SW 電源セミナー資料について

SW 電源セミナー資料について
この資料はセミナー資料の各セクションの数ページを抜き出したものです。
資料がうまくページに収まっていても内容がその切れ目で終了している保障はありません。あくまでもお試
し用の資料です。
内容は次のようになっています。
0.始めに
伝えるとは
人に伝える、教える、とはどういうことなのでしょう
まず、次の言葉を見てください
本来
誤用
仏の顔も三度まで(正しくは"仏の顔も三度")
仏の顔も三度撫ずれば腹立つ
三度目までの失敗は許される
3 回目は怒られるの意味
情けは人の為ならず
情けは人の為ならず 巡り巡って己が為
情けをかけると本人の能力が伸びないから情
情けを掛けることは"やがて人からも情けを掛けてもら
える"意味。因果応報
けをかけない方が良い
君子は過ちを直ちに正す 。の意味
君子豹変す
旅の恥は掻き捨て
旅先には知人もいないし、長くとどまるわけで
もないので、普段ならしないような恥ずかしい言
なじんだ方言・しきたりは地方地方で違うもので
ある。旅先でこれに基づく勘違いは直しても許さ
れると言う意味
動も平気でやってしまうものだということ。
伝言ゲームで少し複雑な伝言が最後まで正しく伝わることが稀であることを考えれば、日常、良く用いられ
ることわざすらこのように正しく伝わっていないことは理解できるでしょう。
「少し複雑…」でさえこのような現状を考えれば知恵、ノウハウを正しく伝えることがいかに難しいかわかる
でしょう。
さらに加えて、世の中にあふれかえっているのは"知恵"では無く、"知識"であることを認めなけれ
ばなりません。
知識と知恵の違いは次のように考えられます。
知識
知恵
文字・情報の類
知識を自分の体験で消化し、吸収した結果
いつでも発行時のまま、読める
文字には書けず、日々変わっていく
他人にはオウム返しで伝え、相手が誰であろうとも
知識を自分の言葉に置き換えて説明でき、相手に
変わることはない
よって変えることができる
経験(自分で見た事象)
体験(身についた事象)
このように人に伝えることができるのは知識だけで、知恵は伝えることはできません。なぜなら、伝えようと
口にしたり、文章にした瞬間にそれは知識となり、固定化されるからです。
一方、「群盲象を評す」の格言もあります。WikiPedia(2013 年 9 月 19 日 (木) 10:56 )によれば
「この話には数人の盲人(または暗闇の中の男達)が登場する。盲人達は、それぞれゾウの鼻や牙など
別々の一部分だけを触り、その感想について語り合う。しかし触った部位により感想が異なり、それぞれが
自分が正しいと主張して対立が深まる。しかし何らかの理由でそれが同じ物の別の部分であると気づき、対
立が解消する、というもの。」
とある。「訳の分からない者」を見下したと言う意味もあるが、筆者は多くの経験を積めばバラバラな知識
がまとまり物事を理解することができると考えたいのです。
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0.始めに
1 回では理解できなくても何回でも理解しようと努力すればいずれは理解ができる時が来ると思いたいの
です。
「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり」(平家物語)
現代に置き換えれば、「学校のチャイムは日々変わり同じではないように響く」という意味ですが、この日々
変わり行く鐘の音(こえ)は聞く人・聞く状態によって違って聞こえると言うことです。当然、聞き手の心やその
日の出来事によって違って聞こえると言うことです。ましてや経験の違う人達に同じ情報を与えても伝わる
内容は違います。昔の人は "伝えることが如何に難しいか" が分かっていたのでしょう。
又、
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」(方丈記)
河を流れる水は水と言う範疇では同じであるが、さっきの水とは違う水が流れている。常に世は移り変わる
のだ。と言う意味です。つまり、聞き手である皆さんも日々変わっていくということです。経験は日々積み重
なっていくのです。ある日、突然に知識が知恵に昇華する事があるかと思います。突然にモノの見方が変わ
る時があるかと思います。その時こそが"知る"、"分かる"ということです。
文書・情報の類の中には常に変えることができるものが稀にあります。具体的な内容が無けれ
ばよいのです。例えば法律文書を見てみましょう。これほど見事に具体事項が記載されていない
文書というのも珍しいです。
具体例を書けば必ず逃げ口を考えるということですが、実態は解釈を行う部署の権威付けに他
ならないのですが…、内容がないので後の解釈で何とでもできると言う文書の例です。
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第 1 章 SW 電源の歴史と背景
1 章 SW 電源の背景と歴史
SW 電源の歴史
1.1 パワーエレクトロニクスの歴史
パワーエレクトロニクスとしての年表を簡単に表 1.1 にまとめた。
面白いことに最初に実用化されたのは直流で、その後、1800 年代後半に交流電力が実用化されると、配電
網も直流・交流入り乱れたものとなっていったが、トランスと組み合わせた昇降圧のし易さから交流配電網
に統一されていくことになる。
1900 年当初に無線通信と共に整流管(‘04)や三極真空管(‘06)が発明され、この頃から電子回路という範
疇と共に、真空管の歴史が 1970 年代まで続いていく。
ダイナモの実用化*
中頃
1800 年代
DC モーターの実用化*
交流電力の実用化*
後半
ジョゼフ・スワンが、白熱電球を発明('78)*
当初
無線機器・真空管の実用化
1937
フェライトの量産(TDK)
50 年代
60 年代
トランジスタの開発・実用化*
US 初の TR 式 SW 電源特許登録('59)
NASA で SW 電源開発始まる**
半導体家電の登場
NE555 登場('71)*
1900 年代
通信・事務機器への SW 電源採用始まる
70 年代
SG3524 登場(‘77)***
TL431 登場('78)***
Power・MOS・FET の実用化('79)
80 年代
90 年代
TL494 登場(‘83)***
電源メーカーによる 1 次側制御式電源専用 IC の市販化(‘86)
Super-Junction-MOS・FET 量産化('98)
* Wikipedia(US JP)
** 東アジアへの視点第 3 回
*** TI 社情報
表 1.1 SW 電源の主な歩み
NASA は NASTRAN ばかりか SMPS の技術開発でも指導的な役割を果たしており、"宇宙開発のためには無
ければ作る"方針が徹底していると言えた時代であった。(人工衛星用電源として開発)
1970 年代に入ると半導体の性能も改良され、Power・MOS・FET の実用化、100KHz スイッチングが実用化
されると、高周波で使えるフェライト(’37 生産開始)と組み合わせて一気に高周波が進められた。
実際、1980 年代以降はメガ・スイッチングというキーワードが頻繁に飛び交い、明日にも 1MHz スイッチン
グが実用化される雰囲気に飲み込まれていったが、現状は大きく異なっている。
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第 1 章 SW 電源の歴史と背景
SW 電源の誕生期はいつ?
商用周波数である 50/60Hz、航空機・艦船用の 400Hz を除いた周波数で動作し、なおかつ商用電源を一
度 DC に変換するオフライン型の物をスイッチング電源とすればサイラトロン式のインバータは戦前にも実用
化されていたが、現代につながる SW 電源と言えば筆者の考えではあるが 1970 年代にパワー半導体が実
用化されてからであろう。
世界的に見れば TL494,SG3524 が登場した 1970 年後半∼80 年代あたりが、いわゆる SW 電源の実用化
開始であろうが、各 IC の仕様を見ると多くの IC は補助電源を必要とするものであった。
IC 化の流れとしては 70∼80 年代に米国の大手事務機器メーカーのカスタム IC を市販化したものが登場し
ているが、SW 電源に特化したものではなく、いわゆる 2 次側コンバータ用としての IC であったため、小型 SW
電源(数 100W クラス)には使いにくい面が多々あった。
このような背景から、電源メーカーは独自にカスタム IC を企画・開発していたが、衝撃的な出来事が’80 年
後半に起きる。
カスタム IC 開発で先行していた SW 電源メーカーの松下電子部品*と三菱電機、松下電子工業の 3 社によ
る 1 次側制御式 SW 電源専用の IC の市販化である。(図 1.1)
後の三菱電機の M51976、松下電子工業の AN6517 の量産発表であり、いわゆる日本における SW 電源
の底辺の拡大の流れはここから始まったといっても良いくらいの出
来事であった。
この IC は電源メーカーである松下電子部品の経験と技術が採用さ
れており、
①ECL を取り入れた 300KHz の実用動作、
②プリ電源が不要なバイアスレス起動回路
図 1.1 日本初の実用的市販電源 IC
③±2Ap の出力駆動電流 と共に、
④±0.2V 検出の過電流検出と周波数低減機能
等の各種保護機能が充実していたので電源制御用 IC としてたちまちの内に市場でその地位を獲得してゆ
くことになる。
開発に先行した三菱電機はこの IC の成功で市場性に気がつき、後に多くの M519 シリーズを開発すること
になるが、市場性に気がついた富士電機も後日、松下電子工業と入れ替わって COMS 技術を持って市場参
入することになる。
又、多くの IC メーカーがこのシリーズから電源用 IC のノウハウを学んだといっても良く、この後に IC メーカ
ーから多くの電源用 IC が発表され、淘汰の時代に入っていくことになる。
2/3
第 1 章 SW 電源の歴史と背景
*:松下電子部品は主力販売法が OEM であるため一般的には電源メーカーとして著名でないが、先駆的な SW 電源メーカー
であり、各種標準規格の制定や、1970 年代に部品メーカーと共同開発した"フルパックⓇ/フルモールド"パッケージ(松下電子
工業)、SIP タイプの電源整流ダイオード(新電元工業)は現在でも多く使用されている。
フルパック TM 品
従来品
従来品
図 1.2 TO220 パッケージの改善
SIP タイプ
図 1.3 ブリッジダイオードのパッケージ改善
業界の動向・標準化
日本における規格的なまとめは EIAJ 主体に行われ、1979 年に設けられたスイッチング電源技術委員会が、
RC-9001(単一出力直流安定化 電源通則 1981 年)
RC-9130(スイッ チング電源試験方法 AC-DC 1994 年)、
RC-9131(スイッチング電源試験方法 AC-DC 1994 年)、
RC-9143(スイッチング電源通則 DC-DC 1997 年)、
RC-9141(スイッチング電源試験方法 DC-DC 1994 年)
を制定している。
SW 電源を取り巻く環境
日本の総電力需要は 1,083,142(GWH/年)=1 兆 KWH 程度。(Wikipedia 消費電力:最終更新 2013 年 3 月 19
日 (火) 23:48 (UTC))
この総電力を"力"、"照明"、"電子機器"の分けてみる。
照明=(家庭)382 億+(業務)891 億+(産業)233 億=1500 億 KWH/年であるから (IEEJ2011 年調べ)
残りの"力"と"電子機器"の効率を 1%改善すると、残りの 8500 億 KWH/年の損失は 85 億 KWH/年削減で
きる。
つまり、85 億 KWH/(365×24)=97 万 KWH、となり、火力発電所や原子力発電所の 1∼2 個分の電力に該
当する。(福島第 1 原発 1 号機 46 万 KWH,2 号機 78 万 KWH)
このような具体値を当てはめてみると電子機器の効率 1%といえどもおろそかにできない訳が良く理解でき
る。
この 1%を求めて高周波スイッチング、共振電源、同期整流と言った技術が開発されてきたが、消化不良の
ままであったり、従来技術といえども伝承力低下によって検討不充分なまま活用されていないのが実情で
あろう。
従来技術を充分に消化することができてこそ、新しい技術はその性能を発揮できるモノなのです。
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2 章 非絶縁型レギュレータ
2章 非絶縁型レギュレータ
2.1 リニアレギュレータ
図 2.1.1 はリニアレギュレータの1つであるシリーズレギュレータとスイッチングの動作イメージの比較であ
るが、スイッチングレギュレータはその名の通り、入力電圧を必要な時間間隔で断続して、出力電圧が平均
値で一定になるように制御しているのに対して、シリーズレギュレータは出力電圧以上の余剰電圧をカット
する型で制御をしていることが分かる。
(a)シリーズレギュレータ
(b)スイッチングレギュレータ
図 2.1.1 レギュレータ動作波形比較
シリーズレギュレータとはその名前の通り、直列制御のレギュレータである。"何が直列か?"というと、制御
素子が負荷と直列に挿入されているものを言う。
当然のことながら、シリーズに対して "シャントレギュレータ" なるものも存在し、一部の用途ではあるが活
用されている。この場合は制御素子は負荷と並列に接続される。
(a)基本回路図
