8.花専門チェーン店の仕掛けづく

………………………………………………………………………
8.花専門チェーン店の仕掛けづくり
ここでは、花業界で全国的に活躍している花専門チェーン店 TOP5 の中から
いくつかの企業をピックアップし、特徴あるユニークなマーケティング、そし
てフラワーバレンタインの例のように男性顧客を増加させていくために仕掛け
ている取り組みについて、紹介していく。
※※途中、その企業を調査していて感じた「花に対する想い」について、
“私的
なインスピレーーーション。この企業の花に対する想い度”として評価してい
るが、これはあくまで私の個人的な観点から感じた結果であり、数値的なデー
タなどは存在しないので、予めご了承ください。
①日比谷花壇(全国展開系)
店舗数 190 店舗
売上高
196 億円(2012)
企業概要
創業 1872 年(明治 5 年)
本社所在地
〒106-8587 東京都港区南麻布 1-6-30
会社設立 1950 年(昭和 25 年 12 月 6 日)
資本金 1 億円
代表者 宮島浩彰
1,569 名(2012 年 12 月)
※一部関連会社出向者含む
本店 日比谷公園店
海外活動拠点 上海
従業員数
ブランドコンセプト
HIBIYA KADAN
長い歴史に培われたデザインをバック
ボーンにしつつも、今の時代性に
日比谷公園店
マッチする、ハイクオリティな付加価値をお届けする商品群ブランド。
鉢物では希少性の高い逸品もご用意し、他では得られない感動を演出。
HK+MODE
“花がモードになった”
・・・・従来のデザインスタイルにとらわれずに、
花を使った造形美を求めるデザインブランド。価値観をしっかりと確立
し、さらに積極的に新しいスタイルを取り込みたいと思うアクティブな
方々へ。
HIBIYA-KADAN STYLE
花そのもののナチュラルな優しさ、美しさを大切にしつつ、より新しい
洗練されたデザインでギフトのストーリーを描く商品群ブランド。
どんな方に贈られてもきっと喜んでもらえる商品でいっぱい。
VerryMerry
生活の中にふんだんに遊び心を取り入れている若者世代がターゲット。
自分用も含めて日常的で普段着感覚の商品群ブランド。価格帯も低めに
設定し、気軽にチョイスしていただけるよう企画されている。
事業内容
企業理念「花とみどりを通じて真に豊かな社会作りに貢献する」
人生のキーイベントにおいて、第一想起される会社へ。
花は人生のキーイベントに欠かせないもの。同社では「LTA
(Lifetime Associate)」
をテーマに、お客様の人生を幅広い事業でトータルにサポートする体制づくり
を進めている。ブライダルや E コマースをはじめ、近年注力しているのは葬儀
事業。ご要望に応じた花祭壇や楽器生演奏といった新しいセレモニーの提案や、
セレモニーができるホテル紹介・予約受付サイト運営などで、葬儀事業の売上
は前年の 3 倍に伸びている。また、お客様宅に訪問してご家族の大切な記念日
や快適空間づくりのお手伝いをする新規事業も開始。
・EC におけるフラワーサービス事業
・ダイレクトマーケティング事業
・フラワーショップの経営(全国約 180 店舗)
・フラワーギフト・フラワーデザインの企画、制作、販売。
・フューネラル事業
・各種スペースデザイン、ディスプレイの企画、設計、施工。
・各種屋内緑化の企画、設計、施工。
・フラワーデザインスクールの経営。
・生花卸販売ならびに関連商品の輸入販売。
※上記事業内容には一部関連会社の事業を含む。
✿ユニークポイント
<業界の象徴的店である高級店>
日比谷花壇のルーツは、東京葛飾区で庭園業を
開始した明治 5 年にさかのぼる。一号店は帝国ホ
テル店(1944 年~)で、パーティー会場向け装花
スタイルを確立し、ブライダルブーケを初めて日
本に紹介するなど、フラワーデザイン事業の先駆
けとして、日本の「花業界」を牽引していた。
日比谷花壇ブランドがスタートしたのは 1950 年。
当時の都知事から「戦後東京の復興計画の一環と
して、市民の憩いの場である公園に、海外の例を
習ってフラワーショップを」と要請されて、日比谷公園店を出店し、同年、社
名を日比谷花壇とした。
前述にもある通り、結婚式披露宴のクライマックスで繰り広げ
られる感動の花束贈呈シーンは、今ではすっかりおなじみだが、
これは、1940 年代に同社が発案したものである。同社の企業活
