voiceMagazine THE MAGAZINE OF THE INTERNATIONAL COOPERATIVE AND MUTUAL INSURANCE FEDERATION フィリピンを襲った超大型台風: 被災者の生活再建を 支援する相互扶助の 保険組織 スイス国民の安全・安心を守る スイスモビリア社CEO マルクス・ホングラー氏のプロフィール 拡大傾向が続く世界保険市場における協同組合/相互扶助の 保険組織のシェア ロンドンで開催される会議に注目テーマは災害リスクの軽減 洪水被害: 水が引いた後に残された課題 ISSUE 79, 2014年5月 voiceMagazine 6 ISSUE 79/MAY 2014 編集および製作 編集責任者:リズ・グリーン 副編集責任者:アリソン・グラント デザイン: ギャレス・ケンドリック 28 寄稿 アンドリュー・ビービ, ショーン・ターバック、 リチャード・ゴードン、 ジョン・ヘイドン、 ロビン・スウィンデル 2 翻訳 フランス語 & スペイン語 リーガル・アンド・テクニカル・トラ ン スレーションズ・リミティッドアリ ソン・グラント 日本語 リーガル・アンド・テクニカル・トラ ン スレーショ ンズ・リミティッド, 塚本直広 寄稿 ICMIFでは会員団体ならびに協賛会員の 皆 さまからの寄稿をお待ちいたしてい ます。 寄稿あるいは寄稿に関するお問 い合わせに ついては次の担当者までご ん連絡くださ い。副編集者アリソン・ グラント;ALISON@ ICMIF.ORG 寄稿される記事は時事の問題として以 下が 要件として求められます。会員団 体間の 連帯事業に関わるものであるこ と、協同 組合/相互扶助の組織の優れ た実践例、規 制、組織合併・統合、業 界の傾向あるいは 課題についての報告 やコメント、業界の会 議やイベントの 開催告知に関わるものであ ること。 非会員団体からの寄稿については、協 同組 合/相互扶助に焦点を当てたもの であるかを 条件に受け付けます。 記事の編集権限についてはICMIFが全て 有す るものとします。 購読の受付 +44 161 929 5163 [email protected] 8 10 巻頭言 1 合言葉は「レジリエンス‐強靭性」 指導力 2 何百万人もの人々を支えるマイクロファイナンス: フィリピン貧困層の生活を変えたアリストトゥル・アリップ氏のビジョン 6 スイス国民の安全・安心を守る: モビリア社の将来に狙いを定めるマルクス・ホングラー氏 10 洪水被害: 洪水リスクの責任はだれが負うべきか 12 相互扶助の理念に基づいた大学向け保険 有益な情報の共有 14 組合員との結び付き強化: 16 拡大傾向が続く: 協同組合/相互扶助の組織の優れた実践例から学ぶ 世界保険市場における協同組合/相互扶助の保険組織のシェア Copyright © 2014 ICMIF. 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Voice is published by the International Cooperative and Mutual Insurance Federation (ICMIF), Denzell House, Dunham Road, Bowdon, Cheshire, WA14 4QE, UK. cover background image © tomas petruskevicius | dreamstime.com www.icmif.org/voice 影響力 18 ICMIFがG20各国に組合員(契約者)が所有する形の保険事業設立を後押しするよう要請 19 災害リスク軽減に関する会議が開かれるロンドンに世界が注目 20 世界各地の協同組合運動が2年ぶりにケベックシティーに集合 人材交流の促進 21 タカフルの成長とイスラム社会における相互扶助の理念の強化 22 マイアミで不測事態を予測する 24 デジャルダン・グループがステートファーム保険の国内事業を買収 25 規制監督問題を扱うフォーラムが発足 26 ICMIFに新しく加盟した団体のご紹介 28 ICMIF会員団体間の交流や共同事業の現状 協賛会員の寄稿記事 30 ソフトウェアにおける種の起源:ソフトウェアの進化論 32 軟化する再保険料率と再保険市場の現状 巻頭言 合言葉は 「レジリエンス‐ 強靭性」 この世の中はリスクであふれていることを、そして、気候変動の影響がリスクの深 グラス氏は保険損害額が史上最高となった2011年、保険業界も再保険業界も十分に 刻化をもたらしているらしいことを、わたしたち保険業界の人間は嫌というほど知って 対応できたものの、将来のリスクを引き受けるための資本、カタストロフィー・モデリン います。 グに必要な科学、国の規制機関の活動にリスク軽減を組み入れる政策の3つが、今後 の重要課題になるのは間違いなく、スマートさ (賢さ、鋭さ)を持って取り組むことが求 リスク軽減に向けた取り組みは、保険業界に直接課せられた義務だといえます。 しか められると語りました。 し、政治家やオピニオンリーダーは、その重要性を必ずしも理解していないのではない かと考えることがあります。世界の銀行システムにすべての目が注がれる 一方で、保険業界が正しく機能しグローバル経済の強化をもたらしている事実は、当然 のこととして軽視されているように思えます。 ICMIFでも、機会を逃がさないスマートさが求められています。 リスク軽減や強靭性 に関する国際的討論で影響力を行使する機会がそこにある今、協同組合/相互扶助の 保険組織の意見をしっかりと伝えていくことが求められています。ICMIFには、優れた 実績と何十年にわたり培ってきた豊富な経験があります。ためらわずに世界に向かって しかし、保険の重要性が理解されつつあることを示す証拠をだんだんと目にするよ 伝えていきます。 うにもなりました。わたしは、この数週間、 「災害リスクの軽減」や「レジリエンス‐強靭 性」というキーワードに焦点を当てたいくつかの会合に出席しました。 ICMIF事務局長 今年(2014年)は、これらキーワードをテーマとした会議が複数開催されます。その一 ショーン・ターバック氏 つ、6月末から7月初めにかけてロンドンで開催される世界銀行主催「第3回リスク理解 ネットワークフォーラム」には、ICMIFも大きく関与しており、例えば、フィリピンの会員 団体CARD MBA社CEOのアリストトゥル・アリップ氏の講演も予定されています(2ペ ージにアリップ氏の紹介記事)。アリップ氏は、2013年の11月の超大型台風で甚大な 被害を受けたフィリピンの体験と、国内マイクロインシュランス組織とともに被災者を 支援した相互扶助の保険組織としての経験を語ってくださることでしょう。それは、まさ に強靭性を示すケーススタディーとなることでしょう。 世銀フォーラムの準備会合では、二人の出席者の発言が心に残りました。その一 人、災害リスク軽減に関する国連事務総長特別代表のマルガレータ・ウォルストロム氏 は、2015年に開催される「第3回国連防災世界会議」において、国際社会による初の 防災取り組み指針である「兵庫行動枠組2005-2015」の実施状況をとりまとめる責 任者を務めています。ウォルストロム氏は、財源確保がますます難しくなっているなか で、各国政府は防災対策より災害発生後の対応に重きを置きがちになっていると指摘 し、今後、災害のコストが官から民へ大きくシフトすると予測しました。つまり、増大する 自然災害リスクへの対策において、保険が主役になるということです。 もう一人は、国際的保険仲介サービス企業ウィリスグループ(グループのウィリス再 保険はICMIFの協賛会員)の資本・科学・政策部門CEO、ローワン・ダグラス氏です。ダ ICMIF Voice 79 | 2014年5月 1 指導力 何百万人もの人々を支える マイクロファイナンス: フィリピン貧困層の生活を変えた アリストトゥル・アリップ氏のビジョン 2 指導力 2013年11月に、超大型台風がフィリピンを襲ったとき、同国CARDグループの代表であるアリップ 氏は、ICMIF総会に出席するため南アフリカのケープタウンに出張中でした。すぐに南アフリカを 発ち、長いフライトを終えてフィリピンに降り立つやいなや、アリップ氏は被災地で支援活動の 陣頭指揮を執り、保険金の支払いを速やかに行いました。Voiceが当時のお話を伺いました。 この超大型台風は、フィリピンの地理的位置が災いした悲劇で した。風光明媚な島国フィリピンは台風などの自然災害によく見舞 われますが、2013年11月8日に国を襲った台風は、今までの台 風とは全く異なりました。 「最悪でした」というのがアリップ氏の言 葉です。 「史上、最も悲惨な爪痕を残した台風でした。」 この台風の国際名はハイエン台風(日本名は台風30号)です が、フィリピンではヨランダ台風と呼ばれています。時速300キロ 超(秒速83メートル)の強い勢力で上陸したヨランダ台風は、海水 を持ち上げて高さを増し、ところによっては5メートルから6メート ルの高潮となって人々を襲いました。フィリピン全土、とくにサマ ル州とレイテ州に壊滅的な被害をもたらし、6,000人以上が犠牲 となりました。その多くは海沿いに住む人々で、高潮に足元をすく われ命を落としました。 アリップ氏は当時の状況を「多くの人々が家や生活を失い、大 きな打撃を受けました。食糧が不足し、電気やコミュニケーション手 認められた法人形態の略で、CARD MBA社は、この形態を利用し ヨランダ台風の被災者支援に 全力を尽くすCARD MBA社 て設立された相互扶助の保険組織です。 段も寸断されました」と語りました。被災地だけで29万人の会員を抱 えるCARDは、迅速な対応を迫られました。ICMIFケープタウン総会 女性ニーズへの対応 に出席中のアリップ氏は、スーツケースに荷物を詰める暇もなく、す ぐにケープタウンを発ち被災地に向かいました。 CARD MBA社 は、CARD銀行の融資に関連する単純な融資保 障保険や手ごろな生命保険を提供していますが、別組織の保険代理 CARDは、一人の人間のビジョンがいかに実現したかを具体的に CARDの支店や職員、会員らの 様子を確認し支援するために 被災地を訪れ、レイテ州オル モックにあるCARD MBA社の 支店に入ろうとするアリッ プ氏。 店を通じた損害保険の提供も行っています。損害保険商品には、ヨラ 表す実例です。1986年、 「貧困層が所有し運営する銀行を設立し ンダ台風のような自然災害発生時に被災者の生活再建支援を目的と たい」というビジョンを持っていたアリップ氏は、20代後半という若 したPAID(自然災害時支援プラン)があります。 さで農民を支援する小さなNGO「農業農村開発センター」 (CARD はこの頭文字)を立ち上げました。今やCARDは、各種事業を行う機 CARD MRIは、フィリピンの農村地域で重要な存在となっていま 関の一大ネットワーク「CARD MRI」 (MRIは相互補強機構の頭文 す。CARDはとくに女性のニーズに対応してきたこともあり、250万 字)に成長しました。アリップ氏は、大学で農業経済学を学んだ後、 人いる会員の99%以上は女性です。本部は首都マニラ市の南にあ 稲研究所に就職しました。 しかし、すぐに、コメの種子を検査し、発芽 るサンパブロ市にありますが、国内に1,400カ所の支店を有し、およ 米の葉の数を数える仕事に飽きたため、やりがいを求めて、社会開 そ8,000人の職員が働いています。 発活動を行う国内NGOに転職しました。 「そこで働くなかで、自分の NGOを立ち上げたいという希望が膨らんでいきました。土地を持っ このように基盤がしっかりしているCARDだからこそ、ヨランダ台 ていない農民をどのように助けたらよいか、その方法がだんだん見 風直撃後すぐに、被災者に対する支援を行うことができたのです。 えてきました。」 国内各地から被災地に駆けつけた職員の応援もあり、数日以内に、 食料と飲料など必要なものをまとめた生活支援パックを会員に配布 CARDの事業は、マイクロファイナンス(貧困層などを対象とした することができました。 小口金融)が依然として中心的位置を占めているものの、医療関連( 診療所と薬局)、人材研修、ビジネスアドバイス支援サービスなどに も進出しています。マイクロファイナンスを行うCARD銀行は融資と 貯蓄の両方を扱い、CARDの保険事業であるCARD MBA社と提携 して業務を行っています。MBAは、相互扶助組織というフィリピンで ICMIF Voice 79 | 2014年5月 3 指導力 うことを示すためです。MBAという組織は会員が所有する組織であ り、わたしたちは、それを守る必要があります。」 ヨランダ台風の被災者に対して数日内に支払った保険金の額は、 合わせて5,900万フィリピンペソ (130万USドル)に上りました。 