障害年金をもらおう

陽だまりの会
(再レイアウト トド)
医療とお金(22)
障害年金をもらおう
2015 2.27 Yomiuri On Line 読売医療サイト「Yomidoctor」
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=112478
公的年金というと、一定の年齢に達してから受け取る「老齢年金」しかイメージしない人が
けっこう多いようです。とくに国民年金だけの場合、厚生年金と違って保険料が給料からの天
引きでないうえ、老齢基礎年金は満額で年77万円余り。長年にわたって保険料を納めてもそ
の程度か、と思ってしまうのでしょうか。保険料の未納が以前から問題になっています。
でも、公的年金制度による給付は、老齢年金だけではありません。障害年金、遺族年金もあり
ます。人生の途中でいつ起こるかもしれない障害や死亡に備えた「保険」でもあるのです。
とりわけ障害年金は、存在自体をよく知らなかったりして、もらいそこねている人が相当いる
ようです。医療とお金(12)
「障害者向けの制度も使える」でも少し紹介しましたが、改めて
強調しておきます。もらえる年金はしっかりもらいましょう。
そのためにも保険料の未納は絶対に避けましょう。いざという時に大きな違いが出ます。
【幅広い病気で対象になりうる】
障害という言葉を聞くと、目、耳、手足の不自由な人、なかでも生まれつきの障害の人や、事
故で障害を負った人を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、障害年金の対象はもっと広く、いろいろな病気によって生じたものも障害です。
心身の機能や形に不具合があって、日常生活の制約、あるいは労働の制限が続いていれば(一
般的には1年6か月以上)、年金の給付を受けられる可能性があるのです。
認定の対象になりうる主な障害は、以下の通りです。ただし、65歳以上になって発症したと
きは原則として障害年金は出ません(70歳までの厚生年金加入者には障害厚生年金だけ出る)。
眼=視力障害、視野障害、まぶたの障害、調節機能障害、眼球の運動障害など
耳・鼻=聴力障害、平衡機能の障害、呼吸機能の障害を伴う鼻の欠損
かみ砕き・のみこみの障害、音声・言語機能の障害
上肢・下肢・体幹・脊柱=機能障害、欠損、変形、人工関節、脳性まひ、小児まひなど
肢体の機能障害=脳血管障害、脊髄損傷、神経・筋疾患など
精神=統合失調症、うつ病、そう病、高次脳機能障害、認知症、てんかん、知的障害、発達障
害
神経=脳血管障害、神経損傷による強い痛み、人工呼吸器など
1
呼吸器=肺結核、じん肺、気管支ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎など
心臓=弁膜症、心筋症、心筋梗塞、狭心症、難治性不整脈、大動脈疾患、先天性心疾患
腎臓=慢性腎不全、人工透析
肝臓=肝硬変、食道静脈瘤、肝がんなど
血液系=難治性貧血、血小板減少性紫斑病、血友病、白血病、悪性リンパ種、多発性骨髄腫な
ど
代謝疾患=糖尿病(インスリンでもコントロール不良)、合併症を伴う糖尿病など
がん=各種のがんとその治療による局所の障害、機能障害、全身衰弱
高血圧=合併症を伴う高血圧、悪性高血圧症
その他=人工肛門、尿路変更、遷延性意識障害、難病、臓器移植後、HIV感染など
脳卒中も、ぜんそくも、糖尿病も、がんも、と驚いた人が多いのではないでしょうか。
認定基準の詳しい内容は、次のようなサイトに示されています。
・日本年金機構 国民年金・厚生年金保険 障害認定基準
・かめい社会保険労務士事務所(大阪)
【いくら受け取れるのか】
公的年金制度は2階建てになっています。1階部分は国民年金制度による障害基礎年金で、1
級と2級があります。2階部分は厚生年金保険による障害厚生年金で、こちらは3級まであり、
それより程度の軽い障害手当金(一時金)も定められています。
2014年度の障害年金の額は、次の通りです。
<国民年金>
障害基礎年金1級=96万6000円(2級の1.25倍。月8万円台)
障害基礎年金2級=77万2800円(老齢基礎年金の満額と同じ。月6万円台)
18歳になった年度内の子どもがいれば、加算があります(1級または2級の障害のある子は
20歳未満まで加算)。1人目・2人目は22万2400円、3人目以降は7万4100円です。
<厚生年金>
障害厚生年金1級=2級の1.25倍
障害厚生年金2級=平均標準報酬額×加入月数に比例
障害厚生年金3級=2級と同じ額(最低保障額57万9700円)
障害手当金=2級の2年分の一時金(最低保障額115万3800円)
厚生年金保険に加入していたことのある人は、1級、2級なら、同じ等級の障害基礎年金と障
