筑波大学大学院博士課程 システム情報工学研究科修士論文 カラー画像に対する効率的な視覚暗号の構成法 石原 武 (知能機能システム専攻) 指導教官 末廣 直樹 2003 年 2 月 概要 視覚復号型秘密分散法 (視覚暗号) は従来の暗号化の方法とは異なり復号にコンピュータを必 要としないという特徴がある.視覚復号型秘密分散法では秘密を復号できる権限のある参加 者の集合はコンピュータを使うことなく人間の視覚特性を利用して復号できる.一方で復号 できる権限のない参加者の集合に対しては秘密画像の情報が 1 ビットも漏れない.暗号化の 方法はある性質をもつ行列の組によって記述できることが知られている.最近,ある性質を もつ行列の組と対応する多項式の性質を調べることにより暗号化の方法を検討する研究が活 発になってきた.また,白黒画像における議論に比べカラー画像に対する議論は全般的にま だあまりなされていない.そこで本論文では特にカラー画像の暗号化について議論し,視覚 復号型秘密分散法における 2 つの新しい成果を上げた. 近年,白黒画像に対する視覚復号型秘密分散法の一般公式の多項式による表現が,Koga に よって与えられている.Koga の議論を拡張し,本論文の 1 つ目の成果として秘密画像がカラー 画像のときにも復号できる権限のない者に対して秘密画像の情報が 1 ビットも漏れないとい う特徴をもつ暗号化に対応する多項式を一般的に記述することに成功した.本論文では復号 できる条件についても考察し,復号時に見える色の定義を拡張することにより新しい視覚復 号型秘密分散法が構成できることを示した.議論は主に秘密画像において 2 色の色が使われ ているときを扱ったが,任意の K 色の場合に関しても 2 色のときの議論を発展させることが できた. 視覚復号型秘密分散法の欠点として,カラー多値画像に用いた場合に復元画像からもとの 秘密画像を識別することが非常に困難になることがあげられる.本論文の 2 つ目の成果は,カ ラー多値画像を秘密画像として用いる場合にも元の秘密画像を識別できるような視覚復号型 秘密分散法を提案したことである.具体的には加法混色の一種である平均混色を VSSS へ導 入することにより今までにない視覚復号型秘密分散法の枠組みおよび構成法を考えることが できた.本手法は有効性が認められ,電子情報通信学会の論文誌に掲載されている. 目次 第1章 はじめに 1 第 2 章 視覚復号型秘密分散法の基礎 2.1 束に基づく視覚復号型秘密分散法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2.2 基本行列の多項式表現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 第 3 章 カラー画像に対する視覚復号型秘密分散法の一般公式について 3.1 多変数多項式の割り算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3.2 2 色を暗号化する場合の LB-VSSS の拡張及び一般式について . . . . . . . 3.2.1 基本多項式の必用条件の一部を満たす多項式の一般式 . . . . . . . 3.2.2 LB-VSSS における初期条件の拡張 . . . . . . . . . . . . . . . . . 3.3 任意の色からなる秘密画像に対する LB-VSSS の拡張及び一般式について 3.3.1 基本多項式の必用条件の一部を満たす多項式の一般式 . . . . . . . 3.3.2 LB-VSSS における初期条件の拡張 . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 5 9 . . . . . . . . . . . . . . 12 12 14 14 16 21 21 24 . . . . . 29 29 29 30 34 35 第4章 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 平均混色を用いた視覚復号型秘密分散法 平均混色を用いた色表現 . . . . . . . . . MCM-VSSS において復元される色 . . . MCM-VSSS の構成法 . . . . . . . . . . . 平均混色を用いる上での注意点 . . . . . 他の方法との比較 . . . . . . . . . . . . . 第5章 まとめ 37 謝辞 38 参考文献 39 i . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 図目次 1.1 (3, 4)-VSSS の例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 2.1 2.2 2.3 Lcolor のハッセダイアグラム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . C = {C, Y} における (2, 2)-VSSS のシェアの例 1 (黄色が復元される場合) . . C = {C, Y} における (2, 2)-VSSS のシェアの例 2 (シアンが復元される場合) . 6 7 8 3.1 復元されたサブピクセルの例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 ii 第1章 はじめに Naor と Shamir [1] によって提案された視覚暗号は,計算機を用いることなく秘密画像を復号 できるという点において,今までにない新しい画像の暗号化の方式である.視覚暗号は視覚 復号型秘密分散法 (以下, 略して VSSS とかく) ともいい,復号には人間の目の視覚特性を利用 する. 文献 [1] において提案された (t, n)-VSSS について簡単に説明する.(t, n)-VSSS では参加者 は n 人いる.各参加者には暗号化された画像が印刷された透明なシートが,一枚ずつ配られ る.このシートは復号の際に必要であり,シェアとよばれる,任意の t 人の参加者が集まり, 各人のシェアを重ね合わせることによって秘密画像が復元される.一方で任意の t − 1 人以下 の人が集まっても秘密画像に関する情報は全く漏れない.つまり,t − 1 枚のシェアを重ね合 わせても,t − 1 枚以下のシェアについて解析をしても全く秘密は漏れないということである. 任意の t 枚のシェアが集まると計算機を用いることなく復号できるにも関わらず,任意の t − 1 枚以下のシェアを計算機によって解析しても 1 ビットも情報が漏れないというのが VSSS の 大きな特徴である.例として,(3, 4)-VSSS を以下の図 1.1 に示す.参加者の人数は 4 人であ 図 1.1 (3, 4)-VSSS の例 るからシェアの数は 4 であり,任意の 3 枚を重ね合わせることにより秘密が復元できる.一方 で任意のシェア 2 枚を計算機によって解析しても秘密画像に関する情報は全く漏れない.ま た,1 枚のシェアを見ても 2 枚のシェアを重ね合わせても秘密画像は復元されていないことに 注意する.暗号化はある性質を満たす行列の組によって記述される. 1 白黒画像に対する VSSS の研究には以下のようなものがある. 1. (t, n)-VSSS について (a) (n, n)-VSSS の最適化 [1] (b) 特定の k に対する最適化 [2, 3] (c) シェアのサイズを減らすための工夫 [4] (d) (t, n)-VSSS を求めるためのアルゴリズムの提案 [5, 6, 7] (e) 線形計画問題への変換 [8, 9] (f) 別の評価基準の提案 [10] (g) シェアの枚数を無限にしたときの最適化 [11] (h) 一般式の導出 [12] 2. (t, n)-VSSS 以外の VSSS (a) アルゴリズムの提案 [13] (b) 複数の画像を任意の集合にのみ復元 [5, 14] 3. VSSS の応用について (a) 白黒多値画像の暗号化 [15, 16] (b) シェアのすり替えを防ぐための ID 情報の付加 [17] (c) 認証への応用 [18, 19, 20] (d) 電子透かしへの応用 [21] (e) くじへの導入 [22] (f) 一様分布以外の分布を用いたシェア作成の安全性 [23] また白黒画像だけでなく,カラー画像を暗号化する方法も以下のように議論されている 1. (t, n)-VSSS について (a) 色を束の要素として扱う VSSS [24] (b) 色が塗られた部分は光を全く通さないという仮定のもとでの VSSS[25] (c) (t, n)-VSSS の構成法 [6] (d) (n, n)-VSSS において色の重ね合わせを考慮した場合の構成法 [24, 26, 27] (e) (n, n)-VSSS の解析的な構成法 [26] 2. (t, n)-VSSS 以外の VSSS 2 (a) 白黒画像における議論を拡張して構成 [26] (b) 複数の画像を復元できる場合の条件 [28] 3. VSSS の応用について (a) シェアのすり替えを防ぐための ID 情報の付加 [27] (b) シェアの並べる順番で復元画像が異なる VSSS[29] (c) ごく一部の限定されたカラー多値画像の暗号化 [31] 上記のように,VSSS の応用例として,すでに認証や電子透かしへの応用が提案されている. 今後も人間の目で復号できるという特性を活かした応用が出てくるものと思われる.暗号と しての用途以外にも例えばクジの用途としても使える “あわすとでーる” という製品もある. VSSS 自体は最近提案された手法であるにも関わらず応用面を含めて様々な研究がなされて いる.特に Koga らによって 2001 年に提案された手法はある性質をもった行列と対応するあ る性質を満たす多項式によって暗号化を記述するという点で今までの研究と異なった手法と なっている [26].この手法を用いた研究として [9, 12, 16, 27] 等の研究がある.特に [12] では ある性質をもった行列と対応する多項式を一般に記述することに成功している. これらの研究をふまえ,本修士論文の主要結果として次の 2 つの成果がある.1 つは,[12] の手法をカラー画像の場合において拡張したことであり.もう 1 つは白黒多値画像における 研究 [15] を拡張することによりカラー多値画像の暗号化も可能にしたことである. [12] の手法は秘密画像において用いられている色が白と黒の 2 種類であり,シェアに用い られている色も白と黒の 2 種類であった.一方で秘密画像がカラー画像の場合には用いられ ている色は白と黒の 2 種類以外にも例えば黄色やシアン,マゼンタなども考える.またシェ アに用いられている色も白と黒以外が考えられる.シェアに用いられている色が増えた場合 には多変数,特に 3 変数以上の多項式の割り算 [32] を導入して [12] の議論をさらに発展させ る必要がある.また秘密画像において 3 色以上を用いる場合には [12] の手法をそのまま使う ことができず,やはり [12] の議論を発展させる必要がある.本論文では拡張の際に必要とな るこれらの議論を発展させることによりいくつかの成果を得た.暗号化は t 枚未満のシェアで は秘密が漏れないという性質を含む 2 つの性質をもつ行列によってされる.本論文では t 枚 未満のシェアでは秘密が漏れないという性質をもつ暗号化に対応した行列と対応する多項式 を一般に記述することに成功した.また色の見え方を [26] から拡張することにより今までに ない VSSS を実際に得ることにも成功した. また既存手法 [31, 6, 26] ではカラー多値画像に対して暗号化をすると復号された画像から もとの画像を知覚することが非常に困難であるという問題があった.特に [31] ではカラー多 値画像の暗号化の例として特定の 24 色を秘密画像に用いたときの (2, 2)-VSSS のみを議論し ているが適用範囲が非常に狭い.またその他の手法 [6, 26, 27] では理論上では秘密画像が復 元されても復元画像から元の秘密画像を実際に知覚することが困難であった.そこで本論文 ではカラー多値画像に対しても復号された画像からもとの画像を知覚することができるよう な手法を提案した.具体的には加法混色の一種である平均混色とよばれる混色を VSSS に導 3 入した.平均混色はカラーテレビのディスプレイなどにも用いられている.本手法は有効性 も認められており,電子情報通信学会の論文誌にも掲載されている [30]. 本論文の構成は以下のようになっている.まず第 2 章においてカラー画像における暗号化 の手法の 1 つである束に基づく VSSS 及びその多項式表現による構成法について述べる.第 2 章の内容は本論文での議論の基礎となる重要な研究である.第 3 章ではカラー画像に対する 暗号化の方法について議論し,行列の多項式表現を用いて秘密が漏れないという性質をもつ 暗号化を一般に記述する.また色の見え方を [26] から拡張することにより今までにない VSSS を実際に構成する.第 3 章では,まず秘密画像において 2 色のみ用いられる場合を議論する. しかしながら本論文の第 3.3.1 節における定理を用いることにより,2 色の秘密画像に関する 議論は 3 色以上の秘密画像に対する暗号化へと拡張することが可能である.第 4 章では平均混 色を用いたカラー多値画像の暗号化について議論する.