(b)変形図
シリーズレギュレータ
(c)基本回路図
シャントレギュレータ
(a)の基本回路を変形した回路図(b)を見るとエミッタフォロワ型の回
路になっており、ツェナ電圧に従って出力電圧が安定化される。
図 2.1.2 レギュレータ比較
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負荷電流と Q3 の合計電流によ
る R3 の電圧降下を調整すること
で出力電圧が安定化される。
2 章 非絶縁型レギュレータ
シリーズレギュレータとシャントレギュレータの得失比較を表 2.1.1 に示す。
ここで
Vi:入力電圧、
Vo:出力電圧、
Io:出力電流
とする。
シリーズレギュレータ
シャントレギュレータ
回路の最大損失点
Vi:Max Io:Max
Vi:Max Io:Min
最大出力電流
hfe(Q1)×(能動電圧÷R1)
(Vi-Vo)÷R3
短絡電流
hfe(Q1)×(Vi÷R1)まで流れる。
(Vi÷R3)で制限
表 2.1.1 シリーズ・シャントレギュレータ得失比較
表 2.1.1 から分かるようにシリーズレギュレータの短絡電流は入力電圧と能動電圧の比率倍変動するので
半導体保護のために後述する短絡保護回路が必要になる。
一方、シャントレギュレータの短絡電流は直列抵抗 R3 が左右するので短絡時は全損失が R3 に発生する。
従って、最大電流を大きくすることが困難であり、主に小電流用の安定化電源として用いられる。
・シリーズレギュレータの設計
シリーズレギュレータは短絡保護回路が必要になるため、、3 端子∼5 端子のモノリシック IC として用いら
れることが多く、ディスクリートで用いられることはあまり多くはない。逆に言うと、設計機会は減少している
ので以下に図 2.1.3 の TL431 を使用した回路図を例にしたシリーズレギュレータの設計手順を述べる。
図 2.1.3 代表的シリーズレギュレータ回路例
注:図中の D1 は C1 短絡時に Q1 の Vbe が逆バイアスされるのを防止するダイオードで、3 端子 IC 使用時
でも必要である。
VR>Vout、IFp は C1 短絡時に流れるピーク電流に耐える低周波用のものでよい。
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2 章 非絶縁型レギュレータ
①
仕様の決定 入力電圧 Vi、出力電圧 Vo、出力電流 Io
Vi=15∼20V Vo/Io=12V/0.5A
②
最大損失の計算 Pc=(Vi−Vo)×Io
Pc=(20-12)×0.5=4.0W
③
Q1 の選択 経験的には
Icp>2.5A∼3A、Vceo>60∼80V
Ic=Io×5∼6、Vceo=Vi×(3∼4) に選択する
hfe=80∼150
R4 の決定 Q1 の B-E 間誘起電荷の除去
R4=0.7/0.1m=7K→6.8K
④
(4V/1A)
100μA 程度流せばよい
⑤
必要ベース電流の決定 能動電圧における hfe を求める。
Ib=Ic/hfe
Ic 依存性:1.33/Vce 依存性:1
hfemin=80×1.33=106
Ic 依存性、Vce 依存性を考慮し、最低値を算出
Ib=0.5A/106=4.72mA
図 2.1.6(a),(b)
⑥
R1 の算出 R1=(Vi-Vo-VBE )/(Ib+1mA)*
R1=(15-12-0.7)/5.72=402→390Ω
⑧
R2 の決定 IC1 の入力バイアス電流の 100 倍程度を R2 に流
4μ×100=0.4mA、→1mA とすると
す。(影響度 1%以下)
R2=2.5/1=2.5K→2.2K とする。
⑨
R3 の算出 R3=(Vo/Vref-1)×R2
R3=(12/2.5-1)×2.2=8.36K
⑩
R6 の決定 IC1 の電流制限
I(R1)=(20-12-0.7)/390=18.7mA
無負荷時に I(R1)を吸い込めること。
R6<(12.7-2.5×1.5)/18.7m=478→470Ω
Q1 定格 短絡時 Ib での IC の計算
Ibmax=(20-0.7)/390=49.5mA
⑪
IbMax=(Vi-Vo)/R1
hfeMax=150 とすると単純に IcMax=7.43A
IcMax=IbMax×hfeMax
Ic 依存性から中間値の Ic=4.0A 近辺では 70/150
(繰り返し計算)
⑫
=47%に低減する
IcMax での hfe 低減を考慮
IcMax=0.0495×150×0.47=3.49A
ASO エリア
Vce=20V Ic=3.7∼4A が短絡 ASO での要求値に
なる。
⑬
⑭
ヒートシンクの設計**
ΔT=50K Pc=0.5×(20-12)=4.0W
Rth=ΔT/Pc
Rth<50/4.0=12.5K/W (100×40×2)
Q1 仕様の再検討
Vce=20V,Ic=4A で S/B 領域に含まれないこと
ASO 領域の確認
⑮
位相補償定数(R5,C3)
図 2.1.4 参照。
⑯
出力平滑キャパシタ(C2)
負荷急変の緩和と負荷からのリップル電流を吸
収できるリップル耐量とする。
⑰
入力平滑キャパシタ(C1)
回路が高周波的に安定になるようなレベルで可。
C1 が寿命限度になった時でも回路が不安定になら
ないこと。
表 2.1.2 シリーズレギュレータ設計手順
*
1mA は TL431 の最低動作電流
**
ヒートシンクの熱抵抗計算は筆者の「Electronic device thermo-analyzer.xls」で計算。
●位相補償定数(R5,C3)の検討
図 2.1.3 の回路例に示すように負荷急変テストを行いながら、出力電圧の変化の様子を検討する。
回路の安定度はオーバーシュートが無く、臨界的に収束する定数とすればよい。基本的には R→振動/非
振動、C→ディップ量に関係し、これらの定数の組み合わせは干渉するので繰り返し測定になる。
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2 章 非絶縁型レギュレータ
R5 検討
(b)C3 検討
図 2.1.4 位相補償定数(R5,C3)の検討
又、伝達関数(ループ特性)の測定(FRA 法)が必須であるかの情報*に接する時もあるが、FRA 法では入出
力条件が固定された条件下でしか測定ができず、条件がコンバータの臨界モードを跨ぐ時は検討できない
し、周波数特性測定中は入出力条件を可変できないので連続的な検討ができず、どうしても見逃しが生じる
のである。何用かと言うのなら、提出資料としては有効と言える程度だが、回路の切断と測定部品挿入の手
間を考えると設計には応答波形法の方が簡便である。
*:http://bbs.ednjapan.com/ADI/index.php?bid=4&one=1248411876viWxWN&kid=1248426786uzpWOQ &spv=1
応答波形は回路の安定度の結果として得られるものであるので臨界モードを跨いでいても測定でき、負荷
範囲、入力範囲を連続可変できるので異常点を見逃すことなく検討できるメリットもある。制御理論によれば、
応答波形と位相余裕は 1:1 に関係するものであり、トランジスタ技術 2009 年 5 月号(P125)でも図 2.1.5 の
ように報告されている。
位相余裕 60 度の応答波形
位相余裕 16 度の応答波形
位相余裕 8 度の応答波形
図 2.1.5 位相余裕と応答波形の例
開ループボーデ線図から得られるゲイン余裕と位相余裕は 10dB/60 度マージンが推奨されるが最低でも
6db/45 度マージンは確保したい。図 2.1.5 も同様なマージンが必要と判断できる。
●Q1 の ASO 再検討
要求の Ic=4A/Vce=20V は図 2.1.6(c)で判定すると、DC の S/B 領域の Vce(30V)より低いので DC 動作で
は熱的な保障はできないが、過渡熱抵抗が 50K/80W=0.6K/W 以下の 40mS 以内なら動作保障はできる。
よって、この時間内に遮断できる保護回路が必要になる。
4/23
3 章 絶縁型コンバータ
3章 絶縁型コンバータ
絶縁型コンバータの多くは既に説明した非絶縁型コンバータの L 部品をトランスに見立てたり、専用トラン
スの組み合わせでコンバータを動作させていると考えてよい。
特に F/B コンバータ、RCC の 2 つのコンバータは磁気エネルギをチョークに蓄積すると同時に電圧変換を
受け持たせ、F/F コンバータは電圧変換用トランスを別途用いて降圧コンバータを動作させていることと等
価である。
これらのコンバータはトランスを介しているので 1 次∼2 次間を絶縁したり、異なる電位に接続することが可
能になり、コンバータを商用ラインへ接続することを可能にしている。
3.1
リンギングチョークコンバータ(RCC)
通称 RCC と称されるコンバータで特別な発振回路を持たずに正帰還回路を利用してスイッチング動作を行
うもので、回路の簡便さから広く用いられてきた。近年は 1Chip のパワー IC の普及により小型の他励 F/B
コンバータに代わられつつあるが、基本のコンバータの一つであることに変わりはない。以下に図 3.1.1∼
3.1.3 の回路例、他を基に動作を解析する。
動作原理
①起動抵抗 R6 から C6 へ充電が行われ、SW 素子
M1 がターン ON する。
②巻線 Lb に電源電圧 Vcc×巻数比 N に応じた電
圧が誘起され、M1 は ON 状態を保持する。極性
は図 3.1.1 中の●端子が+になる極性である。
(巻数比 N=Lb の巻回数/Lp の巻回数)
図 3.1.1 RCC 基本回路図
③三角波状電流(図 3.1.3 I(Lp) )が巻線 Lp に流れ
ることでコアに磁気エネルギが蓄積される。
④ゲート電圧によって駆動できる限界まで M1 のドレイン電流が増加すると M1 は ON 状態を保持できなく
なり、不飽和状態へ移行する。(図 3.1.2 赤矢印)
⑤M1 の不飽和(=残留電圧増加)によって、Lp に印加される電圧
は減少し、Lb の誘起電圧も減少するので、上記の正帰還とは逆
の動作で M1 は遮断状態に移行(ターン OFF)する。
この時、各巻線の誘起電圧は●印がーになる極性に反転する。
⑥コアの磁気エネルギは巻線 Ls を介して CL,RL へ放出され
(図 3.1.3 I(Ls) )、全磁気エネルギが負荷へ供給されると各巻線
は電圧クランプされなくなり、自由振動を始める。
⑦トランスの Q が一定値以上に高ければ、上記の自由振動によ
って Lb は再び+領域まで振動し、上記の正帰還作用で同じ動
作を繰り返す。
発振周波数
図 3.1.2 MOS・FET の特性例
他励 F/B、あるいは反転型コンバータにおいて、Ip1=0 が常に成
立するように発振周波数は入出力条件に応じて変化していく。
1 / 10
3 章 絶縁型コンバータ
VFB
図 3.1.3 RCC の代表波形
他励 F/B においてターン ON 時のインダクタ電流 Ip1 を求める式は 3.1 式である。
1 Po
Vcc
IP1
VCC
2 L f
…3.1.1 式
Ip1=0 が常に成立するわけであるので発振周波数とインダクタンスの関係は 3.1.2 式となる
Ip1 0
VCC
L
2 L f
1 Po
Vcc
(Vcc ) 2
2 Po f
…3.1.2 式
ここでδは M1 の通電時比率で、電圧・時間積の制限から 3.1.3 式で求めることができる。
VFB
(VFB
VFB Vcc
Vout
Np
)
Ns
…3.1.3 式
(Np:1 次巻線 Lp の巻回数、Ns:2 次巻線 Ls の巻回数)
ここで VFB は出力電圧 Vout が巻数比(Np/Ns)によって 1 次側に反映される誘起電圧で、Vds の電圧波形
では動作電圧 Vcc を超える成分が該当する。
又、巻線 Lp の最大電流 IpMax は反転コンバータの Ip2 に 3.1.2 式を代入して 3.1.4 式を得る。
Ip Max
IP 2
1 Po
Vcc
VCC
2 L f
2 Po
Vcc
…3.1.4 式
Np
(Vcc=Max)、Id>Ip2 (Vcc=Min)
Ns
…3.1.5 式
Ip Max
デバイスの定格
・ M1:Vds>Vcc+VFB =Vcc+Vout×
・ Lp 飽和電流 I(sat)>Ip2 (Vcc=Min)
2
3
実効電流 IL( rms)
Po
(Vcc=Min)
Vcc
…3.1.6 式
・ CL のリップル電流 Ir
Ir
Np 2 Po
Ns Vcc
"
(4 3 " ) " (1
12
) (Vcc=Min)
2 / 10
…3.1.7 式
3 章 絶縁型コンバータ
RCC における渡り負荷について
渡り負荷とは±出力を持つコンバータ、例えばオーディオ、DVD レ
コーダー等に±15V を供給するケースで図 3.1.4 の負荷 Rpn のよ
うに 0V を介さずに+/-出力間に接続されるものを言う。
一般には正負それぞれの負荷 Rp、Rn だけであるのでそれぞれ
の負荷ループ内で放電し、特に逆極性になることはない。
しかし、図 3.1.4 のように渡り負荷として Rpn が接続されると、図
中の破線のように 0V を経由せずに正負の整流回路に渡って負荷
電流が流れることがある。しかし、正常動作時には L1、L2 からそ
図 3.1.4 渡り負荷の構成図
れぞれ規定の電圧が供給されるので渡り負荷の電流が少ない場
合には特に問題は生じない。
一方、正負の放電時定数のアンバランスが大きいと AC 遮断時に渡り負荷の負荷電流によって平滑キャパ