動のキーワードは「感動の演出」。花を中心とする「場」、
「情景」
の演出を提案していくこと、付加価値を提供することが、同社の
モットーであり、他社との差別化ポイントである。
花の周辺にあるストーリーづくり、オケージョンづくりにより、
花を贈ること、花を買うきっかけとなるプロモーションをしかけていく同社。
オンラインショップでも、花とワイン、花とスイーツ、ディナークルーズと花
のセット販売、エステと花を組み合わせたギフト商品など、誕生日や記念日、
お祝いやお礼など、様々なシーンに合わせた企画商品を充実させている。
同社は店舗業態においても、お客様のライフスタイルに即して4つの商品群
ブランドのポートフォリオへと再構築し、ブランド毎にコンセプトが際立った
店舗づくりによって、お客様が自身のスタイルに合わせた商品とサービスを選
び易くすると同時に、ショップでのお買い物がワクワク・ドキドキと楽しくな
るような取り組みを進めている。
ブランド名
イメージキーワード
HIBIYA KADAN
品格、高級感、安定、信頼、ステイタス
HK+MODE
高級感、現代性、上質、洗練、ファッション、アート
HIBIYA-KADAN
STYLE
安心、信頼、おしゃれ、ストーリー
VerryMerry
気軽、デイリー、可愛い、雑貨感覚、カジュアル
「花」、そして花を売るという仕事とは
<人と人とをつなぐメッセージ>
「花」は感動を伝え、人の心と心を結びつけることができるもの。そんな花
を単なるモノではなく、独自のフラワーデザイン技術で付加価値をつけ、贈る
方も贈られる方にも喜んでいただけるメッセージとして提供する仕事。
日比谷花壇のスタッフは、自然の造形美であるステキな花を取り扱える喜び
と誇りに満ち溢れ、創造性で新たな付加価値を与えることによってお客様がご
要望されるニーズやシーンに感動という彩りを添えることを最高の使命と考え
ている。いわば、お客様へ感動をお届けする演出家であり、その気持ちを片時
も忘れない。たとえ、作業スペースでのクリエイティブワークであっても、常
にお客様の眼前でお客様と会話を交わしながらフラワーアレンジメントやウエ
ディングブーケを作っているかのように、演出家として精魂こめて作品一つ一
つを丹念に作り上げる。これが、同社のクオリティの本質部分であり、長年の
積み重ねにより、お客様には“日比谷花壇=高品質な付加価値”というイメー
ジを定着させている。
私的インスピレーーーーション。この企業の花に対する想い度
★★★★:花本来がもともと備え持っている質を大切にしている。そして、花の力を
信じており、そんな花に新しい価値という命を吹き込んで「感動」を生み出す!お客
様の感動空間の中には常に花があってほしいという気持ちに溢れている。
男性客を掴むための活動
1 月から 3 月までの 3 か月間を「LOVE Quarter」と
名付け、奥様や旦那様、大切なパートナーへ、ふだんは
言えない感謝の言葉や LOVE を伝えられるように応援
している。
✿男性から女性へ花束を贈る“フラワーバレンタイン”
12 の想いを 12 本のバラの花に託した花束「ローズドゥ
セ」。1 ダースのバラの花束は、男性にもよく似合う。
ローズドゥセ
✿愛妻の日
男の帰宅花作戦 2013~男は花を持って家に帰ろう~
花が夫婦の絆を深める役割を果たすことができると考え、日本愛妻協会が提
案する愛妻の日に賛同し、2012 年 12 月 14 日から 2013 年 1 月 31 日の間、
“愛
妻の日をきっかけに、言葉に出して言えない愛と感謝の気持ちを「花」ととも
に伝え、夫婦の絆を深めよう”と呼びかける作戦を展開した。この取り組みは
今年で 6 年目。永遠の愛を花言葉に
持つ「チューリップ」を愛妻の日の
テーマフラワーとしている。
――〇 一環キャンペーン 〇――
・1 月 31 日 愛妻の日~いつもお
弁当を作ってくれる愛する妻へ~
愛妻弁当にお花をつめて感謝を贈
る「ARIGATO BENTO」
食べ終わった弁当箱にお花をア
レンジして、妻への感謝の気持ちを
伝えるギフトとすることができる
サービスを、ヒビヤカダン 日比谷
公園店に 24~31 日の期間限定で実施した。
(価格 1500 円、
1 日 5 名限定)*洗浄後の弁当箱に限る。
ここでも同社はモノではなく、価値を売っている。つま
り、花を売るのではなく、
「愛妻弁当のお礼」という新しい
花の利用シーンを提案し、
「花を使って感謝の気持ちを伝え
