「福祉」と「仕事」 - Good Job! 展 2015-2016

「福祉」と「仕事」の
これからの 関係 づくり
Vol.
02
2014. January
Contents:
Good Job! Collaboration
File 03
コクヨファニチャー株式会社 ×
インクルーシブデザイン・プロジェクト
File 04
森川 ゴム 工業所 ×
たんぽぽの 家 アートセンター HANA
Good Job! RECOMMEND
01 カプカプひかりが丘 / 02『 コトノネ』
BOOK REVIEW
SELECTOR:西村佳哲
福祉、
企業、
NPO、
自治体、
研究機関など各分野
の専門家が手を組み、
新しい仕事をつくり出す
「Good Job!」。
『Good Job! Document』は、
そういった
「Good Job!」の思想・活動を広く
伝 えることを 目的 に 生 まれました 。
「 Good
Job!」から 生 まれたプロダクトを 中心 に 、そ
こに込められた想いやプロセスを紹介。
企画・
製造・流通など商品開発に携わる、さまざまな
プロフェッショナルの言葉を通して、
これからの
「仕事」
「 ものづくり 」
「福祉」のあり 方、可能性
について探ります。
photo: Kouda Masahiro
File 03
collaboration
商品開発 の プ ロ セ ス を コ ラ ボ レ ー シ ョ ン
コクヨファニチャー × インクルーシブデザイン・
プロジェクト
株式会社
オフィス 家具 の 製造・販売
ユーザー参加型デザインの実践プロジェクト
オフィスや 教育施設、公共空間向 け 家具 の 製造 で 知
られるコクヨファニチャーによるロビーチェアー
「Madre
( マドレ )」は 、財団法人 たんぽぽの 家 の 活動
の一環であるインクルーシブデザイン・プロジェクト
との 連携 で 開発 されました 。各種窓口 がある 待合空
間 への 来訪者 と 働 く 人双方 の 視点 を 重視 し 、商品開
発のワークショップを通して製作。発売以来、市役所
の窓口や病院のロビーで利用されています。
こ
れ
れ
こ
が
原
が
原
画!
画!
作・藤橋貴之
▲ さまざまな 人 に 使 いやすく 、心地良 く 過 ごせるようにつくら
れた 窓口向 けロビーチェアー 。サイドのラウンドシートの 有無 や
作・佐々木華枝
ベンチシートなどのバリエーションを 用意。障害 のあるアーティ
ストの作品を背に用いた「 アートマドレ」も提案されています。
photo: Kouda Masahiro
家具メーカーとのコラボレーション!
石崎さん、
佐々木さん、
森下さん、
どうやって実現したんですか?
コクヨファニチャー株式会社
官公庁事業部
石崎 隆宏 さん
官公 庁 向 けの 新 商品 開 発 プ ロジェクトの マ
ネージャー。本プロジェクトの 発起人のひとり
コクヨファニチャー株式会社
事業戦略本部 ブランドマネジメント部
佐々木 拓 さん
窓口向 けロビーのあたらしい 原型 をめざした
「Madre」のデザインを担当
森下:インクルーシブデザインは、英国のロイヤルカ
プロジェクトのコラボレーションによって生まれたロ
レッジ・オブ・アート発のデザインコンセプトで、
多様
ビーチェアー「M adre」。ワークショップ
(以下、WS)
なユーザーのデザインへの参加を重視することで社
を 通し、障害 のあるユーザーと意見交換 を重 ねてい
会の革新をめざしています。日本にはヘレン・ハムリ
くことで 使 い 手 の 心情 にまで 配 慮したデ ザイン が
ンセンター 研究員 のジュリア・カセムさんらが 紹介
実現しました 。今回、その 過程 をふりかえり、開発 の
しました。
たんぽぽの家ではインクルーシブデザイン
背景 や 今後 への 期待 をお 聞きしました 。
の理念に共感し、
2005年より調査研究や普及のため
のWS等に取り組んでいます。今回はこれまでWSに
Q1
本プロジェクトがはじまった
きっかけを教えてください。
参加してくれた障害のある人のなかから、
自治体窓口
を利用するであろうさまざまな人にユーザーとして
の参加を依頼しました。
石崎:もともと2010年頃から、2014年からはじまる
自治体庁舎建て替え特需にむけて、
社内でも新しい家
石崎:本 プロジェクトが 始動 した 2010年 は 、その 前
具の開発を進めていました。ただ、先行して自社で独
年のリーマン・ショックが弊社の売上にも大きく影響
自開発したものを販売したものの、
本当に誰もが使い
していました 。それを 契機 に 、これまでの 大量生産・
やすいデザインかどうか確信できず、
ユーザー参加型
大量消費を前提としたものづくりを見なおす動きが
デザインの 実践・研究 を 手 がけている 荒井利春先生
出ていたんです“
。顧客の顔の見えるものづくり”をめ
森 下 静 香 さん
に相談したことがはじまりです。そこから、リサーチ
ざし、使う人・使う場所・使われ方を特定し、満足いた
ワークショップに参加する障害 のあるユーザー
のコーディネートを担当
手法も含め“新たなデザインの原型”を探るべく、ユー
だける価値ある商品を提供したいと、
プロジェクトを
ザー参加型の商品開発プロジェクトが始動しました。
進めていきました。
財団法人たんぽぽの家
2
― コクヨファニチャーとインクルーシブデザイン・
Q2
商品開発 の WS はどのような 形式 で
行われたのでしょうか?
