図表の作成について 1 理系の論文において図や表は理論を説明したり結果を表現するための重要なものであり,読者がわかりやすい ように作成することが重要である.以下に図や表の作成のために知っておくべき基本的な事項について述べる.図 はグラフや構造図など様々なタイプの図があるため,それらについて分けて記述しているが,いずれの場合も最 も重要なことは読者が見てすぐに理解できるということである. 1.1 2 次元グラフの作成 グラフの作成の際に留意すべきことを以下にまとめる.ここでは最も基本的な 2 次元グラフを想定しており,他 のタイプのグラフについては後の小節で説明する. • その図で何を伝えたいかが相手に伝わるように図を作成する 相手にどういうことをわかって欲しいかを考え,どのように図を見せると最も効果的であるかを考える.ま た,見た目にも図を美しく作る.図の出来栄えには著者がその論文に込めた思いが現れる. • 図番号および適切なキャプションを図の下に記載する 本文中から図を引用できるように通し番号を付ける.また,図だけを見ても何を表しているのかおおよその ことがわかるように適切なキャプションを付ける.図番号およびキャプションは図の下に書き,横位置は中 央部に記載するのが一般的である.また,図のキャプションは図の名前でもあり,1 つの論文の中で複数の 図が同じキャプションを持ってはいけない. • 図は 4 辺を枠で囲む (必須かどうかは不明) その方が見た目に美しいと思うのと,そうすべきと主張する人も多い. • 図中の文字および数値はなるべく大きく書く 本文の文字サイズに合わせるのが最も良いが,必要に応じてなるべく見やすい文字サイズを選ぶ. • 図の縦軸と横軸が何を表しているのかがわかるように各軸に物理量と単位を書く 軸ラベルの書き方はいくつかの流儀があるので,論文誌の主流な書き方を参考にする.以下に例を示す. または λ (µm) – Wavelength [µm] または – λ [µm] – Wavelength, λ [µm] – Wavelength / µm Wavelength (µm) または Wavelength, λ (µm) (国際純正応用物理連合 (IUPAP) 推奨らしい ) 個人的には “λ [µm]” または “Wavelength [µm]” のどちらかを使用している.理由は軸ラベルが冗長になら ない方が見やすいと考えるためである.また,単位には “[ ]” を使うべきと考えている.理由は “t (s)” のよ うに書いたときに変数 s の関数と間違いやすいためである.ちなみに,変数と単位の間は半角スペースを空 けること.縦軸は反時計回りに文字を回転して記載する.左右に異なる軸を付けるときも文字の回転方向は 反時計回りに回転する.大きさのみを比較したいときにあえて物理的な単位を付けずに [AU] あるいは [a.u.] (arbitrary unit : 任意単位) とすることがある (この省略は [arb. unit] の方が好ましいかもしれない). • 軸には適切な目盛りと数値を示す 目盛りは通常は等間隔で付ける (対数グラフなどはそれに合わせる).まず全体を大きな目盛り (主目盛り) で 分割し各目盛りの数値を示す.次に必要に応じて主目盛りの間を小さな目盛り (副目盛り) で細分割する.目 盛りは図の内側に付けることが多いが,決まりであるかは不明 (外に付けている図もないわけではない.そ の方が図中の線と重ならないというメリットもある).目盛りと数値は縦軸は左に,横軸は下に付ける.そ れぞれの対辺に目盛りのみを付ける場合もあるがこれも必須ではない.ある方が数値を読み取りやすいとは 思うが,主観ではあるが図としてはない方が美しいように思う. Power density [10 13 W/m3 ] 12 Visible 10 T= 6,000 K 8 5,000 K 6 4,000 K 3,000 K 4 2 0 0.0 0.5 1.0 1.5 Wavelength [µm] 2.0 2.5 図 1: 黒体放射の電力密度の波長と温度依存性 • 軸に付ける数値の桁はなるべく揃える 数値を “0, 0.5, 1, 1.5, 2” などとせずに “0.0, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0” とし,特に縦軸では小数点の位置が揃うよ うに書く.ただし,0.0 だけは 0 と書く方が良いかもしれない.縦軸の数値が整数であるときも 1 の桁が揃 うように書く.数値が大きくなるときには指数表示を用いる. • 複数のデータを載せるときは区別できるように工夫する パラメータを変えて得られた結果などを一つのグラフに記載するときは,線やマークの種類を変えて区別が つくようにし,凡例を付けるか線の近くに説明を付けてどういうデータかがわかるようにする.線を区別す る際に色分けすると楽であるが,最終的に白黒印刷されるような場合には色分けだけではなく線の種類 (実 線,破線,点線,一点鎖線など) を変えて区別する.線の太さ,マークの大きさにも気を配る.軸が 2 つの 場合には,そのデータがどちらの軸に対応するかをわかるように示す. • 凡例を付けるときは適切な位置に適切に示す やむを得ない場合を除き,最低限なるべくデータの線やマークに重ならないように配慮する.凡例を書くと きは,線の右に説明を書く場合とその逆の場合があるが,線の右に説明を書く方が多いように思う.また凡 例の文字は小さくなりやすいが,できる範囲内で軸ラベルの文字サイズに近づけるように努力する. • 図中の文字は全て英語で記述する 図には非常に多くの重要な情報が載せられており,それだけを見てもある程度のことがわかるように通常は 作られるべきである.そのため,母国語を異にする人でも図を見てある程度のことが理解できるように図中 の文字は英語で記述するべきである. • グラフはベクトルデータで出力する グラフを論文やスライドに取り込むときは画像としてではなく,ベクトルデータとして保存したものを読み 込む.