オープンな地理空間情報の流通量とその国際比較 瀬戸寿一・関本義秀

オープンな地理空間情報の流通量とその国際比較
瀬戸寿一・関本義秀
International Comparison of the distribution amount by the Open Geospatial
Information
Toshikazu Seto and Yoshihide Sekimoto
Abstract: The purpose of this study is that based on international trends about open
data in recent years, to compare the amount and circumstances surrounding the
openness on geospatial information. In Japan, the number of provided open geospatial
data is small, the ratio in the overall high. On the other hand, open data cities of
oversea, is more provided in a variety of formats, it is easy to take advantage.
Keywords: オープンデータ(Open data),オープンガバメント(Open government)
市民参画(Public participation), オープンな API(Open API)
1. はじめに
報のオープンデータ化は,世界的な関心事になり
2009 年の第一次オバマ政権下において公開さ
つつある(Gurin, 2014; Sui, 2014).特に英語圏
れた Data.gov が発端となり,英国や EU などポ
ではオープンデータの利活用について参加型に
ータルサイトを伴って行政情報が Web 上で開放
よ り 広 く 議 論 す る 場 と し て ,「 ア イ デ ア ソ ン
されている.これらは加工・集計される前の原
(Ideathon)」や「ハッカソン(Hackathon)」と
(RAW)データで,機械可読可能なフォーマッ
いうイベント型でのアプリケーション開発が推
トかつ二次的利用も許されることからオープン
進され(McArthur et al., 2012),市民参加の動
データと称され,データ活用に関する官民協働
機意欲を高める新手法として着目されている.
(Johnson and Sieber, 2011)やアプリケーショ
このような動向は,日本国内においても急速に
ン開発支援が世界的に行われつつある.
進展している(庄司, 2013).2012 年 7 月には日
注目すべき点として,2013 年 6 月には G8 ロッ
本政府が「電子行政オープンデータ戦略」を策定
クアーンサミットにおいて「オープンデータ憲
し,2013 年 5 月にはオープンデータ・ビックデ
章」が締結された.これにより地図を中心とする
ータの活用推進に向けたロードマップも策定さ
地理空間に関するデータが,高価値なデータセッ
れたことから,地方自治体でも先進的な取り組み
トの一つに選定された.したがって,地理空間情
が始まりつつある.他方,オープンデータの先に
あるオープンガバメントの実現に向けては,デー
瀬戸寿一 〒153-8505 東京都目黒区駒場 4-6-1 生産技
タの量や種類の向上が求められている.
術研究所 Ce509(東京大学空間情報科学研究センター) 他方,オープンデータの使いやすさを示すフォ
Phone: 03-5452-6415 ーマットについても現状は様々であるため,これ
E-mail: [email protected] らを横断的・総合的に評価することが必要である
ッファ操作に焦点を当て,空間オブジェクトの
位置
1
が,Open Knowledge Foundation によって整備
先行研究である Goldstein and Dyson (2013)を基
されている Open Data Census 以外は,管見の限
に,地理空間情報を多く提供していると予測され
り見られない.
る合計 10 都市を対象に,API 経由によるメタデ
本研究は,近年のオープンデータに関する国際
ータ取得を基にその量を集計した.
的動向を背景に,特に地理空間情報に関するオー
プン化をめぐる状況とその流通量を比較するこ
3. オープンデータの流通動向
とを目的とする.具体的には,日本の地方自治体
(1)日本の流通動向
で公開されているオープンデータの動向を検討
日本のオープンデータ提供都市は,表 1 に示す
し,米・英・EU 諸国など先進的な諸都市で公開
ように 38 自治体・1,807 データセットに及ぶ
されているオープンな地理空間情報を,データセ
(2014 年 8 月 20 日時点).最も多いデータセット
ット数や対応フォーマット等から比較を試みる.
を 有 す る の は 徳 島 県 で ,620 デ ー タ セ ッ ト が
Google Drive 上に公開されている.これらは鯖江
2. オープンデータ提供の国際動向と研究手法
市や流山市などオープンデータの発端となった
オープンデータの提供方法は,大きく 2 つの流
都市を除くと,概ね 2013 年の中頃から 2014 年に
れが確認できる.前者は,政府機関や自治体が独
かけて公開された.
自の Web サイトで配信するもので,後者は CMS
表 1 日 本 の オ ー プ ン デ ー タ 都 市 と デ ー タ 数
を伴ったもので構成される。特に後者は CKAN
が代表例とされ,米・英・日の政府ポータルでも
用いられている.CKAN はオープンソースとして
開発されているため,原データの提供から API
を伴う実データ・メタデータ・他のプラットフォ
ームへの接続(リンク)など,合計 200 を超える
エクステンション機能を有するプラットフォー
ムである.その他,米国内の州や市を単位とする
諸都市では,Socrata が採用されている事例も多
い.こちらは,Google Maps API や統計データの
グラフ化機能など,データビジュアライゼーショ
ンに重点が置かれた CMS である.一方,日本で
は 2014 年 8 月 20 日時点で 38 の地方自治体がオ
ープンデータを公開しているが,独自の Web サ
イトでの発信が主流とされている.