る方法」を売っているのだ。何気ない日常の風景に、花の
利用シーンをうまく組み入れた素晴らしいサービスである。
・「大切な人にきいろい花を贈ろう」キャンペーン
映画「きいろいゾウ」×日比谷花壇コラボレーション
・日比谷公園の中心で妻に愛を叫ぶ「ヒビチュー2013」
※日本愛妻家協会について
日本愛妻家協会は、
「吾嬬者耶(あづまはや)」
(ああ、わが妻よ、恋しい)と嘆き、亡き妻を
いとおしんだ「日本武尊(やまとたけるのみこ
と)」の故事にちなんで村名が付けられたとい
う。群馬県吾妻郡嬬恋村を拠点に活動を行って
おり、平成 20 年度地域づくり総務大臣表彰 団
体表彰を受賞。
愛妻家証明書
ARIGATO BENTO イメージ
……………………………………………………………………………………………
②青山フラワーマーケット(全国展開系)
(経営会社:パーク・コーポレーション)
店舗数
売上高
79 店舗
52.8 億円(2011)
企業概要
商号 株式会社パーク・コーポレーション
商標 Aoyama Flower Market
hana-kichi
Jungle COLLECTION
Aoyama Flower Market TEA HOUSE
ATHLONIA
本社所在地 〒107-0062 東京都港区南青山 5-1-2-5F
設立 1988(昭和 63)年 12 月 24 日
資本金 2000 万円
代表者 井上 英明
従業員数 約 600 名
本店 南青山本店
店舗数
(2012 年 8 月現在)
Aoyama Flower Market 79 店舗
hana-kichi 3 店舗
「青山フラワーマーケット」のフラワースクール。 芸術性の高いアート
作品を作るのではなく、日々の生活で花を身近に飾ったり、プレゼント
用ブーケを作るためのコツなど、実用性の高いレッスンを行なっている。
また、花屋を目指す方を対象した「プロフェッショナルコース」も運営。
Jungle COLLECTION 1 店舗
グリーン専門ショップ。
運営の他、オフィスや商業施設へのグリーン装飾を行なう。
TEA HOUSE 1 店舗
青山フラワーマーケットの運営するカフェ。コンセプトは、“温室”。空
間いっぱいに広がるグリーンと、自然の中に咲いているようにレイアウ
トした週替わりの旬の花が、都会の喧騒を忘れさせてくれる。
ブランドコンセプト
『一人でも多くの方に、1分1秒でも長く、
「花や緑に囲まれた心豊かな時間」
を過ごしていただきたい。それがパーク・コーポレーションの夢です。』
「Living With Flowers Everyday」をコンセプトに、普段(=Everyday)か
ら花や緑に囲まれた心ゆたかなライフスタイルを提案するフラワーショップ。
✿ユニークポイント
<普段着の花屋~ユニークな価値提供~>
350~1500 円の手頃な価格であらかじめ
アレンジしてあるブーケと、お客が自分で
好きな花を手に取れるシステムはこのチェ
ーンの象徴である。一方で、青山フラワー
マーケットの店頭には、一般的な生花店に
必ずあるものが見当たらない。例えば 花を
長持ちさせるための大きな保冷ケース、そ
してドライフラワーなど、売れ残った花で
渋谷東横店
利益を挙げるためのリサイクル商品もない。
さらに鮮度の落ちた花を売り切るための値引きも行っていない。他店では経営
効率化のために必須とされるこれらの約束事を一切やめ、代わりに「鮮度のよ
い花を早く売り切る」ということに徹している。衰退している花き業界の中、
駅中を中心に躍進している同社。00 年に 14 店だった店舗数は 11 年には 79 店、
売上高もここ十年余で 8 倍強の 52 億円(11 年)となった。
同社は「日々の暮らしに寄り添う、普段着の花屋」である。鮮度の良い花を
低価格で販売して、ギフトではなく自分用として顧客に購入してもらう。
「Private & Daily」
(個人の日常使い)の花に特化し、また、自らの事業を、
「花」
を販売するのではなく、「Living With Flowers Everyday」(花のある時間と空
間)を提供するサービス業と定義している。同社は、洗練されたイメージを保
ちつつ、新鮮で多様な種類の花を安価で提供することに成功した。
『日常用の普
段使いの花だから、手に取って香りを嗅いで買ってもらいたい。そんな「つい
買っちゃった」という花屋にしたかった』と井上社長は語っている。青山フラ
ワーマーケットは贈答用の花を高額で売る従来の花屋の“常識”を打ち破り、
