所、テスト個所などによって、それぞれ違うことになる。 ◆サイコガルバノメーター(psychogalvanometer;galvanometer)〔1996 年版 広告宣伝〕 各種の心理的刺激にたいする人びとの感情と反応を、精神電気反射の面から測定する計器である。この反応は、GSR(皮膚電気反射 PGR(精神電気反応 galvanic skin reflex)、 psycho galvanic response)ともよばれている。人間の神経活動が電気的なものであって、興奮などの精神的な動揺による発汗活動の 増大が、皮膚表面の電気抵抗を弱める結果、生体電流の増大として測定できることを利用した測定器で、俗に「うそ発見器」(lie-detector)とよばれているも の。 ◆TENS(Telephone Networks System)〔1996 年版 広告宣伝〕 対象者と会議室にいる司会者を電話回線で結んでインタビューする調査システム(電通リサーチが開発)をいう対象者は、自宅、職場から参加できる、全国規 模のききとりが可能、対象者がリラックスしているのでホンネがきける、クライアントも司会者と同席し、その場で質問ができる、システムの持ち運びが可能 であるといった特徴がある。 ◆フルパッシブ・メーター(full passive meter)〔1996 年版 広告宣伝〕 TV視聴率の調査方式の一種で、調査対象世帯のTVセットに小型のカメラを設置し、事前に、家族の顔をメーター内蔵のコンピュータに記録しておく。各時 点で捕らえたイメージとのすり合わせを行って、誰が視聴しているかを記録する。測定に際して、ボタンを押すなどの視聴者の作業は、全く必要ない方式。 ◆コスト・パー・サウザンド(CPT)(Cost Per Thousand)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告に使用する媒体比較のための経費効率の指標として一般に利用される。すなわち広告の到達読者(視聴者)一○○○人、あるいは一○○○世帯当たりに必 要な経費として表される。基本的には次の公式で計算される。 ◆CPR(Cost Per Response)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告の反応当たりのコストをいう。たとえばある雑誌に広告を流したとする。その媒体料金を踏まえたうえで特定の反応または注文総量から、反応・注文当た りのコストを求めたものがCPR。広告産業界には以前からCPM(到達一○○○当たりのコスト)という媒体評価基準が用いられているが、これからは必要 によって、CPRの視点からの媒体評価が重要視されるようになる(ダイレクト・マーケティングとか、ダイレクト・リスポンス広告の場合)。 ◆GRP(Gross Rating Point)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告主が利用する各種銘柄媒体(=ビークル)のレーティングの合計が、GRP(グロス・レーティング・ポイント)である。いまある広告主が、ラジオ媒体 を通じて、一日に五本のラジオ・スポット(スポットの平均聴取率を三%とする)を一週間続けて使ったとすれば、一週間のGRPは一○五ポイント。したが って、電波媒体の場合でいえば、これは延べ聴取・視聴率を意味することになる。印刷媒体の場合は延べ注目率といったものになる。 ◆フォーカス・グループ法(focus group method)〔1996 年版 広告宣伝〕 広告の事前テスト法のひとつで、企業がねらう見込標的市場から一○∼二○名内外をしぼり、抽出し、彼らを、一つのグループにし、テストすべき特定のトピ ックについて討議させる。訓練を受けた有能な面接調査員が、テスト資料とか資材を彼らに上手に呈示するとともに、グループのディスカッションをうまくガ イドする。この目的は、ある問題についての情報を得ることで、最終的な回答を求めることではない。ディスカッションは、一般にテープに収められ、この会 合終了後、調査員がこの話し合いを分析し内容や合意点をまとめあげる。 ある広告コンセプトまたは戦略の価値を求めるためには、標的市場から二∼三のフォーカス・グループを抽出し使えばよいという声もある。 ◆新CMテストシステム/アドバンス(Advance plan)〔1996 年版 広告宣伝〕 この「アドバンス」はCM作品自体のインパクトから評価、診断を行うもので、東京三○キロメートル圏に居住する一八∼四○歳の男女一二○名をクオーター・ サンプリング法で選定、毎月一回最多六年のCMを集合テスト方式で調査するというやり方をとる。調査項目の(1)「CMに対する興味・関心」では、作品 の興味・関心に加え、場面ごとの好意・非好意的評価を秒単位で測定し、興味反応曲線をえがく。 (2) 「購買喚起力」面では、視聴による商品購入意志の変化 を、四八パターンに分け、各自の変容の大きさに応じ得点を加算し、購買喚起力を推計する。 (3) 「効果性評定」面では、CMの出来栄えをイメージ側面から 評価。制作者・生活者双方の視点から肯定・否定各二四、計四八の形容詞の選択で、CMの効果的判定を情緒性、伝達性、斬新性、躍動性の四評価軸から測定。 (4) 「好意度」では、 「好きな」 「また見たくなる」 「共感できる」の三尺度からCMの出来具合を判定する。このほか(5) 「CMの表現要素」、 (6) 「CMの 内容再生」、(7)「CMの良い点、悪い点」、(8)「伝達内容理解度」をも調査している(電通の開発によるもの)。 ◆POS情報分析システム開発〔1996 年版 広告宣伝〕 これは静岡新聞・静岡放送系列のマーケティング・サービス会社トムスが開発したもので、静岡県内に本社を置く有力スーパー六社一五店の協力を背景にして、 まず各店舗のPOSと地域流通VANを経由しデータを収集し、一週間ごとのデータを大型コンピュータで集計、売れ筋情報を分析する。生鮮食品の一部を除 く一週間の集計データは三五万件に達する。静岡県はテスト・マーケティングにもよく利用されるので、広告・販売促進活動の効果を判定する際の有力基準を 提供するものとして注目されている。 ◆サブリミナル・アド(subliminal advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 潜在意識下に訴える広告。サブリミナルとは 意識されない の意味。テレビ、映画、ラジオなどに認知不可能な早い速度または小さい音量で広告を出す方法 をいう。 一九五七年にアメリカで、映画館で上映中のフィルムに重ねて、「コーラを飲もう、ポップコーンを食べよう」という広告を三○○○分の一秒で出したところ 館内売店のコーラやポップコーンの売上げが激増したという。その後、何回か試みられたが実際の効果は明らかにされなかったことや、倫理的な問題指摘など のため、ほとんど行われなかったが、松竹映画「RAMPO」やTBSがテレビの報道番組(九五年五月七日、一四日)の中でこの手法を用いて話題となった。 ●最新キーワード〔1996 年版 広告宣伝〕 ●ブランド・エクイティ(brand equity)〔1996 年版 広告宣伝〕 これはブランド・エクァティとも呼ばれ、ブランドの資産とか財産を意味する。最近これが、マーケティング・コミュニケーション、広告、プロモーション、 販売促進、PRなどの分野でより注目・研究されるようになってきた。デイヴィット・A・アーカー教授は、次のように述べている。「ブランド・エクァティ はブランド、そのネームやシンボルに結びつくブランドの資産・負債のセットを意味する」「ブランド・エクァティを示すための資産または負債にとり、それ らはブランドの名称とシンボルにリンクしていなければならない。ブランド名とかシンボルを変えるべきなら、資産または負債の全部とかその一部は、新しい 名やシンボルに変わるとしても、冒されるかまたは喪失してしまうことにもなろう。ブランド・エクァティの基づいている資産と負債は環境から環境によって ちがう。それらは次の五つに区分できよう。 (1)ブランド・ロイヤルティ、 (2)名称の知名や認知、 (3)知覚された質、 (4)知覚された質に加えてのブラ ンド連想、(5)その他の所有するブランド資産―特許権、トレードマーク、チャネル関係など」と。 ●IA/MC(統合広告/マーケティング・コミュニケーション)/IMC(Integrated advertising/Marketing Communication/Integrated marketing communication)〔1996 年版 広告宣伝〕 米ノースカロライナ大学では「広告学科」の名称を「統合広告/マーケティング・コミュニケーション学科」と変更。これからの広告はこのような視点から扱 うようにしないと「ニュー・アドバタイジング」といえる広告は考えられないという見方をする。広告の進んだ国々は、このIA/MC時代をますます迎える ようになるのは必至である。 IMC(インテグレーティッド・マーケティング・コミュニケーション)の定義にはいろいろなものがあるが、有力なものの一つが以下の考え方である。「I MCのプロセスは測定可能で、効果的かつ効率的な双方向的コミュニケーション・プログラムを開発することを意図している」、そして「IMCアプローチは データベース、行動的セグメンテーション、全形態のコミュニケーションの利用、特定の反応、測定と評価によっている」(IMCは消費者とかオーディエン スのブランドまたは企業接触の全ソースを考慮する)という。またIMCについてのキー・ワードとして、「プロセス」「行動に影響する」「ブランド・コンタ クツ」「双方向」「測定可能」を指摘・強調していたが、IMCやニュー・アドバタイジングを考え、具体化する際にはこれらの考え方は大いに参考になる。 わが国ではIMCの研究が、広告会社、プロモーション会社、大学、その他の機関ですでに始められているが、ここしばらくの間はその基礎理念の研究が続け られるものと思う。研究および適用・具現化が可能になるには、それに必要な諸条件・環境がある程度まで整い、かつ広告主、広告会社、販促会社、調査会社、 媒体社、教育・研究機関などの理解・協力・助言・その成果報告の積み重ねが得られるようになるのがその前提条件。 ●グリーン・マーケティング広告(Green marketing advertising)〔1996 年版 広告宣伝〕 環境保護に連動するマーケティングに連動する広告がこれになる。最近は環境保護をテーマにした広告が増えている。「自然が日本の住まいを育ててくれまし た。だから、私たちは、自然を育ててゆきたいと考えています」 (ミサワホーム)、 「地球と話をしましたか」 (NTTデータ通信)、などの新聞広告はグリーン・ マーケティング広告の一例。またアメリカでは、広告関係者は環境保護の波にのっているが、その広告表現に誇張と混乱がみられるという声もあり、この分野 の広告のガイドラインの自主規制や立法制定化の動きが広告産業界にみられる。ミネソタ州政府合同専門家チームは、一九九○年初め、ガイドラインを公表し、 九一年には「グリーン・リポート 11」をまとめている。アメリカ広告業協会(4A)も、ガイドラインを公表した。アメリカ連邦取引委員会もガイドライン化 の動きを示している。 イギリスでもこの種の動きが目立つ。イギリス・民放テレビ協会(ITVA)は、グリーン広告のガイドラインも発表。これは環境に無害とか有益といった点 を強調するグリーン広告への苦情の強まりに対する動きで、環境に有益という広告表現は、その商品の製造から処分までの全過程を踏まえて判断されることに なる。「地球の友」などの環境保護団体は、このガイドラインをとりあえず歓迎している。わが国でもこの種の広告の定義、枠づけ、ガイドラインが関係筋か ら検討されていることを付言しておく。この広告は企業広告やブランド・エクイティ創成に連動する。 ●MPR/CPR(Marketing PR/Corporate PR)〔1996 年版 広告宣伝〕 トータル・マーケティング連動と企業コミュニケーション連動の点から最近注目されているものに、これらに結びつくPR(MPRとCPR)問題がある。M PRは、マーケティング・パブリック・リレーションズの略語。一部の研究者の間には「MPRは、信頼できる情報の伝達と、企業とその商品は消費者のニー ズ・欲求・関心・利益などに直結しているという印象を通して、買い手の購買と満足を促進するプログラムの計画・実施・評価のプロセスである」といった見 方もある(トーマス・L・ハリス「マーケターのPRガイド」一九九一)。MPRは、マーケティング戦略・戦術に連動するマーケティング関連のPRである。 MPRはマーケティング・マネジメントの一機能であり、この使命はマネジメント目標の遂行に役立つことにある。 これに対し、CPR(コーポレート・パブリック・リレーションズ)は企業目標の遂行面でサポートするもので、コーポレート・マネジメントの一機能となる。 PRは、もともと個人ないし組織体が、持続的・長期的な基礎にたって、自身に対しての公衆の信頼と理解をかち得ようとする活動である。この場合、その対 象には、地域社会、顧客・消費者(産業用品のユーザーを含む)、従業員、金融機関、原料仕入先、流通関係、政府・公共機関、教育機関、調査機関、媒体関 係機関、その他のグループが考えられる。 ●インタラクティブ・メディア(interactive media)〔1996 年版 広告宣伝〕 インタラクティブは相互に関係し合うとか、 「双方向の」を意味する。インタラクティブ・テレビジョンはその一種。たとえば、アメリカのインタラクティブ・ ネットワーク社は、現在、サンフランシスコを中心に加入世帯を拡大中だが、電話回線にコントロール・ユニットを接続、テレビのスポーツやドラマ、ニュー ス、教育番組などに連動したクイズやデータなどをFM波で伝送、ユニット画面に表示された質問にキーパッドで答えると、即座に順位とか点数がわかる仕組 みになっている。視聴者のテレビ参加性はこれにより高まるというもの。マルチメディア・サービスの幅はこれからいよいよ広まろう。 ●視聴質〔1996 年版 広告宣伝〕 広告コミュニケーションの効果・効率化の視点から視聴質が注目・研究されているが、これは有効ターゲットの視聴者、視聴反応、番組・CMなどの質を意味 する。民放連の研究調査によると、広告主、テレビ局営業担当者、広告会社とも、視聴者の質、視聴反応の質、番組の質、CMの質についての回答順位は三者 とも同一だったが、広告主側は実際に獲得されたターゲット観点からの「ターゲット視聴者の率」、テレビ局側は人口統計的属性視点からの「予想ターゲット の視聴者の属性」のほうにウェイトを置いているようだ。広告主側の視聴質提起は「個人視聴率の継続的安定的入手」にあり、ピープル・メーターなどによる 広告質の研究に関心を強めている。テレビ局側は「現行の視聴率調査・主義を尊重しつつも何らかの修正を求める広告主側の考えを変えて、これと局側の問題 意識を摺り合わせるときがきているのではないか」といった考え方を強めている。視聴率の実際面での適用化までには、なおも期間が必要とみる。テレビ朝日 調査部、一九九二(平成四)年六、七月の「企業のテレビ媒体活用に関する調査」で、広告主の個人視聴率観がまとめられているが、企業側の見方がわかる。 九三年A・C・ニールセン社はピープル・メーターの実験証明を行ったが、関係者の関心を集めたようである。ビデオ・リサーチ社もこの面のサービス提供を ねらって努力・準備中であるが、わが国でこれが具体化されるには、広告主、広告会社、その他関係者などの理解と協力が必要となることを強調しておきたい。 ●ピープルメーター(people meter)〔1996 年版 広告宣伝〕 「TVの状態と個人の視聴行動という二つの別のメーターの記録をつき合わせることによって個人視聴率を測定する技術。現在よく用いられているのは、パネ ルメンバーがリモコンについている個人に割り振られた自分のボタンを各視聴セッションの初めと終わりに押すという方式。したがって個人の視聴記録はTV の状態にON‐OFF記録が重ね合わせて記録される形をとる」(ヨーロッパ放送連盟/EBU(European Broadcasting Union)の見解)。 わが国広告主は個人視聴率の測定に関心を強めているが、ニールセン・ジャパンは一九九四(平成六)年、個人視聴率データをラインメーター(押し忘れ防止 機能付きPM=ピープルメーター)による機械式に変更することを発表、これに対し日本民間放送連盟は、放送事業者との話し合いを持つよう求めた。ニール セン社のPMサービスについてのこれからの動きが注目されるところである。ビデオリサーチ社のPMサービス具体化の動向も注目される。 またビデオ・リサーチ社は、視聴者が自分用のボタンを押して視聴を機械に知らせるPMの補助装置「個人調査用プリセットリモコン」を開発。これに「人数 のカウントセンサー」などの補助装置を加えている。さらに高性能センサーを使い確認ボタンを押させなくても、誰がテレビを見ているかがわかるパッシンブ・ ピープルメーターの開発にも力を入れている(実験室では視聴者の識別率は一○○%、八名までの同時判定が可能)。個人視聴率の調査はこれからはいっそう 注目されるようになり、ピープルメーターなどへの要請は一段と高まることになろうが、調査会社の個人視聴率調査の高水準化・高質化・実践化事情の好転、 広告主側の調査サービスの理解・協力度のいっそうの高まり、広告会社側のこの種の調査サービスへの理解・対応度の向上、これらの関係者相互の一段の協力・ 調整化の強まりなどが、この分野の調査の進展と一般化にはなおも要請されるようになるだろう。 ▽執筆者〔1996 年版 志賀 放送映像〕 信夫(しが・のぶお) 放送批評懇談会理事長 1929 年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。早大文学部講師を経て、放送批評懇談会理事長。著書は『テレビ媒体論』『放送』『いまニューメディアの 時代』など。メディア・ワークショップ代表理事。 ◎解説の角度〔1996 年版 放送映像〕 ●放送のデジタル化スケジュールを検討している郵政省の「マルチメディア時代における放送の在り方に関する懇談会」は、一般のテレビは「2000 年代前半 の早い時期にデジタル方式を導入する」ほか、ラジオ放送は一般テレビも早い時期とし、CS放送は 96 年、CATVもそれに合わせてデジタル化する。一方、 ハイビジョン放送のデジタル方式転換は、「次期放送衛星の後発機が上がる時期」(99 年ごろ)と 2000 年の両案併記となった。 ●放送業界はデジタル化やマルチメディアなどの変革の波が押し寄せ、規制産業から自由競争産業へ移行し始めるよう、「有料放送市場の在り方に関する調査 研究会」を発足させた。これまで放送は文化・報道機関としての切り口で語られることが多かったが、今回は経済、経営の観点から分析しようというものであ り、議論のキーワードは「競争」 「市場構造」 「公共放送の役割」などがあげられている。研究会は公開が原則であり、誰でも傍聴できるものとし、役所が開く 研究会としては異例。85 年のNTT民営化と同じ変化の波が、放送分野でもここ数年で起ころうとしていることを示していると解釈されている。 ★1996年のキーワード〔1996 年版 放送映像〕 ★DMC(デジタル・マルチ・チャンネル)〔1996 年版 放送映像〕 アナログ方式で伝送している現在の通信衛星(CS)は、搭載する一つの中継機(トランスポンダー)で一チャンネルしか送れなかった。だが、信号をデジタ ル化して、情報量を圧縮する技術を用いれば、一中継機で四∼一○チャンネル分を伝送できる。この新圧縮技術を利用したのが、デジタル多チャンネル(DM C)放送であり、米ヒューズ社が九四年に始めた「ディレクトTV」(直接各家庭に衛星で放送する)で本格的に使用された。 一九九五(平成七)年八月二九日米フロリダ州ケープカナベラル空軍基地で打ち上げられたJSAT(日本サテライトシステム)三号機で、日本初のCSテレ ビ放送によるデジタル多チャンネル放送が、九六年四月から始められる。搭載される電波の中継機四○本のうち、八本をCSテレビ用に充てる。従来ならば八 チャンネルしか放送できなかったが、新技術を使って一気に五○チャンネルに増える見通しだ。一中継機当たり四億円ほどの使用料も数千万円と、コストも大 幅に安くなる。 見た番組や視聴時間にあわせて料金を払う「ペイ・パー・ビュー」などの新しいサービスも導入されるほか小笠原への放送中継などにも利用される。ポルノ番 組の導入は子どもが自由に見られないよう工夫するというが、法的規制をどうするかなど問題も残されている。DMCの事業化はJSATと伊藤忠商事、日商 岩井、三井物産、住友商事の四商社共同で進められている。 日本でのテレビ放送のデジタル化の先陣をきることになるDMCに対し、郵政省は放送のデジタル化へのはずみになると好意的に受けとめているが、ケーブル テレビ(CATV)局側では脅威になると反発しており、期待と不安が交錯する中でのスタートとなる。CSテレビ放送は現在、JSATと宇宙通信の二社が 打ち上げた通信衛星を使い、計一一局が一一チャンネルを放映。約九万世帯が直接、受信契約を結んでいるが、DMCは三年後に一○○万世帯の契約を予定し ている。 ★見えるラジオ(FM文字多重放送)〔1996 年版 放送映像〕 FM波にデジタル信号を重ね、文字、データなどの情報を送り、専用受信機で受信するFM文字多重放送が、 見えるラジオ と呼ばれるものである。一九九 四(平成六)年一○月から放送は行っていたが、受信機が市場に出ていなかったので、幻のラジオといわれていた。だが、カシオ計算機が端末機を開発・発表 したため、九五年四月一日から、JFN(全国FM放送協議会)に加盟の三三社で全国放送を開始した。世界初のFM文字多重放送の本格導入である。 主な情報は、FM東京がCSを用いたJFNの番組配信システムで各局に配信し、地域の情報をそれと組み合わせて提供する。放送内容は、(1)オンエア中 の曲名やリクエスト電話・FAX番号などの「番組情報チャンネル」、(2)ニュースやスポーツの結果などの「ニュース&スポーツチャンネル」、(3)天気、 降水確率、気温などの「天気情報チャンネル」、 (4)渋滞状況などの「交通情報チャンネル」、 (5)占い、クイズなどの「エンタテイメントチャンネル」の五 チャンネルで二四時間放送。 受信機には、一五文字 二行の文字を表示する液晶パネルがついており、クラリオンは車載タイプをサンプル出荷した。PDA(個人用情報端末)型のものが 最もポピュラーであり、前述の車載型のほか、カーナビ型、ラジMD型、ミニコンポ型などが発売される予定である。 商業放送なので、三六画面のうちの六画面がCMとして表示される。つまり自動でページをめくらせている場合、六分間に一分の割合でCMが入る。情報をプ リントアウトできる「データ情報サービス」、街頭やタクシー車内の電光掲示板の「パパラビジョン・サービス」、野球中継で次のバッターのバッティングを予 想する「対話型サービス」、自由な周波数の利用を可能とする制度の導入により実現する「ページング(ポケベル)サービス」など、今後も新事業が展開され る。 JFN以外にも、FMジャパンが九五年一○月からFM文字多重放送「アラジン」を開始する。J‐WAVEなど独立系FM局が参加、電子手帳などの個人用 情報端末器に一五字 八行分の文字放送をチューナーをつけて受信する形式で、音を聴く機能はない。映画やコンサートなど、独立した情報がデーターベース 的に使える。NHKも九六年春から放送を開始するため、FM文字多重放送の免許を申請した。 ★日米合弁の双方向CATV〔1996 年版 放送映像〕 CATV統括運営会社は、MSO(マルチプル・システム・オペレーター)と呼ばれ、複数のケーブルテレビ局を統括して運営することによって経営効率を高 め、番組ソフトなどのサービスをよくし、スケールメリットを追求している。一九九五(平成七)年に入って日本でもこのMSOが、日本の大手商社と米CA TVの大型会社の日米合弁によって相次いで設立され、マルチメディアの柱として注目されている双方向CATVは、日米協調体制をとりだした。これは、日 本側からすれば、規制緩和を機にアメリカのノウハウを取り入れて、普及を急速に伸ばそうとのねらいからである。 伊藤忠商事とタイム・ワーナー(TW)などが設立したMSO「タイタス・コミュニケーションズ」は、東京近郊三地域の七一万世帯を対象に、電話を含むさ まざまな双方向サービスを提供する予定である。また、住友商事とテレ・コミュニケーションズ(TCI)が設立したMSO「ジュピターテレビ」は、杉並・ 練馬など関東エリアの五局を統括、電話事業を含めて本格的な双方向CATVを目指す。さらにトーメンは、米CATVの大手コンチネンタル・ケーブルビジ ョン(CCI)との合弁によるMSO「CTテレコム」を設立、一九九六年春から新規開局に動きだす。 米CATV業者のビッグ3すべてが日本進出を果たしたのは、 「外資の出資規制」 「営業区域制限」などが緩和され、六%と低い日本の都市型CATV世帯普及 率を一挙に伸ばし、その業界の主導権を握ろうとしているためである。一方、アメリカのCATVの世帯普及率はすでに六○%を超えて市場は飽和状態、海外 に出る以外に成長できない状況になったからである。 「日本進出はアジアに出るファーストステップ」 (ジョン・マローンTCI会長)と、日本をアジア戦略上 の拠点にしようとしている。そこで、日本のCATV業者の中には、将来に危機を招くと心配している向きもある。 ★外国テレビ放送の受信〔1996 年版 〕 通信衛星を通じて番組を越境して流しているアジアの広域衛星放送会社「スターテレビジョン」とCNNニュースを手がけている「ターナー・エンターテイメ ント・ネットワークアジア」の香港の二事業者の放送を、郵政省は日本での受信に問題がないとOKした。この二放送事業者は、香港では「通信免許」で営業 しているため、日本で放送できるかどうかあいまいだったが、郵政省は「外国の番組でも、放送にあたることがわかれば、自由に受信・放送してもかまわない」 と公認、「放送」として承認したため、日本のケーブルテレビ局が受信して再放送することができるようになった。こうして多チャンネル時代に向け、外国発 のテレビ番組も積極的に受け入れる姿勢が打ち出された。 スターテレビは、スポーツや音楽、娯楽番組など、英語と中国語の四チャンネルで流しており、商業テレビなので受信は無料である。一方、ターナー・E・ア ジアは、米ターナー・ブロードキャスティング・システム(TBS)グループの子会社で、アメリカのCNNの親会社と同じだ。一チャンネルで二四時間、ア ニメと娯楽番組を有料で流している。チャンネル名は「TNT&カトゥーンネットワーク」。両社はこれを受けて、CATV局など日本市場でのユーザー開拓 を本格的に進めている。スターテレビの親会社であるニューズ・コーポレーションのルパート・マードック会長は「海外の放送事業者として最も早い時期に承 認されたことはうれしい」とのコメントを発表、ターナー・インターナショナル・ジャパンの幹部も「CATV局向けの営業交渉が進めやすくなった」とのべ た。 今回の措置には法的根拠はなく、行政措置の一つである。「日本で放送したい」と二事業者が申請したので、郵政省は香港当局などに聞き取り調査した結果認 めた。今後、欧・米・アジアの放送の日本市場への進出が相次ぎそうだ。 ▲放送事業〔1996 年版 放送映像〕 放送と通信の融合が両業界の経営に大きな影響を与えており、郵政省の懇談会は「放送・通信の電波共有化」を打ち出し、今後の業界再編はこの方向で新市場 を生み出しそうだ。電波を共有化した場合、放送業界は現在占有している電波割り当てを使って通信事業に参入するのか、電波を移動通信業者に貸与するのか などの検討を迫られている。事実、番組の放送だけに特化した現在の放送各社の経営資源を多重活用することも可能になってくる。すでにFM東京がFM電波 のすき間を使ったポケットベル(無線呼び出し)事業参入を計画するなど、既存民放も新市場への進出を計画している。 ◆NHK(日本放送協会)(Nippon Hoso Kyokai)〔1996 年版 放送映像〕 東京都渋谷区神南に本部をおき、NHKの電波を直接各家庭に向けて放送する特殊法人。その運営は受信料【一九九五(平成七)年度は収入五五三四億円で全 収入の九七・○%】でまかなわれている。NHKの電波は、地上放送と衛星放送の二種、合計して七波がある。前者には総合、教育の二テレビ、ラジオ第一と 第二およびFMラジオがある。後者には衛星第一と第二の二テレビがある。そのほか、九五年から独自の免許を受けて、ハイビジョン実用化試験放送を行って いる。国際放送では、ラジオ日本とNHKテレビ国際放送の二波がある。ラジオ日本は二二言語、一日延べ六五時間放送している。NHKテレビ国際放送は九 五年四月から開始し、北米で一日平均五時間、ヨーロッパで一日平均三時間、放送を行っている。九五年四月から在日外国人のために国内のラジオ第二で、毎 日、「ラジオ日本」の英語とポルトガル語のニュースの同時放送を開始した。 放送法によって以下のようなことが定められている。 (1)視聴者の要望に応えて報道・教育・教養・娯楽の各分野にわたって放送すること。 (2)放送サービ スが全国のすみずみまでゆきわたるように放送局を建設し、あわせて、地域社会に必要なローカルサービスをすること。(3)放送の進歩発展に必要な研究や 調査をすること。(4)国際放送をすること。事業計画・収支決算は国会の審議を経ることも求められている。なお、運営の基本計画は、全国から選ばれた小 林庄一郎、中村紀伊、草柳大蔵ら一二名の学識経験者からなる経営委員会で決める。経営状況は以下の通り。受信料によって成り立つ公共放送事業体として、 公正で質の高い放送サービスを行うとともに、組織・業務体制を、より能率的なものにしようとしている。九五年一月にNHKの事業運営の基本となる「中長 期経営方針」が策定された。総合テレビの二四時間放送化、総合デジタル放送(ISDB)などの課題と施策があげられ、今後の事業展開に反映させる。また、 NHKは九五年三月に放送開始七○周年を迎え、これを契機に今後一○年の新しいビジョン「NEXT10」をかかげた。「NEXT10」の取り組みは、以下の 五項目のビジョンに従い行われる。(1)視聴者本位制です。(2)二一世紀のテーマに着手します。(3)建て前主義をやめます。(4)「革新する総合メディ ア」です。(5)「さすがNHK」になります。その開始と同時に、「NHK」のロゴも新しくなった。 関連団体は、NHKエンタープライズ 21 などの放送番組の企画・制作、販売分野が八社、NHKきんきメディアプランなどの地域関連団体が六社、NHK総 合ビジネスなどの業務支援分野が六社、NHKサービスセンターなどの公益サービス分野が七社、福利厚生団体が二社となっており、形態も株式会社、財団法 人、社会福祉法人などさまざまである。 NHKは関連団体と連携をとりつつ良質なソフトをより廉価で安定的に確保、多角的なメディアミックス事業、国際的な情報発信や交換、ハイビジョンなどニ ューメディア事業の推進などを目標にして、公共放送に寄与する関連事業を積極的に行い、公共放送事業の円滑な遂行にあてる。九四年度末の受信契約総数は およそ三五○三万件となっている。大型企画番組は、大惨事となった阪神大震災を徹底的に検証したシリーズや、戦後の日本を問い直す「戦後五○年その時日 本は」、また膨大な映像記録による「映像の世紀」をABC(アメリカ)と共同制作するなど多彩な番組を積極的に編成している。 ◆民放(民間放送)〔1996 年版 放送映像〕 放送番組や局の経営の費用を、スポンサー(広告主)が支払う広告料金(電波料、製作費、ネット費)で賄う商業放送、および契約者から視聴料金をとる有料 放送。一九九五(平成七)年八月一日現在、地上系が、音声放送九二社(中波四七社、短波一社、FM四四社)、テレビ放送一二一社、文字放送二四社(うち 第三者一○社)、衛星系が、音声放送三社(BS一社、CS二社)、テレビ放送一二社(BS一社、CS一一社)である。 五一(昭和二六)年九月一日、名古屋の中部日本放送と大阪の新日本放送(現・毎日放送)がそれぞれラジオ放送を開始。テレビは五三年八月二八日、東京の 日本テレビが放送を開始した。これら地上系に対し、衛星系はJSB(日本衛星放送)が九一年四月一日に放送を開始した。JSBの設備を利用したPCM音 声放送(テレビジョン音声多重放送)セント・ギガは九一年九月一日に放送を開始した。CS(通信衛星)によるテレビ放送は、日本ケーブルテレビジョン、 スターチャンネル、ミュージックチャンネルの三社が九二年五月一日からそれぞれ有料放送を開始した。民放一七六社(衛星系民放除く)の九四年度決算は、 総額二兆一四三七億七八○○万円。前年度比三・四%増と三年ぶりの増収となった。経常利益は、前年度比四四・七%増の大幅増益で四年ぶりの増収増益とな った。 ◆民放連(NAB)(The National Association of Commercial Broadcasters in Japan)〔1996 年版 放送映像〕 日本民間放送連盟の略称。民放各社の共同の利益を守り親睦を図る目的で、民放誕生の年〔一九五一(昭和二六)年〕、初の免許を受けた一六社によって設立、 九五年八月一日現在の会員社計は一八三社である。内訳はラジオ単営六○社(うち衛星系BS一社、CS二社)、テレビ単営八七社(うち衛星系BS一社)、ラ・ テ兼営三六社となっている。事務所の所在地は東京都千代田区の文芸春秋西館。 ◆放送法〔1996 年版 放送映像〕 国民生活に大きな影響力を持つ放送が、健全な発達をとげることができるようにする目的で、放送番組、放送運営の全般を規律するもの。一九五○(昭和二五) 年春の国会で制定され、国民的基盤に立つ公共的な放送機関としてのNHKの設立、運営、財政、番組、監督について定め、また、電波法による放送局の免許 というかたちで放送事業者としての地位を得た民放について、番組の編成、広告放送の実施などについて、規定している。まだ民放テレビが生まれていなかっ た五○年に制定された放送法なので、何回か小幅な改正がなされてきたが、八九年の改正は通信衛星による放送を認めた点で、注目に値する。九四年六月、 「放 送法の一部を改正する法律」では衛星通信による海外からの放送番組の受信と海外への発信を許し、「放送番組素材利用促進事業の推進に関する臨時措置法」 を第一二九回臨時国会で通過させた。九五年四月、訂正放送に関する放送法一部改正案が成立した。改正法は、事実でない放送をしたという理由で権利を侵害 されたとの請求があった場合に、訂正放送や取消放送を請求できる期間を放送後二週間以内から三カ月以内に延長し、あわせて放送番組の保存期間を放送後三 週間から三カ月に延長するなど、視聴者の人権を尊重する内容になった。 ◆ATP(全日本テレビ番組製作社連盟)(Association of all Japan TV Program Production)〔1996 年版 放送映像〕 大手のテレビ番組製作会社で組織された社団法人(藤井潔理事長)。一九八二(昭和五七)年三月に設立。八六年五月より社団法人となる。九五年八月現在、 正会員社が五三社、テレビ局などの賛助会員社が四五社で構成されている。シンポジウムを開いたり、テレビ局や著作権団体と交渉するなどの活動を行ってい る。ほかにも、製作会社を目指す人を対象とした会社説明会とパネル・ディスカッションを兼ねたテレビ・エクザムを毎年開催している。また、毎年六月にA TP賞を選んでいる。ドラマ、ドキュメンタリー、バラエティの三部門に分け、それぞれ二番組ずつ、計六番組を選び、その中からグランプリを決める。九五 年のATP賞グランプリは「料理の鉄人」が受賞した。 ◆国際放送(overseas broadcasting)〔1996 年版 放送映像〕 外国において受信されることを目的とする海外向け放送のこと。日本では定期的放送を一九三五(昭和一○)年六月に開始した。国際放送は放送法に基づいて NHKに交付金が支出され、これとNHK自体の経費で行われている。現在、 「ラジオ日本」と「NHKテレビ国際放送」の二つが放送されている。 「ラジオ日 本」は、放送を短波で行っている。日本語と英語で全世界に放送する「一般向け放送」が、一日延べ三一時間、特定の地域にその地域で使われている言葉を用 いた「地域向け放送」が、一日延べ六五時間、二二の言語で行われている。日本から全世界へ向ける「直接送信」と、イギリス、カナダ、シンガポール、スリ ランカ、ガボン、仏領ギアナ、アセンション島(九五年四月から新たにアフリカ中・西部向けに放送開始)の世界七カ所の中継送信局を経由する「間接送信」 とがあり、一日二五○本以上のニュースや番組を二四時間世界に向けて発信している。現在、三カ月以上海外に滞在する海外邦人はおよそ七○万人、日本人旅 行者は年間およそ一二○○万人。これらの人たちと外国人リスナーのために情報を伝えている。 テレビ国際放送は九一年度から実施しているテレビジャパンによる北米、欧州への番組配信を継続しながら、そのシステムを利用している。正式には、「受託 協会国際放送」という。テレビの海外向け発信が認められて、九五(平成七)年四月からNHKは欧米で「NHKテレビ国際放送」を開始した。衛星サトコム K‐1を使用して、北米では一日平均五時間程度(うち二言語放送三五%)、衛星アストラ1-b を使用して、ヨーロッパでは平均三時間一○分程度(うち二言 語放送四○%)放送を行っている。番組編成はニュースが中心。アジアではテレビ国際放送は行っていないが、衛星パンナムサット2を使用してアジア諸国の 放送局やCATV局に数時間の番組を提供している。民放は九四年から内外放送として海外にテレビ番組を衛星を通じて発信できるようになった。 ◆越境テレビ〔1996 年版 放送映像〕 衛星を使った放送のため、スピルオーバー(電波漏れ)によって国境を越えた近隣の国でも視聴できるという現象。衛星放送が開始されて現れるようになった。 一九九一(平成三)年八月から三八カ国・二七億人をカバーするスターTVが放送を開始して以来、アジア各国は新たな衛星を使った放送をつぎつぎに計画、 越境するテレビ電波が急増することになった。アジアの中でも大小一万余の群島国であるインドネシアでは、地上波のテレビやケーブルテレビにとって立地条 件が悪く、衛星の集まる赤道上空のもとに国が位置したせいもあって、七六年七月という早い段階で国内通信衛星パラパを打ち上げた。インドネシアは、タイ、 フィリピンなどの周辺国に余剰チャンネルを貸し出したり、「アジア・フリー・スカイ・ルール」を提唱するなど、越境電波の受信には寛容な姿勢を示してい る。しかし、NHKの衛星放送に対して韓国が「電波による文化の侵略」と批判するなど、アジアの多くの国々では、越境テレビを問題視してきた。そこで、 映像による国際放送の各国にもたらす影響は大きいと考えられ、九五年三月、アジア・太平洋映像国際放送会議が開かれ、アジア・太平洋地域に放送される番 組のガイドラインが採択された。この中で特に「宗教」「性」「犯罪」は配慮された。つぎの三点がおもなものである。 (1)番組内容に責任を持つべき国をアップリンク地球局のある国と規定。 (2)映像国際放送に対する苦情処理に関する政府間手続きを規定。 (3)映像国際放送番組の編集に関する一般的基準を規定((1)受信国の統治主権、国家安全保障及び微妙な事柄の尊重。 (2)受信国の社会的、政治的、文 化的及び伝統的価値の尊重。(3)未成年者の保護への配慮。(4)正確、公平かつ公正なニュース及び反論権への配慮。等)。 アジア各国で越境テレビに対する規制が緩和される一方で、NBCをはじめ欧米メディアのアジア進出の勢いはすさまじく今後のアジア地域では電波の激戦が 予想される。 ◆インテルサット(INTELSAT)(International Telecommunications Satellite Organization)〔1996 年版 放送映像〕 アメリカの主唱で設立された国際電気通信衛星機構。事務局ワシントン。一九六四年に日本を含む一九の西側諸国によって暫定制度として発足、その後七三年 に恒久制度へ移行し、法人格の国際機関となった。日本の出資額は現在アメリカ、イギリスに次いで第三位である。現在、大西洋上に一○基、太平洋上に四基、 インド洋上に四基、太平洋とインド洋の中間に一基、計一九基の通信衛星を配置し、インテルサット非加盟国を含む全ての地域に対して商業ベースで通信サー ビスを提供している。インテルサットのサービスには、テレビ局向け映像伝送のほかに電話や企業向けデータ通信などがある。テレビ中継のためにインテルサ ット衛星を使うのは、オリンピックやワールドカップ・サッカーなど世界的スポーツイベントの中継、日々行われているニュース素材や番組の国際的配信など であり、その量は年々増加してきている。ヨーロッパやアフリカ・東南アジアの諸国との中継は主に山口地上局―インド洋衛星経由で、アメリカ・オーストラ リア・韓国・フィリピンなどとの中継は主に茨城地上局―太平洋衛星経由で行っている。 ◆非インテルサット衛星〔1996 年版 放送映像〕 従来、国際間の衛星通信を独占的に扱ってきた国際コンソーシアム「インテルサット」の衛星以外の通信衛星で、国際的な通信サービスを行うものをいう。民 間企業として、世界で初めて欧米間、南北アメリカ間の衛星通信サービスを開始したパンナムサット1(米アルファリラコム社)や欧州のアストラ(ルクセン ブルクのSES社)、アジア地域をカバーするアジアサット(香港アジアサット社)などがこれにあたる。 インテルサットは、従来、多国間にまたがる通信サービスを行う衛星の参入には、技術上、経済上、インテルサットに損害を与えないことを前提に、事前の調 整を義務づけてきた。しかし、一九九二年に、専用線サービスについては即時、公衆回線に接続する衛星回線についても九六年をめどに、非インテルサット衛 星の参入を事実上自由化することを決定し、独占政策を自ら放棄した。この背景には、八○年代以降、ユーテルサットやアラブサットなど、インテルサットほ ど広範囲ではないものの近隣諸国への伝送を可能にするいわゆる「域外衛星」が次々と出現し、この調整の件数が飛躍的に増大したことに加え、インテルサッ トの最大の出資国アメリカがオープンスカイポリシー(規制緩和政策)をとり、国内民間企業から非インテルサット衛星打上げ・運用の免許申請が多く出され たことや、アメリカがインテルサットへの巨額の出資を賄いきれなくなったという経済的な要因もあった、といわれる。非インテルサット衛星のサービスは、 電話やデータ伝送といった通信サービスよりも、国境を越えるテレビ放送など映像伝送サービスや企業の専用線サービスが高い比重を占めている。 ◆インマルサット(国際海事衛星機構)(INMARSAT)〔1996 年版 放送映像〕 短波に依存していた海事通信を衛星技術の導入によって改善することを目的に設立された海事衛星運用のための国際機構。事務局ロンドン。一九七九年に二八 カ国をもって法人格の国際機関として発足、八二年にアメリカのマリサット既存システムを引き継ぎインマルサットとしての運用を開始した。インマルサット は、主に船舶と海岸地球局を衛星でつなぎ、電話、高速データ伝送等のサービスを提供しているが、最近では、放送局や通信社・新聞社が僻地等からの取材活 動で陸送用可動型地球局を利用するケースも増えてきている。また、テレビ映像をデジタル・インマルサットで伝送する技術も開発されており、放送局の関心 を引いている。 ◆衛星放送〔1996 年版 放送映像〕 赤道上空三万六○○○キロの静止軌道上に浮かぶ放送衛星(BS)および通信衛星(CS)から日本全国の家庭に直接電波を届ける放送。一九八四(昭和五九) 年一月に放送衛星2号 a、八六年二月に同2号 b が打ち上げられたが、この放送衛星のテレビ中継器から電波を発射、この電波は上空から届くので途中さえぎ るものがなく、ゴースト(多重像)のない、きれいな映像が得られる。またその音声は、PCM方式による高品質のデジタルサウンドのため、低い音から高い 音まで、弱い音から強い音まで、きれいに忠実に再現される。NHK放送衛星はテレビの難視聴解消を主目的として打ち上げられたが、それを目的とした放送 は一チャンネルに集められ、これまで地上放送では実現が困難とされてきたハイビジョン放送などの新しい放送に対応する番組、独自編成による「モア・サー ビス」に振り向けることとなった。 「衛星放送の普及」に沿って「二四時間放送」が八七年にスタートし、八九(平成一)年六月には、八月から衛星放送の受信料を徴収するため、二波による本 格的な二四時間放送を開始した。なお、衛星放送を受信するには、衛星受信用のパラボラアンテナ(お椀型や、平面型がある)とチューナーが必要である。 八九年六月から、第一チャンネルはワールドニュースとスポーツを中心に、一○○%独自放送、第二チャンネルは難視聴解消のための地上放送の編成と同時に、 定時編成で衛星放送を四○%近く放送している。