TOPICS
形式をとったことで、役割 の異なる人たちが集まっ
て 、マーケティングの視点 とデザインを統合 させな
がら開発ができました。
「Madre」の開発をきっかけ
「Madre」の 設置実績 は 、100ヵ所以上!
石崎:2010年9月、コクヨ本社にて実施しました。開
に、もっとユーザーを中心に考えて、ものづくりをし
にあわ
発商品
(2種のロビーチェアー、テーブル、
椅子)
ようという意識が強くなっていることも感じます。
「Madre」
設窓口向けのロビーチェアー
市戸塚区役所、さいたま市南区役所を
より多くの気配りを形にした官公庁施
は、
ユーザー、
役所職員にも優しい機能
せ、ユーザー、
コクヨメンバーを混合した、各4 チーム
が魅力。すでに熊本市東区役所や横浜
をつくりました 。ユーザーは 、左右の麻痺をもつ人、
森下:私たちは、これまでも企業とのWSを行ってき
手動・電動の車椅子を利用する人、全盲の人、盲導犬
ましたが、製品 を 一 から 共同開発 するというのは初
と行動をともにする人の 6 名。コクヨは、
各チームの
めてでした 。障害のある人は、生活のなかで 、環境に
デザイナーがリーダーとなり、
開発やマーケティング、
あわせて工夫 や 努力 をしています。そういった経験
営業など専門の異なる編成としました。
や 意見 が 製品 に 生 かされ 、ユーザーもやりがいを感
はじめ 、病院 など 全国100ヵ所以上 に
て、
多くの方に愛用されています。
役所窓口の 仮想空間を 設置!
窓口 を 訪 れた 人 が「順番 を 待 つ 」から
じることができたのではないかと思います。
「手続きを完了する」までのフローを、
佐々木:当時、僕 は 入社 3 年目 でした 。いつもは 長期
間 の 開発 が 多 いので 、貴重 な 経験 になりましたね 。
WSは、初日にリサーチ、2日目にはアイデアを考え、
より 日常 に 近 いかたちで 検証 するた
Q5
め、
社内のショールームに仮想空間を
今後の展開や期待していることにつ
いてお聞かせください。
設置! 無意識 のうちに 行 っていた
ユーザーの行動にも気づき、行動心理
最終日 にはプレゼンテーションをするという流れ。
についても話し合うことができました。
弊社の現行商品 に座っていただき、話を聞きながら
石崎:現在「Madre」は、高い機能性を兼ね備えた商
改善点 や不具合 を確認していきました。座り方の違
品として評価をいただき、官公庁や病院をはじめ、全
いから 生 じる 課題 や 車椅子 の 居場所 など 、日常生活
国100ヵ所以上に納品されています。ですが、視覚障
を送るなかでは気づかないことばかりで衝撃でした。
害の方にとっては、どれが座面かわかりにくいとい
インクルーシブデザインを知る 1 冊!
