解説 ISO/TS 16949概説

特集 自動車産業セクター 規格 ISO/TS 16949徹底解説
■解説 ISO/TS 16949概説
Part 1 審査登録制度基本解説
Part 2 企業における効果的なMS構築
Part 3 内部監査員に必要な力量・
トレー
ニング
寄稿/日本ガス機器検査協会 QAセンター
(JIA-QAセンター)
セクター認証部長 兼 JIA-QAセンター欧州支店長 大森 直敏
Part 1
審査登録制度基本解説
9001規格要求事項はベーシックな要求
22000等があります。
自動車産業のセクタ
事項であり、巨大なシステムを持ってオペ
ー規格は当初、米国の自動車メーカーが
レーションしている自動車会社には数々の
中心となってISO 9001をベースにして、
システムが存在するからです。自動車産
自動車産業分野の要求事項を追加した
業にとってISO 9001要求事項を満たす
QS-9000を1994年に制定しました。
その
だけでは、
十分とは言えません。
後 、欧 州の自動 車メーカーも加わって
私が、品質マネジメントシステム規格の
マネジメントシステム規 格にはISO
ISO/TS 16949が制定されました。QS-
構築に関わったのは1993年頃になりま
9001
( 品質)、ISO 14001
( 環境)、ISO
9000は2003年12月をもって無効となりま
す。
自動車メーカーの品質保証本部で自
50001
(エネルギー)、ISO 22000
( 食品
したので、現在はISO/TS 16949に統一
動車の品質保証全般についてさまざまな
安全)等、多くの種類の規格があります。
されています。
仕事に取り組んできましたが、品質にかか
その中で、
セクター規格と呼ばれている代
わる問題や課題の解決にシステムとして
表的なものに、自動車産業のISO/TS
の体系的アプローチ手法は不足していま
16949があります。ISOのマネジメントシス
した。当時、欧州の統一型式指定制度に
テム規格は、
あらゆる分野に汎用的に適
自動車には動力となるエンジン、電気
よってISO 9001の認証取得に取り組み
用されるものであるために、産業分野によ
自動車やハイブリッドカーでは、
モーター、
ト
始めましたが、ISO 9001は非常に新鮮
っては対応しきれないものがあり、独自の
ランスミッション、車軸、
タイヤ、
ブレーキシス
で、
この要求事項を満たすことが品質保
要求事項を付加した規格をセクター規格
テム、
ステアリングシステム、
サスペンション
証システムを完備することにつながると実
と呼んでいます。
自動車がセクター規格の
システム、
シート、車体、
ランプ類、
ガラス、
ワ
感しました。
しかし、
システム構築を開始す
先駆けで代表的ですが、
その他に宇宙
イパー、
ミラー、等、多くの部品とシステムで
ると、規格要求事項にはない品質システ
航空分野のAS/EN/JIS Q 9100、医療
構成されています。
1台の自動車に使わ
ムが社内には非常に多くあり、分類と整
機器分野のISO 13485、電気通信機器
れている部品の数は、平均で約3万点、
理に苦慮したことが思い出されます。ISO
分野のTL 9000、食品安全のFSSC
高級車では5万点といわれています。
14
アイソス No.174 2012年 5月号
1-1 自動車産業の特徴
図表1 自動車産業構造
図表2 自動車の使用環境
1-2 自動車に求められる品質
自動車産業は、図表1に示すように、
サ
21年度のリコール届出内容の分析結
プライヤーが多くの素材や部品等を自動
果」です。届出件数は過去5年間、横ば
車メーカーに供給し、
自動車メーカーが製
自動車が使われる環境は過酷です。
いで毎年300件もの届出があります。
造した自動車を販売会社がお客さまに販
例えばドバイでは、夏期に気温が50℃を
対象台数は、年度によって変動があり
売します。
1個の部品でも不良品が組み
超えるところがあり、
しばしば100%の湿度
ますが、300万台から700万台がリコール
込まれれば不具合が発生し、
クレームに
を観測します。真冬のカナダでは、最低気
の対象となっています。図表4は、
リコー
なります。安全にかかわる問題は重大で、
温が氷点下30℃以下になります。
このよ
ルの原因分析を示したデータですが、過
例えばブレーキのマスターシリンダーに異
うな過酷な環境下で、時速100Km以上
去10年間の推移で見ると、2001年は設
常があれば、
自動車は止まることができず
の高速で、何時間も走行することが求め
計責任が4割、製造責任が6割でしたが、
に追突してしまうでしょう。安全にかかわる
られます。
自動車は、
故障することなく、
安全
最近は設計責任が約7割、製造責任が
不具合には、一般に
“走る”
“曲がる”
“止
に走ることが求められています
(図表2)
。
約3割となっています。
まる”機能の喪失、
そして“車両火災”が
自動車メーカーは、
リコール問題を発生さ
1-3 自動車メーカーがおかれている状況
あげられます。
サプライヤーは、一次サプラ
イヤー、二次サプライヤー、三次サプライヤ
せないこと、
設計開発段階で品質を作りこ
むことが特に重要であることが分かります。
図表3は平成22年11月に公表された、
ーと裾野が広く、品質保証に果たす役割
が非常に大きいのが特徴です。
国土交通省自動車交通局による
「平成
図表3 リコール届け出件数推移
(国内)
