大学の組織的連携の態様と在り方について

平成16年度
文部科学省大学知的財産本部整備事業
「21世紀型産学官連携手法の構築に係るモデルプログラム」成果報告書
大学の組織的連携の態様と在り方について
平成17年3月
大阪大学
知的財産本部
「21世紀型産学官連携手法に係るモデルプログラム」成果報告書
目
次
はじめに
「組織的連携の態様と在り方について」研究課題
委員会名簿
報告書執筆者
報告書概要
第1章
大学と企業の連携の現状
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.1
研究面での連携
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.2
教育面での連携
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
1.3
その他の連携
第2章
組織的連携の意義とねらい
2.1
企業における大学との連携の意義とねらい
・・・・・・・・・・・・・ 17
2.2
大学における企業との連携の意義とねらい
・・・・・・・・・・・・・ 19
2.3
米国における組織的連携の状況
第3章
組織的連携の具体例
3.1
わが国の組織的連携の現状
3.2
バイオ・生命系分野における組織的連携の現状
3.3
大阪大学における具体例
3.4
東京工業大学における具体例
3.5
九州大学における具体例
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
3.6
京都大学における具体例
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58
第4章
組織的連携の態様と類型
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63
4.1
産学連携の態様
4.2
産学連携における組織的連携の位置づけ−総合的な連携−
4.3
組織的連携の類型
第5章
組織的協定のあり方
5.1
連携のフォーメーション
5.2
連携・研究のマネジメント
5.3
知的財産権及び秘密保持の取り扱い
5.4
相手先企業以外からのアクセスについて
5.5
リエゾンプログラム
5.6
海外企業の参加
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
・・・・・・・・・・・ 34
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63
・・・・・・ 64
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
・・・・・・・・・・・・・・・・ 75
・・・・・・・・・・・・・・ 77
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78
i
第6章
組織的連携における法的問題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
6.1
はじめに
6.2
法的サポート体制
6.3
規程等の作成に関する問題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81
6.4
契約書の作成に関する問題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84
6.5
職務発明制度に関する問題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86
6.6
学生の扱いに関する法的問題
6.7
まとめ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89
おわりに
参考資料
●大学向けアンケート調査票
●企業向けアンケート調査票
●大学へのアンケート調査の集計結果
●企業へのアンケート調査の集計結果
ii
はじめに
本報告書は、文部科学省「平成16年度21世紀型産学官連携手法の構築に係るモデル
プログラム」事業において、大阪大学が受託した研究課題「大学と企業の組織的連携の態
様と在り方」について調査・検討した結果を取りまとめたものである。
従来、産学間で共同研究や受託研究を実施する場合には国が一律に定めたルールに基づ
いて契約を取り交わすことにより実施されてきたが、平成16年4月の国立大学法人化以
降は、国立大学法人が各大学固有の個性と特色ある基本方針に基づいて、企業等との間で
契約を結ぶことができるようになった。一方、知的財産立国の実現に向けて、大学等の知
的財産の創造と活用を推進するため、知的財産の大学等の機関一元管理の原則が実施に移
され、多くの国立大学法人で知的財産本部ならびに産学官連携活動を機動的に推進する体
制の整備が図られたところである。
このような状況から、わが国では、数年前より、大学研究者と企業との間の従来型共同
研究に加えて、大学と企業とが組織と組織の関係として、多面的かつ戦略的な連携を推進
することを目的とした協定に調印する事例が増大しており、今後もますます増大するもの
と考えられる。一方、このような新しい連携形態は、「包括的連携」という言葉が一般的に
用いられており、その連携内容の具体性が不明確なまま推進されているケースも多く、「包
括」という言葉のイメージから、公的存在である大学と企業との連携の在り方に関して種々
の誤解や疑問が投げかけられていることも事実である。
このような問題認識にたって、本研究課題では、大学と企業の「包括協定」の意義を考
察するとともに、そのメリット、デメリットおよび取り組むべき課題を明らかにし、今後
のあり方を提言することを目的とした。なお、
「包括」という言葉に関しては、極めて抽象
的であり、その内容が不明確であることから不適切であるとの認識にたって、その目的、
趣旨をより具現化していると考えられる「組織的連携」という言葉を提案し、本報告書全
般にわたって統一している。
本研究課題は、まだ我が国においては実績の少ない新しい連携形態であるため、大変難
しい問題を数多く内包し、非常に多面的な視点からの分析と課題研究が要求されると想定
されたため、大阪大学内の研究にとどまらず、産学官各界の見識の結集が必要と考え、学
内外の多く有識者にお願いして専門委員会を構成し検討いただくこととした。また、多く
の具体的事例の収集が必要と考え、多くの大学、企業にアンケート調査を実施し、現場の
意見をできるだけ反映したより実証的な研究になるよう努めた。
本報告書の構成は以下の通りである。
第1章は、これまでの産学連携の現状を理解しておくことを目的に、大学と企業の連携
の現状についてまとめている。なお、研究面だけではなく、教育面や各種委員会活動も産
学連携の重要な位置づけとしてまとめている。
i
第2章は、組織的連携の意義とねらいについて、大学側の視点と企業側の視点に分けて、
アンケート調査結果を反映しながら分析している。また、海外の産学連携がどのような意
図で行われているかを探るため、米国の先進的事例を紹介している。
第3章は、我が国における組織的産学連携の現状として先進的事例として知られている
東京工業大学、九州大学、京都大学、大阪大学の実例を詳細にわたって紹介している。ま
た、企業側からの取り組みとして三菱重工業、松下電器産業の取り組みが紹介されている。
さらに、理工学系分野とは状況が異なると考えられるバイオ・生命系分野については項を
分けて、現状とその課題を具体的かつ詳細に紹介している。
第4章は、現状の各種事例の分析と今後の展望に基づき、組織的連携の態様と類型化を
試み、検討した結果をとりまとめている。今後の新しい取り組みを企画する上で参考にな
ると期待している。
第5章は、組織的協定を企画する上で、検討すべき課題、留意すべき問題点を取り上げ、
どのような視点で協定として具体化していくかについて、組織的連携のあり方として指針
となるようとりまとめている。プロジェクトフォーメイションや知的財産の取り扱い、リ
エゾンプログラム等重要性が提唱されている。
第6章は、組織的連携における法的問題を取り上げており、法的問題に立脚した上で法
的サポート体制の構築や各種規定の作成の重要性を示すとともに具体的内容の作成指針を
詳細にとりまとめている。
本報告書が、各大学および産業界にとって、産学連携を一層戦略的、実効的に推進する
ためのが指針となることを期待している。
最後に、本研究は大阪大学の受託であるにも関わらず、本研究の実施に当たり、ご多用
中のところご指導、ご協力いただいた有識者委員の皆様および文部科学省研究振興局研究
環境・産業連携課技術移転室の方々、またアンケート調査に回答頂きました多数の大学お
よび企業の関係者に対して、心より感謝申し上げます。
平成17年3月
委員長
馬越
佑吉
国立大学法人大阪大学理事
ii
副学長
研究推進室長
「組織的連携の態様と在り方について」研究課題
委 員 長
馬越
佑吉
委員会名簿
大阪大学理事・副学長
大阪大学知的財産本部長
副委員長
西尾
好司
株式会社富士通総研
村上
孝三
大阪大学大学院情報科学研究科
経済研究所
主任研究員
教授
大阪大学知的財産本部知的財産推進部長
委
員
秋元
浩
武田薬品工業株式会社
(50 音順)
上島
直幸
三菱重工業株式会社
産学連携推進室
知的財産部長
常務取締役
技術本部技術企画部
室長
(平成17年1月より柘植綾夫委員より引継)
古池
進
松下電器産業株式会社
代表取締役専務
小林
敏男
大阪大学大学院経済学研究科
下田
隆二
東京工業大学産学連携推進本部知的財産戦略部門長
教授
フロンティア創造共同研究センター 教授
下元
高文
鎌倉・檜垣法律事務所
谷口
邦彦
文部科学省産学官連携コーディネーター
柘植
綾夫
三菱重工業株式会社
弁護士
代表取締役常務
技術本部長
(平成17年1月より内閣府総合科学技術会議議員のため上島直幸委員へ引継)
馬場
章夫
大阪大学大学院工学研究科
古川
勝彦
九州大学知的財産本部
正城
敏博
大阪大学先端科学イノベーションセンター
大阪大学知的財産本部
教授
助教授
助教授
研究財務企画部長
森下
竜一
大阪大学大学院医学系研究科
山本
孝夫
大阪大学大学院工学研究科
俊治
京都大学知的財産企画室
教授
教授
ゲスト委員
八木
i
産学官連携企画員
オブザーバー
伊藤
学司
文部科学省研究振興局研究環境・産業連携課
技術移転推進室長
鈴木
慰人
文部科学省研究振興局研究環境・産業連携課
技術移転推進室
事 務 局
垣内
新吾
大阪大学先端科学イノベーションセンター
共同研究員
妹尾
八郎
技術移転係長
株式会社三井住友銀行
大阪大学先端科学イノベーションセンター
産学官連携コーディネーター
多田
英昭
特任教授
大阪大学先端科学イノベーションセンター
産学官連携コーディネーター
特任教授
藤澤
幸夫
大阪大学知的財産本部
金城
孝夫
大阪大学事務局研究協力部研究協力課
課長
成吾
大阪大学事務局研究協力部研究協力課
課長補佐
脇
山中
正
知的財産推進部
特任教授
大阪大学事務局研究協力部研究協力課研究連携掛長
ii
報告書執筆者
第1章
大学と企業の連携の現状
山
本
孝
夫
第2章
組織的連携の意義とねらい
2.1
企業における大学との連携の意義とねらい
小
林
敏
男
2.2
大学における企業との連携の意義とねらい
正
城
敏
博
2.3
米国における組織的連携の状況
西
尾
好
司
第3章
組織的連携の具体例
3.1
わが国の組織的連携の現状
正
城
敏
博
3.2.1
製造業から見た組織的連携の現状
秋
元
3.2.2
バイオベンチャーから見た組織的連携の現状
森
下
竜
一
馬
場
章
夫
3.3
大阪大学における具体例
浩
3.3.1
松下電器産業との連携
古
池
進
3.3.2
三菱重工業株式会社との連携
上
島
直
幸
3.4
東京工業大学における具体例
下
田
隆
二
3.5
九州大学における具体例
古
川
勝
彦
3.6
京都大学における具体例
八
木
俊
治
第4章
組織的連携の態様と類型
谷
口
邦
彦
第5章
組織的協定のあり方
西
尾
好
司
第6章
組織的連携における法的問題
下
元
高
文
i
報告書概要
第1章
大学と企業の連携の現状
1.1
研究面での連携
大学と企業の共同研究の件数・金額、TLOの実績、大学の出願件数等の推移。どの指標
においても増加傾向であるが、共同研究等においては1件あたりの金額は少額にとどまって
おり、組織的連携等を活用したより大型のプロジェクトも期待される。
1.2
教育面での連携
大学は高度な研究開発能力を持つ人材を教育し、産業界に送り出すという役割がある。産
学連携は教育面においても重要な側面を持っている。近年のMOT教育の拡大、インターン
シップ、社会人大学院生等の状況を整理、概観する。
1.3
その他の連携
産学連携の動きが活発になるに伴い、産業界の各種団体との連携や、地域との連携、ネッ
トワーク形成の動きも拡大傾向にある。これらも組織的な連携のひとつとして認識できるこ
とから、最近の事例を整理している。
第2章
組織的連携の意義とねらい
2.1
企業における大学との連携の意義とねらい
企業が大学に技術シーズを求める背景、技術シーズを製品化、事業化するまでの問題点を
アンケート結果から読み取る。また、大阪大学での「スタートアップ支援室」の取り組み事
例を紹介。
2.2
大学における企業との連携の意義とねらい
大学にとっての組織的連携の意義、組織的連携を通じて得られるシナジー効果。組織的連
携の課題・デメリットなど留意するべき点。
2.3
米国における組織的連携の状況
米国における企業と大学との研究協力の概要を解説。米国においては、組織的連携や包括
的連携という言葉は使われていない。ここでは、大学と企業が研究テーマの設定から評価ま
でを連携してプログラム化して進めていく連携を対象に具体的事例を紹介。
第3章
組織的連携の具体例
3.1
わが国の組織的連携の現状
本調査研究において行ったアンケートの結果をもとに、わが国の組織的連携の現状を調査
した。
3.2
バイオ・生命系分野における組織的連携の現状
バイオ・生命系分野は工学系分野やIT系分野とは事情が異なり、組織的連携の在り方に
ついても異なった視点から考える必要がある。大手製薬企業から見た場合と大学発バイオベ
ンチャーから見た場合という2つのアプローチでバイオ・生命系分野における産学連携の現
状の課題等を紹介し、海外との比較も加えながら今後のあるべき方向性を示した。
i
3.3
大阪大学における具体例
松下電器産業株式会社と三菱重工業株式会社の2社の大阪大学との組織的連携の具体例を
もとに、大学側および企業側の双方の立場から紹介。その他に、大阪大学工学研究科で導入
している「連携推進教員」の制度に関して報告する。
3.4
東京工業大学における具体例
東京工業大学の組織的連携の取り組みを紹介。大学の長期目標の中での産学連携の位置付
け、産学連携・知的財産活用に関する基本的考え方、産学連携推進体制を概説。次に組織的
連携に関する考え方とこれまでに締結した組織的連携協定の概要を報告する。
3.5
九州大学における具体例
九州大学の組織的連携の取り組みを紹介。推進体制や契約の形態、経費の取り扱いや運営
体制について詳しく報告。
3.6
京都大学における具体例
京都大学は産学連携の新しいスタイルとして、包括的融合アライアンスという大規模な共
同研究プロジェクトに取り組んでおり、同大学の産学官連携の今までの取り組み状況ととも
に詳しく報告。
第4章
組織的連携の態様と類型
4.1
産学連携の態様
「奨学寄附金」や「受託研究」による産学連携は創成された技術の知的財産の持分の主張
に不整合が予測される。今後は「技術の創成」を目的とした産学連携には「共同研究」が望
ましい。
4.2
産学連携における組織的連携の位置づけ−総合的な連携−
産学連携における多様なアプローチや形態について、「技術の創成」に焦点を当てて、産
学 連 携 を 「 Possibility ( 連 携 可 能 性 )」 の 探 索 、「 Capability ( 活 用 可 能 性 )」 の 確 認 、
「Reliability(事業信頼性)」の確立という3段階に区分して考察。
4.3
組織的連携の類型
現在ある組織的連携の事例を受け入れ体制や推進方法などから類型化し、具体的事例をも
とに考察。組織的連携を検討する際の参考になる事項をまとめた。
第5章
組織的協定のあり方
5.1
連携のフォーメーション
研究領域を決める際に留意するべき事項、研究テーマを学内公募により選定する際のポイ
ント、メリット等を整理。
5.2
連携・研究のマネジメント
組織的な連携を円滑に進めるためのポイントとして、産学双方のゲートキーパーの役割が
大きい。大学と企業の研究に対するスタンスの違いを前提とした上で両者が歩み寄って連携
する必要がある。
ii
5.3
知的財産権及び秘密保持の取り扱い
企業と大学が真に連携を進め、成功に導くためには秘密保持の重要性を参加者が認識し、
管理する必要がある。また、企業側が研究テーマ以外の学内の情報を知り得た場合や学生の
秘密保持の取り扱いについても留意する必要がある。
5.4
相手先企業以外からのアクセスについて
既に契約を締結したテーマに対し、同じテーマ、あるいは非常に近いテーマについての連
携を他の企業から持ちかけられた場合の対応、契約の内容の公開についてなど大学はあらか
じめ取り扱いを明確にしておく必要があり、相手企業の理解を得ておく必要がある。
5.5
リエゾンプログラム
リエゾンプログラムの導入はプロジェクトフォーメーションの土台作りとなり、連携契約
成立までの費用負担の問題や他社からのアクセスに対する懸念が払拭され、連携が明快にな
ると思われる。
5.6
海外企業の参加
外資系企業との連携においては、公的な資金の活用という観点、その時の経済情勢、技術
や産業界が抱える事情等を留意しておく必要がある。
第6章
組織的連携における法的問題
6.1
はじめに
6.2
法的サポート体制
大学における法的サポート体制の確立は組織的連携を進める上で不可欠なものである。
6.3
規定等の作成に関する問題
大学の規定は大学内部を規律するものであり、組織的連携企業にまで効力を及ぼすもので
はないが、大学の規定を外部に示すことにより、連携先企業に対して大学における組織関係
や権利関係の取り扱いなどを知らしめることができ、十分な効果がある。
企業との組織的連携に関連する規定として、発明規定、共同研究規定・受託研究規定につい
て詳述。
6.4
契約書の作成に関する問題
組織的連携を進めるにあたって、必ず両当事者の合意に基づき契約書が作成される。
一般的に契約に記載される事項について問題点を考察する。
6.5
職務発明制度に関する問題
大学における「職務発明」は近年大きく改正されたところである。大学が企業と組織的連
携を進めるにあたり、発明・特許にまつわる法的権利に関する認識には差があり、法の定め
る要件を可能な限り充足するとともに、研究者らに周知させることが必要である。
6.6
学生の扱いに関する法的問題
組織的連携に学生を参加させる場合、学生の行為により相手先企業に損害を与えることの
無いように慎重な対応を行わなければならない。生じた発明の取り扱いや秘密保持義務につ
いて明確に定めた契約書や承諾書を作成しておくことが望ましい。
iii
第1章 大学と企業の連携の現状
第1章
大学と企業の連携の現状
本章においては、大学と企業の連携の現状についてごく簡単に整理することとする。大学
と企業の連携と言ってもその目的や形態は多様であるため、大まかに分類して整理していく
必要があるが、ここでは連携の目的により、1.研究面での連携、2.教育面での連携、3.
その他社会活動面での連携の大きく3つに分けて現況の整理を行うこととする。本報告書の
テーマである組織的連携については第2章以降で詳述することとする。
1.1
研究面での連携
1.1.1
大学と企業との共同研究等の推移
産学官連携に関する意識がここ数年急速に高まっており、統計数値や調査結果も顕著にそ
れを示している。国立大学の法人化以降、産学連携の窓口機関の整備や知的財産本部整備が
より一層進められ積極的に共同研究に結びつける動きが定着しつつある。国の機関や商工会
議所、産業界等もいわゆる技術相談会や大学のシーズ紹介の機会を増やしており、今後も共
同研究の件数、金額ともに引き続き増加傾向である。また、国立大学の法人化以降、大学は
企業との連携をより組織的に組むことが可能になっており、1企業と複数の研究テーマで継
続的に共同研究等を実施したり、複数企業と大学が連携してより大きな研究テーマに取り組
むなど、大型化、複合化も進んできている。
大学等の知的財産を戦略的に創出、取得、管理、活用し、社会還元を促進するための体制
整備も「大学知的財産本部整備事業」により成果が出てきており、大学の特許出願件数、
TLOの技術移転実績から見て取れる。
図1.1−1
大学と企業との共同研究等の推移
(出展)文部科学省研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室
-1-
第1章 大学と企業の連携の現状
図1.1−2
TLOによる技術移転件数
(出展)経済産業省による16年度調査
http://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/top-page.htm
図1.1−3
1.1.2
大学発明特許件数の推移
民間企業への兼業の状況
2004年度までに1000社の設立を目標としたいわゆる「平沼プラン」もほぼ達成の
見込みが出てきており、大学の教員がベンチャー企業の運営に参加するケースが急増してい
る。日本経済新聞社による2004年の「大学の新産業育成度調査」
(17.2.13
日経
産業新聞朝刊)によると、ベンチャーの運営に参加している教職員数は792人となってお
り、前年度の同調査の417人に比べ2倍近くになっている。大学内に大学発ベンチャーの
インキュベーション施設を設置する大学も増えており、より兼業しやすくなっていることや、
-2-
第1章 大学と企業の連携の現状
ベンチャー企業の設立を後押しする制度も充実してきていることが背景にあると考えられる
が、大学の研究成果を社会に還元し、地域や社会の発展に貢献することが大学の使命の一つ
であるとの認識が高まっているということが大きな理由である。
1.2
教育面での連携
大学では最先端の研究活動を通じて在学する学生・院生に高度な教育を行うので、大学で
の研究活動には多くの場面で院生が関与する。産学連携の観点からすると、大学は高度な研
究開発能力を持つ人材を教育して産業界に送り出すという昔からの役割は明らかであるが、
今では産学連携の研究活動に院生が実質的に参画していることを見逃せない。また近年では、
民間企業などに籍を置きながら大学の研究室に在籍する社会人大学院生が多く在学している。
また、豊富な経験と知見を持った民間企業などに籍を置く者が、大学の非常勤講師として講
義をするだけでなく、連携教員などの形態で大学の教育研究の体制に参画することも増えて
いる。さらには、教育活動のひとつとして、学生・院生を企業などの活動の中に置き、実際
の業務を身近に体感させ職業意識啓発と専門能力の向上をめざすインターンシップが広く行
われている。さらに、最近の動きとしては、技術開発を経営の最重要課題とみなし、それを
効率的に経済的価値に結びつけるMOT(技術経営、Management Of Technology)が脚光を
浴び、大学でこれを教育する動きが拡大している。これは必然的に企業などでの実務・実践
と密接に関連する活動なので、大学教育における産学連携のひとつの重要な側面となって行
くことが必然である。これらの背景を念頭に、産学連携の活動を教育面から考える際に必要
な大学・大学院の基礎データとして、学生・院生の数、進学率、就職状況、社会人数、イン
ターンシップ、さらに MOT 教育の実施状況を、公的な調査報告や大阪大学のデータなどを
引用しながら以下に概観する。
1.2.1
全国の大学院の状況
大学での産学連携で重要な役割を果たすのは、学部よりも高度な研究と教育を実施する主
体である大学院である。図1.2−1は、全国の大学院の設置状況を、大学数、研究科数、
院生定員、在籍数の指標によって昭和55年から集計したものである。この表の右端の列に
は、昭和55年度から平成14年度の約20年間のこれらの指標の増加比を記した。大学や
研究科の数の増加より、定員や在籍数(特に後者)の増加が目立つ。大学院定員の充足率が
大きく上昇したことを示している。しかしここ数年、これらの数字の目立った増加は止まっ
ている。
図1.2−1
全国の大学院設置状況の推移
-3-
第1章 大学と企業の連携の現状
図1.2−2(1)、図1.2−2(2)は大学院入学者数の1980年から2003年
までの推移であり、前期・後期課程別、分野別に集計されている。この最下行には、この2
0年間の増加比を示している。全ての分野でこの20年間で大きく増加しており、特に90
年代半ばの大学院重点化が進んだ時期に増加率が著しい。最近10年間も漸増傾向は続いて
いるものの目立った増加は止まっている。
前期課程では社会系と保健系の院生増加が目立つ。また、後期課程では工学系の増加が著し
く、産学連携の機運があるかに見えるが重点化時のような大幅なものではない。
図1.2−2(1)
全国の大学院生数の推移(修士課程)
-4-
第1章 大学と企業の連携の現状
図1.2−2(2)
全国の大学院生数の推移(博士課程)
図1.2−3は、大学院前期・後期課程修了者の就職状況の平成14年度の調査結果であ
る。理系研究科(理学・工学・農学・保健)の就職率は前期課程では6割以上であり、後期
課程への進学をこれに足せば8割から9割に達している。後期課程では7割の数字を出して
いる保健系を除いて就職率は半分程度に止まっている。これは、後期課程修了直後の身分形
態としてポスドクが大きく増えているのに就職率の計算からは除外しているからであると思
われる。この文科省統計では職種別に分類されているが、産学連携の観点から重要な、大学
院修了者の民間企業への就職率などの数字が読み取れない。
-5-
第1章 大学と企業の連携の現状
図1.2−3
全国の大学院生の進路
(出展)文部科学省「学校基本調査速報」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/001/020901cl.htm
-6-
第1章 大学と企業の連携の現状
1.2.2
大阪大学の例
そこで、大阪大学の最近3年間のデータからこれらの指標を読み取ることを試みた。なお
この調査では医学部(保健学科を含む)と歯学部のデータは除外した。
図1.2−4は平成12年∼15年の3年間に卒業した学部生の進学率、就職率、企業就
職率を学部・研究科ごとに調べたものである。理系4学部(薬・理・工・基礎工)では大学
院への進学率が約8割で、就職者の9割以上は企業で職を得ている。一方、文系4学部では
進学率は15%程度で、就職者の8割ほどが企業で職を得ている。
図1.2−4
大阪大学の学部卒業生の進路
-7-
第1章 大学と企業の連携の現状
図1.2−5は平成12年∼15年の3年間に大学院前期課程を修了した院生の進学率、
就職率、企業就職率を学部・研究科ごとに調べたものである。
図1.2−5
大阪大学の博士前期課程院生の進路
-8-
第1章 大学と企業の連携の現状
博士前期課程の修了者の動向を見ると、文化系研究科(文、人科、法、経、言語、国際公
共政策)では約4割前後が後期課程に進学し、企業への就職者は2割を下回る程度に推移し
ている。これに対して、理科系では進学率が15%から21%に増えている。これは後期課
程への進学を推奨する様々な制度の効果と思われる。企業への就職率はそれに伴い減少して
いるが7割を越える率を維持している。企業への就職率は、工学研究科と基礎工学研究科が
8割程度であるのに対して理学研究科と薬学研究科では5∼6割である。工学系では8割が
前期課程に進学し、その8割が前期で就職し、そのうち8割が企業に就職し、と大づかみで
きる。
後期課程の修了者の状況についての明確な調査結果が学内外で見あたらない。これは、博
士取得後の就職時期が一定しないため調査しにくいこと、社会人院生が含まれていること、
ポスドクに付く者がどのように集計されているか把握できないこと、などがあろう。
図1.2−6に示したのは平成16年度5月時点のデータであり、理系では後期課程修了
者の20%が企業に就職している。一昔前では博士課程修了後は大学や国立研などの研究者
をめざすことが一般的であったが、博士増産時代の今は企業に直接就職する者、数年間のポ
スドクを経た後に民間企業で職を得る者が増えるはずである。
図1.2−6
1.2.3
大阪大学の博士後期課程院生の進路
社会人学生の動向
企業などに籍を置いたまま学生や大学院生として学籍を持つ社会人学生が増えている。工
学系では産学連携の研究活動のひとつの側面となる。図1.2−7は、社会人大学院生が全
体の大学院生に対して占める割合を全国の大学を対象に平成14年度に調査した結果である。
前期課程では全体の13%が社会人院生であり、後期課程は20%がそうである。文系・理
-9-
第1章 大学と企業の連携の現状
系の違いが歴然としており、文系の場合は前期課程の社会人院生の割合が後期課程より多い
のに対して、理系では圧倒的に後期課程の方が社会人院生の割合が高く、両者の傾向は逆転
している。これは社会人特別選抜の制度が関連していると思われる。特に、産学連携の研究
が多く進められている工学系では、前期と後期でそれぞれ2.4%と24%と一桁の違いが
あり、産学連携活動との関連が伺われる。大阪大学工学研究科の博士後期課程に在籍する社
会人院生の数を図1.2−8に示した。この数年間、2割が社会人院生であることが判る。
図1.2−7
社会人大学生の割合
(出展)中央教育審議会大学分科会(第11回)議事要旨 2002/09/12 議事録
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/001/020901ck.htm
図1.2−8
1.2.4
大阪大学工学研究科の社会人大学院生数
インターンシップの状況
在学中の学生が企業などで就業体験をする機会を持つことを総じてインターンシップ制度
と呼んでいるが実は大きく2つに分けられる。①大学等のカリキュラムの一環として学校側
が主体となって、運営・管理する(CO−OP)、②企業が主体的に運営・管理するプログラ
- 10 -
第1章 大学と企業の連携の現状
ム(INTERNSHIP)。企業側はリクルート活動の側面も持たせて行っているようで、大学がカリ
キュラムの一貫としていない時には大学側は必ずしも学生の動向を把握しきっていない。
単位認定を行う授業科目として実施されているインターンシップに関する文科省の調査
(平成14年度)結果は図1.2−9のようにまとめられている。
○調査時期:平成 15 年3月
○調査対象:全ての国公私立の大学・短期大学・高等専門学校
○回 答 率:99.9%
図1.2−9
全国の大学院などでのインターンシップ実施状況
(インターンシップ実施校・実施率の推移)
(出展)文科省報道発表
2003/11/18
大学等における平成14年度インターンシップ実施状況調査結果について
一方、学生を受け入れる企業側から見たインターンシップについての調査は、文科省の調
査「平成15年度民間企業の研究活動に関する調査研究」に含まれている。
図1.2−10(1)∼(4)に、次の4項目のデータを掲載した。
- 11 -
第1章 大学と企業の連携の現状
① 研究開発活動に参加させるインターンシップ制度の有無について
② インターンシップ制度の導入理由
③ インターンシップの対象者について
④ インターンシップの実施期間について
企業側が主に修士の学生を対象に採用活動を念頭に入れてインターンシップを受け入れてい
ることが伺われる。博士やポスドクについては、殆ど対象に入っていない。