ワールドニュースは世界主要国の主なニュース番組をそのまま放送、世界の動きを二四時間伝えており、週末 には世界の人気テレビ番組やスポーツ中継を集中編成している。第二チャンネルでは、「映画・ドラマ」「音楽」「スペシャル・イベント」を中心に、世界第一 級の映像ソフトを集中的に編成しており、DATなみの高音質を楽しめるBモード放送に象徴されるように、高音質・高画質の放送が特徴となっている。 放送衛星BS‐3は九○年打上げ、九一年から二チャンネルが三チャンネルとなった。それは、民放初の日本衛星放送(JSB=愛称WOWOW)が九一年四 月、衛星放送を開始したからである。本放送開始時には一四万人が加入、九五年度中に二○○万件を超えるところまできて、衛星デジタル放送や衛星データ放 送に対応している。放送衛星を利用した初のデジタル音声放送局、衛星デジタル音楽放送(SDAB=愛称セント・ギガ)は、九一年三月三○日、本放送を開 始した。そして、九二年からCS(通信衛星)放送が開始され、多メディア・多チャンネル時代に入った。 ◆デジタル放送(digital broadcasting)〔1996 年版 放送映像〕 従来のアナログ放送は一つの電波には一つの映像しか乗せられず、音声は別の電波で送る必要があった。これに対し、デジタル放送は一つの電波に複数の映像 や音声などを乗せられるほか、品質を落とさずに情報を圧縮できるため、従来のアナログ放送一チャンネルの周波数帯で四∼八チャンネルを設定できる。また、 コンピュータを使って情報をコントロールしやすく、視聴者側からの注文による情報も送れる「双方向性」をも可能にする。アメリカでは、すでにデジタル衛 星放送(DSS)による多チャンネル放送を開始しており、世界的に放送のデジタル化が進みつつある。日本では、一九九六年に通信衛星(CS)、ケーブル テレビ(CATV)のデジタル放送を開始する。地上波テレビでも二○○○年代前半にはデジタル放送を開始する。しかし、放送衛星(BS)でのデジタル放 送の導入時期については意見が分かれている。BSでのデジタル放送の導入は、伝送方式がアナログのハイビジョン放送を見直すということになることから、 ハイビジョン推進派の放送・家電業界が反発した。結局、「マルチメディア時代における放送の在り方に関する懇談会」により一九九五(平成七)年三月に出 された最終報告は、放送・家電業界が支持するA案(デジタル化を二○○七年以降に先送りする)と、通信業界・学者・有識者が支持するB案(九九年に打ち 上げられるBS‐4後発機からデジタル化する)の両論併記という異例の形をとった。デジタル放送への移行の段階で、視聴者保護のために一○∼一五年はア ナログ放送もサイマル(同時)放送しなければならない。その費用は民放テレビ全社で約一兆円かかるなどの課題も指摘されている。 ◆CSテレビ放送〔1996 年版 放送映像〕 現在一二チャンネル認められているCS(通信衛星)テレビ放送は、同放送用の周波数割り当て増が確定、二二チャンネルに拡大される。思い切って多局化し ない限り、同放送の普及が期待できないと判断、増波措置がとられたものであり、これまで使用していた一二・五○ギガヘルツよりも下の周波数(一二・二○ ギガヘルツ)も使えるようにし、一○チャンネルのプラスが可能となった。 現在、スーパーバード(宇宙通信衛星)利用のスカイポートTVは、日本ケーブルビジョン(CNN)、スターチャンネル(劇映画)、ミュージックチャンネル (MTV)、GAORA(スポーツ)、朝日ニュースター(ニュース専門)、Let's TRY(ライフデザインチャンネル)の六チャンネルだったが、スーパーチ ャンネル、CSN(テレビ映画)、邦画ファミリー劇場が一九九五(平成七)年内に放送開始されて九チャンネルとなる。JCSAT「日本通信衛星」のCS バーンは、スペースシャワーTV(ロック系音楽)、ジャパンスポーツチャンネル(スポーツアイ)、衛星映画演劇放送(衛星劇場)、スカイA(スポーツ)、B BCワールドサービスの五チャンネルであるが、デジタル化移行を早い時期に行う方向をとっており現時点では今回の増波への対応を行っていない。スカイポ ートのデジタル化は九九年の目標であり、現行のアナログ放送を当分継続するという。 ◆PCM音声放送〔1996 年版 放送映像〕 CS(日本通信衛星)を使ったPCM音声放送は、合併につぐ合併で、四社が結局二社にまとまった。PCMジパングとスカイコミュニケーションが合併して、 「ジパング・アンド・スカイコミュニケーション」が六チャンネルの放送を行ってきたが、一九九五(平成七)年七月、ミュージックバードとサテライトミュ ージックが合併して「ミュージックバード」という新社名となり、八チャンネルの放送を行っている。これで日本のPCM音声放送は二社となった。 ◆二四時間テレビ放送〔1996 年版 放送映像〕 二四時間ぶっ続けのテレビ放送。定時放送はNHKの衛星第一放送が最初で、 「ワールドニュース」 「衛星スペシャル」 「スポーツミッドナイト」などが主な柱。 溶鉱炉と同じで、衛星は火を消さないほうが効率がいいからで、一九八七(昭和六二)年七月から放送開始した。また民放では、NTVが開局二五年記念番組 として、七八年八月二六日から二七日まで「二四時間テレビ」を放送、現在まで毎年続けている。フジテレビとTBSテレビは地上波としては世界初の本格的 二四時間放送を八七年一○月から実施した。NTVとテレビ朝日は、八八年一○月から開始した。NTV系のチャリティー番組「二四時間テレビ 救う」は九四年で一七回目となった。フジテレビも夏の風物詩 ◆テレビ音声多重放送〔1996 年版 二四時間テレビ 愛は地球を を放送、九四年で八回目を迎えた。 放送映像〕 現在使っている電波のすき間を利用してステレオ、二カ国語放送、第二音声放送を出すこと。一九八一(昭和五六)年、郵政省はNHKと民放三八社に対し、 テレビ音声多重放送の補完的利用の拡大を許可した。従来の音声多重放送は「ステレオ」か「二カ国語」放送の二つに限られていたが、利用方法の拡大が認め られ、現在の多重放送は、 (1)主番組に関連のある放送なら第二音声でどんな放送でも流すことができる。 (2)災害情報なら、主番組とは無関係に出せるこ とになり、多重ニュースやプロ野球中継のやじうま放送、歌舞伎の解説放送などもできる。 ◆静止画放送(still picture broadcasting)〔1996 年版 放送映像〕 通常のテレビのような動画ではなく、一コマ一コマの静止画像(文字、イラスト、スチール写真など)と音声によって構成される番組をテレビの電波で送る放 送。わが国で開発されているのは、テレビ電波一チャンネル分の専用波を使って、同時に約五○種類の音声つきカラー静止画番組を送ることができる方式。視 聴者はテレビ受像機にアダプターをつけることにより、希望する時間に必要な静止画番組を選んで見ることができるのが特徴で、生活情報や学習・教養番組、 趣味の番組など利用範囲は広い。なお、ハイビジョンの静止画は、岐阜美術館などにおいて、ハイビジョンギャラリーとして利用され、話題を呼んでいる。 ◆文字放送〔1996 年版 放送映像〕 テレビ画面の映像を構成する順次走査の下から上に戻る時間的すき間「垂直帰線消去期間」を利用し、現行の空中波で文字や図形を送信するシステム。現行テ レビのNTSC基準では五二五本の走査線があるが、「垂直帰線消去期間」は二一本あり、そのうち四本が使用可能となっている。利用者は、文字放送用アダ プターが必要。事業者は広告を主要財源とし、無料でニュース、天気予報、交通情報などを提供する。NHKや民放事業者によって文字放送サービスは、現在 大部分の都府県で実施されている。 ◆移動体向け文字放送〔1996 年版 放送映像〕 JR山手線の新型車両に搭載されている移動体用文字放送受信機はエル・エス・アイ・ジャパンが開発し、一九九一(平成三)年秋から日本テレビ系のアクセ ス・フォアが放送ソフトを制作・放送している。 電車のような移動体ではアンテナの指向性が常に変わるため、従来は「文字放送の受信は無理」とされていた。この課題を解決するため、(1)移動体に取り つけた四本のアンテナからそれぞれ文字放送信号を読み込み、その中から最良のデータを一つ選ぶマルチチューナー方式と、(2)これだけでは受信が不安定 なため、反復複合方式技術を併用した。文字放送では、一つの番組を繰り返し送出する。この仕組みを利用し、一回の周期で画面が完成しない場合でも、次の 周期で得た画面と次々と合成、これによって、移動体でも室内と同品質の文字放送ができるようになった。車載用受信機の商品化には目下慎重になっている。 それは一セット九万八○○○円で売る計画を立てているものの、この価格では年間一万セット売れないと採算が合わない現状にあるからであり、 ニューメデ ィア期待の星 といわれながらも、利用方法の開発が目下の急務とされている。 ◆国会中継専用テレビ準備進む〔1996 年版 放送映像〕 衆・参両院でそれぞれ国会中継専用テレビの開局準備が進められている。この国会中継テレビの構想は、リクルート事件後の政治改革論議を進める中で、自民 党から提案があり、一九九一(平成三)年三月、各党の賛成を得て、衆議院に「国会審議テレビ中継に関する小委員会」が設けられた。また参議院でも議院運 営委員会を中心に、時期を同じくして調査会がスタートした。基本構想は両院とも、CS(通信衛星)やCATV(ケーブルテレビ)を媒体として、本会議や 各種委員会審議の模様を、最初から最後まで丸ごと各家庭に伝える。編集も解説も加えずに、原則として発言者だけを映す。現在、両院とも、本会議場や委員 会へのカメラの設置を進め、すでに院内のテレビ中継を実施している。 この国会生中継テレビ実現のために、TBSを退職し、日本でのC‐SPANの配給会社「C‐NET」を九一年に設立した田中良紀社長は、「国会TVを実 現し、二十一世紀型国会をつくる会」を九三年末に発足させ、国会テレビ推進役として、議員や政党、官庁などの説得を続けている。 しかし、年間三○億円近い運営費の問題など、実現までに克服すべき課題も多い。最大の課題は設立時に最低五○億円の経費がかかること。運営主体は非営利 の特殊法人に任せる案が有力になっているが、不況のため民間の協力が得られにくくなっている。 ◆ナローキャスティング(narrowcasting)〔1996 年版 放送映像〕 文字どおりブロードキャスティング(broadcasting=放送)の対語で、地域的、階層的に、限定された視聴者を対象とするテレビ放送を意味する言葉。ケーブ ルテレビがもたらした新しい概念。 ケーブルテレビが、限られた地域を対象としていることや、非常に多くのチャンネルを収容するケーブルの特性を利用して、一つ一つのチャンネルのサービス 内容を細分化し、たとえばニュース、映画、スポーツなどの専門チャンネルとして使っていることなどからいわれ始めた言葉。 ◆CATV(cable television; community antenna television)〔1996 年版 放送映像〕 ケーブルテレビ、有線テレビ。CATVは大別すると都市型と農村型とに分けられ、農村型CATVの地域密着情報システムに対し、都市型CATVの最大の 特徴は多チャンネル・娯楽情報タイプといえる。一九九五(平成七)年三月末現在、CATV局数は六万一六○六施設で、加入世帯数は約一○二五世帯。この 一年間で約二一一○局、約一○二万世帯増加した。 一九五五(昭和三○)年四月にテレビ難視聴対策施設として、群馬県伊香保温泉で誕生したわが国のCATVは、BS、CS放送といった衛星メディアの台頭 や、ソフト面のプラス要素もあって、これから本格的な発展への重要な段階を迎えるといえそうだ。 ◆都市型CATV〔1996 年版 放送映像〕 都市型CATVの定義は、 (1)端子数(加入が可能な世帯数とほぼ同じ意味)一万以上、 (2)自主放送(民放やNHKの再送信ではない放送)が五チャンネ ル以上、(3)双方向機能があることなどである。 多チャンネルといっても現実には十数チャンネルから三十数チャンネルが日本の現状で、アメリカのように一五○チャンネルのものはない。三○チャンネル程 度の局では、再送信が一二チャンネル、番組供給業者からの提供番組が残りの大半、地域に根ざした自主制作は一チャンネルにすぎない状況である。 加入時の費用は、契約料五万円前後とケーブルを家庭に引き込む工事費などがかかる。利用料は基本が月額三○○○円前後、映画のチャンネルは別料金で二○ ○○円から二五○○円、アメリカのニュース専門番組のCNNを一○○○円程度の別建てにしている局もある。日本初の本格的ペイ・パー・ビュー(視聴ごと に料金を支払う)方式を、日本ヘラルド映画は通信衛星を使って、一九九○(平成二)年七月から自社配給洋画の配信について始めた。 このように民間通信衛星の利用が広がって、日本の都市型CATVは、やっと本格的な多チャンネル時代に入ろうとしており、番組供給業者は現在約四○社あ るが、衛星による番組送信はCATVやホテル、マンションまでで、各家庭の配信は放送事業と同様になると規制されている。九五年三月末現在、施設数一七 二、加入者数二二一万世帯となった。放送内容も多様化し、加入のメリットも認識されるようになってきた。 ◆通信・放送融合型ケーブルテレビ〔1996 年版 放送映像〕 通信と放送の境界が崩れていき、規制緩和が進むにつれ、通信・放送融合型ケーブルテレビが脚光を浴び、マルチメディア時代への先駆けとして期待されてい る。CATV(ケーブルテレビ)で電話などの通信事業を兼ねるもの、その反対にアメリカでは通信業者のCATV買収が話題になり、二一世紀に向けて従来 のCATVからの脱皮が試みられている。CATV業者や機器メーカー、通信事業者などが協力、光ファイバーを使った双方向サービスや電話などによるフル サービスに向けての将来ビジョンが検討されている。通信・放送の融合をめぐる新サービスの現状を列記すると、次のようなものがあげられる。(1)チケッ ト販売(ホームリザベーション)=キーパットによりコンサート番号およびチケット枚数を入力。事業者がポーリングして受け付け、チケットを郵送、代金は 月額利用料金と同時に徴収する。(2)ホームセキュリティー、(3)ホームショッピング、(4)ゲームサービス、(5)パソコン通信、(6)デジタル通信サ ービス、 (7)光ケーブルシステム、 (8)ビデオ・オン・デマンド(VOD)など。いずれも実験がすでに行われており、事業化を計画中の(5)は、ケーブ ルテレビ回線を利用して、パソコンネットワークにアクセス、相互通信ができる新サービスであり、とくに将来性があるものとして期待されている。 ◆スペース・ケーブルネット(space cablenet)〔1996 年版 放送映像〕 通信衛星を利用して、全国のCATV局に番組を配給するシステム。CATVの発展を一段とスピードアップするため、郵政省はこのシステムを推進している。 CATVを発展させる最大のポイントは、なによりも番組の充実、地上系放送局に負けない番組を編成すること。そのため通信衛星によって良い画質や音質を もった番組を流していかなければならない。 アメリカでは一九七五年九月、大手番組供給会社HBOが国内通信衛星を利用してCATV局に有料サービスを開始、これによりアメリカのCATV加入者は 飛躍的に増加した。この成功でアトランタの地方局WTBSは七六年スーパーステーションの名称で同様のサービスを行い、CNNを誕生させた。 わが国では一九八九(平成一)年一○月からスペース・ケーブルネットのデモンストレーションを行い、多チャンネルCATVの普及につとめている。また、 ソフト面では、ペイサービスの展開、ハイビジョンの取込み、双方向サービスの実用化などの発展シナリオが描かれている。 ◆ペイテレビ(pay television)〔1996 年版 放送映像〕 特定の契約者に有料で特別の番組を提供するテレビシステム。その方法は主としてケーブルシステム(ペイケーブル)で行われている。ペイケーブルは、有料 テレビ用の番組提供会社が国内衛星を使って新しい劇映画やスポーツのビッグイベント、有名ステージショーなど魅力ある番組を、このCATVに分配するこ とで急速に伸びた。 ◆スーパー・ステーション(super-station)〔1996 年版 放送映像〕 ローカルの独立テレビ局の番組やイベント中継を衛星を経由して各地のケーブル(有線)テレビ会社に送る方式。アメリカで始まったこのサービスは、国内通 信衛星とケーブルテレビを結ぶことで、加入者は遠く離れたテレビ局の番組を楽しむことができる。ケーブルテレビの経営を圧迫するのは経費のかかる自主番 組の制作だが、ネットワークテレビに対抗するには、CATV局は自主番組がどうしても欲しい。これを克服するのがスーパーステーション化であり、衛星を 利用して、ローカル独立局の自主番組や買取り番組を他のケーブルに送ることで経営改善をはかりうる。これまでネットワークテレビに握られてきたビッグイ ベントの独占中継権も、これによってケーブル各社が共同購入することができる。 ◆電波利用料制度〔1996 年版 放送映像〕 これまで無料で使われてきた電波を有料化する構想が、郵政省から提出され、一九九三(平成五)年度から利用料の徴収を実施した新制度。 わが国の電波利用は飛躍的に拡大し、九○年末で六二五万局の無線局が、二○○一年には現在の加入電話数に匹敵する五○○○万局になると予想され、電波利 用関係産業は数十兆円の規模に達するため、電波行政の効率化・高度化(コンピュータ・システムの導入)、電波管理システムの整備充実の費用として、先進 諸外国の例にならい、「電波利用料制度」を創設した。 利用料は免許人から広く徴収し、その全額を電波行政費に充てる特定財源とする。徴収範囲は国や地方自治体も含め、免許を要するすべての無線局からとし、 その額は空中線電力、占有周波数帯幅など電波の利用程度に応じたものとする。総額は半年度ベースで一五○億∼二○○億円程度。なお、放送局の場合はテレ ビではキー局が一局が一億円、地方局で同一○○万∼三○○○万円、ラジオは東京でも一局一○○万円以上と推定されている。 また、一○○万局もあるといわれる「不法無線局」の締め出し対策も行い、無免許の局あるいは周波数の乱用による混信や電波障害を防ぐ。 九二年五月末に国会で成立、従来無料だった電波に九三年四月から料金が課せられたが、CS(通信衛星)利用の一形態として期待されていた超小型地球局(V SAT)は電波利用料があまりにも高く、伸び悩むことになりそうだ。 ◆有線放送〔1996 年版 放送映像〕 ケーブルを通じて音楽や情報を放送する業種。これまでは夜の盛り場のバーや飲食店などに、演歌などのレコードを流していたが、最近は一般家庭向けに方向 を変えだしている。現在、家庭への普及を計っている業者は約一○社、加入者は一○万世帯を上回っているという。業界の最大手の大阪有線放送社(大阪ゆう せん)は、日本最大の四四○チャンネルを有しており、従来の飲食店向けの営業方針を大きく転換、一般家庭への進出をねらっており、一九九三(平成五)年 BBCインターナショナルの放送も流した。業界第二位のキャンシステム株式会社も八八年から家庭への売り込みに力をいれている。なぜそうなったかという と、有線放送と衛星放送を導入した高級マンションが好評で、よく売れたからだ。音楽ばかりでなく、リスナー同士が有線放送を通じて情報を交換したり、淋 しいときに話相手を求めたり、ラジオの人生相談まがいの使い方まで出てきてAMに今後影響を与えそうである。 ◆放送大学(university of air)〔1996 年版 放送映像〕 テレビ・ラジオの放送で学ぶ大学として一九八三(昭和五八)年四月発足、八五年開校された。教養学部のみの単科大学で三コースと六専攻がある。九二年、 ビデオ学習センターが全国で一四カ所となった。受講者は全科、専科、科目の各履修生にわかれる。全科履修生は四年以上在学し、一二四単位を取得すると「学 士(教養)」の学位が得られる。他は卒業を目的とせず、自分の学習したい科目を約三○○の科目から選択し、講義をうける受講者。放送大学は学生を受け入 れてから一一年経ち、九五年三月時点で六六七九人が卒業単位をとって学士となり、九五年度の学生数は五万七九七九人。面接授業では私語がまったくなく、 一般の大学生とは違った自主性が見られる。現在関東地区に限られているが、九七年に打ち上げられるBS‐4(放送衛星)を利用すると「いつでも、どこで も、だれでも学べる」という設置が初めて実現できることになる。 ▲電波と放送技術〔1996 年版 放送映像〕 電波の有限稀少性による制約があり、さまざまな規制が加えられてきたが、放送技術の飛躍的な進歩はそれらの規制をしだいに緩和しつつある。ことに、社会 的に影響力の小さいメディアについては、多様な事業者による自由な参入や退出が行われるように配慮されている。コンピュータ、圧縮電送技術、衛星通信技 術の進展は、とくにめざましく、放送界を大きく変えていくものと考えられている。デジタル化、光化に代表される情報関連技術の進歩は、ますます放送と通 信を融合させていくだろう。 ◆チャンネル(channel)〔1996 年版 放送映像〕 水泳のプールに一定の幅があり、またそのコース一本分にも幅があるように、ラジオやテレビジョンの放送電波にも幅があり、これを周波数帯という。また、 プールにつくれるコースの数は、何本と決まってしまうのと同じように、テレビに使う周波数帯にも、制限がある。現状は、六メガヘルツずつ区切って、第一、 第二 と番号をつけており、これがチャンネル番号である。 チャンネルとは、溝とか通路(通信路)の意味で、周波数帯(ラジオは中心周波数の前後五キロヘルツずつ、つまり一○キロヘルツ、わが国やアメリカのテレ ビは映像と音声の双方を含めて六メガヘルツの幅をもつ)を指す。チャンネルの数は限られ、さらに外国からくる電波の混信を受けて使いものにならないもの もあるほか、同じところで、すぐ隣り合わせたチャンネルを使うと、相互の「混信」が起こってしまう。チャンネルは、需要にくらべれば極度に数が少ない。 どのような強さの電力で、どのような周波数を、どの場所で、どのような目的で、どのような事業者に使わせるか、放送用の電波の使用には国の監理統制は不 可欠のものである。 電波法では放送局を含む無線局を開設しようとする者は郵政大臣の「免許」を受けなければならない(第四条)としている。また個々のテレビジョン放送局や ラジオ放送局に対して使用チャンネルを振り当てることを、チャンネル割当という。 ◆コミュニティ放送〔1996 年版 放送映像〕 通常のFMより出力の小さいFM放送局。従来の県域単位のラジオではカバーできない地域情報の提供を通じて地域の活性化を図るねらいで、一九九二(平成 四)年に制度化された。コミュニティ放送は一地域一局に制限されていたが、九四年五月に複数設置が認められたり、当初出力は一ワットと制限されていたが、 カバーできる地域が狭いため、九五年三月に出力の上限を一ワットから一○ワットに引き上げられたり、といった規制緩和がなされた。九二年一二月に北海道 函館市の「FMいるか」が開局して以来、コミュニティ放送局は増え続け、九五年一○月一日現在、全国で二二局になった。都内では九五年三月に「むさしの FM」、同五月に「エフエム多摩」と相次いで開局した。九六年には大阪の吉本興業が開設を計画、認可申請は三件を数え、開局ラッシュが続いている。九五 年七月に開局した長野県長野市の「ながのコミュニティ放送(愛称・FMぜんこうじ)」は、長野ケーブルテレビのカメラをスタジオに設置し、朝のワイド番 組「ながのトゥデイ」を同時放送している。 ◆SNG(Satellite News Gathering)〔1996 年版 放送映像〕 サテライト・ニュース・ギャザリングは、通信衛星を利用し、テレビニュースの取材機能、機動性と配信力を高める送受信システム。現在の主なテレビ・ニュ ースは、ENG(Electric News Gathering)で取材しており、遠隔等で取材したものを局に送信する場合FPU(Field Pick-up Unit)でマイクロ伝送してい るが、離島や遠隔の山間部からの送信にはやはり困難があった。それを改善すべくSNGシステムが開発された。アメリカでは早くから実用化され、コーナス というSNG専門のテレビ・ニュース配信会社が設立された。加盟六八社にパラボラと車載局を配置、取材したニュースを一日四∼五回ネットしている。日本 では一九八九(平成一)年春から実施され、ニュース以外のスポーツ中継、ワイドショーなどの素材送りにも利用すべく、テレビ各社は湾岸戦争以降競って準 備を進め、態勢を固めた。 ◆ビデオ・オン・デマンド(VOD)/ニュース・オン・デマンド(NOD)(Video On Demand/News On Demand)〔1996 年版 放送映像〕 現在のCATVでも、数十チャンネルの中から好きな番組を選べるが、放送日時は家庭から指定できない。ところが、「ビデオ・オン・デマンド」は、家庭に いながらにして好きな番組を見たい時に呼び出せる。家庭で好きな番組を選び、端末機で注文すると、すぐにわが家のテレビに送信される。ビデオレンタル店 に行かずに好きな映画を見られるほか、実用化が進めば、見逃したドラマやニュースなどを、呼び出して見ることもできる。「ニュース・オン・デマンド」と は、その好きなニュースを注文して視聴するシステムをいう。 一九九四(平成六)年七月から、関西文化学術研究都市で始まった、光ファイバーを使ったマルチメディア実験では、このビデオ・オン・デマンドが目玉とな っており、三○○のモニター世帯に光ファイバーを引き、実用化へのステップにしている。 ◆IDTV/画面改善型テレビ(Improved Definition Television)〔1996 年版 放送映像〕 現行のNTSC方式を変更せず、テレビ受像機を改善し画面の向上を図ったテレビ。 ◆デジタル放送システム〔1996 年版 放送映像〕 取材、編集、番組送出にデジタル機器を使うことにより、番組の製作からオンエアするまでの時間を短縮できるシステム。デジタル機器とコンピュータを組み 合わせて使うことにより、速く、容易に編集できるノンリニア編集が可能となる。これまでのテープからテープへの編集では編集を重ねるごとに画質が劣化し てしまったが、デジタルを使ったノンリニア編集では画質は劣化しない。また、卓上操作で番組が制作できるため(DTPP Desk Top Program Production)、 設備がコンパクトになり、小さなテレビ局や放送が多チャンネル化した場合には不可欠になると予想される。デジタル放送システムの市場では放送局用機器や 取材用カメラの市場で圧倒的優位に立つソニーと追撃する松下がしのぎを削っている。 ◆衛星データ放送〔1996 年版 放送映像〕 衛星放送の電波にデジタル信号を重畳して、ファクシミリ、静止画、番組コードなどを放送する。一九九四(平成六)年九月に実用化が可能になり、九五年四 月からセント・ギガ(衛星デジタル音楽放送)が放送を開始した。BSチューナーに任天堂「スーパーファミコン」と専用アダプターを接続し受信する。放送 内容は、ゲームソフト、カラオケ、天気予報など。将来、統合デジタル放送(ISDB)に発展すると期待されている。 ◆統合デジタル放送(ISDB)(Integrated Service of Digital Broadcasting)〔1996 年版 放送映像〕 複数の映像・音声・文字・図形・データなど各種情報をデジタル化して、小さな単位に分割し、まとめたものを一つのチャンネルで送る放送。視聴者は一台の 受像機で受信し、受信したものは好きな時間に自由に選択し、組み合わせたり、加工して利用できる。たとえば、二四時間いつでも天気予報を見れたり、スポ ーツ中継では好きな選手だけを追ったり、過去の成績を取り出して見たりできる。通信業界の次世代通信サービスがISDN(総合デジタル通信網)だとした ら、放送業界の次世代放送サービスはISDBとなる。NHK技術研究所で実験中。 ◆ハイビジョン/HDTV(High Definition Television)〔1996 年版 放送映像〕 「次世代テレビ」と期待されているハイビジョンは、実用化への第一歩として、横長テレビを発表し、一九九二(平成四)年から、バルセロナ五輪にあわせて ミューズ式本格受像機を一○○万円前後でメーカー各社が発売した。七○(昭和四五)年初めからNHKが中心になって開発してきたハイビジョンは、現行テ レビに比べて走査線が約二倍の一一二五本、画面の縦横比が九対一六であり、情報量も約五倍、ミューズ式コンバーターを含めた受像機で、九四年一一月から NHKと民放六社が実用化試験放送開始、二○○七年までにはデジタル方式の実用化を図る。日本のハイビジョン方式は、九○年五月デュッセルドルフでの国 際無線通信諮問委員会(CCIR)総会で国際規格として認められ、九一年一一月から放送衛星BS‐3b の使用による一日八時間の試験放送が開始、いずれ は欧米の目指すデジタル方式に移行される予定。値段が高かった受像機は、最も低価格のものが五○万円をきり低廉価化が進んできた。また、大きかった受像 機は、壁掛けテレビの開発により重量、奥行きを抑えることが可能となる。高品位で高精細な映像を持つハイビジョンは、放送以外の分野(美術館、博物館、 映画、医療、教育など)には利用されだしたが、広範な産業応用への期待もされている。全国の多くの美術館や地方自治体などのホールではハイビジョン機器 をすでに設置し、部分拡大や資料交換などに活用し始めた。 ◆壁掛けテレビ〔1996 年版 フラットTV(flat 放送映像〕 TV)ともいわれる。これは現在のブラウン管の代わりに、薄型になるディスプレイ素子(液晶、プラズマ・ディスプレイ、発光ダイオ ード)を画素表示に用いて、パネルのように壁に掛けられるテレビ受像機。すでに液晶を利用したポケット型テレビは市販されているが、一般家庭用のものは 試作品段階で、目下その大型画面の開発が関係メーカーにより鋭意すすめられており、近い将来新製品が発売される。 ◆液晶テレビ〔1996 年版 放送映像〕 電卓、腕時計などの文字表示用に使われている液晶を画像表示に利用したテレビ。一般にはポケット・テレビや腕時計テレビなどに使用されているが、大型表 示の可能性もあり、薄型の壁掛けテレビにも用いられている。すでに一部のメーカーではメートル級の大型液晶テレビを試作しており、松下電器は科学万博 85 の液晶アストロビジョンの大型映像システムで縦三メートル 横一二メートルという巨大化に成功した。 液晶は低電圧、低消費電力であるのが特徴であり、そのため文字表示素子として広く利用されている。初期の液晶は応答速度が遅く、コントラスト比が低く、 画素の高集積化が困難だったことなどから、テレビ画像の表示に適していなかった。だが、しだいに改良を加え、テレビ画像表示に使われるようにし、白黒の 腕時計型やポケット型のテレビの実用化に成功した。 ◆立体テレビ(stereoscopic television)〔1996 年版 放送映像〕 テレビ画像を三次元的に再現する方式。撮影するときに二眼で撮影する二眼式と多眼で撮影する多眼式との二つに大別され、それぞれにいくつか方式がある。 どの方式にもいまだに問題が多い。放送での実用化は難しい状態にあり、医学用、工業用、教育用などの専門分野の利用への開発を進めている。 日本では、 「オズの魔法使い」 〔日本テレビ一九七四(昭和四九)年・人形劇〕、 「家なき子」 (日本テレビ七七年・アニメーション)、 「ゴリラの復讐」 (テレビ東 京八三年・怪獣もの)などが立体テレビとして放送されたが、いずれも特殊な眼鏡をかけないと、立体的に見えなかった。こうした特別な眼鏡をつけなくても 立体的に見える立体テレビを松下電器が科学万博 85 に出展した。この試作品は、左の目と右の目に、それぞれ異なる方向から画像が入るように工夫、眼鏡な しの立体画像を可能にした。NHKは 89「技研公開」において、世界初のハイビジョン立体テレビを展示したが、これまた眼鏡を使用していた。なお、NH Kは 90「技研公開」で液晶投射型メガネなし立体テレビを一般公開、注目を集めた。また、イギリスのデルタ・グループは「ディープ・ビジョン」という受 像機に特殊スクリーンを装着する眼鏡不要の新方式立体テレビを開発した。さらにホログラフィー映像をコンピュータで次々につくり出す立体テレビ「ホロテ レビ」もアメリカのMITで開発された。 ◆バーチャル・ビジョン(virtual vision)〔1996 年版 放送映像〕 携帯用メガネ型テレビ。超小型の液晶ビデオディスプレイと精巧な光学反射レンズを、ステレオヘッドホンに組み込んだメガネのグラスの一つの端に装着した 「アイウエア」。このテレビ付き眼鏡とチューナー、アンテナを収納した「ベルトバック」との二つで構成され、アイウエアを装着したユーザーの視界の一部 に、カラーテレビ映像やビデオ映像、テレビゲーム画面などを映し出す、まったく新しい映像機器。従来のポータブルテレビや液晶テレビのように持ち歩く必 要がなく、眼鏡付きヘッドホンを頭に掛け、常に自分の視界の一部にテレビやビデオ画面を映すことができる。効き目のほうの眼鏡のグラスの下部に液晶と反 射レンズをつけたヘッドホンを使ったほうがよく、左右のグラスに別々に装着した機器が用意されている。 野球場やサッカー場で、試合を観戦しながら、テレビのクローズアップ映像を瞬時に体験することが可能であり、この新機器の使用方法は幅広く、好みの番組 を見ながら車の洗車や買物もでき、自由なテレビライフを実現できる。また、ベルトバックはビデオカメラが接続可能で、ユーザーは小さなファインダーを覗 くことから解放され、撮影しながら同時に周囲の状況も見ることができる。人込みでも快適でしかも安全な撮影が可能である。 ▲放送番組関連〔1996 年版 放送映像〕 放送番組はこれまで一過性のものと考えられ、放送されてしまえばそれでご用済みとなっていた。ところが、最近は録画し、何回もリピートされるものもあり、 録画してカセットテープとして発売することを最初から計画、その収入分を制作費に加算しておくケースも増えてきた。それでもソフトの内容の充実がおぼつ かず、放送番組の制作基盤の充実を目的とした「放送番組素材利用促進事業の推進に関する臨時措置法」が一九九四(平成六)年六月に成立、ライブラリー事 業などを政府が支援することを決めた。 ◆ネットワーク買収劇〔1996 年版 放送映像〕 一九九五(平成七)年七月から八月にかけて、アメリカの三大ネットワークのうち、ABCは娯楽産業大手のウォルト・ディズニー・カンパニーに一九○億ド ルで買収され、CBSは総合電機メーカーのウエスチングハウスに約五○億ドルでの買収の交渉中というニュースが、世界を驚かせた。NBCは八六年にゼネ ラル・エレクトリックの傘下に入っているので、三大ネットワークの中から独立系ネットワークは姿を消すことになる。多チャンネルサービスを行っているC ATVや衛星放送に米ネットワークが視聴者を奪われたことや、三大ネットワークの番組制作を制限する「フィンシン・ルール」が九五年一一月に廃止される 見通しがたったことなどが、この買収劇の背景にある。ABCの持つネットワークと、ディズニーの持つコンテンツとが結合する「垂直統合」は、アメリカ国 内だけでなく世界中のメディア事業者の脅威となろう。ABC、NBC、CBSをあわせて三大ネットワークと呼び、これにFOXを加えて四大ネットワーク、 さらにWBネットワーク、UPNを加えて六大ネットワークと呼ぶこともある。このうちABC、FOX、WBネットワーク、UPNの親会社は映画会社をす でに有しており、映画会社を持たないNBC、CBSは今後の買収の的となることが予想される。メディア再編の時代が始まった。 ◆視聴率〔1996 年版 放送映像〕 ある番組が国民の何パーセントの人々に見られているかという比率。ラジオの場合は聴取率。現在、視聴率調査には個人面接法と調査機を用いる方法の二つが ある。個人面接法は、層化、無作為、多段階抽出法で選んだ数千の視聴者を、調査員が一人ひとり訪ねて、どの番組を見たかを答えてもらうもの。調査機によ る方法は、テレビ受像機にメーターをとりつけて、いつ、何時間、どのチャンネルを見ていたかを記録するもの。ビデオ・リサーチとニールセンの二つの調査 会社がこの方法によって、東京、大阪、名古屋などの地区で調査している。個人面接法と調査機を用いる方法では、前者が個人単位、後者が世帯単位であるが、 広告主は世界的な傾向からみても、個人視聴率に切り換えたほうがいいと主張している。 なお全国視聴率一%当たり推定視聴者人数は一一○万人である。視聴率を、放送開始から終了までの「全日」、午後七時から一○時までの「ゴールデンタイム」、 同七時から一一時の「プライムタイム」の三分類してそれぞれ出し、それらで比較。この三つともトップとなるのを視聴率三冠王、最近では、これにプライム タイム以外の時間「ノンプライム」を加えたトップを四冠王と俗称する。 ◆個人視聴率〔1996 年版 放送映像〕 調査の対象を世帯単位から個人単位に変えた視聴率。視聴者の世代、性別がはっきりする。テレビが一家に一台から一人に一台になりつつあることや、ある世 代や性別の視聴者をターゲットにした番組が増えて家族全員でテレビを視聴することが少なくなってきていることが移行の背景にある。広告効率を高めたい広 告主側の要望に応えて、視聴率調査会社ニールセン・ジャパンは、調査システムに疑問が残るという民放側の強い反対の中、一九九四(平成六)年一一月から 個人視聴率の調査を開始した。ビデオ・リサーチも九五年三月より、個人視聴率調査の実験を開始した。各業界が対立する中、個人視聴率調査システムを検証・ 研究する第三者機関の必要性が話し合われ、九五年六月に民放連、日本広告主協会、日本広告業協会で構成する「個人視聴率調査懇談会」が発足した。 ニールセンの調査には、改良型ピープルメーターと呼ばれる機械が使われている。テレビを見る時、調査協力者が自分のボタンを押すと電話回線を通じてニー ルセンに送られる。ボタンの押し忘れを気づかせるため、センサーがついている。 ◆セッツ・イン・ユース(sets in use)〔1996 年版 放送映像〕 受像機の台数に対して、実際にスイッチを入れて視聴しているテレビの割合がどのくらいかを示すもの。視聴率調査のさい用いる。夜のゴールデン・アワーな らば、セッツ・イン・ユースは八○%前後、午前一一時台には二○%台、夕方の五時から六時には五○%∼六○%というように、時間帯によってセッツ・イン・ ユースは刻々変化する。視聴率をセッツ・イン・ユースで割ったものを番組占拠率といって、番組効果の測定に用いられる。 ◆NHK視聴率調査〔1996 年版 放送映像〕 全国の市町村を、地方、人口、産業構成などによってグループ別に分け、それらをランダム・サンプリング(無作為抽出)法で選び、面接員が直接相手に会っ てたずねる方法をとっている。最近の調査によると、日本人のテレビ視聴時間は、夏はざっと三時間、冬は約三時間半といったところである。 ◆ニールセン調査(Nielsen research)〔1996 年版 放送映像〕 アメリカのニールセン視聴率調査会社の調査。調査の方法は日本では、東京、大阪などに一定のサンプル(標本)の家庭を選び、そこの受像機にオーディオ・ メーターをとりつけ、視聴状況を集積し、パーセンテージとして表す。 ◆ビデオ・リサーチ〔1996 年版 放送映像〕 民放二○社、東芝、電通、博報堂、大広の出資による日本最大手の総合調査会社。テレビ視聴率調査はミノル・メーターにより関東地区(標本数三○○世帯)、 関西地区(同二五○)。ビデオ・S・メーターにより名古屋地区(同二五○)、北部九州地区(同二○○)、札幌地区(同二○○)、仙台地区(同二○○)、広島 地区(同二○○)、静岡地区(同二○○)。日記式により長野地区(同四○○)の九地区について定期的に調査を実施している。 ▲映像とビデオ〔1996 年版 放送映像〕 放送に使われている映像は、人間や自然を撮影したフィルムやビデオ、人工的に創り出したアニメーションやCG(コンピュータ・グラフィックス)の二種に 大別できるが、ビデオの使用が圧倒的に多い。だが、ビデオ・テープの編集には時間と経費がかかり、CDなどによるテープレス編集が進められ、ノンリニア 機器の記録・再生によるリアルタイム機能が求められだしている。そのため、ビデオ・テープ全盛時代は終わりをつげ、テープレス放送の新しい時代が間もな く日本にも訪れるだろう。 ◆映像文化〔1996 年版 放送映像〕 映画、テレビなどの映像媒体の発達によって、映像は現代社会に氾濫するようになり、活字文化中心社会から映像文化を主体とする時代に移りつつある。すな わち、動く映像によって芸術や大衆文化が創造され、それが社会に大きな影響を与えるようになった。さらに、マルチメディア時代は 映像新時代 と呼ばれ ているように、多様な映像を使ったコミュニケーションが用いられるようになり、それがまた新しい文化を形成するだろうとみられている。電話はテレビ電話、 レコードはビデオディスク、有線放送は有線テレビへ、さらにビデオテックス、ハイビジョンなどの登場によって、映像を用いたコミュニケーション活動は一 段と活発化するに違いない。そうなると、映像が持っている単一・具象表現は、大きな社会問題となってくる。それは、人間の想像力を退化させることになり かねないからである。しかし同時に映像そのものは外部撮影のものばかりでなく、CG(コンピュータ・グラフィックス)のように人間や物体の内部に視点を 設定した映像を創ることが可能になり、映像文化の範囲や考え方を大きく変えるだろう。CGの発達は人間の絵を描く手法を変革、映像の概念を根本的に変え かねない。 ◆3D映像(立体映像)(3-dimension scenography)〔1996 年版 放送映像〕 映像を三次元的に再現する方式。二台のカメラで撮影し、二台の映写機で写すステレオスペース方式によるもの、一台の撮影機、映写機ですべてまかなう七○ ミリ立体映画、コンピュータ・グラフィックスを使って画像をつくったものなど、さまざまな立体映像がある。立体的に見える原理は、画像を見る両目の視角 を変えることである。そこで、立体視するためには、右目で見た画像と左目で見た画像をスクリーンに投影、左右の目にそれぞれの画像だけを送りこまなくて はならない。そのために赤・青の色眼鏡で区別をするか、光の振動方式で区別する偏光フィルターの眼鏡が必要になる。二色焼付けした立体写真のアナグリフ 式はカラー画像ではできない。しかし、観客にとって左右一八○度、前後には一二五度の範囲がすべて立体映像で占められるので、完全に画像の中に入りこん だ感じになる。ステレオスペース方式はポラロイド方式でカラー映像が可能。大型画面にするため七○ミリフィルムを二本使うシステム。また眼鏡なしでも立 体映像を体験できるようになった。 ◆CG〔1996 年版 放送映像〕 コンピュータ・グラフィックス(Computer Graphics)の略称。コンピュータを用いて、図形や画像をつくること。統計グラフの作成、自動車や飛行機の設計、 建築や都市計画の設計、衣服のデザイン、CF(コマーシャル・フィルム)やアニーメションの制作など、さまざまの分野で広く実用化されている。それらの 図面はそのままハードコピーとして取り出せるのはもちろん、映像ディスプレイも簡便で説得力がある。CGの基本的な技法は、図形を数値データに置き換え てコンピュータに記憶させ、そのデータの一部を変えることによって、原図を自由に変形させ、望みの図形を描き出そうというものである。データ入力は、キ ーボード操作であったが、最近は、ライトペンを使っている。また、デジタイザーやスキャナーを手描きの絵にあてるだけで、コンピュータに読み込ませるこ ともある。図形を出力させるとき、筆の太さや色彩の選択の幅も広がっており、ぼかし、図形の拡大・縮小、上下・左右への移動などもいまは自由に行えるよ うに発達している。このテクニックをアニメーションに応用したのが、コンピュータ・アニメーションである。パソコンを使ったCGが開発されており、一般 の利用が急速に進みつつある。 ◆CGアニメーション〔1996 年版 放送映像〕 一九九五年(平成七)年四月から、コンピュータで作った映像のみを使ったアニメーション番組、「ビット・ザ・キューピッド」(テレビ東京)と、「ネオハイ パーキッズ」(日本テレビ)の二つが放映開始された。制作費が普通のアニメに比べると二倍もかかるが、人体の動きを解析して再現させる「モーションキャ プチャー」技術などの工夫により、これまでにない番組が生み出された。 ◆SFX(special effects)〔1996 年版 放送映像〕 特殊視覚効果のことをいう。「effects」と発音すると、「エフェックス(FX)」と聞こえるので、この表記となった。怪獣、空想科学、科学戦争、冒険劇、恐 怖劇(ホラー・ムービー、スプラッター・ムービー)などのジャンルに多用され、特撮という言葉にかわって、SFXという言葉が広く使われだした。