血栓溶解療法試験における発症時間不明の虚血性脳卒中治 療

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Stroke 日本語版 Vol. 7, No. 3
Full Article
血栓溶解療法試験における発症時間不明の虚血性脳卒中治
療を目的とした磁気共鳴画像法による実用的アプローチ
A Pragmatic Approach Using Magnetic Resonance Imaging to Treat Ischemic Strokes of
Unknown Onset Time in a Thrombolytic Trial
Shlee S. Song, MD1,4; Lawrence L. Latour, PhD1; Carsten H. Ritter, MD1; Ona Wu, PhD2;
Mourad Tighiouart, PhD3; Daymara A. Hernandez, BA1; Katherine D. Ku, BS1;
Marie Luby, PhD1; Steven Warach, MD, PhD1,5
1
National Institutes of Neurological Diseases and Stroke, Section on Stroke Diagnostics and Therapeutics, National Institutes of Health,
Bethesda, MD; 2 Department of Radiology, Athinoula A. Martinos Center for Biomedical Imaging, Massachusetts General Hospital,
Charlestown, MA; 3 Samuel Oschin Comprehensive Cancer Institute, Cedars-Sinai Medical Center, Los Angeles, CA; 4 Department
of Neurology, Cedars-Sinai Medical Center, Los Angeles, CA; 5 Clinical Research Institute of Austin Programs, University of Texas,
Southwestern Medical Center, Austin, TX.
背景および目的:発症時間が不明な脳卒中患者を治療す
るための画像パラメータを用いた臨床試験のデザインを
目標として,脳卒中の発症時間が明確な患者から MRI 上
に変化が見られる時間を調べた。
方法:仮説作成サンプル( n = 85 )および確証サンプル
( n = 111 )について,盲検化された読影者が,拡散強調
画像陽性( diffusion-positive )領域における FLAIR( fluidattenuated inversion recovery )高信号域のスコアをつけ
た。病変と対側組織の読影者が測定した信号強度比( SIR)
を,重ね合わせ( coregistration )
により測定した SIR と比
較した。
結果:FLAIR での病変の被視認性( conspicuity )
は時間と
ともに向上した(p = 0.006 )。FLAIR 陰性と FLAIR 高信
号域の定性的評価では(K = 0.7091;95% CI,0.61 ∼ 0.81 )
,
良好な評価者間一致率が認められた。わずかな高信号域
については分類の信頼性が低かった(K = 0.59,95% CI,
0.47 ∼ 0.71 )
。読影者の測定による SIR が 1.15 未満の場合,
4.5 時間の治療可能時間枠内の患者を同定することができ
る( 陽性予測値= 0.90 )
。SIR は,報告された脳卒中発症
からの時間が一定の場合,右半球の病変で大きかった
(p =
0.04 )
。
結論:FLAIR の SIR は初期の虚血性脳卒中を同定するた
めの定量的ツールを提供する。SIR の閾値を設定する際に,
右半球の病変は脳卒中の発症時間の正確な推定を困難に
する可能性がある。血栓溶解療法試験の登録には画像の重
ね合わせは不要である。FLAIR で 1.15 未満の SIR により,
4.5 時間以内の脳卒中発症の実際的な推定が可能である。
Stroke 2012; 43: 2331-2335