図1.2−10(1)
研究開発活動に参加させるインターンシップ制度の有無について
(民間企業からみたインターンシップの調査)
図1.2−10(2)
インターンシップ制度の導入理由
(民間企業からみたインターンシップの調査)
- 12 -
第1章 大学と企業の連携の現状
図1.2−10(3)
インターンシップの対象者について
(民間企業からみたインターンシップの調査)
図1.2−10(4)
インターンシップの実施期間について
(民間企業からみたインターンシップの調査)
1.2.5
企業側の研究者の採用動向
人材供給源としての大学・大学院が企業側からどう見えているかの調査も上述の「平成1
5年度民間企業の研究活動に関する調査研究」に含まれている。ここから次の6項目のデー
タを抜粋して掲載する。
① 学位別の採用実績
② 新卒で採用予定の研究者の最終学歴
③ 研究者を中途採用する際の人材源
- 13 -
第1章 大学と企業の連携の現状
④ 平成16年度の研究者などの増減見込み(内訳など)
⑤ ポストドクターの研究者としての採用実績
⑥ 今後の博士課程修了者、ポストドクターの採用について
博士・ポスドクの採用については低調であり、大企業ですら4割しか今後増やそうとして
いないことが判る。博士修了者は研究分野が偏向しており適応能力不足気味なので専門能力
は社内で育成する、といったこれまでの認識が払拭しきれていない点はこの調査結果にも出
ている。これを改善する指導が大学では当然必要であろうが、大学での研究に産学連携が推
奨され、その研究活動を肌で感じながら研究者として育つ博士やポスドクが企業の研究開発
に貢献できないはずはなく、今後これは改善されるはずと思われる。しかし、産学連携の研
究活動における企業側で最大の関心事項のひとつである知的財産の確保の問題は、院生・ポ
スドクといった将来の所属が未定の者が研究に携わることについて無関心のはずはない。こ
の点について明確なガイドラインを示せば、及び腰から脱却した産学連携による研究の進展
と大学における博士ポスドクの増産の両立が実現するはずである。
1.2.6
MOT教育
技術だけでなく知的財産の管理や社外資源を積極的に活用し技術を経済的価値に繋げる人
材、技術を大局的に把握・活用し戦略的な経営能力を持った人材、が求められており、その
育成のためMOT(Management of Technology)教育の導入が進んでいる。MOT教育は実践
を重視し特に製造業の競争力アップを目指すので、分析的な知識を与える座学でだけでなく、
PBL(Project Based Learning)やOJT(On the Job Training)などの手法が教育に導入さ
れる。MOT教育プログラムは、「学位授与型」「ショートプログラム型」「単一講座型」
に3分類される。最も多いのは大学が運営する「学位授与型」で、一般に2年間の修学期間
中に多様な科目によってMOTを体系的に学び、工学、技術経営、経営学などの修士号が取
得できる。「ショートプログラム型」は最短では5日間(同志社大ビジネススクール)、長
最で1年間(㈱アイさぽーと)学位は得られない。「単一講座型」は大学が院生向けの講義
を社会人にも開放したり、民間が社会人に絞り夜間や土曜日に開講している。日本にMOT
の概念が入った90年代後半には経営者が技術の流れや大局を掴んでのビジネス展開を念頭
に置いたため、経済系研究科に設置するMOTコースが多かったが、近年は経営能力を持つ
技術者の育成を念頭に、工学系にMOTを設置するケースが増えている。産学連携のために
は両方の要素が必要であろう。当然のことながら、この教育には企業などで実務経験を持つ
人材が、常勤・非常勤を問わず教育に参画している。今後はOJT、PBL、インターンシ
ップなどのプログラム、さらには産学連携の研究活動などとも接点を持ちながら、日本型の
MOT教育の基盤をつくってゆくことになろう。大阪大学でも平成16年に工学研究科にビ
ジネスエンジニアリング専攻が開設され、経済学研究科との連携のもとに、経営感覚のある
エンジニア育成をめざし3年間で工学修士とMBAが取得できる新たなコースが設定され、
民間企業からの連携教官を含めて運営され始めた。
- 14 -
第1章 大学と企業の連携の現状
1.3
その他の連携
第1章1.1および1.2においては研究面、教育面で産学連携の現状について述べたが、
産業界の各種団体や金融機関との連携、地域との連携や産学官のネットワーク形成の動きな
ども非常に盛んになってきている。ここでは主に近畿圏での事例、調査からその他の連携に
ついて整理することとする。
1.3.1
産業界の各種団体との連携の例
日本経済団体連合会と東京大学において「東京大学産学連携協議会」が平成17年1月に
発足。産業界全体と産学連携についての意見交換をする場が生まれている。また、関西経済
連合会の関連団体であるアイ・アイ・エス(新事業創出機構)では大学の研究成果の発表会
や産学官連携に関するシンポジウムを開催するなど大学と関西産業界との交流の場を提供し
ている。
1.3.2
金融機関等との連携
国立大学の法人化に伴い、平成16年4月から各国立大学は金融機関との取引を開始して
いる。各取引金融機関においても大学との取引のあり方について模索しており、通常の決済
機能としての金融機関の役割だけでなく、大学経営のコンサルティングや産学連携の分野で
提携関係を締結するところが多くみられるようになってきた。
1.3.3
地域との連携
近畿地区において製造業が多く集積する東大阪地区において、クリエイションコア東大阪
と呼ばれる産学連携施設が平成16年8月に完成している。地方自治体や関西の国公私立1
3大学、商工会議所などが連携し、地域活性や産学連携による共同研究の推進のための活動
を開始している。
1.3.4
社文系・芸術系産学連携の例
平成15年度近畿経済産業局調査「近畿地域における社文系・芸術系産学官連携の推進に関
する調査研究」によれば、医学、工学など理系分野における先端技術の研究だけでなく、まち
づくりやデザイン・マーケティングといった分野における産学連携も盛んに行われている。
たとえば、関西学院大学商学部では宝塚市と連携し、都市再生のビジネスモデル調査に取
り組んでいる。また、大阪外国語大学では民間企業研究所と連携し、多言語処理データの基
礎研究を行ったりしている。
これらは、共同研究費や大学発ベンチャーといった産学連携の指標となる数値には表れに
くいものの、大学の社会貢献による地域活性化や文化の発展に大きく貢献しているものと考
えられる。
1.3.5
産学連携に関するネットワーク形成の動き
近畿経済産業局が平成16年度より「大学発ベンチャー創出・支援ネットワーク近畿」を
- 15 -
第1章 大学と企業の連携の現状
組織している。TLOや金融機関、インキュベータ運営者、ベンチャーキャピタルなどが参
加し大学発ベンチャーの成長支援や産学連携に関する意見交換の場として機能している。
大阪大学内においても、大学発ベンチャー同士で情報交換を行う任意団体「青い銀杏の会」
が発足している。大学・企業・大学発ベンチャー・大学OBなどのネットワークを形成し、
産学連携や大学発ベンチャー設立に関するノウハウの共有や連携を活性化させようという動
きが見られる。
- 16 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
第2章
組織的連携の意義とねらい
2.1
企業における大学との連携の意義とねらい
2.1.1
グローバルなメガコンペティション
情報技術(IT)の画期的な進展、東西冷戦構造の崩壊、加えてFTA(自由貿易協定)
に象徴される大規模ブロック経済圏の設定とそれに伴う各国の規制緩和によって、企業は、
グローバルなメガコンペティション状況に直面している。この状況の意味するところは、一
方では国境および業境といった境目のボーダレス化であり、他方ではイノベーションの高度
化・高速化とそれを担うプレーヤーの拡散である。
とりわけ後者については、これまでのように、業界大手に技術力がある、という構図が崩
れ、ニッチな市場領域で極めて技術的に特化した小規模企業が、特定分野の最先端技術を有
しているのみならず、ボーダレス化の影響で国内での大企業による「囲い込み」の縛りから
解放され、翻って国際的競争力を身につける、ということが起こり始めている。裏を返せば、
大企業による、人材、技術、商圏における独占の構図が崩壊し始めている、ともいえなくは
ない。
さらにまた、経済のグローバル化によって、企業には市場主義の原理、すなわち資本の論
理、が強く求められるようになり、 時価総額、キャッシュフローなどの現在価値指標を強く
意識した経営が要求され始めている。産業界で、いわゆる選択と集中、コアコンピタンス経
営などの評語が喧伝されているのが、こうした時流の表われに他ならない。穿った見方をす
れば、企業としては、長期的なビジョンに立って最先端技術を深堀りし、それらを融合させ
て新産業を勃興しようとする壮大なロマンよりも、事業ポートフォリオの適切化を通じて短
期的に投資の回収を狙う戦略が評価される、ということであろうか。
2.1.2
大学は先端技術の宝庫?
とは言うものの、最先端の技術動向を全く無視して経営することなどはあい得ない。経営
の効率化の観点から、内製化できないのであれば、他企業、研究所、あるいは大学との提携
を目指し、技術資源の補完を行うのが、こうした時代における経営戦略の一つである。その
うえ日本の国立大学は、これまでその運営がほぼ税金によって賄われてきたため、最先端の
高度な装置がある。さらには、共同研究という形になれば、有能な学生たちを非常に安い対
価で活用することが可能になる。教授たちの研究成果に加えて、これらのヒト・モノを狙わ
ない手はない、と企業が考えてもなんら不思議ではない。
ただ果たして、企業の思惑通りに大学との連携が首尾よく進むかどうかについては、全く
疑問がないわけではない。それは製品開発論の観点からすれば自明のこととも言えなくない。
すなわち、製品を市場投入できるようになるまでの時間(距離)は、一般に、①投入すべ
き市場が見えない、②必要な補完技術が判明しない、③補完技術の開発に時間・コストがか
かる、④製品開発にデザインルールが存在しない、および⑤市場の慣性が強い、の上順ほど
遠い。要するに、科学的にすばらしい発見・発明であったとしても、それを活かして製品の
形で投入できるような市場が見つからなければ、製品開発論的には失敗、ということになる。
企業側に製品開発上、クリアしなければならない明確な課題があり、それを開発するため
- 17 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
に、大学の研究室を訪ねる、というのは、これまで良くあったことである。しかしながら、
技術シーズを求めて、漫然と大学内を歩いてもいても、製品と市場という意識がなければ、
企業側にとっても、科学的好奇心は満たされても、さしたる成果が上がりづらいのは、実情
のように思われる。
2.1.3
アンケート結果から読み取れること
上記の視点から、大阪大学知財本部が平成16年12月16日に纏めた「企業へのアンケ
ート調査」
(いわゆる研究開発投資の多い大企業317社へ質問表送付、有効回答78社、有
効回答率24.6%)の結果を眺めていると次のようなことが言える。
産学連携の内容については、共同研究71、奨学寄附金62、委託研究60、の順に多く
(複数回答可)、奨学寄附金の比率の高さから考えて、未だそれほど、大学との連携を積極化
させているとは思えない。
事実、産学連携1件あたりの平均金額は、300万円未満のものが大半で55件、500
万円未満が13件で、それ以上の数字は、ほぼ 1 社刻みで、最高が3,000∼5,000
万円未満、という状況である。現時点では、企業側からすれば、技術に関する予備的調査と
いうのが大学との連携の実情のように思える。ただ、今後の産学連携の強化については、強
化計画あり、が72社と大半を占め、産学連携の趨勢は強まるものと予想される。
こうした中、産学連携における包括的提携など、組織的に連携を行っている企業側からの
要望において、回答企業46社中実に過半数を超える26社が連携における大学側の「マネ
ジメント能力」に対して問題視していることが明らかになった。
「組織的連携をしても技術の
お見合いが期待通り成立していない」、「積極的に先端科学を企業に紹介願いたい」などに象
徴されるこうした要望については、確かに大学としての情報開示の不徹底さなどの問題があ
るとは思われるが、前節でも述べたように、製品開発戦略が定まっていない状況のもとでの、
闇雲な組織的連携は、望み多くして成果少なし、の相互に期待はずれの状況に陥りかねない。
それゆえ、企業側のスタンスにも再検討の余地はあるように思われる。
2.1.4
産学連携の本質的な意義
バブル経済の崩壊後日本はかつて経験したことのないデフレスパイラルの構造不況に10
年超の歳月苦しみ、景気は現時点でも踊り場を脱し切れていない状況にある。新産業の勃興
が叫ばれてはいるものの、グローバル経済の観点からすれば、自動車産業に「おんぶにだっ
こ」が正直なところである。政府は構造改革の一環として大学を法人化し、そこにこれまで
以上に社会的貢献と外部資金の導入を目指させようとするが、教育研究組織として明治以降
やってきた組織慣性がそう簡単に変質するものではない。大学発ベンチャー1,000社構
想なる政策も打たれ大学改革を外部から進めようとするが、その試みは端緒についたばかり
で現時点で正確に評価することはできない。もちろん、徐々に起業家マインドが醸成されつ
つあることは評価に値する。
ただ、こうした制度変更および政策をどのように利用していくかに産学連携の本質はある
ように思える。例えば、大阪大学先端科学イノベーションセンター・ベンチャービジネスラ
- 18 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
ボラトリー部門(以下,「VBL」)には、「スタートアップ支援室」という組織が存在する。
VBL教育社会貢献委員会の有志たちで構成されるこの組織は、学内の技術シーズをもとに
その事業化を支援しようとする組織である。
具体的には、技術シーズの事業化に必要となる各種市場調査、知財管理、提携先探索をも
とに事業計画を練りながら研究開発計画を仕立て上げ、その申請書によって国からの政策資
金を獲得する。元ネドフェロー、現ネドフェロー、数名が中心になって進めているこの支援
体制は、最初からベンチャービジネスの設立を目指しているのではない。むしろ研究開発資
金を外部から獲得するために、提携先を模索し、事業計画を立てている。
最初、比較的少な目の予算申請から始め、やがて期待していた研究成果が出てくれば、よ
り大きな枠組のもとでの予算申請へとステップアップしていく。こうしていくうちに、事業
計画は練られたものになり、チームとして起業を狙う機運が高まれば、起業、と言うことに
なる。発足後、2年にもたたない支援室ではあるが、ベンチャービジネスとして立ち上げた
企業数は3社あり、また目下外部資金のもとで研究開発を行っている研究プロジェクト数は、
10弱ある。ナノテクからバイオエンジニアリングまで、そのテーマは多岐にわたる。
このスタートアップ支援室の枠組から、産学連携ということを考えた場合、①自身の発明・
発見を事業化したいと考えている研究者を探し出すこと、②事業化を念頭においた研究開発
を、大学としてプロジェクトに仕立てること、③そこに各種提携関係の枠組みで、企業とし
ては参入すること、だと考える。②を可能にするには、大学として、学生たちなど若い人材
の投与が重要であるし、③を可能にするために、企業側へのプロジェクトに関する情報発信
が重要になってくるであろう。
いずれにせよ、産学連携を成功させるキーワードは、やる気のある若い人材、プロジェク
ト志向、加えてそれらを支援する組織ではないだろうか。
2.2
大学における企業との連携の意義とねらい
いわゆる従来型の産学連携と比較した場合、大学側の組織的連携の意義としては、研究(運
営)資金の獲得、社会貢献・産学連携活動の一環、企業側のニーズの把握、企業との長期的・
安定的な関係の構築などがあると考えられている。このため、自組織内だけでなく各地でリ
エゾンフェアのようなシーズとニーズのマッチングを計る場を提供するとともに、産学共同
に関わる大学の技術シーズをWEB等に公開し、組織的に企業訪問地域の企業を定期的に訪
問、大学と企業の信頼関係の構築、潜在シーズの発掘と分析等、企業に対して共同研究テー
マ提案に努めているケースが見受けられる。また、本格的な共同研究課題調査のため、フィ
ージビリティスタディ的な事前研究を実施する連携を進め、企業側に当該研究の有用性確認
の機会を与えている大学もある。これらの対応を進める大学内の組織としては、産学連携を
担当する共同研究センターや専門の事務組織が中心である。本報告書の調査時点では1大学
あたり数社との連携を締結しているところが多く、また交渉中の企業も数社あるケースがあ
り、さらには、組織的連携の件数がここ数年毎年増加傾向にあることや、積極的に推進する、
必要に応じて推進するとの見解をもつ大学が大半であることからも、今後も大学と企業の組
織的連携数の増加が予想される。
- 19 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
組織的連携を成し遂げるための手法として、トップダウンの研究戦略策定と実践、研究進
捗管理、研究成果創出の期間短縮などに意義を見出す大学もある。このために、まず長期的
な研究目標、年度毎の達成目標を立てるとともに、各研究の責任部署を明確にし、遅れが出
た場合には対応の協議を行うケースがある。テーマの選定に当たっては両者で検討を重ね決
定する場合が最も多い。研究分野は理工系が半分以上の割合を占めるが、医歯薬系、人文社
会系などの連携も見られ、国家プロジェクトへの共同参画なども視野に入れている場合があ
る。
また、これらの組織的連携を通じて、これまで個別の産学連携では必ずしも多いとは認識
されていなかった「大学の研究者同士の相互作用」、場合によっては「企業の部門同士の相互
作用」の効果が大きく、若手教員の活躍の場の提供などもあわせて、研究成果の加速的な進
展を期待されている。実際に部局をまたがる複合・融合研究ができ易い、学内の研究ネット
ワークが構築されるという効果を見出している大学も存在する。また、各プロジェクトの研
究関係者が全体的にどのような連携関係が進んでいるのかを把握することができ、各連携テ
ーマの位置づけを明確化する効果がある。さらには、組織的連携を通じた新たな基礎研究課
題の取得により、次世代の大学における研究アクティビティへの寄与も見逃せない状況とな
りつつある。
連携相手としてはいわゆる産業分野の大企業だけでなく、複数企業の研究組合・金融機関・
地方自治体・中小企業群との連携も進みつつあり、その連携内容も必然的に研究開発的なも
のだけに留まらず、リエゾン機能の提供、教育に基づいた人材育成、社会人教育、文化の育
成・発展、まちづくり、ベンチャー支援などといった幅広い形での連携を目指す動きも出て
きている。MOTなども含めた将来的な人材育成についての取り組みに意識・意義を持つ大
学も多く、講師の相互派遣、連携講座、恒常的な教育活動における連携に進展する可能性が
ある。共同研究の実施や研究者交流及び学生のインターンシップによる人材育成等、幅広い
連携による効率的な成果が期待できる。
このような組織的連携の意義を考慮し、あるいは促進するために制度や対価についての考
え方を個別の連携の場合と比較して異なる対応をすることも考えられる。組織的連携の運営
として、双方組織の委員からなる運営委員会、あるいはこれに類似する組織を設けて、研究
課題の選定、進捗管理、方向性検討などの戦略を設定することが多くみられるが、これらの
運営組織は大学の規程等に大幅に制限されることなく、運営を進める中で柔軟に対応してい
る大学もある。これら組織的連携の担当部署・運営委員会を責任を持って運営するために、
組織的連携を締結するための経費や、連携から生まれる共同研究・受託研究の間接経費の上
乗せを検討する可能性もある。
組織的連携の契約締結・開始にあたってはその意義や理念、さらには運営形態程度の合意
にとどめ、その連携から生まれる個別の共同研究・受託研究については、既存の共同研究・
受託研究契約締結の流れ、例えば大学の雛形を原則とし、必要に応じて双方協議の上変更を
行い締結する等を踏まえることが多い。一方、組織的連携の推進に当たり、当該企業・大学
間のみで使用する新たな雛形を策定し原則としてその雛形を利用するという形態が出てきて
- 20 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
いる。これは、例えば大学と企業との成果の取り扱いについて個別の研究契約が発生するた
びに双方の法務・知的財産関連について協議する必要が概ね無くなるという事務的な負担の
軽減、契約締結までの期間の大幅削減だけでなく、双方ともに成果についての予見性を高め
るとともに、より研究の内容自身や研究の進め方、予算・期間等の議論を重要視して、本来
の産学連携の意義・目的にリソースを割り当てることができると考えられる。
一方、組織的連携についての課題・デメリットについての意識にも配慮する必要がある。
組織的な連携は、対外発表を行う際に「包括的」という言葉をもって伝えられることが多く、
特に当初の段階では、当該大学と他企業との連携が一切行えないのではないかという憶測が
広まったことも事実である。特定の企業との強い連携が他企業との連携にマイナスの影響を
与えないように留意すべきとの意見や、大学の社会的位置づけに鑑み、連携内容については
ある程度の範囲で公開するという考え方もあり、連携する分野や推進する体制について、こ
れを公開する大学も見られる。さらに、特定の企業のみを優遇しているとの認識に至らぬよ
う、また、大学の長期展望に立った教育・研究の自主性を保証するために、制度設計やルー
ルの設定が必要となる。特に、規模や金額等が大きくなる場合には、利益相反だけでなくい
わゆる責務相反に対するマネジメントも重要な課題となる。大学は特定の企業と強い結びつ
きを持つべきでない、他企業に対して排他的になるので問題とする大学もあるが、大学にお
ける研究の主体性、他企業に対する排他性の排除、説明責任に留意していれば、組織的連携
を進めること自体は問題がないとの認識に立つ大学が多い。
次に、組織的連携の締結に当たり、体制等の合意形成・対外発表のみが先行し、具体的な
連携の推進に発展しない可能性の指摘もある。もとより、企業と大学の方向性の違いは従前
より明らかであり、双方の利益につながるための具体策を互いに認識し、これらを実現する
ように運営しなければ、すぐに破綻する可能性もある。現在は大学側で連携相手を選別する
ことは稀であると考えられるが、将来的には、どのような企業と連携することがより大学の
研究・教育の発展のために寄与するか見定めや、その連携相手と連携すべき分野・テーマ・
範囲の選定を、大学における中長期的な教育・研究・社会貢献のビジョンのもとに考慮する
ことも想定される。次に、運営にあたり、組織的連携の統括的役割を果たす適切な大学側の
教員、あるいは大学と企業をマッチングさせるためのコーディネータなどの専門職の人材を
見つけ出せるか、さらに、組織的連携に関係する教員の評価を正当に行えるかが重要であり、
これに関連する教職員の人材育成が不可欠である。
連携の推進にあたり、いわゆる従来型の連携にも言える秘密保持や成果の取り扱いについ
ての取り決めが必要となる。複数の企業と組織的連携をする場合、同じ教員が別の企業の類
似する課題を扱わないようにすることや、あるいは極めて厳正な守秘義務の取り扱いをする
等の対応が重要であるが、これは従来型の個別の連携においても必要であったことである。
類似する分野の連携を複数の企業とは締結しないという対応方法もあるが、実際には、同一
事業分野の複数企業と同時期に連携内容を検討し選定していくという過程を踏まえることが
- 21 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
困難なため、先に締結したものを優先するなどの対応にならざるを得ない可能性があり、大
学が組織としてこのような選定手法を取ることについての留意が必要と考えられる。運営実
務上は、テーマ選定の協議で「すでに他企業と研究を進めているため当該研究テーマの連携
はできない」と伝えること自体が相手企業に対して情報量を持つことから避けるといった対
応や、連携協定自体に守秘義務があったとしても、連携協議の場毎に、参加者全員に改めて
秘密保持契約を締結することでその認識を高めるなど、その局面に応じて様々な措置が必要
であると考えられる。
以上のように、研究(運営)資金の獲得、企業側のニーズの把握、企業との長期的・安定的
な関係の構築という観点以外にも、組織的連携の推進体制により大学内にも研究におけるシ
ナジー効果が発生することから、組織的連携の意義は大きいと考えられる。一方、その推進
にあたっては社会に対する説明など、多くの留意すべき点が存在する。また、一企業との研
究連携だけでなく、人材育成、教育面での発展や地域での連携など、大学の社会貢献全体へ
の波及や効果が期待される。
2.3
米国における組織的連携の状況
2.3.1
米国での企業と大学との研究協力の概要
米国において企業と大学が研究協力を進める場合の資金提供方法には、研究契約とグラン
ト(資金援助契約)、寄附(Endowment)、ギフト等がある。企業が研究成果の活用を目的とす
る場合、研究契約かグラントが用いられる。研究契約はグラントよりも企業への報告回数や
スケジュールなどの制約が多く、契約書を比較しても研究契約が細かく規定されているが、
グラントの契約内容はシンプルである。米国の大学では、連邦、州政府、非営利機関、産業
界 等 の 学 外 か ら 研 究 資 金 を 受 入 れ る 窓 口 と し て 研 究 契 約 オ フ ィ ス ( Sponsored Project
Office:SPO)を設置している。ここでは、学外との間で交わす研究契約やグラントを扱
う。SPOの業務は、外部研究資金の申請書や契約における用語のチェックおよび交渉であ
る。企業との研究では予め教授等と企業間で話し合いが持たれ、教授等からSPOへ申請書
が提出される。企業とSPOとの間で契約の交渉に入るが、契約書については大学で雛形を
用意している。企業が作成した契約書も認められるが、大学と使用する用語が異なることも
多く、なるべく大学で用意したものを使用する。契約書のうち、研究内容については教官等
が記入する。SPOは、研究の内容にタッチすることはないが、ハード面あるいは安全面等
からチェックすることがある。
米国では本報告書で取り上げるような組織的な連携や包括的な連携という言葉は使用され
ていない。従来との連携との違いという点から、大規模な研究協力と位置付けられている。
ここでは、この大規模な研究協力を対象に米国の状況を整理する。この大規模な研究協力と
は、企業が多額の研究資金を拠出し、大学と企業が研究テーマの設定から評価までをプログ
ラム化して、長期にわたり研究協力を進めていく連携のことである。
米国では、この種の連携の最初のケースは、1974年のハーバード大学とモンサント社
の研究契約である。これは2人の教授の支援を核とするもので、12年間で2300万ドル
- 22 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
1
の資金を提供するプログラムであった 。学部レベルでの企業との連携は、1982年のワシ
ントン大学(セントルイス)とモンサント社が最初のケースである。80年代前半にバイオ
分野でこの種の連携が多く実施されるようになり、以後多くの分野で連携が行なわれてきた
(図1.3−1)。
年
大学
企業
資金(百万$)
期間
23.5
研究分野
1974 Harvard Medical School
Monsanto
1980 MIT
Exxon
1981 Massachusetts General Hospital
Hoechst
70
1981 Harvard Medical School
Du Pont
6
1981 UC Davis
Allied
1981 Washington Univ.
Mallinkrodt
3.8
5 Hybridomas
1981 Yale
Celanese
1.1
3 Enzymes
1982 Rockefeller Univ.
Monsanto
4
1982 Washington Univ.
Monsanto
23.5
1982 MIT
W.R.Grace
8
5 Amino Acids
1982 Yale
Bristol-Myers
3
5 Anticancer drugs
1983 Medical Univ. South Carolina
Chugai
1983 Univ. of Illinois
Sohio
1983 Columbia
Bristol-Myers
1985 Georgetown Univ.
Fidia
1986 Harvard Medical School
Takeda
8
2.5
0.5
2
10 Genetics
5 Genetics
3 Nitrogen fixation
5 Photosynthesis
5 Biomedical
3 Monoclonal antibody
5 Plant molecular genetics
2.3
6 Gene structure
62
Neuroscience
1.0 /年
Angiogenesis factors
1988 Johns Hopkins
SmithKline Beckman
2.2
1989 Massachusetts General Hospital
Shiseido
85
図2.3−1
12 Cancer tumors
10 Combustion
5 Respiratory disease
10 Dermatology
80 年代の「産学連携プログラム」の事例
(Enriqueta et al.(1994)等より筆者作成)
また、90年代に入ると、産業界資金の多い大学では産業界の資金への依存度を高めてい
った(図2.3−2)2。こうした中で、大規模な研究協力は進められ、例えばMITは、ア
ムジェン社(1994年から10年間で3000万ドル)、メルク社やフォード社、デュポン
社等7社から1.73億ドルの研究費を獲得している。また、ニューヨーク州立大学オーバ
ニ校では、政府やニューヨーク州の資金を活用してナノテクノロジーの先端研究施設を整備
し、企業と大規模な連携をしている 3。2000年以降においても新しい連携が進められてい
る。例えば、スタンフォード大学では2002年秋からエネルギー分野に、10年間で2億
ドルのプロジェクトを開始しており、日本企業もカリフォルニア大学サンタバーバラ校との
間で、大規模な連携を開始している。
1
2
3
特定教員への高額で長期的な企業からの支援は、ピアレビューを経ないことや特定企業の大学での研究へ
の影響に対する批判もあることから、80 年代前半以降はあまり公表されていない。
Lawler, A.(2003)“Last of the Big-Time Spenders?” Science, Vol.299, 17 January, pp330-333
Chronicle of Higher Education February 7,2003
- 23 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
大学名
MIT
Penn State
Georgia Institute of Technology
Ohio State
Univ. of Washington
Univ. of Texas, Austin
UCSF
Texas A&M Univ.