そのうち600万ペソは犠牲者330人の生命保険金と融資保障保 険金で、CARD MBA 社が直接、処理しました。残りはCARDの保 険代理店経由で加入した外部の保険会社の住宅保険に関するもの で、10,000人以上の会員に保険金が支払われました。 ヨランダ台風以降、口コミによりCARDのマイクロインシュランス 加入者が増えていますが、これは、保険金支払いを迅速に行った効 果といえるでしょう。CARDにとっては、会員数が増えれば、それだ 台風で家を失った東サマル州 の会員を訪れるCARD MBA社の 職員。自宅再建のための 保険金はすぐに支払われた。. 農村コーディネーター CARD MBA 社は、被害の規模がきわめて甚大だったにもかか け組織の強化につながります。 相互扶助のネットワーク形成 わらず、被災者に対してすぐに保険金を支払いました。迅速な支払 いはCARDの得意とするもので、アリップ氏は、保険金支払いのシ アリップ氏のビジョンは今や国外にも広がっています。CARDの ステムを次のように説明しています。 「保険金の請求処理について 協力のもと、ベトナムやカンボジア、ラオス、インドネシア、 ミャンマー は、1・3・5という方針があります。これは、日数を表したもので、支払 の各国で、CARDの経験や技術的ノウハウをもとにした同様の事業 い請求があった場合、通常は1日以内に支払うことを目標としてい が立ち上げられました。香港ではすでに事業を行っており、タイとシ ます。1日以内にお支払いできるケースは全体の97%です。書類に ンガポールでも現在、事業の立ち上げに関わっています。マレーシア 不備がある場合は3日以内に支払うことを目標にしています。3日以 との協力の可能性もあります。CARDは、国内でマイクロインシュラ 内に支払うケースは全体の2%です。それでもなお問題が残る場合 ンスを扱う相互扶助組合(MBA)のネットワークRIMANSIの設立で は、5日以内に、保険金支払いを行うかどうか判断することを目標と も主導的役割を果たしました。 しています。」 アリップ氏が、のちにCARDとして花開くアイデアを持つ種を植 CARDの会員には最貧困層も多く含まれていますが、このような 迅速な対応によって事故や不運な出来事に遭った後、すぐに必要な 乾燥したもので、圧縮したものをココナッツ油という)を経営してい お金を受け取ることができます。これが可能なのは、一つにCARD た父親は社会派での人間で、地元労働者がお金のことで頼ってくる MBA 社とCARD銀行の連携があるからです。アリップ氏によると、 と、必ずできることをしていました。 しかしアリップ氏は、その時々の 支払いは、農村地域にある銀行支店を通じて行うので、どのような支 慈善的な行為ではなく、それを超えた、農村貧困をもたらす根本的原 払いでも簡単に行うことができるそうです。 因を取り除くことが必要だと考えました。 「父のように誰かの役に立 もう一つの要因として、農村コーディネーター制度を挙げること ができます。農村コーディネーターはCARD会員の互選で選ばれる 地元在住の女性で、保険金の請求があると、まず農村コーディネー ターが事前審査を行います。コーディネーターの任期は2年間で、無 給ですが、手当と経費が支払われます。農村コーディネーターの存在 は、CARD MBA社は会員が所有し会員の利益のために運営してい る本当の相互扶助の組織である、というメッセージを強化するのに 役立っています。 迅速な支払いは、保険金の不正請求を見逃すことにつながらない のでしょうか。その疑問に対してアリップ氏は次のように答えました。 「答えはノーです。実際、今まで不正請求はほとんどありません。農 右:セブ島で、食料や薬など 支援物資をまとめるボランテ ィア活動に参加したCARD MBA 社の職員 村コーディネーターは地元に住んでいますから、地元の噂話を聞け ば、不正請求はすぐにわたしたちの知るところとなります。不正請求 があれば、直接本人のところに行き、返金してもらいます。わずかな 金額でも要求します。地域社会に対して、これは会員のお金だとい 4 4 えたのは父親でした。小さなコプラ農園(コプラはヤシの内胚乳を 指導力 CARD MBA社 の主要データ ちたい、 しかし、自分は非常に持続可能な方法でやりたいと、自分に 年 会員数の成長率 言いきかせたのです。」 保険金支払い総額 (1,000フィリピンペソ) 資産(1,000フィリピ ンペソ) 1999 28,531 0.974 6.608 2000 35,704 2.445 13.824 あと数年で定年となります。CARDでは定年を60歳と定めており、 2001 49,887 3.386 28.072 例外なく退職しなければなりません。定年後は、家族(3人の息子さん 2002 69,223 6.896 70.200 と3人のお孫さんがいます) と過ごす時間が増えるでしょうが、無報 2003 116,395 10.940 130.823 酬のボランティアとしてCARD理事を務めたいという希望を持って 2004 112,174 14.886 180.855 2005 144,499 15.505 243.453 2006 247,850 30.901 382.861 2007 469,457 61.616 671.532 2008 687,934 104.131 1,168.190 2009 967,963 148.313 1,800.726 CARDの立ち上げから何年も経ち、アリップ氏も今や50代半ば、 います。後任については、才能があり、自分の任務を引き継ぐ能力の ある幹部が多いので心配していません。 「わたしたちはだれでも、譲 る準備をしなくてはなりません。わたしはこれまで、一人の人間に頼 り過ぎる組織を多く見てきました。5年後ではなく、50年後、100年 後に、わたしたちがあるべきところはどこかを考える、それがCARD のビジョンです。」 2010 1,244,547 233.895 2,676.436 アリップ氏はこのほど、ICMIF開発委員会の委員長に就任しまし 2011 1,433,240 387.293 3,709.605 た。 「マイクロインシュランスは、ICMIFが推進するべき真の機会だと 2012 1,583,326 5億1,900万 4,703.816 いうメッセージを伝えたいと思います。社会の底辺にいる、恵まれな 2013 1,850,615 5億1,400万 5,654.616 い人々を対象としているのがマイクロインシュランスですから」と語 り、協同組合/相互扶助の保険組織全体、とくにICMIFが果たせる役 割を推進する活動に熱心に取り組んでいます。協同組合/相互扶助 の組織という形でマイクロインシュランスを提供すれば、株式会社が 決して真似できない、貧困者による直接所有という形態をもたらすこ とができると考えています。 アリップ氏は、 「先進国でも協同組合/相互扶助の組織は同じよう な考えで始められました。ですから理解していただけると思います。 一緒に仕事をし、協力し合うことができると考えています」と語り、マ イクロインシュランスの市場は巨大で、世界中で200億人以上の人 々に違いをもたらす可能性があることを指摘しました。 「マイクロイ ンシュランスを押し進めていく必要があります。そうすれば、ICMIF に注目が集まるでしょう。」 アリップ氏は、2014年6月30日から7月4日にわたりロンドンで 開催される世界銀行主催「第3回リスク理解ネットワークフォーラム」 の開会セッションで講演します(19ページに関連記事)。 ICMIF Voice 79 | 2014年5月 5 指導力 スイス国民の安全・ 安心を守る: モビリア社の将来に狙 いを定めるマルクス・ ホングラー氏 6 6 指導力 マルクス・ホングラー氏が最高経営責任者(CEO)を務めるスイス モビリア社の業績は市場を上回るペースで成長しています。最新 モビリア社は、1826年の創業以来、スイスの暮らしの特色を示す企 の年間データである2012年の報告書によると、損害保険料収入は 業として重要な役割を担ってきました。その長い歴史を考えると、ホ 前年比4.5%増を達成しました。2013年上半期は5%の伸びで推移 ングラー氏の経営姿勢が短期的成果のみを追求したものでないこと し、国内市場平均(1.5%)をも大きく上回りました。ホングラー氏に に、何ら不思議はありません。ホングラー氏は2011年に現職に就任 よると、これは競合他社に比べて多くの新規顧客を獲得した結果で して以来、事業の有機的成長、市場で強みを持つ分野のさらなる強 はなく、既存顧客の維持で優れているからだそうです。 化、事業の長期的持続可能性の確保を目標に取り組んできました。 し かしモビリア社は短期的に見ても優れた業績を上げています。 ホングラー氏は、 「188年の歴史を持つ会社では、現CEOは何人 組合員への剰余金割戻制度 既存顧客の維持については、保険契約者が協同組合員としての もいる歴代CEOの一人でしかありません」と笑いながら語りますが、 特典を受けていることが要因の一つであることは明らかです。モビ それでもCEO就任後、理事会を交えてモビリア社が当時採用してい リア社では、剰余金のかなりの部分を保険契約者に還元しています た戦略を丹念に検討し、その妥当性を確認したそうです。 「その結果、 が、ホングラー氏の説明によると、還元は配当金ではなく、翌年の保 戦略の維持を決定し、その方針を示す明白なメッセージを保険市場 険料の割引という形で行います。例えば、2012年7月から2013年 や職員、お客様に伝えました。事業が好調で現行戦略が機能してい 6月の1年間は、モビリア社の自動車保険に加入している中小企業 たら、それを変える必要があるのか、ということです。」 の保険料を1割引としました。2013年7月以降の1年間では、個人で 住宅保険や建物保険に加入している組合員に対して保険料を2割 スイスは多言語国家です。ですからモビリア社もドイツ語圏、フラ 引としています。 ンス語圏、イタリア語圏でそれぞれ異なる社名で事業を行っていま す。 しかし、同一の基本原則を守るという姿勢は共通しています。 生命保険は、収益に占める割合が20%以下と損害保険に比べて 低いものの、モビリア社ならではの強みを持つ分野があり、定期生命 ホングラー氏によると、モビリア社には3つの基本的信念があり 保険では国内シェア1位、また年金制度に通常付随する死亡・障害カ ます。顧客と近い距離を保つこと、物事を複雑にしないこと、協同組 バーではおよそ50%のシェアを有しています。年金貯蓄事業は10 合としてのメリットを示すことで、この3要素が事業を推し進める力 年前、リスクが大きすぎると戦略的に判断し売却しました。 になっています。 協同組合であるモビリア社には、個人、中小企業、農家など保険 代理店への権限移譲 契約者の各層を代表する代議員150名から成る代議員会がありま す。 しかし、ホングラー氏が「10年前に、協同組合であることを市場 この3原則が実践されている好例を保険金請求処理に見ることが に向けて発信するようになりました。今では、テレビコマーシャルで、 できます。モビリア社は、独立代理店80店から成る国内総代理店網 お客様に剰余金を割り戻している事実を宣伝しています」と述べる を有していますが、これら独立代理店に、保険引受と保険金請求処 ように、マーケティングやブランド構築戦略の中で、モビリア社は従 理にかかる作業の重要な部分を任せています。そのため大多数の保 来型の保険会社ではないことを伝え始めたのは、ほんの10年前のこ 険契約者にとって、保険金請求が地元レベルで効率的に処理される とです。また、協同組合として、文化的・社会的に正当性がある活動 というメリットが生まれます。ホングラー氏の言葉によると、 「総代理 を主導的立場で支持し、企業の社会的責任を受け入れています。 店の位置付けを、販売の場所からサービスの場所へと変えた」ので す。ホングラー氏は、代理店への権限移譲にはリスクが伴うことを認 めるものの、仕事のやり方についてモビリア社職員と代理店スタッフ の双方に共通の理解が生まれたと考えています。 「モビリア社が何を 期待しているかについて共通認識があると、それに基づいて前進し ていくことができます。もちろん、研修を行い、必要な場合は是正措 置を取りますが、権限の悪用は起きていません。代理店スタッフにと っても仕事の楽しさが増すのではないかと思います。」 モビリア社は生命保険より損害保険の方が強く、国内市場で17% のシェアを有しています。とくに住宅や家財を保障する住宅保険や 建物保険に強く、国内家庭の3軒に1軒はモビリア社の保険に加入し ているというデータがあります。中小企業向け保険でも25%以上の シェアを誇っています。 ICMIF Voice 79 | 2014年5月 7 指導力 革新性 協同組合には、市場変化への対応が遅いという弱点がある可能性も指摘されています。 