インクルーシブデザイン・プロジェクト
では 、2006 年 に 日本初 のインクルー
シブデザインに 関 する 書籍 を 出版! う声もあり、
座面と背面が異なる色の「Madre」が生
森下:市役所の窓口を再現してWSを実施できたこと
まれました 。そこから 発展 し 、障害 のある 人 のアー
も良かったと思います。
一つひとつの所作から、背景
ト 作品 を 柄 に 用 いた「Madre」も 納品 できたらと 構
にある 心理 について知 ることができましたし、ユー
想中です。心のこもったアートを配したロビーチェ
ザーの 動作 をシミュレーションしながら 丁寧 なリ
アーが 設置 されることで 、より 待 ち 時間 のクオリ
サーチが実現 できたと思 います 。また 参加 ユーザー
ティを高めてくれることを期待しています。
からは、
自分の経験が社会に生かされ、ものづくりの
現場に立ち会えた喜びの声も聞けました。
英国におけるインクルーシブデザイン
の理念や実践に加えて、日本における
ユーザー参加型のデザインを紹介。
[監修/平井康之
(九州大学)
]
! わたしたちも参加しています !
佐々木:役所 は 、ライフイベントに 応 じて 、みんなが
訪 れる 場所 なんですよね 。そういう 場所 だからこ
Q3
商品をデザインする上では、どのよう
なことを意識していましたか?
そ 、アートを 取 り 入 れる 意味 があると 思 いますし 、
「Madre」を 起点 に「地域 のシンボルとなる 空間」が
生み出せる可能性を感じています。
佐々木:ユーザーの 行動 から 、あらゆる 場面 を 想定
し、
適切なかたちを導き出すことに注力しました。商
森下:障害のある人に関わっていると、ものによって
品の高さや奥行きであったり、足の不自由 な人が立
豊かになることの可能性を実感します。
「障害」と言
ち 上 がりやすいよう座面 の 下部内側 を 丸 くしたり、
うと、その人のなかにあるように思われがちですが、
盲導犬 が入れるスペースを広めにとったり、肘掛 け
人と人や環境、人とものとの間にもある。障害のある
を適切な位置につけたり……、
機能が主張しすぎない
人の「ために」ではなく、障害のある人と「ともに」と
デザインが特長です。
僕たちのチームでは、いろんな
いうスタンスのものづくりが行 われたとき、おのず
機能を加えていっても、シンプルで誰もが座りたく
と豊かなものが出てくると思います。
なるかたちをめざしました。2 日目には、チームメン
バーのアイデアで 、イタリア 語で「おかあさん 」とい
石崎:これから日本は超高齢社会に突入し、高齢者や
う意味の「Madre」という名前も生まれました。デザ
障害のある人を含めて多くの人が主体的に社会参加
インする 上でも、美しさというより 、親しみやすさ 、
していくことが求 められます。みんなが協力 して 働
あたたかみを大切にしていました。
森下:インクルーシブデザインには 、目の前にいる相
手を最初の対象者 と設定し、深くリサーチすること
プの人間 を 想定 しながら思考 を 広 げ 、デザインへ取
Goo
d J o b ! 実 現 の ポ イント
り 込 む 手法 があります。小 さな 気 づきの 積 み 重 ねか
荒井利春実験工房代表/金沢美術工芸大学名誉教授
コクヨファニチャーさんから 相談 を 受 けたのが
そして、
ユーザーの方々と 2泊3日のデザ
2010年。
インWSが実現。
現在までに4つの製品を開発する
ことができました。ユーザーのデリケートな感性
が反映され、
創造的で穏やかな魅力が秘められて
います。
多様なユーザーとともに現在の道具と向
き合い、
互いの感性を豊かに交換し覚醒させなが
ら新たな道具の原型を練り上げていく。デザイン
の無限の可能性をさらに追究しましょう。
僕たちのニーズすべてを
あたたかく包むデザイン。
河原林孝輔
京都府立大学学生 / WSに参加
参加者にとっては新しい発見や学びがある
WSは、
ら、
普遍的なものをめざしていく。そこから、これまで
のですが、
いつも一方通行で、
伝えた僕らの問題は
にないデザインの発想も生まれるのだと思います。
Q4
荒井利春
ける環境づくりについても包摂的に考えていくこと
が、
大切なのではないかと考えています。
で、コンセプトの核を探り、そこからさまざまなタイ
感性の交換 や覚醒が 導く
デザインの可能性をさらに!
その問題に対して、
コクヨさんは
解決しないまま。
同じ目線で耳を傾け、問題を解決するデザインを
今回のプロジェクトと通常の商品開
発では、どのようなプロセスの違いが
ありましたか?
