鉄/銅 積層材料の抵抗特性

日本金属学会誌 第 72 巻 第 10 号(2008)800
803
鉄/銅
積層材料の抵抗特性
仲 村 圭 史1
1KOA
菊 池 潮 美2
株式会社
2滋賀県立大学工学部材料科学科
J. Japan Inst. Metals, Vol. 72, No. 10 (2008), pp. 800
803
 2008 The Japan Institute of Metals
Resistivity of Iron/Copper Multilayer Materials
Keishi Nakamura1 and Shiomi Kikuchi2
1KOA
Corporation, Nagano 3994697
2Department
of Materials Science, The University of Shiga Prefecture, Hikone 5228533
Resistive materials with resistivity ( r) of 5.0 to 689.9×10-8 Qm and temperature coefficient of resistance (TCR ) of 1749 to
4948×10-6 K-1 were successfully fabricated by using the stacking and rolling of metallic sheets of Fe and Cu. The Fe/Cu multilayer structure showed changes of electrical characteristics with the direction of accumulating and the number of sheets accumulating. The TCR values of the specimens decreased with increase of the number of accumulating layers at the parallel direction for current flow. The resistivity of the specimens increased with increase of the number of accumulating layer at the series
direction for current flow. This process allows the electrical characteristics to be controlled as required, and the resistance material of a precise resistor for current detection to be made.
(Received January 31, 2008; Accepted June 27, 2008 )
Keywords: multilayer materials, temperature coefficient of resistance, resistivity, resistors
1.
緒
言
省エネの目的で自動車のモータの電動化は盛んに行われて
実
2.
2.1
験
サンプル作製
いる1).車載モータを制御するモジュールでは,流れる電流
厚みの異なる Cu 箔( 0.03 mm )および Fe 箔( 0.01 mm )を
を制御する目的で,バルク金属を抵抗体に用いた抵抗器が多
20 mm × 30 mm の大きさに切断し,アセトンで表面洗浄し
く使用されている.これらの抵抗器は一般的にシャント抵抗
た後に,交互に重ね合わせ,これをステンレス製のジグに挟
と呼ばれ,その抵抗体には Cu Ni や NiCr などの合金が通
み,ボルトで締め付けた後に, 1073 K, 1 × 10-3 Pa の真空
常利用されている.
また,材料を積層することにより抵抗体を得る方法は,メ
ッキ工法やスパッタ工法を用いた,薄膜材料の分野では良
く利用される工法であるが,バルク金属を積層した材料を抵
抗体に利用する研究は例が無く,殆どが機械的強度の向上を
目的とする研究である.
これまで著者らは,抵抗合金の抵抗特性を容易に制御する
ために, Cu と Ni のバルク金属を積層させた後に,熱処理
を行い,抵抗特性を制御することを報告した2,3).
Cu と Ni のように拡散しやすい組み合わせでは,熱処理
下で 2 時間の熱処理を行い,積層材料を作製する.積層後
各々の材料は 0.3 mm まで圧延加工し,3 mm ×18 mm の大
きさに切断し,サンプルとした.
作製したサンプルの積層枚数と 1 層当たりの各層の厚み
を Table 1 に示す.
2.2
熱処理
圧延されたサンプルは,20 L/min の N2 気流下(O2 濃度
100 ppm 以下),673 K, 1073 K の温度で 3 時間保持し,373
K まで 2 時間かけて徐冷を行った後に炉よりサンプルを取
を行うことにより,接合面に拡散層が形成され,拡散層の量
を制御することによって,抵抗率や抵抗値の温度係数(Tem-
perature Coefficient Resistance TCR )を制御できることが
わかった.
本研究では, Fe と Cu のように拡散しにくい組み合わせ
で作製した積層材料の抵抗特性の制御について述べる.
Table 1
sample
NO.
Cu layer thickness
( mm )
Constitution of sample.
Fe layer thickness
( mm)
Number of multilayer
(seats)
I
2.5
0.8
100
II
0.25
0.08
1000
III
0.016
0.0048
5000
第
10
号
鉄/銅
801
積層材料の抵抗特性
R×S
( Qm)
r=
L
(1)
ここで,S はサンプル断面積(m2),L はサンプル長さ(m)を
示す.
熱処理温度に対して,抵抗率の変化をプロットした結果を
Fig. 3 に示す.
サンプルに熱処理を行っても,抵抗率はほとんど変化しな
いことが確認された.
文献より得られる Fe の抵抗率( rFe10.1×10-8 Q・m)4)と
Cu の抵抗率( rCu  1.7 × 10-8 Q ・m )4) を用いて,並列の合成
抵抗率の計算式( 2 )より, Fe / Cu 積層材料の合成抵抗率
( rFe/Cu)を計算すると,
