ものづくりと材料技術者教育プログラム

シリーズ 未来を担う人づくり
ものづくりと材料技術者教育プログラム
─ 関西大学 凝固プロセス研究室 ─
関西大学 教授 三 宅 秀 和
関西大学化学生命工学部化学・物質工学科マテリアル科学コースは、その前身である先端マテリアル
工学科において、「材料および材料関連分野」での日本技術者教育認定機構(JABEE)による「材料
技術者教育プログラム」として、全国の材料系大学のトップを切って認定・官報に公示された。本稿
では技術者教育の取り組みと当該研究室のものづくりの世界について紹介する。
1.はじめに
を担う人材の育成と学術・技術に関する独創的研究を
建学 120 余年の「伝統と精神」、「質実剛健」の気風
通して社会の発展に寄与することを目標に構築された
ものである。
を育んできた関西大学において、昭和 33 年に工学部
とくに理工系学部での特別研究(卒業研究)は、問
開設時に金属工学科がスタートし、平成 20 年に創立
題解決の方法を修得する絶好の機会であると同時に、
50 周年の記念すべき年度を迎えた。その間、平成 2
教員と学生が一体となって取り組む交流の場として非
年には材料工学科に、平成 15 年には先端マテリアル
常に重要視している。すなわち、修得した自然科学お
工学科に改称した。半世紀の教育・研究の歴史を踏ま
よび個別材料に関する知識の応用力、問題解決のため
えて、平成 19 年 4 月、「化学生命工学部化学・物質工
に必要な計画を立てる能力、グループで研究を進める
学科マテリアル科学コース」として、更なる発展を継
協調性とコミュニケーション能力、自らの創意工夫に
続すべく再編された。その間、新素材の開発、材料の
より課題や問題に対する解決策を切り拓いてゆける創
改質、材料の複合化による多機能化など、時代のニー
造性を身につける場として特別研究(卒業研究)を位
ズに対応すべく、金属材料、無機材料(セラミックス)、
置づけている。
有機材料(高分子)等の工業材料について、材料の構
また、自然科学の基礎とその応用の修得のみならず、
造と物性、材料の製造プロセスおよび評価法など、材
多面性を持った思考力・技術者倫理・自律性・コミュ
料に関する基礎、応用および関連科目を配置した。さ
ニケーション能力などを修得するための教育に関する
らに材料を工学的見地から総括的に理解すると共に、
カリキュラムを設定している。とくに地域社会におけ
新素材、複合材料の開発等工学的課題の解決に、対処
る循環型・環境適応型社会の構築に貢献できる材料技
し得る技術者養成を目指してきた。
術者の備えるべき能力を養う場として、特別講演、イ
平成 15 年には日本技術者教育認定機構(JABEE:
ンターンシップ、研究室合宿、研究会、工場見学を提
Japan Accreditation Board for Engineering Educa-
供している。さらに、情報化時代の技術者育成の見地
tion)による「材料技術者教育プログラム」が全国の材
から情報処理に関する演習と実習も取り入れている。
料系大学のトップを切って認定・官報に公示された。
その後、平成 20 年には認定・継続され、引き続いて豊
かな創造力および表現力を持って材料分野における諸
問題に対処しうる研究・技術者の育成を目指している。
3.研究室スタッフと研究概要 タイトルにある「凝固プロセス研究室」は、昭和 36
年に故尾崎良平京都大学名誉教授によって開講された
2.人材育成教育
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「鋳造工学研究室」に前身をおくもので、その後、岡田
本学における人材育成教育は、関西大学の教学理念
明 関西大学名誉教授(平成 14 年 11 月 3 日「勲四等
「学の実化」を原点として、社会の発展に大きな役割
平成 2 年には当該の「凝固プロセス研究室」に改称し、
SOKEIZAI
Vol.51(2010)No.5
旭日小綬章」を受章)による「鋳造加工研究室」を経て、
シリーズ 未来を担う人づくり
現在に至る。平成 22 年 3 月末で、542 名の卒業生を
社会に送り出している。平成 22 年度の研究室スタッ
フは、三宅秀和教授、星山康洋准教授、2 名の委託研
究員と 3 名の共同研究生、1 名の博士課程後期課程大
学院生および 8 名の博士課程前期課程大学院生ならび
に 11 名の学部卒論生である。
研究室のコンセプトは、その基礎に金属および合金
の溶解・注湯および凝固の一連の過程を置くもので、
古くは紀元前 3500 年頃のメソポタミヤ文明に遡るこ
とが可能(温故知新)であるとともに、視点をかえれ
ば現代技術の粋を集めた超急冷凝固法や反応性プラズ
マ溶射法による融体加工法で代表される非晶質合金・
粒子分散皮膜材としての機能材料の開発(発想転換)
の可能性が産まれてくるのである。
(2)鋳鉄のアモルファスの世界
鋳鉄の超急冷凝固(スプラット・クーリング)によ
り、非晶質(アモルファス)薄帯の作製に成功してい
る。このアモルファス薄帯鋳鉄の表面状態を最新の機
器(AES・ESCA・MOLE)を駆使して、キャラクタ
リゼーションすることによって、鋳鉄の液体構造と凝
固との関係を解明するための研究を継続している。
(3)発泡ポリスチレンと減圧振動下の世界
発泡ポリスチレンを製品と同じ形状の模型を利用す
る消失模型鋳造法に、環境適応型の減圧フルモールド
法を導入し、注湯時ならびに凝固時に種々の条件で振
動を適用できる方法を提案し、この技術を「減圧振動
消失模型鋳造法」と称して、ニーズ指向型の技術開発
を行っている。
(4)急速凝固の世界
溶融した粉末が基材に衝突し凝固する時の冷却速度
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が 10 K/s ∼ 10 K/s と極めて大きく、非平衡相や過飽
和固溶体が容易に得られるプラズマ溶射法を利用する
ことにより、微細な in-situ 粒子を分散させた複合材
料の作製を試みるとともに、シーズ指向型の新しい材
初晶オーステナイト組織
料開発の可能性を検討している。
共晶セル組織
以下に著書、「鋳鉄の知られざる世界」に因んで、
反応性プラズマ溶射装置
主な研究テーマを「アピールの世界」的発想で紹介
する。
(1)白鋳鉄の知られざる世界
鉄−炭素系白鋳鉄の加熱による組織変化ならびに加
熱示差熱分析曲線の測定から、加熱中にもかかわらず
セメンタイトがオーステナイトと共融して生じた溶湯
から、黒鉛−オーステナイト共晶が凝固し、これが再
度融解することを見出している。このように加熱中に
4.おわりに
21 世紀においては正にものづくりにおける材料革
新の時代となる。今後も新規の材料開発と従来の材料
の改良とが相俟って、「温故知新」と「発想転換」の
世界・・・・・それが当研究室の研究指針である。
も関わらず、溶解→凝固→溶解するという現象を明ら
参考文献
かにしたのは当研究室が初めてである。このようなア
1 )著書:鋳鉄の知られざる世界(関西大学出版部)
カデミックな研究を通して鉄−炭素系合金の複平衡凝
2 )JABEE HP:http://www.jabee.org.
固論の実証を行っている。
3 )関西大学 HP:http://www.kumse.kansai-u.ac.jp
4 )関西大学 HP:http://www.kansai-u.ac.jp/Fc_che/
Vol.51(2010)No.5
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