このリスクを理解するホングラー氏は、次のように述べています。 「実際、市場アナリストや 格付け会社に強制されないと、革新技術のチェックを怠りがちになります。そこでモビリア 社では、革新技術部門を設けて対応しています。」 革新技術部門は、商品開発、顧客との関わり、プロセス効率の改善を担当するだけでな く、ホングラー氏が「破壊的影響を持つ可能性がある技術」と称する、斬新性があり、今後ど う転ぶか分からないが試す価値のある技術革新の研究調査も担当しています。この点で最 近もっとも注目された動きは、国内生協ミグロスと提携し、カーシェアリング制度(特定の自 動車を共同利用するシステム)を利用したいドライバー向け自動車保険の提供を始めたこ とです。モビリア社は、 ミグロスが開発したカーシェアリングのインターネットプラットフォー ムを利用する新事業「シャル―」に37.5%出資しています。ホングラー氏はこのカーシェア リング制度を次のように説明してくださいました。 「モビリア社の保険契約者でマイカーを 貸し出してもよいと思う人は、車を貸し出す登録を行います。車を利用したい人はインター ネットで自宅近所に利用できる車があるかどうか検索します。 ドアロックの施錠と開錠は、ス マートフォンのアプリを使って行い、料金は銀行振替で決済します。この制度に興味を持っ た理由はいくつかあります。まず、保険はどのようになるのか、と思いました。またモビリア 社は都市部での事業成長を見据えていますが、カーシェアリングは都市部特有の制度だと 考えました。」 モビリア社は協同組 合として、文化的・社 会的に正当性がある 活動を主導的立場 で支持しています。 8 指導力 保険料収入の伸び: モビリア社とスイス国内市場平均の比較 シャルーの試験的カーシェアリングは2013年末に始まったばかりで、ホングラー氏は 5.5% その進展を注視しています。 「成功するかどうかかなりの興味を抱いています。」 門CEOとヨーロッパ損害保険事業責任者を務めました。保険業界での出発点は、出 身地ルツェルンのモビリア社で、その後、ジュネーブのラ・ジュヌボワーズ社勤務を経 て、1983年にチューリッヒ保険に入りました。ですから、2011年のモビリアCEO就 任は古巣に戻ったことになります。グローバルな保険会社と地元密着型保険会社の両 方での勤務経験を有するホングラー氏は、 「モビリア社の市場はただ一つ、800万の スイス国民です。ですから、多国籍保険会社に比べると、焦点を定めやすいし、最良の サービスを提供しやすいと思います。多国籍保険会社はグローバルな考え方をせざる を得ないため、必ずしも各市場に特定のニーズに対応しているとは限りません」と語 っています。 保険料収入の伸び(%) ホングラー氏は現職に就任する前、多国籍保険会社チューリッヒ保険のスイス部 4.6% 5.0% 4.5% 3.5% 3.0% 3.9% 3.6% 4.0% 2.9% 2.7% 2.5% 2.1% 2.0% 1.4% 1.5% 1.0% 0.5% 0.0% 3.9% 1.1% 0.5% 2009 2010 2011 2012 2013 スイスモビリア社 スイス国内平均* *スイス再保険のシグマレポートのデータ。 2013年のデータは推定値 とはいうものの、高水準のサービス維持は容易ではなく、これまで達成してきた事業 成長を理解し取り入れることが、最も重要な任務だと考えています。 「新規のお客様に も既存のお客様にも同じ高い品質のサービスを提供する責任があります。同時に顧客 満足をどのように育て維持していくかが課題です。」 モビリア社の本社があるベルン市までは、自宅があるチューリッヒから電車で1時間 かかります。そのため、ベルン市内の小さなマンションに泊まることもありますが、でき る限り家族と過ごしたいと考えています。2人のお子さんはもう成人しましたが、家族の 強い絆は変わりません。奥様とはクラシック音楽、美術、旅行などを楽しんでいます。も ちろん、スイスならではの楽しみもあります。 「自然の中でのハイキングや冬はスキーに よく行きます。スイスの美しい自然に包まれることは、わたしの喜びです。」 マルクス・ホングラー氏とスイスモビリア社の経営委員会委員 ICMIF Voice 79 | 2014年5月 9 指導力 洪水被害 洪水リスクの責任はだれが負うべきか わたしたちは、自然の猛威を目のあたりにすると心理的に不安になります。ですから 洪水時に殺到した記者やテレビ局クルーが去って、水が引いた後に、 「洪水関連リス 洪水被害の話は、メディアの格好のターゲットになります。世界各地で洪水が発生して クの責任はだれが負うべきか」という大問題が残されました。国民に対する責任として いる近年、テレビ局や新聞社は、発生のたびに記者やカメラマンを現地に派遣し、自宅 政府が最終的責任を持つべきか、洪水多発地域に家を構える住民の自己責任か、保険 が浸水した住民にマイクを向けました。フランス、カナダ、中央ヨーロッパ、東南アジア 会社も保険料に大幅転嫁せずに何らかの役割を果たすべきなのか、という問題です。 など被害を受けた国々のメディアは、異常気象の出現数増加を指摘しました。 多くの国の保険業界は、洪水被害に対する補償についての検討を行っていま 2014年2月はイギリスが被害に遭う番でした。イギリス南西部とロンドン西部のテ す。2013年にアルバータ州とトロント大都市圏が大洪水の被害に遭ったカナダで ムズ川沿いの地域が豪雨と大洪水に見舞われると、国内メディアが現地に集合しまし は、ICMIF会員団体のコーポレーターズ社が、主導的立場でこの問題に取り組んでい た。自宅居間で腰まで水に浸かっている住民や、陸の孤島に置き去りにされた家畜に餌 ます。カナダでは、洪水の中でも最も一般的な地上洪水による被害は住宅保険の補償 をやろうとする畜産農家の人々、政治家発言に終始した担当大臣の姿などがテレビに 対象外となっています。これはG8諸国の中でカナダのみの措置で、政府の災害財政 映し出されました。 援助取り決め(DFAA)による補償が、洪水被害に遭った場合に利用できる唯一の救済 措置です。 農業保険や農村地帯関連の保険を主に扱っているイギリスのICMIF会員団体、NFU ミューチュアル社とコーニッシュ・ミューチュアル社にとって、この大洪水は多くの保険 契約者が支援を必要としていることを意味しました。 コーポレーターズ社は、このような現状を変えることができるかどうか検討してお り、同社CEOのキャシー・バーズウィック氏は「現状では、建物の所有者が適切に保障 されているとは言えません。問題の解決には、保険会社や政府、開発業者、銀行、住宅 とくに洪水被害がひどかったイギリス南西部サマーセット州のサマーセットレベルズ 所有者など多くのステークホルダーを巻きこむことが必要です」と述べています。 地域では、NFUミューチュアル社地元支店の職員が夜を徹して、何百頭もの家畜を安 全な場所へ移動させようとしている畜産農家を手伝いました。 バーズウィック氏は、 「現在のシステムは防災ではなく復旧を重要視しすぎている」 として、カナダ政府が治水対策にあまり力を入れていないことも問題だとしています。 同社CEOのリンゼー・シンクレア氏は、洪水が続く中でサマーセットレベルズ地域を 訪れたとき、お客様から同社の対応を感謝された一例として、次のエピソードを語りま した。 コーポレーターズ社では、国内保険業界が洪水保険を運営できるかどうかを評価す るための調査を研究機関に委託し、その報告書が2013年末に発表されました。報告 書は、洪水のリスクがあるのは、洪水頻発地域に住む比較的少数の住宅所有者に限ら 「お客様の中に、20年前に宝飾事業を立ち上げたご夫婦がいました。長年の苦労の れているため、洪水保険の保険料は手が出ないほど高額になる可能性があることを指 後、今年に入ってから、商品が爆発的人気となって注文が殺到し、フル操業しているよ 摘し、国内主要ステークホルダー間での幅広い議論を提案しました。コーポレーターズ うな状況でした。 しかし、豪雨と洪水で納屋を改造した建物が1.2メートルの高さまで浸 は、これに沿った取り組みを行うことを約束しています。 水し、事務所の書類や記録がコンピュータごと流されてしまいました。混乱と手遅れに より、注文記録が失われてしまったのです。 イギリスでは、政府と保険業界が、 「フラッド・リー」という非営利の洪水保険補助制 度の設立に向けた話し合いを続けています。住宅保険の加入者全員に料率を上乗せ 「お二人は、加入していた利益保険の保険金請求手続きをしている最中でしたが、わ し、洪水リスクの高い約50万軒の保険料を補助するというのが制度の趣旨です。イギ たしがお会いしたときは、従業員10人が働けるプレハブ式簡易建物の借用料と給与、 リス政府と保険会社の間には、保険会社が洪水リスクの高い住宅に対する保険を拒否 コンピュータ購入などの費用として、弊社からすでに15万ポンド (およそ2,500万円) しない代わりに政府が治水工事に予算を振り向けるという合意がありました。 しかし、 の仮払いを受けていました。 合意期間が終了した現在、公共投資支出削減圧力のもと治水関連予算も減らしてきた 政府は、代わりにフラッド・リーを運用したいという意図があります。これに対しゴッダー 「お客様は、このような地元密着型で個人的なサービスを期待し、わたしたちはそれに 応えています。これが真の競争優位をもたらしています。」 イギリス南西部を拠点とするコーニッシュ・ミューチュアル社には、24,000人の保険 契約者から650件の保険金請求がありました。同社社長のアラン・ゴッダード氏は次の ド氏は、 「政府には自然の脅威から国民を守る役割を果たす覚悟がある、と保険業界が 納得するまでには、依然として多くの作業が残されている」と指摘します。 アメリカでは、フラッド・リーと同様の制度が存在しています。住宅保険の加入者全員 に上乗せする料率と連邦政府の全米洪水保険制度(NFIP)による補助で、洪水多発地 ように語ります。 「このような時に契約者をお助けするのがわたしたちの使命です。今 域の保険料を補填する制度です。上乗せ分は、アメリカやイギリス(検討中)では一律 回の保険金請求に対しては、きめ細かくかつ迅速に対応することで、ご支援できたと思 の金額、フランスでは原保険料の12%となっています。 ドイツとオランダも同じような います。 しかしわたしたちは、空模様や政府自治体の治水工事予算などについては、何 プール制度を検討中です。 もできないのです。」 10 指導力 浸水した農場を地元代理店職員 と訪れたNFUミューチュアル社 CEOのリンゼー・シンクレア氏 (右から二人目)。 このような制度には、洪水リスクの低い地域に住む人々が、上乗せ分を支払わなく て済むように水害を住宅保険の補償範囲から外してもらう方法を選ぶ可能性があるこ とも指摘されています。彼らからすれば論理的な反応ですが、制度の経済的基盤全体 に疑問を投げかける問題となりかねません。 しかしイギリス国内には、これよりもっと深刻な問題があります。近年、河川流域、と くに洪水の危険が高い地域での住宅着工件数が上昇傾向にあるということです。利益 しか目にないデベロッパーのせいだ、自治体の建築基準が甘すぎるせいだと責任を追 及する声がいろいろとありますが、将来のコストをだれが負担するのかという問題が依 然残されたままです。そこで、フラッド・リーでは、この数年間に建てられた住宅は制度 の対象外とすることも検討しています。 一方、アメリカでは、建築基準の強化を図る画期的な取り組みが行われていま す。ICMIF会員団体のNAMIC(全米相互扶助保険会社協会)をはじめ、事業の連合体や 消費者団体が参加する「ビルドストロング・コアリション(建築強化のための連合)」で す。NAMICで連邦・政治を担当する上級バイスプレジデントのジミ・グランド氏の説明 によると、この取り組みは「建物が強くて安全ならば、命や財産を守り、防災管理のコス トを削減できるというメッセージを発信する」目的を持っており、設計者、建築業者、そ の他関係業者全員に義務付ける建築基準の採用を各州に促す法整備に向けた活動を 押し進めています ICMIF Voice 79 | 2014年5月 11 指導力 相互扶助の理念に基づいた 大学向け保険 「大学というところは、被害が起きる可能性を高めると考えられる状況が すべて少しずつそろっている場所です。大学向け保険で難しいのはこの点 です」と語るのは、大学が必要とする保険を確保し、その費用を削減する ために国内の大学が集まって設立した相互扶助の任意団体でオーストラリ アのICMIF会員、ユニミューチュアル社です。 12 指導力 ユニミューチュアル社は、共通の利益と共通のリスク 上記4団体は、加入する教育機関に特有のニーズ これら相互扶助の保険組織は保険株式会社と競争し を持つ教育機関にとって、相互扶助組織がいかに有効 に合わせた保険を提供しています。例えばイギリスの ており、加入教育機関との友好関係だけに依存すること に働くかを示す好例だといえます。