Fig. 1
rFe/Cu=
Measurement of TCR.
rFe×rCu(n+1)
(Q・m)
rFe+nrCu
(2)
nFe 層に対する Cu 層の厚み比
Fe 層と Cu 層の厚み比が 13 である,今回のサンプルは,
4.5×10-8 Q・m と計算される.
り出し,熱処理を行った.
2.3
Fe / Cu 積層サンプルの抵抗率は,熱処理を行ったサンプ
組織観察
ルを含め,計算値と 10 の差異の範囲内であり,同等の値
熱処理を行ったサンプルを切断し,断面を研磨した後に,
SEM 及び EDX で Fe/Cu 界面の拡散状態を観察した.
2.4
抵 抗 温 度 特 性 ( Temperature
Coefficient
を示している.これは熱処理を行っても, Fe / Cu 界面の拡
散による合金化が進行しておらず,抵抗率の変化が起こらな
of
Resistance : TCR )の評価
熱処理を施したサンプル(3 mm ×18 mm )を,評価用に作
製したプリント基板上にはんだ付け(実装)し,評価を行っ
た.この模式図を Fig. 1 に示す.
サンプルを実装した評価基板を, 298 K 及び 373 K のオ
かったと考える.
また,サンプルの熱処理温度を変化させ, TCR を測定し
た結果を Fig. 4 に示す.TCR の値は 298 K で測定した抵抗
値と,373 K で測定した抵抗値の値を用いて,式( 3 )のよう
に 1 K 当たりの抵抗値変化量の係数として計算した.
R373-R298
1
×
×106
R298
T373-T298
TCR=
単位(×10-6・K-1)
イルバス中に投入し,各温度での抵抗値を 4 端子法で測定
(3)
し TCR を算出した.その際,サンプル温度はオイルバス温
R298温度 T298298 K での抵抗値(Q)
度と平衡になるように, 30 分間放置した後,抵抗値測定を
R373温度 T373373 K での抵抗値(Q)
行った.抵抗値測定はサンプルと基板上の Cu 配線パターン
文献より得られた Fe の TCR 値 4420 × 10-6 ・ K-1
お
間に生じる,異種金属の接触による熱起電力をキャンセルす
よ び Cu の TCR
るために,電流反転法を用いて,0.1 A の電流を印加した際
が,これらの値に比べ,Fe/Cu 積層サンプルの TCR は低い
の出力電圧をデジタルナノボルトメータで測定し,抵抗値に
値を示すことが確認された.また,熱処理による TCR 値の
変換した.
値  4050 × 10-6 ・ K-1 5)
5)
を図中に示した
変化はほとんど確認されなかった.文献より得られる Fe お
よび Cu の抵抗率と TCR 値を用いて,式( 2 )より 298 K お
結果と考察
3.
3.1
熱処理による積層構造の変化
よび 373 K での Fe/Cu 積層材料の抵抗率を求め,TCR を計
算すると, 4170 × 10-6 ・ K-1 となる.実測したサンプルの
TCR は,計算値より小さい値になった.TCR が減少した詳
Cu 層と Fe 層の界面について EDX による元素分析を行っ
しい原因はわからないが,積層の効果により,層構造に何ら
た結果を Fig. 2 に示す.1000 枚 Fe と Cu を積層したサンプ
かの変化が起こり TCR は減少したものと考える.より詳し
ルの無処理サンプルと, 1273 K で 3 時間熱処理を行った
い原因の調査については,今後の研究の課題である.
サンプルで比較を行った.1273 K で熱処理を行っても,Cu
層と Fe 層の間で拡散の進行は確認されず,積層構造を維持
していることが確認された.
3.2
熱処理による抵抗特性変化
298 K における,熱処理後の各サンプルの抵抗値 R(Q )を
測定し,オームの法則より,サンプルの抵抗率 r を式( 1 )
から計算した.
3.3
積層方向と抵抗特性変化
次に Fe /Cu の積層方向の違いにおける抵抗特性の変化を
調べた.Fig. 5 に示すように,電流方向と並列方向に積層さ
れた場合(A )と,電流方向と直列方向に積層した場合(B )の
抵抗特性の比較を行った.
3.2 項で説明したデータは全て( A )並列方向の積層サンプ
ルであるため, Table 2 の内容で(B )直列方向の積層サンプ
ルを作製し,測定した抵抗率を Fig. 6 に TCR を Fig. 7 に
802
Fig. 2
Fig. 3
ture.
第
日 本 金 属 学 会 誌(2008)
72
EDX analysis of layers in the samples annealed at 1273 K for 3 h.
Changes of resistivity with heat treatment tempera-
Fig. 4
Changes of TCR with heat treatment temperature.
示す.
電流方向と並列方向に材料を積層した場合,抵抗率の変化
は見られなかったが(Fig. 4),電流方向と直列方向に材料を
積層した場合,積層界面の存在により電流経路の妨げは大き
くなり,抵抗率は飛躍的に大きな値に変化することが確認さ
れた.
Fig. 5
Direction of current and direction of multilayer.
巻
第
10
号
鉄/銅
Table 2
sample
NO.
Constitution of sample at series structure (B).
Cu layer thickness
( mm)
i
Fe layer thickness
( mm )
281
94
Number of multilayer
(seats)
32
ii
2.25
0.75
4000
iii
0.225
0.075
40000
803
積層材料の抵抗特性
が進みにくい材料の組み合わせでは,材料の積層枚数と,積
層される面の方向を制御することによって,抵抗率や TCR
を制御できることが確認された.
抵抗率を変化させたい場合は,電流経路と直列方向に材料
を積層させ,積層枚数を変えることによって,抵抗率を変化
させることができ, TCR を変化させたい場合は,電流経路
と並列方向に材料を積層させることにより, TCR を低下さ
せることができる.
ま
4.
と
め
Fe / Cu 積層材料の抵抗特性評価を行うことにより以下の
結果を得ることができた.