シタが逆極性に充電され、ダメージを与える。又、この回路を良く見ると、例えば C1 がー0.7V 以上に逆充電
されると、2 次巻線 L1 に破線の電流が流れ、擬似的にトランスにエネルギが残った状態と等価になる(Toff
中)。この期間は長い時で数秒になることもある。
この状態で AC を再投入すると、1 次側では Toff が終了していないと判断するので RCC 自体の起動が遅
れ、タイマー的な保護シーケンスがある場合は一定時間内に起動しない異常としてラッチがかかり、起動し
ないことがある。上手く起動できたとしても、発振開始が遅れるので図 3.1.1 の起動電流がゲートを過剰に
充電して異常電流が流れることもある。
対策としては図 3.1.4 のように保護ダイオードを挿入し、巻線電圧が逆方向に振れないようにする事が有
効である。
3.2
フィード・フォワードコンバータ(F/F)
図 3.2.1 F/F コンバータ基本回路図
基本的な回路図を図 3.2.1 に示す。ハイサイドスイッチはトランス T01 を介して 1 次側の M1 と逆流防止ダ
イオード D1に置き換えられているが、全体として降圧コンバータの動作電源をスイッチングトランスの 2 次
側巻線に置き換えたタイプになっていることが分かる。トランスを介して電圧を変換し、降圧コンバータに与
える型式を採っているので、F/F コンバータのトランスは電圧変換のみを担当すればよい。このため、電圧
変化を受け持つトランス T01 と、平滑を受け持つ CH1 の機能が独立するので他のコンバータのトランスに対
して高出力を得やすくなっている。
動作原理は 2.2 章の降圧型コンバータと同一で計算式もそのまま使用できる。
注意しなければならないのは 1 次∼2 次間のトランスによる変換であり、次の変換式を介して結ばれる。
3 / 10
4 章 高効率コンバータ
4章 ソフトスイッチングと同期整流
4.1
擬似電圧共振型 RCC
SW 電源において、主要な損失は図 4.1.1
に示す、メイン SW 素子、2 次整流器から発
生している。
特に、スナバ損失はスイッチングスピード
に比例して大きくなり、
高速スイッチング→スイッチング損失低下
→スナバ損失増加
というトレードオフの関係になる。
(スイッチング損失=1/6×Vds×Id×tw×f)
スイッチング損失は図 4.1.1 に示すように
ターン ON、ターン OFF に発生するが特に
図 4.1.1 SW電源の主な損失箇所
ターン OFF 損失はドレイン電流が立ち上が
った状態で発生するのでターン ON 損失に比べて大きくなり易い。
この点に着目して開発されたのが擬似電圧共振型のコンバータである。"擬似" とついているのは、共振用
の L や C を採用した正弦波タイプの共振電源ではなく、スイッチング動作の一部波形のみしか共振しておら
ず、全周期に渡って共振を維持していないからである。
従って、動作原理上、RCC のような周期追従型のコンバータに主として用いられる。
4.1.1 擬似電圧共振型 RCC の動作と課題
図 4.1.2 に擬似電圧共振型 RCC の回路例を示す。
基本は RCC の 1 次巻線間、あるいは SW 素子の
D-S 間に共振容量 Cr を付加した形態をとっている。
□動作説明
・ M1 ターン OFF
SW 素子 M1 の D-S 間に付加した Cr が共振容量で
あり、M1 が OFF すると、トランスに蓄えられた磁気エ
ネルギによって、D-S 間電圧は上昇を始めるが、そ
の上昇速度(dV/dT)は Cr・Lp の共振周波数で決ま
るため、Cr を大きくする事で緩やかにすることができ
図 4.1.2 擬似電圧共振型 RCC の回路例
る。
一方で M1 のドレイン電流は駆動信号で直ちに遮断されるので Vds×Id に起因するターン OFF 損失は軽
減される。
・ M1 ターン ON
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4 章 高効率コンバータ
トランスの磁気エネルギの放出が終わると、ドレイン電圧は Vcc へ降下し、自由振動を始める。同図(a)のよ
うに、この自由振動の振幅が充分に大きければ、ドレイン電圧は 0V 以下まで低下することができ、何もしな
ければ再び破線のような波形を描いてドレイン電圧は上昇する。この電圧振動は LC 共振によるものなので
M1 には損失は発生しない。
又、ドレイン電圧が負に振られている期間は M1 のボディダイオードを通じてS→D 方向へ電流が流れるの
で Vsd は 0.7∼1.0V 程度であり、この期間中に M1 を ON させると殆ど無損失で M1 をターン ON させること
ができる。
制御回路にはドレイン電圧が Vcc を下回ってから Td なる遅れ時間を経てから M1 を駆動する機能が求め
られるが、その他は RCC 制御用 IC を流用できる。
(a)正常共振時
(b)共振電力の不足時
図 4.1.3 擬似電圧共振型 RCC の動作波形
■擬似電圧共振型 RCC の課題
しかし、この電圧振動は Lp、Cr の共振によるものなので共振の Q が低下すると、図 4.1.3(b)のように充分
な振幅を得ることができなくなり、電圧が残ったまま M1 がターン ON することになる。
この電圧が残ったままであると通常のターン ON 損失に加えて
Cr V 2 f
なる損失が発生し、M1 にダメージ
2
を与え兼ねない。
この共振の Q はトランスの等価損失抵抗 R と√(Lp/Cr)の共振インピーダンスの比なので大出力になるほ
ど Cr を大きくしなければならない。
又、RCC が基本形であるので Vcc が高いほど必要な電圧振幅も大きくなり、共振インピーダンスも小さくし
なければならないが、Cr を大きくすると出力電力の大小に関わらず一定の共振損失が発生する。
従って、制御のダイナミックレンジはあまり広くできないし、この回路では 2 次側ダイオード損失は改善でき
ない。
4.1.2 回生式電圧共振型 RCC
これらの課題を解決しようとしたものが図 4.1.4 に示す回生式電圧共振型 RCC である。
単純な擬似電圧共振はターン OFF の電圧振動を LC 共振に頼っていたので共振エネルギを大きくしないと
充分な振幅が得られなかったが、回生式電圧共振はこの振動を 2 次側エネルギで行うようにしたものである。
共振エネルギではなく、2 次側エネルギで電位変化を起こすので Vds の立下りも充分な振幅を得ることがで
きる。
又、Ms の通電時は Ms を ON させることで同期整流の効果も得ることができる。
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4 章 高効率コンバータ
(a) 回路図
(b) 回路動作タイミング
図 4.1.4 回生式電圧共振型 RCC
□動作説明
次に図 4.1.4(b)の動作タイミング、図 4.1.5(a)、(b)に示す図を用いて動作の概略を説明する。
・Toff 期間
回生の制御用 MOSFET である Ms は図 4.1.5(a)に示すように最初、ソース→ドレイン方向へ流れており、
時間の経過と共に減少するが、ゲート信号が与えられているので 0 を経由して順方向になる Ids まで導通す
る。この期間中は Ms は ON しており同期整流回路として動作している。
・Ms ターン OFF(Toff 終了時)
この状態で 2 次側制御信号 Vps を遮断して Ms をターン OFF させると、Ms は順方向状態であるので直ちに
電流を遮断して 2 次側電圧を跳ね上げ、1 次側では逆に M1 の Vds を降下させる。又、Ms のターン OFF 損
失は図 4.1.5(a)に示すように、Vds が(Ron×Id)なので殆ど無損失とみなせる。この電圧変化の速度は擬似
電圧共振型 RCC と同じである。
なお、この電圧変化はトランスに還流された 2 次エネルギによるものなので、擬似電圧共振と異なり、Cr の
エネルギによらず充分な電圧振幅を得ることができる。
(a)ターン OFF 詳細
(b)ターン ON 詳細
図 4.1.5 動作詳細図
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4 章 高効率コンバータ
・ Ton 時
1 次側では巻線の電圧変化を検出し、擬似電圧共振と同様に遅れ時間 Td を経過して M1 の Vds が負電
位にある期間中に M1 を ON させる。この為、M1 のターン ON 損失も図 4.1.5(b)のようにボディダイオードの
導通期間中に ON させるのでこちらも無損失とみなせる。
・M1 ターン OFF(Ton 終了時)
M1 のターン OFF は擬似電圧共振型 RCC と同様に電圧変化が緩やかであるので損失は極めて少なくでき
る。又、Ms は緩やかにターン ON するがボディダイオードが通電するだけなので損失は殆ど発生しない。
(a)動作波形
(b)クロスオーバー詳細
図 4.1.6 シミュレーション検討結果
図 4.1.6 に SPICE による動作波形を示すが、同図(b)に示すようにゼロクロス動作をしていることが分かる。
また、Ms(OFF)→M1(ON)/M1(OFF)→Ms(ON)の状態変化は、エネルギ連続則に従って不連続時間が存在
しても同一電流で切り替わっていることが分かる。
なお、制御方式としては電流を 2 次側で検出すると損失が大きい(巻数比に応じて電流が倍増される)ので時間
巾で制御した方が効率を向上できる。
あるいは、逆励磁を 1 次巻線で行うことで電流検出に関する損失を低減できる。
4.2
他励型擬似共振コンバータ
4.1 章では「RCC のような周期追従型のコンバータに主として用いられる」と述べたが、他励型でもタイミン
グを上手く制御すれば共振の効果を得ることはできる。そのような例としてフルブリッジコンバータの例を図
4.2.1 に示す。
基本的な考え方は 4.1.2 項の回生型と同様にトランスの励磁エネルギを使って共振を起こさせるものであ
る。
加えて
I
V
ton というインダクタンスの電流変化を表す式においてΔV=0 ならΔI=0 になる効果を
L
上手く使って SW を切り替えている。
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第 5 章 PFC および、その他のコンバータ
5章 PFC および、その他のコンバータ
5.1 PFC コンバータ
半導体の進化に伴い、電力の主な負荷がモーター等の L 負荷からスイッチング(SW)電源を採用した電子
機器に移行するにつれて、SW 電源から発生する高次高調波電流*1 が商用電源側に大量に流出した結果、
進相キャパシタ*2 の ESR に基づいた焼損事故が発生するようになって 1990 年代に至って問題視されるよう
になってきた。
*1:50Hz、もしくは 60Hzの 2 倍、3 倍、4 倍、5 倍、6 倍という高調波電流成分
*2:モーター負荷の遅れ電流対策として送電所に設置されているキャパシタ
このため、EMC 規格(ノイズの項参照)の一部として高調波電流規制が規定され、75W 超のスイッチング電源
等で発生する高調波電流をある制限値以下に抑えることが要求されている(力率規制ではない)。
その規制値は、「IEC 61000-3-2:2005」で定められており、各国は、この規格を国内法に反映させて運用
している。例えば、日本で運用されている規格は国内の JIS-C61000-3-2:2011 である。
SW 電源において高調波電流が発生する主な原因
は、入力部の平滑キャパシタである。商用電源は整
流された後、平滑キャパシタで直流電圧に平滑され
るが、交流電圧が平滑キャパシタの端子電圧よりも
低い期間は電流が流れない。そして、交流電圧が上
昇して端子電圧を超えると平滑キャパシタへの充電
が始まるが、充電開始が遅れた分だけピーク電流
が高くなり、入力電流の波形は、正弦波から大きく歪
んでしまう。これが、高調波電流が発生する理由で
ある。同様に交流電圧が平滑キャパシタの端子電
図 5.1.1 各種平滑方式と電流波形
圧よりも低下しても電流は流れないので充電期間は
より一層短くなり、電流歪はよりひどくなる。(図 5.1.1)
高調波電流を低く抑えるには、入力電流の波形を正弦波に近づけ
れば良く、入力電流の導通角を広げた簡単な 1 コンバータ式、及び高
性能な 2 コンバータ式の力率改善回路が考案されている。
1 コンバータ方式は、図 5.1.2 の MS コンバータに代表されるように、
既存のコンバータの構成を工夫して、力率を高めようとしたもので、
一時は普及の兆しもあったが、IEC61000-3-2 の改定により適用範囲
が狭くなったので今ではあまり使用されていない。
図 5.1.2 MS コンバータの回路例
これに対して、力率改善を担当する PFC コンバータを搭載した 2 コンバータ式は入力交流電圧の 0 クロス
付近でも強制的に電流を流すように働き、高調波電流を抑制し、力率を 1 近くまで上げられるので入力電流
を低減でき、一般家屋の壁コンセントの電流規制(<15A)をクリヤするためにも有効である。
従って、複雑化や変換効率が低下することなどの課題はありながらも法規制上のクラス分けを問わず、事
務機器や大型 TV には幅広く用いられるに至っている。
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第 5 章 PFC および、その他のコンバータ
以下に現在用いられている 2 種類の PFC コンバータについて説明する。
臨界モード型(CRM)
電流連続型(CCM)
特徴