「自
家消費」という新たな業態を創り出したパイオニア企業なのである。
成功の秘密 1
<「損失(ロス)の低減」~胡蝶蘭を売らない理由~>
日本で最も売れている花は、菊、ユリ、バラ、カーネーション、胡蝶蘭、ト
ルコキキョウで、これらで卸売市場の 60%以上を構成している(金額ベース)。
つまり、日本の花き市場の需要の中心は、胡蝶蘭に代表されるギフトや葬儀と
いった法人需要である。
そして、同社の製品範囲の特徴は、
個人が日常に飾るのに適した花の品ぞ
ろえに特化している点にある。バラは
中程度の茎の長さのものを常に多種類
揃えているが、法人需要で求められる
大きなアレンジメントを作るのに必要
な茎の長い高価なバラや、開店記念と
して良く利用される「胡蝶蘭の鉢物」
はおいていない。仏花に使われる伝統
的な菊もおいていない。そもそも、同社の大半
の店舗面積は 8 坪、26 平方メートル程度。この
ガラスケース
小さなスペースで 1 店舗あたり年商 7000 万円、
実に他店の 7 倍も売り上げる脅威の花屋が青山
フラワーマーケットの正体である。小さな店舗
であるからこそ、商材を厳選する必要がある。
鉢物は単価が高くなりがちであり、胡蝶蘭は安
いモノでも 5000 円ほど値が張る高級花である。
また胡蝶蘭のような高級鉢物は、どの花屋に行
っても大抵大きなガラスケース(キーパー)の
中で保管されているのが一般的だ。しかし、こ
胡蝶蘭
のガラスケース代も経費の一部である。しかも、ケースが置かれているスペー
スにも賃料が当然発生し、高級な花ゆえに、売れるまで万全の体制で保管する
必要もあり、適度な温度・湿度に保つためには電気代もかかる。これらの経費
はすべて、花代の一部を構成してしまう。そこで同社は、
「小さな店舗=毎月の
賃料の低減」
「ガラスケースを置かない=省スペース、低コスト」というカタチ
で固定費の低減を実現させ、現状の花屋よりもはるかに低価格で花を提供しよ
うと考えたのだ。
そしてまた、
「在庫ロス」という面でも同社の特徴が表れている。生花店を含
む原価率の高い商売で最も無駄なものが「廃棄コスト」。そもそも生花店という
のは、廃棄率がとても高いものである。一般的な花屋のロス率は 30%程度が普
通で、その分、花単価が高くなってしまっている。その業界全体が抱え込んで
いる弱みにメスを入れたことが同社の成功要因となっているのである。
バリューチェーン(VC)比較をすると以下のようになる。
<一般の生花店>
仕入(未開花中心)→冷蔵庫保管→店頭受注&花束作成
→売れ残り廃棄(公称 10~30%)
<青山フラワーマーケット>
仕入(開花中心)→ブーケ作成&来店客のセルフ Pick up~花束作成
→2~3 日で売り切り(廃棄 3%)
このように、同じ生花店なのに VC が全く異なる。それは同社が「売り切り」
という目標を中心に据え、高回転率を実現する仕組みを作っているからだ。上
記の VC がうまく廻っていくよう、現場の店長も精一杯頑張る。なぜなら、「各
店舗が置く商品は原則として、本社が推奨するリストから自由に選んでもらう
仕組み」という現場裁量権が高いが、
「店長はお店の利益が給料に反映する」と
いう仕組みになっているからだ。それ故に、
「売り切り・廃棄率極小化」に注力
する。
また、同社のロス率が非常に低い秘密の 1
つに「ブーケ」がある。日にちが経った切り
花は、水揚げという作業により蘇る。水揚げ
とは、茎を切って花の先端まで水を行き渡ら
せる作業である。しかし、水揚げをすること
で切り花にとって大事な茎は物理的に短く
なってしまう。そこで、この茎の短くなった
切り花を廃棄するのではなく、フラワーアレ
ンジをしてブーケを作る。同社の売りのひと
つに、ブーケになった花が店先を飾っている。
実はこれが、在庫ロスを最小限に抑える工夫
のひとつなのだ。茎が短くても、グラスに挿
せばちょうどいい長さ。これらのブーケはグ
ラスブーケといい、コップに水を入れテーブ
ルに置けば、いつもの部屋があっという間に
グラスブーケ
明るくなる手軽さで、お客様にとっても面倒
がないという利点もある。そして、在庫ロスがないことでロスを見込んだ売価
設定をせずに済む利点があるのだ。また、同社は「売り切る」ことに徹しても
らうために、ドライフラワーも扱わない。ドライフラワーを置くようになると、
バラなども鮮度が落ちたものはドライフラワーにすれば良いというような考え