例として EPS ファイル形式がよく用いられる.画像データの場合,図を拡大しても元々の解像度以 上にはならず粗さ (ジャギー) が目立つが,ベクトルデータの場合にはいくら拡大してもきれいである. 図 1∼3 にグラフの作成例をか示す.これらの図の問題点についても考えてみると良い.図 1 は温度の違いによ り複数の線を描いているが,線に交わりもなく誤解は生じないという判断から線の種類は変えず,矢印で各線の計 算に用いた温度を示している.また,可視光の帯域を影付けで示している.図 2 は異なる構造に対する特性を比 較している.図中に構造図を挿入することでより直感的にわかりやすくしている (挿入図は必ずしも必要ではない が読者への配慮).図 3 は導波モードが反交差する付近を拡大しモード間に結合があることを明らかにしている. これらの図の他に,縦軸を 2 つ持つ場合,凡例を書く場合,対数グラフの場合などの例を掲載予定である. なお,グラフを作成したときのチェック項目を以下ににまとめる. • 図番号と図のキャプションは適切か • 四辺を枠で囲っているか 1.0 Transmittance 1 ring 3 rings 0.5 0.0 m−1/2 m+1/2 m βL /2π 図 2: リング共振器の透過特性 Effective index 1.4478 1.44772 1.44769 1.845 1.860 1.4477 Even mode 1.4476 1.80 Odd mode 1.85 w2 [ µ m] 図 3: 導波モードの反交差 1.90 • 軸ラベルは適切か (適切な名称,単位の有無) • 目盛りは適切か (間隔,目盛りの長さなど) • 目盛りには数値が適切に書かれているか • 図中の文字の大きさは小さすぎないか • 図中に日本語が書かれていないか • 線の区別ができるか (誤解を生じる余地はないか) 1.2 説明用の図の作成 何を説明したいかにより図の作り方が違ってくるが,読者がわかりやすいかを考えて作成する.以下に図の作 成にあたって留意すべきことについてまとめる. • その図が何を表しているのかを考える 原理のイメージ図なのか,実際の構造なのかなどにより自ずと書き方が変わってくる. • 他人の作った図を無断で使わない 論文に掲載されている写真画像などの一部のものを除いて他人の図を自分の論文に載せない.同じような図 であっても自分で作らなくてはならない.また,他の論文などの図を用いるときは必ず出典を明らかにして おく. • 実際の構造を表しているときにはできるかぎり正確性を期す 直感的に構造がイメージできるように寸法や曲線の形状などできるだけ正確に図を描く.ただし,極端に寸 法の異なるものを図に描くときにかえって見づらくなる場合にはその限りではない.読者が理解しやすいか どうかということが基準になる.必要に応じて拡大図などを用いると見やすくなる. • 必要な情報を漏れなく記載する 解析対象としている構造図の場合,寸法や材料定数などの情報を漏らさず記載する.与えられた情報をもと に読者が同じ構造の解析を行えるかということが基準になる. • 図中の文字は英語で示す グラフの場合と同様に図中の文字は英語で書く.また,変数はイタリック体,文字や単位はローマン体で 書く. • 座標軸を示すときは右手系であるかを確認する 座標軸を示すときにはきちんと右手系になっていることを確認する.x から y に向かって右ねじを回すとき に進む方向が z になるようにする. • 色使いに気をつける 色使いについては各自の主観により美しいと思う配色は異なるが,自分としてきれいに見えると思う配色を 考える.同じ論文の中での色使いはなるべく統一する.例えば,同じ材料を表す色を赤にしたり青にしたり という統一感のない図の作り方はしない. • 論文全体で統一感を持たせる 色使いだけではなく,線の太さ,矢印の大きと形,文字フォントなどできる限り統一する.なお,文字につ いては本文中の文字と同じものを使うのが本来ではあるが,使用するツールの関係上統一できない場合もあ るかもしれない.ただ,その場合でもできるかぎり全体的に統一感を持たせる.異なる時期に作った図を利 用する場合には統一感が崩れやすいが,なるべく修正するようにする (少なくとも本来は修正すべきという 意識をどこかに持っておく). 図 4: モード分割多重伝送のイメージ 図 5: 光集積回路のイメージ • (おまけ) 機械製図においては寸法の書き方が明確に決まっている (らしい).矢印の開き角度は 30◦ であり, 寸法を書くときは水平線に対しては下辺から,垂直線に対しては右辺から読めるように書く (らしい).斜め に引かれた寸法線の場合にはいかなる角度であっても寸法線の上側に書く (らしい).また長さの単位はミリ メートルと決まっているので単位は付けない.ただし,これらのことは機械製図の場合であって,図を見や すく作ることが最も肝要である. 図 4∼5 に図の例を示す.図 4,図 5 はイメージ図であるので,あえて座標軸を示す必要はないし寸法を書き込む 必要もない.図 6 は実際に解析・設計を行う際の構造図であるので,読者が同じ計算をするのに必要なだけの情 報 (各部の寸法と材料情報) が漏れなく記載されているかを確認する.図中に直接数値を書き込む場合もあるが, 図中には変数名を示し具体的な値は本文中に記載する方が良い.その方が,それらの値は絶対無二の量ではなく, 今回はこの数値で解析・設計を行ったという意味合いが強くなるように思う. x y z port 1 n1 or n2 d w n1 Design region s port 2 w d n2 l L 図 6: 曲がり導波路の最適設計モデル l
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