回路構成が簡単で安価
乗算器が必要
ピーク電流が大きく ON 損失が大きい
CRM に比べて部品点数が多い
力率は良い
ピーク電流が少なく ON 損失が少ない
ダイオードリカバリノイズは良好
力率は良いが CRM に対して若干低い
周波数が変わる(ノイズ特性は良)
整流ダイオードのリカバリノイズは大きい
小型電源では最も多く使われている
周波数は固定にできる
仕様
単体では~300W 程度まで
単体では~500W 程度まで
必要に応じて並列駆動、インターリーブ式を採用
イ
ン
ダ
ク
タ
電
流
代表回路構成
表 5.1 2 種類の PFC 回路得失比較 (図:「グリーン・エレクトロニクス No.3」 CQ 出版社より引用)
臨界モード(CRM)型 PFC 動作解析
CRM 型 PFC の基本動作は RCC 型昇圧コンバータに準じている。
RCC は ton 期間中にコアに磁気エネルギーを蓄積し、toff 期間中にそのエネルギーを負荷に供給すること
で動作し、コアの磁気エネルギー放出の完了を検知して新たなサイクルをスタートさせる。
PFC にこの原理を応用した場合、出力電圧は動作電圧にこの磁気エネルギーを上乗せした分となるので、
RCC の動作式にこの補正を施したものが CRM 型 PFC の動作原理となる。
まず、ton 一定で駆動することを考える。
この場合、インダクタ L のピーク電流 IL は
IL
Vcc
ton
L
…5.1.1 式
となり、ton 一定とした場合、IL は Vcc に比例することが分かる。(Vcc:動作電圧)
又、交流ラインの電流 Iac がインダクタ電流の平均値である事を考えれば
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第 5 章 PFC および、その他のコンバータ
1
IL
2
Iac
1 Vcc
ton
2 L
…5.1.2 式
になることも分かる。つまり、ton 一定でこのコンバータを駆動すれば自動的に入力電流 Iac は Vcc に比例
した波形になるのである。
一方、コアの磁気バランスの制限から次の各式を得ることができる。
Vcc ton
toff
f
ton
VFB
Vcc
VFB
1
ton toff
ton
あるいは、
toff (VFB
Vcc
Vout Vcc
ton
ton
Vout Vcc)
1
Vcc
ton
VFB
VFB
VFB Vcc
1
ton
1 Vout Vcc
ton
Vout
1 Vout Vcc
f
Vout
…5.1.3 式
…5.1.4 式
設計の概略は次の手順である。
入力電流 Iac(rms)
入力電流ピーク Iacp
P
Vac
Iac
Iacp
2 Iac
動作ピーク電圧 Vp
Vp
2
P
Vac
2 Vac
P
Vac
インダクタピーク電流 Ip
Ip
インダクタ L 値
L
Vp
ton
Ip
f
Vac 2 1 1 (Vout
2Vac)
2
P L
Vout
2 Iacp
2 2
…5.1.5 式
Vac 2 1 1 (Vout
2Vac)
2
P f
Vout
…5.1.6 式
あるいは
周波数 f
…5.1.7 式
を導くことができる。
5.1.3 式から
①0 クロス近辺(Vcc=0)では周波数は
1
まで上昇し、
ton
②ピーク電圧付近では周波数は Vcc=0 に対して
Vout Vp
まで低下する。
Vout
つまり、Vout>Vp でないとこの PFC コンバータは動作
しないことが分かる。
電圧関係が逆転すると、コンデンサ入力型の平滑回路
になるので入力電流波形もコンデンサ入力型の波形にな
り、電流波形も正弦波の頂上付近に角が生えた電流波
形になる。
図 5.1.3 CRM 型 PFC 動作原理図
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第 5 章 PFC および、その他のコンバータ
③最高動作周波数は 5.1.7 式を Vac で偏微分し、0 とおくことで求めることができる。
Vac
2
Vout
3 2
0.471 Vout
…5.1.8 式
AC85V∼132V の範囲での周波数変化の様子を 85V で正規化して図 5.1.4 に示す。
④5.1.7 式から動作周波数は同一 Vac なら負荷に反比例する。
⑤最低周波数 fmin の条件は Pmax/Vacmax、時
最高周波数 fmax の条件は Pmin/(0.471×Vout)時
で計算する。
⑥L の値は fmin の条件で決定し、飽和電流点は
5.1.5 式を使って Pmax/Vacmin の条件で判定す
る。
⑦最高動作周波数 fmax は 5.1.8 式式を 5.1.7 式
に代入することで次のように求まる。
f max
1 Vout 2
27 P min L
…5.1.9 式
・設計例
出力:200WMax ∼50WMin
入力:85V∼132V Vout:210V 設定
その他:fMIN:30KHz
図 5.1.4 CRM 型 PFC の周波数変化
・ L 値の決定
L=1322 /(2×200×30K)×(210-√2×132) /210=161.3μH
200W
50W
132Vrms
Iac=200W/132V=1.52Arms→2.14Ap
Iac=50/132=0.38A→0.53Ap
Vcc=187V
Ip=4.29A
Ip=1.07A
30KHz=1/(ton)×(210-185)/210
ton=L×I/Vcc=161×1.07/187=0.92μS
ton=3.70μS
toff=0.92×185/25=7.40μS
toff=ton×Vcc/(Vout-Vcc)=29.6μS
f=1/(0.92+7.37)=120KHz
85Vrms
Iac=200/85=2.35Arms→3.3Ap
Iac=50/85=0.59Arms→0.83Ap
Vcc=120V
Ip=6.66A
Ip=1.66A
ton=L×I/Vcc=161×6.66/120=8.93μS
ton=161×1.66/120=2.23μS
toff=8.93×120/(210-120)=11.95μS
toff=2.23×120/(210-120)=2.99μS
f=1/(8.93+11.95)=47.88KHz
f=1/(2.23+2.99)=191.5KHz
表 5.1.2 CRM 型 PFC の設計事例
fmax=2102/(27×50×161μ)=203kHz at Vac=99Vac (Vcc=140V)
尚、整流ダイオードのピーク電流が後述する CCM 型に比較して大きくなるので高速ダイオードの範疇でも
低 VF 型が要求される。
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6 章 新型コンバータ
6 章 新型コンバータ
入出力間をキャパシタで分離したタイプのコンバータがいくつか提案されている (Cuk コンバータ、SEPIC、
Zeta コンバータ)。これらのタイプは入出力間をキャパシタで分離し、両端にインダクタを接続しているので
動作停止時にリーク電流を生じる事はない。
又、これらのコンバータは基本的に反転コンバータ(Buck-Boost)を根底に持つ昇降圧コンバータである。
回路構成は次の図 6.1 のように考えると、反転型コンバータと同一の系統に属し、変換比も同じ式で計算で
きることがわかる。
基本回路図→
変形途中の図→
最終回路構成図
反転型
コンバ タ
ー
(赤枠部回転)
S
E
P
I
C
(赤枠部反転、D 位置変更)
(Lp←→Vcc 交換)
コンバ タ
ー
Z
e
t
a
(Cs 移動)
コンバ タ
ー
C
u
k
Cuk は
反転出力
Lp←→Vcc 交換、Ls 移動
図 6.1 コンバータ構成図比較
注) 上図から SEPIC の基本回路は他励 FB コンバータにキャパシタ Cs を接続した構成であることが分かる。
SEPIC は(Single-Ended-Primary-Inductor-Converter)の略号なので普通は”コンバータ”を付けない。
これらの新型コンバータは入出力の両端(Cuk)、あるいは片方にインダクタが
接続され(SEPIC,Zeta)、電流リップルを抑制する方向に作用する。又、インダク
タ相互間のエネルギ伝達はキャパシタ Cs で行う。
Lp,Ls 共に同じタイミングで同一電圧波形が印加されるので、同一のコアに巻
回でき、トランス構造のチョークとすることで部品点数を削減できる。ただし、
Cuk コンバータは磁気結合すると本来負電圧の出力電位が過渡的に正に振ら
れ逆電圧が生じるので、一般に Cuk コンバータでは独立チョークを用いること
が多い。
次ページ以降に SEPIC の詳細解析、および、Zeta,Cuk の簡易解析、3 者の比 図 6.2 Cuk コンバータの過渡的異常電圧
較結果を示す。
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6 章 新型コンバータ
6.1 SEPIC の解析
動作解析用の回路図を図 6.1.1 に示す。
(b)Q1 OFF 時
(a)Q1 ON 時
図 6.1.1 SEPIC の電圧・電流図
ここで、f:動作周波数
とする。
δ:Q1 の通電時比率
L1 の電流変化分ΔIL1
Q1=ON 時の L1 の電流増加分(ΔIL1+ )
Vcc
…6.1.1 式
IL1
L1 f
Q1=OFF 時の L1 の電流減少分(ΔIL1- )
各部の電圧のバランス条件は
Vcc+VL1=VCs+Vout → VL1=-Vcc+VCs+Vout
だから、
IL1
( Vcc
(b)L2
(a)L1
図 6.1.2 インダクタンスの電流波形定義
VCs Vout) 1
L1
f
…6.1.2 式
両者は等しいので次式が成立する。
Vcc
L1 f
Vcc VCs Vout 1
L1
f
Vcc (VCs Vout)(1
)
…6.1.3 式
L2 の電流変化分ΔIL2
Q1=ON 時の L2 の電流増加分(ΔIL2+ )
VCs
IL 2
L2 f
Q1=OFF 時の L2 の電流減少分(ΔIL2- )
Vout 1
IL 2
L2
f
VCs
Vout (1
)
VCs
Vout
…6.1.4 式
…6.1.5 式
1
…6.1.6 式
この Vcs の値を上式に代入すると、
1
1
Vcc Vout(
1)(1 ) Vout
…6.1.7 式
となり、変形すると一般的な反転型コンバータと同じ変換比α (
Vout
Vcc
1
) を得ることができる。
…6.1.8 式
1
そして、αには負荷依存性がないのでコンバータ自身が定電圧特性を有することが分かる。
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6 章 新型コンバータ
Vout が求まったので、この結果を VCs の式に戻すと
Vout (VCs Vout)
VCs
Vout(
1
VCs
1) Vout
1
Vout
Vout
…6.1.9 式
Vcc
つまり、分離用キャパシタ Cs の充電電圧 VCs は常に電源電圧 Vcc まで充電されている。
キャパシタ Cs の電圧変動・インダクタ平均電流
Q1=ON 時に Cs から L2 へ電流が流れ、Cs の電荷は放電される(ΔVCs-)。
1
…6.1.10 式
VCs
IL2
ΔVCs は Vcc の 10%以下程度に選んでくださ
Cs
f
い。つまり比率をγとすると
γ・Vcc<Iout/(Cs×f)×δ
Q1=OFF 時には IL1 によって充電される(ΔVCs )。
1
1
∴Cs>Iout×δ/(γ×Vcc×f)
VCs
IL1
…6.1.11 式
Cs
f
ただし、リップル耐量とのバランスも考慮す
両者は等しいので次式が成立する
ること
…6.1.12 式
IL2
IL1(1 )
IL1 の平均電流 IL1(AVE) は出力電力 P を入力電圧 Vcc で除したものであるので、IL2 の平均電流 IL2(AVE) は
次式となる。
Pout 1
Pout Vcc
IL2( AVE )
Iout
…6.1.13 式
Vcc
Vcc Vout
つまり、L1 には入力平均電流が、L2 には出力平均電流がそれぞれ流れることになる。
+
インダクタンス電圧の電圧波形
Q1=ON 時
VL1+=Vcc、VL2+=VCs、ここで VCs=Vcc なので VL1+=VL2+=Vcc
…6.1.14 式
Q1=OFF 時
VL1-=-Vcc+VCs+Vout=-Vcc+Vcc+Vout=Vout
VL2-=Vout
∴VL1- =VL2-=Vout
…6.1.15 式
図 6.1.3 インダクタンスの電圧波形
つまり、Q1 の ON/OFF、あるいはインダクタンス値にかかわらず、両者は常に同じ電圧が印加されるので、
同一コアに巻回しても支障がないことが分かる。このため、部品点数削減の目的でトランス構造のインダク
タが用いられることも多い。
臨界インダクタンスと飽和電流値
L1 の不連続限界値は IL1(AVE)=ΔIL1÷2 から求めることができ、次のようになる。
Pout 1 Vcc
IL1(AVE)
Vcc
2 L1 f
L1
Vcc 2
Vout
2 f Pout Vcc Vout
…6.1.16 式
L1 の飽和電流値 I(satL1 )は IL1 の最大値 IL1P であるので
Pout 1 Vcc
I( satL 1)
IL1p
Vcc
2 L1 f
L2 の不連続限界値は IL2(AVE)=ΔIL2÷2 から求めることがでる。
1 VCs
IL2( AVE ) Iout
2 L2 f
3 / 11
…6.1.17 式
…6.1.18 式
