知的財産権と中古ゲームソフト販売

知的財産権と中古ゲームソフト販売
目次
はじめに
1.過去の裁判例
Ⅰ)知的財産としてのゲーム
Ⅱ)大阪と東京の裁判
2.ビデオ映画とゲームソフトの違い
3.ソフトメーカー側の考え
4.中古市場のこれから
おわりに
5198−147 豊田 純一
はじめに
今、年齢を問わずゲームが流行している。その中でゲーム会社はそ
れぞれの生き残りと発展を賭けていろいろなソフトを世に送り出し、
私たちユーザーはそれを見て興味を引かれる物を買ってプレイする。
しかし人間は飽きやすいもので一通り終えてしまうと興味が失せてソ
フトは無用になってしまう。そしてそれを再利用するような形で中古
ソフト販売が増え始めた。中古品だからもちろん新品よりも値段が安
い。そうなると新しいものが売れなくなりメーカーの利益が奪われて
いく。メーカーはこのまま中古市場に飲まれていくのだろうか?
1.過去の裁判例
日本のコンピュータは昭和30年代前半から普及し始め昭和40年代
の高度経済成長期に発展し、今では個人レベルにまで浸透している。
過去にゲームを巡っていくつか裁判が行われているが、そのうちのい
くつかを紹介する。
Ⅰ)知的財産としてのゲーム
ここでは、ゲームが流行し始めた頃の代表的な2件を紹介する。
スペース・インベーダー・パートⅡ事件
(東京高裁昭和57年12月6日判決)
原告はゲームマシンを販売・貸与していた。マシンの中にはアセン
ブリで作られたプログラムがあり、それをROM(固定記憶装置)に
格納していた。被告は別のゲーム機にこのプログラムを格納し、同じ
映像を出せるようにして販売していた。原告は被告のプログラム格納
行為はプログラムの複製に当たるとして損害賠償を求めた。被告はア
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センブリ言語は人間に理解できるものではなく、思想や感情を表現す
るものではないので、著作物に当たらないと主張した。
判決はアセンブリ言語は専門的知識を持つ第三者には理解可能であ
り、独自の学術的思想を取り入れて作成されるものであるので著作物
性を認め、ROMからROMへ移す行為を複製に当たるとした。
この判決はシステム設計、プログラム設計、プログラミングのどの段
階までを著作物性と認めるかを示した。判旨によると解法発見は著作
物ではないとした。フローチャートはプログラム以前のものであり、
アセンブラによる変換は機械的な置き換えなので創作性はなく複製を
肯定。ソースプログラム・オブジェクトプログラムは著作物に当たる
とした。
パックマン事件(東京地裁昭和59年9月28日判決)
原告株式会社ナムコは被告酔心興業株式会社及び株式会社酔心が自
社のビデオゲーム「パックマン」を無断で複製し、被告の経営する喫
茶店「マイアミ」で顧客に使用させたとして上映権の侵害を主張して
損害賠償を請求した。争点はビデオゲームが映画の著作物に当たるか
という点であった。
判決は、映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現
されており、ゲームの映像はROM中にプログラムとして格納されて
プレイヤーにより変化して映し出されるが、映像は固定化されている
とし、映画の著作物としてみとめた。また、
「パックマン」自体が著作
物に当たり、原告が著作権者であるものとして損害賠償請求を認めた。
映画の著作物として認めたことによりゲームは広い範囲の保護が受
けられる様になった。ROMのコピーも著作権侵害になり、ビデオゲ
ームの映像と類似のものを作っても複製権侵害となる。また、これら
はプログラムが著作物であると初めて認められたものである。
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このようにゲームに関する裁判は20年ほど前から行われており、
それは著作物として認められてきた。これはゲームのみならず、プロ
グラムという形のないものが世の中に認められてきた証ともいえよう。
Ⅱ)大阪と東京の裁判
先ほど挙げた例は、すでにあるプログラムを使って利益を得ようと
するある意味他力本願的な考えで行われた行為である。
一般家庭向けのゲーム機の普及につれてソフトも多種多様なものが
次々と開発されると、不要なものは売ってしまいそれを元手に新しい
ものを買おうとする動きがでてきた。そして中古市場が広がっていっ
た。
しかし、それにより新しい商品はあまり売れなくなり、中古ソフト
販売の是非を争うようになり、裁判まで発展した。
ここでは、一度判決が出ているがそれで問題が解決していない2件
を紹介する。
大阪地裁の場合(平成11年10月7日)
原告:
(株)カプコン、コナミ(株)
、
(株)スクウェア、
(株)ナ
ムコ、
(株)SCE、
(株)セガ・エンタープライゼズ
被告:株式会社アクト
原告は被告が中古ソフト販売をしているのに対し、ゲームソフトは
「映画の著作物」に当たり頒布権があり、パッケージに中古販売禁止
の記述がある。また、中古販売によって売り上げが低下し、制作意欲
にも影響があるとして中古ソフトの販売禁止と所有するソフトの廃棄
を求めた。
大阪地裁はゲームによる映像や音声などはプレイヤーによって変化
があったとしてもその変化は予測済みでありそれを含めてプログラム
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してあるので、
「映画の著作物」として認め中古ソフトを販売してはな
らないとした。
東京地裁の場合(平成11年5月28日)
これは大阪訴訟とは少し違い、メーカーの中古ソフト販売禁止の要
求に対し、独占禁止法違反であるということでソフト販売業者側が原
告となったものである。
原告:ソフト販売業者
被告:
(株)エニックス
被告は、ゲームは「映画の著作物」であるから頒布権もあり、中古
ソフト販売は著作権者たるゲームソフト会社の許諾が必要であると主
張したが、原告はそれは独占禁止法に違反であると主張した。
東京地裁は、ゲームは映画のように劇場で公開し、多くの人に一度
に見てもらい利益を上げるような特殊性が無く、個別に画像を抽出す
るものなのでゲームソフトを「映画の著作物」とは認めず、中古ソフ
ト販売は合法であるとした。
どちらの場合も、争点は「ゲームソフトは映画の著作物であるか否
か」である。そもそも「映画の著作物」とはどういったものであるの
か?
