鋼構造物測定データの3D画像表示システムに関する研究

鋼構造物測定データの3D画像表示システムに関する研究
五十嵐
和博(道工大) 扇 彰宏(道工大) 吉野 巧(道工大)
佐々木 一正(道工大)米田 俊(㈱ハイデックス・和島) 青木
1. はじめに
三橋 龍一(道工大)
由直(北大工)
形率によって求められる。
鉄塔に代表される鋼構造物で、高度成長期に
本研究では、3次元画像表示に Windows 上で
大量に建設されたものは、すでに 50 年近く経過
DirectX を用いているので、構造物を自由な視
していることや、地盤沈下などの周囲の環境変
点・距離から見ることができる。
化による鉄塔自体の不規則な変化を伴った変形
データインポート
などの要因によって、鉄塔の保全管理が重要視
されている。そのため、近年になって鉄塔の安
全調査が多く行われるようになった。
現在行われている鉄塔の安全調査は、鉄塔全
各部材ごとにデータを格納
体としての判定であり、鉄塔を構成する各部材
ごとの判定ではない。また、測定したデータは
画像の表示
数値データのまま扱われ、そのデータ数も膨大
であるため、判定にかなりの時間を必要とする
部材選択
ことや、人為的ミスが発生する可能性など、現
状の抱える問題点は多い。
本研究は、今後行われる各部材ごとの安全調
選択部材の変位量計算
査において、その先駆けとなるようなシステム
の構築を目指し、3次元画像処理技術を導入し、
鋼構造物の安全性を、より分かりやすく判定で
きるようにすることを目的としている。
選択部材の変位量・
変形率・評価ランク表示
2. 処理手順
図1
処理の流れ
鉄塔の各部材の変形量を測定データファイル
から、自動的に求めなければならない。しかし、
3. 表示と判定実験
現有の測定データは、測定個所の数や、測定を
本システムの動作を実際の鉄塔を用いて説明
行う順番などが決まっておらず、長期間のデー
する。図 2 は一般的なKトラス型鉄塔の写真で
タ管理には困難があった。
ある。図 3 は測定データから本プログラムで再
本研究で開発したプログラムは図1に示すよ
構築して表示した3次元の画像である。測定デ
うな処理の流れで動作する。プログラムを起動
ータから同型の鉄塔を再構築できていることが
後、まずフラグを付けた測定データをインポー
わかり、更に画像をマウスで操作することで、
トする。その際、設計時のデータも同時にイン
3次元的な位置関係が容易に把握できることが
ポートしておく必要がある。次に、読み込まれ
確認された。
たデータに付いているフラグごとにデータを格
図 4 は 1997 年と 2002 年に測定したデータか
納し、3次元画像を表示する。表示された部材
ら鉄塔を再構築し、重ね合わせて表示したもの
を選択することで、選択部材がどのくらい変位
である。また、右側にはマウスで指示した 2 つ
したかを示す部材変位量・部材変形率・評価ラ
の鉄塔の特定の部材について、部材変形量・部
ンクなどを計算して表示する。評価ランクとは、
材変形率、および評価ランクが表示されている。
現在用いられている評価基準のことで、部材変
この機能により各部材ごとに危険度を判定する
ことが可能になり、また、従来行われている鉄
塔全体としての危険度判定と比べて、更に詳細
な調査が可能となった。
また、測定が行われている場所としては、山
岳地などの車が入ることができない地域も多く、
そういった場所での測定では、測定者にとって
もミスが許されないという精神的プレッシャー
が多い。現地で測定データから再構築画像を確
認することで、測定時における測定・記録の単
純なミスを現場で即座に確認することができ、
測定者の心的不安を軽減することが期待できる。
4. まとめ
図2
本研究では、
「測定結果をそのまま3次元に再
Kトラス型鉄塔の写真
構築して対象を表示する」という、単純ではあ
るが従来ではなかった新たなテーマに挑み、実
際に測定を行っている専門家の方々からも、良
い評価をいただくことができた。
今回の実験により、従来までの「鉄塔全体」
という大きな対象ではなく「各部材」という最
小単位での評価が可能となった。更に、今回は
鉄塔に対しての評価を行ったが、鉄塔に限らず、
橋や電波塔などのその他の鋼構造物に対しても
応用でき、評価が可能になると考えられる。
今後の課題は、構造物の応力計算などの機能
を取り入れ、構造物の経年変化などのシミュレ
ーションを可能とし、将来必要となるであろう
図3
修復する部材などを求めるための機能を追加し、
再構築した画像
構造物の修復に対して最小限の修復費用で十分
な安全確保を行うための判定を行うことである。
また、ユビコンチップの鋼構造物への取り付け
によるデータ管理や、無線鉄塔で必要とされる
信号ケーブルの経路を求めることなどへの応用
も検討する。
謝辞
本研究の一部は、平成14年度文科省「札
幌ITカロッツェリアの創成」研究費により行
われた。ここに謝意を表する。
参考文献
[1]清水亮著: Direct3D プログラミングガイド
ブック 、SHOEISHA
図4
1997 年と 2002 年の測定結果の比較