それは、 特撮という言葉が似つかわしくないほど、新しいテクノロジーを駆使したものが多くなったからである。SFXとは、ニューサイエンス時代にふさわしいハイ テク感覚を持ったメタリックな特殊視覚効果を指すといえよう。 ◆ビデオ・ライブラリー(video library)〔1996 年版 放送映像〕 テレビ番組やビデオアートなどのビデオ作品を蒐集し、一般に公開する映像図書館。テレビ放送開始三○周年の記念番組を制作しようとして、草創期のビデオ 番組がほとんど残っていないのに気づき、一九八二(昭和五七)年九月「放送文化財保存問題研究会」が発足した。同研究会は八三年から「テレビ番組を開か れた文化財とする運動」 (略称 ビデオ・プール video-pool)を展開し、八四年国会議員と懇談したり、シンポジウムを開いたりした。八五年には、放送文化 基金助成を得て「草創期テレビ保存番組リスト∼昭和四五年までの公的記録保存資料から∼」を作製した。NHKが八一年に「放送番組ライブラリー」を設置 したが今はなく、現在、過去に放送された番組など総合的なビデオ映像を公開しているのは、郵政省が法的にただ一つ指定した「放送番組センター」のみであ る。放送番組センターは、横浜のみなとみらい地区にあるが、九八年に横浜市中区に完成する横浜市情報文化センター内に移転する予定である。文部省が教材 としてビデオを認可してから、ビデオをライブラリー化していろいろなところで利用する傾向が高まり、東京・青山の「こどもの城」でもビデオ図書館を開い た。 ◆ビデオソフト(video soft)〔1996 年版 放送映像〕 ビデオカセットやビデオディスクなどに収録されているソフト(テレビ番組、映画、その他の映像情報)。ポニーが最新のビデオソフト一七作品を発表したの が一九七○(昭和四五)年七月。そのときはすべてオーブンリール型VTR用の三○分ソフト、価格は三万円だった。映画、テレビに続く第三の映像を目指し、 「ビデオソフト五○○○億円産業説」が唱えられたが、笛吹けど踊らず、昭和五○年代まで低迷、昭和六○年代に入って急激に成長して、ビデオ関連市場の総 売上高は映画興行収入を上回るようになった。それはビデオカセット・レンタルを主にホームビデオの需要が急上昇したからであり、国際映像ソフトウェア推 進協議会(AVA)の八九(平成一)年のホームビデオ全体の産業規模は四五一六億円となり、劇映画の一六六七億円の三倍近くになった。ビデオゲームの伸 びも著しく、ゲーム専用機、パソコンゲーム、アーケードゲームを合わせると、六六五○億円となってしまい、ホームビデオと業務用ビデオを合計したビデオ 全体の五四六三億円を上回った。 日本ビデオ協会は九五年八月一日現在のソフト総売上金額を二七○一億七七○○万円と発表、その内訳はカセットが一五四八億二二○○万円、ビデオディスク が七九六億四八○○万円、CD関連が三五七億七○○万円となっているという。同協会に加盟しているレンタルシステム店数は一万二四二七店であるが、その うち調査して不明な店舗は約一九○○店にのぼっている。一泊二日の標準料金は新作で四四七円、旧作で三六八円になっている。 ◆レンタル・ビデオ(rental video)〔1996 年版 放送映像〕 賃貸料金をとって貸し出すビデオカセット。劇映画ソフトをビデオ化したものが圧倒的に多く、レンタル・レコードがかつて流行したように、レンタル・ビデ オ屋が街に進出しており、アメリカでは激しい商戦を展開している。映画は映画館に行って観るか、テレビの放映時間に合わせて観るしかなかったが、レンタ ル・ビデオを借りれば、いつでも観られるわけであり、自宅で自由に新作映画まで楽しめるようになり、映画の見方を大きく変えている。レンタル・ビデオの 大型店舗があちこちにでき、何千本ものソフトを備えているところがある。一九九四(平成六)年八月一日現在、全国の日本テレビ協会レンタルシステム加盟 店数は一万二三八六店といわれる。またチェーン化も進み、スーパー、駅前商店街、大型団地、コンビニエンス・ストア、オフィスビル、郊外店などに店舗が 広がっている。無店舗営業も行われ、DP屋などで、カタログをみて決めるとビデオテープが送られる方法もあり、レンタル・ビデオ業界は目下大型・整理化 している。同時に、著作権を無視した海賊版ビデオも登場しており、その取り締まりに懸命である。九三年中の標準料金は一泊二日新作四五○円、旧作三七五 円という料金になっていると、九四年四月に日本ビデオ協会は発表している。 ◆ビデオ・アート(video art)〔1996 年版 放送映像〕 ビデオというメディアの特性を生かした芸術。音楽、出版、放送、ファッション、写真、コンピュータ・グラフィックスなどと結び付いて多様なひろがりをみ せており、最近では、パフォーマンスと一緒になったビデオアートも生まれている。一九八五(昭和六○)年三月、第一回東京国際ビデオビエンナーレが開か れ、日本のビデオアートも国際的な視点に立った活動を深めだした。海外では、ロバート・ウィルソン、ビル・ヴィオラらのアーチストが著名であり、日本で はコンピュータとビデオを結び付け、ビデオ独自の映像の世界を追求している松本俊夫、組織体として内外に活躍しているビデオギャラリーSCANなど、多 彩な動きをみせている。市販されたビデオアートでは、カメラマンの稲越功一の「マンハッタン」などが好評であり、現代芸術の新しいジャンルとして、ビデ オアートは美術館や画廊にも展示され、 動く電子絵画 ●最新キーワード〔1996 年版 といわれ、静かなブームとなっている。 放送映像〕 ●東京メトロポリタンテレビ(JOMX‐TV)〔1996 年版 放送映像〕 東京で六番目の地上民放テレビ局で、一四チャンネル。既存の在京民放テレビ局とは異なる点がいくつかあげられる。(1)全国のテレビ局に配信せず、対象 エリアも関東一帯ではなく、東京だけを対象にしている。 (2)VHF(超短波)帯ではなく、UHF(極超短波)帯の電波を利用して放送する。 (3)ニュー スを主体とする二四時間放送。 (4)局外の契約制のゼネラル・プロデューサーが、制作・編成を担当する。 (5)ニュースや番組の取材から編集を映像記者(ビ デオジャーナリスト)が行う。一九九五(平成七)年一一月一日午後六時から放送を開始する。本社は、臨海副都心のテレコムセンタービル(東京都江東区) に位置し、東京タワーから発信される。電波の届かない地域は中継局がカバーする。受信できる地域は、小笠原を除いた都内全域と横浜市、大宮市、船橋市な どを含む東京三○キロメートル圏で、九六年には、小笠原でも受信できるようになる。資本金は一五○億円と、TBS(約四四○億円)、日本テレビ(約一八 三億円)に次ぎ、地上民放テレビでは三番目の規模だが、役職員の数は一一○人と超スリムな経営となる。番組内容は、ニュース、天気・交通情報、映像記者 報告、インタビュー、都の情報で構成される「東京NEWS」、長めの時間をとった映像記者報告、ドキュメンタリーを紹介する「ニュースマガジン」、スポー ツ中継、防災番組などである。「東京NEWS」は、いつでも見られるように配慮されていて、朝、昼、夜、深夜にわたって一日合計一二時間、放送する。二 三区、多摩地域、島しょ地域を合わせた東京六四市町村区を、各自治体、市民グループ、銭湯などと協力し、二四人の映像記者がカバーする。天気情報が一日 一○一回放送されるのも特徴。受信エリアには約七○○万世帯あるが、UHF用のアンテナが必要なのが今後の課題となるだろう。 ●外国語FM放送〔1996 年版 放送映像〕 在日外国人向けFMラジオ放送が、東京と大阪との二地区で開局する。一九九五(平成七)年一○月に大阪では「関西インターメディア」が、東京では九六年 四月に「エフエムインターウェーブ」が、それぞれスタートする。 英字新聞の発行会社ジャパンタイムズ社が主体となり、三井物産や徳間書店が参加するのが「エフエムインターウェーブ」。受信できるのは東京二三区を中心 に、立川市、浦和市、横浜市、千葉市などである。音楽番組を主軸にしながら、ニュースや来日する海外の政治家、経済人などのインタビュー番組、外国人向 けの生活関連情報、娯楽情報なども放送する。〈東京発の情報発信〉〈地域密着型メディア〉〈災害発生時の緊急情報と避難ルートガイド〉などを番組編成の基 本にしている。 番組で使う言語は、英語が中心となるが、順次、中国語、朝鮮語、スペイン語、ポルトガル語などを放送していく。かつてFM東京がポルトガル語とタガログ 語を使用、外国人を対象にした放送を行ったことがあったが、二年ほど前に終わった。受信可能な地域に住む外国人は約四○万人ほどなので、スポンサー獲得 のためにも、日本人の聴取者をどれだけ増やせるかが課題となる。 関西電力などが中心になって設立した「関西インターメディア」は一足早く開局となるが、十数カ国の言語を使い、音楽番組にさまざまな情報番組を放送する 計画である。 ●ビデオジャーナリスト(video journalist)〔1996 年版 放送映像〕 小型のビデオカメラを用いて、撮影から取材、編集、解説にいたるまでを、一人でこなす映像記者のこと。略称VJ。映像記者。「ビデオジャーナリスト」の 名称を付けたマイケル・ローゼンブルムは、 「一人の記者がペンを持つように、ビデオカメラを常に所持して映像という言葉で表現する人」と定義づけ、 「低コ スト、規模縮小の設備で、テレビ界を変革させる武器になる」と断言している。市販の八ミリビデオカメラを手にし、ライトマンやオーディオマンの助けも借 りずに、一人で被写対象を撮影するばかりか、そのカメラを三脚の上にのせ、カメラに向かって、自分自身でコメントをも語る。ノルウェーの「テレビ・ベル ゲン」が、VJを用いた最初のテレビ局で、一九九○年代になって、アメリカのCATV向け二四時間ニュース専門局「ニューヨーク1」などでもVJが活躍 しだした。日本でも、すでにCSテレビ「朝日ニュースター」がVJを使っており、一九九五(平成七)年一一月開局の「東京メトロポリタンテレビ」はVJ 主体のテレビ局となる。東京では、ビデオジャーナリストを養成する講座も開かれた。ENGからSNGへというニュース取材の方法の進歩や、デジタルビデ オカメラの登場やノンリニアによる簡便な編集は、これからVJが育つ土壌となる。プロからアマチュアに撮影・制作が転化するきっかけを作る点で、注目す べきマルチメディア時代の機器利用ともいえる。 ●スキップ・バック・レコーダー/通信・放送融合型ケーブルテレビ(SBR)(Skip Back Recorder)〔1996 年版 放送映像〕 常時、最新の一○秒間のカラー動画映像・音声を記録するRAM(ランダム・アクセス・メモリー)があり、地震発生と同時にVTRを作動させ、そのRAM に記録された一○秒前の映像から録画を開始する装置。地震をセンサーが感知し、VTRに電源を入れるまでの時間が四秒かかるため、実際には地震発生の六 秒前からの映像が記録される。一九九三(平成五)年五月にNHK大阪支局が開発したが、このシステムが初めて使われたのは九五年の阪神大震災の時である。 従来は、たまたま撮影をしていない限り、地震発生以前の映像を見ることはできなかったが、このシステムの登場により、発生以前から発生当時の状況を見る ことができるようになった。 ●ワイドクリアビジョン/EDTV‐2(Enhanced Definition Television)〔1996 年版 放送映像〕 民放のテレビ番組を見ていると、画面の隅に「クリアビジョン」という文字が出ていることが多い。NHKの「ハイビジョン」に対抗して、民放が開発に力を 入れている高画質テレビであり、EDTV(エンハンスト・ディフィニションTV)の愛称である。従来のテレビと両立させて使うことができ、チラつきや色 にじみを防ぎ、ゴーストがないので鮮明に見える。第一世代クリアビジョン放送は、一九八九(平成一)年八月に本放送を開始、現在は民放のほとんどの局が 実施している。さらに性能のよい第二世代クリアビジョンとして開発されたのがEDTV‐2で、統一名称が「ワイドクリアビジョン」となる。画面の縦横比 はハイビジョンと同じ九対一六の横長の画面で、高画質化を実現した。すでに一部メーカーは「パノラマビジョン」などと宣伝して販売、九四年の出荷台数は 一○○万台を超えた。従来の標準テレビの画面では上下に絵のない「レターボックス型」になる。九五年七月に、日本テレビが本格放送を開始した。 ●エリアコード・ドラマ(area code drama)〔1996 年版 放送映像〕 地方局が制作し、地方だけで放送する連続ドラマ。ソニー傘下のアンティノス・レコードが制作費を全額出資し、東京の制作会社と共同で地方局が制作した。 一九九四(平成六)年七月から九五年三月までに一二シリーズが放映された。地元を舞台にするので親近感が持てるなどと好評で、深夜に放送したにもかかわ らず、高い占有率をとった。制作費、スタッフ、俳優の点で、大阪の準キー局以外の地方局では単発のドラマは制作できても、連続ドラマを制作するのは困難 だと考えられていた。しかし、この試みによって地方局の可能性が示されたことになる。また、地方に隠れた人材を発掘するよい機会にもなり、今後、東京主 導の番組制作体制に対するアンチテーゼとなるか期待される。 ●サブリミナル的手法〔1996 年版 放送映像〕 映像の中に、人間の目では感知し得ないほど短い、内容とは関係のないコマを繰り返し挿入する手法。テレビだと、一秒間三○フレームの中に一∼三フレーム を挿入する。効果のほどは定かではないが、挿入された映像を見る人の潜在意識に残るといわれている。一九八九(平成一)年一二月、日本テレビのアニメ「シ ティハンター3」にサブリミナル的手法が使われ問題になった。最近では、九五年五月に放送された、TBSの「報道特集」の中でサブリミナル的手法が使わ れ議論を呼んだ。同年六月一五日、TBSは記者会見でサブリミナル的手法が「不適切」であったと陳謝した。同年七月二一日、郵政省からTBSに文書によ り厳重注意がなされた。サブリミナル的画像は通常感知し得ないため、チェックが難しい。読売テレビが日立製作所の協力でサブリミナル的画像を事前にチェ ックできるシステムを開発するなどの対策がたてられた。 ▽執筆者〔1996 年版 マルチメディア〕 前野 和久(まえの・かずひさ) 群馬大学教授 1939 年神奈川県生まれ。東京教育大学文学部卒。毎日新聞記者を経て、群馬大学社会情報学部教授。 「情報社会・これからこうなる」で、テレコム社会科学 賞受賞。著書は『情報経済とは何か』『情報社会論』など多数。 ◎解説の角度〔1996 年版 マルチメディア〕 ●マルチメディアは 2 年目を迎え燃えさかる一方だ。郵政省は答申を受けて、新社会資本として、光ケーブルによる次世代通信網を 2010 年までに構築すると 宣言し、テレコム界は大騒ぎだ。農・工業社会の商品である物財を運ぶ道路が社会資本ならば、情報社会の商品、情報を流通させる新社会資本として、新世代 通信網を建設し、マルチメディアに対応できるネットワークを構築しようというのである。 ●マルチメディアは、音声、文字、静止画、動画(ビデオ)の四つのメディアを同時に取扱えるメディアであり、究極的にはデジタル方式をベースとして、双 方向性があるカラーテレビのようなもの。言い換えれば、これまでのニューメディアが目指してきた情報通信を発展させた世界がそれであり、移動電話、デー タ通信、画像通信の分野で、マルチメディアが次々と誕生している。 ●マルチメディアは、 百聞は一見に如かず の世界を実現するもの。社会全体にも、地域開発にも、もちろんビジネスにも、個人の生活にも多大な影響を与 えるであろう。マルチメディアは、第2の産業革命をいま静かに各分野で引き起こしている。その先駆がインターネットだ。 ★1996年のキーワード〔1996 年版 ★情報富民/情報貧民〔1996 年版 マルチメディア〕 マルチメディア〕 情報社会で、中年男性に代表されるマルチメディア機器オンチは、「情報貧民」として落ちこぼれ、逆にいとも簡単にパソコンを使う子供らを「情報富民」と いう。しかも、今はCATVに加入、それに接続した端末があれば、ビデオ・オン・デマンドのように好きな時に好きなビデオゲームを楽しめる。子供はます ます情報機器に順応して富民となり、貧民との落差は広がる。 ★エデュテイメント〔1996 年版 マルチメディア〕 エデュケーション(教育)とエンターテインメント(娯楽)の合成語。CD‐ROMを使ったマルチメディアを普及させる方法のひとつは、娯楽の要素が入っ た教育ソフトであるという考えから、はやり出した概念。CD‐ROMをパソコンなどにかけてみるソフトは、これまでは無味乾燥的な お勉強ソフト が多 かったが、たとえば数学者・秋山仁氏の指導で、アドベンチャーゲーム仕立てにして数学を学習できるソフトなども登場している。 ★仮想大学(バーチャル・カレッジ)構想〔1996 年版 マルチメディア〕 特定の学校内に限らず、講師と受講者が情報機器で繋がっていれば、どの大学の講義も受けることが可能になるシステム。単なるテレビ授業だけではなく、イ ンターネットも使い、画像・音声情報をデータベース化したり、必要な情報も検索できたりする。一九九六年春から、全国各地の主要一六大学がNTTの協力 で実験を開始する。現段階では、大学の端末からだが、将来的には一般家庭からの「自宅受講」も可能とする。 ★第三世代携帯電話(FPLMTS)〔1996 年版 マルチメディア〕 第二世代の携帯電話は、日本のPHS(簡易携帯電話)や欧州の携帯電話システム(DCS‐一八○○)だが、二○○○年にはこれを超えた第三世代の新携帯 電話をつくろうという計画。日米欧三極次世代移動体通信標準化会議で、日米欧の三極標準形式を採用することに合意はしたが、具体的な標準方式は、各国の 利害がからんで未定。 ★マルチメディア公衆電話〔1996 年版 マルチメディア〕 テレビカメラを内蔵して、カラーの液晶画面に映し出せるテレビ電話だが、スキャナーもついているのでファクシミリの送受信も可能。開発した日本テレコム のデータベースにアクセスして、天気予報や周辺の地図、ホテル、ショッピングなどを画像情報により検索できる。つまり耳と口で使っていたのが、目でも使 える公衆電話。 ★マルチメディア新聞〔1996 年版 マルチメディア〕 記事や広告が紙面でなく、新聞社と光ファイバー通信網で繋がった各家庭のパソコン画面に掲載されるというもの。読者は端末の操作で、記事中の知らない用 語の説明・関連情報を知ったり、詳細を知りたい広告だけを検索できる。また、掲載写真も、指定すると動画が動き出すという。現在各新聞社は、このプロジ ェクトに取り組んでおり、技術的には可能だが、新聞の性格上、広告収入の減少のおそれなど、経営的問題が残っている。 ★伝送路の共有〔1996 年版 マルチメディア〕 郵政相の私的諮問機関である「二一世紀に向けた通信・放送の融合に関する懇談会」が一九九五年六月に提案した、地上波のテレビ放送を、光ケーブルで送信 しようという構想。情報社会は、移動体通信が不可欠だが、その電波は不足するので、今のテレビ用を携帯電話に回して、光ケーブルによってテレビ放送をし ようという提案。それに伴い今の放送事業者は、送信施設をもち番組を制作するという、ハードとソフト一致の原則を崩す考えも提案。 ★マルチセッション〔1996 年版 マルチメディア〕 大手のパソコン通信・ニフティが一九九五(平成七)年に導入する新サービス。アイコンを指定するだけで操作できる新ソフトのこと。パソコン通信を利用し ながら、他の作業も同時並行処理できるのが特色。例えば、パソコン通信ネットを通じて、データを取り込んでいる最中に、画面にウインドウ(窓)を開いて、 同時に文書作成などができる。インターネットなどパソコン通信が盛んなので、開発されている。 ★インマルサットM/B海岸局〔1996 年版 マルチメディア〕 中国政府が、一九九六年一月に開局を予定している、同国初のデジタル通信システム。これまでにもアナログ方式のインマルサット(国際海事衛星機構)A局 があったが、M/B局はデジタル方式なので、通常の電話のみならずデータ通信やファクシミリも可能になる。当面は、船舶の航行情報用で、数年後には新し い衛星を打ち上げ、内陸部での移動体通信にも利用する予定。機器を発注されたのはNECで、住友商事と共同開発する。 ▲オンライン系のマルチメディア〔1996 年版 マルチメディア〕 マルチメディアには、ビデオ・ゲームのようにオフライン(パッケージ)系と、テレビ電話のようにオンライン系と二種類があるが、情報をリアルタイムにキ ャッチできるから、オンライン系の方が発達するだろう。B‐ISDNを中心として、社会の神経ともいえるネットワークは、移動体通信網を取り込んで二一 世紀情報化社会のインフラとなる。 ◆光通信(optical communication)〔1996 年版 マルチメディア〕 情報(信号)を、光の点滅によって伝える通信。レーザー光を発したとき「1」、消したとき「0」というように決めておき、情報をこの数によって送信する のでデジタル(数値化)通信という。ふつう、レーザー光を髪の毛ほどの細さのガラス繊維(光ファイバーケーブル)のなかを通して送る。一秒間に四億回点 滅する光を使うので、一本の光ファイバーで、電話回線に換算するなら約六○○○本分の情報量を送受信することが可能である。NTTが一九八八(昭和六三) 年春始めたINS計画や、KDDが八九年四月から使用を開始した第三太平洋海底ケーブルでは、この光通信方式を利用。光通信は、レーザー光なので、近く に高圧電線などがあってもその磁界に左右されない。光ファイバーは軽い素材なので、架線する電柱間の距離を長くできるなどが特色。 ◆通信処理(communication processing)〔1996 年版 マルチメディア〕 電話のように、話したとおりに聞こえて出てくるものを、基本通信という。つまり入力と出力が同じ情報になるのをいう。また、コンピュータに1+2と入力 すると、3と計算されて出力するのを、情報処理という。これに対して通信処理は、この双方の中間にある。通信処理としては、通信手順を整えて他のコンピ ュータと情報を交換する「プロトコル変換」、同じ情報を同時に多くの相手に伝える「同報通信」、書式を統一して通信する「フォーマット交換」、一定の単位 に情報(信号)を区切り回線の空いているときに送信する「パケット交換」、音声を文字などに変える「メディア交換」、情報を一時的に蓄積し後でゆっくり読 む「メールボックス」などがある。コンピュータが交換機の働きと情報処理の機能をもっているのでこのような処理が可能となった。VANは、このコンピュ ータの通信処理の能力を利用して作った通信網である。 ◆VAN(Value Added Network)〔1996 年版 マルチメディア〕 付加価値通信網と訳される。NTTなど第一種電気通信事業者から、借りた回線を利用して、ホストコンピュータを交換機として使い、付加価値のついたより 高度な通信サービスを提供する業務で、第二種電気通信事業ともいう。付加価値通信としては、メディア交換やパケット通信、フォーマット交換などの通信処 理が行える。 現在のコンピュータは、メーカーにより、また同一メーカーでも機種によりプロトコル(通信手順)が異なり、ネットワークを構築して通信することはできな い。そこでホストコンピュータを入れて、これらのプロトコル変換を行って、通信網を構築できるようにするもの。コンピュータ間の仲人役。 ◆広帯域ISDN(B‐ISDN)〔1996 年版 マルチメディア〕 テレビのように動く画像を、カラーで送受信できる総合サービスデジタル通信網(ISDN)をいう。現在のISDNであるNTTのINS1500 ではカラー の静止画像までしか送信できないが、B‐ISDNは、二○○○倍から一万倍の大量の情報(信号)量を高速で送信できるので、カラービデオをテレビのよう に映せる。 さらに、高精細度テレビ(HDTV)も可能。人間の五感に近いメディアを可能とする最先端のネットワークだ。現行のISDNであるINSが毎秒六四キロ ビットから一・五メガビットの伝送速度なのに対し、B‐ISDNは、同一五六メガから六二○メガビットと圧倒的に高速。そこで、ATM(非同期転送モー ド)交換機を使って送受信する。この結果、カラーテレビ電話やCAD/CAM(コンピュータ援用設計・製造)、テレビ会議など動画を有効に活用できるよ うになる。 ◆総合知的通信網(UICN)(Universal Intelligent Communication Network)〔1996 年版 マルチメディア〕 UICNは現在の総合デジタル通信網(ISDN)の次の世代の、知的処理と情報通信が高度に融合した通信網。一本の通信線で電話やデータ網(高速ISD N)、放送網(広帯域ISDN)に加え、自動翻訳電話、立体テレビが利用できるようになる。 郵政省は、二一世紀にはUICNが本格化すると予測、すでに民間への委託研究も進めている。NTTの「VI&P」に似た構想。 ◆光ファイバー実用実験〔1996 年版 マルチメディア〕 情報の高速道路ともいえる光ケーブルを使っての動画(ビデオ)通信のテスト。郵政省の新世代通信網利用高度化協会(PNES)は一九九四年、新世代通信 網実験協議会(BBC)は九五年から関西学研都市で実験を開始した。なかでもBBCはパソコンとテレビ電話を使った遠隔授業、画面の魚にさわると名前が 出る電子魚図書館、ハイビジョンなみの、画面の美しい通信カラオケなど二○をこす実験を行う。 ◆ビデオテックス(videotex)〔1996 年版 マルチメディア〕 電話回線を使って、情報センターにある大型コンピュータに記憶してある情報を引き出して、事務所などのテレビ受像機のブラウン管の上に、文字と図形によ って映し出すシステム。文字図形情報ネットワークという。各国でいろいろなシステムのビデオテックスが開発されている。口火を切ったのは、一九七九年か らのイギリスでプレステル、八四(昭和五九)年から実用化の日本のキャプテン、その他にカナダのテリドン、フランスのテルテルなどがあり、アメリカは余 り熱心ではない。 ◆キャプテン・システム〔1996 年版 マルチメディア〕 ビデオテックスの日本での呼称。Character And Pattern Telephone Access Information Network System を縮めたもので、漢字図形電話検索網という。前も ってつけられた情報の番号を、キーパッドのボタンを使って押すとブラウン管の上に、その情報が映し出される仕組みで、NTTが中心となり「キャプテンサ ービス会社」を東京に設立、一九八四(昭和五九)年一一月から実用化され、全国の市制都市で利用可能。加入料金が必要で、通信料は全国一律三分三○円、 情報によっては有料。 使い方には、会員のみが利用できるCUG(Closed Users Group Service)などもあり、CUGは経済や専門情報を、契約した特定の会員にだけ提供できる。 たとえば、ラジオで中学生が問題を聴き、キャプテンで回答したり、競馬のオッズを出すなど。この双方向性を使い視聴者に、アンケートに答えてもらうポー リング(調査)会社も札幌に登場、多様な使い方になりだした。 ◆ハイキャプテン〔1996 年版 マルチメディア〕 従来のキャプテンの文字・図形情報に加えて、カラー写真などの自然画に音声を加えた情報が、総合デジタル通信網(ISDN)の「INSネット 64」を利用 することで提供できるシステムのこと。NTTが開発したもので、企業の販売促進や集客のほか、情報更新の手軽さによる広告、宣伝などに利用されている。 デジタル伝送路を使用するので、従来のキャプテンに比べて、通信速度は、格段に速い。そのため、これを利用した、花王の消費者相談支援の「エコーシステ ム」は、年間四万件の相談に乗るが、ここから情報を引き出し、五分で回答できる。 ◆ギガビット・ネットワーク(giga-bit network)〔1996 年版 マルチメディア〕 アメリカのゴア副大統領の提唱で始まった大学、政府研究機関、企業研究所のスーパー・コンピュータを光ファイバーやアメリカの打ち上げた先端通信衛星(A CTS)で結ぶ通信網。一秒間に一ギガビット、つまり約六○○○万文字という超大量の情報をやりとりできるネットワーク。テレビ画像の二○○倍近い画像 情報を瞬時に送れるから、遠隔地の医療診断やマルチメディア・テレビ会議、科学技術データの解析などが、この通信網を介して可能となる。 ◆電子メール〔1996 年版 マルチメディア〕 ワープロやパソコンで打った電子的な情報(手紙)を、パソコン通信を通じてやり取りする仕組み。発信者は電話回線を介して、ホストコンピュータのなかに 設置してあるメールボックス(情報蓄積箱)に送り込んで、記憶させておき、受信者側は、それを同じように取り出して読む。 ◆移動(体)通信(mobile communication)〔1996 年版 マルチメディア〕 自動車や列車など動いている対象との無線通信をいう。移動中の人と連絡を取りたいというニーズは、社会の発展とともに増加しており、今後伸びる通信の分 野の一つ。すでに文字や音声を送って連絡するポケットベルに始まって、自動車、船舶、列車、航空機の各電話が実用化されている。移動体通信用の電波は足 りなくなっているので、宅配トラックなどの業務無線は、MCA方式を導入している。ポケットベルはわが国では、一九六八(昭和四三)年から電電公社(現 NTT)が運用を開始、需要は多く新規参入会社が続出。自動車電話も、七九年からサービスが始まり、電電民営化後は、新規参入が相次ぎ、発展性のある市 場である。この電話をNTTは、小型化した携帯電話として八七年から発売し、今や歩きながら電話のかけられる時代となった。 船舶電話は七八年から、国内用の航空機電話は八六年から実用化されている。国際線の航空機電話は、八七年秋からKDDなどが太平洋線で実験を開始、九五 年からPHSが加わった。 ◆パーソナル通信(personal communication)〔1996 年版 マルチメディア〕 今の携帯電話をさらに小型・低価格にした次世代個人電話のことで、アメリカでは二人に一台の普及をめざしている。デジタル網を使うから、パソコン通信と しても使用可能で、無線データ通信ができる。アメリカの情報スーパーハイウェイの中核になるサービス。わが国では、NTTが二○一五年を目標のテレコム 計画「VISD」のなかで、個人携帯電話として提唱、電話は、一家に一台から一人に一台になるという。利用者一人ひとりに銀行の口座番号のように個別の ID(認識)番号を割り当て、国民総背番号のように、個人がそれぞれの電話番号をもつ。利用者は外出先で、電話機に腕時計大のID登録装置をセットし、 NTTの通信網を制御するコンピュータ(電子交換機)に「居場所登録」すれば、自分にかかってくるすべての通話を外出先の電話機に集めることができる(追 いかけ電話)。ID登録は加入電話のほか、自動車、携帯電話からも可能。 ◆携帯電話(portable telephone)〔1996 年版 マルチメディア〕 携帯電話は無線の「動く電話」である。電話機から電波を発受信、中継基地を通して相手先の電話ケーブルに送る仕組み。一九八七(昭和六二)年からNTT (日本電信電話)が重さ六四○グラム(電池の重さを含む)の機器を実用化。現在NTT系のドコモが全国ネットで、また日本高速通信系のIDO(日本移動 通信)が首都圏と中部地方で、第二電電系の関西セルラーが関西、中国、九州でサービスしている。どういう電話機を使うかで、日米通信摩擦問題にもなった。 セルラー系はアメリカ・モトローラ社製品(重さ三一○グラムと三五○グラム)を採用。NTTは九一年春、重さ二三○グラム程度の新製品「Mova(ムーバ)」 を出した。通信方式には一般電話と同じアナログ式と、秘話性の高いデジタル式があり、ドコモやセルラー系が一部でサービスインしている。 ◆簡易型携帯電話/パーソナル・ハンディ・ホン(PHS)(Personal Handy Phone System)〔1996 年版 マルチメディア〕 従来の携帯電話は、自動車電話を取り外して使っているので、自動車向けにできているから、ひとつの通信エリアが広く、交換が自動車のスピードにあわせて できるようになっている。したがって建設費が高くなる。このPHSは、歩くスピードにあわせてつくってあるから、歩行者向けであり、コードレス電話を街 頭に持ち出したようなシステムである。 一九九五(平成七)年度からは、東京などで三社が営業を開始。携帯電話をファーストクラスとするならエコノミークラスのようなもので、ポケベルなみの低 料金でサービスインする方針。しかし、このPHSの本質は、NTTの市内網に相当するネットワークに発展する可能性があり、単にコードレス電話の街頭版 という生やさしいものではなく、わが国の電話体系を変えそうである。 ◆イリジウム計画〔1996 年版 マルチメディア〕 アメリカの通信機器メーカーのモトローラ社が発表したもので、地球の周りに七七個の人工衛星を打ち上げて、携帯電話などのアンテナにしようという計画。 イリジウム原子は七七個の電子が原子核の周りを回っているので、こう命名された。重さ三九○キログラムの小型衛星を高さ七八○キロメートルの七本の極軌 道に一一個ずつ配置する。衛星は秒速七・四キロ、一時間四○分で地球を一周するから、次々と変わる衛星を引き継ぎながら、宇宙のアンテナとして通信を行 う。衛星一個一個が地球の一定のエリアをカバーするので、携帯電話などパーソナルな移動体通信に利用でき、サハラ砂漠でも太平洋のまんなかでもカバーで きるという。京セラ系の第二電電が、法人をつくり参加した。 ◆動画像テレビ電話機〔1996 年版 マルチメディア〕 テレビ放送のようにカラーで、動く画像が映るテレビ電話のこと。現在あるテレビ電話が、一枚の写真のように動かない画像なのに対して、情報としていちだ んとリアリティが増した。一九九一(平成三)年五月に日立製作所が発売したのは、従来の製品の五分の一ほど(幅二七・五、奥行二六・五、高さ三○各セン チ)で世界最小という。動画を送信するには大量の情報量を必要とするが、帯域圧縮技術で少なくしてあり、一秒間に最大一五コマ送信できるので、ほぼ実際 と同じ動きになる。 ▲機器系のマルチメディア〔1996 年版 マルチメディア〕 マルチメディアというのは文字と音声、画像と文字など、いろいろなメディア情報を組み合わせたメディア。したがって、耳だけで使っていた通信機器が、テ レビ電話のように目を使っても利用できる。人間の五感に訴える機器だから、その発展ははかりしれない。しかも、マスメディアからパーソナルメディアに変 化しよう。 ◆パソコン放送(personal computer broadcasting)〔1996 年版 マルチメディア〕 放送と通信がミックスする時代を象徴するようなメディアである。パソコンネットをもつ会社「アスキー」と民間の衛星通信会社の「日本通信衛星」が一九八 九(平成一)年春に打ち上げた通信衛星のトランスポンダ(電波中継器)一本を借りて、八九年秋から、世界で初めて行っているデータ伝送。 アスキー社の屋上に設けた送受信局から、パソコンによる趣味や娯楽などの情報を、データで同時に特定多数の会員に向けて送信し、会員たちは、超小型受信 機でキャッチ、パソコンを使って、その情報を読むというシステム。パソコン通信は、これまでは電話回線を使って、ほぼ特定の者同士でデータの変換をして いたが、通信衛星を介して、同報形式で一対N(多数)の関係でデータを放送のように送るのでこの名前がついた。通信料が安く、一斉に利用してもパンクし ないなどが特色。 ◆静止画テレビ電話機〔1996 年版 マルチメディア〕 情報の高度化ということは、音声より画像情報というように、より多くの情報(信号)を伝えることである。そこで話して聞く(音声)電話よりも、見て話し、 かつ聞くテレビ(画像)電話の出現が待たれていた。 しかしテレビ(動画)のように動く情報だとより多くの信号を使うので、まずは静止画テレビ電話が、一九八七(昭和六二)年秋から売り出されたが、信号の 伝送方式がメーカーごとに異なるので、同じ社の電話でないと通話ができない不便さがあった。 そこでソニーなど国内五社はTTC(電信電話技術委員会)が定めた標準規格の同機を、八八年五月から発売した。 内蔵した小型カメラで、話し手の顔を映して普通の電話回線で聞き手に送信すると、ディスプレイに映って、静止画だが、相手の表情を見ながら話しができる 便利さがある。 ◆ビデオ・オン・デマンド(video on demand)〔1996 年版 マルチメディア〕 要求に応えて、ビデオテープが見られるシステム。マルチメディアのひとつとして、もてはやされているシステムで、アメリカではCATVや電話回線を通じ て、視聴者が見たいビデオを要求すると、それが放映されて見られるようにしたマルチメディア。通信と放送の融合した形態とされているが、回線の敷設の方 法、法律などがネックになっている。NTTはすでにINS時代に、VRS(ビデオ・リスポンス・システム)としてテスト開始済み。 ◆ビジュアルホン〔1996 年版 マルチメディア〕 テレビ電話が、一人の相手しか映せないのに対して、ビジュアルホンは画面を四つに分けて、四人の相手を映せるので、最大五カ所の間でテレビ電話会議がで きる。そのほか高精細静止画像を送受信できるから、カラー写真やカタログを相手に送って、打ち合わせできる。 NTTのINSネット 64 を使って設置できるので、比較的低コストで使用できるマルチメディア時代の先取りサービスのひとつ。 ◆ウォーク・スルー〔1996 年版 マルチメディア〕 バーチャル・リアリティーの一種で、コンピュータ・グラフィックス(CG)により、設計者が、家の内部を立体的に描いた案を提示、顧客は、見たい場所に、 歩きながら入ってゆく感覚で確認できることをいう。設計者・顧客双方の端末には、小型カメラとマイクが接続されているため、両者は離れていても、顔を見 ながら相談ができ、その場で細かい変更もできる。将来的には、庭や家の立地環境も追加される。 ◆広域ポケットベル〔1996 年版 マルチメディア〕 移動している人を、無線で呼び出すポケットベルのサービス・エリアは、当初は一つの都道府県内に限っていた。しかし、首都圏など広い地域をサービス・エ リアにするのが、これ。七年前に広域ポケットベルがサービス・インしてから、遠距離通勤・通学者の増加に伴い、料金は割高でも増加する一方である。また 最近では、FMラジオの未使用電波を使ったFMポケベルも出現。 ◆ヘッドエンド〔1996 年版 マルチメディア〕 回線を介して流れてきた映像や音声の信号を受け取り、折り返す働きのある情報機器で、双方向の信号のやりとりをする時、混信がおきにくいようにする。C ATV回線を通信回線のように双方向性をもたせるマルチメディア計画が実用化されてゆく際、不可欠のシステム。 ◆双方向性ビデオゲーム〔1996 年版 マルチメディア〕 オフライン(パッケージ)系のマルチメディアのひとつ。三二ビットという、超高性能のパソコンなみのCPU(中央演算装置)をもったビデオゲーム機。き れいな画面で動きの速いビデオゲームを楽しめるほか、アダプターをつければカラオケの再生機にも。松下電気産業が発売した「リアル」が代表的なモデルで、 マルチメディアを開発している同社はアメリカの3DOの規格に準拠して、新市場開拓に乗り出した。 ◆ボイスパック〔1996 年版 マルチメディア〕 郵便局に設置した録音機に、メッセージを吹き込んだあと、専用のICカードに入力(録音)して、郵便物として出す。受取人が、そのカードの一部を押すと、 再生されたメッセージが流れ出す。郵政省は一九九二(平成四)年二月からボイスパックサービスとして全国の主要局で営業を開始している。 ◆コンテンツ〔1996 年版 マルチメディア〕 内容。テレビなどの(番組)内容は「ソフト」というのに対し、CD‐ROMに入れたマルチメディア・ソフトの内容を、あえて「コンテンツ」という。 ◆ホーム・インフォメーション・ターミナル(home information terminal)〔1996 年版 マルチメディア〕 NTTが計画している家庭で使う情報端末の略称。別名、ファミコン通信。野村証券などは、ファミコンを使って家庭で株式の売買(ホームトレード)をすで に行い、銀行はホームバンキングを、百貨店はホームショッピングを行う構想がある。 しかし各業界、各企業で作ったネットワークは、その通信方式などが異なり、他の業界や他の企業と通信ができない不便さがある。そこでNTTが、これらの 異なるファミコンネットワークを、お互いに通信が可能な通信網に作り、ネットワークを拡大しようという計画で、いわば ファミコンVAN 。これができ ると一台のファミコンを自宅におき、株の売買も、航空機のチケットの予約も、馬券の購入もできよう。 ◆INS(Information Network System)〔1996 年版 マルチメディア〕 高度情報通信システム。NTTが行うISDN計画のことで、二○○○年をめどに、NTTの電気通信網を、現在のアナログ方式からデジタル方式に切り換え て、改善する遠大な計画。一九八一(昭和五六)年八月に発表し、総事業費は三○兆円に達するという。北海道の旭川から九州の鹿児島まで、日本列島三四○ ○キロメートルに達する大容量光ケーブルによる基幹網は八五年までに完成し、現在、この大幹線と県庁所在地級の都市からニーズのある市町村を結ぶ光ケー ブルを敷設中であり、交換機もデジタル交換機に変えている。 INSが完成すると、書いた文字を送信できるスケッチホンや、相手の顔を見ながら話せるテレビ電話も利用でき、現在の話して聞くという電話が、書いて読 んだり、見ることも可能な電話となる。つまり、五感全部を使える電話になるもので、これは「日本列島電気通信網改造計画」といえよう。 NTTでは、八八年四月から「INSネット 64」という、このサービスを始め、利用料(月額)は五四○○円(企業用)で、通信料は現行の電話回線と同じ。 これで、ファックスと電話を同時に送信できる。またヤマハと共同で、離れた地点をこの回線で結び双方向同時演奏システムを開発。 八九年七月からINSの本格的運用第二弾として「INSネット 1500」がスタートした。これは「ネット 64」にくらべ二○倍以上の大容量の情報を伝送でき るようになり動画像や超高速のデータ通信が可能となった。 ◆CS4/マルチビーム衛星アンテナ(multi beam satellite antenna)〔1996 年版 マルチメディア〕 次期通信衛星CS4にのせるため、NTT(日本電信電話)が自社開発したのが「マルチビーム衛星アンテナ」。これを利用し、自動車電話・携帯電話サービ スを全国に広げようというもの。 地上のアンテナ設備を用いた現在の自動車・携帯電話サービスでは、設備投資に膨大な費用がかかるため、NTTなどは対象地域を需要の見込める都市部、主 要高速道路、国道沿いに限定している。 NTTは従来の三○倍の電波強度をもつ「マルチビーム衛星」を開発、これに高周波数帯を利用した世界で最初のSバンド(二○五ギガヘルツ―二○六ギガヘ ルツ帯)用の電波中継器(トランスポンダー)、電波増幅器なども開発して搭載を計画している。 これらの機器ののった衛星を使えば、山間僻地を含めた全国のどこからでも移動体通信が可能となる。 ◆発信者ID(身元証明)システム〔1996 年版 マルチメディア〕 鳴った電話の受話器を取る前に、かけてきた相手の電話番号が表示される新装置。ニューヨーク市のナイネックス電話会社などが、一九九○年初から実用化の 計画。プライバシーを重んじるアメリカでは留守番電話をつけて、かかってくる電話の選別をしている人が多いだけに、そのニーズに応えて開発されたもの。 また警察などへの救急の電話では発信者を敏速に追跡できいやがらせ電話の防止にもなる。日本でもINS計画が実現すると可能になる。 ◆ニュー・アンサー(New Anser)〔1996 年版 マルチメディア〕 アンサーというのは、NTTデータ通信が提供している電話を使って、ホームバンキングやホームトレード(株式の売買)、新幹線などの座席予約ができる通 信網。現在のバラバラに構成されているものを統合して、百貨店やクレジット会社なども加入させ、ICカード電話を端末として、クレジット・カードの照会 やホームショッピングをした代金の銀行口座からの引落しなどを可能にしてしまおうというものである。 ▲マルチメディアの利用面〔1996 年版 マルチメディア〕 ニューメディアが発達したのがマルチメディアには多い。テレコムは距離と時間を克服するメディアであるから、地域開発にいろいろ利用されてきたが、B‐ ISDNをベースとするマルチメディア時代となると、これまでの構想がさらに発展するだろう。 ◆地域の情報通信化〔1996 年版 マルチメディア〕 郵政省の最重要テーマ。同省は、通信政策局のなかに、一九八八(昭和六三)年六月に初めて、地域通信振興課を発足させた。 地方自治体にも、情報通信担当の部課の開設を求め地域の情報通信の発展実施のため窓口を同課においた。 