著作権法2条3項によると、映画の著作物とは
・表現方式の要件:映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる
方法で表現されていること
・存在形式の要件:物に固定されていること
・内容の要件 :著作物であること
とされている。
表現方式の要件に「映画の効果に類似する」とあるが、映画とは一
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体どう言ったものなのか?どこまでを映画というのだろうか?劇場で
上映されたものだけなのか、それともビデオに収録されたものも含む
のか。
しかし、それについてははっきりと定義されていない。
ここで紹介した例はどちらも平成になってからの出来事である。な
ぜ最近になってこの様なことが問題になりだしたのだろうか?
それは元々ゲームは未成年の子供をターゲットとして発売されてお
り、その所有者はもちろん子供と言うことになる。未成年は保護者の
同意なしに契約をすることができないので、ソフトを売ることが想定
されていなかった。しかし今では年齢を問わずゲームが流行しており、
気軽にゲームソフトを売れるようになった。そして中古市場が発達し
ていった。
裁判にまで発展した中古ソフト販売問題だが、新品と中古品とはど
う違うのだろうか?
新品
長 ・発売してすぐに購入できる
所 ・箱や説明書がきれい
中古品
・ 比較的安価である
・ 世間のそのゲームに対する評
価が推測できる
短 ・ 元々子供向けにしては若干 ・ 箱や内容物が汚れていたり欠
損している場合がある
所
高価である
・ 期待していたものと内容が ・ 人気のあるものは中古で出回
る数が少ない
異なる場合がある
・ 物によってはゲームの進行状
況を記録できない場合もある
このようにいくつか挙げてみたが、ゲームの内容について優劣がない
のは見ての通りである。つまりゲーム自体は新品であろうと中古であ
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ろうと変わりがないのでそれ以外のものでどちらを買うか判断してい
るのである。
2.ビデオ映画とゲームソフトの違い
前章の大阪地裁の例において、ゲームソフトは「映画の著作物」で
あるから中古ソフト販売は違法とするとあるが、ビデオ映画はどうな
のか?ゲームを中古として売ってはいけないと言うのならビデオ映画
も中古では売ってはいけないのではないか?
ビデオ映画の場合そのほとんどがレンタルで使用されたものであり、
テープが劣化し、画像や音声にも影響があるので新品と競合する余地
がなかったので問題にはならなかった。ただ、最近急速に普及してき
ているDVD(デジタル・ヴァーサタイル・ディスク)ソフトはゲー
ムソフトと同じくほとんど劣化することがないので中古でも新品と同
様の映像・効果が得られるので、これもまた新品の販売に影響が出て
くる可能性がある。そのため、DVDソフトメーカーはパッケージに
中古販売禁止の表示をしている。
3.ソフトメーカー側の考え
中古ソフト販売についてメーカー側はどう考えているのか次のよう
なアンケートを実施した。
1.中古ソフト販売について大阪地裁は禁止を命じ、東京地裁は許
可しているが、それについてどう思うか?またどちらを支持す
るか?
2.
・中古販売店で販売された売り上げの内いくらか利益はまわって
くるのか?
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・中古販売によっていくらかの損失があると思われるが、それに
よる制作意欲の低下はあるか?
3.ソフト1本当たりの制作費の平均と利益回収率(見積もりと実
際の値)を過去10年間ほど教えて下さい。
4.中古販売にユーザーが集まるのはその価格からだと思いますが、
それに対抗できるような価格設定をすることはできますか?