この結果,カラー多値画像において 復号画像から元の秘密画像を実際に知覚することができるようになった.実際に (2, 2)-VSSS においてシェアの印刷をしたので復号画像についての評価も述べる.最後に第 5 章において まとめと今後の課題について述べる. 4 第2章 視覚復号型秘密分散法の基礎 この章では視覚復号型秘密分散法の基礎として,2.1 節で束に基づく視覚復号型秘密分散法に ついて,2.2 節で視覚復号型秘密分散法の多項式表現について述べる.束に基づく視覚復号型 秘密分散法は,色を束の要素として扱う.これにより,白黒 2 値画像の場合だけでなく,一 般のカラー画像を秘密画像として用いることが可能になる.通常,視覚復号型秘密分散法は 基本行列というある性質をもった行列の組を構成することにより,秘密画像の暗号化を実現 する.視覚復号型秘密分散法における多項式表現では,基本行列と多項式の間に対応関係を もたせる.その結果ある偏微分方程式の解を求めることにより基本行列を構成できる.偏微 分方程式の解により基本行列を構成できるという点は斬新であり,本論文でも用いる重要な 手法である.束に基づく視覚復号型秘密分散法と視覚復号型秘密分散法における多項式表現 の議論は,どちらも白黒 2 値画像の場合にも適用可能である. 2.1 束に基づく視覚復号型秘密分散法 本節ではカラー画像における束に基づく (t, n) 視覚復号型秘密分散法 (Lattice-Based Visual Secret Sharing Scheme,以後は単に LB-VSSS と略記する) について [24] に基づき説明する. LB-VSSS では色を上限を求める演算 が定義された束 L の要素とみなし,A (白) を最小元,Z (黒) を最大元とする.秘密画像に使われる色の集合を C = {c1 , c2 , . . . , cK },シェアのサブピ クセルに使われる色の集合を E = {c1 , c2 , . . ., cK , A, Z} でそれぞれ記述する.本論文では簡単 / C を仮定する.本論文では C (シアン),Y (黄色),M (マゼンタ),R (赤),G (緑), のため A, Z ∈ B (青) として例えば C1 = {C, Y}, E1 = {C, Y, A, Z} の場合や C2 = {R, Z}, E2 = {R, A, Z} の場 合,そして C3 = {C, Y, M}, E3 = {C, Y, M, A, Z} の場合等を扱う.これらの色 A, C, Y, M, R, G, B, Z は図 2.1 で表わされるような上限をとる操作 が定義された束 Lcolor を構成する [26]. 通常の VSSS ではシェア画像を印刷する媒体が透明なために A は無色透明とも解釈できる.最 小元が A,最大元が Z という仮定からすべての X ∈ E に対して,X A = X, X Z = Z が成 立する.演算 の結果は色を重ね合わせた結果と一致させる.例えば Y M = R, C Y = G, C M = B であるとする. 次にアクセス構造について説明する.参加者の集合を P = {1, 2, . . . , n} とし,P の部分集合 のすべてを要素としてもつ集合を 2P とし,ΓQual は単調増加と仮定して 2P の分割 (ΓQual , ΓForb) を考える.ここで ΓQual が単調増加というのは,S ∈ ΓQual なる任意の S に対し,S ⊂ S ∈ 2P なるすべての S が ΓQual に含まれるということである.最小のアクセス可能な集合 Γ∗Qual を Γ∗Qual = {S ∈ ΓQual : T ⊂ S なるすべての T に対し T ∈ / ΓQual } 5 (2.1) 図 2.1 Lcolor のハッセダイアグラム によって定義する.例えば任意の 2 人以上が集まることによって復号できる (2, 3)-VSSS にお いて,φ を空集合として 2P = {{φ}, {1}, {2}, {3}, {1, 2}, {2, 3}, {1, 3}, {1, 2, 3}} ΓQual = {{1, 2}, {2, 3}, {1, 3}, {1, 2, 3}} ∗ (2.2) (2.3) ΓQual = {{1, 2}, {2, 3}, {1, 3}} (2.4) ΓForb = {{φ}, {1}, {2}, {3}} (2.5) である. 秘密画像が与えられた際,参加者の集合 P に含まれていないディーラーは秘密画像を n 枚 のシェアとよばれる画像に分割する.ディーラーはそれぞれのシェアを各参加者に 1 枚ずつ 与える.通常,i 番目のシェアは参加者 i ∈ P へ配布されるものとする.もし ΓQual に含まれて いる集合 S の参加者がそろえば秘密画像は復号できるが,S ∈ ΓForb なる集合 S の参加者が集 まっても秘密画像に関する情報は何ら漏れない. 各参加者に配布するシェアにおいて,秘密画像の色 ck (1 ≤ k ≤ K) に対応するピクセルは 各要素が E の成分である n × d の基本行列 Xck によって以下のように決まる.まず基本行列 Xck の列の並べ替えをすることによって得られる d! 個の行列の集合から,ランダムかつ一様 分布に従って一つの行列 X̂ck を選ぶ.この操作はたとえ秘密画像における色が同じであって も各ピクセルごとに必ず行う.参加者 i(1 ≤ i ≤ n) のシェアは X̂ck の i 行目の d 個の成分を サブピクセルとして順に配置することによって得られる.シェアの構成法から,一般に VSSS では列の並べ替えによって等しくなる行列は同じ行列と見なしてよいことに注意する.並べ 替えによって等しくなる行列は同じ行列として扱うため,本論文では二つの行列が等しいと いうことを片方の行列の列を適切に置換することによってもう片方の行列と完全に一致する という意味で用いる. 例 2.1 (2, 2)-VSSS のシェアの例 以下の 2 つの行列は秘密画像において,C = {C,Y} なる (2, 2) 視覚復号型秘密分散法の基本 6 行列である.構成法については 2.2 節で与える. XY = Y A C Z A Y Z C , XC = C A Y Z A C Z Y (2.6) 秘密画像のあるピクセルが Y のときに,基本行列 XY の列の並べ替えをすることによって得 られる d! 個の行列よりランダムかつ一様分布に従って選んだ行列 X̂Y 及び秘密画像のあるピ クセルが C のときにランダムかつ一様分布に従って選んだ行列 X̂C が例えば以下の行列だっ たとする. X̂Y = Y A C Z A Y Z C , X̂C = Y A C Z Z C A Y (2.7) このとき,各行の成分について,1 行目の成分の色をシェア 1 のサブピクセルとし,2 行目の 成分の色をシェア 2 のサブピクセルとして暗号化する.各サブピクセルの配置する場所は同 じ列の要素がシェアを重ねたときに同じ位置に来るようにする必要がある.シェア 1 とシェ ア 2 は共にサブピクセル C, Y, A, Z から構成されている.サブピクセルを割り当てるときに列 の並べ替えをするために,片方のシェアを見ても秘密画像に関する情報は何ら漏れない.基 本行列 XY によって構成されたシェアの復元されたピクセルをみるとサブピクセルは黒以外 では黄色しかなく,この基本行列によって構成されシェアから復元されたピクセルは黄色に 見えることがわかる.基本行列 XC によって構成されたシェアの復元されたピクセルをみる と同様に黒以外ではシアンしかなく復元されたピクセルはシアンに見えることがわかる.実 際のシェアにおけるピクセル及び復元されたピクセルは,4 つのサブピクセルとよばれるピク セルが集まって 1 つのピクセルを作っていることを考慮して,例えば図 2.2,図 2.3 のように なる. 図 2.2 C = {C, Y} における (2, 2)-VSSS のシェアの例 1 (黄色が復元される場合) ここで行列における記法をいくつか導入する.集合 S の要素数を |S| で表わすとし,行列 Xck に対し,S = {i1 , · · · , i |S|}, i1, · · · , i |S| ∈ P としたとき,S に含まれる参加者の行以外を取り 除いた |S| × d の行列を Xck [S] と表わす.また Xck [S] の列 j の要素 xi1 ,j , . . . , xi|S| ,j ∈ E の重 ね合わせた結果つまり xi1 ,j xi2 ,j · · · xi|S| ,j の演算結果が第 j 成分となるような 1 × d の 行列を h(Xck [S]) で定義する.定義から h(Xck [S]) は秘密画像における色 ck を暗号化したピ クセルが集合 S によって復元されたピクセルと対応していることがわかる. これらの表記を用いて,LB-VSSS における基本行列は以下のように定義される. 7 図 2.3 C = {C, Y} における (2, 2)-VSSS のシェアの例 2 (シアンが復元される場合) 定義 2.1 ([24]) 秘密画像における色が C = {c1 , . . . , cK } のとき,LB-VSSS における n × d の 基本行列 Xck (1 ≤ k ≤ K) は k と集合 S に依存する整数 vk (S) ≥ 1 がすべての k, S に対して 存在して以下の性質を満たす. (a) S ∈ Γ∗Qual なるすべての S に対して vk (S) d−vk (S) h(Xck [S]) = (ck , . . . , ck , Z, . . . , Z) (2.8) が成り立つ. (b) S ∈ ΓForb なるすべての S に対して, Xc1 [S] = Xc2 [S] = · · · = X cK [S] (2.9) が成り立つ.ここに式 (2.9) において行列が等しいという意味は,Xc1 [S] の列の置換を適 切にすることにより Xc2 [S], . . ., X cK [S] と同じ行列が得られるという意味である. 例えば式 (2.6) で与えられた基本行列に対して,XY [{1}] = Y A C Z であり,Y A = A Y = Y, C Z = Z C = Z より h(XY [{1, 2}]) = Y Y Z Z である.図 2.2 におけ る復元されたピクセルは h(XY [{1, 2}]) と対応していることがわかる. 最後に秘密分散法の評価基準の 1 つである明るさ α について定義する. 定義 2.2 ([26]) 定義 2.1 における基本行列の明るさ α を α = min min ∗ S∈ΓQual ck ∈C vk (S) d (2.10) と定義する. 例えば例 2.6 においては c1 = Y, c2 = C とすると v1 ({1, 2}) = v 2 ({1, 2}) = 2, d = 4 であるか ら,α = 24 = 12 である.一般に α の値が大きいほど色 ck を知覚しやすいという点で良い暗号 化といえる. 8 2.2 基本行列の多項式表現 次に基本行列に対応する基本多項式について [26] に基づいて説明する.列ベクトル v = (x1 , x2 , . . . , xn )T (T は転置を表わす) を与えたとき,すべての要素を並べ替えた n! 個の列ベク トルを連接することによって得られる n × (n!) の行列 Mn (x1 , x2 , . . . , xn ) を並べ替え行列と 定義する.束の要素 xj (1 ≤ j ≤ n) を記号 xj に対応させ,行列 Mn (x1 , x2 , . . . , xn ) を単項式 x1 x2 · · · xn に対応させる.同様に E の要素として例えば C, Y, M, R, G, B, A, Z はそれぞれ c, y, m, r, g, b, a, z に,そして c1 , . . . , cK にはそれぞれ c1 , . . . , c K を対応させる.また,並べ 替え行列の連接はそれぞれの行列に対応する単項式の和と対応させる.単項式 ca2 , cyz に対 応する並べ替え行列 M3 (C, A, A), M3 (C, Y, Z) はそれぞれ以下の形でかける. C C A A A A M3 (C, A, A) = A A C C A A A A A A C C C C Y Z Y Z M3 (C, Y, Z) = Y Z C C Z Y (2.11) Z Y Z Y C C また,行列の連接を記号 で表わすとして多項式 ca2 + cyz に対応する行列 M3 (C, A, A) M3 (C, Y, Z) は C C A A A A C C Y Z Y Z M3 (C, A, A) M3 (C, Y, Z) = A A C C A A Y Z C C Z Y A A A A C C Z Y Z Y C C (2.12) となる.本論文では基本行列を並べ替え行列の連接で構成し,基本行列 Xck が基本多項式 Fck ∂ ∂ に対応するとする.さらに,ψ = ∂c∂ 1 + ∂c∂2 + · · · + ∂c∂ + ∂a + ∂z を定義する.正整数 s,多 K s s−1 0 項式 f に対して ψ f = ψ (ψf ), ψ f = f と定義する.すると,任意の単項式に一度 ψ を適 用した多項式に対応する行列はもとの行列の任意の一行を抜いた行列に一致する.例えば式 (2.6) において,XY は基本多項式 FY = ya + cz に,XC は基本多項式 FC = ca + yz に対応 する.