具体的には、キャプテンなどのニューメディアを使って、地域の開発を行うテレトピア計画のほか、民活法の対象となるCATVセンターと通信の共同施設で あるテレコムプラザ、研究開発のための共同施設であるテレコムリサーチパーク、地域局などを建設して、テレコムにより都市開発を行うテレポート、さらに は、放送と通信が共同で使える電波塔ともいえるマルチメディアタワー、新たに造成した住宅地などに、光ケーブルを引く特定電気通信基盤施設などがある。 これらの多くはいずれも民活の対象施設であり、無利子で融資が受けられるほか、開銀などの政府の投融資枠から出資や融資が得られる、一般会計から建設の ための補助金が受けられる、さらには国税や地方税が施設の態様により一定の限度で減税される、など種々の恩典があり、さらに進展しよう。 ◆テレトピア計画(teletopia project)〔1996 年版 マルチメディア〕 郵政省が、一九八五(昭和六○)年から展開している「未来型コミュニケーションモデル都市」の通称で、キャプテンや双方向CATVなどニューメディアの 普及をはかり、地方都市の情報通信機能を高めて地域振興に役立てようという計画。仙台市など一二七地域が、この計画の指定を受け「水道の遠隔自動検針シ ステム」(長野県諏訪地区)、「市民生活支援システム」(石川県小松市)などがある。また一方、通産省は「ニューメディア・コミュニティ構想」を打ち出し、 地域の医療や防災システムに、CATVを中心として、テレコムを利用した地域開発を行って対立している。 ◆テレポート(teleport)〔1996 年版 マルチメディア〕 電気通信という船の港のような役目を果たす出入り口という意味。電波障害の少ない港湾地区に、通信衛星と交信できるような地上局を建設、テレポートを含 む周辺には、大量の情報通信を利用するオフィスパークなどを造成して地域開発を行う計画。 ニューヨーク市の南、スタッテン島に、通信衛星との送受信局を一二局つくり、同市との間は光ファイバーで結び、同市内の通信機能を改善する計画。オラン ダやロンドンでも建設中。わが国でも、東京都は「東京湾の 13 号埋立地」、横浜市は「みなとみらい 21 地区」、大阪市は大阪南港地区に、テレポートの建設計 画を進めている。 ●最新キーワード〔1996 年版 マルチメディア〕 ●マルチメディア(multimedia)〔1996 年版 マルチメディア〕 電報(文字)、電話(音声)、ファクシミリ(静止画=絵)と従来はモノ情報(シングルメディア)であったのに対し、コンピュータ技術とデジタル通信技術の 発達により、音声・文字・静止画・動画の四つのメディア(情報)を同時に扱うものをマルチメディアという。デジタル技術をベースとした双方向性(対話性) のあるメディアで、カラーテレビ(放送)に双方向性がつけば究極のマルチメディアとなろう。 そうするためには多大の情報を送受信しなければならないので一五○メガビット以上の情報量のあるB(広帯域)ISDN網が必要となる。 ●次世代通信〔1996 年版 マルチメディア〕 二○一五年ごろからスタートする電気通信網。音声やデータだけでなく動画なども大量に、かつ高速で送受信できるネットワーク。現在はN(狭帯域)ISD Nだが、すべての回線を光ファイバーによるB(広帯域)ISDNに改善しようというものである。NTTは二○一五年までに、加入者回線の光ファイバー化、 交換機など通信機器のデジタル化、新たなサービスを提供するのに必要なソフトウェアの開発、研究開発費などで、この二二年間に毎年二兆円ずつ計四五兆円 が必要と見込んでいる。 これによりマルチメディア通信となり、電子図書館や電子新聞、双方向テレビが可能になるという。アメリカは、ゴア副大統領の提唱で、この上をいくギガビ ット・ネットワークという通信網を全国に新設する計画で、スーパー光情報ハイウェーと呼んでいる。アメリカ経済の回復をきっかけにしようと、精力的に取 り組んでいる。 ●ISDN(Integrated Service Digital Network)〔1996 年版 マルチメディア〕 総合デジタル通信網という。世界的にテレコム回線は電話、テレックス、ファクシミリ、コンピュータ(データ)通信など、メディア別にばらばらに敷設され ている。それではコストが高く不経済だという考えから、これらの回線を統合して一本化し、画像などより広帯域の情報(信号)を高速で送受信できる回線網 が求められるようになった。 最近のハイテクがそれを可能にした。信号を数値化して送受信するデジタル伝送方式と、光ファイバーケーブルを使う光通信技術の開発によって、このISD Nができるようになった。ISDNの日本版が、NTTが実施しているINS計画。世界各国では、このISDNによる通信網作りが進んでいる。 ISDNの標準伝送容量は、六四+六四+一六の合計一四四キロビット/秒。これは、CCITT(国際電信電話諮問委員会)が定めたもので、NTTのIN S計画もこの世界標準に準拠した。ISDN化は、イギリスでは一九八五年からロンドンで、アメリカではイリノイ・ベルが、フランスではラニオン市などで、 ドイツではシュツットガルト市などで八六年から実験を開始。NTTは、八八(昭和六三)年四月からINSを開始、いま需要のある市町村への拡大敷設中で ある。 ●インターネット(internet)〔1996 年版 マルチメディア〕 一九七○年代に軍関係の研究機関を結ぶアーパネットをもとにできた高速デジタル通信回線で、八○年代にはNSF(全米科学財団)の資金を得て、大学や研 究機関を中心に生まれた。さらに、超高速コンピュータを結ぶNSFネットの完成を機に、民間企業の研究所・図書館を結ぶこのネットワークができた。誰も が参加できるオープンポリシーをとっているので、今では一○○カ国以上、四○○○万台以上のパソコンが加入しているらしい。 ▽執筆者〔1996 年版 小林 情報化社会〕 弘忠(こばやし・ひろただ) 立教大学・武蔵野女子大学非常勤講師 1937 年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞東京本社メディア編成本部長を経て、立教大学、武蔵野女子大非常勤講師。著書は『新聞記事ザッピ ング読解法』『マスコミ小論文作法』など。 ◎解説の角度〔1996 年版 情報化社会〕 ●情報の国際化が具体的な形となってきた。国際規模のパソコンネットワークのインターネットもそのひとつである。すでに世界で 4000 万人が利用している といわれるこのネットに政府機関も着目し、情報提供を始めている。徐々に利用者も拡大している。 ●1995(平成 7)年 11 月、大阪で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)でも情報通信システムがフル活用され、情報化時代の会議の印象を与える とともに「ネットワーク革命」の推進がうたわれた。世界の潮流となった国際情報化の背景には、2000 年をスタート年とするマルチメディア整備をにらんで のことは、いうまでもない。今後各国とも情報摩擦対策、独自の情報整備もふくめ、マルチメディア化へ向けての本格的な具体案が始動することになろう。 ●しかし、オウム真理教事件にみられるように、情報の危機管理問題も改めて指摘されている。情報の漏洩、悪用である。情報リテラシー教育の徹底と大学な どの研究機関、公的機関の情報にたいする取り組みの推進と情報の自由な流通を阻害することへの対策というふたつの問題の対応がますます必要となってくる。 ★1996年のキーワード〔1996 年版 情報化社会〕 ★第三世代携帯電話(FPLMTS)〔1996 年版 情報化社会〕 日米欧が二○○○年に実用化を目ざしている高度移動電話。日本のPHS(簡易型携帯電話や欧州の携帯電話システム(DCS―一八○○)は第二世代携帯電 話と呼ばれる。問題は通信の標準化で、国際電気通信連合(ITU)の標準化作業を円滑にするために、日米欧は三極次世代通信標準化会議で標準方式数の絞 り込みなど具体的な標準化を協議している。 ★情報通信G7(information communication G7)〔1996 年版 情報化社会〕 一九九五年(平成七)ブリュッセルで開かれた情報社会に関する主要七カ国の閣僚会議。情報通信サミットとも呼ばれた。世界でどのように情報を取り扱うか が会議の主議題で(1)競争、民間投資の促進(2)文化、言語の多様性の尊重(3)市場の自由化ルールの設定(4)市民の自由なアクセスの保証など八原 則をまとめた。会議では米国の映像支配に欧州各国が反発する場面もみられたが、貿易自由化にからんで日本に「フェア」さを求める声も出た。今後、共同の プロジェクトで、地球的規模の情報社会実現に向けて基盤整備を急ぐことになった。 ★パソコン郵便(personal computer mail)〔1996 年版 情報化社会〕 パソコン通信で封書の郵便物を扱う新しい郵便システム。一九九六年(平成八)一○月から実施の予定。利用者が自宅のパソコンからパソコン通信会社経由で 文面を入力して東京・日本橋郵便局のホストコンピュータに送信する。郵便局はプリントアウトしたあと機械で封書郵便を作成し、あて先へ通常の配達方法で 届ける仕組み。郵政省は九六年春からソフト開発にとりかかるという。料金は封筒の種類、文書の量によって違うが、A4版一枚で一五円程度。このほか切手 代金を加えて申し込む。郵政省は一年間で約六○万通を見込んでいる。はがき通信も検討中で、これが実現すると年賀状を書く手間もはぶけることになりそう だ。フロッピーディスクを郵便局へ持参してもいいが、引き受け局が東京、大阪などの七局に限られているため当面は全国では利用できない。パソコン通信を 通しての郵送はクレジット会社の請求書などを対象に八五年から始まっていたが、利用は大企業に限られ、全封書郵便物一二一億通の一%以下だった。 ▲情報社会の基礎概念〔1996 年版 情報化社会〕 情報は「知らせ」である。知らせによって、価値を生み出すものでなければならない。付加価値を生産し、情報を仲立ちとした社会が運営されていくことが情 報社会の理想である。しかし正常な情報の流通は、しばしば妨害される。二一世紀へ向けての情報社会確立のためには、情報教育体系の整備と情報民主主義の 認識の浸透が徹底されなければならない。 ◆情報社会(information society)〔1996 年版 情報化社会〕 情報が物やエネルギー以上に有力な資源になり、情報の価値の生産を中心に発展していく社会。情報化社会ともいう。現代は高度情報社会といわれる。通産省 産業構造審議会情報産業部会答申では情報社会を「人間の知的創造力の一般的開花をもたらす社会」と定義している。 似た言葉に脱工業社会(post industorial society)がある。ダニエル・ベル(米)の唱えた未来社会で、 (1)保健、教育、レクリエーション、芸術などサービ スと娯楽の充実、(2)情報に基づいた知的技術の発達と人間相互間のゲーム、(3)科学の政治化、専門・技術者の組織化、(4)未来志向とモデルやシミュ レーションを駆使した将来予測がその内容。ドラッカー(米)は知識社会(knowledge society)構想を打ち出し「財やサービスでなくアイデアと情報を作り出 し流通させるのが知識産業であり、知識が技術に代わって経済発展の推進力になり、知識に携わるものが権力を握る社会」と規定している。アルビン・トフラ ー(米)は、「現代は人類が歴史の第三の波に洗われている時代」とし、(1)新しい家族形態としてエレクトロニクス住宅、(2)生産者と消費者を融合させ たプロシューマー(生産=消費者)の出現を予想している。 ◆情報装備指数(information equipment index)〔1996 年版 情報化社会〕 家庭、企業、公共団体が所有している情報通信機器のストック。情報入手手段の多様化をあらわす指数をいう。一九九五(平成七)年版通信白書によると、家 庭では電話機の多機能化、ポケットベル、ファクスなどの普及で、情報装備指数は八五年を一○○とすると九三年は一八六に上昇した。企業や公共部門でも就 業者一人当たりの情報通信機器のストックの伸び率(八五年∼九一年)は七一・三%となっている。家庭、企業に備えられた情報通信機器は、九一年は七○兆 七○○○億円となり、八五年より九一%もふえている。情報通信産業の国内生産額も八五年の五四兆八六九二億円から九四兆三一五七億円と七一・九%増大し、 国民の情報装着が進んでいることを示している。しかし、アメリカに比べるとまだ相当格差はある。家庭の情報通信機器一人当たりを金額で比較すると、日本 が八万三○○○円なのに対し、アメリカは一四万六○○○円(いずれも九一年)、企業、公共部門の一人当たりのストックの伸び(八五年∼九一年)の差は一 二・三%。理由の一つとして白書は、アメリカの国内電話事業を独占していた米電信電話会社(AT&T)の分割(八四年)以降、企業間の活発な競争が進み、 市場が活性化されたためと分析している。日本は、新規事業者の参入で国内、国際電話や専用線、移動電話の利用がふえ、利用料金が過去一○年間で五五∼七 二%安くなったが、NTTの独占的な地域網があるために競争が十分進展していないと指摘、将来のマルチメディア社会の実現に向けては、公正で活力のある 情報通信市場をつくる必要があると提唱している。 ◆情報民主主義(information democracy)〔1996 年版 情報化社会〕 情報に関する基本的な権利。次の四つが柱。 (1)プライバシーの権利(right of privacy)=私的に関する情報が他人に知られることから守る権利。 (2)知る 権利(right to know)=国民が国家機密などの情報を知ることができる権利。政府に情報開示を義務づける情報公開法はアメリカでは二五年以上の歴史をもち、 連邦政府関係だけでも、五○万件以上の情報が公開されている。日本では、一九八二(昭和五七)年山形県・金山町が情報公開条例を作ったのをトップに、四 ○都道府県、一九三市区町村が条例を制定している。しかし日本では国の情報公開法はまだ制定されていない。 (3)情報使用権(right to utilize)=あらゆる 情報を自由に利用できる権利。国家や大企業の情報独占が防げる。 (4)情報参加権(right to participate)=データベースなどの管理への参加、政府の重要な 施策決定への参加権。(4)により国民の参加する直接民主主義が実現する。これら「知りたい」「知らせたい」「知られたくない」権利は、憲法で保障されて いる基本的な権利である。情報民主主義は、産業民主主義に代わるものとされている。 ◆情報縁社会(information unit society)〔1996 年版 情報化社会〕 情報を仲立ちとした社会。これまでの地縁、血縁社会から共通の情報を基盤とした社会が到来しつつある。世界規模の情報基盤整備、インターネット、都市間 の情報通信ネットワークなど全地球、地域も情報で結ばれている。企業間のネットワークやパソコン通信ネットもやはり情報がとりもって相互の通信が行われ ている。国、地域、都市や企業、個人が情報でユニットされているといえる。現代は地縁、血縁というしがらみ社会から知的社会に移行しつつあり、新しい形 の情報縁社会がさまざまな組み合わせで実現しようとしている。 ◆ヒューマンインターフェース(human interface)〔1996 年版 情報化社会〕 人間が、OAシステムと接続する接点をいう。マンマシンインターフェース(MMI man-machine interface)ともいう。航空・電子等技術審議会(科学技 術庁長官の諮問機関)は一九九○(平成二)年、同長官の諮問を受けて「ヒューマンインターフェースの高度化に関する総合的な研究開発の推進方策」を答申 した。人間と情報システムのかかわりは、これからは接点だけにとどまらず、記憶、五感、連想、感情、心理など知的機能、人間の内面にまで入り込んだ高度 なヒューマンインターフェースが、とくに研究開発では必要と述べている。 ◆デジタル・ネットワーク(digital network)〔1996 年版 情報化社会〕 デジタルで統合された映像、音声などの情報を双方向でやりとりできる通信システム。マルチメディア社会を支えるネットワークで、光ファイバー網、海底ケ ーブル、衛星による通信網などをいう。有線と違い約六○倍という大量の情報を送ることができ、双方向のため家庭用テレビで医療、福祉、教育、娯楽分野の サービスを受信者が選択して受けることができる。しかし、膨大な構築費用をどうするかが問題。公共投資の見直しが必要となる。 ◆データベース(data base)〔1996 年版 情報化社会〕 膨大な情報を磁気テープやハードディスクなどの形でコンピュータに記憶させ、必要なときデータをすばやく取り出せるシステム。一九五○年代に米国防総省 が全世界に配備した兵員、兵器、補給品を集中管理するためにつくったデータ基地が語源という。データベース構築機関であるデータバンク(情報銀行 data bank) が情報提供者(IP)から各種情報を受けたり、独自の情報を収集してコンピュータ化。用途別ではこのデータを一般に有料で提供する商用データベースと、 企業や研究機関などがデータを集中管理し、企業、研究機関内だけで活用するインハウス・データベースに分けられる。種類別ではリファレンス・データベー ス(文献データベース)とファクト・データベース(ソース・データベース)などがある。前者は文献、記事など文書の形のデータベース。後者は資料そのも のや統計、数値、映像などをデータベースにしたものである。OA用に光ディスク使用の小型で大容量を記憶できる電子ファイル装置も開発され、今後も情報 インフラストラクチュアの重要な柱となると期待される。 ◆ダイヤルQ2〔1996 年版 情報化社会〕 いろいろな情報を電話を使って利用する際、情報料を情報提供者に代わってNTTが通話料と一緒に徴収する「情報料自動課金サービス」。アメリカの「900 番」サービスの日本版。情報料は三分一○円から三○○円の間で情報提供者が選べる。一九八九(平成一)年から始まったが、当初番組数は一○○程度だった ものが九一年には八二○○、契約回線も一二五○からピーク時には七万回線に急増した。しかし、番組の大半がピンク番組や不特定多数と会話ができる「パー ティーライン」であったため風紀上問題化、規制が強化されている。 ◆マルチメディア(multimedia)〔1996 年版 情報化社会〕 次世代通信網の代表として脚光を浴びているメディア。コンピュータ、電話、テレビを中心とする家電、エレクトロニクス製品などの産業がデジタルの世界で 融合して新しい機能を生み出すメディア。アメリカが先行して開発を進めているが、日本でも急ピッチで実現のための準備が進められている。容量の大きい光 ファイバーを通して情報を送るので、映像を伴ったさまざまな情報が双方向で利用できる。テレビで製品を紹介し、自宅にいながら買い物ができるテレビショ ッピング、テレビ電話を備えた端末を家庭と病院に設置しデジタル回線で結び、医者が患者の顔色や患部をみて診断するテレビ電話診療、パソコン通信を利用 した在宅勤務やテレコミューティング(通信勤務)も可能となる。CD‐ROMと音響、映像を組み合わせた立体データベース、ニュースの発信基地と端末を 結合して好みのニュースを取り出せる電子新聞など幅広い応用が考えられ、一部はすでに実験が始められている。 郵政省は九四年をマルチメディア元年と位置づけ、二一世紀のマルチメディア社会の到来を予想しているが、現実は難問が山積している。大容量の伝送路の確 保、産業整備などのインフラストラクチュア、膨大な光ファイバー敷設費用の捻出、ソフト内容と利用料金体系と著作権処理、官庁の〈縄張り〉解消、規制緩 和、電気通信の標準化も大きな問題だ。 ◆GII(global information infrastructure)〔1996 年版 情報化社会〕 アメリカの情報スーパーハイウェーや日本、欧州各国で進められている次世代通信網の整備計画を世界規模で発展させる「全地球的情報基盤」構想。ビジネス 拡大と雇用創出の目的もあり、一九九四年イタリア・ナポリ・サミットのメーンテーマ「経済成長と雇用」の中でも推進が打ち出され、ブリュッセルで関係各 国の閣僚会議開催も計画された。日本電子工業振興協会はGIIについて米コンピュータ事務機器製造者協会、欧州事務機器・情報機器製造者協会の二団体と 協力を進めることで合意。今後、機器やシステム面での規格統一などでの共同歩調を確認している。 ◆日本版情報スーパーハイウェー〔1996 年版 情報化社会〕 アメリカの情報スーパーハイウェー構想に対し、電気通信審議会が郵政省に答申した次世代通信網整備構想で、二○一○年までに全国に光ファイバーによる情 報スーパーハイウェーを整備し高度情報化社会に対応しようという日本の基本的な情報政策。二○○○年までに県庁所在地の都市、二○○五年までに人口一○ 万人以上の都市に光ファイバーを張り巡らせ、二○一○年に整備完了の三段階方針を打ち出している。答申では二○一○年には次世代通信網の整備でマルチメ ディア市場は約一二三兆円(自動車産業規模の約三倍)雇用を二四三万人と見込んでいる。光ファイバーケーブルは全国で四二万キロの共同溝をつくり、地中 に敷設する計画(建設省)で、学校、病院など公共機関にまず敷設を進め、二○○○年までに県庁所在地、二○○五年までに中都市そして最終年には全国整備 を目ざす。光ファイバー整備に五三兆円(地中に敷設すればさらに四二兆円)が必要となるので、整備の主体の民間電気通信事業者に対する無利子融資、税制 面の優遇措置、さまざまな規制緩和策などが必要。光ファイバーによるマルチメディア化が実現すると家庭用市場だけでも一七兆円となるといわれる。 ◆NII(national information infrastructure=情報スーパーハイウェー)〔1996 年版 情報化社会〕 アメリカのゴア副大統領が提唱した全米を光ファイバーで結ぶ次世代通信網構想。経済競争力強化と生活水準向上を目ざし、州を超えて家庭・企業・教育・医 療などをネットワーク化しようとする計画。二○○○年までに端末を直結して高度な情報サービスをする構想で実施に向けて審議を開始している。有線より約 六○倍という情報伝達量にすぐれた光ケーブルで情報機器をつなぎ、マルチメディア社会到来を目ざす。アメリカのねらいは、情報インフラストラクチュアを 確立し、情報産業を基盤に大量の失業者の解消を図り、経済力を高めるとともに、各国に先行して開発するハード、ソフトの技術面でも主導権を握る目的もあ るといわれる。日本、欧州各国、アジア諸国も情報スーパーハイウェー構想を打ち出しており、アメリカのNII推進と合わせ、経済成長と雇用増大の目的で、 GII構想もサミットで確認された。 ◆PHS(personal handyphone system)〔1996 年版 情報化社会〕 簡易型携帯電話。最近は自動車・携帯電話が飛躍的に伸びて一年間で倍増、一九九五(平成七)年三月には累計で四○○万台を突破、携帯電話ブームといわれ ている。簡易型携帯電話は、家庭のコードレス電話の子機を屋外でも使えるようにしたもので、同年七月一日からサービスが始まり、ブームを加速させた。特 徴は、電波を発受信するアンテナを電話ボックス、ビル、地下街に設置してあるので通常の携帯電話では通話不可能な場所でも通話できることと利用料が割安 な点。携帯電話では加入電話にかける通話料(三分)はNTTドコモが一五○∼二三○円、IDO(日本移動通信)が一九○円だが、PHSだと四○円。小型 化も進み一○○グラム以下のものもある。連続一五時間通話可能の機種もあり、ファクス通信では一秒に二○○○文字の送信ができる。しかし、通話の範囲が 東京中心の八都県のエリア(同年一○月から拡大)に限られていること、走行中の車、電車からは通話できないのが難点。 ◆発信電話番号通知サービス〔1996 年版 情報化社会〕 着発信側の電話機に発信者の電話番号をディスプレーや音声で表示できるサービス。NTTが一九九六(平成八)年秋から実施する。発信元の電話番号がわか り、出たくない相手なら応答しないことができるので、迷惑電話の防止や通信販売の注文ビジネスに役立つ。発信者が相手に番号を知らせたくないときは、相 手の電話番号をかける前に「一八四」を押し、着信側が発信者の番号を知りたいときは番号通知を求めるメッセージを自動発信する対抗措置もとれる。半年間、 横浜、名古屋、福岡の三地域で試験サービス後、九七年春から本格サービスを開始する。試験サービスでは参加手数料二○○○円、毎月の利用料無料、本サー ビスは加入料二○○○円で月々の利用料金は数百円程度。迷惑電話防止サービスはNTTが九三年にすでに実施している。無言電話などがかかった場合はいっ たん電話を切って「1442」にダイヤルすると電話がブロックされるシステム。 ◆コールバック(call back)〔1996 年版 情報化社会〕 アメリカの回線を利用した格安電話。割引サービスするアメリカの電話会社と契約を結んでいる中継再販電話事業者を通じての電話利用。現在約一○の事業者 が営業を始めている。 指定されたアメリカの電話番号にダイヤルし、呼び出し音を二度聞いてから切るとコンピュータの作動で折り返し電話がかかってくる。受話器をとったままか けたい番号をダイヤルすればアメリカはもちろんアメリカ経由で世界中につながる仕組み。アメリカの交換設備から一定間隔で日本側を呼び続けるポーリング 方式もある。 ◆バルネラビリティ(ぜい弱性)(vulnerability)〔1996 年版 情報化社会〕 コンピュータ社会がもつぜい弱性のこと。コンピュータ社会の欠点。コンピュータリゼーションにより、社会機構の情報化が高度となり、きわめて便利になっ た反面、コンピュータの機能が止まったりすると大混乱に陥る。一九八四(昭和五九)年一一月、東京・世田谷で起きた地下通信ケーブル火災で銀行の現金自 動支払い業務が全国的にストップしたなどがバルネラビリティの典型例。対策として予備施設を備えるなどのリダンダンシー(冗長性 redundancy)が重視 されるようになった。コンピュータ犯罪防止と並んでその対策が大きな問題となっている。 ◆ハイテク犯罪(hightech crime)〔1996 年版 情報化社会〕 コンピュータを利用した犯罪。不正データを入力して金銭を詐取する金融機関犯罪、オンラインシステムの悪用、オウム事件のようなハイテク利用の犯罪のほ か、コンピュータソフトに進入、他に感染したり、増殖するプログラムやデータを破壊するコンピュータウイルス(computer virus)、コンピュータの中をい たずらするワーム(worm=虫)も含まれる。情報社会の反社会的な行為。ハイテク利用犯罪は年々増加、コンピュータウイルスは一九九○(平成二)年には 一四件だったが、毎年四倍のペースでふえている。九五年、総理府が発表した「科学技術に関する世論調査」 (三○○○人対象)結果によると科学技術の悪用・ 誤用に「非常に不安」の回答が三三・九%「やや不安」四四・一%にのぼり、前回九○年に比べると「非常に不安」は一○・八ポイント増加した。 ◆エージェント(agent)〔1996 年版 情報化社会〕 通常は代理人、斡旋者のことだが、コンピュータの世界では通信ネットワークの中で自由に駆け回り故障やコンピューターウイルスを監視する代理人、つまり コンピュータウイルス監視ワクチンともいえる存在のプログラム。世界的にコンピュータが接続され、ネットワークが拡大、複雑化されたときに問題となるの は故障やウイルス。そこで監視役のエージェントをネットワークに放って故障が起きたときには知らせたり伝言も伝える通信回線のパトロール役を務める。す でに実験が開始されている。 ◆瞬断〔1996 年版 情報化社会〕 電気がまばたきする程度の短い時間停電すること。瞬断によりコンピュータに入ったデータが消え、パソコンでは○・○五秒、ワープロで○・一秒の瞬断でデ ータが被害を受けるので、OA時代には深刻な問題となる。瞬断の最大の原因は落雷で、電力会社ではレーダーで常時雷雲を観察し、送電線に落雷した場合は 他の送電線に切り替えて電気を送る。この切り替え時間は約二秒だが、それでも、OA機器は大きな影響を受けてしまう。 そこでOA機器の電気回路の入口に電圧を一定にする装置をつけたり、ワープロでも電池を内蔵して、データの消滅を防ぐなど瞬断によるデータ破壊防止がメ ーカーの課題ともなっている。 ▲産業と利用システム〔1996 年版 情報化社会〕 電子化の浸透で、電子業界は分散され、ソフトと部品供給者、CPU(中央演算装置)、ユーザーがそれぞれに産業基盤をつくってきた。分散化は家電、通信 業界はもちろん、あらゆる産業にも波及してきた。付加価値の創造を目ざして、産業はネットワーク網を広げながら電子を媒介とした分散と統合の核分裂を繰 り返しつつある。 ◆ネオダマ〔1996 年版 情報化社会〕 技術革新の進むコンピュータシステムの流れはネットワーク化、異なる機種間を接続するオープン化、機器を小型にするダウンサイジング化、そして文字、音 声、画像を合体させるマルチメディア化といわれる。この四つの頭文字をとってコンピュータシステムの新しい技術の流れを「ネオダマ」という。 現在ソフト業界は約六○○○社あり、四五万人が従事しているが、中小会社が多く競争も激しい。とくに「ネオダマ」関連の受注の急増で、仕事の内容も従来 型が減り、急速な「ネオダマ」型技術にどう対応していくかが課題となってきている。 ◆テクノインフラ(techno infrastructure)〔1996 年版 情報化社会〕 インフラストラクチュア(インフラ)とは、社会、経済、産業活動を維持し発展を支える基盤。情報社会のインフラは通信網の整備といわれ、これまでの産業 基盤、工業インフラから情報インフラに重点が移ってきた。情報インフラを進めるには、研究開発を支える前提としての研究開発基盤が必要となってくる。テ クノインフラはこの研究開発基盤を指す。研究開発そのものではなく、情報内容、施設・設備、知的財産権、標準化、規制制度、人をとりまく環境の研究と解 されている。 ◆電子ブック(electoronic book)〔1996 年版 情報化社会〕 コンピュータのディスプレーで読む本。これまでは電子ブックといえば大容量のCD‐ROMを指していたが、最近はさまざまな形の電子本が出版され、出版 業界はマルチメディア化されてきたといえる。CD‐ROM(compact disc read only memory)は、コンパクトディスクを利用した読み出し専用記憶装置。 従来の磁気フロッピーディスクに比べ、約五○○倍の容量があるうえ、画質もよく、CD並みの音声も可能のため、出版以外にもドラマのCD‐ROMソフト も登場。一九九○年にソニーが携帯用電子ブックプレーヤー(ディスクドライブ)を売り出してから普及に拍車がかかった。パソコンソフトとして、ドキュメ ンタリーやスポーツ映像ソフト開発も注目されそうだ。 EB(expand book)は拡張された本という意味で、アメリカ・ボイジャー社が九二年にマッキントッシュ(マック)により、コンピュータプログラマーに頼 らずに電子出版可能のフォーマットを開発したのが最初。ワープロで作成した原稿以外にも音声や動画も読み込み、呼び出せるので個人レベルでの出版も可能。 デジタル・ブック(digital book)は、フロッピー・ディスクの小説、マンガなどを情報読み取り装置でプレーヤーに転送、液晶画面で読む本。NECが発売、 各出版社が出版している。 CD‐ROMを使った電子出版物のデータ・フォーマットにイー・ピー・ウイング(EP epwing)がある。EPはエレクトロニクス・パブリッシング(電子 出版)の頭文字、WINGは情報技術と出版の両翼の意味。 ◆システム・ハウス(system house)〔1996 年版 情報化社会〕 ソフト・ウェア・ハウス(soft-ware house)から発展してできた言葉。システム設計やソフトウェアの開発だけでなくマイクロプロセッサなどを組み合わせて ユーザーの求めるシステムを開発したり、一方でコンピュータ販売やハードの開発もする企業。マイクロ・コンピュータが自動車、ゲームマシン、家電製品な どに広く普及してきたために登場した新しい型の情報関連企業。 ◆新高度情報通信サービス(VI&P)(visual intelligent and personal communication service)〔1996 年版 情報化社会〕 二一世紀へ向けてNTTが開発を進めている高度通信網。広帯域サービス総合デジタル網を活用し、映像とパーソナルな通信サービスを計画している。ネット ワークの中核となるのがATM(非同期伝送モード=一種の交換器)で電話回線に比べ二五○○倍の情報量を簡単に処理できる。映像や音声情報をそれぞれ同 じ大きさの信号の固まり(セル)に区分けし、セルごとのあて先に高速で送ることができるのでハイビジョンの映像も電話回線で送ることもできる。また各人 が一人ずつ電話を所有することも可能となる。NTTは二○一五年までにネットワーク化を目ざしている。 ◆電子会議室〔1996 年版 情報化社会〕 パソコン通信の商用ネットワーク「ニフティ・サーブ」が設けているパソコン通信の内容の一つで、このほか電子掲示板などがある。会員ごとに与えられるI D(コード番号)があれば自由に発言でき匿名でも参加できる。閲覧も会員になればだれでも見ることができる。広く意見を求めたり討論の場になりうるので マスコミも利用することが多い。この電子会議室に事実無根の中傷を書き込まれ、名誉を傷つけられたとして東京の女性(三三)がニフティ社とフォーラムの 運用を委託されたシステムオペレーター、書き込みをした男性らを名誉毀損で東京地裁に賠償を求めて訴えた。パソコン通信をめぐる訴訟は珍しく、電子会議 室のあり方に問題を投げかけた。 ▲研究開発と手法・技術〔1996 年版 情報化社会〕 マルチメディアは、新たな雇用を創出し、生活の質を向上させ、政府・経済部門の活動が効率化し、国の競争力をつける。このためには、国際的なオンライン 型メディアの導入が必要である。国内的にもISDNなど基礎的なサービスに必要な技術をはじめ電気通信技術の標準化が不可欠である。通信網整備と合わせ、 標準化研究も急務となってきた。 ◆マルチメディア大学(multimedia univercity)〔1996 年版 情報化社会〕 アジア太平洋地域で進められる情報スーパーハイウェー整備のため各国の人材を育成するための大学。郵政省が創設の方針を打ち出した。特定のキャンパスを もたずに、ネットワークを利用してソフト開発、マルチメディア技術の遠隔教育をする。アジア太平洋地域の大学と日本を衛星通信や光ファイバーで結び、専 門家の講義を中継したり質疑応答もできるシステム。地球的規模の情報整備(GII)の一環で、先進国にかたよっているマルチメディアの専門家技術者が、 途上国の人材育成を支援する国際的な電子高等教育機関。 ◆GIIC(global information infrastructure commission)〔1996 年版 情報化社会〕 国際的な民間組織の「世界情報基盤委員会」。高度情報通信網を世界に広げる全地球的情報基盤(GII)構想の実現を目ざして一九九五年スタートした。各 国の政府や国際機関に通信網整備に対して提言するほか用途の実験なども展開する。米GII構想に、民間の各国企業が支援体制を組んだ形。 (1)GII実現のため民間主導の協力体制整備(2)各国の情報スーパーハイウェー構想への協力(3)各国の研究活動の推進と政策の提言(4)教育、医 療などの分野でのGII利用実験、の四項目を活動の柱としている。九五年にワシントンで第一回総会を開き、九六年の総会は日本で開催の予定。事務局はア メリカCSIS(戦略国際研究所)のあるワシントン。 ◆バーチャルリアリティ(VR)(virtual reality)〔1996 年版 情報化社会〕 仮想現実。五感をコンピュータで計算して人工的に環境をつくること。人間は視、聴、触、味、臭の五感で事物を感じとっているが、現実にはないものをコン ピュータにより、人工環境をつくり現実のようにみせる。「物理的には存在しないが機能からは存在しうる環境設定」と定義できる。コンピュータ内にユーザ ーが入り、人工の現実感を感知できる世界といえる。 ◆インターディシプリナリー(interdisciplinary)〔1996 年版 情報化社会〕 学際または異専門間協業のこと。複雑な問題をシステム分析する場合は、一つの学問領域、専門分野の知識、経験だけでは不十分で、多くの異なった学問や専 門知識が必要になってくる。 たとえば人工衛星の開発の際は科学者だけでなく天文学者、地球物理学者、生理学者、病理学者、電子・機械・通信工学者など多数の学問領域の学者や技術者 の協業が必要になってくる。 ▲政策と機関〔1996 年版 情報化社会〕 急速な技術革新に「ついていけない」というシステムエンジニア、プログラマーがふえているという。一方ハイテク犯罪に不安をもつ人は七八%にのぼる(総 理府調査)。コンピュータ技術の研究、開発は大事だが、高度情報社会に欠かせないのは情報化のための教育である。マルチメディア時代には、情報教育に力 を入れなければならない。 ◆通信標準化〔1996 年版 情報化社会〕 マルチメディア時代に備えて電気通信技術を共通にする計画。一九九五(平成七)年電気通信技術審議会が標準化について二○○○年までのプログラムを策定、 郵政省に答申したことから具体化した。プログラムによると(1)大量の情報を一度に送ることができる広域総合デジタル通信網(ISDN)はじめ基礎的な サービスに必要な技術を九六年までに標準化(2)世界のどこでも同じ端末で通話できる統合携帯電話サービス(FPLMTS)など高度サービス技術を二○ ○○年までに共通にする。ホームショッピングなど代表的なアプリケーションの標準化も一五項目明示している。標準化については、国連の機関である国際電 気通信連合(ITU)も提唱しているが、審議に時間がかかるため民間活動が期待されている。今回の答申では、利用度が広い民間の電気通信仕様を公的な標 準に採用する公的機関と民間の連係、標準化の主体となる政府、国際機関と民間団体の連係も提唱している。 ◆情報弱者(information the weak)〔1996 年版 情報化社会〕 情報が円熟した社会(メロウ・ソサエティ=mellowsociety)になると情報通信機器に慣れない高齢者などは時代からとり残されてしまう。高度化された情報 の扱いになじめない人たちをいう。音声だけで作動できるような技術開発(ヒューマンインターフェース技術)、情報弱者でも利用しやすい料金設定、プライ バシーの保護、災害への安全性の確保などが必要とされている。 ◆ネオテレトピア計画(neo teletopia)〔1996 年版 情報化社会〕 地域の情報化を促進するために一九八五(昭和六○)年スタートした郵政省のテレトピア構想をマルチメディア時代に向けた新しい計画に組み直す新地域情報 開発基盤。ケーブルテレビ(CATV)や移動通信などを利用した高度情報システムを整備しようというのがねらい。今後のテレトピアの事業を、(1)家庭 と医療機関、福祉施設ネットの在宅ケア、 (2)CATV利用の遠隔工場、教育、 (3)PHS利用の交通、災害、気象情報サービスなどマルチメディア型にな ると想定、指定地域の自治体(現在一二七都市)が実施する事業に国が費用の三分の一を補助、自治体が出資している第三セクターへの無利子融資の現行の支 援を続ける一方、国の支援を市町村に拡大し小規模の自治体にも情報化を進める。 ◆ATM交換機〔1996 年版 情報化社会〕 広域総合デジタル通信網(B‐ISDN)はじめ高速通信デジタルネットワークの中核をなす非同期転送モード。企業、大学内や同一区域を汎用コンピュータ、 WS(ワークステーション)パソコンで結ぶLAN(構内情報通信網)、複数のLANをネットするWAN(大規模ネットワーク)が急速に広まり、さらに国 際的なネットワーク化も進んでいる。こうしたデジタルネットの基幹システムとなる交換機がATM。ATM交換機を使うと、毎秒一○○メガ(一メガは一○ ○万)ビット以上の膨大な情報量を多数の相手に送ることができる。送る情報量は、たとえば電話回線と比較すると二五○○倍という。伝送速度も早く従来の デジタル交換機の一○○倍以上。しかも文字情報はもちろん音声、アニメ、映画などの動画、映像も鮮明に伝送できるため情報スーパーハイウェーや双方向C ATV(ケーブルテレビ)の構築にはなくてはならない機器といわれている。大学や病院などではすでに実験的に実用化され、NTTではATMを利用した専 用線サービス(新高度情報通信サービス)の準備を進めている。次世代通信網時代を見越して、早くもATM交換機をめぐる商戦が活発化、国内の機器メーカ ーはATM交換機を受注したり現地生産に踏み切るなどアメリカを舞台に激しい戦いを展開している。 ◆伝送医療(wire medical)〔1996 年版 情報化社会〕 過疎地域医療の立ち遅れを解消するため衛星を通じて移動検診車から患者のレントゲン写真やCT(コンピュータ断層撮影)の画像を都市部医療機関に伝送し 診断するシステム。一九九七年に打ち上げられる通信放送技術衛星(COMETS)を使う予定で、九五年度から郵政省が研究を始めた。高速で精細な画像を 送る周波数を用いるので、伝送を受けた医療機関はハイビジョンよりはるかに高品質な画像で診断できる。 これらの画像をデータベース化して患者の継続的なケアにも役立てる。このシステムが確立されると過疎地と都市部の間で高度な医療情報が高速で交換できる。 まず九五年度検診車二台を整備、必要なソフト開発をしたのち、九九年度までに信州大医学部などと衛星回線を結んで実現を目ざす。 ◆日本情報システム・ユーザー協会〔1996 年版 情報化社会〕 企業がコンピュータ・システムを運用する場合、総合的に制御するオペレーティング・システム(OS operating system)がメーカーによって異なっている ことが多い。機種が違うと使用できないため、コンピュータ運用では、これが企業の悩みとなっている。そこで効率的なシステム運用を図ろうと設立されたの がこの協会。ハード、ソフト両面からユーザーの立場でメーカー側にコンピュータの標準化を要求していくという。自動車、運輸、金融など大手企業三○○社 の経営者らが参画している。 ◆マルチメディアハウス支援税制〔1996 年版 情報化社会〕 住宅の新、改築の際、情報化のための配線工事をしたときにはその費用の七%を免税にする措置。マルチメディア社会に備えて、家庭の受け入れ体制を整えよ うと郵政省が打ち出した、住宅の情報整備のための支援計画。電話、ファクス、テレビだけではなく、衛星放送や有線テレビなどの端末を全室に設置する工事 を対象にする。全家庭を光ファイバーで結ぶマルチメディアを促進しようとの試みで、情報機器を整備することで遠隔医療、ホームショッピングができる社会 を到来させるねらいがある。 ◆アジア・太平洋電気通信体(APT)〔1996 年版 情報化社会〕 アジア・太平洋地域の電気通信網の整備、拡充を目的とした国際機関。国際電気通信連合(ITU)の下部機関で、一九七六年七月に発足した。本部はバンコ クにあり二四カ国が加盟している。世界銀行の九一年度の総融資承諾額約一六○億ドルのうち通信関係のプロジェクトの割合は一・六%にすぎない。このため APTは世銀やアジア開発銀行にアジア・太平洋地域の電話網の整備、衛星電波を受発信する地球局の設置などのために配分額の増額を要請している。日本で は政府開発援助の目玉として政府が九二(平成四)年度中にAPTに約一億円の特別資金を拠出した。 ◆VICS(vehicle information communication system)〔1996 年版 情報化社会〕 道路交通情報通信システムをいう。高速道路や国道の渋滞、事故、工事情報を映像や文字、音声などさまざまな形でドライバーに知らせるシステム。道路交通 情報通信システムセンターが一九九五(平成七)年六月に発足させた。九六年春からは東京、大阪、愛知など八都府県と東名、名神全線でサービスを始める。 ドライバーは、カーナビゲーションや液晶テレビ、見えるラジオなどの端末で情報を受けられる。数万円程度のVICS専用アダプターが必要だが情報料は無 料。同センターは郵政、建設、警察三省庁がバックアップ、二○○の企業、団体が二○億円を出資して設立した財団法人。 ●最新キーワード〔1996 年版 情報化社会〕 ●インターネット(internet)〔1996 年版 情報化社会〕 各国のコンピュータネットワークがお互いに接続し合った世界的規模のネットワーク。一九六九年米国防総省を核に始まった「ARPAネット」が母体。その 後大学、研究機関などのネットワークが加わって拡大、九○年代に入ってからは商用用途にも使われて飛躍的にネットが増大し、九五年現在は電子メールをや りとりできる国は約一五○カ国にのぼり、接続されているコンピュータは四○○万台、利用者数は四○○○万人といわれている。