だから
提案してくれました。
「Madre」には、
普段僕
たちが公共空間で感じる「疎外感」や「落ち着ける
など、
ネガとポジのいろんな感情が包み込ま
場所」
れています。コクヨさんが僕たちのニーズを包み
佐々木:普段は各部署が企画・設計・流通などを担当
込んでくれたように「
、 Madre」は公共空間を訪れ
する受け渡し式の開発が多いんです。
でもWSという
る人たちをあたたかく包み込んでくれます。
コクヨファニチャー株式会社
インクルーシブデザイン・プロジェクト
http://www.kokuyo-furniture.co.jp/
http://popo.or.jp/id/
本社所在地:大阪府
事務局所在地:奈良県
コクヨグループの事業会社。
「人を中心にオフィス空間を考える」
企業や自治体、教育機関等と連携し、ユーザー参加のデザイン・
をモットーに、オフィス・教育・医療・高齢者施設・商業店舗など
の家具の製造・仕入れおよび販売を行う。
ワークショップの企画・コーディネートや障害のあるユーザー
(デザインパートナー)のマネジメント 、調査研究・普及活動を
行う。
財団法人たんぽぽの家に事務局をおく。
3
4
photo: Kouda Masahiro
5
File 04
芸術性 と 実用性 に 富 ん だ 製品 の 提案
森川ゴム 工業所 × たんぽぽの 家 アートセンター HANA
collaboration
サンダル・ブーツ 製造 メーカー
コミュニティ・アートセンター
アートセンター HANA から2012年 に 生まれたブラン
ド「dart」。障害のある人のアートと、メーカーが 持 つ 技
術を 組 み 合 わせた 製品 づくりを 行 っています。今回、
同じ 奈良県でサンダルやブーツの 製造を行 う森川ゴ
ム 工業所 が 製作を担当。アートセンターHANAの所属
アーティストとのコラボレーションが 実現しました。
こ
れ
が
原
画!
作・宿利真希
こ
れ
が
原
画!
作・西ノ園有紀
▲ 雨 の 日 だけでなく 、ガーデニングやフェスにも 使 える 、レイン
ブーツ 。たんぽぽの 家 の 所属作家 によるイラストを 商品化。数 あ
る 作品 の 中 から 、北欧 を 感 じさせる 6種 が 選 ばれました 。
photo: Kouda Masahiro
地場メーカーとのコラボレーション!
森川さん、
前川さん、
藤井さん、
どうやって実現したんですか?
―たんぽぽの家アートセンターHANAのブランド
、dart」のブランディング・ディレクション
前川:私は「
「dart 」が発表したレインブーツ。製作を森川ゴム工
を担当しています。
過去に、たんぽぽの家と靴下のデ
業所、ディレクションをデザイナー前川亜希子 さん
ザインでお仕事させていただいたこともあり「
、今回
が行 い 、現場 の 職人 たちとともに意見交換 をしなが
はブーツだから……」と、
履物つながり(笑)で相談を
ら試行錯誤の末、製品化されました。
「今までなかっ
受けたことがきっかけでした。ただ当初は、まだまだ
たものをつくる」を合い言葉に、
製造過程まで入り込
ブランドコンセプトも曖昧で、せっかくなら、
一緒に
んでつくり上げた、
その想いについてお聞きしました。
「dart」というブランドを育てていきたいと思い、関
森川ゴム工業所
森川 良一 さん
レインブーツの 製造を 担当。ものづくり・ビジ
ネスの 視点でプロジェクトを牽引
デザイナー
前川 亜希子 さん
「dart」全体 のディレクションを 担当。レイン
ブーツや、プロダクトのデザインも担当する
わっています。
Q1
「dart」プロジェクトについて 、お 聞
かせください。
確 かな 製造技術 をもつ 地場産業 と 障害 のある 人 の
藤井:2012年秋に立ち上がった「dart 」の背景には、
6
アートが出会い、
芸術性と実用性に富んだ製品を暮ら
障害 のある 人 の 就労支援活動 をする 僕 たちが 抱 え
しのなかに提案することを目的に、
ほかにも食器やト
る2つの悩みがありました。ひとつは、障害のある人
レイ、
アクセサリーなどのアイテムを製作しています。
の 仕事 と 収入 を 増 やすにはどうすべきかという 課
題。もうひとつは、施設内で生み出せる仕事やものづ
たんぽぽの 家 アートセンター HANA
藤井:今回 は 、レインブーツについてお 話 しますが 、
くりに限界があるということです。そこで、
障害のあ
Q2
障害のある人の就労支援の状況を教
えてください。
藤井 克英 さん
る人のアートのおもしろさと 、奈良県内 にあるメー
アーティスト、
メーカー、
デザイナーをつなぐ
プロジェクトマネージャー的役割を担う
カーの技術やネットワークを組み合わせて日常生活
藤井:障害のある人が、福祉施設や作業所で働くと、
で使えるアイテムをつくれないかと考えました。
月給は全国平均13,000円ほどなんです。人によって
差はありますが、そこに国から支給される障害基礎
森川:当初は、大きな布に総柄でプリントしたものを
年金を合わせても、10万円前後。補助を受けても、ま
切って使うように設計していましたが、今は型にあ
だまだ自立した生活を送ることは厳しいのが現実で
わせたデザインのプリントを用意 しています。総柄
す。
親族からサポートを受ける人も多いですが、もし
の方が使い回しもできるし、
無駄も少ないのですが、
ものことがあったときのことを考 え 、自 らの 生活 を
それだとなかなか仕上がりのクオリティが上がらな
自分の給料で賄っていこうと思うと、
障害のある人た
い。
そこで片足ずつ、
抜き型に合わせて柄をデザインす
ちが稼げる仕組みをつくっていかないといけないと
るという手法を採用しました。
そうすることにより、
細
強く感じています。
かく立体部分の柄の見え方がコントロールできるよ
TOPICS
「 まかしとき!」ものづくりを 支 える 職人魂!
