ニューヨーク、コロンビア大学の演劇教育

ニューヨーク、コロンビア大学の演劇教育
藤井慎太郎(早稲田大学文学学術院教授)
1. ニューヨークの主要な演劇教育機関
・コロンビア大学 芸術学部で演劇の MFA、リベラルアーツ大学院で演劇学の Ph.D を取得可能
・ニューヨーク大学 芸術学部舞台芸術研究所で演技・ダンス・デザイン・パフォーマンス研究など
を学ぶことができる
・ニューヨーク市立大学 大学院で演劇学の Ph.D を取得可能
・ニューヨーク州立大学 複数校に演劇科がある
・ニュースクール大学 7 つの学部のひとつとしてニュースクール・フォー・ドラマがある
・フォーダム大学 演劇科がある
・アクターズ・スタジオ ペース大学と提携した MFA 学位を提供
・一般的に実践を重視した課程が多い
・学費は高い代わりに、少人数制を採用している
・演劇研究に関してはコロンビア大学、ニューヨーク大学、ニューヨーク市立大学、ニュースクール
大学、フォーダム大学、プリンストン大学の間にコンソーシアムが存在し、大学院生は他大学の授業
も履修できる
2. コロンビア大学
・ニューヨーク・シティ、マンハッタン島に位置し、1754 年に創設された全米で 5 番目に歴史の古
い大学 アイビー・リーグ(全 8 校)の 1 校
・中心をなすコロンビア・カレッジは 1983 年まで男子校であった 逆にバーナード・カレッジ
(Barnard College、1889 創設、1900 年からコロンビア大学提携校)は現在も女子校である
・芸術学部(School of the Arts)は 1948 年に創設され、演劇については大学院 MFA(Master of Fine
Arts、美術学修士号)学位プログラム(期間:3 年間)を提供している 芸術学部では演劇のほかに
映画・視覚芸術・執筆・音響芸術の MFA が取得可能
・演劇科はさらに演技(Acting)
、演出(Directing)
、ドラマトゥルギー(Dramaturgy)
、劇作(Playwriting)
、
舞台監督(Stage Management)、劇場経営・制作(Theatre Management/Producing)のコース
(concentration)に分かれている ドラマトゥルギーは劇作におけるドラマトゥルギーのことではな
く、ドラマトゥルクが行う上演に関わる実践のことを意味している
・テクスト(戯曲)に基づいた比較的、伝統的な意味における「演劇」を学ぶ 学科の教育の第一の
基本はテクストを読解することである パフォーマンス的演劇、ポストドラマ的演劇もそれほど視野
には入っておらず、ブロードウェイのミュージカルも排除するわけではないが、純粋に商業的な演劇
も念頭に置かれてはいない
・領域ごとの学生数を少人数に抑えており、その代わり学費は高額(5 万ドル超)になる たとえば
ドラマトゥルギー・コースについては通常は 1 学年に 3・4 名を受け入れる(現在の 2 年生のみ例外
的に 9 人が在籍している)
・照明・舞台・衣裳のデザインのコースは以前よりコロンビア大学には置かれていない これらのコ
ースはしかしニューヨーク大学(NYU)の芸術学部(Tisch School of the Arts)に設置されており、
相互に補完関係にある(NYU の学費はさらに高額になる)
・1 年次に全コースの学生がすべて参加するかたちで、実習の授業が行われ、戯曲の一部を実際に舞
台化する そのために演出家志望の学生は 3 日ごとに俳優をオーディションすることになる 非常に
「きつい」授業だが、知識が増えるとともに経験も深まる
・3 年次はインターンシップが中心で、学費は単位数をもとに計算されるため、比較的安くなる
・リベラルアーツ大学院(Graduate School of Arts and Sciences)に設置された演劇学博士課程で Ph.D
を取得可能 MFA をドラマトゥルギー・コースで取得した場合のみ、同博士課程に進学が可能
・学部レベルにおける演劇教育は、伝統的にバーナード・カレッジ(女子校)で行われている
・ティーチャーズ・カレッジ(Teachers College、教職大学院)にもアーツ・マネジメントを学ぶこ
とができる芸術経営学科があるが、ほとんど連携はない
・ニューヨーク、ひいてはアメリカ合衆国の劇場・劇団はより多くドラマトゥルクを必要とするよう
になってきている ただし、収入難の際には最も解雇されやすい
・ドラマトゥルクには、演出家を補佐する上での「控えめさ」
「遠慮深さ」が求められるといわれるが、
自らが主導権をとってプロジェクトを立ち上げ、積極的に発言する新しいドラマトゥルクを育てるこ
とが重要
・学費が高額なためか、演劇の MFA 課程に関しては、学生の構成においてエスニックな多様性はあ
まり見られず、留学生も少ない
・奨学金制度も設けているが、なかなか行きわたらない(岸本氏は学費全額に相当する奨学金を受給
しているが、これはきわめて例外的である)
・学生の多くが卒業とともに多額のローンを背負うことになるので、在学生のケア、卒業生の進路に
はとりわけ気を遣う 納得のいく就職が概ねみんなできている
・現在、世界的に注目されているネイチャー・シアター・オヴ・オクラホマは、コロンビア大学の卒
業生が多く参加してできた劇団である
本調査は以下の聞き取り調査および独自調査に基づいている。
岸本佳子(東京大学大学院博士課程在学、コロンビア大学芸術学部留学生) 2014 年 3 月 5 日・6 日
クリスチャン・パーカー(コロンビア大学芸術学部演劇学科長) 2014 年 3 月 7 日
モーガン・ジェネス(コロンビア大学芸術学部非常勤講師) 2014 年 3 月 8 日
ピーター・エカソル(ニューヨーク市立大学大学院教授) 2014 年 3 月 9 日