外気高効率供給タイプ天井吹出型パーソナル空調システムの開発

大成建設技術センター報 第42号(2009)
外気高効率供給タイプ天井吹出型パーソナル空調システムの開発
換気効率による評価及びトレーサーガスに CO2 を用いた場合の検討
樋渡 潔*1・加藤 美好*2・三宅 伸幸*2・仁志出 博一*3・齋藤 正文*4・張本 和芳*5
Keywords : personal air conditioning system, productivity, energy saving, ventilation efficiency, tracer gas, CO2
パーソナル空調,知的生産性,省エネルギー,換気効率 , トレーサーガス,CO2
1. はじめに
クスに入る前に混合されるため外気は室内に均一に配分
される。それに対して高効率タイプでは,外気はファン
1.1 外気高効率供給タイプ天井吹出型パーソナル空調
ボックスを経てタスク系統に分岐した後に混入されるの
システム
でタスク域の外気の割合が増加する。
パーソナル空調は,
室内均一の空調ではなく執務者の
著者はこれまで,
等温吹出ではあるが座席に隣接する
座席周り(タスク域)を効率的に空調できること,各自
換気タワーから人体に対して直接外気を供給する方式に
が好みの温熱環境を調整できること,
個別の発停ができ
ついて検討を行い呼吸域周りの空気環境が改善されるこ
こと,等から省エネルギー性と知的生産性の向上に貢献
とを確認している 3),4)。
可能な空調システムとして近年導入事例が多くなってき
本報では,従来タイプと高効率タイプについて,外気
ている 。
1)
当社も技術センターのリニューアル時に適用した 2 )
(2006 年 12 月竣工)。図- 1 に当社技術センターのパー
ソナル空調システムの概念図を示す。
図-2に設置状況
を示す。当社の空調方式は,冷房時の足元の冷え,机の
使い勝手等を考慮し,天井吹出方式を採用している。空
調空気は,
外調機において除湿された外気と居室のレタ
ン空気を混合後,
空調機を経てタスク域系統とアンビエ
ント域の2系統に分岐して供給される。
タスク域を効率的に空調することが可能なパーソナル
空調を用いて,
外気の供給をタスク域に重点的に行うこ
図- 1 空調システム概念図
Fig.1 Concept of air conditioning system
とができれば,
タスク域の空気環境が改善され知的生産
性の向上も期待できる。また,現状と同程度の新鮮外気
の状態を確保しつつ省エネルギーを図ることも考えられ
る。
そこで,図-3(a)に示す様に,現在技術センターに
設置されている天井吹出型パーソナル空調機
(以下従来
アンビエン ト
系統ダ クト
タスク系統
ダクト
タイプ)
を,
(b)に示すタスク域への新鮮外気の供給割合
パー ソナ ル
吹出口
アンビエン ト
吹出口
を増す外気高効率供給タイプ空調機(以下高効率タイ
プ)に一部変更した。従来タイプでは外気はファンボッ
*1 技術センター技術企画部企画室
*2 設計本部設備Ⅲ群
*3 国際支店設計部
*4 (株)タイセイ総合研究所
*5 技術センター建築技術研究所環境研究室
Fig.2
42-1
図-2 技術センターへの設置状況
Installation at Taisei technology center
大成建設技術センター報 第42号(2009)
がどの程度タスク域に効率的に供給されるか定量的に比
外調機からの
新鮮外気
タスク系統
ダクトへ
較するために行った換気効率実験の結果について報告す
AF
CHC
る。
ファン
1.2 CO2 トレーサーガスの検討
CHC
換気効率の測定には,トレーサーガスを用いる。ト
レーサーガスは,精度面,健康面,安全面から以下の条
(a)外気混合タイプ(従来タイプ)
件を満たしていることが望ましい。
①測定環境中にほとんど存在しないこと。
室内からの
還気
ファンボックス
アンビエント
系統ダクトへ
外調機からの
新鮮外気
タスク系統
ダクトへ
②化学的に安定であること。
AF
CHC
ファン
③人体に無害であること。
④安全(可燃性でない等)であること。
CHC
以上の様な条件を満たすガスとして一般的に S F 6 (六
フッ化硫黄)が用いられてきた。しかしながら近年 SF6
は地球温暖化係数GWPが23,900と非常に高いことから京
都議定書では排出削減対象ガスに指定された。当社も
室内からの
還気
ファンボックス
アンビエント
系統ダクトへ
(b)外気高効率供給タイプ
図-3 外気高効率供給タイプ空調機の概要
Fig.3 Concept of high efficiency ventilation type
air conditioning system
m
0
.