これをインターネットで検索して探したゲームソフトメーカー21
社に質問した。そのうち返事があったのは7社だった。
しかし、返事があったメーカーも質問に答えて貰えたところはなか
った。その理由としては前章の「大阪と東京の裁判」で述べた通り、
まだ論争中で決着がついていないからと言うものであった。
よってここからは推測になるが、質問1についてはどちらとも言い
切れないのではないだろうか?中古販売を認めればメーカーの利益が
減るので禁止したいだろうが、それによってゲームが普及しにくくな
ればそれもまた問題であるからどちらとも言えないのであろう。
質問2については中古販売店から利益がまわってくることはないで
あろう。そうでなければこれほど中古ソフト販売が問題視されないか
らである。また、制作意欲は若干の低下はあるだろうがそれによって
新しいものができない程ではないと思う。なぜなら、いまも次々と新
しいゲームが開発され、それが売れているからである。
質問3で過去10年間としたのは、家庭用ゲームが普及していてな
おかつ中古販売店が増えだした時期の推移が見たかったからである。
制作費の方は、ハードの進歩につれてゲームの内容や表現の仕方に幅
が出てきたので費用がかさんでいると思われるが、その反面利益回収
率は中古ソフト販売店が増えだしてから低下し続けていると思われる。
質問4は、利益を優先するならばやはり無理であろう。もちろんで
きないことはないだろうが、それでは利益回収に時間がかかり次回作
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の制作が大幅に遅れるだろう。
4.中古市場のこれから
先に述べたことだが、現状では中古ソフト販売については決着がつ
いておらず、お互いの主張は平行線をたどったままである。しかしメ
ーカー側も中古販売を全面否定しているわけではない。著作権者であ
るソフトメーカーの利益を守るため、許諾なしに中古ソフト販売をす
る事を止めて欲しいと言っているのである。また、もし中古ソフト販
売を全面禁止にすると不要になったソフト(この場合記憶媒体)がゴ
ミとして廃棄しなければならない。それは新たなゴミ問題となり、ひ
いては環境問題にまで発展する恐れがあるからである。
しかしはっきりとした規定がないままではやはり禁止をせねばソフ
トメーカーの利益が保てなくなってしまう。では、どうすればいいの
だろうか?
それは中古販売を法的規制することである。それによりソフトメー
カーの最低限の利益を確保する。そうすれば例え中古販売が新品より
流通していたとしてもソフトメーカーにはほとんど被害がない。
具体的には第一に、新品のソフトが発売されてから一定の期間が過
ぎるまで中古ソフトを販売しないことである。そうすればユーザーの
大半は新発売のゲームソフトを新品で買わざるを得なくなる。なぜな
ら、一定期間待って中古ソフトを買うユーザーもいるだろうが、大半
のユーザーは発売と同時にプレイしたくなるものであり、そのためな
ら新品を買うことも気にならないものである。
また、その期間の内にユーザーが売ろうとした場合、買い取るのは
構わないが売ってはいけないとする。そうすればユーザーはその売っ
たお金でまた新しいソフトを買うことができ、また中古市場で出回る
ソフトの流通量を減らすことができるのでソフトメーカー側の損失も
減らすことができる。
そして第二に、中古ソフトを販売して得た利益のいくらかはそのソ
フトのメーカーに還元する。そうすれば、仮に中古市場で出回るソフ
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トが増えたとしても、新品には及ばないとはいえ少しでも利益を回収
することができる。
あとはソフトメーカーと中古ソフト販売店が歩み寄り、最善の方法
を模索して行くしかないだろう。
終わりに
これまでいろいろ述べてきて改めて思ったのは、ソフトメーカーも
中古ソフト販売の存在を認めているということだ。ただ、そちらにユ
ーザーが傾き、自分たちの利益が失われるのを恐れていただけなので
ある。ユーザーの立場から見れば中古ソフトは新品と同様の内容を新
品よりも安く得ることができるのでこれを利用しようとするのは至極
自然なことである。ならば、そのユーザーの性質を利用してソフトメ
ーカーと中古ソフト販売店が相互の利益のために連携することが必要
である。もうその動きは始まっており、中古ソフト販売を巡る問題が
解決するのはそんなに先の話ではないであろう。
<参考>
・著作権法セミナー みんなで考える著作権 文芸社 2000,6,1 初版
著作権実務研究会 木下一哉 吉田茂 水野晴夫 日野孝次郎 著
・ 社 団 法 人 コ ン ピ ュ ー タ ソ フ ト ウ ェ ア 著 作 権 協 会 (URL:
http://www.accsjp.or.jp/)
・社団法人 コンピュータエンタテイメントソフトウェア協会
(URL: http://www.cesa.or.jp/)
・ テレビゲームソフトウェア流通協会(URL: http://www.arts.or.jp/)
・ ファミ通.com (URL:http://www.famitsu.com/)
・ 中古ソフト販売訴訟について
大阪訴訟 (URL:http://www.arts.or.jp/judge/judge_osaka/select.html)
東京訴訟 (URL:http://www.arts.or.jp/judge/judge_tokyo/select.html)
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