1-4 自動車の安全要求事項
自動車は安全であることが最も大きな
品質要素です。安全対策の考え方は、次
頁図表5に示すように大きく3つの要素
で説明されます。
自動車の安全を確実にするために、各
国政府は次頁図表6に示すように法令
で自動車メーカーに安全基準の適合を
要求しています。各国認可当局は安全
基準に適合した車両に型式指定を与え、
図表4 リコール原因
(国内)
原因
(年度)
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
設計責任
(%)
43
55
60
69
73
69
77
74
60
製造責任
(%)
57
45
40
31
27
31
23
26
40
販売が許可されます。法令に違反した場
合、
メーカーは使用者に危害が及ばない
ようにするために、
一刻も早く回収処置
(リコ
ール等)
を講ずることが求められます。
アイソス No.174 2012年 5月号
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図表5 安全対策の考え方
1-5 ISO/TS 16949制定の経緯
自動車に求められる品質要求は、過
酷な使用環境、
リコール問題の予防、各
国法規制への適合等、非常に高いレベ
ルで品質を保証することが求められます。
自動車は、多くのサプライヤーから素材、
部品等の供給を受けて製造されますの
で、
サプライチェーン全体で品質を保証す
る必要があります。各自動車メーカーはサ
プライヤーに品質保証のための品質マネ
ジメントシステム要求を行ってきましたが、
二者監査の効率化や、
自動車メーカー毎
図表6 欧州における乗用車の法令
(EC指令 ; 一例)
に異なる要求事項に対処するサプライヤ
ーの負担を軽減する目的などから、
自動
車メーカー毎に異なる品質マネジメントシ
ステム要求事項がISO/TS 16949に集
約されました。
1-6 ISO/TS 16949の運営に関する組織
欧米自動車メーカーや自動車業界団
体 に よ り 、IATF(International
Automotive Task Force)が組織され、
TC176
( 専門委員会)のもとでパイロット
プロジェクトが結成され、ISO/TS 16949
が作 成されました。IATFがISO/TS
16949の運営・管理を行っており、下部
図表7 ISO/TS 16949 に関する組織
組織に、IATFの監督機関を5つ置き、全
世界の認証制度を維持・管理しています
(図表7)
。
ISO/TS 16949の認証機関は現在、
世界で48機関あります。
日本の認証機関
は2つです。IATFは審査の質を高いレ
ベルで維持するために、認証機関を厳し
く管理しています。認証機関の数は多い
年で55機関ありましたが年々減少してお
り、認証機関の審査の質が保証されない
と認 証 機 関は淘 汰されてしまいます。
IATFは自らが厳選した認証機関と審査
員を直接管理することによって、認証機
16
アイソス No.174 2012年 5月号
特集 自動車産業セクター規格
ISO/TS 16949徹底解説
関同士の過当競争を行わせず、審査の
図表8 ISO/TS 16949 関連規格の構成
質を維持させています。
1-7 ISO/TS 16949規格の構成
ISO/TS 16949関連規格は、図表8
に示すように「1.
認証用規格」
「2.
認証ス
キーム」
「顧客指定のレファレンスマニュア
ル」
「4.
ガイダンスマニュアル」等で構成さ
れています。
特徴的なことは、
「1.
認証用規格」
「2.
認証スキーム」を随時、SIs( 公式解釈
集)
と FAQs
(良くある質問)
で追加また
は変更することができるようになっている
ことです。
これらの追加情報は、IATFウ
ェブサイ
トで公表していますので、常に最
新情報を把握することが必要です。
「認証用規格」の要求事項は図表9
図表9 ISO/TS 16949 認証用規格の特徴
に示すようにISO 9001の要求事項をベ
ースにしており、
自動車メーカー各社の共
通的な要求事項をTS補足要求事項とし
て上乗せした構造になっています。要求
事項の数は373項目と言われています。
ISO 9001の要求事項が約140項目です
から、2.5倍強の量になります。認証の基
準は、
自動車メーカー各社が共通化でき
なかった要求事項を顧客固有要求事項
として「認証用規格」の要求事項に追加
しています。ですから要求事項の数は
図表10 ISO/TS 16949 要求事項の特徴
373項目に更に追加されることになりま
す。
1-8 規格要求事項の主な特徴
図表10はTS規格の意図や狙い等、
全体像を表したものです。TS規格の目的
は、品質マネジメントシステム
(横軸)
を継
続的に改善することであり、
その結果とし
て顧客満足度の向上につなげ、最終的
には組織の売り上げ、利益の向上、発展
につなげることです。
このシステムを進める
アイソス No.174 2012年 5月号
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うえでのキーワードは、①プロセスアプロー
ったインタビューを含めた情報収集方法を
16949ではこうした審査スタイルはとりませ
チ、②顧客満足度の向上、③QMSの継
体系化したことです。例えば、
「タートル
ん。審査員はプロセスベースの審査計画
続的改善、