7 章 平滑回路
7章 平滑回路
7.1 キャパシタ入力型平滑回路
電源平滑回路は電源投入時の突入電流や、保持時間を左右する平滑容量を決める重要な項目であり、
後からサイズ変更や無理な回路設計を行わないためにも事前に検討しておく必要がある。
7.1.1 検討回路
図 7.1.1 に今回、検討する商用入力の回路図と記号を示す。
D1∼D4
V1
入力 AC 電源
Rs
商用ライン配線抵抗
Vp
商用ラインピーク電圧
C1
平滑容量 C(μF)
P-Load
図 7.1.1 設計回路
整流ダイオード
定電力負荷
Po
消費電力 P(W)
F_AC
入力周波数(Hz)
7.1.2 Rs の上限値
Rs が存在する場合の計算は正弦波と指数関数の合成関数となり、解析的
に解を得るにはかなり困難であるが、Rs が存在しない場合は入力電圧 V1 の
ピーク電圧 Vp まで容量 C が充電され、位相π/2 で充電が完了すると仮定で
きるので、放電の様子を計算する事ができる。先ず、回路の成立条件として、
Rs ありの図 7.1.2 の回路で必要電力 P を取り出す Req を計算する。
図 7.1.2 Req 等価回路
回路電流I について。
I
Vp
であり、この電流 Iによって抵抗Reqの発生する電力Pは
Rs Re q
P
I 2 Re q
Vp 2 Re q
(Rs Re q)2
図 7.1.3 解析用等価回路
この式を Req について解けば R0
Re q
1
(R 0
2
7.1.1 式から Rs
2Rs
R0
R0
Vp 2
として、次の様になる。
P
4Rs )
…7.1.1 式
R0
でなければならない。Rs
..には上限値がある
........のである。
4
7.1.3 Rs がない場合の計算式
・容量 C1 の放電の計算式
Rs=0 であるので、C1 のピーク電圧は Vp である。この状態から放電が始まるとして、任意の時刻 t におけ
る、C1 の電圧 V を求める。
1/17
7 章 平滑回路
1
C(Vp 2
2
V 2)
P t (Vp 2
V 2)
2
P t V 2
C
P
CVp 2
似を採れば、7.1.2 式を得る。ここで
V
Vp
2P t
CVp 2
1
1
Vp 2
2
P t であるのでテーラー展開の 2 次近
C
1
とする。
C Re q
t
2
2 2
t
…7.1.2 式
・入力波形の近似
時刻 t=0 からの波形の様子を図 7.1.4 に示す。波形の様子
1
近辺で近似すれば良い。
2f
から最低電圧は Cos 波形を t
Cos 波形の近似式は Y
Cos( X ) 1
1 2
X で表されるが、
2
図 7.1.4 入力電圧の近似
ここでの X は角周波数なので時間で表記しなければならな
1
) で置き換えた 7.1.3 式となる。
2f
い。すると近似式は X を (t
ここで、リップル含有率γを、
V
Vp
1
1
( (t
2
1
計算を簡単にする為に T
1
2
1
1 2
))
2f
t
1
VL
として置き換える。
Vp
1
2
2
(t
1 2
)
2f
…7.1.3 式
1
と置き換えると、7.1.2 式は次の様になる。
2f
T2
2
…7.1.3b 式
3.3b 式を時刻 T について整理すると
2
T
T
2
…7.1.4 式
(ここでは±の値の内、早く交差する時間が必要なので−の値を採る)
7.1.4 式の T の値を 7.1.2 式に代入してαt について整理すると、C1 の最低電圧 VL が決まる。
t
2
2 2
1
7.1.5 式を
t
1
t
1
1
1 2
t
2 2
について解くと、谷電圧
2 t
2
0 …7.1.5 式
VL
を満たす必要な最小限の容量 C を得る。(VL/VP=0.8∼0.9)
Vp
1
1
2
2f
1 2
1
2
1
2f
1 2
1
…7.1.6 式
P
P 1
にこの結果にを代入すると 7.1.7 式になる。
C≧ 2
CVp 2
Vp
2/17
7 章 平滑回路
2
1
P 2f
C≧ 2
Vp
1 2
1
…7.1.7 式
ただし、γ<0.2 程度でないと近似精度がないので注意が必要。
...
7.1.7 式の一つの条件例として 100Vrms、VL/Vp=0.8(γ=0.2)、ω=2π50(Hz)=314 と仮定すると、設計指
...........
針として電力当りの容量 を得ることができる。
C
P
1
0.4
1
100 314
141. 4 2
1.4 1
2.18(
F
)
W
…7.1.8 式
ただし、以上の計算は近似計算であるので目安としての計
算式であることを忘れないこと。又、充電開始時間 T はこの
例では
2
T
2 0.2
6.28 50
から T
2.01mS
となる。
これらの定数について SPICE でシミュレーションを行った結
果を図 7.1.5 に示すが充電開始時間 T(-2.05mS←→
-2.01mS)と最低電圧 VL(112.6V 79.8%←→80%)について良
好な一致を得た。
(85V 時なら 3.0μF/W 程度が必要)
逆に 7.1.7 式をγについて解くと 7.1.9 式となり、リップル含
図 7.1.5 簡易計算回路のシミュレーション結果
有率を算出できる。ただし、簡易化のため、7.1.7 式の分母を
1 次近似にしている。
2
2
f
2( )2
2
…7.1.9 式
C/P=3.3μF/W、P=100W、Vac=85Vrms→α=20.97 を代入すると、
20.97,
314,
0.82632
4
0.06675 2
2 0.06675
0.066752
2
2 20.97
50
0. 8263 0.171
1 次近似にしたための誤差は
程度である。これらを加味して、
1 2
1
リップル含有率は 17.1%(×1.08=18.5%) 谷電圧は 85×√(2)×(1-0.185)=98V と予測できる。
3/17
8 章 トランス設計の実際
8 章 トランス設計の実際
8.1
F/F コンバータ用トランスの設計
設計例として次の F/F コンバータ用メイントランスを設計する。
出力:75W(15V、5A)
入力:100∼170Vdc
動作周波数:135KHz
通電率δ 0.35(100V)
コア材:PC47 (TDK)
コア温度上昇ΔTc<20K
回路:F/F コンバータ
内部 P-S 間距離:4.0 ㎜*
*:線間電圧:150∼200V、汚染度 2、材料グループⅢa(基礎 2.0 ㎜、強化 4.0 ㎜)
8.1.1 コアの選択 設計条件を満たす為のその他のパラメータを算出する
・入力平均電流Iin:Iinave=75/100=0.75A
・ 1 次巻線径φP:平均電流密度を 5A/㎜ 2*に設定→断面積 Sp は Sp=0.75/5=0.15 ㎜ 2
→φP≧0.45 ㎜(4.7A/㎜ 2)
・ 2 次巻線径φs:断面積 Ss=5/5=1 ㎜ 2→φ0.55×4(5.26A/㎜ 2 )
・コア断面積と 1 次巻線巻回数の関係→Np=E×ton/(Bm×Ae)
・ ton=0.35/135KHz=2.6μS
・ 2 次ピーク電圧 Vs=(15+1.5)/0.35=47.1V ∴Ns/Np>0.471
*:電流密度 5A/㎜ 2 は巻線の温度上昇ΔTw<20K に抑制するための経験値である
※ここからはいくつかのコア候補を取り上げ、繰り返し計算になる。
JIS FEER28.5A
コア型番
JIS FEER 35A
コア情報
Ae=0.82Cm2、Ve=5.25cc、窓面積 Acw=114mm2
Ae=1.07Cm2 、Ve=9.72cc 窓面積 Acw=218mm2
ΔTc<20K
コアロス 0.8W→損失密度ρc=0.152W/cc
コアロス 1.2W→損失密度ρc=0.123W/cc
になる Bm
Np/Ns
→Bm<0.12T
→Bm<0.11T
Np=100×2.6μ/(0.12×0.82×10-4 )=26.4T→27T
Np=100×2.6μ/(0.11×1.07×10-4 )=22.1T→22T
Ns=27×0.471=12.7T→13T δ=0.34
Ns=22×0.471=10.3→10T δ=0.363
ボビン
巻き巾/巻き高さ 16.7×4.3
巻き巾/巻き高さ 21.6×5.85
Np 仕様
巻線可能巾*=16.7-4.0-2.0-1=9.7 ㎜
巻線可能巾*=21.6-4-2-1=14.6 ㎜
2 層で 27T を巻くと 14T/l 以上巻ければ良い。
2 層で 22T を巻くと、11T/l 以上巻ければ良い。
φP<9.7/(14+1.5)**=0.625(仕上がり)→表皮効果
φp<14.6/(11+1.5)=1.16(仕上り)→表皮効果を配慮し
を配慮してバイファイラ巻線を採用して細線化を図る
φp=0.28×2、2 層巻きとする。電流密度 6A/㎜
NS 仕様
2
てバイファイラ巻線を採用して細線化を図る
φp:0.35×2 本、2 層巻きとする。 電流密度 3.9A/㎜ 2
巻高さ hp=0.314×2=0.628 ㎜
巻高さ hp=0.387×2=0.774 ㎜
NS=13T φ0.55 のバイファイラ巻きのパラ結線
Ns=10T φ0.55 のバイファイラ巻きのパラ結線
T/l=9.7/(2×0.59)=8.2 =7 T/l→2 層巻き
T/l=14.6/(2×0.62)=11.7 10 T/l→巻線 OK
巻高さ hs=0.62×4=2.48
巻高さ hs=0.62×2=1.24
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8 章 トランス設計の実際
絶縁テープ
P-S 間:4 箇所 (50μ厚 3 層)=0.085×3×4=1.02
P-S 間:4 箇所 (50μ厚 3 層)=0.085×3×4=1.02
等を含む巻
S-S 間:2 箇所 (25μ1 層)=0.055×2=0.11
外装:1 箇所 (50μ厚 3 層)=0.085×3=0.26
高さ
外装:1 箇所 (50μ厚 3 層)=0.085×3=0.26
トータル巻高さ H=0.77+1.24+1.02+0.26=3.29 ㎜(56%)
トータル巻高さ H=0.628+2.48+1.02+0.11+0.26
=4.498 ㎜(105%)→巻線 NG***
*
:図 8.1.1(a) バリアテープの装着バラツキを 1 ㎜分見込む。(バリアテープは鍔部は折り返しの沿面距離でよい)
**
:図 8.1.1(b) 巻線ピッチのバラツキを 0.5T 分見込む
***
:FEER28.5A では連続 75W は巻線不可となったが、トランスとしての仕様を連続 50W/ピーク電力 75W 程度に抑
制すれば巻線可能になる。同様に JIS FEER 35A では連続 75W 出力であるが、ピーク出力は過電流保護回路の値まで可能
である。又、図には表れない、固定テープが随所に使われているのも配慮して、 巻高さは丸ボビンで 85∼90%程度、角ボビン
で 70∼80%以下に抑えないと巻線の膨らみでコイル外径が大となり、コアの挿入ができなくなる。
(a)内部沿面距離
(b)ボビンの必要巻き巾
(c)クロスオーバー不良
図 8.1.1 トランスの内部名称と寸法図
表皮効果
表皮効果とは電流の運搬の担い手が電子であり、電子が電磁気力を受けることに起因して起こる電流の
歪な分布をいう。電子が一様に分布して導線の中を流れると電子の流れ=電流であるので磁界を発生する。
中心近傍を流れる電子ほど導体表面の電子による磁界を受け、導体からはじき出されてしまう。従って導
体表面にしか電流が流れなくなるのである。つまり、交流抵抗が増加することになる。
この増加率 KR は近似式ではあるが次式で示される。ここで、Rac:交流抵抗 Rdc:直流抵抗 である。
近似範囲:
KR
Rac
Rdc
f
φ:線径(㎜)、f:周波数(KHz)
7
f
14.5
2
…8.1.1 式
1 Rac 低減策として 0.7 倍の線径の銅線を 2 本並列にすれば、Rdc は変わらずに KR が減少するので、Rac
を低減する良好な手段となる。しかし、0.707 倍の線径を 2 本使うことは巻幅が 1.4 倍になることであり、ボ
ビンの巻幅を広くすることにつながるので、巻幅を合わすために 50%の線径φの銅線を 2 本使うことを考え
る。
導体断面積は 1/4 であるので 2 本並列でも Rdc は 2 倍になっている。このことを考慮すると、増加率が
50%線径の増加率の 2 倍以上になる臨界の線径は次の様になる
(mm)
29
f(KHz)
…8.1.2 式
2 / 21
8 章 トランス設計の実際
135KHz であればφ>0.46 ㎜、100KHz であればφ0.54 ㎜以上の線径では 50%の線径を 2 本パラにした方
が実際の損失は低減できる。
計算例:135KHz φ0.46 KR =2.97
0.23 ㎜ 2 本時 KR=1.49
もう一つの高周波効果として、隣接する導線に電流が同時に流れると、同様な効果で電子が導体内で偏り
を持って分布することになる。これを近接効果と言い、F/F コンバータのような ON-ON タイプのトランスでは P
巻線、S 巻線に同時に電流が流れるのでこの影響は無視できないが、実験式すら導出できていないのが現
状であり、数式評価が出来ていない。
一方、F/B コンバータ、RCC のように交互に電流が流れる ON-OFF タイプのトランスでは P-S-P-S と巻回す
ることで、この近接効果を弱めることができる。
8.1.2 結線図
図 8.1.2 に示すように、トランスには 1 次巻線(P)と 2 次巻線(S)、および、その他の補助巻線が内包されて
いる。これらは回路図上では同図(a)の
