気候変動対策に国際社会が 合意したCOP21パリ会議

voiceMagazine
International Cooperative and
Mutual Insurance Federation
‘A Global Reach for Local Strength’
国際協同組合保険連合情報誌
気候変動対策に国際社会が
合意したCOP21パリ会議
CEOインタビュー:ロマナ・アブディン氏
大々的な戦略的見直しをもとに事業をリフレッシュ
Y世代:明日の顧客を今日つかむ
情報革新への対応に後れを取っていませんか
VOICE 84号(2016年1月)
voiceMagazine
ISSUE 84/JANUARY 2016
編集および製作
編集責任者:フェイ・ラジャー
副編集責任者:アリソン・グラント
デザイン: ギャレス・ケンドリック
寄稿
アンドリュー・ビービ
ショーン・ターバック
フェイ・ラジャー
アリソン・グラント
ジョナサン・L・シュワルツ氏
マイケル・A・ハミルトン氏
巻頭言
1 2016年は実績作りの年
影響力
指導力
翻訳
フランス語:
ハイアット・ディファラ
アリソン・グラント
スペイン語:
Flow Languages
アリソン・グラント
24 ポーリン・グリーン氏が協同組合のルネッサ
ンスにおける保険事業の重要性を語る
日本語:
ジェイムズ理江子
記事の寄稿について
ICMIFでは会員団体と協賛会員の皆
様から記事の寄稿を募集しておりま
す。ただし受け付ける記事は時事問題
を扱ったもので、会員団体間の連帯事
業、協同組合/相互扶助の組織の優れ
た実践例、規制問題、組織の合併や統
合、業界の動向や課題に関する報告や
コメント、業界の会議やイベントの開催
告知に関するものとします。
非会員団体からの寄稿については、協
同組合/相互扶助の組織に焦点を当て
た記事を受け付けます。
寄稿記事については、ICMIFが編集す
る権限を有するものとします。
記事寄稿に関するお問い合わせは、
副編集責任者のアリソン・グラント
([email protected])
までお寄
せください。
26 ICA新会長にモニク・ルルー氏が選出
2 CEOインタビュー:ロマナ・アブディン氏
大々的な戦略的見直しをもと
に事業をリフレッシュ
6 CEOインタビュー:アン・ソンマー氏
革新の若芽を育てる
10 ICMIFの活動により協同組合/相互扶助の保
険組織が注目を集めたCOP21
11 国連気候変動サポートチームが金融に関する
レポートを発表
購読の申し込み
+44 161 929 5163
[email protected]
www.icmif.org
有益な情報の共有
28 イギリスで協同組合/相互扶助の保険組織に
よる後配株発行が可能になる
人脈交流の促進 30 アルゼンチンの会員団体がイギリスで研修プ
ログラムに参加
32 MORO講演者にロイズ保険組合のインガ・ビ
ール氏が決定
33 会員同士の協力
全労済とスライベント・フィナンシャル社が
組合員参加戦略の優れた実践例を共有
Front cover image: Secretary-General
Ban Ki-moon (right) addresses the
Comité de Paris at the UN Climate
Change Conference (COP21). Also
pictured: Laurent Fabius, Minister
of Foreign Affairs and International
Development (France) and President
of COP21
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Voice is published by the International
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Federation (ICMIF), Denzell House,
Dunham Road, Bowdon, Cheshire,
WA14 4QE, UK.
27 中国が相互扶助の理念に基づいた保険への
関心を示す
協賛会員の寄稿記事
12 持続可能な発展を目的とした政策構築には
保険業界が欠かせない
- ヤノシュ・パストール氏
34 アメリカの協同組合/相互扶助の保険組織と
A.M.ベスト社の格付け
A.M.ベスト社上級財務アナリスト
モーリス・トーマス氏
人脈交流の促進 14 国連が持続可能な金融システムの
構築を訴える報告書を発表
36 ICMIF新会員の紹介
16 インドとフィリピンでICMIFの開発戦略が実
施段階に入る
イベント 18 Y世代:明日の顧客を今日つかむ
37 ICMIFイベントスケジュール
20 情報革新への対応に後れを取っていませんか
22 事業モデルの理解向上のために:ICMIFが行
動を促すグローバルマニフェストを発表
12
巻頭言
2016年は実績作りの年
ICMIF事務局長 ショーン・ターバック氏
ちょうど1年前に発行されたVoiceの巻頭言でわたし
今回のVoiceでは、ICMIFがリーダーシップを発揮
は、仙台の国連防災世界会議、国連持続可能な開発
している取り組みの数々を取り上げています。スマー
目標の策定、COP21パリ会議など重要な国際会議
ト・リスク投資プロジェクトには多くの関心が寄せら
が相次いで開催される2015年は、多忙な年になり
れています。G20ビジネスサミット(B20)作業部会
そうだと述べました。何よりICMIF総会がミネアポリ
での取り組みも成果を上げています。
スで開催される年でもありました。
中国で今、相互扶助の理念に基づく保険事業の概念
2015年はたしかに重要な年でした。国連のリーダー
が大きく注目されているように、わたしたちの事業に
シップのもと国際社会は地球を取り巻く危険や危機
は、過去の実績だけでなく力強い将来があります。し
的状況に立ち向かう一歩を踏み出しました。それは
かし、国連加盟国のおよそ4割の国には、協同組合/
大きな一歩ではないかもしれません。しかし確実な
相互扶助の保険に関する法律が存在しないことを考
一歩です。
えると、より一層の努力が必要だと痛感します。
ICMIFにとっても2015年は成果の年だったと言える
2015年、目の前の頑丈なドアを開けて一歩踏み出
でしょう。協同組合/相互扶助の保険組織への理解を
したわたしたちは、今年、実績作りが求められていま
高め発言力を増すための努力が結果を出しつつあり
す。そのためにはICMIF会員団体の皆様の力が必要
ます。政策立案者やオピニオンリーダー、保険監督者
です。ICMIFと会員団体が力を合わせればますます
などの間で、協同組合/相互扶助の保険組織の重要性
強くなり、資源が強化されます。ICMIFの活動への
を理解する新たな動きが見られます。自然災害リスク
積極的関与がICMIFに加盟する価値の増大につなが
の削減、貧困緩和、持続可能な発展、気候変動対策
り、それが事業の強化をもたらすのではないでしょ
などの分野において、国連持続可能な開発目標を達
うか。
成するためのグローバル戦略で重要な役割を果たし
貢献する能力を有していることが、理解されるように
このようにいろいろな可能性を考えると、2016年も
なっています。
楽しみな一年となりそうです。ICMIF会員の皆様にと
っても今年が素晴らしい一年となりますよう祈念い
ICMIFは2015年、協同組合/相互扶助の保険組織に
たします。
ついて総合的にしかも分かりやすく説明し、より優れ
た事業となるための対策を求めた「グローバルマニ
フェスト:いのちとくらしを守る」を発表しました。マ
ニフェストは、関係者に適切な事業環境の整備を求
め、改善点を具体的に示しています。ICMIF会員団体
が国の政治家や保険監督当局に説明を行う際にも参
考資料として役に立つものと思います。
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 1
指導力
CEOインタビュー:
ロマナ・アブディン氏
大々的な戦略的見直しをもとに
事業をリフレッシュ
ロマナ・アブディン氏はシンプリーヘルス社を、病気ではなく健康を語る事
業にしたいと考えています。Voiceが、その意味を伺いました。
ロマナ・アブディン氏が最
高経営責任者を務めるイギ
リスのシンプリーヘルス社
は、1870年代に設立された
基金をルーツとする相互扶
助組織で、国が無償で医療を
提供する(ただし処方箋代、
歯科治療費などをのぞく)国
民保健サービス制度が設立
されるずっと以前から医療費
の保障を提供してきました。
この数年間は、現代のイギリ
ス社会における役割を戦略
的に見直す作業を全社的に
進め、その結果に基づいて大
規模な事業買収と事業売却
を行いました。2016年は、
新事業戦略を軌道に乗せる
年となります。
アブディン氏は2001年、
人事総務担当役員として
ロマナ・アブディン氏
シンプリーヘルス社に入社
し、2003年、最高経営責任者に就任し アブディン氏。以下、引用文はアブディ
ン氏の言葉。)
ました。
「戦略的見直しを始めたのは、
事業に新たな視点を導入したいと思っ
たからです。新たなチャレンジとチャン
アブディン氏は、老舗の相互扶助組織
が持つ遺産と伝統を大切にし、相互扶
スを求めるためです。従来のやり方の延
長線上に事業の前進はありません。トッ 助の理念をもって戦略的見直しに着手
しました。
「組織の原点に立ち戻り、そ
プの役割とは、事業を長期的に持続可
れに新鮮な風を吹き込み、現代的なも
能な将来に導くことだと考えます。」
(
2 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
のにすることが、きわめて
重要です。ですから、職員に
とって何が大切か、職員が
守り続けたいものは何かを
考えました。次に、お客様
が本当に求めているものは
何か、お客様のニーズがど
のように変わっているかを
見ていきました。」
また、内部の声だけでなく
外部の声も取り入れること
の必要性を認識し、事業の
あらゆる側面を、拡大鏡で
眺めるように隅から隅まで
観察しました。
「過去に、今
回のような徹底した見直し
を行ったことがなかったの
で、外部のノウハウを利用し
ました。内部の専門知識と
組み合わせて、シンプリー
ヘルス社の事業に対する本
当に正直な評価、お客様の
眼を通した見方を得るためです。」
見直しの結果、シンプリーヘルス社の根
本的役割を考える出発点を「病気など
健康でないこと」から「健康のこと」に
変えたのです。
「人生を楽しんでもらう
ために、病気についてではなく、日常の
健康に焦点を当てることにしました。」
指導力
戦略的見直しの結果行った最大の決断
は、プライベート医療保険(国民保健サ
ービス制度外で診察や治療を希望する
人向けの保険)事業の売却でした。シン
プリーヘルス社はプライベート医療保
険で国内5位にランクされ、個人や企業
向けプライベート保険だけでなく、大企
業の健康保険制度も運用していました
が、2015年8月に大手保険会社のアク
サに売却しました。アブディン氏はこれ
を、
「シンプリーヘルス社の歴史を左右
するような大きな出来事」と形容します
が、その裏には、
「プライベート医療保
険事業を売却して得た資金で、腰痛、歯
痛、視力の衰え、移動能力や自立性の問
題など、日常的な健康問題に焦点を当て
た事業を加速させたい」という思いがあ
りました。
現在、シンプリーヘルス社は、
「シンプリ
ー・キャッシュプラン」と「デンプラン」
を事業の2大柱と位置付けています。
「
シンプリー・キャッシュプラン」は現金
給付型医療保険で、歯科治療、検眼と眼
鏡、理学療法、その他療法にかかった費
用を、保険料に応じて設定された年間
上限額内で支払う保険です。保険料は4
段階に分かれていて、1カ月11.50ポンド
(17USドル)から加入することができ
ます。
2011年に買収した「デンプラン」事業
は、イギリス国内最大の歯科治療プラ
ンです。シンプリーヘルス社はデンプラ
ン取得により事業内容を強化し、加入
者数を2013年の180万人から200万
人以上(2014年末現在)に増やすこと
にも成功しました。デンプランの特徴
は、2,500名近くいる「デンプラン大
使」の存在です。国内の歯科医院と密接
な関係を維持し、医院内の歯科の知識
を持つスタッフにデンプランへの加入を
勧めるデンプラン大使になってもらって
います。デンプラン事業では、ITインフ
ラの整備にも多額の投資を行い、成長
を支援しています。
デンプランの概念はペット保険にも拡
大しています。デンプランは2011年に
買収される以前からすでにペット保険
に乗り出していました。そこで、これを
基盤としてペット保険事業の拡大を考
え、2014年から2015年にかけてペッ
ト保険事業2社を買収しました。その結
果、ペット保険市場では国内最大手とな
り、加入動物数は数10万頭にのぼって
います。シンプリーヘルス社では、ペット
2015年のICMIF総会で、本会議「わたしたちの違いを訴える」に参加したアブディン氏
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 3
指導力
シンプリーヘルス社が支援する慈善団体PODは、
入院児を楽しませるためにマジシャンを派遣するな
どの活動を行っている
ない、役員とは自らの考えや課題を提供
する戦略的パートナーであるというのが
わたしの考えです。」
保険市場が急速に成長しているため、今
後さらに拡大する大きな機会があると
考えています。
その他の事業では、
「インデペンデン
ト・リビング」というシニアカーや健康
な生活を送るために必要な用具を販売
する店舗網を国内で
展開しています。アブ
ディン氏はこの事業
でも成長をもたらす
買収機会があればそ
れを逃さない戦略を
取っており、この2年間に2件の買収を
実施しました。その結果、店舗数は12店
舗に拡大し、とくにミッドランド地方で
強力な基盤を築きました。
員や社風を考えること、買収の目的を明
確にすること、被買収事業とその従業
員から進んで学ぼうとすることです。買
収によりもたらされた多様性や新しい
考え方をうまく利用することが必要で
す。」
アブディン氏は、もともと法廷弁護士と
して活躍していました。
「弁護士になろ
うと思ったのは、自分に自信を付けた
い、いろいろなことをするスキルを身に
付けたいと思ったからです。肉体的にも
精神的にもたいへんな仕事でしたが、