そして④パフォーマンスの継続
図」といって、プロセスに必要な要素を
に従って、
プロセスの存在する場所に行
的改善となります。品質マネジメントシステ
“亀”の姿でモデル化して、必要な情報を
き、
プロセスを実際に動かしている実務担
ムの継続的改善のために、内部監査、
集める方法です
(図表11)。
このモデルを
当者に会い、事務局や管理職ではなく業
外 部 監 査を有 効に活 用することが必
使うことによって審査員の情報収集方法
務を担当している実務担当者本人に直
要です。
を標準化し、
プロセスの有効性評価を効
接インタビューしてプロセスの実態をよく観
果的・効率的に行えるようにしたことです。
察します。
そして、
プロセスのつながりに沿
1-9 ISO/TS 16949審査の方法
第二の特徴として、
“ 大部屋から現場
って、順繰りに全てのプロセスを審査して
へ”、
“部署別からプロセスベースへ”
とい
いく方法です。
まるで芋づるをたぐるような
ISO/TS 16949審査の特徴の一つ
うことです。ISO 9001の審査では、審査
「芋づる式の審査」です(図表12)。ISO
は、
“自動車産業プロセスアプローチ審
員が現場に行かず、部署別の時間割に
9001の審査で見かける部署別審査で
査”
を採用していることです。審査の具体
従って会議室に閉じこもって文書と記録
は、部署内の手順は見えますが、
プロセス
的な方法論を指示しているところが大き
を相手に規格要求事項への適合性を逐
という部門横断的な機能と、
プロセス間
な特徴です。
一検証する審査スタイルが逐条型審査と
のインターフェースを見ることは困難だと思
いって 問 題 になりました 。ISO/TS
います。
第一の特徴としては、審査員任せであ
第三の特徴としては、顧客に対してリス
クの高いプロセス、
リスクの高い製品を審
図表11 タートルモデル
査の焦点を当てることです。顧客満足と
は、顧客と契約した製品について、納期
通りに全数適合品が納入されることで
す。ISO/TS 16949の審査は、顧客満
足を実現するシステムを保有していること
を顧客に代わって審査する仕組みです。
ですから限られた審査時間内で効果的
な審査を行うためにサンプリングの考え方
としてランダムサンプリングではなく、顧客
に迷惑を掛けている、
またはパフォーマン
スが目標未達となっているプロセスや製
図表12 プロセスアプローチ審査
(芋づる式)
品に焦点を当て、顧客に対するリスクに
重点を置きます。
第四の特徴として、生まれを良くするこ
とがあげられます。
“1-3 自動車メーカーが
おかれている状況”で述べましたリコール
の分析結果によると、設計責任が7割前
後で推移していることから、設計段階で
の品質の作り込みの重要性が増してい
ます。ISO/TS 16949の要求事項の特
徴の一つには設計開発段階での品質の
作り込みを重視している点が上げられま
す。育てるのではなく、生まれを良くしてば
18
アイソス No.174 2012年 5月号
特集 自動車産業セクター規格
ISO/TS 16949徹底解説
らつきのない製品を製造するために、顧
度を達成させることです。
“自動車産業プ
客満足につながる有効な審査ができてい
客指定の参照マニュアルとしてコアツー
ロセスアプローチ審査”
を採用することに
ないと判断されれば、IATFはその審査
ル
(APQP、
PPAP、
FMEA、
MSA、
SP
よって、審査実施上の特徴は図表13の
員に対して大変な努力と高額な費用で
C)使用の要求を含めて、生産前活動の
ようになります。
手に入れた審査員証の返却を要求しま
す。
また、
IATFはISO/TS 16949認証
要求事項が充実しています。審査では、
顧客要求事項が必要なプロセスに適切
1-11 認証機関に対する管理強化
基準点を満たしていない認証機関に対し
にインプットされ、
アウトプットにつながって
いることを製品設計プロセスを軸にしっか
り検証することになります。
機関に毎月スコアカードを発行しており、
ISO/TS 16949の狙いを貫くために、
統括機関であるIATFは世界に5つの管
てメジャー不適合を発行して是正処置を
要求します。是正処置が不十分と判断さ
このような特徴を持った審査を各プロ
理・監督機関を置いて認証機関の監視
れればその認証機関は“認定取り下げ
セスに沿って行い、
そこで顧客満足を損
を強化し、ISO/TS 16949の狙いに沿わ
プロセス”に移行され、認定の一時停止、
なうマネジメントシステムの問題が見つか
ない認証機関や審査員を退場させること
更には、認定取り消しとなります。2009年
れば、規格要求事項に照らして指摘する
をドライに行っています。審査の信頼性を
のウイットネス
(審査の現場に立ち会う審
審査手法を
“自動車産業プロセスアプロ
高いレベルで維持することがISO/TS
査)
では当時50あった認証機関に対して
ーチ審査”
と言っています。
この審査方法
16949というブランドを保つ最も重要なポ
全670件もの不適合(その内3割がメジャ
は、
プロセス内のリスクと、
プロセス間のイン
イントだからです。例えば、
ある審査員が顧
ー不適合)
を発行したそうです。
J
IA-QA
ターフェースのリスクを見いだすのに極め
て効果的と考えられます。
図表13 ISO/TS 16949 審査実施上の特徴
この“自動車産業プロセスアプローチ
審査”では、ISO/TS 16949審査員が会
No.