KEYWORDS 拡散強調画像,FLAIR(fluid-attenuated inversion recovery ),脳卒中,血栓溶解
慣例として,血栓溶解療法への適格性を判断するため
が明確な患者における急性期 MRI の画像変化のタイミ
の脳卒中発症の時間は,患者が正常であることが最後に
ングに興味をもった。覚醒時に症状が認められた脳卒中
確認された時点と推定される。この控えめな推定により,
(wake-up stroke )
の CT の変化と発症時間が確認されてい
治療を開始すべき時間枠が保証されるが,覚醒時に症状
る脳卒中の CT 上の変化を比較した最近の研究で,wake-
が初めて認められた患者や,発症が目撃されておらず正
up stroke における真の発症時間は覚醒の直前であると結
確な病歴を提供できない患者のように,発症時間が不明
論づけられ 3,この患者集団における血栓溶解治療の使用
な場合には,潜在的に治療可能な脳卒中が除外される。
の可能性が示唆されている。治療前に CT スキャンを受
米国の医療センターの最近の研究において組織プラスミ
けた wake-up stroke 患者に対して血栓溶解療法を適応外
ノゲン活性化因子静脈内投与による治療率が 3%∼ 8.5%
の救済的な使用( off-label compassionate use)
として行っ
1
と低いのは,この要因が寄与している可能性が高い 。血
た別の医療センターの経験では,無治療の wake-up stroke
栓溶解薬の利用率が低いことの主な理由は,ほとんどの
患者と比較して良好な臨床転帰の割合が高いことが報告
患者(約 77%)
が 3 時間という治療時間枠を満たさないこ
されている 4。しかし,CT スクリーニングを使用したア
と,または発症時間が不明なことである 2。
ブシキシマブ( abciximab)の無作為化,二重盲検,プラ
発症時間が不明な虚血性脳卒中患者を安全に治療する
セボ対照試験である ABESTT-II の結果では,wake-up
ための画像パラメータを用いた臨床試験をデザインする
stroke コホートの死亡率および症候性頭蓋内出血率 5,6 は
という目標を目指すなかで,我々は,脳卒中の発症時間
非 wake-up 群より高かったことから,wake-up stroke の治
血栓溶解療法試験における発症時間不明の虚血性脳卒中治療を目的とした磁気共鳴画像法による実用的アプローチ
13
DWI
FLAIR
カテゴリー
FLAIR高信号域なし
わずかなFLAIR
明るいFLAIR
高信号域
高信号域
療にあたっては注意が必要であると考えられる。
急性期虚血性病変の FLAIR(fluid-attenuated inversion
図1
FLAIR( fluid-attenuated inversion recovery )
評価の例
受けた脳卒中患者,急性期虚血性脳卒中が DWI で確認さ
れ,入院時の米国国立衛生研究所脳卒中スケール
(NIHSS,
recovery)高信号域は,脳卒中発症後数時間は正常である
National Institutes of Health Stroke Scale)スコアが> 3 で
ため,拡散強調画像(DWI)陽性,FLAIR 陰性の MRI パ
ある患者,または急性期インターベンションを受けた脳
ターンが,発症の正確な時間が不明な場合の時間のマー
卒中患者の前向きシリーズである。組み入れは,脳卒中
カーとして提案されている。拡散 MRI と FLAIR の併用
の発症が確認された左前方循環脳卒中の患者に限定した。
により,血栓溶解の時間枠内の超急性期虚血性脳卒中が
病態失認のリスクが不正確な組織発症時間の推定につな
7-10
。しかし,FLAIR での
がる可能性があるため,当初,右半球の脳卒中は除外し
病変の被視認性(conspicuity)
は主観的なものであり,特
た 11。ラクナ梗塞および急性期画像で出血性変化が認め
に微妙な変化が存在する場合は,評価者間一致率が低い 7。
られる病変も除外した。
同定されると報告されている
DWI に重ね合わせた FLAIR での病変対正常の信号強度
比( SIR)が,時間とともに生じる変化を定量化する手段
8
確証のための評価では,別個の第 2 のサンプルとして,
2009 年 1 月から 2010 年 12 月までに連続してスクリー
として提案されているが ,血栓溶解治療の時間的制約の
ニングを受けた患者を最初のサンプルと同様に解析した。
範囲内ではこのような測定は非現実的かもしれない。
