研究代表者 - HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班

厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策研究事業(エイズ対策政策研究事業)
HIV感染症及びその合併症の
課題を克服する研究
平成27年度 研究報告書
独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
HIV/AIDS先端医療開発センター
白阪
琢磨
厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策研究事業(エイズ対策政策研究事業)
HIV感染症及びその合併症の
課題を克服する研究
平成27年度 研究報告書
独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
HIV/AIDS先端医療開発センター
白阪
琢磨
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
2
目
次
総括研究報告
1
HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究.................................................................................................................6
研究代表者:白阪
琢磨(国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS 先端医療開発センター)
分担研究報告
2
抗 HIV 療法のガイドラインに関する研究...................................................................................................................................12
研究分担者:鯉渕
3
HIV 陽性者の生殖医療に関する研究...............................................................................................................................................16
研究分担者:久慈
4
良次(特定非営利活動法人りょうちゃんず)
HIV 陽性者の心理学的問題と援助に関する研究....................................................................................................................58
研究分担者:安尾
9
慶子(一般財団法人長岡記念財団 長岡ヘルスケアセンター長岡病院)
血液製剤由来 HIV 感染者の心理的支援方法の検討.............................................................................................................46
研究分担者:藤原
8
泰宏(京都大学大学院教育学研究科 心理臨床学講座)
精神科医とカウンセラーの連携体制の構築に関する研究...............................................................................................36
研究分担者:角谷
7
隆(東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター 血液浄化療法科)
HIV 陽性者の心理的支援の重要性に関する検討....................................................................................................................26
研究分担者:大山
6
直昭(東京医科大学 産科婦人科)
HIV 感染患者における透析医療の推進に関する研究.........................................................................................................24
研究分担者:秋葉
5
智彦(東京大学医科学研究所附属病院 感染免疫内科)
利彦(国立病院機構大阪医療センター 臨床心理室)
MRI 画像による、神経認知障害の神経基盤の解明..............................................................................................................62
研究分担者:村井
俊哉(京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座(精神医学))
10 福祉施設における HIV 陽性者の受け入れ課題と対策........................................................................................................68
研究分担者:山内
哲也(社会福祉法人武蔵野会)
11 エイズ診療拠点病院と在宅あるいは福祉施設の連携に関する研究.........................................................................76
研究分担者:下司
有加(国立病院機構大阪医療センター 看護部)
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
12 介護保険施設の HIV ケアと学校基盤の HIV 予防における拡大戦略の研究.....................................................80
研究分担者:佐保
美奈子(大阪府立大学大学院 看護学研究科)
13 地方における病院・福祉療養施設間の HIV 診療連携モデル構築に関する研究............................................94
研究分担者:高田
清式(愛媛大学医学部附属病院 総合臨床研修センター・感染症内科)
14 HIV 陽性者の地方コミュニティーでの受け入れに関する研究................................................................................ 100
研究分担者:榎本
てる子(関西学院大学 神学部)
15 大阪エイズウィークス等の啓発の企画と効果測定............................................................................................................ 114
研究代表者:白阪
琢磨(国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS 先端医療開発センター)
研究協力者:山﨑
厚司(公益財団法人エイズ予防財団)
16 メディアを用いた効果的啓発方法の開発................................................................................................................................. 120
研究代表者:白阪
琢磨(国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS 先端医療開発センター)
研究協力者:林
清孝(エフエム大阪音楽出版株式会社)
17 受検者の携帯を用いた効果モニターシステムの開発...................................................................................................... 128
研究代表者:白阪
研究協力者:幸田
琢磨(国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS 先端医療開発センター)
進(有限会社 ビッツシステム)
18 啓発手法の効果の評価に関する研究............................................................................................................................................ 132
研究分担者:江口 有一郎(佐賀大学医学部 肝疾患医療支援学講座・消化器病学、肝臓病学)
19 急性感染期の診断および治療に関する研究............................................................................................................................ 146
研究分担者:渡邊
大(国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター)
20 HIV 感染症における倫理的課題に関する研究...................................................................................................................... 152
研究分担者:大北
全俊(東北大学 医学系研究科)
21 Web サイトを活用した情報発信と情報収集、閲覧動向に関する研究.............................................................. 158
研究代表者:白阪
琢磨(国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS 先端医療開発センター)
研究協力者:湯川
真朗(有限会社 キートン)
3
4
5
総括研究報告
6
1
HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究
研究代表者: 白阪
琢磨(国立病院機構大阪医療センター
HIV/AIDS 先端医療開発センター)
研究分担者: 鯉渕
智彦(東京大学医科学研究所付属病院 感染免疫内科)
久慈
秋葉
直昭(東京医科大学 産科婦人科)
隆(東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター 血液浄化療法科)
大山
泰宏(京都大学大学院教育学研究科 心理臨床学講座)
角谷
慶子(一般財団法人長岡記念財団 長岡ヘルスケアセンター長岡病院)
藤原
良次(特定非営利活動法人りょうちゃんず)
安尾
利彦(国立病院機構大阪医療センター 臨床心理室)
村井
俊哉(京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座(精神医学))
山内
哲也(社会福祉法人武蔵野会)
下司
有加(国立病院機構大阪医療センター 看護部)
佐保美奈子(大阪府立大学大学院 看護学研究科)
高田
清式(愛媛大学医学部付属病院 総合臨床研修センター・感染症内科)
榎本てる子(関西学院大学 神学部)
江口有一郎(佐賀大学医学部 肝疾患医療支援学講座・消化器病学、肝臓病学)
渡邊
大北
大(国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター)
全俊(東北大学大学院 医学系研究科)
研究要旨
HIV 感染症は治療の進歩によって慢性疾患となったが、多くの課題が残されている。厚生労働省は平成
23 年度、後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針の見直し作業班で、現状と課題を明らかにし、
今後のエイズ施策の方向性を示した。同作業班の報告書およびこれまでの先行研究の成果を踏まえ、本研究
では HIV 感染症および合併症で未解決の課題を明らかにし対策を示すことを目的とする。いずれの研究も
現在、未解決かつ重要な課題を含んでおり、それを明確化し対策を示す研究の必要性は高い。研究課題によっ
て用いる研究手法は海外で開発されたものもあるが、国内で HIV 感染症の領域に用いられた事は無く独創
的である。複数の施設での調査研究等においては患者の個人情報の取り扱いには十分留意をすると共に、新
たな「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し実施する。当研究班は 6 つの柱、すなわち柱
1
HIV 感染症の抗 HIV 治療ガイドライン改定、柱 2
析医療のガイドライン改定、柱 4
療養の課題に関する研究、柱 6
HIV 感染者の生殖医療研究、柱 3
HIV 感染者の精神 ・ 心理的課題に関する研究、柱 5
HIV 感染者の透
HIV 感染者の長期
効果的な啓発手法の開発研究、その他、急性感染期の診断・治療に関する
研究、HIV 医療における倫理的課題に関する研究を実施する。柱 1 では米国等のガイドラインを参照し国内
外の臨床研究の成果および国内での抗 HIV 薬の承認状況を鑑みて毎年改訂する。柱 2 では主に HIV 感染夫
と HIV 非感染妻の間での体外受精を用いる生殖医療の実施上で受精機能の高い精子の分離技術などの改良
や実施施設の拡大に向けて研究を進める。柱 3 では現状の HIV 感染症治療の進歩を踏まえ、透析に関わる
関連学会で十分に議論を重ねて策定した新ガイドラインやマニュアルを周知および実施上の課題に付き検討
を進める。柱 4 ではカウンセリングの重要性、カウンセラーと精神科医との連携の在り方、HIV 感染者の心
理的課題と対策、HAND の MRI 所見等を明らかにする。柱 5 では福祉施設、エイズ診療の拠点病院の立場
から HIV 陽性者の長期療養につき研究を継続し、看護師等への教育研修方法に付き検討する。柱 6 ではソー
シャルマーケティング手法を用いて啓発手法の開発と効果測定システムの確立を目指す。いずれも相互に連
携し実施する。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
研究目的
7
ケート調査を実施した。「HIV 陽性者の地方コミュ
平成 23 年度、後天性免疫不全症候群に関する特
ニティーでの受け入れに関する研究(榎本)」では
定感染症予防指針の見直し作業班の報告書および先
関係職種、患者等でのフォーカスグループミーティ
行研究の成果を踏まえ、本研究では HIV 感染症およ
ングを実施した。柱 6 「効果的啓発手法の開発に関
び合併症で未解決の課題を明らかにし対策を示すこ
する研究(白阪)」では肝炎啓発をモデルにソーシャ
とを目的とする。
ルマーケティングによる新たな啓発手法の開発を開
始した。
「啓発方法の効果の評価に関する研究(江
研究方法
口)」では男性を対象に、一般対象者はインターネッ
研究目的の達成のために次の研究を行った。
ト調査、HIV 陽性者に聞き取り調査を実施した。そ
柱 1「抗 HIV 療法のガイドラインに関する研究(鯉
の他の研究として、「急性感染期の診断および治療
渕)」では米国等のガイドラインを参照し臨床研究
に関する研究(渡邊)」、「HIV 感染症における倫理
の成果および国内抗 HIV 薬の承認状況を鑑みて毎年
的課題に関する研究(大北)」を実施した。研究班
改訂した。柱 2「HIV 陽性者の生殖医療に関する研
全体は白阪が統括した。今年度は初年度であり、各
究(久慈)」では HIV 感染男性と非感染女性夫婦に
研究では実情把握のための調査を実施した。一部の
対する有効な挙児の方法の開発・普及を進めた。柱
研究ではガイドライン・マニュアルの作成・改定等
3「HIV 感染患者における透析医療の推進に関する
を実施した。
研究(秋葉)」では現状の HIV 感染症治療の進歩を (倫理面への配慮)
踏まえ、透析に関わる関連学会で十分に議論を行い、
透析における感染予防のガイドラインの改訂と周知
複数の施設での調査研究等においては患者の個人
情報の取り扱いには十分留意をすると共に、新たな
を行った。柱 4 HIV 感染者の精神 ・ 心理的課題に 「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を
関する研究の「HIV 陽性者の心理的支援の重要性に
遵守し実施した。
関する検討(大山)」では HIV 感染者へのカウンセ
リングを検討した。「精神科医とカウンセラーの連
研究結果
携体制の構築に関する研究(角谷)」では聞き取り
柱 1(鯉渕)毎年度末に、世界の最新のエビデン
あるいはアンケート調査を行った。「血液製剤由来
スを反映させ国内の実情も考慮した治療ガイドライ
HIV 感染者の心理的支援方法の検討(藤原)」およ
ンを発行し、最新の情報を広く提供した。柱 2(久慈)
び「HIV 陽性者の心理学的問題と援助に関する研究
洗浄の結果、62 例全例でウイルス濃度検出感度以下
(安尾)
」ではそれぞれの患者層での心理的課題と対
の運動精子液を得ることができた。洗浄精子を用い
策につき検討を行った。
「MRI 画像による神経認知
た顕微授精・凍結胚移植の結果、これまで 16 例の
障害の神経基盤の解明(村井)」では HIV 感染者と
妊娠例(うち分娩 4 例と on going 妊娠 9 例)を得
非感染者の神経認知検査および MRI 画像の比較検
た。運動精子回収率改善の試みでは、swim-up 法を
討を進めた。柱 5 HIV 感染者の長期療養の課題に
swim-side 法に変えることで 2.54 倍、連続密度勾配
関する研究の「福祉施設における HIV 陽性者の受け
濃度を改変することで 1.2 倍の回収率改善が見られ
入れ課題と対策(山内)」では「HIV/ エイズの正し
た。一方、洗浄法をオプチデンツ法に変更すること
い知識」改定および地域包括支援センターによる受
で、リンパ球除去率は 1/105 〜 1/106 となった。こ
入れ環境の向上にむけ研修会を実施した。「エイズ
れらのことから、精液性状の良好な症例では、小数
診療拠点病院と在宅あるいは福祉施設の連携に関す
回の凍結融解精子を用いた人工授精を試行する運動
る研究(下司)」では訪問看護ステーション研修会
精子回収率を確保できる可能性が示された。柱 3(秋
を実施した。
「介護保険施設の HIV ケアと学校基盤
葉)透析における感染予防のガイドラインを改訂し
の HIV 予防における拡大戦略の研究(佐保)」では
周知を行った。柱 4(大山)心理療法を行っていく
看護職・介護職等への研修とアンケート調査を実施
前提となる HIV 陽性者の心理的支援に関するニー
した。「地方における病院・福祉療養施設間の HIV
ズを把握し、効果測定に必要な指標を作成するため
診療連携モデル構築に関する研究(高田)」では地
の理論的基盤の検討した。(角谷)近畿圏内の 8 カ
域連携モデルの形成に向け関連施設での研修やアン
所の基幹病院に勤務する感染症内科医 8 人にイン
8
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
タビューを実施した。精神科医との連携の満足度は
は 205 名となった。研修や出前講義によって HIV 感
他職種と比べて低く、多くの感染症内科医が入院処
染症や陽性者への関わり方について、知識や態度の
遇必要事例や薬物依存事例の連携に困難を感じてい
変化があった。
(高田)県内の高齢者施設の福祉・
ることが明らかになった。また、単科精神科病院と
介護担当者へ HIV 感染症等に関する研修会を開催
その関連施設の職員に自記式のアンケートを行い、 し、参加者は 63 名であった。また、地域の療養型
HIV 陽性者の自施設受け入れに関する意識調査を実
病院および福祉施設 6 施設へ直接出張講義を行い、
施した。(藤原)血液製剤由来 HIV 感染者のカウン
参加者合計 697 名であった。その結果今年度計 3 名
セリング実績のある施設に通院する患者を中心に 3
の介護や福祉環境を要する HIV 患者の受け入れが
名(近畿 1 名、中国 2 名)のインタビュー調査を実
円滑に行えた。直接出張講義は積極的な連携方法と
施した。3 団体と協力し、研修会においてピアカウ
して意義が高かったと考える。さらに、出張講義の
ンセリング研修プログラムを実施し、ピアカウンセ
際のアンケートで 69%は「治療等が良好なら不安は
ラーの養成を行った。1994 年〜 1996 年のエイズカ
ない」(うち 18%は治療に関係なく不安はない)、お
ウンセラー養成研修会資料を分析した。(安尾)大
よび 82%が「施設として受け入れ可能」との比較的
阪医療センター通院する HIV 陽性者 300 名を対象
好感触得た。緊喫の課題である福祉連携の拡大・充
に、行動面の障害を伴う問題およびパーソナリティ
実を今後円滑に図り得る可能性が高く期待できると
特性に関する質問紙調査を行うため、今年度は質問
考えられた。(榎本)5 回の研究会を開催し、施設運
紙の内容を検討した。孤立しやすい背景を持つ HIV
営の方法、NPO の参加の在り方、HIV 陽性者の高
陽性者にとって、集団心理療法が有効な介入である
齢化に伴う不安等について医療者・福祉関係者・地
ことは指摘されてきており、今年度は 5 名の陽性者
域支援者・研究者・HIV 陽性者の間で共有し、関係
をリクルートし、集団療法開始前の心理検査および
性の構築の第一歩を踏み出す事が出来た。HIV 陽性
聞き取り調査を実施した。
(村井)平成 28 年 1 月末
者固有の問題として、HIV 陽性者を受け入れる高齢
までに患者群 26 名、健常群 16 名の検査を行い、中
者施設や介護事業所が少ないこと、HIV 感染を理由
間解析を行った。両群の脳構造の比較、脳構造と神
に家族や地域社会から疎遠になり頼れる他者がいな
経心理検査の結果との相関について、未だ統計学的
いことがあげられた。高齢期を迎える HIV 陽性者
に有意と言い切ることのできる結果は得られていな
が地域で安心して暮らしていくために NPO/NGO
いが、差や相関を有する可能性のある脳領域のクラ
がまずやるべきことは、HIV 陽性者がいつでも相
スターが検出されつつあり、それらの領域は先行
談できる関係性をつくるために、定期的・継続的に
研究の一部とも矛盾しない内容となっていた。柱 5
連絡を取りながら、その時々にある問題について支
(山内)全国 8 箇所で福祉施設の受入れマニュアル
援を行うことである。柱 6(白阪)大阪の FM 番組
「HIV/AIDS の正しい知識-知ることからはじめよ (「LOVE+RED」毎週土曜日放送)で若者を対象に
う-」研修教材に用いた HIV/AIDS 啓発研修を行っ
HIV / AIDS 啓発と意識調査を実施した。公式 HP
た。マニュアル改訂について「制度」
「人権」といっ
のアクセス数は約 45,000 件で、HIV/AIDS 意識調査
た内容を追加すべく改訂作業を行うこととし、ワー
は HP で 543 名、番組に関連して中学 3 年生 169 名
キンググループを設けこれを検討した。(下司)大
から回答を得た。(江口)ハイリスク層である MSM
阪府および北海道で研修会を実施した。大阪の研修
及び HIV 陽性者を対象とした半構造化面接から「本
会後のアンケートでは 20.8%の人が HIV 陽性者の訪
人の陽性リスク認識度によってその行動制御要因は
問看護経験があり、45%の人が研修会の受講経験が
大きく異なる」ということが判明し、性交渉経験の
あると回答し、62%が受け入れ可能、38%は準備が
ある 18 歳から 49 歳の日本在住の男性 1,200 名(う
必要、受け入れ不可能の回答はなかった。スタッフ
ち、MSM600 名を含む)から、HIV 検査への関心度や、
への教育の必要性が示された。参加者全員が研修会
HIV/AIDS の疾患自体や検査、その治療法に関する
の継続開催を希望された。また、次年度の研修会に
知識、主観的評価、受検のきっかけといった情報を
向け全国の訪問看護ステーション一覧を更新した。 得た。HIV 感染のハイリスクグループである MSM
(佐保)HIV サポートリーダー養成研修を 2 回実施 (特に、ゲイ・バイセクシャルを自認するもの)に
した。これまでの開催回数は 11 回となり受講者数
おいては、その受検意図を分かつ知識や主観的評価
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
9
は、受検意図のセグメント(「半年以内に受けたい」、 症の治療等で課題を明らかにし、その対策につき検
「いつかは受けたい」、「受けるつもりはない / 分か
討を行うものであり、必要性は高い。いずれも学術
らない」)ごとに、異なることが今回の調査で示さ
的意義も高く、国際的にも新規性が高い。治療のガ
れた。受検意図に応じた啓発メッセージを開発する
イドライン改訂など、社会的意義も大きいと考える。
ことで、より効果的な啓発が可能となると考えられ
る。その他の研究(渡邊)抗 HIV 療法によって血中
健康危険情報
HIV-RNA 量が検出限界未満で維持されている 76 症
該当なし
例を対象に測定を行った。急性期に抗 HIV 療法を
導入することが残存プロウイルス量を低く抑えるこ
研究発表
とに最も強く関連する因子であることが示された。 研究代表者
また、急性感染の診断のための NAT 検査の需要が
白阪琢磨
存在することが確認できた。また、急性 HIV 感染
白阪琢磨:HIV 最新情報について解説。読売テレビ
症と診断された症例では診断前の検査歴があった症 「情報ライブミヤネ屋」、2015 年、大阪
例が多く、診断に患者側の因子として受検行動が関
白阪琢磨:透析医療者のための HIV 感染症の知識。
与している可能性が示唆された。(大北)検査関係
日本腎不全看護学会 東海地区教育セミナー、2015
の文献調査についてはまだ進行途上のため、結論と 年、名古屋
しては暫定的だが、その時々の HIV/AIDS を巡る
Yagura H, Watanabe D, Ashida M, Kushida H,
状況の変化(治療や予防などのテクノロジーの変遷
Hirota K, Ikuma M, Ogawa Y, Yajima K, Kasai
やその時の社会状況、またどのような地域やコミュ D, Nishida Y, Uehira T, Yoshino M, Shirasaka T.
ニティでの議論かなど)によって、クライアントの Correlation between UGT1A1 polymorphisms
最善の利益の尊重と言っても、それは変化していく。 and raltegravir plasma trough concentrations
また、海外の議論の推移についてもタイムラグがあ in Japanese HIV-1-infected patients. J Infect
り、CDC2006 ガイドラインもその倫理的な是非に Chemother. 21(10):713-7, 2015 Oct. Epub 2015
ついて中心的に議論がなされたのは 2011 年であり
研究分担者
5 年のタイムラグがある。2010 年以降の HIV/AIDS
鯉渕智彦
対策の枠組みの変化などを踏まえつつ、検査をめぐ
Furukawa R, Adachi E, Kikuchi T, Koga M,
Iwamoto A, Koibuchi T. Methemoglobinemia in an
HIV-infected patient treated with primaquine
for Pneumocystis jirovecii pneumonia. The Journal
る本人利益などの諸価値に関する議論をより精査す
ることが求められる。班全体では、携帯を用いた効
果モニターシステム等の開発、HIV 治療の薬剤情報
提供ホームページの開発等を行った。ガイドライン、
マニュアル等の改訂作業や支援の各種ツールの開発
など、初年度は、ほぼ予定通りの成果をあげる事が
出来た。
考察
指定研究の初年度であり主に調査や課題の抽出に
取り組んだ。ガイドライン、マニュアル、ハンドブッ
ク等や支援の各種ツールは実施での評価と改訂を行
う必要があると考える。その他、多くの研究から重
要な結果を得た。
結論
HIV 感染症の治療と関連分野で課題を抽出し、ほ
ぼ計画通りに研究を実施できた。本研究は HIV 感染
of AIDS Research. 17: 97-100, 2015.
Shimada N, Yuji K, Ohno N, Koibuchi T, Oyaizu
N, Uchimaru K, Tojo A. Treatment of chronic
lymphocytic leukemia with bendamustine in an
HIV-infected patient on antiretroviral therapy: a
case report and review of the literature. Clin Case
Rep. 3(6): 453-60, 2015.
久慈直昭
Inoue O, Kuji N et al. Clinical efficacy of a
combination of Percoll continuous density gradient
and swim-up techniques for semen processing in
HIV-1 serodiscordant couples. Asian J Androl(in
press)
土田 奈々枝 , 久慈 直昭 , 長谷川 瑛 , 伊東 宏絵 , 井坂
恵一。挙児希望 HIV 感染男性のプロフィールと不妊
治療との関連。日本生殖医学会雑誌 (1881-0098)60(4)
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
10
P228,2015 年
observational study. AIDS Res Ther. 12:19, 2015.
由島 道郎 , 久慈 直昭 , 嶋田 秀仁 , 長谷川 瑛 , 伊東
宏絵 , 田中 守 , 浜谷 敏生 , 吉村 泰典 , 井坂 惠一。 知的所有権の出願・取得状況(予定を含む)
該当なし
HIV 感染精液におけるウィルス洗浄の効果検討 密
度勾配溶剤の影響。日本産科婦人科学会雑誌 (03009165)67(2),P.883, 2015 年
秋葉
隆
日ノ下文彦 , 秋葉隆 , 勝木俊 , 戸村成男 . 高齢化す
る血液透析患者の透析実態に関するアンケート調
査 . 日本透析医学会雑誌 48(6):341-350, 2015 年
大山泰宏
Morita T, Oyama Y, Shao-Yi Cheng et al. :
Palliative Care Physicians' Attitudes Toward
Patient Autonomy and a Good Death in East
Asian Countries. Journal of Pain and Symptom
Management , 50(2), 190-199, 2015
安尾利彦
安尾利彦、仲倉高広、下司有加、中濱智子、東政美、
鈴木成子、白阪琢磨:HIV 陽性者のメンタルヘルス
と心理的特性に関連性に関する研究。第 29 回日本
エイズ学会学術集会・総会、2015 年、東京
佐保美奈子
佐保美奈子、古山美穂、山田加奈子、髙知恵、工藤
里香、介護保険施設を対象とした HIV 職員研修の
検討。第 29 回近畿エイズ研究会、2015 年 6 月
佐保美奈子、古山美穂、山田加奈子、髙知恵、泉柚
岐、西口初江、白阪琢磨、介護老人保健施設でのエ
イズ研修の検討。第 29 回日本エイズ学会、2015 年
11 月
高田清式
高田清式、村上雄一、中西英元、末盛浩一郎、山之
内純、中尾綾、西川典子:地域における HIV 診療
と認知機能障害に関する研究、愛媛医学 34(2)、99102、2015 年
榎本てる子
榎本てる子:地域における薬物依存症から回復を望
む HIV 陽性者に対する牧会ケア―個人の魂の救いと
社会正義の視点から―。関西学院大学神学研究会「神
學研究第 62 号」pp67-83、2015 年
渡邊大
Watanabe D, Suzuki S, Ashida M, Shimoji Y,
Hirota K, Ogawa Y, Yajima K, Kasai D, Nishida Y,
Uehira T, and Shirasaka T. Disease progression of
HIV-1 infection in symptomatic and asymptomatic
seroconverters in Osaka, Japan: a retrospective
11
分担研究報告
12
2
抗 HIV 療法のガイドラインに関する研究
研究分担者: 鯉渕
智彦(東京大学医科学研究所付属病院 感染免疫内科)
研究協力者: 今村
顕史(がん・感染症センター都立駒込病院感染症科)
潟永
博之(国立国際医療研究センター病院エイズ治療開発センター)
吉野
宗宏(国立病院機構姫路医療センター 薬剤科)
古西
満(奈良県立医科大学 感染症センター)
立川
夏夫(横浜市立市民病院 感染症内科)
外川
正生(大阪市立総合医療センター 小児救急科)
永井
英明(国立病院機構東京病院 呼吸器科)
藤井
毅(東京医科大学八王子医療センター)
村松
崇(東京医科大学 臨床検査医学講座)
山元
泰之(東京医科大学 臨床検査医学講座)
四柳
宏(東京大学医学部 感染症内科)
研究要旨
最新のエビデンスに基づいて「抗 HIV 治療ガイドライン」を改訂し、科学的に最も適切で、かつ日本の
現状に即した治療指針を提示することを目的として研究を施行した。HIV 感染症の診療経験が豊富な国内の
先生方に改訂委員に参画して頂き、治療開始基準や治療推奨薬の改訂を中心に海外のガイドラインやエビデ
ンスを基本としながら、国内の事情をも考慮して合理的な考え方を提示するガイドラインとして充実を図っ
た。また、推奨処方のエビデンスとなる臨床試験を掲載した web サイトには、RPV(リルピビリン)と
DTG(ドルテグラビル)に関する計 3 つの臨床試験データを新たに追加した。
研究目的
などの海外のガイドラインを日本語訳する作業が主
「抗 HIV 治療ガイドライン」は毎年、最新のエビ
であった。しかし、薬剤の代謝や副作用の発現には人
デンスに基づいて、科学的に適切な治療指針を提示
種差があり、また、薬剤の供給体制も日本と諸外国で
することを目的として作成されてきた。平成 10 年
は必ずしも同じではない。したがって、わが国の状況
度に初めて発行された後、厚生労働科学研究の一環
に沿った「抗 HIV 治療ガイドライン」を作成するこ
として年 1 回の改訂が行われてきたが、平成 21 年
とは、きわめて重要で意義のあることと考えられる。
度から「HIV 感染症及びその合併症の課題を克服す
る研究」班のなかでガイドライン作成を行うことと
研究方法
なった。同研究班が別に作成する「HIV 診療にお
① 上記の目的を達成するために、改訂委員には、国
ける外来チーム医療マニュアル」が現場の実際的な
内の施設で HIV 診療を担っている経験豊富な先生
手順を解説・提唱するのと相互に補完し合って、国
方に参加していただく方針とした。今年度は 12 人
内の HIV 診療に役立ててもらえるよう意図してい
の委員で改訂作業を行った。毎年 2-3 月に開催され
る。国内の HIV 感染者数・AIDS 患者報告数は年
る Conference on Retroviruses and Opportunistic
間 1500-1600 人で推移し、減少傾向にはない。HIV
Infections (CROI) meeting までに発表される HIV 感
診療を行う医師および医療機関の不足も懸念される
染症の治療や病態に関する新たな知見を、主要英文
中、診療経験の少ない医師でも本ガイドラインを熟
誌や内外の学会から収集した。
読することで、治療方針の意思決定が出来るように
② 平成 22 年度から公開していた初回治療の推奨処
考慮して作成した。
方のエビデンスとなる臨床試験の web サイトに関
初 期 の 抗 HIV 治 療 ガ イ ド ラ イ ン の 作 成 は 米 国
DHHS (Department of Health and Human Services)
し、より閲覧者の利便性を図るため、新たな臨床試
験結果の収集を行った。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
③ 公表された情報のみを研究材料とするため、倫理
面への特別な配慮は必要ない。
13
日本の医療費助成制度(身体障害者手帳)の利用
を考慮して、必要であればソーシャルワーカーなど
と相談することを促す内容とした。
研究結果
初回治療の推奨薬は昨年度の本ガイドラインでは
① 治療ガイドラインにおける重要な役割は、最新
12 通りであった。日本人に対する治療成績が蓄積さ
のエビデンスに基づいた治療開始基準と治療推奨薬
れてきたことや世界のガイドラインを参考として、
を提示することであるが、今年度はどちらにも大き
図 2 に示すような推奨薬および代替薬とした。
な改訂があった。まず、2015 年 7 月に発表された
EFV と ATV rtv を含む組み合わせは今年度よ
STRAT 試験の結果に基づき、治療開始基準に関し
り代替薬となった。その理由は EFV は中枢神経系
ては、米国、ヨーロッパおよび WHO など主要なガ
の副作用(長期使用による自殺率増加への懸念)、
イドラインで CD4 数に関わらずすべての HIV 感染
ATV rtv では長期使用での忍容性低下(黄疸、胃腸
者に治療開始を推奨すると記載された。これまでは
症状の増加)である。
治療開始基準の目安として CD4 数が挙げられてお
そ の 他、 各 項 目 で 最 新 の 情 報 を 加 え て ア ッ プ
り、臨床の場面においても CD4 数やウイルス量を
デートしているが、特に変化が著しいのは HCV に
見ながら経過観察をする場合も見られたため、この
対する経口薬の進歩である。Genotype 1 に対する
変化は今後の診療に大きく影響を及ぼし得ると考え
sofosbuvir+ledipasvir 12 週併用療法と、Genotype 2
られる。しかし、各ガイドラインでは推奨の強さ(程
に対す sofosbuvir+ribavirin の 12 週併用療法に関し
度)については多少の違いが見られ、START 試験
て、HIV(HCV 重複)感染者に対しても良好な治療
の解釈の仕方や各地域の実情を反映したものと考え
成績が報告されていることを記載した。
る。本ガイドラインで図 1 のような治療開始基準の
② 推奨処方の根拠となった臨床試験のサマリーを掲
目安とした。
載している web サイトに関しては、2015 年 10 月に
以下の 3 つの試験の結果を追加した:(http://www.
haartsupport.jp/evidence/index.htm)
ECHO 試験 (RPV+TDF/FTC と EFV+TDF/FTC
の 比 較 )、THRIVE 試 験 (RPV+2NRTIs と EFV+
2NRTIs の比較 )、FLAMINGO 試験(DTG+2NRTIs
と DRV rtv+2NRTIs の比較)。ウェブサイト上に掲
載した FLAMINGO 試験の結果の概略を示す。
図1
抗 HIV 薬治療の開始時期の目安
図3
図2
初回治療として選択すべき抗 HIV 薬の組み合わせ
FLAMINGO 試験のデザイン
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
14
際に最新版のアップデート後はダウンロード数は急
増しており、また、年間のダウンロード総数は 1 万
を越えるなど広く利用されている。国内の HIV 感染
者数は年々増加しており、HIV 診療を行う医師およ
び医療機関の不足も懸念されるなか、診療経験の少
ない医師が抗 HIV 治療の進歩を個別にフォローして
行くことは困難が伴うと予想される。したがって、
今後も最新のエビデンスに基づいて科学的に適切な
治療指針を提示する本ガイドラインの改訂が毎年続
けられ、国内の HIV 診療のレベルを維持するための
指針となっていく必要があると考えられる。
図4
FLAMINGO 試験の主要評価項目
また、新たな臨床試験が毎年発表されているため、
推奨処方のエビデンスを参照できるウェブサイトに
関しても、さらなるアップデートを重ねていく必要
がある。
結
論
最新のエビデンスに基づいて 「抗 HIV 治療ガイ
ドライン」を改訂し、科学的にもっとも適切と考え
られる治療指針を提示してきた。国内の多施設から
経験豊富な先生方に改訂委員に参画していただき、
国内の現状にも即したガイドラインとして充実を図
ることができた。また、初回治療の推奨処方のエビ
デンスとなっている臨床試験の結果を示した web サ
イトにも、新たな情報を追加して、ガイドライン冊
子と web サイトとの連携を深めることができた。今
後も HIV 感染症治療の内容は日々変化していくた
め、ガイドライン改訂が必要な状況が続くと考えら
れる。
健康危険情報
図5
FLAMINGO 試験の有害事象
この 3 つの試験の追加により、サマリーを掲載し
該当なし
ている臨床試験総数は 14 となり、情報源としての
研究発表
役割をさらに高めることができた。
1. 論文発表
考
察
「抗 HIV 治療ガイドライン」は、わが国における
HIV 診療を世界の標準レベルに維持することを目的
に、毎年アップデートがなされている。これは HIV
診療が日進月歩であり、1 年前のガイドラインはす
でに旧いという状況が続いていることによる。HP
上からどなたでも自由にダウンロードできるが、実
Furukawa R, Adachi E, Kikuchi T, Koga M,
Iwamoto A, Koibuchi T. Methemoglobinemia in an
HIV-infected patient treated with primaquine for
Pneumocystis jirovecii pneumonia. The Journal of
AIDS Research. 17: 97-100, 2015.
Shimada N, Yuji K, Ohno N, Koibuchi T, Oyaizu
N, Uchimaru K, Tojo A. Treatment of chronic
lymphocytic leukemia with bendamustine in an
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
HIV-infected patient on antiretroviral therapy: a
case report and review of the literature. Clin Case
Rep. 3(6): 453-60, 2015.