審査実施上の主な特徴
議室で審査することを厳しく禁止していま
1
初回会議に引き続いて、
マネジメントプロセ
ス全体確認のスケジュールがあり、
審査チー
ム全員が参加して確認。
マネジメントシステムの問題、
課題を審査チ
ームで共有化する。
2
マネジメントプロセス全体確認では、
顧客満
足度、
パフォーマンスの推移、
内部監査、
マネ
ジメントレビューの有効性等を検証。
審査の焦点、
サンプリング対象を審査チーム
で明確にする。
3
目標未達のスコアカード、
パフォーマンスに
プロセスの弱点を見極め、
顧客満足とパフォ
着目し、
顧客にとってリスクの高いプロセス、 ーマンス向上に貢献する。
リスクの高い製品に審査の焦点を当てる。
4
焦点を当てたプロセス・製品を重点に、
現場
で、
実務担当者へのインタビューを通して実
情を把握。
5
現場インタビューでは、
実務担当者に異常な
緊張感を与えないために取り巻きの禁止。
(大げさですが、
10m以内立入り禁止)
6
オーディットトレールに沿った審査を行い、 審査目的を達成する審査の道筋
(オーディッ
課題を解決する。
従って審査計画書は暫定的。 トトレール)
を立てて審査する。
(審査が終ったら確定する)
目的を達成するまで審査し、
道半ばで中断し
ない。
す。理由は、
「プロセスは会議室にはな
い」からです。
ここでいう現場とは製造現
場だけでなく、営業、設計、購買等の管理
部門も含みます。ISO 9001の審査では、
組織の方々が審査員に文書や記録を持
って来てくれるようですが、ISO/TS
16949審査では審査員が証拠のある場
所へ見に行きます。ですから、審査員は
一日中、現場を歩き回っていることになり
ます。
規格至上主義からパフォーマンス重視
への転換に、
“自動車産業プロセスアプ
ローチ審査”
と言う新たな審査手法が導
入されました。
7
1-10 ISO/TS 16949審査実施上の特徴
ISO/TS 16949審査登録の狙いは、
組織のパフォーマンス向上とマネジメントシ
ステムの継続的改善を通して顧客満足
顧客要求事項を各プロセスで確認。
理由
日常のあるがままの状況を審査する。
普段の仕事の状態、
ありのままの状態を観察
する。
(普段の仕事では取り巻きはいない)
顧客満足度を達成できる有効なプロセスかど
うかを評価する。
8
審査員はチェックリストを持って審査しない。
(メモ用紙は持ちますが)
チェックリストオーディターにはならない。
9
不適合指摘件数は、
従来方式のISO 9001審
査に対して多くなる。
指摘内容は、
是正処置
する価値のある指摘となる。
現場で実際に活動しているプロセスの問題点
として検出された課題である。
アイソス No.174 2012年 5月号
19
センターは、
スコアカードで100%を維持し、
図表14 ISO/TS 16949 に移行した組織のその後の状況
かつ、
ウイットネスでの指摘は0件でしたか
ら、
IATFの意図を満たした優秀な認証
機関であると評価されていると思います。
このように 認 証 機 関 は 油 断 すると
ISO/TS 16949の看板を外されてしまい
ます。ISO/TS 16949認証機関の数は
毎年変動し続けていますが、現在はグロ
ーバルで48機関まで減少しました。私た
ち認証機関、及び審査員は常に淘汰さ
れる厳しい仕組みの中におかれ、
日々、高
図表15 効果を生み出している組織の状況
いレベルの審査をご提供するための努力
を続けております。
No.
効果を出している組織
(例)
1
品質、
納期等のパフォーマンスが良い方向
*顧客の評価が高い
ISO/TS 16949認証の到達目標の理解
2
トップマネジメントがリーダーシップを発揮している
強いリーダーシップの発揮
3
組織の実態に適したQMSを構築、
運用している
4
ISO/TS 16949要求事項がQMSに良く生かされている
ISO/TS 16949認証の理解、
目標達成の
理解
規格の意図の理解・活用意識
5
PDCAが良く回っている
*全体、
及び各プロセス
6
マネジメントシステムが継続的に改善されている
7
リーダー、
従業員の継続的改善意識が高い
に行った調査で、ISO/TS 16949認証を
8
プロセスアプローチの仕組みが良く実施されている
取得したにもかかわらず効果が出ていな
9
外部審査を有効に活用している
2
Part 2
企業における
効果的なMS構築
ある機関がISO/TS 16949取得企業
成功要因
プロセスアプローチの理解と実践
認証機関と一体となった取り組み
いという結果が比較的多くありました。
ISO/TS 16949認証の狙いは、顧客に
よる二者監査に代わって第三者審査を
み出すことです。形作りではありません。
ました 。これまで の 経 験 を 通して 、
ISO/TS 16949認証取得による効果を
行うこと、
サプライヤーは顧客と契約した
適合製品を納期通りに納入することにあ
2-1 ISO/TS 16949の認証取得による
出すためのポイントをまとめてみたいと思
ります。ISO/TS 16949認証は、顧客と
効果を出すためのポイント
います。
まず、図表14にISO/TS 16949に移
取引するための単なる切符ではなく、顧
行した組織のその後の状況を示します。
客要求事項を満たした適合製品を納期
私はかつて、
自動車メーカーで品質マ
通りに納入することができる品質マネジメ
ネジメントシステムの構築と認証取得に係
ISO/TS 16949認証の狙いから、認証
ントシステムを保有していることを実証する
わり、現認証機関ではISO/TS 16949
取得後はAタイプ、すなわちパフォーマン
ためのものです。
ですから、
もし、ISO/TS
認証機関を立ち上げ、数多くのISO/TS
スが更に向上することを目指して頂きたい
16949認証を取得したにもかかわらず効
16949審査を行ってきました。