法廷で弁護をするこ
とは好きでした。しか
し、法廷弁護士は単
独で仕事をしなくてな
らないのが辛いとこ
ろでした。」
「見直しを行っても、その結果、何も決断しようと
しないのなら、見直しをしない方がましだ」
アブディン氏は人事部長を務めた経験
もあり、事業買収後に、買収に伴う問題
が落ち着き、順調に動くようになるまで
時間をかけて様子を見ることの重要性
を認識しています。
「重要なのは、従業
- ロマナ・アブディン氏
シンプリーヘルス社が行ったような大々
的な戦略的見直しでは、見直しそのもの
よりも実施が問われます。
「見直しを行
っても、その結果、何も決断しようとし
ないのなら、見直しをしないほうがまし
です。わたしは、見直し作業に、非常勤
役員も含めた役員全員に適材適所で関
わってもらいました。役員会とは常に話
し合いを行いました。報告書を示して今
後の希望を述べるのが役員の仕事では
4 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
そこで、法廷での弁護活動をやめて企
業内弁護士になり、娯楽産業や金融サ
ービス業(ロイズTSB銀行)に勤務しま
した。シンプリーヘルス社に転身した時
は、保険業以外で培った視点を備えてい
たことになります。
「商品やサービスに
焦点を当てすぎている、というのが保
険に対する印象でした。例えば、住宅ロ
ーンを求める人が本当に欲しいのはマイ
指導力
ロマナ・アブディン氏とシンプリーヘルス社役員(右から3人目は会長のケン・ピゴット氏)
シンプリーヘルス社の事業報告書は相
互扶助組織としての立場が強調されて
います。利潤を上げる必要性と違いを
作りたいという願いの2つにうまくバラ
ンスを取って、業績を財務諸表とそれ以
外の両方で評価しています。具体的に
は、相互扶助組織として健康の社会的
な意味合いを考え、利益の中から健康
改善に寄与するような団体や事業に寄
付や資金提供を行っています。例えば
2014年は640万ポンド(970万USド
ル)の利益の中から140万ポンド(210
万USドル)がこの目的のために使われ
ました。寄付や資金提供先は主に健康
関連の慈善団体で、子ども病院や小児
科病棟、ホスピス、デイケアセンター、
特別支援学級、養護ホーム、老人ホーム
などにピエロやマジシャン、人形劇団、
バンドなどを派遣して楽しんでもらうこ
とを事業とする慈善団体PODもその1
つです。
アブディン氏は、医療と切っても切れな
い子ども時代を送りました。父親は医療
関係者として50年間働き、アブディン氏
自身もポリオを発症し長く治療を受けま
した。いつも自分の生き方を支援してく
れた父親を尊敬しています。
「父は常に、
『できないことはない』と言っていまし
た。今は、わたしが自分の子ども(19歳
と20歳)に向かって、同じことを言って
います。」
アブディン氏は、新しい航海に乗り出し
たシンプリーヘルス社のかじ取りと、新
しいチャレンジに立ち向かうことを楽し
んでいます。
「わたしにとって大切なの
は、学ぶこと、事業を常にフレッシュに
すること、自分自身に立ち向かうこと、
そして、お客様を理解することです。こ
れからもずっと大切にします。」
シンプリーヘルス社の収入(2010年~2014年)
総保険料収入(単位:千ポンド)
ホームなのです。住宅ローンではありま
せん。歯科治療を受ける人が欲しいの
は虫歯のない歯ではなくて、笑った時の
きれいな歯並びなのです。」
400,000
400000
350000
350,000
300000
250000
300,000
200000
150000
250,000
100000
50000
200,0000
2010
2011
2012
2013
2014
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 5
指導力
CEOインタビュー:
アン・ソンマー氏
革新の若芽を育てる
スウェーデンのレンスフォーシェクリンガー保険は独特の所有形態を有して
います。所有形態と役割について、最高経営責任者のアン・ソンマー氏に伺
いました。
アン・ソンマー氏に、レンスフ
ォーシェクリンガー保険にお
ける自分の役割をどうとらえ
ているか尋ねたところ、温室
栽培という答えが返ってきま
した。
もちろん、本当に温室栽培
をしているわけではありませ
ん。オフィスには苗も、じょう
ろも、腐葉土を入れる植木
鉢もありません。しかしレン
スフォーシェクリンガー保険
には、革新的な考えを取り入
れながら新種目を育て上げ、
出資者である23の相互扶助
の保険組織にバトンタッチす
る、という重要な役割がある
ことを考えると、温室栽培と
はまさにピッタリな表現だと
言えるでしょう。
レンスフォーシェクリンガー
アン・ソンマー氏
保険が属するレンスフォーシ
スクールが教えるような考え方とは反
ェクリンガー・グループの構造は、民間
対の、非中央集権的なやり方だからで
保険会社や銀行と異なる方法で事業を
行っていることを示す、実に興味深い一 す。グループは、レンスフォーシェクリ
例です。合併買収を通じて一元的で中央 ンガー保険のほか、銀行、ユニットリ
ンク事業、生命保険事業、不動産事業
集権的な組織を作るという、ビジネス
6 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
で構成されており、相互扶
助組織である23の独立系
保険会社が所有していま
す。その顧客数を合わせる
と、350万人以上にのぼり
ます。
23の保険会社はすべて、長
年にわたり地方・地域ベー
スの事業を行っており、一
番の老舗は200年以上の
歴史を誇っています。農業
主体の保険組織として創業
されたという点も共通して
います。1930年代に入ると
23社は、各社の再保険ニ
ーズを集めて再保険契約を
確保しようとしました。これ
が、レンスフォーシェクリン
ガー保険の始まりです。この
ような経緯から、80年経っ
た今でも再保険を主力事業
の一つとし、内部のリスクプ
ールと外部再保険会社への
出再の両方でグループの再保険ニーズ
を手配しています。現在、再保険事業は
保険料収入の12%を占めています(た
だし、全体の利益に占める割合はこれ
を下回ります)。
指導力
2015年ICMIF総会の「新しい考え方、新しいビジネスチャンス」をテーマにしたパネルディスカッションでパネリストとして登壇したソンマー氏
他の主力事業では、
「アグリア」の商品
名を持つペット・動物保険事業が国内
市場で59%のトップシェアを誇り、保
険料収入と利益に大きく貢献していま
す。ペット・動物保険事業の歴史は、国
内初の馬の保険を提供した1890年に
までさかのぼることができます。
「アグリアは、小動物とウマ科の動物に
特化した動物保険で、世界でも最大手
の一つに数えられています。動物保険
では、動物の健康とケアを第一に考え
ています。獣医にスタッフとして加わっ
てもらい、獣医としての見地から意見を
述べてもらっています。動物に対するこ
とのような取り組みが、アグリアの保険
商品への信頼につながっています。」
(
ソンマー氏、以下、引用文はソンマー氏
の言葉)
ソンマー氏ほど、アグリア商品の開発を
指揮するのに適した人物はいないでし
ょう。自身も乗馬をたしなみ、自宅では
馬を5頭、犬を3頭、猫を2匹飼っている
からです。それだけでなく、馬術の障害
飛越で正しく柵やゲートを越える方法
が、最高経営責任者としての仕事に役
立っていると考えています。障害飛越で
は、前方の目的物から目を離さないよ
うにしないと、落馬の危険が高まりま
す。事業戦略でも同じように、前方、つ
まり将来の動向を見据えることが大切
です。
国内のペット保険市場は近年、急速に
発展しており、2014年の事業ボリュー
ムは前年から大幅に伸びました。アグリ
アの商品はスウェーデンのほか、デンマ
ーク、ノルウェー、イギリスでも販売して
おり、とくにデンマークで大きく成長し
ています。
「2017年にはフィンランドに
進出する計画です。フィンランドではペ
ット保険がスウェーデンほど普及してい
ませんが、国民は動物愛護の精神を持
っています。フィンランドにもペット保険
を提供する保険会社がありますが、アグ
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 7
指導力
リアのようなペット・動物保険専門の会
社はありません。」
2014年、アグリア事業は保険料収入が
24億スウェーデンクローネ(2億7,000
万USドル)で、レンスフォーシェクリン
ガー保険の保険料収入(46億スウェー
デンクローネ=5億3,000万USドル)
の5割以上を占めました。ソンマー氏に
よると、近年、利益率は、好調な事業成
績と運用収益の増加を背景に、着実に
伸びています。
今後成長が見込まれる事業として「温
室」の中で育てている種目について尋
ねると、医療保険とその関連事業が挙
げられました。スウェーデンでは、疾病
や傷害、事故、失業、死亡などに備え収
入を保障する保険に加入する人が増加
しています。一方、長期治療が必要な社
員のために医療保険プランを用意した
いと考える企業も増えています。医療保
険の人気も高まっており、現在60万人
が加入しています。競争が激しい市場で
すが、ソンマー氏は、医療保険市場で成
長する好位置につけていると考えてい
ます。
2015年のICMIF総会でソンマー氏は、
今後5年間に、競合他社の顧客を取り込
んでシェアアップを図るだけでなく新分
野も開拓すれば保険料ボリュームの倍
増も不可能ではない、と述べました。
「お客様は変化を求めています。情報技
術の進歩により共有型経済(シェアリン
グエコノミー)が拡大しているように、可
能性はどこにでもあります。」
レンスフォーシェクリンガー保険は、商
品の開発や販売でグループ内の銀行や
その他事業と提携しています。例えば、
銀行の住宅ローンを借りるお客様は、レ
ンスフォーシェクリンガー保険の支払い
保障保険に加入でき、銀行で、アグリア
ブランドのクレジットカードに加入でき
ます。しかしソンマー氏は、保険はシン
プルであるべきだと強く考えており、契
約内容を分かりやすくし、事務処理もシ
ンプルにしています。
「モノのインターネ
ットの時代では、透明性と簡潔さが求
められます。わたしたちの約款がユーチ
ューブで見られる日がくるかもしれませ
ん。」
ソンマー氏は、1980年代初頭にストッ
クホルム大学経済学部を卒業し、保険
会社に入社しました。再保険でめきめき
と頭角を現し、再保険会社のワサ・イン
8 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
ターナショナル社で最高財務責任者と
最高経営責任者を務めました。レンスフ
ォーシェクリンガー保険の最高経営責
任者に就任したのは2000年7月です。
プライベートでは、オーストラリア人のご
主人との間に3人のお子さんがいます。
成人した2人のお子さんは独立しました
が、一番下の10代のお子さんは一緒に
暮らしています。そのほかに、小さい時
に両親を亡くし、ソンマー氏ご夫妻に引
指導力
き取られた20代のラトビア人の男性も
家族の一員です。独立した長女は、10代
の時に難民としてスウェーデンに入国し
たエリトリア人とアフガニスタン人を受
け入れています。クリスマスには家族全
員が集まり、賑やかでした。
ソンマー氏は多忙な毎日を楽しんでいま
す。最高経営責任者としての秘訣は
「時間厳守、約束を守ること、素晴らし
い同僚がいること、仕事と家庭の両方
で最高の人生を期待すること」ですが、
人生を楽しむためのモットーは「馬に乗
り、できるだけ速く疾走すること」だそ
うです。
「お客様は変化を求
めている…可能性は
どこにでもある」
- アン・ソンマー氏
保険料収入(単位:百万スウェーデンクローネ)
レンスフォーシェクリンガー保険の保険料収入 (2008-2014)
5,000
5000
4,000
4000
3,000
3000
2,000
2000
1,000
1000
00
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 9
指導力
ICMIFの活動により協同組合/相
互扶助の保険組織が注目を集めた
COP21
2015年12月のCOP21パリ会議では、議長を務めたフランスのファビウス外相がパリ協定採択の木槌を下ろす前
から、気候変動に対する強靭性を強化するための取り組みで金融業界が果たすべき役割が論じられていました。
パリでは、2009年のCOP15で全世界
的な合意に達することができなかった
こともあり、合意にこぎつけたことへの
高揚感があちこちに見られました。一方
で、世界の気温上昇を産業革命以前の
水準から2度未満、できれば1.5度に抑
えるという目標に合意したことで目的が
達成されたのではなく、困難な取り組み
に向けてのスタートであるいう認識が広
く見られました。
Voice今号は、国連気候変動枠組条約
担当事務総長補佐のヤノシュ・パストー
ル氏のインタビュー記事を掲載してい
ますが、同氏がインタビューで述べて
いるように、炭素排出型経済と地球温
暖化からのパラダイムシフトにおいて、
保険業界は重要な役割を担っていま
す。ICMIFはCOP21の作業部会で大き
な貢献をしたほか、パリ会議でも、協同
組合/相互扶助の保険組織の貢献と役
割を指摘する機会を持ちました。
10 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
ICMIF事務局長のショーン・ターバック
氏は、COP21でのICMIFの活動につい
てつぎのように語りました。
「保険業界ならびにICMIFとその会員
団体にとって画期的な一歩となりまし
た。COP21の主要会議でスマート・リ
スク投資プロジェクトなどICMIFの取り
組みに言及するスピーチがあり、大きな
関心を呼びました。協同組合/相互扶助
の保険組織のプレゼンスが高まりまし
た。」
指導力
COP21パリ会議・気候変動金融セッションでのショ
ーン・ターバック氏
開幕日には、国連事務総長が中心と
なって立ち上げた「気候変動に対す
る強靭性イニシアティブ」
(13ページ
に詳しい記事)が発表されました。ヤ
ノシュ・パストール氏が座長を務めた
気候変動金融セッションでは、協同
組合/相互扶助の保険組織の役割が
脚光を浴びました。このセッションで
ターバック氏は、フランスのサパン蔵
相と並んでパネリストを務めました。