ただし,右半球の脳卒中を組み入れ,最後に正常である
我 々 は, 発 症 時 間 が 判 明 し て い る 脳 卒 中 に お け る
ことが確認された時間と症状が最初に認められた時間を
FLAIR MRI の初期の虚血性変化により,発症時間が不明
30 分まで延長した。脳卒中発症までの時間について盲検
な患者における初期の脳卒中の同定が可能かどうかを検
化された 2 名の読影者( C.H.R. および S.S.S. )が別々に,
討する。具体的には,FLAIR 高信号域の定性的または定
急性期 DWI の明るい (bright) 病変に対応する FLAIR 画
量的な評価によってよりよい決定が行えるかどうか,
また,
像上の領域を評価した。評価は,高信号域なし(0)
,わず
DWI と FLAIR 画像のオフラインでの重ね合わせが高信
かな高信号域( 1)
,または明るい高信号域( 2 )
として行っ
号域の定量的推定に必要であるかどうかを調べる。
た(図 1)
。FLAIR の評価および SIR に関して 2 名の読影
者間に不一致がある場合は,タイブレーカーとして 3 人
材料および方法
目の読影者(S.W. )に判定を求めた。FLAIR の信号が不
均一な場合は,DWI 上の病変の基礎をなす最も明るい信
画像
号強度の領域に基づいて評価を行った。高信号域のスコ
最初の MRI 仮説作成サンプルには,Lesion Evolution
アがなし(0)
と評価された場合は,FLAIR スキャンを「陰
in Stroke and Ischemia on Neuroimaging( LESION)Project
性」とみなした。定性的評価が完了した後,最も明るい
のレジストリから 2005 年 4 月から 2008 年 12 月までの
FLAIR 信号強度の領域に対応する関心領域を描出した。
症例を選択した。これは,確認された( witnessed )脳卒中
対側半球の実質の相同領域に第 2 の関心領域を描出した。
の発症から 24 時間以内に MRI によるスクリーニングを
その際,慢性期梗塞,白質希薄化,および脳脊髄液の領
14
Stroke 日本語版 Vol. 7, No. 3
域は避けるように注意を払った。病変の平均信号強度の
コー時間 9,000/145 ms,反転時間 2,200 ms,解像度 0.9 ×
対側半球の信号強度に対する比を算出し,SIR として報
0.9 × 7 mm(ゼロ補間[zero filled ])
の 20 枚の連続するス
告した。4.5 時間以内の脳卒中発症を同定するための最適
ライスで総取得時間 2 分 25 秒。3 T でのパラメータは以
な SIR 閾値を,感度と特異度が同等の近似点を用いて最
下の通りであった:繰り返し時間/エコー時間 9,000/120
初のサンプルから選択した。
ms,
反転時間 2,600 ms,
解像度 1 × 1 × 4 mm
(SENSE R =
1.75)
の 20 枚の連続するスライスで総取得時間 2 分 15 秒。
重ね合わせ( Coregistration )
SIR 法が定量的プロセスと同程度に正確であることを検
統計解析
証するため,両方のサンプルから選択した患者を MIPAV
2標本t 検定を用いて連続変数の平均値を比較した。
デー
( Medical Image Processing, Analysis and Visualization,
タが正規性からの強い逸脱を示す場合は Mann-Whitney U
version 4.4; National Institutes of Health )
を使用して解析
検定を使用した。Kolmogorov-Smirnov 検定統計量による
した。白質希薄化がなし∼軽度であること,脳卒中病変
評価に従い,データが正規性からの逸脱を示さない場合
の直径が> 1 cm であること,およびモーションアーチ
は平均値と標準偏差を報告した。対応のあるサンプル t 検
ファクトがなし∼軽微であることに基づいて,定量的解
定を使用して,左半球と右半球の SIR の平均値を比較し
析の対象とする 49 例の患者を選択した。全 DWI 領域に
た。データが非対称の場合は,代わりに Wilcoxon の符号
対応する FLAIR 上の関心ボリュームの強度を同定した。
付き順位検定を使用した。検定には SPSS( version 17.0;
次に,DWI と FLAIR 画像を取得し,共局在化して,対