そのお陰で
と思います。
Bタイプは、ISO/TS 16949
果が出ていない場合、
システム構築のど
自動車メーカーの品質重視の基本思想、
認証による効果が得られていないケース
こかに大きな問題を抱えていると思います
IATFの人々のサプライヤーへの期待や
で、
Cタイプの場合は、悪化傾向に陥って
ので、原因究明と対策することが必要で
ISO/TS 16949に対する熱い情熱、サ
います。
このようなタイプの場合は、何らか
す。ISO/TS 16949認証とは、効果を生
プライヤーの実態などを多面的に接してき
の問題を抱えていますので、解決をする
20
アイソス No.174 2012年 5月号
特集 自動車産業セクター規格
ISO/TS 16949徹底解説
の向上と、品質マネジメントシステム及び
2-3 ISO/TS 16949認証取得のプロセ
問題を解決する手掛かりとして、効果
パフォーマンスの継続的改善に強いリー
スとポイント
を生み出している組織の状況を図表15
ダーシップを発揮することが、成功のカギ
に示します。経験的に、効果を出している
となります。
ことが必要です。
ISO/TS 16949の認証に関するルー
ルは「自動車産業認証制度ISO/TS
組織に共通している成功要因は、
トップマ
ネジメントが強いリーダーシップの発揮して
2-2-2 現行の品質マネジメントシステム
16949:2002 IATF承認取得ルール」に
いること、ISO/TS 16949の規格の意図
のギャップ分析に基づく再構築
規定されています。認証取得プロセスとポ
イントを以下にまとめてみます。
を理解し品質マネジメントシステムを効果
的に取り入れていること、
プロセスアプロ
品質マネジメントシステムの成果を発揮
ーチを活用した継続的改善を効果的に
するために、ISO/TS 16949の要求事
【認証取得プロセス毎の具体的活動内容】
行っていることだと思います。
これらの成
項と現行の品質マネジメントシステムとの
(次頁図表17)
功要因を活用することが、成果を生み出
ギャップ分析を行い、弱点の強化に有効
(1)
認証機関への申請
すポイントではないでしょうか。
活用することが大事です。
自動車は、
3〜
5万点もの部品で構成されたシステムで
①認証の適用範囲の特定
a)顧客の特定:まず、顧客を特定する
2-2 ISO/TS 16949に取り組む際の重
す。部品の一つでも不良品(不適合品)
ことがISO/TS 16949認証取得活
要なポイント
があれば自動車は正常に機能しなくなり、
動のスタートです。顧客を特定し、
顧
ドライバーにとって不具合となります。不具
客固有要求事項を明確にします。
合内容が、安全や環境にかかわる問題
b)対象製品の特定:基本的には顧客
であれば、
自動車メーカーはリコールを行
に供給される全ての製品が対象と
2-2-1 認証取得の目的、
狙いの明確化
なります。 ISO/TS 16949は、ISO 9001をベー
い、不良品が組み込まれた自動車を回収
スに、
自動車メーカーに製品を納入するサ
し修理することになります。
自動車部品の
c)生産事業所及び支援部門の特
プライヤーにとって実施すべき事項がほ
品質は均一でバラツキがなく、指定納期
定:遠隔地にある支援部門(エンジ
ぼ網羅され、体系的に整理された品質マ
に確実に納入するという特殊性がありま
ニアリング、契約内容のレビュー、購
ネジメントシステム要求事項です。自社の
す。図表16に示すように、
ギャップ分析に
買、倉庫等)
が対象範囲に含まれ
品質マネジメントシステムのレベルアップ、
はISO/TS 16949の要求事項に加え
ます。
そして、パフォーマンス向上を図る上で非
て、顧客要求事項並びに自動車産業の
常に有効だと思います。でも、ISO/TS
特殊性を含んだニーズに対する分析が
明確化
16949は要求事項の数が多いので、全
求められます。
a)プロセスを定義する。
プロセスの順
② 品質マネジメントシステムのプロセスの
ての要求事項を上手く仕組みに落とし込
まないと無駄な仕組みを作ったり、屋上
図表16 品質マネジメントシステムのギャップ分析
屋を重ねた重たいシステムとなり、効果を
出せないシステムになってしまいます。
ま
ず、認証取得の目的、狙いを明確にして、
トップマネジメントが関係する組織の人々
に周知し、推進することがとりわけて重要
になります。
ISO/TS 16949規格のキーワードは、
①プロセスアプローチ、②顧客満足度の
向上、③QMSの継続的改善、
そして④
パフォーマンスの継続的改善です。
トップ
マネジメントは、認証取得後も顧客満足度
*ISO/TS 16949への移行を機会にレベルアップ
アイソス No.174 2012年 5月号
21
図表17 ISO/TS 16949 認証取得までのプロセス
序、相互作用を明確にする。
アウト
ソースしているプロセスを明確にす
る。
このとき、製品実現にかかわるメ
インプロセスと、支援プロセスとに区
分すると整理しやすいです。
b)各プロセスにかかわる規格要求事
項を明らかにし、項目漏れを防止する。
“ISO/TS 16949要求事項対プロ
セス一 覧 表 ”を作 成 するのが良
いでしょう。
顧客固有要求事項が洩れることを
防止するために、
“顧客固有要求事
項 対 プロセス一覧表”
を作成す
ると良いでしょう。
c)事業所情報の明確化
生産サイ
ト、支援サイ
ト毎に、組織部
署名と関係するプロセス、
シフト形
態、対象人員、製品名など明確にし
ます。
③品質マネジメントシステムの構築
a)審査の基準文書の最新版を入手
します。
・ ISO/TS 16949
品質マネジメント
システム-自動車生産及び関連サ
ービス
部品組織のISO9001:2008適用に
関する固有要求事項
・ ISO/TS 16949に対するIATFガ
イダンス
・ 自動車産業認証制度 ISO/TS