が蔓延し、鮮度管理に対する意識が薄れロス率が上がる傾向がみられるため、
それを防ぐことが目的だ。
成功の秘密 2
<社長がいなくてもまわっていく会社>
青山フラワーマーケットの社員の7割はアルバイト。正社員への採用はアル
バイトから試験を受けて昇進していくことが原則となっている。そのためにも
現場の経験とプロの技術、知識をアルバイト時代から身に付けることが求めら
れる。原価意識を教え込み、商品作りを任せる。チェーン店であるにもかかわ
らず、花の仕入れは現場の裁量に任せ、本部には仕入れ担当もマーケティング
部門も存在しない。店舗スタッフの採用すら各店で独自に行っている。これが
一人一人のやる気に繋がり、「自分で考えて行動」していくことで、「失敗を通
して成長する」従業員を生み出す。それゆえに、この会社に細かいルールは存
在しない。あるのは「常にお客様のサイドに立って考える」という判断基準だ
けである。
つまり、同社は会社の成長を第一に考えているわけではない。最も重要視して
いるのは従業員一人一人の成長である。それは、人として必ず持っている自分
を高めたいという気持ちを信用しているからこそできることである。従業員が
自発的にチャレンジし、失敗を繰り返しながら成長していく「エレベーション」。
それに伴って、店舗の品揃えやサービスが改善し、顧客に常に驚きを与え続け
る。会社の成長は、その結果としてついてくるというのが井上社長の考えであ
る。
<思わず花が買いたくなる店頭戦略>
1、買い物の楽しさを演出
売り場作り:花を種類毎で並べるのでは
なく、色でわけて並べる独自の並べ方をす
る。花の種類毎に並べると様々な色が混ざ
り合ってしまうが、花のアレンジは色の組
み合わせが重要。お客は自分の好きな花と、
その周りの花を選ぶことによって、自然と
綺麗な花束をつくることができる。しかも、
値段もそれぞれはっきり明朗に表示し、思
わず花を手に取って自分だけの花束を作
りたくなる楽しさを創り出している。
2、魅せる売り場
同社は店舗で花を買う経験を顧客が楽し
めるものにするため、花をガラスのキーパ
ーに入れず、近距離で香りを確かめながら
横浜ジョイナス店
花を選べるようにディスプレイしている。日本人の女性が一番目を引く 110~
120 センチ辺りに、花を置くことで売上げが変わるという。また、全ての商品の
価格を明示し、花についての情報を黒板や POP によって伝達する。ブーケを作
るための作業台は顧客から見えない別の場所に設置している。
3、生活に花を
顧客が即座に持ち帰ることができるプレアレンジド・ブーケの提供。これを、
個人が自分のために飾るブーケと位置付け、価格は 350 円から 1500 円、「グラ
スブーケ、キッチンブーケ、エントランスブーケなど」などの商品名で販売し
ている。
4、男性にも花を
花を隠して包装をする箱型のギ
フトボックスブーケを用意してい
る。満員電車でも花を傷める心配
がない上に、花を持っていること
の恥ずかしさ・照れくささを感じ
ることがないので、男性にも人気。
ギフトボックスブーケ
「花」、そして花を売るという仕事とは
花の本質は、花と一緒に過ごす人の特別な時間と空間を創り出せることにあ
る。そして花屋は、「時間と空間」を提供するサービス業である。
花というモノを売る花屋は、一般的には小売業に分類され、実際に花をモノ
として扱って販売する花屋は多い。だが、同社では花屋をサービス業ととらえ
ている。それは、花の本質を考えてのことだ。
例えば、インテリアのショップでグラスを買えば、帰りにそのグラスの入った
手提げ袋を渡される。そしてグラスは割れない限り、ずっと使うことができる。
花の場合は違う。花屋で花を買えば、花を入れた手提げ袋を渡されるところま
では同じだ。しかし、花は買ったままの状態で手元に残るわけではなく、やが
ては枯れて処分しなければならない。消えてなくなることはお客様も分かって
いる。にもかかわらず、なぜ花を買うのか。それは花の本質が、人々に特別な
気持ちにさせる時間と空間を演出してくれるという点にある。
「私はディズーランドの代わりに、青山フラワーマーケットに行くのです」
同社のあるお客さんの言葉である。ディズニーランドへ行くにはそれなりの時
間も費用もかかるが、お金をいくら使ったところで、帰りにモノは残らない。
それでも満足できるのは、そこにある非日常的な時間や空間を楽しむことがで
きるからだ。ディズニーランドの代わりに青山フラワーマーケットに行くと言