また,ψFY = ψFC = c + a + y + z であり,XC [{1}], X Y[{1}], X C [{2}], X Y[{2}] に対 応している.ここで行列の列の並べ替えによって得られる行列はすべて同一のものと見なす ことに注意する. ある性質を満たす基本多項式に対応する行列が,束に基づく (t, n)-VSSS [26] の基本行列 Xck (1 ≤ k ≤ K) になることが知られている.さらに本論文では束に基づく (t, n)-VSSS のう ち最大元,最小元以外との重ね合わせを考慮しない場合を詳しく扱う.以下の定理は重ね合 わせを最大元,最小元との重ね合わせに限定した場合の LB-VSSS であり,[26] より直ちに得 られる. 定理 2.1 秘密画像に使われている色の集合を C = {c1 , . . ., cK },シェアに用いられているサ / C とする.以下の性質を満たす ブピクセルの色の集合を E = {c1 , . . . , cK , A, Z} とし,A, Z ∈ とき,非負係数の総 n 次多項式 Fck (1 ≤ k ≤ K) は束に基づく (t, n)-VSSS の基本多項式に なる. (a) ψ n−t+1Fc1 = · · · = ψ n−t+1FcK 9 (b) すべての 1 ≤ k ≤ K に対して ψ n−t Fck |z=0 = Nk ck at−1 なる正整数 Nk が存在. ここで,q = |Fck | を Fck の係数の和とするとサブピクセルの数 d = n!q であり,明るさ α は minck ∈C Ndk t! t−1 個 α= と定義される.これは,ck a が t × (t!) の行列 Mt(ck , a, a, . . . , a) と対応す るからである.サブピクセルの数 q が色 ck により異なると明らかにサブピクセルの数を数え ることによってどのような (t, n)-VSSS であってもシェア 1 枚から秘密が漏れてしまう.とこ ろが,条件 (a) においてさらに ψ を t − 1 回施すことにより ψ n−1 Fc1 = · · · = ψ n−1 FcK となり, サブピクセルの数 q が色 ck に依らず一定というのは条件 (a) に含まれた暗黙の条件である.条 件 (b) を初期条件とよぶことにする.また,互いに共通項のない基本多項式 FC , FY を最小な多 項式とよぶ.条件 (a), (b) を満たす最小な多項式は一意にかけることが知られている [26].例え ば FC = ca + yz, FY = ya + cz は共通項がないので最小だが,条件 (a), (b) を満たす最小な基本 多項式として FC = ca + yz + z2 , FY = ya + cz + z2 や FC = ca + yz + 3z2 , FY = ya + cz + 3z2 等があげられ,条件 (a), (b) を満たす基本多項式は最小という条件がないと一意には決まら ない. t−1 例 2.2 C = {C, Y} における (2, 2)-VSSS の構成 [26] 定理 2.1 より多項式 FC , FY が以下の性質を満たすとき,FC , FY はそれぞれ C = {C, Y} であ る (2, 2)-VSSS の基本多項式となる. (a) ψFC = ψFY (b) FC z=0 = ca, FY z=0 = ya 条件 (b) より A1 , A2 を 1 次式として FC = ca + A1 z, FY = ya + A2 z (2.13) とかける.2 つの式の両辺に ψ を施すと ψFC = c + a + A1 + (ψA1 )z, FY = y + a + A2 + (ψA2 )z (2.14) が得られる.ところで,最小の基本多項式には共通項がない.また式 (2.14) において A1 , A2 が 1 次式より ψA1 , ψA2 が定数である.よって条件 (a) より A1 = y, A2 = c が得られる.さら に A1 = y, A2 = c は (ψA1 )z = (ψA2 )z も満たすため,結局 FC = ca + yz, FY = ya + cz (2.15) が得られる. 例 2.3 C = {C, Y} における (2, 3)-VSSS [26] 定理 2.1 を満たす 2 つの基本多項式は FC = (ca + yz)z, FY = (ya + cz)z 10 (2.16) によって与えられ,c1 = C, c2 = Y とすると d = 12, v1({1, 2}) = v 1 ({2, 3}) = v 1 ({1, 3}) = 1 である.式 (2.16) に対応する XC , XY は v2 ({1, 2}) = v 2 ({2, 3}) = v 2 ({1, 3}) = 1 より α = 12 それぞれ以下のようにかける. C A C A Z Z Y Y Z Z Z Z XC = A C Z Z C A Z Z Y Y Z Z , Z Z A C A C Z Z Z Z Y Y (2.17) Y A Y A Z Z C C Z Z Z Z XY = A Y Z Z Y A Z Z C C Z Z Z Z A Y A Y Z Z Z Z C C (2.18) また ψFC = (ca + yz) + (c + a + y + z)z なので ψFC に対応する行列は C A Y Z Z C A Z Z Y Z Z A C Z Y C Z Z A Y Z Z Z (2.19) であり,XC [{1, 2}], X C[{2, 3}], X C[{1, 3}] の列を適当に並べ替えることによって得られる行 列と一致する.同様に ψFY = (ya + cz) + (c + a + y + z)z なので ψFY に対応する行列は Y A C Z Z C A Z Z Y Z Z A Y Z C C Z Z A Y Z Z Z (2.20) であり,XY [{1, 2}], X Y[{2, 3}], X Y [{1, 3}] の列を適当に並べ替えることによって得られる行 列と一致する.さらに ψ 2 FC = ψ 2 FY = 2c + 2y + 2a + 6z であり,対応する行列 C A Y Z Z C A Z Z Y Z Z (2.21) は XC [{1}], X C [{2}], X Y[{1}], X Y[{2}] の列を適当に並べ替えることによって得られる行列と 一致する. 11 第3章 カラー画像に対する視覚復号型秘密分散 法の一般公式について この章では白黒画像における [12] の手法をカラー画像へと拡張することによりカラー画像に 対する視覚復号型秘密分散法の一般公式についてのべる.まず 3.1 節で基本行列の多項式表 現における議論において用いる多変数多項式同士の割り算を導入する.次に 3.2 節において 秘密画像において 2 色を用いる場合の一般公式について述べる.具体的にはまず行列と対応 する多項式表現を用いることにより秘密の漏れない暗号化を表わす行列に対応した多項式を 一般に与える.次に初期条件を拡張して今までにない VSSS を実際に構成する.最後に 3.3 節 において秘密画像において用いる色の数の制限がない場合の一般公式について述べる.秘密 画像における色の数が増えても秘密の漏れないという意味で基本多項式の候補となる多項式 が一般に作れることを示し,ある初期条件における VSSS を実際に構成する. 3.1 多変数多項式の割り算 まず c, y, a, z の 4 変数をもつ整数係数の総 n 次多項式全体の集合を Zn = { γi,j,k ci y j ak z n−i−j−k : γi,j,k ∈ Z} (3.1) i,j,k≥0 i+j+k≤n と定義する.ここに Z は整数全体の集合である.この節では, h1 , h2 , . . . , h u ∈ Zn として総 n 次多項式 f ∈ Zn を u 個の総 n 次モニック多項式の集合 h1 , h2 , . . ., h u で割ることを考える. モニック多項式とは多項式を構成する単項式のうち最大次数の係数が 1 である多項式のこと である.多変数多項式の割り算は例えば [32] で与えられているが,本論文で考えるのはすべ て総 n 次式のみである.以下は [32] をもとに単項式に全順序が定義できるときの多変数多項 式の割り算を説明をする. 単項式の全順序を定義するためには 1 次単項式に対する順序及び 2 次以上の単項式に対す る順序を定義する必要がある.まず,1 次単項式に対する順序付けを考える.c y とかいた とき,c の方が順序が早いとする.本論文では 2.2 節で定義した記号 c, y, a, z について cyaz (3.2) という順序付けにする.次に,i1 + · · · + i4 = n, j1 + · · · + j4 = n, 0 ≤ i1 , . . ., i 4 , j1 , . . ., j 4 ≤ n として,m1 = ci1 y i2 ai3 z i4 と m2 = cj1 y j2 aj3 z j4 の順序付けを考える.定義より m1 , m2 ∈ Zn 12 であり,m1 = m2 とする.本論文では次数逆辞書式順序 (Degrevlex) を順序付けとして用い る.次数逆辞書式順序とは,次数が高い方を順序が早いとする順序付けであり,次数が同じ ときは i4 < j4 または i4 = j4 , · · · , i k = jk , ik−1 < jk−1 なる k (1 ≤ k ≤ 4) が存在するときに m1 m2 とし,それ以外の場合 m2 m1 とする順序付けである.言い換えれば, 一次単項 式の順序が低い文字の次数が低いほど, 順序が早いとする順序付けである.例えば c2 y cy 2 , y 2 a c2 z である (ya2 = c0 y 2 a1 z 0 , c2 z = c2 y 0 a0 z 1 であり,i4 = 0 < 1 = j4 だから). 次にいくつか言葉の定義をする.単項式 m1 , m2 , . . . , m N において m1 m2 · · · mN とする.多項式 f = c1 m1 + · · · + cN mN , c1 , . . ., c N ∈ R\{0} において,主項 lt(f ) ≡ c1 m1 , 主単項 lm(f ) ≡ m1 , 主項係数 lc(f ) ≡ c1 と定義する.定義よりモニック多項式 f は主項係数 が 1 であるから,lt(f ) = lm(f ) である.例えば,f = 2y 2 a + 3c2 z において,lt(f ) = 2y 2 a, lm(f ) = y 2 a, lc(f ) = 2 であり,モニック多項式 h = ca2 +3yaz において,lt(h) = lm(h) = ca2 である. 以下, 総 n 次多項式 f を u 個の総 n 次モニック多項式の集合 h1 , · · ·, h u で割ることを考え る.この割り算は,以下のように再帰的に定義される. 定義 3.1 総 n 次多項式 f と集合 H = {h1 , · · ·, h u } の要素である u 個の総 n 次モニック多項 式 h1 , . . ., h u に対して以下のアルゴリズムを実行する. dev(f, H) ≡ (i)f = 0 のとき 0 (ii)lm(h ) = lm(f ) なる k が存在するとき最小の k に対して k dev(f − lc(f )hk , H) + lc(f ) · hk (iii) それ以外 lt(f ) + dev(f − lt(f ), H) ここで (ii) において f (f − lc(f )hk ) であり,(iii) において f (f − lt(f )) であるからアルゴ リズム dev(f, H) は有限回で終了し,f は以下の形で表わせることになる.ただし,rem(f, H) は (iii) における lt(f ) の総和である. f = dev(f, H) = u ri hi + rem(f, H) (3.3) i=1 以後は簡単のために単に f = ui=1 ri hi + rem(f, H) とかく.ここで,r1 , . . . , r u は実数での 割り算における商に、h1 , . . . , h u は割る数に、rem(f, H) は余りに相当する. 一般に集合 H の要素の順序を固定すれば式 (3.3) の r1 , r2 , . . . , r u や rem(f, H) は一意に決 まるが,要素の順序を入れ替えると (ii) の定義より式 (3.3) の r1 , r2 , . . . , r u や rem(f, H) は一 般に一意には決まらない. 例 3.1 割り算アルゴリズムの例 総 3 次多項式 f = 2ca2 − cz 2 を 2 個の総 3 次モニック多項式 h1 = ca2 − caz, h2 = caz − cz 2 で割ることを考える.集合 H = {h1 , h2 } として,lm(f ) = lm(h1 ) = ca2 より (ii) を用いると dev(f, H) = dev(f − 2 · (ca 2 − caz), H) + 2 · h1 = dev(2caz − cz 2 , H) + 2 · h1 13 (3.4) となる.さらに,lm(2caz − cz 2 ) = lm(h2 ) = caz より (ii) を用いて dev(2caz − cz 2 , H) = dev(2caz − cz 2 − 2 · (caz − cz 2 ), H) + 2 · h2 = dev(cz 2 , H) + 2 · h2 (3.5) となる.