VOL.05 茶話 日本茶 WEB マガジン編集長 × 女優 とよた真帆 中村孝則 現代の数寄者・中村編集長が各界の第一線で活躍するゲストを迎えて語りあう、 ティーニスタ茶話。 第 5 回目のゲストは、お茶を愛する才媛、女優のとよた真帆さん。お茶美人によるユニークな「お 茶の楽しみ方」を語っていただきました。 その昔、お茶はもっとパワフルだった 中 村:真帆さんとは女性誌での仕事をきっかけに 10 年ほどのお付き合いになりますが、実はか なりのお茶好きとのこと。茶話のゲストにふさわしい美女としてご登場いただきました。 とよた:お茶は昔から大好きなんです。母がお茶好きで、子供のころから一日中お茶を飲んでいま した。ほうじ茶、煎茶、玄米茶、抹茶…となんでも。母はお茶のお稽古もしていて、昔住 んでいた家には茶室もありました。 中 村:うらやましい環境です。お茶のお稽古は今もなさっているんですか? とよた:中学生のころ少したしなみ、大人になってまた始め、今もゆるく続けています。お稽古仲 間はアナウンサーや女優やファッション関係の人々で、みな忙しいのですが月に一度お稽 古しています。とてもいい先生で、お茶の心を感じながら時間を共有し、地道にでも一生 続けましょうね、とおっしゃって下さる方で。ところでこのお茶、濃くておいしいですね。 中 村:先日、茶師の方にも褒められました(笑)。もっとも、現代のお茶は全体的に洗練されて飲 みやすいのですが、戦国時代のお茶は今より濃く、野性的でパワフルだったんじゃないか な。これはベトナムのハス茶ですが、茶葉自体にも野性味があるんです。ハノイの旧市街 に茶店があり、年に数回は現地に買いにいく。シーズンには店内がハスの花で埋め尽くさ れています。 とよた:その美しい光景を見るだけでも興奮するでしょうね。 中 村:ベトナムではハスの花をカップルで買うと幸福になれるという言い伝えがあって、朝 6 時 半ごろにハノイ郊外の池に行くとカップルが大勢集まっていて、それは不思議な光景です よ。 とよた:そこに中村さんが立っている光景も不思議ですよね(笑)。 「最後の晩餐」にはお茶漬けを 中 村:日常でどんな風にお茶を選び、楽しんでらっしゃいますか? とよた:好奇心のおもむくまま片っ端から試しています(笑)。ペルーでは高山病の予防に効くとい うコカ茶も飲みましたし。野性的なヨモギ茶も好きですし、ハト麦茶もそば茶もハーブテ ィも好き。おいしければいいんです。お抹茶も気軽に自分で点てて飲みますね、甘いもの を食べた後に飲めばいっそう美味しいですし。お抹茶は葉緑素のかたまりだから身体にも 良いし、もっとみんなお茶を飲むべきですよね。 中 村:美と健康のためにもっとお茶を。真帆さんが語ると説得力がありますね。食べるほうはい かがですか? とよた:すごくよく食べますよ。私が最後の晩餐にしたいのは、お茶漬けなんです(笑)。かために 炊いたご飯に、佃煮やなめたけや梅干しを取りそろえ、おいし∼い緑茶やほうじ茶を注い で…。どんぶり 2 杯はいけますね(笑) 中 村:最後の晩餐にお茶漬け、という人は初めてです(笑)。 とよた:お茶漬けが大好きで、そのためにご飯を炊くぐらい(笑)。お茶漬けってブレンドの加減で 一期一会でしょう、 「今の一口、良かった!」みたいな(笑)。混ぜた部分ごとに味が違うし、 時間が経つとご飯がふやけて…。それが延々と続いてもう最高に幸せ!ザーサイに中国茶 に少しラー油を垂らしたお茶漬け、これも絶品です。お茶漬けは自分とのコラボでいくら でも楽しめます。一時期は、いつでも食べられるように冷蔵庫にお茶漬けセット一式を用 意していたほどですから(笑) 中 村:その中国茶漬け、かなりおいしそう(笑)。僕が「地球最後の食事」にしたいのはベトナム 風揚げ春巻きかな。サクッとジューシーで、皮と中身とニョクマムのソースが混然一体と なって…そこにビールがあればもう最高(笑) 無の境地で気配を感じる 中 村:真帆さんは女優業と同時に画家としても活動し、友禅の着物も手掛けるなど多方面で活躍 されていますね。 