ってくださったお客様は、何らかの都合でディズニーランドには行けないもの
の、そこで感じられる非日常的な時間や空間を青山フラワーマーケットのお店
に求めているのだろう。
また、週末によく花を買いに来てくださる常連のお客様がいる。その方は、
週末に招くゲストによって振る舞う料理やお酒を考えるそうだが、それに合わ
せた器やクロスといったテーブルのコーディネートと一緒に、飾る花を選ばれ
る。このお客様もやはり、ゲストと一緒に過ごす時間や空間にふさわしい花を
求めているのだ。
つまり、花の本質はモノではなく、時間と空間(=Time&Space)だということ
である。青山フラワーマーケットは、単に花というモノを売る小売業ではなく、
花とともに、花を楽しむ Time&Space を顧客に提供するサービス業だというこ
とを強く意識している。
私的インスピレーーーーション。この企業の花に対する想い度
★★★★★:花を売らないお花屋さん。花の本質である「時間と空間」を重要視し、
提供している。従業員ひとりひとりが、愛している花という存在を世の中の人のライフ
スタイルに取り入れてさらに身近なものにしていくために考えて行動に移している。
男性客を掴むために行っている活動
✿男の花贈り Flower Mission For Men
青山フラワーマーケットの HP に、男性客に向けてのコーナーがある。
「花を贈りたいけれど、電車でもって帰るのは恥ずかしい」
「花束っていくらか
ら買えるの?」「どんな花が喜ばれるのか、わからない」「そもそも花屋に入る
のが 恥ずかしい」という男性の声をうけて、疑問や不安を解消してくれ、スマ
ートに花を贈れるかっこいい男性になるために背中を押してくれるサポートコ
ーナーである。
下記はこのコーナーで掲載されている内容の一部である。
〇メンズに向けたリーフレット VOL.1
作戦:花で女性の笑顔をもっと増やせ!
MISSION1
「パートナーの好きな花を、調べよう!」
何かのついでに、さりげなく聞いてみよう。好きな食べ物や好きな映画を聞か
れることはよくあるが、
「好きな花は?」を聞かれることは、まずないはず。そ
れだけで「この男、ただ者じゃない!」と、一目置かれること間違いなし!
MISSION2
「勇気を出して、花を一輪だけ買ってみよう!
もちろん、贈る花はパートナーの好きな花がベスト。ただし、ある季節にしか
手に入らない花も多いので注意が必要。買う花に迷ったら、女性に人気の高い
バラやガーベラを選ぼう。パートナーが好きな色や、着ている服の色の花を選
ぶのも◎。
MISSION3
「記念日ではない日に、花を買って家に帰ろう!」
“花なんて買って帰ったら、後ろめたいことがあると思われる”というのは、
女性の気持ちが分かっていない証拠!女性は花をもらうだけで、ないげない日
常が突然“バラ色”に感じられるもの。すでに翌日には、友達に自慢している
はず!
〇アンケート調査
★500人に聞きました!
花束を抱えている男性ってどう?
・その向こうにいる人をイメージして、
幸せで素敵だと思う。(33歳)
・だれかにプレゼントするんだろうなと思って、
ステキな優しい人に見える。(21歳)
・てれながら渡してくれたらすごくうれしい。
(32歳)
・すごく頑張って欲しい気持ちになる。勝負す
る日。相手の女性がうらやましい。(36歳)
・少し恥ずかしそうに持っていたら、さらにキ
ュンとくるかも。(35歳)
・日本にはそういう人が滅多にいないからかっこいいと思う。(25歳)
メンズに向けたリーフレット VOL.2
作戦:花屋さんと仲良くなる!
MISSION1
まずは花屋のスタッフに話しかけてみる。
「この花は何ですか?」
「今の旬の花は何ですか?」なで、まずはスタッフに質
問してみよう。どんなことでもいいので、キッカケをつくるのだ。スタッフは
今後の強い味方になってくれるはず。
MISSION2
店頭のブーケを物色してみよう!
あえて注文しなくても、店頭にはすでにプロが考え、制作したブーケ(花束)
やアレンジメントが並んでいる。お客さんのニーズに合わせて作ってあるので、
値段や大きさの参考にもなるはずだ。
MISSION3
そして花をオーダーしてみる!
「やっぱりオンリーワンだ!」と思うなら、迷ってないで注文してみよう。イ
メージが明確に無くても大丈夫。スタッフに伝える情報はすべてがヒントなの
で、目的や贈る相手の好きな色・雰囲気などをドンドン伝えよう!