ですから、オースト UMAL社の場合、建物保険など通常の保険のほかに、 はできません。大学そのものが急速な変化に直面してい ラリア以外でも、同様の相互扶助の理念に基づいた組 事業中断や、第三者損賠賠償、臨床試験、医療過誤など る現状においては、事業運営をしっかりと行い、加入教 織が大学向け保険を提供していることに何ら不思議は に対する賠償責任も補償するプランを提供しています。 育機関のニーズを常にとらえておく責任があります。 しか ありません。 し、相互扶助の保険が機能しているのは明らかで、病院 大学の中でも医学部には、医療過誤や臨床試験関連 アメリカには、大学やカレッジ、学校などの教育機関 など特別なリスクがあり、そのようなリスクを保障する必 1,200校に保険を提供するユナイテッド・エデュケーター 要があります。同様に獣医学部にも特殊なリスクがあり ズ社(UE社)があります。UE社は27年前、アメリカ特有 ます。オーストラリアでは、2007年の8月から12月にか の相互扶助組織である「レシプロカル」の形態を取るリ けてウマのインフルエンザが大流行し、ユニミューチュ スク保有組合として設立されました。以来、 「教育機関に アル社の保険に加入する大学も直接損害を受けました。 特有の事情を総合的に理解する (UE社自身の言葉)」 当時、ユニミューチュアル社の保険は、ヒトの感染病は対 事業として、26,500件以上の保険金請求案件を取り扱 象としていましたが、動物の感染病による損害は想定す ってきました。UE社は「適切な保険カバーを提供するた らしていませんでした。 しかし相互扶助の任意団体であ めに十分な検討を行ってから引受内容を決定するなど、 るユニミューチュアル社には、保険会社には通常見られ 教育機関の特殊なニーズに合わせた保険を提供してい ない柔軟性と、加入大学を助けたいという気持ちがあり ます。他の保険会社が引き受けようとしないリスクも ました。経営理事会で保険金請求案件を十分に協議した 敬遠しません」と語っています。 結果、保険金の支払いが決定されました。 イギリスでは複数の大学が共同で設立した相互扶助 や自治体などの分野でも同様の動きが見られます。 相互扶助組織の事業モデルである上記4団体には、 団体、UMAL社が、大学など高等教育機関160校に保 共同出資と共同運営という明確な特徴があります。その 険を提供しています。UMAL社は、共同の資金提供とプ ため、保険コストを下げるだけでなく、保険金請求の手 ール資金からの保険金支払いを通じて、加入する教育 続きが簡単で迅速な処理を行うなど、サービス水準を上 機関のリスク管理体制を健全に維持することも理念の げることができます。 一つだと指摘しています。 収益を加入教育機関に直接還元できるというメリッ カナダには、大学向け保険を専門とする相互扶助組 トもあります。例えばアメリカのUE社は、今年も過去3 織が4団体ありますが、このほど、その一つCURIE社が 年同様、収益を配当金として加入教育機関に還元する ICMIFに新加盟し(26ページに関連記事)、4団体すべ ことを発表しました。UE社社長兼CEOのジャニス・M・ てがICMIF会員団体となりました。CURIEには全国各地 エイブラハム氏は次のように述べています。 「保険加入 の教育機関61校が加入しています。 者としてだけではなく出資者としての保険料であること を、加入教育機関は理解しています。UE社に加入する ユニミューチュアル社、UE社、UMAL社、CURIE社 には、1980年代後半から1990年代初めにかけて設立 価値を具体的に示すものとして、配当金をお支払いし ています。」 されたという共通点があります。これは偶然ではありま せん。当時、大学は一般の保険会社から必要な保険を UE社はさらに、事業運営方法がもたらす大きなメリッ 購入しようとしても保険料が高すぎて加入できないと ト、つまり培ってきた専門知識を活かして、損害そのもの いう問題を抱えていました。この問題に対応するために を軽減するためのノウハウを提供できることも強調して 設立した相互扶助の保険組織が、今や成功した事業モ います。 「わたしたちはただ保険を販売するだけでなく、 デルとなったわけです。ユニミューチュアル社は当時の 損害発生防止のお手伝いもしています。そのために、い 状況を「保険会社は、大学にとって、また大学特有のリ くつものレポートや資料を発表し、ウェビナー、オンライ スクにとってきわめて重要な保険カバーの提供に採算 ンコースなどを開催しています。教育機関に特化した実 が取れない場合、引き受けてくれませんでした」と振り 践的リスク管理に関する資源の提供で、保険業界をリー 返りました。 ドしています。」 当時、とくに問題となったのは、賠償責任の担保でし UMAL社、CURIE社、ユニミューチュアル社も同様の た。損害賠償請求裁判できわめて多額の支払いを命じら 点を指摘しており、例えばユニミューチュアル社は、同社 れるリスクに保険会社が躊躇したため、大学側は、相互 主催のリスク管理セミナーに出席し大学間で話し合うこ 扶助、自己救済という道に解決策を求めました。 とにメリットがあると考えています。経験の共有が有意義 な管理ツールになりえることも強調しています。 ICMIF Voice 79 | 2014年5月 13 有益な情報の共有 有益な情報の共有 組合員との結び付き強化: 協同組合/相互扶助の組織の 優れた実践例から学ぶ 協同組合/相互扶助の保険 組織は組合員との結び付き を強化する明確な戦略を持 つ必要があることを、最新 のICMIF戦略インサイトレ ポートが伝えています。 ICMIFの戦略インサイトレポート「組合員との結び付 化し、組合を支持擁護する気持ちを生み出すことができ コーポレーターズ社以外の取り組み例も、数多く紹介さ き強化戦略‐現代の協同組合保険組織/相互扶助の保 る」と語るように、結び付き強化戦略の目的には、標準的 れています。 険組織にとっての意義と課題」は、ICMIFのインテリジ な顧客満足だけでなく、そこから一歩踏み込んだ、忠誠 ェンス委員会が2013年に主要議題の一つとして取り 心や支持擁護の醸成も含まれます。 上げ、年間を通じて会員団体の経験や戦略を発表した 成果をもとにまとめたレポートです。ICMIF事務局でイ 最新技術を利用した取り組みについての考察では、 「 規模の大きい組織が一人ひとりの組合員との距離を縮 めるうえで、最新技術とくにソーシャルメディアが大きな レポートによると、顧客との結び付き強化や従業員と 役割を持つようになると考えられる」と指摘されてしま ンテリジェンス委員会を担当するフェイ・ラジャー氏によ の結び付き強化に関する研究は今までも行われてきまし す。 しかしラジャー氏は、ICMIF会員団体の間ではソーシ ると、レポートは組合員との結び付き強化戦略の構築に たが、その多くは、協同組合/相互扶助の組織の経験に ャルメディアの活用が低いレベルにとどまっているとし おいて検討するべき主要問題を特定するとともに、活 十分対応しているとはいえません。そこで、ICMIF会員 て、次のように警告しています。 「ソーシャルメディアを 動の効果を評価するための実践的フレームワークも示 団体による取り組みの現状について、事業運営システム 使って、組合員の生活と明らかに関連するメッセージを しています。 や組合員/顧客参加型の活動、リスク軽減を目的とした 発信すれば、組合員の中に、組合が自分たちのことを理 レポートは、協同組合/相互扶助組織が組合員との結 イベントの開催などの点から明らかにしました。例えば、 解し、支援しているという気持ちが生まれると考えられ カナダのコーポレーターズ社は、顧客が調査委員となり ます。反対に販売促進を目的としたメッセージは、いくら び付き強化戦略を構築する姿勢は、株式会社が顧客関 保険金請求に関する苦情を調査する「サービス調査委 宣伝色を薄めても、無視されるのがおちで、最悪の場合 係管理に対する姿勢とは全く異なっており、また異なっ 員会」を設けています。苦情申し立て側にとっては、組 は嫌悪感を持たれることすらあるでしょう。」 てしかるべきだと指摘しています。ラジャー氏が、 「組合 合員/顧客の調査委員会が下した判断の方が受け入れ 員との結び付きを効果的に強化すれば、ブランド価値を やすいことを考えると、このような制度は困難な状況を 築き、顧客一人当たりの購入金額を増やし、他の商品も 好転させるのに役立つ、とレポートは指摘しています。 合わせて販売し、顧客維持率を高め、顧客の忠誠心を強 14 ICMIFのインテリジェンス委員会はこれまで長い間、 会員団体に保険業界や市場に関する内部情報を提供し てきました。現在、同委員会は21会員団体の代表者で 有益な情報の共有 構成され、コーポレーターズ社のポール・ハンナ氏が委 しかしブログはその性質から寿命が短いため、選集 員長を務めています。今まで発表されたレポート同様、 を作れば、ブログで取り上げた主要課題やそれに続く このICMIF戦略インサートレポートも会員団体限定で 意見交換の内容を振り返って考えることができると考 ICMIFウェブサイトからダウンロードできます。 えたそうです。 現在ICMIFでは、2012年以来ICMIFウェブサイトに 掲載したブログの中から優れたものを集めたブログ選 ICMIFでは、会員団体やその他協同組合/相互扶 助の保険組織関係者からのブログを募集しています。 集を作成中です。ICMIF事務局長のショーン・ターバッ ブログを寄稿したいとお考えの方は、コミュニケーシ ク氏はブログについて次のように述べています。 「協同 ョン担当者アリソン・グラント氏までぜひご連絡くださ 組合/相互扶助の保険組織を取り巻く重要な課題を考 い。([email protected]) 察し、幅広い議論を掘り起こすことを目的に、ICMIF事 務局や会員団体、戦略パートナーからブログ記事を寄稿 していただきました。」 ICMIFの戦略インサイトレポート「組合員との結び付 き強化戦略‐現代の協同組合保険組織/相互扶助の保 険組織にとっての意義と課題」は、www.icmif.org/ publicationsから、会員団体限定でダウンロードでき ます。 ICMIF Voice 79 | 2014年5月 15 有益な情報の共有 拡大傾向が続く 世界保険市場における協同組合/相互扶助の保険 組織のシェア ICMIFでは6年前から毎年、世界の協同組合/相互扶助の保険組織 なおレポート作成にあたっては、自国の法制上、協同組合や相互扶助 の市場規模や業績を分析してその結果をまとめたレポート「ミューチ の組織とみなされないものの、協同組合/相互扶助の保険組織の構造 ュアル・マーケットシェア」を発表しています。このほど発表された最 や理念を持つ組織のデータを含めました。」 新版(2012年のデータ)は、新しい調査対象項目も加わり、今まで以 上に充実した内容となっています。それによると、多くの国で協同組 レポートは、スイス再保険発行のシグマレポートのデータを用い 合/相互扶助の保険組織が市場全体を上回るペースで成長している て、各国市場における協同組合/相互扶助の保険組織の現状も詳細 という動向に変わりはなく、協同組合/相互扶助の保険組織が世界の に分析しています。2012年のデータによると、協同組合/相互扶助の 保険市場に占める割合(シェア)は、2007年の23.4%から26.7%へ 保険組織が25%超のシェアを有する国は21カ国、33%超のシェア と上昇しました。なお、ICMIFでは調査を進めるに当たり、どこまでを を有する国は15カ国(世界10大保険市場の5カ国を含む)に上るこ 調査対象とするべきかという問題に関して、多くの国で議論の余地が とが明らかになりました。 残されているなか、個々の国の事情による対応を行わず、客観的資料 としてシグマレポート (スイス再保険発行)を基本データとして活用し ました。そのため、シグマレポートに含まれる日本の相互会社も調査 対象として含まれています。 「ミューチュアル・マーケットシェア」最新版は、世界75カ国(世界全 体の保険市場の99.3%に相当)、3,300以上の協同組合/相互扶助 の保険組織を調査対象としました。今回は初めて、組合員/契約者数 の分析も行ったほか、前回同様、従業員数や運用資産のデータも掲載 しています。協同組合/相互扶助の保険組織で働く従業員数は世界 全体で100万人以上、運用資産は世界全体で6兆USドル強に上った ことが分かりました。 ICMIFのインテリジェンス担当マネージャー、ベン・テルファー氏は 「ミューチュアル・マーケットシェア」について次のように述べていま す。 「ICMIFは各国政府や監督機関、メディアなどから、協同組合/相 互扶助の保険組織の規模に関する問い合わせを受けることがよくあ ります。