害厚生年金がセットで支給されます。障害厚生年金の部分の金額は、加入期間の平均標準報酬
額と加入月数(障害認定日の月まで)によって違ってきます。3級・障害手当金の場合は、障
害基礎年金が出ないので、最低保障額があります。
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注目したいのは、加入期間が短くても300月(25年)の加入とみなして計算すること。わ
ずかな期間でも厚生年金保険に加入していると、ずいぶんプラスになるのです。この点もあり、
障害基礎年金と大きく違わない程度の年金額になることが多いようです。
1級・2級の場合、65歳未満の配偶者がいれば、配偶者加給年金(22万2400円)が上
乗せされます(所得などの要件あり)。
公務員などの共済もおおむね同じですが、在職中は基本的に障害基礎年金しか支給されません。
【障害の等級のイメージ】
認定基準は、大まかに言うとこんな考え方です。
1級=他人の介助がなければ、日常生活を送ることがほとんどできない
(活動範囲はおおむね、自宅では寝ている部屋、病院ではベッド周辺)
2級=必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活が著しく制限される
(活動範囲はおおむね、自宅なら家屋内、入院中なら病棟内)
3級=障害によって労働が著しく制限されるか、病気が治っていないために労働が制限される
障害手当金=病気やけがは治っていて、労働が制限される
個々のケースでどれにあてはまるかは、診断と生活の状況を踏まえた判断になります。
受給後に障害が重くなったら、等級を上げるよう改定請求ができます。逆に一定期間ごとの審
査で障害が軽くなったときは等級が下がったり、支給が停止されたりします。
なお、障害年金の等級は、障害者手帳の等級とは別です(精神障害者の手帳のみ、ほぼ同じ等
級区分)。医師から「その程度で障害年金は無理」などと言われても、うのみにせず、自分で年
金事務所などに確かめましょう。年金制度をよく知らない医師も少なくないからです。
【働いていても受給できる】
認定基準では、2級について「労働により収入を得ることができない程度」と書かれています。
実際には、2級を受給しつつ、職場の援助を得て働いている人もいます。障害者枠の就労もあ
るし、車いすの経営者や人工透析を受けるサラリーマンもいます。
しかし近年、精神障害を中心に、就労の有無によって判定が左右され、ハードルが上がってい
るという声が、年金請求に携わる社会保険労務士や精神保健福祉士から出ています。障害者の
雇用促進に合わない機械的な運用が行われていることもあるのかもしれません。
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【受給するための3要件】
障害年金を実際に受け取るには、次の3点をクリアしないといけません。
(1) 初診日に、その年金制度の加入者(被保険者)だった(例外あり)
(2) 初診日の前々月までの加入期間のうち、保険料の未納期間が3分の1以下。または初
診日の前々月までの直近1年間に未納がない
(3) 初診日の1年6か月後、またはその前の症状固定日に、障害等級にあてはまる状態だ
った
詳しくは、次回に説明します
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医療とお金(23)
障害年金をもらうための四つのハードル
2015 3.7 Yomiuri On Line 読売医療サイト「Yomidoctor」
障害年金は、国民年金(障害基礎年金)しかない人でも1級で年間96万円、2級で77万円
厚生年金加入者だけに設けられている3級でも最低57万円を受け取れます。状態が変わらな
ければ毎年、給付が続くのですから、経済的メリットの大きい制度です。
しかし、受給するための要件がけっこう厳格に定められており、4点のハードルをクリアしな
いといけません。一般的には「3要件」と呼ばれますが、3要件のすべてに関係する初診日の
証明を独立させ、4点として説明します。
1 【初診日の証明】
障害の原因となった病気やけがで最初に医療機関にかかった日が「初診日」になります(発症
時期ではない)。最初の医療機関で診断がつかなかったり、誤診されたりしていても、その日が
初診日です。健康診断で異常を指摘された場合は、健診を受けた日が初診日になります。
初診日は、原則として「日」まで特定する必要があります。医療機関に頼んで「受診状況等証
明書」を発行してもらいます。
問題は、初診の時期が古い場合です。大きな病院はカルテ(診療録)を長い年月にわたって保
存していますが、医師法によるカルテの保存義務は5年。中小の医療機関ではカルテが廃棄さ
れていることもあるし、医療機関自体がなくなっていることもあるからです。医療機関から廃
棄したと言われても、正式にカルテ開示請求をすると見つかったケースもあるので、そこまで
試みましょう。
それでも無理な場合、過去の診断書、身体障害者手帳、交通事故証明、労災事故証明、事業所
の健康診断記録、医療情報サマリー、救急搬送記録、紹介状、診察券、領収書、次の医療機関
の記録など、他の資料で初診日を証明できればよいのですが、それもないと請求をあきらめざ
るをえないことがあります(保険料の納付状況によっては「月」
「年」までの特定でも認められ
る)。だから、できるだけ早く障害年金のための作業にかかるべきなのです。
糖尿病による網膜症・腎障害・足切断など、因果関係のあるとされる場合は、障害が生じた時
ではなく、最初の病気やけがによる受診時が初診日になります。
生まれつきの知的障害は、後で説明するように、初診日の証明なしでも請求できます。
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2 【初診日に、その年金制度の加入者だった(例外あり)】
「加入要件」と呼ばれます。初診日に加入していなければ、公的年金制度による障害年金は、
基本的には、もらえません(労災保険による年金は別)。
だから、「体調が悪いけど、退職して時間ができてから医者にかかろう」というのは大間違い。
勤めている時に受診しないと、障害厚生年金をもらえずに大損するかもしれません。
加入状況は年金手帳で一応わかりますが、念のため、基礎年金番号をもとに確認しましょう。
基礎年金番号は、国民年金、厚生年金、共済組合といった、すべての公的年金制度に共通で、
一人に一つの番号です。ネットでも照会は可能です。
・ねんきんネット
日本年金機構の年金事務所または年金相談センターに出向いても、照会してもらえます。国民
年金だけとわかっているなら、市町村の年金担当課でもかまいません。
<20歳前の障害>
国民年金の加入対象は20歳以上~60歳未満で国内に住所がある人です(2012年7月9
日以降は、日本に3か月を超えて合法的に在留する外国人を含む)。
初診日が20歳より前だった場合は、どうなるのでしょうか。国民年金に未加入で、保険料を
納めていないわけですが、20歳になった後に請求して、1級・2級の障害にあてはまれば、
障害基礎年金が支給されます。障害者が無年金になるのを防ぐための福祉的な支給です(本人
の所得が一定額より多い場合は半額または全額の支給停止)。
先天性の知的障害は、生まれた日が初診日とされます。一方、発達障害も生まれつきですが、
こちらもなぜか、実際に診療を受けた初診日の証明が求められます(初診が20歳より後なら
通常の保険加入に基づく障害年金になる)。その他の先天性障害・難病や幼少時の病気・けがも、
実際の初診日の証明が必要です。子どもの時から年数がたって、書類による初診日の証明が難
しいことも多いので、親族以外の複数の人の証言で20歳前の受診が認定されることもありま
す。
一方、初診日に20歳未満でも、すでに勤めていて厚生年金に加入していれば、成人と同様に
障害厚生年金が支給されます(1級・2級は障害基礎年金もセット)。
<60歳以上の障害>
初診日が60歳以上65歳未満のときは、国民年金の加入者とみなされます。70歳未満で国
民年金に任意加入している時も加入要件を満たし、障害基礎年金の請求は可能です。ただし、
老齢基礎年金の受給権を得ていないことと、初診日に国内に住所があることが受給の条件です。
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また、厚生年金保険は、適用事業所の常用労働者なら、70歳未満まで強制加入なので、初診
日が70歳より前なら、通常と同様に障害年金を請求できます。もし老齢基礎年金の受給権を
得ている場合は、上乗せ部分の障害厚生年金だけを請求できます。
3 【保険料の未納期間が一定以下である】
「納付要件」と呼ばれます。これが問われるのは国民年金の部分ですが、クリアしないと障害
厚生年金ももらえません。2種類のパターンのどちらかを満たせば、大丈夫です。
<初診の前々月までの加入期間のうち、保険料の未納期間が3分の1未満>
逆に言うと、保険料の納付期間と免除期間が合わせて3分の2以上あればよいのです。納付期
間には、厚生年金や共済の加入期間が含まれます。免除期間には、低所得などによる法定免除・
申請免除のほか、学生納付特例、若年者猶予(30歳未満)の期間も含まれます(ただし19
91年3月までの学生期間は任意加入だったので、分母からも分子からも除外して計算する)。