国連気候変動サポートチームが
金融に関するレポートを発表
国連の気候変動サポートチーム
は、2015年12月のCOP21パリ会議
を前に、気候変動対策における金融
業界の役割に焦点を当てたレポート「
気候変動金融における民間の動向」を
発表しました。
レポートは、低炭素社会への移行と気
候変動に対する強靭性強化に向けた
投資額が拡大するなど、金融機関と機
関投資家が先進国、新興国の両方で
行っている取り組みを歓迎し、その一
つとして、ICMIFのスマート・リスク投
資プロジェクトを挙げました。
(スマー
ト・リスク投資プロジェクトについては
Voice83号の記事をご覧ください。)
ターバック氏は続けて次のように語
りました。
「協同組合/相互扶助の保険組織に
は、持続可能性の目標を反映する理
念や価値観があります。多くの団体・
組織はすでに、気候変動と気候変動
が引き起こす社会・経済的変化に関
連する課題への対応で指導力を発揮
しています。ICMIFは、国連環境計画
金融イニシアティブ・持続可能な保
険原則の発足メンバーです。この原
則は、保険業界に持続可能な実践を
促すことを目的としています。
「協同組合と相互扶助組織の事業モ
デルは、事業に対する長期的で持続
可能な取り組みを採用することで成
功してきました。ですから、持続可能
性において指導力を発揮するのに何
ら不思議はありません。国連と国際
社会によるパリ協定の目標に向けた
取り組みを支援し、わたしたちの役割
を果たしていきたいと思います。」
また、事業活動の炭素排出量の大きい企業の株主が懸念を示しているこ
と、企業内部の炭素価格を導入する企業が増えていること、グリーンボンド
市場が急速に発展していることも言及しました。
保険業界の役割については、
「気候変動の影響から逃れられない状況が訪
れている現在、保険業界は対応策を拡大しています。先進国、途上国を問わ
ず、人命や財産の被害を補償する保険の加入件数が着実に増え、リスク軽
減や災害時の対応にも進歩がみられます」と評価しています。
保険損失額の中で気候関連の損失が占める割合は、先進国の場合はおよそ
30%から50%に、途上国の場合は同1~3%から4~10%へと増加しまし
た。その原因についてレポートは、リスク要因や脆弱性を理解するためのツ
ールが高度化したことと、ソブリンリスクのプール、
マイクロインシュランス、
キャットボンド、インデックス型保険など商品や取り組みの範囲が拡大して
いることを挙げています。しかも、これらの動きは変曲点に達しており、今後
は大々的な実用化への移行が期待されると指摘しています。
しかし、
「金融サービス業界では指導力を発揮する企業がある一方で、現状
維持に執着するところがあり、地理的にも違いが見られます。政策立案者に
は、低炭素社会への移行と気候変動に対する強靭性強化に向けた投資を促
すような対策の強化を求めます」とし、現在の取り組みに満足しないよう警
告を発しています。
ショーン・ターバック氏はICMIFの
ブログでCOP21での経験を語っ
ています。
www.icmif.org/blog/shaun/
insurers-are-significantlyengaged-climate-debate
レポートは国連のサイト
www.un.org/climatechange/wp-content/uploads/2015/10/SGTRENDS-PRIVATE-SECTOR-CLIMATE-FINANCE-AW-HI-RES-WEB1.pdf
に掲載されています。
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 11
指導力
持続可能な発展を
目的とした政策構
築には保険業界が
欠かせない‐
ヤノシュ・
パストール氏
ヤノシュ・パストール氏
ヤノシュ・パストール氏は、国連の気候変動枠組条約担当事務総長補佐として、2015年12月のCOP21パリ
会議の責任者を務め、パリ協定の採択に貢献しました。Voiceはパリ会議の閉幕直後パストール氏にインタ
ビューし、パリ協定の実施における保険業界の役割についてご意見を伺いました。
‐COP21パリ会議での保険業界の取り組みに満足し
ていらっしゃいますか。どのような点で、希望していた成
果を達成できたと感じていますか。
‐気候変動対策との関連で、保険会社(および年金基金
など機関投資家)が保有する運用資金をどう利用する
のがよいと思われますか。
「保険業界の取り組みに満足しています。気候変動の影響を
軽減するということに関して言えば、保険業界には明白なし
かも差し迫った財務上の利害関係があります。保険業界は
2014年の国連気候変動サミットで、420億USドルの気候変
動対応型投資を行うこと、投資額を2015年末までに840億
USドルに拡大することを約束しました。保険業界の資産運用
は、気候変動リスクにより焦点をあてた資産運用が主流にな
っています。840億USドルの目標額もすでに突破しました。
「わたしたちは、市場が真の変化を遂げようとする時を迎え
ています。変化はいろいろな形で表れています。例えば、技術
コストの大幅減により、低炭素技術の競争力が高まりました。
気候変動対策のために各国が自主的に決定する約束草案(各
国約束草案)は、野心的な投資計画を意味し、エネルギー関
連などで国の政策目標が変わりつつあります。途上国では、
持続可能なインフラ整備のために巨大な投資が必要ですが、
この投資ニーズにある程度の規模で対応できるのは機関投
資家です。保険業界が各国約束草案の実現に向けて行動する
ことがきわめて重要だと考えます。他の業界を待つ必要はあ
りません。保険業界は、このまだ目には見えないチャンスをつ
かみ、指導的な役割を維持することができるのではないでし
ょうか。
「協同組合/相互扶助の保険組織はCOP21で、スマート・リ
スク投資、つまり気候変動対応型投資を倍増する取り組みで
指導的な役割を果たしていることを示しました。その結果、
『よりスマートな』投資判断を長期的に行う文化があるという
大切なシグナルを発信しました。今後は、気候変動対応型投
資額を2020年までに当初額の10倍にするという目標に向
けて保険業界がさらなる決意を示すよう、国連として願ってい
ます。」
12 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
「投資家や資本の活用に携わる人々は未知数を嫌います。確
実性と管理可能なリスクを好みます。ですから、企業が事業活
動上の懸念を減らし、低炭素化に向けた投資を継続して行う
ために保険業界が果たすべき役割とは、リスクの管理と移転
指導力
を支援し、損失による資金上の問題を補償することです。リス
クの評価と分析、リスク軽減に対する考え方に影響を与える
力、事業モデルの持続可能性を確実にする商品の開発におい
て最適だと位置付けられているのは、世界でも最大規模の業
界の一つである保険業界です。
ブの立ち上げには、保険業界も直接関与しました。保険業界
にはイニシアティブの実施にも貢献してほしいと思います。」
「低炭素投資市場は、投資全体に占める割合はまだ低いもの
の、市場自体は成長軌道に乗ろうとしています。機関投資家に
よる低炭素投資市場への投資を促すために、保険業界には、
一定の規模を持つ投資グレードの取引が市場に参入するため
の手伝いをすることが求められます。これには、株式や負債
の引受け、リスク軽減対策の提供、グリーンボンドの発行など
が考えられます。また全体的には、一定の規模を持つグリーン
市場の開発に向けて、インフラ整備プロジェクトへの支援も
必要です。」
「野心的なパリ協定に全世界が合意したことには重要な意味
があります。なぜなら、世界中の企業と投資家に対して、今後
グローバル経済が進む道は、温室効果ガスを段階的に減らし
最終的にはゼロにする方向以外にないという明確なシグナル
を発したからです。金融分野では、低炭素化・気候変動に対す
る強靭性強化へのシフトがすでに見られていましたが、パリ協
定により、このシフトが強化されようとしています。主要金融
機関では、ゆっくりとですが確実に、気候変動が投資戦略を
左右する中核要因となろうとしています。その結果、新しい事
業チャンスが生まれるでしょう。今、気を緩めて、この重要な
投資決定をしようとしない企業は、長期的に見ると負け組に
なるでしょう。
‐気候変動対策で保険業界が果たせる役割の重要性に
ついてどうお考えになりますか。
「保険業界は、投資家として、また金融安定化フォーラムが設
立を発表した気候変動作業部会の一員として、気候変動に関
する議論で影響的な役割を担うことができます。保険と金融
サービス業界の代表で構成される作業部会では、企業に気候
変動関連情報を自主的に開示してもらうための青写真を策定
する予定です。これが実現すれば、金融機関や保険会社、投
資家その他関係者が具体的リスクを理解するのに役立つと
思われます。
「2015年11月30日に、国連事務総長が『気候変動に対する
強靭性イニシアティブ』を発表しましたが、このイニシアティ
‐COP21に向けた勢いを維持するにはどのようにする
べきだと思いますか。
「国連は、行動を促すことを目的とした2014年国連気候変
動サミットとリマ・パリ行動計画の有益な経験をもとに、パリ
協定の野心的枠組みを強化する新しい形の協力関係を進ん
で取り入れていくでしょう。パリ協定が採択された今は、持続
可能な発展の政策構築に保険業界を含める最適な機会です。
保険業界は、リスク管理、運用投資、リスク引き受けの専門家
として、強靭性と環境の持続可能性を可能にする独特の力が
あります。この意味において、
『気候変動に対する強靭性イニ
シアティブ』は、強靭性強化対策を促進する政治的勢いを吹
き込むことができます。」
ヤノシュ・パストール氏 (UN Photo/Manuel Elías)
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 13
指導力
国連が持続可能な金融
システムの構築を訴え
る報告書を発表
持続可能な発展の目標を達成するために、保険の役割も含め世界の金融シ
ステムを緊急に改革する必要性を訴える新報告書「わたしたちが求める金
融システム」が発表されました。
この報告書は、国連環境計画が2014
年1月に開始した持続可能な金融システ
ムの設計に関する調査の結果をまとめ
たものです。調査は、16名の委員で構
成される諮問委員会の監督のもとに進
められました。ICMIF元会長でコーポレ
ーターズ社(カナダ)社長兼最高経営責
任者のキャシー・バーズウィック氏も保
険業界代表として委員を務めました。
報告書の序文で国連環境計画事務局
長のアキム・シュタイナー氏は、金融シ
ステムの「再編成」には政治的選択が
必要だとして、次のように述べています。
「2008年に、この数十年で最悪と思
われる金融危機が発生しました。世界
で最も高度化されていると思われた金
融システムが引き起こしたものでした。
この金融危機により、金融システムは
単に健全で安定していればよいのでは
なく、グリーンな低炭素化経済への移
行を可能にする持続可能性を持たなけ
ればならないという認識が広まりまし
た。」
報告書は、金融機関に見られる短期間
で収益を上げようとする考え方が、将来
世代の重要性を無視する傾向を増長さ
せ、悪影響を及ぼしていると指摘してい
14 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
ます。
「持続可能な発展には、長期的な
見方をして、世代間の公平さを保つこと
が求められます。」
また、銀行や債券市場、株式市場、機
関投資家の分析に加えて、保険業界の
役割についても論じています。
「保険事
業はリスクの相互負担という原則に基
づいています。そのため、持続可能な発
展に関する集団的課題に取り組むうえ
でとくに効果的な手段です。危険を引受
ける保険会社は、金融リスクが地域か
ら世界全体に波及する前に、優れた物
理的リスク管理を押し進めるので、強靭
性の強化に貢献することができます。」
保険業界が取り組むべき課題について
は、貧困国上位100カ国で保険加入率
が3%に達していないことを指摘し、国
による保険普及率の違いを埋めること
を最優先課題として挙げています。優
れた保険は個人だけでなく経済全体に
役立つからです。
「保険は、災害発生後
だけでなく発生前にもメリットをもたら
します。保険会社は平常時から、不動産
開発業者に対して計画的で質の高いイ
ンフラの整備を求め、自社のリスクエク
スポージャーを抑えようします。災害発
生後は、経済全体の速やかな復興を後
押しします。」
指導力
2015年10月のICMIF総会の「強靭性-金融システムの構築と政策影響力」セッションでのキャシー・バーズウィック氏とICMIFのショーン・ターバック氏
保険業界にとって次に重要な課題とし
ては、監督体制とガバナンス体制を経
済・環境の長期的な現実に合わせるよ
う再調整することが挙げられており、そ
のための実践的提案も行っています。
報告書は最後に、保険引受け業務と資
産運用や投資の判断を結び付けること
に、多くの可能性が残っていると指摘し
ています。この考え方は、ICMIFが中心
となって進めているスマート・リスク投
資プロジェクト(Voice83号を参照)で
も採用されています。そのため、各国の、
また国際的な監督機関に対して、環境リ
スクと持続可能性リスクを保険監督ル
ールに組み入れるよう求めています。
キャシー・バーズウィック氏は、報告書
の勧告内容を真剣に考慮するべき差し
迫った必要があると考え、
「世界の金融
システムが現行のやり方を続けると、変
化のスピードが遅すぎる」と警告してい
ます。
バーズウィック氏は諮問委員として、保
険業界の視点が適切に反映されたこ
と、とくに、協同組合/相互扶助の保険
組織を代表して発言できたことに満足し
ています。また、協同組合/相互扶助組
織の長期的な取り組みと所有形態に基
づく地域支援の取り組みはともに、持
続可能なグローバル金融システムを構
築するうえで有意義な要因であり、協同
組合/相互扶助の保険組織は独特の役
割を担うことができると考えています。
「持続可能な発展に
は、長期的な見方をし
て、世代間の公平さを
保つことが求められ
る」
- キャシー・バーズウィック氏
「わたしたちが求める金融システム」は、下記サイトからダウンロード
できます。
web.unep.org/inquiry/publications.
