高分子の固体物性 九州大学有機化学基礎研究センター 高原 淳 研究室ホームページ http://133.5.140.76 1. 熱的性質−融点、ガラス転移 2. 弾性と粘性、ゴム弾性 3. 粘弾性の基礎と応用 4. 表面物性 参考書 合成、構造、物性に関してバランスのとれた教科書 • 高原 淳、現代工学の基礎、材料系VI、高分子材料(岩波書店:2000) • 井上祥平、宮田清蔵:高分子材料の化学 第二版(丸善、1993) • 高分子学会編:高分子科学の基礎(第3版)(東京化学同人、1994) • 伊勢ら:新高分子化学序論(化学同人:1995) 大学院レベルの教科書 • 野瀬、中浜、宮田編:大学院高分子科学(講談社サイエンティフィック、1996). 力学物性全般 • 根本紀夫、高原 淳:高分子の力学物性(共立出版:1997) 高分子関連のWebサイト 高分子科学・工学全般のHP(高分子関連の企業のHPにもリンクしている) http://www.polymers.com/dotcom/home.html 日本の高分子学会 http://www.spsj.or.jp 高分子の基礎に関するホームページでシュミレーションなども豊富なHPとして Case Western Reserve University(Ohio, USA)のPLC http://plc.cwru.edu 色々な高分子の性質を知りたい時 http://triton.tokyo.jst.go.jp/ 1.高分子の熱的性質 1.1 高分子に特徴的な熱的性質 z z z z z z z z 融点 ガラス転移温度 結晶転移温度 液晶転移温度 熱分解温度 熱伝導率 熱膨張率 (難燃性) なぜ重要か z 使用限界温度 z 耐熱性 z 成形加工 z 紡糸 固体(結晶) ガラス状態 結晶系A 結晶 → → → → 液体 ゴム状態 結晶系B 液晶 どのような方法で評価するか z融点 示差走査熱量分析(DSC)、示差熱分析、デイラトメトリー 赤外吸収スペクトル、NMR、複屈折、X線回折 zガラス転移温度 示差走査熱量分析(DSC) 、示差熱分析、デイラトメトリー 動的粘弾性、誘電率、屈折率 z結晶転移温度 示差走査熱量分析(DSC) 、示差熱分析、誘電率、 X線回折 z液晶転移温度 示差走査熱量分析(DSC) 、示差熱分析、誘電率、 X線回折 z熱分解温度 熱重量分析(TGA) 熱的性質の測定法 1)示差走査熱量分析(DSC) Differential Scanning Calorimetry 試料(数mg)と参照試料の温度差が 0になるようにエネルギーを供給す る。 ヒーター 不活性ガス 典型的な高分子 のDSC曲線 発熱 固相 転移 ガラス 転移 結晶化 融点 2) デイラトメトリー 膨張計 試料の体積変化を高精度で評価 z重合過程 z結晶化過程 z融点・ガラス転移温度 融解→密度の低下 1.2 融点 1) 融解現象 結晶状態 液体状態 力学的性質 形態学的特徴 熱力学的諸量が変化 融解 一次の相転移 (自由エネルギーの一次微分が段階的に変化) ∂G = −S ∂T P ∂G =V ∂P T TmでS,Vが不連続的に変化 実際は結晶層厚の分布、共重合で融解温度域 は広がる。 ポリエチレン伸びきり鎖結晶の比 容の温度依存性 (a) ランダムコイル (b) 折りたたみ結晶 (c) 伸びきり鎖結晶 (d) 結晶ー非晶二相構造 (Wunderlichによる) 結晶性高分子 融点 液体状態(ランダムコイル) 分子が激しく運動 2) 融点での自由エネルギー変化 融点、Tm 液体の自由エネルギー、Glと結晶の自由エネルギー、Gcが等しくなる。 ∆G = Gl − Gc = ∆H f − Tm ∆S f = 0 Tm = ∆H f / ∆S f ΔHf:融解エンタルピー ΔSf:融解エントロピー ΔHf DSC測定により評価 Gc(結晶相) Gl(液相) 3) 高分子の化学構造と融点 Tm = ∆H f / ∆S f 融解時のΔSが小さ いもの PTFE ΔHの大きいもの ポリアミド ポリエステル 融点に及ぼす化学構造因子 1)分子の対称性 2)分子の極性 ΔHf↑ 3)分子の剛直性 ΔSf↓ 4) 融点の分子量依存性 n-パラフィン 分子の末端が不純 物に対応する。 末端が多いほど融 点が低下 n − 1.5 Tm = 414.3 n + 5.0 平衡融点に対応 5) 融点の結晶層厚依存性 ポリエチレン 2σ e ) Tm (l ) = Tm (1 − l ∆h f 0 l をnm単位で表すと 0.627 ) Tm (l ) = 414.2(1 − l ΔHf=2.79x109ergcm3 σe=87.4erg cm-2 融点 →結晶厚に大きく依存 折り畳み面の存在 6)高分子結晶の結晶化、融解条件と融解エントロピーの関係 融点直下の熱処理 高圧結晶化 ラメラ厚↑ Tm ↑ 外力の影響 →変形したコイル ΔSd↓ Tmd↑ 希釈剤(diluent) ΔSs↑ Tms↓ 1.3 ガラス転移 1) ガラス転移現象 液体をある条件で冷却 融点以下でも結晶化しない さらに冷却 ある温度以下で固化し、流動性を失う(ガラス状態) ガラス転移温度、Tg ガラス状態は液体と同様に不規則な分子の集合体 →透明 結晶性高分子 非晶部分の存在→Tg 2)自由体積理論 ゴム状態 物質の全体積=占有体積+自由体積 v ガラス状態 = v o + Tg:高分子セグメントのミクロ ブラウン運動が可能なまでに 自由体積が増加する温度 (自由体積分率、f=vf/vが 0.025になるとき) ポリスチレンのガラス転移に伴う比容の変化 理想結晶 ガラス状態(非晶高分子) v ゴム状態(非晶高分子) f 3) 種々の高分子のガラス転移温度 Tgを上昇させる因子 •分子鎖中に大きな双極子(PAN,PVC>PE) •内部回転ポテンシャル(PαMSt>PS、PMMA>PMA) Tgを低下させる •分子間力の低下(アルキル鎖長の増大 PMMA>PEMAPnBMA) 4) Tgでの物性の変化 Tg上下で弾性率、機械的 強度、誘電率などの物性 が大きく変化 Tgは昇降温速度や周波数に依存する ガラス転移→緩和現象 例 PS 冷却速度 1K/分 378K 1K/日 373K 5)TgとTmの関係 ガラス転移温度と融点の関係 Tg/Tm=2/3 (130種類以上の高分子) DSC デイラトメトリー 緩和弾性率 誘電率測定 分子量Mの高分子1gの分子鎖の数 N Nm = A M 6) 分子量依存性 K Tg = T − M ∞ g 高分子1ml当たりの分子鎖の数は N Nv = A ρ M 1分子鎖末端の自由体積をθの場合、高 分子1ml当たりの分子鎖末端の体積は NA Ve = ρ2θ M 分子量が∞からMへ減少したときの自由 体積の増大は、末端の体積の増大に等 しくなる。自由体積の膨張係数をαとする と ポリスチレン(PS)のTgの分子量依存性 Ve = α(Tg∞ − Tg ) Ve N Aρ2θ = α αM N ρ 2θ Tg = Tg∞ − A αM Tg∞ − Tg = 7) 可塑剤と共重合 可塑剤(DOA,DOP)ー高分子のTgを下げ柔軟性を賦与する (外部可塑化) 共重合ー低いTgのモノマーと共重合 Tgの低下 力学物性の向上 (内部可塑化) f b = f p v p + f d vd 1 = v p + vd f p = 0.025 + α p (T − Tgp ) f d = 0.025 + α d (T − Tgd ) α p v pTgp + α d vd Tgd α p v pTgp + α d (1 − v p )Tgd Tg = = α p v p + α d vd α p v p + α d (1 − v p ) 自由体積の加成性を仮定 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に可塑剤 として種々の体積分率のフタル酸ジエチル を添加した系の、ガラス転移温度の実測値 と式の比較 8) ポリマーアロイ SANとBRが相分離し ているので2つのTgが 観測される。 