2.学会発表
鯉渕智彦:HIV 感染症 /AIDS の治療 最前線。第
89 回日本感染症学会総会・学術講演会、京都、2015
年4月
鯉渕智彦:HIV 感染症治療の手引き 推奨レジメン
の新しい分類。 第 29 回日本エイズ学会学術集会・
総会、東京、2015 年 12 月
城戸康年、安達英輔、古川龍太郎、相野田祐介、福
田直到、菊地正、古賀道子、大田泰徳、平井由児、
鯉渕智彦:病理検査にて粘膜固有層に浸潤を認めた
HIV 合併クリプトスポリジウム症の一例。第 29 回
日本エイズ学会学術集会・総会、東京、2015 年 12
月
菊地正、福田直到、宮崎菜穂子、佐藤秀憲、大亀路
生、安達英輔、古賀道子、鯉渕智彦:当院の性交渉
感染による HIV 感染者における非エイズ期未治療期
の CD4 陽性リンパ球減少速度の歴史的推移。第 29
回日本エイズ学会学術集会・総会、東京、2015 年
12 月
福田直到、安達英輔、城戸康年、菊地正、古賀道子、
鯉渕智彦:HIV 感染者におけるクレアチンキナーゼ
上昇の検討。第 29 回日本エイズ学会学術集会・総会、
東京、2015 年 12 月
安達英輔、大田泰徳、佐藤秀憲、福田直到、大亀路
生、菊地正、古賀道子、松原康朗、立川愛、鯉渕智彦:
HIV 感染者における Helicobacter pylori 感染と慢性
胃炎。第 29 回日本エイズ学会学術集会・総会、東京、
2015 年 12 月
古賀道子、福田直到、大亀路生、佐藤秀憲、菊地正、
安達英輔、鯉渕智彦:非 AIDS 指標悪性腫瘍及び重
複癌の後方視的研究。第 29 回日本エイズ学会学術
集会・総会、東京、2015 年 12 月
知的財産権の出願・取得状況 (予定を含む)
該当なし
15
16
3
HIV 陽性者の生殖医療に関する研究
研究分担者: 久慈 直昭(東京医科大学産科婦人科)
研究協力者: 花房 秀次(荻窪病院 血液科)
小島 賢一(荻窪病院 血液科)
加藤 真吾(慶應義塾大学 医学部 微生物学教室)
須藤 弘二(慶應義塾大学 医学部 微生物学教室)
高桑 好一(新潟大学医歯学総合病院総合周産期母子医療センター)
兼子
智(東京歯科大学市川病院 産婦人科)
研究要旨
2014 年より東京医科大学において行っている夫が HIV 感染者である夫婦への生殖医療では、患者の出身
地は関東が 1/3、夫の平均年齢 36.9 歳、妻の平均年齢 34.8 歳、感染経路は異性間性的接触が 5 割、同性間
性的接触が 2 割、血液製剤 1 割であった。93%が化学療法を受けていた。血液所見が判明していた 58 例中
CD4 は 81%が 351/µL 以上、血液中ウイルス量は 5 例を除いてすべて検出感度以下であり(91%)、これら
の率は昨年報告した率とほぼ同様で安定している。洗浄の結果、62 例全例でウイルス濃度検出感度以下の
運動精子液を得ることができた。洗浄を行った 62 例中 60 例は密度勾配溶剤 Sil Select で洗浄後精液中にウ
イルスは検出されなかったが、血中ウイルス量高値の 1 症例、およびウイルス濃度は測定感度以下であるが
CD4 数低値の 1 症例で、Sil Select ではウイルスが残存し、同時に行ったパーコール洗浄でウイルスを除去
することができた。洗浄精子を用いた顕微授精・凍結胚移植の結果、これまで 16 例の妊娠例(うち分娩 4
例と on going 妊娠 9 例)を得ている。
一方化学療法奏功例 10 例においては、従来の方法で洗浄後の沈査に HIV 遺伝子が検出された例はなく、
これらの例では精液中のウイルス量・感染リンパ球数も低値であることが推測されるため、顕微授精のよう
な懸念のない、低侵襲な人工授精治療の必要性が高いことが明らかとなった。
そのため必要となった運動精子回収率改善の試みでは、swim-up 法を swim-side 法に変えることで 2.54 倍、
連続密度勾配濃度を改変することで 1.2 倍の回収率改善が見られた。一方、洗浄法をオプチデンツ法に変更
することで、リンパ球除去率は 1/105 〜 1/106 となった。これらのことから、精液性状の良好な症例では、
小数回の凍結融解精子を用いた人工授精を試行する運動精子回収率を確保できる可能性が示された。
研究目的
あることがわかる。このように誰でも罹患する可能
わが国において HIV 感染者はいまだ増加しつつ
性のある感染症となった HIV 感染であるが、多剤併
ある。厚生労働省エイズ動向委員会による平成 26
用薬物療法の導入によりその予後は劇的に改善され
i
(2014)年エイズ発生動向調査によれば 、凝固因子
製剤を除く HIV 感染者・AIDS 患者累積報告件数
ている。その結果、HIV 陽性男性、陰性女性夫婦に
おいて挙児を希望する夫婦も増加している。
は 2.4 万件に達している。HIV 感染者新規報告件数
このような夫婦に対し、HIV 陽性である夫精液
1091 件のうち日本国籍例が 994 件、うち男性が 959
から洗浄によりウイルスを可及的に除去し、それを
件、女性 35 件と日本国籍男性が大多数を占めている。 妻に人工授精あるいは体外受精することにより安全
以前は同性間の性的接触や HIV 混入血液製剤による
に挙児を行う治療が行われてきた。我々も改良型
ものが多かった感染経路は、2014 年調査では異性間
Percoll-swim-up 法により HIV を除去し(図 1)、こ
性的接触が 8 割を占め、「異性間のセックスによっ
の精子浮遊液を使用した体外受精−胚移植(実際に
て日本国籍の男性が HIV に感染する」例が大多数で
は顕微授精)を施行することにより、妻が二次感染
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
17
そこで今年度本研究では、第一に HIV 陽性者男
性カップルに対する不妊治療の臨床を、前述の背景
を踏まえて再確認した。第二に、人工授精可能な洗
浄法の開発へ向けて、精液中(洗浄後沈渣)のウイ
ルス検定、および運動精子回収効率の高い洗浄法開
発に向けて、基礎的検討を行った。
方法・結果
1) HIV 陽性者男性夫婦に対する不妊治療の臨床
図1
精液洗浄によるウイルス除去
2014 年より東京医科大学において本治療を臨床応
用開始し、2016 年 12 月までに精液洗浄を行った 62
することなく、また出生児にも感染を起こさずに挙
夫婦の住所は関東が 1/3 の 21 例を占めるが、全国
児をえることができる技術の開発を行い、臨床研究
にわたる。夫の平均年齢 36.9 歳、妻の平均年齢 34.8
として成果(感染なき妊娠分娩例)を上げてきた。
歳(表 1)、感染経路は異性間性的接触が 5 割、同性
しかしこの臨床研究も 10 年以上経過し、その間
に HIV 感染症の治療方針も大きく変化した。2000 年
間性的接触が 2 割、血液製剤 1 割であった(表 2)。
93%が化学療法を受けており、血液所見が判明して
代前半までは生命予後を脅かすほどのイベントが起
いた 58 例中 CD4 は 81%が 351/µL 以上、血液中ウ
きるまでは服薬開始を遅らす方針が主流であったが、 イルス量は 5 例を除いてすべて検出感度以下であっ
最近 HIV の増殖を無治療で許しておくことそのもの た(91%)(表 3)。これらの率は昨年報告した率と
が、非 AIDS 合併症(心血管疾患、肝疾患、腎疾患) ほぼ同様で安定している。
のリスクを上昇させると考えられ始めたこと、また
あらたな抗 HIV 薬の開発やその使用法が進歩したこ
⾲䠍䠊ᮾி་኱䛻䛚䛡䜛Ὑί⑕౛䠄䠍䠅
表 1 東京医大における洗浄症例(1)
とから、副作用は少なくなり、薬物療法の開始は早
䠍䠅ᖺ㱋
まる方向にある。本研究班による「抗 HIV 薬ガイド
ライン」ii においても治療開始は早まる傾向にあり、
治療開始の目安は免疫機能が臨床的には低下しない
CD4 数 500/µL 以下となっている。こうしたことか
ら不妊治療を希望する HIV 感染男性も、すでに薬物
治療をうけているものが多くなっており、具体的に
䠎)፧ጻᖺᩘ Ͳ1ᖺ
Ͳ3ᖺ
Ͳ5ᖺ
5ᖺ௨ୖ
このように血中ウイルス濃度が低い症例では当然
精液中のウイルス濃度も低下することが推測され、
血中ウイルス濃度が感度以下、血中 CD4 数高値が
一定期間以上持続すれば自然性交による妻への感染
リスクは極めて低いとする報告もなされている。こ
うして自然性交によるリスクが低下すると、問題と
36.9ṓ䠄27Ͳ49䠅
34.8ṓ䠄24Ͳ48䠅
8౛
11
9
29
⾲䠎䠊ᮾி་኱䛻䛚䛡䜛Ὑί⑕౛䠄䠎䠅
表2
はウイルス濃度が測定感度以下、CD4 数も 351/µL
以上の症例が多数を占める様になってきている。
ኵ
ጔ
東京医大における洗浄症例(2)
䠏䠅䛩䛷䛻Ꮚ䛹䜒䛜䛔䜛๭ྜ
䠐)ឤᰁ⤒㊰ ␗ᛶ㛫ᛶⓗ᥋ゐ
ྠᛶ㛫ᛶⓗ᥋ゐ
⸆ᐖ
୙᫂
9/53
(17)
22
11
5
9
(47)
(23)
(11)
(19)
⾲䠏䠊ᮾி་኱䛻䛚䛡䜛Ὑί⑕౛䠄䠏䠅
表3
東京医大における洗浄症例(3)
なってくるのは体外受精や顕微授精に伴う(低いと
5)໬Ꮫ⒪ἲ䜢ཷ䛡䛶䛔䜛๭ྜ
51/55
は考えられているが)母児へのリスクである。従っ
6)CD4ᩘ
3/58
(5)
8/58
(14)
20/58
(34)
22/58
(38)
5/58
(9)
500 (90Ͳ956䠅
て現在、このような治療奏功例も含めて全例に顕微
授精を行う本治療は、その臨床的意義を再確認する
必要がでてきている。この意味では一部の症例でも
人工授精で妊娠を計ることができるならば、患者に
とっては大きな福音となる。
7)⾑୰VL
<200
201Ͳ350
351Ͳ500
501Ͳ750
>750
ᖹᆒ
VLmax
<40䛾๭ྜ
(93)
2.1x105 copies/ml
53/58
(91)
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
18
⾲䠒䠊Ὑί⢭ᾮ䛻䜘䜛୙ዷ἞⒪⤖ᯝ䠄䠎䠅
表 6 洗浄精液による不妊治療結果(2)
洗浄の結果、62 例全例でウイルス濃度検出感度
以下の運動精子液を得ることができた(表 4)。た
n
(%)
ዷፎ䠄⑕౛䛒䛯䜚䠅
16/37
(43)
無症状であるために治療を受けず、しかも本治療を
OnͲgoingዷፎ䠄⑕౛䛒䛯䜚䠅
13/37
(35)
希望する夫婦も存在した。このような場合を含め
ዷፎ䠄⬇⛣᳜䛒䛯䜚䠅
16/66
(24)
て、洗浄を行った 62 例中 60 例は現在使用されて
OnͲgoingዷፎ䠄⬇⛣᳜䛒䛯䜚䠅
13/66
(20)
だ、一方でウイルス量が非常に高いにもかかわらず
®
い る silane-coated colloid silicagel (Sil Slect plus 、
ᖹᆒ⛣᳜⬇ᩘ
FertiPro N.V., Beernem, Belgium;メディー・コン
⬇䛒䛯䜚╔ᗋ⋡
1.24
20/82
(24)
インターナショナル、以下 Sil Select) で洗浄後精液
中にウイルスは検出されなかったが、ウイルス量が
3000 copies/mL 以上であった 1 症例、およびウイル
ス濃度は測定感度以下であるが CD4 が 201 〜 350/
µL に低下していた 1 症例の 2 例で、Sil Select では
ウイルスが残存したが、同時に行ったパーコール洗
浄でウイルスを除去することができた。
2)人工授精治療を目指したウイルス洗浄法の
改良
前項で示したとおり、当院を訪れる HIV 感染男
性(夫)のほとんどの症例で、化学療法の結果血中
ウイルスが測定感度以下となっている。実際、化学
療法奏功例(採精時 VL<40 copies/mL, CD4>501/
洗浄精子を用いた顕微授精・凍結胚移植の結果、 µL)では洗浄後、swim-up 前の検体でウイルス検出
これまで 16 例の妊娠例(うち分娩 4 例と on going できた例は 10 例中なかった(表 7)ことから、これ
妊娠 9 例)を得ており、この治療が従来と変わらず、 らの症例では精液中のウイルス量や感染リンパ球数
(すべてではないものの)一定の割合の夫婦に福音 は非常に低いことが推測される。
を与えていることも確認された(表 5、表 6)。
また、現行の東京医科大学産婦人科以外から洗浄
した精液検体を受け入れ、慶應義塾大学医学部微生
物学教室にてウイルスの有無を検査するシステムを
構築し、すでに一例の夫婦がこの方法で治療を待っ
ている。
単胎であっても周産期・胎児異常を増やす可能性が
指摘されているため、ウイルス量が高い症例は別に
して、測定感度以下に治療されている例も全例顕微
授精を行う必要性は減ってきていると考えられる。
このような症例に対しては安全で簡便な人工授精治
表 4 東京医大における洗浄結果
表4.東京医大における洗浄結果
1)運動精子(+)、HIV(-)
62/62
うち2例はパーコールのみで洗浄成功
(100)
n
療の開発が急務であるが、そのためには凍結融解後
も人工授精可能な、運動精子濃度の高い精子浮遊液
を準備する必要がある。
このようなことから、この目的を達成する準備と
2)精子回収数、回収率
運動精子回収数
(x 106/ml)
現在この治療で全例に用いている顕微授精法は、
%
して、精液洗浄・回収技術の改良を検討した。
運動精子回収率
n
%
(5)
(2)
(3)
(25)
(42)
(16)
(34)
(55)
(20)
表7.沈渣分画のHIV遺伝子の有無
表 7 東京医大における洗浄結果
症例
夫年齢
薬物治療年数
(5歳刻)
CD4
VL
総運動精子
沈渣HIV遺伝子
数(x106)
1
2
30
30
2
2
487
672
<20
<20
45.3
38.1
-
-
3
4
30
36
6
19
590
611
<20
<20
140.8
120.1
-
-
5
40
23
540
<20
335.1
-
6
30
2
500
<20
94.9
-
49
7
35
3
529
<20
140.5
-
᥇༸ᡭ⾡ᩘ
81
8
35
23
600
<20
88.9
-
71
9
35
3
592
<20
50.0
-
᥇༸ྍ⬟⑕౛ᩘ
10
45
2
600
<20
31.5
-
⾲䠑䠊Ὑί⢭ᾮ䛻䜘䜛୙ዷ἞⒪⤖ᯝ䠄䠍䠅
表 5 洗浄精液による不妊治療結果(1)
n
᥇༸ᡭ⾡⑕౛ᩘ
ᖹᆒ᥇༸ᩘ
4.39
ᖹᆒཷ⢭༸ᩘ
3.23
ᖹᆒ෾⤖༸ᩘ
2.33
(%)
(88)
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
(1)洗浄法改良
19
(2)swim-up 法改良
精液からのウイルス洗浄において、遊離ウイル
swim-up はリンパ球をほぼ完全に除去することが
スを除去する第一段階の操作が密度勾配遠心法であ
できるが、精子回収率は低い。そのため従来より、
る。現在は、Sil Select、および 80% Percoll(北里コー
MS チ ャ ン バ ー(Migrate Sedimentation Chamber
ポレーション)を下層に 2ml、対応する培養液(Hanks
RI MSCTM;JX エネルギー)
、あるいは swim-side 法 iii
等)を 2ml 上層に重層し、傾斜回転により作成した (ニプロ #87-433 swim-side-alley)等の改良 swim-up
連続密度勾配に精液を重層し、1600g、10 分間遠心
法が紹介されている(図 3、図 4)。今回、我々が従
して下層 0.5ml を採取している(図 1、a-d)。しか
来から使用している swim-up 法と、これらの改良法
し我々が以前測定した密度勾配溶剤中の遊離ウイル
の比較を行った。
ス浮遊密度推定値は 1.042g/ml であり、これは昨年
従来法では、培養液 0.7ml の下に 0.3ml の沈渣を
我々が測定した密度勾配溶剤と Hanks 液の比重をも
静かに入れ、45 分後に上層 0.5ml を回収した(図 4,
とにした計算上、Sil Select では原液を 80%とすれば
a)。MS チャンバーでは、まず培養液(Fertilization
30%に相当する。従って、より希釈した密度勾配溶
medium、Sidney IVF-Cook、東機貿)を中央のチャ
剤で連続密度勾配を作成しても、下層の濃度が 30%
ンバーを含め 1ml 注入、その後外側の溝に 0.3ml の
以上であれば管底 0.5ml には遊離ウイルスが沈降し
沈渣を培養液の下に注入、45 分後に中央のチャン
ない勾配を作成できるはずである。
バーから 0.7ml を回収した(図 4,b)。swim-side 法
そこで、今回は密度勾配溶剤 Sil Select)と Hanks
では、円形のシャーレの中央に切った二つの溝の両
を、1:1 に混合して希釈し(40% Sil Select)、これ
方に、併せて 1.5ml の培養液を入れ、その後片方の
を下層に Sil Select 原液の代わりに置くことで、よ
溝に 0.3ml の沈渣を培養液の下に注入、45 分後に沈
り低密度の連続密度勾配を作成し、回収される精子
渣のない方の溝から 1.0ml を回収した(図 4,c)
数を比較した(図 2)。
結果は、表 9 に示すとおり、総運動精子回収率
結果は、表 8 に示される様に回収率は 0-40% Sil (swim-up 後運動精子回収数/原精液総運動精子数)
Select で 0-80% Sil Select の 1.19 倍高くなり、運動
で比較して swim-side 法は従来法の 2.54 倍の回収
精子の回収率は 23.7%となった。
率があった。しかし、その回収率は一番高い swim-
ᅗ䠏䠈MS⟶䛸swimͲsidealley
ᅗ䠎䠊Ὑίἲ䛾ᨵⰋ
side 法でも 8%程度である。
⢭Ꮚ
0%SilͲSelect
(=Hanks)
0%SilͲSelect
(=Hanks)
䠄㐃⥆ᐦᗘ໙㓄䠅
䠄㐃⥆ᐦᗘ໙㓄䠅
80%SilͲSelect
図2
40%SilͲSelect
MS⟶
swimͲsidealley
ᅗ䠐䠊Swimupἲ䛾ᨵⰋ
図 3 MS 管と swim-side 法
洗浄法の改良
表8.洗浄法の改良
表 8 洗浄法の改良
使用したSil-Select 運動精子回収
連続密度勾配
率(%)
従来法での
回収率を1と
した場合の回
収率比
0-80%(従来法)
19.8±1.20
1
0-40%
23.7±4.66
1.2
ᇵ㣴ᾮ
⢭Ꮚ
ỿ´
a. ᚑ᮶ἲ
b.MS䝏䝱䞁䝞䞊
図4
swim-up 法の改良
c.swimͲsideἲ
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
20
表9.swim-up法の改良
表 9 Swimup 法の改良
swim-up法
運動精子回収率
(%;mean±SD)
従来法
2.54±0.06
MS管法
4.55±7.08
Swim-side法
8.65±4.28
従来法を1とした場
合の回収率比
1
赤血球は Percoll の中間層に分布し、運動精子は主
として沈澱に回収された。
実際の分離では、始めにオプチデンツで血液混濁
精液を遠心分離し、精子および赤血球、少量の白血
2.23
球を含む中間層(15.5% /31%界面)を回収し、これ
2.54
を回収して検査に供した。
を数倍に Percoll に層積して再度遠心分離し、沈澱
始めに血液
(3)オプチデンツを用いた洗浄法によるリンパ球除
去率
運動精子を swim-up させて白血球を除去する方法
は前項で示される様に精子回収率が低く、生殖補助
医療施行上のボトルネックとなる。そこで、オプチ
デンツを用いた遠心分離のみで運動精子の分離と精
液中の白血球分離を同時に行えるかどうかを検討し
た。
末梢血 5ml 採取、1.0mM EDTA 生食で 5 倍希釈
し、その 1.0ml を精液 2.0ml に添加した。成人血中
6
白血球数は 4-9 × 10 /ml であり、添加血液 1.0ml に
4-9 × 106 個が存在する。
こうして調整した血液加精液をハンクス液で約
10ml になるように希釈し、遠心管底部に 0.2ml の
4.2 ml をオプチデンツ、Percoll 遠心
分離法により分離、Percoll 密度勾配沈澱(運動精子
が回収される分画)中に血球細胞が回収されるかを
観察した。スメア上に細胞成分を認めず、2 種の遠
心分離法を組み合わせることにより完全に血球細胞
を除去できることを確認した。
表 10 に検討した 4 精液標本の精液および洗浄精
子所見、白血球残存数をまとめた。洗浄後の運動率
は全ての標本で 80%以上となった。残存白血球数は
18-1 個であり、成人血中の白血球数は 4-9 × 106/ml
とされており、添加血液 200 µl に 0.8-1.8 × 106 個(平
均 1.3 × 106)と仮定すると、概ね 1/105 〜 1/106 に
減少していた。
図 6、7 は 4 標本の沈渣染色像を示している。標
本 1 では非精子細胞を見つけることができたが、2 -
4 においては精子以外の細胞を見つけることができ
90% Percoll を導入して 1700 rpm 20 分間遠心分離、 なかった。
遠心後、上清を除去し、その 0.5ml をとって細胞を
ᅗ䠑. 䜸䝥䝏䝕䞁䝒䛻䜘䜛Ὑί
濃縮した。
この濃縮液 0.5ml を 31%オプチデンツ 0.5ml と等
量混合、2.0 ml の 15.5%オプチデンツ、1.0ml の 31%
オプチデンツに層積して 15,000rpm 10 分間遠心分
離した。その中間層を回収し、ハンクス液で数倍に
希 釈 後、90 % Percoll
5.0ml に 層 積 1700rpm 20 分
間遠心分離した。沈渣分画 0.1ml を回収し、精子濃
度、運動率を測定後、全量を用いてサイトスピンス
メアーを作成し、当院血液センターの専門検査技師
2 名に依頼してメイギムザ染色法により白血球、赤
図5
血球残存率を観察した。
結果であるが、図 5 は血液および血液混濁精液の
表 10
分離を示している。遠心管 1、2 はオプチデンツお
よび Percoll に希釈血液
1.0 ml を層積した遠心分離
像を示している。1 において白血球は培養液 /15.5%
界面、赤血球は 15.5% /31%界面に分布した。2 にお
オプチデンツによる洗浄
表10 洗浄後結果
洗浄後結果
原精液
白血球数(個)/
全視野
洗浄後
運動
精液量 精子濃度 運動率 液量 精子濃度
技師 技師
率
平均
(ml)
(X106/ml) (%)
(ml) (X106/ml)
1
2
(%)
4.1
22000
49
0.2
3000
80
18
12
15
いて白血球、赤血球は Percoll 密度勾配の中間層に
2.4
9600
71
0.2
8100
88
10
分布した。3 は血液混濁精液を Percoll 密度勾配に層
5.4
6400
59
0.2
4300
91
7
5
積した分離像を示している。未成熟精子、白血球、
4.8
5500
52
0.2
6200
87
4
1 2.5
7 8.5
6
ᅗ䠒
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
21
妊治療に用いられている silane-coated の密度勾配溶
剤を用いるのが望ましい。90%以上の症例が silanecoated の密度勾配溶剤で洗浄可能だったというこの
結果は、従って非常に心強い。しかし一方で、血中
ウイルス量が極めて高い症例や血中ウイルス量は測
定感度以下でも CD4 が 201-350/µL に低下している
ᅗ䠓䠊
図6
症例では、やはりパーコール洗浄が有用である可能
性は高い。今後は血中ウイルス濃度、CD4 数を指標
とした洗浄法の選択が、必要になってくると思われ
る。
洗浄精子を用いた顕微授精・凍結胚移植の結果、
症例あたりで 1 / 3 の症例で挙児にながる妊娠を得
ることができている。もともとこれらの症例は不妊
症例ではないため、ある程度の妊娠率が出ることは
自明である。ただ、その一方でこれまで他院で複数
図7
考察
1)HIV 陽性者男性夫婦に対する不妊治療の患
者解析と普及
2014 年より東京医科大学において本治療を臨床応
用開始したが、患者背景(出身地、夫婦の年齢、感
染経路)は 2014 年度とほぼ同様であった。93%が
化学療法を受けており、血液所見が判明していた 58
例中 CD4 は 81%が 351/µL 以上、血液中ウイルス量
は 5 例を除いてすべて検出感度以下で(91%)、こ
れらの率も昨年報告した率とほぼ同様で安定してい
る。
洗浄の結果、62 例全例でウイルス濃度検出感度以
下の運動精子液を得ることができたが、一方でウイ
ルス量が非常に高いにもかかわらず無症状であるた
めに治療を受けず、しかも本治療を希望する夫婦も
存在した。とくに CD4 高値の場合、これからの長
い闘病期間と、長期服用による薬剤の有害作用、耐
性ウイルスの出現などを考えて治療開始を遅らす場
合も有り、このような場合比較的精液中ウイルス量
が高い状態で洗浄を行わなければならないことは、
現在でもあることが示された。しかし、洗浄を行っ
た 62 例中 60 例は現在使用されている silane-coated
colloid silicagel (Sil Select) で洗浄が可能で有り、と
くに血液中ウイルスが測定感度以下、かつ CD4 数が
350/μL 以上の症例ではすべてこの密度勾配溶剤で洗
浄可能であった。パーコールにはアレルギーやエン
ドトキシン高値などの懸念があり、できれば現在不
回の ART を施行したり、初診時の年齢が高いため
に予後不良と考えられる症例も徐々に増えてきてい
る。
また現行の東京医科大学産婦人科以外から洗浄し
た精液検体も受け入れる体制は構築できたが、(多
数例によるウイルス検定の臨床的有効性が確認され
た)検査機関がただ一つしかない、ということは将
来的に問題となる可能性はあるかもしれない。
2)人工授精治療を目指したウイルス洗浄法の
改良
従来の方法では、精液洗浄で運動精子回収率は
高くても平均 20%、swim-up 法で 2%であり、理論
上、原精液に存在する運動精子の 0.4%しか回収でき
ない。仮に 5000 万の運動精子を持つ男性でも、回
収できる運動精子はわずかに 200 万である。従って
100 万個の運動精子が一回の人工授精に必要とすれ
ば、わずか 2 回しか施行できない。さらにこれは新
鮮精子を用いた場合であるため、凍結融解で 50%の
運動精子が運動性を失うとすれば、わずか 1 回しか
人工授精はできないことになる。
そこで、回収法を洗浄・swim-up 法にわけて行っ
た。改良法は、3 倍程度の回収率を確保することが
できる可能性があり、これなら 5000 万個の運動精
子があれば 300 万の運動精子を得ることができ、凍
結しても 1 回の人工授精と数回の顕微授精を行うこ
とができる。
一方オプチデンツを用いて洗浄のみでリンパ球除
去効率をみてみると、血液のみを分離した場合には
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
22
精液に混入した量の 20 倍以上を分離したにもかか
変更することで、リンパ球除去率は 1/105 〜 1/106
わらず、全ての血液細胞を除去することができた。 となった。これらのことから、精液性状の非常に
一方、精液に混入した場合には、最終的な精子分画
5
6
よい症例では、小数回の凍結誘拐精子を用いた人工
への混入量を 1/10 〜 1/10 に減らすことができた
授精を試行する回収率を確保できる可能性が示され
が、0 とはならなかった。オプチデンツ法は DNA
た。
損傷の少ない精子を集めることができると言われて
倫理面への配慮について、東京医科大学倫理委員
いるが、ウイルス除去に使用するには、感染粒子・
会で承認を取得した(承認番号 2623、平成 26 年 2
感染細胞の混入を防ぐ、技術的な改良が必要である。 月 26 日承認)。
計算上半数の患者で、現実的に IUI を 2 回施行、
その後に ICSI を行うだけの精子を 1 回の採精で回
健康危険情報
収するためには現状の 30 倍程度の回収率改善が必
該当なし
要であり、残念であるが洗浄能をある程度犠牲にす
ることなしにはあり得ないと考えられる。しかし前
述のように化学療法奏功例(採精時 VL<40 copies/
mL, CD4>501/µL)では洗浄後、swim-up 前の検体
でウイルス検出できた例は 10 例中なかったことか
ら、このような症例にのみ洗浄効率を犠牲にして回
収効率を上げるような、洗浄法の抜本的改良は現実
的かもしれないと考えられた。
結論
2014 年より東京医科大学において行っている臨床
研究では、患者の出身地、夫妻の平均年齢、感染経
路などの患者背景に変化はなかった。93%が化学療
法を受けており、CD4 は 81%が 351/µL 以上、血液
中ウイルス量は 91%が検出感度以下であった。洗浄
の結果、全例でウイルス濃度検出感度以下の運動精
子液を得ることができた。62 例中 60 例は Sil Slect
研究発表
1. 原著論文
Inoue O, Kuji N et al. Clinical efficacy of a
combination of Percoll continuous density gradient
and swim-up techniques for semen processing in
HIV-1 serodiscordant couples. Asian J Androl(in
press)
2. 口頭発表
上野啓子、〇久慈直昭ら。HIV 陽性男性と HIV 陰
性女性の生殖医療における最近の動向。第 33 回日
本受精着床学会総会・学術講演会、東京、2015 年
11 月
土田 奈々枝 , 〇久慈 直昭ら。挙児希望 HIV 感染男
性のプロフィールと不妊治療との関連。第 149 回関
東生殖医学会 総会・学術集会、東京、2015 年 7 月
で洗浄後精液中にウイルスは検出されなかったが、 山田 千晶 , 〇久慈 直昭ら。HIV 陽性男性と HIV 陰
性女性の生殖医療における最近の動向。第 131 回
血中ウイルス量高値の 1 症例、およびウイルス濃度
関東連合産科婦人科学会 総会・学術集会、東京、
は測定感度以下であるが CD4 低下の 1 症例で、Sil
2015 年 6 月
select ではウイルスが残存したが、同時に行ったパー
由島 道郎 , 〇久慈 直昭ら。HIV 感染精液における
コール洗浄でウイルスを除去することができた。洗
ウィルス洗浄の効果検討 密度勾配溶剤の影響。第
浄精子を用いた顕微授精・凍結胚移植の結果、これ
67 回日本産科婦人科学会学術講演会、神奈川、2015
まで 16 例の妊娠例(うち分娩 4 例と on going 妊娠
年4月
9 例)を得た。
一方化学療法奏功例 10 例においては、従来の方
法で洗浄後の沈査に HIV 遺伝子が検出された例はな
知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
該当なし
く、これらの例では精液中のウイルス量・感染リン
パ球数も低値であることが推測された。
そのため必要な運動精子回収率改善の試みでは、
swim-up 法を swim-side 法に変えることで 2.54 倍、
連続密度勾配濃度を改変することで 1.2 倍の回収率
改善が見られた。一方、洗浄法をオプチデンツ法に
i
厚生労働省エイズ動向委員会。http://api-net.jfap.or.jp/
status/2014/14nenpo/h26gaiyo.pdf#search=% 27hiv% E6
%84%9F%E6%9F%93%E8%80%85%E6%95%B0+%E6%97%A5%E6
% 9C% AC% 27
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
ii
HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究班(研
究分担者鯉渕智彦、研究代表者白阪琢磨)。抗 HIV 治療
ガイドライン。2015
iii
黒田 優佳子 , 兼子 智 , 高松 潔。運動精子の回収率向上
を目的とした swim side array の開発。日本生殖医学会
雑誌 (1881-0098)51 巻 4 号 Page298(2006.10)
23
24
4
HIV 感染患者における透析医療の推進に関する研究
研究分担者: 秋葉
隆(東京女子医科大学腎臓病総合医療センター 血液浄化療法科 教授)
研究要旨
近年の治療の進歩に伴う HIV 感染症患者の予後改善により、慢性透析を必要とする HIV 感染腎臓病患者
が増加している。この患者に透析の機会を供給するための方策を模索した。
わが国の透析施設では感染対策として厚労科研研究班の補助を受けて作成された「透析医療における標準
的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル(三訂版)
(2008)
」が広く使われている。この記載内容を
再検討して、HIV 感染透析患者の透析医療が、適正にかつ十分供給される環境づくりをおこなった。前年度
改訂した「透析医療における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(四訂版)
」の周知をはかった。
研究目的
研究結果
HIV 感染透析患者の一般の外来透析施設への受
1、感染予防に関するガイドライン(四訂版)の配布
け入れが難しい状況を打破するために、HIV 感染者
日本透析医会、日本透析医学会、日本臨床工学技
の透析受け入れ状況および、拠点病院から外来透析
士会 日本腎不全看護学会の協力を得て「透析施設に
施設へ患者の移動状況を調査し問題点を明らかにし
おける標準的な透析操作と感染予防に関するガイドラ
た。これらの知見をもとに前年度作成した「透析医
イン(四訂版)
」
(図 1)を 2 年計画で前年度作成、発
療における標準的な透析操作と院内感染予防に関す
行し、今年度は日本透析医学会施設会員全国 4600 施
るマニュアル(四訂版)」を用いて、透析医療にお
設と日本透析医会 1500 会員に配布し周知をはかった。
けるスタンダードプリコーションを見直し、また疾
患スペシフィックな感染予防操作についてもできる
だけ統一をはかり、HIV 感染者の治療をスムーズに
行える環境づくりを果たす。
研究方法
1. 透析医療における感染予防に関するガイドライン
(四訂版)の配布
2. ガイドライン発行周知前の感染対策の実施状況ア
ンケート調査
3. 日本透析医学会総会シンポジウム開催等
4. 医療従事者向け講習会等
5. 書籍『解説:透析医療における感染症対策ガイド
ライン』発行と配布
図1「透析施設における標準的な透析操作と
感染予防に関するガイドライン(四訂版)」
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
25
2、発行周知前の感染対策の実施状況アンケート調査
るうえで、透析従事者と施設が留意すべき点を周知
「透析施設における標準的な透析操作と感染予防
し、HIV 感染透析患者へ透析医療を実施するうえで
に関するガイドライン(四訂版)」の感染対策への
の制度上の障害を取り除くことが重要である。
改善効果を評価するための、発行周知前の感染対策
の実施状況を調査した。日本透析医学会の許可を得
て、施設会員 4600 施設にアンケート調査をおこない、
結論
平易で安全な HIV 感染患者の透析療法の実施方
1631 施設、患者数で 130,766 名から回答を得た。回
法を広く透析従事者に提示し、HIV 感染患者への
答を得たなかで、HIV 感染患者 58 名は 37 施設に在
透析療法提供への無知に伴う不安を取り除いたうえ
籍していた。他の感染対策との関連については検討
で、実際の患者受け入れの筋道を提示した。「HIV
中である。
感染患者における透析医療の推進」を強く推し進め
ることができた。
3、日本透析医学会総会シンポジウム開催
第 60 回日本透析医学会総会において
6 月 28 日
(日)8:30-11:00 に第 3 会場で シンポジウム「透析医
健康危険情報
該当なし
療における感染対策〜マニュアルからガイドライン
へ」を司会
秋葉
隆と安藤亮一先生(武蔵野赤十
字病院)とともに行い、ガイドラインの衆知徹底を
はかった。さらに「HIV 感染透析患者への対策」と
して日ノ下文彦(「国立国際医療研究センター」に
研究発表
日ノ下文彦 , 秋葉隆 , 勝木俊 , 戸村成男 . 高齢化する
血液透析患者の透析実態に関するアンケート調査 .