Univ. of Michigan
Emory
図2.3−2
産業界資金(1999)
75,444,000
65,698,000
62,752,000
52,034,000
51,319,000
39,729,000
36,830,000
34,722,000
34,432,000
7,794,000
1992-99 の変化率(%)
51.4
53.9
163.9
271.8
101.6
725.3
490.8
30.1
37.8
4.4
産業界からの研究資金の多い大学トップ 10 における産業界資金の変化率
(出典)Lawler(2003)
2.3.2
事例1:スタンフォード大と大手多国籍企業 4
2002年11月、スタンフォード大学は、エクソン・モービル社、ゼネラル・エレクト
リック社、シュランベルジャ社の3社と共同で、急増する途上国のエネルギー需要と地球環
境のバランスを取る新技術の開発を目的とする2億2500万ドルの10年間に及ぶエネル
ギー研究プロジェクト(Global Climate & Energy Project:GCEP)を開始した。その後、
トヨタ自動車が参加して、現在はスタンフォード大学と4社で進めている。
(1)GCEPの目的
途上国のエネルギー問題を解決すると同時に、世界規模で見た地球温暖化ガスの排出量を
抑制することを可能にする新テクノロジーの研究開発を行うことを目的としている。そして、
具体的に4つの達成目標を定めている。
①
排ガス量を最小限に抑える、最も効率的なエネルギーの特定
②
地球規模で上記の新エネルギーを採用する際、障害となるものの特定
③
地球規模での新エネルギーの採用を推進めるためには何をすればよいかを研究
④
研究成果をワークショップ、プレゼン、出版等を通し、広く業界に公表
(2)研究資金
2005年までの契約によると、エクソン・モービル社、ゼネラル・エレクトリック社、
シュランベルジャ社、トヨタ自動車社の4社が2005年までの最初の3年間で2000万
ドルを上限として拠出する。この内訳は、エクソン・モービル社が44.44%、ゼネラル・
エレクトリック社とトヨタ自動車社が22.22%、シュランベルジャ社が11.12%と
なっている。
4
http://gcep.stanford.edu/project_detail/faqs.html, Stanford University(2002)”GCEP Global Climate &
Energy Project”
- 24 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
(3)プロジェクトの運営
GCEPの運営は、管理委員会(Management Committee)と諮問委員会(Advisory Committee)
で行われる。管理委員会は、スタンフォード大学とスポンサー企業の正式な連携の窓口とし
て機能する。諮問委員会は、スタンフォード大学やスポンサー企業と利害関係のない人から
構成され、プログラムの内容や質、方向性について諮問する。研究の独立性に対する学外か
らの懸念 5に対して、特に諮問委員会は、プロジェクトの方向性や質、進捗について大学やス
ポンサー企業に対して第三者としてのアドバイスを提供する。スポンサー企業の重要な役割
の1つは、産業界の視点に立って商業化可能性や導入可能性についてアドバイスを行うこと
である。スタンフォード大学が研究テーマおよび方向性のイニシアティブを取り、研究テー
マおよび方向性の判断はすべて、大学および個別の研究者に委ねる。
(4)研究成果の権利帰属
スタンフォード大学は、研究結果を産業界、学会、また政府に公開し、情報を共有してい
く方針であることを明らかにしている。研究の成果に関する権利は、大学が全て取得する。
特許の取得費については、契約期間中は費用から拠出することができる。なお、特許後5年
経った場合に、通常大学は第三者にライセンス等の実施ができると規定されている。
2.3.2
三菱化学とカリフォルニア大学サンタバーバラ校との共同研究
米国の大学と日本企業との間で実施されているものであるが、三菱化学が4社と共に進め
ている京都大学との連携に先駆けて開始されたものである。
(1)経緯
MITのステファノポーラス教授が三菱化学のCTOに就任した後に、専務取締役と一緒
に米国の有力大学を訪問した際、同校において大学当局者との会食、その際に提携を大学側
から申し込まれたことをきっかけとして共同研究契約へと進んだ(2001年5月)。
(2)プログラムの内容
これは5年間で1500万ドルの共同研究プログラムである 6。プログラムは大きく2つに
分かれている。1つは、年間2.5百万ドル、5年間の共同研究プログラムである。もう1
つは、Center for Solid state lighting and displays へ250万ドルを支援するものであ
る。
共同研究プログラムは、機能性材料をターゲットとしている。共同研究の舞台は、College
of Engineering 内 に設 立さ れ た 三 菱化 学 と U CS B の 共 同研 究 の た めの セ ン タ ーで ある
5
6
地元メディアは GCEP に対して批判的な意見もある。例えば、参加企業に対しては、長期的な研究に協
力することで、目の前で起きている環境破壊に対する責任逃れをしようとしているという意見も多く、
その研究内容に関しても、スタンフォード大学が、エネルギー・環境という政治的側面が非常に大きい
問題に関し、特定企業の資金を使った上で公正かつ将来的な研究ができるかどうかに疑問を示している。
www.engineering.ucsb.edu/Announce/mitsubishi.html
- 25 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
Mitsubishi Chemical Center for Advanced Materials(MC−CAM) 7である。
M C − C A M は 、 独 立 し た 運 営 が 行 わ れ て い る が 、 U C S B の Material Research
Laboratory(MRL) 8 と管理面だけでなく物理的にも連結している。このプログラムには、
共同研究以外のタスクがある。例えば、毎年春に開催される Annual Program Review は、プ
ログラムから生まれた成果を三菱化学に移転・普及するために開催される。あるいは、所長
や Governing Board と Steering Committee の裁量で、プログラムの対象領域の研究者の教育
を目的として、MC−CAMや三菱化学で Workshops や Short Courses を開催することもで
きる。また、教授や学生、研究者が三菱化学へ訪問するための交通費を計上しており、大学
院生のためのフェローシップを作っている。さらに、教育のためにサンタバーバラ地域の高
等学校の科学教師の日本訪問を支援する計画もある。
(3)MC−CAMの運営
MC−CAMは、Governing Board(GB)と Steering Committee(SC)を設置して運
営されている。GBはUCSBから3名、三菱化学から3名の計6名のメンバーから構成さ
れている 9。三菱化学のメンバーは、取締役やCTO、科学技術研究センター長である。
UCSBのメンバーは、センター長のフレデリクソン教授と College of Engineering と
College of Letters and Science の学部長(Dean)であり、残りのUCSBの 1 名は、三菱
化学から派遣されたMC−CAMの副センター長(Associate Director)である。
SCは、UCSBから5名、三菱化学から5名の計10名で構成されている。UCSBで
はMC−CAMのセンター長(GBのメンバー)以外はMRLの所長、3名の教授とGBの
メンバーでもある三菱化学から派遣された副センター長である。一方の三菱化学は、科学技
術担当室の室長と3つの研究所の所長などとなっている。SCは、MC−CAMで行う研究
プロジェクトを選定する役割を果たしており年数回開催される。
研究プロジェクトのモニタリングや、研究成果を三菱化学に移転・普及することを目的に、
MC−CAMでは毎年春に前述の Annual Program Review を開催して、研究の進捗や成果を
報告する。その際、SCはプロジェクトに関するフィードバックや方向性に対する意見を出
す。
(4)研究
MC−CAMで行われる研究には、Large Scientific Integrated Research Projects
(IRPs)と New Research Themes(NRTs)がある。いずれもが、画期的な研究で
あり、かつ三菱化学の技術とビジネスと関連し、科学上メリットのあることが採択の要件で
ある。
IRPsは、3∼5名の教授と三菱化学の研究者が参加して行う、科学的・技術的に価値
のあるイノベーションを生む可能性の高いものである。
7
8
9
www.mc-cam.ucsb.edu.about.html
MRL は NSF から 1650 万ドルのリニューアルのグラントが提供されている。
www.mc-cam.ucsb.edu/people/mccamgoverning-steering.htm
- 26 -
第2章 組織的連携の意義とねらい
研究費は間接費も含めて15万∼50万ドルで、期間は2∼3年である。NRTsは萌芽
的研究に相当するもので、アイデアを検証していくプロジェクトである。教授が1名または
2名(研究室の研究員も参加)で行う。三菱化学の研究者も参加するケースもある。研究期
間は 1 年間で、研究費は間接費も含めて5万∼10万ドルである。成果が出たものは、翌年
1 年間期間を延長することができる。さらに優れた成果が出たプロジェクトについては、次
のIRPsへ移行することができる。NRTsの提案はいつでも受け付けるが、採択は年数
回開催されるSCで決定される。
- 27 -
第3章 組織的連携の具体例
第3章
組織的連携の具体例
3.1
わが国の組織的連携の現状
本報告書作成にあたり、これらの組織的連携の実態、及びそのメリット・デメリット等に
ついての大学ならびに産業界の意見をアンケート形式で実施した。企業、大学に対するアン
ケートは、「参考資料 大学向けアンケート調査票、企業向けアンケート調査票」に、結果の
うち定量的に示すことができるデータは、「参考資料 大学へのアンケート調査の集計結果、
企業へのアンケート集計結果」に掲載されている。ここでは、特に組織的連携の現状を示す
特徴的なデータについて記載する。
アンケートの対象としては、大学は、文部科学省が掌握する産学連携に高い実績を有する
と考えられる100の大学等、企業は、今期の研究開発投資の予定金額が多い順に300社
(6800億円∼28億円までを選定:会社四季報より)、並びに大阪大学の研究懇話会メン
バー企業(除く財団法人等)52社から重複の35社をのぞく17社を追加した合計317
社とした。調査方法は、アンケート調査票を郵送配布し、記入後郵送、Eメール、FAXに
より回収とした。調査期間は、一部を除いて平成16年10月29日(金)∼11月24日
(水)である。大学からは71大学(回収率は71.0%)、企業からは78社(24.6%)
の有効回答が得られた。
3.1.1
大学向けアンケート「3.現在の組織的連携の実施状況、実施件数について」
28大学の有効回答
9
5
3
実施件数
- 29 -
0
10件以上
0
10
2
9
1
8
0
7
6
1
5
2
4
2
3
3
2
1
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
0
大学数
現在の実施件数
第3章 組織的連携の具体例
3.1.2
大学向けアンケート「4.平成14年度以降に協定や契約の締結を通じ、組織
的に実施している連携の取組について」
25大学より総数80件の組織的連携の研究数の有効回答
(1)共同研究の分野について
34
理工系
11
医歯薬系
7
人文社会科学系
5
その他
0
5
10
15
20
総数
25
30
35
40
(2)研究テーマの設定方法
15
主として企業からの提案
6
主として大学からの提案
29
両者が検討を経て決定
1
学内公募
0
その他
0
5
10
15
20
総数
- 30 -
25
30
35
第3章 組織的連携の具体例
(3)協定や契約等の年度
10
H14年度
22
H15年度
38
H16年度
0
5
(4)連携の金額
10
15
20
総数
25
30
35
40
*直接経費の総額
21
1,000万円未満
12
1,000∼5,000万円未満
0
5,000∼1億円未満
4
1億円以上
0
5
10
15
総数
- 31 -
20
25
第3章 組織的連携の具体例
3.1.3
大学向けアンケート「8.大学が特定の企業と強い関係を持つことについて」
71大学(複数回答)
大学における研究の主体性が
確保されていればかまわない
47
他企業に対する排他的障壁が
なければかまわない
53
34
説明責任を果たせば問題ない
大学の研究成果の実施を
進めるためなのでかまわない
26
産学連携における死の谷
克服のため、必要である
16
大学の研究が特定企業に
影響されるという課題がある
14
大学は特定の企業と強い関係を
持つべきではない
15
他企業に対して排他的になるので
問題である
6
10
その他
0
10
- 32 -
20
30
大学
40
50
60
第3章 組織的連携の具体例
3.1.4
大学向けアンケート「9.組織的連携における意義、可能性等(従来型と比較
して、特に秀でている点)について」
71大学(複数回答)
24
大学(部局)トップダウンの研究戦略策定と実践
12
研究進捗の管理
29
他大学にさきがけた企業資金・ニーズの入手
25
基礎研究成果の移転
27
応用研究成果の移転
10
企業の期待どおりの成果創出
17
研究成果創出の期間短縮
40
企業のニーズ(研究内容)の把握
50
社会貢献・産学連携活動の一環
55
研究資金の獲得
22
運営資金の獲得
25
知的財産権による実施料等収入
14
MOT等人材の育成
28
新たな基礎研究題材の取得
41
企業と長期的・安定的な関係を構築できる。
3
学内の事務の効率化が図れる
16
各共同研究間の相乗効果がある
4
その他
0
- 33 -
10
20
30
総数
40
50
60
第3章 組織的連携の具体例
3.1.5
企業向けアンケート「9.組織的連携における意義、可能性等(従来型と比較
して、特に秀でている点)について」
78社(複数回答)
トップダウンの研究戦略策定と実践 23
研究進捗の管理
15
他社にさきがけた研究成果早期入手
32
基礎研究成果の取得
27
応用研究成果の取得 19
企業の期待どおりの成果取得
11
研究成果創出の期間短縮
32
既存事業に関する研究成果の取得
7
次世代新規事業に繋がる研究成果の取得
43
知的財産の創出・管理
16
学術的成果の入手
12
社外研究組織的な位置付け
16
MOT、プロジェクトマネージャ等人材の育成
10
他社と比較した優位性(具体的に
2
大学と長期的・安定的な関係を構築できる
37
社内の事務の効率化が図れる
4
各共同研究間の相乗効果がある
17
.その他
2
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
総数
3.2
バイオ・生命系分野における組織的連携の現状
3.2.1
製造業から見た組織的連携の現状
(1)企業にとって何故、大学側と共同研究をするのか
企業が成果を期待する全ての分野において、人的資源と研究費を投下して自らが研究を実
施することは不可能である。特に、バイオ・生命系分野においては、極めて多数のスクリー
ニング化合物の中から候補化合物群を見出し、最終的にはたった一つの化合物を選択して、
製品(医薬品など)に仕立てるわけであり、研究開発の段階で莫大な経営資源(費用と時間)
の投入が余儀なくされる。従って、企業自らが総てを実施するのは不可能に近く、外部の優
れた人材または機関に支援してもらうために、共同研究という形態をとることになる。その
相手先の選択肢のひとつが大学ということになる。
それでは、大学との共同研究がどのようになされているのかを見る場合、2004年(即
ち、国立大学等における独立行政法人化)に至る前とそれ以降とで、本当に前向きな違いが
- 34 -
第3章 組織的連携の具体例
生じているのかどうか、今のところ正確には把握できていない。
○これまでは、大学側との共同研究や委・受託研究の実態は、企業側からみた場合には、
*先生との個人的なお付き合い(寄付金的な、あるいは就職を希望する学生の確保とい
った意味合いが強い)、
*先端技術活用の可能性の探索(薬理機序の解明など特定テーマについての特定技術や
研究思考を探る)、
*企業における特定の目的を実現するための委託研究(同一パターンで種々のタイプの
合成研究、治験依頼等)、
という色彩が強いものであった。
○今後は、独立行政法人化を見据えて、積極的な産学連携体制における共同研究等を活発推
進するためには、
*バーチャルラボ的な発想
→先端技術(特にバイオ)の academic
seeds の発掘と企業における industrial
leads
への育成及びその活用
→企業の needs に応じた共同研究のあり方(単に産学が共同研究をするのではなく、目
的を明確にし、マイルストーン評価を設定し、その実現に向けた実質的な共同研究の
実施)
という発想を重要視すべきと思われる。
そのために、企業側から大学等に要望することは
→大学側が企業における needs を正確に把握し、理解すること(特に、製薬分野では、
他の分野と違って、大学における研究成果が即、製品化や技術の企業化に結びつかな
いので、各分野における特徴等を正確に把握すること)
・大学における研究者の研究テーマに関する情報を整理し、企業に公開すること
・企業向けのプレゼンテーションを実施すること
が重要である。
また、企業側がしなければならないこととしては
→企業側の needs を明確に表明するため、積極的に大学側または大学に深く係わってい
るTLOなどとの連携を密にし、絶えず情報交換を続けること
が必要と思われる。
(2)何故、米国における研究成果がうまく活用されているのか
米国でのバイドール法の制定、それに関連する法制度の整備ならびに国による支援体制の
構築がなされて数十年がたつ。日本の企業も、ハーバード大学等の幾多の米国大学との共同
研究を活発に行ってきており、研究成果も挙がっている。勿論、今年、やっとスタートライ
ンにたった日本の大学と比較すべきではないが、今後、産学連携を推進する上で、米国での
成功例を参考にしなければならいのではないか。
- 35 -
第3章 組織的連携の具体例
米国の主要大学が国内外において、何故、成功しているのか。その要因を考えた場合、以
下の事項が主たる理由ではないだろうか。
即ち、
*企業への研究テーマのプレゼンテーションの積極的な実施
*企業への情報提供の活発な展開
*企業が何を求めているのかを正確に把握していること(企業との密着性)
*研究成果をうまく売り込む部門が充実していること(企業出身者や弁護士がその部門に
いる)
などである。
日本の大学に必要なのは、やはり、企業の実態を把握し、企業が何を求めているか、その
求めに応じるには大学内で何をしなければならないのかを考え、戦略を練り、更に、その戦
略を積極的に行使できる人材の確保ではないかと思われる。
(3)法人化後に何が変わるのか(企業側からみて)
企業側からみて、独立行政法人化以降は大学側において何が変わるのか、興味が尽きない、
と同時に、以下のような疑問が改めて生じてくる。
*共同研究における企業側の自由度は増大するのか?
従来では、特に国立大学との共同研究契約等においては、確たる雛型が存在し、確たる
理論(費用は投下したとしても、成果は共有として実施すべきとの公共的な色彩の強調
−即ち、民間企業 1 社による独占の禁止等)が存在していた。つまり、自由度がかなり
制限されていた。今後は、このような制限は緩和され、費用投下に見合う自由度の確保
は保証されるのか。
→契約内容の柔軟性(ケースに合わせて合理的な修正が可能か)
→研究成果である特許(出願)の取り扱い(大学における職務発明規定との関連−何
が職務発明になり、個人発明になるのか)
→成果の独占実施の可能性(一定期間かまたは半永久的か)
→共同研究者である企業への成果譲渡の可能性(大学とTLOの棲み分けはどうなる
のか)
→文化省等のプロジェクトから研究費を得ている場合、共同研究の成果の一部が国に
帰属することになっていることについての基準・細則の明確化
*報酬はどう考えるのか。
共同研究を実施するとしても、その成果の取り扱いについては、企業側でも従来のよう
な曖昧な規定ではすまされないと自覚しており、成果を企業側が自己のものとした時点
で大学側に何らかの報酬を支払うべきであるとは考えている。
→オプション的な考え方(将来の成果を見越した一時金)
→実施した場合の実施料の支払い
- 36 -
第3章 組織的連携の具体例
→成果の出願費用の支払い(特に外国出願)
→成果に応じた達成報酬の支払い
*特に製薬企業が大学側との共同研究において問題となる重要な事項
→研究の対象が主に先端技術であるため、その活用は限定されてくる
・製品として活用(バイオ化合物等:インターフェロン等)
・研究ツールとして活用(スクリーニング等)
・バイオインフォマティツクス(遺伝子情報等)
→従って、共同研究者である大学等に対して、何に対する対価や報酬を支払うかのを
明確にする必要がある(他の産業と相違する概念、不実施補償の問題)
*手続は簡略化されるのか−交渉に時間がかかる
今後は改良されることを期待しているが、現状では、まだ、各大学において、独立行政
法人化直後の混乱状態が継続しているようにも受け取れる。大学と共同研究契約を締結
するとしても、以下の疑問は、経験からみて、まだ払拭しきれていない。
→交渉窓口は一本化されるのか(大学内での横のコミュニケーションがうまくいって
いるのか)
・研究相手の先生
・学部事務担当者
・産学連携支援部門
・経理担当部門
(4)利益相反に対処するルール
産学連携を推進する上で、ネックになるのが、企業側の目的と大学側の目的に、基本的な
相違があり、企業側の希望どおりにはいかない面があるということである。
その点を考慮しながら産学連携を進めなければならないであろう。
即ち、
*企業側の利益(共同研究の研究成果の実施)が果たして大学側の利益(学問的価値−教
育・研究上の利益)に結びつくのか
*製薬企業の究極の目的は、国民の健康の維持・増進を通じて社会に貢献することにある。
この目的を目指して研究開発をかさねているが、企業である以上、利潤を追求しなけれ
ばならない。
*大学等との共同研究において、上記のルールがどこまで適用され、どの程度の制約が課
されることになるのかによって、今後、大学との共同研究が活発になるかどうか、更に、
その成果がうまく活用されるか否かに影響することは必至と考える。
(現行の問題点:企業側が共同研究費等を負担しているにも拘わらず、共同でなされた
成果及び企業側でなされた成果を大学が発表することを完全に留める手段はない)。
- 37 -
第3章 組織的連携の具体例
日本における産学連携を、今までより一層活性化させて行くためには、企業原理としては
グローバルに一番有利なところと共同研究を実施するのであるから、真の競争相手は欧米の
大学である。如何に、日本の大学と企業が、双方向の win-win の相互関係を認識して、欧米
より一歩前進した発展的産学連携を構築することができるかである。
3.2.2
バイオベンチャーから見た組織的連携の現状
大学発ベンチャー1000社構想がスタートして3年になるが、ほぼ目標の達成が見えて
きた。大学発ベンチャーの25%は、医療・バイオ分野で大学発ベンチャーの主流を占めて
きている。また、大企業からのスピンオフベンチャーなども加えると、株式市場に公開した
企業は既に10社を超え時価総額で4000億円に及び、経済活性化に貢献している。一方
で、IT系とバイオ系のベンチャーの違いも明らかになってきた。IT系ベンチャーが比較
的短期間で技術を実用化できるのに対し、バイオ系はデス・バレー(死の谷)と呼ばれる技
術の実用化までの端境期が長く、多くの資金を必要とする(図3.2−1、図3.2−2)。
そのため、デス・バレーを乗り切るための資金供給とその根拠となる知的財産の重要性が叫
ばれている。また、研究面で大学に依存する比率が高く、企業と大学との連携は、大手企業
に比べその重要性が高い。しかし、一方で、企業規模が小さいことにより、組織的連携にま
で実質上至っておらず、現在までに本当の意味で組織的連携はないといっても過言ではない
であろう。しかし、今後より組織的な連携に向けた動きが構築されることは間違いなく、欧
米での例も踏まえて現状を記載したい。
バイオベンチャーの役割
=知財の流れ
• 大学等の研究機関が生み出す革新的な研究
成果を、既存の製薬会社等へ橋渡し
バイオベンチャー
大学等研究機関
基礎研究
(革新的な研究)
臨床試験
申請・承認・製造 販売
実用化に向けた研究
前臨床
TLO
知財本部
既存の製薬会社等
ライセンス部
VC
知財の方向
図3.2−1
大学・ベンチャー・製薬企業における知財の流れ
- 38 -
第3章 組織的連携の具体例
研究開発の「死の谷」
・産学連携プロジェクト
容易
困難
資金調達の容易さ
・研究開発減税
・ベンチャー支援
・・・などが必要
「死の谷」
基礎研究
図3.2−2
開発、スケールアップ
市場投入
研究開発型ベンチャーにおける「死の谷」
(1)ゲノム時代における産学連携の変化:バイオベンチャーの役割の増加
ヒトゲノムのドラフトが2000年6月に発表されて以後、欧米のベンチャーを中心にゲ
ノムの機能解析に重点が急速に移行し、現在猛烈な競争を繰り広げている。ゲノム機能解析
を日常臨床に還元し、最終のクライアントである患者の治療につなげるためには、ゲノム創
薬、遺伝子治療や細胞治療の実現が必須である。一例として、遺伝子治療を取り上げれば、
開始後12年が経過した現在、血友病B、重症免疫不全症、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞な
どで遺伝子治療の有効性が示され、2003年にも世界最初の遺伝子医薬品の発売が米国で
予想されている。2010年に遺伝子治療市場は20∼40兆円と推定されており、巨大な
新規市場を創出すると考えられている。欧米では、遺伝子治療ベンチャーは200社を越え、
遺伝子治療用ベクター開発、生産技術、安全性検討技術、臨床治験受託事業など、多岐にわ
たる業種を生み、ナスダック市場にも数十社が上場している。一方、日本でも再生医療・遺
伝子治療といった先進的医療領域で急速にバイオベンチャーの創出が大学から進み、前述の
ように1000社に近づきつつある。しかし、いわゆる創薬領域でのベンチャーの数はまだ
少なく、欧米型の大型の研究開発を主体としたベンチャーの数は少なく、今後増加すること
が期待されている。これらのバイオベンチャーでは前述のように実用化までの期間が長いた
め、大企業とのアライアンスを結んで、財務リスクを低減したり、販売に関して大企業に委
託するなどの連携を図ることが一般的である。このことを知的財産の流れから見ると図3.