ABS樹脂のDSC曲線 SAN(スチレンーアクリロニトリル共重合体) BR(ブタジエンゴム) ポリマーアロイの相構 造の判定 2. 弾性、粘性、ゴム弾性 2.1 弾性 理想弾性変形ーフックの法則 •力を加えると瞬間的に変形が起こり、 •力を除くと瞬間的に元に戻る ∆A ε= A 単純引っ張り σ=Eε Ε:ヤング率 単純剪断 σ=Gγ G:剪断弾性率 E=2G(1+ν) ν:ポアソン比 ゴムではν=0.5なので E=3G σ= ∂σ E= ∂ε γ= F A ∆x = tan α y 種々の材料の弾性率 ヤング率/GPa 物質名 鋼鉄 アルミニウム 石英 ポリスチレン 高密度ポリエチレン ポリフッ化ビニリデン ゴム GPa=109Nm-2 ポアソン比 209 0.29 70 0.33 70 0.17 3.5 0.33 1.5 0.37 1.0 0.35 0.0006-0.01 0.46-0.49 2.2 粘性 液体ー応力を受けるとともに流動を開始する。途中で応力を取り去っても回復しない。 •純粘性流動 流動ー層流ー液層は規則正しくすべり、速度勾配が生じる σ= η dv dγ =η = ηD dy dt η:粘性係数 D=dv/dy:速度勾配 dγ/dt:せん断速度 ニュートンの粘性の法則 粘性流動の歪みは時間に比例して増加 (力学的なエネルギーが熱として散逸) σ γ= t η 粘度の評価方法 Stokesの式 ニュートン流体 2 ( ρ s − ρ ) gr η= v 9 2 HagenPoiseuilleの式 ニュートン流体 πR 4 P η= 8 LQ Couettの式 ニュートン流体 M 1 1 Ω= − 2 2 4πηL R1 R2 非ニュートン 流体でも成立 3θM η= 2πΩR 3 非ニュートン粘性 ニュートン流体 ニュートンの法則 に従わない流体 非ニュートン流体 σY σ 身の回りの非ニュートン流体 ペンキ 塑性流動 つながった粒子をゆっ くり変形すると弾性 的に振る舞う。速い 速度では粒子のつ ながりが切れて変形 は元に戻らない バター、メレンゲ、マ ヨネーズはどのよう に振る舞うか チクソトロピー(A)とレオペキシー(B) ダイラタンシー 海岸の濡れた砂 ゆっくりと踏むと流れる。強く踏むと流れない。 高分子溶液の粘性 高分子濃厚溶液、融液→非ニュートン流体(構造粘性) 高分子と溶媒分子との摩擦が生じること、また濃厚溶液では高 分子鎖どうしが絡まっていることなどが原因で ニュートンの法 則に従わない 非ニュートン流体では非線形の関係になり、dγ/dtの増加とともにηは低下 せん断速度を0に外挿したときのη ゼロせん断粘度(zero-shear viscosity) η0 高分子のゼロ剪断粘度と分子量 η0は温度と分子量に依存し、 η0 = kM a kは温度の関数 aは絡み合い点間の分子量、Mcに依存 M< Mc:a=1〜2 M> Mc:a=3.4 分子の長さがある臨界値、Mcを超えると 絡み合いが生じる 高分子溶液の示す弾性 ワイゼンベルグ効果 高分子液体に回転によりずり変形を与えると、ずり応力以外に、法 線応力が発生する。→高分子液体の弾性に起因 バラス効果 高分子濃厚溶液や融液を細い孔から押 し出すと、分子鎖が完全に緩和せず、弾 性変形としてせん断エネルギーが一部蓄 えられる。 