16949 IATF承認取得ルール
・ ISO/TS 16949 : Frequently
Asked Questions
(FAQs:よくある質問)
・ ISO/TS 16949
Sanctioned Interpretations
(Sis:公式解釈集)
・ 顧客固有要求事項
b)品質マネジメン
トシステムを構築します。
・ 顧客固有要求事項を含む規格要
22
アイソス No.174 2012年 5月号
特集 自動車産業セクター規格
ISO/TS 16949徹底解説
求事項に対して品質マニュアル、
及び関連する基準書、手順書類を
・ 顧客満足の状況と対応、
スコアカード
及び特別状態、
他
ど)
は登録のための審査に含めます。
・ 組織が定義したプロセスベースの審査
作成します。
(4)
ステージ1審査:準備状況レビュー
④ 品質マネジメントシステムの周知徹底
門(設計、技術、営業、購買、倉庫な
要求されたアイテムが存在しない、
また
計画で
(部門別ではありません)、
プロ
セスが存在する現場で、担当者へのイ
・ 財務担当者に担当プロセス、
インプ
は不完全である場合、効果的な実施に
ンタビューによって審査を行います。
ットとアウトプット、手順書類、業務に
関してステージ2審査でメジャー不適合と
・ プロセスと製品のリスクに焦点を当て、
使用している設備やシステム、
目標
なる問題がある場合は“準備不足”
と判
と実績等について、周知徹底しま
定します。
す(プロセスベースの審査は、現場
a)要求事項を満たした品質マネジメント
で担当者にインタビューします)
。
システム
(品質マニュアル、及び関連
システムの有効性を評価します。
・ 複数のメジャー不適合は、審査チーム
リーダーが協議した上で、審査を中止
することがあります。
する規定や手順書、
記録)
を構築します。
⑤内部監査の実施
・ 内部監査は、品質マネジメントシス
テム、製造プロセス、製品を対象とし
ます。
・ 部署別ではなくプロセスベースの内
部監査を実施しておくこと。
また全
b)内部監査、
マネジメントレビューを実施
します。
c)顧客のスコアカード、
パフォーマンスデー
タ
(品質、納期等)
を提示できるように
持つようにします。
ステージ2審査が実施可能と判断され
た場合、認証機関はステージ2審査計画
(2)
予備審査
書を作成し、
ステージ1審査から90日以内
・ 予備審査はオプションで生産事業所
に実施します。
アップ審査を行います。
(8)
認証可否の判定
おり、審査中に発見された不適合が
100%解決している場合にのみ発行さ
れます。
(9)
登録証の発行
登録証は、生産事業所毎に発行され
への1回の訪問のみ許されます。
成します。
は是正処置を検証するためにフォロー
・ 認証書は要求事項に100%適合して
(5)
ステージ2の計画
・ 認証機関は拘束力のない所見を作
・ メジャー不適合がある場合、認証機関
し、
目標未達の場合は達成シナリオを
てのシフトを対象にします。
⑥マネジメントレビューの実施
(7)
是正処置の実施
(6)
ステージ2審査活動、審査報告書の
発行
ます。支援サイ
トは生産事業所の登録証
に記載されます
(図表18)
。
・ 生産事業所、遠隔地における支援部
(3)
ステージ1審査計画策定
組織は、下記文書を認証機関に提出
図表18 登録証サンプル
します。
・ 順序及び相互作用を示すプロセスの
記述
・ 少なくとも直近12ヵ月間の重要指標
及びパフォーマンスの傾向
・ 品質マニュアル
・ 完全な1サイクル分の内部監査、
それ
に続くマネジメントレビューの証拠
・ 資格認定された内部監査員のリスト及
び資格認定基準
・ 顧客リスト及び顧客固有要求事項
アイソス No.174 2012年 5月号
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(10)
IATFへデータのインプット
認証機関はIATFのデータベースに認
関の審査との間隔が、少なくとも2年
9ヵ月以上。)
トシステム及びパフォーマンスの継続的改
善のために、
トップマネジメント自らが強いリ
b)新規の認証機関は、現行の認証機
ーダーシップを発揮することが成功のカギ
関が予定していた次回のサーベラン
となります。品質マネジメントシステム全体
(11)
定期審査
ス審査の前、
もしくは現行の認証機
のプロセスについて継続的改善を推進
・ 定期審査では、設計部門は少なくとも
関が予定していた次回の更新審査
するトップマネジメントと、個々のプロセスに
1年に1回は審査を受けます。品質マ
の前に移転審査を終了している。
ついて継続的改善を推進するプロセスオ
ネジメントシステム全体は少なくとも3年
c)現行の認証は有効である。全ての既
ーナーが一体となってPDCAサイクルを
に1回は審査を受けます。各審査で
存の不適合は100%解決と見なされ
回し続けることが、ISO/TS 16949を効
ている。
果的に運用する方法だと思います
(図表
証情報を登録します。
は、
全てのシフトが含まれます。
・ 3年毎に更新審査が実施されます。
d)認証判定は移転審査の最終日から
19)
。
最大でも120日以内、かつ既存の有
2-4 移行審査
効な登録証の有効期限より前に行
われる。
現行のISO/TS 16949認証を他の認
Part 3
内部監査員に必要な
力量・
トレーニング
e)他
証機関に移行する場合の手順を解説し
ます。
メリットとしては、認証機関を登録有
詳しくはISO/TS 16949審査ルール
効期間中に変更することができることで
7.0移行審査、及びCommunique#2010-
す。但し、
スコープや日程調整等のため
002
SI No.2, #2010-002、並びに
に、新規の認証機関とは余裕をもって調
FAQ No.10に要求事項が規定されてい
整を開始することが望まれます。