✿男の花贈り オンラインショップ
恥ずかしいという気持ちや、忙しくて花屋さんにどうしても行けない男性諸
君のために、同社では男性に向けたオンラインショップのページがある。
「誕生
日・記念日に贈る」
「友達・同僚に贈る」
「プロポーズに贈る」
「彼女に贈る」の
項目を選択することで、おすすめの商品が表示される。インターネット注文で
あれば、空いた時間にPCや携帯から手軽に購入もできる。マイページからお
誕生日や記念日を登録すれば、毎年事前にリマインドメールが届くうれしいサ
ービスもある。
……………………………………………………………………………………………
小田急フローリスト(鉄道系)
経営会社:小田急ランドフローラ
店舗数 19 店舗
売上高 31.2 億円
(小田急ランドフローラ全体/2010)
企業概要
社名 株式会社小田急ランドフローラ Odakyu Landflora Co.,Ltd
本社事務所 〒157-0071 東京都世田谷区千歳台 1 丁目 1 番 18 号
設立年月日 1998 年 2 月 2 日(前身は小田急電鉄(株)グリーン事業部)
資本金 5000 万円
株主 小田急電鉄株式会社(100%)
代表者 取締役社長 山内保(2012 年 6 月就
任、前社長 坂本哲夫)
従業員数 172 名(2012 年 3 月 31 日現在)
店舗 19 店舗(小田急線沿線に 17 店)
本店 新宿駅 小田急エース北館
ブランドコンセプト
園芸文化の普及を通して、人々の豊かで美しい生活環境の創造を目指す。
事業内容
花と緑の魅力をひきだし、潤いある生活をご提案するために、花専門店「小
田急フローリスト」をはじめ、ホテルの装花、法人向けサービス、オリジナル
商品の開発など、花に関するエキスパートとして、お客様の豊かで美しい生活
環境の実現に貢献する。
(A)生花・鉢植え・
ガーデニング用品・造花の販売
1.「小田急フローリスト」店舗の運営
2.催事の開催、臨時店舗の運営
3.通信販売
(B)装花業務
1.ホテル装花
2.活け込み
3.冠婚葬祭の装花 等
(C)園芸品のリース
観葉植物のリース・メンテナンス 等
(D)造園・土木工事の設計、施工、監理、請負
(E)造園・園芸品、日用雑貨品、装飾雑貨品の輸入、卸、販売
(F)会員制貸農園の運営
(G)フラワースクールの運営
✿ユニークポイント
花ギフト専門店として、切り花、観葉
植物、プリザーブドフラワーなど様々な
フラワーギフトを豊富に揃える。魅力は
花材の種類の多さと鮮度の良さ。とくに
バラは、常時 20 種類ほど用意しており、
様々なニーズに応えられる。実店舗で厳
選したバラを"Today's Rose"(本日のバラ)
として毎日 1 種類ずつ 365 日紹介もして
おり、オンラインショップでは、その中
か ら 特 に お す す め の バ ラ を ”
WeekendRose”として販売している。お届けは土曜日限定で、なかなか目にす
ることのない希少品種や最新品種なども登場する。
店内の花材の鮮度を保つための大きなクーラールームは特徴的であり、回遊
しながらゆっくりと選べるのがうれしい。そして、毎週開催されるフェアのデ
ィスプレイも必見。バレンタイン、母の日、クリスマスなどテーマにもとづい
た旬のディスプレイは、アレンジのヒントが満載なことから、ディスプレイを
楽しみに来店する顧客も多い。結婚記念日の花束やアレンジメントに、誕生石
カラーのシールと記念日の入ったオリジナルカードを添えるサービスも、幅広
い年代から喜ばれている。
<日持ち保証販売>
同社は日持ち保証販売をしており、他店と比べて圧
倒的に花の日持ちがいいことも大きな魅力の一つであ
る。日持ち保証販売とは、お客様に花を購入していた
だいて何日間楽しめるか、観賞日数を保証して販売す
ることである。もし、保証期間内に枯れてしまった場
合には、購入時のレシートと現品を小売店に持ってき
てもらい、新しいものと交換するというもの。モノで
はなく生花という命があるものだからこそのサービス
である。
<売るための仕掛けづくり> ~イベントとフェアをつくる~
生花店として、お客様に商品の良さ、ひいては「花のある生活の良さ」を明
確に伝えたうえで購買につなげられるかは最大の課題である。そのために、同
社では花という素材をいかに魅力的に見せるかの「商品企画」と、お客様が生
活の中で花の必要性を感じていただけるようなストーリーを作るべく「MD(マ
ーチャンダイジング)企画」を進めてきた。
✿全店統一の販売計画
同社では以前より、チェーン店でありながら商品や販売計画が統一されてい
ないことが問題視されていた。店長による独自の販売計画を推進したため、チ
ェーン店であるメリットを生かせない、会社としてのノウハウが共有化されな
いなど、全社的に売上を最大化する体制が整っていなかった。そこで 2007 年に