2−1に示すように知的財産・技術移転の流れが、大学−ベンチャー大企業という連携に一
致している。
- 39 -
第3章 組織的連携の具体例
具体的な例を筆者らの創業したアンジェスMG社で紹介する。筆者らは、米国で商業化が
進んでいるVEGFに代わり日本で発見された肝細胞増殖因子(HGF)を用いた血管新生
を明らかにした。この成果を元にして、筆者は遺伝子治療・核酸医薬などを専門とする創薬
系バイオベンチャー(アンジェスMG社)を創業した。アンジェス社のビジネスモデルは、
血管再生遺伝子HGFの医薬品化を目指すものだが、アンジェス社はHGF遺伝子そのもの
の特許を有していたわけではない。HGF遺伝子の特許は製薬企業A社が既に取得していた。
アンジェス社はHGFが血管新生を促進させる事に関する用途特許を有していた。本特許は、
HGF遺伝子を用いた遺伝子治療すべてにおいて権利を有するため、本特許成立によりA社
を含む全ての会社はHGFの遺伝子治療の商業化においてはアンジェス社の許諾がなければ、
実施できないことになった。一方、アンジェス社もまたHGF遺伝子の遺伝子治療に用いる
特許の許諾を受けなければ、商業化できない。そこで、 win-win
の戦略に基づきアンジェ
ス社は、A社と交渉を行い、遺伝子治療の商業化に関してノウハウ・経験を持つアンジェス
社にHGFの遺伝子治療に用いる特許を許諾してもらった。この時点で、商業化に関する特
許上のハードルは無くなったことになる。商業化に関するハードルが無くなったことを受け、
HGF遺伝子医薬品に興味を持つ製薬企業B社と全世界での独占的販売権を許諾する提携を
結び、現在臨床治験に入っている。本来医薬品が発売されるまで、売り上げはないわけだが、
それではベンチャーの経営が困難である。そこで、アンジェスでは財務リスクを低減させる
ために、将来の販売権をB社に渡す代わりに、研究開発費とインセンティブとしてのマイル
ストーン・ペイメントを受け取る契約を行った(図3.2−3)。このようなアライアンス
の中では、アンジェスの強みである遺伝子治療などのノウハウが提携先に流れることは仕方
がなく、特許で押さえることによって、初めて提携が可能になる。その意味で、特許はアラ
イアンスを結ぶ上で鍵である。
ビジネスモデル: 遺伝子医薬開発の提携戦略
遺伝子医薬領域
大学等
特許権等
研究機関
対価
AnGes MG
遺伝子医薬開発
販売権
開発資金
製薬会社
ロイヤリティ
基礎研究
図3.2−3
インキュベ
ーション
前臨床試験
(3-5年)
臨床試験
(3-7年)
販売
バイオベンチャーにおけるアライアンスの例
- 40 -
第3章 組織的連携の具体例
(2)バイオベンチャーにとっての連携
前述したように日本でも新興市場に多くのバイオベンチャーが上場しているが、米国では
臨床治験に入っている医薬品の候補があることと大企業との連携がIPOのハードルになっ
ており、アライアンスの有無が重視されている(現在日本でも同様の状況になりつつある)。
アライアンスの種類も、図3.2−4に示すように独占的・非独占的許諾や、マイルスト
ーン・ペイメントと言われるステージごとの支払い(しかも開発後期になると支払額が増え
る)、製造そのものの外注化によるアライアンスなど各種形式があり、画一的ではない。これ
らのアライアンスをうまくまとめることが、成功の鍵であり、ベンチャーのマネジメントの
重要な点である。
ライセンス戦略は、一つでない
クロスライセンス
クロスライセンス
パテントプール
パテントプール
ノウハウ付きライセンス
ノウハウ付きライセンス
(特許+製造ノウハウ)
(特許+製造ノウハウ)
フルターンキー
フルターンキー
9 権利関係の整理が必要
エクスクルーシブ
エクスクルーシブ
セミエクスクルーシブ
セミエクスクルーシブ
ノンエクスクルーシブ
ノンエクスクルーシブ
一括払い
一括払い
ミニマムロイヤリティ
ミニマムロイヤリティ
マイルストーンペイメント
マイルストーンペイメント
9 対象先の選定が重要 ・・・・ 追加投資の必要性
9 トレーディングシークレットを結ぶか?
ファブレスモデル
ファブレスモデル
製造モデル
外注生産(主体)
外注生産(主体)
自社生産
自社生産
図3.2−4
アライアンス戦略の多様性
また、日本でベンチャーでは圧倒的にIT系が多いために、ITでの実例がバイオ系にお
いても同様に語られることが多く、良く誤解が起こる。図3.2−5に示すようにIT系で
は技術開発及び商品開発に要する時間が短く、比較的早期に資金と研究開発・経営人材の投
入で商品化することが可能である。いわゆるマンションでの開発も可能になる。しかし、バ
イオ系では技術開発に要する時間と金額が大きく、早期からフルサイズで運用すると、高額
の資金が必要となり、商品がでるまでに力尽きることも想定され、IT系とは別のマネジメ
ントが必要である。従って、大学との連携においても異なった意味を有する。ある意味、大
学での基礎研究がベンチャーでの基礎研究と一体になりやすく、如何に大学からの技術移転
をスムーズに行うか、あるいは後述するように特許出願時からレベルの高いものにするか、
といった問題が生じている。大学の独立行政法人化以降、知財が個人から機関所属に変更さ
れており、ベンチャー側での裁量範囲が狭くなっており、大学側の体制整備とレベルのアッ
プが切実な問題になっている(後述)。
- 41 -
第3章 組織的連携の具体例
IT系とバイオ系ベンチャーの違い
IT系
+
資金
=
技術
経営・研究人材
3年
3年
+
技術
バイオ系
+
=
経営・研究人材
資金
5年
5年
20年
図3.2−5
バイオ系とIT系の違い
(3)ベンチャーにおける大学を核とした特許ポートフォリオ形成の重要性
日本のベンチャーにおいても特許の重要性の認識度は増加しているが、いわゆる戦略的な
特許戦略(パテント・ポートフォリオ)に欠けていると感じている。特許は重要であるが、
必要条件でしかなく、それだけでは不十分である。特に、欠けている点は、特許が生き物で
あるという認識である。特許は、申請すれば終わりでなく、そこが誕生で、そこから如何に
育てていくかの感覚が重要である。一般的に言えば、特許は狭ければ狭いほど成立しやすい
が、ビジネスにはなりにくくなる。川でたとえれば、上流で押さえる特許は当然最も重要で、
下流に来るほど支流も増えて、抜け道が増えていく。しかし、上流に当たる基本特許がいつ
でも取れるわけではなく、下流の特許を積み重ねて結果として全ての流れを押さえることが
できれば、勝利することができる(図3.2−6)。実は、このような特許の流れを理解し
て、ビジネスのマネジメントをすることが、特許ポートフォリオの構築である。自らの特許
の位置づけと範囲を理解して、ビジネス上の展開で必要な特許を押さえ込むことが重要であ
る。
- 42 -
第3章 組織的連携の具体例
特許ポートフォリオの必要性
基本特許
用途特許
成立しても意味なし?
幅広い用途特許
一網打尽
図3.2−6
特許ポートフォリオのイメージ
バイオベンチャーにとって問題なのは、多くの場合事業のコアになる特許が大学発であり、
TLOあるいは知財本部において初期の特許管理がなされる点である。国際的な特許出願に
加え、コア特許の成立要件の初期には、ベンチャーサイドの関与は少なく、大学側の実力に
依存する部分が大きく、事業の初期で関与ができない、あるいは関与しても費用などから手
足が縛られているという現実がある。その意味で、大学における知財戦略が将来のベンチャ
ーの成功まで規定しかねないという問題がある。また、継続的な研究も大学が中心であり、
機関所属が原則になった今、知財のポートフォリオ構築も単独ではできない状況になってお
り、いかに組織的な解決を図るかが政策課題になりつつある。これらの点から実際の連携の
状況を以下に見てみる。
(4)組織的連携の実情
①個人的な連携(取締役や顧問兼業による連携)
ほとんどの連携はこのレベルに留まっており、個人連携が主体である。このスタイルの連
携においても複数のパターンが見られ、一つのベンチャーに複数の大学教官がかかわり、シ
ーズ形成に関して個人的レベルではあるが、やや組織的に連携しているタイプ、あるいは、
一人の教官が一つのベンチャーを形成し、一対一対応になっているタイプが見受けられる。
平成17年の日本産業新聞の調査では、前者の個人的であるがプレ組織的なタイプは大阪大
学や早稲田大学など大学発ベンチャー創出数において上位に位置する大学が多い。一方、純
粋個人的連携は北海道大学や広島大学などむしろ新規に大学発ベンチャー数を増加させてい
る大学で認められ、企業規模や社歴とも関係が認められるように思われる。その意味で、純
粋個人的連携からプレ組織的連携に産学連携の成熟度が増すにつれ移行していく様子が観察
- 43 -
第3章 組織的連携の具体例
され、重点的な支援の方向性も示唆されている(図3.2−7)。更に、この動きが進めば、
ベンチャー間同士あるいは大学とベンチャー企業間の組織的連携へと移行する可能性が高く、
クラスター形成へと発展することが期待される。逆に言えば、いかに個人的連携をプレ組織
的にするかが、ベンチャーと大学の連携で重要であろう。
連携体制の返遷
寄付研究所
教官ベンチャー
純粋個人的
連携
図3.2−7
寄付 ベンチャー
講座
ベンチャー ベンチャー
プレ
組織的連携
組織的連携
大学院ベンチャーにおける個人的連携から組織的連携へのイメージ
また、知的財産本部の整備により、資本力が弱く研究面で大学に依存する割合の高いベン
チャーでは、むしろ技術移転の状況が悪化してきていることが指摘されている。大学によっ
ては、特許は企業と共同出願することを必ず求めるものの権利は企業に移転をせず、50%
の権利を保有し続けることにより将来にわたるロイヤリティの権利を有し続けることを行っ
ており、著しく企業側の産学連携に水をさしているケースも見受けられる。特に大学に対し
弱い立場のベンチャーにとっては、交渉が困難であるので、早急に知的財産本部とベンチャ
ー間の技術移転の方向性を見出さす必要がある。前述の図3.2−5に示したように独占
的・非独占的許諾や、マイルストーン・ペイメントなどの多彩な形式を知財本部が認識して、
ベンチャーが最終的な商業化しやすいように知財本部が技術移転を行えるようにする必要が
ある。
②寄付講座によるプレ組織的連携
個人的な連携の次段階に位置するプレ組織的連携と想定されるのが、ベンチャーによる寄
付講座であろう。特に大学における研究から生じる知的財産確保の点からベンチャー側には
ニーズが高く、ここ数年急速に実例が増えている。しかし、建前上寄附講座は寄付者側から
独立しており、知財本部の介在の中で知財の扱いがケース・バイ・ケースであり、ベンチャ
ーが乏しい資金から設立したにもかかわらず、実務上意味の無いものになりうる。反面、同
- 44 -
第3章 組織的連携の具体例
一になってしまえば、(個人的連携も同じであるが)研究面で利害矛盾(COI)が発生し、
大学側の利益確保が問題となり、設立当初での契約が重要になっている。多くは設立時に契
約をつめ切れておらず、実際の問題が生じた時点での対応で混乱が認められる。現在具体的
な例としては、アンジェスMGによる東京大学、ガル・ファーマによる香川大学など、他に
北海道大学などでも見られ、かなり恒常的な組織連携のスタイルになりつつある。しかし、
ここでも寄附講座での成果の技術移転で知財本部と軋轢が増しており、ブレーキをかけてい
る。
③組織的連携
現在までのところ大学との組織的連携を結んでいるところはなく、今後の課題である。こ
れは収益力がベンチャーでは劣るため、このレベルまで達しておらず、今後収益力の改善に
伴い実例が出ることが期待される。特に、企業側の大学に対する連携意識では大企業と異な
り、ベンチャーでは垣根が低く、精神的に一体感や身内意識が高く、リターンの還元という
意味でも積極姿勢が認められる。欧米でも同様の例は多く認められ、絶対的な金額を別にす
れば件数や提携内容などは大企業に比べ、踏み込んだものが多い。むしろ、大企業による大
型の提携よりは、ベンチャーによる提携が実際上は増加することが想像される(大企業には
海外大学との連携志向がより強い。ベンチャー側は出身母体に対する視線が強く、マインド
が異なっている)。
(5)組織的連携を進めるには
より大型の組織的連携を進めるには、体力の弱いベンチャーを想定した場合、ある程度の
インセンティブが必要になると思われる。ベンチャー側から言えば限られた体力であるので、
資金を提供する上で、場所と人件費、研究費といったすべてでなく、例えば人件費をベンチ
ャーが持つ反面、場所は大学が提供し、国が研究費を持つといった大型寄付研究所に対する
マッチングファンドの創設なども考慮すべきである。また、知財の扱いも大学の取り分は、
ストック・オプションや株の取得といったベンチャー側と大学側に共にインセンティブが働
くシステムを構築するなども必要であろう。あるいは、知財の種類に鑑み大学のロイヤリテ
ィの金額や出願の形式などもベンチャー側と十分相談の上で、ベンチャーのモチベーション
を下げないような試みが必要である。大企業との組織的連携よりベンチャーとの連携の方が
大学との共有意識を考えれば、大型でかつアグレッシブな形式が構築されることが想定され、
むしろ先導的例を形成するであろうことから、早急な体制整備と支援が国レベルで必要であ
る。
最後に
ベンチャーにとって組織的連携は、知的財産の基盤の上に成り立っており、極めて重要で
ある。会社のサイズや社員数から、ベンチャーこそ研究面で大学に期待することが大きく、
既に大学での基礎研究レベルより特許のポートフォリオの構築が必要なため、早急な大学の
体制整備が期待される。ベンチャーと大学との組織的連携は、大企業とのそれに比べ大学に
- 45 -
第3章 組織的連携の具体例
とって真に研究レベルの向上からも重要であり、成功事例の構築を期待したい。
現在、知財本部の介在により独立行政法人化前より企業と大学の特許取得のトラブルが増
加しており、知財本部の発想に問題があることが示唆されている。知財の移転を受けるベン
チャーや企業側が納得できるような移転ルールを早急に整備する必要がある。
3.3
大阪大学における具体例
大学と企業などとの「包括協定」、「包括連携」と言う言葉がマスコミをにぎわし、また
各大学で産学連携契約が実施されているが、これらの言葉に関する意識や、
「連携」の捕らえ
方や実際の連携の形態は、大学や企業によって大きく異なっているのが現状である。
これまで企業と大学との連携は、大学の教官と企業の研究所との個人的な伝手による、技
術相談、共同研究あるいは委託研究の形をとることが大半であった。このような形式では、
互いの阿吽の呼吸で運営されることが多く、研究効率、機密保持、知的所有権帰属などの諸
問題に対応することが困難になってきた。すべてが競争原理に基づいて動き始めた情勢下で
は、明確なロードマップを策定したうえでの効率のよい動きが産学連携にも求められるよう
になってきた。組織的な連携の機運が急速に高まり、様々な形での連携がすでに走り始めて
いる。しかし、どのような手法がわが国において最適であるかの応えや見通しは立っていな
いままで走っているのが現状である。大阪大学においても、法人化」をきっかけに、連携が
活発になってきたが、完全に定まった連携の方式が確立されてはいない。
この章では、日本を代表する大企業である「松下電器産業㈱」と「三菱重工業㈱」と大阪
大学との連携契約に基づく活動を中心に、大学及び企業の双方の立場から報告する。そのほ
かに、大阪大学工学研究科で導入している「連携推進教員」の制度に関して報告する。
3.3.1 松下電器産業との連携
松下電器産業㈱と大阪大学とは、従来より技術交流や人材交流を活発に行ってきた。大学
の法人化を契機にさらに両者の連携を有効にするべく、以下のような経緯で組織的な連携に
取り組んでいる。
2002年4月に工学研究科との新しい連携を目指し、双方の幹部による会合で今後の産
学連携が如何にあるべきかを議論し、今後組織的連携を推進することの合意に達した。この
合意に基づき、技術分野別に交流会を開催して新規共同研究テーマを発掘し実行、レビュー
を両者で真剣に推進してきた。
次に、工学研究科との新しい連携の枠組みを大阪大学全学との間に展開することを目的に
2003年12月に大阪大学全学と松下電器との間で連携推進に関する協定を締結した。こ
の締結内容は、①共同研究、委託研究などの研究交流、②研究者などの交流、③これらの交
流に関する連携運営会議の開催、を主要骨子とするもので、2004年1月に第 1 回の「連
携運営会議」を開催した。「連携運営会議」は、図3.3−1に示す構成よりなり大阪大学
の全部局と松下電器との間の連携に関する方針決定、ニーズとシーズの交流によるテーマ発
掘とレビューなどを実施する。
- 46 -
第3章 組織的連携の具体例
現在、
「連携運営会議」を核として、交流会、テーマ公募、組織的な共同研究の推進、ナノ
テク教育機構など教育活動での連携、客員教授の派遣、などを推進している。
今後、大阪大学の有する高い技術・研究ポテンシャルと松下電器のR&Dが効果的に連携
することにより、大学の知が適正に社会還元されるとともに、産学連携を通じて大学の教育
や研究が活性化され、さらには学問の新しい発展を刺激することを目指したい。
図3.3−1
連携運営会議と共同研究の推進
この連携のなかで鍵となるのが、推進連絡会議(分野別交流会)である。この交流会で
具体的な共同研究の立ち上げを行っている。大学と企業の双方の双方の研究者による議論に
よって、研究の焦点や分担、組織などの相談を行ったうえで、共同研究の立ち上げを行って
いる。
3.3.2
三菱重工業との連携
(1)三菱重工業での大学との連係への取組み方針
日本が21世紀の国際競争に打ち勝つためには、自分の手で独創的な基盤技術を育て、新
たなイノベ−ションを創り出し、産業競争力を強化することが必須となる。この新たなイノ
ベ−ションは、従来の製品製造プロセスでのイノベ−ションではなく、新たな市場、顧客を
創生できるプロダクトイノベ−ションがより強く要求されるようになってきた。また従来に
比較して、社会の求める技術の幅がより広くなり、高性能化、高信頼性化を追及されるよう
になってきており、このプロダクトイノベ−ションを一社単独での自主技術で創り出すこと
は困難となりつつある。このため、幅広い技術への要求に対しては機械分野に情報分野など
- 47 -
第3章 組織的連携の具体例
の工学他分野を活用、融合することに加え、更には自然科学や人文科学などの学術体系の幅
広い活用が要求されつつある。一方、高性能化、高信頼性化への要求に対しては、大学の有
する世界トップレベルの技術の活用が必須となってきた。
以上の観点から、大学との幅広い連携を行うことにより、21世紀の国際競争に打ち勝つ
付加価値の高い製品を絶え間なく市場に投入することが可能となり、製造業の国際競争力を
維持・発展させ、ひいては輸出の大部分を製造業に依存する日本の国力を堅持していくこと
が可能となる。
(2)三菱重工業での大学との産学官連携への取組み状況
三菱重工業では、国外を始めとして、国内の大学とも連携を取り進めてきた。国内では、
九州大学、広島大学、大阪大学、名古屋大学などの7大学と包括連携を締結し、隣接する当
社研究所、事業所のニ−ズを踏まえた製品開発に取り組みつつある。
ここでは、2003年3月に連携協定を締結した大阪大学全学との具体的な連携・推進状
況について説明する。
(3)連係目的
社会において実用につながる学術研究の振興と研究成果の社会活用の推進を図ることを目
的として、共同研究、委託研究などの実施とこれに伴う研究者の交流を行う。また、共同研
究、委託研究を伴わない人材交流もあわせて実施する。
(4)連係推進実行体制
連携推進に当たっては、大阪大学の研究科長、研究所長と三菱重工業の研究所長クラスが
参画する連携所長会議にて方向性を確認する。これに基づき、大阪大学・担当教授と三菱重
工業の次長クラスが参画するステアリング会議を定期的に開催し、具体的なテ−マな策定、
実施状況のフォロ−等を行う体制を採用している。
これは、大阪大学の担当教授と三菱重工業の研究者とで取り進める従来型の個人的な繋が
りから組織的な運営が可能な体制としたものである。
(5)連係推進状況
連携の推進状況として、①大型研究連携、②研究交流、③人材交流を推進している。
①大型研究連携では、技術情報交換会を開催し、ナノ分野に係わる連携研究テ−マを抽出
し、国家プロジェクトとして提案活動を行った。
本連携研究テ−マは、国家プロジェクトへの採用は見送りとなったが、関係先は大阪大
学の工学部、医学部、社会経済研究であり、異分野の先生方および産業界の三菱重工業
が知恵を出し合い一つの連携テ−マを実現したという観点で、包括連携の一つの目的が
達成されつつある。
②研究交流では三菱重工業からミニ研究公募を実施し、大学若手研究者から提案のあった
萌芽的研究を5テ−マ選定し、当社研究者との具体的な交流を開始している。
- 48 -
第3章 組織的連携の具体例
③さらに、人材交流の点では、ビジネスエンジニアリング専攻分野に三菱重工業から3名
を招聘教授として派遣し、社会での実用ニ−ズの教育の観点から大学の実務教育の一環
として貢献する所存である。
(6)実行に当たっての課題と成果
実行に当たっての課題としては、具体的な連携スキ−ムを確立するための、事務・サポ−
ト体制が完備された状況ではないため、円滑な連携推進の為に、更なる運用ノウハウの蓄積
が望まれる。
一方、前述した通り、分野を超えた連携を可能とする包括連携を実施することで、従来の
個別連携に比べ、より広範なテ−マ設定が可能となり、先生方同士の異分野交流機会も増大
し、新たな付加価値創造型製品の創出が期待される。
三菱重工業
技術本部長
関連研究所長
大阪大学
関連研究科長
関連研究所長
ステアリング会議
技術企画部次長
高砂研究所次長
担当教授
(工学研究科、基礎工学研究科、接合研究所)
個別連携
個別リーダ
担当教授
連携所長会議
図3.3−2
3.3.3
連携推進体制
工学研究科における連携例
工学研究科では、上記2社のほかにいくつかの企業(平成17年1月現在;住友金属工業
㈱、㈱日本触媒、神戸製鋼㈱、住友化学㈱、㈱小松製作所)との研究連携契約を締結してい
る。いずれも個別契約であり、契約書は全学のものに準じており、大半が工学研究科長と企
業の技術のトップとのサインによっている。具体的な運用内容は企業ごとに若干異なってい
るが、企業からの要求と工学研究科の研究者の意向とを十分にすり合わせてから共同研究に
持ち込むことを基本原則としている。この原則に沿ったうえで、個々の事情にあわせて運営
している。企業からのテーマ募集や説明会、技術交流会などを「社会連携室企業フォーラム」
として学内で実施している。これらを手がかりに検討ワーキングをたちあげて、その中で企
業と大学の研究者が充分に議論し、大学にとって最適な形と内容の共同研究を立ち上げるよ
うにしている。連携契約から個々の共同研究にいたる典型的な例を図3.3−3に示す。
工学研究科では平成15年4月に社会連携室を設置して、これらの連携契約の運営にあた
っている。連携室は、「地域連携部門」、「情報ネットワーク部門」「工学研究科共同研究セン
ター部門」の 3 部門からなり、工学研究科の技術情報の窓口として企業との連携も組織的に
担当している。
- 49 -
第3章 組織的連携の具体例
図3.3−3
連携契約の運用例
なお、ここに紹介しているのは新しい形での組織的研究連携の試みであり、従来の形での
共同研究や委託研究などは、従前どおり進めている。
3.4
東京工業大学における具体例
本節では、東京工業大学の組織的産学連携の取り組みを紹介する。このため、東京工業大
学の長期目標の中での産学連携の位置付け、産学連携・知的財産活用に関する基本的考え方、
産学連携推進体制を概説し、次に組織的(包括的)連携に関する考え方とこれまでに締結し
た組織的(包括的)連携協定の概要を述べる。
3.4.1
東京工業大学の産学連携体制
東京工業大学は、平成13年10月にその将来構想として「世界最高の理工系総合大学」
を目指すこと規定しこの目標に向けて、戦略的マネジメント体制の確立、研究システムの改
革、教育システムの改革、産学連携体制の改革を重点事項として定めた。この方針のもと、
戦略的マネジメント体制確立のため、同年11月には研究担当副学長を室長とし、学内各部
局等からの教員と事務職員との融合型の組織として研究戦略室を設置した。また、研究戦略
室における国立大学法人化後の産学連携体制のあり方に関する議論を踏まえ、産学連携体制
の構築に努力してきた。特に、文部科学省が平成15年度から開始した大学知的財産本部整
備事業に対しては「産学連携推進本部」構想をもって申請し、モデル事業として採択されて
いる。
- 50 -
第3章 組織的連携の具体例
3.4.2
産学連携に関する基本方針
研究戦略室において国立大学法人化後の産学連携協力のあり方について議論し、大学知的
財産本部整備事業に対応した「産学連携推進本部」構想をもっての同事業への公募、採択を
経ての同本部の設置、東京工業大学知的財産ポリシー(平成16年2月評議会決定)、共同研
究・受託研究の考え方、制度の設計、間接費、知財の扱いなどに加え、組織的(包括的)連
携の考え方についても議論し、基本的な方針をとりまとめた。
東京工業大学知的財産ポリシーでは、知的財産の管理・活用に関する基本的な考え方が以
下のとおり規定されている。
「理工系総合大学としてのポテンシャルを生かし、幅広い分野の知的財産の創出を図る。
また、研究の成果として生じた知的財産の単なる権利化、ライセンシング・実施化を図る
のみではなく、知的財産を産学連携の核として、本学と産業界との協力関係を積極的に構
築し、産学共同研究の積極的な実施等により、新産業の創出、イノベーションの促進に貢
献するとともに、更なる知的財産の創出を図る。さらに、社会から本学が期待される役割
を踏まえ、産業界を始めとする社会と本学の間をつなぐリエゾン活動を強力に推進し、企
業のニーズに対応した学内研究資源とのきめ細かなマッチング、学内の研究資源を糾合し
たシーズ指向の研究プロジェクトの提案などにより、産業界等との緊密かつ多様な協力を
促進し、生産性の高い研究開発を進める。また、これらの活動は、企業活動のグローバル
化を踏まえ、国際的な観点を十分に踏まえて行う。
このため、教職員等の知的財産の創出、保護、管理、活用にかかる意識の啓発、教職員
等の知的財産創出に対する大学の積極的支援、知財の創出、保護、管理、活用に関わった
関係者の活動に対する適正な利益の還元の確保、学内外に向けた積極的な情報発信を行
う。」
上記のように東京工業大学においては、大学発の知的財産の活用にあたって企業との共同研
究をはじめとする協力を中心に位置付けており、これを推進するための方策として組織的連
携に取り組んでいることとなる。
図3.4−1
知的財産を核とした知的創造のスパイラル
- 51 -
第3章 組織的連携の具体例
また、産学連携体制については、研究戦略室を基本的な方針の策定組織と位置付けるとと
もに、産学連携推進本部を東京工業大学の名の下に行われる産学連携活動の一元的な窓口と
して規定し、外部に対するわかりやすさの確保につとめている。
図3.4−2
3.4.3
東京工業大学の産学連携体制
組織的な連携に関する基本的考え方
(1)考え方
前述のように東京工業大学の産学連携に関する基本的な方針は研究戦略室の検討を踏まえ
て策定される。企業との組織的な連携についても東京工業大学としての在り方を議論した。
その結果を踏まえ、東京工業大学が目指す組織的(包括的連携)は、製造業企業との連携に
おいては、
・組織のトップが関与すること
・具体的な研究協力(共同研究等)が複数予定されること
・その研究費の額がある程度の規模であり、本学の規定する間接経費3割が措置されること
を要件とすることとした。従って、単に協力のための話し合いを行うのではなく、製造業企
業との連携に関しては、複数の個別型の共同研究等が予定されていることを必須の要件とし
ており、このような具体的な協力が想定されない場合に関しては、協定はこれまで締結され
ていない。また、大学としての説明責任を果たす必要性や他の企業から見たときに大学全体
がある企業に取り込まれたのではないかとの懸念を払拭する観点から、これらの点に留意し
た協定を締結している。
- 52 -
第3章 組織的連携の具体例
また、非製造業企業との連携においては、連携先企業のネットワークの活用や知識・経験
の活用により大学の知的資産の事業化を目指すこととしている。
(2)組織的な連携協定の基本
上記の考え方を具体化したものがまず企業と締結する連携協定書(基本契約書)であるが、
その構成も研究戦略室での議論を経て、以下のような構成を基本とすることとされている。
①目的
②連携分野:ある程度具体的な分野を設定する。
③具体的な連携の態様
以下の項目を規定する。
・共同研究、受託研究の実施(必須項目)
・研究者の交流
・研究設備の相互利用
・人材育成のための諸活動
・その他
④具体的な共同研究等に関しては別途契約を締結する旨の規定
⑤連携活動に参加する研究者等の範囲
連携協力に参加する研究者の範囲を明確化し、他の研究者の活動に影響しないことを確
認する。
⑥連携協力関係の運営の仕組み
研究推進(連携協力)委員会等の任務、構成、運営等の基本を規定する。
⑦(知的財産の取扱いの原則)
⑧秘密保持
⑨協定が公開できることの確認
他企業ほかの外部に対して大学は協定先企業とどのような分野でどのような協力を行う
ことを構想しているかが説明できるよう、協定締結の事実及びその内容を公開できるこ
とを規定する。
⑩有効期間
⑪協議
(3)具体的な組織的連携活動
具体的な連携協力活動は三層構造で実施される。第一層は連携協力委員会(研究推進委員
会その他の名称もある)の活動である。連携協力委員会は、それぞれのトップレベルから構
成され、大学側は理事・副学長(研究担当)
・産学連携推進本部長、同本部長代理、研究協力
部長等から、企業側は研究開発(技術開発)担当の役員クラスを含む技術開発部門のしかる
べき者から構成され、年1,2回程度の頻度で開催される。同委員会では、参加の共同研究
活動の報告を受けたレビュー、協力推進にあたっての課題の議論等が行われる。第2層は、
