群馬県における観光教育の導入についての主張 安藤 光司 Ⅰ.はじめに 群馬県は豊かな自然や遺跡、温泉といった観光資源を数多く持つ。そのうちの一つ である富岡製糸場が世界遺産の登録へ向け着々と進んでいる。よって、今よりも群馬 県の観光がより盛んになると同時に県民の郷土への思いも強くなるだろう。 一方、このような調べもある。リクルートホールディングスが行った全国ご当地調 査で「地元に愛着をもっているか」という問いに対し、 「とても愛着を感じる」と答え た人の割合は 30.0%で群馬県は 47 都道府県中 30 位であった。これは決して良い結果 ではないはずだ。 自らの住む地域を誇れるためには地域を知り、学び、体感する教育が必要だ。私は その教育の方法として観光教育が有効だと考える。そこで高等学校を観光教育の対象 として、その意義と可能性について意見したい。 Ⅱ.観光教育の内容とその現状 観光教育と聞いて修学旅行や社会科見学などのことかと思うかもしれない。もちろ んそれらは観光を用いた教育の方法の一つであることは間違いないはずだ。では、観 光教育はどのようなものか。観光教育の定義について長谷政弘は自著の中で「観光教 育とは観光およびそれに関連する知識を与え、かつ人としての心構えを教えることで ある。 」(長谷 1997 p25)と定義づけた。つまり、観光教育とは生徒が観光者であ ると同時に、観光者を迎え入れる立場や両者の仲介をする立場を目指す教育なのであ る。観光者としての教養を身に着けるだけでなく、観光業界についての知識を学び実 践的な体験を通して観光業界で働くための準備を行うのだ。 また、観光教育は大きく分けて観光基礎教育と観光実務教育の二つの分野に分かれ る。観光基礎教育は観光に関する知識の習得を目的とする教育である。たとえば、観 光の仕組みや観光者の心理などを学ぶ。国家資格である「総合旅行業務取扱管理者試 験」などの検定の取得も視野に入れる。もう一つの分野である観光実務教育は実践的 な技術や方法を学ぶことが目的となる。ホテル業務を研修したり、観光に携わる方の 話を聞いたりと様々な体験を通して肌で感じ考えることが大切になる。カリキュラム の構成において、これらの二つの分野のバランスも考えなくてはならない。 観光教育を行っている学校として長崎県立佐世保商業高校を挙げる。佐世保商業高 校は総合的な学習として 3 年次週 3 単位の課題研究という授業を行っている。課題研 究はいくつかの科目のなかで、各生徒が選択しそれぞれの目標に向け学習する授業だ。 1 選択できる科目には簿記や情報処理といった商業に関する科目やビジネスマナーのよ うな職業学習の科目があり、観光研究という科目も存在する。観光研究は商業科の教 員が指導する。2006 年度の1学期における授業内容は検定の取得を目指しながら旅行 実務について学び、2 学期はホテル業務について学習し、3 学期は各生徒でテーマを決 めそれぞれが研究を行い、カリキュラムの最後に全校生徒を対象にプレゼンテーショ ンを行う内容だった。 観光に関する学科・学部を持つ高等学校は群馬県にはないが、県内の学校で観光に 関する活動を行っていないわけではない。例えば、公益財団法人全国商業高等学校協 会が主催する「全国高等学校生徒商業研究発表大会」がある。毎年、県内の商業高校 生が販売や町おこしなどに取り組み、その結果をプレゼンテーションする。活動の内 容や発表の方法を競い合うのだ。観光旅行をテーマに地元地域の自然や観光名所、名 産品を取り上げ活動する高校も少なくない。また、私自身も高校生の時に観光活動に 参加したことがある。去年に行われた「群馬ディスティネーションキャンペーン」の 観光イベントの一つとして私が通っていた商業高校が参加することになったのだ。そ の内容は高校生が中心となって県内を巡る観光ツアーを企画し、ツアー当日も高校生 が名所を案内したりバスガイドをしたりと高校生の感性や目線でツアーを行うことで あった。私たちは商業科の先生や旅行会社の方、地元の地域住民の力を借りてツアー を決行し成功させることができた。 しかし、それらの活動を行っている学校は商業高校がほとんどだろう。群馬県の自 然や温泉といった観光名所は、もっと教育に活かせるはずだ。私はより多くの生徒が 観光について学び体験することで、観光業界の人材育成となるだけでなく、郷土学習 にもなり、また、人間としての成長を望めると考える。 Ⅲ.観光教育の効果 それでは、観光教育を行った際、生徒にどのような影響や効果があるのか述べてい きたい。まず、将来観光業界に就職したいと考えている生徒が早い段階から専門的に 学習できる点を挙げる。現在の日本では観光基本法が改正され、観光立国推進基本法 が平成 18 年に成立し翌年から施行している。今、観光の発展が求められているのだ。 そのような現状の中、早い段階から観光について学ぶことで、即戦力と成りえる人材 育成につながるだろう。 観光教育を行うことで、観光業界を担う人材に対し必要となる知識や技術を学ばせ ることができるのは間違いないだろう。だが、すべての生徒が将来、観光に関わる仕 事がしたいとは思ってはいないはずだ。むしろ依然観光業界に就きたい生徒の数はま だ少ないのではないだろうか。私は先ほど、自身が高校生の時に観光活動に携わった ことを述べた。その活動で私は貴重な体験ができたとともに、多くのことを学び成長 できたと感じている。だからこそ、私は将来観光に従事したいと考える生徒以外にも、 2 観光教育は大きな意義があると考える。