日本透析医学会雑誌 48(6):341-350, 2015
HIV について講演いただき、HIV 患者の透析医療に
知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
ついて詳述いただいた。
該当なし
4、医療従事者向け講習会
都内の透析医療機関の医師やコメディカルスタッ
フ等の皆様を対象に、HIV陽性者の透析医療につ
いて理解を深めていただくための東京都による講習
会
平成 27 年度 医療従事者向け講習会「HIV陽
性者の透析医療をはじめるにあたって」を、平成 28
年 2 月 16 日(火)午後 7 時〜午後 9 時に、東京医
科大学病院
村松崇先生
国分寺南口クリニック
栗山廉二郎先生を講師に執り行った。
5、書籍「解説:透析医療における感染症対策ガイ
ドライン」発行
書籍「解説:透析医療における感染症対策ガイド
ライン」を編集:秋葉
隆で企画し原稿を集めてい
る(400 字詰め 361 枚)。3 月 16 日完成予定で順調
に進行している。現時点で 1550 部の発行を予定し
ている。
考察
HIV 感染患者における透析医療の推進のために
は、透析従事者へ HIV 感染症の正しい理解を進める
必要がある。HIV 感染透析患者へ透析医療を実施す
26
5
HIV 陽性者の心理的支援の重要性に関する検討
研究分担者: 大山
泰宏(京都大学大学院教育学研究科 心理臨床学講座)
研究協力者: 荒木
浩子(追手門学院大学 心理学部・学生相談室)
清水亜紀子(京都市立病院 緩和ケア科)
高橋紗也子(京都大学大学院教育学研究科 心理臨床学講座)
田中
史子(京都文教大学 臨床心理学部)
仲倉
高広(京都大学大学院教育学研究科 臨床実践指導学講座)
野田
実希(京都大学大学院教育学研究科 心理臨床学講座)
古野
裕子(葵橋ファミリー・クリニック)
研究要旨
HIV 陽性者に何らかの心理的支援が必要なことは、共通理解が得られている。しかし、どのような心理的
支援が必要なのかに関しては、まだ明確ではない。というのも、HIV 陽性者が抱えるテーマは、生物学的 ・
心理的 ・ 社会的な次元での問題が密接に関連したものであり,かつ HIV を抱えて生きるという実存的な次
元での問いも含まれ、非常に複雑なものと考えられるからである。そこで、本研究では、① HIV 陽性者にとっ
てどのような心理的支援が必要であるのかを包括的に探索する、② HIV 陽性者に対する心理療法の効果を
実証的に示す、ということを目指す。そのために、本年度は、心理療法を行っていく前提となる HIV 陽性
者の心理的支援に関するニーズを把握し、効果測定に必要な指標を作成するための理論的基盤の検討と、次
年度に向けた調査計画の立案を行った。
研究目的
HIV/AIDS 領域では、多職種によるチーム医療
効果に関しては、明示的に説明しにくい。しかしな
がら、人生のうえでのさまざまな 「生きにくさ」 や、
が必要であるという認識が広まり、実践されてきて
まさに実存的 ・ スピリチュアルな次元でのテーマを
いる。チーム医療では、患者の全人的なケアのため
抱えている HIV 陽性者にとって、力動的な心理療法
にそれぞれの専門性を活かしつつ、協働することが
へのニーズが潜在的に高いことは疑いようがない。
求められてきており、臨床心理士による患者の心理
これまでに HIV 陽性者に対する心理的支援の効
的支援も広く行なわれてきている。現場では、一定
果が研究されたものとしては、富成(2012)のレ
の効果があると実感されてきたと思われるが、いっ
ビューによると、HIV 感染者のストレス・マネジ
たいどのような効果があるのかということに関して
メントについての 35 のランダム化比較試験のメタ
は、いまだ明示的な研究は行われていない。
解析では、ストレスへの対応法や精神的・肉体的リ
心理的支援と一口にいっても、その内包はさまざ
ラクゼーション法の実践などの介入を少人数グルー
まであるが、なかでもカウンセリングを含む心理療
プまたは 1 対 1 で行うことによって、不安・抑う
法は、臨床心理士をはじめとする専門職の専門性が
つ・心理的苦痛・疲労感の改善に効果があったとし
もっとも発揮されるものである。しかし心理療法は、 ている (Scott-Sheldon, Kalichman, Carey, & Fielder,
時間とコストがかかる上、その明示的な効果が数値
2008)。また、HIV 感染者の不安に対する介入の効
的には示しにくい。さらに、認知行動療法等の目標
果を検証したメタ解析では、総じて薬物療法など
と評価がはっきりしている技法であればまだしも、 と比べ効果があったとする研究が多かった (Clucas
患者自身のナラティヴを重視し、行動次元の変化の
et al., 2011) としている。さらに、HIV 感染者の抑
みではなく心理的 ・ 人格的な次元での変化を目的と
うつに対しても、心理学的な介入は効果があり、特
し、本人にとっての人生の主観的な意味づけを重視
に認知行動療法で効果が大きかった (Sherr, Clucas,
する、力動的な心理療法に関しては、ますますその
Harding, Sibley, & Catalan, 2011) と報告している。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
27
富成(2012)は心理的支援の効果測定に関し、
「薬
は当事者である患者本人にとってどのような意味づ
物治療は薬剤の種類・投与量・期間などを明確に定
けがなされ、どのような体験として人生の中に位置
義することが比較的容易である。しかしカウンセリ
づけられるのかといったことに関しては、まだ十分
ングの効果を評価したい場合、『カウンセリング』 な検討がされているとは言い難い。
を定義しなければならないが、一口にカウンセリン
その理由としては、HIV 陽性者の抱えるテーマが
グと言っても様々な技法があり、カウンセラーによ
複雑であることに加え、心理療法の実証的な効果研
り得意とする技法や、実際にクライアントに対して
究自体が一般に困難であることが考えられる。たし
施している内容が異なることがある。また個々のク
かに、これまで心理療法の効果研究は多く行われて
ライアントの性格や、HIV 感染症の病名告知からの
きてはいる(Haeyen et al, 2015; Roeden et al, 2014;
時期に合わせて、複数の技法を適宜組み合わせて行
Abdollahian et al, 2013)が、その妥当性と信頼性に
う」こと、「多くの先行研究において、介入の効果
関する議論は絶えない。一般に効果研究を行う場合、
の評価は、介入の直後から 2、3 ヶ月と早期に行なっ
ランダム化比較試験を行うことが望ましい実験計画
ている。長いものでも評価までの期間は 1 〜 2 年程
とされるが、心理療法の研究の場合、これを正確に
度であり、さらに長期的な予後を評価した研究は乏
行うのは殆ど不可能である。まず、実験の期間が長
しい」こと、「本人の意欲も関係すると思われるだ
期にわたり、多くの影響が介在すること、心理療法
けに、無作為割り付けで効果を評価する手法には問
を受けない群が別の心理的支援を開始してしまう場
題がある」ことなどを挙げ、効果測定が複雑である
合も多く、それを倫理的に制限はできないこと、心
と述べている。
理療法を受けることに同意する群には、そもそも心
山中(2010)によると、医療者の中には、カウン
理療法への事前期待が高いことが予想されること、
セリングによって患者の気持ちが安定し、患者の人
実験群に振り分けられるか対照群に振り分けられる
間関係上の課題が整理されたと考える者は多く、ま
かという条件が、そもそも実験協力者の心理に影響
たカウンセリング導入によって、他の医療者の患者
を与えること、などである。加えて、心理療法の事
に対する理解が深まるという。
前事後に心理状態について評価が行なわれているも
富成(Tominari ら、2013)は、HIV 感染者約 1700
のの、協力者のドロップアウトが実は半数以上であ
名において、受診中断に関連する予測因子を調べた
り、中断についての考察がなされていない、などの
ところ、受診中断と有意に関連がみられたのは、30
問題が見受けられる。
歳未満であること・定職がないこと・抗 HIV 薬治療
日本における HIV 陽性者は、9 割以上が男性同性
を行なっていないこと・そしてカウンセリング導入
愛者や両性愛者である。陽性者の多くは、性的マイ
がされていないことであったことから、「カウンセ
ノリティの生きづらさも抱えながら、HIV 陽性であ
リング導入を通じて他の医療者を含めたチームでの
ることを抱えて一生を過ごしていかねばならない。
サポートのあり様が変化し、患者の受療行動が改善
HIV 陽性であることによって、一生の CD4 値のコ
する可能性を示唆している。カウンセリングは基本
ントロールを余儀なくされ、感染症であることによ
的にカウンセラーとクライアントの一対一の営みで
る社会的偏見、人との親密な関係を結ぶことの身体
あるが、このようにチーム医療においては別の意味
から精神に及ぶ苦悩など、これまでの生きづらさに
や効果も併せ持つと考えられる」とまとめている(富
加えて、さらに HIV 陽性による生きづらさを抱える
成、2012)。
ことになる。つまり、HIV 陽性者が抱える根源的な
以上のように、心理療法を含む心理的支援により、 心理的問題について何をもって心理療法による効果
患者の治療へのアドヒアランスが高まったり、抑う
があったとするか、どのような手法でその効果を測
つ状態が改善したり、自傷等の行動上の問題が緩和
るか、ということに関して、まずは議論を開始しな
されたりといったことは、報告されてはいる。しか
ければならないであろう。
し、そうした行動上の変化や気分の変化といったも
本研究では、HIV/AIDS 領域における心理療法の
のが、どのような内的 ・ 心理的変化によるものなの
効果について質的・量的に明らかにすることを目的
か、複雑に関連する生物学的 ・ 心理的 ・ 社会的な問
とする。そのためには、① HIV 陽性者の抱える複
題やテーマとどのような関わりがあるのか、さらに
雑な心理的問題やテーマに関して,包括的に調査し
28
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
特定すること、② 上記①に対する心理療法の効果を
ディスカッションしているのか、③実際に測定可能
明らかにするのに適切な効果研究のデザインと指標
な方法は何かについて焦点付け、集団討議を行った。
を検討すること、③ 上記②で決定された指標とデザ
インにより、実際に試行的なカウンセリング ( 心理
研究結果
療法 ) をおこない、効果を実証すること、を行う必
先に述べた 3 つの研究を柱に情報収集を行い、研
要がある。本年度は、①と②に関する研究を行うこ
究デザインの詳細な検討のもと、次年度に実施する
とを目標とした。
調査計画を立案した。調査計画の策定が、本年度の
研究結果であるため、その策定に至る過程で議論さ
研究方法
HIV 陽性者の心理的支援のニーズ及び心理的課題
れた内容を含め、調査計画の具体的な内容について
以下に述べる。
に関する研究、効果研究に関する研究、効果研究の
指標と分析方法に関する研究の 3 つの研究班を組織
し、個々に研究を進展させた。それらと並行し、1 ヵ
月に 2 回程のミーティングを定期的に持ち、集団討
議のもと、次年度の調査の研究デザインと心理療法
の効果測定指標の策定を行った。
1.HIV 陽性者の心理的支援のニーズ及び心理的課
題に関する研究
ⅰ)これまでの厚生労働省科学研究の実際について
の情報収集
山中(2010)の研究では、HIV カウンセリング
によって、当事者が精神的に安定すること、医療者
1. HIV 陽性者の心理的支援のニーズ及び心理的課
題に関する研究
ⅰ)これまでの厚生労働省科学研究の実際について
の情報収集
の患者への理解が深まることなど、カウンセリング
の重要性について、明らかにすることができた。次
にこの重要性を実証的な形で示すことが課題であっ
た。
HIV 陽性者の精神・心理面について扱った厚生労
仲倉(2005, 2009, 2010, 2011, 2013, 2014)は HIV
働省科学研究について、研究責任者に研究の概要や
陽性者への心理療法の実践を重ね、その意義につい
課題として残ったことについて聴取した。
て示してきた。これらの研究から心理療法を通して
ⅱ)当事者の話を聞く
依存や行動化、抑うつなど様々な心理的課題を持つ
性感染の HIV 陽性者、薬害による HIV 陽性者の
陽性者が臨床心理士との関係の中で変容していく過
方ご自身の体験について聴講した。
程が示されてきた。これらの研究の次の課題も実証
ⅲ)事例検討会
的な形で陽性者の中に生じた心理的変容について示
実際に HIV 陽性者の方に行った心理療法の過程
について事例検討会を行った。
すことであると考えられた。
2012-2014 年度厚生労働科学研究費補助金「HIV
感染症及びその合併症の課題を克服する研究」(研
2. 効果研究に関する研究
究代表者:白阪琢磨)の分担研究「セクシャルヘル
心理療法の効果研究に関する文献や論文を調査
ス」で井上(2015)によって行われた HIV Futuers
するとともに、効果研究に関する最新の問題や潮流
Japan プロジェクトの研究は、大規模 Web 調査に
に関して、有識者へのインタビュー ( 海外出張によ
よって全国の HIV 陽性者の実態を把握した。生活状
る対面のインタビュー、スカイプでのオンラインで
況、経済状況や、セクシャルヘルス、アディクション、
のインタビュー ) により情報を得た。同時に、効果
子どもを持つこと、周囲との関係性に加えて、心の
研究を行う上での問題点や工夫を明らかにするため
健康について調査を行っている。HIV 陽性者の実態
に、本研究の概要を示して、研究助言を得た。
を探る様々の変数とメンタルヘルスについても分析
がなされており、今後、心理療法とメンタルヘルス
3. 効果研究の指標と分析方法に関する研究
まず、心理療法の効果について検討を研究班で検
討した。主に、①誰にとっての効果か、②心理療法
の効果とは、心理療法のどのような影響を想定して
との関連性を検討していくことができると考えられ
た。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
ⅱ)当事者の話を聞く
29
あれば、実際の心理療法の事例に対して調査研究を
性感染の HIV 陽性者、薬害による HIV 陽性者の
方ご自身の体験について聴講した。
行うことが望ましいかもしれない。しかし、調査の
ためのアセスメントが、心理療法に対する一種の介
薬 害 HIV に 関 し て は 2015 年 7 月 2 日 に 京 都 大
入として心理療法の流れに影響を与えてしまう可能
学大学院医学研究科先端科学研究棟 1 階セミナー室
性が大きいこと、実際の心理療法事例に対する研究
の授業の一環で行われた講演会を聴講した。藤原良
的な調査介入は、臨床心理学の観点からみれば同意
次氏・早坂典生氏の血友病による困難が血液製剤に
しがたいものであること、実際の心理療法には複雑
よって改善したこと、血液製剤からの HIV 感染と、 な要因が介在し、セラピストのオリエンテーション
薬害に関する裁判と和解、その後の HIV 陽性者への
や構造も多様であり、実際にどのような介入を行っ
支援活動について話を聞いた。
ているかに関しては、どのように介入を行っている
加えて、角谷(平成 27 年度
課題克服班「HIV
かは、外から見えにくいことなどの問題が多く、現
陽性者に対する精神科医及び心理カウンセラー、 実的ではない。そこで本研究では、心理療法の効果
ソーシャルワーカーの効果的な関与と連携に関する
検討を目的に、実践により近く、測定可能な方法を
研究」分担研究者)により、2015 年 11 月 1 日にキャ
用いて、心理療法の効果測定のための研究デザイン
ンパスプラザ京都第 3 会議室で行われた「HIV 陽性
を立案することとした。
者にメンタルサポート研修会」に参加し、当事者 2
具体的には、試行的に対象者に対して心理療法
名からそれぞれのカウセンリング体験について聞い
を行う調査を実施する。調査構造の中では、本来の
た。
心理療法の形式を保ちつつ、心理療法の過程で生じ
ていることについてアセスメントする機会を挿入す
ⅲ)事例検討会
る。この模擬的な心理療法は、実際の心理療法の代
実際に HIV 陽性者の方に行った心理療法の過程
替という消極的な意味ではない。こうした模擬的な
について事例検討会を行い、AIDS を発症した HIV
心理療法の実行とそのアセスメントを通して、HIV
陽性者がカウンセラーとともに自らの人生を振り返
陽性者の抱える心理的テーマやニーズに関して、心
り位置づけ直すといった、力動的な心理療法のプロ
理学的な観点からより詳細に明らかにできる機会を
セスの展開について学び、またクライエントにとっ
得るとともに、実際の心理療法事例の評価にも適用
てそれがどのような体験であったか等を検討した。
できる指標を探索することも可能となり、実際の心
理療法に適用できる心理療法の視点やヒントを得る
2.研究デザインの検討
ことができると考えられる。
効果研究に関する研究、効果研究と指標と分析方
法に関する研究を踏まえ、以下のように研究デザイ
ンの検討を行った。
ⅰ)調査構造のグランドデザイン:個人内の事前 事後モデルによる模擬的心理療法
ⅱ)心理療法の中断の意味を汲み取る研究デザイン
の検討
実際の心理療法において、中断やドロップアウト
が生じることは、決して珍しくはない。それはクラ
効果研究としては介入群と対照群を設けて、心理
イエント自身が効果の実感を得られなかったり、逆
療法の事前事後のアセスメントの差について比較検
に自身の心が面接によって動揺することへの恐れで
討するランダム化比較試験を行うことが望ましいと
あったり、セラピストに投影された怒りであったり
される。しかし、HIV 陽性者の心理的課題として生
と、抵抗や回避の防衛機制の発露、セラピストとの
きづらさやスピリチュアルなテーマがある場合、個
関係への葛藤など、心理療法上の重要な転機に結び
人間比較できない質的な指標が必要になることが想
つきうる要因を含んでいることが多くある。すなわ
定される。また、倫理的にも対照群に対して心理的
ち、心理療法の中断や中断につながる可能性のある
支援を制限するという問題も含んでしまう。
面接のキャンセル等は、個人的な都合や治療の失敗
したがって、心理療法の事前と事後で個人内に生
として表面的に捉えるべきではなく、それ自体に含
じた変化について比較分析していく研究デザインを
まれている心理的な意味を探究する必要がある。そ
考える必要がある。心理療法の効果を特定するので
こで、本研究でも、参加者の調査参加中断が持つ心
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
30
理学的意味についても考えていく必要があるといえ
る。
①介入による心理的変化の調査:
心理療法の前後で、質問紙や投映法による心理ア
実際の心理療法では、中断は突然に生じることも
セスメントを行う。質問紙によって調査される態
多く、そのことについてクライエントの考えを十分
度や自己イメージの変化といった意識化可能な変
に聞いたり、中断したことに関してセラピストとク
化と同時に、投映法による深層心理学的な無意識
ライエントが話し合う機会をもつことは難しい。そ
領域と想定される変化も測定する。
のため、本研究では 2 ヶ月ごとに調査を継続の可否
②調査協力者の主観的体験の分析:
について参加者に問う機会を持つ。この時、継続し
これは心理理療法に対する調査協力者の内観の調
ない場合の理由について問うことで、クライエント
査である。内観をインタビュー等によって、ナラ
が心理療法を中断する時の心理的意味について示唆
ティヴ・データを得て分析を行う。
を得ることが期待できる。
③心理療法のプロセスの評価:
クライエントとセラピスト双方のプロトコル、セ
ⅲ)指標の検討
HIV 陽性者の抑うつ傾向や不眠、不安の強さや
それらが行動化されたと考えられる不適応行動(物
ラピストのプロセス途中での内観等を含む面接の
記録を、心理学的に分析考察する。
④調査協力者の主観的なアウトカムの分析:
質乱用等)は一般に比べて有意に高い頻度で生じて
調査協力者が事前に設定したり期待したりする心
いる(井上、2015)。一般的には、そうした症状の
理療法の効果や自身の変化が、事後にどの程度達
減少によって心理的課題が解決したと考えられやす
成されたかという Goal Based Evaluation の分析
い。しかし、抑うつ感、不安感、行動化といった現
を行う。
象は表面的に現れた症状であり、その根源には、自
⑤医療提供者からの観察される側面:
己存在といった実存的な苦悩や、セクシャルアイデ
調査協力者の治療に関わっている医療提供者から
ンティティ、HIV 陽性であることへの社会的な偏見
観察される側面について情報を収集し、①〜④の
や偏見の恐れなどの複雑化した心理的課題があると
評価と総合し、分析することで、さらに立体的な
考えられる。表面的な改善を目指しても根源的な課
考察ができることが期待される。また、心理療法
題が残されていると、別の代償的な症状が生じる可
の効果として特定されるものを、医療従事者に説
能性があるため、力動的心理療法では、根源的な課
明していく際の重要な視点を得ることもできる。
題に取り組み、自己変容が生じることが目指される
ことになる。ただ、心理的課題を可視化することは
困難であり、その変容を効果として測定するために
3.調査方法
上記の検討を踏まえ、現時点で計画された次年度
は、クライエント本人に感じられること、周囲で関
の調査方法を以下に記述する。
わる者に感じられること、医療従事者に感じられる
ⅰ)調査協力者
こと、セラピストに感じられることなどの多角的側
面の指標から検討を行う必要があると考えられる。
20 歳以上の HIV 陽性者(性別は問わない)、12
名程度とする。しかし、以下の 3 つを除外基準とする。
そこで、本研究では、クライエントの自己変容が
①同意が得られない場合、もしくは、病状などに
どのように生じるかを、質問紙といった意識レベル
より十分な同意能力を持たない場合、②現在、心理
に留まらず、無意識レベルが投影されるようなアセ
療法を受けている最中の場合、③現在、精神科受診
スメント方法や、クライエント本人が実感する主観
中で、精神科主治医の同意が得られなかった場合。
的体験、セラピストが感じる見立ての変化からも、
心理療法のもたらす効果の指標を抽出することを目
指す。
ⅱ)研究手続き
調査協力者の募集:HIV 拠点病院、HIV 陽性者対
以上のように HIV 陽性者への心理療法の効果の
象の NPO 法人で、広報を行い、自由意志によって
検証には、多面的に行う必要がある。そこで、本研
参加を表明した HIV 陽性者とする。広報の方法とし
究では、評価指標は、以下のような領域 ・ 観点から
ては、チラシ等の配布物での広報や主治医から研究
構成することとする。
について説明してもらう。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
広報等で本研究に興味関心を持った方に、自由
意志の尊重のためにメールで参加表明をしていただ
31
査を行ううえでも、料金のことをどのように考え設
定するかは、重要な問題である。
く。参加表明のあった方に、事前説明会を個別に行
そこで、本調査では、調査協力者は無料で週 1 回
い、本調査の内容、謝礼、リスク、調査を中止する
50 分の心理療法を受けられるという形をとる。HIV
権利、プライバシーの保護について、対面・口頭で
陽性者が医療の枠組みの中で心理療法を受ける場合
書面を提示しながら説明を行う。全てを了解された
には、当事者にとっては、これにもっとも近い感覚
方に同意書への署名していただき、調査へのエント
となると想定されるからである。また、金銭的報酬
リーを行う。エントリー後は、次の項で述べる 3 つ
が調査協力者に支払われるとなると、そのこと自体
の調査に協力いただく。
が調査協力者の動機や面接過程に大きな影響を与え
てしまうことも懸念されるからである。
ⅲ)調査の構造
調査協力者には以下の 3 つの調査に協力していた
心理療法的意味をもたない集団調査面接に対して
は、謝礼が支払われる(図 1)。途中で、調査の参加
だく。協力者一人あたりの調査期間は 2 ヶ月を 1 クー
ルとし、最低 1 クール(2 ヶ月)〜最長 3 クール(6 ヶ
月)とする。3 クールを基本単位とするが、クール
の終了毎にもう 1 クール継続するかについて意志を
確認し、継続同意書を交わす。(図 1)
A) 個別調査面接(週 1 回 50 分・1 〜 3 クールまで
同調査者との 1 対 1 の対面面接)
調査面接担当者は臨床心理士もしくは臨床心理面
接の訓練を受けている者に限り、実際の心理療法に
準じた形で面接を行う。
B) 心理検査・パーソナリティ検査によるアセスメン
ト(事前・1 クール目の最後・事後(契約最終クー
ルの最後))
心理療法の効果を判定するために、事前・事後と
中途(1 クール目の最後)に心理検査・パーソナリティ
検査を行う。個別調査面接の担当者との関係で回答
を中断する場合には、実際に協力した集団調査面接
が左右される可能性の高い検査は、第三者である C)
の時間数に応じた謝礼を支払うものとする。
の集団調査面接担当者が施行する。
C) 集団調査面接( A) 個別調査面接が行なわれてい
る期間に月 1 回 120 分)( A) とは別の調査担当者
が継続担当し、本調査の同時期の協力者と同席のグ
ループセッション)
集団によるアセスメントの実施、心理療法への協
力者自身の主観的体験を第三者が聴取する場として
設定する。なお、個別面接とすると、①の個別調査
面接と効果が交錯するために集団としている。
ⅳ)調査としての心理療法の料金について
心理療法において、料金を支払うことは単なる
サービスへの対価としてだけではく、心理的な意味
が込められた重要な交換でありコミュニケーション
である(伊藤、1995)。実際の心理療法に準じた調
図 1.調査構造と謝礼
ⅴ)倫理面への配慮
本研究は身体への直接的な影響はないと思われ
る。しかし、心理的な介入を行うため、調査協力者
の心理的課題が賦活されることによって、精神的な
落ち込みや混乱が生じる可能性がある。そのため、
調査者は基本的な心身の状態への細心の配慮を行
い、著しい精神的な落ち込みや混乱が認められた場
合にはただちに調査を中止し、心理的なケアを優先
する。その場合に、主治医への連絡、精神科へのリ
ファーや心理療法の専門機関へのリファーを行う。
緊急時には、精神科救急への緊急搬送の手配も行う。
また、調査開始前に研究説明会を実施し、個別
調査面接と集団調査面接の説明を個別で行い、調査
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
32
協力者の研究全体への同意を得た上で、調査を始め
④ 調査協力者の主観的なアウトカムの分析:
る。さらに、調査は 1 クール(2 ヶ月)ごとに継続
②と重なる部分もあるが、調査協力者が事前に
の意志確認を行うが、クールの途中であっても中断
持っていた期待や意図について、その達成度合いに
を申し出ることができる。調査中、調査協力者本人
焦点化し集団面接、個別面接においてデータを収集
から中止したい旨が伝えられた際には、同意撤回書
し Goal Based Evaluation の分析を行う。
をもって、データの破棄について確認する。また、 ⑤ 医療提供者から観察される側面:
調査協力者本人から中止について言及がない場合で
調査協力者の治療に関わっている医療提供者から
も、調査が心身に過度な負担をかけているとうかが
の観察ポイントを収集し、①〜④の評価を総合して
われる時には、継続について十分な話し合いを持ち、 分析し、より明確化できないか考察する。
撤回の意志を確認することもあり得る。
なお、本研究は京都大学心の先端研究ユニットの
倫理審査委員会の審査を受ける予定である。
考察
以上の分析を行い統合していく過程で、HIV 陽性
者に対する心理療法やカウンセリングのプロセス、
4.分析方法――評価指標と調査構造の対応
そこで起こる現象について、様々な視点、次元から
先に述べた「2. 研究デザインの検討 iii)指標の検
の知見を得ることが可能となる。そして、HIV 陽性
討」で示した評価指標①〜⑤について、それぞれの
者に対する心理療法やカウンセリングの効果あるい
データ収集先と分析方法を以下に述べる。
は影響について立体的に明らかにすることが期待で
以下、個別調査面接を「個別面接」、心理検査・パー
きる。またこれは、心理療法の効果として特定され
ソナリティ検査を「検査」、集団調査面接を「集団
るものを、医療従事者に説明していく際の重要な視
面接」と略して記述する。そのうち、個別調査面接
点にもつながる。
内に行う検査を「個別検査」、集団調査面接で施行
本研究デザインは、(1)HIV 感染症の当事者の思
するものを「集団検査」とする。
いを基盤にしている点、(2)質問紙などの心理学的
① 介入による心理的変化の調査:
研究にとどまらず、心理療法的な関わりの視点を重
集団検査によって調査される態度や自己イメージ
視し、その指標を抽出しようとしている点、(3)心
の変化といった意識化可能な変化を量的に測定し分
理療法の中断の状況、(4)心理療法の効果や影響を
析する。また同時に、個別検査である半投映法、投
クライエント側のみならず、臨床心理士や医療提供
映法による深層心理学的な無意識領域と想定される
者にとっての影響や効果を研究の範疇に入れ込んで
変化についても質的分析を行う。
いる点も、心理学的意味を組み取れるよう調査の範
② 調査協力者の主観的体験の分析:
疇に入れ込んでいる点が独自性を持っていると考え
集団面接において調査協力者の個別面接に対す
る内観をインタビュー等によって調査し、カウンセ
リングに対するイメージ・意識(主観的体験)の調
る。
調査の実施にあたっては、最終的な検討を行い、
調査協力者の不利益が出ないように十分配慮する。
査前後でのイメージの変化やカウセンリング体験に
ついてナラティヴデータを扱う。また、個別面接か
ら得られた結果と集団面接で得られた結果の比較も
結論
本研究のデザインは今までにないものであり、多
行う。
次元的なデータの収集、分析を行うことで新たに多
③ 心理療法のプロセスの評価:
様な知見が得られると考える。これによって HIV 陽
個別面接における両者のやり取りのプロトコル、 性者に対するよりよい心理的支援の一助となること
セラピストの内観等を含む面接の記録をデータとす
を目指す。
る。個別検査で行った投映法も合わせ心理的課題に
また、この調査は一つの心理療法の効果研究とし
ついての見立てを行う。調査協力者が語る内容や語
て新たなモデルとなる可能性を持っていると考えら
る様子、行動面の変化も含め心理臨床学的にどのよ
れる。
うな現象が起こっていたか、またそこから導出され
る心理的側面の変化を分析し考察する。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
健康危険情報
該当なし
研究発表
該当なし
知的財産権の出願・取得状況 (予定を含む)
該当なし
参考文献
Abdollahian, E., Mokhber, N., Balaghi, A., &
Moharrari, F. (2013). The effectiveness of cognitivebehavioural play therapy on the symptoms of
attention-deficit/hyperactivity disorder in children
aged 7–9 years. ADHD Attention Deficit and
Hyperactivity Disorders, 5(1), 41-46.
Clucas, C., Sibley, E., Harding, R., Liu, L., Catalan,
J., & Sherr, L. (2011). A systematic review of
Interventions for anxiety in people with HIV.
Psychology Health & Medicine, 16(5), 528-547.
Haeyen, S.,Hooren,S. &Hutschemaekers, G. (2015).
Perceived effects of art therapy in the treatment
of personality disorders, clusterB/C :A qualitative
study. The Arts in Psychotherapy, 45, 1-10.
井上洋士(2015).HIV 陽性者のセクシュアルヘル
スの実態把握と支援方略検討.厚生労働科学研究費
エイズ対策研究事業「HIV 感染症とその合併症の課
題を克服する研究 平成 24 - 26 年度 総合研究報
告書」, 213-218.
伊藤良子(1995).心理療法における料金支払いの
意義―命と金.新宮一成・北村俊則・島悟(編)精
神の病理学・多様と凝集.金芳堂.
仲倉高広(2005).HIV/AIDS 患者の心理療法-生
と死と性を支える視点-.日本心理臨床学会第 24
回大会抄録集.
仲倉高広,白阪琢磨(2009).幻想的融合を求め故
意に自らの健康を害する性行動が繰り返された HIV
感染症陽性者の心理療法について 理想的融合か死
との融合かとの分裂から現実への適応に至った事
例.第 23 回日本エイズ学会学術集会・総会抄録集.
仲倉高広(2010).故意に自らの健康を害する依存
症的な性行動が繰り返された HIV 陽性者の心理療
法について〜永遠の少年の元型的イメージとイニシ
エーションの視点からの考察〜,日本心理臨床学会
第 29 回秋季大会抄録集.
33
仲倉高広,下司有加,織田幸子,岡本学,富成伸次
郎,白阪琢磨(2011).がんを併発した HIV 陽性患
者の心理療法について.第 25 回日本エイズ学会学
術集会 抄録集.仲倉高広,下司有加,渡邊大,白
阪琢磨(2013).箱庭療法が奏功した HIV 陽性者の
心理療法〜広汎性発達障害のある HIV 陽性者の事例
〜.第 27 回日本エイズ学会学術集会・総会抄録集.
仲倉高広,矢嶋敬二郎,白阪琢磨(2014).血友病
で HIV 感染症をもつ青年期男性の心理療法について
〜生き続けることを支える〜.第 28 回日本エイズ
学会学術集会・総会抄録集.
Roeden, J. M., Maaskant, M. A., & Curfs, L. M. G.
(2014). Processes and effects of Solution ‐ Focused
Brief Therapy in people with intellectual disabilities:
a controlled study. Journal of Intellectual Disability
Research, 58(4), 307-320.
Rueda, S., Park-Wyllie, L. Y., Bayoumi, A. M., Tynan,
A. M., Antoniou, T. A., Rourke, S. B., & Glazier, R. H.
(2006). Patient support and education for promoting
adherence to highly active antiretroviral therapy
for HIV/AIDS. Cochrane Database Syst Rev(3),
CD001442.
Scott-Sheldon, L. A. J., Kalichman, S. C., Carey,
M. P., & Fielder, R. L. (2008). Stress management
interventions for HIV+ adults: A meta-analysis of
Randomized controlled trials, 1989 to 2006. Health
Psychology, 27(2), 129-139.
Sherr, L., Clucas, C., Harding, R., Sibley, E., &
Catalan, J. (2011). HIV and depression--a systematic
review of interventions. Psychol Health Med, 16(5),
493-527.
白阪琢磨(2015)厚生労働科学研究費エイズ対策研
究事業「HIV 感染症とその合併症の課題を克服する
研究 平成 24 - 26 年度 総合研究報告書」.
Thompson, M. A., Mugavero, M. J., Amico, K. R.,
Cargill, V. A., Chang, L. W., Gross, R., . . . Nachega,
J. B. (2012). Guidelines for Improving Entry
Into and Retention in Care and Antiretroviral
Adherence for Persons With HIV: EvidenceBased Recommendations From an International
Association of Physicians in AIDS Care Panel.
Annals of Internal Medicine, 156(11), 817-833.
Tominari, S., Nakakura, T., Yasuo, T., Yamanaka, K.,
Takahashi, Y., Shirasaka, T., Nakayama, T. (2013).
Implementation of Mental Health Service Has an
Impact on Retention in HIV Care: A Nested Case-
34
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
Control Study in a Japanese HIV Care Facility.
PLOS ONE, 8(7), e69603.
富成伸次郎 , 安尾利彦 , 山中京子 , 白阪琢磨 , & 中山
健夫 . (2011). HIV 感染症患者の受診中断予測因子お
よびカウンセリングとの関連についてのケース・コ
ントロール研究 . [ 会議録 ]. 日本エイズ学会誌 , 13(4),
442.
富成伸次郎.
(2012).
「カウンセリング導入の効果」、
厚生労働科学研究費エイズ対策研究事業「HIV 感染
症及びその合併症の課題を克服する研究」作成,
『病
院のなかの臨床心理(暫定版)HIV 医療における心
理臨床ポケットガイド』153-161.
山 中 京 子 . (2010).【 再 考 HIV/AIDS 予 防 対 策 】
HIV/AIDS の感染者・患者に対するカウンセリング
体制の現状と課題 . 公衆衛生 , 74(11), 923-927.
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
35
36
6
精神科医とカウンセラーの連携体制の構築に関する研究
(HIV 陽性者に対する精神科医及び心理カウンセラー、
ソーシャルワーカーの効果的な関与と連携に関する研究)
研究分担者: 角谷
慶子(一般財団法人長岡病院
診療部)
研究協力者: 仲倉
高広(一般財団法人長岡病院
心理課)
大西
藍(一般財団法人長岡病院
心理課)
山出
健博(一般財団法人長岡病院
心理課)
杉森
悟子(一般財団法人長岡病院
心理課)
研究要旨
HIV 感染症は、近年のめざましい治療薬の進歩により、高齢患者の施設入所や認知症、うつ病などの精
神科の専門治療を必要とする患者の増加等の新たな問題が生じているが、その支援体制は十分に整っている
とはいえない。
そのような状況下で HIV 陽性者に対する精神科医及び心理カウンセラー、ソーシャルワーカーの関与と
連携の現状について調査し、その課題や有効性について分析するとともに、望ましいメンタルサポート体制
の構築と連携のあり方について検討、提言することを目的として、HIV 陽性者に対する精神科医及び心理カ
ウンセラー、ソーシャルワーカーの効果的な関与と連携に関する研究を行った。
27 年度は 28、29 年度に実施予定の全国調査の予備的研究として、研究 1:感染症内科医からみたメンタ
ルサポートの連携の現状と課題、研究 2:HIV 陽性者のメンタルサポートに関する研修会の開催、研究3:
単科精神科病院とその関連施設職員の HIV 陽性者受け入れに対する意識調査を実施した。
研究1では近畿圏内の 8 カ所の基幹病院に勤務する感染症内科医 8 人にインタビューを実施した。各病院
の診療人数やスタッフ体制はまちまちであったが、精神科医との連携の満足度は他職種と比べて低く、多く
の感染症内科医が入院処遇必要事例や薬物依存事例の連携に困難を感じていることが明らかになった。臨床
心理士にはセクシュアリティ等の心理的問題に対処するとともに精神科受診への橋渡しが期待されていた。
連携の満足度が高いところは日頃から顔の見える関係づくりができていた。
研究2では感染症内科医、精神科医、看護師、臨床心理士、ソーシャルワーカーからなる講師陣がそれ
ぞれの立場で講演を行った後、当事者 2 名を交えてメンタルサポートに関する課題や望ましい連携のあり方
についてディスカッションを行った。ディスカッションでは HIV や MSM への差別や偏見は未だに根強く、
HIV 陽性者は自身が HIV 陽性であることを対医療者にも開示しにくくそのため必要な時必要な支援が受け
られず、自棄的になり無謀な行動をとることもあること、開示しても医療者自身も偏見や知識不足があり、
セクシュアリティに対する無理解から適切な対応をしてもらえず、さらに心理的ダメージを負う場合がある
ことが語られた。また HIV 陽性者にとって検査結果の告知とともに支援が開始され、情報提供やリンケー
ジ機能も併せ持つワンストップサービスが提案されるとともに、事例検討や研修会を通じ、ネットワークを
つくることの重要性が指摘された。
研究3では単科精神科病院とその関連施設の職員に自記式のアンケートを行い、HIV 陽性者の自施設受け
入れに関する意識調査を実施した。従業員数 736 人のうち回答者数 607 人で、回答率 82.7%であった。HIV
の研修体験のある者は 101 人(16.6%)で、HIV の陽性者との接触体験のある者は 86 人(14.2%)であった。
HIV 陽性者を患者として受け入れることに関しては、受け入れられないが 20 人(3.3%)、どちらかという
と受け入れられないが 142.5 人(23.5%)、どちらかというと受け入れる 262.5 人(43.2%)、受け入れるが 142
人(23.4%)であった。受け入れの不安要因として感染、感染事故(医療者、他患)をあげる者が最も多く
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
37
196 人(32.3%)、次いで知識不足 65 人(10.8%)であった。研修・接触経験と患者としての受け入れの関係
を Mann-Whitney の U 検定を用いて分析した結果、研修受講経験者と HIV 陽性者との接触経験のある者は、
受講未経験者は HIV 陽性者と接触未経験者と比べ、HIV 陽性者を患者として受け入れると回答する傾向が
あった。(P< 0.001)
これらを踏まえ、精神医療従事者に対する HIV や性的マイノリティおよび薬物依存の治療プログラムに
関する研修が必要と考えられた。
研究目的
2. 対象
かっては AIDS の発症イコール死というイメージ
で捉えられていた HIV 感染症は、近年のめざましい
近畿圏内8カ所の拠点病院の感染症内科医 8 人
3. 方法
治療薬の進歩により、「一生治療を続けなければな
半構造化面接によるインタビュー調査
らない慢性疾患」というように変化してきている。 4. 研究期間
それに伴い、高齢患者の施設入所や認知症、うつ病
などの精神科の専門治療を必要とする患者の増加等
平成 27 年 7 月〜 9 月
5. インタビュー内容
の新たな問題が生じているが、その支援体制は十分
に整っているとはいえない。
インタビューの内容は表1に示したとおりであ
る。
表1.インタビュー項目
また HIV の感染経路は日本人においては同性間
の性的接触が主であり、背景にセクシュアリティや
1) 所属機関のスタッフ体制
薬物、アルコール依存、性被害等の様々な問題を抱
応にあたっては、各地の拠点病院においてその初期
2) 診療した HIV 陽性者の人数(H 26 年度)
① 精神症状を呈した人数、
② 心理的問題を有した人数
③ 社会的問題を抱えた人数
から医療・保健・心理・福祉からなるチーム医療が
3) 上記に対する介入方法の実際
実施されているが、チームの中に精神科医が加わっ
4) メンタルサポートの連携に関する満足度
① 精神科医との連携
② 臨床心理士との連携
③ ソーシャルワーカーとの連携
える場合が少なくない。そのため HIV 陽性者への対
ているとは限らず、自病院に精神科病床を持たない
ところも多い。
そのような状況下で HIV 陽性者に対する精神科
5) よりよい連携を実現するための要望 / 障壁
医及び心理カウンセラー、ソーシャルワーカーの関
与と連携の現状について調査し、その課題や有効性
について分析するとともに、望ましいメンタルサ
ポート体制の構築と連携のあり方について検討、提
言することを目的とした。
6. 結果
1) 所属機関のスタッフ体制
各病院で HIV 陽性者に対する診療を行っている
スタッフの職種と人数は表 2 に示したとおりである。
表2
研究1.感染症内科医からみたメンタルサポー
単位(人)
トの連携の現状と課題
1. 目的
27 年度の研究は 28 年度に実施予定の全国調査の
予備的調査と位置づけ、現状において感染症内科を
受診した HIV 陽性者にメンタル不調がみられた場合
の介入の実際と精神科医、臨床心理士、ソーシャル
ワーカーとの連携の満足度について調査するととも
に連携にあたって障壁となっているもの、よりよい
連携のために必要なことを明らかにすることを目的
とした。
表2 所属機関のHIV/AIDS診療のスタッフ体制
所属機関の
HIV / AIDS 診療のスタッフ体制
A
B
C
D
E
F
G
H
診療担当医
常勤 非常勤
11
3
3
3
3
2
2
5
1
1
7
3
精神科医
臨床心理士
常勤 非常勤 常勤 非常勤
3
1
3
2
5
1
2
2
3
1
1
20
不明
1
1
0
0
25
不明
1
19
11
2
5
ソーシャルワーカー
常勤 非常勤
10
2
7
9
1
0
1
3
3
看護師
常勤 非常勤
4
1
2
0
4
3
兼任が1人
0
1
1
2) 平成 26 年度に診療した HIV 陽性者の人数
各病院が平成 26 年度に診療した HIV 陽性者の人
数は表3に示したとおりである。
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
38
表3 平成26 年度に診療したHIV陽性者の人数
表3
表 5.心理的問題に対する介入方法の実際
平成 26 年度に診療したHIV陽性者の人数
表 5.心理的問題に対する介入方法の実際
単位(人)
単位(人)
所属機関全体
A
B
C
D
E
F
G
H
外来 うち初診 入院 うち初診
2139 203
182
500
50
20
71
10
6
61
9
2
100
10
3
1 36
2
13
2
5
外来
309
200
49
55
50
37
80
うち何ら
か精神症
状を呈
回答者個人
し、介入
の必要性
があると
思われた
うち初診 入院 うち初診 者の人数
4
15
2
3
7
2
うち何らか
の心理的
問題を抱
え、介入の
必要性が
あると思わ
れた者の
人数
うち何らか
の社会的
問題を抱
え、介入の
必要性が
あると思わ
れた者の
人数
10
10
0
0
3
0
98
36
17
100
100
100
49
49
17
6
2
5
20
15
10
10
10
10
1
1
0
5
10
10
10
※ただし、Aの回答者個人についてはH27.6.1~8.5データ
主治医
(内科医)
が傾聴、
その他で
対応した
A
B
C
D
E
F
G
H
他機関の臨
同じ医療
床心理士(派
同じ医療機
機関の
遣カウンセ
関の臨床
ソーシャ
ラー、中核カ
心理士に紹
ルワー
ウンセラー
介した
カーに紹
含む)に紹介
介した
した
現在はいない
100
49
全員
1
10
0
0
15(全員)
0
10
1
2
0
1
1
他機関の
特になに
ソーシャル
もしな その他
ワーカーに
かった
紹介した
直接はない
80
0
0
0
0
0
1
0
0
1
0
5
5
5) 社会的問題に介する介入方法の実際
3) 精神症状に対する介入方法の実際
精神症状に対する介入方法の実際は表4に示すと
社会的問題に介する介入方法の実際は表 6 に示す
とおりである。
おりである。
表4.精神症状に対する介入方法の実際
表 6.社会的問題に対する介入方法の実際
表 6.社会的問題に対する介入方法の実際
表4.精神症状に対する介入方法の実際
単位(人)
単位(人)
他機関の
臨床心理
主治医(内
士(派遣カ
科医)が傾 同じ医療
ウンセ
聴、抗精神 機関の臨
ラー、中
薬投与そ 床心理士
核カウン
の他で対 に紹介した
セラー含
応した
む)に紹
介した
A
B
C
D
E
F
G
H
2
100
49
20
15
1
10
0
3
0
0
0
7
5
10
1
3
0
1
1
同じ医療
他機関の 特になに
機関の精
精神科医
もしな その他
神科医に
に紹介した かった
紹介した
1
2
0
4
5
0
4
10
1
もともと
0
0
0
0
7
1
※ただし、Aについては順序である。
精神症状のある者に対しては、まずは感染症内
科の主治医がゲートキーパーとなり、傾聴とともに、
不眠や不安に対し向精神薬を投与されていた。また
うつや精神病症状等より専門的な介入を必要とする
者はまずは自病院の精神科医に紹介されていたが、
薬物依存の併存例や入院処遇の必要事例は連携に苦
慮していることが多かった一方で、HIV 陽性者が独
自に精神科医を受診している場合もあった。
4) 心理的問題に対する介入方法の実際
A
B
C
D
E
F
G
H
主治医
(内科医)
が傾聴、
その他で
対応した
同じ医療
機関の臨
床心理士
に紹介し
た
他機関の
臨床心理
士(派遣カ
ウンセ
ラー、中
核カウン
セラー含
む)に紹
介した
100
17
1
0
0
20
0
全員
0
0
5
1
0
10
0
10
同じ医療
機関の
他機関の(具 特になに
ソーシャ
体的に)に紹
もしな
ルワー
介した
かった
カーに紹
介した
全員
100
0
3
5
1
0
9
2(心療内科)
その他
0
0
0
0
0
0
0
0
0
ソーシャルワーカーとの連携は、自病院によるも
のが多く、制度利用の観点から、ほとんど 100%の事
例で関与をしてもらっているというところもあった。
6) 連携に関する満足度
それぞれの感染症内科医にメンタルサポートに関
する連携の満足度を-2不満、-1やや不満、0ど
ちらでもない、+1まあ満足、+2満足の 5 件法で
職種別に評価していただいた結果を図1に示した。
緑が精神科医、赤が臨床心理士、青がソーシャルワー
カーとの連携の満足度を表した。
心理的問題に対する介入方法の実際は表 5 に示す
とおりである。
精神科受診を拒む者はまずは臨床心理士に継ぎ、
心理士が精神科医への橋渡しを行っていた。臨床心
理士との連携は派遣、中核カウンセラー等の他機関
によるものが殆どであった。
図1
連携の満足度
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
ソーシャルワーカーとの連携の満足度が最も高
39
るところは日ごろから顔の見える関係づくりができ
く、金銭面の事をサポートしてもらえる、社会的・
ているところであった。事例検討や研修会を通じ、
経済的な支援、制度的なサポートを考え、自立支援
日ごろからやりとりをしておくことが重要といえ
をやってもらえる、すぐに介入し、相談にのっても
る。また医療チームの中に精神科医が加わることが
らえる等の肯定的意見が多かった。次いで臨床心理
連携をスムーズにするかもしれない。
士の満足度が高く、精神科医との連携の満足度は最
も低くなっていた。
いずれの職種においてもタイムリーな介入が望ま
れていたが、臨床心理士の場合は中核カウンセラー
や派遣カウンセラーに頼っているため、それが困難
7) よりよい連携を実現するための要望 / 障壁になっ
になる場合があり、情報共有でも不満を持たれるこ
ているもの
とがあった。今後心理カウンセリングが診療報酬化
① 精神科医の場合
されれば、自病院の臨床心理士によるカウンセリン
「すぐに診てもらえない」「てんかんや薬物依存は
専門外と診てもらえない(主体的に探してもらえな
い)」「薬物関係への対応が不十分」「繋がってもド
グも合わせて実施されるようになり、この問題を補
うことが期待される。
HIV 陽性者に限らず精神科受診は未だ敷居が高く、
ロップアウト例が 1 割は出てくる」「入院加療が必
抵抗を感じる者もいるため、臨床心理士がまず話を聴
要なケースの連携先がない」「過去のトラウマが大
き、精神科受診が必要と判断した場合はその橋渡しを
きい」等の問題点とともに、「セクシュアリティも
行う役割が期待される。また HIV 陽性者の心理面や
含め、HIV について勉強して欲しい」「HIV が陽性
セクシュアリティの問題については精神科医が不得
者がおかれている社会的背景を理解してほしい」等
手とする場合もあるため、それらを臨床心理士が担
の要望が出された。
い、精神科医と連携したり、器質的な変化を捉える心
② 臨床心理士の場合
理アセスメントを提供することも有効と考えられる。
「フィードバックが少ない(何をしているか分か
らない)
」
「単に話を聴いているだけといわれ、
ドロッ
さらに家族、パートナーなどを対象としたカウンセリ
ングも臨床心理士に期待されるところと思われる。
プアウト例がでる」
「カウンセリングで診療報酬がと
ソーシャルワーカーの場合は手帳取得や制度、金
れない」
「予防財団からきてくれる火・木しかカウン
銭問題等のサポートはいうまでもないが、幅広い社
セリングが出来ない」
「タイムリーな介入が難しい場
会資源情報を蓄積し、特に薬物依存をもつ HIV 陽性
合がある」ということが課題として挙げられた。
者が適切な支援機関につながれるようにすることが
③ ソーシャルワーカーの場合
期待される。
「仕事ぶりには満足だが、不在時は困る」「薬物に
対する対応が一番問題」ということが挙げられた。
研究2:HIV 陽性者に対するメンタルサポート
研修会の開催
7. 考察
1. 開催の経緯
インタビューに応じてくださった 8 病院の診療人
研究1の対象病院の所在地が京都5カ所、大阪
数やスタッフ体制はまちまちであったが、薬物の問
2ヶ所であったため、主にこれらの地域で HIV 診療
題を持つ事例や入院処遇が必要となる場合の連携に
または精神科医療に従事する者、および関連する学
ついては殆どの病院で困難を感じておられた。薬物
域の大学院生を対象とし、HIV 陽性者に対するメン
の場合はそもそも薬物依存や嗜癖の問題を治療対象
タルサポート研修会を京都で開催した。アナウンス
として積極的に取り組んでいる精神科病院が少ない
の方法は、ブロック拠点病院と研究者が所属する病
ということがあるだろう。また入院処遇については
院のホームページに研修会の案内を掲載するととも
自病院に精神科病床があるところでも必ずしも医療
に、京都府下の総合病院、精神科病院および精神科
チームの中に精神科医が加わっているわけではない
クリニック、保健所、福祉施設等に案内を郵送した。
ので、HIV/AIDS に理解があるとは限らないようで
内容は「連携」をテーマに前半が感染症内科医、精
あった。自病院に精神科病床がない場合はなおさら
神科医、看護師、臨床心理士、ソーシャルワーカー
苦労されているが、比較的連携がうまくなされてい
による講義を、後半が当事者を交えた「よりよい連
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
40
携のための障壁と望まれること」に関するディス
カッションを行った。
アワーカーが 1 人ずつ(6.7%)であった。
③ 経験年数:1 〜 5 年及び 6 〜 10 年が 4 人(26.7%)、
2. 目的
11 〜 15 年及び 25 〜 35 年が 3 人(20.0%)であった。
HIV/AIDS に関し、十分な知識と経験を持つ、そ
れぞれの職種(感染症内科医、精神科医、臨床心理士、
ま た HIV 陽 性 者 の 担 当 経 験 が あ る 者 は 7 人
(46.7%)であった。
ソーシャルワーカー、看護師)を代表する講師陣と、 3) ディスカッションでは「HIV 陽性者の連携につ
地域で HIV 診療または精神科医療に従事する者や関
いて障壁となっていること」は HIV や MSM への差
心を持つ大学生からなる参加者、当事者が、それぞ
別や偏見は未だに根強く、HIV 陽性者は自身が HIV
れ膝をつきあわせて「連携」について自由に意見を
陽性であることを、対医療者にも開示しにくいこと、
述べ合い、克服すべき課題について方向性を見出す
そのため必要な時、特に感染初期の心理的ダメージ
ことを目的とした。
の大きい時に必要な支援が受けられず、自棄的にな
り無謀な行動をとることもあること、開示しても医
3. 日時:2015 年 11 月 1 日 10:00 〜 16:00
療者自身も偏見があったり、知識不足があり、セク
シュアリティに対する無理解から、適切な対応をし
4. 内容
てもらえず、さらに心理的ダメージを負う場合があ
1) 講義
ることが語られた。
① HIV 感染症の基礎
また「HIV 陽性者の連携について望まれること」
(大阪医療センター感染症内科科長
上平朝子氏)
② HIV 陽性者の心理社会的背景
(放送大学教養学部教授
を把握し、医師、カウンセラー、関係機関のネット
井上洋士氏)
③ HIV 陽性者の心理的問題と支援
(京都大学、長岡病院
は、正しい知識を持つとともに、各施設や専門分野
ワークを築き、顔の見える関係を作っておくことが
あげられた。また HIV 陽性者にとって必要な情報や
仲倉高広氏)
④精神科クリニックでの HIV 陽性者・ゲイ・バイセ
支援がひとつの場所で得られるワンストップサービ
スも提案された。
クシュアル男性を受け入れる際の要点
(東新宿こころのクリニック院長
中山保世氏)
⑤ HIV 陽性者のための社会資源と社会的支援
6.考察
セクシュアリティや性の問題は、存在の根源に
(兵庫医科大学精神科神経科学 助教 伊賀陽子氏) 関わることであり、患者を理解する、つまりは症状
2) ディスカッション
前 半 の 講 義 を 踏 ま え、 当 事 者 2 人 と 地 域 に お
形成の背景を理解するために重要であるにも関わら
ず、従来の精神医療はあまりこの領域には踏み込ん
いて当事者支援を行っている特定非営利活動法人
できておらず、臨床で取り扱われることも少ない。
CHARM の青木理恵子氏に指定発言をいただき、
「連
これは精神医療従事者自身にも性の問題をタブー視
携」をテーマにディスカッションを行った。
する認知があり、敢えて話題にしないということが
あるかもしれない。またそれについてはあまり学習
5. 結果
の機会もなく、うまく取り扱う自信がないというこ
1)
ともあるだろう。
参加者は 15 人と少なかった。これは広報が限ら
れていたということもあるが、個別の働きかけに対
さらに HIV 感染症は精神医療従事者にとっては
する反応の鈍さからも精神医療従事者の関心の低さ
馴染みのない疾患であり、日常的に遭遇する気分障
を反映しているように思われた。
害や不安障害等の一般的な疾患に比べると関心をも
2)
たれにくく、研修の機会も少ない。しかしながら井
参加者 15 人の属性は以下のとおりである。
① 所属施設:13 人(86.7%)が病院であり、大学・
大学院が 2 人(13.3%)であった。
上(2015)が報告しているように多くの HIV 陽性者
が非開示のまま精神医療機関を受診している事実を
② 職種:看護師が 5 人(33.3%)、次いで社会福祉士
鑑みると、診療しているうつ病の患者の背景に実は
が 4 人(26.7%)で半数以上を占め、PSW が 2 人
HIV やセクシュアリティ、あるいは性被害の問題が
(13.3%)、保健師、心理士、介護支援専門員、ケ
あるのを関知していない可能性があることを示唆し
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
41
ている。また HIV 陽性者は開示しても適切な対応を
表7.アンケート項目
してもらえないという悲観的な見方をしているとい
1) あなた自身についておたずねします。あてはまるものに○を
つけてください
えるだろう。
HIV 陽性者は保健、医療、福祉、時には司法も含め、
多面的なアプローチをすることが必要となるため、
今回のように多職種が合同で参加できる研修会を通
じ、ネットワークを形成していくことが望まれる。
研究3:単科精神科病院とその関連施設職員の
HIV 陽性者受け入れに対する意識調査
1. 経緯
研究1で、自病院に精神科のベッドをもたない場
合、入院の受け入れに困難を生じていることが明ら
かになった。日本の場合、精神科病床はその多くを
民間の単科精神科病院が占めている。そのため単科
精神科病院とその関連施設の職員にアンケートを行
い、HIV 陽性者の自施設受け入れに関する意識調査
を実施することとした。
② 性別(男性、女性)
③ 職種(NS、OT、PSW、PT、CW、事務、栄養士、医師、
薬剤師、歯科衛生士、臨床心理士、その他)
2) HIV の研修を受けたことがありますか?(はい、いいえ)
ある場合は何回受けましたか?