技術交流会の開催である。技術交流会(フォーラムと呼ばれる場合もある)が開催される。
- 53 -
第3章 組織的連携の具体例
これは、双方の関心のある技術分野について大学側の研究者と企業側の研究者との自由な意
見交換を行う場である。この中から共同研究に結びつく種が見出されることが期待される。
第3層は、連携参加の共同研究の実施である。ここでは、それぞれのテーマに即して、大学
側の研究者と企業側の研究者との相互に密接な協力が行われる。その進捗状況については、
連携協力委員会に報告されることとなる。
このような活動の中から従来の教員個人と企業との共同研究では容易に実現しえない産業
界にインパクトを与える共同研究の成果が生まれることが期待されている。
(4)組織的連携の実績
具体的な連携先企業とその分野を表に示す。また、具体的な共同研究については本学の共
同研究、受託研究契約書(雛形)やそれをもとに企業と合意した契約書を用いている。
企業名
分野
【製造業】
三洋電機㈱
次世代環境技術分野(「次世代技術分野」の第一弾として)
三菱電機㈱
次世代先端デバイス技術の研究開発
三菱化学㈱
新しい触媒プロセス技術、新規無機材料設計・製造技術の開発
㈱富士通研究所
IT分野の先端研究
松下電器産業㈱
次世代エレクトロニクス分野のコア技術
凸版印刷㈱
コーティング技術、微細加工技術を活用したナノ薄膜利用技術
【非製造業】
三菱商事(株)
新技術と知的財産の事業化による社会的価値創造
㈱三井住友銀行
新技術及び新産業の創出を通じた社会の持続的発展
図3.4−3
3.5
東京工業大学の組織的連携協定の締結状況とその概要
九州大学における具体例
九州大学(以下、
「本学」という。)における企業等との組織型連携の名称は、
「組織対応型
(包括的)連携(以下、「本連携」という。)」で統一している。
3.5.1
本連携の範囲
本学においては、従来の企業と教員との個別の共同研究及び受託研究の形態に加えて、企
業の多様なニーズに対応するため全学的な連携協力が必要なものについては、教員個々のレ
ベルではなく大学全体として民間企業と組織的な連携協力を行い、学術研究活動の活性化及
び研究成果の社会活用の推進を図っている。組織的な連携が必要となるものとしては、以下
の場合を想定している。
①連携形態が研究実施に加えて、研究マネジメント(秘密保持、成果公表、進捗管理、知財
管理等)を特に必要とするもの
- 54 -
第3章 組織的連携の具体例
②連携体制が大規模もしくは組織横断的であり、組織内及び組織間の連携調整が必要なもの
③連携内容が学際的又は広範囲にわたり、継続的な連携コーディネート及び連携マネジメン
トが必要なもの
④連携内容が全学共通利用施設・機器を主に使用するものを含むもの
⑤その他、連携内容が従来の共同・受託研究の取扱いの範疇に収まらず、全学的な推進が適
当と思われるもの
3.5.2
本連携コーディネート方法
本学において、本連携にいたるパターンは様々あるが、企業等連携窓口である知的財産本
部リエゾン部門が主導で行う、以下に示した企業ニーズ収集からのアプローチが一般的であ
る。
① 連携協議のための会合
九州大学
(知的財産本部)
⑤ 事業課題に関する
大学研究者の調査
② 産学連携に関する秘密保持
契約締結
④事業課題に関する相互確認
企
業
③ 複数の事業課題及び
基礎研究テーマ提示
(項目と簡単な概要)
③ 大学の技術シーズの提案
を受けての検討
⑥ 大学研究者に対すヒアリング
⑦ 調査報告書作成、事業課題解決
に対する提案
個別に共同研究等を行っており、
組織対応型連携の仕組みに移行
する場合
※ 例えば、複数の個別共同研究が
部局間をまたがって発生する場合
⑨ 個別事業課題に関する
企業研究者と大学研究者
との協議(ヒアリング)
⑧ 大学からの提案検討
⑩ 協議結果の検討
⑪ 個別事業計画等調整
⑫ 事業管理及び知的財産の取扱い
等に関するマネージメント手法策定
大学のマネジメント
支援が不要の場合
⑬ 組織対応型連携契約締結
⑭実 施
3.5.3
従来型共同研究契約締結
本契約形態
本連携契約(親契約)は、連携開始前に締結(通常数年毎更新)することとし、契約項目
として、連携に関わる秘密保持、知的財産の取扱い、連携のマネジメント方法等、個別連携
推進にあたっての共通事項等を定める。また、本連携契約の大学側の契約者は、本連携を全
学的に推進するという主旨から総長になる。
個別連携契約(子契約)は、研究内容等が纏まり次第随時締結することとし、契約項目と
して、連携経費等、個別連携推進にあたっての個別事項を定める。また、個別連携契約の大
- 55 -
第3章 組織的連携の具体例
学側の契約者は、本連携が経費受入を伴うことから事務局長になる。個別連携における一般
管理費の取扱いは、共同研究に準じている。
親契約(組織対応型連携契約)
子契約( 個別連携契約)
契約時期等
・連携開始前(通常数年毎更新)
契約時期
・随時
契約項目
・秘密保持
・知財取扱い (通常、民間企業側に
契約項目
・連携経費
・その他、個別事項
独占的実施権付与)
・連携のマネジメント方法
・その他、連携に関するルール等
契約者
大学側:事務局長
契約者
大学側:総長
3.5.4 本連携の経費
本連携においては、連携の進捗保証を図るため、個別連携経費にポスドク等雇用経費(研
究系)と連携マネジメント経費を含めることを原則としている。本連携の経費総額は個別連
携経費の積算になる。
ポスドク等雇用
備品・消耗品等
約 300∼800 万円/人・年
(※社員派遣の場合42 万円/人・年)
3.5.5
実
費
連携マネジメント
個別連携経費の 20%
(※一般管理費10%を含む)
本連携の運営
本連携の運営は、連携先企業の研究開発責任者、本学知的財産本部長などからなる連携協
議会が担当する。連携協議会では、連携が大学の学術研究の活性化及び企業の研究開発業務
の強化に繋げるという観点で、連携企画、個別連携のマネジメント、個別連携成果の評価、
知的財産の取扱い、公的資金の導入等について審議・検討する。また、連携協議会事務局は知
的財産本部リエゾン部門の職員が担当し、大学教員及び企業研究者が個別連携に専念できる
よう、各種支援及び連携マネジメント業務を行う。
- 56 -
第3章 組織的連携の具体例
九州大学
連携先企業
知的財産本部
リエゾン部門
研究者
契約書締結
研究室
学術研究活動
の活性化
連携協議会事務局
3.5.6
研究グループ
産学連携窓口
・
・
・
・
・
連携協議会
連携企画
個別連携のマネジメント
個別連携成果の評価
知財の取扱い
公的資金の受入等
研究グループ
研究開発業務
の強化
本連携の現状
平成16年12月現在、本学では18件の本連携が実施されている。連携内容は従来の共
同研究はもとより、共同事業、受託教育、人材交流等を含めたものにまで拡がっている。ま
た、連携機関も民間企業が大半であるが、公益法人、政府系金融機関、独立行政法人、地方
公共団体とも連携締結に至っている。
連 携 先
西部ガス㈱
大日本インキ化学工業
㈱
三菱重工業㈱ 技術本
部
㈱大島造船所
日本ゼオン㈱
㈱電通九州
三井造船㈱
日本産業デザイン振興
会
NTT・NTT 西日本㈱
東陶機器㈱
日本電子データム㈱
㈱オートネットワーク技術
研究所
日本政策投資銀行
九州電力㈱総合研究所
アサヒビール㈱
㈱東芝セミコンダクター
社
独立 行政 法 人海 洋研 究
開発機構
㈱同仁化学研究所
連 携 課 題 等
水素および天然ガスに係わる新規技術開発
光機能性有機材料の開発等
エネルギー,物流および情報に係る新規技術開発
造船に係わる新規技術開発
新規電池材料の開発
九州,アジアにおけるデザイン及びコミュニケーション領域
の発展に関する連携
水素エネルギーの利用技術(CO 2 削減)、船舶関連の要素
技術、バイオ利用技術の開発
国際的視野に立った総合デザイン研究の高度化並びに教
育の活性化に関する連携
情報通信分野における文理融合研究、インターンシップ等
MOT 教 育
最先端超顕微技術の開発、先端超顕微技術に関わる受
託研究及び教育事業等
主な連携部局
工
総理工、工、先導研、農、
芸工ほか
工、シス情、総理工、応力
研、先導研
工
先導研、工、総理工ほか
芸工
工、応力研、農、総理工、
先導研ほか
芸工、法、経、工
シス情、経、法、芸工ほか
経
工、総理工ほか
ワイヤーハーネス事業分野における共同研究・開発
先導研、工、シス情ほか
自立化した大学法人の経営モデルの構築
環境とエネルギー分野を中心とした共同研究
ライフサイエンス分野を中心とした共同研究
知的財産本部ほか
工、シス情、総理工ほか
農ほか
産学連携センター、シス情、
工、総理工ほか
アナログ半導体分野を中心とした共同研究・開発
海洋ロボット分野を中心とした共同研究および人材教育
応、総理工、工ほか
研究用試薬に関連した共同研究及び事業化
工、総理工、先導研ほか
- 57 -
第3章 組織的連携の具体例
3.6 京都大学における具体例
京都大学の産学官連携を強化する具体的な取り組みは1990年代半ばから始まってい
る。1995年にベンチャースピリットに富む若手研究者の育成の場としてベンチャー・ビ
ジネス・ラボラトリー(以下、VBL)を設立した。2001年には、京都大学の産学官連携シ
ステムを実現し、また京都大学から世界に向けて知の結集・情報発信センターとして国際融
合創造センター(以下、IIC)を設立した。2002年には地域との連携プログラムの一
環として京都ナノテク事業創成クラスターに参加している。2003年には文部科学省の知
的財産整備事業の活動資金を得て知的財産企画室(以下、IPO)を立ち上げた。IPOで
は知的財産にかかわるポリシー、規程の策定業務と、特許実務に係わる業務を行なっている。
また同じ2003年には、京都市との連携のもとで京都大学桂キャンパスの隣接地に「桂
イノベーションパーク」と位置付けた知的産業創造拠点作りを進め、科学技術振興機構事業
団が運営する技術移転の拠点「研究成果活用プラザ(研究実施スペースは約2100㎡)」と、
地域振興整備公団が運営するインキュベーション施設「京大桂ベンチャープラザ(研究実施
スペースは約2600㎡)」がスタートした。2005年4月には京都大学の産学連携・知的
財産活動を推進・支援する部門が統合され、総長が直轄する組織として国際イノベーション
機構(IIO)が発足する予定である。
産学官連携・知的財産活動の運営基盤となる京都大学の知的財産ポリシーを2003年1
2月に、また産学官連携ポリシーを2004年3月に整備した。知的財産ポリシーでは、京
都大学の扱う知的財産として産業財産権、プログラム・デジタルコンテンツの著作物、研究
マテリアルを対象としている。利益相反ポリシーは現在策定作業を行なっている。
京都大学では、産学官連携・知的財産活動を推進するにあたり本部・拠点体制をとって全
体の組織運営を行なっている。京都大学には約3000人の研究者がおり、情報・通信、ナ
ノテク・材料、環境・エネルギー、医学・バイオ等様々な分野で研究を行なっており、また
キャンパスも吉田、宇治、桂と分散している。スピーディな産学官連携・知的財産活動を行
なうのに各学問分野の特殊性とキャンパスの地理的条件を考慮して医学領域、情報領域の2
学術拠点と吉田、宇治、桂の3キャンパス拠点の5拠点を設立し効率的な運営を目指してい
る。既に医学領域、情報領域の2学術拠点と吉田拠点は立ち上っている。各拠点の自主性を
尊重した運営を基本としている。
京都大学は産学連携の新しいスタイルとして包括的融合アライアンスを実験的に開始し
ている。これまでの産学連携は一教授と企業の一部門との関係で成立しているものが圧倒的
に多く、個別型あるいはお付き合い型と分類されている。規模も数10万円から数100万
円で特定技術解決の委託研究や技術相談が中心になっている。最近は、大学側の複数の研究
グループと一企業の複数の部門が包括的に共同研究・委託研究が行なわれるようになってき
た。規模も数1000万円である。この産学連携スタイルは企業にとって技術戦略の一環と
- 58 -
第3章 組織的連携の具体例
して大学の知識、研究能力、研究設備等を利用する事が可能なものであり、また大学側とし
ても複数の研究グループに研究資金が入り、双方のメリットは大きいといえる。京都大学の
実行例は、ローム、シャープ、松下電器等がある。京都大学の包括的融合アライアンスは2
003年にスタートし5年間の中長期的視点に立った大規模な共同研究プロジェクトである。
図3.6−1に示すように、京都大学の包括的融合アライアンスは京都大学の15研究グ
ループと民間企業5社からなるのもで、京都大学 IIC 融合部門が事務局となり、大学および
民間企業のメンバーによって構成される戦略委員会、推進委員会、知的財産委員会を通じて
全体のマネジメントを行なっている。特に強い特許、機動的特許を構築する知的財産戦略は
最重要である。大学の研究グループの選定にあたっては学内にて公募を行ない、応募した研
究グループに対して一定の審査を経て決定している。民間5社はNTT、パオイニア、日立、
三菱化学、ロームで、素材メーカ、部品メーカ、デバイスメーカ、商品流通企業の異業種間
の垂直統合が計られている。この京都大学の包括的融合アライアンスは、有機エレクトロニ
クス・デバイス分野における高機能フレキシブルデバイスなどの開発を目標としている。予
算規模は各社からの研究費に国からのマッチングファンドが加わり年間3億円以上となって
いる。この分野の研究開発を行なうのに大学から約80名、民間企業から約70名の研究者
が参加している。
IIC 融合室の構成
京大
IIC
京大
IIC
工学研究科
工学研究科
化学研究所
化学研究所
エネルギー
エネルギー
理工学研究所
理工学研究所
木質科学研究所
木質科学研究所
ベンチャービジネス
ベンチャービジネス
ラボラトリ−
等
ラボラトリ−等
IIC
融合室
産学融合室
事務局
事務局
事務局
室長(京大)
室長(京大)
室長(京大)
副室長(企業)
副室長(企業)
副室長(企業)
戦略委員会
戦略委員会
戦略委員会
推進委員会
推進委員会
推進委員会
知的財産WG
15研究G
約 80名
3
A B
1
2 C
A B C
他大学
他大学
海外大学
海外大学
ハイテク
ハイテク
ベンチャー
ベンチャー
図3.6−1
企業群
NTT
パイオニア
日立
三菱化学
ローム
約 70名+
関連企業
研究者
プロジェクト
研究グループ
プロジェクト
京都大学の包括的融合アライアンスの構造図
京都大学は知的財産活動においても積極的に産学官の連携に取り組んでいる。特許を中心
とする知的財産の取得においては、研究者から届けられた発明について大学がその権利を承
継するか判断する発明評価委員会に、10名の大学教員・研究員に加え、3名の科学技術振
興機構(JST)特許主任調査員の方、日本弁理士会近畿支部より推薦を得た6名の弁理士
- 59 -
第3章 組織的連携の具体例
の方、および1名の関西TLOの方に就任して頂いている。このような発明評価委員会の運
営は、外部人材の活用および発明評価の透明性からも大学にとって重要な事と判断している。
なお図3.6−2は京都大学のここ数年の発明届件数を示したもので、平成16年度は当
初目標の500件に対して既に515件(平成17年2月23日現在)となり、この当初予
想を上回る発明が届けられている。特許の活用においては、大学に独自で営業活動を行なえ
る体制は整っていないとの判断から、関西TLOを中心に複数の外部機関に特許流通の代理
人として業務委託を行なっている。
み
度
平
成
16
平
年
成
度
見
15
込
年
度
14
成
平
平
成
13
年
度
年
度
年
12
成
平
平
成
11
年
度
0
5 0 1 0 0 1 50 2 0 0 2 5 0 3 0 0 3 5 0 4 0 0 4 50 5 0 0
発明の届出件数(京都大学)
図3.6−2
京都大学の発明届出件数
VBLにおけるベンチャー支援活動として、ビジネスマインドを持った研究者がベンチャ
ーを立ち上げるに必要な起業化相談を関西TLOに委託して行なっている。
図3.6−3は京都大学の産学官連携・知的財産活動を推進・支援する国際イノベーショ
ン機構(IIO)を示したものである。産業界、国、自治体等の学外機関との窓口をIIO
に一元化し、よりスピーディで実効的な対応の実現を計るものである。IIOは総長直轄の
全学的組織で、IICの産学官連携活動を推進する産学官連携推進部(仮称)、VBLを支援
するベンチャー支援部(仮称)、知的財産の取得・管理・活用を行なう知的財産部(仮称)の
3部門とそれらを援助する事務部門から構成される予定である。
- 60 -
第3章 組織的連携の具体例
産学官連携・知財・ベンチャー起業等を推進・支援する
国際イノベーション機構(IIO)
窓口の一元化及び
機能的組織の構築
1995
平成17年4月設置予定
総
長
学内教職員
産学官連携
推進組織
顧問会議
協議委員会
工学研究科
事務部
図3.6−3
事務本部 研究・国際部
京都大学国際イノベーション機構図
- 61 -
京大ベンチャー
ファンド
V B L
知的財産部
産学官連
携推進部
学問分野・産学・
地域融合に
よる独創的・
連携研究の推進
(IPO)
(IIC)
国際融合
創造セン
ター(IIC)
業界・国・自治体等︶
機 構 長
各 部 局
学外関係機関 ︵産
国際イノベーション機構(IIO)
国際イノベーション機構(IIO)
2003
知的財産企画室
国際融合創造センター
ベンチャー・
ビジネス・
ラボラトリー︵ VBL
︶
担当理事
2001
第4章 組織的連携の態様と類型
第4章
組織的連携の態様と類型
産学連携には多様なアプローチや形態があるが、究極の目標は「大学の学術研究成果」
を社会・経済・生活、とりわけ、「技術」として産業界に活かすこと、すなわち、「技術
の創成」である。
この章では、これまで記述してきた調査結果や具体的事例を基に、具体的に組織的協定を
締結する際に避けて通ることが出来ない具体的な連携の態様・組織的連携の位置づけと形態
について検討に役立つと思われる事項を、産学連携で一番多い「技術の創成」を事例として
とりまとめる。
4.1
産学連携の態様
産学連携の態様については各種の文書や機会に紹介されているが、概ね、各種の制度が
並列的に紹介されているケースが多い。
この調査が対象としている「組織的連携」が究極的に目指していることは産学が共同して
「技術」という新たな価値を創成することであると考えるが、今日、
「技術」を巡る最大の課
題は「知的財産」への対応である。
そこで、文部科学省(旧・文部省)による産学連携制度をこの視点からレビューを行い,これ
らの制度への対応について、
「知的財産」と技術分野の差異によるこれらの制度活用の視点か
ら考察を行い連携における留意点を明らかにしたい。
4.1.1
大学の研究へ産業界の参加−片方向の産学連携―[Cooperative Partnership]
1964年「奨学寄付金」、1967年「受託研究員」、1970年「受託研究」の制度が
策定されたが、これらは研究の実施主体はあくまで大学であり、大学における研究に産業界
から研究費・研究員・研究テーマが提供されるという片方向の[Cooperative Partnership]
制度であった。
しかし、次の10年間の時代背景は産学連携に抵抗感が強く不幸な時代であった。
4.1.2
産学共同型連携制度―双方向の産学連携−[Collaborative Partnership]−
1983年「民間との共同研究」制度の実施、1987年「寄付講座・寄付研究部門」
「共
同研究センター」の設置、などと従来以上に大学と産業界との接点は双方向的[Collaborative
Partnership]に整備が進められ、共同研究センターはその後毎年国立の数大学に設置され、
その後、旧帝国大学では種々の形の改組・拡充が図られてきた。
その後は、技術移転機関(TLO)
・知的財産本部・国立大学の統廃合と法人化と政策整備
は続くが本章の主テーマとの関連があまり強くないので割愛する。
4.1.3
「知的財産」の視点から見た「技術の創成」と「共同研究」
これまでは、「奨学寄付金」や「受託研究」による産学連携が多く見られたが、従来の知
的財産の認識では問題にならなかった。しかし、今後、
「知的財産」の扱いの変化、とりわけ
国際係争にまで発展すると予測されるケースにおいては、いずれの制度においても企業は研
- 63 -
第4章 組織的連携の態様と類型
究には参画する形ではないので、創成された技術の知的財産の持分の主張との間に不整合が
予測される。
このことを回避するためにも、今後は、
「技術の創成」を目的とした産学連携には「共同研
究」が望ましい。
また、今後は、学術研究と技術の近接性の高く、「技術移転」が機能した技術分野である、
ITやバイオテクノロジーが隆盛であった時期から [4 ― 1 ] 、近接性が高くない「ナノテク・
材料」の分野における「技術の創成」が強く求められているので、この項で述べたことは重
要である。
4.2
産学連携における組織的連携の位置づけ−総合的な連携−
産学連携には多様なアプローチや形態があるが、ここでは「技術の創成」に焦点を当
てて、産学連携を次の3段階に区分して考察する。
1.「Possibility(連携可能性)」の探索
2.「Capability(活用可能性)」の確認
3.「Reliability(事業信頼性)」の確立
「組織的連携」は、「技術相談」「シーズ提供」などと併せて個々の「共同研究」への前段
階として 「Possibility(連携可能性)」の探索」に 位置づけることができるが、むしろ、
これらの活動を円滑に推進するための産学双方が参加する戦略的な連携プラットフォームと
して位置づけることによって、他のプログラムとの差異が明確になろう。
また、今後は、「Possibility(連携可能性)」の探索」に止まらず、「Capability(活
用可能性)」の確認、「Reliability(事業信頼性)」の獲得に至るまで、組織的連携の
中で、異なるフェーズの複数個のプロジェクトを推進するような総合的な取り組みに発
展すると思われる。
4.2.1
多様な「Possibility(連携可能性)」の探索<多様な活動・多様な期待>
産業界の活動・期待がますます多様化するので、多様な期待の中で次のように活動も
多様である。
(1)ニーズ型アプローチ<例:「技術相談」、「技術相談会」>
産業界の意図が明確であるので共同研究に結びつくことが多いが多種・多様な相談が
あるので、効率的な対応となるように「類似の質問に対するQ&A」を準備することが
肝要である。
「文部科学省・産学官連携コーディネーター」では「Q&Aキャンペーン」を通じて
各コーディネーターが体験した「Q&A」をホームページに公開して体験の共有化を図
っている。
http://www.sangakukanren-cd.jp/
個別の「技術相談」の受付より効率的な対応となるように、大阪大学が北大阪地域活
性化協議会と共同企画している「マッチングフェア」[4―2]など種々の工夫がされている。
- 64 -
第4章 組織的連携の態様と類型
(2)シーズ型アプローチ<例:「シーズ集」、「研究者要覧」、「シーズ発表会」>
このタイプの企画は形態としても多彩であり、上手に活用している企業にとっては環
境・整備の充実は図られているが、依然として「大学から提供されるシーズは難しい」
との声が多く、大学人は分かり易い表現・産業界は理解の努力という形の双方の努力が
望まれる。
(3)知識活用型アプローチ<例:「コンサルテーション」>
産業界のメンバーが自らの事業概念・技術概念を継続的に構築・改訂に取り組む時に、
研究者を「生き字引」として契約する形である。
国立大学の法人化・兼業の緩和とともに、大企業による「戦略型アプローチ」の増加
とともに中小企業による共同研究の前段階としてこのタイプの連携および第3項におけ
る産業化の段階に対する「コンサルテーション」とともに増加すると予想される。
UCなどでは「コンサルティグ」として「技術移転」
「技術指導」などと並んで制度化
されている形態(*)で、我が国の「知識は無償」という、これまでの概念を改めて今
後の「知的創造立国」に相応しい制度化の検討が必要である。
* GUIDANCE FOR FACULTY AND OTHER ACADEMIC EMPLOYEES ON ISSUES RELATED TO
INTELLECTUAL PROPERTY AND CONSULTING[4―3]
4.2.2
「Capability(活用可能性)」の確認<産学連携>
次の段階は産業界として行うべ
き「Capability(活用可能性)」
のための共同研究など産学連携活
Win Winの産学連携
ー「知」の創造・「技術」の創成ー
大学も国際競争
動であろう。
企業も国際競争
科学動向情報
筆者らは、この段階で企業は「技
術の創成は企業の役目」という認
識を持って先生任せにしないで、
登録研究員
共同研究の到達点である「成果内
共同研究
容」と「納期」をマネジメントす
市場情報
る責任者またはそれの替わる人を
「登録研究員」として大学・研究
最高水準の学術研究
絶えざるイノベーション
機関に派遣すべきでるとして、右
図のモデルを提唱している [4-4]。
この段階の共同研究は、第1項のアプローチ方法により「ニーズ Pull 型」
「シーズ Push
型」に大別されるが、いずれにしても企業主導型の共同研究が求められる。
また、今後の知的財産の国際係争を想定した場合、企業の研究者が参加していない共
同研究の成果の権利化には問題が生じる可能性がある。
- 65 -
第4章 組織的連携の態様と類型
4.2.3
「Reliability(事業の信頼性)」の確立
<産業界主導による自主研究開発およびニーズ Pull 型産学連携>
ここまでで「Capability(活用可能性)」が確認された共同研究の成果物は次には産業
化に移行されるが、産業技術として採用されるには高い信頼性が求められる。
産業化段階の連携は共同研究成果物と所要の産業技術との近接性によって連携の形態
に差異が出るが、いずれの場合にも完全な「ニーズ Pull 型」であり。
(1)共同研究
共同研究成果物と所要の産業技術との間に距離がある場合や、共同研究成果物以外に
幾つかの技術が必要でありその共同研究が必要な場合、組み合わせる技術創成のために
更なる共同研究が必要な場合である。
(2)委託研究
共同研究成果物を産業化するために物質の構造や機能の解析など学術的な究明が必要
な場合、委託研究で所要の成果が期待できる場合には委託研究で対応できる。
(3)知識活用型連携<例:「コンサルテーション」>
共同研究成果物が構造物であったり、プロセス用の装置であったり、産業化に当たり
原理的な部分に研究者の助言が重要な場合はコンサルテーションが必要になる。
4.3
組織的連携の類型
産学連携における組織的連携は、 ① 企業の業態・規模・事業分野・研究体制・これま
での産学連携の経験、②大学の研究分野と研究科・学部体制、③大学の受け入れ体制、
などにより幾つかの形態が見られるので、その類型を次のように大別し、パターン毎に
協定の検討に当たってのポイントを研究会における事例報告とアンケートのコメントを
参照しつつまとめる。
特に、代表的な組織的連携については、関連論文を参考にした [4−5]。
<組織的連携のパターンとまとめの観点>
組織的連携は大きく次のパターに類別される。
パターン1「1対1」:1大学 対 1企業の連携
パターン2「1 対N」:1 大学 対 複数企業連携型(コンソーシアム型)
パターン3「N対1」:複数大学 対 単一企業対連携型(企業戦略主導型)
パターン4「M対N」:複数企業・複数大学連携型(大型コンソーシアム型)
パターン5:外国企業との協定、教育連携型
など
これらについて、① 協定の目的とねらい、② 連携の範囲、③ 連携体制と連携の推進方法、
④協定書及び契約書の内容、知的財産の取り扱い、 ⑤ 研究独占・優先の範囲、 ⑥ 学生の扱い
などの観点から、考察を加え、組織的連携の検討に参考になる事項をまとめる。
- 66 -
第4章 組織的連携の態様と類型
4.3.1
パターン1「1対1」:九州大学・東京工業大学・大阪大
このパターンは概ねトップマネジメント協定型(トップダウン型)であるが、その成立の
経緯などからそれぞれ特徴がある。
アンケートによれば、企業では26企業が実施中・16社が検討中であり、大学では21
大学が実施中・12大学が交渉中であるが、アンケート結果からは、
「1対1」であることと
複数の企業・複数の大学との組織的連携については峻別できるが、この中のどのパターンで
あるのか区分は完全にすることは難しく統計的な処理は出来ないので、委員会における報告
およびアンケートの文章コメントからの考察と企業・大学が検討する際の参考事項のまとめ
を試みる。
なお、委員会で報告があった4大学ともに組織的連携に関わる整備が進んだ現段階では、
京都大学の「1対複数」を除いては、概ね、パターン1:
「1対1」トップマネジメント型で
あるが、検討開始のキッカケ・整備の観点・整備の手順は画一的ではなく、各大学の事情に
よって柔軟に対応されてきたと思われる。
(1)九州大学の組織的連携の類型的特徴
九州大学の組織的連携は、産学官連携全体を全学組織である「九州大学産学連携推進機構」
が統括しており、その特徴は組織的連携契約(九州大学では「組織対応型連携契約」と呼称)
を「親契約」と位置づけ、個別共同研究契約を「子契約」と位置づけ、両契約の目的と契約
内容を明確に区分しており実務面ともリンクしていることである。
これは、同大学が法人化に先立ち、九州芸術工科大学との組織統合があり、その時期に全学
組織を整備する必要に迫られた必然性とも関連していると思われる。
①協定の目的とねらい:組織的連携契約では④のようないずれの個別共同研究契約にも共通
的な大学と企業との基本事項を双方のトップである総長・社長で取り決め、個別共同研究
契約では当該共同研究に固有な事項を事務局長レベルで取り決めるというように、従来の
共同研究契約交渉における重複業務を排除し契約交渉の簡素化を図る。
②連携の範囲:10例の内、大日本インキ化学工業㈱、三菱重工業㈱、三井造船㈱、日本ゼ