孔から出たとたんに緩和 ワイゼンベルグ効果 紡糸、フィルム形成で重要(孔の寸法と成 型体の寸法) バラス効果 2.3 応力ー歪み曲線 試験片を一定速度で変形させな がら、その際の応力の変化を測 定(引っ張り試験) 応力―歪曲線(stress-strain curve) 高分子の軟らかさや硬さ、もろ さ、強靭さなどを反映する。 力学的性質 弾性率、破断強度、破断伸び 降伏応力 などが評価できる。 傾きより弾性率 ∂σ E= ∂ε F σ= A ∆A strain = × 100 A0 破断強度 破断伸び 2.4 ゴム弾性 分子鎖間を共有結合で結合し、三次 元網目構造(network structure)を形 成する高分子は、ガラス転移温度以 上ではゴム弾性を示す。 1) ゴムの特徴 1. 2. 3. 4. 5. ・架橋点 1-10MPaと非常に低い弾性率 弱い力でもよく伸び5〜10倍にも変形するが、力を除くとただちに 元の長さまでもどる。しかし、伸びきった状態では大変大きな応力 を示す。 弾性率は絶対温度に比例 急激(断熱的)に伸長すると温度が上昇し、その逆に圧縮すると温 度が降下(Gough−Joule効果) 変形にさいして体積変化がきわめて少ない。 すなわちポアソン比(poisson ratio)が0.5に近い。 1 1 ∂V ν = 1 − 2 V ∂ε 2)ゴム材料の例 PBD PS 架橋ゴム Tgが室温以下のポリイソプレン、 ポリブタジエン 架橋ー硫黄(加硫) 強化ーカーボンブラック 温度を上げても流動しない 熱可塑性エラストマー スチレン−ブタジェン−スチレ ントリブロック共重合体(SBS) PSのTgは100℃で常温ではポリ ブタジェンの橋かけ剤としての 役割を果たしている。しかし 100℃以上では流動性を示すよ うになるので、成形加工が可能 3) エネルギー弾性とエントロピー弾性 金属や無機材料の弾性 エネルギー弾性 →変形による内部エネルギー の変化に起因 エントロピー弾性 T>Tg 分子は激しい振動→分子鎖はい ろいろな分子形態をとる S大 伸長 ガラス状態の高分子 高分子結晶の弾性 分子鎖形態変化に制限が加えら れ、Sが低下 エントロピー減少に起因する弾 性がゴム弾性 4) ゴム弾性の熱力学 体積Vのゴムにfの力→dxの変位 (V,T一定) dF=dU-TdS-SdT=-SdT-pdV+fdx 張力fは ∂F f = ∂x v ,T ∂U ∂S = − T ∂x v ,T ∂x v ,T ∂U ∂f T = + ∂x v ,T ∂T v , x エネルギー エントロピー エントロピー弾性項は伸びひずみ 一定、圧力一定のもとでの張力の 温度変化より評価 加硫ゴムの伸びひずみ一定、 圧力一定のもとでの張力の 温度変化 伸びひずみ350%程度まではエント ロビー弾性が支配的 350%以上 エネルギー弾性の寄与 が現れる。(dU/dx)は負である(分 子鎖の配向結晶化) (dU/dx)=0のゴム:理想ゴム f ∝T 内部エネルギーとエントロビー の寄与を計算した加硫ゴムの 伸びと張力の関係 3. 粘弾性の基礎と応用 高分子固体 弾性のみならず粘性ももっている。 (粘弾性) 高分子物質の特徴 1. 複雑な高次構造(結晶・非晶・界 面) 2. ガラス転移温度、融点の存在(温 度に強く依存する) 3. 分子量分布 4. 分子軸方向と直角方向の物理的 な性質の異方性 粘弾性を測定することにより1〜4 に関連した知見が得られる。 ポリエチレンの結晶格子 ラメラ 厚さ10-20nm ラメラがリボン状 に成長している 球晶構造(直径10-200 µm) ポリエチレン フィルム 弾性をバネ フックの法則に従う σ = Gγ 粘性をダッシュポット ニュートンの粘性の法則に従う dγ σ = ηγ = η によりモデリング dt 静的粘弾性 応力緩和 一定の歪みを加えたときの応力変化 クリープ 一定の応力を加えたときの歪みの変化 動的粘弾性 正弦的な応力あるいは歪みを加えたときの応答歪み あるいは応力変化 3.1 静的粘弾性(応力緩和) 1) Maxwellモデル γ=γ1+γ2 γ1 d γ 1 dσ σ = + dt G dt η γ2 t=0で、一定ひずみγ0を与えた条件で解く σ(t ) = G γ o e −t / τ 応力の減少の速さは粘性と弾性の 比、τ(=η/G)で決まる。