6
CSR 報告書において SF6 の回収を謳っている 5)。
6000
壁上部
EA吸込口
タスク
吹出口 人体周り
詳細測定
B1
箇所
★
A1○
★
○ C1
★
と,CO2(GWP=1,水への溶解・吸着による精度低下), エ
チレン(CH4)(燃焼性),一酸化窒素(N2O)(GWP が 310), ヘ
赤枠内
測定対象
エリア
リウム(He)(安定しているが低密度により浮力発生)で
★
B2
あり選定が難しい 。
6)
A2★
早川らは, CO2 は居住域濃度よりも少し高い範囲であ
m
2
★C2
.
1
1
11185
その他の主なトレーサーガスとその課題点を挙げる
れば最も安全かつ手軽なトレーサガスであるという立場
から,人体から発生する CO2 を利用する JIS A1406-1974
屋内換気量測定方法の精度検討 7) , 講堂での SF6 との並
行測定による精度検討 8),サンプリングチューブへの吸
着の影響の検討 9)等様々な検討を行っている。また,堀
らは,イソブテンについて,SF6 との並行測定による精
度検討,環境負荷・毒性・性能(使い易さ)
・コストの
観点からの相対評価を行い,
イソブテンがトレーサーガ
スとして優れているとの見解を示している 10)。
▲
AHU
AHU
アンビエント
吹出口
★ 垂直温度測定点
OAダクト RA
○ 垂直ガス濃度測定点
(天井裏) 吸込口
● 温度測定点
◇ ガス濃度測定点
▲ ガス発生点
(OAダクト内)
図-4 測定対象エリアと測定点
Fig.4 Measurement area and measurement points
FL+3.2m
著者らは,
トレーサーガスの課題を考える上での第一
FL+2.7m
段階として,簡便に使用可能な CO2 を対象に精度の検討
FL+2.5m
を行う。
本報ではパーソナル空調の換気効率実験におい
タスク
吹出口
て SF6 と CO2 で並行測定した結果について報告する。
通 路
中 央
FL+1.8m
FL+1.5m
3 実験概要
模擬人体
FL+1.1m
3.1 測定エリア及び測定点
図-4に測定対象エリアと測定点を記した平面図を示
FL+0.6m
す。対象とするエリアは,空調機 1 台が受け持つエリア
(執務者9人想定)である(図中赤枠内)。通常は隣のエリ
アと連続しているが,
測定時にはトレーサーガスの拡散
を防ぐためにパーテションにて区画している。大きさ
は,6.0m × 11.2m × 3.3m(H)(廊下部分は 2.3m(H))であ
42-2
FL+0.1m
C1
A1
●温度測定点 ◇ガス濃度測定点 図-5 人体周り詳細測定点
Fig.5 Detailed measurement points around human body
大成建設技術センター報 第42号(2009)
表- 1 実験ケース
Table 1 Experimental condition
る。容積は 208.2m3 である。
図-5に人体廻り詳細測定点図を示す。1 体の模擬人
体の周り(図-4○部)については,測定口元を中心と
Case*
外気量 人体詳細測定箇所の
循環風量
タスク吹出風量
(m3/h)
3
(m /h)
設定270
(m3/h)
タイプ
して上下左右方向に 10cm の位置で温度及びガス濃度を
詳細に測定する。
3.2 内部負荷
各席に模擬人体発熱(60-70W/ 人)及び模擬 OA 機器発
Case1 従来タイプ
1080
320
79
Case2 高効率タイプ
1110
270
73
*Case1とCase2は左右対称の異なるエリアにて測定。
熱体(200W/ 台)を設置する。照明負荷はアンビエント照
表-2 測定項目と測定装置
Table 2 Measurement item and measurement equipment
明とタスク照明の全体合計で 640W である。
3.3 実験ケース
表-1に実験ケースを示す。実験は,従来タイプと高
測定項目
測定装置
効率タイプの 2 種類について行う。
3.4 測定方法と評価方法
使用機器
SF6 :コフロック製 MA-10A(5SLM)