厳密な調査に基づいた分析をまとめたこのレポートには、問 い合わせに対して信頼できる回答を提供するという目的もあります。 16 「ミューチュアル・マーケットシェア」はICMIFウェブサイトからダウン ロードすることができます 。 (www.icmif.org/publications) 有益な情報の共有 「ミューチュアル・マーケットシェア」 最新版の主なデータ ・世界の保険市場で協同組合/相互扶助の保険組織が占める割合 (シェア)は2012年に26.7%に達し、金融危機が発生した2007年の ・協同組合/相互扶助の保険組織の総資産は、過去最高の7兆7,000億US ドルに達した。そのうち運用資産は6兆USドル強を占めた。 23.4%と比べたシェアの伸びは13.9%となった。 ・協同組合/相互扶助の保険組織の従業員数は、世界全体で110万人前後 ・同期間の保険料収入の成長率は27.3%で、保険市場全体の伸び (11.8%)を大きく上回った。2007年以降、保険市場で最も高い伸び と推定される。世界10大保険市場における従業員数合計は、前年より 1%増加した。 を示したのが、協同組合/相互扶助の保険組織である。 ・今回初めて調査対象とした協同組合/相互扶助の保険組織の保険事業 ・保険料収入の総額は、過去最高の1兆2,200億USドル強に達した。 を利用している組合員/契約者数は、世界全体で8億人を上回ることが 示唆された。 ・2012年の保険料収入は前年比1%増で前年の伸び率を下回ったが、 世界の保険市場におけるシェアは前年同様の26.7%を維持した。 ・世界の生命保険市場に占める割合は、2011年の25.2%から25.0%に 低下したが、依然として2007年の20.6%を大きく上回る水準にある。 ・世界の損害保険市場に占める割合は2011年の28.8%から微増の28.9% となり、2007年の水準(27.6%)も上回った。 ・世界を5地域(アフリカ、アジア・オセアニア、ヨーロッパ、ラテン アメリカ、北米)に分けた地域ごとのシェアでは、2007年から2012年 にかけての期間、いずれの地域でもシェアが拡大した。なかでも ヨーロッパでは22.1%から28.4%に、北米では28.7%から33.1%に 伸びた。 ・ラテンアメリカでは、2007年時点で8.6%だったシェアが、2012年 には過去最高の10.9%に達した。 ・世界10大保険市場の5カ国を含む15カ国(調査対象市場の20%強に 相当)で、国内市場でのシェアを33%以上とした。 ICMIF Voice 79 | 2014年5月 17 影響力 ICMIFがG20各国に組合員(契約者)が所有す る形の保険事業設立を後押しするよう要請 ICMIFでは今年(2014年)の主要20カ国・地域首脳 大企業はこれまでG20サミットをロビー活動の場とし 会議(G20サミット)で、組合員(契約者)が所有する形の て利用してきましたが、協同組合や相互扶助組織には、 保険事業の設立を可能にする法整備を進めるよう参加 自分たちの意見を示すための行動が欠けていました。 各国に呼びかけます。 しかし今回は、オーストラリア農業協同組合、CBHグル ープのCEOであるアンドリュー・クレーン氏がG20ビジ 今年のG20サミットは2014年11月半ば、オーストラ ネスサミット (B20)オーストラリア・リーダーシップグル リアのブリスベーンで開催されます。ICMIFは、強力なメ ープの一人に選ばれたこともあり、前進が期待されま ッセージを発信するために、事務局長のショーン・ターバ す。オーストラリア協同組合/相互扶助組織事業協議会 ック氏と上級責任者のリズ・グリーン氏をブリスベーンに 会長も務めるクレーン氏は、G20サミットに付随して開 派遣します。ターバック氏は、 「グローバルな金融制度の 催される実業界と政府間の諮問会議に出席する予定で 中に各種の法人形態や事業モデルを共存させることが す。またカナダのケベックシティーで開催される2013年 金融の強靭性をもたらすことを伝えたい」と意気込みを 国際協同組合サミット (20ページに関連記事)でも講演 語っています。現在、G20のうち6カ国(ブラジル、中国、 を行うことになっています。 インド、インドネシア、ロシア、南アフリカ)には、協同組 合/相互扶助の保険組織の法的枠組みがまったく存在し ターバック氏は、 「ユーザー所有型の事業モデルは、 ないか、限定的な枠組みしか存在していません。OECD 経済成長と雇用を大きく推進させるというのが、わたし 諸国の中でも4か国(エストニア、チェコ、スロバキア、イ たちのG20に向けてのメッセージです。雇用創出と市場 スラエル)で協同組合/相互扶助の保険組織の設立が認 の多様化という機会を世界中で最大限に利用しようと められていません。 するならば、協同組合や相互扶助組織が株式会社と対 等に競争できないような障壁は撤廃しなければなりませ 今年のG20サミット開催時には、大企業の代表やメデ ィアなどを含め最高4,000人が現地に集まると予想さ れています。ターバック氏は、 「G20のような世界的な会 議で積極的に協同組合/相互扶助の保険組織に対する 関心を高めること」がICMIFの戦略であり、 「協同組合/ 相互扶助の保険組織の規模が大きいこと、世界の保険 市場に強靭性という文化を根付かせるうえで重要な役 割を果たしていることを、世界のリーダーに示したい」と 語っています。 18 ん」と力強く語りました。 オーストラリアCBHグループ CEO、アンドリュー・クレーン氏 影響力の行使 災害リスク軽減に関する 会議が開かれるロンドンに 世界が注目 2014年の6月末から7月初めにかけての5日間、世界銀行防災グローバルファシリ ターバック氏はさらに、自然災害、とくに気候変動や海面上昇に関連する自然災害の ティ主催「第3回リスク理解ネットワークフォーラム」がロンドンで開催されます。専門 リスクは、先進国よりも途上国の方が大きいことを指摘し、アリップ氏の講演は、フォー 家や業界関係者800名が出席予定のフォーラムには、ICMIFや会員団体も大きく関与 ラム参加者に、協同組合/相互扶助の保険組織が途上国で果たしている役割を知って しています。 もらう良い機会になると期待しています。 災害リスク軽減に関する優れた実践例や最新技術を話し合うフォーラムは、 「都市 ロンドンでは、世界銀行主催フォーラムの1週間前に、国際保険学会(IIS)がセミナ 部への人口流入と自然災害に対する脆弱性の高まり」をテーマにしたセッションで始ま ーを開催します。ICMIFでは、ここでも影響力の行使に向けた取り組みを予定してい ります。このセッションでは、フィリピンのICMIF会員、CARDグループ代表のアリストト ます。 ゥル・アリップ氏(2ページに関連記事)が講演者を務めます。 初日には、リスク情報の重要性をテーマにしたセッションも予定されており、世界銀 行副総裁のレイチェル・カイト氏や世界気象機関総裁のデイビッド・グライムズ氏が講演 します。その後は各種テーマを扱う技術セッションに移り、学識経験者や業界関係者に よる発表が行われます。 フォーラムに出席するICMIF事務局長のショーン・ターバック氏は、次のような抱負 を語っています。 「この世銀フォーラムは、これから数か月の間に開催されるイベント の中でも、ICMIFの影響力をグローバルな場で発揮できる機会となります。協同組合/ 2014年6月以降に開催される主要会議 6月4日~6日 AMICE総会(フランス・ニース) 相互扶助の保険組織は世界市場で25%以上のシェアを有しています。ですから、リス 6月23日~25日 ク管理と強靭性という問題に対処するうえで、極めて重要な役割を果たすことができ 第50回国際保険学会主催セミナー「科学技術が保険業界に与え た影響」(イギリス・ロンドン) ます。」 6月30日~7月4日 世界銀行主催「第3回リスク理解ネットワークフォーラム」( イギリス・ロンドン) 10月6日~9日 国際協同組合サミット(カナダ・ケベックシティー)(20ペー ジに関連記事) 10月20日~25日 保険監督者国際機構(IAIS)年次総会(オランダ・アムステル ダム) ICMIF Voice 79 | 2014年5月 19 影響力の行使 世界各地の協同 組合運動が2年ぶりに ケベックシティーに 集合 2012年10月にカナダのケベックシティーで開催された国際協同組合サミット ICMIFではサミットに先立ち、会員団体を対象とした簡単な調査を実施したいと考え は、2012国際協同組合年を彩るイベントとして大成功を収めました。それからちょうど ています。これは、ICMIFのインテリジェンス担当責任者、フェイ・ラジャー氏がリーダー 2年後にあたる10月6日から9日にかけて、第2回国際協同組合サミットが同じケベック となって進めている新研究プロジェクトのための調査です。 シティーで開催されます。地元カナダのICMIF会員団体、デジャルダン・グループがホス ト団体として準備を進めています。 協同組合/相互扶助の保険組織の名が優れた雇用者として挙げられることがよくあ りますが、この研究プロジェクトは、このテーマを掘り下げることを目的としています。 サミットでは5つのテーマを扱いますが、そのうち、協同組合/相互扶助の保険組織 そこで、その事実を確認するために大手ICMIF会員団体を対象に従業員向け制度や、 に直接関連するテーマが、 「資金調達と資本」です。サミット事務局は「金融業界の協 競合他社との違いなどについて質問し、回答内容を分析した結果をもとにレポートを作 同組合の多くは、国の規制により、プロジェクト資金の調達能力が制限され、それが事 成します。サミットではラジャー氏自らレポートを発表して、ICMIF会員団体が実践して 業成長の妨げとなっています。 しかし、新規の資金・資本調達手段を試験的に活用した いる優れた実例を紹介する予定です。 協同組合もあり、サミットでは、その経験を発表してもらう予定です」と話しています。 「グローバル評判レポート」はICMIFのウェブサイトから会員団体限定でダウンロー ICMIFもサミットを支援しています。事務局長のショーン・ターバック氏がセッション の座長を務めるほか、別のセッションではICMIFの研究成果を発表します。インテリジェ ンス委員会はサミットに先立って事前会合を開催します。 2013年、ICMIFは世界で初めて世界の協同組合/相互扶助の保険組織の評判を分 析した「グローバル評判レポート」を発表しました。これは最先端のデジタル技術を駆使 して分析した結果をまとめた全56ページのレポートで、会員団体限定で配布されまし た。サミットの「協同組合のグローバルイメージ向上に向けて」と題するセッション(10 月9日)では、ICMIFの対外関係担当上級責任者、リズ・グリーン氏が、レポートの主な結 果を紹介し、パネルディスカッションにも参加します。 「グローバル評判レポート」の調査チームは、消費者が協同組合/相互扶助の保険組 織やほかの保険会社をどのように認識し、どのように感じ、どのようなことを話している かについて分析するために、2011年から2012年にかけての12か月間、16の言語の デジタルコンテンツを追跡調査しました。その結果をもとに、協同組合/相互扶助の保 険組織を世界の保険株式会社上位20社と比較し、グローバルなレベルで協同組合/相 互扶助の保険組織がどうとらえられているか、今後評判を向上するにはどうするべき か、などの点を分析しています。 20 ドできます(www.icmif.org/publications)。 人材交流の促進 タカフルの成長とイスラム社会に おける相互扶助の理念の強化 タカフルの中核理念である相互扶助の原則を強化促進することを目的とした新活 動計画で、ICMIFと2つの国際的なタカフル組織が協力します。 オディエルノ氏によると、マレーシアでは、マレーシア中央銀行がタカフルへの加入 促進を図った結果、多国籍保険会社の市場参入という事態を招いてしまいました。事 業の焦点は利潤の追求とそれに合った商品に当てられるようになり、顧客経験が弱体 2014年2月、スーダンの首都ハルツームで第2回タカフルセミナーが開催されまし 化しました。 た。3年前にスリランカで開かれた第1回セミナーの成果をもとに、GTG(グローバル・ タカフル・グループ) とIFTI(国際タカフル・イスラム保険連合)、ICMIFが共同で開催し た今回のセミナーには、115人が参加しました。セミナーで採択された新活動計画は、 オディエルノ氏は「タカフルを最も必要としているイスラム社会のために、純粋な協 同組合としてのタカフルが必要」と訴え、地域社会と直接かかわるようタカフルの職員 タカフルの価値観と理念に対する認知度と理解度を上げ、途上国でタカフルを利用し に促したり、剰余金を使って地域社会の計画に資金を提供したり、子どもの教育に資金 やすくし、現在のタカフル事業者にもっと相互扶助の原則を採り入れた事業運営を行っ を提供することなど、地域との絆や積極的参加に基づいたタカフルのあり方を提唱し てもらうための方法を探ることを目的としています。 