さらに cz 2 = 0, lm(cz 2 ) = cz 2 = lm(h1 ), lm(cz 2 ) = lm(h2 ) より (iii) と (i) を用いて dev(cz 2 , H) = cz 2 + dev(0, H) = cz 2 + 0 = cz 2 (3.6) を得る.式 (3.4)–(3.6) を組み合わせることにより, f = dev(f, H) = (2 · h1 + 2 · h2 ) + cz 2 (3.7) が得られた.式 (3.7) における rem(f, H) は cz 2 である. 3.2 2 色を暗号化する場合の LB-VSSS の拡張及び一般式について この節では,|C| = 2 の場合において特に C = {C, Y} の場合を扱うが,C = c1 , Y = c2 と すれば一般の |C| = 2 の場合においても全く同様の議論ができる. まず参加者が t 人未満のときに秘密が漏れない基本多項式の集合を与える.その後, 初期条 件に関する制約を加え,実際にいくつかの新しい VSSS を構成する. 3.2.1 基本多項式の必用条件の一部を満たす多項式の一般式 本節では VSSS に用いるサブピクセルが C, Y, A, Z の場合に基本多項式が定理 2.1 における 条件 (a) を満たすときの一般式を [12] と同様に与える.整数全体の集合を Z で表す.集合 Zn+ = { γi,j,k ciy j akz n−i−j−k : γi,j,k ∈ Z, γi,j,k ≥ 0} (3.8) i,j,k≥0 i+j+k≤n を定義し,多項式 f ∈ Zn の分解を以下のように定義する.多項式 f + , f − は Zn+ の要素とし て,f + と f − の共通項はないとする.また,x ∈ Zn+ において,0 · x を 0 と,x + 0 を x とそ れぞれ同一視する.ここで f = f + − f − とかけるとき,f + − f − を f の分解と定義する. 秘密画像に表われる色の集合が C = {C, Y} のときの最小な基本多項式をそれぞれ FC , FY として, f = FC − FY (3.9) と定義すると,定理 2.1 の条件 (a) の等式 ψ n−t+1 FC = ψ n−t+1 FY は ψ n−t+1f = 0 と同値である.以下の定理は本論文における主要結果の 1 つである. 14 (3.10) 定理 3.1 Zn を式 (3.1) で定義される総 n 次多項式の集合とし,式 (3.10) を満たす総 n 次多項 式 f の集合を Et,n = {f ∈ Zn : ψ n−t+1f = 0} (3.11) と定める.すると任意の f ∈ Et,n は,i, j, k ≥ 0, i + j + k ≤ n, i1 , j1, k1 , i2 , j2, k2 ≥ 0 として (i,j,k) et,n = ci1 y j1 ak1 z n−t−(i1 +j1 +k1 ) · (c − z)i2 (y − z)j2 (a − z)k2 (3.12) の整数係数の線形和,すなわち γi,j,k ∈ Z として, f= (i,j,k) γi,j,k et,n (3.13) i,j,k≥0 i+j+k≤n の形でかける.ただし,式 (3.12) において,各非負整数 i, j, k に対する非負整数 i1 , i2, j1 , j2 , k1, k2 は i1 + i2 = i, j1 + j2 = j, k1 + k2 = k, (3.14) i2 + j2 + k2 = t (3.15) を満たすよう任意に 1 つ選んで固定する (式 (3.14),(3.15) を満たすとき i + j + k ≤ n より (i,j,k) i1 + j1 + k1 ≤ n − t である).また式 (3.12) で表わされる et,n は ni=t i+2 2 個ある. (i,j,k) 証明 まず,すべての i, j, k に対して ψ n−t+1 et,n = 0 を示す.ライプニッツの公式より, f1 , f2 を c, y, a, z の多項式として整数 v ≥ 1 に対して, ψ (f1 f2 ) = v v τ =0 v (ψ v−τ f1 )(ψ τ f2 ) τ (3.16) が成立する.ここで f1 = ci1 y j1 ak1 z n−t−(i1 +j1 +k1 ) , (3.17) f2 = (c − z) (y − z) (a − z) (3.18) i2 j2 k2 とおくと,すべての τ ≥ 1 に対して ψ τ f2 = 0 であるから,式 (3.12) より (i,j,k) ψ n−t+1et,n = (ψ n−t+1f1 ) · f2 = 0 (3.19) となる.最後の等式は f1 が n − t 次式であることを使った. 次に任意の f ∈ Et,n が式 (3.13) の形で表されることを示す.式 (3.12) の形で表わされるす べての多項式を要素としてもつ集合 G を与える.定義 3.1 の割り算アルゴリズムを適用する ことにより,f は f= (i,j,k) γi,j,k et,n i,j,k≥0 i+j+k≤n 15 + rem(f, G) (3.20) の形でかける.ここで割り算の定義より rem(f, G) には G のどの要素の主単項が含まれるこ (i,j,k) ともない.式 (3.12) より et,n の主項は ci y j ak z n−i−j−k であり,G にはすべての (i, j, k) の 組に対する式 (3.12) が含まれていて,さらに式 (3.15) より i + j + k ≥ t であるから,ある h ∈ Zt−1 が存在し, rem(f, G) = hz n−t+1 (3.21) と表わせる.ここで,式 (3.19)–(3.21) より,ψ n−t+1 f = 0 は ψ n−t+1 (hz n−t+1 ) = 0 と同値で ある.さらに, 以下の 補題 3.1 条件 ψ l (hz l ) = 0, l ≥ 0, h ∈ Zn−l が成立するとき, h = 0 である. を使い (証明は後ほど述べる),結局任意の f ∈ Et,n は, f= (i,j,k) γi,j,k et,n (3.22) i,j,k≥0 i+j+k≤n とかけることが示された. (i,j,k) さらに,et,n は i1 , i2 , j1 , j2, k1 , k2 の選び方によらずすべて線形独立であることを示す.い ま,βi,j,k は式 (3.12) のうち主項が ci y j ak z n−i−j−k であるものの係数であるとし, (i,j,k) βi,j,k et,n =0 (3.23) i,j,k≥0 i+j+k≤n が成り立つとする.1 次単項式の順序付けとして式 (3.2) を,単項式の順序付けとして次数逆 辞書式順序をそれぞれ用いたので式 (3.23) の主単項は cn である.一方,式 (3.12) の中で cn (n,0,0) を含む多項式は et,n しかなく,βn,0,0 = 0 がわかる.βn,0,0 = 0 の状況のもとでは式 (3.23) n−1 の主単項は c y である.同様の議論をすると,βn−1,1,0 = 0 である.この議論を式 (3.23) の 左辺が 0 になるまで繰り返すことにより,式 (3.23) を満たす βi,j,k は取りうるすべての i, j, k (i,j,k) に対してすべて 0 であることが得られる.よって et,n は i1 , i2 , j1, j2 , k1 , k2 の選び方によら ずすべて線形独立であることが示せた. (i,j,k) (i,j,k) 最後に et,n の個数について考えるが,et,n は主単項がすべて異なるから主項が何種類 (i,j,k) あるかを調べれば et,n (i,j,k) の個数がわかる.et,n の主項に z は高々(n − t) 次しか含まれてい (i,j,k) ないため,ありうるすべての z の 0 次の項から z の (n − t) 次の項を数え上げれば良く,et,n の個数は i+2 n+2 t+2 + ···+ = 2 2 2 i=t n (3.24) と求まる. 3.2.2 LB-VSSS における初期条件の拡張 以下の条件 (a), (b) を満たすとき,FC , FY は C = {C, Y} に対する既存の LB-VSSS におけ る基本多項式の 1 つである. 16 (a) ψ n−t+1FC = ψ n−t+1FY (b) ψ n−t FC z=0 = N1 cat−1 , ψ n−tFY z=0 = N2 yat−1 を満たす正の整数 N1 , N2 が存在する. これを本論文では以下の定義に変える. 定義 3.2 C = {C, Y} として以下の条件 (a), (b’) を満たす FC , FY を広義の LB-VSSS の基本多 項式と定義する. (a) ψ n−t+1FC = ψ n−t+1FY (b’) ψ n−t FC z=0 = N1 cat−1 + ht , ψ n−t FY z=0 = N2 yat−1 + ht を満たす正の整数 N1 , N2 と整数係数をもつ総 t 次多項式 ht ∈ Zt+ が存在する. 定義 3.2 はさらに f = FC − FY とすることにより,以下のようにかくことができる. 定義 3.3 以下の条件 (c),(d) を満たす f ∈ Zn において,f の分解を f = f + − f − として基本 多項式 f + = FC , f − = FY は広義の LB-VSSS の基本多項式であると定義する. (c) ψ n−t+1f = 0 (d) ψ n−t f z=0 = N1 cat−1 − N2 yat−1 定義 3.2 において FC , FY は最小であるという制約も加えると,最小な基本多項式の一意性か ら定義 3.2 は定義 3.3 と同値であることは明らかであるので,本論文では今後は定義 3.3 を満 たす f を求める問題を解くことにする. 定義 3.3 によって定義される基本多項式 FC , FY に対応する基本行列の明るさを以下に定義 する. 定義 3.4 定義 3.3 によって定義される基本多項式 FC , FY に対応する基本行列の明るさ α´を α´= min i=1,2 Nit! d (3.25) と定義する.ただし,d は 1 つのピクセルを構成するサブピクセルの数である. N1 t! は色 C の秘密が復元されたピクセルにおいて,色 C のサブピクセルが色 Y の秘密が復元 されたピクセルにおける色 C のサブピクセルに比べていくつ余分に含まれているかを表わす. N2 t! は色 Y の秘密が復元されたピクセルにおいて,色 Y のサブピクセルが色 C の秘密が復元 されたピクセルにおける色 Y のサブピクセルに比べていくつ余分に含まれているかを表わす. (t−1) 個 なぜなら cat−1 に対応する並べ替え行列 Mt (c, a, . . . , a) は t! 個の列から構成されていて, t!個 h(Mt (c, a, . . . , a)) = [ c c · · · c ] (3.26) であるからである.結局 Nd1 t! は色 C のピクセルにおいて,色 C のピクセル,色 Y のピクセ ルに共通に含まれている分を除いた C のサブピクセルが全体に対してどの位の割合で含まれ 17 ているかを表わす. Nd2 t! についても同様で Y のピクセルにおいて,色 C のピクセル,色 Y の ピクセルに共通に含まれている分を除いた Y のサブピクセルが全体に対してどの位の割合で 含まれているかを表わす.例えば,復元されたピクセルがそれぞれ図 3.1 のように得られた とする.このとき,それぞれの 6 つのサブピクセルのうち,右側 4 つのサブピクセルは共通 に含まれている.図 3.1 の場合にはシアン,黄色のサブピクセルが 1 つづつ互いに共通に含 まれている.よってシアンが復元されたピクセルではシアンのサブピクセルが 2 つ余分にあ り,N1 = 2 となり,黄色が復元されたピクセルでは黄色のサブピクセルが 2 つ余分にあり, N2 = 2 であるから,図 3.1 の場合には α = 26 = 13 となる. 図 3.1 復元されたサブピクセルの例 系 3.1 式 (3.12) において,i1 = j1 = 0, k2 = t − 1 と定めた (1,0,i) = ai z n−t−i (c − z)(a − z)t−1 (3.27) (0,1,i) = ai z n−t−i (y − z)(a − z)t−1 (3.28) et,n et,n n−t n−t を考える. i=0 γ1,0,i > 0, i=0 γ0,1,i > 0 を満たす任意の整数 γ1,0,i, i = 0, 1, . . ., n − t およ び γ0,1,i, i = 0, 1, . . ., n − t に対して f= n−t (1,0,i) γ1,0,i et,n (0,1,i) − γ0,1,iet,n (3.29) i=0 は定義 3.3 の条件 (c), (d) を満たす.すなわち,式 (3.29) の分解によって得られる FC と FY は 定義 3.2 の意味で広義の LB-VSSS の基本多項式となる. 証明 式 (3.29) で定義される f が定義 3.3 の条件 (c) を満たすことは定理 3.1 より明らか.