IBM )
を使用した。定性的 FLAIR 評価の評価者間一致率
側半球の健康な組織の相同領域を同定した。FLAIR を正
を評価するため,K 値を使用し 12,0.5 は中程度から良好
中矢状面で位置合わせし,DWI を FLAIR に重ね合わせ
な一致を示し,≧ 0.7 は読影者間の非常に良好な一致を
た。使用したパラメータは,9 つの特異的リスケール自由
示すものとした 13。K 値には漸近およびブートストラップ
度( rescale degree of freedom )
,3 次元線形補間(trilinear
95%信頼区間( CI )
の両方を使用した。これらは Vierkant
interpolation)
,および正規化相互情報費用関数である。
の SAS マクロを用いて算出した 14。
重ね合わせ後,FLAIR に関して盲検化された独立した読
影者が DWI の虚血性病変をセグメント化した。結果とし
結 果
て得られた関心ボリュームを,正中線をはさんで鏡像化
し,対側半球の測定を行った。対側半球では,手作業に
MRI 解析
よる編集を行い,脳室,溝,または脳脊髄液に重なる領
最初のサンプルでは,脳卒中の発症が確認された 486
域を除去した(< 3%)
。同側半球および対側半球の関心ボ
例の患者について 24 時間以内に急性期 MRI スキャンを
リュームを FLAIR 画像にコピーした。同側の平均ボクセ
取得した。右半球の脳卒中,純粋な脳幹卒中,ラクナ脳
ル強度の対側半球の平均ボクセル強度に対する比として
卒中,および出血性卒中を除外した後,組み入れ基準を
SIR を算出した。関心ボリュームを記録した。
満たした 85 例の患者を解析のために選出した。第 2 のサ
ンプルでは,111 例の患者が,確認された脳卒中の発症時
間が 30 分以内であり,かつ,24 時間以内に急性期 MRI
MRI プロトコール
画像撮影は 1.5T(Twinspeed; General Electric )
または
スキャンを受けていた。左半球の脳卒中は確証サンプル
3T( Achieva; Philips)
の臨床 MRI スキャナーを使用して
の 41%(45 例)
を占め,残りの 51%(57 例)
および 8%(9
行った。DWI スピンエコー・エコープラナーシリーズ
例)
はそれぞれ右半球の脳卒中または両側半球の脳卒中で
のパラメータには,3.5 mm 厚 40 枚または 7 mm 厚 20 枚
あった。
のいずれかの連続する軸位斜位断スライス( axial oblique
2
2
slice )が含まれ,b は 0 s/mm および 1,000 s/mm であ
3 つのカテゴリーである,FLAIR 高信号域なし( 0 )
,
わずかな高信号域( 1)
,および明るい高信号域( 2 )
のすべ
り,トレース強調(trace-weighted )または等方的強調
てを用いた FLAIR の定性的評価で,漸近推定値 0.6876
( isotropically weighted )
が行われ,繰り返し時間/エコー
(95% CI,0.60 ∼ 0.77)およびブートストラップ推定値
時間は 6,000 ∼ 7,000/72 ∼ 90 ms,収集マトリックスは
0.69(95% CI,0.60 ∼ 0.77)
を用いて K 値を示した。すべ
96 × 96 または 128 × 128,有効視野は 22 cm であった。
ての K 推定値について漸近信頼区間とブートストラップ
慢性虚血実質を検出するため,1.5 T では以下に示すパラ
信頼区間の間に差はみられなかった。FLAIR 高信号域な
メータを用いて,磁場強度でのバランスをとった市販の
しのグループと,わずかな高信号域および明るい高信号
2 次元配列で FLAIR 画像を取得した:繰り返し時間/エ
域を陽性としてまとめたグループに二分した場合,(K 一
血栓溶解療法試験における発症時間不明の虚血性脳卒中治療を目的とした磁気共鳴画像法による実用的アプローチ
致率には)漸近推定値 0.7091(95% CI,0.61 ∼ 0.81)
を使
表
15
人口統計および比較データ
用した。定性的 FLAIR 評価に基づき,89 例の患者
(45%)
のスキャンは陰性,すなわち FLAIR 高信号域なしと解
特性
FLAIR 陰性
(n = 89)
FLAIR 陽性
(n = 107 )
群比較
p 値*
釈された。89 例の陰性スキャンのうち,62 例は脳卒中