全国的 にレインブーツを 展開 する 森
川ゴム工業所の頼もしい職人。ブーツ
製作 に お い て も「 ど ん ど ん つ く る か
ら !」と 頼 も し い お 言葉 を い た だ き
ました。関わる人たちが商品をもっと
好 きになり 、より 良 くしていく 。そん
なものづくりをめざしています。
うになりました。
「dart 」
森川:たんぽぽの家の想いを受け、弊社では、
ボタン 製造 の 精密技術をアクセサリー づくりに!
のアイテムのひとつである、レインブーツの製造 を
藤井:そうですね。片足ずつ工程が違いますから、現
担当しています。当初は、障害のある人の絵をデザイ
場の職人さんたちとのコミュニケーションが重要で
ンで使用し、
弊社からの販売を考えていましたが、話
した。サンプルを囲んでは微調整し、
縁についたテー
し合いのなかで新しく製品を共同開発することにな
プの 色味 をテストするために縫製 してもらったり。
りました。
それぞれの立場から意見を交わしながら、
非
何より嬉しかったのは、
「現場は、私たちにまかせと
インにより 作品 の 雰囲気 を 活 かした
常に風通しよく商品開発を進めています。
き!」という、職人さんたちの 声。仕上がりのクオリ
アクセサリーができあがりました。
大正 3 年創業 の 仲内株式会社 が 長年
培ってきたボタン製造の精密な技術。
多様 な 加工方法 を 強 み に 、作品 の 色
や 形 などを 忠実 に 再現 したアクセサ
リーを製作。今回は柊伸江さんのデザ
ティには、特 に 気 を 遣 いたいと思 っていたので心強
実は中学時代の同級生で、ずっと
藤井:森川さんとは、
かったです。デザインを楽 しみながら作業 してくれ
奈良を拠点に頑張っている企業だということを知っ
ているのも嬉しかったです。
コンセプトは
「Art・Work・Communication」
アートセンターHANA は 、障害 のある
ていました。このプロジェクトが、
地場産業との協働
モデルとしても展開 できたらと考 えています。もち
ろん 社会貢献 という 意味合 いもあると 思 いますが、
人のアートセンターであると同時に地
域に開かれた創造の拠点です。さまざ
Q5
まな人がアートを通したコミュニケー
今後の展望を教えてください。
ションの場の創造を行っています。そ
こでできた 作品 が 、企業 な ど と 出会
お互いに協働できるパートナーでありたいですね。
い、
新たな可能性が生まれています。
森川:奈良県は、さまざまな製造を手がける企業が集
Q3
レインブーツを製造するうえで、
どの
ような課題がありましたか?
まっている 場所でもあるんです 。また、みなさん 、絶
え間なく新しい試みを考えている「
。dart」の試みも、
! わたしたちも参加しています !