ました。ICMIFではタカフルに対して相互扶助の理念に基づいた取り組みを促していま すが、今後は、とくにマイクロタカフルという新興分野でも同様の視点に立った活動を ICMIFでタカフルと開発を担当する上級責任者、サビエ・パテル氏によると、ICMIF 積極的に展開する予定です。 ではこのほど、マイクロインシュランスに携わるICMIF会員団体の経験をマイクロタカ フルの開発に活かす「マイクロタカフル支援センター」の活動を再開させました。今後 写真:2014年2月のGTG/ICMIF/IFTI共催第2回タカフルセミナー「タカフルの将 手がけるプロジェクトの詳細な検討や資金提供者との話し合いについては、ケニアの 来:実体を伴う成長のために」で講演する、スーダンのシェイカン保険再保険会社社長 ICMIF会員団体、TIA社のハッサン・バシール氏が座長を務め、GTGとIFTIの代表者も でICMIF理事も務めるサラー・エル・ディン・ムサ氏 参加しているセンターの運営グループが担当します。 タカフルの根底にある理念は、先進国で相互扶助の保険組織を誕生させた理念と 非常に似通っています。 しかしタカフルに対する関心が高まる一方で、従来型保険会社 の事業方法にシフトするタカフル事業者も増えています。 第2回タカフルセミナーでは、マレーシアのアクチュアリアル・パートナーズ社のハ ッサン・スコット・オディエルノ氏がこの問題を取り上げ、 「タカフルにおける相互扶助 の原則の強化」と題する発表を行いました。発表でオディエルノ氏は、技術革新と成長 が利益を求める原動力となっていることを考えると、本来、利潤のための事業ではな いタカフルがどのように技術革新と成長を進めていくかが、課題になっていると指摘 しました。 写真:2014年2月のGTG/ICMIF/IFTI 共催第2回タカフルセミナー「タカ フルの将来:実体を伴う成長のため に」で講演する、スーダンの シェイカン保険再保険会社社長で ICMIF理事も務めるサラー・エル・ ディン・ムサ氏 ICMIF Voice 79 | 2014年5月 21 人材交流の促進 マイアミで不測事態を予測する 2014年はICMIFのMORO(再保険会議)が開催される年です。 6月9日から11日にかけて、アメリカ・マイアミ市で開かれる 今回のMOROは、台風、洪水、干ばつ、土砂災害など、天候に 関連した例外的な大規模自然災害の発生件数が世界的に増加 している中での開催となります。 22 人材交流の促進 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2014年3月末に発表 した最新報告書は、気候変動の悪影響が世界全体に広がりつつある アシャースト氏は「保険業界が長期的視点を持とうとすることは よいことです。この点で、協同組合/相互扶助の保険組織は、短期的 と警告しています。IPCCワーキンググループのビセンテ・バロス共 利益を上げるというプレッシャーにさらされていないだけ有利である 同座長は「人間が作り出した気候変動の時代に生きているわたした と言えます。MOROはICMIFが50年以上にわたり取り組んでいる再 ちは、気候関連のリスクに直面しているにもかかわらず、リスクに対 保険活動の中心的存在であり、今年のMOROは会員団体にとって する準備ができていないケースが多い」と語り、予測の 大変有益なイベントとなるにちがいありません」と語っています。 必要性を訴えました。 気候変動への国際的対応において中心的役割を有している保険・ 再保険業界にとって、MOROは予測の重要性を話し合う格好の機会 となります。会議では、 「不測事態を予測する」というテーマに基づ いたセッションのうち2つが、保険損害をもたらす大規模自然災害を 扱います。一つは、2011年の東日本大震災やニュージーランドのク ライストチャーチ大地震など、キャットモデルの予測を超えた形で発 生した事象から学んだことを掘り下げて検討するセッション、もう一 つは、2012年のハリケーンサンディによる保険損害のような、必ず しも不測の事態ではなかったものの、保険業界が予測したものとは 全く異なる結果をもたらした事象について検討するセッションです。 保険業界は、モデル化技術の向上に伴い、将来の予測できない変 化もある程度予測し、軽減することができると考えがちです。 しかしそのためには、今まで以上に優れたモデルが必要なことは言 うまでもありません。 ICMIFの再保険担当責任者、マイク・アシャースト氏は、 「わたした ちは不測事態を予測する必要性を話題にしますが、IPCCの報告書 や他の科学的研究報告書を読むと、不測というよりも予測できる事 態と言った方が正しいのではないか」と語り、2014年3月にアメリ カ・ワシントン州のオソで発生した地滑りが、15年前の研究ですでに 予測されていたことを一例として挙げました。 もし、大規模自然災害の被害を補償する役割が、各国政府ではな く保険業界に期待されるのであれば、今、わたしたちが暮らす世界が 不安定であることを知っておく必要があります。地球の歴史の中で 人生はほんの一瞬であると考えると、人間が、台風やハリケーン、地 震など過去の自然災害を10年や20年という短期的なスパンでしか MOROの講演者の一人、ロンドン、カスビジネススクールのポ ーラ・ヤルザブコウスキー教授(経営戦略)は、今年に入っ てICMIFのブログに記事を寄稿しました。その一部を以下に 抜粋します。 「わたしたちの研究が示した結果の中でも重要な意味を持つと思わ れるのは、国際的な大手出再者が成長し経営統合を図る中で再保険 プログラムを再編・統合すると、最大手の再保険会社しか、巨大再 保険プログラムを引き受けるパートナーとなりえないという事実で す。これは、大手出再者にとって再保険会社との関係性が変わり、 再保険プログラムの大部分が、技術的ノウハウを持ち、大手出再者 のパートナーになれる資本を持つ一握りの巨大再保険会社に集中す ることを意味します。その他の再保険会社は、契約の継続性がある かもしれないものの、他の再保険会社や再保険市場に新規参入した 代替資本に簡単に代えられるような、ほんの一部分の取引しかでき ないということになります。 覚えていないこともうなずけます。保険業界はもちろん、これよりも ずっと長いスパンで自然災害をとらえますが、それでも、保険が普及 する前の出来事、例えば、1783年にアイスランドで発生したラキ火 山の噴火が北半球に膨大な社会・経済的影響をもたらしたことなどは ともすれば忘れがちです。 「大手出再者にとって中位以下の再保険会社の重要性が低下する と、これら再保険会社にとっては、長期的視点を持つ中小の出再者 との関係がより重要になります。このような市場の変化は、再保険 会社との関係や資本の安定性が重要視される場合、協同組合/相互 扶助の保険組織や中小の出再者にとって有利に働く可能性がありま す。市場サイクルの変動を乗り越える関係を構築するためには、 両者がお互いに情報を共有し深く理解し合うことがきわめて重要 です。協同組合/相互扶助の保険組織が、再保険会社にとって長期 的な関係を築ける魅力的な出再者となるには、再保険会社に提供 する情報の質と透明性を確保するために最善を尽くすことが必要 です。」 ICMIF Voice 79 | 2014年5月 23 人材交流の促進 デジャルダン・グループがステートファーム 保険の国内事業を買収 カナダのICMIF会員団体、デジャルダン・グループは、アメリカの 大手相互保険会社、ステートファーム保険のカナダ事業(ステートフ デジャルダン・グループの社長兼CEOのモニク・ルルー氏は買収 合意について、 「国内での保険事業を拡大し、協同組合/相互扶助組 ァーム・カナダ)を買収すると発表しました。買収により、デジャルダ 織との事業関係を構築するというデジャルダンの戦略的目標に沿っ ン・グループは国内市場でのシェアを大きく増やし、損害保険で国内 たものです。カナダ国内に指導的な保険事業を設立するために、ス 2位となり、生命保険でもさらなる事業強化が見込まれます。 テートファーム保険、クレディミュチュエル銀行、デジャルダン・グルー プという協同組合/相互扶助組織3社が手を結びました」と語りまし 相互扶助組織間のこの買収は、監督機関の認可を受けた 後、2015年1月には実施される予定です。それによりデジャルダン・ た。さらに、今後、国内で「より大きな協力関係を築く機会」をもたら す基盤となるとの考えを示しました。 グループは、ステートファームカナダの従業員1,700人、500以上の 拠点を持つ国内代理店網、国内顧客120万人を引き継ぎます。 デジャルダン・グループは2012年以来、グループの協同組合貯 蓄銀行の個人組合員を対象にした資本株式の発行により15億カナ この取引で興味深いのは、フランスの相互銀行であるクレディミ エドワード・B・バストジ ュニア氏(ステートファー ム保険会長兼CEO)、モニ ク・F・ルルー氏(デジャル ダン・グループ会長兼社長 兼CEO)、ミシェル・リュカ 氏(クレディミュチュエル 銀行社長) 24 ダドル(13億5,000万USドル)を調達し、資本基盤を強化してきま ュチュエル銀行が買収資金として、デジャルダン・グループに2億カナ した。資本株式の発行は、バーゼルIII銀行規制のティア―1(最も中 ダドル(1億8,000万USドル)の融資を決定したという点です。デジ 核となる資本)基準を満たすことを目的として行われたもので、株式 ャルダン・グループとクレディミュチュエル銀行はこれまでも共同で取 はグループの社内取引制度を通じて組合員間で取引することができ 引を行ったことがあります。またステートファーム保険は4億5,000 ます。これまでに6万人の組合員がこの株式を購入していますが、デ 万カナダドル(4億USドル)を出資して、デジャルダン・グループの無 ジャルダン・グループは今後5年間で株主数を25万人増やしたいと 議決権優先株を取得します。 考えています。 人材交流の促進 規制監督問題を 扱うフォーラムが発足 ICMIFは2012年に、同じ専門的業務を担当する会員団体の責任者同士がICMIF事 ICMIF会員団体はかなり以前から、持続可能性(サステナビリティ)に関連する取り 務局の担当者を加えて話し合い、協力する場として、リーダーズ・フォーラム(「フォーラ 組みでお互いに協力してきました。この活動を引き継ぐICMIFのサステナビリティ・フォ ム」)を発足させました。フォーラムは基本的にネット環境で運営し、必要な場合は直接 ーラムは2014年6月、世界銀行主催「第3回リスク理解ネットワークフォーラム」 (19ペ 顔を合わせる会合を持つという形で進められています。 ージに関連記事)の直前に、ロンドンで初会合を開く予定です。会合では、フォーラムと して優先的に取り組むべき事項を特定し、持続可能性や強靭性に関する国際的な議論 ICMIFは2014年の1月、 「規制監督フォーラム」という名称のフォーラムを新しく始 めました。規制問題や法的問題、業界に関する問題などを扱うこのフォーラムは、協同 に参加する方法を決め、協同組合/相互扶助の保険組織を代表した活動を進める方法 について話し合います。 組合/相互扶助組織の立場を保護し、国際機関や監督当局を動かすための支援をする ことを目的としています。 ICMIF事務局で規制監督フォーラムを担当する、国際関係担当責任者のキャサリン・ ホック氏は、 「コミュニケーション・フォーラムやその他ICMIFの作業グループと協力し て活動し、協同組合/相互扶助の保険組織を守り、その違いを打ち出したい」と抱負を 述べました。規制フォーラムは、金融安定理事会(FSB)や国連、G7、G8、G20、国際 通貨基金(IMF)、保険監督者国際機構(IAIS)、経済協力開発機構(OECD)、世界貿 易機関(WTO)、国際労働機関(ILO)などの規制監督や法整備に関連する動きを注視 していきます。 規制監督フォーラムは2014年9月に、ロンドンで初の会合を開催します。フォーラ What’s ahead: ICMIFが2014年内に開催予定の 会議とイベント 5月11日~16日 ム参加をご希望の方は、キャサリン・ホック氏([email protected]) までご連絡く マネージメントコース(イギリス・マンチェスター) ださい。 5月22日~23日 インテリジェンス委員会 コミュニケーション・フォーラムは、ICMIF会員団体でマーケティングや広報、 ブランド構築などを担当する責任者が集まる有益な場として高く評価されています。今 年の会合は11月24日から25日の2日間シンガポールで、NTUCインカム社をホスト 6月9日~11日 MORO(再保険会議)(アメリカ・マイアミ市)http://www.icmif.org/moro2014 6月12日~13日 ICMIFアメリカ協会理事会(アメリカ、マイアミ市) 団体として開催されます。