ますのでご参照頂くか、認証機関のお問
ISO/TS 16949の要求事項を監査する
い合わせください。
ために資格認定されることが要求されて
下記の要件を満たせば、認証機関
ISO/TS 16949内 部 監 査 員 は 、
います(ISO/TS 16949
を登録有効期間中に移行することがで
8.2.2.5)。内
きます。
2-5 リーダーシップの発揮と品質マネジメ
部監査を効果的に行うために内部監査
a)直近3年の期間内に他の認証機関
ントシステムの継続的改善
員に必要な力量を明確にしていきたいと
思います。
からの移転を行っていない。
( 新規の
認証機関の審査と、現行の認証機
顧客満足度の向上と、品質マネジメン
3-1 内部監査の要求事項と、監査員の
図表19 PDCAサイクル
力量
ISO/TS 16949の内部監査には図表
20のように3つの区分があり、監査内容
が要求されています。
また、内 部 監 査員は図 表 20の監 査
を行うために、下記の能力が必要にな
ります。
・ ISO/TS 16949要求事項の知識と
理解
・ 会社にある各プロセスと、
そのプロセス
の活動内容の理解
・ プロセスに基づいた監査を行うスキル
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アイソス No.174 2012年 5月号
特集 自動車産業セクター規格
ISO/TS 16949徹底解説
3-2 ISO/TS 16949要求事項の知識
と理解
まず、
『ISO/TS 16949及び追加された
図表20 ISO/TS16949内部監査と要求事項の概要
条項
内部監査の区分
要求事項
8.2.2.1
品質マネジメント
システム監査
SO/TS 16949及び追加されたあらゆる品質マネジメントシス
テム要求事項に適合していることを検証するために、
組織の品
質マネジメントシステムを監査しなければならない。
8.2.2.2
製造工程監査
その有効性を判定する為に個々の製造工程を監査しなければな
らない。
8.2.2.3
製品監査
製品寸法、
機能、
包装、
ラべリングにような、
すべての規定要求事
項への適合を検証するために、
生産及び引き渡しの適切な段階
で……製品を監査しなければならない。
あらゆる品質マネジメントシステム要求事項
に適合していることを検証するため』
の要
求事項は、図表21の通りです。内部監査
員は、
あらゆる品質マネジメントシステム要
求事項を審査する基準文書として、図表
21の図書の最新版を入手し、理解するこ
図表21 ISO/TS 16949要求事項
とが監査を行う前提条件となります。
3-3 会社にある各プロセスと、
そのプロセ
スの活動内容の理解
監査員は効果的に
『組織の品質マネ
ジメントシステムを監査』
を行うために、組
織で定義した
“プロセス”
と、
プロセスの活
動内容を理解していることが求められま
No.
要求事項となる主な基準文書
補足
1
認証用規格
「品質マネジメントシステム 自動車生産及
び関連サービス部品組織のISO 9001:2008適用に関する
関する固有要求事項」
SI's
(追加要求事項)
FAQ's
(よくある質問)
を含む
2
認証スキーム
「自動車産業認証制度ISO/TS 16949 IATF
認証取得ルール」
3
顧客固有要求事項
顧客毎の要求事項
4
コアツール
FMEA
(故障モード影響解析)
SPC
(統計的工程管理)
PPAP
(製品承認プロセス)
MSA
(測定システム解析)
APQP
(先行製品品質計画)
米国ビッグ3が使用を要求
5
工程監査で使用する特殊工程評価ツール
CQI-9(熱処理)、CQI-11(メッキ)、
CQI-12(塗装)、
CQI-15(溶接)、
CQI-17(半田)
す。組織のアウトプットである
“製品”
“製
造工程”
についての理解は、内部監査の
有効性を高めることにつながります。特
に、製造工程監査は
『有効性を判定』す
ることが要求されていますから、製造工程
の監査員は、製造工程の技術的内容を
理解していることが必要になります。
クライ
スラーは顧客固有要求事項で特殊工程
チ』
に基づく審査と、
『プロセスベースの内
評価をAIAG発行の図書を使用して評
部監査』
を審査することが要求されてい
価することを要求しています。
ます(ISO/TS 16949 5.8)。
また、認証
3-4 プロセスに基づいた監査を行うス
テムの開発(7.4.1.2)」の追加要求事項
用の規格「供給者の品質マネジメントシス
キル
(SI 1 09 10月2009年)では、
『 組織の
第二者監査プロセスは、……自動車産
監査員は、構築されたシステムが顧客
業プロセスアプローチに一致したものでな
うになります。
a) プロセスベースの監査とする。
(部署別審査は避ける)
顧客に直接影響のあるプロセスに焦
点を当てる
(次頁図表22)
。
b) 各プロセスの評価指標と目標、
実績を
評価する
(次頁図表23)
。
に対して「契約期日通りの適合品納入」
ければならない』
と要求しています。認証
・ 目標未達の評価指標と顧客に影
を達成する有効な品質マネジメントシステ
用の規格では内部監査の方法論を明確
響を与える問題に焦点を当てる。 ムになっているかどうか監査できるスキル
にしていませんが、ISO/TS 16949規格
・ 目標達成の計画、未達目標の是正
が必要です。
全体として
“自動車産業プロセスアプロー
監 査 の 方 法 論としては 、ISO/TS
チ”
に基づく内部監査を要求していること
計画を評価する。
c) 目標未達のプロセス、製品に焦点を当
16949ルールで認証機関に対する要求
が読み取れます。
“自動車産業プロセス
てる。
事項として
『自動車産業プロセスアプロー
アプローチ”
を簡単に要約すると、次のよ
目標未達の場合、
顧客に適合品を納