3) HIV 陽性者と接したことがありますか?(はい、いいえ)
ある場合は何人の方と接したことがありますか?
4) HIV 陽性者と同僚として働くことをどう思いますか?
( ) 受け入れられない、( ) どちらかというと受け入れられない
( ) どちらかというと受け入れる、( ) 受け入れる
5) HIV 陽性者を当院が患者として受け入れることをどう思いま
すか?
( )受け入れられない、( ) どちらかというと受け入れられない
( ) どちらかというと受け入れる、( ) 受け入れる
6) HIV 陽性者を患者として受け入れる際、不安なことは何ですか?
自由記述
7. 結果
1) 回答者数および回答率
従業員数 736 人のうち回答者数 607 人で、回答率
2. 目的
精神医療従事者の HIV 陽性者の受け入れに関す
る意識とその阻害要因について明らかにする。
3. 研究対象
単科精神科病院(441 床)とその関連施設(老健
施設、特養、居住施設、就労支援施設)の職員(従
業員総数
① 年齢(19 歳以下、20 代、30 代、40 代、50 代、60 代、70 代)
736 名 : 非常勤含む)
4. 方法:自記式アンケート調査
全職員を対象とした接遇研修の際にアンケート用
紙を配布し、その場で記入していただき回収した。
5 期間:平成 27 年 10 月〜 12 月
6.アンケートの内容
82.7%であった。
2) 回答者の属性
性 別 は 女 性 が 417 人(68.7 %)、 男 性 が 185 人
(30.5%)であった。年齢は 40 代が 155 人(25.5%)
で最も多く、次いで 30 代が 137 人(22.6%)、50 代
が 133 人(21.8%)で、これらで約 7 割を占めていた。
職種は看護師が 172 人(28.3%)と最も多く、次い
でケアワーカーが 162 人(26.8%)で、これらで約
半数を占め次いで精神保健福祉士が 40 人(6.5%)、
事務が 32 人(5.3%)OTが 23 人(3.8%)、精神科
医が 14 人(2.3%)、栄養士が 9 人(1.5%)、薬剤師
が 8 人(1.3%)、臨床心理士が 7 人(1.2%)、PTが
6 人(1.0%)、歯科衛生士が 1 人(0.2%)であった。
また HIV の研修体験のある者は 101 人(16.6%)で、
HIV の陽性者との接触体験のある者は 86 人(14.2%)
アンケートの内容は表 7 に示すとおりである。
図2
回答者の年齢
42
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
であった。それぞれの研修体験の回数と接触体験の
HIV 陽性者を患者として受け入れることに関して
人数は図 3、図 4 に示したように、1 回と 1 人がほ
は、図 6 に示したように、受け入れるが 142 人 (23.4% )、
ぼ半数を占めた。
どちらかというと受け入れるが 262.5 人 (43.2% )、ど
ちらかというと受け入れられないが 142.5 人 (23.5% )、
受け入れられないが 20 人 (3.3% )、わからないが 11
人 (1.8% )、未回答が 29 人 (4.8% ) であった。
N = 101
図 3.研修受講回数(研修体験のある者のみ回答)
図 6. HIV 陽性者の受け入れ(患者として)
4) HIV 陽性者を患者として受け入れる際の不安要因
(自由記述。複数回答あり)
HIV 陽性者を患者として受け入れる際の不安要因
N = 86
図 4.接触人数(接触経験のある者のみ回答)
については図 7 に示すとおりであった。
3) 受け入れに関する意識
HIV 陽性者を同僚として受け入れることに関して
は、図 5 に示したように、受け入れるが 165 人 (27.2% )、
どちらかというと受け入れるが 275 人 (45.3% )、ど
ちらかというと受け入れられないが 124 人 (20.4% )、
受け入れられないが 21 人 (3.5% )、感染理由による
が 1 人 (0.2% )、わからないが 5 人 (0.8% )、未回答が
16 人 (2.6% ) であった。
図 7. 患者として受け入れる際の不安要因
感染、感染事故(医療者、他患)をあげる者が最
も多く 196 人(32.3%)であった。次いで知識不足
65 人(10.8%)、陽性者の心理や対処能力がわからな
いという者が 62 人(10.2%)、プライバシーの保護
や差別の問題を挙げる者が 32 人(5.3%)いた。ま
た一方で、特に不安はないとする者が 71 人 (11.7% )、
未回答の者も 116 人 (19.1% ) いた。因みに要望とは
研修をやってもらえれば受け入れられると回答した
図 5. HIV 陽性者の受け入れ(同僚として)
者で 32 人 (5.3% ) であった。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
8. 分析
43
表 9. 研修・接触経験と同僚としての受け入れの相関関係
1) 属性と研修・接触体験、受け入れとの関係
回答者の属性と研修・接触体験、受け入れとの
関係について統計的処理を行い、分析を試みた。な
お、全問未回答を除き、一部の未回答があるものは
その問いの処理のみ除外し集計を行った。危険率 1%
以下の差がみられたものは年代のみであり、年代に
よって接触経験の有無に差がみられた。(p=0.002 χ
二乗検定)
4) 研修・接触経験と患者しての受け入れ
研修・接触経験と患者としての受け入れの関係を
Mann-Whitney の U 検定を用いて分析した結果、研
修受講経験者は研修未経験者と比べ、HIV 陽性者を
患者として受け入れると回答する傾向がみられた。
図 8. 年齢と接触経験の関係
2) 研修受講経験と接触経験の関係
研修受講経験と HIV 陽性者との接触経験との相
同じく HIV 陽性者との接触経験のある者は、接触未
経験者と比べ、HIV 陽性者を患者として受け入れる
と回答する傾向がみられた。(表 10 参照)
表 10. 研修・接触経験と患者としての受け入れの相関関係
関を Fisher 直接法を用いて分析した結果、研修受講
経験者は HIV 陽性者との接触経験がある者が有意に
多かった。(p< 0.001)(表 8 参照)
表 8. 研修受講経験と接触経験の関係
5) 同僚としての受け入れと患者としての受け入れ
3) 研修・接触経験と同僚しての受け入れ
研修・接触経験と同僚しての受け入れの関係を
同僚としての受け入れと患者としての受け入れの
相関関係を Spearman の順位相関分析を用いて分析
Mann-Whitney の U 検定を用いて分析した結果、研
した
結果、HIV 陽性者を同僚として受けいれると
修受講経験者は研修未経験者と比べ、HIV 陽性者を
回答した者は HIV 陽性者を患者としても受け入れる
同僚として受け入れると回答する傾向がみられた。 傾向がみられた。(Spearman 相関係数 =0.718 p <
同じく HIV 陽性者との接触経験のある者は、接触未 0.001)(表 11 参照)
経験者と比べ、HIV 陽性者を同僚として受け入れる
と回答する傾向がみられた。(表 9 参照)
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
44
表 11. 同僚としての受入と患者としての受け入れの相関関係
平成 28 年 4 月 1 日付けの診療報酬改定において、
「精神科急性期病棟入院料1を算定する病棟に加え、
精神病棟入院基本料を算定する精神病棟を有する総
合病院」に限られてはいるが、精神疾患患者の身体
合併症や、身体の傷病と精神症状を併せ持つ救急搬
送患者の診療について、一定の実績を有する場合
に、「精神科急性期医師配置加算」を 1 日につき 500
点算定されるようになるとともに、薬物依存に対し
ても、一定の研修をうけた医師、看護師や作業療法
士が標準化された方法で集団精神療法を実施した場
合、「依存症集団療法」が 1 回につき 340 点、最長 2
年間加算されるようになったのは、十分とはいえな
9. 考察
研究1で拠点病院の感染症内科医の多くは入院処
いまでも、朗報といえよう。
精神医療従事者個人に対し HIV や、セクシュア
遇が必要とされる事例の受け入れに苦慮されていた
リティ、薬物依存に対する研修を提供するともに、
が、受け入れる側の精神医療従事者は HIV に関する
それらの治療に対して積極的に取り組む精神医療機
知識不足を感じており、30.6%の職員が感染を不安
関に対してサポートをする仕組みづくりがあわせて
要因としてあげていた。HIV 陽性者の心理面やスト
必要と思われる。
レス対処能力がわからないということをあげる者も
10.2%いた。
さらには協力の得られる精神科病院をブロックご
とに選定し、精神科クリニックの医療従事者も対象
しかしながら HIV に関する研修や HIV 陽性者に
に含め、上記のような研修を年 1 回程度定期的に実
対する接触体験のあるものは受け入れに寛容であっ
施していくことが入院処遇やより専門的な治療を必
たことからそのような機会を提供することで、受け
要とする HIV 陽性者に関する精神医療従事者との連
入れの抵抗は少なくなることが推測される。
携を円滑にするために有効であると考える。
では当事者との接触や研修の機会を増やせばそれ
で事足りるのかといえば、そのように単純な問題で
結論
はないであろう。
・メンタル不調例の殆どで、まず主治医がゲートキー
すなわち、公立の精神科病床が多数を占める欧米
パーとし対応し抗不安薬や睡眠導入剤も処方してい
と異なり、その歴史的経緯から、わが国においては
たが、抗うつ剤や抗精神病薬が必要とされる場合や
全精神科病床中、民間精神科病院が約 9 割を占めて
より専門的対処が必要な場合は精神科医に紹介して
いることを鑑みれば、入院処遇の必要性が生じた場
いた。
合、民間の精神科病院、特に単科の精神科病院に入
・臨床心理士にはセクシュアリティ等の心理的問題
院を依頼せざるをえない状況が少なからず生じてく
に対処するとともに精神科受診への橋渡しが期待さ
る。しかしながら人員配置基準も医師が一般病床の
れていた。また心理アセスメントも重要な役割と考
16 対 1 であるのに対し、精神科病床は 48 対 1 であり、 えられた。
看護職員は一般病床の 3 対 1 であるのに対し、精神
・多くの感染症内科医が入院処遇必要事例や薬物依
科病床は 4 対 1 である。さらに、MRI をはじめとす
存事例の連携に困難を感じていた。
る医療機器も必ずしも十分に整備されているとはい
・受け入れへの抵抗の原因は HIV に関する知識不足
えない。
や経験不足が大きな要因であると考えられ、精神医
誤解を恐れずにいえば、そのような状況下にあ
療従事者に対する HIV や性的マイノリティおよび薬
る民間精神科病院が積極的に不明の要素が多々ある
物依存の治療プログラムに関する研修が必要と考え
(と思われている)身体疾患を持つ患者や、薬物依
られた。
存症の患者を積極的に診療するかといえば、かなり
・研修の際には普段の診療で治療されている認知症
厳しいのが現状であろう。
や不安障害や気分障害等の背景に、HIV 感染やセク
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
シュアリティの問題が潜んでいる可能性についても
45
No.3 203-209. 2010 年
啓発することが必要であると思われた。
早津正博ら、HIV 治療の中核拠点病院におけるカウ
・告知直後の危機から円滑な介入が行われるために、 ンセリング従事者調査 第 2 報-カウンセリング環
HIV の検査機関に相談・カウンセリング機能やリン 境の課題、第 26 回日本エイズ学会学術集会.2012
ケージ機能を併せもつ、ワンストップサービスがあ 年
ることが望ましいと考えられた。
・ブロック毎に協力精神科病院を選定し、定期的な
研修会参加を通じて、日ごろから顔のみえる関係を
つくっておくことが有効と考えられた。
今後の課題
平林直次,赤穂理恵,笠原敏彦,木曽智子(2001):
HIV 感染者に認められる精神障害.日本エイズ学会
誌 3:99-104.
古谷野淳子ら、中核拠点病院におけるカウンセリン
グ従事者調査 第 1 報-カウンセリング体制の現
状 . 第 26 回日本エイズ学会学術集会.2012 年
27 年度は 28、29 年度の全国調査にむけた予備的
仲倉高広ら、HIV 陽性者の心理学的問題の現状と課
調査と位置づけ、インタビュー方式をとったため、 題に関する研究.「HIV 感染症及びその合併症の課
サンプル数が少なかったが、次年度以降は今年度の 題を克服する研究」. 25 年度研究報告書.2014 年
3月
調査結果を踏まえ、調査範囲を全国に拡大したい。
また研修会開催を視野に入れ、精神科医療従事者む
け啓発小冊子を作成することとしたい。
謝辞
白阪琢磨,廣常秀人,梅本愛子,吉田哲彦,富成伸
次郎,下司有加,岡本学,吉野宗宏,安尾利彦(2012)
:
HIV 感染症と精神疾患ハンドブック.厚生労働科学
研究費補助金エイズ対策研究事業.
安尾利彦,仲倉高広,森田眞子,大谷ありさ,藤本
恵里,倉谷昂志,宮本哲雄,西川歩美,下司有加,
アンケート調査に協力して下さった皆様、遠方にも
治川知子,東政美,今井敏幸,廣常秀人,白阪琢磨
関わらず、快く講演の講師や指定発言を引き受けて
(2011):HIV 感染症患者の初診時におけるメンタル
下さった皆様に心からの謝意を表します。
ヘルス.日本エイズ学会誌 13:444.
多忙な診療や業務の時間を割き、インタビューや
健康危険情報
該当なし
研究発表
該当なし
知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
該当なし
文献
赤穂理恵:HIV 感染症における精神障害と心理社会
的ストレス.「精神科治療学」第 19 巻増刊号.245249. 2004 年 10 月.
井上洋士、矢島嵩、高久陽介 (2015): グラフでみる
「Futures Japan 調査結果」〜グラフでみる陽性者の
ためのウエブ調査第1回 (2013 年7月〜 2014 年 2 月 )
高橋卓巳、吉川正孝、筒井卓美、松永力、加藤温、
今井公文:HIV 感染症患者における適応障害につい
て-国立国際医療研究センター病院における精神科
リエゾンから- Jpn J Gen Hosp Psychiatry .Vol.22,
矢永由里子、江崎直樹、牧野麻由子、山本政弘、辻
麻理子、高田知恵子、三木浩司:HIV 陽性者のメ
ンタルヘルスへのアプローチ〜心理職がめざす予防
とケアについての検討 その1.第 23 回日本エイ
ズ学会総合サテライトシンポジウム記録.153-157.
1999 年.
46
7
血液製剤由来 HIV 感染者の心理的支援方法の検討
研究分担者: 藤原
研究協力者: 橋本
良次(特定非営利活動法人りょうちゃんず)
謙(愛知県・岐阜県スクールカウンセラー)
山田
富秋(松山大学 社会学科)
種田
博之(産業医科大学 人間関係論)
早坂
典生(特定非営利活動法人りょうちゃんず)
橋本
則久(特定非営利活動法人りょうちゃんず)
藤原
都(特定非営利活動法人りょうちゃんず)
研究要旨
「心理専門カウンセラーおよびピアカウンセラーの介入に関する研究」(研究分担者:藤原良次)を先行研
究で行った。結果として、告知や HIV 診療の際、心理専門カウンセラーが関わったと仮定したならば、現
在血液製剤由来 HIV 感染者が抱える怒り、不安、不満が、軽減されたと考えられた。しかしながら、薬害
エイズ裁判の和解以降に整備されたチーム医療においても、血液製剤由来 HIV 感染者が心理専門カウンセ
ラーによるカウンセリングを利用しているという事例は 17 例中 2 例にとどまった。さらにエイズ予防財団
主催の養成研修で期待された看護師による相談もこのインタビューでは見えてこなかった。一方、広島大学
病院や(独)国立病院機構九州医療センターでは、実際に心理専門カウンセリングを利用した患者からは高
い評価を得て、カウンセリングに対する潜在的ニーズがあることがわかった。また、ピア団体へは、医療領
域ではない相談、或いは医療機関では相談しにくいことを相談していたことが明らかになった。
そこで当研究グループでは、血液製剤由来 HIV 感染者へのインタビュー調査に加えて、医療者側へのイ
ンタビューを行い、患者と医療者双方の視点からエイズカウンセリングを分析することで、血液製剤由来
HIV 感染者が必要とする心理的支援方法を明らかにし、血液製剤由来 HIV 感染者の原状回復に役立つ支援
を提言する。
研究目的
ついて把握する。
1.チーム医療の中での心理専門家の役割を改めて
2)医療従事者へのインタビュー
明らかにし、血液製剤由来 HIV 感染者の心理的
支援をより充実させる。
聞き取り調査を実施し、チーム医療各職種の個々
の役割を改めて明らかにし、患者への心理支援を始
2.薬害エイズ裁判の和解から 20 年以上が経過し、 めとした様々なニーズに応えているかを明らかにす
当時を知る患者の健康状態の悪化や当時を知る医
る。
療者の高齢化等、時間的に限られた中で一人でも
また、和解以降の医療体制について心理カウンセ
多くの声を聞き、歴史的資料として将来へ残す。
リングの導入に関わった臨床心理士に聞き取りを行
3.先行研究で作成したピアカウンセラー養成マニュ
い、当時の状況や経緯、そのときの構想、これまで
アルを改訂し、より実践的な内容にする。
の成果、過去や現状思い等を聞く。
さらに和解以前から患者に関わった医療従事者
研究方法
に聞き取りを行い、治療のなかった時代や自身が関
1. インタビュー調査
わった患者が亡くなっていった当時の思いを明らか
下記の対象者に対して、抽出した項目を中心に聞
き取り調査を行う。
1)血液製剤由来 HIV 感染者へのインタビュー
聞き取り調査を実施し、これまでのライフストー
リーや患者から望む心理支援を重点にチーム医療に
にする。
(倫理面への配慮)
国立病院機構大阪医療センターの倫理委員会に
相当する受託審査委員会の承認を得た。(承認番号
13002)
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
この承認に基づき、調査対象者に対して研究協力
の任意性と撤回の自由、研究目的、期間、調査方法、
個人情報の保護、調査結果の公表、費用負担に関す
る事項、説明文書の内容に関する問い合わせ先につ
いて、書面を持って説明し、同意書を交わし、イン
タビューを実施した。
47
・ 血友病患者会には、関わりたくなかった。むしろ、裁
判以降のピア団体での相談員として活動することで人
の役に立つ自分を発見し、生きがいを見出した。また、
その体験や疑問を心理専門家に相談する機会も増え、
現在のカウンセリング継続に繋がっている。
◇「心理専門家との関わり」
・ 心理カウンセリングの導入については、H 大の K 先生
の関わりもあり、全国的に見てかなり先駆的だった。
2.ピアカウンセラー養成研修
ピアカウンセラー養成研修を実施し、血液製剤由
来 HIV 感染者以外にピアカウンセリングをどういっ
た場面で、どのようにいかしているか、また、どの
ような研修プログラムであればピアカウンセリング
研修が受講できるかについて検討する。
3.エイズカウンセラー養成研修報告書の分析
エイズ予防財団が実施した第 7 回〜第 14 回のエ
イズカウンセラー養成研修報告書を分析し、過去の
経過や状況から必要な心理的支援方法を分析・検討
する。
その結果、A 氏は、定期的にカウンセリングを受ける
習慣がつき、現在も利用している。自死願望がでた際
の心理専門家の対応がより信頼関係を深めた。
◇「病気との関わり」
・ 当初は、距離をおいていた血友病から HIV に感染し、
裁判に関わるようになり、さらには、りょうちゃんず
や薬害原告団でのピアカウンセリングの活動すること
により、お任せ医療から脱却できた。
事例 2
B氏
30 代
◇「血友病との向き合い方」
・母親は、B 氏が生まれた当時(1970 年代)、血友病の患
者は二十歳まで生きられないと聞いていたようだ。し
かし、高校生まで自分が血友病であることを意識して
いなかったが、自己注射も高校まで母親がやっていた。
研究結果
1.インタビュー調査
平成 27 年度は、血液製剤由来 HIV 感染者のカウ
学校にも母親が先生には伝えていた。
・ 小中高と修学旅行は全て参加し、サッカーも野球も普
通にやっていた。
ンセリング実績のある施設に通院する患者を中心に
◇「HIV 感染について」
3 名(近畿 1 名、中国 2 名)のインタビュー調査を
・ 母親が 1995 年に川田龍平氏のドキュメンタリーを見せ
実施した。インタビュー内容は、トランスクリプト
を作成後、研究者間で分析検討を行った。
事例 1
A氏
50 代
◇「血友病との向き合い方」
・ 血友病であっても他の健常者と同じでありたいという
思いが強かった。
・(病気から)逃げるという感覚とも違うが「注射さえ打っ
ていればいいから、そんなに勉強しなくても、お医者
さんに任せておけば、特別自分が積極的に病気を向き
合う必要はないという思いが強かった。」
・ 一人だけ自転車通学を許されたり、避難訓練で特に配
慮されるなど、特別扱いされるのがとくに嫌だった。
注射で済むから、それ以上、病気と向き合いたくない。
◇「H 大 T 医師との関係」
・ A 氏にとって HIV 関係に関わる医師は T 医師しかいな
かった。他に選択肢はなかった。プライバシーに配慮
がない行動であっても我慢した。T 氏については、尊
敬はしていないが、嫌いな存在ではない。一種の運命
的な関係と思っている。
◇「ピアとの関係」
ながらそれとなく間接的に、HIV 感染していることを
知らせた。B 氏は驚いたが、当時は HIV 感染について
よくわかっていなかったので、死ぬ病気とはそんなに
思っていなかった。高校を卒業して専門学校に入る前
で、幼なじみの友だちと遊ぶ方を優先していて、感染
をそんなに重く受けためていなかったように思う。女
性の友だちとも、性感染を特に気にせず、つきあって
いた。医師からも何の注意も受けていなかった。自分
では血液による感染の方を重視していた。
・ 治療の開始は AZT の単剤であった。HAART が開始
されたばかりだったが、医師は、単剤でも CD4 が低く
はないが高くもない状況で、HAART 自体がどの程度
効くかもわからなかった。
◇「ピア団体との関係」
・ 高校の時、母親からピア団体に無理やり連れて行かれ、
自分でもよくわからないうちに裁判の中に巻き込まれ
ていった。
・ 被害者意識の芽生えもあったが、同年代の血友病患者
や初めて会った仲間と気兼ねなく話せたことが大き
かった。自分が言ったことをわかってくれて、適切な
反応を返してくれたことが、うれしかった。
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
48
「今まで誰にも言えなかったことが、わかるんだと思っ
て」
くと思ったから。
・ H 大に通い出したときに、T 医師に親には知らせたか
◇「自己開示のきっかけ」
と聞かれて、まだ言ってないと答えた。知識も説明す
・ 友人の運転する車に乗っているときに、バイクが突っ
る度胸もないので、両親に説明して欲しいと頼んだ。
込んできて、警察や救急車がきた。このときに恐怖を
感じた。
母親は感染を知って泣いた。
◇「ピア団体との関係」
一つは知らない病院に連れて行かれて、血友病がわか
らずに治療を受ける恐怖「製剤がなかったら、何も(治
療が)できないのでは」と、自分の HIV 感染が周囲に
ばれてしまう恐怖の二つ。
そのときに(友人に)言っておいた方が自分のためと
「泣いてましたね」
思った。最終的に友人に言ったときは
◇「B 氏のカウンセリングに対する意識」
・ 自分の体調や医療については、医師や看護師に相談す
る。
・ YHC(ヤングヘモフィリアクラブ)に入って勉強会な
どをしていた。
・ 大学在学中に子供が HIV 感染しているという母親と知
り合いになり、その時自分の感染と初めて結びついた。
・ 当時は、医師は絶対だと思っていたので、N 医大に問
い合わせることは考えられなかった。
・ 患者会では、HIV 感染者は息苦しさを感じて話しにく
かった。H 大通院時に患者会を紹介された。案内に「血
友病 HIV に感染した人のみ集まって下さい」という手
・ B 氏はなかば強制的にピア集団としての患者会に接触
紙が入っていて、母親が一緒に行こうといってくれて、
することで、同僚患者たちから多くのことを学ぶが、
その会に参加した。意外な人たちが多く参加していた。
医療制度においての、カウンセリングの敷居が高いと
りょうちゃんずの前身で和解前の 1995 年だった。
感じており、日常的なことは相談しても仕方がないと
◇「H 大病院と心理専門カウンセリング」
思っている。結果、心理専門カウンセラーを利用した
・ H 大の T 医師は自分の責任において HIV も診なければ
ことがない。
いけないと思っている。それは若い F 先生にも継承さ
「逆に幸運やったなあと思っている」
れている。
事例 3
C氏
50 代
・ H 大は全国的にも先駆的に HIV カウンセリングを取り
◇「血友病エピソード」
入れ、医師達もカウンセリング研修を受けている。カ
・ N 医大
ウンセリングは日常のガス抜き的な役割をしていると
血友病 A 診断
・ 幼稚園は入園を断られた。幼稚園というと「おかあさ
んといっしょ」しか浮かばない。
・ 小学校入学時に黄色い腕章をしてくれと頼まれた。
思う。
◇「原告団へ」
・ 原告団に入ってほっとした。自分より提訴した方のが
・ 小 5 で関節内出血、腸腰筋出血で入院。出席日数不足。
んばりがあって、自分はほとんど何もしなくてもよかっ
・ 中学校は養護学校を勧められたが、母親が運転免許を
た。感謝している。
取得して中学まで送迎してくれた。
・ 父親は病気の自分をより専門的な病院に通院させたく
近畿地方に転勤した。
・ 通学に便利なように系列の分院に転院した。その結果、
加熱製剤の治験を受けることができなかったかもしれ
ない。のちに母親が電話で、他の患者は加熱製剤の治
験に加わることができたのに、なぜ息子は受けられな
いのかと医師に聞き、転院したからとの回答があった。
・ 和解後に考える会の仕事があるというのを聞いて、い
ろんな情報も得られるし、方向性も見えてくるかもし
れないと思い、参加を決めた。
◇「ピアカウンセリングについて」
・ ピアカウンセリングスキルは、会社の電話対応に生か
せたが、対人恐怖症もある。
・ ピアカウンセリングと同輩の患者会の存在の重要性を
感じている。
・ 自己注射は、大学に入学した 1985 年以降だった。
◇「結婚・挙児について」
◇「HIV 感染告知」
・ 結婚は、HIV 感染した血友病の先輩たちが何組もすで
・ 就職前に検査結果がわからないと言っていたのは、医
師が結果を伝えるのを濁したかったからではないかと
思っている。大卒後、就職し地元に帰る直前に N 医大
にしていたので、結婚してもいいんだと普通に受け入
れることができた。
・ 不妊治療で子供を作ることを考えたがあきらめた。
でやっと感染告知を受けた。「申し訳なかった。先生を
恨んでいいから、3 年か 5 年の命の保証はする。」と言
われ「俺は電気製品か!と思った」
・ 告知を受けた時、帰った道を覚えていないくらいショッ
クだった。
・ 母親には内緒にした。勝ち気なので、怒鳴り込みに行
◆まとめ
今回の事例で心理専門カウンセリングを利用して
いる例は、医療者や心理専門家を信頼し、具体的な
カウンセリング効果を実感していた。また自身のピ
アカウンセリング経験が心理カウンセリングの継続
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
に繋がっていた。
49
・ 研修プログラム
一方、利用していない例は、ピア団体に参加して
①「HIV 陽性者の体験談」
いることで同じ患者同士の情報を知る状況にあるこ
②「対象者に配慮したピアカウンセリング」藤原
とや、体調や医療については、医師・看護師に相談
良次
できる状況にあり、心理専門カウンセリングに対し
③「ロールプレイ」(3 名 1 グループ・クライアン
て、日常生活や人生について「相談しても仕方がな
ト/カウンセラー/傍観者)
い」という思いや「日常的なこともしゃべってもい
ロールプレイ事例
いのかなあ」といった不安が心理カウンセリング利
「MSM 20 代 地元では、ゲイであることを知ら
用のモチベーションを高めることを阻害している要
れたくないので、東京に行き一晩中遊んでいる。
因であった。心理カウンセリングを経験させるため
酔っぱらうと歯止めが効かなくなり、時には薬物
には、患者が思っている敷居の高さや不安を払しょ
も使い、セックスの回数も増えてしまう。HIV 感
くし、とりあえず相談しようとする気持ちになって
染は大丈夫でしょうか。」
もらう必要性があると考えられた。
④「振り返り」
また、2 例については幼年期時代に母親との共依
下記アンケート参照
存的な関係が見えた。さらに自分の答えでインタ
ビュアーがどのように自分を見るかを気にしている
◇平成 27 年度エイズ研修
傾向があることが、インタビュアーの観察から明ら
・日
時
2015 年 11 月 26 日
かになった。
・場
所
山口県健康づくりセンター
・主
催 (公財)山口県健康福祉財団
今年度は 3 例しか聞き取り調査を行えず、患者
が全てブロック拠点病院に通院していた等の実状で
あったため、今年度の調査を次年度以降さらに広げ、
より精度の高い質的調査に高めたい。
・ 参加者
9:50 〜 16:00
49 名
(保健師 17 名、医師 1 名、看護師 2 名、養護教諭
23 名、教諭 5 名、院生 1 名)
また、今年度は医療者への聞き取り調査が実施で
・ 研修プログラム
きなかったため、次年度以降はチーム医療各職種へ
①「HIV 陽性者の体験談」
の聞き取り調査を実施し、多角的分析をする。
②「対象者に配慮したピアカウンセリング」藤原
良次
2.ピアカウンセラー養成研修
③「ロールプレイ」(3 名 1 グループ・クライアン
平成 27 年度は高崎市保健所、公益財団法人山口
県健康福祉財団、広島県臨床心理士会の 3 団体と協
ト/カウンセラー/傍観者)
「MSM 20 代前半 学生 サッカー部
力し、下記の研修会においてピアカウンセリング研
コンドームを使わないセックスは、HIV 感染の危
修プログラムを実施し、ピアカウンセラーの養成を
険な行為と知っているが、年上のパートナーに嫌
行った。
われたくないので、コンドームはほとんど使わな
過去のピアカウンセラー養成研修に参加した保健
い。アナルセックスのときは、自分から挿入する
師のインタビューを実施し、研修参加後のカウンセ
ことはない。HIV 感染が心配になり、相談に来た。」
リングスキルの活用やその後の業務等について聞き
④「振り返り」
取りを行った。
下記アンケート参照
◇ 平成 27 年度 HIV 抗体検査相談従事者のための
◇平成 27 年度エイズ対策研修会
時
2015 年 8 月 4 日
・場
所
高崎市総合保健センター
・日
時
2016 年 3 月 2 日
・主
催
高崎市保健所
・場
所
ホテルセンチュリー 21 広島
22 名
・主
催
広島県臨床心理士会
・ 参加者
13:30 〜 16:15
カウンセリング研修会
・日
(保健師 14 名、養護教諭 2 名、医師 1 名、看護師
1名
臨床検査技師 2 名、獣医師 1 名
総合職 1 名)
・ 参加者
13:00 〜 16:30(予定)
中国四国ブロックにおいて HIV 抗体検
査相談に従事する者(エイズ治療拠点病院職員、
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
50
エイズ派遣カウンセラー、保健所職員等)
あそこにいても大丈夫な存在なんだなあ」 と思え
るようになった。
◇研修後アンケートから
・ クライアントの思いを体験できたのはよかった。
・ ロールプレイの基本的なところはエイズに関してだけ
でなく、日頃の業務の中で活かせるものだと感じた。
今日の“気づき”を大切にしたい。
・ 本当に寄り添い、受け止める心と、情報と経験をつん
でいきたい。そうしたなかでも話を聴くということを
大切にしたいと思う。
・ 通常の相談業務では、高齢者、被爆者の面談を行っ
ている。「共感」「オープン・クエスチョン」「パ
ラ・フレーズ」を忘れず聞いている。相手の話を
聞いているのが 6 割、説明が 4 割くらい。シリア
スな内容の方がより寄り添える。訴えのとき、しっ
かり話をしてくれた時は寄り添えたのかなと思え
る。また、多くを求め過ぎられると聞きすぎたの
・ 窓口や相談で対応することがあるので、ご本人が何に
かなと感じることもある。無理やりかもしれない
ついて悩んでいるか、困っているかをまず聞くように
が、核心に行きついたのかなと感じることが 10
心掛けようと思った。
・ 改めて傾聴、受容、共感の大切さを認識することがで
きた。仕事をしている上でいろいろな人の人生に携わ
るが、自分のできる手助けについて考える機会となっ
た。
・ 普段カウンセラーの立場の経験ばかりなので、クライ
回に 2 〜 3 回ある。
・ 困ったときは、研修の際に配布されたテキスト
『HIV 陽性者を中心とした「性行動変容支援プロ
グラム」‐ 研修テキスト ‐ 』(平成 23 年度厚生
労働科学研究費補助金エイズ対策研修事業「HIV
アント役をしてとても学ぶことが多かったです。傾聴・
感染症及びその合併症の課題を克服する研究班
共感の難しさを改めて実感し、自分の技術向上も行っ
(研究代表者:白阪琢磨)発行:「ケースマネージ
ていきたいと思います。
・ ロールプレイの内容が難しかったです。でも実際の現
場では普通の実例と聞き、勉強しなければいけないこ
とが多いと感じました。
・ 女性だったので MSM の事例のロールプレイは難しかっ
た。
・ どうしても解決策をみつけようとしてしまうクセをな
くし、本人の声をきくべきだと思いました。
・ 相手が話しにくいことを相手の立場に立って、話しを
きく、つきあうことができるように心がけたいと思い
ました。
メントスキルを使った行動変容支援サービスに関
する研究」研究分担者:藤原良次)を見返すよう
にしている。
・ 土砂災害時の訪問でのピアカウンセリングの活用
2014 年夏の広島土砂災害で 8 月 20 日〜 9 月 20 日
まで、3 回避難所を訪問した。発生 1 週間目の訪
問の際、話を聞いて欲しいと向こうから話しかけ
てきた。その人は、土砂が直撃して持家全壊、家
族を亡くしている。遺体は発見されていなかった。
明るくふるまっていたが、気持ちは落ち着いてな
◇ ピアカウンセラー養成研修参加者へのインタ
ビュー
・日
時
2015 年 7 月 16 日
・場
所
広島市安芸区福祉センター
・職
種
保健師
ピアカウンセラー養成研修に参加後、広島市の検
査イベントにおいてプレ・ポストカウンセリング
を経験している。
・ エイズカウンセリングについて広島市は、医師と
看護師が担当しているため、保健師は予約受付を
担当している。しかしその際、相談者から心配ご
との相談を受けることがある。相談対応とともに
その後は HIV 検査の受検につなげることを心が
けている。
・ 検査イベントでは、研修を受けた以降は「自分は、
く、夜も眠れていないようだった。これまでの話
を一生懸命聞いた。面談の際、向こうから話しか
けるのを待っていた。私からはこうしたらいいと
思うことはあったが、言っちゃいけないと思っ
た。「こういうことなんですよね」とパラ・フレー
ズは使えた。しかし、毎日来て欲しい、自分のこ
とを何とかして欲しい等の感情には違和感を感じ
た。
◆まとめ
・ 先行研究で作成した研修プログラムは 1 日研修を
基本としているが、今年度は協力団体の希望を受
けて、エイズ研修プログラムの一環としてピアカ
ウンセラー養成研修を行ったため、プログラムを
半日研修に変更した。
・ 相談対応時に答えをだそうとする傾向への気づき
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
51
や、意識して話しを聞く、付き合うことを心がけ
要である」という感想が述べられている。
たというアンケートの回答があった。
患者の「どうなんですか」の質問には、情報を得
・ 研修参加者インタビューでは、この研修プログラ