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 15
指導力
インドとフィリピンで
ICMIFの開発戦略が実施
段階に入る
2015年上半期に合意したICMIFの「5-5-5マイクロインシュランス開発戦略(5-5-5戦
略)」が実施段階に入りました。戦略の第1弾として、インド、フィリピンの両国で相互扶助の
理念に基づくマイクロインシュランス開発の可能性を探る現状評価作業が完了し、両国で
実施するプロジェクトへの資金支援の呼びかけが始まりました。
5-5-5戦略(詳細はVoice82号に掲載)は、
今後5年間に新興5か国で500万世帯(2,500
万人に相当)に相互扶助の理念に基づくマイク
ロインシュランスの普及を目指すもので、イン
ド、フィリピン以外にケニア、スリランカ、ラテン
アメリカの1国を対象にしています。ラテンアメリ
カの1国については現在選考中で、間もなく決定
する予定です。
リピンの現状評価作業の結果を精査し、両国に
おいてプロジェクトの第1段階に入ることを承認
しました。プロジェクトは、今後5年間にフィリピ
ンでは200万人、インドでは20万人の新加入を
目指しており、必要な資金と技術支援を確保す
るために、資金支援団体やNGO、ICMIF会員団
体に対してプロジェクトへの参加と協力を呼び
かけています。
ICMIF開発委員会(委員長:フィリピン・CARD
MBAグループのアリス・アリップ氏)は2015年
12月にスリランカで開いた会合で、インドとフィ
ICMIFの新興市場担当上級責任者、サビエ・パテ
ル氏は次のように述べています。
「インド、フィリ
ピン両国でのプロジェクトの枠組みが整備され
16 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
2015年10月のICMIF総
会で行われたマイクロイン
シュランス関連セッション
の参加者
写真左から:サビエ・パテ
ル氏、フリオ・ホセ・バンゾ
ン氏(CARD MRI社評議
会理事)、クマール・シャ
イラブ氏(アップリフト・
ミューチュアル社専務理
事)、アンドレア・キーナン
氏(A.M.ベスト社業界担
当専務)
指導力
つつあり、両国で今後5年にわたり開発活動が
進められるという、ICMIFにとってわくわくする
時を迎えています。5-5-5戦略は、現実的で
達成可能な目標に基づいています。わたしたち
は数字ではなくて、人々の暮らしに真の違いをも
たらすことに重点を置いています。インドでは、
保険監督環境が協同組合/相互扶助組織を応援
するような体制にない、健康問題が複雑なリス
クとなっておりインフラ整備を必要としていると
いう2大要因により、目標を低く設定しました。
それでもなお、インドのICMIF会員団体と協力
し、会員団体が能力を高め営業範囲を広げるこ
とができるように支援することには、大きな価
値があると信じています。協同組合/相互扶助組
織の事業モデルが最終的に地域社会を力づける
ことができれば、わたしたちの取り組みはきっと
認められるでしょう。」
インド国内のマイクロインシュランス市場の現状
評価では、保険監督機関が民間保険会社にマイ
クロインシュランスを義務付けたという事情も
あり、近年著しい成長を遂げているものの、未
開発市場の規模は大きく巨大な可能性があるこ
とが指摘されました。国内の保険市場で協同組
合/相互扶助の保険組織が占める割合は極めて
低いものの、インドには60万もの協同組合があ
り、協同組合員は2億4,000万人に上っていま
す。相互扶助の理念に基づいたマイクロインシュ
ランスを可能にするような監督体制の構築を目
指す活動は、インドでのマイクロインシュランス
戦略にとって必要不可欠な要素です。
インドでのプロジェクトの第1段階は、ICMIF会
員団体のアップリフト・ミューチュアル社と協力
して進められます。アップリフト・ミューチュアル
社は、プネ市とムンバイ市のスラム地域に住む住
民に質の高い健康保険とサービスを加入しやす
い保険料で提供しています。インドのプロジェク
トでは、
マイクロインシュランスの加入者を20万
人増やすだけでなく、医療施設と医療従事者の
ネットワークや24時間体制の電話窓口を含む医
療インフラの整備を目標としています。医療イン
フラが整備されると、5年後のプロジェクト終了
後も、より多くの国民がマイクロインシュランス
に加入できる土台が作られることになります。地
域的には、インドでは国民の3割が都市部に住ん
でいることから都市部に焦点を当てることとし、
手始めにプネ市とムンバイ市でスタートします。
両市とも、市民の半数以上は貧困層で、スラム
地域に集中して住んでいます。
フィリピンのプロジェクトは、国内の17相互扶助
の保険組合(MBA)が築いてきた強力な基盤を
活用することができます。17組合のうち、CARD
MBA社、K-MBA社、ASKI社が第1段階に直接
参加します。プロジェクトの調整は、
マイクロイン
シュランスを扱う国内の相互扶助の保険組合に
技術支援を行う組織であるRIMANSIが担当し
ます。
フィリピンでは国民の42%が何らかの形の生命
保険に加入していますが、加入できない低所得
者層が依然として3,800万人もいます。サビエ・
パテル氏によると、現状評価では、貧困家庭もマ
イクロインシュランスに加入できるように、相互
扶助の保険組合に対して能力構築とシステム開
発の支援を行う取り組みが勧告されました。パ
テル氏は、私的な形でスタートし、今や組合員数
240万人、被保険者数1,200万人を擁する世界
でも有数のマイクロインシュランス事業に成長
したCARD MBA社について「監督環境が適切
で、優れた指導者がいれば、協同組合/相互扶助
組織に大きな可能性があることを示す成功例」
だと述べています。
RIMANSIは、プロジェクトに直接関与していな
い14の相互扶助の保険組合についても、能力強
化を目的とした支援を行います。今後は、ICMIF
会員団体と支援団体にプロジェクトについて知
ってもらい、支援を求める活動を始めることにな
ります。パテル氏は、
「このように、国内の既存能
力をもとに集中して取り組む姿勢でプロジェクト
を進めるやり方は、貧困層に必要な保険を加入
しやすい保険料で提供する方法としてはユニー
クなものだと思います。ICMIF理事会からは大き
な支持を得ているので、今後は先進国の会員団
体とプロジェクト参加について話していきたい
と思います。現在保険に加入していない貧しい人
々にとって重要なプロジェクトであると同時に、
協同組合/相互扶助の保険組織の将来を確保す
るうえでも重要なプロジェクトです」と語り、支
援を呼びかけています。
ICMIFの5-5-5戦略に関する詳細はサビエ・パテル氏
[email protected] にお問い合わせください。
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 17
指導力
Y世代:
明日の顧客を今日つかむ
2015年10月のICMIF総会後に行ったアンケートによると、考えを刺激されたセッションとして総会最終日のセッシ
ョン「明日の顧客の心を今日つかむ」を挙げた回答が数多く見られました。
このセッションでは、ICMIFインテリ
ジェンス委員会主導による調査分析
の結果(Voice82号を参照)をもと
に、1980年代から90年代生まれの若
者の心をつかむ方法を探りました。
ただし、セッションの題名は適切ではな
かったかもしれません。なぜなら、Y世
代(ポスト団塊ジュニア世代)は明日の
顧客であるだけでなく、今日の顧客でも
あるからです。この世代は、歴史上、最
も人口が多い世代で、大きな影響力を
持っています。労働人口世代で、購買力
があります。セッションのゲスト講演者
として登壇したホリー・ランソム氏(オー
ストラリア、2014年G20ユースサミット
共同議長、コンサルタント会社エマージ
ェント・ソリューションズ社社長)による
と、Y世代は2015年半ば以降、世界の
労働人口の最大部分を占めています。ラ
ンソム氏自身もまだ20代で、Y世代の真
っただ中にいます。
セッションでは、Y世代と優れたコミュ
ニケーションを取る方法や技術を開発
し、成果を上げているICMIF会員団体
18 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
の実例が紹介されました。しかし、セッ
ション後の電子投票では、
「Y世代を対
象としたマーケティングプランを開発
し、成果を上げていますか」という質問
に対し、半数を少し超える回答者が「ノ
ー」と答えたように、Y世代とのコミュ
ニケーションに苦労している協同組合/
相互扶助の保険組織があるのは確かで
す。この質問に「イエス」と答えた回答
者は2割弱にとどまりました。
Y世代との関係構築が重要であること
に議論の余地はありません。その第一
指導力
ICMIF総会の「明日の顧客の心を今日つかむ」セッションの講演者とパネリスト。写真左から、イェンス・ベレンセン氏(デンマーク、アルカ社最高経営責任者)、マシュー・ホワイ
ト氏(カナダ、コーポレーターズ社人材開発担当)、スティーブ・ガリティー氏(アメリカ、ヒアセイソーシャル社創業者兼最高技術責任者、ホリー・ランソム氏(オーストラリア、エ
マージェント・ソリューションズ社社長)
の理由として、人口の多さが挙げられま
す。ランソム氏によると、10年後にはY
世代が労働人口の4分の3を占めると予
測されています。また、この世代には、
大企業不信、上の世代と異なり絶対的
な忠誠心を持っていないこと、世代間の
基本的社会契約の破綻のつけが、自分
たちの就職難やマイホーム購入難になっ
て表れていると感じている、といった特
徴があります。
その反動からか刹那的なところもあり、
ランソム氏によると、
「同世代として恥
ずかしいのですが、
『人生は一度きり』
という言葉の省略形『YOLO』をよく使
うことが示すように、長期的なことを考
えない」世代です。これは、他のどの業
界よりも長期的な考え方と計画的資産
運用を基本とする保険業界に難題をな
げかけます。この問題に対する対策とし
てランソム氏は、
「どのような保険商品
をどのように販売するかではなく、なぜ
保険には価値があるか、という基本的な
点を重視するべきだ」と示唆しました。
Y世代は言うまでもなくデジタル世代で
す。デジタル世代の申し子は、欲しいサ
ービスや必要なサポートをすぐ手に入れ
て当然と考えています。もう一人のゲス
ト講演者、スティーブ・ガリティー氏(ア
メリカ、ヒアセイソーシャル社創業者兼
最高技術責任者)は、顧客が望むコミュ
ニケーション方法を理解し、相手が連
絡するのを待っているのではなく、こち
らから顧客側に向かう姿勢が重要であ
るとアドバイスしました。現代の消費者
は、商品情報などをウェブ上で、あるい
は自分の個性やニーズに合わせた内容
で送られてくるメール(例えば、アマゾ
ンのお勧め商品メール)を通じて入手す
ることを当然と考えています。
れだけ成功するチャンスが高くなるから
です。
ICMIF会員団体のコーポレーターズ社
(カナダ)からパネリストとして参加し
たマシュー・ホワイト氏は、コミュニケー
ションチャネルのオムニ化が必要であ
ると示唆しました。
「顧客が好きな時に
好きな方法でコミュニケーションを取る
ことができるように、オムニチャネルを
提供することがカギです。Y世代の若者
も、何か聞きたいことがあれば、コンピ
ュータではなく生身の人間に対応してほ
しいと思っています。」
Y世代は仕事に対する考え方も異なり
ます。自主性と柔軟な働き方を大切に
し、責任のある仕事を任せてほしいと
強く願っています。この点についてガリ
ック氏は「自主性と職場を変えるよう
な力を与えるとよい」とアドバイスしま
した。
ランソム氏もY世代の起業家精神を指摘
し、次のように述べました。
「起業家精
神は、就職の機会が限られているため
必要に迫られてという面がありますが、
上の世代に比べて早く上に立ちたいと
いう思いを強く持っています。会社に認
められたい、会社側にはキャリア開発プ
ランを用意してほしいと思っています。
ですから、社内での仕事に起業家精神
を持たせ、自主性と責任感を持たせるよ
うにすることが秘訣です。」
ICMIF会員団体にとっては、どのような
機会があるでしょう。ホワイト氏は、協
同組合や相互扶助組織は、Y世代にとっ
て魅力的な職場になりうると思ってい
ます。この世代は、利益よりも人間と地
球を大切にしたいという誠実さと良心
を持ち合わせているからです。
ICMIF会員団体のアルカ社(デンマー
ク)からパネリストとして参加したイェン
ス・ベレンセン氏も、人々が集まってリス
クを共有するという保険の基本的考え
に戻るべきではないかと示唆しました。
「わたしたちには、根本的変化が必要で
す。従来の保険はあまりにも一方方向で
した。今後はパートナーシップの考えで
なければなりません。組合員所有型事
業にぴったりと合う形ではないでしょう
か。」
ホリー・ランソム氏の発表スライドの1枚
ガリティー氏は、顧客一人ひとりに合わ
せた個人的コミュニケーションの必要
性も指摘しました。個人の個性やニーズ
に合わせた商品を提供し、それを希望
する方法で購入できるようにすれば、そ
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 19
指導力
マイク・プリトゥーラ氏