ひとつのコンピュータが全体 を統括するわけではなく、それぞれのネットワークが共通したルールにしたがって、独自に運営している。商用インターネットサービスは、富士通はじめNE Cなどが企業、個人向けに始めており、世界中の情報を手に入れたり送ることができる。利用料金は各サービス会社によって違うが、企業がNTT専用回線を 利用した場合は加入料約五万円、月額利用料約二○万円かかるという。 企業ばかりか最近は政府機関の情報提供も本格化してきた。首相官邸、郵政省、通産省、農林水産省、外務省、経済企画庁などがサービスを開始している。報 道資料、白書はじめ景気指標、青果物市況分析、研究者の研究成果などもデータ化して提供している。インターネットの利用は、コンピュータ画面で文書をや りとりする電子メール、動画、音声を使った発、受信、コンピュータにアクセスしての情報検索などさまざまだが、とくに利用の多いのが電子メール。インタ ーネットへ接続するサービス会社に一定の月額料金を支払い、専用回線を設置すればメールをどんなに送信しても課金されず、海外との連絡に使えば電話より コストは安い。社内活用すれば画面で情報交換できる。インターネットで海外の書籍卸売業者に洋書を発注、支払いもクレジットカードでインターネット上で する通信販売制度を取り入れている企業や、求人情報をインターネットで公開している会社もある。 国内のユーザーは三○○万人に達し、毎年倍増しているといわれるが、問題は日本からの情報発信量が少ないこと。受信がもっぱらで、インターネットを支え る技術もほとんどアメリカが中心だ。政府機関がサービスを開始したといっても予算不足から情報量は微々たるもので、研究機関からの情報公開も少ない。情 報のギブ・アンド・テイクというインターネットの建て前からすれば受信だけでは「タダ使い」になる、とも指摘されている。オンライン・ショッピングで使 われたクレジットカード情報が盗まれるなど、電子メールが相手に届く途中でメールの中身を盗用されたり、改ざんするクラッカーと呼ばれる悪用者シャット アウトの方策も課題となっている。 ●仮想社会(imaginary society)〔1996 年版 情報化社会〕 コンピュータネットワークを維持するために、ネットワークのなかを動き回ってさまざまな仕事をこなすエージェント(代理人)の役割を果たすソフトによっ てつくられた一種の社会。多様性、自律性、秩序を備えているところから社会と呼ばれる。多数のコンピュータが連結し、利用できるネットワークで、情報量 は飛躍的にふえた一方、必要な情報の所在、信頼性が問題となってきている。情報ネットワークそのものが社会となってきており、価値ある情報を知るには共 通の基盤をともなった秩序が生み出されなければならない。経済問題ならば共通の経済観念をもとに、競争原理が働いていることが秩序を生んでいるからであ り、情報ネットワークにもこうした競争原理などのような実社会に似た社会原則を導入すれば、スムーズな運用が図れる。エージェントが経済観念、生存欲求 をはじめとする人間社会の秩序を備えていれば、人間の指令でエージェントがいろいろなコンピュータをたずねて、指令の目的を達することができるわけだ。 独立系のソフト会社の集合団体がネットワーク上に「仮想都市」を構築したのはそのひとつの例といえる。専用サーバを設置して、大企業、クリエーター、大 学、商店などをネットワーク上に誘致して、世界規模のビジネス情報の収集、実際の取引、買い物もできるような空間をつくる。ユーザーはパソコンをとおし て実際にショッピング、企業見学など多彩な活動ができる仕組みだ。早稲田、慶応、東京、京都大など全国一六の大学と日本電信電話(NTT)を光ファイバ ーで結び、遠隔教育が可能の「オンライン大学」の実験も始まっている。自校のキャンパスからパソコンで相手の大学の授業に参加、双方向通信なので慶応大 学の授業を受けていた早稲田大学の学生が、慶応大学の教授にパソコンで質問もできるという。社会人もいつでも好みの講義が受講できる。 こうしたネットワーク上での仮想社会の利用はますます活発になり、パソコンの高度活用が実用化されてきている。 ●マルチメディアラジオ(multimedia radio)〔1996 年版 情報化社会〕 一九九五(平成七)年四月からFMラジオ局で放送がはじまった「FM多重放送」をいう。通称「見えるラジオ」。ラジオの液晶画面に流れている音楽などの 文字メッセージや各種情報が表示されるシステム。このほかFMを利用したラジオ一体型のポケベル、腕時計内蔵ポケベルも九六年春にはデビュー、音と文字 を組み合わせたマルチメディア機器も続々登場することになる。「FM多重放送」は、郵政省の規制緩和策の一環として実現した。FMラジオ局に割り当てて いる電波帯の一部をつかって、音声以外の用途にも使用できることになった。エフエム東京(TOKYO FM)はこれに着目、「見えるラジオ」を開発し、 同局をキーステーションに、全国三三局のFMラジオ局で文字情報サービスを開始した。ラジオの受信機に液晶画面を備えつけ、一五字二行の文字情報を表示 できるシステムで、チャンネルをエフエム東京にあわせて「ラジオ/FM多重」のボタンを押すと自動的に液晶画面に文字情報が表示さる。この文字情報は、 ラジオで流れている音楽の曲名、アーチスト名、番組からのメッセージなどで、そのまま「目次」ボタンを押すとニュース・スポーツニュース、天気予報、交 通情報、エンターテイメント情報、番組情報の五種類の情報も得られる。ニュースは最大三○本見ることができる。 ポケベルラジオ、腕時計型ポケベルは、電気通信技術審議会によるFM多重放送をつかうポケベル技術の答申に基づき郵政省が九五年内に事業化を決定、九六 年に登場する運びとなっている。ポケベルラジオは、FMラジオ波のすき間を利用して液晶画面にメッセージ表示でき、一局当たり最大三五万件のポケベルサ ービスが可能。超小型の腕時計型ポケベルは、すでに服部セイコーが米国内で腕時計に組み込んだポケベルを約一二○ドルで発売している。 ●情報流通量(information circulation quantity)〔1996 年版 情報化社会〕 メディアは、大きくわけると電気通信系メディア(電話、ファクシミリ、テレビ・ラジオなど)輸送系メディア(新聞・雑誌、書籍、郵便など)と空間系メデ ィア(映画、演劇、教育など)がある。これらのメディアがどのくらい情報を国内で流通させたかの計量調査で「情報流通センサス」と呼ばれている。情報流 通量はつぎのように大別される。 ●原発信情報量=各メディアを通じて流通した情報量のうち当該メディアの複製や繰り返しを除いたオリジナル情報の総量。 ●発信情報量=各メディアの情報発信者が一年間に送った情報の総量。複製して発信したり、繰り返して同一情報を送る場合も含まれる。 ●選択可能情報量(供給情報量)=一年間に情報の消費者が選択可能な形で提供された情報の総量。 ●消費可能情報量=一年間に情報の消費者が選択可能な形で提供された情報のうち、メディアとして消費が可能な情報の総量。 ●消費情報量=各メディアを通じて一年間に情報の消費者が実際に受け取り、消費した情報の総量。 情報量を表すための単位をワード(word)といい、一ワードは、日本文の一文節に相当する。情報流通量では、テレビ、ラジオ、音楽もワード換算で計量する。 一九九二(平成四)年の場合、発信情報量は 9.49 1015ワード、選択可能情報量は 3.34 1017ワードで、八二年以来の年平均伸び率はそれぞれ八・五%、 八・三%と同期間の実質国民所得の伸び率(四・○%)より大きくなっており、情報の多様化による流通具合がうかがわれる。 ●情報ボランティア(information volunteer)〔1996 年版 情報化社会〕 一九九五(平成七)年一月一七日早朝、兵庫県中心に発生した阪神大震災で注目された新しいボランティアの形態。もともとボランティアは、技能、労力を無 報酬で提供するが、人的、物質的ではなく的確な情報を流すことで奉仕する活動が情報ボランティアだ。 死者五五○○人以上を出した阪神大震災では、通信回線の破壊により、テレビや電話などの情報伝達手段が奪われ、避難所に収容を余儀なくされた被災者たち は、極端な情報過疎状態に陥った。阪神地方に家族、知人のいる遠隔地の人々も安否情報が得られず不安を拡大させた。避難所生活をする被災者の状況をパソ コンネットワークを通じて、全国に知らせるとともに避難所ごとの情報、役所の対応情報を流すために、パソコンネットワーカーたちが活躍した。 避難所を回り、被災者たちの名前、必要な物質、生活ぶりを聞いて、メッセージをパソコンの商業ネットワークを通じて全国に呼びかけたグループ、各地のボ ランティア団体を巡回してボランティア団体の情報を整理したり、避難所に設置されたパソコンの操作を教えるボランティアを募って役所情報を流した「イン ターボランティアネットワーク」(IVN)、「インターVネット」などのグループもある。パソコン通信では加入会員同士しか情報のやりとりができないが、 これらの情報ボランティアは、いずれも各ネットにはたらきかけて情報を共有したのが特徴。国内のおもなパソコン通信をネットするインターネットワークの 国内版だ。今後大震災の際などにこうした情報を中心としたボランティア活動が活発になるとみられている。 ●コンピュータ秘書(computer secretery)〔1996 年版 情報化社会〕 コンピュータを使うのがだれかを識別し、相手に応じて話したり、質問を聞いて応えたりする対話システム。試作したのは、通産省工業技術院電子技術総合研 究所(茨城県つくば市)。秘書機能がついているのでコンピューター秘書といわれる。 たとえば画面の前に座ればあいさつし、外出することを告げると戻る時間をたずねてくれる。電子メールがきているのかどうかも答えてくれる。別の人が座る とカメラがとらえた顔の画像の濃淡をただちに分析、コンピュータに人の名前などを登録しておけば、そのなかからだれであるかを特定して、ていねいにあい さつしてくれる。主人が留守の際は、戻る時間を教えたり約束の日時の問い合わせにも応じてくれる。画像入力カメラ、マイク、音声合成器という、認識のた めの目と耳と口の作用をするワークステーションから構成され、表示画面にコンピュータの代理人(仮想人物)の顔を映し出して対話できる仕組みとなってい る。キーボードやマウスを使わずに対話だけでコンピュータが作動する方式はさかんに研究されているが、利用者を識別できるシステムは初めてといわれる。 現在の機能は、秘書的なものだけで、応答のパターンも限定されているが、電子技術総合研究所は今後、地理案内、情報検索の補助もするこまかい情報処理シ ステムをつくり、精度の高い秘書を登場させる。 ▽執筆者〔1996 年版 小倉 知的所有権〕 宏之(おぐら・ひろゆき) 日本国際工業所有権保護協会専務理事 大楽 光江(だいらく・みつえ) 日本国際工業所有権保護協会研究員・北陸大学助教授 ◎解説の角度〔1996 年版 知的所有権〕 ●長引く不況の中で、知的所有権の重要性はますます増している。音楽、コンピュータ・プログラムといった著作物や発明などの「知的創作物」および商標な ど「産業上の標識」を保護する権利である知的所有権は、競争力の源泉となる。今や、企業も国家も、知的所有権の戦略的価値を軽視しては生き残れない時代 なのである。 ●この分野の大きな動きは、主にWTO(世界貿易機関)の発足とマルチメディアの発展による。1995 年 1 月 1 日、GATTウルグアイ・ラウンド交渉の結 果としてのマラケシュでの合意にもとづき、WTOが発足した。同機関には、知的所有権に関するTRIPS理事会が創設され、国際貿易での知的所有権の重 要性が明らかにされた。この展開に対応して、日本でも特許法、著作権法など知的所有権法の各分野で改正が行われた。 ●マルチメディアの発展の問題点は、デジタル情報が双方向通信のネットワークに乗って瞬時に世界を駆けめぐることから生じる。コピーも表現変更も簡単な ため、著作権侵害が生じやすいからだ。現在の著作権法制度の枠組でどう対応するかが議論されている。 ◆知的所有権(intellectual property)〔1996 年版 知的所有権〕 知的財産権または無体財産権とも。発明・デザイン・小説など精神的創作努力の結果としての知的成果物を保護する権利の総称。物権(土地所有権など、物に 対する権利)、債権(貸金返還請求権など、他人にある行為を請求できる権利)とならぶ財産権で、知的成果という目に見えない財産(無体財産)に対する権 利。 産業の振興をめざす工業所有権(industrial property)〔特許権(patent)・実用新案権(utility model)・意匠権(registered design)・商標権(registered trademark)〕、文化の発展をめざす著作権(copyright)、およびその他の権利に大別できる。著作権と工業所有権の主な違いは、他人が独立に創作したものを 侵害として排除できるか(原則として、著作権では排除できず、工業所有権では先に権利が成立していれば排除できる)という点と、期間(工業所有権は著作 権より短期)の点である。 ◆知的所有権の成立〔1996 年版 知的所有権〕 知的所有権がどのように成立するかは、著作権と工業所有権とで異なる。 (1)著作権は、日本が加入しているベルヌ条約との関係上、何の手続も要せず創作時に自動的に発生し(無方式主義)、著作者が最初の著作権者になる。著 作者から著作権の譲渡を受けた者が次の著作権者となる。しかし著作者人格権は著作者にとどまる。著作権は、複製権や貸与権など各種の権利を内容とするの で、その一部または全部を譲渡したり、ライセンス(権利の使用許諾)したりできる。ライセンスの対価がロイヤルティ(権利使用料)である。著作権の担当 官庁は文化庁。 (2)工業所有権については、特許・実用新案・意匠・商標の各々で手続は少々違うものの、特許庁での出願と審査を要する。ただし実用新案は、一九九三(平 成五)年四月二三日公布の改正法により、審査制度廃止。九四年一月一日からは実体審査なしの設定登録で権利発生。 九○年一二月一日からは、世界初の電子出願(コンピュータ・オンラインでの出願)が可能となっている。成立した各権利は譲渡もライセンスも可能。 ◆先願主義/先発明主義〔1996 年版 知的所有権〕 同一内容の出願がなされた場合に誰を優先するか、についての考え方。先に出願した者を優先するのが、先願主義(first-to-file system)で日本をはじめとし てほとんどの国で採用されている。これに対し、特許について先に発明した者を優先するのが先発明主義(first-to-invent system)。アメリカは、先進国では 唯一、先発明主義を採用しているため問題とされている(アメリカでは、意匠も特許で保護される)。先発明主義では、誰が最初に発明したかを決定する必要 があるが、そのための手続が抵触審査(Interference)である。 ◆特許審査基準(patent examination standards)〔1996 年版 知的所有権〕 出願された発明が特許適格かどうかについての特許庁の判断基準。一九九三(平成五)年、技術革新への対応と国際調和を目的として二九年ぶりに、(1)審 査基準の整理統合による明確化、 (2)特許請求範囲の拡大による発明者の権利強化、 (3)コンピュータ・プログラムと、バイオテクノロジーに関する特許取 得条件の明確化、などを内容とする大幅改定。 ◆工業所有権の権利内容〔1996 年版 (1)特許権 知的所有権〕 特許を付与された発明を、排他的(独占的)に、業として(反復継続的に)、実施(使用、および発明製品の生産・譲渡・貸渡し・輸入など) できる権利。保護される発明の範囲は、願書に添付される明細書の「特許請求の範囲」により特定。 (2)実用新案権 考案を業として実施できる排他的権利。 (3)意匠権 登録意匠を、業として、排他的に実施(その意匠を付した物品の製造・使用・譲渡・輸入など)する権利。 (4)商標権 指定商品に登録商標を排他的に使用する権利。 使用とは、商品やその包装に商標を付すこと、商標付商品の譲渡・引渡し・輸入など、広告での使用、などをいう。 ◆知的所有権の侵害〔1996 年版 知的所有権〕 知的所有権者に権利として認められる行為を他人が無断で行うと、正当事由がないかぎり権利侵害(infringement)となる。侵害に対する救済手段(remedies) として、差止請求・損害賠償請求・不当利得返還請求・信用回復措置請求などがある。また、懲役・罰金などの刑事制裁の定めもある。 ◆知的所有権訴訟費用保険〔1996 年版 知的所有権〕 国内国外での知的所有権侵害訴訟の費用をカバーする保険。損害賠償金・和解金などは除外。工業所有権を対象とし、著作権は含まない。一九九四(平成六) 年九月に損害保険各社が発売。侵害訴訟の多発と、特にアメリカでの高額な訴訟費用から、需要が見込まれる。 ◆著作隣接権(neighboring right)〔1996 年版 実演家(performers 知的所有権〕 俳優・演奏家・歌手・演出家など)、レコード製作者、 (有線)放送事業者を保護する権利。これらの者は、著作物の創作はしないが、著 作物伝達という重要な役割を果たしているので著作権と隣接する権利によって保護される。内容は、実演家の録音・録画権や放送権、レコード製作者の複製権・ 貸与権、放送事業者の複製権・再放送権など。カラオケボックスなどでのCD録音は、カラオケ用音楽の演奏家の著作隣接権との関係で問題がある。存続期間 は、実演・音の最初の固定・放送の翌年から起算して五○年。 ◆サービスマーク(service mark)〔1996 年版 知的所有権〕 運輸・金融・放送・保険・飲食業など自己の提供するサービス(役務)を他人のサービスから区別するためのマーク(標章)。これに対し商標(trade mark) は、スカーフの「エルメス」のように自己の「商」品を他人の商品から区別するための「標」識である。いずれも商標法の保護対象だがサービスマーク保護は 一九九二年四月から。登録第一号はオリックス。 ◆営業秘密(trade secret)〔1996 年版 知的所有権〕 企業が秘密として管理している、事業活動に有用な技術情報または営業情報で、公然と知られてはいないもの。代表例はコカコーラ原液の処方。他に研究デー タ・設計図・顧客名簿・販売マニュアルなどを含む。一九九一(平成三)年六月一五日施行の改正不正競争防止法で、新たに保護された。 改正の背景は、情報化社会の進展で企業の秘密情報の重要性が増したことと、GATTウルグアイ・ラウンドのTRIP(知的所有権の貿易関連側面)交渉で その保護が問題となったこと。いわゆる「ノウハウ(企業経験から蓄積された秘訣一般)」では範囲が不明確とされた。特許はアイデアの公開を代償として保 護するが、営業秘密保護制度は、非公開での保護を目的として不正な取得・使用・開示に対する差止・損害賠償・信用回復措置の請求を認める。 ◆不正競争防止法(Unfair Competition Prevention Law)〔1996 年版 知的所有権〕 一九三四(昭和九)年制定。広く知られた他人の氏名・商号・標章などの商品表示また営業表示を使用して混同させるなどの不正競争行為に対して、差止、損 害賠償、信用回復措置を請求できるとする法律。一部の行為につき罰則もある。九一(平成三)年に営業秘密保護を加え、九三年五月全面改正された。改正内 容は、 (1)ひらがな表記化、 (2)目的・定義規定の新設、 (3)商品形態の模倣(デッドコピー) ・著名表示の無断使用(「ソニー」パチンコ店など)・サービ スの不当表示(専門家と称して素人を派遣)などを規制対象に追加、 (4)罰金額引上げ(上限五○万円を三○○万円)、法人重課(最高一億円)の追加、など である。 ◆コンピュータ・プログラムの保護〔1996 年版 知的所有権〕 コンピュータに不可欠なプログラムの開発には巨額の資金を要するので、その財産的価値は大きい。しかしコピーは簡単なので、海賊版が出回ると開発した企 業の被害は大きい。主に著作権で保護するのが日米はじめ世界的傾向【アメリカは一九八○年、日本は八五年から】。ただしプログラム言語・規約(言語用法 の約束事項) ・解法(アルゴリズム、指令の組合せ方法)は保護されない。一方、コンピュータ・プログラムには、デバグ(間違いを除くこと)やバージョン・ アップなどの改変が必要なので、無断改変を禁止する同一性保持権を制限して、それらを認める特例がおかれている。しかし、著作権の保護は表現にしか及ば ないので、最近はプログラムの内容となっているアイデアを保護するため特許出願をする例も増えている。 ◆半導体回路配置の保護〔1996 年版 知的所有権〕 半導体チップの回路配置は、多額の投資によってデザインされるのにコピーは簡単なため、アメリカが一九八四年に半導体チップ保護法を制定した翌八五(昭 和六○)年、日本も保護法を制定(半導体集積回路の回路配置に関する法律)。回路配置の創作者は同法により、回路配置利用権を設定登録すれば、回路配置 を排他的に製造・譲渡・貸渡し・展示・輸入できる。権利存続期間は登録日から一○年。侵害に対しては差止・損害賠償の請求が可能。罰則もある。 ◆バイオテクノロジーの保護〔1996 年版 知的所有権〕 遺伝子組換え、細胞融合などのバイオ技術の進歩により、ポテトとトマトからのポマトなど植物新品種や、石油分解バクテリア(微生物)・がんにかかりやす い実験用ネズミ(ハーバード・マウス)の登場など、生命体に関わるアイデアの保護が問題となっている。バイオ技術は薬品・食品・化学・農業など応用範囲 が広く、心筋梗塞治療用TPAのように日米企業間で特許紛争を生じているものも多い。植物新品種は「植物新品種の保護に関する国際条約(日本は一九八二 年加入)」の九一(平成三)年三月の改正で、バイオ技術によるものも含めて、種苗法と特許法による二重の保護が可能となった。種苗法による保護は登録日 から一五年(果樹など永年性植物は一八年)存続。微生物の発明には特許が可能である。動物については倫理的反対など難問が多い。 ◆キャラクター・マーチャンダイジング(character merchandising)〔1996 年版 知的所有権〕 スヌーピーやアンパンマンなどの人気キャラクターを、商品につけたりサービスの宣伝に使ったりすること。著作権・意匠権・商標権・不正競争防止法・民法 (契約法・不法行為法)・独禁法など多くの法律が関係する。たとえばアニメ「キャンディ・キャンディ」のキャラクターを無断でTシャツにプリントして販 売した業者は、著作権の侵害として有罪判決を受けている。権利を侵害せずにキャラクター・マーチャンダイジングを行うには、権利者とライセンス契約を結 ぶ必要がある。 ◆フランチャイジング(franchizing)〔1996 年版 知的所有権〕 ハンバーガー・チェーンのように、フランチャイザー(事業本部)が、フランチャイジー(加盟店)に、チェーン全体を統一的イメージで事業展開するために、 自己の商標の下に築いた広範な経営ノウハウ(店舗の内外装・運営マニュアル・商品展開・仕入れ方法など)を提供し、見返りに加盟金や売上の一部を受ける、 契約関係。これによってフランチャイザーは、最小限の投資で地域を拡大できる。加盟者は独立の個人や企業だが、全体としてフランチャイザーを頂点とする 単一の事業体のような外観となる。契約の中核は商標ライセンスだが、たとえば提供商品がフランチャイザーの特許権の対象である場合のように、フランチャ イザーの有する権利内容によって、特許権・意匠権・著作権・営業秘密など多種多様な知的所有権のライセンスが関わってくる場合が多い。 ◆職務創作〔1996 年版 知的所有権〕 使用者(国・地方公共団体・法人・団体など)の指揮監督下での、従業者の創作活動とその成果。従業者には役員・公務員・顧問・出向社員など、指揮監督関 係にある者を広く含む。 「法人などの発意で職務上作成される著作物」を職務著作といい、著作権は原則としてその法人などに帰属する。他方、 「使用者などの 業務範囲に属する発明(または考案、意匠)の創作行為が、従業者の現在または過去の職務に属する場合」を職務発明(考案、意匠)といい、この場合は職務 著作とは逆に、特許などを受ける権利は従業者に属する。ただし使用者は、その特許権などを無償で利用できる(通常実施権)。 ◆仲介業務団体〔1996 年版 知的所有権〕 著作権者には著作物を利用する権利があるが、多数の利用者に個別に許諾を与えるのは大変なので、法律にもとづき著作権者から権利行使の委託を受け、集中 処理できるように設けられた団体。日本音楽著作権協会(JASRAC)・日本文芸著作権保護同盟・日本放送作家組合などがある。 ◆知的所有権の国際的保護〔1996 年版 知的所有権〕 知的所有権は、独自の産業・文化政策にもとづいて各国が保護を与えるという性質上、各国の領土内で成立し国内でのみ効力を有する(属地主義 principle of territoriality)のが原則。各国は、二国間または多国間の条約がなければ、外国で成立した知的所有権を承認する義務はない。そこで、諸国で知的所有権を確 保しようとすれば、各国個別の手続が必要となる。一方、経済相互依存の進展により、知的所有権保護のための国際的ネットワークとして各種条約が重要性を 増している。知的所有権の国際的保護のためのフォーラムとして重要なのが、公的国際機関WIPOとWTOであり、民間機関AIPPIである。 ◆世界知的所有権機関(WIPO)(World Intellectual Property Organization)〔1996 年版 知的所有権〕 国連の一六の専門機関の一つ(一九七四年)。本部はスイスのジュネーブ。六七年にストックホルムで署名された「世界知的所有権機関を設立する条約」にも とづき、七○年設立。前身は、工業所有権保護のためのパリ条約(一八八三年)と著作権保護のためのベルヌ条約(一八八六年)の合同事務局〔一八九三年、 BIRPI(知的所有権保護合同国際事務局)〕。世界の知的所有権保護の促進と、パリ同盟やベルヌ同盟など各種の知的所有権同盟の管理への協力を目的とす る。工業所有権と著作権という二大領域を対象とする。特に発展途上国における知的所有権制度の近代化の支援に力を入れている。一九九五年二月一日現在、 一五一カ国が加盟(日本は七五年四月)。 ◆特許制度の統一〔1996 年版 知的所有権〕 WIPOでの各国制度の調和(harmonization)のための特許調和条約案検討作業は、各国の利害対立(知的所有権保護より自国産業育成を優先する発展途上 国と先進国との南北対立や、先願主義・先発明主義をめぐる対立など)とGATT交渉の結果待ちで進展が遅れていたが、南北問題をGATTに委ね、手続き 面の統一に絞ることで一時前進が期待された。しかし、アメリカが先発明主義に固執し、さらに審査期間短縮が条約案に含まれないことを理由に合意を拒否し たため、一九九四(平成六)年九月には条約案が否決され、特許制度の国際的統一が再び振出しに戻ってしまった。 ◆パリ条約(the Paris Convention for the Protection of Industrial Property)〔1996 年版 知的所有権〕 「工業所有権の保護に関する一八八三年三月二○日のパリ条約」が正式名称。工業所有権の国際的保護のための基本的な条約。締約国は同盟(union)を形成。 加盟国間の関係を強化するためである。一九九五年三月現在一三一カ国加盟〔日本は一八九九(明治三二)年七月〕。最新のストックホルム改正(一九六七年) まで、数次の改正を経ている。 保護の対象は、発明・実用新案・意匠・商標・サービスマーク・商号(企業の名称)・地理的表示(原産地表示と原産地名称)と広く、さらに不正競争防止規 定も含む。 基本原理は、 (1)内国民待遇(national treatment 他の同盟国の国民に、自国民と同一の保護を与える)、 (2)優先権(right of priority)制度、および(3) 共通規定(締約国すべてが従うべき最低限の保護規定)。優先権とは、ある締約国での出願後一定期間(特許・実用新案は一二カ月、意匠・商標は六カ月)内 の他の締約国への出願は、最初の出願と同じ日に出願したとみなす制度。同期間中は新規性が確保されるので、出願人はその間にどの国の保護を求めるかを考 えて手続できるのが利点。共通規定の内容は、特許独立の原則(independence of patents ある国で無効とされても他国での特許の効力は左右されない)など。 同盟国は、この条約の規定に反しないかぎり相互に工業所有権保護に関する「特別の取決め(special agreements)」を締結できる(一九条)。同条にもとづく 多国間または二国間の条約・協定は数多い。その中でWIPOが管理するものは次のとおり。 (1)特許協力条約(PCT Patent Cooperation Treaty)各国特許庁への重複出願の回避と出願人・特許庁の負担減とを目的として、一九七○年ワシントン で締結された特許出願方式統一のための条約。七八年一月発効。九五年三月現在七八カ国加入(日本は七八年一○月)。この条約により、一件の出願で、指定 した国々で別々に出願したと同様の効果、たとえば、保護を受けたい国々を指定して日本の特許庁(受理官庁)に日本語で国際出願すれば、その出願の日に各 指定国で出願したと同一の効果が生じる。また同条約は、十分な審査能力のない国でも安定した特許を付与できるように、先行技術(prior art)調査に当たる 国際調査機関(Inter-national Searching Authority)の制度を規定。現在は、オーストラリア、オーストリア、中国、日本、ロシア、スペイン、スウェーデン、 アメリカの各特許庁と欧州特許庁が担当。九三年のWIPOの国際出願受理件数は二万八五七七件、一出願当たりの平均指定国数は三一・四六カ国。 (2)植物新品種保護のための国際条約(International Convention for the Protectionof New Varieties of Plants,1961)植物新品種育成者の国際的保護制度 を定める。締約国は同盟(UPOV Union for the Protection of New Varieties of Plants)を形成。九二年一月一日現在、二一カ国加盟(日本は八二年九月)。 (3)さらに、(1)特許につき、ストラスブール協定(国際特許分類 につき、ハーグ協定(意匠の国際寄託 1971)、ブダペスト条約(特許手続上の微生物寄託の国際的承認 1925)、ロカルノ協定(工業的意匠の国際分類 1968)、(3)商標につき、マドリッド協定(標章の国際登録 1891)、 ニース協定(標章登録用の商品・サービスの国際分類 1957)、ウィーン協定(標章の図形要素の国際分類 的な原産地表示の防止 1891)、リスボン協定(原産地名称の保護と国際登録 1977)、(2)意匠 1973)、 (4)その他、マドリッド協定(虚偽・誤導 1958)、ワシントン条約(半導体集積回路 1989―未発効)、など。このうち日 本未加入は、ハーグ、ロカルノ、ウィーン、リスボンの各協定。 ◆欧州特許条約(EPC)(European Patent Convention)〔1996 年版 知的所有権〕 一九七七年発効。パリ条約の特別取決めとしての広域特許条約。この条約で欧州特許機構とその運営にあたる欧州特許庁(EPO European Patent Office ミ ュンヘン)が設置された。加盟国は九○年現在一四カ国。単一の手続(EPOでの出願・審査)によって、保護を希望して指定した複数の締約国での国内特許 の取得を可能とする。締約国以外(例、日本)からの出願も可能。PCT出願の際にEPOを指定することもできる。付与された欧州特許は、各指定締約国で 国内法に応じた内容の相互に独立した特許となる。つまり、成立するのは複数の特許。これに対し、EC全域に有効な単一の統一的特許を成立させようとする 共同体特許条約(Community Patent Convention)は、EC加盟国のみが加入可能だが、未発効。 ◆ベルヌ条約(the Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works)〔1996 年版 知的所有権〕 著作権に関する基本的条約(正式には、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)。一八八六年スイスのベルンで締結。一九七一年のパリ改正まで 数次の改正。締約国は同盟を形成。九五年三月現在一一二カ国加盟(日本は一八九九年、アメリカは一九八八年)。(1)内国民待遇、(2)無方式主義(著作 権は創作時に発生)などが原則。著作権の保護期間を創作後著作者の生存間と死後五○年とするなど最低保護基準を定める一方、途上国には翻訳権と複製権に つき例外を認めている。 ◆万国著作権条約(the Universal Copyright Convention 1952)〔1996 年版 知的所有権〕 著作権の発生に登録などの方式を要する国はベルヌ条約には加入できないので、それらの諸国とベルヌ同盟加盟国をつなぐために締結された条約。ユネスコが 管理。日本は五六(昭和三一)年加入。内容は、 (1)方式主義の国でも(C)表示をつければ著作権を取得できる、 (2)保護期間は最低著作者の死後二五年、 (3)翻訳権の強制許諾制、など。 ◆ローマ条約(Rome Convention for the Protection of Performers,Producers of Phonograms and Broadcasting Organizations)〔1996 年版 知的所有権〕 実演家・レコード製作者・放送事業者の保護に関する条約(一九六一年)。九五年三月現在、英仏独を含め四七カ国加入(日本は八九年、アメリカは未加入)。 ◆AIPPI(国際工業所有権保護協会)〔1996 年版 知的所有権〕 パリ条約を締結に導いた官民の代表者により、工業所有権の国際的保護を目的として一八九七年にスイス法にもとづいて設立された世界組織。日本をはじめ、 米・英・独・仏・ロシアなど世界九七カ国に各国部会を有し、弁護士・弁理士・大学教授・企業法務部代表など高度の専門家約六五○○名の会員を擁する。本 部はスイスのチューリッヒ。途上国の工業所有権制度整備の支援など、WIPOと表裏一体の国際活動を行っている。国際的専門家集団としてWIPOから諮 問を受けることも多く、また最新の工業所有権問題が議論される三年ごとの世界総会での決議内容は、WIPOでの条約案の起草などに強い影響を与えている。 一九九五(平成七)年にはカナダで総会が開催され、GATT交渉の結果や遺伝子特許などをテーマに、六九カ国から約三○○○名が参加した。 AIPPI日本部会は、通産省・特許庁・外務省・経団連・日商などの勧奨により、五六年に設立。会長は初代の故石坂泰三以来、経団連会長が兼務。法人・ 個人を含め会員約一○○○名と世界最大の部会である。主要各国特許庁および関係諸機関と密接に情報交流し、日本の工業所有権制度の向上をめざして幅広い 国際活動を展開している。業務拡大のため、九一年に社団法人日本国際工業所有権保護協会(AIPPI・JAPAN)を設立。同法人は、国際工業所有権保 護協会の事業への協力、条約・各国法令の調査研究とその成果の提供・普及、および内外関係団体との交流などによって、工業所有権の国際的な保護と育成を 図り、日本の産業と経済の発展に寄与することを目的とする。 ◆TRIPS協定(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)〔1996 年版 貿易関連知的所有権に関する協定。WTO設立協定に対する三種の附属書の一つ(Annex 知的所有権〕 1C)。 (1)知的所有権保護の最低基準、 (2)知的所有権の分野への内国民待遇と最恵国待遇の適用、 (3)権利執行(enforcement)制度、を内容とする。 (1)で は、営業秘密やサービスマークの保護、特許期間を出願から二○年以上とする、医薬特許を認める、などを規定。WTO加盟国(一九九五年三月二日現在八六 カ国・地域)は、この協定によりパリ条約・ベルヌ条約・ローマ条約・集積回路に関するワシントン条約(一九八九年)の各条約に未加入でも、加入国同様の 保護義務を負うことになった。日本も、原子核変換物質の発明を特許対象とし、特許期間を出願日から二○年とするなど、各種の法改正を行った。この協定に 従った国内法整備につき、各国の開発度の差による猶予期間の定めがある(WTO協定発効日の一九九五年一月一日から最大一一年)。 ◆TRIPS理事会(the Council for Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights,The Council for TRIPS)〔1996 年版 知的所有権〕 貿易関連知的所有権に関する理事会。WTO設立協定により、一般理事会の下に、物品貿易、サービス貿易に関する各理事会と共に設置された理事会。TRI PS協定運用の監視を担当。一般理事会の承認を得てTRIPS理事会規則を制定できる。 ◆日米知的所有権紛争〔1996 年版 知的所有権〕 一九八五年世界最大の債務国に転落したアメリカは、国際競争力強化のため、知的所有権強化を通商政策の柱として八八年の包括通商競争力法のいわゆるスペ シャル三○一条(知的所有権保護の不備な国の特定・通商制裁)にもとづいて諸国に圧力をかけている。同条による調査と制裁決定に当たるのがUSTR(ア メリカ通商代表部)である。このような国家レベルでの通商紛争に加えて、日本企業がアメリカ企業からの知的所有権侵害訴訟の標的とされることも多い。侵 害訴訟提起を重要な企業戦略と位置づけ、製品売上高よりロイヤルティ収入の多いアメリカ企業もある。 日本企業は、米国特許取得件数の上位にランクされるが、基本的な特許よりも周辺的な特許が多い点が弱み。また、特許範囲を広く解釈するアメリカの「均等 論」や、素人の陪審員による特許の陪審裁判・きわめて広範囲な証拠提出を求める「開示手続(Discovery)」など日本にはない訴訟手続が、日本企業に不利に 働いているとの指摘もある。 特許侵害事件は、連邦裁判所に提訴されるほか、包括通商法で強化された関税法三三七条に基づきITC(国際貿易委員会 International Trade Commission) に、アメリカ国内の知的所有権を侵害する輸入品の通関禁止を求めることもできる。ITCでは一年内に決着するため、提訴するアメリカ企業は、対応に追わ れる日本企業より有利となる。 ◆並行輸入(parallel import)〔1996 年版 知的所有権〕 知的所有権の保護対象となる商品(ブランド品、特許製品、著作権保護商品など)が権利者によって製造され適法に市場におかれた場合に、権利者から輸入ラ イセンスを得ずに、その真正商品をその市場で購入して輸入すること。無権利者の製造した不正商品ではないこと、輸入総代理店を通さず直接買付輸入するこ と、が特徴。内外価格差から最近急増しているが、輸入国での権利者による輸入差止を認めるか問題となっている。 商標で保護されるブランド品については、万年筆に関する一九七○(昭和五五)年のパーカー判決以来、真正商品の並行輸入は適法とされてきたが、著作権と 特許権では判例が分かれ、国際的にも論争を呼んでいる。著作権についてはビデオ・カセットの東京地裁判決(「一○一匹わんちゃん」事件、一九九四(平成 六)年七月一日で並行輸入が違法とされ確定。特許権では、アルミホィールに関する一九九五年三月二三日の東京高裁判決が東京地裁判決(一九九四年七月二 二日)を覆して適法とした。特許製品の並行輸入は特許侵害にあたらない、としたのである(上告されている)。TRIPS協定でも並行輸入は問題とされな がら合意を見なかった。高裁判決に対して特にアメリカは知的所有権強化の立場から批判的だが、並行輸入の問題は自由貿易促進と知的所有権保護とのバラン スという難題をはらんでいる。 ◆情報スーパーハイウェイ〔1996 年版 知的所有権〕 マルチメディア技術の急速な進歩により、音声・文字・図形・映像がデジタル情報として双方向でネットワークを飛び交う時代となってきた。アメリカでは、 クリントン大統領が「全米情報基盤(NII)」構想を打ち出し、高速道路のように全米に情報ネットワークをはりめぐらそうとしている。この種の計画は、 特に著作権について各種の問題を抱えている。ネットワークを流れる内容の相当部分が著作権保護の対象となるものだからである。たとえば、複製も表現変更 も容易になるが、著作権者の複製権・同一性保持権はどうなるか、また著作物の利用許諾をどうするか、送信による出版という事態にどう対応するか、セキュ リティ管理をどうするか、といった問題がある。 ▽執筆者〔1996 年版 山本 OA革命〕 直三(やまもと・なおぞう) 愛知学泉大学教授 1929 年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。東芝OA事業部、東芝OAコンサルタント取締役を経て、現職。OA論専攻。著書は『実践オフィスオー トメーション』『日本語ワードプロセッサの活用法』『ワープロ文書生活』『ワープロ市民講座』など。日本事務機械工業会・ワープロ部会長、標準化委員。 ◎解説の角度〔1996 年版 OA革命〕 ●OAとは、オフィスの仕組みを合理化し、生産性、創造性を上げ、効果的なオフィス活動を目指すものであり、つまりオフィスの仕組みを築くために、コン ピュータ、ネットワーク、OA機器を特に効果的に活用するなど情報化社会に適応したオフィスシステムを構築することに特徴がある。 ●OAは、Office Automation の略で、直訳すると「オフィスの自動化」ということになるが、物的製造の自動化とは本質的に異なる性質を持つ。オフィス は、事務や経営活動など人間が共同して活動する場であり、創造的かつ快適に働ける環境とその仕組みを築くことが肝要となる。つまりそこでは人間が主役と いう本質がある。 ●この本質を基本として、高度情報環境を活用して、新しいオフィスの仕組みを作り出そうとするのがOAである。コンピュータやワークステーション、通信 ネットワーク、OA機器の活用、データーベース、マルチメディアなどの情報環境、インフォメーションテクノロジーによって、オフィスで働く人はどのよう にあるべきか、どんな問題が生ずるかなどがOAの主要な課題となる。 ▲OAの意味と各種の考え方〔1996 年版 OA革命〕 コンピュータのダウンサイジング、ネットワークの普及、OA機器の発達と普及、データバンクなど蓄積情報の整備など高度情報環境を活用すれば、さらに創 造的にパワフルに広域にわたるオフィス活動が可能となる。情報ハイウェイなど社会的情報環境も一段と進む。効率化や自動化ばかりでなく、いかに、快適か つ創造的でユトリあるオフィスシステムを築き上げるかがOAの主要なテーマであり、また高度環境を利用するモラルや技能の習得も人間にとって大切となる。 ◆オフィス・オートメーション(office automation)〔1996 年版 OA革命〕 略称OA。事務機械化のアプローチは以前からあるが、経営およびオフィス全体を対象とする合理化への指向は新しい。OAという用語が最初に公式の場で使 用されたのは、一九七八年アメリカのナショナル・コンピュータ・コンファレンス(NCC)であった。以来、年とともにOAショーが世界で開催され、OA の概念も定着した。高度情報社会に適応するためにOA推進は必然的なものである。OA機器はインテリジェント化され、コンパクトになって、個人が保有し、 しかもネットワークで接続できる。LANやVAN、衛星通信などのネットワークが充実し、通信網はISDNによりデジタル化され、マルチメディアへとさ らに強力になり、OA環境は一段と促進されつつある。 エレクトロニクスや新しい材料技術の発達にともないコンピュータをはじめ情報機器、通信機器、AI技術の発達がめざましく、これを活用するためのソフト ウェアも発達。この環境においては、従来とは情報の質・量と時間をまったく異にした、はるかに理想的な情報システムを構築することができる。新技術を前 提としたシステムの編成や企業間結合やニュービジネスの創造に関する動きをオフィス・オートメーションという。これからはOAを前提とせずには経営シス テムの構築は成り立たないであろう。 ◆SIS/SIN〔1996 年版 OA革命〕 戦略情報システム(SISstrategic information systems)は、経営戦略の策定に役立つ情報を収集蓄積し、それを利用して的確な意思決定を行い、競争にお いて、有利な体制を築こうという手法であり、OAのトップマネジメントへの適用の一つである。 