年齢の中央値(IQR),歳 72
(61 ∼ 81)
73
(61 ∼ 82 )
0.952
発症から 3 時間以内であり,73 例は 4.5 時間以内,78 例
女性,n
(%)
63
(58.9 )
0.664
は 6 時間以内であった。表に示す記述統計量は FLAIR 高
NIHSS の中央値(IQR) 10(5.0 ∼ 20.0)
49(55.1)
8
(5.0 ∼ 17.5 )
0.346
LSN までの時間の
中央値(IQR)
2.1
(1.4 ∼ 3.7) 3.5
(1.8 ∼ 10.5 ) < 0.001
および脳卒中の重症度には,FLAIR 陰性患者と FLAIR
左側の梗塞,n(%)
71
(79.8)
陽性患者の間に有意差は認められなかった(p = 0.17)
。
IQR:四分位範囲,FLAIR:fluid-attenuated inversion recovery,LSN:
last seen normal(最後に正常であることが確認された時 )
,NIHSS:米
国国立衛生研究所脳卒中スケール( National Institutes of Health Stroke
Scale)。
* 群比較は,連続変数については 2 標本 t 検定または Mann-Whitney U 検
定のいずれかを用いて行った。カテゴリー変数については Fisher の直接
確率検定を使用した。
信号域の定性的評価に基づいて二分した。年齢,性別,
FLAIR 高信号域は 0.7 時間という早期に認められた。
発症から 4.5 時間未満のみの左半球病変からなる最初の
サンプルで決定された最適な SIR 閾値 1.15(図 2 )
は,感
度が 0.80,特異度が 0.82,正確度が 0.73,陽性予測値が 0.82
68
(63.6 )
0.017
であった。確証サンプルと比較し,左半球と右半球を分
けると,4.5 時間未満の虚血性脳卒中を同定する最適な
たは特異度が大幅に上昇することはなかった。読影者の
SIR 閾値に有意差が認められた(左のみの場合の SIR =
測定による SIR 閾値 1.15 を用いた 4.5 時間以内の脳卒
1.14 に対し,右のみの場合の SIR = 1.29;p = 0.000)
。
中発症同定の正確度は,同じ閾値での重ね合わせた DWI
時間について補正した後も,左半球と右半球の SIR には
FLAIR SIR による正確度と同等であった(それぞれ感
有意差が認められた(p = 0.000 )
。対側領域を基準とし
度= 0.78 および特異度= 0.78 に対し,感度= 0.85 およ
た病変の SIR は読影者間で相関性があり(r = 0.69;p =
び特異度 0.67)
。
0.000)
,平均 SIR 間に有意差はみられなかった。
定性的評価で陰性と判定された FLAIR 画像の平均 SIR
考 察
は 1.05( SD = 0.09 )
であったのに対し,わずかな FLAIR
高信号または明るい FLAIR 高信号のいずれかの病変があ
脳卒中の発症時間が明確な患者から得られた知見は,
ると判定された画像の平均 SIR は 1.30
( SD = 0.21)
であっ
FLAIR では病変の視認性率が時間とともに上昇すること
た。わずかな FLAIR 高信号の平均 SIR は 1.15
( SD = 0.06)
から,FLAIR MRI は初期の脳卒中発症患者を正確に同定
であった。SIR 閾値を< 1.15 として定性的な FLAIR 読
できることを示している。我々は,定性的に FLAIR 陽性
影をまとめると,196 例の患者のうち 85 例が DWI 陽性
(わずかなおよび明るい高信号病変)であると判定された
かつ FLAIR 陰性に分類された。FLAIR 陰性患者の 82%
病変は FLAIR 陰性 MRI より平均して 15%∼ 20%明るい
が,確認された脳卒中の発症から 4.5 時間以内であった。
ことを見出した。わずかな FLAIR 高信号域は解釈がより
FLAIR での病変の被視認性率は時間とともに上昇した
難しく,このことは評価者間一致率が低いことによって
(p = 0.006)
。FLAIR MRI が陰性のままであった時間の
平均値は 3.2 時間(SD,3.7 時間;範囲,0.75 ∼ 22.22;
1
95% CI,2.0 ∼ 4.3)
であった。
0.9
重ね合わせた DWI FLAIR の測定結果を用いた場合,
0.8