マスフロー
コントローラー
ガス濃度
表-2に測定項目と測定装置を示す。
実験ではトレー
CO 2 :コフロック製 Model3810DS
(調整バルブ取付)
ガスモニター
サーガス(SF6とCO2)を空調機手前のダクト内に散布する
(図-4▲部)。散布量は,SF6 は約20ppmを想定定常濃度
INNOVA製 1302,1303,1309,1312
吹出風量 風量測定器
コーナー札幌製 SWE-125型
温 度
横河電機製 DC-100
熱電対+記録計
とし0.12L/min.,CO2 は約3000ppm(いずれのガスも初期
表-3 局所平均空気齢と局所空気交換効率の算出式
Table 3 Formula for computation of local mean age of
濃度を差し引いた値)
を想定定常濃度とし14.8L/min.と
する。散布後,全ての測定点のガス濃度の上昇率が 1 時
air and local air change index
間前と比べて 8%以下となるまで測定を行う(ステップ
1 局所平均空気齢 τ p アップ法)。その後ガスの放出を停止し各測定点のガス
⎛
⎜
⎝
ステップアップ法 τ P = ∫0t e ⎜ 1 −
濃度がステップダウン開始時濃度の 5% 以下となるまで
濃度減衰を測定する(ステップダウン法)。
気交換効率ε p の算出式に基づいて求める。局所平均空
Cp(t):トレーサーガス放出(停止)t秒後の
各測定点のガス濃度(ppm)
気齢τ p は値が小さいほど換気性状が良い。局所空気交
Cp(t e):トレーサーガス定常濃度(ppm)
換効率ε p は値が大きいほど換気性状が良い。
t e:トレーサーガス濃度が定常に到達した時刻(分)
ステップアップ法では上昇して定常に達した時刻
ステップダウン法では降下して定常に達した時刻
但し実際には定常にならないこともあり、本文にも記
載している様に濃度の上昇、低下が一定の条件を満た
した段階で終了することが認められている。
4 実験結果
4.1 従来タイプと高効率タイプの比較
2 局所空気交換効率 ε p
従来タイプと高効率タイプの換気性能の比較につい
εP =
て,SF6 での結果に基づいて検討を行う。
B1
C1
高さ(m)
高さ(m)
A1
B2
25.0
26.0
27.0
28.0
29.0 30.0
温度(℃)
31.0
32.0
τn
τp
τ n:名目換気時間(分)換気回数の逆数。
但しここでは漏気を考慮し排気口での
局所平均空気齢にて基準化
図-6に温度分布の比較を示す。実験では FL+1.8m で
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
⎛ C p (t ) ⎞
⎟dt
τ P = ∫0t e ⎜
⎜ C p (te ) ⎟
⎝
⎠
ステップダウン法
換気効率は表-3に示す局所平均空気齢τ p と局所空
C p (t ) ⎞
⎟dt
C p (te ) ⎟⎠
33.0
(a)Case1(従来タイプ)
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
A1
B2
25.0
26.0
27.0
28.0
29.0 30.0
温度(℃)
(b)Case2(高効率タイプ)
図-6 垂直温度分布の比較
Fig.6 Comparison of distribution of vertical temperature
42-3
31.0
B1
C1
32.0
33.0
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
タスク吹出口
アンビエント吹出口
口元中心
無次元化濃度
無次元化濃度
大成建設技術センター報 第42号(2009)
A1中央側FL+1.5m
C1通路側FL+1.5m
排気口
0
60
120
180
240
300
360
経過時間(分)
420
480
540
600
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
タスク吹出口