τ は応力が初期の1/eになる時間で 緩和時間(relaxation time) 緩和弾性率 σ(t ) E (t ) = γ0 変形を与えた瞬間は ダッシュポットが動 かず、バネがのび、 それに対応した力が バネに蓄えられる 次第にダッシュポッ トが変形し始めて 応力が減少してい く 2) 緩和弾性率の測定例(ポリイソブチレン) CH3 (CH2 C)n CH3 Tg=-80℃ 一定の歪みを与えたとき の応力変化より緩和弾 性率を評価する。 引っ張り E ねじれ(ずり) G プラスチックボルト 締めた後応力が 低下する。 ナイロンボルト 直径8mmを1kNの力で締め付ける 応力緩和が 1/ 3 E = 5 exp(−t ) / GPa で与えられるとときのボルトの初期歪みを求める。 初期弾性率は5GPa、加わる応力は1000/[π(4x10-3)2]=1/16πGPa、 歪みは1/16π/5=3.98x10-3 24時間後の弾性率は、E(24)=0.2794GPa 歪みは変化がないので、応力は0.2794x 3.98x10-3=1.112MPa 力は1.112x16π=55.9N 3.2 静的粘弾性(クリープ) 1) Voigtモデル 高分子材料に一定の応力を与えたときの歪の変化の挙動 (クリープ挙動(creep) ) dγ σ = σ1 + σ 2 = G γ + η dt σ1 σ2 t=0で一定荷重σ0のときこの微分方程式を解く σ0 γ (t ) = (1 − e − t / τ ) G τ(=η/G)は遅延時間(retardation time)と呼ばれる時定数であり、歪の 時間的な遅れを示す。 t>τでは材料は粘性的 τ>tでは弾性的に振舞う t>>τで平衡の歪 に達する クリープコンプライアンス γ (t ) J (t ) = σ0 時間をかけた最終的 な変形はバネ単独の もの 3)クリープの測定例 一定の応力を加えたときの歪 みの変化 引っ張り D ねじり(ずり) J 高密度ポリエチレンのクリープ挙動 クリープの応用例 4 l pA δ= 384 EI p HDPEのパイプ、外径90mm、肉厚8mm 20℃で106秒間で自重によるたわみが10mm以下になるような支点の間隔を求めよ。 ただし、密度は0.97g/cm3、J20(106)=7.09GPa-1, ポアソン比0.41とする。 自重をpとするとp=19.61N/m I=(0.0454-0.0374)xπ/4=1.749x10-6 E=2(1+ν)/ J20(106) =0.3977GPa これらをδの式に代入し、δ<10mmとすると l4<10-2x384x0.3977x109x1.749x10-6/19.61 l<3.42m 3.3 動的粘弾性 σ = σ0 sin ωt 周期的な応力あるいは歪みを加えた場合 σ = σ0 eiωt 理想弾性体 σ σ0eiωt γ= = G G 応力と歪みに位相差は無く、エ ネルギーの損失は起こらない 純粘性液体 dγ σ σ0 iωt = = e dt η η σ 0 i ωt γ = −i e ηω 応力と歪みの位相差が90°、歪み速度と応力が同 位相になり、その積がエネルギーの損失となる 1) マックスウエルモデルの応答挙動 d γ 1 dσ σ = + dt G dt η σ = σ0eiωt σ0eiωt i (1 − ) γ= G ωτ i σ0eiωt 1 ωτ ) A( − γ= G A A cosδ−i sinδ σ o i ( ωt − δ ) γ = Ae G 1 A = 1+ 2 2 ωτ 歪みは応力よりδ位相が遅れる σ = G* (ω ) = G '(ω ) + iG "(ω ) γ σ 0 eiω t σ iωτ 1 = = =G A 1 i / ωτ γ σ 0 iωt − iδ 1 + iωτ ( − ) Ae e G A A G 動的貯蔵弾性率 動的損失弾性率 力学的損失正接 ω2 τ2 G ' (ω) = G 1 + ω2 τ2 ωτ G" (ω) = G 1 + ω2 τ2 1 tan δ = ωτ G”はωτ=1で極大を示す (エネルギーの吸収) 3)動的粘弾性の測定例(ポリイソブチレン) CH3 (CH2 C)n CH3 周波数↑ G’↑ 3.4 粘弾性の解析法 1)時間ー温度の換算則とWLF式 異なった温度で測定した応力緩和曲線あるいはクリープ曲 線を時間軸に沿ってずらすと一本の曲線につながる。 基準温度温度TsでのG G (t , T ) = G (T ) exp(−t / τ (T )) s s s τ (T ) = η (T ) / G (T ) s s s ある温度TでのG G (t , T ) = G (T ) exp(−t / τ (T )) τ (T ) = η (T ) / G (T ) 任意の温度でのバネ定数がゴム弾性にしたがう、すなわ ち絶対温度と密度に比例すると仮定すると ρT G (T ) = G (Ts ) ρ S Ts 従って、任意の温度での緩和 弾性率、G(t、T)は、ある基準 温度での緩和弾性率、G(t、Ts) を、縦軸方向にρT/ρsTsだ け移動し、時間軸方向にaT倍 すればよい。 τ (T ) aT = τ (T S ) log E(t) 温度TとTsで緩和時間の比 (移動因子:シフトファクター) (時間軸が対数の時、logaTシフトする ことに対応している。) ρT ρT G (t , T ) = G (Ts ) exp(−t / aT τ (TS )) = G (t / aT , Ts ) ρ sTs ρ sTs ポリイソブチレン TSより20K低温 緩和時間 100倍以上 TSより40K高温 緩和時間 1/100 Tsより低温の曲線は短時間側 Tsより高温の曲線は長時間側 に移動する。 ガラス領域 転移領域 ゴム状平坦領域 ゴム状流動領域 時間温度の換算則 基準298K 液状流動領域 実験不可能な領域の挙動を知 ることができる。 aT基準温度と測定温度の関数 高分子種を定めれば分子量に 依存しない log(t/aT) A. V. Tobolsky, Properties and Structures of Polymers, Wiley(1960). aTについては、Ts=Tg+50としたとき以下の実験式が成立する。 − 8.86(T − Ts ) log10 aT = 101.6 + T − Ts これをWilliams-Landel-Ferryの式(WLF式)と呼んでいる。 M. L. Williams, R. F. Landel, J. D. Ferry, J. Am. Chem.Soc., 77, 3701(1955). WLF式の形は、バネ定数Gと粘性率ηの温度依存性より aT = τ (T ) η (T ) η (Ts ) G (Ts ) η (Ts ) = / / = τ (TS ) G (T ) G (Ts ) G (T ) η (T ) ρ T η (Ts ) = s s / ρ η ( ) T T ここで粘度が自由体積,f(T)に依存するというDoolittleの式 B log η(T ) ≅ log A + ( ) f T に従うと仮定すると η(Tg)=1013poise 1 ρ sTs 1 exp B − aT = ρT f (T ) f (TS ) ここで自由体積分率の温度依存性(Tgにおけるf=vf/v) Tg