とよた:演技をする上で無駄なことは何もないんです。女優という仕事は精神を解放することが必 要で、絵を描くことは精神の解放なんです。日常的な暮らしだけをしているとそうした機 会は得られません。キャンバスに向かえば恥ずかしいといった観念も消え、別の次元と繋 がることができる。好きなことをひとつやると、すべてがいい方向に繋がる。中村さんも そうでしょう?剣道や茶道を極め、悟りの境地に向かっていらして。 中 村:確かに、お茶も剣道も悟りへの道かもしれません。剣道でも勝とうと思うと心が乱れてス キが出ますしね。 とよた:よくわかります。お芝居も同じで、カッコつけると人に感動を与えられないんです。特に 舞台では如実で、邪念なしにどこまで真剣に勝負できるか。この人は怪物だ、と思える役 者はその境地に至っていますね。 中 村:剣道でも、強い人は怪物のようです。無心で力が抜けていて、すべてのパワーが一点に集 約されている。その境地の人は、相手が打ってから反応するのではなく、打つ前の気配で 素早く察知する。だから僕らも剣道では気配を感じる稽古をしますしね。 とよた:俳優の榎木孝明さんとドラマでご一緒した時、同じことをおっしゃっていました。時代劇 で人を斬る時、本来は仏さまのようにどこも見ないで、周囲の気を窺い、気配を感じてす っと斬るのだそうです。でもわかりやすいよう芝居では派手な立ち回りで表現するわけで すけれど(笑)。本当の強さとは、無の境地や静けさにあるんですね。 お茶の本質に想いを巡らせて 中 村:真帆さんは生活全般がアートのような人だから、他にも手がけたいことは色々あるでしょ う? とよた:でも人生にはハマらないほうがいいことがたくさんあって(笑)、陶芸もそうですよね。母 からも陶芸に誘われますが、絵を描き、友禅を手がけ、陶芸もやったら女優ができなくな るでしょう、だからコアな趣味は歳をとってからでいいんです(笑) 中 村:陶芸は最後の芸術だからハマったらもう大変(笑)。土と火の世界で、始めたら最後、窯を 持つだの田舎に引っ越すだの…大変なことになる(笑)。 とよた:やったら幸せでしょうけれど、まだ煩悩の世界にいたいから、陶芸は 60 歳ぐらいになっ てからでいい(笑) 中 村:凝り性だから中途半端じゃいやで、とことんやる性格でしょうしね(笑)。さて、ではお抹 茶をお入れしますね。 真帆さんのために、 臼で挽きたての抹茶を松江から取り寄せました。 抹茶も挽きたてがおいしいんです。 とよた:風味が際だって、すごく新鮮ですね。 中 村:お作法やお道具も大事ですが、おいしく飲むことが一番です。お茶は結局、本質とはなに か、ですから、本質がわかればいい。 とよた:私はお稽古をしていただいている先生のお手前をみて、自然に涙が出るんです。あまりに も感動的で…。 中 村:気高さゆえに、でしょうか? とよた:いえ、さりげなく、美しく、あたたかいんですね。美しいお手前とはなんなのか、深く考 えさせられます。 中 村:そこまでお茶が好きな真帆さんは、立派な「お茶大使」になれますね。 とよた:お茶摘みもさせて下さいね、性格的にきっとすごく向いてますから。 中 村:ぜひ行きましょう。そしてお茶漬けのウェブサイトも作りましょう(笑) Profile とよた真帆 Maho Toyota 東京都出身。学習院女子高等科在学中にモデルの仕事を始め、 89 年に TV ドラマ「愛しあってる かい!」で女優デビュー。以来、TV、映画、舞台で活躍。写真・絵画でも才能を発揮し、今年 2 月には松濤美術館で「とよた真帆絵ときもの展」を開催。京友禅の絵師として着物も手掛ける。こ の秋は、Bunkamura シアターコクーンでの蜷川幸雄演出による大作舞台「コースト・オブ・ユー トピア」に出演し、熱演が話題になった。
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