Fe / Cu 積層材料は,熱処理による拡散層の成長は確
認されなかった.また,積層された材料に熱処理を行っても
抵抗率や TCR 値は変化しないことが確認された.


Fe および Cu を電流方向に対し直列に積層すると,
抵抗率は大幅に増加する. 32 枚積層した場合 8.1 ×10-8 Q ・
Fig. 6
Changes of resistivity with number of multilayer.
m , 4000 枚積層では 313.8 × 10-8 Q ・ m , 40000 枚積層では
689.9×10-8 Q・m となる.積層界面で拡散層が成長しない材
料の組み合わせでは,積層界面の存在が電流経路の妨げとな
り,抵抗率は積層枚数とともに増大する.また, TCR 値は
4000 枚積層材料までは大きく変化することがなく, 40000
枚積層材料で半減する.


Fe および Cu を電流方向に対し並列に 100 ~ 5000 枚
積層すると, TCR 値は半減し, 1749 × 10-6 ・ K-1 ~ 2357 ×
10-6・K-1 となる.積層界面で拡散層が成長しない材料の組
み合わせでは,積層の効果により層構造に何らかの変化が起
こり,計算値より小さい TCR 値が得られたものと考える.
また,抵抗率は並列複合則で計算される値と同様の, 5.0 ~
6.5×10-8 Q・m となる.


Fig. 7
Changes of TCR with number of multilayer.
拡散接合と圧延のプロセスによって作製された Fe /
Cu 積層材料の抵抗率は電流方向と直列方向に積層すること
により増大させることができ, TCR 値は電流方向と並列方
向に積層することにより,減少させることができる.これら
また,材料の積層枚数を増やした場合, 4000 枚積層のサ
の特性は熱処理条件に影響を受けることがなく,積層方向の
ンプルでは, TCR の変化は見られず,40000 枚積層のサ
並列と直列の組み合わせおよび積層枚数によって,抵抗特性
ンプルで大幅な TCR の減少が確認された.これは,積層
を変化させることができる.
枚数を増やすことにより,層間隔がナノオーダまで小さくな
ると,原子の熱振動による電流阻害の効果に比べて,積層界
文
献
面の存在による抵抗率の上昇の影響度が大きくなり, TCR
が減少したものと考える.
著者らはこれまでに, Cu / Ni の積層サンプルのように,
相互拡散が進みやすい材料系では, Cu / Ni 界面の拡散層の
成長を熱処理温度および時間で制御することによって,抵抗
率や TCR を制御することができることを報告した2) .これ
は拡散層が成長することにより Cu /Ni の合金化率が変化し
て抵抗特性が変化する原理であった.
それに対して Fe /Cu の積層サンプルのように,相互拡散
1) M. Amano and T. Nogi: J. Soc. Automotiv Eng. Japan 59(2005)
4
9.
2) K. Nakamura and S. Kikuchi: J. Japan Inst. Metals 70(2006)
250
254.
3) K. Nakamura, Y. Sakagami and S. Kikuchi: J. Japan Inst. Metals
71(2007) 270274.
4) The Japan Institute of Metals: DATABOOK of METALS
(MARUZEN, 1993) p. 14.
5) D. R. Lide: HANDBOOK of CHEMISTRY and PHYSICS (CRC
45.
Press, 1999) pp. 12