所品企画課が設立され、本格的に本社主導のもと全店共通の MD が実施される
ようになった。
MD の企画・推進の目的は「お客様に満足していただけるような新たなモノ
日の創出と、モノ日の定着化・深耕」にある。これまでの年間販売計画の推進
および検証をもとに、売上が見込めるフェアに関してはより収益をあげられる
ような工夫(ディスプレイ方法、フェア商品のデザイン、販売価格など)をし、
毎年同じ企画を繰り返すのではなく、絶えずお客様のニーズを喚起するような
フェアを盛り込み、新たなモノ日を創出することを目指している。生花店では、
例えば 5 月 13 日の母の日のような“モノ日”と呼ばれる販売機会が大きい時期
の収入に頼りがちになるが、モノ日がいつまでも同じように売れるとは限らな
い。また、モノ日商戦に失敗した場合の損失が年間の利益に大きく影響を及ぼ
すこともある。そこで現状のモノ日であげる収益が全体に占める割合を下げて
いくためにも、顧客ニーズをつかんだうえで、新たなモノ日を提案し続けるこ
とが必要だといえる。
✿年間 52 週 MD 計画
同社では 1 年間を 52 週に分け、週ごとにテーマを設けお客様に訴求していく
方法をとっている(内容によっては 2 週に渡って展開するフェアもある)。1 週
間単位で区切ることで、絶えず違ったおすすめ商材を提案することができ、来
店されるお客様を満足させることが可能である。また、駅前や駅構内など通行
人数が比較的多い場所にある店舗の場合、用事は無くとも毎日通りかかる人へ
向けて何らかの情報発信をしない手はない。店の存在をあまり知らない不特定
客や、存在を知ってはいるが入店したことのない認知客に対して、認知度の向
上や来店動機の喚起を行う必要がある。このほか、成果を詳細に分析するため
にも週単位での計画はメリットがある。週単位で売上を確認し予算達成できた
かどうか前年同時期を比較してどうだったか、売れた・売れなかった要因はど
こにあったのか、といった分析がしやすくなる。
図1「年間 52 週 MD 計画策定までの流れ」
図 2「小田急フローリスト
フェア POP」
表 2「2010 年度
MD 実施計画」
「花」、そして花を売るという仕事とは
花には「言葉」や「物」では伝わらない特別な想いがある。
「花のある生活の
良さ」をお客様にしっかり伝え、モノ日の創出と毎回来店してくださる方に新
鮮な刺激を与えることができるフェア展開で花の活用法をお客様にも広げてい
くことに目的にしている。モノを贈るよりも心に響くもの、それが花であり、
小田急フローリストで購入した花でお客様の大切な方が喜ばれることを願って
いる。
私的インスピレーーーーション。この企業の花に対する想い度
★★★;個人から法人まで、シーンに彩りを添えるフラワーギフトを中心にお客
様に花の良さを提案。お客様に花の良さを感じていただくために、花をより魅力
的に見せるための仕掛けづくりに余念がない「花と緑の演出家」!
男性客を掴むために行っている活動
✿2011 年度フラワーバレンタイン
小田急フローリスト×フラワーショップ京王
バレンタインフェアを同時開催!
おすすめ商品として、花瓶が無くても飾れる
スタンディングタイプの共通商品で、香り豊か
な「赤いスイートピー」をたっぷりと束ねた共
通商品『Be Sweet』を販売し、男性が大切な方
へ思いを伝える機会をサポートします。
また、フラワーバレンタインをより多くの方に
知っていただくため、2 月 13 日には、京王線・
小田急線新宿駅構内などでスイートピーなど
の無料配布を行った。
✿2007 年 2 月新宿駅西口オープン
小田急フローリスト「BE GREEN」
遊び心のあるインテリアを楽し
みたいという 20 代から 30 代の男性
をターゲットとした、植物の新たな
価値観を提案するショップである。
「BE GREEN」の「B(BE)」には、
「BOY(ボーイ)」、「BEAUTIFUL
( ビ ュ ー テ ィ フ ル )」、
「 BOTANICAL ( ボ タ ニ カ ル )」、
「BE(BE 動詞の意)」などの意味
が込められている。"デリカテッセン
" をモチーフとし、ランチボックス・食器・食材などと合わせてアレンジした
観葉植物やプリザーブドフラワーを中心としたデザイン性・インテリア性の高
い商品を展開している。植物・花だけでなく、それを彩る器やパッケージもデ
ザインの一部として重要視し、商品をカラフルにコーディネート。
ディスプレイにはガラス張りのショーケースを採用し、お惣菜を選ぶような感
覚で、植物・花の購入を楽しめる仕掛けがある。2010 年からは「safari」とい
う新たな商品コンセプトとなり、アニマル柄をイメージした鉢カバーでサファ
リテイストにするなど、遊び心で探究心をくすぐる。
…………………………………………………………………………