<65歳未満で、初診日の前々月までの直前1年間に未納がない>
最初のパターンをクリアできないときの救済措置として設けられている方式です。納付期間・
免除期間の考え方は、先ほどと同じです。
どちらの納付要件を用いる場合でも、
「初診日の前日」にクリアしている必要があります。つま
り、病気やけがで受診した後に、あわてて過去の保険料を納めても、障害年金はもらえません。
現在の制度上は、後の祭りです。だから、保険料を未納にしていると、まずいのです。
4 【初診日の1年6か月後、またはその前の症状固定日に、障害等級に
あてはまる状態だった】
「障害状態要件」と呼ばれます。一般的には、初診日の1年6か月後が「障害認定日」になり、
その時点で障害等級にあてはまるかどうかが判定されます。体の一部を失ったとき、体内に一
定の機器を入れたときは、症状固定が明らかなので、その時点。人工透析は受け始めて3か月
を過ぎると、障害認定日になります。
どちらも障害認定日から3か月以内の状態について、医師の診断書が必要です。認定されるよ
うな書き方をしてもらうことが、重要なポイントです。
障害年金の受給権は、障害認定日から有効です。厚生年金保険の加入者なら、健康保険による
傷病手当金の支給が最長1年6か月なので、その後を障害年金につなげるわけです。請求から
支給まで3か月以上かかるので、先に障害年金を請求しましょう。
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<遡及そきゅう請求>
請求は、5年前の分までさかのぼってできます。障害認定日から1年を過ぎて請求する場合は、
現在の状態の診断書も必要です。障害認定日より5年以上遅れると、古い分から毎月、時効に
なっていくので、早めに手続きをしましょう。
<事後重症の請求>
当初は症状が軽く、後から障害等級にあてはまる状態になった場合も請求できます。重症にな
った時点から3か月以内の診断書を添えます。この場合も初診日の証明は必要です。また、事
後重症の場合は過去にさかのぼった請求ができず、年金の支給は請求の翌月分からになります。
<別の障害が加わって支給対象になる>
最初の障害の程度が軽く、後から別の種類の障害が加わって、両方を合わせると年金支給対象
の障害等級になるときは、後発の障害(基準傷病)の初診日、障害認定日をもとに請求します。
この場合も過去にさかのぼった給付は行われず、年金の支給は請求の翌月分からです。
・ややこしそうなときは社労士に依頼する
障害年金を請求できるのは基本的に65歳未満です。「ひとりの年金は1種類」が原則なので、
障害、老齢、遺族の複数の年金を請求できるときは、いずれかを選択します(障害基礎年金+
老齢厚生年金といった組み合わせは可能)。
以上の説明は、現行法の対象になる場合(障害認定日が1986年度以降)です。それより前
は適用される制度が違ってきます。
基本的なことでわからない点は、年金機構の電話相談を利用しましょう。
・年金相談ダイヤル 0570・05・1165
(050で始まる電話からは03・6700・1165)
実際の請求には「病歴・就労状況等申立書」なども必要で、手続きはやっかいです。医療機関
や福祉事業所によっては、ソーシャルワーカーがやってくれますが、昔にさかのぼる請求や等
級の認定が微妙と思われるときなどは、障害年金に詳しい社会保険労務士に依頼するほうが賢
いでしょう。費用は、着手金が数万円または無料、交通費などは実費、成功報酬が年金の2か
月分、または遡及請求で支給された総額の10%といった設定が多いようです。
年金機構の決定に不満があれば、行政不服申し立て(審査請求、再審査請求)や行政訴訟もで
きます。再審査請求までは社労士が代理できます。
原昌平(はら・しょうへい)読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委
員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。2014年度から大阪府立大学大学院に在籍(社会福
祉学専攻)。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集 した本に「大事典 こ
れでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。コラムへの意見・質問などは こちら( [email protected] )どの執
筆者に宛てたものかをメールのタイトル等に書いてください。
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