日米・異文化体験シリーズ（１０９）ベトナム事情① 犬も猫も食べる谷敦雄昨０８年の秋からベトナムのハノイ出身の男性（３０歳）H にボランティアで日本語を教えている。まだ半年ほどしか経たないが、初めて教えた日に「日本にいつ来たんですか？」と英語で尋ねたら、英語で「今朝です」と言うので耳を疑った。英語が通じていないと思い、今度は「いつ成田に着いたんですか？」と聞いたら、やはり「今朝成田に着きました」と答えた。これは後で分ったことだが、奥さんが一足先に来日していた。それにしても、ベトナムから千葉県の成田に朝着いて、その日の午後にはもう神奈川県の相模原市で日本語の勉強を始める熱心さには痛く感心した。日本人でも幼いころは「お母さん」が「お母しゃん」になったり、「積み木」が「ちゅみ木」になったりするが、ベトナム人に５０音表のダ行を教えた時は、「ダ・ダ。どうぞ」と促すと、「ラ・ラ」と言う。「違う、違う。ダ・ダ・ダ・ダ・ダ！」と繰り返しても、また「ラ・ラ・ラ・ラ・ラ！」と言った。「シンブン」（新聞）は「スィンブン」になった。最近でも「ツの音がベトナム人には苦手です」と言う。確かに「ツマ」（妻）が「ツゥマ」になる。ツ t s u の t と s とを同時に発音するのが難しいらしい。ベトナム語には子音に h が付く言葉が多い。 Manh は彼のミドル・ネーム、 Thu は彼の奥さんの名、 Khoa は彼の友人の姓。ベトナムの都市ホー・チ・ミンのミンは M i n h だ。だからツマ t s u m a 妻をツゥマ t h u m a と発音してしまうのではないかと思う。ベトナムは日本と同様、太平洋に面し海岸線が長い。でも海の幸の多くは輸出し、食べるのは専ら川魚だそうだ。ベトナムでは刺身は食べないという。去年のクリスマスに夫婦を自宅に招いて土鍋を囲んだ。肉はどんなものを食べるかと聞いたら、チキン、ポーク、ビーフと来て、ダンナがイヌと言った。驚いて「奥さんもイヌを食べるの？」と聞くと、「私も食べたことある。ポークみたい」と言う。いっそう驚いて「じゃあ、ネコは？」と聞くと、ダンナは「ないです」と答えたが、奥さん（２６歳）は「あります」と言った。そして「ネコはビーフの味がする」と付け加えた。それで仰天して「ベトナムでは犬も猫も食べるんだ」と念を押したら、彼女から「でも日本ではクジラ食べるでしょ！」と言われてしまった（続く）。