アンビエント吹出口
口元中心
A1中央側FL+1.5m
C1通路側FL+1.5m
排気口
0
60
120
180
240
300
360
420
480
540
600
経過時間(分)
(a)Case1(従来タイプ)
(b)Case2(高効率タイプ)
図-7 トレーサーガス濃度の経時変化の比較
Fig.7 Comparison of variation with time of tracer gas concentration
RA
吸込口
1.01
0.98
FL+2.5m
0.98
0.96
RA
吸込口
壁上部EA 1.00
FL+3.2m 1.00
タスク
1.20 1.14
中 央
吹出口
1.16 1.15
呼吸域平均ε p
アンビエント
1.05
吹出口
1.05
1.04
1.02
1.02
1.02
FL+1.5m 1.03
1.05
1.06
1.06
1.01
FL+1.1m 1.02
1.06
1.03 呼吸域
人体前面から
1.03
前方0.80m FL+1.5m 1.01
人体背面から
0.98
後方0.25m FL+1.5m 0.97
壁上部EA 1.00
FL+3.2m 1.00
FL+2.5m
1.01
1.02
1.02
1.01
1.05
1.04
タスク
1.05 1.47
中 央
吹出口
1.07 1.52
呼吸域平均ε
アンビエント
p
1.16
吹出口
1.15
1.17
1.19
1.21
1.06
FL+1.5m 1.21
1.08
1.16
1.16
1.17
FL+1.1m 1.17
1.16
1.20 呼吸域
通 路
通 路
0.98
0.98
1.02
1.02
1.01
1.01
人体前面から
1.03
前方0.80m FL+1.5m 1.01
人体背面から
0.98
後方0.25m FL+1.5m 0.97
上段:ステップアップ
下段:ステップダウン
(a)Case1(従来タイプ)
上段:ステップアップ
下段:ステップダウン
(b)Case2(高効率タイプ)
図-8 局所空気交換効率ε p 分布の比較
Fig.8 Comparison of distribution of local air change index ε p
28.0℃に設定している。居住域での温度は Case1(従来
タスク吹出口の濃度上昇が早い。次に口元,周囲環境・
タイプ)では約 26.5 ~ 28.0℃,Case2(高効率タイプ)
アンビエント吹出口の順に濃度が上昇する。
では約 27.5 ~ 28.5℃を示す。Case1 の FL+0.6m,Case2
図-8に局所空気交換効率ε p 分布の比較を示す。呼
の FL+1.1m にて高い温度を示しているが,各々隣接の発
吸域での局所空気交換効率εp は,Case1(従来タイプ)で
熱体調整用スライダック,模擬 OA 発熱体の影響による
はステップアップ法で 1.04 ~ 1.06,ステップダウン法
ものである。
なお、
タスク吹出口の吹出平均温度はCase1
で 1.01 ~ 1.03 を示す。それに対して Case2(高効率タイ
では 24.0℃,Case2 では 23.2℃である。
プ)では,ステップアップ法では 1.15 ~ 1.17,ステップ
図-7にトレーサーガス濃度(SF6)の経時変化の比較
ダウン法では1.17~1.21でありCase1よりも高い値(換
を示す。なお、値はステップアップ法の定常濃度を基準
気効率が良い。)を示す。それに対して周囲環境の居住
として無次元化している。無次元化濃度の経時変化は、
域では,両者はほぼ同様の傾向を示す。
表-3の局所平均空気齢τ p の式と対応している。濃度
なお,Case2(高効率タイプ)の呼吸域におけるεp につ
上昇,
減衰が早いほど積分値が小さくなるので局所平均
いて,
ステップアップ法とステップダウン法の値を比較
空気齢τ p の値も小さくなる。Case1(従来タイプ)では
すると,
ステップダウン法の方が高い値を示す。
これは,
タスク吹出口とアンビエント吹出口の濃度上昇がほぼ同
ステップダウン時に区画隙間での漏入漏出があり濃度減
様に早い。