ように簡単に表記されるが、これでは巻
線間の磁気結合が悪く、エネルギ伝達
効率が悪い。
結合の改善策としてそれぞれの巻線を
(a) トランス原理図
複数に分割し、交互に巻回することが行
(b) P-S とも並列巻線
(c) P 直列/S 並列
図 8.1.2 トランスの結線図
われるが、結線の方法として並列にする
か、直列にするか、の 2 つの方法がある。
大電流の巻線の場合、どうしても線径が太いので巻線性が悪くなり、加えて上記の表皮効果で高周波抵
抗が増加することから、並列結線を採用することが多い。並列結線にすると巻線間に 循環電流が流れるこ
とがあるが、これはインダクタンス値のバランスをとることで改善できる。従って、多くの場合、巻き回数の多
い方を直列結線、電流の多い方を並列結線とする(c)の結線とすることが多い。
8.1.3 内部構造図
(a)ボビン外観図
(b)下面図
(c)内部構造図
図 8.1.3 トランスの巻線構造図
図 8.1.3 にトランスのボビンとぞの内部構造図を示すが、巻線と絶縁テープが交互に並んでいることが分
かる。絶縁テープは安全規格の強化絶縁が要求される箇所であるので次の仕様を満たす必要がある。多く
は粘着性のポリエステルテープが用途に合わせて使用される。
・UL 認定品であること。(難燃性:UL510/CTI クラス:UL746A)
外観の似ている"セロテープ"は食物繊維のセルロースから作られる
もので 「似て非なるもの」 である
・JIS-J-60950 2.10.5.2 項(薄いシート状絶縁物)の要求。ただしエナメルコーティングは認めない
3 / 21
9 章 安全規格
9章
安全規格
9.1 沿面距離・空間距離
商用ライン(交流 100V ライン、200V ライン)に接続される SW 電源用のトランスの場合には安全規格という、
絶対要求条件が付いている。しかも SW 電源は電子回路を用いて高周波スイッチングを行うため、AC ライン
電圧以上の電圧が発生するので実際にトランス端子間電圧を測定し、発生電圧に対応した距離を確保しな
ければならない。
必要な距離は、絶縁物表面に沿った「沿面距離」と、空間を直線的に結んだ「空間距離」の 2 種類があり、
使用材料・汚染環境・印加電圧に応じて距離が定められている。
図 9.1.1 主な距離要求箇所
図 9.1.1 に主な安全距離要求箇所を示す。尚、AC(N)とは接地ライン(ニュートラル)、AC(L)は活電部(ライ
ブ)である。距離要求の場所の多くは絶対的な要求であるが、ヒューズ以降の 1 次相互間、及び、2 次相互
間は緩和処置が許容される場合もあるので規格書を熟読することが必要である。
又、安全規格は各国の法律であるので素人の判断は危険であり、疑問点については各試験所に事前に
解釈の相談をしておいた方が良い。
距離の源となる絶縁は、その機能によって次のように分類される。 (出典:Weblio から編集)
・機能絶縁 (functional insulation)
感電に対する保護機能を有しない機器の正常動作を行うために必要な絶縁。厚みやその他、絶縁物とし
て要素を満たしていないが、実質的な絶縁を行い機能を確保する。
・基礎絶縁 (basic insulation)
感電に対して基本的な保護を行う絶縁。距離・厚み、その他絶縁としての要素を満たしている。
・付加絶縁(補強絶縁) (supplementary insulation)
基礎絶縁が破壊した場合、感電の危険を減少するために、基礎絶縁に追加して行う独立の絶縁。
・二重絶縁 (double insulation)
基礎絶縁と付加(補強)絶縁の両方で構成される絶縁。
・強化絶縁 (reinforced insulation)
感電に対して二重絶縁と同等の保護強度を持つ単一の絶縁システム。距離は基礎絶縁の 2 倍が要求
される。
余談ではあるが、北米や欧州において AC ラインは、(N)と(L)が決められており、ヒューズは必ず(L)側に入
れなければならない。日本国内では最近の 3 線式コンセント(アウトレット)で(N)(L)が決められており、旧の
1/23
9 章 安全規格
2 線式配線では明示的ではないが片線は接地されている。
電圧測定例として RCC 用トランスの各線間電圧を Pspice でシミュレーションした例を表 9.1.1 に示す。
箇所
箇所
電圧(Vpp、Vrms)
Vd-0V
電圧(Vpp、Vrms)
Vd-OUT
+511Vp∼-373Vp
+485V∼-304V
330Vrms
303Vrms
Vcc-0V
Vcc-OUT
+373Vp∼0V
+411Vp∼-25.4Vp
232Vrms
242Vrms
表 9.1.1 電圧測定箇所と測定電圧
設計条件は 100V 用と 200V 用を考えるので、AC 入力電圧は 230V の+15% =264V で測定しているが、
100V 系/115V 系でもそれぞれ、安全規格要求の上下限範囲内の電圧で測定しなければならない。
この例のように、入力電圧 AC264V を超える電圧が端子間に発生しているのが分かる。このトランスの
場合、330V に対応した距離(図 9.1.2 では 4 ㎜)を基準に設計することになる。
表 9.1.2 に測定時の注意事項を示す。
回路方式によって、(例えば力率改善(PFC)回路を採用した場合、等)最大端子間電圧は入力電圧と比例しない場合があ
るので注意が必要。(入力電圧の低いほうが線間電圧が高くなるケース)
1 次∼2 次間電圧測定の様に、完全に絶縁された AC ラインとの電圧を測定する時は AC(N)ラインを接地して測定する事
が指示されているので AC ラインがフローティングされたまま測定しないこと。(図 9.1.1 の※部を接続)
試験機関での電圧測定は真実効値であるので通常の平均値型デジタルマルチメータの AC 電圧で判断することは測定誤
差を伴う可能性がある。
RCC や F/B コンバータは 1 次巻線と 2 次巻線とは位相が同相になっているので P-S 間電圧は活電部間で低下するが負
出力の場合は増加する。フォワード型の場合は対帰還巻線が増加する極性になる。全端子間を必ず実測すること。
表 9.1.2 距離測定時の注意事項
安全規格の一つである IEC60950 の距離要求は使用材料(材料グループ)と、使用環境(汚染度)によっ
て細かく区分されており(図 9.1.2)、ボビン材料にインジェクション用フェノールを使えば、材料の CTI 値(トラ
ッキング指数)が 400 以下であるので材料グループのⅢa になり、一般室内用途を考えれば汚染度は 2 と
なる。
2/23
9 章 安全規格
(a)距離要求
(b)材料グループ用 CTI ランク
図 9.1.2 950 系絶縁距離要求
その他の安全規格も電圧に応じた距離は明記されており、詳細は各安全規格書を参照すること。
(a)巻き始め、巻き終わり
(b)沿面距離と折り返し
図 9.1.3 巻線構造図
縦型トランスの巻線構造を図 9.1.3 に示すが、引き出し部の沿面距離が直線距離で必要であり、開口部
のない鍔部の距離は折り返しで良いのが理解できる。従って横型の場合は両端に直線距離が必要であり、
小型化で不利になるのは自明である。
最近用いられるようになってきた「3 層絶縁電線(3 層線)」については 8 章を参照のこと。
尚、空間距離<沿面距離 なので空間も沿面距離を確保するように努めれば良い。
同じボビンを使えば距離要求の大きい 200V 系が不利なので、設計は 200V で進めればよく、200V 系で設
計が出来れば 100V 系は余裕が出来る。
◉倒れた部品に注意
距離測定の条件として、倒れる部品は 10N で加圧した状態で測定されるが自力で位置が回復しない部品
.............
についてはそのまま放置
...........される。特に、ある部品を介して互いに近づく方向で倒れるとトータル距離が不足
することがある。
トランス周辺の部品についてはコアを介して測定され、コアは金属として扱われるので、倒れたままである
と、コア周辺には強化絶縁の距離が要求されるケースがある。特に小型の電解コンなど、浮上型の部品に
ついては倒れる方向を考えて配置しなければならない。(P 側部品∼コア∼S 側部品の距離)
9.2 温度上昇(絶縁階級)
絶縁は無機・有機材料の組み合わせで実現されており、熱エネルギー(温度)によって、原子配列・分子配
列がダメージを受け、絶縁性能が長期的には必ず劣化する。
3/23
9 章 安全規格
この為、IEC 60085では温度によって絶縁階級が次の様に分けられ、この温度に対して、ホットスポット
(5∼15℃)を考慮した測定値で判定される。上昇値ΔT(at 40℃)は最高温度の換算値である。
9.2.1 UL に注意
米国では旧 B 種以上は認可
クラス 90
クラス 105
クラス 120
クラス 130
クラス 155
(Y 種)
ΔT=60
ΔT=75
ΔT=80
ΔT=100*
(A 種)
(E 種)
(B 種)
(F 種)
方式であり、日本国内でクラス
各国の絶縁階級 ()は旧呼称 (155℃以上省略) *UL では 105K
120 に適合しているからといっ
表 9.2.1 絶縁階級
て米国で申請だけで使用でき
る訳ではなく、ULに絶縁システムとして認可されなければクラス 105 扱いになる。この申請・試験内容はクラ
ス 120 でもクラス 130 でもほとんど差がないことから、多くはクラス 130 の B 種絶縁システムを取得している
のが実情である。認可絶縁システムを使用する場合は、使用材料品番、メーカー、等が固定され、認可条
件以外の材料は同等品であっても使用できないので注意が必要である。このような 2 重運用は早急に IEC
規格への統合が望まれる。
9.2.2 熱電対法
なお、巻線温度の測定は抵抗法を基準にしており、熱電対法は簡便・補助的の位置づけである。
そのため、熱電対法では巻線に熱電対を巻き込んだとしても、規格値から 10℃低い温度で判定される。
巻線表面に貼りつけた熱電対は単なる参考値である。
9.2.3 重要安全部品(Critical Safety Components)
安全規格の技術基準の中には、
「安全性が関係する場合、部品は、規格の要求事項又は関連 IEC 部品規格の安全上要求項目に適合しな
ければならない」
と規定されている。従って、安全規格を申請する時には試験所から重要安全部品のリスト提出を求められ、
このリストは「安全にかかわる部品」を記入する。具体的には、安全規格の認可品と、装着を間違えると安
全(HHKK)に関わる懸念を生じる部品を記入すればよい。試験所はこのリストに基づいて温度測定するポイ
ントを定める。
今回の SW 電源では安全に「関わる部品」として表 9.2.2 に示すような部品が考えられる。その他にも分野
ごとに重要安全部品と考えられる部品を記入する。
電流ヒューズ・ヒューズホルダ
温度ヒューズ
P∼S 間接続コンデンサ
X-コンデンサ
Y-コンデンサ
バリスター
電源スイッチ
インレット・アウトレット
AC ライン、1 次側コネクター、2 次側電力コネクタ
1 次平滑用電解コンデンサ
整流用ブリッジダイオード
フォト(オプト)カプラー
ラインフィルター、ノイズフィルター
三層絶縁線
P-S 間/P-E 間絶縁材(基板スペーサー含む)
耐熱電線
AC~AC 間放電抵抗
P-S 間接続抵抗
プリント基板
突入電流防止用サーミスタ・抵抗
各種保護用センサ(サーモスタット、等)
サイリスタ・トライアック、等
リレー(1 次側、P-S 間)
トランス(P-S 間)
電源ケーブル
1 次制御 IC
表 9.2.2 重要安全部品の一例
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10 章 基幹部品と使用基準
10 章 基幹部品と使用基準
10.1 ディレーティング
設計を行うにあたって部品の定格値に対して実際に半導体、等を選択・使用する時の基準(軽減率)を決め
なければならない。この軽減率をディレーティングという。これは実際に実測できる値は試作品、あるいは抜
き取りによる限られたサンプルのみであり、そのバラツキを見込まなければならないことと、実際に軽減して
使用すると部品の寿命や故障率の改善が見られることによる。(MIL−HDK217 等参照)
本資料では経験的にではあるが特に規定の無い限り、以下の軽減率を推奨する。これはダメージのある
項目に対して
測定バラツキ 10%、正味軽減率 10%を考慮したものである。従って、過渡的な条件下では測定バラツキの
10%だけを見込んでいることになる。
項目
基本ディレーティング値
(絶対最大定格に対する割合)
80%(バラツキ要素 10%+
設計余裕 10%)
定義
定常時
低圧電源の特性保証の入出力範囲内
過渡時
保護素子使用
温度
低圧電源の電源投入、出力短絡、等の異常動作時の単発
的な、あるいは熱的に影響のない場合
加わるエネルギーが外部素子(ツェナー、あるいはクランパ
ー素子等)により確実に制限されると保証できる場合
半導体接合部・チャネル部( 注:ケース温度ではない)
(注)N=1 での評価に疑義を生じた場合は統計的に
確認する
90%(バラツキ要素 10%)
定常時 90%
過渡時 95%
定常・過渡時とも 80%以下
X が上記の基準を満足し、且つバラツキ上限が+10%を超えないことを
10.2 MOS・FET の使い方
波形の定義
項目
Idp=肩電流
IdM=ヒゲ電流
定常時
過渡時
Ear 保証なし
保証値×0.8
保証値×0.9
Ear 保証あり
保障値×0.9
Ear×0.9、Iar×0.8、Tch(max)×0.9
Vgs*
保証値×0.8