情報革新への対応に後れを取って
いませんか
マッキンゼー・アンド・カンパニーのマイク・プリトゥーラ氏は、2015年10月のICMIF総会にゲ
スト講演者として登壇し、
「デジタル社会が到来した今、わたしたちはだれもが技術者となっ
た」と語り、保険会社の幹部は、事業を守り発展させようとするのなら情報革新にもっと精通
する必要があると訴えました。
協同組合/相互扶助の保険組織は、情報革新の
将来を見据えて、後れを取らず対応しているでし
ょうか。総会期間中に行ったアンケートによる
と、ビッグデータや最先端の解析技術がもたら
す機会に後れを取っていないと答えた回答は3
割にとどまりました。31%が有意義な形で対応
するには1年から3年かかると答え、33%は3年
以上かかると回答しました。
技術革新の効果的活用には、運用上と戦略上の
2つの側面があります。戦略上の機会があるにも
かかわらず、運用するのが難しいため断念してし
まうことがあります。多くの企業が費用効果の高
いIT投資計画を実施しようと悪戦苦闘している
のは周知の事実であり、旧来システムの更新や
企業統合後のシステム統合はとくに大きな負担
となります。
20 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
しかしICMIF総会では、技術革新を利用して組
合員・契約者が好きな時に好きな方法で保険事
業者とやり取りすることができるような顧客中
心主義の運営モデルに移行するべきだと、講演
者が口をそろえて主張しました。その一人、ゲス
ト講演者のモニカ・ウッドリー氏(イギリス、エコ
ノミスト誌調査部門)は、
「保険会社の場合、顧
客と話すのは1年に1回だけ、というように、顧客
との接触が非常に限られているケースがよく見
られる」と指摘し、これを変えていかなければな
らないと示唆しました。また、最近イギリス国内
で実施された消費者アンケートで、
「従来の保険
会社ではなくアマゾンのような電子商取引の専
門企業から保険を購入してもよいと考えていま
すか」という質問に対し、回答者の半数弱が「は
い」と答え、
「絶対にノー」と答えたのは5人に1
人しかいなかった、との結果を紹介しました。
指導力
ウッドリー氏は、
「すべての事業はデジタル事業
になりつつあります。保険会社が優れた業績を
上げるためには、電子商取引企業にひけをとら
ない高い品質の顧客サービスと、顧客一人ひとり
の好みなどを把握したデータを持つ必要があり
ます」と語り、それを裏付けるように、ヨーロッパ
の某大手保険会社取締役が述べたという次の言
葉を紹介しました。
「ライバル保険会社のアクサ
やジェネラリより、シリコンバレー系の企業の方
にずっと脅威を感じています。」
IT投資計画を予算内でスケジュール通りに実施
するのは困難で、悪夢にうなされた責任者も多
いことでしょう。これを避けるためにゴードン氏
は、以下の対策を提案しました。
「わたしの経験
によると、計画内容の変更、とくにシステム能力
の変更が予算やスケジュールを狂わせる要因に
なることが多いので、これを絶対に避けなけれ
ばなりません。そのため、まずどの程度のシステ
ム能力が必要か十分に検討することが必要で
す。次に、必要とされたコンポーネントをソフト
ウェア会社から調達するときは、価格に変更が
生じないようにします。IT計画の対象とする事業
を決めたら、それを守ります。システム構築中に
明らかになった変更に対処する柔軟性を持つこ
とは必要ですが、費用が正当化できるかどうか
厳しく管理することがカギです。一方で、近年、
技術インフラ費用がかなり低下していることは、
プラス要因になります。」
「情報革新は、業務の改
善に役立つ。しかし、その
ためだけに情報革新を活
用するのなら機会を逃すこ
とになる」
‐リチャード・ゴードン氏
リチャード・ゴードン氏(レッド・クレーク社社長)
情報革新は、業界の体質そのものを変えている
可能性があります。ICMIF協賛会員のレッド・ク
レーク社(イギリス)社長、リチャード・ゴードン
氏は、
「情報革新は、業務の改善に役立ちます。
しかし、そのためだけに情報革新を活用するの
なら機会を逃すことになります。保険会社の顧
客が会社側とやり取りする方法を劇的に変えて
います。とくにスマートフォンの出現後、小売業や
銀行がスマートフォンの利用に乗り出しているた
め、消費者はどのような物・サービスでもスマー
トフォンを使って買ったり入手したりできると考
えるようになりました。もし、自分の加入してい
る保険会社が、24時間体制で保険加入の申し込
みや保険金請求の受け付けを行うことができな
いのなら、他の会社に簡単に乗り換える、このよ
うな時代になっています」と語りました。
情報革新の中でもとくにビッグデータとデータ
解析技術の向上は、顧客を今まで以上によく理
解し、顧客のニーズに合わせた商品を顧客が必
要としているときに提案する能力を持つチャンス
を保険会社に与えています。プリトゥーラ氏は、
協同組合/相互扶助の保険組織の場合、その所
有形態から生じる信頼関係がきちんと機能すれ
ば、民間保険会社に勝る自然な強みになる、と
語りました。ゴードン氏は、協同組合/相互扶助
の保険組織はある意味で本質的に保守的なとこ
ろがあるので、早くから情報革新の進歩に対応し
ているところはあまりないと思われるものの、追
いつくのにあまり時間をかけすぎないよう警告
を発しました。
「マラソンに例えれば、協同組合/
相互扶助の保険組織は、自分の足に非常に自信
のある場合は別として先頭集団には入らず、真ん
中集団の先頭のすぐ後ろに付けて、自分の前を
行くランナーの過ちから学ぶのがよいと思いま
す。当然、後方集団で徐々に引き離されていくと
いう事態は避けるべきです。しかし、このような
事態に陥るおそれがある協同組合/相互扶助組
織が存在すると考えます。」
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 21
影響力
事業モデルの理解
向上のために:
Protecting lives
and livelihoods
The ICMIF Global Manifesto 2015
ICMIFが行動を促すグローバ
ルマニフェストを発表
Protecting lives
and livelihoods:
The ICMIF Global Manifesto 2015
International Cooperative and
Mutual Insurance Federation
‘A Global Reach for Local Strength’
First edition
ICMIFのグローバルマニフェスト
2015年の終わりにICMIFが発表した初のグローバルマニフェスト「いのち
とくらしを守る」は、世界中で協同組合と相互扶助組織の事業モデルに対
する理解と支援を高めることを目的としたICMIFの組織的キャンペーンを大
きく前進させる一歩です。
ICMIF事務局長のショーン・ターバック
氏は、
マニフェストのねらいを次のよう
に述べました。
「協同組合/相互扶助の保険組織が世
界の経済と社会にもたらしている価値
を正式に認識してもらい、それをもと
に、国レベル、グローバルレベルの両方
で監督体制や法的枠組、事業支援体制
を有意義な形で改善するよう求めてい
ます。協同組合/相互扶助の保険組織
と、政策立案者・政治家・評論家・監督
機関との間に効果的な対話を生み出す
根幹になるものであり、世界中で人々が
直面している経済と社会の本質的課題
に対して、協同組合/相互扶助の保険組
織が解決策を提供する能力を持ってい
ることを示すものです。」
ICMIF理事会の監督を受けながら、18
か月にわたり400人以上から意見を
聴取した結果をもとに完成したマニフ
ェストは、2015年10月のICMIF総会
で、ICMIF対外関係上級責任者のリズ・
グリーン氏から正式発表されました。グ
リーン氏は、協同組合/相互扶助の保険
組織のスローガンとして長期にわたり活
用するべき文書でありながら、ICMIF会
「今こそ、全員が力を合わせてわたしたちの事
業モデルを促進する時だ。
マニフェストをもと
にローカルな行動を起こそう」
-リズ・グリーン氏
22 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
員団体が国内ロビー活動の参考資料と
しても使える内容としたことを説明し、
「今こそ、全員が力を合わせてわたした
ちの事業モデルを促進する時です。マニ
フェストをもとにローカルな行動を起こ
しましょう」と訴えました。
マニフェストは26ページの長さで、はじ
めに、協同組合/相互扶助の保険組織に
ついて、その長い歴史と優れた業績を簡
単に紹介しています。また、保険とはも
ともと、被害に遭った人や困窮している
人を助けるために地域が資金をプールし
て互いに支え合う相互扶助の概念に基
づいたものであることを説明し、協同組
合/相互扶助の保険組織が世界の保険
市場に占める割合は、2007年に始まっ
た金融危機以降拡大し、現在27%に達
していることを明らかにしています。
次に、グローバル経済が協同組合/相互
扶助の保険組織を必要としている理由
として、経済の発展に寄与し、人々のい
のちとくらしを守っていることを示す8
つの側面を挙げ、金融サービスに関する
政策決定や市場の運営方法を定める法
律・規制、ならびに行政や監督機関との
相互関係において、意図的であるかどう
かにかかわらず協同組合/相互扶助の保
険組織に対する偏見をなくすよう訴えて
います。
影響力
マニフェストの中心となるのは、
(1)協同組合/相互
扶助の保険組織にとって適切な事業環境の整備と、
(2)協同組合/相互扶助の保険組織の「いのちとく
らしを守る」活動を支援するための関与を求める8
つの提言です。
(1)は次の4項目からなっています。
(2) については以下の4項目を提言しています。
• 協同組合/相互扶助の保険組織がインフラ投資のためにそ
の資産(総計8兆USドル)の一部を活用できるようにして、
インフラ投資の新機会を作り出すこと
• 誰もが、とくに今まで保険から排除されていた人々が、質の
高い保険を利用できるようにして経済発展を促進すること
• あらゆる関連当局が企業(事業)の所有形態の多様性
を認めること
• 自由で公平な競争を促進し、もっとも優れたグローバル
スタンダードを達成することを目的とした法的枠組を
整備すること
•監
督体制を、協同組合/相互扶助の保険組織の所有形
態と事業の目的を考慮し、消費者保護の必要性に比例
したものとすること
• スマート・リスク投資プロジェクトを発展させ、自然災害や
環境の変化から社会を守ること
• 所有の拡大を通じて成長、雇用、より公平な社会を作り出
し、国連の持続可能な開発目標の実施を支援すること
•行
政の構造を、協同組合/相互扶助の保険組織が民間会社と
異なることを理解する能力を持ち、それを反映した政策を策
定できるものにすること
ターバック氏はグローバルマニフェストについて、
「世界の協
同組合/相互扶助の保険組織にグローバルな発言の機会を持
ってもらうために、ICMIFがその代表者として作成した初の文
書である」と述べました。
グローバルマニフェストは、
www.icmif.org/knowledge/other-publications/
manifesto
からダウンロードできます。
2015年10月のICMIF総会でグローバルマニフェストを正
式発表するリズ・グリーン氏
「進取性に富んだ国の青写真」
オーストラリアの協同組合と相互扶助組織は、国内向けマニフェスト
「進取性に富んだ国の青写真」を発表しました。作成母体は2012年の
国際協同組合年をきっかけとして2013年に誕生した頂点団体、オース
トラリア協同組合相互扶助組織事業協議会(BCCM)です。
マニフェストには、国内で協同組合と相互扶助組織による事業を発展させるための提
言や勧告が含まれています。オーストラリアでは、複数の相互扶助の保険組織が株式
会社化したケースが大きな話題になりました。しかし保険事業は依然として、協同組合/
相互扶助組織の事業の中で最大規模を誇っています。マニフェストは、
bccm.coop/publications/blueprint-enterprising-nation でご覧になれます。
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 23
影響力
ポーリン・グリーン氏が協同組合の
ルネッサンスにおける保険事業の
重要性を語る
国際協同組合同盟(ICA)の会長を6年間務めてきたポーリ
ン・グリーン氏は、2015年11月のICA総会をもって会長職
を退任しました。総会後、グリーン氏はVoiceとのインタビ
ューに応じ、近年、協同組合が目覚ましい勢いで復活して
いるのは保険事業がその一翼を担っていること、ICMIF会
員団体が協同組合運動で大きな役割を果たしていることを
称賛して、次のように語りました。
2015年10月のICMIF
総会で講演するポー
リン・グリーン氏
24 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
影響力
2015年10月のICMIF
総会のセッション「責
任ある資本主義が意味
するもの」に参加した
ポーリン・グリーン氏
「保険事業は、協同組合事業のグローバルファ
ミリーの中でも、きわめて重要です。世界の協同