定 義 3.3 の条件 (d) を f が満たすことは,式 (3.19) の導出と同様に考えて t−1 = ψ n−t ai z n−t+i c − z a − z = (n − t)!cat−1, z=0 z=0 t−1 (0,1,i) = ψ n−t ai z n−t+i y − z a − z = (n − t)!yat−1 ψ n−tet,n (1,0,i) ψ n−t et,n z=0 (3.30) (3.31) z=0 n−t が成立することと i=0 γ1,0,i > 0, n−t i=0 γ0,1,i > 0 の仮定から容易に N1 = (n−t)! n−t 0, N2 = (n − t)! i=0 γ0,1,i > 0 が確かめられる. n−t i=0 γ1,0,i > 基本多項式 FC , FY が式 (3.29) の形で書けるとき明るさ α´は [12] における系 1 と同様に考えて, 以下のように導出される.式 (3.29) に c = y = a = z = 1 を代入すると常に f = 0 であるから 18 |f + | = |f − | であるので,q = |f + | = |f − | とおける.さらに d = q ·n!, N1 = (n−t)! n−t γ0,1,i を式 (3.25) に代入して N2 = (n − t)! i=0 α´= min n−t (n − t)!t! n−t i=0 γ1,0,i (n − t)!t! i=0 γ0,1,i , q · n! q · n! n−t i=0 γ1,0,i , (3.32) を得る.整理して α´= min n−t γ1,0,i , i=0 n−t γ0,1,i n t q i=0 (3.33) となる. 定義 3.3 をみたす (t, n)-VSSS の例を系 3.1 をもとにいくつか示す. 例 3.2 C = {C, Y} における (n, n)-VSSS 係数 γ1,0,0 = γ0,1,0 = 1 とすると, FC − FY = (c − z)(a − z)t−1 − (y − z)(a − z)t−1 = c(a − z)n−1 − y(a − z)n−1 = n−1 n−1 v v=0 v:even − ca z + n−1−v v n−1 n−1 v v=0 v:even n−1 v=1 v:odd z + n−1−v v ya n−1 yan−1−v z v v n−1 v=1 v:odd n−1 can−1−v z v v (3.34) が得られ, FC n−1 = v=0 v:even FY n−1 = v=0 v:even n−1 n−1 n−1 can−1−v z v + yan−1−v z v , v v v=1 v:odd (3.35) n−1 n−1 n−1 yan−1−v z v + can−1−v z v v v v=1 (3.36) v:odd となる.これは [26] の定理 3 に一致する.明るさは式 (3.35),(3.36) に y = a = c = z = 1 を 代入することにより n−1 n−1 n−1 q= + + ···+ = 2n−1 0 1 n−1 であるから,式 (3.33) より α´= 1 2n−1 (n n) = 1 2n−1 (3.37) である.このとき,定義 3.2 における初期条 件 (b’) は FC z=0 = can−1 , FY となっている. 19 z=0 = yan−1 (3.38) 例 3.3 C = {C, Y} における (2, n)-VSSS 係数 γ1,0,0 = · · · = γ1,0,n−2 = γ0,1,0 = · · · = γ0,1,n−2 = 1 とすると, FC − FY = (an−2 + an−3 z + · · · + z n−2 )(c − z)(a − z) −(an−2 + an−3 z + · · · + z n−2 )(y − z)(a − z) = (an−2 + an−3 z + · · · + z n−2 )(c − y)(a − z) = (an−2 + an−3 z + · · · + z n−2 )(a − z)(c − y) = (an−1 − z n−1 )(c − y) = (can−1 + yzn−1 ) − (yan−1 + cz n−1 ) (3.39) が得られ, FC = can−1 + yzn−1 , FY = yan−1 + cz n−1 となる.明るさは式 (3.33) より α´= n−1 2·(n 2) = 1 n (3.40) であり,サブピクセルの数 d = 2 · n! である. このとき,定義 3.2 における初期条件 (b’) は ψ n−2 FC ψ n−2 FY z=0 z=0 (n − 1)! 2 a 2! (n − 1)! 2 a = (n − 1)!ya + (n − 2) 2! = (n − 1)!ca + (n − 2) (3.41) (3.42) となっている. 例 3.4 C = {C, Y} における (3, n)-VSSS 係数 γ1,0,0 = γ1,0,1 = · · · = γ1,0,n−3 = 1, γ0,1,0 = γ0,1,1 = · · · = γ0,1,n−3 = 1 とすると, FC − FY = (can−1 − can−2 z − caz n−2 + cz n−1 ) − (yan−1 − yan−2 z − yazn−2 + yzn−1 ) が得られ, となる.明るさ α´= FC = can−1 + yan−2 z + yazn−2 + cz n−1 (3.43) FY = yan−1 + can−2 z + caz n−2 + yzn−1 (3.44) n−2 4·(n 3) 3 2n(n−1) = であり,サブピクセルの数 d = 4 · n! である.このとき, 定義 3.2 における初期条件 (b’) は ψ n−3 FC = U1 ca2 + (U2 ca2 + U3 ya2 + U4 a3 ) (3.45) = U1 ya2 + (U2 ca2 + U3 ya2 + U4 a3 ) (3.46) z=0 ψ n−3 FY z=0 となっている.ただし,U1 = (n−2)!, U2 = U3 = (n−3) である. 20 (n−2)! 2 , U4 = (n−3)(n2 −5n+10) (n−2)! 12 3.3 任意の色からなる秘密画像に対する LB-VSSS の拡張及び一般式 について 第 2 章では秘密画像に使われる色の集合を C = {c1 , c2 , . . . , cK },シェアのサブピクセルに 使われる色の集合を E = {c1 , c2 , . . . , cK , A, Z} でそれぞれ記述したが,この節では色の集合を C = {c1 , c2 , . . . , cK },シェアのサブピクセルに使われる色の集合を E = {b1 , b2 , . . . , bM , A, Z} でそれぞれ記述し,b1 , b2 , . . . , bM はいずれも A, Z と異なるとする.なお,束の要素 b1 , . . . , b M にはそれぞれ b1 , . . ., b M を対応させる. 3.3.1 基本多項式の必用条件の一部を満たす多項式の一般式 定理 3.1 は容易に任意の種類のサブピクセルを用いる場合に拡張可能である.つまり, Zn = { i1 ,...,iM +2 ≥0 i1 +···+iM +2 =n γi1 ,...,iM +2 bi11 · · · b iMM aiM +1 z iM +2 : γi1 ,...,iM +2 ∈ Z}, Zn+ = { i1 ,...,iM +2 ≥0 i1 +···+iM +2 =n (3.47) γi1 ,...,iM +2 bi11 · · · b iMM aiM +1 z iM +2 : γi1 ,...,iM +2 ∈ Z, γi1,...,iM +2 ≥ 0}, (3.48) として,同様に考えていくと ψ n−t+1 f = 0 なる性質をもった総 n 次多項式 f の集合 Et,n = {f ∈ Zn : ψ n−t+1f = 0} (3.49) の各要素が (i ,...,iM +1 ) et,n1 p p = b11 · · · b MM apM +1 z pM +2 (b1 − z)q1 · · · (b M − z)qM (a − z)qM +1 (3.50) の整数係数の線形結合で表わせることがわかる.ただし p1 , . . . , p M +2, q1 , . . . , q M +1 ≥ 0, p1 + · · ·+pM +2 = n−t, q1 +· · ·+qM +1 = t であり,p1 +q1 = i1 , . . . , p M +qM = iM , pM +1 +qM +1 = iM +1 である.証明は省略するが,f1 = bp11 · · · b pMM apM +1 z pM +2 , f2 = (b1 − z)q1 · · · (b M − z)qM (a − z)qM +1 として定理 3.1 と同様の議論をすれば良い.以下の定理は,任意の i, j (1 ≤ i, j ≤ K, i = j, K ≥ 2) において ψ n−t+1 Fci − Fcj = 0 (3.51) を満たし互いに共通項をもたない総 n 次多項式 Fc1 , . . . , F cK が,γi1 ,...,iM +1 ∈ Z を用いた (i ,...,i ) et,n1 M +1 の整数係数の線形結合 fi = (i ,...,iM +1 ) γi1 ,...,iM +1 et,n1 i1 ,...,iM +1 ≥0 i1 +···+iM +1 ≤n から得ることができることを保証している. 21 (3.52) 定理 3.2 任意の i, j (1 ≤ i, j ≤ K, i = j, K ≥ 2) において ψ n−t+1 Fci − Fcj = 0 (3.53) を満たし互いに共通項をもたない非負係数の総 n 次多項式 Fc1 , . . . , F cK ∈ Zn+ に対して,ある f1 , . . . , f K ∈ Zn と g ∈ Zn+ が存在して以下を満たす.ここで互いに共通項のない fi+ , fi− ∈ Zn+ は fi の分解 fi = fi+ − fi− により定義する.(i = j のとき fi+ , fj− においては互いに共通項が あっても良い.) (a) 各 i (1 ≤ i ≤ K) に対して fi は γi1 ,...,iM +1 ∈ Z を用いて fi = (i ,...,iM +1 ) γi1 ,...,iM +1 et,n1 (3.54) i1 ,...,iM +1 ≥0 i1 +···+iM +1 ≤n とかける. (b) すべての i (1 ≤ i ≤ K) に対して i によらない g ∈ Zn+ が存在して Fci = fi+ + K fj− + g (3.55) j=1 j=i とかける. 証明 定理 3.1 は全く同様の議論で任意の多変数において拡張することができ,式 (3.53) の条 件によって Fci − Fcj = (l ,...,l M +1 ) γl1,...,l M +1 et,n1 (3.56) l1 ,...,lM +1 ≥0 l1 +···+lM +1 ≤n (l ,...,l ) がいえる.ここで,et,n1 M +1 は式 (3.50) で表される.定義 3.1 で定義される割り算アルゴ リズムを用いることにより hi ∈ Zt−1 として Fci は Fci = (i ,...,iM +1 ) γi1 ,...,iM +1 et,n1 + hi z n−t+1, i = 1, 2, . . ., K (3.57) i1 ,...,iM +1 ≥0 i1 +···+iM +1 ≤n とかける.式 (3.57) の hi は一意である.一意にかけないとすると,hi ∈ Zt−1 として i1 ,...,iM +1 ≥0 i1 +···+iM +1 ≤n (i ,...,iM +1 ) (γi1 ,...,iM +1 − γi1 ,...,iM +1 )et,n1 (i ,...,i + (hi z n−t+1 − hi z n−t+1 ) = 0 ) (3.58) が得られ,条件 ψ n−t+1 et,n1 M +1 = 0 と補題 3.1 よりこれは矛盾である.ここで,hi が i に よらないことを示す.式 (3.57) より Fci − Fcj = (l ,...,l M +1 ) γi1 ,...,iM +1 et,n1 i1 ,...,iM +1 ≥0 i1 +···+iM +1 ≤n 22 + hi z n−t+1 − (j ,...,jM +1 ) γj1 ,...,jM +1 et,n1 + hj z n−t+1 j1 ,...,jM +1 ≥0 j1 +···+jM +1 ≤n = (l ,...,l M +1 ) l1 ,...,lM +1 ≥0 l1 +···+lM +1 ≤n γl1,...,l M +1 et,n1 + (hi − hj )z n−t+1 (3.59) である.式 (3.53) と ψ τ f2 = 0, τ ≥ 1 より ψ n−t+1 (hi − hj )z n−t+1 = 0 (3.60) であり,補題 3.1 を用いることにより (hi − hj )z n−t+1 = 0 から hi は i によらず一定値 h をと ることがわかる.式 (3.57) の hi は i によらず一定値をとるので fi = Fci − hzn−t+1 , i = 1, 2, . . ., K (3.61) とおくことにより,総 n 次多項式 Fc1 , . . ., F cK に対して,条件 (a) を満たすような f1 , . . ., f K ∈ Zn が存在することが示せた. 