保証値×0.9
Idp**
Id(DC)×0.8 (Tch 計算時 0.9 まで)
Id(Pulse)×0.9
IdM
Id(Pulse)×0.8
Id(Pulse)×0.9
Tch
Tch(max)×0.8
Tch(max)×0.9
Vdss
表 10.1.1 MOS・FET のディレーティング基準
Id(DC) :連続定格
*
Id(Pulse):非連続定格
Vg 耐圧は正負共に測定すること。最近の MOSFET は正負で耐圧が異なる場合がある
**アバランシェ能力を使用する場合は定常、過渡時共に Idp<(Iar×0.8)
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10 章 基幹部品と使用基準
10.2.1 アバランシェ(Ear)
MOS・FET にはアバランシェと言う特殊な保証項目があり、パワー・ツェナーと同様に瞬間的なサージエネ
ルギを MOS・FET が吸収できる。保証メカニズムの背景は、MOS・FET が多数セル構造を採っている事、寄生
Tr の B-E 間が低抵抗で短絡されて寄生 Tr が耐圧オーバー時でも VCBR 動作できる点にある。
図 10.2.1(a)に MOS・FET の部分断面
図を示すが、ソース電極周辺で NPN の
寄生 Tr ができていることが分かる。しか
し、この寄生 Tr はソース電極で B-E 間
が低抵抗の Rbe(P 層拡散抵抗)で短絡
(a) FET 断面図
されていて、基本的な動作は VCBR (≒
(b) 寄生 Tr 詳細図
図 10.2.1 MOSFET の Ear 説明図
VCBS )動作になっている。
ここでゲート OFF のまま、VCB 耐圧を超える電圧をドレイン∼ソース間に加えると、寄生 Tr の C-B 間はブレ
ークダウンするが、B-E 間は略短絡されているので Tr としては動作せず、単なる P-N 接合のブレークダウン
となる。ここで電流値が規制されていればこれらの損失は熱としてのみ評価すれば良く、耐圧オーバーによ
るストレス(ダメージ)は残らない。
これがアバランシェ耐量(Ear)と呼ばれる保証耐量で、その保証を実現するためには、B-E 間がー2mV/℃
の温度特性を持つこと、B-E 間抵抗 Rbe が正の温度特性を持つ事を考慮する必要がある。
従って、寄生 Tr は高温で ON し易くなり、(電流×Rbe)がスレッシュ電圧を超えると寄生 Tr が ON する。
この場合の耐圧は VCE 耐圧となって VCB 耐圧より下がるので電流集中が発生し、MOS・FET は一瞬で破壊し
てしまう。従って、次の各項目全てがメーカ保証されると同時にディレーティングが必要になる。
①電流密度
(電流×Rbe)
②チャネル温度
(Vbe と Rbe の温度特性)
③アバランシェエネルギー (ブレーク中の TchMAX)
又、アバランシェ耐量には非繰り返し耐量としての Eas もあるが、これは静電気耐量ぐらいにしか役に立た
ない。繰り返し耐量としての Ear を保証する事が重要で、そのためには MOS・FET のアバランシェ破壊電流
のインダクタンス依存性を調査してもらわなければならない。この特性を評価することで MOS・FET の設計指
針と堅牢性が分かる。
又、アバランシェブレーク中は発生電圧が定格耐圧より上昇するのでガードリング等の設計もアバランシェ
電圧に見合ったものが必要になる。
(a)アバランシェ特性 OK 例 600V8A 品
(b)アバランシェ特性 NG 例 600V11A 品
図 10.2.2 MOS・FET の L∼Iar 特性の例
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10 章 基幹部品と使用基準
アバランシェ破壊耐量のインダクタンス依存性は全てのセルが理論どおりにできていれば、
1) L 値が大きい領域では L 値の(1/3)に比例し、
2) L 値が小さい領域では L 値依存は無くなり、Iar 一定値で破壊するようになる。
その実例を図 10.2.2(a)に示す。同図(b)は保証のできない MOS・FET の例である。アバランシェ特性は
MOS・FET を構成する全てのセルが均一にできていないと保証できないため、工程のできばえ管理としても
有効で、積極的に Ear を使うか否かに関係なく保証を要求すべき特性である。
一方、アバランシェ耐量は破壊耐量であるので抜き取り試験では保証にならず、全数試験が前提になる。
試験においても探針の接触不良を検出するために試験電流波形の全数モニタが必要で、探針の接触不良
検出には 2 接点型の探針を用いて試験を行うのもよい。探針が OPEN している場合はサージが印加がされ
ないので破壊せず試験に合格してしまうが、1 組の接点で接触をチェックし、導通がある場合のみ残りの接
点で試験を続行することで電流波形モニタと併せてサージ印加ミスを防ぐことができる。
その外にもアバランシェ能力を保証するのに必要な管理項目は多数あり、実績のある FET メーカーを選択
することも対策になる。
アバランシェ特性を無視してセル特性を Ron に振れば耐圧ディレーティングを 80%にしなければならず、結
果的にスナバー損失が大きくなる。従って、このような MOS・FET はスパイク電圧の発生しない回路において
しか用いることはできない。このように FET の選択基準はアバランシェを積極的に使用するか、否かで異な
ったものになる。
10.2.2 Vgs 駆動波形
SW 電源回路に使用する MOS・FET のゲート駆動波形は設計合否を判断しなければならないものの一つで
ある。
(a)MOS・FET 等価回路
(b)ゲート異常振動
(c)異常の前兆
(d)Rg 大
図 10.2.3 ゲート異常振動波形
図 10.2.3(a)の回路の浮遊インダクタンスが MOS・FET 自身が持っている寄生容量と共振し、ソース電極の
配線のインダクタンスによってゲートに帰還される。本来なら負帰還となるはずであるが、この共振周波数
が MOS・FET の動作周波数の上限に近いと位相回転を余分に生じるため、同図(b)のように正帰還となって
自己発振するのである。
その前兆現象として同図(c)に示すように異常な振動を生じることがある。対策としては同図(d)のようにゲ
ート波形の Vth 移行時間として 50∼100nS(FET の Id のtf時間)程度の段つきが起きるようにゲート駆動抵
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10 章 基幹部品と使用基準
抗を設定し、MOSFET の応答周波数を下げるとよい。この異常振動はターンオン、ターンオフ時の両方をチェ
ックし、振動波形は 0.5 サイクル程度に留めておかないと量産バラツキによって同図(b)のような振動を起こ
して MOS・FET が焼損する事故になる。(ノイズと間違えないこと)
この現象は特にゲートを共通にしたパラレル駆動のケースで起こり易い。一つの素子のスイッチノイズがま
だアクティブ動作中の他の MOS・FET を振動・成長させるのである。
又、複数の MOS・FET を駆動するためにドライバ段を追加する場合があるが、IC∼ドライバ∼MOS・FET の
ループが長いとドライバ段と組み合わせただけで MOS・FET が発振する場合がある。
これは制御 IC∼ドライバ段∼
MOSFET への信号伝達ループの寄
生インダクタンスが MOS・FET の Ciss
と共振するのである。
図 10.2.4 に配線長が 100 ㎜×25
㎜の"コの字"状の場合を想定した例
を示すが、ドライバ段の出力に容量
(a)ドライバ回路図
を接続しただけで発振している。
(b)ドライバ段出力波形
図 10.2.4 ドライバ段の発振
このループ長はヒートシンクに取り
付けられた MOS・FET を想定したものであるがそれほど突飛な想定ではない。対策として、同図の Rg=4.7Ω
の場合ドライブ抵抗(Rb)を 33Ω以上に大きくする必要がある。
これらの現象とは別に、スイッチング動作を行うと、MOS・FET の様々な
寄生容量を通じてゲートには寄生振動以外にも想定外の振動が誘起さ
れて、図 10.2.5 に示すように制御 IC から電流を引き抜くことがある。
例えば、MOS・FET のターンオフの為、IC の出力パルスが 0V になると、
MOS・FET のドレインは高電位に切り替わる。しかし、実際には各寄生の
LC 成分によってドレイン電圧は高周波のリンギングを生じ、この振動が
ゲート∼ドレイン間容量(Crss)を通じてゲートに現れる。この誘起電圧は
振動しているので、本来ゲートを 0V に保持する為に IC はゲートから電流
を吸い込まなければならないにも拘らず、振動電流が IC から電流を引き
抜くのである。この時に IC 内部の寄生 Tr が動作すると、制御 IC が誤動
図 10.2.5 ゲートの異常振動
作し、L レベルの筈が H レベルになったり振動したりする。
対策としては図 10.2.5 のように保護ダイオードをゲート∼ソース間に接続すればよい。
その他:電源 OFF 時には完全に回路が停止するまで MOS・FET を駆動できるゲート電圧を与えること。
10.2.3 MOSFET の並列接続
大型の電源になると 1 石の FET では電流能力が不足する場合がある。この場合には MOSFET を 2 石以上
並列に接続して使用することがあるが、並列接続には固有の注意点がある。
1)回路の空間的、物理的バランスをとる 図 10.2.6 に並列接続した FET の寄生因子を加味した等価回路
を示す。
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11 章 商品力を高める五つのポイント
11 章 商品力を高める五つのポイント
11.1 制御技術
11.1.1 DC-DC コンバータの制御と PID 制御の問題点
最近の技術動向として DC-DC コンバータの高周波化があり、この動きに対応して部品レベルでも高周波イ
ンピーダンスの低いセラミックコンデンサや機能性高分子コンデンサが用いられる傾向にある。
これらのコンデンサの特徴として ESR や ESL が低く、負帰還を掛けた場合、高域で充分な信号レベルで帰
還が行われないことがある。つまり、安定して負帰還を掛けることができなくなってきている。
この対策として、高域でも充分な信号を帰還できる様に PID 制御が用いられるケースが増えてきた。
P:Proportion
比例制御
通常の抵抗による負帰還制御(R2,R3)
I:Integral
積分制御
遅れ要素による負帰還制御(R6,C2)
D:Differential
微分制御
進み要素による負帰還制御(R1,C1)
これらの例を図 11.1.1(a)に示す。
遅れ要素
進み要素
(a)PID 制御と問題点
(b)対策回路
図 11.1.1 PID 制御と問題点・対策
遅れ要素は極めて一般的な制御要素であり、特に説明はしない。
問題になるのは図 11.1.1(a)に示す、D 制御(=R1,C1 の進み要素)である。この要素の働きは高域でインピ
ーダンスを下げることでリップル成分を多量に帰還させ、負帰還ループの安定性を改善することにある。
しかし、この要素をつけた場合、電源 Off や負荷短絡時に C1 の電荷が図の赤線のループで放電されると
R3 に逆電圧が発生する。
つまり、IC1 に-0.7V を超える電圧が印加される場合に、異常電流が IC1 から引き出され、IC1 内の寄生 TR
やサイリスタが動作してダメージが残り信頼性が低下することになる。
通常、電源は短絡や起動/停止でダメージが残らないように設計するのでこのままでは製品として満足しな
いことになる。
できれば進み要素は採用せずに設計したいが、要求使用によってはどうしても採用しなければならないケ
ースもある。その場合は同図(b)に示すように R5 と D1 を採用することを勧める。D1 には漏れ電流の少ない
シリコンダイオードを用い、D1 に発生する逆電圧(-0.7V)を R3,R5 で分圧する。上手く定数を決定することが
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11 章 商品力を高める五つのポイント
できれば、例えば 1:1 で分圧すれば最大でも-0.35V となるので IC1 からの電流流出はなくなる。なお、R2 は
R5,D1 の節点に接続しても良い
11.1.2 TL431 の注意点
TL431 に代表されるシャントレギュレータは利得を持つ
増幅器を内蔵しているため、普通の増幅器と同様に
最低動作電流(Imin) が存在する。
図 11.1.2 では Imin は約 400μA 程度になっているが、
この値は標準値であり、保証値は 1mA の場合が多いの
で注意が必要になる。
図 11.1.3 TL431 使用回路例
図 11.1.2 TL431 消費電流特性
カソード電流が Imin 以下では基準電圧が確立していな
いので、電流がフォトカプラの発光ダイオードに流れた場
図 11.1.4 垂下特性と R2
合、基準電圧が不完全のまま制御が開始され、出力電圧は安定化できない。
対策として、Imin が流れても発光ダイオードの Vf を超えないシャント抵抗 R2 を発光ダイオードの両端に設
ける。(図 11.1.3)
R2 の値としては
R2=Vf/1mA=680Ω
程度を設けると良い。この場合、発光ダイオードが消えかける=最大出力時近辺でも電圧は安定化され、
いわゆる尖った"フ"の字型の垂下特性を示す。(図 11.1.4)
.