ICMIFではこの会合で、ケーススタディーをもとにした 6月後半(詳しい日程は未定) 新レポート「販売効果をもたらす協同組合/相互扶助の理念」を発表する予定です。 サステナビリティ・フォーラム会合(イギリス・ロンドン) 8月19日~23日 会合ではレポートをもとに、協同組合/相互扶助の理念を活用する方法や、ICMIF LARG(ラテンアメリカ再保険グループ)(グアテマラ・グアテマラシティ―) 会員団体を支援するためにICMIFとしてどのような国際的な広報宣伝活動戦略を取 9月(詳しい日程は未定) るべきかといった問題について話し合います。ICMIF事務局では対外関係担当上級責 規制監督フォーラム会合 任者のリズ・グリーン氏([email protected])がコミュニケーション・フォーラムを担当して 10月5日~7日 います。 インテリジェンス委員会(カナダ・ケベックシティー) 10月14日~15日 ICMIF理事会(カナダ・ケベックシティー) 11月12日~14日 ICMIFアメリカ協会年次総会(プエルトリコ・サンファン) 11月24日~25日 コミュニケーション・フォーラム会合(シンガポール) ICMIF Voice 79 | 2014年5月 25 人材交流の促進 ICMIFに新しく加盟した 団体のご紹介 スイスのラ・ヴォードワーズ・アシュランス社(ヴォー州 MGEN-ISTYAグループの理事長、ジャンルイ・ダヴェ た。CURIE社は2014年6月に開催されるMORO(再保 保険の意)は、国内10大保険会社の一つで、フランス語 氏によると、グループは「国民皆保険制度を守り、強力な 険会議)に出席するほか、ICMIFマネージメントコースに 圏に本社を持つ保険会社の中では唯一の独立系保険組 社会保障枠組みの実現に向けた活動を行い、団結に基 も研修生を派遣する予定です。 織です。1895年にヴォー州の実業家や職人が集まって づいた取り組みを医療の実践に導入し、フランスで相互 設立した同社は、現在、従業員数1,550人(見習い中の 扶助の理念に基づくモデルを促進し、社会で積極的な役 80人を含む)、2012年の総保険料収入が14億スイス 割を果たすこと」を使命としています。ダヴェ氏はICMIF フラン(16億USドル) という規模を誇っています。この 加盟を「事業上の問題について助言を得るとともに、わ ほど、損害保険契約者を対象として、保険契約更新時に たしたちの事業モデルに対する理解度を向上させる機 保険料を15%割り引く剰余金還元制度を導入しました。 130年以上も前、カナダ・オンタリオ州ウォータールー 会になる」と語り、他会員団体の経験から学ぶことがプ 行政区の北部市町村の農場を対象とした火災保険会社 ラスにつながると考えています。 として設立されたノースウォータールー・ファーマーズ・ミ ヴォードワーズ社CEOのフィリップ・エベーザン氏 は、ICMIFへの加盟について「国内での位置付けが独特 CURIE社は、包括的な保険を業界の水準より20%か ら45%低い料率で提供できるとしています。 ューチュアル保険は、徐々に事業範囲を広げ、今では州 ベルギーのUAAMは国内の相互扶助の保険組織の 全域で住宅所有者保険や農場所有者保険、企業保険、 なわたしたちには、新展望を切り開き、他の相互扶助の 連合体です。UAAMは「相互扶助の保険組織連合」の略 自動車保険を販売しています。国内の農村地域向け損 組織との交流や対話の可能性を探ることが必要です。世 で、規模はそれほど大きくないものの、AMICE(ヨーロッ 害保険では大手として知られ、とくに農業市場では支配 的なシェアを誇っています。 界中の協同組合/相互扶助の組織の最新動向を学ぶの パの相互扶助の保険組織団体)に加盟済みで、ICMIFと にICMIFが最適だと考えました。会員団体同士の関係構 は8年前から非公式な形で接触してきました。UAAMの 築の可能性もあります」と語りました。 セルジュ・ジャコブ氏は「加盟までに何年かかかりました フランスのMGEN-ISTYAグループは、フランス国 ヤル自動車クラブ)は、 ドライバー向けのロードサービス 話しています。 やアドバイスを提供する自動車クラブで、会員向けに損 内で医療保険を提供する相互扶助の保険組織の連合 体で、医療保険大手として国内600万人ちかくの組合 オーストラリアのRAC WA(西オーストラリア州ロイ が、ICMIFファミリーの一員となりうれしく思います」と 害保険(自動車保険と住宅保険)ならびに金融サービス カナダのCURIE社は、カナダ国内で賠償責任保険の や旅行サービスを提供しています。会員数は75万人強 員に医療保険と社会保障を提供しています。2011年 引受けに関する危機が最高レベルに達した1988年に で、西オーストラリア州全体で50万台がRAC WAの自 にMGEN、MAEE、MNH、MGET、MNTがグループを 設立された大学向け相互扶助の保険組織です。国内の 動車保険に加入しています。交通安全や自動車の安全 結成したのがMGEN-ISTYAグループの始まりです。そ 全大学のために安定した保険料をもたらすことを事業の 性、道路計画、エネルギーや環境問題などでも啓蒙的な の後、MNHが脱退し、MCDEFとMGEFIが参加して現 目的としており、大小さまざまな大学が加入しています。 在の構成となりました。グループ内で最大の規模を持つ MGENは、教職員や大学教員、研究者、文化スポーツ関 係者、地域社会支援団体職員などを対象とした強制医 最高執行責任者のキース・シェークスピア氏は、 ることを楽しみにしています」と語りました。 「ICMIFのケープタウン総会に参加し、研修プログラム 療保険を管理しています。また、国内で医療施設を33カ や同様の組織と交流する機会など、ICMIF加盟のメリッ 所、保健センターを2,500カ所以上運営しています。 トを理解するようになりました」と加盟の理由を述べまし 26 役割を果たしています。RAC WAグループCEOのテリ ー・アグニュー氏は、 「正式にICMIFファミリーの一員とな カタールのジェネラル・タカフル社の新加盟によ り、ICMIFに加盟するタカフル事業者がまた1社増えまし 人材交流の促進 ノースウォータールー・ファーマーズ・ミューチュアル保険 CURIE社 レッド・クレーク社 MGEN-ISTYAグループ UAAM ラ・ヴォードワーズ・アシュランス社 GF 保険 ジェネラル・タカフル社 西オーストラリア州ロイヤル自動車クラブ た。2008年にカタールジェネラル保険・再保険会社の子 て有意義な洞察を得るうえで優れた基盤になると考え 会社として設立されて以来、イスラム教に準拠する倫理 ています。」 的な商品を提供し、相互扶助の原則に従い運営していま す。生命保険にあたるファミリー・タカフル(団体保険、生 命保険、信用保険、旅行保険) と損害保険にあたるジェ ネラル・タカフル(自動車保険、財物保険、海上保険、障 害賠償責任保険など)を提供しています。 協賛会員として新しくイギリスのIT企業、レッド・クレ ーク社がICMIFに加盟しました。保険向けクラウドソリュ ーションに特化した新規事業向けソフトウェア会社で、 保険業界向けに斬新な方法で低価格ソフトウェアを提供 しています。 リチャード・ゴードン氏(30ページに関連記 事)が2013年に設立した若い会社ですが、ゴードン氏 をはじめスタッフは、保険業界向け革新的ソフトウェアの 開発提供で、長期にわたる実績を持っています。同社初 のクライアントであるクイックシュア保険会社(QSIL)は 2014年1月に事業を開始し、イギリスとアイルランドの 価格比較サイトやインターネット、コールセンターを利用 して保険を引き受けています。 なおVoice78号で、デンマークのGF保険がICMIF の新会員となったことをお知らせしましたが、このほ ど、CEOのマーティン・ニールセン氏にICMIF加盟の理 由をお伺いすることができましたので以下に引用しま す。 「国際的なネットワークの一員となり、会員同士で知 識や経験を共有する新しい機会を得ることができると 考えました。知見の獲得や協力関係の構築がやりやすく なるなど、加盟することで多くの利点が生まれます。ま た、協同組合/相互扶助組織というブランド構築につい ICMIF Voice 79 | 2014年5月 27 人材交流の促進 ICMIF会員団体間の交流や共同事業の現状 ICMIFケープタウン総会 (2013年)で交流する 参加者 ICMIF加盟がもたらす大きな利点の一つに、会員団体同士で交流 このような交流は協同組合や相互扶助組織にとって自然なもの する機会があります。ICMIFは、各会員団体が情報を交換し、経験や です。協同組合運動開始時に遡る「協同組合間の協同」という考え アイデアを共有できる機会を持つことができるよう、積極的に応援し 方は、国際協同組合同盟が採択した協同組合原則にも掲げられて ています。ICMIF事務局長のショーン・ターバック氏は、会員同士が います。 直接的なつながりを持つ例が近年増加していることを、成功のしるし ととらえています。非公式な形で対話を持ち、優れた実践例や新しい ICMIF事務局は、会員同士が交流を進めるうえで重要な役割を担 考え方を共有するメリット、時には共同事業に発展させることができ っており、他会員との接触を希望する会員団体があれば、実現に向 るメリットを理解する協同組合/相互扶助の保険組織が増えている証 けた支援を積極的に行っています。ICMIF主催イベント、例えば今年 拠だと考えるからです。 開催されるMORO(再保険会議)やマネージメントコースも、交流の 場として活用することができます。 ターバック氏は、これが「ICMIFならではの強み」だと指摘し、 その理由を次のように説明しました。 「ICMIFは、協同組合/相互扶 助の保険組織が、お互いを全面的に信頼する形で交流し、関わり合 トワークのセミナーでは、タイ唯一の協同組合保険であるユニオン うことができる国際的基盤を提供しています。会員団体223社の中 生命保険とフィリピンのCARD MBA社との間に交流が芽生えまし は、同じ課題を抱え、同様の戦略を構築している保険組織がありま た。両社の関係はその後発展し、このほど協力関係に関する覚書に す。会員団体のトップ同士で話し合い、洞察を共有することができる 署名するに至りました。 のも、ICMIFに加盟する利点の一つです。」 28 2013年9月にフィリピンのマニラ市で開催されたICMIF開発ネッ 人材交流の促進 この覚書は、両社の協力関係拡大を視野に入れたもので、知見の 新会社は、MUSCCOに加盟する協同組合の組合員12万人以上 交換や経験の共有だけでなく、商品・サービスの開発と募集、投資、 のほか、各種農業生産者協同組合の組合員80万人以上、マイクロイ 技術支援の各分野も対象となっています。 ンシュランスの加入者60万人以上に向けて保険を販売します。損害 保険商品は一般国民向けにも販売する予定です。 ユニオン生命保険はこの提携は両社にとってメリットがあると考 えています。タイ保険市場での成長を図る同社にとって、生命保険と マラウィの中央銀行であるマラウィ準備銀行の年金保険監督局 損害保険の販売でCARD MBA社の持つ豊富な経験が役に立つか 長、パトリック・ムハンゴ氏は、 「この取り組みを支援します。金融協同 らです。 「この提携が実現したのは、ICMIF開発ネットワークセミナー 組合は事業のやり方が異なり、他の金融機関が対象としない人々に に参加したおかげです。このような機会をいただき感謝します」とユ も金融サービスを提供するからです」と語っています。 ニオン生命は語っています。 ウガンダでは、ケニアのCIC保険グループと、国内信用組合の全 アフリカでもICMIF会員団体が互いに協力しています。ケニア 国組織であるウガンダ貯蓄信用組合協同組合連合会(UCSCU)が の協同組合保険CIC保険グループのCEO、ネルソン・クーリア氏は 共同で、協同組合保険の新設プロジェクトを進めています。その背景 2013年12月に、マラウィ貯蓄信用協同組合連合会(MUSCCO) には、国内の既存保険会社がマイクロインシュランス商品を開発し を訪問しました。その後、話が進み、現在、マラウィでの協同組合保 ておらず、農民のニーズにも十分に対応していないという状況があ 険会社新設という一大プロジェクトに向けてお互いに協力してい ります。CIC保険グループは、経験と影響力の提供という形で協力し ます。MUSCCOは以前から、協同組合保険会社を設立したいとい ています。ウガンダの新協同組合保険も2014年7月までの発足を目 う計画を持っており、監督機関と詳細な話し合いも進めていました 標としています。 が、CIC保険グループの参加により、長年の計画が実現に向けて動 き出しました。