たいだけでなく、自分の話を聞いて欲しいとの思
ムで学んだ傾聴や受容、共感を意識し、相談者へ
いがある場合があるとのカウンセラーならではの
の寄り添った対応等、現在の相談業務において役
気づきを小島賢一氏から紹介された。
立てていた。
患者に寄り添う姿勢が、他の医療スタッフからカ
・ 研修参加者のインタビューに「多くを求め過ぎら
ウンセラーは役に立たないのではないかと思われ
れると聞きすぎたのかなと感じる」という反応が
ることがあるという現場カウンセラーの立場が、
あったが、相談者との距離の取り方に対する自信
他の職種とは違うことの理解を促す発表があっ
のなさと見える。それは、今後の、スキルアップ
た。カウンセラーが包括医療の中で独自の存在で
研修の必要性が示唆されている。また、「毎日来
あり、他のスタッフがどのようにカウンセラーを
て欲しい、自分のことを何とかして欲しい等の感
活用するのかに戸惑いがあったことが伺える。
情には違和感を感じた」とあるが、これらの感情
診断書に病名を書くとの話題があった。医師の森
の対応は自分の仕事ではないという思いがあった
和夫氏は、医師として診断書は正直に書き、その
ようだ。これもスキルアップ研修での課題になる
後のフォローもするとの発言があった。これには、
が、そういうニーズに対応できる行政側の施策に
正直に病名を書くと患者が不利益をこうむること
対する提言も必要なのであろうと思われる。
がある時代であったことが伺えた。
・小
括:特記で挙示したように、エイズカウンセ
3.エイズカウンセラー養成研修報告書の分析
ラー養成の運営に携わっている人(エイズ予防財
◇第 7 回
団専務理事や講師たち)の語りより、とくに看護
・日
時:平成 (
6 1994)年 9 月 15 日(木)〜 17 日(土)
におけるエイズ教育の重要性(カウンセリングマ
・場
所:軽井沢「ホテルメゾン軽井沢」
インドをもった看護師の養成の必要性)が、これ
・主
催:(財)エイズ予防財団
までのよりはっきりと述べられている。
・参
加:指導者・指導員 17 名
・ 研修参加者:57 名
◇第 8 回
(医師 2 名、心理職 6 名、看護師 42 名、保健師 3 名、 ・ 日
獣医師 1 名、MSW3 名)
・ トピックス:第 10 回国際エイズ会議が横浜で開
催された。
・内
容:看護師にカウンセリングマインドを持っ
て患者に接してもらう従来の研修通り。
・特
記:HIV 感染者にとって、感染告知が「死の
宣告を受けたと同じ心境になる」ので、ナースが
カウンセリングマインドを持つことの重要性を、
「あいさつ」でエイズ予防財団専務理事の山形操
時:平成 7(1995)年 1 月 26 日(木)〜 28 日(土)
・場
所:アジアセンター小田原
・主
催:(財)エイズ予防財団
・参
加:指導者・指導員 18 名
・ 研修参加者:58 名
(医師 7 名、心理職 2 名、看護師 43 名、助産師 2 名、
薬剤師 1 名、MSW3 名)
・ トピックス:AZT 処方が一般化。
性行為 HIV 感染患者が主流になり始めた。それ
に伴い、講師稲垣稔氏から 2 次感染防止がカウン
六氏があらためて語っている。
セリングの第一の役割であるとの発言が見られ
兒玉憲一氏から「エイズ看護」の講義が必要であ
た。
るとの提案がなされ、第 9 回の研修から取り入れ
カウンセラーの国家資格の問題が上るようになっ
られた。
た。
森田眞子氏は、「HIV / AIDS 医療が、医療拒否
からパニックになる必要はない。さらにより良い
HIV / AIDS 医療を提供するにはどうすればいい
・内
容:看護師にカウンセリングマインドを持っ
て患者に接してもらう従来の研修通り。
・特
記:平成 7(1995)年度より、研修参加希望
のかに変化してきており、より良くしていくため
者数に対応するため、研修回数を 2 回から 4 回に
には『仲間』や『味方』を増やしていくことが重
増やしていた。(平成 5(1993)年度より、年 1 回
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
52
から 2 回に増やしていた)。増加の背景には、「拠
況や感染者のエイズ発症があると思われる。
点病院構想」があると思われる。
宮崎昭氏からカウンセラーの性の多様性について
金子寿子氏は、感染者の変化(血友病の HIV 感
の認識を把握することが重要との講義があった。
染者から性交渉による感染者への移行)について
大石敏寛氏からはエイズになったら、薬害も性行
感想を述べている。また、血友病の HIV 感染者
為感染も同じであるとの発言があった。これは、
においては「ターミナルケアが問題の中心になり
医療現場でさえあった「良いエイズ、悪いエイズ」
つつあり」、「転換期にさしかかっている」とも述
の払しょくを狙っているのではないか。実際、
「薬
べられている。
害は善玉、性行為は悪玉と思っていたことに気づ
声かけの重要性。患者の気持ちに寄り添ってあげ
いた」との感想や、「私がもっていた差別意識に
られていなかったとの発言が参加者からあった。
気づいた」との感想が参加者からあった。
参加者の感想を見ると、自分の勤めている病院の
ある参加者からは、「劇的な特効薬としてとして
「拠点病院」化が念頭にあって、研修に参加して
血友病の子供達に血液製剤を注射した看護師さん
いる状況が窺える。
が拭いきれない罪悪感にさいなまれている」と「薬
「感染者と語る」との研修内容ができ、アカー大
害が患者ばかりでなく、また家族という範囲を超
石敏寛氏が出演。これは、横浜国際エイズ会議で
えて多くの人を傷つけてきたことに気付かされま
の PWA 代表を彼が務めたからであろう。このセッ
した。」との感想があった。
ションで、感銘をうけたとの感想が参加者から
別の参加者から「患者に対して何かしてあげてい
あった。
るという意識が常に心の底にあったように思いま
・小
括:特記で挙示したように、感染者の変化が
す。そして、今回そういった感情は意外なほどス
見られ、また血友病の HIV 感染者のエイズ発症
トレートに相手に伝わっていたとのことが解りま
も本格化し、そうした患者をケアすることができ
した。常に自分が一歩優位に立ち、相手の気持ち
る専門職の養成(質的にも数的にも)、喫緊の課
をいかにも理解しているかの様に振舞っていたこ
題となっていたことがわかる。
とを反省します。」との感想があった。
・小
括:研修の回数は増えたものの、未だ臨床現
◇第 9 回
場においてはカウンセリングマインドをもった専
・日
時:平成 (
7 1995)年 6 月 15 日(木)〜 17 日(土)
門職が足らないという切迫感が、特記で挙示した
・場
所:軽井沢「ホテルメゾン軽井沢」
医師の語りから窺える。
・主
催:(財)エイズ予防財団
・参
加:指導者・指導員 16 名
・ 研修参加者:58 名
(医師 4 名、心理職 3 名、看護師 40 名、助産師 2
◇第 10 回
・日
時:平成 7(1995)年 9 月 28 日(木)〜 30 日(土)
・場
所:軽井沢「ホテルメゾン軽井沢」
名、保健師 1 名、薬剤師 1 名、MSW1 名、PSW1 名、 ・ 主
催:(財)エイズ予防財団
歯科衛生士 1 名、相談員 4 名)
加:指導者・指導員 16 名
・ トピックス:第 7 回の研修の感想で、兒玉憲一氏
が要望していた講師に看護の専門家が加わった。
・参
・ 研修参加者:57 名
(医師 4 名、心理職 3 名、看護師 40 名、助産師 2
薬害エイズ訴訟も解決に向けて大きく動いた時期
名、保健師 2 名、薬剤師 1 名、MSW2 名、SW1 名、
である。
相談員 2 名)
・内
容:看護師にカウンセリングマインドを持っ
・ トピックス:薬害エイズ訴訟第一次和解案提示
て患者に接してもらう従来の研修通り。しかし、 ・ 内
プログラムは前述の通り変更している。
・特
記:白幡聡氏より、エイズ予防財団の研修に
容:看護師にカウンセリングマインドを持っ
て患者に接してもらう従来の研修通り。
・特
記:ターミナルケアのセッションで講師上田
は参加者人数の制限があるので、研修の OB・OG
良弘氏から、患者が最終的に治療法のない合併
がそれぞれの地域で研修をおこなって欲しいとの
症、治療法があっても副作用などで治療の継続が
感想を述べている。背景には、感染者の微増の状
できなくなった状態に至り、「長い間、ご苦労さ
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
53
ん。もう頑張らなくてもいいよ」と言いたくなる
この病気で苦しむ人をみたくない。私はどこまで
症例がみられるようになった。そうした際、患者
行っても臨床医です。カウンセラーにはなれませ
は様々な語りを上田氏に残している。
「先生、俺
ん。それはそれで良いのだと思います。」との結
はあそこまではしていらん。適当なとこで死なせ
論も語られていた。
てや」「解ってはいるんやけど、こんな薬もうえ
「自分の心の奥底に、知らずにいれば関わらなく
え、もう飲みたないと思うときもあるんや」「座
て済むのではないかという無責任な考えや、その
薬はもういらん。あがったり下がったりより、熱
背後にある HIV 感染症に対する偏見や HIV 感染
高いままの方がましや。辛抱できる」「この病院
症問題に関わることに対する不安が生じていたよ
でこのスタッフに診てもらったのならあきらめが
うに思われます。大石敏寛さんの話やサイコドラ
つきます」 という語り。また、
「私は高校の教師
マで患者役を演じたことが、患者心理や自己の偏
をしていました。県内の病院は教え子ばかりなの
見を理解する上でも大変役に立ちました。」との
です。そんな病院へはとても行けません。近い病
感想や「力み過ぎていた。」「答えをださなければ
院のほうが私も家族も楽なのは解っているのです
いけないと思っていた。」との気づきの感想もあっ
が」「血友病で死にたいなあ。肝硬変、肝臓がん
た。
でもよい。そしたら、家族が、僕が何で死んだか
講師宮崎昭氏より、自分の勤めている病院が「拠
聞かれても困らへんやろ」 といった HIV 感染を
点病院」に指定されたことで、研修に参加してい
隠して生きてきた苦悩、隠すことによって家族を
る参加者が増えているという指摘がある。「問題
守ろうとする姿勢、「この子は 20 歳までは生きら
は、そこでエイズカウンセリングがどのように行
れないと考えてください」などの告知を受けた経
われるか」ということもあわせて述べている。
験をもった母親(遺族)の「こんな辛い思いをす
浦尾充子氏より、参加者の特質が大きく二つ ‐
るのなら死んだ方がましだと何度も思いました。
拠点病院になるので初歩から学びたいという参加
製剤ができた時、魔法のような薬で何か恐い、い
者とこれまで感染者・患者のケアにあたってきた
つか罰が当たるんやないかと思ってました。」 と
経験のある参加者 ‐ に分かれているという感想
いう語りを上田氏は紹介している。上田氏は「こ
も述べられている。実際、参加者の感想を見ると、
れは薬害である」と言いきっていた。そして、
「ど
これまで HIV 感染者に接したことがないという
のような反応であれ、病気のことを最も真剣に考
記述も見られる。「拠点病院」化が、研修の参加
えているのは患者自身であることは事実である。」
者のあり方を変化させたとも考えることができよ
とも言っている。さらに、
「ターミナル症例の場合、
う。
訪室することさえ心が重く、しばしば、職業的対
・小
括:特記で挙示した語りから、有効な治療方
応に終始しがちである。各々の能力に応じて誠実
法がない当時の臨床現場の厳しい状況がはっきり
に対応するしかない。困難なことではあるが、元
と見て取ることができる。また、研修の参加者の
気である時期とターミナルの時期との態度に変化
傾向(研修を受ける理由)が、発症の本格化と病
があってはならない」との苦悩しつつも困難なこ
院の拠点化に二分化している様がわかる。
とから逃げない自身の姿勢も紹介していた。
上田氏からは、カウンセラー(ないしカウンセリ
◇第 11 回
資料なし。
ング)に対し、「おいおい、私の患者にどんな話
◇第 12 回
資料なし。
をするのか。余計な話を吹き込まんでくれ」「『こ
の患者は私の患者だ、全て私に任せてくれ』患者
◇第 13 回
さんが主人公だという発想は欠如していました」 ・ 日
時:平成 8(1996)年 6 月 13 日(木)〜 15 日(土)
との感想があった。しかし、「大石さんの『完全
・場
所:軽井沢「ホテルメゾン軽井沢」
にこの病気を治癒させる薬ができたとしても、僕
・主
催:(財)エイズ予防財団
は飲むかどうか判らない』という発言に対し、私
・参
加:指導者・指導員 20 名(実務者コース)11 名、
は『押さえつけてでも飲ませたい』と言いました。
患者さんの意向は完全に無視です。もうこれ以上
(13 回)9 名
・ 研修参加者:57 名(実務者コース)臨床心理士
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
54
28 名、心理職 3 名、MSW9 名
(13 回)医師 7 名、看護師 22 名、MSW2 名、助
産師 1 名
・ トピックス:薬害エイズ訴訟和解。
いたずらに縄張り争いするのではなく、クライア
ントの役に立つために、それぞれ何を磨くのがカ
ウンセリングの専門家の真骨頂であろう。」との
指摘があった。また、同氏からは「PWA 自身の
コーディネーターナースというポジション医療現
ことについては PWA の自己決定を最優先させる
場に新設された。それに伴い、心理専門カウンセ
べきであると。この点は、カウンセラーとして配
ラーは派遣カウンセラーと位置付けられた。この
慮していて当然のことだが、彼らにすればまだま
派遣事業については国の補助事業となる。
だ不十分ということなのだろうから、肝に銘じて
・内
容:「実務者コース」の設定と従来の「研修」
おきたい。」大石氏のセッションの感想があった。
に参加者を分けた研修に変更された。
「実務者コー
「最善のカウンセリングは、患者同士が話すこと」
ス」が設定された理由として、エイズ予防財団専
とのピアカウンセリングの意義、効果への感想が
務理事の山形操六氏は、上記の「制度」の変更に
あった。
伴い、「プロのカウンセラーの養成にスピードを
また、大石氏、たんべ氏という PWA の発言が参
つけなくてはならなくなり」、「平素は、小児科所
加者への影響がおおきいことが伺えた。
属のカウンセラー(略)の方達も、本研修に参加
・小
括:この回より、「実務者コース」が新たに
していただいて、『エイズカウンセリング』を体
設けられた。しかしながら、特記で示したように、
験してもらう」ためであると、語っている。
カウンセラー事業が国の補助金事業となったこと
薬害血友病患者が講師として参加した。
によって、新たな課題―カウンセラー間の亀裂―
・特
記:実務者コース講師の兒玉憲一氏から「拠
が立ち現われることになった。あくまでもクライ
点病院の精神科所属の臨床心理士や MSW が最も
アントのためのカウンセリングでなければならな
多かった。次いで県臨床心理士会のエイズ窓口の
いという批判をあらためてしなければならないほ
臨床心理士が多かったが、彼らは必ずしも派遣カ
ど、その対立が根深かったことが見えてくる。
ウンセラー要員とは言えなかった。」「専門カウン
セラー養成と言うからには、少なくとも次のよう
◇第 14 回
な内容は学習して欲しいと思った。①感染者・家
・日
時:平成 8(1996)年 9 月 12 日(木)〜 14 日(土)
族との個別的なカウンセリング(告知直後カウ
・場
所:軽井沢「ホテルメゾン軽井沢」
ンセリング、性的パートナー告知のカウンセリ
・主
催:(財)エイズ予防財団
ング、AC 期の結婚・出産をめぐるカウンセリン
・参
加:指導者・指導員 21 名
グ、発症前後のカウンセリング、ターミナル期の
(第 2 回実務者コース)11 名、(14 回)10 名
カウンセリング、死別後のカウンセリング)②主
・ 研修参加者:57 名(第 2 回実務者コース)臨床心
治医・看護師との連携。(派遣先あるいは勤務先
理士 19 名、心理職 6 名。MSW9 名、医師 1 名
エイズ専門医や看護職との連携)③臨床心理士と
MSW・PSW との連携(派遣先あるいは勤務先で
(14 回)医師 14 名、看護師 27 名
・内
容:第 13 回と同様。地元にどんな仲間がい
の臨床心理士と MSW・PSW との連携)④地域の
るか、知りたいなどの要望があったため、地域ブ
支援団体との連携(エイズ NGO との連携、患者
ロックごとで研修班が編成される。
会や感染者グループとの連携、行政担当者との連
・特
記:実務者コース講師の兒玉憲一氏からは、
携)」。カウンセラー事業が国の補助金事業となっ
前回と同様に、参加者は「拠点病院の MSW や精
たことによって、「これまではなかった問題が発
神科所属の臨床心理士であり、傾聴や共感の態度
生し、「この研修会会場でも見え隠れするように
はできていた。しかし、それだけでは HIV カウ
なった。『臨床心理士会対全心協』『臨床心理士会
ンセリングは十分ではなく、HIV やその治療方
対 MSW』といった対立の構図もそうである。し
法についての知識をもとに、目の前にクライアン
かし、私は、はっきり申し上げたい。誰が HIV
トがいまどのような病気のステージにあり、(略)
カウンセリングの専門家なのかは、あくまでもク
クライアントの現在の不安に的確に対処すること
ライアントである PWA / H が決めることである。
が求められる。(略)HIV / AIDS に関する知識
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
量が乏しかったために、HIV カウンセリングの要
・小
55
括:
「実務者コース」が設けられたことによっ
点を押さえた対応がほとんどできていなかった。」
て、ある課題が浮かび上がることになった。すな
との指摘があった。
わち、「実務者コース」の研修参加者は、カウン
実務者コース講師の味澤篤氏から「エイズに関す
セリング技法は身につけているけれども、HIV /
る基本的知識や、実際の患者/感染者との接触が
AIDS に関する知識が乏しく、HIV カウンセリン
ほとんどないため、自分自身のバックグランドに
グにはなっていないことが明らかとなった。HIV
強引に結び付けてしまおうとする気配が感じられ
カウンセリングと他のカウンセリングの差異が強
ました。もっと柔軟に、先入観に囚われずにロー
調されている。
ルプレイを良いと思いました。」「医療従事者の研
この回より、地域での連携のため、研修の班構成
修会のほうが、面白みがあったと思います。良く
が地域ブロックごとで編成された。それだけ、各
言えば手堅い、悪く言えばどこか冷めていると
地域で感染者を専門職が抱え込こみ、孤立化して
いった印象を受けました。」との指摘があった。
いた様子がうかがえる。
講師小島賢一氏からは「医療者が二次感染防止の
ために様々なアドバイスをするのは行うことは当
◆まとめ
然の行為なのですが。そのアドバイスが PWA に
・ 当初、看護師向けのカウンセリングマインドを学
どういう負担をかけているか知ることは、HIV の
んでもらう趣旨から始まった研修会ではあるが、
問題を考える上で絶対に必要なことなのです。」
14 回を終え、看護師に HIV 専門コーディネーター
との感想があった。
ナースが生まれ、心理専門カウンセラーの配置も
講 師 浦 尾 充 子 氏 か ら は「 医 師、 看 護 師、CP、
派遣カウンセリング制度で担保されることとなっ
MSW の方々がそれぞれ、連携の大切さを語って
た。これは、模索されたエイズ診療体制が現在の
くださった事でした。」とのチーム医療の重要性
医療体制へ移行されつつ期間にあることが資料か
を参加者が認識しているとの感想もあった。
らも伺えた。さらに薬害エイズ訴訟和解が医療に
講師古谷野淳子氏は、医療現場がカウンセラーに
もたらした影響の大きさも示唆された。
対する不安や疑問を持っており、カウンセラーに
・ 参加した心理職が、患者と接した機会があまりな
「HIV 診療の現場の中にカウンセリングへの信頼
かったことや、知識不足や事前準備がほとんどで
を築いていく責任がある」と感想を述べている。
きてなく、従来のテクニックに頼っていたことが
また、宮崎昭講師からは、「HIV カウンセリング
資料から読み取れた。同時に参加者の意識が良い
が実質的な役割を果たすためには、医師が HIV
方向に改善されていることも資料から読み取れ
カウンセリングを理解することが必要である。」
た。
との感想があった。
・ 他の医療者から、心理カウンセラーの動きに対し
参加者からは、「HIV 陽性と知らされた人はこう
て、不満や信頼不足が見られたようだ。また、心
なんだろうという私の思い込みが私を支配し、相
理カウンセラーは、HIV カウンセリングに対する
手の気持ちに添うことを妨げていた。知識の絶
不安や疑問を持っていた。相互の信頼関係の構築
対的な不足も手伝って、自分が使いこなせない
には、医師の、HIV カウンセリングへの理解や、
生半可な知識によって動揺していた面も大きい。
カウンセラーの、信頼を築いていく責任が必要で
PWA としてではなく、その人イコール HIV とし
あることが示唆された。
て見てしまい、その人が HIV についてどういう
気持ちでいるのかが見られなくなってしまった。」
・ 職種を越えた仲間づくりの動きが現在のチーム医
療の第一歩となっていることが伺えた。
「感染者は死にゆく人ではない。生きている今が
・ 性行為感染患者の大石敏寛氏が、この研修で担っ
大切。希望をなくすことがないようにサポートし
た役割と与えた影響の強さが示唆された。具体的
ていく。頑張りたい。」との感想があった。
には「エイズになったら薬害も性行為感染も同じ
山形操六理事から、「看護師はカウンセラーにな
である」という発言が、今まで言われてきた『良
る必要はないこと」「カウンセラーは知識の取得
いエイズ、悪いエイズ』の払しょくに役立った。
に取り組んでいただきたい」との要望があった。
・ 和解前の薬害被害者の悲惨さや壮絶さが上田良弘
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
56
氏から語られた。また、参加者から「血友病の子
供達に血液製剤を注射した看護師さんが拭いきれ
ない罪悪感にさいなまれている」と語られた。こ
の研修で医療者から薬害について語られていたこ
とは、和解前の社会的影響が大きいこともあるが、
この研修が真剣に取り組まれていたことが示唆さ
れ、この資料の重要性も示唆された。
・ 患者が考える最良のカウンセリングは、ピアカウ
ンセリングであることが、PWA 講師 2 名から語
られた。
・ この時期、まだ現在の治療が確立されておらず、
エイズ疾患が死にゆく病であったことも資料から
読み取れた。
最後に
血液製剤由来 HIV 感染者が参加した研究である
から、この時代を振り返ることには冷静ではいられ
ない。しかし、なおのこと、より客観性を重視した
研究成果を出すことが重要であることを痛感した。
参考文献
「エイズカウンセラー養成研修事業-第 7 回エイズ
カウンセリング研修会報告書-平成 6(1994)年度
(財)エイズ予防財団
「エイズカウンセラー養成研修事業-第 8 回エイズ
カウンセリング研修会報告書-平成 6(1994)年度
(財)エイズ予防財団
「エイズカウンセラー養成研修事業-第 9 回エイズ
カウンセリング研修会報告書-平成 7(1995)年度
(財)エイズ予防財団
「エイズカウンセラー養成研修事業-第 10 回エイズ
カウンセリング研修会報告書-平成 7(1995)
(財)エイズ予防財団
「エイズカウンセラー養成研修事業-エイズカウン
セリング研修会(6 月・9 月)-平成 8 年度(1996)
年度」第 13 回・第 14 回(財)エイズ予防財団
健康危険情報
該当なし
研究発表
該当なし
知的財産権の出願・取得状況 (予定を含む)
該当なし
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
57
58
8
HIV 陽性者の心理学的問題と援助に関する研究
研究分担者: 安尾
利彦(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 臨床心理室)
研究協力者: 手塚千惠子(大阪心理臨床研究所)
森田
眞子(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 臨床心理室)
冨田
朋子(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 臨床心理室)
大谷ありさ(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 臨床心理室)
宮本
哲雄(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 臨床心理室)
速見
佳子(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 臨床心理室)
西川
歩美(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 臨床心理室)
水木
薫(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 臨床心理室)
森
布季(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 臨床心理室)
研究要旨
研究 1(HIV 陽性者の行動面の障害を伴う心理的問題とパーソナリティ特性の関連性に関する研究)
先行研究において、HIV 陽性者は陽性告知を受けたのちに適応障害やうつ病などを発症することが多いが、
抑うつや不安などの精神症状のほか、外来通院の中断、内服の自己中断、職場放棄、ひきこもり、大量飲酒、
薬物乱用行動面の障害を伴う問題を呈する場合があり、このような場合に対応が困難となることが指摘され
ている(中西ら、2011)。他にも HIV 陽性者の自傷、故意に自己を傷つける行動、自殺などについて報告さ
れており(Catalan ら、2011)、このような行動面に表れる心理的問題の心理的背景を理解することが HIV
陽性者の心理的援助のためには必要であると考えられる。よって本研究では、大阪医療センターに通院する
HIV 陽性者 300 名を対象に、行動面の障害を伴う問題およびパーソナリティ特性に関する質問紙調査を行う。
今年度は質問紙の内容を検討した。行動面の障害を伴う問題としては、受診中断、服薬アドヒアランス低下、
自傷行為、物質使用、ひきこもり、感染リスクの高い性行動を取り上げる。パーソナリティ特性に関する心
理尺度には NEO-FFI 等を用いる。来年度調査の実施および分析を行う。
研究 2(HIV 陽性者の集団心理療法に関する研究)
孤立しやすい背景を持つ HIV 陽性者にとって、集団心理療法が有効な介入であることは指摘されてきて
おり(Hoffman、1996)、わが国においても HIV 陽性者の集団心理療法の有効性を示唆する実践報告がなさ
れている(野島ら、2001)ものの、個人心理療法に比べて集団心理療法という治療モダリティの実践の報告
は少ない。そこで本研究は、3 名から 6 名の HIV 陽性者で構成される、定期的・継続的な集団心理療法を実
施し、そのプロセスおよび集団心理療法開始前後の心理検査(ロールシャッハテスト(開始前のみ)、風景
構成法、POMS2)の結果の事例検討をもとに、HIV 陽性者を対象とした集団心理療法がどのような心理的
影響を及ぼすかについて明らかにすることを目的とする。集団心理療法は隔週 1 回 80 分間で、現在何らか
の心理的問題で個人心理療法を受けており、少なくとも 6 か月間は参加できる見通しのある HIV 陽性者を
対象とした。今年度は 5 名の陽性者をリクルートし、集団療法開始前の心理検査および聞き取り調査を実施
した。来年度も継続的に集団心理療法を実施する。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
研究目的
周知のとおり、HIV 感染症に対しては根強い社
59
示唆する実践報告がなされている(野島ら、2001)。
その一方で、わが国の各 HIV 診療施設や NPO 等に
会的偏見が存在する。背景には感染経路についての
おいては、個人(治療者 1 名、クライアント 1 名)
偏見、犠牲者非難、同性愛嫌悪、HIV 感染症に関
のカウンセリングや心理療法が主に実施されてお
する誤解などが考えられるが、これらに基づくス
り、集団心理療法の実践の報告は少ない。また心理
ティグマによって、HIV 陽性者は恥を体験し、抑う
的援助を目的に集団を対象とする介入についての実
つや不安の程度を悪化させることが指摘されている
践や報告はされているが、多くが単回あるいは短期
(Khalife ら、2010)。
中西ら(2011)によると、陽性者は適応障害やう
つ病などを発症することが多く、適応障害の中心は
間の介入であり、定期的で長期にわたる構造化され
た集団心理療法の実践は、わが国においてはほとん
どなされていない。
不安あるいは抑うつ気分であるが、対応が困難とな
よって、本研究において HIV 陽性者を対象とし
るのは行動面の障害を伴う場合であり、具体的には
た定期的かつ一定期間にわたる集団心理療法を実施
外来通院の中断、内服の自己中断、職場放棄、ひき
し、そのプロセスを分析することを通して集団心理
こもり、大量飲酒、薬物乱用が挙げられる。HIV 陽
療法の体験が HIV 陽性者に及ぼす心理的影響につい
性者における自殺・自傷に関しては、HIV 陽性者の
て検討することは、HIV 陽性者を対象とした心理的
検死のうち 9.4%が自殺をしており、また故意に自
援助の充実に資する上で、十分社会的意義を有する
己を傷つける行動(Deliberate Self Harm)が 20%、 と考える。
自殺念慮が 26.9%、自暴自棄・自傷は 19.7%、それ
ぞれ認められるという(Catalan ら、2011)。
そこで本研究は、1)HIV 陽性者の心理学的問題、
特に行動面の障害を伴う問題(自傷行為、物質使用、
このように HIV 陽性者の心理学的問題について
ひきこもり・職場放棄、保健行動の不適切さ等)に
は、精神症状のほかにも行動面の障害を伴う問題が
ついて、その心理的背景および臨床心理学的援助の
数多く指摘されており、またそれらの発生状況を明
あり方について明確化すること、および、2)3 名か
らかにする研究は盛んになされている。ただし、こ
ら 6 名の HIV 陽性者で構成される、定期的・継続的
れらの問題の背景にどのような心理的特性があるの
な集団心理療法を実施し、そのプロセスおよび集団
かについて理解するための研究は、十分になされて
心理療法開始前後の心理検査の結果の事例検討をも
いるとは言い難い。
とに、HIV 陽性者を対象とした集団心理療法がどの
筆者ら(2012)は、意欲低下、自殺念慮、対人恐怖、 ような心理的影響を及ぼすかについて明らかにする
アルコール多飲といった心的問題を有する HIV 陽性
ことを目的とする。
者との心理療法について、それらの問題を恥や他者
との交流遮断という対人関係上の問題から考察して
研究方法
いる。また、HIV 陽性者の抑うつや不安などの症状
研究 1:大阪医療センターに通院する HIV 陽性者
と、スティグマによる恥の体験、他者からの評価へ
300 名を対象に、質問紙調査を実施する。調査には、
の過敏さ、見捨てられ不安などが関連することを明
行動面の障害を伴う問題の有無を問う項目および
らかにした(2015)。HIV 陽性者の精神症状だけで
パーソナリティ特性を捉えるための心理尺度を用い
なく、行動面の障害を伴う問題の心理的背景につい
る。
ては、今後さらに検討が必要である。効果的な心理
研究 2:大阪医療センターに通院する HIV 陽性者
療法を実践していくためには、上記の問題を有する
3 名〜 6 名から構成される、定期的・継続的な集団
HIV 陽性者の心理的問題と心理療法におけるその取
心理療法を構造化して実施する。集団心理療法の枠
り扱いについて明確化することが不可欠であると考
組みは、隔週で 1 回 80 分間、リクルートの対象は
える。
何らかの心理的問題のために個人心理療法を受けて
また、孤立しやすい背景を持つ HIV 陽性者にとっ
おり、最短でも 6 ヶ月間は参加できる見込みのある
て、集団心理療法が有効な介入であることはかねて
HIV 陽性者とする。集団心理療法のプロセスを分
から指摘されてきており(Hoffman、1996)、わが国
析すると同時に、集団心理療法の開始前後に心理検
においても HIV 陽性者の集団心理療法の有効性を
査(開始前:ロールシャッハテスト、風景構成法、
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
60
POMS2、終了後:風景構成法、POMS2)と聞き取
考察
り調査(開始前:集団心理療法に参加する動機となっ
研究 1:本研究において取り上げる HIV 陽性者の行
た心理学的問題、終了後:集団心理療法が及ぼした
動面の障害を伴う問題の内容を明らかにした。また
心理的影響)を実施し、各参加者の心理的問題の明
パーソナリティ特性を捉える心理尺度について検討
確化と集団心理療法の体験が陽性者に及ぼす心理的
した。既存の尺度や質問項目を参考にしつつ、HIV
影響についての分析を行う。集団心理療法に参加す
陽性者の現状や心情に配慮した表現にするなどの工
る陽性者の中には、行動面の障害を伴う問題を有す
夫、また、対照群の設定などについての検討が必要
る陽性者を含む。
であると考える。これらの点を考慮しつつ、来年度
(倫理面への配慮)
研究 2 については大阪医療センター臨床研究審査
の調査および分析の実施を目指す。
研究 2:今年度は HIV 陽性者の集団心理療法に関
委員会に相当する受託研究審査委員会による承認を
する研究を実施するために必要な構造化を行った。
得た(承認番号 15052)。研究 1 については、来年度
現在の参加者の状況を観察しながら、適宜新規参加
同委員会による審査を受ける予定である。
者のリクルートを実施し、来年度も引き続き集団心
理療法を継続的に実施することが必要であると考え
研究結果
る。
研究 1:今年度は質問紙の検討を行った。行動面の
障害を伴う問題については、受診中断(6 か月以上
結論
受診なしの有無)、服薬アドヒアランス不良(服薬
研究 1:HIV 陽性者の行動面の障害を伴う問題につ
時間の大幅なずれ、飲み忘れ、自己判断による中断
いて、その調査内容を明確化した。来年度以降の調
の有無)、感染リスクの高い性行動(挿入行為時の
査の実施・分析が必要である。
コンドーム使用の頻度)、ひきこもり(内閣府調査
研究 2:集団心理療法の事前準備(リクルート、心
(2009)を参考に、外出頻度およびひきこもりに対
理検査および聞き取り調査、集団心理療法の構造化)
する親和性の程度を問う)、物質使用(アルコール
を行い、集団心理療法を開始した。来年度以降の集
依存については WHO/AUDIT、薬物乱用について
団心理療法の継続および分析が必要である。
は DAST-10 日本語訳を用いるほか、過去 1 年間に
使用した薬物名を問う)、自殺(松本(2011)を参考に、 健康危険情報
自殺の念慮・計画・企図の有無を問う)、自傷(松
該当なし
本(2011)を参考に、自傷行為(切る・刺す等)、喫煙、
食行動異常(不食・過食等の有無を問う)を取り上
げる。パーソナリティ特性を捉えるための心理尺度
研究発表
該当なし
としては、NEO-FFI(標準化されたパーソナリティ
検査で、N(神経症傾向)、E(外向性)、O(開放性)、 知的財産権の出願・取得状況 (予定を含む)
A(調和性)、C(誠実性)の 5 つの尺度から構成さ
れる)、自己受容測定尺度(容姿・性別・人間関係・
性的魅力・生き方・社会的地位・性格など 35 項目
に関する自己受容の程度を測定。沢崎、1993)を用
いる。
研究 2:集団心理療法に参加する 5 名の HIV 陽性者
をリクルートし、開始前の聞き取り調査及び心理検
査を実施した。2016 年 1 月より集団心理療法を開始
した。
該当なし
文献
中西幸子、赤穂理恵:HIV/AIDS における精神障害.