口元及び周囲環境は両吹出口よりやや遅く濃
衰が早まったためと考えられる。そこで、以降の検討で
度が上昇する。
それに対してCase2(高効率タイプ)では,
はステップアップ法での値を用いる。
42-4
大成建設技術センター報 第42号(2009)
図-9に局所空気交換効率ε p の比率(ε p 高効率 / ε
p
RA
吸込口
従来)を示す。呼吸域では約 1.1 であり,高効率タイプ
は従来タイプよりも約10%清浄な空気を供給できること
1.01
壁上部EA
FL+3.2m 1.00
FL+2.5m
1.03
を示す。
通 路 0.87
4.2 2 種類のトレーサガスの空気齢の比較
1.30
気齢の比較を示す。ステップアップ法,ステップダウン
1.02
法において、両者の値に最大 3% の差がある点もあるが
FL+1.5m
FL+1.1m
概ね一致する。
1.12
1.10
1.04
1.10
干排気空気のショートサーキットの影響を受け,
散布直
人体前面から
前方0.80m FL+1.5m 0.98
後から徐々に上昇しステップアップ法終了時点で各々約
人体背面から
後方0.25m FL+1.5m 1.10
濃度(初期濃度を差し引いた値)に対して各々約 1%,約
中 央
1.10
1.09
なお,測定時間帯の取入外気のSF6 及び CO2 濃度は,若
0.2ppm,約 55ppm 上昇する。この上昇は各測定点の定常
1.03
呼吸域平均
アンビエント
吹出口
表-4に従来タイプでのSF6とCO2トレーサーガスの空
タスク
吹出口
1.10
呼吸域
図-9 局所空気交換効率比(ε p 高効率 / ε p 従来)
Fig.9 Comparison of local air change index between two
types of outlet air supply system
(ε phighly efficient/ ε pconventional)
2% の値である。
今回検討を行った空調システムにおいて、
除湿は外調
機にて行っている。
そのためトレーサーガスの散布位置
よりも下流側では、
空気が露点温度以下になる箇所はな
い。除湿時の冷却コイルにおける CO2 の水溶性の影響に
5 まとめ
ついては今後の検討課題としたい。
また,測定機材に関して課題が考えられる。CO2 をト
5.1 外気高効率供給タイプ天井吹出型パーソナル空調
レーサーガスとする場合,環境中に既に350~400ppm程
システム
度含まれるため,ほとんど環境中に存在しない SF6 に比
当社に現在設置されている天井吹出型パーソナル空調
べて散布量が非常に大きくなる。今回の測定での CO2 の
システムに,
新たに開発した外気高効率供給タイプ空調
散布量は SF6 の約 120 倍である。今後は温暖化係数の面
機を設置した。従来タイプの空調機では外気を室内に均
の他に測定空間の大きさ等による機材の制約も考慮し,
一に供給していたが,
外気高効率供給タイプ空調機によ
使用するトレーサガスを検討する必要があると考えられ
りタスク域へ重点的に外気を供給することができる。
タ
る。
スク域の空気環境をより清浄にできれば知的生産性の向
上に,
また現状と同程度で良ければ外気を削減すること
表-4 2 種類のトレーサーガス(SF6,CO2)での空気齢の比較(従来タイプ)
Table 4 Comparison of age of air between two types of tracer gass (SF6, CO2)(conventional type)
タスク吹出口
アンビエント吹出
口元中心
口元上10cm
呼吸域
口元下10cm
口元左横10cm*
口元右横10cm*
中央側FL+2500
中央側FL+1500
通路側FL+2500
アンビエント域
通路側FL+1500
前方FL+1500
後方FL+1500
レタン吸込口
吸込口
壁排気口
*人体側からみた時の位置
吹出口
ステップアップ法
空気齢(分)
空気齢比
SF6
CO2
CO2/SF6
33.9
34.0
1.00
31.9
32.6
1.02
36.9