しかし、逆に言うと、出力電圧の立ち上がり時は規定電圧まで立ち上がらないと制御が始まらないのでオ
.............
ーバーシュートが出易くなる ので確認が必要になる。
・異常発振の問題
TL431 は増幅器を内蔵しているので図 11.1.5 に示すように負荷容量の大きさによって異常発振を起こすこ
とがある。
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11 章 商品力を高める五つのポイント
図 11.1.5 TL431 の回路構成と負荷容量範囲 (参考資料:TI 社 JAJS443)
この様子は使用条件によって様々に変化し、その一例が図 11.1.5 のようにメーカーから提示されている。
負荷容量を大きくすれば異常発振は防止できるが、電流制限抵抗(150Ω)と時定数を構成するので応答遅
れ時間を生じる。
SW 電源では雑音は問題無いので通常は図 11.1.3 の様に負荷容量を設けないが、オーバーシュート対策
として安易的に容量で基準電圧の立ち上がりを鈍らせるとこのような構成になるので注意が必要である。
11.1.3 誤差増幅器の利得
負帰還を SW 電源に施す場合、誤差増幅器にはどの程度の電圧利得が要求されるのか?
条件が決まっていないと定量的な計算ができないので制御の前提条件として次のことを仮定する。
基準電圧 Vref:2.5V
制御 IC の発振振幅 Vtpp:5V
まず、負荷変動、入力変動、等の外乱に対する出力電圧の総合変動を 1%と仮定した場合、誤差増幅器の
入力端子にはΔVin として 25mV の変動が加えられる。
一方、制御 IC はこのΔVin を受けて、制御信号を三角波の全振幅まで増幅できれば制御利得として充分
である。(実際は更にδ→Vo 変換利得分だけ減らしてもよい)
即ち、利得 G としては
G=Vtpp/ΔVin=5V/25mV=200(倍)=46dB
…11.1.1 式
となり、以外に低い利得で充分であることが分かるが、このような低利得は一般の OP-AMP 構成では実現
できず、IC では回路構成に工夫が求められる。
又、負帰還を施す場合の結線であるが、通常は図 11.1.6(a)のように、誤差増幅器の出力信号を入力端
子へ帰還させる型を採ることが多い。しかし、これでは誤差増幅器のバランス条件に達するまで誤差増幅器
は振り切ったままであるので時定数の分だけ遅れ時間を生じ、オーバーシュートが発生する。
誤差増幅器の出力部の型式には一般的な電圧出力型のほかに同図(b)の電流出力型があり、この場合
は負荷抵抗に電流を流して電圧に変換している。(トランスコンダクタ型 AMP)
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A 回路設計の補足
流 Io が流れると、電圧降下を生じて RL に加わる実際の電圧 Vo'は設定値 Vo とズレることになる。
この対策として、SW 電源の検出抵抗
R3,R4 から検出線(+SENSE,-SENSE)を引き
出して RL に接続する。この構成をリモートセ
ンシングという。
・注意点
1)検出線が切られた場合、SW 電源は無制
御になってしまうので保護抵抗 R5,R6 を設
ける。
抵抗値は Rw1,Rw2 より充分大きく、R3,R4
よりは充分に小さい値にする。
2)検出線を同図の赤線に示すように負荷線
と近いところに設置すると負荷線から磁束
図 A3.1 リモートセンシング使用例
誘導でノイズが混入し制御精度が落ちる。
3)対策として同図の青線に示すように検出線をツイストし、ノイズ誘導をキャンセルするようにする。
4)図 A3.1 の検出線(赤色部分)は SW 電源の±SENSE 端子の短絡試験で大電流が流れるので電源側で要
求沿面距離を確保する。
5)SW 電源内部でも±SENSE 端子より内側が短絡試験の対象にならないように要求距離を確保する。ある
いは短絡されても異常電流が流れないように保護抵抗を挿入する。
6)制御ループの中に抵抗やインダクタンス成分が追加されるので制御の安定性が悪化する場合がある。
A4 フォト(オプト)カプラ
A4.1 安全規格
フォトカプラは 1 次∼2 次間で信号を伝達する部品で、当然、安全規格の認定品である。
(未認定のものは絶縁要求のない箇所にしか使用できない)
該当安全規格は各国に独自で定められており主な規格名を表 A4.1 に示す
UL
UL1577 Single/Double Protection
CSA
BSI
BS EN60065+IEC60065,
BS EN60950+IEC60950
EN 60065,
EN 60950-1,
IEC 60065,
IEC 60950-1
GB8898-2011
(IEC 60065:2001+A1:2005)
GB4943.1-2011
(IEC 60950:2005)
VDE 0884-5
SEMKO
CQC
(中国)
NEMKO
DEMKO
FIMKO
CAN/CSA-C22.2 60950-1/IEC 60950-1,
CA5A,
CAN/CSA 60065/CAN/CSA-C22.2 60065/IEC60065,
CSA-C22.2
DIN EN 60747-5-5
EN 60065,
EN 60950-1
表 A4.1 フォトカプラ安全規格番号
欧州向けの VDE 認定品は要求内容が異なり、部品生産ラインでの検査内容も異なるので特別品番で管理
されることが多い。又、カタログ品番と安全規格認定時の申請品番が異なっていたりするので詳細はメーカ
ーに確認する必要がある。又、認定に関しては認可証に温度上限が定められているので内容を確認する。
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A 回路設計の補足
A4.2 寿命
寿命に関しては発光 LED が AlGaAs や GaAs なので発光強度の低下があり、図 A4.1 のルネサスの資料に
基づけば、同図(a)から Ta=60℃で 10 万 Hr で CTR は△20%程であるが、同図(b)から周囲温度と発光電流
IF に依存性があり、発光側の劣化が寿命を左右すると推定できる。
CTR の劣化曲線
(b) 寿命の IF 依存性 (CTR△50%)
図 A4.1 フォトカプラの寿命例
*:フォトカプラは Ta=80℃、IF=5mA で連続使用した場合、20 万 Hr 程度で半減する(予測)。
A4.3 内部構造
ルネサスの資料を基にその内部構造を図 A4.2 に、用語
とその内容を表 A4.2 に示す。
No. / 名称
意味
1. 外部沿面 パッケージ表面(図中緑色)に沿った、発光側端子と受光
距離
側端子との間の最短距離。
2. 内部沿面 内部樹脂および外部樹脂の境界面(図中青色)に沿った、
距離
発光側端子と受光側端子との間の最短距離。
3. 絶縁物厚 樹脂で絶縁された発光側と受光側との間の最短距離。
樹脂外部の空間で、発光側端子と受光側端子との間が最
4. 空間距離 短となる距離。端子形状により、外部沿面距離と等しくなる
場合もある。
表 A4.2 フォトカプラの用語と意味
IEC60950 系の距離要求であれば絶縁物として 0.4 ㎜以
図 A4.2 フォトカプラの内部構造
上の厚みが要求され、フォトカプラにも対応したものが必要になる。認可品ならどれでも良いというわけには
いかないのである。
(J60950 の "2.10.5.1 絶縁物を通しての最小距離" 要求事項)
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B 電子部品の使い方
B 電子部品の使い方
一般に受動部品は壊れないというイメージがあるがこれは誤りである。故障率というランダムな故障発生
確率もあるし、誤った使い方もある。定格も多方面にわたり、1 つの項目のディレーティングを満たせばよい
というものではなく、全ての項目についてディレーテングの必要性の有無を判断しなければならない。
又、部品の共通特性・注意点は個別のカタログに記載されていない場合があり、共通カタログや技術資料
の入手が必要になる。部品を知らなければ使いこなすことは難しくなってきているのである。
B1 抵抗器の使用上の注意点
1.温度低減曲線
抵抗体を取り付けるプリント基板の UL 認定耐熱温度(100℃前後)/半田フィレット温度制限(85℃)か
ら、抵抗器周囲温度 50℃で、フィレット部 35K 以下の温度上昇に抑えるように熱設計を行う。
2.最高使用電圧
3.過負荷電圧
構造や材料で決まる制限電圧、および電力から決まる制限電圧から最高使用電圧が決まっています
電力が短時間定格を超えても抵抗体の温度が上限を超えなければ抵抗体にダメージは残りません。
このための計算式はカタログに記載されています。
短時間過負荷電圧は時間さえ短ければいくらでも高く設定する事が可能ですが、実際には構造に起
因する要因で最高パルス使用電圧が制限される。
サージ電圧は劣化していく項目であるのでディレーテングは 60%以下に抑える。
リード型抵抗器
チップ型抵抗器
抵抗体がスパイラル状にカット
抵抗体中央部に「L 字」にトリミングが
されているので溝の両側に電位
されています。電界集中はリード型よ
差が発生し、絶縁劣化します
り強い為、パルス電圧は炭素皮膜抵
抗器に対して低めになります。
平均電力は低いが高パルス電圧の条件で使う為には下記のようにその用途向けに作られたタイプの
ものを使う必要があります。(KOA 抵抗器カタログより抜粋編集)
一般型炭素抵抗の特性例
高サージ型抵抗の特性例
4.耐パルス電圧
(耐サージ電圧)
5.耐湿特性
6.安全規格
抵抗器本体とプリント基板との間にフラックスや、フラックスに混入した塵埃、等
が残り、湿気を含みやすくなります。湿気を帯びて導電性になると、
抵抗器∼湿気∼プリント基板絶縁抵抗を介して導電路が生成され、抵抗体が電
解腐食を起こしますので使用電圧に注意する。特に炭素皮膜抵抗器は抵抗体塗膜の種類にもよるが
100V/本の電圧が印加される場合は 100KΩ/本以下に抑える。
リード型抵抗器やチップ型抵抗器は異常時に発火します。許容されるか?の判断は安全規格の試験
所毎の判断となります。
表 B1.1 固定抵抗値の注意点一覧
B2 キャパシタの選び方
キャパシタには次のような種類があり、それぞれ特徴、用途が異なります。
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B 電子部品の使い方
フイルム
概要
*
小形化
周波数特性
温度特性
高電圧
高容量
寿命
価格容量比
×
◎
◎
◎
○
◎
×
アルミニウム
電解
積層
セラミック
脆性材料で
通称「電解コン」
ワレ易い
◎
○
×
◎
×
×
○
○
◎
○
×
◎
◎
×
表 B2.1 主要特性比較
機能性
高分子
電解液を機能性高
分子材に変えた
○
◎
○
×
○
○
○
タンタル
電解
減少方向
◎
○
○
○
○
○
○
*:フイルムキャパシタは材料によって表 B2.2 のように細分類される。
表 B2.2 フィルムキャパシタの材料別特徴比較
◎←優れる 劣る→×
PET
PP
PPS
PEN
特徴
一般用
高周波用
高耐熱
一般用
価格
◎
○
×
○
小型化
◎
△
○
◎
耐熱性
○
△
◎
◎
耐湿性
△
◎
○
△
耐溶剤性
○
○
○
○
温度特性
△
○
◎
△
低損失(低tanδ)
△
○
○
△
l.0∼25
4.0∼25
l.5∼25
1.0∼25
カテゴリ上限温度(℃)
120∼130
80∼105
130∼140
120∼140
誘電率(@1KHz、20℃)
3.2
2.2
3
2.9
厚さ(μm)
誘電正接(@1KHz、20℃)
0.003
0.0002
0.0006
18
17
17
0.004
>10
>1017
体積固有抵抗(Ωcm)
>10
吸水率(%@75%RH)
0.4
<0.01
0.05
0.3
ガラス転移点(℃)
69
0
92
121
120∼280
200∼400
180
300
AC破壊電圧(KV/mm)
>10
B2.1 フィルムキャパシタの使用上の注意事項
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