総合病院精神医学 23(1),35-41,2011.
Catalan J., Harding R., Sibley E., Clucas C., Croome
N., Sherr L..:HIV infection and mental health:
Suicidal behavior-Systematic review. Psychology,
Health & Medicine, 16(5),588-611,2011.
Hoffman MA. Interventions to facilitate adaptation
to HIV disease. Counseling Clients with HIV
Disease, 69-72,1996.
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
野 島 一 彦, 矢 永 由 里 子 編: グ ル ー プ ア プ ロ ー チ.
HIV と心理臨床,ナカニシヤ出版,73-79,2002.
Khalife S., Soffer J. & Cohen M.A.:Stigma of HIV
and AIDS-Psychiatric Aspects. Handbook of AIDS
Psychiatry. New York, Oxford University Press, 89103, 2010.
安尾利彦、治川知子、富成伸次郎、廣常秀人、白阪
琢磨:意欲低下、自殺念慮、対人恐怖を主訴とした、
ある HIV 陽性者との心理療法過程.日本エイズ学会
誌 14(4),342.
安尾利彦、仲倉高広、下司有加、中濱智子、東政美、
鈴木成子、白阪琢磨:HIV 陽性者のメンタルヘルス
と心理的特性の関連性に関する研究.日本エイズ学
会誌 17(4),470,2015.
内閣府政策統括官:若者の意識に関する調査(ひき
こもりに関する実態調査)報告書.41-43,2009.
松本俊彦:アディクションとしての自傷.金剛出版,
237-236,2011.
沢崎達夫:自己受容に関する研究 -1- 新しい自己受
容測定尺度の青年期における信頼性と妥当性の検
討.カウンセリング研究.26(1),29-37,1993.
61
62
9
MRI 画像による、神経認知障害の神経基盤の解明
研究分担者: 村井
研究協力者: 渡邊
俊哉(京都大学大学院医学研究科
脳病態生理学講座(精神医学))
大(国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター
エイズ先端医療研究部)
安尾
利彦(国立病院機構大阪医療センター 臨床心理室)
下司
有加(国立病院機構大阪医療センター 看護部)
東
政美(国立病院機構大阪医療センター 看護部)
福本
真司(国立病院機構大阪医療センター 放射線治療科)
吉原雄二郎(京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座(精神医学))
加藤
賢嗣(京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座(精神医学))
研究要旨
ADL や QOL に影響を与える HIV 関連神経認知障害 (HIV-associated neurocognitive disorders; HAND)
の病態を多角的(MRI 検査、神経心理学的検査、臨床の血液検査)に明らかにする。平成 28 年 1 月末まで
に患者群 26 名、健常群 16 名の検査を行い、中間解析を行った。両群の脳構造の比較、脳構造と神経心理検
査の結果との相関について、未だ統計学的に有意と言い切ることのできる結果は得られていないが、差や相
関を有する可能性のある脳領域のクラスターが検出されつつあり、それらの領域は先行研究の一部とも矛盾
しない内容となっている。現在まで、良好なデータが収集できつつあると考える。今後、症例数を更に集積し、
画像・統計解析を行うことで、何らかの意義のある知見を得られる見込みが高い結果が得られた。脳画像研
究のための MRI 撮像パラメーターを確立し、また、本邦における研究目的にも耐えうる、除外診断のため
の精神医学的診察を含む構造化・包括化された HAND 診断・検査の方法の一つを確立し、現在検査を実施
中である。
研究目的
劇的に減少する一方、依然として、軽度の認知機能
抗 HIV 療 法 と し て combination antiretroviral
障害が多くみられる。HAND を発症すれば、日常生
therapy (cART) が 登 場 し て 以 来、AIDS 発 症 が 抑
活レベルが低下し、服薬アドヒアランスの維持が困
制 さ れ、HIV 感 染 者 の 生 命 予 後 は 著 し く 改 善 し
難となるなど、最終的には予後に重大な影響を与え
た。しかし、cART により免疫機能が改善し、末
ることが推測される。
梢血で HIV が十分に抑制された状態でも、HIV 患
認知機能障害の原因として、HIV によって引き
者では、認知機能障害が認められている。米国国
起こされる慢性炎症や神経毒性物質により、脳の神
立精神保健研究所より提唱された HIV 関連神経認
経ネットワークに深刻なダメージが起こるという
知 障 害 (HIV-associated neurocognitive disorders;
仮説がある。実際、これまでに非侵襲的ニューロ
HAND) の 診 断 基 準 で は、HAND を 軽 症 か ら 重
イメージング手法である磁気共鳴画像法 (Magnetic
度 ま で、 無 症 候 性 神 経 認 知 障 害 (asymptomatic
Resonance Imaging; MRI) を用いて、生体脳の前頭
neurocognitive impairment; ANI)、軽度神経認知障
葉、基底核、帯状束や脳梁の白質など広範囲に渡る
害 (mild neurocognitive disorder; MND)、HIV 関連
体積減少や灰白質の皮質厚低下、白質軸索走行の異
認知症 (HIV-associated dementia; HAD) に分類して
常、認知機能異常と脳局在部位との相関性が海外か
いる。最近の米国の大規模な CHARTER study によ
らは報告されている。しかし、日本では MRI を使
ると、cART を導入されている HIV 患者 1316 人の
用した HIV 関連神経認知障害についての研究はまだ
うち、ANI、MND、HAD を合併している患者はそ
発表されていない。また、研究用診断基準が本来行
れぞれ 33%、12%、2%と報告されている。かつては
うべきものとして要求する検査内容を充足したフル
AIDS 脳症と呼ばれてきた重症の HIV 関連認知症は
バッテリーでの調査はあまり行われていない。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
63
今回の研究の目的は、研究用の国際的診断基準を
教育歴、社会経済的地位、依存性物質使用歴、肝炎
使用して、HAND の診断を行い、さらに HAND の
ウィルスの有無、抗 HIV 薬の服用の有無と内容、治
認知機能障害の病態を多角的(MRI 検査、神経心理
療開始時期、セクシュアリティ、仕事の状況、喫煙歴、
学的検査、臨床の血液検査)に本邦ではじめて調査
既往歴、神経認知機能に影響を与えうる採血等の諸
することである。
検査結果および身体の状態および生活状況等。これ
らを調査票、質問紙、カルテ閲覧及び既存の試料の
研究方法
閲覧、問診等により実施する。
1) 対象・実施場所
国立病院機構大阪医療センターの HIV 陽性の 20
7) 神経心理学的検査
歳〜 60 歳の男性患者約 30 名、および、対照群として、 < 神経認知障害 >
健常男性約 30 名。すべての検査は、大阪医療センター
内で施行する。
① Speed of Information Processing
WAIS- Ⅲ Digit Symbol
Trailmaking Test-Part A
2) 診断基準
② Attention/Working Memory
Antinori ら に よ る‘Frascati criteria’(2007 年 )
に基づいた診断を行う。1) 神経認知障害
活機能の低下
3) 併存疾患と交絡因子
2) 日常生
の 3 面を測
定し、無症候性神経認知障害 (ANI)、軽度神経認知
障害 (MND)、HIV 関連認知症 (HAD) の診断を行う。
WAIS- Ⅲ Digit Span (backward/forward)
③ Executive Functions
Trailmaking Test- Part B
④ Memory(Learning;Recall)
Verbal Learning:RBMT ( 物語 )
Visual Learning:RBMT ( 絵カード )
3) 除外基準
① 同意が得られなかった者、病状などにより十分な
同意能力を持たない者
② てんかん他 HIV と関連しない脳器質疾患もしく
はその治療済みの者
③ MRI 検査が不可能な者(体内に粗大な金属物があ
る者など)
④ 認知症、うつ病(抗うつ薬内服中)、精神発達遅滞、
Rey-Osterreith Complex Figure Test
⑤ Verbal / Language (Fluency)
流暢性検査
⑥ Sensory-Perceptual
Rey-Osterreith Complex Figure Test (Copy)
⑦ Motor Skills
Grooved Pegboard Test
Finger Tapping Test
半年以内のアルコール依存と薬物関連障害、統合
< 日常生活の機能低下 >
失調症等の精神病、HIV に関連する中枢神経領域
① IADLs
での日和見感染症、現在治療中の不安定な内科疾
患が判明している場合
Lawton and Brody Scale
② Cognitive difficulties in everyday life
Patient's Assessment of Own Functioning
4) 説明と同意
Inventory (PAOFI)
本調査の説明は、説明文を用い、状況に応じ、医師、 ③ Work
看護師、臨床心理士等により説明を行う。
An employment questionnaire
< 併存疾患と交絡因子 >
5) 調査期間
平成 26 年 1 月 1 日〜平成 28 年 3 月 31 日。実際
には平成 26 年 7 月から調査を開始した。
① 精神科診断用構造化面接(SCID- Ⅰ)
② ベックのうつ病評価テスト(BDI −Ⅱ)
③ 発達障害評価(AQ)
< その他 >
6) 調査項目
基本属性、利き手、直近および過去最大の HIVRNA 量と CD4 値、感染時期と感染経路、飲酒歴、
① 病前 IQ;JART
② 認知機能検 ; Mini-Mental State Examination
(MMSE)
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
64
③ 社会経済的地位;Socio-Economic Status (SES)
⑦ HAND 群と健常者群の特定の白質回路(運動前
④ 利き手;Edinburgh Handedness Scale
野と基底核を結ぶ回路など)の FA の比較は、T
⑤ 社会認知機能検査;Reading the mind in the Eyes
検定で行う。
test
⑧ HAND 群と健常者群で、認知機能検査の評価値
⑥ Cantab
と脳容積、脳表の皮質厚、白質の FA、血液デー
CGT(Cambridge Gambling Task), RTI, SWM,
タなどとの関係性について Pearson の相関係数に
IED、IST、SRM 等
より SPSS、STATA、Prism の解析ソフトを用い
⑦ 衝動性検査;BIS/BAS
⑧ アパシースケール
等
て解析する。
(倫理面への配慮)
被験者には、本研究の目的、方法、研究の危険性、
プライバシーの保護、研究協力の自由撤回などにつ
8) 脳画像の撮影(大阪医療センターの MRI を使用) いて説明文書をもとに十分説明し、文書による同意
脳 構 造 画 像(3D 画 像、T2WI)、DTI(Diffusion
Tensor Imaging)
を得た者のみを対象とする。国立病院機構大阪医療
センター倫理委員会で承認された方法に従い、個人
の情報が他に漏れないようにデータの取り扱い・管
9) 脳画像解析方法
脳構造画像の解析は、SPM8、FreeSurfer のソフ
トを用いる
理には細心の注意を払う。対象者及び保護者の人権
や利益を損なわないように十分配慮する。(大阪医
療センター倫理委員会承認番号 13042)
DTI の解析は、FSL の FMRIB's Diffusion Toolbox
を用いる
研究結果
1) 大阪医療センター放射線部(福本技師)の協力に
10)
統計解析
① HAND 群の臨床データと健常者群の年齢、社会
層などの群間の比較は、T 検定により行う。
② HAND 群と健常者群間の灰白質と白質、脳脊髄
液の容積を T 検定により比較する。
③ HAND 群と健常者群の特定の領域(前頭葉、基
より、Philips 1.5T Achieva を使用して、短い撮像
時間で被験者の安全を保ち、高い精度の画質を得る
方法を検討した。3D Structure 画像と DTI の撮像
パラメーターの決定を行った。下記の設定とした。
① 3D Structure
TFE, TR=8.3, TE=3.8, Flip Angle=30, FOV=256,
底核など)の灰白質や皮質厚についての比較は、
Slice Thickness=1,Voxel Size=1.0x1.0x1.0,
T 検定で行う。
Frequence=256, Phase=256, NEX=1,
④ HAND 群と健常者群の全脳の灰白質と白質は、
SPM 上で画素 (voxel) 単位毎に一般線形モデルを
Shimming=Auto, SENSE=none, Total Scan
Time=4 min 46 sec(図 1)
用いて検定する。脳の各ボクセルは、Bonferroni
型の多重比較補正を行う。群間では、撮影時の
年齢、性別、全脳容積を変量とした共分散分析
(ANCOVA) を用い比較をする。
⑤ HAND 群 と 健 常 者 群 の 全 脳 の 皮 質 厚 を、
FreeSurfer 上で一般線形モデルにより比較する。
多重比較補正のために Monte Carlo 法を用いる。
⑥ HAND 群と健常者群の全脳白質の FA(拡散異方
性)を、FSL 上で画素単位毎の検定を行う。群
間 の 比 較 の た め に Permutation test 10000 回 行
い、撮像時の年齢、性別を変量とした共分散分析
(ANCOVA) を行う。
図1
3D Structure の脳画像を VBM8 により灰白質を
抽出した冠状断画像
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
② DTI
65
の方が健常群に比べて脳の体積が減少している領域
TR=13223, TE=76, Flip Angle=90, Band width=
のクラスターが前頭葉、頭頂葉、側頭葉を中心に確
17, Slice Thickness=2, Voxel Size=2.05x2.05x2.00,
認できた。後頭葉や小脳には萎縮がめだたないとさ
Slice=80, Frequence=128, Phase=128, NEX=1,
れる先行研究の結果と大筋一致した結果となってい
FOV=256, Diffusion Directions=32, T2 image (b=0)
る。
=1, b-value=1000, SENSE=yes, Total Scan Time=7
6) 患者群で脳体積が減少している領域の中で神経心
min 42 sec
理検査結果との相関がみられる部位について、運動
機能、遂行機能を中心に先行研究で当該認知機能に
関連すると指摘されている脳領域との相関を示すク
ラスターが確認できている。今後、症例数を増やし
て行う本解析において、これらの候補クラスターが
有意な相関を有する領域となる可能性が高い。
7) 社会認知機能の一つとして Reading the mind in
the Eyes test を施行しており、この結果について相
関解析を行っているが、現時点では有意な相関のあ
る脳領域は検出できていない。
8) 感染状態である過去最低 CD4 値と相関する脳領
域についてもいくつかの候補クラスターが検出され
ており、これらは先行研究の結果と概ね一致してい
る。
考察
患者群 26 名と健常群 16 名の中間解析を行ったが、
統計学的に有意な差や相関が得られなかったのは、
解析対象とすることのできた症例数が未だ十分では
ないことによると考える。
ただし、検出されつつある脳領域のクラスターは
図2
DTI の脳画像を FSL により前処理した画像
(Vector map と Color map)
先行研究があるものについては概ね矛盾しない方向
性の結果となっており、また、先行研究が存在しな
い機能についても本来当該脳領域が有するとされる
2) 平成 28 年 1 月末までに患者群 26 名、健常群 16
機能相関と矛盾しない方向性の結果が得られてきて
名の検査を終了した。
おり、データ全体として良好な方向性の結果が得ら
3) HAND 診断のための諸検査について、本邦では
れつつあると考える。
年齢や教育年数に応じた標準値が公表されている検
社 会 認 知 機 能 の 検 査 の 一 つ で あ る Reading the
査が少ないため、本研究では患者群と健常群との比
mind in the Eyes test において相関を有する可能性
較値も一部に含めて今後診断を行っていく可能性が
のある脳領域のクラスターが検出できていないこと
あり、現時点では患者群の診断を確定させていない。 については、この検査が他の検査と比較し、社会心
4) 患者群と健常群の脳構造画像についての中間解 理的な要素の影響を受けやすく、例えば、患者群の
析を行った。脳体積の両群の比較、患者群の脳構造 「生活」といったものの影響が交絡因子として検査
と神経心理検査結果との相関について、統計学的に 結果に影響していることによるものではないかと考
有意な差や相関と言い切れる結果は未だ出ていない
が、今後そうした結果につながりうる脳領域のクラ
える。
本邦ではこれまで、臨床現場で時間をかけずに迅
スターが複数確認できてきている。
速に診断を行うことに重点を置いた HAND 診断が
5) 患者群と健常群の脳体積の群間比較では、患者群
開発・検討・実施され、一方、国際的診断基準が本
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
66
来要求する、除外診断のための精神医学的診察も含
んだ、時間のかかる構造化・包括化された検査が充
分には行われてこなかった経緯がある。本研究の実
施を通じ、研究目的としても機能しうる構造化・包
括化された本邦での HAND 診断・検査の流れの一
つを確立しつつあると考える。
結論
本研究を何らかの形で継続していくことが有益と
考えられる中間結果が得られており、HAND の神経
基盤の解明のために、今後も本研究を継続し、症例
数を増やし、画像・統計解析の本解析まで行ってい
きたいと考えている。特に症例数が十分に蓄積した
後は、現在まだ中間解析を行えていない脳白質の解
析を行っていきたいと考えている。
健康危険情報
該当なし
研究発表
該当なし
知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
該当なし
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
67
68
10
福祉施設における HIV 陽性者の受け入れ課題と対策
研究分担者: 山内
哲也(社会福祉法人武蔵野会 本部次長)
研究協力者: 三澤
朋洋(同法人 練馬区光が丘障害者地域生活支援センター所長)
須永
正(同法人 千代田区障害者福祉センター所長)
福元
與(同法人 烏山福祉作業所所長)
大和田
卓(同法人 きね川福祉作業所所長)
山田
貴美(同法人 武蔵野児童学園施設長)
萬谷
高文(社会福祉法人ゆずりは会 菜の花所長)
研究要旨
研究 1 では、福祉施設の受入れマニュアル「HIV/AIDS の正しい知識−知ることからはじめよう−」研
修教材に用いた HIV/AIDS 啓発研修を行った。福祉施設における HIV 陽性者の受入れに関して、福祉施設
は受入れ事例が身近になく、相変わらず過去のマスコミ報道による「怖い病気」のイメージが先行して、情
報不足と相まって HIV/AIDS について無関心な状況にある。そのため、福祉施設向けに H23 年度に作成し
た福祉施設職員向けのマニュアル「HIV/AIDS の正しい知識 - 知ることからはじめよう」(A4 版 48 頁 ) をテ
キストに、福祉施設職員向けに啓発研修を全国各地で行った。
研究 2 は、研究 1 の啓発研修を通じて、当初、福祉施設の介護職等を専ら対象としてきたが、事後アンケー
トによると介護支援専門員や相談員等の非医療職員から、「制度」「人権」といった内容の充実が要請された
ため、「HIV/AIDS の正しい知識 - 知ることからはじめよう」にこれらの内容を追加すべく改訂作業を行う
こととし、ワーキンググループを設けこれを検討した。
研究 3 は、地域の福祉施設を対象にアクションリサーチによる地域の HIV 陽性者の受入れ環境の推進を
目指した。地域ケアの一翼を担う地域包括支援センターを中心に HIV 陽性者の受入れ課題と対策に向けた
研修を実施した。
研究 1
AIDS の正しい知識−知ることからはじめよう−」
福祉施設の受入れマニュアルを用いた研修会
を教材に福祉施設従事者向けの啓発研修を実施し、
HIV 陽性者の受入促進を企図した。
研究目的
慢性疾患化した長期療養者が漸増している中、地
域で自立困難な HIV 陽性者の受皿として福祉施設の
果たす役割は大きい。
しかし、現状では福祉施設の HIV 陽性者の受入
姿勢は残念ながらあまり積極的ではない。
この背景には、HIV/AIDS について基本的知識不
研究方法
平成 23 年度の分担研究を基に作成した冊子「HIV/
AIDS の正しい知識−知ることからはじめよう−」
を全国の高齢者、障害者福祉施設に配布し、研修希
望の福祉施設や関係団体で冊子を教材に、福祉施設
職員対象の HIV/AIDS 啓発研修を行った。
足に由来する不安感並びに受入れ基準や前例がない
研修では、障害者差別虐待解消法等の動向も踏ま
ため受入れを躊躇する傾向が先行研究から示唆され
え、日常的ケアでは感染リスクが少ない HIV 陽性者
ている。
の福祉施設受入れに関して合理的配慮とは何かを考
これらの課題の対策として、福祉施設向けマニュ
アルや研修プログラムの開発の必要性などが示唆さ
れたことから、平成 23 年度に作成した冊子「HIV/
える場となるよう検討した。また、当事者の語りを
プログラムに組み込む研修内容とした。
研修後に、研修の効果並びに今後の HIV 陽性者
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
受入れの参考とするために、受講者に研修後のアン
69
受講者の受入れ意向についての質問では、「他の
ケート調査を実施した。
利用者と同様に受け入れたい」が 159 人 (51.3% ),「病
( 倫理面への配慮 )
状が安定していれば受け入れても良いと思う」103
アンケートの趣旨説明を行い、自由意思による回
人 (33.2% ),「不安があるが受け入れることはできる」
答と匿名化についてなどを説明し、倫理面について
が 30 人 (9.7% ) と程度の差はあるが肯定的な回答は
配慮した。
全体の 94.2%であった。肯定的な回答の割合は昨年
と同じ 9 割以上という高い数値を維持している。
一方で、「不安が強くすぐ受入れるのは難しい」5
人 (1.6% ),「受入れはしたくない」1 人 (0.3% ) とい消
極的・否定的回答が 1.9%であった。この回答は昨
年度の 5.3%と比較して減っていて、研修の効果が
表れていると評価したい。
次いで、所属する事業所での受入れ意向の質問で
は、「事業所で受入れ可能」は 79 人 (25.5% ),「病状
が安定していれば受入れは可能」は 100 人 (32.3% 「準
),
備が整えば受入れ可能」69 人 (22.3% ),「受入れは難
しい」20 人 (6.5% ),「無回答」40 人 (12.9% ), 無効回
テキストに使用した冊子
研究結果
福祉施設職員対象に HIV/AIDS の啓発研修を計
画し、全 8 回の啓発研修会が実施された。
開催地は、群馬県、神奈川県、大阪府、兵庫県、
東京都、広島県の各地で福祉施設や関係団体を会場
にして、計 333 人が受講した(図 1)。
アンケートを研修後に配布し、これを回収して分
析した。各研修は地域事情によって研修時間、カリ
キュラムやアンケートの調査項目に若干の違いがあ
る。共通する項目を集計したものが図 2 である。
受 講 者 333 人 中、 回 答 者 は 310 人 (93.1 % ) で あ
り、回答者の内訳は、高齢者施設等の介護職 96 人
(31.0% )、高齢者・障害者施設等の支援員・相談員
39 人 (12.6% )、看護師 88 人 (28.4% )、代表・施設長
12 人 (3.9% )、ヘルパー 42 人 (13.5% )、介護・看護
グループ長 8 人 (2.6% )、事務職 7 人 (2.3% )、就労移行・
継続型施設職員 2 人 (0.6% )、 その他(医師、保健師、
行政職)16 人 (5.2% ) であった。
HIV 陽性者の受入れ経験 ( 過去 10 年間 ) は、310
人中 261 人 (84.2% ) は経験がなく、23 人 (7.4% ) が
経験ありとした。
研修内容の満足度は「大変参考になった」が 195
人 (62.9% ),「参考になった」が 111 人 (35.8% ) であっ
た。
答が 2 人 (0.6% ) という結果であった。
昨年の同種のアンケート調査の結果と比較すると
肯定的回答のポイントは横ばいであるが、受講者自
身の受入れ意向と事業所での受入れの可能性につい
ての格差も昨年と同じ割合である。
自由記述を概観すると「先入観・偏見を持ってい
たが、現実は全く逆であった」「医療の進歩を常に
把握する必要性を感じた」「正しい知識を持って接
すれば、決して怖くない病気であると認識できた」
「当事者(HIV 陽性者)がどのように考えているの
か気持ちが伝わり胸が熱くなった」との受講者の意
識や「現在行っている感染症対策を更に積極的に進
めていきたい」
「事業所内で研修・勉強会を開催する」
などの受入れに関して肯定的な感想が聞かれた。
また、「HIV の基礎知識を習得するには感染症の
基礎知識を学ぶことが必須」「受入れ・対応マニュ
アルの作成」「受入れ後の連携・バックアップ強化」
「各自治体における研修開催の必要性」「経営者の意
識改革」「地域包括センターが当該地域で HIV につ
いてどのように認識されているかをリサーチする」
「嘱託医が正しい知識を持っているか」などの課題
が出された。
受入れの困難理由としては「職員の質」「現時点
における知識・準備不足」「医療機関との連携」「施
設入居者及び家族の了解を得られない」などが挙げ
られた。
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
70
考察
り、冊子の改定の必要性が生じた。
先行研究において、福祉施設職員の多くは曖昧な
また、最近の障害者差別解消法の施行に伴い、
「合
HIV/AIDS の知識しかなく、過去のマスコミ報道に
理的判断」の欠如は「差別」にあたるという人権上
よって形成された「怖い病気」というマイナスイメー
の課題も盛り込む必要性が高まった。これにより改
ジを強く抱いていることや HIV/AIDS の問題は、医
定にむけた作業を行う必要が生じた。
療機関が対応するものであり、福祉施設には関係が
ない、という認識傾向がある。
研究方法
特に、HIV 陽性者を実際に受入れている福祉施設
ワーキンググループを設定して、これまでの研修
の情報が個人のプライバシーなどの関係で公開され
アンケートの自由記述等を参考にし、福祉施設従事
にくいため、受入れ基準や前例のない中、行政や医
者に冊子の感想等を聞き取り調査した。
療機関からの「HIV 陽性者を受入れてほしい」との
( 倫理面への配慮 )
要請は、唐突に要請されるように感じられるため、
研究の趣旨を説明し、自由意思による参加とした。
受入れに関して消極的あるいは防衛的になる傾向が
回答については匿名化し、討議内容の公表などにつ
強いことが推測される。
いて承認を得るなどの倫理面での配慮をした。
一方で、個人としては受入れは肯定的であるが、
組織としての受入れは消極的であり、福祉施設の経
営者層の意識向上等の課題が浮上する結果となった。
研究結果
検討の結果、施設看護師からは、①「感染曝露事
昨年度同様、本研修以降、医療機関が研修アンケー
故の対応」、②「医療機関との連携のこつ」が挙げ
トで希望した事業所に医師の出前研修等を行うなど
られた。施設看護師の福祉施設の立場は数少ない医
の施設との連携や実際の受入れにつながるケースも
療職であり、介護職の医療的なケアや感染予防につ
僅かながら見られるので継続的な働きかけがさらに
いてのリーダー役、教育係役を求められることが多
必要と思われる。
いことが分かった。
介護支援専門員や相談員等からは、③「自立支援
結論
来年度は引き続き、福祉施設職員対象の HIV/
AIDS の啓発研修会を開催していく予定である。特
に、社会福祉側の視点から HIV 陽性者の受入れ問題
医療 ( 更生医療 ) 等の制度・申請関係の説明」、④「人
権」、⑤「障害者差別解消法」についての要望が高かっ
た。
また、「どのように相談すればよいのか」といっ
を捉えるために、障害者差別や人権擁護の視点から、 た⑥「心理面のフォロー」に関して、相談の留意点
ソーシャルワーカーに働きかけていく予定である。
が必要という声も多かった。
福祉施設従事者からは、相談系と同様に人権や障
研究 2
「HIV/AIDS の正しい知識−知ることからはじ
めよう−」の改訂作業
害者差別解消法の関係から⑦「プライバシー保護」、
⑧「感染症全般に対する意識啓発」が語られた。
また、一部ではあるが、福祉施設長からは、HIV
陽性者の受入れを⑨「今日の社会福祉法人の公益事
研究目的
業に位置づける」とよいのでは、
という提案があった。
冊子「HIV/AIDS の正しい知識−知ることからは
⑩さらに、福祉施設の従事者の意識に性の多様性
じめよう−」は、HIV/AIDS に関してあまり知識が
に対する認識が薄いという指摘があり、広く人権問
ない福祉従事者にわかりやすい内容であるとの評価
題として捉えるという方向で「セクシャリティ」に
を得てきた。累計で全国に 30,000 冊近くが研修教材
ついて紙面を割いた。
として配布されている。今年度も、全国からの要望
に応えて 5,000 部増刷を行った。
冊子「HIV/AIDS の正しい知識−知ることからは
じめよう−」は介護職等の非医療職を含む福祉施設
一方で、高齢福祉分野の介護支援専門員や障害
従事者を対象にしており、特に最初の受入れ局面で
福祉分野の相談支援員等から制度面や心理面での対
の従事者の不安感を払しょくして安心して HIV 陽性
応についての情報がほしいという要望があがってお
者を受入れられるようにするために、極力わかり易
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
く、非医療職が手に取り易くなるようなわかり易さ
を編集方針とした。
71
て連絡会議体を設ける。
③ 地域の包括支援センターが主体となり、地域で 3
か年の継続研修を開催する。
考察
当初、「HIV/AIDS の正しい知識−知ることから
はじめよう−」の読者を直接介護・支援に携わる者
結果
(1) 会議
対象として想定してきたが、福祉施設内の様々な職
第一回
種が参照にしている実態が明らかになった。
テーマ 「3 か年計画の策定」
今回のワーキンググループの結果を整理して、来
年度には冊子を改定刷新していきたいと考えている。
研究 3
地域包括支援センターの HIV 陽性者の受入れ
課題と対策
研究目的
HIV 陽性者における地域ケアの一翼を担うと推定
日
時
27 年 6 月 12 日 ( 金 )
13:00 〜 15:30
会
場
大阪市旭区東部地域包括支援センター
参
加
地域包括支援センター職員他 7 名
第二回
テーマ 「HIV/AIDS の研修計画」
日
時
27 年 7 月 17 日 ( 金 )
会
場
大阪市旭区東部地域包括支援センター
参
加
地域包括支援センター職員他 7 名
される地域包括支援センターと福祉施設の連携のあ
第三回
り方についてアクションリサーチを行なった。
テーマ 「地域の課題整理」
13:00 〜 15:30
達成目標を「HIV 感染症を含む感染症の基礎知識
日
時
27 年 9 月 16 日 ( 金 )
13:00 〜 15:30
を普及し、HIV 陽性者を差別や偏見なく受入れる地
会
場
大阪市旭区東部地域包括支援センター
域づくり」として、地域福祉を担う地域包括支援セ
参
加
地域包括支援センター職員他 7 名
ンターによる地域における自律学習的な組織とネッ
トワークづくりを支援していくこととした。
(2) 地域研修 ( 予定 )
テーマ 「地域における感染症予防対策」
(HIV/AIDS の基礎知識 )
研究方法
大阪市旭区にある地域包括支援センターをフィー
日
時
28 年 3 月 10 日 ( 金 )
ルドに地域における HIV 陽性者の受入れ課題と対策
会
場
大阪市旭区東部地域包括支援センター
について、アクションリサーチを行った。
参
加
地域の福祉関係者
大阪市旭区東部ブロックの包括支援センターから
研究参加者を募り、ワーキンググループを結成し、
地域における HIV/AIDS を含む感染症患者の受入
れ促進を図るための地域活動を推進することを目的
にアクションリサーチを 3 か年で実施する計画でス
タートした。
年 3 回、打合せを行いワーキンググループにより
進捗管理する。また、年 1 回地域向けの研修を開催
することを基本的な行動スタイルし、主に①から③
までを行うこととした。
① HIV 陽性者における地域ケアの一翼を担う地域包
13:00 〜 15:30
40 名
今後の予定として、福祉施設における HIV 陽性
者の受入れに関し、限定した地域での介入事例研究
として行いたいと考えている。介入を通して地域課
題として HIV 陽性者の受けいれの意識を醸成してい
くことを検討していく。
健康危険情報
該当なし
研究発表
該当なし
括支援センターと福祉施設の連携のあり方につい
て話し合う検討会を設ける。
② 大阪市旭区の東部ブロックを対象に、その地域の
地域包括支援センター 1 と大阪市保健所と連携し
知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
該当なし
72
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
*+8ǨǤǺգႆᄂ̲ ӋьᎍǢȳDZȸȈኽௐ
図1
HIV/ エイズ啓発研修
参加者アンケート結果
䈜↓ຠᅇ⟅ᢅ䛔
䚷䚷༢୍㑅ᢥタၥ䛻」ᩘᅇ⟅䛾ሙྜ
‫ׅ‬ሉᎍᎰᆔ
ᅇ⟅ᩘ
┳ㆤᖌ
௓ㆤ⫋
ᨭ᥼ဨ䞉┦ㄯဨ
௦⾲䞉᪋タ㛗
஦ົ⫋
ᑵປ⛣⾜㻛⥅⥆㻮ᆺ᪋タ⫋ဨ
௓ㆤ䚸┳ㆤ䜾䝹䞊䝥㛗
䝦䝹䝟䞊
䛭䛾௚䠄་ᖌ䚸ಖ೺ᖌ䚸⾜ᨻ䠅
ィ
䠂
‫ׅ‬ሉᎍᎰᆔ
㻤㻤 㻞㻤㻚㻠㻑
㻥㻢 㻟㻝㻚㻜㻑
㻟㻥 㻝㻞㻚㻢㻑
㻝㻞
㻟㻚㻥㻑
㻣
㻞㻚㻟㻑
㻞
㻜㻚㻢㻑
㻤
㻞㻚㻢㻑
㻠㻞 㻝㻟㻚㻡㻑
㻝㻢
㻡㻚㻞㻑
㻟㻝㻜 㻝㻜㻜㻚㻜㻑
Ⴣᜱࠖ
ʼᜱᎰ
ૅੲՃȷႻᛩՃ
ˊᘙȷ଀ᚨᧈ
ʙѦᎰ
‫ݼ‬іᆆᘍዒዓ$‫଀׹‬ᚨä ʼᜱŴჃᜱǰȫȸȗᧈ
Șȫȑȸ
ƦƷ˂ᲢҔࠖŴ̬ͤä
3 *+8ज़௨ᎍƷӖλǕኺ᬴ƴƭƍƯᲢᢅӊ࠰Უ
ᅇ⟅ᩘ
䠂
*+8ज़௨ᎍƷӖλǕኺ᬴ƴƭƍƯᲢᢅӊ࠰Უ
䛒䜛
䛺䛔
䜟䛛䜙䛺䛔
↓ຠᅇ⟅
↓ᅇ⟅
㻞㻟
㻣㻚㻠㻑
㻞㻢㻝 㻤㻠㻚㻞㻑
㻝㻥
㻢㻚㻝㻑
㻜
㻜㻚㻜㻑
㻣
㻞㻚㻟㻑
ィ
㻟㻝㻜 㻝㻜㻜㻚㻜㻑
䈜ཷධ䜜ேᩘ䠄㻟ே䛸䛾ᅇ⟅㻞௳䠅
Ƌǔ
Ƴƍ
ǘƔǒƳƍ
໯ј‫ׅ‬ሉ
໯‫ׅ‬ሉ
3Წ ᄂ̲ƷϋܾƴƭƍƯӋᎋƴƳǓLJƠƨƔ
ᅇ⟅ᩘ
኱ኚཧ⪃䛻䛺䛳䛯
ཧ⪃䛻䛺䛳䛯
ཧ⪃䛻䛺䜙䛺䛛䛳䛯
↓ຠᅇ⟅
↓ᅇ⟅
ィ
䠂
㻝㻥㻡 㻢㻞㻚㻥㻑
㻝㻝㻝 㻟㻡㻚㻤㻑
㻝
㻜㻚㻟㻑
㻜
㻜㻚㻜㻑
㻟
㻝㻚㻜㻑
㻟㻝㻜 㻝㻜㻜㻚㻜㻑
ᄂ̲ƷϋܾƴƭƍƯӋᎋƴƳǓLJƠƨƔ
‫٭ٻ‬ӋᎋƴƳƬƨ
ӋᎋƴƳƬƨ
ӋᎋƴƳǒƳƔƬƨ
໯ј‫ׅ‬ሉ
໯‫ׅ‬ሉ
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
73
3Ჭ ɼᚇưƔLJƍLJƤǜƷư*+8ज़௨ᎍƷӖλǕƴƭƍƯƓ‫ݮ‬ƶƠLJƢ
⮬ศ䛸䛧䛶䛿䈈
௚䛾฼⏝⪅䛸ྠᵝ䛻ཷ䛡ධ䜜䛶䛔䛝䛯䛔
⑓≧䛜Ᏻᐃ䛧䛶䛔䜜䜀ཷධ䜜䛶䜒Ⰻ䛔䛸ᛮ䛖