次に式 (3.61) より求めた fi が条件 (b) を満たすことを示す.多項式 Fci ∈ Zn+ と hz n−t+1 に共 + 通な項を gi z n−t+1 ∈ Zn+ とする.多項式 h に対しても分解を互いに共通項のない h+ , h− ∈ Zt−1 を用いて h = h+ − h− により定義する.多項式 fi の分解の定義から fi = fi+ − fi− = (Fci − gi z n−t+1 + h− z n−t+1 ) − (h+ z n−t+1 − giz n−t+1 ) (3.62) であり, fi+ = Fci − gi z n−t+1 + h− z n−t+1 (3.63) fi− = h+ z n−t+1 − giz n−t+1 (3.64) を得る.よって fi+ + K fj− = (Fci − gi z n−t+1 + h− z n−t+1 ) + j=1 j=i K (h+ z n−t+1 − gj z n−t+1 ) j=1 j=i = Fci + h− z n−t+1 + (K − 1)h+ z n−t+1 − K gj z n−t+1 (3.65) j=1 n−t+1 である.g ≡ h− z n−t+1 + (K − 1)h+ z n−t+1 − K とおいて g ∈ Zn+ を示す.gj の j=1 gj z + 定義より h+ − gj ∈ Zt−1 , j = 1, 2, . . . , K が成立する.また,gj , j = 1, 2, . . ., K の全てに共 通な項がないことから K + j=1 (h + − gj ) − h+ ∈ Zt−1 が成立し,g ∈ Zn+ が示せた. 23 3.3.2 LB-VSSS における初期条件の拡張 まず,色 C = {c1 , c2 , . . . , cK } における VSSS を定理 2.1 から拡張して定義する. 定義 3.5 すべての i, j (1 ≤ i < j ≤ K) の組に対して,以下の条件が成立するとき,Fck (1 ≤ k ≤ K) は色 C = {c1 , c2 , . . . , cK } に対して,広義の LB-VSSS の基本多項式であると定義する. (c) ψ n−t+1(Fci − Fcj ) = 0 (d) ψ n−t Fci − Fcj z=0 = Ni ci at−1 − Nj cj at−1 定義 3.5 を満たす基本多項式は以下の方法によって構成可能である. 系 3.2 系 3.1 と同様に考えて,各 k (1 ≤ k ≤ K) に対して, k 番目の要素のみ 1 (0, 0, . . . , 0, 1, 0, 0, . . . , 0,v) et,n = とし, n−t v=0 γk,v av z n−t−v (ck − z)(a − z)t−1 (3.66) > 0 の条件のもと fk = n−t k 番目の要素のみ 1 (0, 0, . . . , 0, 1, 0, 0, . . . , 0,v) γ0,0,...,0,1,0,0,...,0,v et,n (3.67) v=0 とする.ただし,γ0,0,...,0,1,0,0,...,0,v は 1 番目から M 番目までの添字のうち k 番目のみ 1 であ る.多項式 fk の分解 fk = fk+ − fk− をもとに,多項式の組 F̄ck = fk+ + K fj− (1 ≤ k ≤ K) (3.68) j=1 j=k からすべての F̄ck (1 ≤ k ≤ K) に共通に含まれている項 g ∈ Z を除いた多項式 Fck = F̄ck − g は色 C = {c1 , . . . , cK } に対する基本多項式となる. 証明 条件 (c) については定理 3.2 より確認できる.任意の i, j (1 ≤ i, j ≤ K, i = j) に対して 二つの基本多項式の差 Fci − Fcj が条件 (d) を満たすことを示す.すべての多項式 F̄ck に共通 に含まれている項を g とすると,定義より, Fci − Fcj = (F̄ci − g) − (F̄cj − g) = F̄ci − F̄cj = (fi+ − fi− ) − (fj+ − fj− ) = fi − fj である.ここで系 3.1 と全く同じ議論を用いれば,ψ n−t fi (3.69) z=0 = (n−t)!(ci −z)(a−z)t−1 z=0 = ci at−1 より fi − fj が条件 (d) を満たすことがわかり,Fci − Fcj が条件 (d) を満たすこともい えた. 秘密画像に用いられている色の数 M = 3 の場合である C = {C, Y, M} における基本多項式を 例として求める.以下の例においては,c1 = C, c2 = Y, c3 = M とする. 24 例 3.5 C = {C, Y, M} における (n, n)-VSSS 式 (3.50) において (n, n)-VSSS では p1 , p2, . . . , p 5 ≥ 0 かつ p1 + p2 + · · · + p5 = 0 より p1 = p2 = · · · = p5 = 0 である.q4 = n − 1 とすると e2,n (1,0,0,n−1) = (c − z)(a − z)n−1 , (3.70) (0,1,0,n−1) e2,n (0,0,1,n−1) e2,n = (y − z)(a − z)n−1 , (3.71) = (m − z)(a − z)n−1 (3.72) が得られ,γ1,0,0,0 = γ0,1,0,0 = γ0,0,1,0 = 1 を代入すると, f1 = (c − z)(a − z) n−1 n−1 = v=0 v:even − n−1 f2 = (y − z)(a − z) = n−1 v=1 v:odd f3 = (m − z)(a − z) n−1 = v=0 v:even − n−1 v=1 v:odd n−1 n − 1 n−1−v v+1 yan−1−v z v + a z , v v n−1 n−1 n − 1 n−1−v v+1 yan−1−v z v + a z v v v=0 v:even − n−1 n−1 n − 1 n−1−v v+1 can−1−v z v + a z , v v v=1 v:odd n−1 n−1 n − 1 n−1−v v+1 can−1−v z v + a z v v n−1 n − 1 n−1−v v+1 man−1−v z v + a z v v n−1 n − 1 n−1−v v+1 man−1−v z v + a z v v である.よって, f1+ f1− f2+ f2− = n−1 v=0 v:even = n−1 v=1 v:odd = n−1 v=0 v:even = n−1 v=1 v:odd (3.75) n−1 n − 1 n−1−v v+1 yan−1−v z v + a z , v v 25 (3.74) n−1 n − 1 n−1−v v+1 yan−1−v z v + a z , v v (3.73) n−1 n − 1 n−1−v v+1 can−1−v z v + a z , v v n−1 n − 1 n−1−v v+1 can−1−v z v + a z , v v (3.76) f3+ f3− n−1 = v=0 v:even = n−1 v=1 v:odd n−1 n − 1 n−1−v v+1 man−1−v z v + a z , v v (3.77) n−1 n − 1 n−1−v v+1 man−1−v z v + a z v v (3.78) となり, F̄C = n−1 n−1 v v=0 v:even + v n−1 n−1 v v=0 v:even + = v v=0 v:even + n − 1 n−1−v v+1 z + a z v n−1−v v ya ca ma v n−1 n − 1 n−1−v v+1 z + man−1−v z v + 2 a z , v v n−1−v v n−1 n−1 v=1 v:odd n−1 n − 1 n−1−v v+1 yan−1−v z v + man−1−v z v + 2 a z , v v v n−1 n−1 n − 1 n−1−v v+1 z + a z v n−1 n−1 v=1 v:odd F̄M ca n−1 n−1 v=1 v:odd F̄Y = n−1−v v n − 1 n−1−v v+1 z + a z v n−1−v v ca n−1 n − 1 n−1−v v+1 z + yan−1−v z v + 2 a z v v n−1−v v である.ここで, g= n−1 v=0 v:even n − 1 n−1−v v+1 n−1 n − 1 n−1−v v+1 a z + 2 a z v v v=1 (3.79) v:odd であるから,結局 FC = n−1 n−1 v=0 v:even FY = n−1 n−1 v=0 v:even FM = v v n−1 n−1 v=0 v:even v ca + n−1−v v z n−1 n−1 v=1 v:odd yan−1−v z v + v=1 v:odd ma z + v ya が得られる.これは [26] の定理 3 に一致する. 26 v n−1 can−1−v z v + man−1−v z v , v n−1 n−1 v=1 v:odd n−1 z + man−1−v z v , v n−1 n−1 n−1−v v v n−1−v v ca n−1 z + yan−1−v z v v n−1−v v 例 3.6 C = {C, Y, M} における (2, n)-VSSS e2,n (1,0,0,v) = av z n−2−v (c − z)(a − z), (3.80) (0,1,0,v) e2,n (0,0,1,v) e2,n = av z n−2−v (y − z)(a − z), (3.81) = av z n−2−v (m − z)(a − z) (3.82) とし,γk,v = 1 (k = 1, 2, 3, v = 0, 1, . . ., n − 2) を代入すると, f1 = (c − z)(an−1 − z n−1 ), (3.83) f2 = (y − z)(a ), (3.84) ) (3.85) n−1 f3 = (m − z)(a −z n−1 n−1 −z n−1 である.よって, f1+ = can−1 + z n , f1− = cz n−1 + an−1 z, (3.86) f2+ = yan−1 + z n , f2− = yzn−1 + an−1 z, (3.87) f3+ (3.88) = man−1 + z n , f3− = mz n−1 + an−1 z となり, F̄C = [can−1 + z n ] + [(yz n−1 + an−1 z) + (mz n−1 + an−1 z)], (3.89) F̄Y = [ya z)], (3.90) F̄M = [man−1 + z n ] + [(cz n−1 + an−1 z) + (yz n−1 + an−1 z)] (3.91) n−1 + z ] + [(cz n n−1 +a n−1 z) + (mz n−1 +a n−1 である.ここで,g = z n + 2an−1 z であるから,結局 FC = can−1 + (y + m)z n−1 , (3.92) FY = yan−1 + (c + m)z n−1 , (3.93) FM = ma (3.94) n−1 + (c + y)z n−1 が得られる. 補題 3.1 の証明 証明の方法は [12] と同じである.総 l 次多項式 h は s(i, j, k) = c i y j an−i−j−k 27 (3.95) とすることにより, h= n−l k=0 βi,j,k s(i, j, k)z k (3.96) i,j≥0 i+j≤k とかける.証明は l に関する帰納法によって行う.仮定と結論が同じため,l = 0 の場合は自 明である. ψ l (hz l ) = ψ l−1 (lh + zψh) = 0 (3.97) lh + zψh = 0 (3.98) より, と仮定し,ψ l (hz l ) = 0 の場合に h = 0 を導く.今度は k に関する帰納法を使う.式 (3.98) に おける左辺の z 0 の項を考えると, s(i, j, 0) の各項の係数はそれぞれ lβi,j,0 となり,式 (3.98) の 仮定より βi,j,0 = 0 がいえる. さて,式 (3.98) における左辺の z k の項を考えると l βi,j,k s(i, j, k)z k + z ψ i,j≥0 i+j≤k i,j≥0 i+j≤k + z βi,j,k s(i, j, k − 1) z k−1 βi,j,k s(i, j, k) k · z k−1 (3.99) i,j≥0 i+j≤k である.帰納法の仮定より,βi,j,k−1 = 0 であるから,結局式 (3.98) より (l + k) βi,j,k s(i, j, k) = 0 (3.100) i,j≥0 i+j≤k であり,βi,j,k = 0 である.よって k に関する帰納法により式 (3.98) は成立し,式 (3.97) の仮 定のもと,h = 0 が成立した.結局 l に関する帰納法も成立したため, 補題 3.1 が成立した. 28 第4章 平均混色を用いた視覚復号型秘密分散法 この章では平均混色を用いた VSSS ( Visual Secret Sharing Scheme Using Mean-Value Color Mixing ,以後は略して MCM-VSSS と表記) の構成をする.