スラリー処理技術の確立

低コストで 効率的な
スラリー処理技術の確立
(実証処理施設の概要)
堆肥化
乾燥発酵
処理施設
液肥化
回分式攪拌ばっ気
処理施設
平成 1 7 年 2 月
那 須 塩 原 市
栃木県畜産試験場
はじめに
那須塩原市、なかでも黒磯地区は、乳用牛総飼養頭数が 15900 頭(平成 15 年 2 月現
在)と日本でも有数の酪農地帯です。一方、近年、豊かな自然を活かした観光業が栄え、
また、それに伴い別荘や住宅が急速に増加したことから、酪農経営に起因する悪臭問題
の発生や過剰施肥に伴う地下水・土壌への悪影響が懸念されています。特に、この地域
は、自然流下式牛舎の酪農家が多く、そこから排出されるスラリー(ふん尿混合)は、
その性状から環境に与える影響が大きいため、適正な処理が求められています。
このため、那須塩原市(旧黒磯市)では、財団法人 畜産環境整備機構の「簡易低コ
スト家畜排せつ物処理施設開発普及事業」により、「浅型攪拌施設と堆肥舎を組み合わ
せた乾燥発酵処理(堆肥化)」と「攪拌ばっ気槽と貯留槽を区別した回分式撹拌ばっ気
処理(液肥化)」の2種類の実証施設を設置し、効率的なスラリー処理技術の確立に向
け、栃木県畜産試験場(並びに那須農業振興事務所、県北家畜保健衛生所)において、
処理性能や悪臭の発生状況・処理スラリーの利用性に関する調査・実証を行いましたの
で、本資料にて紹介させていただきます。
今後、スラリーの適正処理推進の中で、参考になれば幸いです。
資料の読み方・目次
タ
タイ
イトル
トル
堆 肥 化 (乾 燥 発 酵 )
施設について
この資料は、今回実証した2つの施設を
比較しながら理解していただけるよう、左
図のように1ページを上下にわけ、各施設
の特徴を載せてあります。
液 肥 化 (撹 拌 ば っ 気 )
施設について
■
■
■
■
■
*ただし、「堆肥・液肥の使い方」「臭気」に
ついてはまとめて記載しています。
施設概要
…2
特徴
…3
施設の大きさと機械類…4
処理方法
…5
コスト
…6
-1-
■ 処理性能
…7
■ 堆肥・液肥の使い方
…8
■ 臭気
…9
■ 施工上・運転時の留意点…10
施設概要
■設置農家
飼養頭数
スラリー水分
スラリー量
堆
経産牛50頭(搾乳牛40頭)
87%〜89%(希釈・洗浄水なし)
2.4t〜3t/1日(水分の季節変化により変動)
■処理フロー
②
肥
化
牛
舎
貯留槽
① 浅型攪拌施設(乾燥)
堆肥舎
(発酵)
ふん尿移送装置
:①攪拌施設において発酵開始水分(68%)まで乾燥させます。
:②乾燥したふんは、堆肥舎で堆積・切り返しを行い、発酵を進行さ
せます。また、堆肥舎では、乾乳牛のふんも処理します。
■設置農家
飼養頭数
液
搾乳牛40頭
スラリー水分
水分92% (希釈調整)
スラリー量
約3.3t/1日(希釈後)
■処理フロー
土壌脱臭槽
肥
化
牛
舎
貯留槽
①
②
ばっ気槽
貯留槽
バキュームカー
:①希釈したスラリーを腐熟するまで集中的にばっ気します。
:②腐熟したスラリーを散布時まで保管します。
-2-
特
徴
1.堆肥の生産
草地基盤が少ない酪農経営において、余剰となったふん尿を
堆肥化・流通させることを目的としています。
堆
肥
化
2.2段階にわけた処理方法
太陽光と機械攪拌によってスラリーを発酵開始水分まで乾燥
させ、その後、堆肥舎で切り返し発酵させる2段階方式です。
3.戻し堆肥
季節による処理能力の変動を抑えるため、処理能力の高い時
期に生産した堆肥を保管し、乾燥困難な時期に「戻し堆肥」と
して利用しています。
1.液肥の生産
好気発酵を促し、スラリーを腐熟化させることで、臭気(特
に硫化水素)の低減を図り、また、スラリー中に含まれる雑草
の種子の発芽抑制や大腸菌の低減を図っています。
液
肥
2.回分処理
ばっ気槽とばっ気後スラリーの貯留槽を別槽とし、回分処理
を行うことで、ばっ気槽容積を必要最低限に抑えています。
化
3.土壌脱臭
土壌脱臭槽を併設することにより、ばっ気時に発生する臭気
の無臭化を図っています。
-3-
施設の 大きさ と機械 類
■施設
【容 積】
約 155m3 (有効 約 103m3)
幅 6m、長さ 86m、深さ 0.3m
浅型撹拌施設
*深さ有効 約 0.2m