オン㈱との4例には複数の研究科が連携に参加しており、同様に複数の研究科が関わって
いるNTT・NTT西日本㈱との契約も「1対2」であるのでパターン4とも考えられる
がこのパターン1の変形であろう。他の5例については一つの研究科との連携であるので、
パターン3とも考えられるが、連携のねらいとマネジメントは複数研究科が関わる契約と
同じである。
③ 連携体制と連携の推進方法:全学組織である「九州大学産学連携推進機構」が統括し、
各部局長・民間企業等・知的財産本部が連携の協議を行い産学連携推進専門委員会と事前
協議を行い審査結果を産学連携推進委員会に付議して締結する。
締結後は、連携先企業の研究開発責任者・九州大学知的財産本部長などからなる連携協
議会が連携企画・個別連携のマネジメントなどを行う。
④協定書及び契約書の内容・知的財産の取り扱い:概ね、数年を目途に、連携項目(連携課
題)、個別連携目標・計画・体制・資金、連携管理・評価手法、知的財産の取り扱い、秘密
- 67 -
第4章 組織的連携の態様と類型
保持、公的資金の受け入れ等を規定した秘密保持契約を締結する。
⑤ 研究独占・優先の範囲:連携課題項目の範囲は優先権が確保される。
⑥ 学生の扱い:特段の定めは無い。
(2)東京工業大学の組織的連携の類型的特徴
東京工業大学の組織的連携は、共同研究が予定されない場合には組織的協定を締結しない
ことが明確に打ち出され、組織トップが関与し、大学および企業のトップがサインする組織
的な協定締結により責任の所在と大枠の連携分野を明確にした大型の産学連携研究の実施が
強調されており、委員会・フォーラム(技術交流会)と複数の個別連携研究という3層構造
による管理・推進の中で個別研究管理にかなりの重点が置かれている。
①協定の目的とねらい:具体的な共同研究が予定されない場合には組織的連携は行わないこ
とが明確にされ、複数の個別連携研究を基礎にした大型の組織的連携と定義づけされてお
り、個別の研究と研究管理を明確に区分されている。
②連携の範囲:大学内でどの程度の研究科が関与しているかは不詳であるが、製造業とは技
術創成・技術移転、非製造業とは全国・全世界に拡がる情報ネットワークを活用したビジ
ネスモデルの創出が狙いでいずれもある程度の具体的分野が定められている。
③ 連携体制と連携の推進方法:企業側は研究担当役員、大学側は理事・副学長(研究担当)
から構成される推進委員会が進捗状況管理を行い、この委員会・フォーラム(技術交流会)
と複数の個別連携研究という3層構造による管理・推進。間接経費は3割
④協定書及び契約書の内容・知的財産の取り扱い:秘密保持・知的財産の取り扱い原則など
を定め、協定を公開できることを原則としている。
⑤ 研究独占・優先の範囲:知的財産管理を充実させ、大学・企業双方にメリットがある原則
を定めている。
⑥ 学生の扱い:特段の定めは無いが、原則、研究者の範囲で学生は含まない。
(3)大阪大学の組織的連携の類型的特徴
工学研究科・社会連携室が窓口となって個別共同研究に対応している中で三菱重工業㈱、
松下電器産業㈱などから全学的な連携検討の要請が出され全学対応の組織的協定への発展し
た経緯から、依頼型の研究から真の共同研究を立ち上げる場を企業に提供し、企業の自主的
な活動を期するために企業からの推薦者を「連携推進教員」として学内で任命していること
が特徴である。
①協定の目的とねらい:依頼型の研究から真の共同研究を生み出すための共同研究を立ち上
げるまでの新仕掛けを大学・企業双方のトップ同士の研究連携契約の下で行う。
②連携の範囲:平成16年4月現在では、全学契約は前記の2例、工学研究科のみが5例で
あり、他に、先端科学イノベーションセンターなどが締結している組織的連携もある。
③連携体制と連携の推進方法:大学と企業のトップによる研究連携協定が締結されておれば
企業毎に柔軟な対応をしており、その要は企業から派遣される「連携推進教員」であり、
任命後も社会連携室では支援はするが企業努力に委ねている。4.2.2で記述した「登
- 68 -
第4章 組織的連携の態様と類型
録研究員」に似た発想であり、平成16年4月以降4名が任命されている。
以下に「連携推進教員」の任命と個別連携研究の設定に至る事例を紹介する。
(a)「連携推進教員」の任命
企業から推薦された「連携推進教員候補」を社会連携室で審査後、研究科の代議員
会で承認し工学研究科長が任命後、社会連携室に教授会で紹介することによって学
内に周知。
(b)共同研究設定と運営方法例
企業フォーラム(1)企業紹介・企業が関与する分野の動向説明・交流会
(参加者:事前登録・機密保持契約同意者のみ)
企業フォーラム(2)研究依頼、WG参加希望者募集
(参加者:事前登録・機密保持契約同意者のみ、テーマ検討WG参加者募集)
テーマ検討WG(第1次∼第3次まで数ヶ月∼6ヶ月で共同研究の詳細決定・契約)
(参加者:企業・大学の希望者+連携室・連携教員)
共同研究:(上記検討の約5割が成約に至る、数ヶ月∼1年実施後に評価)、
合同評価会議(共同研究の立ち上げ・位置づけ・体制、途中評価・中止の決定)
④協定書及び契約書の内容・知的財産の取り扱い:組織的連携契約は上記のプロセスに入る
ことが担保される仕組みであり、知的財産の取り扱いなどは個別の契約で。
⑤ 研究独占・優先の範囲:知的財産本部で規程を定めている。
⑥ 学生の扱い:共同研究者の公募掲示でアピールの機会にはなるが連携への参加は不可
4.3.2
パターン2「1対N」:大学 対 複数企業連携型<京都大学>
京都大学では、平成14年初には個別型、包括的契約<グループ型:企業単位>および
包括的融合アライアンス型の3タイプで産学連携を進めるというスキームを提示しており、
ここでは、大学約80名・企業5社70名という国内では最大級の同大学の包括的融合アラ
イアンス型についてまとめる。また、九州大学ではこのパターンを特定の産業界との間で検
討中であると報告されている。
なお、大阪大学・情報科学研究科のITフォーラム OACIS や各地の研究協力会も広義に
はこのパターンと言える。
①協定の目的とねらい:5つの異業種の各業種から1社づつ(NTT・パイオニア・日立製
作所・三菱化学・ローム)の企業群と連携することによって補完的相乗効果を狙ったもの。
有機ELの開発を全体テーマとしている。
②連携の範囲:全学の教員が対象
③連携体制と連携の推進方法:国際融合創造センター(IIC)に「IIC融合室」を置き、
室長は大学から副室長は企業から出し、その下に戦略委員会、推進委員会を設置。
戦略
委員会の役割は研究方向と研究テーマの採択でセンター長・各社の常務、推進委員会は実
際の運営で大学側から8名・企業側から10名。
学内公募の結果約50テーマの応募がありこの中からプロジェクト(期間3年間)を7
件、萌芽的研究(期間1年間)を9件、採択した。各研究プロジェクトには、京都大学か
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第4章 組織的連携の態様と類型
らは研究者と研究協力者を出し、企業からはコーディネーター(参加企業の代表)とイン
ダストリーリサーチパートナー(各社1名)を出して進めている。
④協定書及び契約書の内容・知的財産の取り扱い:全てのプロジェクトを包含して1つの契
約を締結。知的財産の扱いなどは、IIC室内に知的契約WG、知的推進WGが置かれて
おり、これらがその任にあたる。
⑤ 研究独占・優先の範囲:知的推進WGが知的財産ポリシーに沿ってこれらの調整に当たっ
ている。
⑥ 学生の扱い:教員・研究者のみの研究共同体。
4.3.3
パターン3:「N対1」複数大学 対 単一企業連携型(企業戦略主導型)
アンケートのコメントによればかなりの企業が複数の大学と組織的連携契約を締結して
おり、概ね、その効果を評価しているが、一部の企業では、最終的には個々の共同研究とな
り、その集積であるので効果の程は如何であろうとの見方をしており、共同研究に至るプロ
セスの理解が浸透していない面も見られる。
今回、調査委員として参加された企業はいずれも内外の大学との産学連携に取り組まれて
いるが、組織としてその取り組みを明らかにされた松下電器産業㈱および三菱重工業㈱の概
要をとりまとめる。
①松下電器産業㈱
1990年を境目として改良・研究型R&Dから新戦略型R&Dへと世界的な構造変化
が起こっていると捉えて、本社技術部門に設置した産学連携推進センター(専任10名)
が事務局となり、事業ドメインを超えてドメインCTOから構成される全社産学連携推進
委員会を組織化し、ドメイン毎の担当者からなる全社産学連携担当者会議で具体的な企画
を推進している。
2003年度の成果として、情報通信・環境・半導体などの分野で、東大・京大・阪大・
東京工業大学と組織的連携を締結して総数25件のテーマ設定を行っている。
②三菱重工業㈱
基幹製造業としての基盤づくりを目標に掲げ、組織的連携は北大・東大・名大・阪大・
広島大・九工大・九州大など10近い大学と連携促進協定を締結し、東北大とは企業連合
として連携を進めている。
4.3.4
「M対N」複数企業・複数大学連携型(大型コンソーシアム型)
文部科学省・地域結集型研究開発推進事業(地域COE)
・知的クラスター構想、経済産業
省・地域コンソーシアム・産業クラスター計画など地域振興型の諸制度による取り組みはあ
るが、これまでの研究活動振興型から成果評価が問われる方向にあり、殆どが時限でありそ
の間に実践面での出口を見据えた取り組みと将来構想を醸成しておく必要がある。
- 70 -
第4章 組織的連携の態様と類型
4.3.5
パターン5:教育連携型、海外企業との協定、など
独立のパターンとして議論する事項ではないかとも思われ、また、一部の組織的連携の中
には、これまで記述してきたような「共同研究」の促進という視点に加えて、その協定の中
で、寄付講座的な連携講座の設定、社会人学生の受け入れや、インターシップなどが組み入
れられている例も見られるが、今後は意図して双方の人材育成に資するプログラムを組み込
んでいくことが考えられ、幅広い組織的連携に発展することが期待される。
制度的には1987年に制度化された寄附講座、大学と企業との連携による連携講座、京
都大学コンソーシアム、大阪府大学連合や南大阪大学連合によるインターンシップ等があり、
今後、要請される学外活動(Outreach)などでは産業界との連携が必須になってくると思わ
れる。
組織的な海外企業との連携については、九州大学で2005年度中に設立を構想されてい
る「アジアDLO(*)」がこの例となろう。*Asia Design Licensing Organization
しかし、これまで検討してきた共同研究の設定を目的とした海外企業との組織的連携につ
いては、大学の研究のかなりの部分に公的資金が活用されていることから関係当局との検討
が必要となろう。
[4−1] 原山優子;「産学連携−革新力を高める制度設計に向けて−」東洋経済新報社
ISBN: 4492222286 ; (2003/04)
[4−2] 清水利男、糸川太司、村上孝三、佐々木孝友、兼松泰男、正城敏博、黒川敦彦、
谷口邦彦;第18回研究・技術計画学会年次学術大会予稿集 pp288-291,2003
[4−3] http://www.ucop.edu/ott/pdf/consult.pdf
[4―4] 柳田祥三、村上孝三、正城敏博、多田英昭、谷口邦彦;研究・技術計画学会
第19回年次学術大会予稿集 pp119-122 (2004)
[4―5] 西尾好司;富士通総研経済研究所エコノミック・レビュー(No.1 2005)
- 71 -
第5章 組織的協定のあり方
第5章
組織的連携のあり方
組織的な連携は、大学と企業が組織的に連携を進めることであり、色々な連携があって然
るべきである。新聞等で報じられている内容をみても、研究協力だけでなく、教育、さらに
は大学の研究成果の実用化に関する連携と幅広い連携進められていることがわかる。連携の
合意が終わり実際に連携活動が進められているのは、研究協力を中心とした連携が多いこと
から、本章 1では組織的な連携に基づく研究協力に焦点を当て、わが国の組織的な連携のあり
方について検討してみたい。
5.1
連携のフォーメーション
連携の始まりは、これまでの教員と企業の連携を発展させたケース、大学あるいは企業が
相手に働きかけて組織的な連携へと展開できたケースの二つに大きく分けることができるで
あろう。前者のケースであっても、これまでのように教員と企業担当者レベルで内容の詳細
を詰めることは難しく、大学の産学連携(または知的財産)担当部門と企業の担当部門との
交渉で進められることになる。つまり、組織的な連携とは、大学と企業の組織同士が、例え
ば、研究に関しては、研究領域やテーマ、内容の決定から、研究のマネジメント、成果の取
り扱いなど連携の枠組みを決めて進める連携ということができる。
連携の対象とする領域を決めるためには、最初に企業または大学が連携の話を持ち出すに
しても、企業にとって関心のある領域やテーマを伝えることが第一歩になる。大学側は、企
業側の必要とすると思われる研究領域に関連する教員に対して、企業の希望を伝え、連携の
意向を確認する。その際企業名を出す必要はなく、企業が希望する場合には匿名で教員に伝
えてもよいし、教員に集まってもらい企業の考えをプレゼンテーションする方法もある。企
業との連携を希望する教員が、これまでの研究テーマや研究内容、さらには企業のニーズに
合うと思われる研究のアイデアを企業側に説明する。そして企業の研究者と大学教員が話を
して研究領域を絞っていくことになる。研究領域の選定のための企業と大学の交渉や打ち合
わせは、半年以上はかかるようである。
研究の方向性を検討する場合に、当事者以外の国内外の有識者など参加者を幅広く募って
検討を行う場の設置についても検討する価値がある。こうした場は、オープンにする必要は
ないが、基礎的な領域の研究をターゲットとする場合には有効な方法と考えられる。例えば、
第五世代コンピュータ・プロジェクトでは、多額の研究資金を投入して全く方向違いのプロ
ジェクトを行うのではないかという不安から、プロジェクトの価値を客観的に評価する一つ
の方策として国際会議を開催したという 2。
1
2
本章は、西尾好司(2004)『日本の組織的な産学連携(包括連携)の現状と課題−日本の「産学連携プ
ログラム」の発展に向けて−』富士通総研経済研究所研究レポート№205 をベースに作成している。
中村吉明・渋谷稔(1995)『日本の技術政策−第五世代コンピュータの研究開発を通じて−』通商産業
研究所 研究シリーズ 26
- 73 -
第5章 組織的協定のあり方
具体的な研究テーマの決定については、関係者の検討だけで決めるだけでなく、学内で公
募することもある。前者については研究テーマについては、①企業側から具体的にテーマを
提示する、②領域を決定した後に、大学側で関連教員に企業ニーズなどの話を持ちかけて(そ
の際に企業名を伏すこともある)、興味をもった教員から提案してもらう、③大学と企業の関
係者が集まって検討会を開催してテーマを決める方法が考えられる。
後者の学内公募の場合には、研究領域を示した上で学内の教員に対してテーマを募集する。
教員からの提案を評価して研究テーマを決定する。単に提案に○×をつけるのではなく、教
員から提案された研究をいかに企業のニーズに合わせていくか、これを企業が教員とどのよ
うに進めていくかが成功の鍵である。場合によっては、テーマを統合することも行わなけれ
ばならない。通常大学教員の力を活用するのであれば、学内公募などの教員からの提案の方
が好ましい。この方法により教員のアイデアだけでなく、教員が本来持っている研究したい
という意欲も活用できる。学内公募や大学側で研究者を探すことは、従来の企業のつきあい
のある研究者以外の研究者を発掘できるというメリットもある。大学の持つ総合力の活用を
目的としている企業もある。こうした企業の中には、環境やエネルギーのような社会的なイ
ンフラに関係する領域で、人文社会系の研究者も参加した文理融合型の連携を狙っているケ
ースもある。このメリットは、企業が大学の総合力を活用する場合に、非常に重要な要素と
なる。
大阪大学と三菱重工の連携では、目標(ビジョン)とそこに至る研究テーマ(ロードマッ
プ)を作成して研究を進めることとなっている。こうした連携は、大学と企業との間で戦略
を共同で作成し、共有するものであり、従来の産学連携には見られなかったものであり、大
学の研究者にとって、具体的な目標が明確になる。京都大学と異業種5社の連携で採用して
いるような、萌芽的な研究(1年)と事業化を見据えた研究(3年)を分けて実施すること
は、大学という技術の初期段階の研究を発展させる上で重要な仕組みと思われる。
5.2
連携・研究のマネジメント
組織的な連携を円滑に進めるためには、双方の意思の調整の場が必要となる。そのための
場として、大学と企業の関係者が参加する委員会や協議会が設置されることが多い。例えば、
連携の方向性を検討し意思決定の場と連携を運営し、個々の研究テーマを決定し、日々の課
題を解決する場の二つを設置する連携や一つで全てを調整する連携もある。こうした調整の
場は、委員会形式を採用するところが多く、委員会形式は素早い対応ができないという短所
があるが、大学と企業が各々自立性を保ち、双方でコンセンサスを形成する場としては適し
ているといえよう。なお、米国では、当事者以外の者が参加するアドバイスのための場が設
けられていることがある。
産学双方のゲートキーパーの役割も成功するために最も重要な項目の一つである。このゲ
ートキーパーは他の参加機関との連結機能と境界維持機能を担っている。知識の移動はゲー
- 74 -
第5章 組織的協定のあり方
トキーパーのコラボレーションに伴うコミュニケーションを通じて行われることが多い。そ
れがうまくいくには、参加者間での信頼関係やオープンなコミュニケーションによる相互作
用が必須となる。具体的には他者についての情報を探索、収集、処理するだけでなく、組織
を代表して相手と交渉する役割を担っている。実際に研究成果を社内で実用化につなげてい
くためには、ゲートキーパーが事業化に関して社内でどれだけコミットしているかが大きな
問題となる。その際所属組織のどの階層に位置しているかが重要である。組織の存在意義を
明確にして、その価値を具体化する人材が必要となる。ゲートキーパーは、連携の内容にも
依るが、研究者レベルと運営レベルの2種類必要である。後者の運営レベルでは、企業にお
いては研究企画部門のスタッフが相応しい。
研究のマネジメントにおいて、応用研究や問題解決型の研究では、目標とするマイルスト
ーンが明確なので、社内の研究と同じ方法で行うことが可能と思われる。この場合には、契
約や計画にマイルストーンを明記することが好ましい。大学に関しては、この種の研究は少
なく、大学の力を十分に活用できる探索研究では、研究のアプローチの仕方やスケジュール
の変更などのフレキシビリティが重要である。しかし企業はこの種のマネジメントを苦手と
している。企業にとっては、日本経済団体連合会の報告にもあるように、大学の研究の中に
は自社での実用化につながりそうな研究テーマが少ない、ゴールに対する意識の相違、研究
開発のスピード意識の相違、教員の応用・実用化研究に対する関心の低さ、大学での研究の
進め方が企業のタイム・スケジュールにあわないという指摘がなされている。しかし、必ず
しも企業側の指摘に分があるとは思えない。つまり、大学が追求するものと企業が追及する
ものは自ずと異なるものである。米国でも企業から、大学での研究はマネジメントが欠如し
ており、契約上の締め切りを尊重していないという不満が聞かれる。教員が企業のスケジュ
ールに沿って研究を進めることは難しいが、プロジェクトレベルでは最終的には教員が中心
となって研究を進めるので、双方で話し合うことで解決しなければならない。組織的な連携
を志向する企業では、これまでの教員との間で決めていた連携を改善したいという企業も多
い。大学の研究を企業の研究のスケジュールに合わせることが成功の秘訣であるが、大学の
研究に対するスタイルの違いを前提とした上で両者が歩み寄って連携する必要がある。
産学研究協力は企業に不足している技術や知識を大学の持つ技術や知識が補完するという
よりは、両者が連携して相互作用により新たな知識創造を行う活動ということができる。そ
こには、企業として連携そのものを知識の窓として活用することが重要となる。そして大学
と企業という境界を越えて情報を共有化し、学習するという関係が生まれ、一層発展するこ
とになる。
5.3
知的財産権及び秘密保持の取り扱い
5.3.1
知的財産権の取り扱い
大学は知的財産権の取り扱いをポリシーとして定め公表している。企業との連携において、
大きな問題は大学と企業の共有特許の取り扱いである。大学側は、企業との共有特許の場合
- 75 -
第5章 組織的協定のあり方
に、企業の同意がないと他社に実施させることができないことから、企業が共有特許を実施
する際に、大学は企業に「不実施補償」と呼ばれる対価を支払うことを求めており、この「不
実施補償」が原則となることに対しては懸念が多く聞かれる。「独占実施」をする場合には、
その対価を支払うことについては、問題ないとする企業は多い。しかし、企業がいう共有特
許の「独占実施」内容については明確でない点も多く、依然として大きな課題である。
なお、組織的な連携を特別視して、知的財産の取り扱いに関して相手企業に優遇するよう
な取り扱いを認めることに対して、学内外からの批判が起こる懸念は否定できない。大学の
方針としては、組織的な連携においても、相手先企業に大学のポリシーを理解してもらうこ
とになるであろう。そのため契約には、大学のポリシーを参考資料として契約に添付するこ
とも考えられる。また、優遇する場合には、大学の方針を明確にしておくことが望ましい。
5.3.2
秘密保持について
企業にとって重要な研究開発領域やテーマ、技術課題を大学側に伝えることで、初めて実
効性のある「産学連携プログラム」を構築できる。研究領域や研究テーマを詰めるために、
双方が参加して行われる検討では、秘密保持契約も必要となるであろう。企業では、大学の
秘密保持能力に疑問があることから、企業情報を提供することに、二の足を踏むケースも出
てくる。なお、大学教員側にしても研究のアイデアを企業に盗られるのではないかという不
安もある。教員の研究内容は論文等で調査できるが、アイデアまではわからない。アイデア
に重要性を見出す企業も多い。研究領域やテーマを検討する場は、企業の研究開発戦略にも
影響を与える重要な場ともなることから、企業が真に大学との連携を進め、成功に導くため
には、企業の情報を大学側に提供し、研究開発上の目標を共有していくことが重要である。
米国の大学では守秘義務が徹底されているという話を聞く。大学では秘密保持契約の雛型も
用意されている。しかし、企業側は、大学の特殊性を理解した上で契約を締結しているよう
である。企業と同じ秘密保持体制を大学に求めることは困難であるが、大学としては企業の
懸念を払拭するために、企業の要望に応える意味でも、秘密保持の重要性を教員などの参加
者に認識してもらい、大学として管理する必要があるであろう。
また、企業側のゲートキーパーに客員教授や特任教授等の大学の身分を与える場合がある。
この場合に留意しなければならないことは、連携プログラム以外の学内の情報の取り扱いで
ある。大学の研究に関する情報や他社の情報など学内で知り得た情報の秘密保持についてど
のような取り決めをするか検討する必要がある。
5.3.3
学生の取り扱い
組織的な連携に限らず学生が企業との連携にどのようにして参加するかは、大きな問題で
ある。学生が参加する場合には、秘密保持や研究成果に関する権利の取り扱いに関して、事
前に契約に従うことを了解してもらう必要がある。
- 76 -
第5章 組織的協定のあり方
5.4
相手先企業以外からのアクセスについて
ある企業と大学が、組織的な連携を進めるための協定に締結し、そのことを新聞発表した
としよう。新聞発表後に内容を詰めている段階で、他社から当該連携に含まれる研究領域に
関して大学に対して研究協力の提案を受けた場合に、大学はどのような対応を取るのであろ
う。組織的な連携の相手先企業に企業名を伏せて他社から話が来ていることを伝えるのであ
ろうか、それとも相手企業には伝えずに大学が独自で他社と連携するか否かを決定するので
あろうか。また、既に契約を締結したテーマに対して、同じテーマあるいは非常に近いテー
マについての連携を持ちかけられた場合にどうするのであろうか。こうした点について大学
は対応を明確にしておく必要がある。
大学に対する他の企業のアクセスの制限が契約に含まれる場合には、組織としての利益相
反の問題が生じる懸念もある。契約の対象となる領域での研究は全て相手先企業と進めると
いうような条項だけでなく、相手企業が最初に交渉する権利があるなどの条項についても、
留意しなければならない。
組織としての利益相反の対処の方法の一つとして、契約の内容の公開がある。例えば米国
では、契約書そのものを公開しても、研究領域が記載されているだけで、研究内容が明記さ
れている訳ではないので問題はないことがある。日本では「産学連携プログラム」の協定は
シンプルなものであり、テーマ毎に具体的な内容は研究テーマごとに定められている。こう
した研究テーマが記載された契約では、契約書そのものを公開することは難しい。しかし、
学外から疑念が出された場合には、研究テーマや参加者、スケジュールなど公開に対して抵
抗は強いと思われるが、大学の公的な立場を考えると契約内容を公開することも必要となる。
この点については、相手企業の理解を得ておく必要がある。
5.5
リエゾンプログラム
現在は大学と本格的な連携を希望する企業が少ないことから個別に対応しなければならな
い。ただし、連携企業数が増えてきた時点で、共同研究や受託研究などの研究契約に付随す
るもの以外に、独立して他の連携を実施する場合には、大学として米国のようなリエゾンプ
ログラム 3を整備して対応することも選択肢として検討することも良いと思われる。また、企
業の中には、テーマ設定に際して、これまで連携していなかった教員との連携を志向して、
組織的な連携を進め、テーマ設定後のマネジメントについては、従来の仕組みで進めたい企
業もある。テーマ設定だけで、組織的な連携を希望する企業が多いのであれば、大学として
はリエゾンプログラムを大学で整備して、企業の問題意識を大学に伝え、大学と企業が意見
交換、テーマ設定に向けた検討会の開催するような機会を提供してもよい。
米国のリエゾンプログラムは、大学が提供するメニューを決めて、企業に提供する会員制
3
リエゾンプログラムの詳細については、西尾好司(2000)「米国大学における研究成果の実用化促進メ
カニズムの検証」富士通総研経済研究所研究レポート№94 を参照。
- 77 -
第5章 組織的協定のあり方
度で、ここで提供されるものは、教員との会議のセッティング、卒業生とのミーティング、
研究情報の提供などである。プログラムには、会費を支払うことでどの企業も参加できる。
そして、そこから具体的なテーマや技術移転などの案件が出てきた場合には、それぞれ研究
契約や実施許諾契約を別途契約することになる。日本で企業が寄附金でしていたようなこと
をプログラムとして大学がきちんと企業に提供するもので、研究協力のプロジェクトフォー
メーションの土台作りになる。
5.6
海外企業の参加
1980年代前半以降米国では、多額の政府資金を使用して研究開発を行っている大学や
研究機関などの非営利組織が海外企業と高額の研究費を受け取って連携を進め、しかもその
研究成果を独占的に相手先企業が活用できるという研究契約を締結したことに対して、議会
から批判が起き、社会的に関心を集めたケースがあった。こうした批判は、公的な資金の活
用の観点だけでなく、その時の経済状況などにも大きく左右される。外国法人や外資系企業
との連携は、制限されるものではない。特に外資系企業は、国内企業も国内の研究基盤の一
部であり、外資企業であることそれ自体を理由に排除すべき理由は無い。但し、外資系企業、
外国法人との組織的な連携においては、対象とする技術や産業が抱える状況は多様であるこ
とから、社会的な関心を集める時もあることを留意しておく必要がある。
- 78 -
第6章 組織的連携における法的問題
第6章
組織的連携における法的問題
6.1
はじめに
組織的連携における法的問題を検討するにあたって、まずは、大学側における①法的権利
意識の問題と、②法的権利保護体制の問題を指摘しておきたい。
大学と企業とがパートナーとして組織的連携を深めるためには、大学側と企業側とが、当
該研究課題の意味と価値について共通の認識を持っておく必要がある。また、大学と企業と
が、それぞれ当該研究の価値を守るために全力を尽くさなければ、組織的連携をすすめてい
くことはできない。
そのように研究、発明の価値を保護することこそが、特許法をはじめとする法律の役割な
のである。
一般的にいえば、企業側は一般的に研究、発明の価値に対する保護意識は強いと言えるの
に対して、大学側は、かつては研究や発明を法的に保護することについての意識が希薄な場
合が多く見られた。
本稿は上記のような違いが何故生じるのかについて論じる場ではないが、その理由として
は、企業は終局的には営利を目的とし、研究を含めた業務活動について経済的価値として把
握せざるを得ないのに対し、大学における研究は、出発点として営利を目的としないもので
あったということも挙げられる。
そのように権利保護意識が希薄な状況は、各研究者個人のみならず、大学全体としての法
的保護制度の遅滞にもみることができる。これまでの整備状況に鑑みても、大学においては
特許権等の法的保護の点では遅れがあったと言わざるを得ない。
しかしながら、今後、企業との間で組織的連携を深めるにあたっては、大学においても法
的保護体制づくりを進めるとともに、それらの制度を、職員、研究者らにも周知させること
により、権利保護の意識を深める必要がある。
以下では、組織的連携の法的問題として、法的サポート体制(6.2)について述べた後、
大学における発明規程等の諸制度に関する問題(6.3)、契約書等の作成に関する問題(6.