そういった今までに関わりのない企業との新しい試
森川:これまで受注生産は行わず、自社製品を展開し
みとなるよう、さらに 異業種 でも 関 われるルートや
てきました。
なので「
、dart 」のように少量の製造では
地盤をつくっていきたいですね。
まだまだコスト面 の 調整 が 必要 だと 感 じています。
ただ、
今回については、アート作品を生地に転写する
、dart 」
藤井:今は主に製造部分を協働していますが「
ということで、作品 の 特徴 である 鮮 やかな 色 づかい
というブランドとして、販売方法 も 一緒 に 考 えてい
や繊細なラインを再現することが重要になってきま
くことができたらと思っています。また、それと同時
す。
単価は上がるのですが、これまでの市場にないも
に 、障害 のあるアーティストの表現 を 楽 しんでくれ
のをつくりたいという想いから、
妥協することなくク
るファンを増やすこと、
育てていくことを、常に考え
オリティを突き詰めることにしました。
ていかないといけませんね。
前川:今回のレインブーツは、これまでの森川さんの
前川: 2013年10月に参加した展示会では、来ていた
既存の商品とも、
製造方法が異なります。それは、
絵柄
だいた 方々 から 賛否両論 の 声 を 多数 いただくこと
を再現するためにテストプリントを繰り返すなかで、
ができました。
来場者であるバイヤーからは、製品に
プリント方法 と 生地 を 思 い 切 って 変更 したんです。
対する前向きな感想もあるなか、価格については「高
そうすると、これまで大柄 で 抽象的 な 生地 の 展開 を
い!」という反応がほとんど 。ただ、ブランドとして
するしかありませんでしたが、細 かな 描写 を 再現 で
製品をつくり込んで、きちんと見せることができた
きるようになりました。
ら、
値段も納得してもらえると思うんですよね。売る
雲をも突き抜ける
「dar t」の可能性をデザインに
岡﨑潤
デザイナー
ブランドロゴとパッケージ、
一部製品のデザインを
ロゴとパッケージは、
担当しています。
企画チーム、
ものづくりに誠実
製造パートナーとの協働のもと、
に、
シンプルで素
愛情を込めた丁寧な作業の結果、
ロゴのまっすぐ長くの
直なデザインとなりました。
びた「d 」は 、雲 をも 突 き 抜 ける「dart 」の 可能性、
その先にもっと素敵な可能性があるようにという
願いを込めています。
製品では、
作家の豊かな個性
や作品に込められた想いを大切に紡いでいます。
場所の開拓も、
今後の課題のひとつです。
藤井:僕も何度か工場に足を運んでいたんですが、伸
身の引き締まる想いで
ひとつずつ、つくりました。
縮性のある生地なので、変更 するだけで柄の見え方
も 変 わり 、ブーツ 型 に 生地 を 抜 く 型 も 少 しずつ 変 わ
る。その都度、現場の方々が工夫して、調整してくれ
ている様子 を 拝見 していて。森川 ゴムの 職人 さんた
Goo
d J o b ! 実 現 の ポ イント
中村孝士
株式会社 ナカムラ 代表取締役
私も「dart 」製作チームのひとりとして、パッケー
ちのおかげで実現できた部分も大きいです。
ジも商品のひとつと思い、
製品を入れる箱をつく
Q4
りました 。直接会 ってやりとりするなかで 、身 が
大切にしている、こだわりのポイント
はありますか?
引き締まる想いで仕事をすることができました。
デザイナーの岡崎さんからの斬新な提案と、こち
らが作業しやすいような指示をいただき、
大変あ
前川:デザイナーの立場から言えば、
「プロダクトと
してのかわいさ 」を 優先 したことですね 。そのため
りがたかったです 。私 たちが 丁寧 に 製作 した「一
に、
原画をそのまま使うのではなく、図柄の素材とし
箱」が 、お 客 さまへ 渡 る 製品 の 一部 として「想 い 」
も 伝 える 一役 を 担 うと 同時 に 、私 たちの 気持 ち 、
て使うという判断もあります。
アートグッズではなく
こだわりも感じていただければ幸いです。
製品として、履きやすく、使いやすく、かわいいもの
をつくるべく試行錯誤しました。
森川ゴム工業所
たんぽぽの家アートセンターHANA
http://maruryo.com/
http://popo.or.jp/hana/
創業:1948年 所在地:奈良県
所在地:奈良県
奈良でゴムやプラスチックの加工を行う。日本製のクオリティ
アートを通じて自由に表現・交感することをコンセプトに設立
にこだわり、
原材料はすべて国産のものを使用。
職人の技術を用
したコミュニティ・アートセンター。
2004年にリニューアルオー
いて、
いつまでも愛される
履き心地はもちろん耐久性も追求し、
プン。
障害のある人が個性を活かして制作・発表を行う場として、
製品を提供し続けている。
また、
アートの可能性を探求するWSや各種イベントも企画。
7
Good Job! RECOMMEND
S E L EC
オリジナルロゼット製作:大野紅
R
「Good Job! 」な 活動 を 紹介 します!