戦略的情報ネットワークシステム(SIN strategic information network systems)は、企業などが相互に結び付いて、ネットワーク関係を形成し、共存共 栄(共生)を計ろうというシステムである。EDI(電子データ交換インターフェース)など通信インターフェースの標準化も進み、SIN結合が容易になり、 企業の変革の要素となっている。SISは差別的な戦略をとる傾向があるが、SINは結合する企業同士の結び付きによる相互流通の合理化、製品の標準化な どを行ったり、事業のパイを大きくするという傾向がある。情報化の進展において、これらの戦略は、経営においてますます重要になる。 ◆ファクトリー・オートメーション(FA)(factory automation)〔1996 年版 OA革命〕 製造システムのオートメーションのこと。製造設備のオートメーションによって製造段階の自動制御による自動化と無人化が進む。この結果、要員の作業内容 は、設備の計画、整備保守、製品製造計画などのオフィス・ワークが多くなるなど、OAとは密接な関連を持っている。CAD(computer aided design)、C AM(computer aided manufacturing)、CAT(computer aided testing)、CAE(computer aided engineering)などのコンピュータ応用システムはOA と密接に関連する領域のシステムである。FAは工場にとどまらず建設作業、運送作業などにも適用が進んでいる。通産省は一九八八(昭和六三)年度からF A標準化推進五カ年計画を進め、FAシステムおよび一般オフィスとの相互接続を推進するためにOSIと調整をはかりながら実装規約をまとめてきた。FA はオフィスにおける機械的反復作業にも適用され、そのうちにロボットがオフィスで書類搬送サービスさえ務めてくれることもありうる。 ◆フレキシブル・オフィス・オートメーション(flexible office automation)〔1996 年版 OA革命〕 ファクトリー・オートメーション(FA)では、ロボットの進展で、生産ラインが従来の単一生産工程の方式ではなく同一の工程で複数品種を柔軟に生産する 方式に変化していく。これと同じようにオフィスでもOAによって、在来の分業形態から、個人または職場が担当範囲を拡大して、広範な責任と機能を果たし ていくようなフレキシブルなシステムとなる傾向にある。これによって分業から全人的な仕事の形態に移行し、やり甲斐のあるオフィス・システムとなるとさ れている。 ◆ラボラトリ・オートメーション(LA)(Laboratory Automation)〔1996 年版 OA革命〕 研究所や開発部門の研究開発のオートメーションもOAの一種である。研究開発の発想、資料の管理、思考過程から研究開発プロジェクトの管理に至るまで、 研究情報資源、開発支援ソフトウェア、エンジニアリング・ワークステーションなどOAシステムを駆使してソフトウェアの支援のもとに研究開発を進める。 ◆ジョブステーション(job station)〔1996 年版 OA革命〕 ワークステーションは主に端末機のことを指すが、これに対してジョブステーションという言葉が生まれた。これからのオフィスはOA機器を単に使うだけで なく、オフィスの働く現場を、スペース、OA機器、ネットワーク、ファイリング環境、事務机、働く楽しさなどすべての条件を総合的にみたジョブステーシ ョンという概念でとらえ、トータルで理想的な作業環境を考え出そうとする。そこにOA的な考え方が見られる。 ◆フェイルソフト(failsoft)〔1996 年版 OA革命〕 OAシステムを構築するとき、システムの一部が故障したり、ファイルが破壊されたとき、その部分を切り離し縮退して、システムを維持、運用していく方法 である。 分散処理システムでは、フェイルソフトに組みやすい。これにより、OAのバルネラビリティ(脆弱性)の補強が可能である。 ◆OAインターフェース(interface between human and OA system)〔1996 年版 OA革命〕 OAとは、システムが相互に接続して、統合的なシステムを形成する傾向が強い。また異なったシステムがネットワークを通じて情報を交換することが多い。 このためにシステム間の接続が問題となる。この相互接続を実現するための接点をインターフェースと称する。人間がOAシステムと接続する接点をマンマシ ン・インターフェースあるいはヒューマン・インターフェースと称する。OAリテラシィは人間側のインターフェースであるといえる。 ◆OAリテラシィ(OA literacy)〔1996 年版 OA革命〕 リテラシィとは「よみかきソロバン」をいう。これからはOA機器を介するコミュニケーション、電子的に蓄積された情報の検索、情報を要約して登録、電子 メールによる郵送などを行うことが多くなる。キーボードやマウスを用いる作業やウインドウ操作もある。人間が在来のリテラシィで楽に操作できるようにO Aインターフェースを人間にとって親しみやすくする研究も盛んである。音声入力、手書き入力、マウス、アイコンなどがそれである。インターフェースは、 人間の日常性にマッチするよう工夫されても、人間サイドの習得は必要であり、ペンばかりに頼る意識から電子的なOAリテラシィも日常化するよう、考えを 切り替える必要がある。 ▲OAオフィス環境〔1996 年版 OA革命〕 OAによってペーパーを主体とするオフィスから電子処理を主体とするオフィスに変わることによって、オフィスの構造とレイアウトが著しく変貌する。 ネットワーク、電子ファイリング、ワークステーションによる作業や相互の連携、遠隔地との電子会議、家庭とオフィスとの結び付き、マルチメディアによる コミュニケーション、OA情報機器の保守や開発などである。 このとき、人間が快適に、そして創造的にユトリを持って安全に働けるように、オフィス環境を向上させようということから、オフィスアメニティの考え方が 進んでいる。 ◆エレクトロ・オフィス(electronic office)〔1996 年版 OA革命〕 コンピュータはじめOA機器により高度に装備され、レス・ペーパー、レス・エネルギー、レス・スペースが進行したオフィス。ここでは、必要な情報やデー タはもちろん画像であれ文書であれ、直ちに手に入り、通信を用いて外部の情報を活用でき、相互に情報を交換し、情報を高度に分析加工できる。 ◆パーソナル・オートメーション(personal OA)〔1996 年版 OA革命〕 OAとは企業だけでなく、そこで働く個人活動はもちろん個人生活にも影響がおよぶ。OAは統合化とともに分散化の指向が強い。たとえばオフィスでは個人 ごとにワークステーションを持つ。これをパーソナル化という。必然的に個人がOA機能を自分のものとして活用できるわけであるから、自然に生活の場でも これを活用することになり、私的な活動にもOAが浸透する。これを見通して、様々な個人活動用のソフトウェアやサービスも提供される。また、ネットワー クの進展により、個人的な広域活動も可能になる。これからは個人としてもOA武装が必要となる時代である。 ◆分散型オフィス〔1996 年版 OA革命〕 在来のオフィスは営業管理の面から地域分散の傾向はあっても、オフィス自体は集中型のオフィスが指向されてきた。これは人間の移動、情報の集中、流通の 制約から当然のことであった。ところが情報環境の進展は、この制約をなくし、オフィス配置に幅広い柔軟性を与えることになった。分散型によって、集中型 オフィスの欠陥を除去し、また分散型の利点をも追求する傾向が高まった。ローカル・オフィス(local office)は、主オフィスとネットワークで接続し、主オ フィス機能を十分に持ちながら、地域に密着した活動ができ、職住接近もはかることができる。これをサテライト・オフィス(satellite office)ともいう。つ まり主オフィスの衛星的なオフィスであるという意味である。東京では首都集中の弊害があり、阪神大震災などの例から、危機管理の面から真剣に検討される ようになっている。エレクトロ・コッテージ(electronic cottage)は、情報環境の進展により、オフィスに行かなくても、自宅でオフィス活動ができるように なるとし、自宅がオフィスになり、ワーカーが地域に戻り、社会に変化をもたらすと、A・トフラーが「第三の波」で主張した。現実に今日、自宅をオフィス として、自由に活動する人々もおり、このような制度を認める企業もあり、このようなオフィスをホーム・オフィス(home office)と称する。パソコンやワー プロが家庭に普及しているが、その利用のほとんどは持ち帰りの仕事であり、現実にホーム・オフィスの観を呈している。 ◆インテリジェント・レンタル・オフィス〔1996 年版 OA革命〕 サテライト・オフィスは、都会を離れた衛星都市などに設置したローカル・オフィスであるが、これは逆サテライト・オフィスともいうべきものである。都会 の一等地に、OA機器などのインテリジェント環境を備えたオフィスを設置し、そのスペースを一般に臨時に提供するニュービジネスである。セールスマンや 集中的に作業をするようなプロジェクト・チームが利用している。 ◆アミューズメント・オフィス(amusement office)〔1996 年版 OA革命〕 OAによるオフィス目標概念は、最初は効率や生産性を主とするものだった。次に効果やニュービジネスを生み出す創造的な場を目標とすることが考えられた。 これをさらに発展させて、働いて楽しく、創造的な場という概念が追求されるようになり、この用語が出てきた。。 ◆ビル・オートメーション(building automation)〔1996 年版 OA革命〕 建物の空調、防災、暖房、衛生、照明、エレベーター、ドアの開閉、郵便などの総合管理をコンピュータで行うシステムのことである。ビルの全体的な状況を 知り、全体をバランスよく、合理的かつ自動的に管理していく。また、出入者の遠隔テレビ管理などをしてセキュリティ管理を行う。 雑居ビルなどでは、それぞれのビル利用者に対して、通信機能やコンピュータ機能など、インテリジェント環境を提供することがある。 ◆オフィスアメニティ(office amenity)〔1996 年版 OA革命〕 オフィスの快適性と機能性を調和させる考えをいう。情報環境の進展により、オフィスの構造、機能、配置、住環境など、在来とは異なる柔軟な考えを適用で きる。情報環境への適応を考慮し、人間が創造性と協調性を高めながら働けるオフィスを作ろうとする人間中心の考えである。 ◆グループ・アドレス方式(group address method)〔1996 年版 OA革命〕 IBMがインテリジェント・ビルの机の配置について始めた柔軟な方式。営業部門など在席率の低い職場では、スペース効率がよくない。このため各人ごとの 専用机を割り当てず、数名のグループごとに、そのつど空いているスペースを割り当てる。この割り当ては、コンピュータに登録され、本人固有の電話番号や 端末IDもそのスペースに割り当てられ、在席場所も表示されるのであたかも自分自身の専有スペースと同じように使える。 ◆デシジョン・ルーム(decision room)〔1996 年版 OA革命〕 経営会議において、必要な情報が適時適切に提供され、会議参加者全員が視聴覚機器などを利用しながら効果的なプレゼンテーションができるシステム。テレ ビ会議で遠隔地からも参加できる。部屋としての物理的構造も必要であるが、これをサポートする、データベースを主とした、OA情報システムの構築が肝心 である。 ◆EMC/電磁環境両立(Electro-Magnetic Compatibility)〔1996 年版 OA革命〕 電子的な機器が増加すると、それぞれから電磁波が発生し、相互に干渉し合って誤動作を起こしたり、電磁波が人体に悪影響を与えたりするおそれがある。こ のため電磁波遮蔽ガラスなどが開発されている。郵政省では、電磁波に関する安全基準の制定を進めている。OA業界では電子部品や電子装置の電磁波の漏洩 を防止する機能をイミュニティ(immunity)と称し、VCCI(voluntary control council for interface)において対策を講じ、自主規制している。 ◆VCCI(Voluntary Control Council for interface)〔1996 年版 OA革命〕 情報処理装置や電子事務機械などの原因による電波障害を防止する目的で設立されたメーカー側の自主的な団体で、国際的な基準および郵政省の基準を充たす ように技術基準と運用基準を定め、装置を規制している。装置には、商工業地域で使用される第一種と住宅地域などに適用される第二種がある。この基準に沿 い妨害波が規定値以下であるものにVCCIマークが付けられている。 ◆インテリジェント・ビル(intelligent building)〔1996 年版 OA革命〕 OAの展開に適した高度情報化ビル。高度情報通信、自動制御、ビルオートメーション、リフレッシュコーナーなど豊かなオフィスアメニティ環境、などのイ ンフラストラクチュアを備え、ビル入居者が容易にOAの展開ができるような環境をもつ。単独の企業がこうしたビルを建設する場合が多いが、インテリジェ ント機能が共有できるようなビルの建設も進んでいる。テナントは、オフィスに入居するだけで、電子メールやコンピュータ機能など共用インテリジェントサ ービスを受けられ、専有スペースではLANなどのネットワーク回線の展開、OA機器の柔軟な設置などが可能となる。また、EMCなど安全対策も立てやす いようになっている。 ▲OAによる社会の変化〔1996 年版 OA革命〕 高度情報化およびOAの進展による社会的影響は大きい。企業では異業種交流、企業間連携、企業組織の広域展開、自動化、SISなど情報の高度利用、組織 構造の変化が生じる。仕事においてキーボードやマウスの扱いが常識となり、マルチメディアの利用も進みつつある。オフィスの環境も変わる。在宅勤務のよ うな制度も生じ、職住が接近する。効率化により、ゆとりの時間も増加し、新しい文化も生まれる。だが、OAの習熟も必要でストレスも生じ、利用において 格差も開く。情報操作に関するモラルも大切になる。 ◆電子メディア環境〔1996 年版 OA革命〕 高度情報化の進展により、在来のようにペーパーの形態ではなく電子化情報ないし電子化データとなり、フロッピー、磁気ディスク、CD‐ROM、光ディス ク、ICカードなど電子ファイルが利用され、情報の伝達も通信ネットワークを経由し、流通するようになった。情報の利用もペーパーに出力せずにディスプ レイの表示ですむ。これによりペーパー洪水の解決というオフィスの課題はほとんど解決できるが、ペーパーに対する人間の親しみ、その手軽さは否定できず、 完全なペーパーレスは困難であろう。しかし、人間がペーパーへのこだわりを捨てることもOAを進めるには必要であり、OAリテラシィを身につけることが 大切である。電子化データは、コピー、消去、加除訂正、再利用、高速検索、大量の蓄積などが容易であるが、処理システムが必要であり、データのインタオ ペラビリティ(相互互換性)、セキュリティ(機密保持、安全)が重要になる。セキュリティ確認のために電子印鑑なども研究されている。電子化データによ る情報供給としてパソコン通信、電子図書館、CD‐ROM出版などがあり、これらの情報は、マルチメディア化し、ハイパーメディア化しつつある。またオ フィス間、企業間の情報の交流は、EDIなどで行われ、ペーパーレスが進んでいる。 ◆OAリストラクチャリング(OA restructuring)〔1996 年版 OA革命〕 在来のOAシステムの再構成のこと。在来の情報システムは古いハードウェアであり、そのシステムの機能も目標水準も低い場合が多い。とくにOA機器、ネ ットワーク、ソフトの急速な進展において、システムの陳腐化は急速に進む。この在来システムを再構成することが、重要になっている。これを、リエンジニ アリング(reenginieering)とも称する。 ◆VDT症候群〔1996 年版 OA革命〕 OAによって、パソコン、ワープロ、ワークステーションなどブラウン管が付いたビデオ・ディスプレイ・ターミナル(VDT video display terminal)を多 用するようになったので、これらを使うことによる人体への影響が問題として出てきた。つまり輝度、色、電磁波、紫外線、放射線、などの影響やキーボード を扱うことによる人体への影響などである。特に目に対する影響が心配されているが、最近はディスプレイの改良も進み直接な影響はないとされる。むしろ作 業姿勢や長時間の作業など、別の理由による肩こり、眼精疲労、けんしょう炎などが問題とされている。職場環境などによる心因的理由による問題もあるので、 いちがいに因果関係を特定することは困難である。 ◆VDT労働省暫定基準〔1996 年版 OA革命〕 労働省では、一九八八(昭和六三)年VDT基準を制定した。 (1)連続作業では、一時間の中で一○分ないし一五分の休憩をとる、 (2)健康診断を適切な間 隔でとる、(3)視距離は四○センチ以上離す、(4)画面が他の光源で光らない、(5)適度な室内照明、など。このような基準を守るには、管理者はもちろ ん、使用者自身も注意する必要があろう。 ◆電子秘書〔1996 年版 OA革命〕 秘書の代わりに、ディクテーティング、スケジューリング、ファイリング、電子電話帳、交際リスト登録、情報の検索サービス、会計処理などを果たしてくれ るシステム。この種のソフトを電子秘書と称する。管理者は秘書を使わずに、自身で業務を処理する傾向になり、秘書の役割が専門性を持つ自律的業務に変わ りつつある。 ◆ディクテーティング(dictating)〔1996 年版 OA革命〕 口述筆記のこと。ディクテーティング・マシンやワープロを用いると、能率的な文書化作業が可能となり、マネージャーやエンジニアなどの知的作業の効率が あがる。著述家で活用する人が多い。電話で要点を受けて、サービスする遠隔ディクテーティングもある。口述したあとの文章のケバ(まちがい)取りや文章 の添削など高度な技能が必要で、重点だけを記録しておいて、その要点から原文を再現(反訳)する。 ◆在宅勤務〔1996 年版 OA革命〕 自宅にいながらオフィスワークをする勤務形態をいう。これまでの内職も在宅勤務のようだが、その内容が違う。そのような個別作業ばかりでなく、ワープロ、 パソコン、ファクシミリなどの端末を家庭に設置し、パソコン通信などのネットワークで企業内や社外との連携を適時とりながら組織的な勤務活動を行う。ト フラーの『第三の波』にも指摘されており、このような勤務形態が社会的に広がると、地域コミュニティが活性化されるなど社会構造を変化させるという。 在宅勤務者一○○○万人とされるアメリカと異なり、わが国では地域コミュニティ活性化の歩みは遅い。 ◆電子伝票〔1996 年版 OA革命〕 従来の経理システムでは、紙の伝票が常識だった。だが、OAではコンピュータ端末に表示された伝票のフォームにデータを記録し、電子的に伝票を発行する 方法になる。内容の記載、決済、伝票の電子的な保存など、いっさいOAシステムで処理される。すでにかなりの数の企業で実施している。EDI(電子デー タ交換)では異企業間の取引が電子伝票で果たされる。 ◆電子投票システム〔1996 年版 OA革命〕 投票所に電子投票ボックスを置き投票者がボックスに入り操作をすると、投票者の確認、投票内容の入力などが行え、ネットワークで全部のボックスの投票結 果を即座に集計するというシステム。選挙には有力なシステムと自治省が採用を検討中。公職選挙法の改正や不正防止対策などが必要である。 ◆ハイテクカード〔1996 年版 OA革命〕 磁気カードからさらに一段と進化したカードを、ハイテクカードと総称する。ICメモリーと演算処理装置(CPU)を組み込んだICカード、光メモリー装 置を組み込んだ光カード、さらに無線で通信が可能なワイヤレスカードなどがある。これらのカードで共通することは、情報処理機能を持ち、大量の情報を蓄 えられ、多目的に複雑な使い方ができることである。多目的な使い方のものを多機能カードともいう。 ◆ICカード〔1996 年版 OA革命〕 ICを組み込んだメモリーとマイクロプロセッサー(CPU)を組み込んだメモリーカードであり、それ自体に情報処理機能があり、多様な機能を持たせるこ とができる。銀行カードの例では銀行と商店が共同で運用し、残高の確認、キーワードの確認、自動振り込み、証券売買、タクシー料金支払い、保険支払い、 税金支払いなどキャッシュレス取引ができる。代表的な用途として次のようなものがある。 (1)入退室管理システム―出入口で登録者確認と記録、 (2)銀行 システム―CD、ATMによる銀行処理、(3)ショッピング―銀行POS、クレジット支払い、(4)住民カード―自治体の諸手続、医療、救急、教育。 ◆光カード〔1996 年版 OA革命〕 光メモリーを組み込んだICカードであり、ICカードよりも数十倍のメモリー容量を持ち、ICカードでは果たせない用途に利用される。たとえば住民カー ドでは、住民の情報を詳しく記録しておけば、一段と住民サービスの内容が充実できる。また、医療カードでは、カルテの詳しい内容が記録され、本人がどこ で診療を受けても医者は過去のカルテを参照できる。ただし、メモリーの容量があるだけに、その情報の更新に手間が必要になる。 ◆ワイヤレスICカード〔1996 年版 OA革命〕 無線によるネットワーク機能が付加されたICカードである。JR東日本では、これによる新型定期券を実験しており、改札口で無線でカードの妥当性をチェ ックする。また、高速道路のトールゲートにおける料金支払いにも採用が検討されている。カードコストが高価になることが課題である。 ◆遠隔会議〔1996 年版 OA革命〕 遠隔地の人が同一場所に集まり会議するには時間とコストがかかる。集まることをやめて、ネットワークを利用して会議をしようというもの。ディスプレイ上 に動画を映し、音声と手書き認識装置を用いて臨場感のあるシステムが出現し、普及が進んでいる。これは会議ばかりでなく遠隔授業にも利用されている。N TTやKDDはこのためにテレコンファレンスシステム・サービスを提供しており、メーカーからも電話会議システムが販売されている。またパソコン通信を 通じてパソコンによる簡易型遠隔会議システムも発売された。 ◆自動翻訳電話〔1996 年版 OA革命〕 国際電気通信研究所が開発を進めており、日本・アメリカ・ドイツの三国間で実験が行われている。それぞれ母国語で発言すると、向こうの言葉に自動的に翻 訳される。翻訳されるまで、数秒から数十秒かかること、内容が明瞭な文と発音であることが要求され、簡単な内容に限る。 ◆システムインテグレーター(system integrator)〔1996 年版 OA革命〕 コンピュータ処理システムを含め、ネットワーク、職場のOA化、オフィス環境など、総合的配慮をしながら経営システムを開発構築する作業を、システムイ ンテグレーションと称し、このような開発サービスをする業者をシステムインテグレーターと特に称する。通産省は業者を育成するため、事業者認定登録制度 や統合システム保守準備制度などを設けている。システムインテグレーションではマルチベンダー環境においてメーカーに依存せずに柔軟なシステム構成を提 案できるところに特性がある。 ◆ノンストア・リテイリング(non store retailing)〔1996 年版 OA革命〕 ホームショッピングと対をなすもの。客が自宅にいて買物ができれば店に品物を陳列する必要はない。客にカタログを配布するか、CATVの画像で商品情報 を提供し、コンピュータで集計し、最寄りの配送センターから配送する。または客の望む品物を産地から仕入れて届ける、通信販売の発展したもの。商品情報 の提供、信用情報確保、発注処理、代金決済、品物の配送などについて、コンピュータ情報管理に基づくスピードを必要とする。アメリカやカナダで実用化さ れたCATVではゲームやショーなどでひきつけたり、商品の注文はCATVキーパッドでインプットさせる。わが国ではCATVよりも、パソコン通信やC Dによる方法が普及をみつつある。 ◆エレクトロ・バンキング(EB)(Electronic Banking)〔1996 年版 OA革命〕 INSやVANの開放により銀行と企業との電子取引(EDI)が可能となった。全国銀行データ通信システムが発足して二二年を経過し(四八年四月発足)、 全国約四六行、四万三○○○店舗が加盟している。また、郵便貯金システムも全国ネットワークとなった。 為替決済が主となり、書類の配送がなくなり、金融機関での事務手数は激減した。ユーザーからみると、どこの金融機関からでも即日送金が可能ということで、 資金の運用も楽になる。親から子供への送金、公共料金の振込み、電話、電力料金自動引き落としなどの事務が減少した。 ◆カプセル店舗/カプセル・オフィス〔1996 年版 OA革命〕 OAシステムや自動化機器を活用して、コンパクトな店またはオフィスをつくり、地域展開をする考えである。標準化された単位店をカプセル店舗という。従 来マーケットが小さくて、店舗展開のできなかった地域でも事業が成り立つので、研究されている。カプセル店舗(カプセル・オフィス)は、どこでも適用で き標準的な店に向くものであり、むしろ標準的であることがセールスポイントで、セブンイレブンの店舗はこの例である。 ◆EDI/電子データ交換(Electronic Data Interchange)〔1996 年版 OA革命〕 国際的な通信環境の進展に伴い、企業間の商取引をコンピュータ同士の直接のデータ交換で行うもので、これにより伝票作成や郵送などの手間と時間とコスト を省き、広域かつ正確にリアルタイムに取引や精算が可能となり、相互の情報交換により企業間の密接な連携活動が可能となった。 国際的なEDIの進展に沿って、国際規格として、ISO(国際標準化機構)ではビジネスプロトコルEDIFACTをすでに承認しており、わが国もこれに 合わせて標準化を図り、EIAJとして制定された。 ◆EL/電子図書館(Electronic Library)〔1996 年版 OA革命〕 光ファイルなど電子画像ファイル装置の発展により、電子図書館サービスが、一九八八(昭和六三)年度から始まった。パソコン通信でELに接続し、メニュ ーから必要な情報を調べ、望む資料を要求すると、パソコンに接続された出力装置(ファクシミリなど)に直ちに画像の状態で送られてくる仕組みである。新 聞や雑誌などのコピーを検索し、そのままの状態で有料で得ることができる。 ◆レコード・マネジメント・コンサルタント(record management consultant)〔1996 年版 OA革命〕 ファイリング・システムを中心としたシステムの設計支援、データや情報の取扱いの指導、管理の請負いをする事業である。電子ファイルの普及により、新し い型のレコード・マネジメント・サービスが出はじめている。 ◆テクニカルコミュニケーター(technical communicator)〔1996 年版 OA革命〕 ワープロ、パソコン、ファクシミリ、DTPなどを駆使して、テクニカルライティング(technical writing)と称するマニュアルなど文献製作活動をするグル ープを指す。OA機器の普及によりグループの活動はネットワークによって広がりを持つようになった。 ◆情報処理活用検定〔1996 年版 OA革命〕 略してJ検と称する。一九九五(平成七)年にスタート、受験者が急増した。これまでの情報処理能力認定試験を文部省認定の技能試験に格上げし、内容も専 修学校だけでなく一般社会人にも受験しやすくしたもので、一級から三級までがある。 ◆CADオペレーター〔1996 年版 OA革命〕 コンピュータ支援によるインテリアデザイン、型紙設計、図形の描画などの作業であるが、CAD技能のほか、グラフィックデザインの感覚が必要とされ、特 殊な専門分野を形成している。 ▲OAと通信〔1996 年版 OA革命〕 通信ネットワークは、OAの要素技術であるが、通信網は、デジタル化され、光通信が利用され、通信容量は格段に増し、機能は強化され、正確になり、広域 に発展している。国際的なISDNの展開が進み、情報スーパーハイウェイの構想もある。家庭にも光通信がゆきわたる方向であり、マルチメディアの進展も 期待されている。通信インフラストラクチャーは、さらに整備が進み、二一世紀には情報スーパーハイウェイが展開される。 OAシステムを展開するとき、ネットワークを前提としたシステムをいかに構築するかが課題となる。 ◆電気通信事業登録制度〔1996 年版 OA革命〕 一九八五(昭和六○)年四月、電気通信事業法および関係政令が施行され、NTT(日本電信電話株式会社)が発足し、電気通信事業に競争原理が導入された。 電気通信回線を設置する事業者を第一種事業者とし、その設立は許可制となっており、現在は、長距離系として、第二電電(株)、日本テレコム(株)、日本高 速通信網(株)の三社と、地域系および衛星系として、それぞれ数社がある。第一種事業者から通信回線を借りて通信事業を行う者を第二種事業者(VAN) と称する。 第二種は特別第二種と一般がある。特別第二種は、一二○○ボー回線(一秒間一二○○ビットの伝送量)を単位回線として、五○○単位を超える業者をいい、 登録制である。これ以外は一般二種で届出制である。さらに衛星通信を用いた無線による通信事業が始まろうとしている。 ◆ワープロ・パソコン通信〔1996 年版 OA革命〕 ワープロには日本語テレックス通信機能もあるが、公衆電話回線を用いた軽便なパソコン通信方式の利用もできる。これにより電子掲示板、電子会議、電子メ ール、情報提供などがなされる。このほかチャットと称する利用者同士のおしゃべりサービスもできるが、これは電子掲示板の応用である。パソコン通信を利 用するには、ワープロやパソコンにモデムを付属し、ネット局と契約することが必要である。またインターネット(国際的パソコンネット)と接続して国際間 の通信も行えるようになっている。 ◆パソコン通信翻訳サービス〔1996 年版 OA革命〕 パソコン通信を利用した翻訳サービスであり、国際化時代を反映して、利用者が増えている。原文(英文または和文)を送り、局の翻訳支援システムから翻訳 文の返信を受ける。翻訳の実情から正確さはないものの、翻訳の質は年々向上しており、利用者が増えている。NIFTYやPC‐VANで行っている。 ◆IP(Information Provider)〔1996 年版 OA革命〕 情報提供者である。キャプテンやCATVでは、放送側から必要かつ魅力的な情報を提供することが必要である。IPが充実していないと、ユーザーは利用し ない。CAPTAINやCATV、パソコン通信の普及によって、急速に増加の傾向にある。なおユーザー自体をIPとして巻き込むことも行われている。 ◆LAN(Local Area Network)〔1996 年版 OA革命〕 企業内統合通信網。従来の電話交換やコンピュータ・ネットワークを包含し、音声、文書、画像、データなど多面的な情報をひとつの通信網で処理する。LA Nを通じて電子メール、データ処理、電子ファイル、印刷処理、データバンクなどを効率的にサービスすることが可能。OAの多面的な情報通信路をになう。 パソコン・クラスの小規模なもの、電子交換機によるもの、分散処理コンピュータによるもの、大型コンピュータによるものの各種の方式がある。 通信伝送路としては、従来の金属ワイヤーでは、伝送容量が不足するので、同軸ケーブルが用いられ、主幹線では光ファイバーが使用されることが多い。無線 による方式が有力な手法として登場し、期待されている。 これらの回線のネットワーク手法で、回線が輪の状態になっているのをリング型、回線が棒になっているのをバス型、回線が星状になっているのをクラスタ型 と称する。またこれらの型を全部包含するものもある。通常、LANを通じて文書ファイル、印刷、データ・バンクなど各種のサービスシステムが提供される。 これをサーバーと称する。 ◆光無線LAN〔1996 年版 OA革命〕 郵政省は、電波の代わりに光を使う光無線通信の確立に乗り出した。室内の配線工事は不要になり、簡略化でき、端末移動型で、使い方も柔軟になる。課題は、 標準化であるが、郵政省は国際標準方式を提案していく方針だという。 ◆マルチメディア無線網〔1996 年版 OA革命〕 郵政省は、光ファイバー網を生かしたミリ波などの新しい電波帯を使って超高速で大容量のマルチメディアネットワークを二○○○年をめどに全国で実用化し ていく計画で、一九九六(平成八)年から実験に入る。光ファイバー網の無線ステーションから、無線LANや無線端末に接続できることになる。 ◆WAN(Wide Area Network)〔1996 年版 OA革命〕 LANを広域に結合するものを、WANと称する。これも含めて、LANと称する場合が多い。これが発展していって全国に展開されたものが、INSである といえる。 ◆コンピュータ・プラットフォーム(computer platform)〔1996 年版 OA革命〕 異なったコンピュータ同士が相互に連携して、使用者に対して、あたかも一つのコンピュータとして使えるようにする標準的な環境を称する。システムの中に 様々なコンピュータやワークステーションが混在していても、特定のコンピュータの指定などをする必要なく、自由にコンピュータ環境を利用できる。 ◆MAP/TOP(Manufacturing Automation Protocol/Technical and Office Protocol)〔1996 年版 OA革命〕 MAPはゼネラルモーターズ社で、TOPはボーイング社で提唱された標準プロトコル(通信規約)。FAとOAにまたがるOSIに準拠した制御機器、OA 機器などの標準プロトコルであり、国際的な標準化が進行中である。わが国ではOSI推進協議会が、この実装規約の標準化を推進している。このプロトコル に対応することにより、異なったメーカー製品間、異なった企業間でも、相互に機器を接続することができ、マルチベンダー環境が実現する。 このような動きは、当面は製造関係から始まったが、事務関係にも次第に影響を及ぼしつつある。MAP/TOPに参加するユーザーは、世界的に増加の傾向 を示している。MAPのOSIプロトコルはトークン・リング方式をとり、TOPはCSMA方式のプロトコルを採用している。 ◆特許電子出願〔1996 年版 OA革命〕 特許庁では、特許事務全体の電子化を図るため、ペーパーレス・システム計画を推進し、一九八九(平成一)年六月に公開し、九○年一○月から実施に入った。 特許情報がすべて電子ファイル化され、検索、審査、広報などの業務を効率化し、一般へのサービス業務を強化しようというもの。これによると特許、登録な どの出願は、オンライン端末あるいはワープロのフロッピーで提出してもよい。電子記録された特許出願書類の審査の多くが自動的に行われ、審査のスピード アップが図られる。プロトコルはOSIに準拠している。なお、特許用オンライン端末が発売されている。 ◆ODA(Open Document Architecture)〔1996 年版 OA革命〕 OSIで国際的な標準化が検討されている。電子的な文書を相互に流通するときに、相互にこの標準文書構造を守るか、これとの相互変換を可能とすれば、異 機種相互の文書の交流ができる。JIS規格のファイル交換仕様はこれと密接な関係がある。 ◆ゲートウェイ(gateway)〔1996 年版 OA革命〕 LAN回線OA機器を接続する分岐装置をいう。NTT回線に分岐する場合もゲートウェイを通じて分岐する。 ◆音声メール/VMX(ボイスメールボックス)(voice mail)〔1996 年版 OA革命〕 電話を相手にかけるときに、相手がいなくても相手のメールボックスに、音声のデジタル情報を記録して伝達する。声の電子メールである。遠隔地との交信や、 勤務時間の異なる人と人のコミニュケーションなどができる。NTTで実用化をめざし実験中であるが、まだ実現していない。 パソコン通信の機能の一つとして、一部で提供が始まっている。 ◆漢字電報〔1996 年版 OA革命〕 在来のカタカナを基本とする電報への漢字電報の導入が一九九四(平成六)年二月から始まった。料金は二五字まで四四○円、追加五字六○円。割高だが、現 在は九○%の電報が漢字カナ混じりになった。 ◆電子パッド(pad)〔1996 年版 OA革命〕 携帯端末や簡易ファクシミリで、外出先の電話機とオフィスを接続し、その場で仕事を処理する。営業マンは出先から受注のインプット、銀行員は預金者宅を 訪問して預金の受け払い、医者は患者の情報や血圧、体温、脈拍などを直接センターに記録して、異常を検知する。もちろんこれで自宅でプログラムの作成や データの検索などもできる。銀行員端末などはすでに使われている。このように、出先でのオフィスワークをOA化することを「アウトドアOA」と称する。 携帯端末は、重さ一∼三キログラム程度。 ◆スタンドアローン(stand-alone)〔1996 年版 OA革命〕 独立型の機器をいう。現在のワープロはほとんどスタンドアローンである。これに対してワークステーションなどオンライン型がある。どんなにOAが進んで もPPC複写機のようにスタンドアローン機器は残る。 ▲OAキーテクノロジー〔1996 年版 OA革命〕 OA要素技術の源はコンピュータで、ハードウェアのダウンサイジングの機能の発展とソフトウェアの発達、マイコンを利用した各種のOA機器の発達がある。 パソコン、ワープロをはじめ、多様なOA機器が出現し、個人に至るまで広く使われている。ネットワークはこれらを相互に結び、統合させ、広域的な展開を 可能とする。AI(人工知能)テクノロジーは人間の思考の領域にメスを入れる。光ファイルやCDをはじめ、電子ファイルなどの大量記録装置の発達も注目 される。 OAの発展に限りはないが、この発展を活用する意図はあくまで人間が持つ。 ◆携帯型OA端末〔1996 年版 OA革命〕 パソコンは、ダウンサイジングにより、ますます小型高性能になっており、ディスクトップ型(机上型)から、ラップトップ型(膝乗せ型)、ノート型、ハン ドヘルド型、パームトップ型(片手に乗る型)あるいはポケッタブル型と進んできた。これら携帯型では、これまで電子手帳(スケジュール、メモ、住所録な ど)、ワープロ機能、表計算機能、手書き認識機能などが提供されるようになっている。ところが、これに通信機能さらに無線通信機能の開発が進み、これら がネットワーク機器としての機能を持つようになり、アウトドアOAのための携帯情報端末として使われる方向にある。 ◆汎用ワークステーション/OAワークステーション(work station)〔1996 年版 OA革命〕 端末が多用されるのがOAの特徴のひとつ。ひとつの端末でデータ処理、文書作成、電子メール、ファイリング、プログラム開発など多様な機能を持ち、統合 ワークステーションなどと称する。またこれに使用するソフトウェアを統合ソフトと称する。フラットパネルにより将来は机と一体となる傾向が予想される。 専用でオンラインでない装置(スタンドアローン)も使用される。これらも含めワークステーションとはターミナルだけでなく、作業をする場所を指すという 見方もある。キーボードのほかにマウス、手書きパネル、マイクロホンも有効に活用されよう。 ◆WYSIWYG(What you see is what you get)〔1996 年版 OA革命〕 OA機器の画面が人に親しみやすいようにインターフェースを提供しようとする考え方。たとえば、ディスプレイ画面に映し出される画面を、印刷で得られる 出力と同じ表現にしようとする概念である。DTPではWYSIWYGに編集することを最大の特徴としている。 ◆光ディスク(OMD)(Optical Memory Disc)〔1996 年版 OA革命〕 アクリルなどのレコード状円盤にテルルなどの気体金属や有機材料やアモルファス金属の被膜を張ってある。この円盤に、原情報を走査して得た画像情報を、 ごく微細な穴を明けたり変形させたりして、記録する方式である。レーザー光による画像の走査によって画像を極微細な点に分解し、点の集団をデジタル化し て、その数値を記録する。記録情報を読むときは、この数値を読み、画像に再生する。記録にあたり画像圧縮などの方法が取られ、コンパクトに記録できる。 写真と同様のイメージ記録であるが、二次情報の管理により、情報の検索、分類記録が容易である。再生専用(追記型)のものと書き換え可能(イレーザブル 型)のものとがある。 一枚の光ディスクで、A4判文書、六万枚から二○万枚の記録が可能であり、検索は三秒から五秒程度である。記録されたイメージは、伝送が可能で、遠隔の 端末からも検索できる。目下五インチディスクの標準規格(ISOおよびJIS)が成立している。 ◆ワープロ(worpro)〔1996 年版 OA革命〕 わが国では、漢字があるため英文タイプライターに相当するものはなかった。和文タイプライター〔一九一五(大正四)年〕では、スピードで満足できず、カ ナタイプライター(二三年)は、普及にまで至らなかった。 ところがコンピュータさらにLSIの発展により、仮名漢字変換方式による日本語ワードプロセッサが、七八年秋に東芝の森健一工学博士以下によって開発さ れ、欧文タイプライターに匹敵するタッチメソッドによる漢字仮名混じり文の文書作成ならびに文書ファイル装置が出現し、以後急速に普及した。ワープロ機 能はパソコンでも常備され、パソコン利用の七五%はワープロとされている。 仮名漢字自動変換では、平仮名のキータッチ文を仮名漢字変換ソフトならびに用語辞書の助けを借りて仮名漢字混じり文の文章に自動的に変換するものである。 最近は全文一括変換方式なども提供されるようになり、入力はますます容易になった。また単に文章の作成の機能ばかりでなく、文章のファイル、データ検索、 印刷、グラフの作成、イメージの入力と処理、通信、電子メール、DTP機能、自動翻訳機能、表計算機能など、多面的な機能を持つようになった。仮名漢字 変換では漢字指定方式、文節入力方式、全文変換方式などがある。 「じゆうは/しなず/」と切るのが文節方式であるが、全文一括変換方式では切らないで入力する。 ワープロは、これまで手書きが主だったオフィスをタイプライター化したが、このOAにおける意味は、文書事務の効率化だけでなく、電子メディアに対する 基本的な手段(OAリテラシィ)を提供することにある。年間三○○万台近い出荷であり、OAだけでなく、国民生活、とくに国語教育に及ぼす影響が大きい。 ◆EWS(Engineering work-station)〔1996 年版 OA革命〕 CADなど設計の自動化を行うためのコンピュータ・ワークステーションである。精密な図面を高速に描くための処理、精密ディスプレイなどを装備し、パソ コンや汎用コンピュータと別の独自の領域を形成している。EWSでは、命令を縮小してLSIに組み込み、高速演算を行うRISCアーキテクチャー方式の マイクロ・プロセッサーが主流になっている。EWSの普及により、設計部門のOAも実施されている。図面を手で引くことはほとんどなくなり、また図面を 検索したり、表示したりもできる。 ◆DTP(デスクトップ・パブリッシング)(desktop publishing)〔1996 年版 OA革命〕 パソコンやレーザープリンタを用いて、文字、写真、図形などを取り込み電子編集をするシステムであり、本格出版に近いところまで精密に組みをすることが できる。DTPによる、企業内出版(インハウス・パブリッシング・システム)も普及している。著述者は編集行為までも自分でこなせるようになる。コンピ ュータのダウンサイジングとプリンタの発達により、DTPがますます本格出版に近づく。また、カラー印刷も本格的に始まった。 ◆パソコン(ワープロ)・ファクシミリ〔1996 年版 OA革命〕 パソコンやワープロを公衆通信回線に接続して、相手のファクシミリに文書を出力したり、相手のパソコンやワープロのファクシミリの出力も受けられるよう なパソコン(ワープロ)である。 ◆アウトライン・フォント(outline font)〔1996 年版 OA革命〕 ワープロなどの文字は、これまでは点の集合で文字を構成した。たとえば二四ドット文字では、五七六個の点で文字を表現した。この方式では、ドットでなく 文字の輪郭情報を持ち、印刷するときに輪郭情報で文字を構成する。拡大文字のときにも、滑らかな線で表現できるし、文字を変形することも容易であり、高 品質文字の印刷が可能である。ファイルされた文書を、後でアウトライン・フォント方式で加工したり、編集したりするプロセスを、ポスト・スクリプト (post-script)と称し、DTP(デスク・トップ・パブリッシング)では、この方式がよく用いられる。 ◆ワープロ技能検定〔1996 年版 OA革命〕 日本商工会議所が、ソロバンや和文タイプの検定と並び、文書処理能力とワープロ操作能力の検定制度を一九八五(昭和六○)年五月から開始した。