第 1 回生物学の知見に基づいた高度情報技術の確立に関する 国際ワークショップ(略称:Bio-ADIT2004)の報告 西尾 章治郎 大阪大学大学院情報科学研究科 〒 565–0871 吹田市山田丘 1–5 [email protected] 1 はじめに 2 開催地決定に至る経緯 我が国は,特に最近,自国の文化・芸術や卓越 第 3 回の大阪大学フォーラムを本 COE プログ した研究者達による優れた研究成果を海外に広く ラムが中心となって情報科学技術分野で開催する 発信し,国際的な競争力を強化する事業を強力に ことが決定したのを受けて,研究協力部国際交流 進めている.このような事業の一環として,大阪 課の所掌のもとで阪大フォーラム実行委員会を設 大学は,学内の卓越した研究成果を海外の同分野 置し,その第 1 回の会合を 2003 年 3 月 18 日に開 の研究拠点で公開する大阪大学フォーラムを開催 催した. している.2001 年(平成 13 年)度に第 1 回の大阪 第一の懸案事項は,開催場所の選定であったが, 大学フォーラムを米国の国立保健研究所 (NIH) で ヨーロッパに絞り込み最終選定に取りかかった.特 開催した.このフォーラムでは,特に,大阪大学 に,ヨーロッパを対象としたのは,2003 年 3 月 10 のライフサイエンスの研究活動を紹介することに 日,11 日の両日に開催した本 COE プログラムの 焦点を当てた.第 2 回は,ナノサイエンス,ナノ 第 1 回のシンポジウムにおいて招聘したヨーロッ テクノロジー分野を対象として 2002 年(平成 14 パからの 2 名の研究者達から,研究活動の動向を 年)度にドイツで開催した.一方,2003(平成 15 収集するなかで,開催地としてヨーロッパが適当 年)年度の第 3 回目のフォーラムは,対象を情報 と判断したためである. 科学技術分野にすることが 2002 年度の初期段階 さらに,西尾がスイス連邦工科大学ローザンヌ で決定され,開催に向けての準備が開始された. 校 (EPFL) の Stefano Spaccapietra 教授とデータ この 2003 年(平成 15 年)度のフォーラムは, ベース関係の研究で旧知の仲であったため,Spac- スイス連邦工科大学ローザンヌ校 (EPFL) で 2004 capietra 教授に具体的な開催地について相談した. 年 1 月 29,30 日に開催された.世界的な新たな潮 その結果,今回のフォーラムの研究テーマに関連 流として,生物界における細胞や生物個体の多様 して,EPFL の中で Daniel Mange 教授をリーダー な挙動を解析し,その知見を基盤技術として導入 とする Logic Systems Laboratory が活発に研究活 することで情報技術の飛躍的な展開を期す試みが, 動を展開していることが明らかになった.また,基 本 COE プログラム以外にも開始されている.そ 礎工学研究科をはじめとする大阪大学の複数の研 こで,本 COE プログラムは,このフォーラムを 究科が EPFL と部局間の交流協定を締結している 「第 1 回生物学の知見に基づいた高度情報技術の確 ことも明らかになった.以上のような朗報をもと 立に関する国際ワークショップ(略称:Bio-ADIT に,最終的に,スイス連邦共和国ローザンヌ市で 2004)」と題して,この分野では世界最初のワーク EPFL を拠点として,第 3 回大阪大学フォーラム ショップとして開催した.以下,Bio-ADIT 2004 を開催することを決定した. の開催に関する報告を行う. なお,Bio-ADIT 2004 を実現するにあたり,次 の三つのスポンサーから資金的なサポートを得る ことができた. • 大阪大学フォーラム の部局間学術交流協定を大学間学術交流協定に昇 格させる可能性についても協議した. • スイス連邦工科大学ローザンヌ校 その後,Mange 教授が担当する Logic Systems Laboratory において,EPFL 側の実行委員のメン バーとともに,Bio-ADIT 2004 の日程,セッショ • 文部科学省 21 世紀 COE プログラム「ネット ワーク共生環境を築く情報技術の創出」 ン構成の概要,予算の問題などの重要事項につい 3 て協議した. 組織体制 また,EPFL 内の会議施設を視察し,収容人員, 木造建築の斬新なデザインなどを考慮して,Bio- 2003 年 4 月に開催地が決定したことを受けて, ADIT 2004 は,EPFL の名物建築である「ポリ ドーム」で開催することを決定した.