組合事業の売り上げの3割近くを占めるだけでな
く、金融危機後は、民間保険会社が金融破たん
の痛みを感じたのとは対照的に、順調な業績を
上げ続けています。ICMIF会員団体の活動は、協
同組合運動がこれまでに得た最大の資産の一つ
であり、敬意を表します。」
また、ICMIFとICAがG20やG20ビジネスサミッ
トといったグローバルな場で、持続可能性や気
候変動などの問題について協力し、協同組合の
事業モデルに対する世界の指導者の理解と認識
を高めてきたことにもふれました。
「一時、政策
立案者や監督機関の間で協同組合に関する知
識が低下したのは、わたしたちの責任だったと
認めなければなりません。協同組合運動はあま
りにも内向きになり、運動の外に目を向けなか
ったのがマイナスになりました。しかし今は違い
ます。わたしたちは自信を持って協同組合の主義
主張を積極的に訴えています。」
保険事業に対しては、協同組合運動の戦略的発
展において強力な役割を担うことを期待してい
ます。
「協同組合の成長とそれに必要な資金調
達に創造的かつ実践的に取り組むためには、金
融の専門知識とノウハウが必要です。それを持っ
ているのは保険事業と銀行業です。ぜひ実現に
向けて、指導力を発揮してほしいと思います。」
グリーン氏が会長に就任する前、ICAは弱体化し
ていました。そこで執行部として強い意思を持っ
て再活性化に取り組みました。
「2009年以前の
30年から40年は会員数が減る一方でした。財
政的支援も失いつつあり、主に博愛主義と団結
に頼っていました。世界の政策決定者を動かす
活動を真摯に行い、わたしたちには違いをもたら
し草の根レベルの組合員に真の価値を与える力
があることを証明したいと思いました。しかし、
残された時間は少ないと感じていました。」
国連が2012年を国際協同組合年と定めたこと
は、ICAにとって追い風となりました。グリーン氏
は、ICA会員がそれぞれ独自の方法で国際協同
組合年を祝えるようにしたことが、国際協同組
合年成功の一要因になったと考えています。
「世
界中で同じロゴとスローガンを使ったので、協同
組合運動の規模と普及度、目的に関する理解が
大きく向上しました。結束力が強化され、自信が
高まりました。」
国際協同組合年がもたらした偉大な価値は何と
いっても、ポスト国際協同組合年の戦略を生み
出す出発点となったことだと思っています。
「国
際協同組合年をきっかけにして、協同組合事業
を築く新しい戦略『協同組合の10年に向けたブ
ループリント』を策定しました。その後の活動は
すべて、この戦略に基づいています。世界が金融
メルトダウンと景気後退を経験しているなかで、
わたしたちは成長していきました。」
今後の取り組みについては、成長している共有
型経済(シェアリングエコノミー)との連携を模
索するべきだと思っています。
「技術革新を活
用してユーザーとの信頼関係と協力体制を構築
し、それをもとに事業を行うタイプの企業が多
く誕生していますが、このような事業の利益は
ハイテク企業の株主の懐に入っています。この点
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 25
影響力
で、協同組合事業は後れを取っています。もし、
このような事業が協同組合のような所有形態を
持ち、人々を大切にした経済的意思決定を行う
ようになれば、どんなにかすばらしいことでしょ
う。」
ポーリン・グリーン氏は、2003年にエリザベス
女王より叙勲を受けているため、正式にはミセ
スではなくデイムの称号で呼ばれます。イギリ
スの協同組合運動の指導者として活躍した後、
欧州議会選挙に出馬して当選し、任期中は欧州
議会最大会派の代表に選出されました。2009
年、ICA史上初の女性会長に就任しました。その
時に、協同組合運動に関係する世界中の女性か
ら温かい支援を受けたことを、貴重な思い出と
して大切にしています。
「わたしは初の女性会長
でしたが、これからも女性会長が誕生する、と常
々言っていました。後任のモニク・ルルー氏も女
性ですので、言葉どおりになりました。新会長は
きっとICAを新しい段階に引き上げてくれると思
います。」
グリーン氏は、もう一度イギリスの協同組合運動
に戻ることが期待されています。最後にICA会長
としての6年間を次のように振り返りました。
「個人的には、仕事人生の中で最も充実した6
年間でした。ICAの新戦略と優先課題、方向付
けに協同組合運動が呼応する姿を見ることがで
きたのは、信じられないくらい素晴らしい経験で
した。一番の学びは、協働の大切さでした。その
ためには、協同組合の世界での異なる伝統や文
化、多様性を尊重することが重要です。協同組
合にはいろいろな形があります。協同組合がそ
れぞれ主要原則と価値観を大切にすれば、お互
いに協力し、尊重し合うことができます。協同組
合運動は、自信と団結力を失わずにいれば、さら
にすばらしい将来が待っていることでしょう。」
以上は、ポーリン・グリーン氏とのインタ
ビューをもとにまとめた記事です。インタ
ビューの全内容は、ICMIFウェブサイト
www.icmif.org/influence/
public-affairs
に掲載されています。
26 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
ICA新会長にモニク・
ルルー氏が選出
2015年11月にトルコで開催された国際協同組合同盟(ICA)
総会で、ICMIF会員団体デジャルダン・グループ(カナダ)の
会長兼社長兼最高経営責任者、モニク・F・ルルー氏が、ポー
リン・グリーン氏の後任として会長に選出されました。任期は
2017年までの2年間です。
ルルー氏は、ICAの「協同組合の10年に向けたブループリント」を強
く支持しており、信頼関係の構築、指導力、成長の3つを優先課題と
して取り組みたいとしています。また、会員団体に対してはICAの民
主的体制へ積極的に参加するよう、ICAには新技術を活用しコミュ
ニケーション活動に役立てるよう呼びかけています。
協同組合事業と持続可能な発展を結び付ける重要性も強調し、
「社
会的責任は、協同組合のDNAに組み込まれています。個人と地域の
社会・経済的状況を改善することが、協同組合が目指す最終目的だ
からです。協同組合は、現在わたしたちが抱える経済・社会・経済上
の主要問題に対する解決策の一要素となる必要があります」と述べ
ています。
さらに、経済的あるいは社会的公共政策の策定にICAが参加し、大
きな貢献をすることが重要だとして、次のように語りました。
「ICA
は、協同組合の事業モデルの理解と普及を高めるために、国際機関
や国際的団体との取り組みを継続していかなければなりません。国
連や世界銀行、IMF国際通貨基金、G7先進国首脳会議とG7ビジネ
スサミット、G20とG20ビジネスサミットなどの主要政策決定の場
への参加が必要です。メディアの認知度と理解を高め、世界経済フォ
ーラムなど大規模な国際会議に参加し発言することが重要です。」
Voice次号には、モニク・ルルー氏のインタビュー記事を掲載する予
定です。
影響力
上海大学でのフォー
ラムで講演するジャン
=ルイ・ダヴェ氏
中国が相互扶助の理念に基づい
た保険への関心を示す
現在、協同組合/相互扶助の保険組織が存在していない中国に、相互扶助の理念に基づい
た初の保険事業が誕生する期待が高まっています。2015年11月半ばに上海大学でフォー
ラムが開催され、中国保険監督管理委員会の職員100名以上と保険関係者約20名が参加
し、国内で協同組合/相互扶助の保険市場を育てる可能性を話し合いました。
会議では、ICMIF会員団体MGEN社(フランス)
の最高経営責任者、ジャン=ルイ・ダヴェ氏と
ICMIF対外関係担当上級責任者のリズ・グリーン
氏が基調講演を行いました。グリーン氏は基調
講演を次のように振り返りました。
「ダヴェ氏とともに、協同組合/相互扶助の保険
組織の事業モデルについて、市場データやケース
スタディー、調査結果などを示しながらできるだ
け客観的に伝えました。参加者からの反応は前
向きで、うれしく思いました。わたしの担当部分
では、ケニアのCIC保険グループやシンガポール
のNTUCインカム社の実例を挙げながら、小さ
な事業が国内大手に成長したケースを説明しま
した。また、ICMIF会員団体が組合員・利用者の
利益となるように事業を行っていることや剰余
金の使い方についても説明したところ、参加者か
らは大きな関心が示されました。」
中国では、協同組合/相互扶助の保険組織を開
発するプロセスに長い時間がかかっています。し
かしグリーン氏は、11月のフォーラムが転機にな
ると考えています。とくに、MGEN社とダヴェ氏
がこの5年間、辛抱強く中国の保険業界や監督
当局と強力な関係を築いてきたこともあり、費用
効果に優れた高品質な保険商品を主にデジタル
環境で提供したいという意欲が大きくなってい
ると感じています。近いうちに、中国保険監督管
理委員会が、協同組合/相互扶助組織による保
険事業に初の認可を与えるのではないか、試験
的な認可となる可能性があるものの、その結果、
中国のICMIF会員第1号が生まれる日も近いので
はないか、と期待しています。一方、ダヴェ氏は
「この偉大な取り組みに成功するのは間違いな
いと思う」と語り、上海フォーラムから自信を得
た様子でした。
中国は2016年のG20議長国です。G20会議と
G20ビジネスサミットが2016年9月初めに中国
の杭州で開催されることを考えると、中国で協
同組合/相互扶助の保険組織を開発する機運が
高まったことはタイムリーだと言えるでしょう。
ICMIFも、フォーラムの会場となった上海大学
と、保険関連コースに協同組合/相互扶助の保険
組織を学ぶモジュールを組み込むことができる
かどうか話し合いを続けています。大学側は、学
生の理解を助けるために、ICMIFのシミュレーシ
ョンツールAGILEを使った演習に興味を示して
います。
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 27
有益な情報の共有
イギリスで協同組合/相互
扶助の保険組織による後配
株発行が可能になる
イギリスでは2015年に成立した法律により、協同組合や相互扶助の保険組織、友愛組合
が新しい形の資本を調達することができるようになりました。新しい形の資本とは、株式の
利点をある程度備えた後配株(ミューチュアル後配株という)のことで、ソルベンシーIIのテ
ィア1資本に分類されます。
協同組合/相互扶助組織の促進に取り組むイギ
リスのシンクタンクで、この法律の草案作成に加
わり、成立に向けた活動を行ったミューチュオ社
の代表、ピーター・ハント氏によると、2016年後
半には、ミューチュアル後配株を発行する初のケ
ースが実現すると思われます。
ハント氏は、2015年10月のICMIF総会で新法
律を紹介する発表を行い、ミューチュアル後配株
の発行は、協同組合/相互扶助組織の資本調達
問題の解決策になりえると述べました。
「組合員
所有型の事業には、中核となる相互扶助の目的
を維持しながら、外部からの資本を調達できる
だろうか、という問題があります。株式資本を持
たないという点で民間会社と比べると極めて不
利な立場にいます。新しい法律は、成長と事業買
収のための大きな柔軟性を与えてくれます。」
ミューチュアル後配株は、協同組合・相互扶助組
織・友愛組合のみが発行できる新しい形の株式
です。永久株式で、株主には組合員と同等の組合
員権利が付与されます。ただし投票権は、所有
株式数に関わらず、一人1票とします。
ハント氏は、ミューチュアル後配株の発行によっ
て組織内での力の均衡が変わり、その結果株式
会社化への道を転げ落ちる可能性があることを
認めながらも、本能的に株式会社化を阻止する
方向に働くのではないかと考えています。20年
前にイギリスで見られた株式会社化の波には、
当時、資本調達にはそれ以外の方法がなかった
という原因があり、ミューチュアル後配株の発行
28 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
は、株式会社化に取って代わる資本調達方法と
なるからです。
新法律には、ミューチュオ社の提案により、ミュ
ーチュアル後配株の株主が株式会社化や他社と
の合併、事業解散を提案する動議を提出した場
合に投票権をはく奪できる条項が設けられてい
ます。ハント氏は「そのような目的を持って後配
株を取得し組合員となるべきではない」とし、こ
の条項を乗っ取り防止条項と呼んでいます。
ミューチュオ社は、イギリス国内の大手協同組
合/相互扶助の保険組織のうち6団体ほどが、ミ
ューチュアル後配株の発行に踏み切るとにらん
でいます。発行額は1億英ポンドから5億英ポン
ド(1億5,000万USドル~7億5,000万USドル)
が見込まれています。ミューチュアル後配株は、
個人投資家、機関投資家の両方を対象に発行で
きますが、個人投資家の場合は保護規制により
投資額がかなり厳密に制限されます。しかし、既
存の契約者がミューチュアル後配株を購入して
株主になれば、事業者側との信頼関係が強化さ
れる可能性があると、ハント氏は指摘していま
す。
ミューチュアル後配株は、投票権が所有株数に
比例しないこと、また永久株式であることから、
はたして投資家にアピールするかどうか懸念され