TO
BOOK REVIEW
これからの
福祉 や 仕事 を 考 える
3
西村佳哲
冊
[ リビングワールド
代表]
Data 03 : 地域 との 関係 を 問 い 直 す 活動 が 新 しい!
01
カプカプひかりが 丘
『 安心して 絶望できる人生 』
http://kapukapu.org/hikarigaoka/index.html
著:向谷地生良、
浦河べてるの家 発行:日本放送出版協会 / 2006年初版
/ NPO法人カプカプ[神奈川]
精神障害 などをかかえる 人々 が 暮 らし 働
喫茶店 はつながりが 育 まれる 場 ̶̶ そ
いている 、北海道・浦河 の「 べてるの 家」。
れを 体現 しているのが 、横浜市・西 ひか
彼 ら の 活動理念 は「降 り て ゆ く 生 き 方」
りが 丘団地 の 商店街 にある 喫茶店「 カ
「今日 も 順調 に 問題 だらけ 」。健 やかで 痛
プカプ 」。こだわりの 珈琲 や 紅茶、原材
快 な 1 冊。
料を吟味し手づくりした焼き菓子やプリ
ンが人気です。
1997年に「地域の人々と
障害のある人をつなぐ手だて」として開
02
『 第3 の 住 まい コレクティブハウジングのすべて
今では横浜のあちこちに4店舗、地
店し、
域住民 の 憩 いの 場 として 愛 されていま
発行:エクスナレッジ / 2012年初版
す。
障害のある人の好きなことを「働き」
シェアハウスの向かう先はこれだと思う。
へ、
「生産性」だけにとらわれない働き方
同質的なつながりとは異なる、多様な多世
の価値を提案。
1人ひとりが違う、見たこ
代居住。ともに生きる技術としての集合住
ともない接客を、
ぜひご体験あれ!
活動団体 からの
コメント
』
著:小谷部育子+住総研コレクティブハウジング研究委員会 宅 づくり 。あとはやるだけ 。
なんら特別なことはしていません。
その
一人ひとりの差異というかかけがえのなさというか、
みなさんも喫茶店やりませんか?
なんとも素敵な魅力を殺さないことを心がけるだけです。
鈴木励滋
(NPO法人カプカプ 地域作業所カプカプ所長)
03
『愛するということ』
著:エーリッヒ・フロム 翻訳:鈴木晶 発行:紀伊國屋書店 / 1991年初版
Data 04 : 障害 のある 人 の“ はたらき ”を 応援 する 姿勢 がいいね!
コトノネ
どうすれば愛されるか?ではなく、どのよ
うに愛することができるかを書き上げた、
ある哲学者による古典的名著。
少なからぬ
http://kotonone.jp/index.html
人 が 、幾度 も 読 み 返 している 本。
/株式会社はたらくよろこびデザイン室[東京]
雑誌 は 、想 いを 届 けるツールのひとつ 。
東日本大震災を機
季刊誌『コトノネ 』は、
に「
、障害者および施設の復興支援をした
3冊の本を選んだ理由
い !」という 想 いから 2012年1月 に 生
教育 であれ 福祉 であれ 、
「 する 」人 と「 される 」人 という 枠組 みが
まれた情報誌です。
コンテンツのひとつ
あらかじめ存在していると、そこに自分を合致させてゆくような
では、
である「コトノネ調査室」
障害者施
振る舞 いを 人 はしはじめます 。ある 役割 のなかに 、
「 まだ 未成長」
設と社会との接点を探るべく、施設の経
で「治療 の要る」何者かというポジションのなかにみずから入って
営実態や消費者の意識などを独自に調査
いってしまう 。いまこの 社会 において 、生 きている“人間”として
するなど、
「福祉」と「仕事」を考えるヒン
の 主権 や 尊厳 の 獲得 を 必要 としているのは 福祉 の 対象者 に 限 ら
トが満載! 全国の働く障害のある人や
ないと 思 います 。そんな 視点 でこの 3冊 を 選 んでみました 。弱 さ
彼 らを 支 える 人々 の 元気 でパワフルな
を絆に、
苦労を自分たちの手元に取り戻し。
暮らしを構成するメン
“はたらき”がたくさん詰まった 紙面で、
バーを再編し。
そのなかで互いを愛する技術を磨いてゆく。
その手
全国に働く喜びをつなげています!