この建物は, 木造建築としては技術の粋を凝らした画期的な建 EPFL 側からは Daniel Mange 教授と Auke Jan Ijspeert 博士が,大阪大学側からは本 COE プログ ラムの事業推進担当者である村田 正幸教授と西尾 物であり,Bio-ADIT 2004 の期間中,発表や討議 が中心となって,正式な会議名,会議実現のため に,和やかでアットホームな雰囲気を提供してく の組織体制等の協議を開始した. れるものと確信した. まず,会議名を「第 1 回生物学の知見に基づい さらに,市内を散策し,会議参加者の宿泊に便 た高度情報技術の確立に関する国際ワークショッ 利なホテルなどの検討も行った. プ(略称:Bio-ADIT 2004)」とし,会議委員長 を Mange 教授と西尾が共同で務め,また,プログ 5 ラム委員長を Ijspeert 博士と村田教授が共同で務 めることを決定した.Ijspeert 博士と村田教授は, 即刻,プログラム委員会の構成に着手し,論文募 プログラムの決定 プログラムに関して,特に,基調講演を依頼す 集 (Call for Papers) の作成に取りかかった. る招待講演者の決定は重要事項であり,プログラ 会議開催に係る広報,出版,会計等の具体的な職 ム委員長の村田教授を中心として人選が進められ 務については,大阪大学サイドは先に設置した阪 た.幸いにも Bio-ADIT 2004 のテーマに合致し, 大フォーラム実行委員会のメンバーが中心となり, しかも最近世界的にも注目されている研究成果を また,EPFL からは Mange 教授が担当する Logic 挙げている Albert-La’szlo’ Baraba’si 教授と Hans Systems Laboratory の構成メンバーが中心となっ V. Westerhoff 教授の 2 名を,それぞれ米国とオラ ンダから招聘することができた. て担当することに決定し,それらのメンバーによ る Bio-ADIT 2004 の実行委員会を構成した. 2003 年 9 月 5 日を論文締切日と定め,論文募集 最終的に構成された実行委員会,プログラム委 を行ったのに対して,当初の我々の予想を大幅に 員会,論文募集については,添付の資料を参照い 超える論文が投稿された.具体的には,25ヶ国か ただきたい. ら 85 編の論文が投稿され,Bio-ADIT 2004 が国 際的にいかに認知された会議であるかを示すこと 4 ができた. 現地訪問 委員長の Ijspeert 博士と村田教授をはじめとす Bio-ADIT 2004 の論文募集などが順調に進むな かで,会議会場の最終決定を含め,現地における るプログラム委員会のメンバーによる公正な論文 準備をより具体的に進めるために,西尾,村田教 のポスター発表の計 37 編が採択された.口頭発表 授,大阪大学事務関係 3 名の計 5 名が,2003 年 7 に採択された論文は全体の 20 %台であり,非常に 月 23 日,24 日の両日ローザンヌ市を訪問した. レベルの高い国際会議にすることができた. 審査によって,最終的に 24 編の口頭発表,13 編 まず,EPFL を訪問し,Marcel Jufer 副学長を なお,本 COE プログラムの研究成果論文が,上 始めとする EPFL の教官主催の歓迎ミーティング 記の採択論文の 25 %を占めることができた.この に臨んだ.この会合を通じて,EPFL と大阪大学 ことは,我々が COE プログラムで行っている研 2 7 究のレベルの高さの証左であり,世界的な研究拠 会議録の出版 点が形成されていることを具体的に示していると Bio-ADIT 2004 開催当日に配布した会議録 [1] 言えよう. とは別に,世界的な販路を有する主要な出版社か プログラムは,二つの基調講演,七つのテクニ ら会議内容を刊行することは,研究成果を世界に カルセッション並びにポスターセッションにて構 公知する観点からも重要である.今回,Bio-ADIT 成され,情報技術分野におけるソフトウェアシス 2004 の企画の開始と同時に,世界的に定評のある Springer-Verlag 社からの出版の可能性を探った. テム,ネットワーク,ロボット,イメージ処理等の 重要分野において,生物学の知見に基づいたアプ 特に,Springer-Verlag 社のコンピュータサイエン ローチに関する最新の動向を一望することを主眼 ス分野のレクチャーノートシリーズ (LNCS) とし として構成された. て刊行する可能性を,本シリーズに深く関与され 詳細なプログラムは,添付の資料を参照いただ ている東京大学 米澤明憲教授のサポートも得て, きたい. 西尾が打診した.