あり,これは読影者の測定による SIR の 1.15(0.06)と
比べて有意に低かった(p = 0.008 )
。重ね合わせた DWI
FLAIR の SIR 測定値は DWI 病変で輪郭を描いた FLAIR
領域全体を考慮に入れているのに対し,読影者は SIR の
感度または特異度
わずかな FLAIR 高信号病変の平均 SIR は 1.08(0.07)で
0.7
感度
0.5
0.4
0.3
測定にあたり FLAIR 高信号域の最も明るい部分を選択
0.2
していることから,この結果は想定内であった。FLAIR
0.1
陰性スキャンについては,重ね合わせた DWI FLAIR 測
特異度
0.6
0
0.5
1
定結果の平均値と読影者が選択した SIR に有意差は認め
信号強度比(SIR)
られなかった(p = 0.82 )
。重ね合わせた DWI FLAIR 測
定結果により,読影者が測定した SIR と比較して感度ま
1.5
図 2 感度・特異度曲線。
2
2.5
16
Stroke 日本語版 Vol. 7, No. 3
示される。目視検査のみによる FLAIR 高信号域の主観性
は小さい病変と比べて読影者にとっての被視認性が高く
を回避するため,SIR は視覚的に同定されたものを定量
なる可能性がある 10。
的に測定する。定性的な FLAIR 評価を使用し,SIR を測
画像評価の難しい点は,重度の背景疾患または白質希
定することにより,患者が脳卒中発症から 4.5 時間以内で
薄化が存在すると,比較のための「正常な」組織を容易に
あると誤って予測する可能性が低下する。
選択することができないことである。急性期,亜急性期,
我々の研究では,重ね合わせを行った場合,わずかな
および慢性期の疾患が問題となるこのような場合には,
FLAIR 高信号域は正常な組織より 8%明るかった。これ
超急性期の病変の鑑別に役立つ見かけの拡散係数など他
は,脳卒中発症から 3 時間以後に画像撮影された患者の
の MRI シーケンスがあるため,MRI 読影者の経験が重要
FLAIR 比が 7%以上であることを見出した最近の研究の
となる。定性的な FLAIR 判定と読影者の測定による SIR
8
知見と同様である 。しかし,現時点では,重ね合わせは
の制約は,このモデルが 0 ∼ 4.5 時間の時間枠にある患
後処理に時間を要し,急性期の状況で行うことは不可能
者の同定において感度または特異度が高くない点である。
である。本研究から,FLAIR 陰性の MRI スキャンを検
我々の研究の所見は,FLAIR 陰性の MRI が超急性期虚
出するための読影者の測定による SIR は DWI FLAIR の
血性脳卒中を示すという最近公表された報告と一致する
重ね合わせと同程度であることが示された。重ね合わせ
が,これらの報告には評価者間の一致率が低いなどのジ
法により,4.5 時間以内の脳卒中発症を同定する感度およ
レンマによる制約が存在する 7-9。第 2 の研究では病変体
び特異度が大幅に上昇することはない。読影者の測定に
積は非常に小さく(DWI 体積の中央値= 1.5 mL)
,そのた
よる SIR は MRI コンソールで数分以内に実施可能である。
め FLAIR での高信号域の読影の解釈が困難になる可能性
最近の多施設共同研究で,FLAIR 病変の視認性の観
がある。非常に小さな病変
(< 0.5 mL)
を除外したところ,
察者間一致率は中程度,陽性予測値は 83%であることが
FLAIR 陰性スキャンの感度および特異度は改善された 9。
10
示されており,これは我々の所見と同様である 。しか
2009 年に,National Institutes of Health Stroke Team
し,SIR 法を使用すると 78%というより高い感度が認め
が,最後に健康であることが確認された時点から 24 時
られた。評価者間の信頼性が 65%∼ 66%の範囲である定
間以内および脳卒中発症から 4.5 時間以内の 86 例の患
性的なコンセンサス評価や 7,病変が小さい場合には信頼
者を調べた。これらの患者のうち,53 例の患者は年齢
できない可能性がある定性的なコンセンサス評価に頼る
が 18 ∼ 80 歳の範囲内であった。これは,以前の血栓溶
7,15
,我々は病変対正常の比を用いて特定の範囲
解療法試験の組み入れ基準によって指定されたものであ
の FLAIR 高信号域をより客観的に解釈する新規の定量的
る 18。このようにして,1 週間あたり約 1 例が,多施設共