活動団体 からの
コメント
MESSAGE
障害のある人もない人も混じりあって、
楽しいハーモニーを奏でる、そんな社会を夢見て
『コトノネ』をつくっています。次号9号は、2月発売予定。よろしくお願いします!
田中勉(『コトノネ』編集部)
れは 障害 のある 人 のためだけのプロ
展 は 、3日間 で 2,500人 を 超 える 方 が
ジェクトではないということ 。
「 アー
ご 来場 し 、大盛況 のうちに 終了 しまし
ト」
「 デザイン」もキーワードのひとつ
た。
ものづくりに 関 わるデザイナー 、
にすぎません 。障害 のある 人 と 一緒 に
クリエイター 、企業 や 行政 の 人々、そ
新 しい 仕事 を 考 えることで 、誰 もが 社
して 障害 のある 人 と 、支 える 人 たち 。
会 のなかでの 役割 を 実感 すること 、関
それぞれに 展覧会 を 楽 しんでいただ
わった 人 たちみんなが 自分 で 自分 の
い た よ う で す 。展示 し て い た 製品 を
人生 をデザインすることをめざして
扱 いたいという商談 や 、自分 たちの 地
います 。せんだいメディアテークでの
域 でもこんな 取 り 組 みをしてみたい、 展示 も 経 て 、2月15日 からは 福岡 に 巡
というご 相談 まで 、さまざまな 会話 が
回 します 。多 くの 出会 いがあることを
繰 り 広 げられました。来場 したみなさ
楽しみにしています!
る」
「 書 く」
「 教 える」3 種 類 の 仕事 に 携 わる 。最新刊 はランドスケープ・デザイ
Exhibition information
障 害 のある人たちの AR Tと社会的な I NNOVATION
まとお 話 をするなかで 感 じたのは 、こ
8/ COURT で 開催 された Good Job!
西村佳哲 / 19 6 4年東京生 まれ 。武蔵野美術大学卒。建築分野 を 経 て、
「 つく
ナーの 田瀬理夫さんに焦点をあてた『
、 ひとの居場所をつくる』
( 筑摩書房)。
岡部太郎 ( Good Job! プロジェクト / 財団法人 たんぽぽの 家)
1 1月29日∼ 12月1日まで渋谷ヒカリエ
がかりを学びたいな、
と。
2013.1 1/ 29 ( F r i . ) 1 2 / 1 ( S un. )
2 0 1 3 .11 2 / 15 ( S un. ) 1 2 / 1 7 ( Tuu e . )
2014 . 2 /15 ( S a t . ) 2 / 1 7( M o n .)
渋谷
渋谷ヒカリ
渋
谷ヒカリ
谷
ヒカ
カリ
リエ 8 F
せんだいメデ
だい
だいメディ
いメデ
いメ
い
メディアテーク 1 F
オープン
ンスクエア
イムズ B2 F イムズプラザ
10
0:0
::0
0 0 - 20:0 0
8 / C O URT
photo: Kazuharu Igarashi
【 Good Job! Document 02】 発行日:2014年 1 月10日 発行元:財団法人 たんぽぽの 家 〒630-8044奈良市六条西3-25-4 Tel 0742-43-7055 Fax 0742-49-5501 E-mail [email protected] URL http://goodjobproject.com 監修:Good
Job!プロジェクト 編集ディレクション&編集:多田智美(MUESUM) 編集:永江大(MUESUM) アートディレクション & デザイン:原田祐馬(UMA/design farm) デザイン&イラスト:廣田碧(UMA/design farm) 協力:西岡大輔
(IRO)
、
martagon 印刷・製本:株式
会社シーズクリエイト *本フリーペーパーは、
右記の展覧会開催に際し発行されました。
「Good Job! 展」
主催:財団法人たんぽぽの家 後援:宮城県、
仙台市、
福岡市 助成:日本財団、
仙台市市民文化事業団 特別協賛:コクヨファニチャー株式会社、トヨタ自動車株式会社 協賛:株式会社竹尾、九州 ろうきん、タビオ株式会社、仲内株式会社、株式会社西山 ケミックス、ハリウコミュニケーションズ株式会社、明治安田生命保険相互会社 協力:イムズ、渋谷 ヒカリエ 、NPO法人 エイブル・アート・ジャパン、NPO法人 まる 8