୙Ᏻ䛜䛒䜛䛜ཷධ䜜䜛䛣䛸䛿䛷䛝䜛
୙Ᏻ䛜ᙉ䛟䛩䛠䛻ཷධ䜜䛿㞴䛧䛔䛸ឤ䛨䜛
ཷධ䜜䛿䛧䛯䛟䛺䛔
↓ຠᅇ⟅
↓ᅇ⟅
ᅇ⟅ᩘ
ィ
䠂
㻝㻡㻥 㻡㻝㻚㻟㻑
㻝㻜㻟 㻟㻟㻚㻞㻑
㻟㻜
㻥㻚㻣㻑
㻡
㻝㻚㻢㻑
㻝
㻜㻚㻟㻑
㻜
㻜㻚㻜㻑
㻝㻞
㻟㻚㻥㻑
㻟㻝㻜 㻝㻜㻜㻚㻜㻑
*+8ज़௨ᎍƷӖλǕƴƭƍƯ
ᲢᐯЎƱƠƯƸäᲣ
˂ƷМဇᎍƱӷಮƴӖƚλǕƯƍƖƨƍ
၏ཞƕ‫ܭܤ‬ƠƯƍǕƹӖλǕƯNjᑣƍä
ɧ‫ܤ‬ƕƋǔƕӖλǕǔƜƱƸưƖǔ
ɧ‫ܤ‬ƕࢍƘƢƙƴӖλǕƸᩊƠƍƱज़ä
ӖλǕƸƠƨƘƳƍ
໯ј‫ׅ‬ሉ
໯‫ׅ‬ሉ
3Ხ ƓѮNJƷʙಅ৑ƳƲưƷ*+8ज़௨ᎍƷӖλǕƷӧᏡࣱƴƭƍƯƓ‫ݮ‬ƶƠLJƢ
ᅇ⟅ᩘ
஦ᴗᡤ䛷ཷධ䜜ྍ⬟
⑓≧䛜Ᏻᐃ䛧䛶䛔䜜䜀ཷ䛡ධ䜜ྍ⬟
‽ഛ䛜ᩚ䛘䜀ཷධ䜜䛿ྍ⬟
ཷධ䜜䛿㞴䛧䛔
↓ຠᅇ⟅
↓ᅇ⟅
ィ
䠂
㻣㻥 㻞㻡㻚㻡㻑
㻝㻜㻜 㻟㻞㻚㻟㻑
㻢㻥 㻞㻞㻚㻟㻑
㻞㻜
㻢㻚㻡㻑
㻞
㻜㻚㻢㻑
㻠㻜 㻝㻞㻚㻥㻑
㻟㻝㻜 㻝㻜㻜㻚㻜㻑
ƓѮNJƷʙಅ৑ƳƲưƷ
*+8ज़௨ᎍƷӖλǕƷӧᏡࣱƴƭƍƯ
ʙಅ৑ưӖλǕӧᏡ
၏ཞƕ‫ܭܤ‬ƠƯƍǕƹӖƚλǕ
ӧᏡ
แͳƕૢƑƹӖλǕƸӧᏡ
ӖλǕƸᩊƠƍ
໯ј‫ׅ‬ሉ
3Ჯ *+8ǨǤǺƴ᧙ƠƯʙಅ৑ϋưѠࢍ˟Ǎᄂ̲᧏͵ǛࠎஓƠLJƢƔᲹ
ᅇ⟅ᩘ
ᕼᮃ䛧䛺䛔
ᕼᮃ䛩䜛
᳨ウ䛧䛶䜏䛯䛔
↓ຠᅇ⟅
↓ᅇ⟅
ィ
䠂
㻤
㻞㻚㻢㻑
㻥㻤 㻟㻝㻚㻢㻑
㻝㻡㻥 㻡㻝㻚㻟㻑
㻜
㻜㻚㻜㻑
㻠㻡 㻝㻠㻚㻡㻑
㻟㻝㻜 㻝㻜㻜㻚㻜㻑
*+8ǨǤǺƴ᧙ƠƯ
ʙಅ৑ϋưѠࢍ˟Ǎᄂ̲᧏͵ǛࠎஓƠLJƢƔᲹ
ࠎஓƠƳƍ
ࠎஓƢǔ
౨᚛ƠƯLjƨƍ
໯ј‫ׅ‬ሉ
໯‫ׅ‬ሉ
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
74
図2
HIV/ エイズ啓発研修
研修後アンケート結果
研修の内容について参考になりましたか
どのような点
主なご意見
( 重複した内容は省いています )
・ 感染力が弱いというのは知らなかったので、AIDS に対する印象が大分変りました。
・ B 型・C 型肝炎等よりも感染力は弱く、正しい知識をもってケアを行えば感染することはありません。
・ 今まで HIV・エイズに関する研修を受けたことがなく、正しい知識が全くなく研修を受けてスタンダードプリコーショ
ンをしっかりしていれば問題がなく、施設での受け入れが可能なことを知った。
・ エイズ
死ぬ病気だと思っていたが慢性病の一つになったことが分かりました。
・ HIV 感染が死に直結するわけではなく、それによる日和見感染によるエイズ発症は危険性があるというわけではない
ということが理解できました。
・ 正しい知識を持っていれば怖がる必要のない病であるということを再認識できたこと
・ HIV・AIDS について具体的な知識を得られた。今後の課題として福祉分野が大きく関わることを知ることができた。
・ 施設での対応の知識が学べました。
・ エイズの正しい知識
・ 医学の進歩により日和見感染症で死に至ることはなくなったということ。HIV/ エイズ = 死ではない、すなわち慢性
化した他の病気と同じである
・ スタンダードプリコーションで十分とのこと
・ 分野別の先生毎にテーマ,主題がはっきりしていた。
・ HIV の高齢者陽性率がアップしている事がよくわかり当院での対策を考え直すきっかけになると思う。
・ 資料がとても分り易いもので頭に入りやすかった。実際に行っている資料がほとんどですぐに活用し施設に持って帰
ることで活かすことができると思った。
・ HBV,HCV の入居者様がおられるので内容が理解できた。
・ この時期にはいつも胸に手を合わせている。感染委員長をしているので 1 名も発生してほしくはない。発生しても終
息するとは思うが,発生者を出すと施設全体が大変なことをしたような雰囲気となる。標準予防策の徹底の声かけ研
修会をしているが発生する。落ち度があるのでしょうか。
・ HIV の意識の改善理解を得られたこと。
・ 色々な職種の方々から詳しく分り易く話を聞くことが出来た。
・「スタンダードプリコーション」いつもできているようで出来ていない。やっているようで出来ていない事に気づいた。
・ 様々な専門分野の先生のお話が聞けて良かった。
・ 古い知識ばかりだった。昔見たアフリカかなんかのエイズ患者のドキメンタリーが今のエボラとかと重なって怖いイ
メージばかりだった。感染力の強さ弱さなんて考えたこともなかった。
・ 以前にも HIV,HBV,HCV の感染症の研修に参加した。正しい知識を持ち対応することの大切さを改めて感じた。
職場全体で正しい知識を持って連携し受け入れる必要があると思う。
・ どの感染症にもやはり基本的な予防が一番大切なのだということを改めて感じた。
・ 現状が知りたかったので、県内の HIV 診療体制の取り組みが分かって良かった。
・ 陽性者の方のお話を聞けたことは今後患者支援を行なう上で参考になりました。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
75
HIV 感染者の受入れについて
受入れが難しいと感じる理由
主なご意見
( 重複した内容は省いています )
・ 他の職員の動揺を考えると混乱するかもしれないので、職員教育を実施してからの方がいいと思いました。
・ 有料老人ホーム(自立)、介護付有料老人ホーム、デイサービス等様々な利用客がいらっしゃり、HIV 感染者、HIV
に対する正しい知識を持っていない状況の中で混乱が生じる恐れがあるため(事務職)
お勤めの事業所等での HIV 感染者の受入れの可能性について
どのような準備が必要でしょうか
主なご意見
( 重複した内容は省いています )
・ 全職員に HIV 感染者についてのケアの周知だと思います。
・ 職員教育、リスク管理、血液曝露時の対策など
・ 自立困難になった場合、高齢者とどのようにかかわるのか、対応方法が分からない
・ 職員教育、病院との連携
・ 職員教育
・ 職員が正しい知識を得て、理解をする
・ 会社の意向を聞いていないので分からない
・ 会社の意向を聞いていませんので答えられません。
・ 基本情報と現在の詳しい状態
・ 職員の理解、対応
事業所の受入れが難しい理由
主なご意見
( 重複した内容は省いています )
・ 職員の理解は得られると思うが他の利用者が HIV 陽性者と知った時利用者同士の問題が発生するんじゃないかと思う。
・ 職員全体に伝達研修を行い受入れ体制を整えないと難しいと思う。
・ 全スタッフへの理解周知徹底が難しい。スタンダードプリコーションが全スタッフが出来るか否かが心配。スタッフ
の意識改革が難しい。
・ 医療従事者はともかく介護職としてはかなり不安があると思う。研修等に行っていても不安は残るのではないか?イ
メージを変える必要がある。昔のままで新しく正しい知識を知らない事が原因ですね。
感想・ご意見があれば自由にご記入ください
感想・ご意見
主なご意見
( 重複した内容は省いています )
・ HIV 感染、エイズ患者について一歩踏み出せたことは大きい。
・ わかりやくすく、よく理解できました。
・ 理解しているつもりでしたが認識が変わりました。HBV・HCV より感染力は低いので受け入れられると思います。
・ 介護現場での仕事ではありませんが、居宅ケアマネとして今後 HIV 感染者の利用者様を担当することがあるかもし
れません。正しい知識を教えて頂きありがとうございました。
・ 本日はありがとうございました。誤解されやすい疾患ですが正しい知識を共有し、今後の業務に活かしていきたいと
思います。
・ HIV 感染者の高齢化に伴い老健施設での受け入れも必要になってくると思う。B 肝に比べて感染力も弱いためスタッ
フの知識などを向上して受入れできる施設にしていきたいと思った。
・ HIV 感染者の高齢化に伴い老健施設での受け入れも必要になってくると思う。B 肝に比べて感染力も弱いためスタッ
フの知識などを向上して受入れできる施設にしていきたいと思った。
・ 私も HIV,エイズの知識がなく無意識のうちに偏見や差別をしていたのかなと思った。これからは知識を取り入れて
偏見をなくしていけたらいいと思った。
・ 今まで正直身近に感じていなかったので中途半端に知識を持っていたが本日の研修でよく理解できた。近い将来施設
への受入れが来る日が訪れると思うのでその時は自分も中心となり関わろうと思う。
・ 施設の感染マニュアルにきちんと HIV も入れ、感染力がそれほど強くなく普通に対応できることを追加しておきた
いです。
76
11
エイズ診療拠点病院と在宅あるいは福祉施設の
連携に関する研究
研究分担者: 下司
有加(国立病院機構大阪医療センター看護部)
研究協力者: 富成伸次郎(国立病院機構大阪医療センター感染症内科)
築山亜紀子(公益財団法人エイズ予防財団)
研究要旨
HIV 感染症は抗ウイルス療法の継続によって医学的にコントロール可能な疾患となり、患者の生命予後
も極めて改善した。一方で、長期生存者における慢性期の合併症が課題となっている。それは、骨代謝性疾
患や生活習慣病、悪性疾患、CKD など HIV や ART に関連して併発する疾患や HIV 感染症に関連しない疾
患への罹患、それらに伴うケアの必要性である。いずれの場合も、エイズ診療拠点病院のみで完結する医療・
看護では不十分であり、他疾患と同様の病病連携、病診連携、看護の提供が必要となっている。そこで、1
つ目の研究として、初年度は、ブロック拠点病院に通院する HIV 陽性者の長期療養の実態を把握するため
の調査票を作成し、次年度以降では、調査結果から、連携が困難である領域または、連携の急務を要する領
域に対する介入を検討していく。
2 つ目の研究として、平成 21 年度から実施している訪問看護師への介入を継続する。今までの当研究班の
結果より、訪問看護師が自立困難となった HIV 陽性者を受け入れるにあたり直面する課題は、
「職員の知識
不足とそれによる不安」が主であり、研修会という知識の習得の機会は、準備性の向上につながり、受け入
れを促進するうえでの直接的介入として効果を得ていた。また、自立困難となった HIV 陽性者を在宅で支援
するためには、訪問看護師のみの協力では成り立たず、在宅で支援する多職種に対して包括的な取り組みの
必要性が示唆された。さらに、研修会に参加した訪問看護ステーション側からは、研修会の継続的な実施に
対するニーズが高く、研修会そのものが受け入れの準備性を高めるだけでなく、訪問看護ステーションと医
療機関との情報交換、顔合わせの場ともなっているため、今後も研修会を継続し、介入の効果を評価していく。
研究目的
研究方法
研究 1:エイズ診療拠点病院に通院中の HIV 陽性者
研究 1:ブロック拠点病院を対象に、通院中の HIV
の長期療養の実態調査
陽性者の療養実態調査を実施。各施設に通院中の
HIV 陽性者が、HIV 感染症に関連した疾患または、 HIV 陽性者がブロック拠点病院以外で通院してい
HIV 感染症以外の疾患に罹患した際に、エイズ診療
る医療機関(診療科)、在宅で受けているサービス、
拠点病院外の医療機関や介護・福祉機関とどの程度
反対に連携できていない医療・看護・福祉機関につ
連携できているのか、できていないのか、実態を明
いて把握できるような調査票を作成。
らかにする。
研究 2:訪問看護ステーションへの介入
訪問看護を主とする在宅支援提供者が HIV 感染
症患者を受け入れる上で直面する課題である職員の
知識不足、不安に対して直接的な介入を行い、その
評価を行う。
研究 2:訪問看護ステーションへの介入
大阪もしくは、政令指定都市にある訪問看護ス
テーションを対象とした研修会の実施。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
77
研究結果
内容としては、スタッフへの教育があげられた。今
研究 1:現在、調査票を作成中。
回、参加された人は管理者が 54%を占めていた。参
研究 2:訪問看護ステーションへの介入
加者全員が研修会の継続開催を希望された。
(1)訪問看護師研修会
④研修全体を通しての意見
① 研修の実施および参加状況
・ HIV 陽性者の受け入れについては全く問題ないと
【大阪】開催場所:AP 大阪梅田茶屋町、開催日:7
認識している。
月 25 日(土)、受講者 24 名、講師協力:大阪市中
・ 在宅のかかりつけ医がいると心強い。
央訪問看護ステーション。【北海道】開催場所:訪
・ 地域によって陽性者の訪問依頼にも差があるた
問看護ステーションことに内会議室、開催日:10 月
め、まだ依頼がない時点から受け入れ可能な体制
22 日(土)、受講者 20 名。
を整えておきたい。
② 研修プログラム
大阪では、HIV/AIDS の基礎知識、HIV 陽性者の (2)i-net の継続
看護支援の講義と事例をもとにしたグループワーク
平成 28 年 1 月末で 62 事業所の申し込みがあり。
を実施した。グループワークでは、5 人 1 グループ
日本エイズ学会学術集会の開催や次年度の企画であ
とし、そのグループが架空の訪問看護ステーション
る地域密着型研修会開催などの情報発信を行った。
と設定。HIV 陽性者の訪問依頼があった際、受け入
れまでに起こりうる問題点の抽出と、解決策につい (3)研修案内先一覧の更新
て話し合った。全体で約 3 時間の研修であった。
北海道では、先方のニーズに合わせて平日の夕方
全国の訪問看護協議会がインターネット上で公開
している訪問看護ステーション一覧を元に、統廃合、
90 分の研修会とし、講義を中心に実施した。また、 新規設立の事業所の所在をアップデートし、次年度
訪問看護師のみならず、ケアマネージャー、介護ヘ
の研修会に向けて一覧表を更新。また、平成 28 年
ルパー、地域包括支援センター職員などの参加が
度の研修企画の案内を全国に郵送した。
あった。
考察
③ 研修終了後のアンケート結果
【大阪】アンケートの回収は 24 名(回収率 100%)。 研究 2:訪問看護ステーションへの介入
20.8 % の 人 が HIV 陽 性 者 の 訪 問 看 護 経 験 が あ り、 (1)アンケート結果にあったように、自立困難となっ
45%の人が研修会の受講経験があると回答。また、 た HIV 陽性者の訪問依頼には、地域によって差が
HIV 陽性者の受け入れについては、62%が受け入れ
あり、既に受け入れを多く経験しているところもあ
可能、38%は準備が必要、受け入れ不可能の回答は
れば、全く依頼がないといった地域も存在する。そ
なかった(図 1)。準備が必要と回答された人の準備
のため、研修会の内容については、従来のような統
䠤䠥䠲㝧ᛶ⪅䛾ཷ䛡ධ䜜䛻䛴䛔䛶䠜኱㜰
ᵎᵃ
ᵑᵖᵃ
ᵔᵐᵃ
ӖẬλủӧᏡ
図1
แͳầ࣏ᙲ
ӖẬλủɧӧᏡ
HIV 陽性者の受け入れについて(n = 24)
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
78
一した座学中心の講義とするより、その地域での経
験に合わせた内容に調整が必要である。今回、大阪
で開催した際のグループワークでは、実際のステー
ションと同様に受け入れまでの流れを話し合ってい
ただくことで、具体的な問題やそれに対する解決策
を検討することができた。大阪では、HIV 陽性者の
訪問看護経験のあるステーションが増加しているた
め、講義のみではない方法を取り入れたことが参加
者からは好評であった。
(2)今後は i-net を有効に活用した follow up 体制の
構築が必要である。
(3)研修会については、各都道府県に設置されてい
る訪問看護連絡協議会に登録されている訪問看護ス
テーションを対象として研修案内を送付してきた。
次年度以降は、それに加え、全国訪問看護事業協会
にも協力をいただき、研修会の開催が可能かを検討
していく。
結論
研究 2:訪問看護ステーションへの介入
・ 研修会への参加によって、受け入れに向けた準備
性の向上につながった。
健康危険状況
該当なし
研究発表
該当なし
知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
該当なし
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
79
80
12
介護保険施設の HIV ケアと学校基盤の HIV 予防における
拡大戦略の研究
研究分担者: 佐保美奈子(大阪府立大学大学院 看護学研究科)
研究協力者: 下線はグループリーダー
1
看護職のボトムアップとエンパワメント
山田加奈子(大阪府立大学大学院 看護学研究科)
伊藤ヒロ子(公益社団法人大阪府看護協会 会長)
堀内
淑子(公益社団法人大阪府看護協会 専務理事)
中垣
郁代(公益社団法人大阪府看護協会 教育部)
扇田
千代(大阪府立急性期・総合医療センター 看護部)
久光
由香(近畿大学附属病院看護部 感染症看護専門看護師)
大野
典子(日生病院看護部 感染症看護専門看護師)
王
美玲(大阪市立総合医療センター 看護部)
橋本
美鈴(大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター 感染管理認定看護師)
鈴木
光次(牧野病院 看護部)
2
介護保険施設における教育と研修のアプローチ
泉
柚岐(信愛女学院短期大学 看護学科)
西口
初江(羽衣国際大学 人間社会学部)
雨師みよ子(一般社団法人大阪府訪問看護ステーション協会)
井内公仁子(まごころケアマネージャー事務所)
澤口智登里(大阪市北区保健福祉センター)
三田
洋子(市立堺病院 看護局)
豊島
裕子(大阪市立総合医療センター 看護部)
熊谷
祐子(みのやま病院 看護部)
岡本
友子(ハシイ産婦人科 看護部)
繁内
幸治(BASE KOBE 代表)
3
古山
高校生への HIV 予防啓発と養護教諭への教育と研修
美穂(大阪府立大学大学院 看護学研究科)
北川未幾子(大阪府立大学大学院 看護学研究科)
橋弥あかね(大阪教育大学 教育学部 養護教諭養成課程)
工藤
里香(京都橘大学 看護学部)
髙
知恵(大阪府立大学大学院 看護学研究科)
池田麻衣子(大阪府教育センター附属高等学校 養護教諭)
眞弓
靖子(大阪府立緑風冠高等学校 養護教諭)
賀登さおり(大阪府立泉北高等学校 養護教諭)
鈴本
絵里(淀川キリスト教病院 看護部)
武長
純子(特定非営利活動法人ピープルズホープジャパン)
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
81
研究要旨
地域 HIV 看護の質の向上と拡大戦略に向けて、①介護保険施設で勤務する看護・介護職への研修を企画・
実施、② HIV サポートリーダー養成研修の受講生募集地域を大阪府内から近畿ブロックに拡大、③学校基
盤の HIV 予防教育の強化のために、養護教諭養成課程を担当する教員との協力体制作りを行った。研究テー
マである、介護施設への啓発と高等学校での HIV 予防教育を支える看護職のボトムアップについての基盤
ができつつある。
研究目的
③ スタンダードプリコーションについて、イラスト
介護保険施設における HIV 研修を企画・実施・
評価する。
でわかりやすく伝える。
④ 生活援助をする上で、手袋が必要な場合と必要な
い場合を具体的に伝える。
研究方法
HIV 研修前後の知識・態度の変化をアンケート調
査し、研修後3ヶ月の感想をインタビュー調査で明
らかにした。
3.介護老人保健施設職員の研修の企画
「エイズ研修
し」
DVD で上記の①〜④を確認したうえで、下記の
(倫理面への配慮)
アンケート・インタビュー調査の実施にあたって
は、学会や報告書において内容を発表することにつ
自分と相手を大切にする性のはな
内容を加えた。
①
性はよりよく生きるうえで、最大のエネルギー
いて了解を得たうえで、協力は自由意志であること、 ②
性の多様性
匿名での記入であること、語った内容については、 ③
高齢者にとっての性
個人が特定されないように配慮すること、希望時は
④
性感染症の予防(コンドーム装着実演)
調査結果を知らせること、個人情報の保護について
説明をおこなった。調査は大阪府立大学大学院看護
学研究倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番
号 27 - 25)。
研究結果
Ⅰ 介護保険施設で勤務する看護・介護職への研
修を企画・実施
1.DVD 教材「介護職として知っておきたい 10
のこと」制作のねらい
1980 年代のエイズパニック時の情報をそのまま持
ち続けている者が多いので、誤った知識や偏見を取
り除き、HIV 陽性高齢者の介護保険施設での受け入
れを促進する。
2.DVD の内容(上映時間 25 分)
① 最新の HIV の治療・予後を知り、長期療養が可
能な HIV 陽性者の高齢化が進み、HIV 陽性者も
介護の対象であることを伝える。
② HIV はスタンダードプリコーションの範囲で施設
内感染や職業感染を予防でき、特別な準備は不要
であることを伝える。
4.研修の結果
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
82
<研修直後のアンケート調査結果>
・参加者 50 名
回収数 41
回収率 82%
60 歳代 , 2
20 歳代 , 7
50 歳代 , 10
30 歳代 , 10
40 歳代 , 12
n=41
その他 , 11
介護 , 15
PT, 3
看護 , 5
CW, 7
n=41
参加者の年齢は、20 歳代と 30 歳代で、41%であり、
若い世代の介護職員が増加している。参加者の半数
が介護職であり、看護職・PT・事務職員が参加して
いた。
<研修 3 ヶ月後のインタビュー調査結果>
介護職 3 名、看護師 3 名に個別に半構成的インタ
ビュー調査を実施した。
インタビュー内容は、研修の感想、HIV について
の認識やイメージの変化、HIV 陽性者の対応につい
ての気持ちの変化、HIV 陽性者の受け入れについて、
今後 HIV 陽性者の受け入れを円滑に行うために必要
10 年以上 , 4
1 年未満 , 5
なことについて、思いつくままに自由に語るもので
あった。語られた内容をその場で許可を得てメモを
とり、KJ 法で分類した。
6〜9 年 , 9
HIV/ エイズのイメージの変化:
1〜5 年 , 16
▷ 理学療法士の養成学校でエイズに関する講義はな
かった
n=34
▷ 介護の専門学校では、教科書の内容だけで、エイ
ズのことは学習しなかった
介護経験年数が 5 年以下の者が 62%であり経験の
浅い職員が多かった。
▷ 介護の勉強の中でも学習しなかった
▷ エイズに関しては看護学校で少し習っただけ
▷ エイズは助からない病気というイメージだった
▷ エイズについては、テレビのニュースで学んだ
▷ エイズに関しては、興味がなかった
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
▷ エイズのことは漫画やテレビのニュースで知った
▷ キスしてもうつるし、唾液をさわるのもだめだと
思っていた
83
できる
▷ ペニスモデルやコンドームサンプルによる実演も
はじめてだった
▷ ゲイの人の病気というイメージ
▷ 祭りのことや神社のことなどもおもしろかった
▷ セックスだけからうつるんだとわかった
▷ 性行為のときに注意すればよいとわかった
▷ スポーツ選手が HIV 陽性であることを告白して、 ▷ 最近のこどもはスマホなどで情報を得る
おどろいたことがあった
▷ 日本の祭りのことなどが印象に残っている
▷ 自分の中では、エイズは男性同性愛者の病気
▷ 奈良には性器の御神体はないと思う
▷ セックスでうつりやすいということだが、本当は
▷ 日本の性の文化の話がおもしろかった
どうなのか
▷ エイズは簡単にうつらないし、思ったよりもこわ
くないとイメージが変わった
▷ C 型肝炎と同じだと思った
▷ 肝炎ウイルスよりも感染率が小さいことがわかっ
た
スタンダードプリコーションについて:
▷ スタンダードプリコーションはきちんとできてい
る
▷ 介護現場で手袋をするのは当たり前
▷ 他の感染症の場合でも、次亜塩素酸による消毒が
ちゃんと出来ている
▷ 男性同性愛については、同性婚などがニュースに
もなって、社会が変わってきた
高齢者の性について:
▷ 施設内で、認知症の利用者から、女性スタッフへ
のセクハラ行為はあるが、認知症としての対応を
していて、大きな問題にはならない
▷ 施設利用者からのセクハラ発言や行為も報告され
るが、「元気がある証拠」と理解している
▷ 施設利用者のマスターベーションについて、報告
されることはあるが、問題はない
▷ 入居者同士の恋愛問題やセクハラトラブルは聞か
ない
▷ 手袋の使用について、上司と相談したい
研修の希望・課題:
▷ 病院での勤務時代から、注射や採血の時に手袋は
▷ 入職してきたときに、研修としてエイズのことを
していない
知ることが必要
▷ 真空採血ではなく、シリンジで採血している
▷ エイズについての研修は必要
HIV 陽性者の受け入れ:
▷ B 型・C 型肝炎のこともまじえて研修をうけたい
▷ HIV 陽性者の受け入れは大丈夫
▷ エイズだけでなく、B 型肝炎や C 型肝炎や梅毒
▷ HIV 陽性の高齢者の利用希望があるということ
も理解できた
▷ HIV 陽性者の利用は問題ない
▷ HIV 陽性者の利用も大丈夫
▷ PT としてリハビリの場面でしか接さないので問
題ない
▷ 介護施設の受け入れについては問題ない
性教育の必要性の理解:
▷ 性教育が大切
▷ 昔よりもずいぶんとオープンになっていると思っ
た
▷ これまでの人生できちんとした性教育はなかった
▷ はじめて聞く内容だった
▷ 友人や同級生からの情報で、コンドームについて
も知った
についても知っておきたい
▷ 看護師の仕事として、採血や点滴注射、血糖測定
などがあるので不安
▷ 研修では他の感染症よりうつりにくいと聞いて安
心した
▷ 研修は平日夜の 6 時からの 1 時間でよかった
▷ 研修を受けるときに男女別々に分かれて聞いたほ
うがよかった(男性)
▷ 男性は笑っていたが、女性ははずかしそうだった
(男性)
▷ 大切になってくるのは、医師と看護師と介護士の
連携
5.考察
①「HIV に感染=エイズ=死ぬ」イメージが強いの
▷ コンドームは着けないといけない
で、正しい知識を提供する必要がある
▷ セックスのときもコンドームによって防ぐことが
▷ 介護職養成機関(近畿ブロック内に 52 課程)では、
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
84
HIV 感染症についての十分な教育がおこなわれて
は、近畿ブロック内に 26 施設ある。新たに研究協
いないので、来年度は作成した介護職向け DVD
力者として大学教員 2 名を要請し、教育課程にある
教材を配布し、啓発・アンケート調査を企画する。 在学生や卒業生の研修などで、啓発をおこなう。
② 最新の情報・正しい知識を得る機会があれば介護
これまでに HIV サポートリーダー養成研修を修
職の HIV 陽性者の受け入れは良くなるので、定期的
了した看護師・助産師のいる病院をマッピングし、
な職員研修に HIV 研修を加える。
出前講義を希望する学校とのマッチングを行なって
▷ 今度も介護職対象の研修等を実施し、共通で使用
いく。
するアンケート調査内容を検討する。研修の内容
は HIV/ エイズに特化したものではなく、スタン
考察
ダードプリコーションや感染経路別の対策をメイ
介護保険施設での HIV 陽性者の受け入れを促進
ンに伝える。HIV 陽性者のケアはスタンダードプ
するための研修にはじめて取り組んだ。ストレスの
リコーションの範囲で十分であることを強調した
高い介護現場では、入居者への虐待問題も数多く報
い。
道された 1 年だった。入居者へのケアの向上を図る
③ 家庭での性教育や性感染症予防についての内容も
とともに、介護・看護職が幸せになるための内容も
研修に加える
研修に盛り込むことが必要である。自分のセックス
▷ 20 〜 30 歳代の介護職員が多いので、本人が性感
ライフが豊かになり、家族や子どもの性教育の知識
染症に罹患する可能性があり、子どもを持つ職員
は子どもへの性教育の機会があるので、自分や家
族のための性教育の内容を含める。
も研修で伝えていく。
HIV サポートリーダー養成研修と高校生への出前
講義、大阪府看護協会が主催する看護職研修、大阪
④ 看護職の針刺し事故時の対応を強化する
府教育委員会が主催する研修は、次年度以降も実施
▷ 医師や看護職が安心して HIV 陽性者を受け入れ
していく。
られるように、針刺し事故の実態や予防内服のこ
とを伝える。
結論
看護・介護・学校現場でのケアと予防の拡大のた
Ⅱ
HIV サポートリーダー養成研修
今年度も 2 回の 3 日間研修を実施し、これまでの
めの基礎作りが出来つつあるので、残りの 2 年間は
具体的な実践を粛々と続けていく。
11 回で受講者数は 205 名である。HIV 感染症の医
学的な情報だけではなく、幅広くセクシュアリティ
健康危険情報
教育として「性の多様性」「思春期からの性感染症・
該当なし
避妊」の内容も含め、楽しいアクティビティを盛り
込んだ楽しい研修という評判が広がってきた。
看護師養成機関においても HIV 感染症について
は十分な内容を教育されていないので、研修には看
護学部生を含めて看護職のボトムアップを今後も図
1. 論文発表
該当なし
2.学会発表
る。
研修の修了生には、出前講義への参加や HIV ネッ
トワーク会議への参加を勧めている。研修の講師と
して講義をおこなう機会を今後も作っていき、一般
の看護職が高校への出前講義や研修など、病院以外
の場面で活躍できる場を提供する。
別添アンケート調査結果を参照。
Ⅲ
研究発表
学校基盤の HIV 予防教育の強化
日本養護教諭養成大学協議会に所属している大学
佐保美奈子、古山美穂、山田加奈子、髙知恵、工藤
里香、介護保険施設を対象とした HIV 職員研修の検
討。第 29 回近畿エイズ研究会、2015 年 6 月
佐保美奈子、古山美穂、山田加奈子、髙知恵、泉柚岐、
西口初江、白阪琢磨、介護老人保健施設でのエイズ
研修の検討。第 29 回日本エイズ学会、2015 年 11 月
知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
該当なし
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
85
HIV サポートリーダー養成研修のまとめ
3.受講生の性別
1.受講者数
これまでの受講者数は205名である。
男性, 17
HIVサポートリーダー養成研修累積受講者数
250
n=205
205 名
200
150
女性, 188
100
50
10
第 回
9
第 回
8
第 回
7
第 回
6
第 回
5
第 回
4
第 回
3
第 回
2
第 回
1
第 回
第 回
0
11
4.調査票の回収数
参加者205名
回収率87.3%
5.研修目標の達成度
HIVサポートリーダー養成研修各回受講者数
35
研修目標:セクシュアリティ、HIV感染症に
ついて広く学び、HIV陽性者への初期対応、
高校生へのHIV予防出前講義に必要な態度・
知識・技術を得る
30
25
20
15
10
一部達成できた
8%
5
達成できた
44%
11
ほぼ達成できた
47%
2.受講生の職種
認定看護師, 4
専門看護師, 2
養護教諭 , 3
保健師, 7
10
第 回
9
第 回
8
第 回
7
第 回
6
第 回
5
第 回
4
第 回
3
第 回
2
第 回
1
第 回
第 回
0
回収数179
6.講義別理解
学生, 28
看護師,
107
DVDを使用した
出前講義
コンドーム達人講座
助産師, 54
HIV陽性者への支援
n=205
薬害エイズ
HIVの最新治療
若者へのHIV/AIDS
予防教育
HIV陽性者の理解
セクシュアリティ概論・
思春期のセクシュアリティ
大阪のHIV感染の現状
0%
理解できた
ほぼ理解できた
20%
40%
60%
一部理解できた
80%
100%
理解できなかった
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
86
7.態度の変化
性のことを人前で話すのははずかしい
0%
20% 40% 60% 80%
100%
セクシュアルヘルスの増進について学びたい
0%
20% 40% 60% 80% 100%
研修前
研修前
研修後
研修後
自分自身の性についてきちんとむきあっている
0%
20% 40% 60% 80% 100%
自施設で、HIV陽性者のケアへの準備をしたい
0%
20% 40% 60% 80% 100%
研修前
研修前
研修後
研修後
HIV看護について興味を持っている
0%
20%
40%
60%
80%
100%
研修前
グローバルな広い視点で看護を考えている
0%
20% 40% 60% 80%
100%
研修前
研修後
研修後
性欲は基本的な欲求の一つであり大切にしたい
0%
20%
40%
60%
80%
他者と深く関わることは喜びである
100%
0%
研修前
研修前
研修後
研修後
20%
40%
60%
80%
100%
HIV予防教育の出前講義に積極的に関わりたい
0%
20%
40%
60%
80%
100%
研修前
研修後
大いにそう思う
そう思う
8.自由記載(第 10 回・第 11 回分のみ)
1)アクティビティー(フリスビー・感染シミュレー
ション・粘土制作・自由画)について
① からだを動かしたり、絵にしたり、粘土制作したりす
るのは、すごくたのしく学ぶことができました。普段、
絵にしたりすることがないので、苦手でしたが、描い
たりすると楽しくできました。
② 大変楽しく、効果的だと思いました。自分自身を表現
することが久しくなかったので、アクティビティーを
通して何かを発散させられました。何よりも良かった
のは、他の人の作った物を見て、題材が同じなのに、
完成品がどれも違い、あらためて、自分=他者ではなく、
私以外は私ではないということを、思い出すことがで
きました。
あまりそう思わない
まったくそう思わない
③ フリスビー楽しめた。アクティビティーの方法など、
具体的に体験でき、勉強になった。
④ 粘土、自由画について:自分の内なるものを形に表現す
るという行動自体が大人になると減ってくるので、とて
も新鮮な気持ちで楽しかった。シミュレーションについ
て:私も生徒時代にやってみたかったです。フリスビー:
アイスブレイクの目的ならば、メンバーを変えてやって
みてもいいのでは?
⑤ 普段の業務では出来ない事で、童心に帰ったようで新
鮮でした。手や体を動かしながらの人との関わりがと
ても大切だと感じました。思いや考えを形にする難し
さも感じました。
⑥ アクティビティーで体を動かすことで理解がすすんだ。
また、講義のヒントを得る事ができた。特に粘土制作
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
87
は立体的に、そして色も付けるとなると、非常に難し
土やクレヨンも久しぶりにさわって、とても楽しかっ
く感じた。
たです。自分の頭の硬さにちょっとがっかりしました。
⑦ 感染シミュレーションは、院内研修でもしてみようと
⑲ いろいろな方と関われるので、楽しく参加できました。
感じました。(近々 HIV / AIDS 研修のプレゼンをす
⑳ 一緒に活動することで、話しやすい場をつくることが
るように依頼を受けていたので、いいタイミングでし
た。)また、粘土制作も、ひとつのテーマで多彩な考え
があり、世界が広がったような気がしました。
⑧ 実際に感染シミュレーションを行ない、気づかないう
ちに感染しているんだと恐ろしい程実感しました。
⑨ 講義だけでなく、感染シミュレーション、粘土制作も
今後の研修企画に役立つ。
できたので良かった。
㉑ 体験を通して、自分の気持ちを深く考えることができ
たので、良かったと思います。また、フリスビーや体
験を通して他の方と交流することができ、楽しかった
です。
㉒ 人によって、得意なもの、苦手なものは違うので、ア
クティビティによって自分を表現し、それを言葉にす
⑩ 久しぶりにアクティビティーをするので、最初はとま
ることはとても良い作業だと思いました。また、感染
どいもあったが、するに従い自分の気持ちや考えを改
シミュレーションは学生にもわかりやすく、イメージ
めて見直す機会になったと思う。他の人の作品を見て、
しやすいと思います。
同じ講義を受けていても様々な受け取り方や、重要と
するポイントも異なるので、興味深く感じた。
㉓「性」という一言の課題に対して、様々な作品が作られ
ていたことに、驚きと自分の考えの狭さを感じました。
⑪ 自分の考えや思いを形や図に表す機会が今まであまり
美術が苦手なので、ちょっと嫌だなと最初は思ってい
なかったので、今回自分の気持ちに向き合うきっかけ
ましたが、一人ひとりが違うんだということを学べた
となり、よかったです。
良い機会だったと思います。感染シミュレーションは
⑫ 合間、合間にアクティビティーを取り入れられ、3 日間
とても楽しく受講することができました。研修前はプ
病棟でやってみてもおもしろいだろうなと考えていま
した。
ログラムを見て、「自由画って何?」「フリスビーって
㉔ アクティビティーを行なったことで、学んだことの印
何?」と疑問だらけでした。でも受けてみて納得!!