4)を述べる。また、組織的連携の前提として、大学における職務発明の問題(6.5)と
学生の扱いに関する問題(6.6)も紹介しておきたい。
6.2
法的サポート体制
6.2.1
企業との比較
一般的に、多くの企業においては、法務部において各種権利の保護が図られているが、同
時に、企業外部の弁護士等の専門家と顧問契約を締結することにより、リーガル・サービス
の提供を受けている場合が多い。
企業が弁護士資格を有する者を採用して、企業内弁護士として法務に従事させる例も多く
見られるのである。
これに対して、組織的連携を組む大学における法的サポート体制が充分なものでない場合
が多いことは、既に述べたとおりである。
もっとも、近年は、大学における法的サポート体制も充実したものとなっているのであり、
- 79 -
第6章 組織的連携における法的問題
国立大学においても、法人化以降は大学毎に法的サポート体制を備えつつある。
6.2.2
法的サポート体制の確立
(1)法的サポート体制
法的サポート体制は、日常的な法務の問題を相談し解決する場面の問題と、民事訴訟など
の紛争場面の問題とに分けることができる。
そのような各場面に対応する前提として、大学等の組織において、個々の職員や研究者が
それぞれ発明、特許の問題に取り組むのではなく、発明、特許などの情報を集約し、法的手
続を行う部署が存在することが必要となる。
大学側において研究価値の法的保護について集約する部署をつくり、当該部署の職員が情
報をまとめることにより、様々なケースを専門家に相談し解決する窓口となるのである。
(2)日常的な法務問題の相談体制
まず、日常的な問題の相談については顧問弁護士などの相談機関との連携が不可欠であり、
しかも、月に一回など、定期的に面談して様々な問題を相談する機会を設けることが望まし
い。
顧問弁護士や顧問弁理士は、日常的にメールや電話による相談を受ける他、定期的に面談
の期日を設け、各相談に応じる必要がある。このような相談を行っておくことが将来の紛争
を予防することに有用であることはもちろんであるし、万が一訴訟等の紛争が発生した場合
にも、十分な主張と証拠を提出することを可能とするのである。
また、こうした相談において、組織的連携などにおいて締結される契約書の法的問題点の
確認や、契約内容に関する交渉を依頼することも有用である。
このように、法的サポート体制の重要な一側面として、専門家に日常的に相談する体制を
確立しておく必要がある。
(3)法的紛争が生じた場合の体制
さらに、大学において内部的又は外部的な紛争が生じた場合に、当該紛争の解決にあたっ
ても、法的サポート体制を確立しなければならない。
内部的問題とは、下記でも触れるが、発明の取扱いや職務発明の対価等に関連して、大学
内部の職員や研究者(学生も含まれる)と大学との間で紛争となることである。
また、外部的には、①組織的連携の相手先企業との間で、研究の成果物や特許権等の取扱
いについて紛争となる場合や、②組織的連携に基づく研究成果や特許権について第三者と紛
争となる場合が予想される。
①は大学と連携相手先企業との紛争である。
もちろん組織的連携にあたっては、可能なかぎり企業と大学側で打ち合わせをした上で、予
想されるトラブルを契約書に盛り込むことにより、紛争を相当程度予防することが可能とな
る。
しかしながら、契約書の項でも述べるとおり、同一の文言であっても解釈の違いから紛争
- 80 -
第6章 組織的連携における法的問題
となることもある。また、実際には契約締結段階では予想できないトラブルが生じる場合も
多く存在するところであり、全てを契約書で解決することが不可能である以上、こうした紛
争類型は必ず起こりうるものである。
大学としては、こうした紛争に際して、自らの権利を保護するために、弁護士や税理士に
依頼して紛争処理を行う必要があるのである。
②は組織的連携の外部の第三者との間の紛争である。
当該紛争の相手方として大学のみが関わる場合は上記(1)と同様であるが、組織的連携におい
て特に問題となるのは、大学と連携先企業の双方が紛争の当事者となる場合である。
例えば、組織的連携において大学と企業とが共同で開発した研究の特許権等について第三
者が権利侵害した場合や、逆に、大学と企業との共同研究内容が、第三者の特許権等の権利
を侵害したと主張される場合である。
この場合、まずは大学と連携先企業のうち、どちらが紛争に対応する責任を負うかについ
て事前に決定しておく必要がある。具体的には、組織的連携における契約書において、紛争
対応を明記することになろう。
もっとも、例えば民事訴訟などが提起された場合、大学と連携先企業が共同被告とされる
場合もあり、そのような場合には、大学は訴訟に参加し、連携先企業とも打ち合わせをしな
がら、独自の利益を守るという観点から訴訟対応を進めるべきである。
また、第三者と連携先企業との間の民事訴訟においても、大学は、自らの利益を守るため
に必要がある場合は、当該訴訟に補助参加若しくは独立当事者参加することにより、訴訟当
事者として対応すべき場合もある。
(4)まとめ
以上のように、組織的連携の観点からも、大学における法的サポート体制の確立が不可欠
であると思われる。
6.3
規程等の作成に関する問題
6.3.1
大学における規程の意義
大学における各規程は、大学内部に所属する職員、研究者らを規律する取決めである。
大学の規程は大学内部を規律するものであり、組織的連携先企業にまで効力を及ぼすもの
ではない。大学外部の企業との関係においては、両者の締結する契約において規律する他な
い。
ただし、大学の規程を外部に示すことにより、大学の活動を社会一般に伝えるだけでなく、
連携先企業に対しても、大学における組織関係や権利関係の取扱いなどを知らしめることが
できるのであり、十分な効果がある。そのため、大学においては規程集をインターネットの
ホームページ上で公開する例が多い。
大学における規程のうち、企業との組織的連携に関連する規程は、発明規程、共同研究規
程、受託研究規程などが挙げられる。
- 81 -
第6章 組織的連携における法的問題
6.3.2
発明規程の内容
一般的に発明規程においては次のような内容が記載される。
(1)目的
規程においては、その目的を明らかにし、規程の射程範囲を明確にしなければならない。
(2)定義
規程は、職員、研究者など、多くの者の権利関係に影響を及ぼすものであるから、その用
語は統一し、定義を明確にする必要がある。特に、規程の対象となる「教職員」の定義や「知
的財産権」の定義については明確にしなければならない。
(3)組織
発明規程においては、大学における研究、発明などの法的権利の保護を、どの部署が集約
して行うかを明確にしなければならない。例えば、
「発明委員会」や「知的財産本部」を設立
し、その役割分担を明記しなければならない。
(4)特許権の帰属
発明規程における重要な項目として、大学の「職務発明」に関する特許を受ける権利等の
帰属関係が明記されなければならない。通常、職務発明に属する発明の特許を受ける権利は、
大学に帰属する。
職務発明については後述するとおりである。
(5)発明の届出
上記の通り、職務発明が大学に帰属する以上、大学内で発明等があった場合には、その旨
の届出を受け、大学が発明等の存在を把握しておかなければならない。
そこで、発明規程においては、研究者等が発明を行った場合には、個人の自由発明である
ことが明確な場合を除いては、全て大学(具体的には上記の知的財産本部など)に届出をす
る義務を課することとなるのである。
発明規程における最も重要な項目の一つである。
(6)特許を受ける権利の承継手続
届出された発明が、職務発明に属するものと認められ、大学が承継することを決定した場
合には、当該発明の特許を受ける権利が大学に承継されることになる。発明規程にはその承
継の手続を定める必要がある。
特に重要なものは、職務発明を承継する場合の「対価」の決定基準に関する規程である。
この点についても、職務発明の項で改めて述べることとする。
大学は、上記承継にあたっての「対価」を含め、特許権の取得等の時点において「補償金」
等の名目で、発明者である研究者等に対して金銭を支払うこととなる。
- 82 -
第6章 組織的連携における法的問題
また、この承継手続においては、大学の決定に異議がある研究者等の異議申立が可能であ
るなど、発明者自身の意向を尊重することも多いが、大学が当該発明者の意向に拘束される
わけではない。
大学を退職した研究者等に対する承継手続や補償金の支払いなども重要な問題である。退
職する研究者等に対しては、大学に対する住所等の連絡先の通知を義務化しなければならな
い。
なお、届出された発明のうち、大学が承継しないと決定したものについては、発明等を行
った研究者個人に権利帰属することになる。
(7)秘密保持義務
共同研究規程や受託研究規程については当然であるが、発明規程においても秘密の保持義
務が問題となる。
発明を行った教職員及びその権利の取扱いに関する事務を行う教職員は、当該発明に関す
る秘密を守らなければならない。
6.3.3
共同研究規程、受託研究規程の内容
大学が、外部の企業等と共同研究、受託研究を行う場合は、通常相手方と契約が締結され、
双方がこの契約内容に基づいて権利を有し義務を負うこととなる。従って、基本的には、共
同研究及び受託研究は、個別契約によって規律されるべきである。
もっとも、共同研究や受託研究の場合に大学内部の取扱いを定める必要があるし、そのよ
うな規程を定めて外部にも閲覧できるようにすることで、よりスムーズな共同研究契約等の
締結を可能とする。
一般的には、共同研究規程や受託研究規程においては、次のような項目が定められている。
(1)共同研究、受託研究の開始手続
大学が共同研究、受託研究を受け入れ、開始するための手続が規定される。
具体的には、共同研究等の申請がなされ、大学側が基準に基づいて審査し、条件を付して
受け入れる旨の決定を行うことになる。共同研究規程等には、この手続内容が記載されなけ
ればならない。
(2)共同研究、受託研究の条件
共同研究規程、受託研究規程には、共同研究等により生じた発明等の特許を受ける権利の
帰属や実施許諾の取扱い、大学施設の利用、研究費の負担についての条件が記載されている。
個々の共同研究等にあたっては、上記のような各事項の内容については、両者合意の上で、
共同研究契約書等で定められるものであるが、規程に明記することで、予め外部に対しても
知りうるようにしているのである。
なお、個々の共同研究契約等において、規程に定められた条件と異なる内容の定めがなさ
れることは、通常よく行われることであって、何ら問題がない。
- 83 -
第6章 組織的連携における法的問題
(3)共同研究、受託研究の経費
また、大学の内部的な規程として、経費の取扱いを定めておくことが多い。
具体的には、研究の直接経費(旅費、消耗品費、光熱水料など)及び間接経費(共同研究
に使用する大学施設・設備の維持管理費など)について、どの範囲で大学が負担し、どの程
度外部企業に請求するのかについて、内部で定めておくのである。
もっとも、個々の共同研究契約等において、直接経費や間接経費について、別異の取扱い
を定めることも可能である。
(4)秘密保持義務
関係者らは、共同研究等において知り得た業務上・技術上の秘密情報及び研究成果を第三
者に漏洩してはならないことが、規程上も明記される。
共同研究契約等においても秘密保持が規定されることは当然であるが、規程においても、
大学関係者らに対する秘密保持義務を明記し、その履行を徹底するのである。
6.4
契約書の作成に関する問題
6.4.1
契約書の作成過程
(1)大学が外部企業と組織的連携を進めるにあたっては、必ず両当事者の合意に基づいて
「共同研究契約書」「受託研究契約書」などが作成される。
当該契約書は、大学と企業の関係を規律し、両当事者の権利義務を定めるものであり、そ
の締結には慎重な対応が要求される。
例えば、契約交渉において問題となった重要項目については、弁護士や税理士などの専門
家に相談し意見を聞く必要がある。そのために専門家に対する日常的な相談体制を形成しな
ければならないことは既に述べたとおりである。
(2)契約交渉
共同研究や受託研究の内容を定める契約交渉においては協議が行われるが、特に研究費用
の負担や研究成果である発明等の取扱いについて、各大学や各企業の実情に応じた要望が出
されることになる。
契約書には、上記交渉過程において各当事者が合意した内容が記載されることになる。
(3)契約書の作成
契約書の作成にあたっては、用語を統一し文意を明確にすることにより、後の紛争を予防
しなければならない。
契約書の文言が曖昧な場合には、その解釈の違いを巡って紛争となる危険性が高いことは
言うまでもない。一方が作成した契約書を検討する際にも、不明な点があれば作成者に問い
ただし、文意が明確となるように語句を修正しなければならないのである。
また、契約書の作成にあたっては、後に起こりうる様々な問題を想定し、その解決方法を
明記する必要がある。この点については、弁護士等の専門家に意見を聴取することも必要で
- 84 -
第6章 組織的連携における法的問題
あろう。
もっとも、契約書作成時に起こりうる問題を全て予想することは不可能であるし、また、
契約書の性質上全て記載することができない場合もありうる。
そのため、契約書に明記されない事態も生じるところであるが、その場合に協議により解
決できなければ、何らかの法的手段により解決しなければならない場合も生じうるのである。
6.4.2
契約内容に関する問題
一般的に、契約書には次のような事項が記載されることが多い。
(1)定義
用語を統一し、定義を明確にすることにより、曖昧さを避け、契約内容を明確にしなけれ
ばならない。
(2)共同研究等の目的、内容、分担、スケジュール、実施場所等
当該契約書の対象となる共同研究等の内容、態様を特定する必要がある。
(3)期間
当該契約書の効力の及ぶ期間を明確にし、契約が終了することを明記しなければならない。
なお、長期間に渡る契約については、一応の期間を定めた上で、更新拒絶がない限り、自
動更新する旨が明記されている場合もある。
(4)研究経費の負担及び支払方法
共同研究等においては、研究に要する経費を誰が負担するのか、負担する場合の支払い方
法が明記される必要がある。
また、研究期間の延長があった場合に、延長により増大した経費を誰が負担するのかとい
う点も問題となる。
研究自体にかかる経費のみならず、研究終了の場合の経費(研究のために設置した施設の
撤去に要する費用など)の負担についても明記しておくことが望ましい。
(5)施設・設備の提供等
通常共同研究等においては、研究の実施場所が特定されることになるが、その場合、実施
場所の所有者側は、施設や設備の提供を行うことになる。
また、研究が終了した場合に、設備を返還する場合の原状回復義務についても定めておく
必要がある。
(6)研究成果の取扱いについて
共同研究等による発明等の取扱いについては、特許を受ける権利等の帰属(共有の場合は
その帰属割合)、出願手続、外国出願、実施権の許諾手続等について、詳細に定めておく必要
- 85 -
第6章 組織的連携における法的問題
がある。
この実施権の許諾にあたっては、実施料が発生することになるので、実施料の取扱いも契
約上明記されることになる。
(7)秘密保持義務
規程のところでも述べたが、共同研究等にあたっては、契約書で、両当事者に秘密保持義
務を明記し、適切かつ慎重な情報管理をしなければならない。
共同研究に関連する全ての者が秘密保持義務を負い、それぞれ役職上知り得た秘密を第三
者に漏洩してはならない。
なお、共同研究等に参加する学生については個別に契約を締結し、秘密保持義務を負わせ
る必要があることは、後述するとおりである。
秘密保持義務の例外としては、①当該共同研究によって知る以前から自己が知っていたこ
とを文書で証明できる情報、②既に公知となっている情報、③書面により事前に同意を得た
情報などが挙げられる。
また、秘密保持義務を負担する期間は、契約の有効期間とは別に定められる。契約終了(研
究の終了又は研究の中止)の3∼5年間を秘密保持期間とすることが多い。共同研究契約が
終了したからといって、直ちに秘密情報を暴露されてしまうと重大な影響を及ぼす可能性が
あるからである。
(8)契約解除、損害賠償
他の契約と同様、契約の解除や損害賠償ができる場合について定められるのが通常である。
6.5
職務発明制度に関する問題
6.5.1
職務発明
企業に勤務する従業員が勤務中に自己の業務に関する発明をした場合、それを職務発明と
いう。
この職務発明の法的効果として、特許法35条1項は、「使用者」は、「従業者等が職務発
明について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその
発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。」と規定されて
いる。
さらに、同条2項は、職務発明について、使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を
承継させた従業者は、「相当の対価の支払いを受ける権利を有する。」と定められている。
この「相当の対価」に関しては、平成17年4月1日施行の特許法改正により大きな変化
があったところであり、重要な点であるので項を改めて述べる。
6.5.2
大学発明と職務発明
まず、大学の研究者による発明は、そもそも「職務発明」といえるのかという点が問題と
なる。
- 86 -
第6章 組織的連携における法的問題
この問題は、1967年に国立大学の教授らが発明した特許の取扱いを巡って新聞などの
ジャーナリズムで大きく取り上げられたことに端を発する。
職務発明とは上記の通り「業務に関する発明」であるが、大学の研究者にとって、発明を
することが職務として予定されていることであるか、特に、国立大学において「業務」とは
いかなる範囲まで含むのかという法的問題があったのである。
しかも、1977年6月学術審議会において、大学教員の発明に関する権利は、特別の場
合を除き使用者(大学、国など)に帰属させないものとすることが妥当であると答申し、そ
の答申を受けて多数の国立大学が発明規程を制定したという経緯があったのである。
ただし、現在は、大学における研究発明の効果を産業界に伝えるためのTLO(技術移転
事務局)が多く設立され、大学発明についても「職務発明」に該当するものとして大学に帰
属する方向で進展している。
大学と企業との間で研究や特許に関する組織的連携を行う場合も、基本的な考え方として
は、大学における発明を「職務発明」として、特許を受ける権利などを各研究者ではなく大
学に帰属させる前提で取り組みがなされている。
6.5.3
職務発明の承継方法
それでは、職務発明が使用者(大学)に承継されるとして、承継はいかなる方法で行われ
るのであろうか。
これには、①使用者が申込権を持ち、従業者が承諾の義務を負うもの、②使用者が意思表
示すれば、従業員の承諾なしに承継されるもの、③発明完成と同時に権利が当然使用者に承
継されるもの等があるが、多くの企業の規程等では、どの承継方法によるのか意識されてい
ないのが通常である。
6.5.4
「相当の対価」の問題
(1)従業者等は、職務発明について、使用者より「相当の対価の支払いを受ける権利を有
する」(特許法35条3項)。
この「相当の対価」については、かつては、
「対価の額は、その発明により使用者等が受け
るべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなけ
ればならない。」とされており、対価の額について紛争となった場合には、終局的には裁判所
が「相当」性を判断して「対価の額」を定めることとなったのである(最高裁平成15年4
月22日判決など)。
改正特許法35条では、上記制度の問題点を考慮し、
「相当の対価」は、使用者等と従業者
等の間の「自主的な取決め」に委ねられることを原則としつつ、その要件として、
「対価を決
定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況」、「策定
された当該基準の開示の状況」、「対価の額の策定について行われる従業者等からの意見の聴
取の状況」という三要件が新設された。
この三要件が満たされる場合は、発明規程等に定められた対価の額が「相当」であること
となるが、三要件が満たされない場合は、仮に発明規程等により対価決定基準が定められて
- 87 -
第6章 組織的連携における法的問題
いたとしても、裁判所が「相当の対価」の額を定めることになるのである。
(2)「基準策定の協議」
通常大学における職務発明の対価決定基準は、「発明規程」に記載されることになるため、
上記要件に照らして考えれば、
「発明規程」の制定にあたっては、職員、研究者らに対して当
該基準の説明がなされるとともに、意見や質問を述べる機会が与えられる必要がある。
このような協議を経て策定された基準であれば、策定後に採用された職員、研究者との間
でも、同意を得れば上記要件を満たしているということができる。
(3)「基準の開示」
対価を決定するための基準である「発明規程」が、従業者等が見ようと思えばいつでも見
られる状態にすることを意味する。
大学においては、規程類に関してはインターネットのホームページ上で公開されることも
多い。
(4)「意見聴取」
具体的な職務発明があった場合に、上記「発明規程」に定められた決定基準に基づいて「対
価の額」が定められる場合に、当該発明を行った従業者等から意見の聴取の機会を持たなけ
ればならない。
6.5.5
まとめ
大学における「職務発明」の問題は、近年大きく改正されたところでもあり、また、大学
における発明、特許に関して極めて重要な一側面であるため、上記の通り整理した。
大学が企業と組織的連携を進めるにあたって、現在、大学側に属する研究者等において、
発明、特許にまつわる法的権利に対する認識に差があることは既に述べたとおりであるが、
その認識の差が如実に反映するのが上記職務発明の問題であると言える。
上記改正特許法も含め、職務発明の問題については判例の蓄積を待たざるを得ない部分も
あるが、少なくとも法の定める要件を可能なかぎり充足するとともに、そのような取り組み
について、職員、研究者らに周知させることが必要であると考えられる。
6.6
学生の扱いに関する法的問題
6.6.1
学生の地位
大学における学生の地位に関しては説が分かれ、未だ確立した見解がないと言えるが、実
態に鑑みれば、研究の補助者というよりも施設利用者として把握する他ないと思われる。
少なくとも、学生は大学の職員ではないため就業規則その他の規程にも服することはない。
前述した発明規程や共同研究規程等も、学生に対する法的効力はない。
学生は、施設の利用に関して、施設を提供する大学側の指示に従う義務があるに過ぎない
のである。
- 88 -
第6章 組織的連携における法的問題
従って、前述のような発明の届出義務や秘密保持義務等を学生に課するためには、学生と
の間で個別の契約を締結するしかない。
6.6.2
学生の発明
前記の通り、職務発明とは、従業員がその職務に関連して行った発明のことであるから、
学生の行った発明は「職務発明」にはあたらない。
例えば、学生が教授などの研究者と共同して行った発明についても、教授の持分は職務発
明として大学に帰属するが、学生の持分は学生に帰属するのである。
従って、大学と企業との共同研究において、学生が大学側から参加する場合には、それに
より生じた発明が、大学と企業と学生の共有となることもあり得るのである。
そこで、大学においては、学生との間で個別の契約を行い、特許を受ける権利等の譲渡を
受ける必要がある。また、特許権等が学生と大学との共有となる場合には、実施許諾の可否
や実施料の支払方法、卒業後の連絡先の通知義務について定めた契約を締結しなければなら
ない。
6.6.3
組織的連携に関与する学生の取扱い
組織的連携の場合、学生の取扱いが、大学のみならず相手先企業にも影響を及ぼすことと
なる。
前述の通り、学生は大学の規程等に拘束されないため、発明等について大学が企業に譲渡
しようとしても、学生が同意しない限り、学生の持分を移転できないことも予想されるので
ある。また、学生は規程上の秘密保持義務も負わないことから、学生の参加により相手先企
業に損害を与える可能性がある。
そこで、組織的連携に学生を参加させる場合、学生の行為により相手先企業に損害を与え
ることのないよう慎重な対応を行わなければならないのである。
具体的には、組織的連携に参加する学生については、予め、生じた発明の取扱いや秘密保
持義務について明確に定めた契約書や承諾書を作成しておくことが望ましい。
6.7
まとめ
以上のように組織的連携に関する法的問題について述べてきたが、本文で述べた課題につ
いて、現時点で十分な解決策を示すことはできなかった。
また、上記述べた法的問題は現在のものであり、今後の組織的連携の進展に伴い、法的に
様々な問題が生じることになるはずである。そのような新しい問題の解決にあたっては事例
の蓄積を待つほかない。
(以上)
- 89 -
おわりに
この報告書が公開される頃には、国立大学法人も 1 年を経過し、産学官連携および大学
知的財産本部活動が各大学の個性や特徴を出しながら軌道に乗りはじめているものと思わ
れる。ここ数年の産学官連携活動に関する政府の各種施策や大学のさまざまな取組みが集
大成され、いよいよ実践の本番を迎えることになる。そのような中で、大学と企業が、組
織と組織の関係として戦略的に連携していく形態が増えてきており、今後ますます重要に
なってくるものと考えられる。本報告書は、文部科学省「21世紀型産学官連携手法に係
るモデルプログラム事業」の一つとして「大学と企業の組織的連携の態様とあり方」に関
する研究テーマを大阪大学が受託し、学内外の有識者の協力を得て調査研究した結果を取
りまとめたものである。
大学と企業の組織的連携については、欧米にもあまり例がなく、わが国でもまだ具体事
例は少ないため、研究の進め方としては、先行的事例の詳細調査や産学官連携に積極的な
大学、企業等へのアンケート調査を行い、それらの調査結果を参考に学内外の有識者によ
る委員会審議を行うという手法により調査研究を進めた。
しかしながら、調査研究を進めるにつれ、大学と企業が組織的に連携することについて
は、多くのメリットがあり今後の期待が大きいと思われると同時に、その推進に当たって
は解決すべき課題や問題点も多岐にわたることが浮き彫りになってきた。そのため、本報
告書では、そのあるべき姿を明確化するまでには至っておらず、組織的連携の現状分析と
その意義を考察した上で、考え得る多くの連携形態を分類、整理し、多くの課題について
の検討指針を取りまとめるという形を採った。
今後、我が国の産学間において様々な組織的連携が企画、推進されるものと予測され、
それらの実績を積み重ねることにより具体的なあるべき姿が見えてくるのではないかと思
われる。本報告書で紹介し、提起した様々な事柄が、産学官連携活動を推進する立場にあ
る大学関係者、産業界そして官界の方々に浸透し、できるだけ多くの方々がこれらの問題
点を共有しながら、新しい解決策を模索する動きが本格化することを期待し、本書がその
一助になればと願っている。
平成17年3月
副委員長
村上
孝三
i
参考資料
●大学向けアンケート調査票
●企業向けアンケート調査票
●大学へのアンケート調査の集計結果
●企業へのアンケート調査の集計結果
全国 国公私立大学 産学官連携担当部・課長
様
「産学官の組織的連携の態様とあり方」に関するアンケート調査票
大阪大学知的財産本部
アンケート趣旨
科学技術立国を標榜し、わが国の持続的発展を図るためには単に科学技術の進展のみ
ならず、真の産学官連携のさらなる推進が必要とされています。このような状況の中、
国立大学法人化と前後して公私立大学も含め、産業界との連携をより効果的に進める為
の窓口を設置、あるいは企業と研究推進の運営組織を設置するなどの改革により、大学
と産業界の組織的連携の件数が増加しつつあります。
大阪大学では、文部科学省 21 世紀型産学官連携手法の構築に係るモデルプログラム
により、これらの組織的連携の実態及びそのメリット・デメリット等を合わせて調査す
ることにより、組織的連携に対する大学ならびに産業界のご意見を取りまとめたいと考
えております。お忙しいところ恐れ入りますがこのような状況に鑑み何卒ご協力いただ
きますようお願いいたします。
※
本アンケートでの組織的連携(特定企業との組織的な連携:いわゆる包括的連携)とは、大
学(部局も含まれます)と企業(複数企業も含まれます)が何らかの協定や契約の締結を通
じ、組織的活動により研究・教育等で連携を図る形態を指します。つまり、大学の研究室と
企業の一組織が 1 対 1 で行う従来形式の共同研究・受託研究(以下 従来型)は除きます。
1
貴学の組織的連携の取り組みならびに産学連携経費についてお伺いいたします。
1.貴学の予算規模についてお教えください。
1.大学全体の予算規模
(
)百万円
1−1.うち病院関連の予算を除く大学全体の予算規模(
)百万円
※ 病院がない大学は同額としてください。
1−2.うち研究費の金額
(
)百万円
1−3.うち産学連携による研究費の金額
(
)百万円
※
各予算の実績分は平成15年度現在のものを記載してください。
※
国等の競争資金で企業が受託し、この一部を大学に再委託するなど、国からの研究資金等も
含めて下さい。
2.特定企業との組織的連携を既に実施されていますか?