【面積合計】
約 634m2 (屋根のある全体面積)
堆
肥
堆肥舎
【容 積】
約 24m3 (20m2×1.2m)×4 槽
約 126m3 (50m2×2.5m)×1 槽
【面積合計】
約 305m2 (有効スペース約 130m2)
化
■機械
① ふん尿移送装置(牛舎から施設へ):トラクターPTO 駆動
② ロータリー式撹拌移送機:浅型、3.7kW
■施設
貯留槽
【ばっ気槽容積】
約 62.5m3 (有効 約 50m3)
幅 5m、長さ 5m、深さ 2.5m
ばっ気槽
*深さ有効 約 2m
*希釈・スターター・発泡を考慮
液
肥
土壌脱臭槽
化
【貯留槽容積】
約 300m3 (約 3 ヶ月分)
【土壌脱臭槽容積】
約 14.4m3
幅 4m、長さ 4m、深さ 0.9m
■機械 ① 水中ばっ気・汲み上げポンプ(エジェクターポンプ 5.5kW)
*空気量:133m3/h(水深 2.0m 清水)→スラリーでは粘性により大幅に減少する。
② 消泡機(プロペラ式)
③ 脱臭用ブロア(吸引接触部分:ステンレス製)
*両施設とも、増設により処理方法を変更しているため、容積
試算には、既存のマニュアルの数字を利用してください。
エジェクターポンプ
-4-
処理方法
戻し堆肥
④
堆肥舎
③
季節により混合
(スラリー高水分時)
浅型撹拌施設
③
②
堆
①
肥
化
投入
① 牛舎貯留槽より、スラリー(季節により戻し堆肥混合)を処
理施設に投入します。搾乳牛 40 頭:2.4〜3t 程度/1日量
乾燥 ② 撹拌施設により、発酵開始水分(68%)程度以下まで乾燥させ、
発酵施設である③の堆肥舎へ搬出します。
発酵 ③ 乾燥した処理物を月に2回、発酵槽を移しながら、計5〜6
回切り返しを行い、腐熟を充分に進行させます。
保管 ④ 製品堆肥を散布時まで保管します(ストックヤード)
ばっ気槽
貯留槽
①
バキュームカー
液
肥
化
③
②
:空気
:スラリー
投入 ①10 日間で発生したスラリー(搾乳牛 40 頭:24t)を水分 92%
に希釈し(原物:水=10:4)
、腐熟したスラリー(スターター)
が 1/2〜1/3 程度残してあるばっ気槽に投入します。
ばっ気 ②エジェクターポンプにより、10
日間集中的にばっ気します。
当施設の場合:1 日 16 時間(4 時間×4 回の間欠稼働)
保管 ③腐熟したスラリーを貯留槽へ移送し、散布時まで保管します。
*次の処理のスターターとして、処理スラリーを1部ばっ気槽に残す。
-5-
コ ス ト
■イニシャルコスト
費
施 設
機 械
堆
肥
化
合
目
ふん尿移送装置
攪拌移送機
計
金額(千円)
14,595
1,575
1,155
17,325
■ランニングコスト(月額)
費 目
電 気 代
軽 油 代
合 計
金額(円)
1,500
2,000
3,500
■経産牛 1 頭当たりの年間処理経費(50 頭規模)
約 21,000 円(減価償却費を含む)
■イニシャルコスト
費 目
施 設
機 械
液
肥
化
ばっ気・汲上げポンプ
消泡機
脱臭ブロア
制御盤
合 計
金額(千円)
14,700
1,680
315
1,050
1,050
18,795
■ランニングコスト(月額)
費 目
電 気 代
合 計
金額(円)
33,000
33,000
■搾乳牛 1 頭当たりの年間処理経費(40 頭規模)
約 39,600 円(減価償却費を含む)
*償却年数:施設建設費 20 年、設備機器費 7 年とした。
-6-
処理性能
処理対象スラリー
1000
89
500
87
0
85
れ(図1)、水分の高い時期(88%以上)は、
戻し堆肥を利用しないと撹拌機での移
cP
送は難しくなります。
戻し堆肥
堆
肥
水分・粘性に、季節による差がみら
%
1500
水分(%)
粘度(cP=mPa・s)
91
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2
月
図1:処理対象スラリーの水分・粘性の年間推移
化
秋期に、1日当たり 0.2〜0.3t 程度の
「戻し堆肥(水分 40%)」を利用し、水
分 86%に調整したところ、撹拌施設で
発酵開始水分
80
当施設の場合、高水分となった夏期〜
は、年間を通し、