その結果,Springer-Verlag 社の 担当者も Bio-ADIT 2004 の内容に非常に興味をも 6 ち,出版が実現されることになった. Bio-ADIT 2004 の開催 さらに,Bio-ADIT 2004 の発表論文を最終的に プログラム委員長,出版委員長が中心となり編集 2004 年 1 月 29 日,30 日の Bio-ADIT 2004 の 開催当日,会場には世界 19ヵ国から研究者・学生 し,Springer-Verlag 社の査読を受けた結果,内容 など約 170 名の参加者が詰めかけた.大阪大学か 拓するに相応しいものという評価を得て,The Hot 的に非常にホットで,今後の新たな学問領域を開 らは,宮原秀夫総長をはじめ,実行委員会のメン Topic Issue のシリーズの 1 巻として刊行されるこ バー,論文発表者,本 COE プログラム関係者,事 とが決定した. 務局長をはじめとする事務部関係者など関係者が 多数参加した. 8 会議は,EPFL の Patrick Aebischer 学長の歓迎 の挨拶から始まり,この分野の今後の研究開発動 大学間学術交流協定の締結 向に関する興味深い二つの基調講演に移り,それ EPFL と大阪大学が一体となった協力関係のも とで Bio-ADIT 2004 を開催できたことは,非常に から七つのテクニカルセッション並びにポスター 意義があり,これを契機として両大学間学術交流 セッションへと進行していった.各発表に対して, 協定の締結が実現することになった.その締結調 熱のこもった活発な意見交換が行われ大変盛況で 印式が,Bio-ADIT 2004 の前日,レセプションも あった. 兼ねて,ローザンヌ市内中心部にある Hotel Beau- また,Bio-ADIT 2004 の様子は,インターネッ Rivage Palace で開催された.大阪大学側から宮原 トでも同時に中継され,全世界の 313 名の方々から 秀夫総長御夫妻をはじめ関係者が参加し,EPFL アクセスがあった.参加者からは,本ワークショッ からは,Patrick Aebischer 学長,Marcel Jufer 副 プが,新たな視点によるタイムリーなものとして 学長をはじめ大学執行部が多数参加して,和やか 今後の学術の進展に大きく貢献できるものとして な雰囲気のもとで進められた.特に,中村 雄二 在 高い評価を得た. スイス日本国大使館 特命全権大使 御夫妻がベル ンから来られ,この両大学の大学間学術交流協定 なお,Bio-ADIT 2004 の晩餐会が,会議初日の を祝していただいた. 1 月 29 日の夕刻から,ローザンヌ市の高台にある LE CHALET SUISSE で開催され,お互いの親交 9 を大いに深めた.特に,遠藤 茂 在ジュネーブ国 際機関日本政府代表部大使(兼)在ジュネーブ総 領事にもご参加いただき,Bio-ADIT 2004 の成功 おわりに 第 3 回大阪大学フォーラムとして本 COE プロ グラムに関連するワークショップ Bio-ADIT 2004 を祝うメッセージを頂戴した. 3 を開催する機会が得られたことは,本 COE プロ グラムを世界的な視野で推進していく上で非常に 重要かつ有意義であった.実際,Bio-ADIT 2004 を成功裏に終了できたことは,本 COE プログラ ムで推進している研究が世界的に注目され,重要 視されている研究テーマを探求していることを裏 付けている.更には,当該分野を開拓し世界的に 認知させ,新たな領域の確立に大きく貢献するこ とができたと考えている. また,EPFL との共同作業によるワークショッ プの開催は,両大学の親交を深める上でも非常に 貴重な機会であった.それが契機となって,両大 学間の学術交流協定が締結されたことは,望外の 喜びである. なお,今回の Bio-ADIT 2004 の成功をもとに, 2 年後の 2006 年度中に次回の Bio-ADIT を開催す る予定であることを申し添えて,報告を終えるこ とにする. 謝辞 この Bio-ADIT 2004 を実現に漕ぎ着けた プログラム委員会の皆様,両大学の実行委員会の 皆様と事務局の皆様の多大のご尽力に,深甚の感 謝の意を表します. 参考文献 [1] Proceedings of International Workshop on Biologically Inspired Approaches to Advanced Information Technology (Bio-ADIT) (Jan. 2003). 4
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