ます。しかしハント氏はICMIF総会で、イギリスの
大手金融相互組合であるネーションワイド社の
例を出し、投資家の興味を引くであろうと述べま
した。ネーションワイド社が2013年に同様の後
有益な情報の共有
ピーター・ハント氏
配株を新規発行したところ、募集額を大幅に超
える申し込みがあったからです。ただし、ミューチ
ュアル後配株の場合は、発行しようとする協同
組合/相互扶助の組織にとって初めての取り組み
となることから、募集にかかる初期費用が弁護
士費用も含め比較的高額になることを認めてい
ます。
「新しく、今までとは異なる株式なので、高
いはずだと考えます。しかし、時とともにコスト
が下がっていくでしょう。」
ハント氏はさらに、ミューチュアル後配株の概念
をイギリス国外にも広めて、国際的な資本投資
手段にする可能性も指摘しました。
協同組合/相互扶助の保険組織の資本問題に
は、後配株以外の解決策もあります。例えば再
保険業界は、運転資金のかたちでの調達が可
能な資金調達型再保険契約を開発しつつあり
ます。ICMIF協賛会員のパートナー・リー社は
Voice77号の記事で、この可能性を考察してい
ます。2015年10月のICMIF総会では、同社の
チャールズ・ゴールディ―氏がパネリストとして、
代替資本に関する新しい取り組みを紹介しまし
た。2016年6月のMORO(再保険会議)でもこ
のテーマが取り上げられる予定です。
協同組合/相互扶助の保険組織にとって確立さ
れた資本強化手段としては、劣後債の発行もあ
ります。ICMIF協賛会員で保険関連の資産運用
を専門とするトゥウェルブ・キャピタル社のダニ
エル・グリーガー氏は、ICMIF総会のパネリスト
として登壇し、資本要件を満たすための資本調
達を考えている中小の協同組合/相互扶助の保
険組織が利用できる手段として、民間債券を挙
げました。例えば、5億ユーロの民間債券(償還
期間10年、利回り5%~15%)の募集では、その
手配にかかる期間は通常6週間以内と迅速な発
行が可能です。
「民間債券を利用して、買収では
なく本業の成長を図り、資本レシオを改善するこ
とが可能です。」
資本調達手段として再保険と劣後債、株式発行を比較したトゥ
ウェルブ・キャピタル社の寄稿記事は、Voice82号に掲載され
ています。ICMIFのウェブサイト
www.icmif.org/voice-82 で閲覧可能です。
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 29
人脈交流の促進
アルゼンチンの会
員団体がイギリス
で研修プログラム
に参加
2015年11月、アルゼンチンのICMIF会員団体、ラセグンダ社の研
修団が訪英し、ICMIFの体験型研修プログラム「リーダーシップ・エ
クスペディション」に参加しました。一行はジェネラルマネージャー、
アレハンドロ・アセンホ氏と社長のウンベルト・グローネンベルグ氏
が率いる計29名です。
イギリス・マンチェスターのICMIF事務局を訪れたラセグンダ社研修団
30 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
研修は1週間の日程で、内容はICMIFとラセグン
ダ社が共同で企画しました。そのうち、戦略的経
営管理をテーマにしたディスカッションでは、保
険に対する消費者期待の変化、協同組合と相互
扶助の理念と価値の最大化、個人の、またチー
ムとしての意思決定の改善など、各種問題に対
する議論を深めました。また、イギリスの典型的
な悪天候にもかかわらず、チームビルディングを
目的とした半日のアウトドア活動にも参加しまし
た。チームビルディング活動は、企業向けアウト
ドア研修の専門企業が担当しました。
アセンホ氏は研修プログラムについて、
「非常に
素晴らしい経験となりました。多くのことを学ん
だだけでなく、ICMIFから温かい歓迎を受けまし
た。チームを豊かにしてくれました。他の団体に
も、このような研修に参加するよう勧めたいと思
います」と語りました。
人脈交流の促進
ラセグンダ社の研修団には、優秀な成績を上げ
た営業職員22名が含まれており、今回の訪英に
は報奨旅行の意味合いもありました。
日程には視察や観光も含まれており、一行は、ビ
ートルズ誕生の地として有名なリバプール、サッ
カーチーム、
マンチェスターユナイテッドの本拠
地であるオールドトラッフォードなどを観光し、
伝統的なパブでビールも味わいました。中でも
一行の心をつかんだのは、近代協同組合運動の
発祥地、ロッチデールにある協同組合博物館の
視察でした。1844年にロッチデールの先駆者た
ちが小麦粉やバター、砂糖といった食料品を販
売するために始めた店は現在、協同組合博物館
に生まれ変わり、世界中で協同組合運動が成長
発展した様子を展示しています。
ラセグンダ社は1933年にロザリオ市に設立さ
れた協同組合で、現在では国内主要保険事業
者の一つに数えられています。協同組合の理念
を強く信奉し、国内の協同組合運動だけでな
く、ICMIFおよびICMIFアメリカ協会の活動でも
重要な役割を果たしています。経営幹部を対象
とした研修でも長年にわたりICMIFと協力関係
を築いてきました。2014年にはICMIF独自の
シミュレーションツールAGILEを使った2日間
の研修(スペイン語で実施)を地元ロザリオ市
で開催し、経営幹部ら20名以上が参加しました
(Voice81号に関連記事)。
ICMIFの人材開発支援事業担当責任者、
マイク・
アシャースト氏はラセグンダ社研修団の訪英を
次のように振り返りました。
「ラセグンダ社から
研修団をお迎えし、たいへんうれしく思いまし
た。今回の研修は、参加の目的に合わせて企画
構成されるリーダーシップ・エクスペディション
の初のケースでした。ICMIFは会員団体の人材育
成戦略に付加価値を与えることを目指して、積極
的に会員団体の意見をお伺いしています。長い
歴史を誇り、高い評価を得ているマネージメント
コースのほかにも、数々の研修プログラムを用意
しています。」
した「リーダーシップ・エクスペディション」が新
たに加わりました。
今年が16年目となるマネージメントコースは
2016年5月8日~13日の日程で、イギリス・マン
チェスターで開催されます。このコースは、会員
団体の事業戦略強化と研修生個人の専門的能
力開発を目的とした、ICMIFならではの国際的な
学びを提供する場で、2000年の開始以来、これ
まで45カ国77会員団体から研修生を迎えてき
ました。
「リーダーシップ・エクスペディション」の詳細は、
www.icmif.org/ser.
をご覧ください。2016年マネージメントコースの詳細は、
www.icmif.org/AMC2016. に掲載されています。
ラセグンダ社の研修の様子
人材開発支援を目的としたイベントはICMIFの
「リーダーシップ+」チームが企画実施していま
す。2015年には、次世代のリーダーと目される
優れた可能性を持つ職員を対象にした「ポテン
シャルコース」が始まりました(Voice82号に関
連記事)。これに続き、上級管理職チームの新事
業戦略開発とチームとしての指導力強化を目指
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 31
人脈交流の促進
MORO講演者にロイズ保険組合
のインガ・ビール氏が決定
ICMIFのMORO(再保険会議)が2016年6月6日から8日の日程で、世界
の再保険センターの一つ、ロンドンで開催されます。MOROは1年おきに
開かれる、ICMIFでも重要なイベントです。
MOROはこれまで、カス・ビジネススク
ールのポーラ・ヤルザブコウシキー教授
(戦略的経営管理学)やウィリス再保
険グローバル会長のパディー・ジェイゴ
氏など著名人を基調講演者としてお迎
えしてきました。2016年は、ロイズ保
険組合最高経営責任者のインガ・ビー
ル氏が基調講演をされることが決まり
ました。
ビール氏は基調講演で、保険業界が直
面する課題とロイズ保険組合(ロイズ)
の対応をテーマに、再保険市場におけ
るロイズの位置付けについて自身の視
点を披露し、市場とグローバル経済が
変貌するなかでの将来の方向性を考え
ます。また、リスクの展望図が変わりつ
つある現在、その適応策を考え、サイバ
ーアタックやパンデミックなどの新興リ
スクが再保険業界にどのような影響を
及ぼすか、保険・再保険業界が将来を
見据えた体制を整備するために近代化
や情報革新をどのように活用するべき
かを含め多くの課題を考察します。
2016年のMOROは第23回目の会議
となります。小さな集まりからスタート
したMOROは、今や保険業界の主要
会議の一つと数えられるまでに成長
しました。ICMIFの再保険担当責任者
でMORO開催準備責任者でもあるマ
イク・アシャースト氏は、
「2014年の
MOROマイアミ会議には55団体・会社
から110名の再保険担当者が出席しま
した。ロンドン会議も数多くの出席者を
集めることは間違いないでしょう」と期
待を寄せています。
MOROは3日間の日程で行われます。
ハイレベルな講演や発表、パネルディ
スカッション、分科会のほかに、半日を
「ミニ・モンテカルロ」と名付け、再保
険会社と直接顔を合わせて再保険交渉
を行う機会とします。
アシャースト氏は、MOROロンドン会
議のテーマを次のように説明していま
す。
ロイズ保険組合最高経営責任者 インガ・ビール氏
「MOROは協力的かつ支援的な環境
の中で、参加者に共通する課題を徹底
的に話し合うことができるイベントとし
て親しまれてきました。今年のテーマは
『将来の再保険:革新性を通じた強靭
性の強化』です。これは、世界が自然災
害や病気、破壊的技術、環境悪化、政
治不安、テロなどの脅威にさらされてい
る現状を反映しています。」
このテーマに沿って、再保険市場に参入
している新しい資本の利点と弱点を、
伝統的再保険との対比で考察します。
また、サイバーリスクなどの新興リスク、
ドローンや自動運転車などの新技術も
取り上げます。世界が直面するその他リ
スクについても、しばしば見落とされが
ちなパンデミックの脅威も含めて考察
します。
アシャースト氏は、
「協同組合/相互扶
助の保険組織は再保険に対して戦略的
に取り組むことが必要です。再保険に賢
明に取り組むための場、それがMORO
です」と語り、参加を呼びかけていま
す。
32 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
MOROに関する詳細はICMIF
ホームページ
www.icmif.org/moro-2016/
home
をご覧ください。
人脈交流の促進
会員同士の協力
全労済とスライベント・フィナンシャル社が組合
員参加戦略の優れた実践例を共有
この記事の執筆にご協力
くださった全労済の藤井
奏枝氏に感謝します。
2015年10月に開催されたICMIF総会への参加の機会をとらえ、総会のホストを務めたス
ライベント・フィナンシャル社(アメリカ)を全労済の代表団が訪問しました。
アメリカのキリスト教徒互助組織であるフラター
ナル組合の中で最大規模を誇るスライベント社
と、日本の労働者自主福祉運動によって設立さ
れた共済団体である全労済とは、国も組織の成
り立ちも異なります。しかし、組合員を基盤とす
る組織であるという点、法人税が減免されてい
る点、そして非営利組織として組合員の生活向
上と地域貢献を目指している点を同じくしてい
ます。
今回の訪問では、スライベント社から、組合員自
らの行動を促す「アクションチーム」、評価にネ
ットプロモータースコアを活用した組合員参加戦
略、経済的満足度を測る「5Sリサーチ」などが
紹介されました。中でも、組合員一人ひとりが個
人的に関心のある問題に対してボランティア活
動を行うことを支援する「アクションチーム」プ
ログラムが、全労済訪問団の注目を集めました。
組合員はオンラインでこのプログラムへの参加
を申し込み、審査を通過すると(通常48時間以
内に決定)、
「アクションキット」が送られてきま
す。キットには、やり方やルールが書かれたガイ
ドブック、
「Live Generously(慈善の心を持っ
て生きる)」のロゴが入ったTシャツ、活動元手資
金の250USドルが入っています。これらを利用し
て行われたボランティア活動の成果や感想は
「それぞれの組合員の体験」として共有されま
す。
ント社に対してただ活動の資金を提供するよう
求めるのではなく、自らが活動に参加し、多様な
文化を知り、地域で行動を起こしてほしいからで
す」と説明しました。
これ以外にも、相互扶助組織を正しく理解して
もらうことを目的とした「政府・規制当局対策チ
ーム」の活動も紹介されました。訪問団は、ウェ
ブマーケティングで若年層の取り組みを行って
いる子会社のブライトピーク社も訪れました。
全労済訪問団がスライベント社訪問から学んだ
成果は、すぐに役員会議で報告されました。そし
て、
「全労済の社会的価値を向上させる方法を、
より大きな視点で検討するための材料にしたい」
として、組合員参加戦略の強化を図る意思を示し
ました。
今回の訪問団受け入れを振り返り、スライベント
社の戦略開発部長、ジュリー・ハルグレン氏は、
「互いの組織の成功事例や課題、そして将来の
ビジョンについて意見を交わし、非常に貴重な
時間を共有できました」と語りました。
プログラムが始動した2012年は、わずかに26
件の実施でしたが、2015年には7万件を上回る