CIC保険グループとMUSCCOは現在、戦略計画の構 CIC保険グループは、関連する協同組合開発機関との協力を通じ 築を前に市場調査を実施しており、2014年7月までに新会社を発足 て、アフリカ各国に協同組合保険を設立するための支援を行う戦略 させたいとしています。 を採用しています。 左下: ウガンダを訪問したケ ニアCIC保険グループ。CIC保 険グループCEOのネルソン・ク ーリア氏(前列右から3人目) と同グループのマイケル・ ムゴ氏(後列いちばん左) 、UCSCU会長のヌヌメ・ヤシ ン・アブバカー氏(前列左か ら4人目) 右下:マラウィ貯蓄信用協同 組合連合会(MUSCCO)の 代表者と会うネルソン・クー リア氏 ICMIF Voice 79 | 2014年5月 29 協賛会員の寄稿記事 ソフトウェアにおける種の起源: ソフトウェアの進化論 レッド・クレーク社社長 リチャード・ゴードン氏 この記事では、保険ソフトウェアが進化してきた様子を、システム の販売先、システム開発をもたらした力、システムの特徴、システム 施コストの削減が達成できます。ソフトウェア会社側は、ライセンス料 を取ることで同じソフトウェアで何回も商売することができました。 販売者などの点から、ウィットを効かせて振り返りたいと思います。 生物学を学んだ経験をもとに進化論的なアプローチを採り入れて、 大好きな自然ドキュメンタリー番組のように楽しい内容としたいと思 いながら書きました。 その後、新しいソフトやシステムが発表されますが、高価で、導入 には手作業が必要で、安全性にも疑問がありました。また、プラット フォームを購入した会社の多くはバージョンアップを行わずにいま した。同一のシステムに由来するため同一に見えても、それぞれが オーダーメイド紀 独自の特徴を持ち他との互換性がない、システムのガラパゴス化が 始まりました。 最初に現れたのは保険ブローカー(仲介人)でした。保険ブロー カーは市場を闊歩し、一般市民は保険とはブローカーのことだと思 コンフィギュレーション(設定可能)紀 っていました。ブローカーが顧客基盤と保険加入を支配していまし た。保険加入者は、ブローカーのお客様でした。その一方で保険会 顧客の要望に迅速に対応する直販保険会社が台頭し始め、保険 社は、せっせと情報を記録し、料率を計算し、料率表を作成していま ブローカーの独占状態が終わりを告げました。直販保険会社の規模 した。 が拡大し、市場を支配するようになりました。 そこで、数字を高速処理する必要性が生まれ、コンピュータを使っ 何もないところからネット保険会社が現れ、急速に市場の支配権 た保険システムが初めてお目見えしました。保険会社のIT部が開発 を争う存在となりました。市場では、販売のスピード化とさらなる費 したオーダーメイドのシステムです。メインコンピュータはワゴン車 用削減が合言葉となりました。データベースの更新にかかる費用と ほどの大きさがあり、処理能力は現在のスマートフォンに劣り、情報 手間が増大する中で、ソフトウェア会社は、リスクの設定が可能な解 の記録にはパンチカードを使用しました。これにともない、社内IT部 釈データベースを提供するようになりました。その結果、販売のスピ 門が力を持つようになります。 ード化は達成できましたが、性能や見た目、データ高速処理の簡素化 には問題が残りました。 プラットフォーム紀 保険ブローカーは中小のブローカーを飲み込んで巨大化し、引き 続き市場を支配しました。顧客基盤もブローカーが引き続き支配しま した。ハードウェアメーカーがソフトウェア開発に進出する一方で、 ソフトウェアコンサルタント会社が現れ、システム開発で社内IT部門 と競合するようになりました。新しく出現したソフトウェア会社は、あ るユーザー向けのシステムを開発した後、そのシステムの基幹部分 を、ほかのユーザーが自分のニーズに応じた改良を加えて利用でき る「プラットフォーム」として提供しました。保険会社側にとっては、す でに実証された部分を活用でき、 しかもデータ入力システムをニー ズに合わせて改良できるこの方法は、ライセンス料を支払っても、実 30 協賛会員の寄稿記事 ハイブリッド紀 のクラウドとの接続も可能で、価格比較サイトも活用できるような システムです。 価格比較サイトが市場に殴り込みをかけ始めます。莫大なマー ケティング資金と驚異的な処理量を持つ価格比較サイトの台頭に ITは大規模な資本投資を必要としない、リスクリウォードベー より、各保険会社には広告宣伝の必要がなくなり、誕生したばかり スで利用できるものになります。革新性がある企業、ニッチ企業 の会社にも市場参入の機会が与えられました。インターネットを利 が生き残る世界です。 用したカッコよさ、ブランドが天下を取る時代です。 この時代では接続性と対応速度が必要不可欠です。巨大な直 リチャード・ゴードン氏は、このほど協賛会員としてICMIFに加 販保険会社が、それでなくても低下しているシェアを守り、生き残 盟したレッド・クレーク社の社長です。 レッド・クレーク社は、イギリ りをかけて戦いを挑んでいます。従来型のソフトウェア会社が、 スの労働者協同組合で、保険業界向けITソリューションに特化し 従来のソフトウェアを改良して新しい世界に対応しようと苦慮し た事業を手掛けています。ネット販売チャネルの構築や革新的な ている一方で、新世代のソフトウェア会社が、スピード、接続性、 新商品の発表などで同社のサービスを利用することが可能です。 ユーザー経験、サイトの見た目や使いやすさという4つの柱を中 心に構築した、プラットフォームに依存しないソリューションを提 供しています 将来 将来はすでに訪れています。小規模で革新的な新規保険事業 向けに提供する、クラウドをベースにした最新鋭で低価格のハイ ブリッド型ソリューションが、だれでも手が届く保険管理システム を実現しています。インターネット接続可能の標準機能を有し、他 ICMIF Voice 79 | 2014年5月 31 協賛会員の寄稿記事 軟化する再保険料率と 再保険市場の現状 ウィリス再保険エグゼクティブバイスプレジデント ロビン・スウィンデル氏 ウィリス再保険エグゼクティブバイスプレジデント ジョン・ヘイドン氏 世界各国のICMIF会員団体の皆様は、再保険料率が下がってい るという話をご存知だと思います。保険業界紙は、過剰な再保険キ が多く、運用収入が保険引受損益をカバーしてきました。例えばアメ リカの保険市場は、1979年から2003年までの25年間、保険引受 ャパシティや再保険市場への新たな資本参入に関する記事を書き 収益は一貫して赤字となり、2000年から2010年にかけての期間を 立てています。この現象は当初、主にプロパティ・カタストロフィー市 みても、保険引受利益を上げたのは3年だけです。保険引受け環境 場に限られていましたが、代替資本の参入による波紋は次第に他の が困難でも、ウォーレン・バフェット氏が「保険フロート」と呼ぶ資金プ 市場にも広がり、今や、プロパティ種目以外にも代替資本が新規参 ールが利益を上げる機会をもたらしていました。 入しています。 アメリカの損害保険業界では、 このほどロンドンのウィリス本社で開催された業界紙「インシ n 1979年当時は、コンバインドレシオが100%のとき、 ュランス・インサイダー」主催セミナーで、弊社CEOのジョン・カバ 株主資本利益率(ROE)は16%でしたが、 ナ―は、この状況について詳しく考察し、保険リンク証券(ILS)が市 n 2012年になると、1979年当時の半分以下の7%に 場に及ぼす影響に関する話題を検証しました。 新資本流入の背景 下がりました。 このような状況に対処するために、世界中の保険会社は複数の戦 略を組み合わせることで利回りの改善を図っています。戦略の第一 金融危機以降、保険業界に対する監督機関や格付け会社の監視 は、前年度までの準備金の取り崩しを増やすこと (しかし、準備金が の目が厳しくなると、保険事業者は、発生確率は低いものの発生す 減少するに従い、難しくなる)、第二は、保険料の値上げ(アメリカで ると巨額の損失となるテールリスクに対する理解を深めるようにな はある程度成果を上げているが、その他の国では成功していない) りました。その結果、多くは自社ポートフォリオのリスク水準に問題 、第三に再保険の購入額を減らし正味収入を上げることです。このう がないことを確認しました。そこで、金融危機からの回復が進むにつ ち最後の戦略が、すでに運用利回りの後退や競争激化で厳しい状況 れ、保険業界と再保険業界への資本流入が着々と増大するようにな にさらされていた再保険会社をさらに苦しめる結果となっています。 りました。 再保険市場に流入する代替資本は規模と影響力が大きいため、 新資本が再保険市場を選ぶ理由 今後幅を利かせ大きな影響力を持つ「ゴリラ‐巨大な力」と呼ばれる こともあります。 しかし伝統的再保険会社は、ゴリラの好き勝手には 低金利環境の中で利回りの確保に苦慮している金融機関(年金フ ァンド、ヘッジファンドなど)の目には、高収益を達成してきた実績の ある再保険業界が魅力的な事業と映ります。以前は、再保険市場に 参入しようとする場合、既存の再保険事業に出資するか、新規事業 を立ち上げることが必要でしたが、どちらも簡単なことではありませ ん。 しかし、カタストロフィボンドやILW(インダストリー・ロス・ワラン ティー、特定地域で一定レベルの損失を補償する)、担保付再保険な どの人気が高まるにつれ、再保険業界に参入するハードルがかなり 低くなったため、多くの投資家が参入するようになりました。 再保険会社が受ける圧力 再保険会社は、競争激化に直面する一方で、低金利環境の影響に より、元受保険会社の再保険需要が低下しているという問題も抱え ています。元受保険会社は従来、運用利回りで収益を確保すること 32 させてはいません。縮小する再保険市場でのシェア維持を図るた め、防衛的かつ競争的に対応しています。 協賛会員の寄稿記事 さらに伝統的再保険会社は、他のビジネスを求め つものになると感じています。ウィリスでは、これをふまえて、オー て迅速に行動しています。これには、 プンでバランスのとれたやり方で、新資本と伝統的再保険を利用 することの必要性を提案しています。 n 専門的知識を必要とする、あるいは自社能力外の種目に関 するMGA(管理総代理店)の設立 n 料率が比較的高い水準で推移しているアメリカのエクセス・ アンド・サープラス・ライン(非認可保険会社から購入せざる を得ない損害保険カバー)への進出、ロイズの特別目的シン ジケートや比例再保険特約での多角化などが含まれます。 また、伝統的再保険会社と元受保険会社の間に強力な関係が ある場合などは、代替資本の入る余地がないこともあります。 代替資本は本当にゴリラなのか 代替資本と一口に言いましたが、新規参入資本は、投資戦略や 事業計画が異なる多様な資本で構成されています。その中でもす でに実績を上げている資本は、新規参入資本というよりも伝統的 再保険会社に近いという方が適切な場合もあります。再保険市場 を収益性が高い市場と考え、短期的な利益を求めて参入する資本 もあります。また、長期的な視点で参入し、そのために独自の体制 を築き上げようとしている資本もあります。 ウィリスの考え ウィリスでは、再保険市場の現状は当面続き、新規資本の一部は 市場に残るであろうと考えています。これは、出再側にとって必ず しも悪いことではありません。市場関係者の多くは、今後の再保険 市場は、出再者にとっての選択肢が多い、強力で優れた資本を持 ICMIF Voice 79 | May 2014 33 ホスト団体: プエルトリコ・セグロス・ムルチプレス協同組合 ICMIFアメリカ協会 第22回年次総会 Americas 日程:2014年11月12日~14日 場所:プエルトリコ、サンファン ICMIFアメリカ協会の第22回年次総会が、2014年11 月12日から14日の日程で、サンファン(プエルトリ コ)のインターコンチネンタル サンファンで開催 されます。 • 募集チャネルにおける革新的取り組み 2日半にわたる年次総会には、西半球や世界各地の協同組 合/相互扶助の保険組織からCEOや理事、上級管理職が多 数出席します。 • 南北アメリカにおける協同組合/相互扶助の保険組織 の評判 • CEOパネルディスカッション「革新力で競争に 立ち向かう」 • 民主的運営の動向 • 事業統合・提携・事業協力における革新性 • 保険事業が世界的気候変動から受ける影響 今総会のテーマは「革新性」です。組合員(契約者)所 有型保険組織の課題や事業機会と関連するこのテーマを もとに、次のようなディスカッションを予定していま す。 • 規制監督とその地域的・国際的動向 アメリカ協会と年次総会に関するお問い合わせは、ICMIF アメリカ協会専務理事のエド・ポッター氏までお願いし ます([email protected])。
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