あてはまるものひとつに○印をお付けください。
1.はい
2.いいえ
1.を選ばれた方は引き続き次の設問へ
2.を選ばれた方は設問7.へ
3.現在の組織的連携の実施状況、実施件数についてお教えください。
1.現在すでに実施中の組織的連携の実施件数
2.現在、交渉中の件数
(
2
(
)件
)件
貴大学の組織的連携の取組について
4.貴大学が平成14年度以降に協定や契約の締結を通じ、組織的に実施している連携
の取組について可能な限りを下欄に記入ねがいます。なお、連携の取組が複数ある
場合は、1件につき本様式に1枚ずつ記入願います。また、関連するパンフレット
や記事等があれば、その資料の添付もお願いします。
取組の概要
※取組の概要については、
・連携のための契約や交渉のための大学の窓口はどこか。
・連携のための組織作りや協定書などの契約方法(全体の契約や協定
の締結の有無、個々の共同研究・受託研究毎の契約の有無など)
・連携内容の概要
(人材交流やインターンシップ、大学での教育のために企業から講師の派遣
などを含む場合は、その内容も併せて記入。)
・連携のきっかけから合意までの手順
等を中心に具体的に記入願います。
複数の共同研究 ①共同研究数
からなる場合
②分野
□ 理工系
□ 医歯薬系
□ 人文社会科学系
□ その他(
件
③研究テーマの設定方法
□ 主として企業からの提案に大学が対応
□ 主として大学からの提案に企業が対応
□ 両者がテーマ探索のため、会合等による検討を経て決定
□ 学内公募
□ その他(
連携の相手先
)
)
※連携の相手先の企業数等について記入して下さい。
※相手先の名称は記入できる場合は企業名をご記入ください。企業名を
ご記入できない場合には可能な限り分野を記入してください。
(例:IT系企業1社、バイオ系企業2社+3大学 等)
3
協定や契約等の
年度
連携の金額
※直接経費の
総額
□ 平成14年度 / □ 平成15年度 / □ 平成16年度
※該当する年度にチェックを付けて下さい。
□
□
□
□
1,000万円未満
1,000万円∼5,000万円未満
5,000万円∼1億円未満
1億円以上
進捗状況や研究 ※例:双方の関係者により組織されるプロジェクト管理チームによる規定
の評価など連携
や管理の運営方法を記入して下さい。
の管理方法
連携の成果・
費用対効果
※連携の成果として上欄の実績以外の成果(人材養成の観点や企業側の
売り上げ等の実績等)について記入して下さい。
※上欄の特に「①連携を実施するための費用」負担に対する効果につい
ても記入して下さい。
その他
※取組について工夫、若しくは留意した点、あるいは反省点などについ
て記入して下さい。
(連携の取り組みが複数ある場合、適宜コピーしてご記入ください)
4
5.組織的連携による取り組みを従来型と比較した際の制度や成果取り扱いの違いについてお
教えください。
6.その他特徴的な取り組みについてご自由にご記入下さい。
組織的連携のあり方についてのお考えをお教えください。
7.組織的連携という形態について
あてはまるものひとつに〇印をお付けください。
1.積極的に推進すべき
2.必要に応じて推進する
3.推進すべきではない
4.その他(
)
5
8.大学が特定の企業と強い関係を持つことについてのお考えについて以下からお選びくだ
さい。
あてはまるものすべてに○印をお付けください。
1.産学連携における死の谷克服のため、必要である
2.他企業に対する排他的障壁がなければかまわない
3.大学の研究成果の実施を進めるためなのでかまわない
4.説明責任を果たせば問題ない
5.他企業に対して排他的になるので問題である
6.大学は特定の企業と強い関係を持つべきではない
7.大学における研究の主体性が確保されていればかまわない
8.大学の研究が特定企業に影響されるという課題がある
9.その他 (
)
9.組織的連携における意義、可能性等(従来型と比較して、特に秀でている点)について
以下からお選びください。
あてはまるものすべてに○印をお付けください。
1.大学(部局)トップダウンの研究戦略策定と実践
2.研究進捗の管理
3.他大学にさきがけた企業資金・ニーズの入手
4.基礎研究成果の移転
5.応用研究成果の移転
6.企業の期待どおりの成果創出
7.研究成果創出の期間短縮
8.企業のニーズ(研究内容)の把握
9.社会貢献・産学連携活動の一環
10.研究資金の獲得
11.運営資金の獲得
12.知的財産権による実施料等収入
13.MOT 等人材の育成
14.新たな基礎研究題材の取得
15.企業と長期的・安定的な関係を構築できる。
16.学内の事務の効率化が図れる
17.各共同研究間の相乗効果がある
18.その他(
)
6
10.組織的連携に対する期待、要望事項を自由に記入下さい。
11.組織的連携に対する課題、デメリット等を自由に記入下さい。
最後にご回答者についてお伺いします。
代表者名
大学名
TEL
FAX
@
Eメール
部課・
御回答者名
役職等
まことにありがとうございました。ご記入感謝申し上げます。
7
産学連携ご担当様
「産学官の組織的連携の態様とあり方」に関するアンケート調査票
大阪大学知的財産本部
アンケート趣旨
科学技術立国を標榜し、わが国の持続的発展を図るためには単に科学技術の進展のみ
ならず、真の産学官連携のさらなる推進が必要とされています。このような状況の中、
国立大学法人化と前後して公私立大学も含め、産業界との連携をより効果的に進める為
の窓口を設置、あるいは企業と研究推進の運営組織を設置するなどの改革により、大学
と産業界の組織的連携の件数が増加しつつあります。
大阪大学では、文部科学省 21 世紀型産学官連携手法の構築に係るモデルプログラム
により、これらの組織的連携の実態及びそのメリット・デメリット等を合わせて調査す
ることにより、組織的連携に対する大学ならびに産業界のご意見を取りまとめたいと考
えております。お忙しいところ恐れ入りますがこのような状況に鑑み何卒ご協力いただ
きますようお願いいたします。
※
本アンケートでの組織的連携(特定企業との組織的な連携:いわゆる包括的連携)とは、大
学(部局も含まれます)と企業(複数企業も含まれます)が何らかの協定や契約の締結を通
じ、組織的活動により研究・教育等で連携を図る形態を指します。つまり、大学の研究室と
企業の一組織が 1 対 1 で行う従来形式の共同研究・受託研究(以下 従来型)は除きます。
1
御社の産学連携(組織的連携、従来型を含みます)の取り組みついてお伺いいたします。
1.これまで、大学と産学連携をされたことはありますか?
あてはまるものひとつに○印をお付けください。
1.あり
2.なし
1.を選ばれた方は引き続き次の設問へ
2.を選ばれた方は設問7.へ
2.産学連携の内容は以下のどれに該当しましたか?
あてはまるものすべてに○印をお付けください。
1.共同研究
2.大学への委託研究
3.奨学寄附金
4.その他(具体的に
)
3.産学連携の件数は、年間あたり何件程度でしたか?
あてはまるものひとつに○印をお付けください。
1.1−10件
4.101−200件
2.11−50件
3.51−100件
5.201件以上
4.産学連携の金額は、1件あたり平均いくら程度でしたか?
あてはまるものひとつに○印をお付けください。
1.300万円未満
2.300万円∼500万円未満
3.500万円∼800万円未満
4.800万円∼1000万円未満
5.1,000万円∼1,500万円未満
6.1,500万円∼2,000万円未満
7.2,000万円∼3,000万円未満
8.3,000万円∼5,000万円未満
9.5,000万円∼1億円未満
10.1億円以上
2
5.産学連携の年間の総額はいくら位でしたか?
あてはまるものひとつに○印をお付けください。
1.500万円未満
2.500万円∼1,000万円未満
3.1,000万円∼5,000万円未満
4.5,000万円∼1億円未満
5.1億円∼5億円未満
6.5億円以上
6.これまでの産学連携をどのように総合評価されますか?
あてはまるものひとつに○印をお付けください。
1.期待以上の効果があった
2.まずまずの成果、期待通り
3.期待ほどではないがある程度の効果はあった
4.ほとんど効果が得られなかった
5.その他( 具体的に
)
御社の組織的連携の取り組みついてお伺いいたします。
7.今後、組織的連携以外も含めて、産学連携を強化される計画をお持ちですか?
あてはまるものひとつに○印をお付けください。
1.はい
2.いいえ
8.その際、組織的連携について関心がおありですか?
あてはまるものひとつに○印をお付けください。
1.現在、推進中である
2.関心があり、計画中であるか推進しようとしている
3.関心があるが計画はない
4.関心はない
理由を具体的にお聞かせください
(
)
3
9.組織的連携における意義、可能性等(従来型と比較して、特に秀でている点)について
以下からお選びください。
あてはまるものすべてに○印をお付けください。
1.トップダウンの研究戦略策定と実践
2.研究進捗の管理
3.他社にさきがけた研究成果早期入手
4.基礎研究成果の取得
5.応用研究成果の取得
6.企業の期待どおりの成果取得
7.研究成果創出の期間短縮
8.既存事業に関する研究成果の取得
9.次世代新規事業に繋がる研究成果の取得
10.知的財産の創出・管理
11.学術的成果の入手
12.社外研究組織的な位置付け
13.MOT、プロジェクトマネージャ等人材の育成
14.他社と比較した優位性(具体的に
)
15.大学と長期的・安定的な関係を構築できる
16.社内の事務の効率化が図れる
17.各共同研究間の相乗効果がある
18.その他(
)
10.大学との組織的連携について、実施中の場合はその形態についてのお考えを、実施さ
れていない場合は今後の形態についてのお考えをお聞かせ下さい。
4
11.組織的連携に対する期待、要望事項など自由にご記入下さい。
12.組織的連携に対する課題、デメリットなど自由にご記入下さい。
13.大学に対する期待、要望事項など自由にご記入下さい。
5
最後に企業プロフィールについてお伺いします。
代表者名
御社名
御住所
〒
−
TEL
FAX
@
Eメール
URL:
http://
資本金
売上高
業種(*)
従業員数
部署・
御回答者名
役職等
(*)
水産・農林、鉱業、建設、食品、繊維、パルプ・紙、化学、製薬、石油・石炭、ゴム、窯業、鉄鋼、非鉄
金属、金属、機械、電気機器、輸送用機器、精密機器、陸海空運、情報・通信、電力・ガス、その他製造
まことにありがとうございました。ご記入感謝申し上げます。
6
大学へのアンケート調査の集計結果
Ⅰ. 組織的連携の取り組みならびに産学連携経費について
1.大学の予算規模について
n=66大学(未記入ありのため)
全体予算(降順)
300,000
250,000
百万円
200,000
150,000
100,000
50,000
0
1
5
9
13
17
21
25
29
33
37
41
45
49
53
57
61
65
49
53
57
61
65
全体予算(病院関連を除く)(降順)
250,000
百万円
200,000
150,000
100,000
50,000
0
1
5
9
13
17
21
25
29
1
33
37
41
45
研究費予算(降順)
80,000
70,000
60,000
百万円
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
1
5
9
13
17
21
25
29
33
37
41
45
49
53
57
61
65
45
49
53
57
61
65
産学連携研究費(降順)
35,000
30,000
百万円
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
1
5
9
13
17
21
25
29
2
33
37
41
11
30
20
6
比率
3
産学連携研究費/研究費予算
17
11
4
1
1
次の級
比率
0
0
0
次の級
0
1.00
0
1.00
0
3
2
1
0
0.90
0
0.90
0
0.90
0
2
0.80
0
0.70
次の級
40
1.00
49
0.80
0.60
0.50
4
0.80
産学連携研究費/全体予算(病院関連を除く)
0.70
0
0.50
0.40
0.30
0.20
0
0.70
0
0.40
比率
0.60
2
0.60
6
4
0.50
4
4
0.30
0
0.20
0.10
0.00
大学数
5
0.40
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
8
0.30
10
0.20
50
0.10
60
0.10
0.00
大学数
30
25
20
15
10
5
0
0.00
大学数
研究費/全体予算(病院関連を除く)
24
16
2.特定企業との組織的連携の実施有無について
n=71大学
33
あり
43
なし
0
10
20
30
40
50
大学
ありの大学は引き続き回答、なしの大学は設問7.へ
3.現在の組織的連携の実施状況、実施件数について
n=28大学
9
5
3
実施件数
4
0
10件以上
0
10
2
9
1
8
0
7
6
1
5
2
4
2
3
3
2
1
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
0
大学数
現在の実施件数
現在、交渉中の件数
6
4
4
3
3
2
1
0
0
次の級
4
3
2
1
0
0
1
10
0
0
1
9
1
1
8
2
7
大学数
5
6
6
5
7
交渉中の件数
組織的連携の取組状況について
4.平成14年度以降に協定や契約の締結を通じ、組織的に実施している連携の取組につ
いて。(連携の取組が複数ある場合は、1件につき本様式に1枚ずつ記入、関連するパン
フレットや記事等があれば、その資料を添付)
25大学より総数80件の組織的連携の研究数の回答があった。
総数のカウントが可能な問の結果を以下に示す。
共同研究の分野について
34
理工系
11
医歯薬系
7
人文社会科学系
5
その他
0
5
10
15
20
総数
5
25
30
35
40
研究テーマの設定方法
15
主として企業からの提案
6
主として大学からの提案
29
両者が検討を経て決定
1
学内公募
0
その他
0
5
10
15
20
25
30
総数
協定や契約等の年度
10
H14年度
22
H15年度
38
H16年度
0
5
10
15
20
総数
6
25
30
35
40
35
連携の金額
*直接経費の総額
21
1,000万円未満
12
1,000∼5,000万円未満
0
5,000∼1億円未満
4
1億円以上
0
5
10
15
20
総数
7.組織的連携という形態について
n=71大学
積極的に推進すべき
14
必要に応じて推進する
52
推進すべきではない
0
その他
5
0
10
20
7
30
大学
40
50
60
25
8.大学が特定の企業と強い関係を持つことについて
n=71大学(複数回答)
大学における研究の主体性が
確保されていればかまわない
47
他企業に対する排他的障壁が
なければかまわない
53
34
説明責任を果たせば問題ない
大学の研究成果の実施を
進めるためなのでかまわない
26
産学連携における死の谷
克服のため、必要である
16
大学の研究が特定企業に
影響されるという課題がある
14
大学は特定の企業と強い関係を
持つべきではない
15
他企業に対して排他的になるので
問題である
6
10
その他
0
10
8
20
30
大学
40
50
60
9.組織的連携における意義、可能性等(従来型と比較して、特に秀でている点)につい
て
n=71大学(複数回答)
24
大学(部局)トップダウンの研究戦略策定と実践
12
研究進捗の管理
29
他大学にさきがけた企業資金・ニーズの入手
25
基礎研究成果の移転
27
応用研究成果の移転
10
企業の期待どおりの成果創出
17
研究成果創出の期間短縮
40
企業のニーズ(研究内容)の把握
50
社会貢献・産学連携活動の一環
55
研究資金の獲得
22
運営資金の獲得
25
知的財産権による実施料等収入
14
MOT等人材の育成
28
新たな基礎研究題材の取得
41
企業と長期的・安定的な関係を構築できる。
3
学内の事務の効率化が図れる
16
各共同研究間の相乗効果がある
4
その他
0
注:
10
20
30
総数
40
50
60
本調査では統計的に処理を行ったものを基本的に公表することでアンケートを行っ
たため、文章回答欄など個別の情報に関する部分は省略しているが、文章回答における企
業・大学の意識を可能な限り本文にて反映している。
9
企業へのアンケート調査の集計結果
Ⅰ.アンケート回答企業の業種分布について
n=78社(複数回答)
25
21
20
16
社
15
10
8
5
5
1
0
3
0
3
0
0
3
4
0
20
40
60
80
100
社
ありの企業は引き続き回答、なしの企業は設問7.へ
1
1
2
0
そ の他 製
造
電 力 ・ガ
ス
情 報 ・通
信
陸海空運
0
精密機器
78
輸送用機
器
電気機器
n=78社
機械
金属
非鉄金属
鉄鋼
1.これまでの、大学との産学連携について
なし
3
0
Ⅱ. 産学連携(組織的連携、従来型を含みます)の取り組みついて
あり
3
1
窯業
ゴム
石 油 ・石
炭
製薬
化学
パ ルプ ・
紙
繊維
食品
建設
鉱業
水 産 ・農
林
0
0
4
2.産学連携の該当する内容について
n=78社(複数回答)
共同研究
71
奨学寄附金
62
大学への委託研究
60
その他
9
0
10
20
30
40
総数
50
60
70
3.産学連携の年間当たり件数について
n=78社
35
1−10件
22
11−50件
9
51−100件
8
101−200件
4
201件以上
0
5
10
15
2
20
社
25
30
35
40
80
4.産学連携の1件あたりの平均金額について
n=76社(未記入ありのため)
55
300万円未満 13
300万円∼500万円未満
500万円∼800万円未満 1
800万円∼1000万円未満
1
1,000万円∼1,500万円未満
2
1,500万円∼2,000万円未満
2
1,500万円∼2,000万円未満
1
3,000万円∼5,000万円未満
1
5,000万円∼1億円未満 0
1億円以上
0
0
10
20
30
社
40
50
60
5.産学連携の年間の総額について
n=72社(未記入ありのため)
10
500万円未満
13
500万円∼1,000万円未満
22
1,000万円∼5,000万円未満
5
5,000万円∼1億円未満
18
1億円∼5億円未満
4
5億円以上
0
5
10
15
社
3
20
25
6.これまでの産学連携に対する総合評価について
n=78社
0
期待以上の効果があった
47
まずまずの成果、期待通り
期待ほどではないがある程度
の効果はあった
26
ほとんど効果が得られなかっ
た
4
1
その他
0
10
20
30
40
50
社
7.今後の組織的連携以外も含めた産学連携の強化計画の有無について
n=78社
あり
72
なし
6
0
20
40
60
80
社
4
8.その際の組織的連携について関心度合いについて
n=74社(未記入ありのため)
26
現在、推進中である
関心があり、計画中であるか推進しよう
としている
16
26
関心があるが計画はない
6
関心はない
0
5
10 15 20 25 30
社
9.組織的連携における意義、可能性等(従来型と比較して、特に秀でている点)につい
て
n=78社(複数回答)
トップダウンの研究戦略策定と実践 23
研究進捗の管理
15
他社にさきがけた研究成果早期入手
32
基礎研究成果の取得
27
応用研究成果の取得 19
企業の期待どおりの成果取得
11
研究成果創出の期間短縮
32
既存事業に関する研究成果の取得
7
次世代新規事業に繋がる研究成果の取得
43
知的財産の創出・管理
16
学術的成果の入手
12
社外研究組織的な位置付け
16
MOT、プロジェクトマネージャ等人材の育成
10
他社と比較した優位性(具体的に
2
大学と長期的・安定的な関係を構築できる
37
社内の事務の効率化が図れる
4
各共同研究間の相乗効果がある
17
.その他
2
0
5
10
15
20
25
総数
5
30
35
40
45
50
注:
本調査では統計的に処理を行ったものを基本的に公表することでアンケートを行っ
たため、文章回答欄など個別の情報に関する部分は省略しているが、文章回答における企
業・大学の意識を可能な限り本文にて反映している。
(以上)
6
「21 世紀型産学官連携手法に係るモデルプログラム」報
発 行 年 月
平成17年3月
編集・発行
大阪大学
告
書
知的財産本部
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2番1号
電 話 06(6879)4861
FAX
06(6879)4205
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