f (T ) = f g + α f (T − Tg ) 1 B 1 − log aT = 2.303 f (T ) f (TS ) = − Bα f (T − Ts ) 比容 を代入すると(fg=0.025,αf=4.8x10−4K-1) 2.203{f g + α f (Ts − Tg )}{ f g + α f (T − Tg )} =− (B / γ )(T − Ts ) = − C1 (T − Ts ) 2.303α f {γ + (T − Ts )} C2 + T − Ts γ = ( f g / α f ) + (Ts − Tg ) ガラス状態 ゴム状態 温度 TS=TgのときC1=17.37、C2=51.65 となりWLF式が導かれる。 各種粘弾性関数への時間ー温度の換算則の適用 Tρ G 'T (ω ) = G 'Ts (ω aT ) Ts ρ s G "T (ω ) = Tρ G "Ts (ω aT ) Ts ρ s 温度ー時間換算則によっ て限られた周波数、時間 範囲のデータを周波数、 時間軸に拡張することが できる。 2) 等温測定と等時測定 温度一定で周波数を変化 周波数一定で温度を変化 3) 分子運動の活性化エネルギー 種々の測定周波数での動的粘弾性の温度依存性 ーピーク温度が周波数の増大とともに高温側へシフト ∆H * = − R d ln f max d log f max = −2.303R 1 1 d( ) d( ) T T CH3 (CH2 C)n C=O O ポリメタクリル酸シクロヘキシル(PCHMA)、ポ リアクリル酸シクロヘキシル(PCHA)、および シクロヘキサノールのtanδ極大のArrehenius プロット 3.5 粘弾性の応用 1) 高分子固体の粘弾性緩和機構 温度上昇あるいは周波数の低下とともに大きなスケールの分 子運動が弾性率の低下(緩和)あるいは損失弾性率の極大 (吸収)として観測される。 結晶性高分子 非晶性高分子 αa分散 G”、E” あるいはtanδ 結晶分散 αc分散 2)粘弾性で観測される緩和機構 活性化エネル ギー(kJ/mol) 緩和の名称 温度域 緩和機構 結晶緩和(αc、α2) (0.8〜0.9)Tm 結晶相内の分子鎖の熱振動により非調 和項が増加し、結晶が粘弾的になる。 170〜340 結晶粒界(αgb、αc、α1)Tαc近傍 モザイク晶界面、転移網あるいはラメラ表 面における結晶粒界のすべり。 80〜170 主分散(α、αa) Tg近傍 非晶領域の分子鎖のミクロブラウン運動 170〜850 副分散(γa、γc) Tg以下 結晶および非晶域における主鎖の局所 的捩れ運動 40〜80 副分散(γsc) Tg以下 側鎖全体の熱運動 40〜120 立体異性体緩和 Tg以下 シクロヘキサンの異性体転移 40〜80 メチル基緩和(ε、δ) T<<Tg メチル基の回転緩和 〜20 3)結晶化度と緩和挙動 α吸収 γ吸収 ポリ(エチレンテレフタレート)の力学緩和挙動 の結晶化度依存性 ●5%、 △34% 、○50% 結晶化度が100%でもγ吸収が 存在 γ吸収が非晶の局所運動だけで はなく結晶の欠陥部の格子不整 領域の局所運動も関与 4)結晶緩和 低密度ポリエチレ ン(LDPE)と高密度 ポリエチレン(HDP E)のtanδの温度 依存性 結晶化度が高い場合、 高温側の力学吸収が 顕著(結晶緩和) ポリエチレンの単結晶マット 270〜400Kに観測される結晶緩和に は2つの緩和機構が重なっている。