36.7
0.99
36.5
37.3
1.02
36.4
36.8
1.01
36.4
36.9
1.01
36.2
36.5
1.01
37.6
37.8
1.01
37.7
37.4
0.99
39.3
39.6
1.01
39.1
39.1
1.00
37.2
37.6
1.01
39.1
39.0
1.00
38.1
38.3
1.00
38.4
37.8
0.98
42-5
ステップダウン法
空気齢(分)
空気齢比
SF6
CO2
CO2/SF6
36.6
35.5
0.97
36.5
36.1
0.99
41.2
40.8
0.99
41.6
40.7
0.98
41.0
40.5
0.99
41.8
41.1
0.98
41.4
41.0
0.99
41.7
41.5
0.99
40.2
39.8
0.99
44.2
43.4
0.98
43.0
42.1
0.98
41.8
40.9
0.98
43.7
42.7
0.98
43.3
41.9
0.97
42.3
41.8
0.99
大成建設技術センター報 第42号(2009)
で省エネルギー性の向上が期待できる。
換気効率実験により従来タイプと外気高効率供給タイ
プの比較を行った結果,
外気高効率供給タイプは従来タ
イプに比べて,呼吸域付近に約 10% 清浄な外気を供給で
きることが示された。
5.2 CO2 トレーサーガスの検討
換気効率測定のトレーサーガスとして一般的に用いら
れている SF 6 は地球温暖化係数が 23,900 と高い値を示
す。換気効率実験時に,SF6 に替わるトレーサーガスの
ひとつとして考えられるCO2とSF6の並行測定を行い精度
の検討を行った。
その結果,今回のケースでは両者の値に最大 3% の差
がある点もあるが概ね一致した。
今後 CO2 の吸着・水溶性による精度低下の把握が課題
である。
謝辞
実験にあたり早川建築環境研究室早川眞氏よりご協力
を頂いた。ここに記して感謝の意を示す。
参考文献
1)野部達夫,清水賢:我が国における環境選択型空調システム
の適用事例に関する調査,日本建築学会大会学術講演会梗概
集,D-2,pp1187-1189,2005.9
2)仁志出博一,加藤美好,齋藤正文,張本和芳,小林信郷,樋渡
潔:天井吹出型パーソナル空調システムの研究その1-4,日
本建築学会大会学術講演会梗概集,D-2,pp967-974,2008.9
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着目した事務所ビルの高効率換気空調システムに関する基
礎的研究 , 日本建築学会計画系論文集 , N o . 5 3 7 , p p 4 3 47,2000.11 4)樋渡潔 , 赤林伸一 , 森川泰成,坂口淳: 換気タワーを用い
た高効率換気システムに関する研究 その 1 オフィス空間
を対象とした実大実験による空気齢を用いた評価
,No.542,pp49-56,2001.4,No.40,2007.11
5)大成建設CSR報告書2009, 2009.6
6)空気調和・衛生工学会:空気調和・衛生工学会規格 SHASES 116-2003 トレーサガスを用いた単一空間の換気量測定法
, 空気調和・衛生工学会,2004.6
7)早川眞,坪山北斗,山岡琢,鳥越順之,水卜慶子:混合・置換切
り替え空調方式をもつ講堂の換気特性(その1-2), 日本建築
学会大会学術講演会梗概集,D-2,pp.717-720, 2004.8
8)早川眞,坪山北斗,山岡琢,鳥越順之:混合・置換切り替え空調
方式をもつ講堂の換気特性, 空気調和・衛生工学会学術講
演会講演論文集,pp.1299-1302, 2005.8
9)早川眞,北山北斗,樋渡潔:トレーサガスとしての炭酸ガスの
サンプリングチューブへの吸着に関する実験,空気調和・衛生工
学会学術講演会講演論文集,pp.1249-1252, 2006.3
10)堀雅弘,溝口忠:イソブテンとPIDを用いるトレーサーガス
減衰法による換気回数の測定,日本建築学会環境系論文集
42-6
,No.625,pp.451-455,2008.4