まず第 4.1 節で平均混色について 説明し,第 4.2 節で平均混色における色を本論文ではどのように扱うかを述べる.第 4.3 節で MCM-VSSS を具体的に構成した後,第 4.4 節で提案手法における注意点について述べる.最 後に第 4.5 節で今までの手法との比較をし,提案手法の有効性について検証する. 4.1 平均混色を用いた色表現 複数の色の点を密集して並置したものを,距離を離して遠くから見ると色が混ざってあた かも混色したように見える.これを並置的平均混色という.カラーテレビのブラウン管では 並置的平均混色が使われていて,混色結果はそれぞれの色刺激の平均によって示すことがで きる [33].例えば,緑と赤を交互に密集して並置すると,カラーテレビでは黄色に見える.紙 の上に印刷された場合には,光の量が十分でないために黒みがかった黄色に見える.本章で は,色は 3 次元単位立方体 I 3 = [0, 1]3 の内部にある 3 次元ベクトルとし,第 1,第 2,第 3 成 分をそれぞれ赤成分,緑成分,青成分とする.色 d1 , . . . , d u ∈ I 3 が面積比率でそれぞれ wj だけ含まれている領域を考える.平均混色によってこの領域がある一色の色 c に見えるとき, c = uj=1 wj dj の関係があることがグラスマンの法則より与えられる [33]. 4.2 MCM-VSSS において復元される色 この節では平均混色において見える色がどのように表せるのかをもとに,VSSS における復 元されたピクセルがどのような色として知覚されるかについてを検討する. 秘密画像における K 色の色 c1 , . . . , c K ∈ I 3 を考える.本論文では,ck ∈ I 3 と束 L の 要素 ck を同一視する.ここで,e1 = (1, 0, 0), e 2 = (0, 1, 0), e 3 = (0, 0, 1), 0 = (0, 0, 0), 1 = (1, 1, 1) を定義し,それぞれ赤,緑,青,黒,白に対応させる.明らかに,ck = (rk , gk , bk ) は ck = rk e1 + gk e2 + bk e3 と表わされる.以降,4.1 節における {d1 , . . . , d u } を {e1 , e2 , e3 , 0} として扱っていく.暗号化したサブピクセルは e1 , e2 , e3 , 0, 1 のうちのどれかとする.復号結 果を cḱ で表わすことにすると, cḱ = 3 wk,iei + wk,00 i=1 29 (4.1) となる.ここで wk,0 , wk,1, wk,2, wk,3 はそれぞれ復号されたピクセルにおける黒,赤,緑,青 の全体に対する面積比率であり,wk,0 + wk,1 + wk,2 + wk,3 = 1, wk,0, wk,1, wk,2, wk,3 ≥ 0 を満 たす.暗号化したサブピクセルは e1 , e2 , e3 , 0, 1 のうちのどれかであるが,復号されたピクセ ルにおいては e1 , e2 , e3 , 0 のみから構成されており,1 は表われないことに注意する.復号さ れた色 cḱ を ck と知覚できるために,S ∈ Γ∗Qual に依存してもよいが k にはよらないある定数 βS > 0 と同じく S ∈ Γ∗Qual に依存してもよいが k にはよらないあるベクトル c0 (S) が cḱ (S) = βS ck (S) + c0 (S) (4.2) を満たすことを要請する.画質の評価基準として倍率 β = min βS ∗ S∈ΓQual (4.3) を定義する.倍率 β が大きいほどお互いの色の差がはっきりとわかるという意味で知覚しや すい復元画像が得られることがわかる. また,式 (4.2) における βS が色 ck に依存しないため,以下の性質が成立し,復元画像が知 覚されることがわかる. (a) 色 ck と色 cḱ の間に 1 対 1 の対応関係がある.すなわち,もし ck = cl であれば,cḱ = cĺ である. (b) もし ck = (rk , gk , bk ) と cl = (rl , gl , bl) が rk < rl を満たすなら,cḱ = (rk , gk , bk ) と cĺ = (rl , gl, bl ) は rk < rl を満たす.同様の性質が ck と cl の第 2 成分と第 3 成分におい ても成立する. 4.3 MCM-VSSS の構成法 この節では,平均混色に基づいた VSSS の構成方法について示す.まず,暗号化の前に秘密 画像における色空間 I 3 を量子化する.そのために,ある正の定数 l に対して整数 M を lM ≤ 1 となるように定め,色集合 C = {(rl, gl, bl) : r, g, b = 0, 1, . . . , M } (4.4) を考えて {c1 , . . . , c K } によって C を表わす.例えば vl ≤ r < (v + 1)l のとき,値 r を vl と する量子化を用いることにより,任意の色集合 C から C が得られるが,一般に量子化の方法 によらず提案手法は用いることができる.定義より K = (M + 1)3 が成立する.我々は ck と ck を同一視することに注意する.またこの節においては表現を分かりやすくするために ck を ck = (rk l, gkl, bk l) と表わすが,一方で 4.1 節と 4.2 節では ck = (rk , gk , bk ) と表わしていたこ とにも注意する.以下のように MCM-VSSS の基本行列を定義する. 定義 4.1 行列 Xck (1 ≤ k ≤ K) を各要素が L = {R, G, B, A, Z} に値をとるような n × d の行列とする.以下の 2 つの条件を満たすとき,行列 Xck (1 ≤ k ≤ K) が秘密画像の色集 合 C = {c1 , . . . , c K } における MCM-VSSS の基本行列であると定義する.仮定として ck = (rk l, gkl, bk l) ∈ C で表わせるとする. 30 (a) 任意の集合 S ∈ Γ∗Qual に対して Xck (1 ≤ k ≤ K) は以下の性質を満たす.ここで US は正 整数を表わし, NX(h(Xck )[S]) は h(Xck [S]) における色 X ∈ L の数を表わす. NR(h(Xck )[S]) = US rk , (4.5) NG(h(Xck )[S]) = US gk , (4.6) NB(h(Xck )[S]) = US bk , (4.7) NZ(h(Xck )[S]) = q − US (rk + gk + bk ) (4.8) (b) 条件 S ∈ ΓForb を満たす,すべての集合 S に対して Xck [S] が k に依らない.つまり, Xck [S] = Xcl [S] (4.9) がすべての ck , cl ∈ C, k = l に対して成立する. MCM-VSSS は LB-VSSS [26] をもとに構成することができる.行列の組 (XR, XZ(R)) を 色 {R,Z} に対する LB-VSSS の基本行列とすると,定義 2.1 よりすべての S に対して µS ≥ 1 となる S に依存する変数 µS が存在し,以下の 2 つの性質が成立する. (a) 任意の集合 S ∈ Γ∗Qual に対して以下の性質を満たす. µS d−µS h(XR ) = (R, . . . , R, Z, . . ., Z), d h(XZ ) = (Z, Z, . . . , Z, . . ., Z) (R) (4.10) (4.11) (b) 条件 S ∈ ΓForb を満たすすべての集合 S に対して XR [S] = XZ(R) [S] (4.12) である. 基本行列の組 (XG , XZ(G) ) と (XB , XZ(B) ) についてもそれぞれ色 {G,Z},{B,Z} に対する LB-VSSS の基本行列であり,(4.10)–(4.12) と同様の条件が以下のように成立するとする.ただし µS は 式 (4.10) で用いているものと同一の変数とする. (a) 任意の集合 S ∈ Γ∗Qual に対して以下の性質を満たす. µS d−µS h(XG) = (G, . . . , G, Z, . . . , Z), d h(XZ ) = (Z, Z, . . ., Z, . . . , Z), (G) µS d h(XZ ) = (Z, Z, . . . , Z, . . ., Z) 31 (4.14) d−µS h(XB) = (B, . . ., B, Z, . . . , Z), (B) (4.13) (4.15) (4.16) (b) 条件 S ∈ ΓForb を満たすすべての集合 S に対して XG [S] = XZ(G) [S] (4.17) XB [S] = XZ [S] (4.18) (B) である. このような基本行列の組は [26] にある方法を使って例 2.2 のように構成することが可能である. 以上の定義を用いて秘密画像における色 C を暗号化する方法として MCM-VSSS の基本行 列を構成するための方法を述べる. 定理 4.1 色集合 C を (4.4) で定義されたものとする.MCM-VSSS における基本行列はすべて の ck ∈ C に対して以下のように構成できる. Xck rk M −rk gk M −gk = XR · · · XR XZ · · · XZ XG · · · XG XZ · · · XZ(G) bk (R) (R) M −bk (G) XB · · · XB XZ(B) · · · XZ(B) (4.19) ここで, ck = (rk l, gk l, b kl) であり,XR , XZ(R), XG, XZ(G), XB, XZ(B) は式 (4.10)–(4.18) で定義さ れた LB-VSSS の基本行列である. 証明 定義 4.1 の条件 (a) についてまず示す.A ∈ Γ∗Qual のとき,式 (4.10) ,式 (4.13) ,式 (4.15) より NR(h(Xck [A])) = µS rk (4.20) NG(h(Xck [A])) = µS gk (4.21) NB(h(Xck [A])) = µS bk (4.22) であることが示され,定義 4.1 における US は µS になる.また,残りのサブピクセルがすべ て黒であることも式 (4.10), (4.11),(4.13)– (4.16) より明らかである.次に定義 4.1 の条件 (b) について示す.A ∈ ΓForb のとき,式 (4.12),(4.17),(4.18) より M 個 M 個 Xck [A] = XR [A] · · · X R [A] XG [A] · · · X G [A] M 個 XB[A] · · · X B [A] (4.23) であり,色 ck によらず同じ行列が得られる. ここで,MCM-VSSS の画質に関する以下の系が成立する. 系 4.1 定理 4.1 によって構成された MCM-VSSS において,倍率 β は β ≥ α3 を満たす.ここ で, α = minS∈Γ∗Qual µdS は MCM-VSSS において考えたものと同一のアクセス構造に対して秘 密画像における色が C ={R, Z} である式 (4.10)–(4.12) を満たす LB-VSSS における明るさで ある.( 構成法から秘密画像における色が C ={G, Z} である LB-VSSS における明るさ及び秘 密画像における色が C ={B, Z} である LB-VSSS における明るさとも一致している.) 32 証明 まず復号された色について調べることにする.行列 XR, XZ(R), XG, XZ(G), XB, XZ(B) はそれ ぞれ n × d の行列であるので,復号されたピクセルは 3M d 個のサブピクセルからできている. これらのサブピクセルのうち,式 (4.20)–(4.22) より赤は µS rk 個,緑は µS gk 個,青は µS bk 個であることが分かる.残りは黒であるから, cḱ = 1 µS ck µS rk , µS gk , µS bk + 0 = 3M d 3M dl である.仮定より α = minS∈Γ∗Qual より µS d β= であるため β = α 3M l である.さらに仮定より M l ≤ 1 α α α ≥ = 3M l 3·1 3 となる.よって β は M l = 1 のときのみ最小値 α 3 (4.24) (4.25) をとる. 3 また,表現できる色数は K = (M + 1) となることも定理 4.1 の構成法から直ちにわかる. 注意 いま,考えているアクセス構造と同じアクセス構造に対する白黒 2 値画像における基本 行列をそれぞれ XA , XZ とする.基本行列 XA はピクセルが白のときに用いる基本行列であり, 基本行列 XZ はピクセルが黒のときに用いる基本行列である.式 (4.19) から XR, XZ(R) , XG, XZ(G) を消去し,XB を XA に置き換え,XZ(B) を XZ に置き換えることにより,[15] において与えら れている白黒多値画像における基本行列を得ることができる. 例 4.1 27 色の秘密画像における (2, 2)-VSSS M = 2, l = 0.5 とし,(2, 2)-VSSS を考える.