E” の極大値は層厚の増加ともに増加 結晶相内の分子鎖熱運動に関与 (結晶緩和) α1:モザイク結晶界面での分子運動 の活性化 α2:ラメラ全体の均一な変形 σ 12 lamellar crystal amorphous region "αa- relaxation" mechanism σ 12 "α - relaxation" mechanism 1 結晶化温度の異なるポリエチレン単結晶 マットの力学緩和曲線 σ 12 "α - relaxation" mechanism 2 結晶緩和と格子振動 αC温度域での結晶a軸の熱膨張係 数の増大 分子運動の活性化を示唆 格子振動の非調和性の増大 グリュナイゼン定数の増大 (音速の圧力依存性と圧縮率より評価) 結晶緩和と結晶延伸 ポリエチレン 結晶相が粘弾的になる温度 (結晶緩和)α2 結晶緩和温度領域で延伸すると、分 子鎖に適当な張力がかかった状態 ラメラ晶から分子鎖が引き出され、 延伸物の配向性が良く、結晶欠陥 の導入も少なく、物性も良い 5)多相系材料 相分離系 各成分のα吸収が観測される 相混合系 各成分のα吸収の中間にE” のピークが出現 種々の多相系高分子材料の動的粘弾性の温度依存性 3.6 粘弾性と種々の特性 1) 衝撃強度と粘弾性 衝撃破壊では破壊にいたる歪みが小さく、線形粘弾性と相関がある PC 120-220Kにメチル基の回 転、C=O基の運動、フェ ニレンカーボネートに帰 属される大きな局所緩和 の存在 外部から加えられた衝撃 が内部摩擦により吸収さ れる→高い耐衝撃性 2)消音性 250-310Kに大きな吸収 可聴周波数で高い振動減衰能 単一成分高分子では 実現不可能 3成分ブレンド 4. 高分子の表面物性 高分子固体表面の性質 1. 2. 3. 4. 5. 摩擦 摩耗 接着 濡れ特性 生体適合性 4.1 接触角と表面自由エネルギー Young-Dupreの式 γ LV cos θ = γ SV − γ SL θ:接触角 S:固体 L:液体 V:飽和蒸気 Zisman Plot 種々の表面張力γLVの液体を用い て接触角θを測定 →γLV対cosθプロット γLVが固体表面のγSVに近づくと θは小さくなり、γLVのある値で 接触角は0° θ=0°になったときの液体のγLV が固体の表面張力、臨界表面張力 (critical surface tension)γCと定義 極性の高い官能基 高いγc 4.2 表面の分子運動特性評価 応答力信号 Hard Phase 走査型粘弾性顕微鏡 (Scanning Viscoelasticity Microscope:SVM) Soft Phase 刺激変位信号 表面動的粘弾性関数 高分子材料の表面に原子 間力顕微鏡のカンチレバー をnmオーダーの深さ押し込 み(inden t )試料ステージあ るいはレバーに正弦的な変 位を与える 表面の粘弾性関数 •変位と力の位相差、δ •力と変位の振幅比、E 単分散ポリスチレン固体膜の表面位相差、δsとバルクの tanδの温度依存性 Mn = 4.9k Tg Mn = 90k Tgs s Tg b Tg s Mn = 250k Tgs Tgb Mn = 54k Bulk tanδ / a.u. δs / a.u. Mn = 30k Tg b δs / a.u. Bulk tanδ / a.u. Tgb Mn = 1,450k Tg s Tgs Tg b Tgb 200 250 300 350 400 Temperature / K 450 200 250 300 350 400 Temperature / K 450 δs の増加し始 める温度を Tg と定義 単分散PS膜のTgs とTgb の分子量依存性 450 400 Tg / K 2 350 表面 Room temperature 1 300 1. : Surface 2. : Bulk 250 200 3 10 104 105 Mn 106 107 バルク Fox の式 表面の分子運動が活性化 •末端の表面局在化による自由体積分率の増大 •自由空間の存在
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