以上の流通状況を踏まえて,本研究は(1)日本の
オープンデータ都市についてクローリング等の
処理を行い,データセットを集計する.(2)海外事
例はオープンデータ都市として知られており
CKAN の優良事例集(http://ckan.org/instances/)
に掲載されているもの,および米国内の諸都市は
2
上記のオープンデータのうち緯度経度や住所
予測される.これは表 2 に示す傾向にも現れてお
を有する地理空間情報は,合計 733 データセット
り,一般的なオープンデータと比べ,CSV など汎
で平均すると 1 自治体あたり 40.6%の割合である.
用の形式または SHP など GIS データ形式での提
このうち,地理空間情報の含有率が 100%に達する
供が多い.
のは室蘭市など 9 市町で,地理空間情報の提供数
が 50%以上の都市(21 県市町)を加えると,全体
(2)海外の流通動向
の半数の自治体に達する.この理由として,オープ
次に海外の流通動向を検討するために,オープ
ンデータの多くが,統計情報・行政情報以外に都
ンデータ先進 10 都市を事例に,その流通量をオ
市計画や施設等の情報であること,さらに室蘭市
ープンデータポータルそれぞれの API から取得
や静岡県など統合型 GIS が整備されていること
し集計した(表 3・表 4).なお一般的な CMS で
で,オープンデータの整備もしやすかったことが
ある CKAN・Socrata に加え,主要ではないがオ
表 2 国 内 の オ ー プ ン デ ー タ 都 市 に お け る 提 供 フ ォ ー マ ッ ト
表 3 海 外 主 要 オ ー プ ン デ ー タ 都 市 に お け る デ ー タ 数
表 4 海 外 主 要 オ ー プ ン デ ー タ 都 市 に お け る 提 供 フ ォ ー マ ッ ト
3
ープンな地理空間情報の配信を GIS プラットフ
てもその数には開きがある.特にヨーロッパ系の
ォーム(Azavea)上で行っているフィラデルフィ
CKAN を採用する都市では,様々な形式でオープ
ア市について API 取得した。
ンな地理空間情報を提供しているが,クイーンズ
海外の諸都市では複数のフォーマットでデー
ランド以外の割合は大きくない.一方,米国の諸
タ提供を行っているため,表 3 に示すようにデー
都市はフォーマット数が CMS によって整理され,
タ項目(データセット)数と実データ(データリ
地理空間情報の割合も比較的高い結果となった.
ソース)数には乖離が見られる.CKAN ベースの
実際,Socrata 上で様々なオープンデータが地図
都市は,平均すると 1 データセットあたり 2.8〜
化・視覚化されており,その利用シーンは CKAN
8.9 個のフォーマットで整備されている.特にハ
で整備されている状況よりも多いと考えられる.
ンブルク市は,平均 16 のフォーマットで実デー
本研究では扱えなかった詳細なデータ内容(例
タが提供されていることがわかる.
えば位置精度や更新頻度)の比較は,アプリケー
Socrata を採用している米国の諸都市は,デー
ションへの組込状況等と共に,流通を支える重要
タ 項 目 数 が 1.4 〜 3.1 個 と 多 く な い . こ れ は
な要素と考えられる.特にニューヨークを始め,
Socrata の仕様で,標形式として 4 つ(CSV,JSON,
日本でも近年リアルタイムデータのオープンデ
XML,RDF)で整備され,これ以外は別途 Google
ータ化が始まっており,都市インフラの整備や検
Maps API を用いた地図化やグラフ化など視覚的
討,さらには動的シミュレーションなど,静的な
なインターフェースが用意されている.
地理空間情報と比して,活用シーンの拡大や空間
オープンな地理空間情報は,各都市によってま
的意思決定にどの程度効用があるか,引き続き精
ちまちであるが全体の 9.6%〜37.7%となってい
微なオープンな地理空間情報の比較検討が必要
る。実数としてはクイーンズランド・ニューヨー
である.
ク・サンフランシスコ・シカゴの順で多く,特に
クイーンズランドは表 4 でも明らかなように,点
参考文献
に加えてラスタ(例えば GeoTIFF)やベクタ
庄司昌彦 (2013) 国内における活用環境整備, 情報
処理, 54(12), 1244-1247.
(SHP)での提供が著しい.特にニューヨークや
サンフランシスコは,GeoJSON や KML など
Goldstein, B. and Dyson, L. eds. (2013) Beyond
Web アプリケーション用フォーマットが多数公
transparency: open data and the future of civic
開されており,質・量ともに多様である.
innovation, Code for America Press, 316p.
Gurin, J. (2014) Open data now: the secret hot
4. おわりに
stratups, smart investing, savvy marketing
オープンデータでも特にオープンな地理空間
and fast innovation, McGraw-Hill education,
情報の流通量を把握するために,本研究では日本
330p.
の都市および,海外の先進都市 10 都市について
Johnson, P.A and Sieber, R.E. (2011) Motivations
のデータ提供状況を集計し,その特徴を検討した。
driving government adoption of the Geoweb,
日本のオープンな地理空間情報は,徳島県を除
GeoJournal, 77(5), 667-680.
McArthur, K., Lainchbury, H. and Horn, D (2012)
き数〜数十データセットの提供に留まり,フォー
Open data hackathon how to guide, 17p.
マットも多くないが,オープンデータ全体におけ
る比率は比較的高い.他方,海外の諸都市は,同
Sui, D. (2014) Opportunities and impediments for
様のプラットフォームを用いた先進都市であっ
open GIS, Transactions in GIS, 18(1), 1–24.
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