信号強度比較の使用を提案する。SIR と陰性 FLAIR の定
同臨床試験 MR WITNESS の時間および年齢の適格性基
性的評価を併用すると,各読影者の解釈のみに頼る場合
準を満たした( MR Witness,http://clinicaltrials.gov/ct2/
と比べて,臨床試験のための患者の選択をより客観的に
show/NCT01282242)
。2008 年に Massachusetts General
行うことができるようになる。提案する 2 段階の FLAIR
Hospital の救急診療部で,488 例の患者が脳卒中のスク
評価と SIR 測定は,第 1 段階が病理の定性的評価であり,
リーニングを受けた。これらの患者のうち,22 例は症状
第 2 段階が視覚的に確認を行う定量的測定でという他の
が発見されてから 3 時間以内に救急診療部に運ばれたが,
画像診断と同様の保守的アプローチである。このアプロー
現行の血栓溶解療法の時間枠は超えていた。したがって,
チには,主観的に見たものを読影者間で良好な相関を有
2 つの登録施設間で約 75 例の患者が MR WITNESS に潜
する定量的な数値に解釈するという利点があり,急性期
在的に適格であったと思われる。
代わりに
の治療において簡便かつ実用的な方法である。
本研究における第 2 の新たなアプローチは,左右の半
結 論
球の脳卒中を分けることである。病変の高信号域には半
球間で有意差がみられた。これは,右半球の脳卒中にお
ける病態失認
11,16,17
は不正確な脳卒中発症時間の推定に
結論として,FLAIR SIR 評価は発症から 4.5 時間以
内の患者の同定に役立つ。SIR を定性的な FLAIR の読
つながる可能性があるという議論を裏づけるものである。
影と併用すると,発症から 4.5 時間以内の脳卒中患者を
右半球の病変を組み入れると,画像ベースの閾値を設定
同定する精度が向上する。MRI ベースの組織時計を用い
する際に脳卒中発症時間の正確な推定が困難になる可能
た患者治療の安全性を判定するためのさらなる前向き研
性がある。半球間の SIR の差の原因としてはほかに,病
究が,多施設共同臨床試験で進行中である( MR Witness,
変のサイズが考えられるが,本研究では測定しなかった。
http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01282242)
。MR
いずれの半球でも DWI の病変が大きいほど,FLAIR で
WITNESS 研究には,最後に正常であることが確認され
血栓溶解療法試験における発症時間不明の虚血性脳卒中治療を目的とした磁気共鳴画像法による実用的アプローチ
た時が 24 時間以内であり,かつ,脳卒中の評価および治
療のため症状が認識された時点から 4.5 時間以内である被
験者が登録される。
研究費の財源
本研究は,米国国立衛生研究所(National Institutes
of Health )の Intramural Research Program,National
Institutes of Neurological Diseases and Stroke の援助を受
けた。
情報開示
なし。
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Stroke Webinar Series
Stroke Webinar は AHA/ASA と Stroke 誌が主催する教育を目的とした webinar であり,2011 年
7 月からほぼ隔月で開催されています。脳血管障害の分野で特に重要なトピックスについて,各
回演者がスライドを用いた講演と参加者を交えた質疑応答を行います。
次回 Stroke Webinar は下記の通り開催を予定しています。
日 時:2013 年 2 月 15 日 午前 1 時(日本時間)
[ 2 月 14 日 午前 11 時(米国 EST)
]
演 者:Dr. Tudor Jovin
演 題:Endovascular Therapy for Acute Ischemic Stroke : Current status and
future directions.
興味のある方は以下のアドレスを通して登録してください。
http://stroke.ahajournals.org/site/misc/Stroke_Webinars.xhtml