「発酵開始水分(68%)」
60
%
程度以下まで、乾燥させることができ
40
(図 2)、その後の堆肥舎での発酵も良好
20
に進行しました。
0
*春期に過乾燥となったふんについては、
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2 月
図2:乾燥(撹拌)終了時のふん水分の年間推移
外気温
液温
50
液温は、ばっ気による発酵で上昇し、
その後、易分解性有機物の分解が終了
30
してくると安定します(図 3)。
液温安定
10
肥
スラリーの温度
40
20
液
戻し堆肥に利用し、再発酵を促しました。
液温が急激に上昇している段階で、
0
-10
悪臭抑制
1
31
61
91
121
151
181
貯留槽に移送すると、保管期間中に大
211
時間
図3:処理期間中のスラリー液温推移(冬期)
量の硫化水素発生を伴う嫌気発酵が進
行してしまいます。ただし、液温安定
までばっ気することで、大幅に臭気の
化
発生を抑えることができます。
未処理
処理
*液温以外では、色や pH で腐熟を判断します。腐熟が進
行するとスラリーの色は黒っぽくなり(左写真)、pH は 7
程度から 9 に近づいていきます。
ただし、短期間で腐熟させるには、充分腐熟したスラリー
をスターターとして利用する必要があり、また、能力に余裕
のあるエジェクターポンプを選択する必要があります。
《腐熟による色の変化》
*当施設(5.5kW ポンプ)はあまり余裕がありませんでした。
-7-
堆肥・液肥の使い方
*このページと次ページは、上下にわけた記載
ではありません。
■未処理スラリー・製品堆肥の性状と成分(堆肥化処理)
夏 期
冬 期
平 均
夏 期
製品堆肥
冬 期
平 均
・EC未処理→原物:水=1:1
処理→原物:水=1:5
未処理
水分
(%)
88.8
87.6
88.2
22.8
42.7
32.8
灰分*
(%)
15.1
14.1
14.6
20.7
31.6
26.2
pH
7.2
7.3
7.3
9.2
9.3
9.3
EC
全窒素* りん酸*
(P2O5,%)
(mS/cm) (N,%)
10.0
2.1
2.4
9.3
2.3
2.4
9.6
2.2
2.4
7.3
2.5
3.4
10.3
2.9
4.8
8.8
2.7
4.1
加里* 大腸菌群数
(K2O,%)
(個/mL)
3.8 1000以下
4.7
100000
4.3
7.2 1000以下
9.3 1000以下
8.2 1000以下
(*乾物中)
■未処理スラリー・製品液肥の性状と成分(液肥化処理)
未処理
夏 期
製品液肥
・EC→原物:水=1:1
水分 灰分*
(%)
(%)
92.6
16.2
94.3
20.8
EC
全窒素* りん酸* 加里* 大腸菌群数
(P2O5,%) (K2O,%) (個/mL)
(mS/cm) (N,%)
7.3
7.7
1.7
1.7
5.1 1000以下
8.7
6.9
2.5
1.9
6.7 1000以下
(*乾物中)
pH
■製品堆肥・液肥の使い方
ふん尿混合堆肥・液肥には、加里が多く含まれています。そのため、施肥量につ
いては、加里が制限要因になる場合が多く、窒素だけではなく、加里についても成
分をきちんと把握し、適正施用を行う必要があります。
【計算例】
:加里をもとにイタリアンライグラス作付けほ場への投入量を計算
1)上記の堆肥を原物換算すると、
水分
(%)
堆肥
液肥
32.8
94.3
全窒素
(%)
1.81
0.14
原物中
りん酸
(%)
2.76
0.11
1t中に加里は、
加里
(%)
5.51
0.38
2)作物別施肥基準は、
全窒素
kg/10a
イタリアンライグラス
11
飼料用とうもろこし
22
作物
堆肥で55kg、液肥で3.8kg
含まれいている
3)肥効率は、
りん酸
kg/10a
8
20
加里
kg/10a
18
22
*栃木県農作物施肥基準(平成14年3月版 抜粋)
堆肥
液肥
全窒素
(%)
30
55
りん酸
(%)
60
60
加里
(%)
90
95
*堆肥化設計マニュアル(中央畜産会)資料
以上の 1)、2)、3)から計算すると、下記のような投入量が目安となります。
●堆肥では、18 ÷{55×(90/100)}= 0.36t/10a
