398.生まれては消え、消えては生まれ。うたかたのような言葉の中にも、… 朝日新聞「天声人語」2012年9月29日(土)付 (傍線:吉田祐起引用) 生まれては消え、消えては生まれ。うたかたのような言葉の中にも、生き延びて市民権を得るも のがある。腹が立つ意味の「むかつく」もどうやら根を張ったらしい。日常会話で使う人が全体の約 半数、30代までに限れば4分の3を超えるそうだ▼文化庁の国語世論調査は毎年、ひとしきりの話 題を提供してくれる。 今年の調べでは、「なにげなく」を「なにげに」と言う人が約3割いた。「正反 対」を「真逆(まぎゃく)」、「中途半端でない」を「半端ない」がともに2割強と聞けば、言葉は生きもの だと痛感する▼この手の言葉は、若者の間から生まれて、年かさの世代へ攻め上がる。年配層は 眉間(みけん)にしわが寄るが、「真逆」も「半端ない」も16~19歳では6割以上が使っている。遠 からず定着と相成るのだろう▼これを乱れと見るか、言葉の賑(にぎ)わいと見るか。茨木のり子さ んに「日本語」と題する詩がある。〈制御しがたい奔流は/濁りに濁り/溌剌(はつらつ)と流れてゆ くがいい/決壊を防ごうとたとえ百万人/力を併せて清潔なダムを作ってみても/そこに魚は住ま ないだろう〉▼茨木さんは別の随筆で、聞き苦しい言葉は無数にあると言いつつ、「いやな日本語を 叩(たた)きつぶせば、美しい日本語が蘇(よみがえ)るというものでもないだろう」と書いていた▼ 曖昧模糊(あいまいもこ)を「あいもこ」、かくかくしかじかでを「かくしかで」――などと若者言葉は多 彩だ。眉が八の字になりかけるが造語の才には脱帽する。頑迷にならず、迎合もせず、生きた濁 流を眺めようか。 吉田祐起のコメント: ナマの日本語なかんずく、若いニッポンの人たちとの接点が皆無の現在の私にとっては、インタネ ットでみるこの種の記事で、母国の「言語状況」を知るしかありません。 英語の生活ですが、英語圏でも新語や略語が頻繁に誕生しているとかですが、そこまで微妙な変 化は肌で感じません。 若者たちから生まれてくる「新日本語」の善悪は別にして、問題は古い世代の者にとって大事なこと は、本稿筆者の弁「これを乱れと見るか、言葉の賑(にぎ)わいと見るか」ではあるでしょう。 茨木のり子さんの「日本語」と題する詩に曰く、「いやな日本語を叩(たた)きつぶせば、美しい日本 語が蘇(よみがえ)るというものでもないだろう」ですが、「叩きつぶす」ほどのパワーは古い世代に は全く失せているでしょう。 本稿筆者の弁、「眉が八の字になりかけるが造語の才には脱帽する。頑迷にならず、迎合もせず、 生きた濁流を眺めようか。」がどうやら正解のようです。思わず心で笑いがふき出しました。 こんな日本語の流れを目の当たりにする時に、ふと、思うことがあります。日本語の多様性なかん ずく、「私&あなた」の多様性を、優越感と劣等感の裏返しだと皮肉るのが私ですが、願わくば、若 者から発する「新語の誕生」をもって、日本語(国民性)の好ましくない点を払しょくすることになれば、 「不幸中の幸い」だと思うのですが・・・。 No.1(1-300) No.2(301-400) No.3(401-500)
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