そこで、私自身の体験をもとにして、観光に 携わる活動の中で生徒が何を学ぶかを述べていく。 ホスピタリティ)ツアー企画時に先生から「ホスピタリティ」という言葉を教わっ た。 「ホスピタリティ」とはおもてなしの心のことである。私はその言葉を踏まえ、ど うしたら参加者を満足させられるかを考えながら、企画を行い当日運営することがで きた。 「ホスピタリティ」の考え方を知ることで、気配りを忘れず相手を尊重するコミ ュニケーションがとれる。このことは良い対人関係の構築に加え、人間性の成長につ ながるだろう。 地元地域の再発見)ツアーコースの企画の際、事前学習をして旅行で行く場所の下 見に行った。既に行ったことがある場所でも、自分が知らなかった魅力に気づくこと ができた。これはおそらくお客様に楽しんでもらうといった、今までとは違う目線で あったためだろう。このように普段の生活とは違う観光という視点から地元地域に関 わることで、郷土の知識や思いをより深いものにするだろう。 職業訓練)活動の中で何度も旅行会社の方に助けていただいた。助言をいただいた り、マナーなどを教えていただいたりしたのだ。親や先生以外の働く大人と関わるこ とは、当時の私にとって新鮮であり貴重であった。何より仕事に対する真摯な思いに 感動した。自らの進路を決める高校生の時に、仕事と向き合う大人に接することは大 切なことだろう。これは職場体験を通しても同じことを感じることができるだろう。 このように観光に関わる活動を通して様々なことを学ぶことができると考える。も ちろん、観光基礎教育のような座学も必要不可欠だろう。だが、実際に目で見て肌で 感じ自分で考えた体験は、より生徒の成長につながり今後の糧となると考える。 Ⅳ.本県における観光教育の導入について 私が述べてきた観光教育を群馬県でどう取り入れるべきか提案したい。 私は導入の方法として二つ提案する。 まず一つ目に商業高校や総合学科の高校を対象とし、新たに観光に関する学部・学 科や選択科目として観光学を設けることを提案する。基礎学力をつけつつ観光につい て長期間学ぶことで、観光業界に即戦力となる人材を輩出することができるだろう。 これは将来観光と接する職業に就きたいと考えている生徒にとって、高校生の時から 観光について学ぶことができる良い機会になる。また、本県では高校教育改革推進計 画において地域・産業界との連携や特色のある高校教育、キャリア教育や職業教育の 推進を目指している。そこで「観光学部」「観光学科」を取り入れることで、その達成 の足掛かりになるだろう。さらに「総合旅行業務取扱管理者試験」や「観光英語検定」 などの検定の取得も視野にいれることができるだろう。 二つ目に観光活動に学校を問わず、多くの高校が参加することを提案する。例えば、 「観光プランコンテスト『観光甲子園』」などの活動だ。「観光プランコンテスト『観 3 光甲子園』 」とは「観光立国日本」を担う人材育成をめざす試みで高校生が主役となっ て地域をアピールし、実際に商品化をめざすことのできる「地域観光プラン」を募集 するコンテストだ。 (HP より引用)他には商業高校が中心だが「全国高等学校生徒商 業研究発表大会」などもある。インターンシップとして、旅館やホテルの業務を、体 験するのも良いだろう。これらの活動を通して、地域再発見や職業教育といったこと も学ぶことができるだろう。これらの活動に多くの学校が参加することで、群馬県の 観光もよりにぎやかになるだろう。また、町おこしにも一役買うはずだ。 Ⅴ.おわりに 今回の論文作成にあたり、観光とは身近にあると気づいた私の高校時代の体験を思 い出した。 「観光立国」を目指す今日、観光の改革や飛躍が求められている。そのため の人材の育成も切実な問題だ。豊かな自然があり、観光名所を多数持つ群馬県におい てそのことはなおさらである。観光は自分の住む地域を知り好きになることから始ま るのかもしれない。そうであるならば観光教育はその手伝いをするのだ。教員やカリ キュラムなど様々な解決すべき問題は多い。しかし、観光教育を通して生徒は群馬県 民である自覚を持ち、活動を通し多くのことを学ぶだろう。だからこそ、群馬県にお いて観光教育は意義を持つと主張する。 <参考文献> 観光学辞典 長谷政弘著 1997 有斐閣 p25 <参考ホームページ> http://www.recruit.jp/news_data/library/pdf/20100330_01.pdf じゃらん ご当地調査 リクルートホールディングス 10/26 アクセス http://www.jata-net.or.jp/seminar/exam/guide/exam.html 一般社団法人 日本旅行業協会 10/30 アクセス http://www.jtb-hrs.co.jp/kankyoken/kksk_aboutus.htm 観光教育推進研究会 10/30 アクセス http://www.mlit.go.jp/kankocho/kankorikkoku/kihonhou.html 観光省 観光立国推進基本法 10/31 アクセス http://www.pref.gunma.jp/03/x2800015.html 群馬県 高校教育改革推進計画 11/6 アクセス http://www.kobeshukugawa.ac.jp/kanko-koshien/ 「観光プランコンテスト『観光甲子園』 」 11/6 アクセス 4
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