見込みです。Tシャツはこれまで90万枚が配布
され、全米各地で、またSNSサイトやアプリでも
目にすることができます。
スライベント社の組合員参加戦略部長、シャノ
ン・オルソン氏はその目的を、
「組合員がスライベ
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 33
協賛会員の寄稿記事
アメリカの協同組合/
相互扶助の保険組織と
A.M.ベスト社の格付け
A.M.ベスト社上級財務アナリスト モーリス・トーマス氏
モーリス・トーマス氏
自分のニーズにふさわしい手ごろな保険を入手できない人々が同業者同士
で、または同じ地域の住民同士で集まって設立したのが、協同組合/相互扶
助の保険組織の始まりでした。
リスクを共同負担しながら、妥当な金額
で自分たちの利害関係を保護する保険
の契約者となりました。このような初期
の時代と比べると、現在、協同組合/相
互扶助の保険組織と民間保険会社の組
織構造の違いは、あまり明確ではなくな
りました。
「A.M.ベスト社は、協
同組合/相互扶助の保
険組織を理解し、各組
織の業績基準を生み
出す経営哲学に違い
があることを認識して
いる」
-モーリス・トーマス氏
アメリカでは、協同組合/相互扶助の保
険組織の多くが全国あるいは複数の州
で事業を行っており、事業の地理的範
囲という点では民間保険会社と変わり
ません。現代の消費者は、保険商品を購
入しようとするとき、組織構造にかかわ
らず、柔軟性や、求めやすさ、サービスの
良さを判断基準にすることが一般的で
す。協同組合/相互扶助の保険組織の場
合は通常、利用者が出資者でもあるこ
とから、利用者にとって魅力的な保険料
品を生み出す意欲が高くなります。
組織構造は、常に消費者の購買行動の
一要因になるとは限りませんが、経営上
の焦点と観点という点では明白な違い
をもたらします。協同組合/相互扶助の
保険組織と民間保険会社の間には、戦
略上の目標に大きな隔たりがあります。
協同組合/相互扶助の保険組織の組織
構造では、契約者が明白に定められた
権利を有しており、出資者としての利害
関係もあります。したがって、その使命
と業績に対する期待は民間保険会社と
大きく異なる場合があります。A.M.ベス
ト社は、協同組合/相互扶助の保険組織
を理解し、各組織の業績基準を生み出
34 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
す経営哲学に違いがあることを認識し
ています。しかし、今日のきわめて競争
的な環境において事業を成功させるに
は、組織形態にかかわりなく、戦略的位
置付けを明確にし、全社的リスク管理能
力を持つことが必要です。
A.M.ベスト社が評価するベスト適性自
己資本比率(BCAR)を見ると、格付け
の対象としているアメリカの協同組合/
相互扶助の保険組織のうち、75%以上
が公表されたガイドラインであるスコ
ア250をクリアしており、一般に堅固な
資本レベルを維持しています。スコアが
高い組織ほど、剰余金の額も多い傾向
にあり、万が一の営業損失に備えて資
本剰余金を蓄積できているケースもし
ばしば見られます。
将来のバランスシート力と長期的財務
安定性は、主に収益力から測ることが
できます。A.M.ベスト社が格付けを行っ
ているアメリカの協同組合/相互扶助の
保険組織の場合、天候関連事象や価格
設定、経費、監督上の制限などの要因に
より、引き受け実績に大きな違いが見ら
れます。ただし近年は、経費率が上昇し
ているにもかかわらず、75%近くでコン
バインド・レシオが100%を下回るなど
収益力が改善されてきました。その原因
としては、過酷な天候関連事象発生件
数の減少や価格設定の改善、リスク選
択などが考えられます。
協賛会員の寄稿記事
アメリカの協同組合/相互扶助の保険組織(損害保険)
発行体信用格付けカテゴリー別割合(2014年末現在)
エクセプショナルおよびスーペリア
エクセレント
グッド
フェアおよびそれ以下
協同組合/相互扶助の保険組織は通常、
営業成績に関して長期的な見方をする
ので、民間保険会社と比べて、損益ゼ
ロの業績でも耐えることができます。
大手の協同組合/相互扶助の保険組織
は、BCARスコアが高いことからも分か
るように保有資産額が多いので、これが
利回りの抑制につながる傾向がありま
す。また、投資利回りが業界平均を下回
っていることが示すように、近年は協同
組合/相互扶助の保険組織にとって厳し
い投資市場が続いています。とは言え、
この数年間は株式市場が好調で、売却
益により利回りを改善する機会があっ
たことから、資産に株式が占める割合
が増加しています。一方、低金利環境に
あるため、短期的に見ると純投資利回
りが低いレベルにとどまるものと思わ
れます。
バランスシート力と長期的財務安定性
を測るもう一つの指標に、事業プロフィ
ールがあります。A.M.ベスト社は、強力
な事業プロフィールを持つことが、持続
可能で高い業績につながると考えてい
ます。事業プロフィールは、地理的な営
業範囲や扱う種目、種目別構成比など
に左右されます。A.M.ベスト社が格付
けを行っているアメリカの協同組合/相
互扶助の保険組織の場合は、一つの種
目が占める割合が高いことと、地理的
営業範囲が狭いことが特徴で、半数近
くは一つの種目が全体の50%以上を占
め、1州のみで事業を行っているところ
は40%以上にのぼっています。これら
は、ニッチ市場への進出や優れた顧客
サービス、市場での高い専門知識など、
質的な競争力をもたらす可能性があり
ますが、極端な天候関連事象が発生し
た際のリスクが高くなるという弱点にも
つながります。
A.M.ベスト社の信用格付けの場合、アメ
リカの協同組合/相互扶助の保険組織
は、大手ほど高い格付けを得る傾向に
あり、剰余金2,000万USドル以上のと
ころは、ほとんど「a(エクセレント)」
と評価されています。一方、
「bb(フェ
ア)」およびそれ以下は、契約者剰余金
2,000万USドル未満の組織しかありま
せん。このように見ると、格付けは財務
規模と高い相関性があり、一般的に、ビ
ジネス全体が堅固である大手ほど安定
した業績を示す傾向にあるといえるか
もしれません。業界によって全体の指標
は異なるものの、組織構造にかかわら
ず経営管理体制のしっかりしたところが
卓越している、というのがA.M.ベスト社
の意見です。
A.M.ベスト社とその格付けに関する情報は、ウェブ
サイト (www.ambest.com) をご覧ください。
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 35
人脈交流の促進
ICMIF新会員の紹介
このほど5団体がICMIFに新しく加盟しました。
日本の全国大学生協共済生活協同組合連合会(大学
開発支援と成長支援を専門に行っている会社です。事
生協共済連)が正会員として加盟しました。2010年
業内容は、日本の中小共済組合や協同組合向けのバ
に設立され、大学生協連から譲渡された共済事業を
ランスシート保護と新商品の設計、沿岸船の船体保
開始しました。大学の学生・院生のために学生・院生
険や漁業関係者・水産養殖業者向け保険、アジアで
により運営されており、現在は、全国の大学生・院生
も再貧困地域や過疎地域でのマイクロインシュラン
の3割が大学生協共済連の共済に加入しています。日
ス開発など、多岐にわたっています。同社のグレアム・
本共済協会にも正会員として加盟しています。会長理
クラーク氏は、
「協同組合/相互扶助組織の事業モデ
事の濱田康行氏は、2016年6月にロンドンで開催さ
ルは、個人向けに基本的補償商品を提供するうえで
れるMORO(再保険会議)に代表を派遣し会議に参
も、成長と開発を推進する原動力として理想的な形
加することを楽しみにしています。
です。ICMIFファミリーの一員となり、大変うれしく思
います」と語りました。
メキシコのSPT保険も正会員として加盟しました。2
年ほど前に設立された若い組織で、自動車保険に特
マイクロインシュランスを扱う、スリランカのコープラ
化した事業を行っています。あらゆるドライバーを対
イフ社は準会員(マイクロインシュランス)として、
マ
象に保険を提供していますが、とくにタクシー業界と
イクロインシュランスのスペシャリスト、インドのダー
強い結びつきを持っています。
ン財団はオブザーバー(マイクロインシュランス)とし
て、それぞれ加盟しました。
準会員として加盟した香港のアジア・アフィニティ・ホ
ールディングス社は、中小の組織や地域を対象にした
36 V O I C E M A G A Z I N E • J A N U A R Y 2 0 1 6
イ ベ ント
ICMIF イベントスケジュール(2016年~2017年)
月日
2016年
イベント名
開催場所
ホスト団体
ICMIFアメリカ協会理事会
プエルトリコ・サンファン
ムルチプレス保険
調整中
規制問題フォーラム・ラテンアメリカ地域会合
ブラジル・リオデジャネイロ
ウニメド保険
調整中
ICMIFアメリカ協会理事会
ブラジル・リオデジャネイロ
ウニメド保険
18日~19日
インテリジェンス委員会会合
ベルギー・ブリュッセル
P&V社
25日~26日
エグゼクティブ委員会会合
イギリス・マンチェスター
ICMIF
8日~13日
マネージメントコース
イギリス・マンチェスター
ICMIF
16日~17日
ポテンシャルコース
アメリカ・ミネアポリス
スライベント・フィナン
3月
8日~10日
4月
5月
シャル社
24日~26日
コミュニケーション・フォーラム/規制問題フォーラ イギリス・ヨーク
ム合同会合
ベネンデン社
6月
調整中
コミュニケーション・フォーラム/規制問題フォーラ
ム合同会合
アメリカ・ニューヨーク
調整中
1日~3日
AMICE総会
ベルギー・ゲント
AMICE
6日~8日
MORO(再保険会議)
イギリス・ロンドン
ICMIF
ICMIFアメリカ協会理事会
アメリカ・ワシントンDC
ICMIFアメリカ協会
ラテンアメリカ再保険グループ(LARG)年次総会
エルサルバドル・サンサルバ
ドル
ポテンシャルコース
ヨーロッパ(具体的な場所は
調整中)
協同組合国際サミット
カナダ・ケベック
7月
12日~14日
8月
22日~26日
フツーロ保険
9月
調整中
調整中
10月
11日~13日
デジャルダン・フィナ
ンシャル社/国際協同
組合同盟
19日~21日
ICMIF理事会/委員会会合
ケニア・ナイロビ
ICMIF
7日~8日
ポテンシャルコース
シンガポール
NTUCインカム社
7日~11日
マネージメントコース
シンガポール
NTUCインカム社
29日~30日
ICMIFアメリカ協会理事会
ペルー・リマ
セルビペルー社
11月30日~12月2日
ICMIFアメリカ協会年次総会
ペルー・リマ
セルビペルー社
ICMIF総会
イギリス・ロンドン
ICMIF
11月
2017年
10月
17日~20日
上記イベントの最新情報はICMIFウェブサイトでご確認ください。
www.icmif.org/networking
VOICE MAGAZINE • JANUARY 2016 37
2016年リーダーシップ+ イベントガイド
リーダーシップ+ は、ICMIF会員団体のみが利用できるICMIFの人材開発支
援事業の総称です。
LEADERSHIP+
リーダーシップ
+
リーダーシップ +
リーダーシップ +
リーダーシップ +
リーダーシップ +
リーダーシップ +
海外出向研修プログラム
体験型研修プログラム「リーダーシップエクスペディション」
戦略的意思決定コース
マネージメントコース
ポテンシャルコース
海外出向研修プログラム
体験型研修プログラム「リーダーシップ
エクスペディション」
戦略的意思決定コース
マネージメントコース
ポテンシャル コース
2016年には以下のイベントが予定されています。
マネージメントコースは今
年からイギリス国外でも開催されることになりました。
リーダーシップ・エクスペディション
マネージメントコース
日常から切り離された環境において、職場でも実践できる
新しい洞察力と戦略を身に付けることを狙いとしたプログ
ラムで、内容はチームの学習目的に合わせて企画されます。
本誌30ページに、ラセグンダ社(アルゼンチン)が参加し
リーダーシップ・エクスペディションの記事が掲載されてい
ます。
上級管理職と対象とした6日間のコースで、国際的な雰囲
気の中で、能力を開発し参加者同士が交流する非常に効
果的な機会です。シミュレーションツールAGILEを活用し
た演習で、一歩下がって考え戦略開発スキルを磨き、新し
い洞察を得ます。2016年は、イギリス(5月8日~13日)と
シンガポール(11月7日~11日)で開催されます。
ポテンシャルコース
高い潜在能力を持つ人材や専門分野のスペシャリスト、幹
部候補生を対象にした2日間のコースで、通常、ホスト団体
となるICMIF会員の事務所内で開催されます。協同組合/
相互扶助組織の理念と事業モデルが競争力をもたらす理
由について洞察を深めることを目的としています。2016年
は、アメリカ(日程は調整中)、シンガポール(11月7日~9
日)、ヨーロッパ(日程は調整中)で開催の予定です。
人材開発支援事業「リーダーシップ+」の詳細、
またコースへの参加申込みの方法は、ウェブサ
イト [email protected] をご覧くださ
い。