クラスは 一級から四級まである。検定の項目には、文書一般常識、国語読解力、ワープロ技能(技巧とスピード)があるが、スピードについては、一○分当たり、一級 九○○字、二級六○○字、三級四○○字、四級三○○字以上(いずれも誤字余字一○字以内)となっている。労働省職業訓練所や日本ワープロ検定協会もワー プロ検定を定期的に実施している。 ◆日本語文書ファイル交換仕様〔1996 年版 OA革命〕 ワープロの文書ファイルは、メーカー間のフロッピーディスクの互換性がない。これを解決するために、ファイル交換標準仕様をJIS化し、各メーカーがそ れに対する互換プログラムを提供することによって、メーカー間の変換が容易となった。図形を含む標準仕様(ミックスモード)も検討が進み一九八八(昭和 六三)年に一部JIS化されたが、あまり利用されていない。特許電子出願システムは、この方式を採用している。MS‐DOSファイルによって交換する方 法も互換はテキストデータのみでは不完全であるが一般的に広く行われている。 ◆パターン情報認識〔1996 年版 OA革命〕 計算や論理的判断、推論などは、人間よりもコンピュータのほうがはるかにまさるが、知覚能力ではコンピュータは人間よりもはるかに劣る。コンピュータで 知覚処理を自動化するのが、パターン情報処理である。視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚などである。この中で視覚と触覚と聴覚の開発に力が入れられている。 ここで有力な手法としてAI(人工知能 ◆音声認識/手書き認識〔1996 年版 artificial intelligence)の適用が始まっている。 OA革命〕 OAシステムと人間とのインターフェースとして、在来から人間が慣れ親しんでいる方法をOAサイドで消化するように研究が進んでいる。シートやブック型 のハンディOA機器で、キーボードの代用として、手書き認識が活用され始めた。キーボードほどの迅速入力はできないものの、キーボードを好まない人への 用途や特定用途には十分に効果的に使われている。 ◆音声応答〔1996 年版 OA革命〕 金融機関で、残高や入金の照会は、機械的な定形的応答だというので、音声応答で自動化がされている。顧客へのメッセージを音声で出し顧客からの応答はプ ッシュボタンや簡単な応答、たとえば「ハイ、イイエ、ドウゾ」や数字などでする。この応答レパートリーも増加の傾向である。システムの回答もコンピュー タ・データを音声合成して自動的に応答する。NTTは、音声応答の機能をもつ「流通ANSER」をDRESSと連動させて一般に提供している。これによ って、会員コード、商品コードデータを声で入れて、与信チェックや商品チェックをし、受発注処理を自動的に行える。 ◆パーコール方式(PARCOR)(partial auto corelation)〔1996 年版 OA革命〕 音声の特徴要素を偏自己相関係数などを用いて、デジタル情報に変換して音素として蓄積し、出力時には、デジタル情報によって音素(音声パラメータ)を合 成して、発音させる方式。音素は、発音のよい人の文章を読む音声から抽出し、作成する。最近は、音素を記録してあるLSIも発売され、いろいろな機器に 応用されている。 ◆漢字OCR〔1996 年版 OA革命〕 漢字仮名混じり文の印刷文字を頁単位で読み取り、テキストデータとしてファイルする装置である。パターン情報処理とAIの進歩によって、ようやく可能と なり、普及が始まった。書籍や新聞、すでに印刷されている文献をファイルに記録し、内容を検査したり、翻訳したりすることができるので、OA化の大きな 穴は、これで解決可能となる。なお、もし読めない文字は、リジェクト(空白に)するか、人間が補足して埋めることになる。 ◆スクロール(scrolling)〔1996 年版 OA革命〕 VDTディスプレイ一画面で表現できる範囲は、せいぜいA4サイズ程度である。一頁の情報がこの画面よりも広いとき、VDT画面をウインドウとみなして、 ウインドウを上下左右に動かして、頁の必要なところを見る操作をスクロールと称する。 ◆マウス(mouse)〔1996 年版 OA革命〕 ディスプレイの中の入力点(カーソルの位置)の位置決め手段である。同種のものにデジタイザ、ジョイスティックなどがある。ケーブルを鼠の尾、指示選択 ボタンを鼠の目、全体を鼠の形と見立てマウスと称している。机上のマウスの位置によって、画面での入力位置を決めたり、メニューを選択したりする。マウ ス・ボタンには一コ、二コ、三コのものがある。マウス・ボタンを押すことをクリック(click)という。パソコンやエンジニアリング・ワークステーションで 画面の自在な操作を行う。キーボードの中の組み込み型のマウスもある。 ◆アイコン(icon)〔1996 年版 OA革命〕 ディスプレイの画面の中に、目で見てそれと分かる絵を示し、それを指定することによりその絵に相当する処理をさせる方式。たとえば、時間を知りたいとき は、時計の形をした絵をマウスで指定する。 もっとも基本となるものとして、キャビネット、フォルダー、フロッピーディスク、ゴミ箱などのアイコンのほか、ジョブアイコン、ファイルアイコン、スク ロールバーなどの種類だけは常識として憶えておきたい。ジョブアイコンは実に多様で、機種によって異なる。キャビネットはこの中にフォルダーを収容する。 フォルダーには、フォルダーやジョブやファイルを多重的に階層構造で収容できる。ゴミ箱は、ここにジョブやフォルダーやファイルを投げ込むとそれらが廃 棄される。それを拾いあげると回復もする。 ◆エンド・ユーザー・ユーティリティ(end users utility)〔1996 年版 OA革命〕 OAの進展で、専門家を介在せず一般ユーザーがOAシステムの機能を十分に引き出せるようにしたソフト。メニュー方式による端末操作など各種のOA支援 機能が提供される。メニュー方式では、メニューを選択するだけで、目的のグラフやレポートをプログラミングせずに作成できる。ROTUS123、EXCE Lなどがそれである。 ◆ウインドウ操作(window operation)〔1996 年版 OA革命〕 パソコン、ワークステーション、ワープロ、DTPなどにおける表示画面をウインドウという。画面の上段にメニューバーがあり、幾つかのメニューからマウ スのポインター(矢印)を動かして、そのうちのオブジェクトを選ぶと、その下にプルダウンメニュー(詳細なメニュー)が出てきて、作業内容を細かく選択 できる。 ジョブ(作業項目)のアイコンの中から、特定のジョブを選ぶと、そのジョブに関するウインドウ(そのジョブに限られた画面)が表示される。 ウインドウは、複数枚を重ね合わせたり、その順番を変えたり、横に並べたりでき、その中から特定のウインドウを選んで目的の仕事を実行する。それぞれ特 定のウインドウは主画面と枠があり、枠には、タイトルバー(メッセージやジョブのタイトルが表示される)やスクロールバーがあり、この中にはクローズド ボックスが必ずある。このボックスをマウスでクリックすると、そのウインドウに関するジョブが終了になる。画面にあるウインドウやアイコンの位置は、マ ウスでドラッグ(drag 引っぱる)して画面の中の自由な位置に移動できる。アイコンやファイルなどをドラッグして、ゴミ箱アイコンに重ねるとそのオブジ ェクトは廃棄される。 ◆スクリーンセーバー(screen sever)〔1996 年版 OA革命〕 CPUの使用中に、ある時間放置したとき自動的に画面を暗くしてVDTの劣化を防ぐ、ソフトウェアである。操作を再開すると自動的に前の画面に復帰する 仕組み。このセーバーにアニメーションや模様を表示するアフターダークなどと称するおしゃれな動画ソフトが流行している。 ◆キーパッド(keypad)〔1996 年版 OA革命〕 端末がコンパクトで薄形になって、キーボードだけのノート状で、CATVなどに付属する入力装置。CATVなどでキーパッドを用いてショッピングをした り、アンケートに答えたりする。 ◆電子黒板〔1996 年版 OA革命〕 黒板ないし白板に書き込んだ文字や絵を認識し、その情報をファイルしたり、印刷したり、伝送したりする装置。画面を操作する分解能力が問題であるが、画 素が二ミリ程度のものまで出ている。会議を行うとき、この黒板に書いたメモがそのまま出力できるので、会議参加者はメモを取る必要がない。 ◆デジタルPPC複写機〔1996 年版 OA革命〕 これまでのPPC(plain paper copy 普通の紙でコピーできる機械)がアナログ方式だったのに対し、デジタル式に画像をとらえて記録し印刷する。倍率を 自由に変えたり、部分的に切り出して複写したり、合成したり自在に操作できる。この処理をコンピュータで行うことからこれをインテリジェント複写機とも 称する。LANにも接続でき、ワープロなどOA機器の出力装置としても利用できる。 ●最新キーワード〔1996 年版 OA革命〕 ●CALS(Continuous Acquisition and Lifecycle Support)〔1996 年版 OA革命〕 CALSは、生産・調達・運用支援統合情報システムと称し、EDI(電子取引)の生産における展開である。アメリカ兵器産業から生まれた国防総省の情 報ネットワークシステムが始まりであるが、そのまま企業をまたがる広域の生産システムに適用できることが注目され、産業界へ広がった。わが国でも一九九 五(平成七)年四月にCALS技術研究組合および推進協議会ができ、広範な適用が準備され、発電所、鉄鋼、自動車などのメーカーで強力に推進されている。 これまでメーカーごとに進めた電子化情報の標準化をはかり、業界共通のシステム、情報形態でデータを互いに公開し、ファイルし、交換することにより、生 産システムにおける部品材料、設計情報の交換のスピードアップ、選択幅の拡大、コストダウンがはかれる。ここでは競争メーカーが企画・開発から部品の調 達、商品の販売に至るまで、製品のライフサイクルに及ぶ広い範囲で協業するという状況が生ずる。なお、マルチメディア対応も進んでおり、情報の質の向上 も、配慮されている。CALSの普及は、いわば、企業間のシームレス化の進展であり、企業構造を変革する要素を持っている。 ●統合・分散・協調〔1996 年版 OA革命〕 OAにおいて統合とは、単位システムによって全体のシステムが統合的に構成され、運営されることをいう。単位となる下位のシステムがそれぞれ自律的シス テムとして成り立ち、共通システムを共有し、各システムがそれぞれ情報を交換しあいながら運営され、結果として全体のシステムが構成される。単なるデー タの集中や命令系統の統一というような集中システムとは異なり、システムが分散され、それぞれの分散システムが独立していることが特徴である。 人間は一つの意思により有機的に構成されている。その手足や体の各部が離されて存在し、それぞれに頭脳があり、独立して動き、その各部が相互に連係をと りながら協調して運営されてゆく、人体とは異なる組織原理である。このメカニズムは、インフォメーションテクノロジーの進展により、はじめて可能となっ てきたものである。 ●シームレス化〔1996 年版 OA革命〕 情報環境の進展とくにネットワークの進展は必然的にボーダレス化を進展させる。企業のネットワークは広域になり、さらに異なった企業間と情報を交換し、 またさらに海外と密接に連携しあう。このような連携において、相互のシステムの間に違いが生ずると、情報の交流が阻害され、コストも上昇する。せっかく のシステムの効果の及ぶ範囲も限定されてしまう。相互にシステムのインターフェースを調整してあわせる必要がある。これが進むと企業間の壁がなくなり、 要するにシームレス化する。シームレス化は、単に企業連携の効率化にとどまらず、企業をまたがる新しいシステムを創造する要素となる。CALSはそのよ うな兆候の代表的な例である。 社会情報システムは、必然的にボーダレス化し、シームレス化が必要となり、地域性や既存の社会システムと競合する。具体的には、IC医療カードが地域で 実用されても、地域を越えた場所では通用しない。医療カードを全国共通にするシームレス化を待たないと、効果が発揮できない。銀行カードもどの銀行でも 通用するようなシームレス化が進められてはいるが、まだ不十分である。一億総背番号制はシームレス化の一つであろう。 ●CD‐ROM書籍〔1996 年版 OA革命〕 読みだし専用のコンパクトディスクを使ったマニュアルないし書籍で、CD‐ROM専用機やパソコンを用いて読む。文字はもちろん、画像はカラーで動画も 可能、音も聞けるというマルチメディアの電子書籍で、アトラクティブである。マニュアル、英会話、童話、辞書などが発売されている。政府刊行の白書をは じめとして付録としてこれを含む書籍の発行が急激に増えている。 CD‐R(録音可能なCD)も普及し、双方向的な書籍も実現している。 ●ウインドウズ 95(WINDOWS 95)〔1996 年版 OA革命〕 マイクロソフト社が開発したウインドウズ 3・1 はマルチウインドウの統合OSとして広く普及している。その改良強化版として、複数ジョブ、LAN対応の機 能の強化を目的として、ウインドウズNTが開発され、さらにこれが開発された。ウインドウズ 95 では、画面(ディスクトップ)が大幅に改良され操作が簡 便になったこと、ダブルクリックの問題を解消したこと、ごみ箱アイコンが登場したこと、二五六文字までの長いファイル名をつけられること、三二ビットア プリケーションへの統一、マルチタスク環境の安定化、パソコン同士の標準ネットワーク機能、システム構成のセットなどの自動化(プラグ&プレイ)などが うたわれている。これに対し、IBMはなおOS/2を進めているが、メーカー各社が追随するとされ、ウインドウズ 95 が支配的になると見られている。 ▽執筆者〔1996 年版 細貝 コンピュータ〕 康夫(ほそがい・やすお) 福井工業大学講師 1934 年神奈川県生まれ。防衛大学校理工学研究科卒。防衛庁技官、三菱総合研究所主任研究員などを経て、現職。情報処理論、コンピュータ概論専攻。著 書は『データ保護と暗号化の研究』『コンピュータウイルスの安全対策』『カードビジネスのすべて』など。 ◎解説の角度〔1996 年版 コンピュータ〕 ●低迷する産業を活性化し、国際競争力を強化し、マルチメディア時代の究極の品質の向上やコスト削減の手段とされるCALS(生産・調達・運用支援統合 情報システム)が日本でも実用化に向けてスタートした。通産省は、RWC計画で開発する四次元コンピュータの概要を発表した。演算機能と通信機能を融合 した独自のマイクロプロセッサを 1024 個搭載した超並列型で、中央演算機構に世界で初めての光配線を実装する。 ●日本電気は、1995 年 12 月に処理性能が 1 テラFLOPS(1 秒間に一兆回の浮動少数点演算を実行)であるスーパーコンピュータ「SX‐4」を出荷する。 これにより、いよいよ「テラマシンの時代」へと突入する。94 年からパソコン用 32 ビットOS(基本ソフト)市場に、IBM社のOS/2ワープ、マイクロ ソフト社の WindowsNT や Windows95 などが投入された。OS市場の覇権争いやネットワーク機能の向上が注目される。 ●データベース管理システム、通信管理ソフト、ソフトウェア開発支援システムなどのミドルウェアが高度でオープンな情報システムを素早く構築する上で重 要性が高まっている。 ★1996年のキーワード〔1996 年版 コンピュータ〕 ★遺伝的アルゴリズム(GA)(Genetic Algorithm)〔1996 年版 コンピュータ〕 GAはミシガン大学のJ・ホランドによって一九七五年に提案され発展してきた。GAは生物が遺伝子を組み換えながら進化する「進化過程」をモデルとした 確率的アルゴリズムである。つまり、遺伝子に見立てた複数の個体(解の候補)からなる集団を用いて、解の候補を次々に組み換えて最適解を探索する計算手 法である。GAでは、解の候補をビット列に置き換る。ビット列の解釈を与えるのが適応度関数である。その関数は各ビット列に対して、与えられた問題空間 におけるその問題の強さ(適応度)を与える。次にビット列を部分的に入れ替える「交叉」や、確率的に選んだ適当なビットを反転させる「突然変異」の処理 を施す。その中から所定の条件を満たす(適応度の高い)解の候補だけを取捨選択して、同様の操作を繰り返す。環境に適応した生物だけが生き残れるように、 条件を満たす解の候補が自動的に作成できる。GAは組み合せが多すぎて解く方がまったく分からない問題でも、比較的スムーズに最適解を求めることができ る。GAの応用事例には、並列コンピュータのタスク割当て、パターン認識、通信ネットワークの設計、最良な生産計画を発見するプログラムの作成、最適な 物流計画システムの立案、ロボットの運動制御などがある。 ★脳型コンピュータ〔1996 年版 コンピュータ〕 通商産業省工業技術院は、 「ブレインウェア(脳機能情報処理)」と名付けた研究プロジェクトを一九九五年度からスタートさせた。 「脳型コンピュータ」とは、 人間の脳の働きをまねて、直観による情報処理や価値判断の能力をもたせたコンピュータである。超高速の情報処理ができる超並列処理コンピュータや、学習 機能に優れたニューラルネットなどの既存技術の長所を組み合わせるほか、シリコン半導体を応用して集積度を高めたり、バイオ素子を使って自然な言葉や音 声で命令できるシステムの開発を目指す。また、カオス理論や非線形学などの最新の知見を取り入れるなど、コンピュータ関連技術を総動員する考えだ。 ★並列コンピュータの標準化仕様〔1996 年版 コンピュータ〕 米ウィンスコンシン大学コンピュータ科学科のM・ビル準教授ら研究チームは、並列コンピュータの標準化仕様「テンペスト」を考案した。テンペストは並列 処理コンピュータの応用プログラムなどのソフトウェアと演算処理を行うハードウェアとを媒介する標準仕様である。並列処理方式は、 「メッセージ交換」、 「共 有メモリー」、 「ワークステーション・クラスター」など様々でソフトウェアの互換性が全くない。研究チームは、各種の並列コンピュータ向け専用プログラム を標準仕様のテンペストを用いたプログラムに翻訳し、他方式の並列コンピュータでも動かせるようにすることを狙う。 ★パソコン省エネ国際基準〔1996 年版 コンピュータ〕 通産省、米環境保護庁、欧州委員会は、パソコン「省エネ・コンピュータ計画」を策定、実施することが、日米欧の間で基本合意に達した。基本合意によると、 国際基準は、米国政府が九四年六月から行っている「エネルギー・スター計画」を日、欧が採用する形で設けられる。パソコン、モニター、プリンタの三品目 について、キーボードに触っていない待機中の消費電力をそれぞれ三○ワット以下、パソコン・モニター一体型の機種では六○ワット以下とする。各国は、製 造、販売業者から基準を満たした製品の登録を受け、製品やカタログに「エネルギー・スター」マークを表示することを認める。日米欧のいずれかに登録すれ ば他の登録は不要とする。基準には法的な義務はなく、登録もメーカーの自己認証で行われる。 ★PCカード(personal computer card)〔1996 年版 コンピュータ〕 PCカードとは、ノート型パソコンなど携帯型情報機器向けのカード型記憶装置のことで、ICメモリー・カードともいう。ノート型パソコンは小型化の代償 として機能拡張性が小さい。PCカードは、ノート型パソコンの機能を拡張し、利用範囲を拡大するために使用される。出張先で情報収集が必要な場合、モデ ム機能をもったPCカードをパソコンのスロットに差し込みデータベースにアクセスすればよい。また、カードの先端に付いているコントロールユニットに電 話線とイヤホーンを差し込めば通話できる。ダイヤルはパソコンが自動的にかけてくれる。オフィスに戻ったらLANアダプターのカードに差し替えてパソコ ンをLAN端末として使える。そのほかに、ハードディスク、フラッシュメモリ、ビデオ、サウンド、FAXの機能をもつカードなどが利用されている。 ★人工網膜チップ〔1996 年版 コンピュータ〕 三菱電機は、高速の画像処理ができる「人工網膜チップ」を用いて、常用漢字の活字一九四五文字を一○○%認識することに成功した。認識速度はビデオカメ ラなどに使われている撮像素子CCD(電荷結合素子)を利用した場合の約千倍。高速の移動物体を追跡する電子の目や各種の画像認識・処理に利用できると いう。人工網膜チップは光を電気信号に変える効率を自由に設定できる感度可変受光素子を基板上に一万六三八四個(一二八 一二八)配列したもの。多数の 素子が捕らえた光信号を同時並列的に処理するため高速処理が可能である。 ★電子化辞書〔1996 年版 コンピュータ〕 日本電子化辞書研究所は、人間の言葉をコンピュータに理解させるための電子化辞書を開発した。開発した電子化辞書は、単語辞書、対訳辞書、概念辞書、共 起辞書の四種類である。電子化辞書は、それぞれの単語がもつ意味を背景にある概念をもとに体系的に整理したものでコンピュータに単語の意味を正しく認識 させることができる。辞書の構造は日本語でも英語でも共通になり、正確な訳文を作る次世代の機械翻訳や人工知能の研究などに応用できるという。単語辞書 は、単語の意味をコンピュータが理解できるように言葉ではなく、特定の概念に対応づけて整理した。つまり、ある単語の意味に関する概念を単語ごとに整理、 概念の番号で表した。単語の数は、日本語版が二五万語、英語版が一九万語である。概念辞書はコンピュータに単語の意味を理解させるもので、四○万種の概 念について、どの概念とどの概念がどんなつながりにあるかを系統的に整理した。対訳辞書は、異なる国の単語を相互に調べることができる。共起辞書は、言 葉の言い回しに関する情報を提供する。 また、コーパス(例文)辞書の開発も進めている。 ★OS/2 ワープ〔1996 年版 コンピュータ〕 IBMは、個人市場をメイン・ターゲットにしたパソコン用OSとしてワープ(Warp)を販売した。ワープは、主記憶容量が最小四MBでも動作し、全体的 な性能が向上している。特に、動画・静止画・音声を扱うマルチメディア機能が充実している。さらに、ワープロやチャートなどの統合ソフト、テレビ会議、 インターネットへの接続、ファクシミリ通信ソフト、パソコン通信ソフトなどの通信機能と各種の応用ソフトが添付されている。 ★ウインドウズ 95(Windows95)〔1996 年版 コンピュータ〕 マイクロソフト社は、次世代パソコンOS「ウインドウズ 95」日本語版を九五年一一月に発売。ウインドウズ 95 は、シェル(ユーザーとコンピュータの仲立 ちをするソフト)が本格的に改良され、操作性が向上している。また、ディレクトリの構造をすぐに見られる「explorer」というユーティリティや三次元グラ フィックス「OpenGL」が搭載されている。さらに、ネットワーク機能として、パソコン通信サービスのサポート、電子メールの送受信、FAXの送受信、イ ンターネットへのアクセス、ダイアラー、電話回線やケーブル接続による他のコンピュータとの接続などがある。 ▲話題のコンピュータ〔1996 年版 コンピュータ〕 CMOS(相補型金属酸化膜半導体)プロセッサの開発と並列処理技術の進歩により、ベクトル並列型スーパーコンピュータが登場し、テラマシン(一秒間に 一兆回の浮動小数点演算を実行するコンピュータ)時代が到来した。一方、超小型パソコンである携帯情報端末(PDA)が実用段階に入った。 ◆超並列コンピュータ(super parallel computer)〔1996 年版 コンピュータ〕 単一のシステムの中に少なくとも一○○○台以上のプロセッサを連結してそれらが互いに協調動作することによって、複数のプロセッサをうまく制御してプロ グラムを分散処理するコンピュータのこと。市場動向としては、米インテル社は処理速度が最大四○○○個のプロセッサーを使って処理速度が三○○ギガFL OPSのPARAGON XP/Sを、そして米シンキングマシン社は、一万六三八四個のプロセッサーを使って処理速度が一テラFLOPS(一○○○ギガ FLOPS)というCM‐5を発表している。研究開発動向としては、東京大学、京都大学など全国一八大学の研究者三九人は、超並列コンピュータ「JUM P‐1」を九五年三月までに製作する。「JUMP‐1」は、サン・マイクロシステムズ社の「スーパースパークプラス」を五六二個搭載しているが、最大一 万六○○○個まで拡張できる。 また、二一世紀までの処理速度の目標は、一テラFLOPSである。 ◆マルチメディア・パソコン(multimedia personal computer)〔1996 年版 コンピュータ〕 音声、静止画像、動画像、文字などマルチメディア情報を一括して扱うために、高度なグラフィック機能、オーディオ機能、ボイス/FAX機能を備えたパソ コンのこと。このパソコンは、CD‐ROMタイトル(ソフトウェア)を動かすためCD‐ROM(コンパクトディスクを使った読み出し専用メモリー)駆動 装置、カラー表示ディスプレイ、スピーカ、テレビチューナー、ファックスモデムなどを一体化している。したがって、情報量の多い動画像や音声のデータが このパソコンで扱えるようになった。 利用範囲としては、企業では社内教育、商品のプレゼンテーションなどであるが、家庭ではテレビ、音楽、ゲームなどが楽しめる。将来は教育全般やエンター テイメント、種々のガイド、趣味などの分野に広がるだろう。 ◆ペンコンピュータ(pen computer)〔1996 年版 コンピュータ〕 液晶パネル上に書いた手書き文字を認識し、入力させる装置を採用したノートブック型パソコンのことで、ペン入力パソコンともよばれている。 企業がペンコンピュータを導入する目的は、 (1)手書き入力やペン操作による操作性、 (2)携帯性または省スペース性などの特徴を活用して、企業情報シス テムのデータ端末として使うことである。ペンコンピュータには、次の四つの入力機能がある。 (1)ペンを用いて画面上の位置を指定する機能、 (2)手書き 文字や図形をイメージで入力するスケッチ機能、 (3)ペンで書いた略号を用いて特定操作を指示するゼスチャ機能、 (4)手書き文字を認識し、文字コードに 変換する文字認識機能。 用途は簡単に携行できるため、販売管理、物流管理、建設物の内装仕上げの検査、競技記録、などである。 ◆携帯情報端末/PDA(Personal Digital Assistant)〔1996 年版 コンピュータ〕 PDAは、ペン入力機能や通信端末機能を備えた手帳(A5判)サイズほどの超小型パソコンで次世代携帯情報端末と呼ばれている。米アップルコンピュータ 社が九三年八月に発売した「ニュートン・メッセージパッド」は、ビデオ・カセットほどの大きさで重量は四四○グラムであり、三二ビットCPU(中央処理 装置)を搭載し、ペン入力機能や手書き文字認識機能を備えており、外部接続の周辺装置を通じてファックス通信や電子メールを送信することもできた。九四 年にゼネラル・マジック社のPDA用OS「マジック・キャップ」を搭載した「マジックリンク」をソニーが発売した。「マジックリンク」は、エイジェント 指向型通信ソフト「テレスクリプト」を備えており、電子メール機能は評価が高い。日本における主な製品は、シャープの「ザウルス」、ヒューレット・パッ カードの「200LX」、富士通の「OASYS Pocket3」などがある。PDAの普及にはOSと通信ソフトの標準化が不可欠であり、マジック社が開発した「マ ジック・キャップ」と「テレスクリプト」を中心に標準化が進められている。 ◆インテリジェント・パッド(IP)(intelligent pad)〔1996 年版 コンピュータ〕 北海道大学の田中譲教授らの研究グループは、貼り絵の要領でプログラムが作れるIPシステムを開発した。パッドとは内部に状態とその処置プログラムを合 わせもつのが可能なオブジェクトで、画面上では紙のように表現できる。基本パッドは大小さまざまな紙のような外観で、文字の表示、画像の表示、数値計算、 縮小・拡大を指示するレバーなどそれぞれ一つずつ機能をもっている。ユーザーはマウスを使って、コンピュータの画面上で基本パッドを視覚的に組み合せる だけで多様なプログラム(合成パッド)が簡単に作ることができる。たとえば、バネの機能を模擬するパッドと滑車のパッドを組み合わせると、バネと滑車に よる理科実験のシミュレーションソフトが小学生にも作れる。九三年七月に約四○社によってIPコンソーシアムが設立された。その設立目的はIPの標準化 を図り、IPがどのコンピュータでも動作可能にさせるためである。また、日立製作所と富士通は業界標準をめざして、IPシステムの製品を発売した。 ◆スーパーコンピュータ(super computer)〔1996 年版 コンピュータ〕 同時代のコンピュータの中で最も超高速の演算能力をもつものを呼ぶ名称である。原子力、気象、宇宙などの膨大な計算が要求される分野で利用されている。 最初米クレイ社のCRAY‐1(クレイ・ワン)が市場に出荷され、この名が浮上した。同社は、処理性能が六四ギガFLOPS(一ギガFLOPSは一秒間 に十億回の浮動少数点演算を実行)であるCRAYC90 の後継機(開発コード名はトライトン)を九五年二月に販売した。次に、富士通は、処理性能が三五五・ 二ギガFLOPSである「VP500」を発表した。これに対して日本電気は処理性能が一テラFLOPS(一秒間に一兆回の浮動小数点演算を実行)である最 上位機種「SX‐4」を九五年一二月に出荷し、世界最高速に踊り出た。 ◆データフローマシン/SIGMA1(data flow machine)〔1996 年版 コンピュータ〕 アメリカ、マサチューセッツ工科大学のJ・B・デニスが提案した非ノイマン型コンピュータの一種で、データ駆動コンピュータとも呼ばれる。このコンピュ ータには命令の逐次実行系列を制御するプログラム・カウンタがない。その代わり、各命令は命令の種類と命令の実行結果の行先情報をもち、プログラム自体 はデータの依存関係を示すデータフローとして表現される。並列計算による高速性があり、非定型的高速処理を要求される科学技術計算用として期待されてい る。工業技術院(つくば市)はデータ駆動型の並列処理コンピュータSIGMA1を開発した。演算処理装置は約七○○個の集積回路で構成され、これに記憶 などを扱う処理装置を加えたものを四組まとめて基本ユニットとしている。 処理速度は、一秒間に一憶七○○○万回の加減乗除を行う能力をもっている。ネットワークを介して、三二ユニットの演算処理装置をホストコンピュータによ って制御することに成功した。 ◆OLTPマシン(Online Transaction Processor)〔1996 年版 コンピュータ〕 このマシンは、内部に複数の中央演算処理装置やメモリー、ディスクを装備しており、システムの一部が故障しても全体を停止することなく修復できるもので、 別名ノンストップコンピュータという。そのため、従来の汎用機に比べてオンライン取引の処理に適している。導入効果として、(1)多数のオンライン取引 処理が汎用機より優れ、コストも安い、(2)故障に強く、二四時間無停止の稼動が可能(3)システムを柔軟に拡張できるなどがある。 このマシンの技術動向は、RISCチップを採用し高性能化している、データベース機能の充実によりデータベースマシンとしても利用できる。 ◆ニューロコンピュータ(neuro computers)〔1996 年版 コンピュータ〕 脳を構成している神経細胞(neuron)・神経回線網(neural network)の構造・情報処理機能をモデル化し、高度の情報処理装置の実現を目指したコンピュー タをニューラルコンピュータ(neural computers)とよび、この原理を既存のノイマン型コンピュータの上にソフト的に、またはハード的に模倣したコンピュ ータをニューロコンピュータと通常称している。ニューロコンピュータモデルは非線形のニューロモデルを数多く結んだネットワーク上で並列分散的に情報処 理を行うところに特徴がある。このアプローチのことをコネクショニズムとか並列分散ともよぶ。 応用分野には、英文の音読学習、両眼立体視モデル、パターンの認識・理解、ロボット制御、金融関係の予測、大量あいまい情報の処理などへの適用例が多く みられる。 ◆光コンピュータ(optical computer)〔1996 年版 コンピュータ〕 光の優れた属性を生かした新しい発想でイメージされているコンピュータである。光を情報処理に利用するとき着目されている属性は、(1)超並列・高速処 理、(2)信号の空間配列の利用、(3)信号処理の多機能性、(4)信号相互間の無干渉性、(5)広帯域性、(6)信号の多様性、などである。 現在研究中の光コンピュータの方式には、(1)時系列演算方式(ノイマン方式)、(2)並列アナログ演算方式(画像処理による方式)、(3)並列デジタル演 算方式の三つがある。目指すところは超並列・高速処理コンピュータであり、ニューロコンピュータの技術として期待されている。しかし、その実現には光技 術に適したアーキテクチャの研究をはじめ光インタコネクション(素子間を光で接ぐ技術)、非線形光学素子、空間光変調器の開発など多くの課題がある。 ◆光ニューロコンピュータ(optical neuro computer)〔1996 年版 コンピュータ〕 ニューロコンピュータは生物の脳の情報処理機構をハード的に模倣したもので、その特徴は「並列処理」と「学習」にある。この機能を光演算器を利用しレン ズの組合せやホログラフィにより相関などの演算を行わせたものが、光ニューロコンピュータである。 光ニューロコンピュータの特徴は、 (1)光には空間並列性という特徴があり、膨大な数のニューロン間配線が可能である、 (2)光波は互いにクロストークを 受けないで伝搬し、伝送容量が大である、(3)超高速演算ができるなどである。 ベクトル行列演算に光技術を応用した光連想メモリーの研究や光アソシアトロンなどの学習機能をもつコンピュータ。 ◆ファジーコンピュータ(fuzzy computer)〔1996 年版 コンピュータ〕 ファジーとは、柔らかでぼんやりしていて、あいまいなことをいう。現在使われているノイマン型コンピュータは1か0か、正か負か、というように二値論理 (デジタル論理)で割り切っている。これをクリスプ(crisp)な世界というが、クリスプでは中間的な値がうまく取り扱えない。ファジー論理ではメンバーシ ップ関数という一種の確率変数で中間的なあいまいな状態を表現し、人間の言葉のあいまいな意味内容を数理的に扱えるようにした。第一世代ファジーは、地 下鉄の運転、掃除機、洗濯機、調理器などの自動制御に威力を発揮した。第二世代ファジー(the second generation fuzzy)は、人間や社会に直接働きかけ、 知識処理に威力を発揮するといわれている。人間は直感や経験に基づく融通自在(ファジー)な行動を行う。これらをコンピュータでやらせようとするのがフ ァジーコンピュータである。九州工業大学では、ファジーチップを開発し、本格的なコンピュータ化を目指している。ファジー・ソフトウェアはコンピュータ 言語でこれを実現させたもので、ファジーProlog、ファジーLISP、ファジー・プロダクションシステムなどが開発されている。 ◆手話通訳のモデルシステム〔1996 年版 コンピュータ〕 日立製作所は、コンピュータを用いて手話を通常の文章に変換する手話通訳のモデルシステムを開発した。手話者が特殊な手袋をはめて手話すると、コンピュ ータが手の向きや指の形を認識し、意味を把握するのである。これによって聴覚障害者と健常者のコミュニケションが手話通訳者なしで可能になる。手話者が はめる手袋には一○本ずつの光ファイバーが張り付けられ、指の曲がり具合を検出する。手袋の甲につけたセンサーで手の位置や角度を割り出し、これをワー クステーション上で文書化する。現在は、約二○種の単語の組み合せによる「頭がとても痛い」、 「胃が重い感じがする」程度の文章しか通訳できないが、将来 は三○○○語近くに対応できるようになるという。 ◆人工聴覚チップ/人間くさいコンピュータ〔1996 年版 コンピュータ〕 三菱電機は話し声に込められている感情を判定できる「人工聴覚チップ」を世界で初めて試作した。このチップはアクセントなどの違いを瞬時に読み取り、学 習機能を働かせて言葉の背後にある感情を類推する。それは学習効果を備えた光ニューロチップとよばれるLSIで、一二ミリ角のガリウムヒ素基板の上に一 万六○○○個以上の光記憶素子を集積した。この素子に、「このアクセント、イントネーションならこんな感情が込められている」といった経験データを入れ ておく。音声信号を経験データに照合して分析する仕組みである。 「楽しい」と「たいくつ」の二つの言葉を感情を込めて発音する実験をしたところ、このチップは音声に込められた特徴を聞き分けることができたという。 この成果により、使い手の気分を察して動く「人間くさいコンピュータ」や、特定の人の声にだけしか応答しない音声入力の家電製品、防犯システム、教育機 器などへの応用が期待される。 ▲コンピュータ・ネットワーク〔1996 年版 コンピュータ〕 BPR(業務革新)の推進、マルチメディアやインターネットへの関心の高まりに伴い、パソコンLANやクライアント・サーバシステムを導入する企業が増 えている。その運用にはネットワークOSやセキュリティ技術が必須であり、動画などの大量データを高速転送するプロトコル(通信規約)の標準化が望まれ る。 ◆コンピュータ・ネットワーク(computer network)〔1996 年版 コンピュータ〕 独立した複数のコンピュータ・システムを通信回線により、互いに資源を共有することができるように結合させたシステムのこと。コンピュータ・ネットワー クの特徴として、(1)複数の処理装置を含むこと、(2)処理装置が独立または共同して動作できること、(3)処理装置間が有機的に結びついていることが あげられる。その効果には、(1)通信回線の共用による通信コストの削減、(2)分散による信頼性の向上、(3)異業種間の結合による複合型業務処理の実 現化、(4)情報流通の促進などがある。 コンピュータ・ネットワークは、規模により、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)とワイド・エリア・ネットワーク(WAN)に大別される。 ◆ホストコンピュータ(host computer)〔1996 年版 コンピュータ〕 複数のコンピュータを一緒に使用する場合、フロントエンドプロセッサ(前置処理装置)に対して背後にいて、主役(ホスト役)となるコンピュータをホスト コンピュータという。たとえば、大型コンピュータをホストコンピュータとして、それに、フロントエンドプロセッサのミニコンやパソコンを回線でつなぎ、 非常に時間がかかり複雑な処理をホスト側にやらせて、ミニコンやパソコンは端末としてデータの入出力を行ったり、パソコンがホストからの指示により各種 の処理を分担して行ったりする。 ◆OSI(開放型システム間相互接続)(Open System Interconnection)〔1996 年版 コンピュータ〕 OSIは、異機種のコンピュータ間の通信を実現するために定められたネットワーク・アーキテクチャの国際標準である。このアーキテクチャは、各種のコン ピュータや端末さらにはそこで動作するソフトウェアの機能と役割を明確にするとともに、コンピュータ間の通信のプロトコル(通信規約)を体系的に定めた ものである。またネットワーク・アーキテクチャの異なるシステム同士の接続は原則的にはできない。OSIでは、構成要素のモデル化(基本参照モデル)、 資源の仮想化、プロトコルの階層化(七階層)などを基本コンセプトとし、現在、ISO(国際標準化機構)とCCITT(国際通信電話諮問委員会)が協調 して標準化の作業を行っている。 ◆ネットワークOS/NOS(Network Operating System)〔1996 年版 コンピュータ〕 NOSとは、アプリケーション・プログラムに対して通信関連サービスを提供すると同時に、中位レイヤのプロトコル処理を行う基本ソフトウェアのことであ る。NOSの基本機能としては、サーバ上のファイルとプリンタの共有機能、ユーザー管理とセキュリティ機能、障害対策機能があげられる。その導入効果は、 (1)異機種接続ができるため、ユーザーが自由にLANのハードウェアを選択できる、 (2)既存の情報資産が継承できる、 (3)パソコンの能力を最大限に 引き出せる、(4)市販のパッケージ・ソフトウェアを手軽に利用できるなどである。 ◆非同期伝送モード/ATM(Asynchronous Transmission Mode)〔1996 年版 コンピュータ〕 ATMとは、マルチメディア時代における大量情報の転送に対応した、パケット通信による情報通信の基準のこと。米ベル研究所で一九六○年代末から開発を 進めてきた非同期時分割マルチプレックサ(ATDM)の技術を基に、九○年代から実用化が進められている。ATMでは、送信する各文字の前後にスタート ビット「0」とストップビット「1」を挿入して文字ごとに区切りを入れ、これらのビットを手がかりにして、受信側が文字を同期させる。調歩同期式ともい う。九五年四月に開催されたプロトコルの国際標準化を図る国際会議(ISO/IECJTC1/SC6)において、高速転送プロトコルは、米国が提案した DQDB(ディストリビュテッド・キューデュアル・バース)方式に決定された。日本提案のATM方式が採択されなかったため、国内のコンピュータ・メー カーは、今後DQDB方式への対応を余儀なくされることになった。 ◆インターオペラビリティ(interoperability)〔1996 年版 コンピュータ〕 コンピュータ・システムの相互運用性があること、つまり、汎用コンピュータ、ミニコン、パソコンなど異なるシステムで処理された情報を相互に交換して円 滑に利用できることをいう。異機種接続ができないとか、ソフトウェアの互換性がないなどの問題が情報化の進展を阻害しており、インターオペラビリティの 確保が重要視されてきている。 その確保の方法には、標準化と変換による方法がある。標準化は、技術革新が著しいことなど多くの問題があるが、国家規格や国際規格制定の検討が世界各国 で進められている。標準化のなされない部分は、データ変換、プログラム変換、プロトコル変換などにより対処している。 ◆マルチベンダーマシン方式(multi-vender machine supply)〔1996 年版 コンピュータ〕 複数のベンダー(製品の製造・供給元)から異機種のコンピュータの供給を受けること。これまでコンピュータは同一メーカーの機種に統一されて利用されて いたが、ユーザーはそれぞれの業務に適した異機種のパソコンやワークステーションをネットワークを介して、使用するようになってきた。それをマルチベン ダー環境という。これはメーカーを互いに競争させてよりよい情報システムを構築しようとするユーザーの知恵といわれている。これからは他社のコンピュー タもユーザーの要求に応じて相互接続の保証をしないと、メーカーはビジネスとして成立しなくなる。 ◆MML(マイクロ・メインフレーム結合)(Micro Mainframe Link)〔1996 年版 コンピュータ〕 MMLは、メインフレーム(ホストコンピュータ)とパソコンを通信回線で接続して互いに協力し合って処理を進める方式である。MMLでは、ホストコンピ ュータとパソコンの連携による機能分散とデータベースの共有が可能となり、利用者にとってマン・マシン・インタフェースのよい環境が構築できる。MML には、 (1)端末エミュレータによりパソコンをホストコンピュータの端末とする段階、 (2)ホストコンピュータとパソコンの間でファイル転送を可能とした 段階、 (3)パソコンとホストコンピュータが相互のデータベースを自由にアクセスしたり相互のアプリケーション同士でデータをやりとりできる段階がある。 ◆プロトコル変換(protocol conversion)〔1996 年版 コンピュータ〕 プロトコル変換とは、異機種のコンピュータのプロトコル(通信規約)を整合させる処理で、VAN(付加価値通信網 Value Added Network)サービスの一 つである。異機種のコンピュータ間のデータ通信を実現するには、まず、プロトコルを整合させる必要がある。OSIなどで標準化の検討を進めているが、コ ンピュータメーカーが独自に定めている部分が多く、通信目的に応じてさまざまなプロトコルが使われているのが現状である。また、通信相手が多くなれば、 それごとにプロトコル変換を行うソフトウェアが必要となる。VANにより通信網自体がこの機能をもてば、コンピュータのネットワーク化と企業間のデータ 通信に有効となるであろう。 ◆コンピュータ・セキュリティ(computer security)〔1996 年版 コンピュータ〕 自然災害(地震、火災、水害等)、システム構成要素(機器・ソフトウェア自体)の障害、不法行為(コンピュータ室への不法侵入、不当アクセス、操作ミス 等)などの脅威から、コンピュータ・システムを構成する入力・出力機器、ネットワーク、コンピュータ本体、ソフトウェア、データなどの資源を保護するこ と。 コンピュータ・セキュリティ対策は、(1)技術面における対策、(2)運用管理面における対策、(3)法制面における対策に大別される。これらの対策によ り、保護される利益としては、(1)個人の生命、身体、プライバシー、生活の利益、(2)個人および企業の経済的利益、社会的信用、(3)社会、経済の安 定的運用などがある。 ◆データ暗号規格/DES(Data Encryption Standard)〔1996 年版 コンピュータ〕 アメリカ商務省標準局(NBS)が一九七七年に公布したアメリカ連邦政府機関の標準暗号方式である。NBSが七三年に公募した中からIBMが開発・提案 した方式を採用した。送信者と受信者が同一の鍵を用いて通信文を暗号化・復号するという慣用暗号方式の一種である。その処理手順は、六四ビットに分けら れた平文の入力を五六ビットの鍵が制御しながら、一六段にわたる転置と換字処理を行って六四ビットの強力な暗号文を出力する。復号は、これと逆の操作に よって行われる。その特徴は、(1)取扱いが容易なこと、(2)暗号化・復号の処理効率がよいこと、(3)鍵の生成が容易なことである。 ◆公開鍵暗号方式(public-key cryptosystem)〔1996 年版 コンピュータ〕 スタンフォード大学のヘルマン、ディフィー、マークルらが共同で発案した新しい暗号方式で、その原理は、次のとおりである。受信者が一対の暗号化鍵(公 開鍵)と復号鍵(秘密鍵)を作成し、復号鍵を秘密に保持するとともに暗号化鍵を公開して送信者に配送する。送信者は配送された暗号化鍵で平文(通信文) を暗号化し、暗号文を受信者に送信する。受信者は受信した暗号文を復号鍵で復号し、平文を得る。この方式は、一九七七年マサチューセッツ大学のリベスト らが素因数分解の困難さを利用したエレガントなアルゴリズムを開発し実現化した。彼らの頭文字をとってRSA方式という。この方式の特徴は、暗号化鍵を 公開しているため鍵管理が容易であり、また、デジタル署名が容易に実現できることである。 ◆デジタル署名(digital signature)〔1996 年版 コンピュータ〕 データ通信では、手紙のように本人確認のための直筆署名を付けられない。デジタル署名とは、デジタル通信情報に対し、送信者の身元の識別・確認と情報の 内容が偽造されていないことを識別・確認する手続きである。デジタル署名は安全性の面から、 (1)署名文が第三者によって偽造されない、 (2)署名文が受 信者によって偽造できない、(3)署名文を送った事実をあとで送信者が否定できない、ことの三つの条件を満たす必要がある。 デジタル署名には、通信者間で署名生成に使用する情報を秘密にもつ一般署名と、送信者が調停者にメッセージと署名を認証してもらう調停署名がある。調停 署名は条件(3)を満たす。慣用暗号方式では、条件(1)だけを満たし、一方、RSA公開鍵暗号方式は条件(1)と(2)を満たす。それゆえ、重要なデ ータ通信では、RSA公開鍵暗号方式と調停署名を用いるのがよい。 ◆識別情報に基づく暗号方式(ID-based system)〔1996 年版 ID entity(識別子 コンピュータ〕 具体的には名前、住所のこと)を鍵の代わりに使うという発想による暗号方式である。つまり、送受信者間で公開鍵や秘密鍵を交換す る必要が全くなく、また、鍵のリストや第三者によるサービスも不要で、任意の利用者間で安全に通信ができ、かつお互いに署名が認証できる暗号方式である。 識別情報に基づく暗号方式と署名方式の基本概念は、一九八四年に開催された Crypto'84 において Shamir によってはじめて提案された。 ▲コンピュータの利用〔1996 年版 コンピュータ〕 人間の知的活動を支援するための道具として、コンピュータが利用されている。ネットワーク環境における分散されたプログラム間の連携をスムーズにするた めにミドルウェアの利用がますます重要になってきた。一方、生物の生態や振舞いから特別な問題を解決するためのアルゴリズムが研究・開発されれている。 ◆人工知能(AI)(Artificial Intelligence)〔1996 年版 コンピュータ〕 人工知能研究が正式に始まったのは、一九五六年に行われたダートマス会議である。人工知能とは、高度情報処理技術者育成指針(中央情報教育研究所編)に よれば「人間が用いる知識や判断力を分析し、コンピュータプログラムに取り組み、知的な振舞をするコンピュータシステムを実現する技術である」としてい る。 AIに期待されている効果は、情報を相互に独立する個々のモジュールを内部にもち、ユーザーの必要に応じて問題解決手順に組み立てる知的な働きである。 AI研究には次の二つのアプローチがある。(1)科学的立場からのもので、シミュレーションによって知能のメカニズムを解明することを目的に、コンピュ ータが使われている。この場合は一般的に認知科学といわれている。(2)工学的立場からのもので、知的能力をコンピュータに与えることを目的とし、知識 工学とよばれる分野に属している。応用面ではエキスパートシステムがある。 ◆群知能〔1996 年版 コンピュータ〕 個々のアリ(蟻)は、餌を集めるにしても、においの刺激に応じて条件反射で行動するだけで「餌を探して集める」と考えて行動するわけではない。しかし、 こうした単純作業も多数のアリが繰り返すと、一定の効率で「餌を探して集める」という目的が達せられる。賢くないアリを多数集めると、単純な足し算では なく、群れにそれ以上の知能、つまり群知能が生まれる。 三菱電機中央研究所は、群知能を応用した文書分類法を開発した。アリがにおいをもとに餌などを分別するのと同様に、文中の特定の単語を手がかりにコンピ ュータが内容ごとに分類する。高度の人工知能を使わなくてすむのがこの応用の利点で、膨大なデータベースにある大量の文書情報の自動分類に有効。東大工 学部の三浦宏文教授らの研究グループは、超小型ロボットであるマイクロマシンの制御にアリの群知能を利用して、多数のロボットを目的に向かって誘導する 研究を進めている。群知能では一台のロボットは交信や指揮のための高度な人工知能やセンサーを搭載しないから、サイズが小さく、多くの機能を搭載しにく いマイクロマシンに適しているという。 ◆最大クリーク問題の解明法開発〔1996 年版 コンピュータ〕 情報科学で最難問の一つ、集団の中で特定の性質をもった最大のグループを見つけ出す「最大クリーク(派閥)問題」を高精度で画期的なスピードで解くこと に、電気通信大学電子情報学科の富田悦次教授らのグループが成功し、電子情報通信学会で発表した。 この問題は、たとえば二国間を「友好的」か「非友好的」に分けた場合、どの二国間をとっても友好的な国どうしの最大派閥を探すことである。 この問題を厳密に解くためには、あらゆる国の組合せが派閥かどうかしらみつぶしに調べる必要がある。この方法だと国の数が増えると膨大な計算時間が必要 になる。そこで実用的な意味で正解に近い答を高速で得る近似解法が求められていた。近似解法の基本的な計算手順は六段階(行)で表すことができ、パソコ ンでもプログラムを組める。 実用分野には、電子回路回線の最短化や作業工程の最適化といった工業面のほか、高収益店舗の最適配置、人員の適正配置、放送周波数の割り当てなど産業上 の合理化、効率化への適用が考えられる。 ◆CIM(Computer Integrated Manufacturing)〔1996 年版 コンピュータ〕 CIMとは、これまで設計、製造、在庫管理など部分的に構築されていたシステムを共通のデータベースのもとで統合、受注から製品納入までの一連の企業活 動に関わる情報の流れを一元化した統合FAシステムのこと。CIMという言葉が生まれた背景には、生産管理、設計および販売管理などの各部門のシステム 化がほぼ完成し、市場ニーズの多様化に対応する部門間システムの統合化が求められたからである。CIMのメリットは、(1)製品企画から製品化までの時 間の短縮、(2)多品種少量受注と生産への対応、(3)間接労務費の削減、(4)製品になる前の仕掛かり品の削減などがある。 ◆プログラミング環境/シグマシステム〔1996 年版 コンピュータ〕 プログラム開発の各過程で必要な作業を支援するシステムをプログラミング環境といい、それはソフトウェアの生産性と品質向上に大きな影響を与えている。 シグマシステムやCASEもプログラミング環境を構成するツールの一つである。 シグマシステムは、情報処理振興事業協会シグマシステム開発本部が担当したΣプロジェクトの成果物で、プログラミング環境を提供する。Σプロジェクトは、 第一段階が一九九○年三月に終了した。その後第二段階の普及・運用に入り、システムを強化・拡充するため中核的事業主体として株式会社シグマシステムが 設立された。 ◆構造化プログラミング(structured programming)〔1996 年版 コンピュータ〕 方法論はプログラム制御構造を規定し、独立性と保守性の高いプログラムを作成することを主な目的とする。構造化プログラミングは、段階的に細分化(トッ プダウン)しながら作成される。まず、最初に論理全体を口語で記述し、「何をするのか」を明らかにする。次に、そのプログラムの章だて、段落わけを行い 論理的に意味の完結したモジュール化をはかる。最後に、それぞれの処理をその処理系に適合するようさらに詳しく記述する。この記述に際しては、順次、選 択、繰り返しの三つの制御構造を用い、基本的にGO TO文などの無条件飛び越し命令を使用しないことによって、結果的に制御構造が明確で他のモジュー ルから独立性の高いプログラムが作成される。 ◆手続き型言語/非手続き型言語(procedural language/non-procedural language)〔1996 年版 コンピュータ〕 手続き型言語は、変数の値を書き換えることを前提とし、計算の手順を直接的に記述するプログラミング言語で、ノイマン型コンピュータの機械語の動作の直 接的な表現に近いものである。現在、ソフトウェアの開発に使われている主要なプログラミング言語であるCOBOL、FORTRAN、BASIC、C、P ASCAL、Ada などはすべて手続き型である。 これに対して、ノイマン型の逐次的な手順型実行の概念にによらずに記述するプログラム言語を非手続き型言語という。計算の過程を関数の合成で記述する関 数型プログラミング言語(LISPなど)や、処理対象の間の関係を示す論理式で記述する論理型言語(Prolog など)がある。これらは、処理するデータの間 の関係や処理対象の間の因果関係を記述するため、処理の構造がわかりやすい、並列処理構造の表現がしやすいなどの特徴があり、人工知能用言語として注目 されている。 ◆第四世代言語(4GL)(4th Generation Languages)〔1996 年版 コンピュータ〕 第四世代言語の明確な定義はない。通常は、データベースの扱いを前提としたオンライン事務処理用のアプリケーションを対話型で開発するための支援ツール のこと。 習得とシステムの変更が容易で、COBOLやFORTRANなどより生産性が数倍以上向上するといわれている。ほとんどの事務処理業務に適用できるが、 それぞれ得意な適用分野をもっているために、各言語を使いわけることが望ましい。今後は、4GLはシステム開発全体を支援する一貫支援ツール群の中核に なるとみられている。また、オブジェクト指向の概念を取り入れたイベント駆動型4GLの開発が進められている。現在、知られている4GLには、IBMの CSP、ユニシスのMAPPER、インフォメーション・ビルダースのFOCUSなどがある。 ◆DBMS(データベース管理システム)(Database Management System)〔1996 年版 コンピュータ〕 データベースの維持と運用、すなわち、複数のユーザーが同時に更新や検索をしても効率よく処理しかつデータに矛盾が起こらないように管理するソフトウェ アをDBMSという。また、DBMSをハードウェア化して組み込んだコンピュータをデータベース・マシンという。DBMSは汎用ソフトウェアとして多く の商用システムが開発されており、これらはデータ構造から、階層型、ネットワーク型、リレーショナル型に分類することができる。近年、オブジェクト指向 DBMSが登場し始め、複雑な図形データの管理や、音声、イメージ等のマルチメディア・データの統合管理に威力を発揮している。 ◆SGML〔1996 年版 コンピュータ〕 標準一般化マーク付け言語。SGMLは、卓上出版(DTP)を実現するための文書処理系の言語である。SGMLは、文書中に論理構造を示すマークである タグ(荷札)および文書構造の記述方法を指定することができる。SGMLの導入効果は、マルチベンダ環境における文書の交換や電子的処理を可能にするこ とである。また、情報をプリンタ、ディスプレイ、CD‐ROMなどの様々な媒体へ出力したり、情報の取り出しができることである。SGMLは、国際標準 化機構(ISO)で標準化されており、欧米の公的機関をはじめ、米国国防総省や欧州共同体出版局など公的機関、さらにオックスフォード大学出版局で採用 している。もちろん、米国国防総省のCALSにおいてもこの言語が規格として採用されている。日本では、八九年五月に通商産業省の指導で日本規格協会を 事務局に印刷、出版、電機メーカーなど三五社が「SGML懇談会」を発足させた。通商産業省は、九二年秋までに特許公報をSGMLで編集したCD‐RO Mの作成を進めている。また、SGMLのJIS化にも着手している。 ◆グループウェア(groupware)〔1996 年版 コンピュータ〕 協調して作業を進めるグループのために特別に設計されたシステムのこと。また、グループによる知的生産活動を支援するコンピュータ・システムともいわれ る。グループウェアの導入目的は、組織やチームなどグループによる仕事の効率化を図るとともに創造的な仕事を支援することである。主な製品には、オンラ イン・マルチメディア会議システム、共同執筆・デザイン・出版システム、フィルタリング機能付き電子メール、ワークフロー管理ソフトウェア、共同意思決 定支援システムなどがある。技術的課題には、 (1)人間の共同活動のモデル化や交換情報のモデル化を行う技術の確立、 (2)必要な情報を的確に選別し、利 用者に提示する情報フィルタリング技術、 (3)利用者に自由度の高いアクセス制御権を与えるための共有データの管理技術、 (4)グループ調整機能を含むグ ループ通信技術、(5)共同作業を円滑に実施するため、参加者間に密接な情報交換を行う協調型共同作業技術などがある。 ◆自然言語処理(natural language processing)〔1996 年版 コンピュータ〕 自然言語とは、相互の意思疎通を行う手段として、人類の誕生とともに自然発生的に生まれ、人類の進化とともに発展してきた言語をいう。計算機を用いて自 然言語を処理するのが自然言語処理である。 自然言語処理の意義は、言語理解の過程がどのようになっているかを研究し、使用言語の相違に基づく意味上の差違を解消して、人間とコンピュータとの新し いインタフェースを確立することである。 自然言語処理の応用には、ワードプロセッサの文字作成支援、データベース・システムの自然言語インタフェースによる検索、機械翻訳やエキスパート・シス テムへの質問応答などがある。 ◆機械翻訳(machine translation)〔1996 年版 コンピュータ〕 機械翻訳とは、コンピュータを用いてある言語(原言語)で書かれた表現(原文)から、原文と同じ意味をもつ他の言語(目標言語)の表現(訳文)を生成す る技術である。機械翻訳システムの導入目的は、翻訳のコスト削減やスピードアップを実現することである。 翻訳方式は、次の三つの方式に大別される。 (1)直接変換方式 単語の置き換えや語順変換等により原文から直接訳文に変換する。 (2)トランスファ方式 文を解析し、原言語の中間表現を目標言語の中間表現に変換してから、訳文を生成する。(3)中間(ピボット)言語方式 原 意味解析を徹底的に行い、原文を 原言語に依存しない普遍的意味表現(中間言語)に変換してから、訳文を生成する。機械翻訳システムの普及には、電子化辞書の作成・整備が不可欠である。 現在通商産業省の指導で日本電子化辞書研究所が電子化辞書の充実を図るため、単語辞書、概念辞書、共起辞書、対訳辞書、日本語コーパス(例文)などを開 発している。 ◆仮想現実感/人工現実感(virtual reality/artificial reality)〔1996 年版 コンピュータ〕 仮想現実感(バーチャル・リアリティーVR)とは、人間の感覚器にコンピュータによる合成情報を直接提示し、人間周囲に人工的な空間を生成することであ る。これは人工現実感(AR)とも称されている。人工現実感の研究は現在機械技術研究所や米航空宇宙局で進められている。仮想体験システムは、仮想現実 感の技術を応用して、仮想環境を作り出し対話的に疑似体験を提供するシステムのこと。事例には、住宅展示場で特殊なアイフォンというメガネに写る虚像と データグローブによりキッチンルームの体験をしたり、難病児の医療用として病室で多摩動物公園を散策する体験をしたり、教育用としてタービン発電機の生 産工場モデルで危険な作業の安全性を学ぶことなどがある。 ◆コンピュータ・シミュレーション(computer simulation)〔1996 年版 コンピュータ〕 シミュレーションとは、現実の場を使って実験することが困難な場合または不可能な場合に何らかの模型を作って実験を行うものである。また、様々な情報を 収集し、分析し、起こりうる状況を想定して行動の指針にする方法ともいわれている。コンピュータ・シミュレーションは、数学的モデル(模擬表現)を作成 しコンピュータによってシミュレートするもので、確率論的と決定論的シミュレーションがある。プログラムの作成はかなり複雑で高度な技術が必要であるた め、GPSS、DYNAMO、CSMPなどの汎用シミュレーション言語が開発されている。 ▲よく使われるコンピュータの基礎用語〔1996 年版 コンピュータ〕 システムソフトウェアは、ハードウェアの機能を効果的に活用させるものである。また、人間とコンピュータという二つの異なった性格を有する知的主体を有 機的に結合し、最高の性能を発揮させる必要がある。そのためには、ソフトウェア体系やヒューマンインタフェースなどの基礎知識をよく理解させることであ る。 ◆アーキテクチャ(architecture)〔1996 年版 コンピュータ〕 ハードウェア・ソフトウェアを含めたコンピュータシステム全体の設計思想、つまり構成上の考え方や構成方法のことをアーキテクチャという。これによりコ ンピュータシステムの使い勝手、処理速度などの基本的な性格が決まる。具体的には、ハードウェアでは、処理単位である語長、記憶装置やレジスタのアドレ ス方式、バスの構成方法、入出力チャネルの構造、演算制御や割り込みの方法などがある。 また、ソフトウェアでは、オペレーティング・システム(OS)の機能と構成、使用言語、プログラム間のインタフェースなどである。 ◆RISC(縮小命令セットコンピュータ)(reduced instruction set computer)〔1996 年版 コンピュータ〕 RISCは、CPU(中央処理装置)内の命令語のアーキテクチャ(設計思想)に関する言葉である。従来からのCISC(複合命令セットコンピュータ complex instruction set computer)は、複雑な命令語体系をもち、計算速度やコストが犠牲にされていた。しかし、RISCは単純で限定された数の命令語体系をとり、 演算方式を単純化してスピードアップとコスト削減を図った。 RISCチップの主な製品にはSPARC、PARISC、MIPS、パワーPC、アルファがある。現在はRISCチップの低価格化が進み、ビジネスWS の市場が拡大されている。また、無停止型のOLTPマシンにも搭載されており、さらに六四ビットのRISCを搭載し、処理能力が二○○MIPSもあるW Sが発売され、いよいよ六四ビットの時代に突入する。 ◆TRON(The Realtime Operating system Nucleus)〔1996 年版 コンピュータ〕 TRONとは数千、数万のコンピュータを接続し、さまざまな相互関係をもたせながらそれぞれの目的を同時並列的に遂行する超機能分散システムを実現させ るOS(基本ソフト)のこと。TRONプロジェクトは、超機能分散システムの構築を掲げて一九八四年から開始された。 TRON基礎プロジェクトとしてBTRON(ヒューマン・インタフェースをつかさどるOS)、ITRON(制御用リアルタイムOS)、CTRON(情報通 信ネットワーク向きOSインタフェース)、MTRON(分散型マルチ・マイクロプロセッサ用OS)、TRONCHIP(三二ビットVLSIマイクロプロセ ッサ)がある。TRON応用プロジェクトとして電脳ビル、電脳住宅、電脳都市、電脳自動車網、TRONマルチメディア通信などがある。また、NTTは、 CTRONをISDN機器のOSの統一規格にすることを決定している。 ◆プラットフォーム(platform)〔1996 年版 コンピュータ〕 プラットフォームとは、コンピュータの基盤のことであり、それにはハードウェアとソフトウェアとがある。ハードウェアでは、かっては汎用コンピュータが 唯一のプラットフォームであったが、八○年代以降はパソコンが普及し、そしてワークステーションが台頭して、プラットフォームも多様化の時代となった。 ソフトウェア・プラットフォームは、基本ソフトウェア(OS)のことである。IBM社のOS/2Warp、マイクロソフト社の Windows95、アップル社の MacOS などが次世代ソフトウェア・プラットフォームの主導権を競っている。 ◆システムソフトウェア(system software)〔1996 年版 コンピュータ〕 ハードウェアの機能を効率的に活用させるとともに、コンピュータの利用を容易にさせるための機能をもつソフトウェアのこと。基本ソフトウェアとミドルウ ェアから構成される。 ◆基本ソフトウェア(operating system)〔1996 年版 コンピュータ〕 広義のOS。基本ソフトウェアは、制御プログラム(狭義のOS)、汎用言語プロセッサ、サービスプログラムから構成される。 狭義のオペレーティング・システムは、コンピュータの各種ハードウェアとユーザープログラムとの間に位置し、コンピュータに付属する各種資源(コンピュ ータ本体、ディスプレイ、プリンタ、記憶装置など)の資源を効率的に管理し、ユーザープログラムからの要求に対して資源を割り当てたり、各プログラムの 実行をスケジュールし、監視する制御プログラムとしての役割を行う。 汎用言語プロセッサは、各種言語のコンパイル、アセンブル、リンケージなどの役割を行う。 サービスプログラムは、ダンプルーチン、プリントルーチン、エディタなどサービスを提供する。パソコンやワークステーションの主なOSとしては、UNI X、MS‐DOS、OS/2、 WindowsNT、MacOS などがある。 ◆ミドルウェア(midleware)〔1996 年版 コンピュータ〕 コンピュータソフトウェアのうち、基本ソフトウェアと応用ソフトウェアとの中間に位置しており、多様な利用分野に共通する基本的機能・サービスを実現す るソフトウェアのこと。主なプロダクトとして、DBMS、通信管理システム、ソフトウェア開発支援システム(CASEを含む)、第四世代言語、EUCツ ール、GUI制御、ワードプロセッサ、グラフィック処理、運用管理ツールなどがある。ミドルウェアの役割は、一般に、ユーザーがその機能を利用するため のプログラミング・インタフェースをもっていることから、ユーザーがアプリケーションに要求する機能をすべて独自に開発するのではなく、目的に合ったミ ドルウェアを選択させ、そのインタフェースを利用して高度でオープンな情報システムを素早く開発させることである。 ◆UNIX〔1996 年版 コンピュータ〕 一九六九年にアメリカAT&Tベル研究所がPDP7上に開発した時分割方式のマルチタスク・マルチユーザーのオペレーティングシステム(OS)である。 一九七一年にPDP11 上に移植する際にC言語で書き直され、移植性の高いオープンシステムのOSとなった。七五年頃からソースプログラムが大学、研究所、 企業等に配布されるようになって急速に普及・発展した。UNIXの優れている点は、(1)高品位文書の作成が容易、(2)文書検索が容易、(3)オープン システム、(4)優れた操作性などである。 ◆コンパイラ(compiler)〔1996 年版 コンピュータ〕 FORTRAN、C言語、COBOL、PL/1などの高級言語で書かれたプログラムを機械語プログラムに翻訳するプログラムまたは、そのプログラム言語 の総称。一般にコンピュータ自身が唯一理解、実行できる言語を機械語とよぶ。この機械語を人間が直接理解し、使用することは、不可能に近い。そこでプロ グラムを人間が使用する口語に近い形で記述し、その言語の機械語への翻訳をコンパイラが行う形式をとるほうがプログラムの作成、保守には有利である。ま た、機械語はコンピュータのハードウェアに密接に関連するため使用するコンピュータによってまちまちである。そこで各コンピュータがこのコンパイラを用 意することによって、人間が記述するプログラムはコンピュータに左右されにくいものにした。 ◆インタプリタ(interpreter)〔1996 年版 コンピュータ〕 高級言語で書かれたソースプログラムを処理の実行にそって一文ずつ読み込み機械が理解できる形に翻訳しながら実行するプログラムまたは、そのプログラム 言語の総称。 コンピュータの歴史からみると、インタプリタの存在の前に高級言語としてはコンパイラが存在した。パソコン用のインタプリタとして有名なBASICは、 元来、汎用機のコンパイラ、FORTRANの入門用として発明された経緯がある。 インタプリタは、全ての処理の実行に先だって機械語への翻訳を一括して行うコンパイラに比べて処理速度の遅さなどの問題があるとはいえ、任意の文の実行 がその場ででき、結果の確認が容易であるためプログラムの入門、デバックに幅広く使用される。 ◆オープン・システム(open system)〔1996 年版 コンピュータ〕 一般には一つのメーカーやベンダーに依存しない、標準化または開示されたインタフェースをもつコンピュータ・システムのこと。オープン・システム化の意 義として、情報システムの相互運用性の確保を図り、ユーザーの機器選択の幅を広げるとともに不必要な重複投資を回避すること、情報通信環境をつくり、業 界内や業界間の情報流通の促進を図ること、マルチベンダー環境を生かして継承情報資源の有効活用を図ること、ソフトウェア・パッケージの市場創出により ソフトウェア開発費を軽減することがあげられる。オープン・システムのOSには九四年の半ばまでに世界統一規格が決まったUNIXやIBMのOS/2ワ ープがあり、オープン・プロトコル・アーキテクチャには、標準OSI(開放型システム間相互接続)がある。また、ネットワークOSも開発されており、代 表的なものに米ノベル社の NetWare、米マイクロソフト社のLANマネジャや WindowsNT などがある。 ◆分散統合処理〔1996 年版 コンピュータ〕 分散処理とは、一台のコンピュータで行っていた処理を処理レベルにあわせて何台かのコンピュータを使用し、段階的または並列的に行うシステムの総称のこ と。分散統合処理とは、ホストコンピュータの機能を分散することおよび分散から統合することである。ユーザー部門に分散配置されたワークステーションや パソコンの高度化によってデータやプログラムの重複管理、データの全社的な共有化ニーズが増加し、処理機能が限界にきている。これらに対処するため、分 散統合処理が必要になってきた。具体的なシステムとしては、クライアント・サーバシステムやパソコンLANがある。 ◆マルチタスク(multitasking)〔1996 年版 コンピュータ〕 コンピュータ処理において、見かけ上、同時に複数の仕事(タスク)を処理できるようにした処理方式をいう。同種の用語にマルチジョブがある。また、同時 に一つの仕事しかできないものをシングルタスクという。マルチタスクは一般に仮想記憶を前提としており、大型コンピュータやミニコンではCPU(中央処 理装置)の能力が高くマルチタスク方式が当然となっているが一九八七年頃からパソコンにおいてもマルチタスク方式が採用され始めた。パソコン用のマルチ タスク方式のオペレーティング・システム(OS)には、OS‐9、コンカレントCP/M、UNIXなどがある。現在、よく使われているMS‐DOSの 4・ 0 より低いバージョンのものはシングルタスク方式である。 ◆トランザクション処理(transaction processing)〔1996 年版 コンピュータ〕 遠隔地の端末から利用者がコンピュータに処理を要求する単位をトランザクションといい、トランザクションをリアルタイムで逐一処理していくコンピュータ の処理形態をトランザクション処理という。 航空機や鉄道の座席予約や預貯金システム等が代表的で、リアルタイム性、障害時の復旧、排他制御、高い処理効率などが要求される処理である。 ◆ヒューマン・インタフェース(HI)(Human Interface)〔1996 年版 コンピュータ〕 ヒューマン・インタフェースとは、人間とコンピュータシステムとの接点となる技術である。HIの目的は、一般のユーザに対して計算機科学の成果を享受さ せることである。つまり、従来のHIは、主にユーザフレンドリ・システムをめざす側面が強かった。HI技術の進展により、人間とコンピュータという二つ の異なった性格を有する知的主体を有機的に結合し、トータルとして最高の性能を発揮させることである。 HI向上のための研究とは、人間にとっての使いやすさの追求であり、自然さ、便利さ、安全性などの観点から各種の研究開発が行われている。これまでの変 遷をたどってみると、 (1)カードによる一括処理、 (2)TSS端末による対話型処理、 (3)コマンドやメニューによる操作指示、 (4)マルチウィンドウの 画面に向かってマウスによる操作指示、(5)共通の作業をしているグループを支援するグループウェア、(6)人工現実感(VR)、自然言語、マルチメディ アを上手に使う対話インタフェース、などへ移行してきている。 ◆グラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)〔1996 年版 コンピュータ〕 GUIは、ユーザーと計算機システムの節点となる技術で、視覚に訴えたグラフィック表示で、ユーザーにとって簡潔で理解しやすい環境を提供するものであ る。GUIの意義としては、ユーザーと計算機の間に発生する複雑さを抑え、ユーザーの生産性、満足度を最大化すること、ユーザーがアクセスする範囲を拡 大し、かって可能でなかったことを可能にすること、ウインドウ画面におけるグラフィック情報の直感的なわかりやすさと操作性を人間工学の観点から研究す ることである。GUIの研究は米ゼロックス社を中心に一九七○年代から始まったが、その商品化ではアップル社がパソコン上で実現させた。GUI構築ツー ルには、MS‐DOSでは MS-Windows、OS/2では Presentation Manager、UNIXでは Motif や OpenLook などがある。 ◆マルチウインドウ(multi-window)〔1996 年版 コンピュータ〕 マルチウインドウは、コンピュータのディスプレイの画面をウインドウ(窓)とよばれる複数の領域に分割して、同時に複数の処理の状況を見られるようにす るもの。マンマシン・インタフェース向上の要求に伴い、一九八二年頃からパソコンやワークステーション(WS)への適用が始まった。マルチウインドウ・ システムにはマルチタスクをサポートしているか否か、それぞれのウインドウで動いているタスク間でデータ交換ができるか否かなどの違いがある。代表的な ものに米マイクロソフト社のMS‐DOS用の日本語 MS-Windows・Ver3・1、UNIX用の X-Windows、ゼロックス社のワークステーション J-Star などが ある。 ◆仮想記憶(virtual memory)〔1996 年版 コンピュータ〕 一般に現在のコンピュータは、主記憶装置に展開されたプログラムの実行しかできないため、主記憶の容量を超えた大規模なプログラムはそのままでは実行で きない。 また主記憶を構成する素子はその速度要求等との関連から非常に高価なものが使用されいちがいにこの部分を大容量のものにするわけにもいかない。そこで考 えだされたのが比較的安価な補助記憶装置を利用する仮想記憶である。 仮想記憶は、プログラムの実行に先だってその処理を行うために必要な部分のみを主記憶に読み込み、不必要になった部分を主記憶から排除するという処理を 繰り返すことで、あたかも補助記憶装置も主記憶の一部分であるかのように利用するのである。 ◆MIPS(Million Instructions Per Second)〔1996 年版 コンピュータ〕 コンピュータが単位時間に実行できる命令の数を表す単位。一MIPS(ミップス)とは一秒間に一○○万回の命令が実行できることをいう。 現在の超大型コンピュータは、およそ一○から一○○MIPS程度の性能である。関連用語としては、浮動小数点演算の速度の単位を表すFLOPS(フロッ プス)、論理演算の単位を表すLIPS(リップス)などがある。 ●最新キーワード〔1996 年版 コンピュータ〕 ●CALS(continuous acquisition and lifecycle support)〔1996 年版 コンピュータ〕 CALSとは、調達側、供給側にとって製品やシステムの調達(契約、設計、製造、試験、納入)から運用・維持、廃棄・再利用までの全ライフサイクルにわ たって品質の向上、経費の削減、リードタイムの短縮を目的とする概念/運動のことである。その実現の方法は、(1)最新技術情報を使った技術データやビ ジネスデータのデジタル化とデータベース化、(2)国際標準の活用(オープンシステム化)、(3)ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)の実 施である。その意義としては、契約内容、設計情報、保守マニュアルなどすべてのデータが電子化されることによって、情報伝達の品質向上と経費の削減が可 能となる。また、情報の共有や再利用が容易となることから産業活動や経済社会システムの効率化が促進され、海外企業との共同開発・部材調達も可能となる。 CALSプログラムはアメリカ・国防総省が調達する兵器システムの品質向上、経費削減、リードタイムの短縮を目的に実施されたが、現在では、米商務省を はじめとする複数の省庁でも運用されている。多国籍企業から中小企業に至るまで、官公庁と取引のあるすべての業者は二○○○年までにCALSプログラム に準拠することが義務づけられている。通産省は、九五年四月から鉄鋼、電機、航空機、エンジニアリング、電力業界など大手企業数十社と共同で生産・調達・ 運用支援統合情報システム(CALS)の技術研究開発をスタートさせた。技術調査・実態調査、アメリカのCALS標準の日本での適応検証、CALSの実 証モデルの構築、CALS標準、規格、ソフトウェアなどの汎用化などを進める。また国際的な組織としては、「国際CALS会議」が設置され、日米欧各国 や、北大西洋条約機構などの国際機関が参加。CALSの情報を入力する統一基準として、各国の事情を反映した規格を作るためにアメリカの規格をベースに 国際規格が検討されている。国際的な通信ネットワークによって受発注、設計書をリアルタイムに自由にやりとりできれば、系列とか国境とかは無関係に世界 的な企業活動が可能になり、企業パラダイムの究極の姿である仮想会社(virtual enterprise)が登場するであろう。 ●クライアント・サーバシステム(CSS)(cliant server system)〔1996 年版 コンピュータ〕 クライアント(顧客、具体的にはユーザーのパソコン)からLAN(構内情報通信網)上の異なる複数のパソコン、ワークステーション、メインフレームなど の情報資源(サーバ)を連携させ、分散処理するシステムのことである。資源を提供する側をサーバ、サーバに処理を要求する側をクライアントという。ただ し、サーバとは、LANにおいてファイル、プリンタ、通信などの特別な機能を専門的に行うプロセッサのことである。CSSは次の四つのシステム開発・運 用環境を提供する。 (1)EUC環境 クライアントに対してデータファイル、プリンタ、プログラムなどを共用する連携機能を提供する。 (2)GUI操作環境 エンドユーザーが可視的にわかりやすく簡単に操作できる環境を提供する。(3)相互運用支援環境/オープン環境 コンピュータとクライアントとを接続しかつオープン使用を可能とする環境を提供する。(4)システムインテグレーション支援環境 異機種のホスト CASEなどの情報シ ステム構築の支援環境を提供する。 ●リアルワールド・コンピューティング計画(real world computing program)〔1996 年版 コンピュータ〕 略称、RWC計画。通産省は一九九三年度から「より人間に近い情報処理」の実現をめざして、RWC計画(通称四次元コンピュータ計画)を本格的に開始し た。二一世紀の高度情報化社会において必要とされる先進的で柔軟な情報基盤技術の研究開発を目的とする。期待される「柔らかな情報処理機能」としては、 「メタ確率空間でのベイス推定」の理論基盤の上に、(1)不完全な情報や誤りを含む複雑に関連し合った情報を総合し、有意な時間内に適当な判断や問題解 決を行う機能、 (2)オープンなシステムの中で必要な情報や知識を能動的に獲得し、具体例から一般的な知識を帰納的かつ実時間的に修得する機能、 (3)多 様な利用者や使用環境の変化に対してシステムが自らを適応させ、有効な時間内に変容する機能などである。つぎに「超並列超分散処理」を実現するためには、 (1)汎用超並列システム、 (2)ニューラルシステム、 (3)統合システムの抽象化と設計などの新情報処理技術のシステム基盤を確立することである。また、 光技術の役割は、情報媒体としての特徴を生かし、(1)並列ディジタル光コンピュータ、(2)光ニューロコンピュータ、(3)光インターコネクションを提 供することである。 ●コンテンツ(contents)〔1996 年版 コンピュータ〕 情報・通信ネットワークやコンピュータ上で取り扱われる情報の中身の総称で、作品ともいう。コンテンツは映画、TV、音楽、ゲームなどのエンタテインメ ント以外にニュースや文書などのビジネス、エンタテインメントと教育が融合したエデュテイメント、ビジネスとエンタテインメントとが融合したインフォテ イメントに大別される。出版や映画などの分野でコンテンツがデジタル化されることによって、電子出版物やインタラクティブTVのような世界が創造される。 また、それらを製作したり、利用するコンピュータ技術が不可欠である。マルチメディアの世界は、次の過程から構成される。(1)製作過程(TV、放送、 映画、出版などによる作成コンテンツ)、(2)蓄積過程(データベースサービス、パソコン通信などによるコンテンツの提供)、(3)配布過程(輸送、通信・ 衛星などによるコンテンツの流通/交換)、(4)利用過程(家庭、公共、学校、企業によるコンテンツの利用)。これらの過程を通じて新しい事業が創出され るだろう。双電子出版やインタラクティブTVなど、マルチメディア時代の各種サービスは対価を伴う。このため、これらを事業として確立するには、ソフト ウェア資産をもつだけではだめで、その中身であるコンテンツ(作品)に高い付加価値を付けることが肝要である。 ●EUC(end user computing)〔1996 年版 コンピュータ〕 エンドユーザー(利用部門)が自部門の情報システムに対して設計・構築・運用等のすべてを主体的に行うこと。エンドユーザー・コンピューティングの略。 EUCの思想は、利用部門の不満が始まりという。つまり、情報システム部門は利用部門の情報化要求に対して、硬直肥大化した情報システムの保守や運用で 手一杯のため、サービスの低下やシステムのバックログ(開発待ち)の増加という事態が発生した。このような状況に対して当然利用部門は自分達を主体に意 識、やり方、体制を変えようとする動きが現れた。また、この時期にEUCを支援する技術として、第四世代言語、GUI、表計算ソフトウェア、統合型CA SE、オープン・システム化技術等が登場した。EUCの実現化には、 (1)操作が容易で利用部門が直接使用できる第四世代言語の利用、 (2)ネットワーク 化により、利用部門の共同作業が可能となったパソコンLAN(構内情報通信網)の利用、(3)利用部門が計画、分析、設計作業に参加すれば、情報システ ムを自動作成できる統合型CASEの利用という三つの形態がある。 ●エージェント指向概念(agent-oriented concept)〔1996 年版 コンピュータ〕 自発的に動くソフトウェア、 「エージェントシステム」。現在、ネットワーク管理ソフトやインターネットのドメインネームシステムなどにエージェント指向概 念が組み込まれている。エージェントとは、「そのものの基本意思決定原理に基づき自己の信念や興味に応じて行動するモジュールのこと」である。つまり、 自分の行動を自分で決定し、自発的に活動する。理解の助けとしてエージェントシステムが組み込まれたネットワーク管理システムを例示する。このシステム を作動すると、端末画面にロボットの姿をしたエージェント(代理人)が現れ、 「私はネットワークを管理するエージェントです。」と自己紹介する。ユーザー が、「今、ネットワークがダウンしているので、故障の原因を調査して報告して欲しい」と依頼する。エージェントは、故障箇所を調査し、故障の原因と修復 手段を報告書にまとめて提出する。ユーザーが細かな指示を出さなくても、意思を伝えるだけで作業をしてくれるシステムで、まるで人間を相手にしているよ うに使えるのが特徴である。エージェント指向は、分散人工知能技術の応用として発展してきている。 ●ハイパーメディア(hyper media)〔1996 年版 コンピュータ〕 ハイパーメディアとは、テキスト、音声、図形、アニメーションやビデオの画像など複数の情報を意味上まとまりのあるノードとよばれる小部分に分割し、ノ ード間をリンクにより関係づけたネットワーク(網の目)構造のことである。このリンク機能を使用して情報を有機的につなぎ、芋づる(ナビゲーション)式 に関連する情報を対話的に引き出すことができる。ハイパーメディアの意義は、人間の思考を豊かな表現力で容易にかつ自由に関係づけて、思考支援やコミュ ニケーションの円滑化を図ることである。 ハイパーメディア構築ツールの特徴は、 (1)具体的なデータ値に対して次々と直接操作を行うナビゲーションによる情報検索機能、 (2)データと手続きの一 体化によって、データ自身に関連情報を引き出す操作が付与されることである。 この応用としては、電子出版、文書化を容易にする知的ファイリング・システム、企業電子編集印刷システム、思考支援システム、画像や音声の解説付き教育 システム、ビジュアルなガイドシステムなどがあげられる。 ●オブジェクト指向概念(object-oriented concept)〔1996 年版 コンピュータ〕 データと手続きを一体化(カプセル化)したオブジェクトという自律的機能モジュールが互いにメッセージをやりとりしながら協調して問題を解決するという 考え方である。個々のオブジェクトは、あるオブジェクトからメッセージを受けると、手続きが起動され、自分自身に記述されている手続きを実行する。ただ し、データに対しては、情報を隠ぺいしているため外部から直接アクセスできない。したがって、オブジェクト同士の独立性は非常に高いため、プログラムが 単純化され、生産性と信頼性の高いシステムを構築できる。また、データの値が未定の場合オブジェクトをクラスとして定義し、機能が同じでデータの値だけ が異なる複数個のオブジェクト(インスタント)を効率よく生成できる。さらに、上位クラスのもつ手続きを下位クラスの手続として継承できるような階層構 造により、少しずつ機能の異なるオブジェクトを効率よく作成できる。この概念に基づいて Smalltalk 80 や Lisp などのオブジェクト指向プログラミング言語 やオブジェクト指向データベース・システムなどが開発されている。
© Copyright 2024 Paperzz