●液肥では、18 ÷{3.8×(95/100)}= 5t/10a
* 制限要因になった成分以外については、不足分を化学肥料で補う必要があります。
* 肥効率とは、化学肥料の肥効を 100 とした場合の堆肥等成分の肥効の割合をいいます。
* スラリーは多量にアンモニア態窒素を含むため(特に未熟で多い)、施用後の放置や
過剰施肥は、地下浸透による環境汚染を引き起こす危険性が高く、注意が必要です。
-8-
臭
気
■施設周辺
堆肥化(乾燥発酵)施設
当施設の撹拌施設側面は、15cm 程度しか開放されておらず、処理中に発生した
臭気は拡散しにくい構造となっています。
また、投入時の臭気(嫌気状態のスラリー投入により)が懸念されるため、
発生抑制のポイントとしては、新鮮ふんの処理が望ましいと考えられます。
液肥化(撹拌ばっ気)施設
ばっ気槽内では、高濃度の臭気が発生しますが、処理期間中を通し、土壌脱臭
槽上では、検知管検出閾(アンモニア:0.5ppm、硫化水素 0.1ppm)以下と良好
な脱臭効果を示しました。
■散布時
下記の図4では、土壌表面に
: 5 リットル/m2
未処理スラリー
堆肥化(乾燥発酵)処理 :10 リットル/m2
: 5 リットル/m2
液肥化(ばっ気)処理
を散布した時の土壌上の臭気を比較しています。
40
臭気指数
硫化水素(ppm)
アンモニア(ppm)
36.2
31
30
27
20
14.9
13
7.4
10
0
未処理
5
16
9.9
7.4
16
12.4
4
0
0
0.2
堆肥化
液肥化
未処理
散布直後
0
0
堆肥化
液肥化
散布30分後
図4:腐熟化処理による散布時臭気の発生状況(気温 20℃)
未処理スラリーは、散布直後に大量の硫化水素の発生が確認されましたが、堆肥化、
液肥化したものは、検出されませんでした(検知管検出閾:0.1ppm)
。また、官能試験
結果である臭気指数についても大幅に低くなっており、処理により悪臭発生が抑制さ
れていることがわかりました。
《参考》:官能試験法による栃木県悪臭防止対策指導要綱
工場等の敷地境界線上の臭気指数指導基準
第1種地域(用途地域 A)
:10
第2種地域(用途地域 A 以外):14
-9-
施工上・運転時の留意点
●本施設における乾燥能力は気温、湿度、日射量等に影響されるの
で、設置する地域において運転方法を検討する必要があります。
堆
肥
化
●投入スラリーの水分や性状によって戻し堆肥による水分調整の要
否を判断するため、投入時の水分を把握しておく必要があります。
また、投入スラリーは洗浄水や雨水が混入しない場合に限られま
す。
●堆肥を施用する場合は、成分を把握し適正に利用してください。
●スラリー投入部では、攪拌により、嫌気発酵にともなう硫化水素
等の臭気が発生する可能性があるため、施設の向きや稼働時間な
どは、周辺環境を考慮し検討してください。
●スターターには、充分腐熟したスラリーを利用してください。
●ばっ気に用いるエジェクターポンプは、粘性により、吸引される
空気量が異なるため、送風量を充分確保できるポンプの選定が必
要になります。
液
肥
化
●脱臭ブロアの臭気が接触する部分は、ステンレスを使用するか、
直接、羽根に臭気が接触しない構造としてください。
●スラリーは発酵に伴う液温の急激な上昇により、激しく発泡する
ため、ヘッドスペースに充分余裕を持たせてください(理想1mく
らい)。また、脱臭槽への泡の流入を防ぐため、消泡機は脱臭槽
への配管近くに設置してください。
●土壌脱臭槽の土壌は、長期間放置すると、臭気のショートパスや
ばっ気槽への逆流が起こる危険性があるため、定期的に耕起する
必要があります。
-10-
那須塩原市 産業観光部(黒磯支所)
栃木県那須塩原市共墾社 108 番地 2
TEL:0287-62-7149
FAX:0287-62-7223
ホームページ: http://www.city.nasushiobara.lg.jp/
栃木県畜産試験場
栃木県芳賀郡芳賀町稲毛田上の原 1917
TEL:028-677-0301(代表)
FAX:028-677-4328
ホームページ: http://www.pref.tochigi.jp/chikusan-s/