色 c1 = (0.5, 1, 0) は以下の基本行列を使って暗 号化できる. Xc1 = XR XZ(R) XG XG XZ(B) XZ(B) (4.26) ここで XR , XZ(R) は以下のようにして [26] と同様に構成できる. 多項式 FR , FZ が以下の性質を満たすとき,FR , FZ はそれぞれ C = {R, Z} である (2, 2)-VSSS の基本多項式となる.ここで,z̃ は z と異なるとして,最小な基本多項式 FR , FZ を求めるこ とにする. (a) ψFR = ψFZ (b) FR z=0 = ra, FZ z=0 = z̃a 条件 (b) より A1 , A2 を総 1 次式として FR = ra + A1 z, FZ = z̃a + A2 z (4.27) とかける.2 つの式の両辺を偏微分すると ψFR = r + a + A1 + (ψA1 )z, FZ = z̃ + a + A2 + (ψA2 )z 33 (4.28) が得られる.最小の基本多項式には共通項がないので式 (4.28) において ψA1 , ψA2 が定数で あることを考慮すると,条件 (a) より A1 = z̃, A2 = r が得られる.さらに A1 = z̃, A2 = r は (ψA1 )z = (ψA2 )z も満たすため,結局 FR = ra + z̃z, FZ = z̃a + rz (4.29) が得られる.最後に,z̃ = z とすることにより, FR = ra + z 2 , FZ = az + rz (4.30) が得られる.FR と FZ に共通な項は含まれないので,FR と FZ は最小な基本多項式である. 対応する基本行列は XR = R A Z Z A R Z Z , XZ = (R) Z A R Z A Z Z R (4.31) で表わされる.XG , XZ(G), XB, XZ(B) も式 (4.31) から容易に得られ,以下のようになる. XG = XB = G A Z Z A G Z Z B A Z Z A B Z Z , XZ = (G) , XZ = (B) Z A G Z A Z Z G Z A B Z A Z Z B (4.32) (4.33) よって式 (4.26) に式 (4.31)–(4.33) を代入することにより, Xc1 = R A Z Z Z A R Z G A Z Z G A Z Z A R Z Z A Z Z R A G Z Z A G Z Z Z A B Z Z A B Z A Z Z B A Z Z B (4.34) となる. 4.4 平均混色を用いる上での注意点 この節では,実際に平均混色を用いるときの注意点について述べる. まず,シェアを印刷するときの解像度について述べる.印刷環境として EPSON のカラープ リンタ PM-920C を用いた.まず Adobe の画像処理ソフトウェア Photoshop LE においてシェ アの解像度を変え,EPSON の専用 OHP シートに PM-920C を用いて印刷して,平均混色を用 いた (2, 2)-VSSS において M = 12 としてシェアを印刷するために適すると思われる解像度に ついて調べた.このプリンタは 1440dpi × 720dpi の印刷が可能であるが,1 つの正方形のピク 34 セルを正確に打てるのは 72dpi 辺りまでであった.それ以上の解像度では場所によって白の ピクセルがつぶされたりするが,VSSS が実現できないほどではない.うまく重なりさえすれ ば 200dpi においても VSSS が実現できることを実際に確かめた. 解像度が大きいほど,2 つの点が良くなる.第 1 の利点は 1 つのサブピクセルが小さいた めに 1 つ 1 つのサブピクセルが目立つことがなく,理想的な平均混色が行われるようになる ことである.ただ,例えば 72dpi においても 2 メートルほど離れて見ることによりきちんと した復元画像は得られるし,135dpi においても細部を見ると再現性が良くない部分もあるた め,復元画像と人間の間の距離に大きく依存することになる.2 つ目に,解像度が大きいほ どシェアサイズを小さくすることができるという利点がある.例えば (2, 2)-VSSS において, 20 l = 255 , M = 12 としたとき,式 (4.31) を XR , XZ(R) として,式 (4.32) を XG , XZ(G) として,さら に式 (4.33) を XB, XZ(B) として用いると d = 4 であり原画像における一つのピクセルは 12 × 12 のサブピクセルに分解される.これは原画像が縦横ともに 12 倍に拡大されるということであ り,解像度が小さいとシェアのサイズが非常に大きくなることを意味する. 一方で解像度が小さいほど 1 つのサブピクセルが大きくなり復号がしやすいという利点が ある.200dpi を超えると重ねることが難しく,印刷領域の微妙なずれにより画像の上半分は 復号されるが下半分は復号された画像が見えないといったような不具合が起きやすい.また プリンタには性能の限界があり,ある解像度を超えると正確にサブピクセルを印刷できない. よって解像度は大きすぎても小さすぎてもいけない.原画像により最適な解像度は異なる が,200dpi 辺りが限度であり,画質の劣化が許せる範囲で解像度を小さくしていくのが良い だろう.実験した環境では 110–140dpi 辺りで行うのが妥当ではないかと思われたが,用いる プリンタによってこの数値は一般に異なることが予想される. 次に,シェアを印刷するときの注意点について述べる.各サブピクセルは非常に小さい点 のため,彩度が低いと刺激が弱く復号された画像を知覚しにくい.よって各サブピクセルの 彩度は大きくした方が良い.しかし,彩度が低い場合には下から光を照らすなどの工夫によ りかなりの改善をすることができる. また本論文では量子化を行うときに vl ≤ r < (v + 1)l のときに値 r を vl とする量子化を考 えたが,それ以外にも例えば vl ≤ r < (v + 1)l のときに値 r を v + 12 l とする方法も考えられ る.2 つの方法を比べると通常は中間値をとる量子化の方が望ましい.しかしながら例えば 2 2 1 l = 10 として,r = 10 を表わすには R 1 つ,Z 4 つですむが,r = 10 を表わすには R 1 つ,Z l 9 つ必要といったように中間値をとる量子化では 2 の色を再現するために,切り捨てによる 量子化に比べて 2 倍のピクセル数を必要とする.よって本論文では vl ≤ r < (v + 1)l のとき, 値 r を vl とする量子化を考えた. 4.5 他の方法との比較 この節では既存の LB-VSSS のみを用いた方法と MCM-VSSS を用いた方法との違いについ て述べる.評価対象として,倍率 β とサブピクセルの数について (n, n)-VSSS における具体的 な比較をする.なお,束に基づく VSSS を用いると C = {c1 , c2 , . . . , cK } の場合に (n, n)-VSSS 35 では α = K·21n−2 かつ d = n · K · 2n−1 なる暗号化が得られることが知られている [26]. 倍率 β については,MCM-VSSS の方が多くの場合有利である.系 4.1 をもとに考えると 1 C = {R, Z} に対して (n, n)-VSSS における明るさ α は α = 2n−1 であり,MCM-VSSS を用い 1 た場合,色数 K が増えても一定値 3·2n−1 以上になる.一方,LB-VSSS では式 (2.8) における vk (S) が k に依存しないとすると,cḱ = αck なる関係があるために β = α = K·21n−2 である. √ 3 サブピクセルの数については,定理 4.1 より MCM-VSSS を用いた場合,n · 3 · 2n−1( K − 1) であり,LB-VSSS では n · K · 2n−1 となり,やはり MCM-VSSS を用いた場合のほうが良く なる. 色数が極端に増える写真などの場合においては,LB-VSSS における (n, n) しきい値法の場 合の明るさやサブピクセルの数を実際に計算して分かったように従来手法では復元画像にお いてほとんど黒に近くなってしまい,復元画像からもとの秘密画像を識別することは非常に 困難になる.LB-VSSS においては,色の重ね合わせにより明るさ α が大きくなることが報告 されている [27] が,それでも色数が増えるに従い復元画像における黒の割合が増えることは 変わらず,色数が極端に増えた場合,MCM-VSSS しか今のところ有効な手法はないものと思 20 , M = 12 であり,K = (12 + 1)3 である場合において われる.(2, 2)-VSSS において,l = 255 秘密画像として SIDBA のデータベースの girl,aerial,milk drop 等を 100 × 100 ピクセルの画像 に変換した秘密画像を用いて実際にシェアを印刷して復号し,正しく復号されることをきち んと確かめ,提案手法の有効性を確認した. 36 第5章 まとめ 本論文では,視覚復号型秘密分散法における 2 つの新しい成果を上げた.1 つめの成果は視覚 復号型秘密分散法の基本多項式表現における一般式についての考察を行ない,秘密の漏れな い VSSS の多項式表現を得たことである.秘密の漏れない VSSS の多項式表現に初期条件を 与えたときの (t, n)-VSSS について今までにない幾つかの具体例も得た.2 つめの成果として 加法混色の一種である平均混色を VSSS へ導入し,MCM-VSSS を構成した.これまでなされ た研究では,カラー多値画像を秘密画像として用いた場合に復号画像から元の秘密画像を知 覚することは困難であった.しかしながら,MCM-VSSS を用いることにより (2, 2)-VSSS に おいて階調数の多い画像場合でも復号画像から元の秘密画像を知覚することができるように なったことを実際に確かめた.MCM-VSSS は有効性が認められ,[30] に掲載されている.提 案した手法は一般のアクセス構造にも適用でき,適用範囲が非常に広い. それぞれの成果に対して今後は以下のような発展させた研究が考えられる.まず視覚復号 型秘密分散法の基本多項式表現における研究については復元画像が知覚できるという定義に ついて議論を深めていきたい.これは初期条件の与え方を議論することと同じであり,VSSS の多項式表現における議論の拡張につながる.たとえば本論文では色の重ね合わせは最小元 との重ね合わせ及び最大元との重ね合わせのみ考慮しているが,それ以外の重ね合わせも明 るさの改善という点で重要である [24, 26, 27].本論文においては色の重ね合わせを許した場 合の色の見え方については定義しておらず,今後の課題の 1 つである. カラー多値画像における暗号化において MCM-VSSS よりもさらに効率の良い方法を提案 すること,もしくは MCM-VSSS が最適であることを議論するのも今後の課題である.復元 画像の評価基準として倍率を提案したが,この基準に関する議論も必要である. 37 謝辞 本研究をするにあたり,お世話になりました先生方や研究室のメンバー,友人達,そして今 年度一年間奨学生として採用して頂いた財団法人中村積善会の方々に感謝致します. 指導教官である末廣直樹先生,中村裕一先生,古賀弘樹先生には授業などを通して特にお 世話になりました.また古賀先生には筑波大学における最初の学生ということで研究におけ るアドバイスから論文作成におけるまでかなりの時間を割いて頂いたと思います.おかげで 学部時代からを含め毎年の学会発表及び 2 本の論文採録という輝かしい成果をあげることが できました.今年度の就職活動において第一希望の企業にすんなりと入れたり財団法人中村 積善会の奨学生として採用されたのも先生の熱心なご指導の結果があってのものです.あり がとうございました.また研究室のメンバーである理工学研究科 1 年生の大石琢也君,影澤 潤一君及び研究室のメンバーであった工学システム学類卒業の渡邊直樹君からゼミのときに 研究についてのコメントを頂き,自分にとっての励ましとなりました.例えば本論文での成 果の 1 つである MCM-VSSS はカラー多値画像の暗号化ができるとのことで非常に興味を持っ てもらえ,途中で挫折しかけたものの,方向転換をせずにもう少しやってみようと思わせて くれました.おかげで MCM-VSSS についての研究も無事成果をあげ,論文化に至りました. 研究室のメンバーである工学システム学類 4 年生の佐藤直樹君,宮城大輔君は各人の研究発 表を通して不足がちだった情報理論の知識を与えてもらいました.さらに宮城君にはパソコ ン関連についての手伝いも沢山して頂き,感謝しています.また普段の交流を通して研究への 活力を与えてくれた友人達にも感謝をしたいと思います.今年度一年間奨学生とさせて頂い た財団法人中村積善会の方々にも深く感謝致します.お蔭様で今年度は今までと違い,研究 に十分な時間をかけることができました.またアルバイトがないということと,借金ではな いということで心の余裕も生まれ,それまでに比べると自由な時間を持てたと思います.も ちろんそれなりのプレッシャーはありましたがうまく研究へのモチベーションにつなげられ たと思います. 今後の僕自身の活躍をもってお世話になった皆様への感謝の意を示していきたいと思いま す.ありがとうございました. 38 参考文献 [1] M. 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