アイソス No.174 2012年 5月号
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期通りに提供できないリスクがありま
図表22 顧客に直接影響のあるプロセス
す。内部監査を有効に行うために、
リ
スクの高いプロセスや、製品に焦点を
当てて監査を行います。図表24では、
例えばエンジニアリングプロセスと製造
プロセスに焦点を当てることを示して
います。
このような重点指向をすること
で、パフォーマンス向上と顧客満足を
達成させる内部監査を行うことができ
ます。
d) 監査は、
プロセスが実際に動いている
場所で、
実務担当者から情報収集する。
(会議室では監査を行わない。情報
図表23 パフォーマンス指標
(一例)
と監査の重要度
収集の相手は管理監督者や事務局
区分
顧客スコアカード
社内指標
指標
実績(目標)
評価ランク
レベルⅣ(Ⅲ以上)
納入不良率
250ppm
(10ppm)
納期遵守率
98%
(100%)
流出不良件数
25件/月(0件)
工程内不良率
2,300ppm
(150ppm)
重要度
顧客要求事項を満た
していないので、最
重要。
ではない)
e) 検出した問題は、
不適合として是正
処置を要求する。
(重要、
軽微、
観察の指摘区分は定
顧客に迷惑をかけて
いるので重要。
義に従うこと)
3-5 内部監査の機能
損失金額
結果系指標の因果関
係から重要度を特定
15,000千円/月
(500千円) する
直行率
85%
(98%)
赤帽手配件数
5件/月(1件)
査の機能を確認しておくことにします。図
改善件数
10件/人月(3件)
表25に示すように、内部監査で検出され
生産性向上
98%減(120%)
原価低減
前年度比13%減(20%)
内部監査の結果を品質マネジメントシ
ステムに有効に活用するために、内部監
顧客迷惑には直接係
わりない。
た問題点を対策する活動を通して①品
質マネジメントシステムの有効性の継続的
改善、②品質マネジメントシステムのパフォ
ーマンスの継続的改善、
を果たすことです。
図表24 焦点を当てるプロセス
内部監査では、監査員の検出力が重
要です(図表26)。
Aタイプは、不適合も
観察事項(推奨事項)
も比較的多い。
B
タイプは不適合は少ないが観察事項は
比較的多い。
Cタイプは不適合はほとんど
なく、
観察事項が少しある。
認証機関の審査では、
不適合が二桁
もあるのに、内部監査では指摘事項がほ
とんどない、
BやCのタイプは内部監査プ
ロセスが有効に機能しているか疑問に感
じられます。
26
アイソス No.174 2012年 5月号
特集 自動車産業セクター規格
ISO/TS 16949徹底解説
図表25 プロセスアプローチに基づく内部監査
品質マネジメントシステムの継続的改善
をもたらすシステムは、
PDCAサイクルを
適切に回し続けることです。内部監査は
全社の品質マネジメントシステムのチェック
機能をもっています。
チェックした情報を、
マネジメントレビューのプロセスにインプット
することで適切な継続的改善をもたらす
アクトにつなげる重要な機能です。▼
大森 直敏
図表26 内部監査員の検出力
3−6 マネジメントレビューへの情報イン
プット
マネジメントレビューは、全社の品質マネ
ジメントシステムの継続的改善をもたらす
重要なシステムです。
マネジメントレビュー
を適切に行うためには、
インプット情報が
重要ですが、
インプット情報は単なる状況
報告ではなく、品質マネジメントシステムが
うまくいっている点を含めて、問題点や改
善すべき点について、経営者がQMSの
実態を的確にレビューし、
必要なアウトプット
が出せるような内容にすることが重要です。
現在、
日本ガス機器検査協会 QAセンター
(JIA-QA
センター)
セクター認証部長 兼 JIA-QAセンター欧州
支店長、1977年日産自動車に入社し設計開発部門
にて新製品の企画、設計を担当。品質保証本部に
て、
自動車の品質保証、新型車の開発から量産まで
の品質保証プロジェクト、全社の品質管理教育、社内
標準化、品質機能別管理、ISO9000認証取得推進
等を担当。生産部門、
サービス部門にて新型車の開
発から量産までの品質保証業務及び部品サービス
業務を担当。
1999年財団法人日本ガス機器検査協会(JIA-QA
センター)
に入社し、ISO/TS16949審査機関の立上
げ、欧州の自動車型式認可要件であるRTL認証機
関を立上げ、新EC指令に対応する為に欧州支店を
開設した。直近では食品安全マネジメントシステム規
格FSSC2200審査機関を立ち上げた。JRCA主任
審査員,
QS-9000、ISO/TS16949審査員、RTL審
査員として自動車、
自動車用ユニット、部品等各種の
製造業等の審査経験多数。
WOW!
Column
今後開発されるISOマネジメントシステム規格はすべて Guide 83 に準拠
今後ISOで発行、
あるいは改訂されるす
で決議された。
ただし、
根拠が明確であるこ
共通要素の上に品質特有の要求事項が、
Guide 83から
べてのマネジメントシステム規格
(MSS)
は、 とがTMBから認められれば、
ISO 14001:2014には、Guide 83で記され
の逸脱も認めるとしている。
この決議内容
た共通要素の上に環境特有の要求事項
原則としてISO Guide 83
( MSS共通要
それぞれプラスされた規格構造になると
1年後にTMBでレビューされる。
例えば、 が、
素)
に従わなければならないとする決議が、 は、
2月15〜16日に開催されたISO/TMB会議
ISO 9001:2015にはGuide 83で記された
いうことである▼
アイソス No.174 2012年 5月号
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