象が深く残り、知識を今後の看護活動により生かして
こんな研修をしなければいけないんだなーと思いまし
いけると思いました。また、率直に工作が楽しかった
た。
⑬ 粘土の学習だけでなく、シミュレーションなどを通し
て、感染経路について学べました。
⑭ 自分の考えを物や絵で表現するということをずっとし
ていなかったため、とても難しかったです。でも、実
際に作ることで、今まで以上に考えるきっかけになっ
たのでよかったです。
⑮ 感染シミュレーションはわかりやすくて、楽しく て、
です。
㉕ 感染シミュレーションはすごくよく感染の広がりが再
現できていると思いました。自分を皆の前で表現する
ことが、すごく苦手なので、恥ずかしかったけど、い
ろいろな意見を聞けてよかった。
㉖ 感染シミュレーションは視覚的に確認できて、とても
興味深かったです。どこかで使ってみたいと思いまし
た。粘土制作、自由画は他者理解につながり、作品・
年齢関係なく学べると思う。粘土制作や自由画は苦手
絵を通して発表することで気軽に飾ることなく発表で
であり、正直あまりしたくなかったが、上手下手に関
きるところが良い点だと思いました。
係なく作成することで、今の自分の考え方を整理でき
たり、他の人の考え方をしれてよかったと思う。
⑯ フリスビーは運動になった。感染シミュレーションは、
大学生を対象として実施しても面白いのではないかと
㉗ フリスビー・感染シミュレーションはおもしろかった。
感染シミュレーションに関しては、院内でやってみた
いと思った。粘土や自由画についてはクリエイティブ
なものを持ち合わせてない私には苦痛でした。
思ったので、一度講義でやってみようと思う。粘土は
㉘ 感染シミュレーションは感染のさまざまなイメージを
むずかしかったが、他の人の作品を見て、いろいろな
もちやすいワークと感じた。粘土・絵と自分のために
考えがあることが参考になった。自由画は学生に対し
こんな遊び心いっぱいの時間を持つことがないので、
ても書かせてみようと思います。
とてもよかった。フリスビーはしゃべるきっかけ作り
⑰ 粘土制作や自由画は発想力の乏しさを実感し、冷や汗
ものでしたが、楽しくもありました。フリスビーで一
となり、自分から人の中にコミュニケーションをはか
るのが苦手な自分としては、うれしかった。
気に他の受講生の方と話しやすくなり、フランクな感
㉙ おもしろかったです。粘土制作自由画は、自分のもの
じになれました。シミュレーションは理解を深められ
を作成するのもおもしろかったですが、他の人の作品・
たと思います。
プレゼンを聴くのがとても興味深かったです。
⑱ 感染シミュレーションはイロイロ考えることが多かっ
㉚ 苦手意識が先行し、心に「さあ!!」と掛け声をかけ
たです。机上の学習と違い、忘れないと思います。粘
て参加した。一方には、「今の自分はこんなもの」「良
88
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
くも悪くもない、、、」という気持ちもあった。粘土や自
で、高校生への出前講義では有効なのではないかと思っ
由画は、創造性も無く、学習内容ともあまり関係ない
た。
自己中心なものだったと思っている。それも自分、、、、。
2)研修全般や HIV 看護について
研修に参加して、次の行動へのエネルギーがすぐ出る
① 今回、HIV 看護だけでなく、HIV 感染している方の話
ものではないけど、自分に「さあ!!」の掛け声をか
を聴いたりすることができて、すごく貴重な体験がで
けれるだけでも良かった。
きました。自分にできることは何かを考えて、今回の
㉛ フリスビー:何のため?と思っていた。高校生と交流
するため?
ではなくて、全て(自分の思いは言葉に
学びの内容をスタッフに伝えたいと思います。
② 私自身の視野の狭さを恥ずかしく思いました。3 日間の
して正しく伝えること、その他のいろいろなものごと)
中で、大勢の講師の先生のお話しを聞けて勉強になり
自分の思いとはちがう方向に入ってしまうことが、ほ
ました。もっともっと、視野を広げたいです。
とんどであることに気づかされた。自分が正しいと思っ
ても、相手はそのように受け取らない事も多々ある。
でも、行動しないと何も起こらないことを再確認でき
た。(フリスビーだけではなく、この 3 日間で)
感染シミュレーション:『ウラ』を知りたい。
③ もっとシンプルな気持ちでやっていきたいと思いま
す!願わくば、当県でも出前講座を・・・
④ 研修全般を通して、楽しい雰囲気の中で進められたこ
とで、非常に楽しく学ぶことができた。
⑤ 多くの講義を聞けて、知識を得た反面、さらにわから
粘土・自由画:苦手で少し辛かったけど、楽しかった。
なくなった事もできました。(セクシュアルマイノリ
㉜ 体を動かしたり、視覚で確認できたことは、頭で理解
ティーについて)HIV 看護に関しては、以前より感じ
していることと違うということを実感した。自分と他
ていた事ですが、若年層からの予防が大切だと思いま
者の違いを改めて理解できる助けになった。
す。今後、このような研修終了者が医療職の立場とし
㉝ どの講義も非常に身になる内容でした。3 日間、本当に
感謝いたします。
ての予防啓発が必要だと強く感じました。
⑥ まだまだ、医療者の中にも(特にベテランほど)偏見
㉞ フリスビー:思うようには気持ちは届かないというこ
が多く見受けられます。正しい知識を伝達していきた
とを学んだ。感染シミュレーション:どこの誰から感
いと思います。また、高校生や老健施設へも勉強会を
染しているのかわからない。予防対策の必要性を学ん
して、社会に貢献できるといいなと考えています。出
だ。粘土:
「性とは」の皆さんの作品が力作すぎて、びっ
身高校に入ってみたいと思いました。
くりしました。自由画:色んなひとの意見や気持ちが
聞けてよかった。
⑦ 基本的なことや、奥深い事などたくさんたくさん学ぶ
場に来れて、先生方に感謝しています。
㉟「性とは」という表現がとても難しく感じました。みん
⑧ 今後、患者さんを受け入れるため職員教育、委員会で
なの作品を見て、すごく刺激になり、さまざまな考え
活動していきます。相談ごとがあれば、美奈子先生に
方があるんだなーと感動しました。
メールさせていただきます。
㊱ 感染シミュレーションで、水を使ってやって、二人し
⑨ 新人の頃に先輩に「HIV 看護ほど人の性について関わ
か感染源がいないのに、14 人も陽性の人がいて、おど
る看護はない」と言われたが、本当にその通りで、性
ろいた。目に見えてわかりやすくて良いと思った。粘
の多様化にも時代と一緒に対応していかないといけな
土や自由画ははじめはどうしたらいいかわからなかっ
いものだと感じた。以前、ゲイやレズビアン、ニューハー
たが、作っているうちに楽しくなってきた。他の人の
フなどは「第 3 の性」として聴いたことがあるが、今
作品を見て、本当に人それぞれ感じていることはバラ
はそれ以上に、たくさんの性があり、それぞれの性を
バラで十人十色だと思った。
持って生活しているとお話しを聴きながら思った。今
㊲ 目に見える形での感染シミュレーションでは、数字だ
けで感染がどのくらいあり、なぜ予防しなければなら
後も HIV 看護について勉強し、生かしたい。また地域
へも還元していきたい。
ないのかを具体的かつ視覚的に体験できたので、良かっ
⑩ 普段は HIV に感染された患者さんと関わることが多
た。また粘土や絵は想像以上に自分の思っていること
かったのですが、今回、予防に関しての態度・知識・
を表現することは難しいことであると感じた。自分で
技術を学び「予防に対し、興味がもてました。3 日間、
も自分のことがわからない時もあるのに、他人のこと
ありがとうございました。
は全部わからないし、でも、わからないからこそ受け
⑪ 自分は大丈夫!!と何の確信もないまま今まで生きて
止めることは大切であって、十人十色の心を持とうと
きました。今回の研修で初めて HIV 陽性で元気に過ご
思った。
されている方にお会いしました。これまでにもきっと、
㊳ 感染シミュレーションでは、視覚的に感染拡大の危険
自分の周りにも HIV 陽性だけど言えなくて苦しんでい
について捉えることができ、とてもよかった。1 回の性
た人がいたのかな?と・・・これからは心のバリアフリー
交で感染る危険性についてもしっかり伝えておくこと
で生きていこうと思います。HIV/AIDS は全然怖くな
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
89
いじゃん!!と心から思いました。ありがとうござい
新しいことを始めたり、自分がリーダーとなることは
ました。
面倒くさいし、苦手だったけど、今日の恩返しのつも
⑫ 実際 HIV 陽性の方の講演を聞き、自分が知らないこと
りでできることを始めていきたいと思います。職場を
がありすぎ、目からうろこ状態でした。3 日間という短
変えるのは難しいので(私にとってはハードルが高い
い研修でしたが、HIV をより深く学ぶことができまし
ので)出前講義から始めてみようと思います。また、
た。
近所の青年たちに性教育していきたいです。
⑬ もっともっと支援者である私たちが、しっかりとした
㉑ HIV について学び始めて 4 年ほどたちました。どの研
知識を持って、対応していかないといけないなと思い
修も最新のガイドラインや薬についてなどが多かった
ました。病気のことだけでなく、とりまく様々なこと
です。今回、性について、こんなに考えた研修会はは
も知っておかないと、当事者の方に寄り添うことは難
じめてでした。一人一人が違うとか、わかっていたよ
しいと感じました。
うで、わかっていない自分を自覚しました。3 日間、あ
⑭ 私自身、HIV に対して、莫大な不安があったが、3 日
りがとうございました。
間研修に参加してみて、正しく理解していたら(感染
㉒ HIV の学問的な理解だけでなく、実際に社会で活動し
予防も含め)大丈夫なのだということを学んだ。実際
ている方がたの話が聞けて、本当に貴重な体験ができ
は HIV 患者を受け入れていないため、将来受け入れる
たと思います。私を含め、この研修を受けた全ての方々
ようになったら、他のスタッフにも正しい知識を提供
にとって、新しい行動へのきっかけになっていると思
できるようにしたいと思った。多方面の方の講義を受
けて、いろいろな考え方が知れてよかったです。
います。ありがとうございます。
㉓ 自分自身、HIV 患者さんに対して偏見を持っていない
⑮ 自分の学びを深めたいと思い、参加しました。内容は
つもりで仕事をしていたが、今回の研修に参加して、
非常に現実に即しており、また実際現場で活動されて
自分は今まで偏見を持っていたことに気づきました。
いる方のお話しを伺い、びっくりすることもなるほど
身近な若年者の性の乱れもみていますが、高校生への
と思うこともたくさんありました。3 日間終えてみて、
教育はとてもよい講義・活動だなと思います。
この研修に参加して、よかったと心から言えると思い
㉔ 内容の充実した 3 日間でした。興味・関心が深まり、
ます。少しずつでも、自分の周囲に語り、関心をもっ
さらに知識や情報を深めてみたいという動機付けにも
てもらえる人を一人ずつでも増やしていけるといいな
なりました。参加費が無料ということに終始驚いてい
あと思えた。
ます。貴重な研修に参加させていただきまして、あり
⑯ 職場で行けと言われて来た研修でしたが、とても楽し
かったです。子どもが二人(新社会人と大学 2 年生)
がとうございました。
㉕ 今回の 3 日間だけで、他の人に話ができるのかどうか
いますが、こんな話はしてもらってないだろうし、私
はわかりませんが、とりあえず、スタッフに中学生の
もしたことがなかったので、早速したいと思います。
男の子のいる人が二人いるので、その子どもに正しい
HIV 感染患者の高齢化についても深刻だと感じました。
コンドームの付け方から伝えたいと思います。
私自身、遠くに感じていたことが、とても身近だった
㉖ 研修の日程として、3 日間のうち 2 日が土日であったら
ことに気づき、関心が深まりました。ありがとうござ
良いと思いました。医療従事者だけでなく、多方面か
いました。
ら講師の方がお話してくださって、とても充実した研
⑰ はじめはほんの少しの関心で研修に参加しましたが、3
日間を終えて、10 倍も 20 倍も関心を持つきっかけにな
修でした。ありがとうございました。
㉗ HIV については、まったく知らないことがたくさんあっ
りました。今後の自分の知識を深めて、HIV に関わる、
たけど、研修を受けて、自分が思っていた以上に奥が
また、予防出来る仕事をする事が私の目標になりまし
深いということが分かった。いろいろな考えを持った
た。本当に楽しい研修でした。ありがとうございました。
人がいること、正解はないということ、だからこそ、
⑱ HIV 看護の深さを学び、自分の考えが変わったと研修
相手に興味や関心をもって、理解しようとする気持ち
を通して思う。自分の考えを見つめ直すいい機会になっ
が大切だと思った。いつでもそのような気持ちをもて
た。
るように心がけたい。
⑲ HIV について、とても深いところまで学ぶことができ
㉘ AIDS 発症の患者様の看護を行っているが、もっとでき
ました。これから看護師として働いていく中で大切な
ることがあると学んだので、これからの時間を大切に
考え方や知識を学ぶことができました。10 人 10 色の性
寄り添えるよう努力していきます。性教育は学校まか
があることを前提に、これから周りの人や患者さんと
せにしている親御さんも多いので(私は性教育を子に
関わっていきたいと思います。3 日間、ありがとうござ
していますが)、親も含め家庭でのあり方から関われる
いました。
と良いと思いました。
⑳ 3 日間、とても愛情溢れる講義ばかりで感動しました。
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
90
9
研修後の修了生の活動について
①自施設での伝達講習や勉強会の開催
研修後は職場で伝達講習を行なった者や、中学
高等学校に出向いて、中高生に性教育をおこなった
者がいた。また、ゲイのミーティングに参加した者
もいた。自施設の看護師や医師と協力して、HIV/
AIDS の診断・治療について勉強会を開催した者も
いた。
②中高生への出前講義の見学・部分実施・主になっ
て実施
研修後に複数回見学のあと、部分的に実施したり、
50 分の授業を 1 人で実施したり、活動が広がった。
③ HIV サポートリーダー養成研修の講師
研修終了後に講師として「セクシュアリティ概論」
「思春期のセクシュアリティ」「DVD を使用した出
前講義」
「コンドーム達人講座」を担当した。今後も、
修了生が興味のある講義について、担当できるよう
に調整したい。
10
研修修了バッジ
研修修了生が、名札や白衣の襟に着けて、HIV 予
防啓発についてアピールできるようにオリジナルの
バッジを作成した。ロゴの「やるやん、大阪」は、
第 1 回目の修了生の 1 人が、最終日の自由画発表の
際に発したことばである。「大阪は HIV 感染者が増
加しつづけているが、少しずつ予防啓発活動を継続
して、他の地域から、『やるやん、大阪』と言って
もらえるように、がんばりたい」という修了生のこ
とばを忘れないで、身近な人たちへ、できるところ
から HIV の予防とケアについて伝えていきたい。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
➨ 11 ᅇ HIV ࢧ࣏࣮ࢺ࣮ࣜࢲ࣮㣴ᡂ◊ಟ ㄪᰝ⚊
◊ಟࠊ࠾⑂ࢀᵝ࡛ࡈࡊ࠸ࡲࡋࡓࠋࡇࡢㄪᰝࡣࠊⓙᵝࡢࡈពぢࢆྲྀࡾධࢀ࡚ࠊḟᖺᗘࡢ◊ಟィ⏬ࡢ᳨ウࢆࡉ
ࡏ࡚࠸ࡓࡔࡃࡓࡵ࡟ᐇ᪋ࡍࡿࡶࡢ࡛ࡍࠋࡇࡢㄪᰝࡢ⤖ᯝ࡟ࡘ࠸࡚ࡣࠊཌ⏕ປാ⛉◊ࡢሗ࿌᭩ࡸ㛵㐃Ꮫ఍࡛Ⓨ
⾲ࡍࡿணᐃ࡛ࡍࡀࠊಶேࡀ≉ᐃࡉࢀࡿࡼ࠺࡞ࡇ࡜ࡣ࠶ࡾࡲࡏࢇࠋሗ࿌᭩ࡣḟᖺᗘࡢ㸴᭶࡟Ⓨ⾜ࡉࢀࡲࡍࡢ࡛ࠊ
ࡈせᮃࡀ࠶ࢀࡤࠊ㒑㏦࠸ࡓࡋࡲࡍࠋグධᚋࡢㄪᰝ⚊ࢆࠊᅇ཰⟽࡟ᢞධࡋ࡚࠸ࡓࡔࡃࡇ࡜࡟ࡼࡗ࡚ࠊㄪᰝ࡬ࡢ
ྠព࡜ࡉࡏ࡚࠸ࡓࡔࡁࡲࡍࠋ
ḟࡢ㸯㹼㸱࡟ࡘ࠸࡚ࠊ㡯┠ࡈ࡜࡟ヱᙜࡍࡿ␒ྕ࡟‫ۑ‬༳ࢆࡘࡅ࡚ࡃࡔࡉ࠸ࠋ
㸯㸬◊ಟ┠ᶆࡢ㐩ᡂᗘ࡟ࡘ࠸࡚
◊ಟ┠ᶆ㸸ࢭࢡࢩࣗ࢔ࣜࢸ࢕ࠊHIV ឤᰁ⑕࡟ࡘ࠸࡚ᗈࡃᏛࡧࠊHIV 㝧ᛶ⪅࡬ࡢึᮇᑐᛂࠊ㧗ᰯ⏕࡬ࡢ HIV
ண㜵ฟ๓ㅮ⩏࡟ᚲせ࡞ែᗘ࣭▱㆑࣭ᢏ⾡ࢆᚓࡿ
㸯㐩ᡂ࡛ࡁࡓ
㸰࡯ࡰ㐩ᡂ࡛ࡁࡓ
㸱୍㒊㐩ᡂ࡛ࡁࡓ
㸲㐩ᡂ࡛ࡁ࡞࠿ࡗࡓ
㸰㸬ㅮ⩏ࡢෆᐜ࡟ࡘ࠸࡚
࠙⌮ゎࡢ⛬ᗘࠚ
㸯㸬⌮ゎ࡛ࡁࡓ 2㸬࡯ࡰ⌮ゎ࡛ࡁࡓ 3㸬୍㒊⌮ゎ࡛ࡁࡓ 4㸬⌮ゎ࡛ࡁ࡞࠿ࡗࡓ
㸯᪥┠
኱㜰ࡢ HIV ឤᰁࡢ⌧≧
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
ࢭࢡࢩࣗ࢔ࣜࢸ࢕ᴫㄽ
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
ᛮ᫓ᮇࡢࢭࢡࢩࣗ࢔ࣜࢸ࢕㸦೺ᗣㄢ㢟㸧
㸰᪥┠
㸱᪥┠
HIV 㝧ᛶ⪅ࡢ⌮ゎ࡜ ึᮇᑐᛂ
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
HIV ࡢ᭱᪂἞⒪
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
⸆ᐖ࢚࢖ࢬ
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
ⱝ⪅࡬ࡢ HIV/AIDS ண㜵ᩍ⫱
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
DVD ࢆ౑⏝ࡋࡓฟ๓ㅮ⩏
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
ࢥࣥࢻ࣮࣒㐩ேㅮᗙ㸦▱㆑࡜ᢏ⾡㸧
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
HIV 㝧ᛶ⪅ࡢᨭ᥼㸦ᆅᇦࠊࣆ࢔㸧
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸱㸬◊ಟ๓ᚋࡢ⮬ศ⮬㌟ࡢែᗘࡢኚ໬࡟ࡘ࠸࡚
㸯㸬኱࠸࡟ࡑ࠺ᛮ࠺ 㸰㸬ࡑ࠺ᛮ࠺ 㸱㸬࠶ࡲࡾࡑ࠺ᛮࢃ࡞࠸ 㸲㸬ࡲࡗࡓࡃࡑ࠺ᛮࢃ࡞࠸
◊ಟ๓
◊ಟᚋ
㸯ᛶࡢࡇ࡜ࢆே๓࡛ヰࡍࡢࡣ᜝ࡎ࠿ࡋ࠸
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸰⮬ศ⮬㌟ࡢᛶ࡟ࡘ࠸࡚ࡁࡕࢇ࡜ྥࡁྜࡗ࡚࠸ࡿ
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸱HIV ┳ㆤ࡟ࡘ࠸࡚⯆࿡ࢆᣢࡗ࡚࠸ࡿ
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸲ᛶḧࡣᇶᮏⓗ࡞ḧồࡢ୍ࡘ࡛࠶ࡾ኱ษ࡟ࡋࡓ࠸
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸳HIV ண㜵ᩍ⫱ࡢฟ๓ㅮ⩏࡟✚ᴟⓗ࡟㛵ࢃࡾࡓ࠸
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸴ࢭࢡࢩࣗ࢔ࣝ࣊ࣝࢫࡢቑ㐍࡟ࡘ࠸࡚Ꮫࡧࡓ࠸
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸵⫋ሙ࡛ࠊHIV 㝧ᛶ⪅ࡢࢣ࢔࡬ࡢ‽ഛࢆࡋࡓ࠸
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸶ࢢ࣮ࣟࣂࣝ࡞ᗈ࠸どⅬ࡛┳ㆤࢆ⪃࠼࡚࠸ࡿ
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸷௚⪅࡜῝ࡃ㛵ࢃࡿࡇ࡜ࡣ႐ࡧ࡛࠶ࡿ
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
㸯࣭㸰࣭㸱࣭㸲
91
92
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
㸲㸬࢔ࢡࢸ࢕ࣅࢸ࢕࣮㸦ࣇࣜࢫࣅ࣮࣭ឤᰁࢩ࣑࣮ࣗࣞࢩ࣭ࣙࣥ⢓ᅵ〇స࣭⮬⏤⏬㸧࡟ࡘ࠸࡚ࡢ
ឤ᝿ࢆࡈ⮬⏤࡟࠾᭩ࡁࡃࡔࡉ࠸ࠋ
㸳㸬◊ಟ඲⯡ࡸ HIV ┳ㆤ࡟ࡘ࠸࡚ࡢࡈពぢࢆ࠾᭩ࡁࡃࡔࡉ࠸
ㄪᰝ⚊࡬ࡢࡈグධࢆ࠶ࡾࡀ࡜࠺ࡈࡊ࠸ࡲࡋࡓࠋ
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
࢚࢖ࢬ◊ಟ ࢔ࣥࢣ࣮ࢺㄪᰝ
ᖺ㱋㸸20 ṓ௦ 30 ṓ௦ 40 ṓ௦ 50 ṓ௦ 60 ṓ௦ 70 ṓ௦
⫋✀㸸㸦 㸧
௓ㆤࢧ࣮ࣅࢫࡢ⤒㦂ᖺᩘ㸸 1 ᖺᮍ‶ 1㹼5 ᖺ 6㹼9 ᖺ 10 ᖺ௨ୖ
࠶࡚ࡣࡲࡿᩘᏐ࡟‫࡛ۑ‬ᅖࢇ࡛ࡃࡔࡉ࠸ 㸯㸬኱࠸࡟ࡑ࠺ᛮ࠺ 㸰㸬ࡑ࠺ᛮ࠺ 㸱㸬࡝ࡕࡽ࡛ࡶ࡞࠸
㸲㸬࠶ࡲࡾࡑ࠺ᛮࢃ࡞࠸ 㸳㸬ࡲࡗࡓࡃࡑ࠺ᛮࢃ࡞࠸
◊ಟ๓
◊ಟᚋ
㸯㸬HIV ࡟ឤᰁࡋ࡚ࡶࠊࡍࡄ࡟࢚࢖ࢬ࡟࡞ࡽ࡞࠸
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸰㸬HIV ࡟ឤᰁࡋ࡚ࡶࠊ⸆ࢆ㣧ࡳ⥆ࡅࢀࡤࠊ㛗⏕ࡁ࡛ࡁࡿ
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸱㸬HIV ࡣ౽࣭ᒀ࣭ờࡢ୰࡟ࡣ࠸࡞࠸
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸲㸬ᥱᡭࡍࡿࠊ㍍࠸࢟ࢫࠊ୍⥴࡟㣗஦ࢆࡍࡿࡇ࡜࡛ࠊHIV
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸴㸬HIV ࡟ឤᰁࡍࡿࡢࡣࠊ≉Ṧ࡞ேࡓࡕ࡛࠶ࡿ
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸵㸬HIV ࡢண㜵࡟ࢥࣥࢻ࣮࣒ࡣ᭷ຠ࡛࠶ࡿ
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸶㸬HIV ឤᰁࢆ⌮⏤࡟௓ㆤࢆᣄྰࡍࡿࡢࡣேᶒ౵ᐖ࡛࠶ࡿ
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸷㸬HIV ឤᰁࢆ⌮⏤࡟ᑵປࢆᣄྰࡍࡿࡢࡣேᶒ౵ᐖ࡛࠶ࡿ
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
10. ⫋ሙ࡛ࡣᚲせ࡞࡜ࡁ࡟ࠊᡭὙ࠸࣭࣐ࢫࢡ࣭ᡭ⿄ࢆ౑⏝
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
12㸬ධᡤ⪅ࡢಶே᝟ሗ࡟ᑐࡍࡿᏲ⛎⩏ົࢆᏲࡗ࡚࠸ࡿ
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
13㸬ᛶḧࡣᇶᮏⓗḧồ࡛࠶ࡾࠊ኱ษ࡟ࡋࡓ࠸
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
14㸬ࢥࣥࢻ࣮࣒⿦╔ࡣᛶ⾜Ⅽ᫬ࡢ࣐ࢼ࣮࡛࠶ࡿ
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
15㸬ྠᛶឡࡣ␗ᖖ࡞ࡇ࡜࡛ࡣ࡞࠸
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
16㸬HIV 㝧ᛶ⪅ࡢධᡤ࣭฼⏝ᕼᮃࡀ࠶ࢀࡤཷࡅධࢀࡓ࠸
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
㸯 㸰 㸱 㸲 㸳
࡟ឤᰁࡍࡿࡇ࡜ࡣ࡞࠸
㸳㸬HIV ࡢឤᰁ⋡ࡣࠊ㹀ᆺ⫢⅖ࡸ㹁ᆺ⫢⅖ࡼࡾࡶࡎࡗ࡜ప
࠸
ࡋࡓࢫࢱࣥࢲ࣮ࢻࣉࣜࢥ࣮ࢩࣙࣥࢆ⾜ࡗ࡚࠸ࡿ
11㸬᪋タෆឤᰁண㜵࡟ࡘ࠸࡚ᚰ㓄࡞࡜ࡁ࡟ࠊ┦ㄯ࡛ࡁࡿேࡀ
࠸ࡿ
◊ಟࡢឤ᝿࡞࡝ࢆࡈ⮬⏤࡟グධࡋ࡚ࡃࡔࡉ࠸
93
94
13
地方における病院・福祉療養施設間の HIV 診療連携モデル
構築に関する研究
研究分担者: 高田
清式(愛媛大学医学部附属病院 総合臨床研修センター・感染症内科)
研究協力者: 末盛浩一郎(愛媛大学医学部附属病院 感染症内科)
村上
雄一(愛媛大学医学部附属病院 感染症内科)
中西
英元(愛媛大学医学部附属病院 感染症内科)
井門
敬子(愛媛大学医学部附属病院 薬剤部)
木村
博史(愛媛大学医学部附属病院 薬剤部)
中村真理子(愛媛大学医学部附属病院 看護部)
小野
恵子(愛媛大学医学部附属病院 医療福祉支援センター)
若松
綾(愛媛大学医学部附属病院 医療福祉支援センター)
石川
朋子(愛媛大学医学部附属病院 医療福祉支援センター)
中尾
綾(愛媛大学医学部附属病院 感染症内科)
研究要旨
地方における病院と福祉療養施設間のHIV診療の充実および連携について検討する目的で、急性期病院
から福祉施設までの連携モデルの形成と組織構築を研究・検討した。今年度は具体的に、療養型病院および
福祉施設にて出張講義行い HIV 診療や介護の意識改善・啓蒙に実践的に努めた。また、講義の際のアンケー
ト調査等を通じ地方の HIV 診療に関する連携の実態を把握し検討した。高齢者施設における HIV 感染症等
に関する研修会の開催および調査にて、75%が施設として受け入れ可能との結果を得た。さらに、出張講義
においても回答者の 69%が HIV 感染を恐れない、82%が受け入れ可能の意見があり、良好な結果を得、実
際に自活不能な 3 例の HIV 感染者の福祉連携が円滑に行い得た。また、本研究を通じ地方における HIV 診
療および福祉連携の実態および問題点が詳細に把握できた。
研究目的
(倫理面への配慮)
高齢化社会を迎えつつある地域において、HIV 診
患者および関係者に対する人権の保護に配慮して
療に関する福祉連携のあり方の研究を行い、診療の
行い、調査に協力できない場合も不利益にならない
充実を図ることを目的とした。さらにその急性期病
ようにした。
院から福祉施設までの連携を行う際の具体的事項や
方策、提案を纏め上げ全国に発信し HIV 診療や福祉
研究結果
連携に関して、1 つの地方のモデルとしての役割を 【1】愛媛県の高齢者施設における HIV 感染症等に
担うことを目的とした。
関する研修会の開催および実態調査
平成 27 年 1 月 27 日に愛媛県立美術館講堂におい
研究方法
て、県(健康増進課)の協力のもと県内の高齢者施
急性期病院から福祉施設までの連携モデルの形成
設から現場の福祉・介護担当者に集まってもらい、
と組織構築を研究・検討した。具体的には急性期病
HIV 感染症等に関する研修会を開催した。その結果、
院の整備、療養病院および福祉施設にて出張研修を
63 名の参加者が得られ、HIV 感染症を中心に初心者
通じて HIV 診療や介護の意識改善・啓蒙に努めた。 にも判りやすく講演を行った(講演者:高田清式)。
また、県内外のアンケート調査等を通じ地方の HIV
今回、愛媛県には高齢の HIV 感染者が多い実情や今
診療に関する連携の実態を把握し問題点を検討し
後介護の面で問題になると考えられる HIV 関連認
た。
知機能障害(HAND)についても話題提供した。参
加者からは 「HIV についてよく理解できた」「エイ
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
95
ズ患者の介護を具体的に行うことが、もはやさしせ 【2】福祉療養施設への出張研修、意見交換
まっていると実感した」、「あまり感染に恐れる必要
積極的に HIV 感染者の介護・受け入れを推進す
はない」などと比較的前向きな意見があり、HIV の
るために地域の療養型病院および福祉施設へ直接出
知識啓蒙とともに参加者各自に対して HIV 感染者を
張講義を行った。その結果、計 6 病院・施設への出
支援することの自覚を促すことが実現できた。研修
張にて、計 697 名の参加者に当院から医師・看護師・
会の終了時に HIV 感染者の福祉・介護についてアン
薬剤師・MSW の HIV 診療チームとして出向して講
ケート調査を行った。その結果(回答数 53 名:約
義が行えた(図 1)。
84%)、HIV 感染をどう感じたか(特に、恐れ不要
各出張講義の終了時に HIV 感染者の福祉・介護
と感じたか)に関しては、全く恐れない(19%)、治
についてアンケート調査を行った。主な内容は、①
療されていれば恐れない(57%)で計 76%が恐れ不
HIV 感染をどう感じたか、②自分の療養型病院・介
要と感じており、研修会による啓蒙の効果もあって
護施設への入所をどう思うか、などに関してであっ
か比較的 HIV に関し前向きに捉えてくれていると考
た。その結果(回答数 187 名)、① HIV 感染をどう
えられた。また自施設への受け入れに関しては、積
感じたか(特に、恐れ不要と感じたか)に関しては、
極的に受け入れる (11% )、薬で安定していれば受け
全く恐れない 18%、治療されていれば恐れない 51%
入れる(45%)、不安は強いが受け入れる(19%)な
で計 69%が恐れ不要と感じており、当方の積極的な
ど温度差はあるものの、計 75%が受け入れ可能との
姿勢と啓蒙の効果もあってか比較的 HIV に関し前向
意見であった。
きに捉えてくれていると考えられた(図 2)。
ᆅᇦ䛾⑓㝔䞉⚟♴᪋タ䜈䛾ฟᙇㅮ⩏䠄ᖹᡂ䠎䠓ᖺᗘ䠅
ฟᙇㅮ⩏⪅䞉ᩘ
᪥᫬
㻡㻛㻞㻞
㻢㻛㻞㻡
㻤㻛㻝㻜
㻤㻛㻞㻡
㻥㻛㻝㻡
㻝㻞㻛㻝㻢
་
ᖌ
┳
ㆤ
ᖌ
⸆
๣
ᖌ
⮫
ᗋ
ᚰ
⌮
ኈ
㻹 ᆅᇦ
㻿 㐃ᦠ
㼃 㻹㻿㼃
․
․
‣
‣
‣
‣
‣
․
․
‣
‣
‣
‣
‥
‣
․
‣
‣
‣
‣
⚟♴᪋タ
‥‣
‣
デ⒪ᡤ
ゼၥ┳ㆤ䝇䝔䞊
䝅䝵䞁
‣‣
‣
ᶵ㛵ྡ
ཧຍ
ேᩘ
⒪㣴ᆺ⑓㝔
…‫‫‫‬
㞀ᐖ⚟♴᪋タ
⒪㣴ᆺ⑓㝔
⒪㣴ᆺ⑓㝔
․
‣
‣
ឡ፾┴ෆᣐⅬ⑓㝔
䞉ฟᙇㅮ⩏᪋タ
㎪⴪⮶ⷵ◊ⷵ捷棓⻭䡔棱
㕯䍈䡔棱
‣
‣
‣
᧮᧳㄃ㄵ቎⒉㇄嶪券ት嫛ቆቂ
䡔棱㻛㡌岼
図 1 地域の病院・福祉施設への出張講義(平成 27 年度)
図2
HIV 感染をどう感じたか、恐れ不要と感じたか
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
96
さらに、各自の療養型病院や介護施設への入所・
2 月 3 日に愛媛県の HIV 診療ネットワーク会議(県
受け入れをどう思うかに関しては、どんな状況でも
全域の拠点病院が参加)を開催し、県内の他病院の
受け入れる〜不安は強いが受け入れるなどのある程
HIV 診療状況を検討しあうとともに『愛媛県の HIV
度意識の差はあるが、82%が施設として受け入れ可
感染対策の現況報告』というテーマで、講義・討論
能との意見を得た(図 3)。
を行った。
【5】地域で実践的なポケット版小冊子の作製
地方で HIV/ エイズ患者を積極的に介護施設で分
け隔てなく介護をしてもらうための試みとして、介
護時の HIV 感染予防対策なども折り込んだ、愛媛お
よび四国での実用的な(最新の愛媛や四国の現況や
感染予防内服薬を配備している病院名など具体的に
刷り入れた)HIV に関するポケット子(18x10cm 大)
を作製し県内および四国の主だった HIV 診療施設に
配布した。
図3
自病院・施設での HIV 患者の受け入れについて
考察
地方における病院・福祉療養施設間の HIV 診療
なお、今年度はこのような出張講義を、実際の患
連携として愛媛県をモデルに、地方における HIV 診
者受け入れも踏まえて行った結果、自活不能な 3 名
療および福祉連携に関する啓蒙とともに実態調査を
の患者の受け入れ・転院が円滑に行えた。具体的に
行った。全国的に少子高齢化社会になりつつあり、
は、①クリプトコッカス髄膜炎合併 のエイズ例、②
高齢化が一歩進んでいる愛媛県および四国は、今後
HAND(MND)で認知症の顕著な例、③脳リンパ
の HIV 感染者の高齢化と福祉対策を考える上で代表
腫合併例で、いずれも出張講義とともにその後も当
的なモデル地区と考える。
院と密に連携しつつ、在宅支援施設、療養型病院、
当院では平成 27 年末現在累計 150 名以上の HIV
診療所 / 訪問看護などにて特に大きな支障もなく療
診療経験があり(県内の大半の HIV 診療を担当)、
養生活が可能になっている。
愛媛県の中核拠点病院の立場にある。また、四国の
他県からも患者は通院している現況である。HIV 感
【3】在宅介護職員の実施研修
染者・エイズ患者が全国的に増加する傾向にあるが、
今年度は、今後 HIV 患者の介護に直接あたって
四国も例外ではなく、愛媛県においても新たに毎年
もらうことを想定し、計 6 名の在宅介護看護師に各々
10 名以上の新規感染者・患者が報告されており、か
1 週間ずつ研修会として、当院の HIV 患者の実施研
つ高齢者も多く HIV 診療の充実は早急に迫りつつあ
修と講義・討議を行った。
る課題であると考えられる。さらに愛媛県をはじめ
とする地方においては、高齢の HIV/ エイズ患者が
【4】拠点病院などを対象とした教育講演会、意見交換
比較的多く、愛媛県において平成 27 年末現在 50 歳
HIV 感染者の増加に伴う地域の支援の充実を目的
以上の 8 割は発見時にエイズ患者であるという現実
に、保健所職員、拠点病院および多くの立場・職種
があり、介護福祉の連携は緊喫の課題である。今年
の有識者(メディア / 学校 / 会社 / 商業などの立場
度は、具体的に計 6 施設の療養型病院・介護施設な
から選出)と HIV 感染予防対策に関する協議会を平
どへ直接出張講義を HIV 診療チームとして行った。
成 27 年 10 月 6 日に松山市保健所にて開催し、HIV
その結果今年度計 3 名の介護や福祉環境を要する
感染に関する現況報告(演者:高田清式)を行い、 HIV 患者の受け入れが円滑に行い得えたことは、直
各自の立場での意見交換を行った。さらに、診療レ
接出張講義は積極的な連携の 1 方法として意義が高
ベルの向上および地域の HIV 診療・福祉の現実を多
かったと考える。さらに、出張講義の際のアンケー
くの医療関係者に知ってもらう目的で、平成 28 年
トで計 69%は「治療等が良好なら不安はない」(う
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
ち 18%は治療に関係なく不安はない)および 82%が
97
結論
「施設として受け入れ可能」との比較的好感触な結
HIV 診療および福祉連携に関し積極的に出張講義
果を得たことは、緊喫の課題である福祉連携の拡大・
などを行い個々に具体的な問題を整理し知識・経験
充実を今後円滑に図り得る可能性が高く期待できる
を共有でき、各施設で 3 例を受け入れ得た。高齢化
と考えられた。なお、高齢化の進んだ地方において
社会を迎え介護・療養が必要な HIV 感染・エイズの
は、今後 HIV 感染者の高齢化とともに薬剤の副作用
増加に対応するために、地方での診療・福祉連携の
を考慮した内服継続・薬剤の減量なども重要な観点
充実は不可欠であり研究を継続しさらに向上に努め
として検討していく必要があると思われ今後の 1 課
たい。
題と考える。
いずれにしても HIV 患者の早期発見のための留
意点を強調および患者の増加を抑制するための HIV
健康危険情報
該当なし
感染に対する予防啓発とともに、現実の感染者に対
して各地域・病院において HIV 診療の向上と福祉の
研究発表
連携体制の充実を図ることは重要な課題であり、今
1. 論文発表
後もさらに指導・教育および現況を把握するための
調査研究に努めたいと考える。また、今年度は愛媛
県の高齢者施設における HIV 感染症等に関する研修
会を全県下に呼びかけて開催し HIV 感染者に対する
支援者としての自覚を促すことができたことは意義
深い。さらに研修会後の実態調査においては、参加
者の約 4 分の 3 程度は「治療等が良好なら不安はな
い」(うち 19%は治療に関係なく不安はない)およ
び 75%が「施設として受け入れ可能」との比較的好
感触な結果を得たことは、緊喫の課題である福祉連
携の拡大・充実を今後円滑に図り得る可能性が高い
と考えられた。さらにより具体化した福祉連携をめ
ざし、今年度は地方で実用的な(愛媛や四国の現況
や感染予防内服薬を配備している病院名など具体的
に刷り入れた)HIV に関するポケット冊子を作成・
配布した。今後現場での意見も聞きつつさらに改良
した冊子を将来は作製したい。
高齢化にあたり、HIV 診療および福祉連携のあり
方について具体的な今年度の出張研修の結果等を踏
まえ、さらに充実に努め、高齢化率の高い愛媛県の
ような地方においても、早期発見や重症患者の治療
が十分に行われるように常々心がけて、自活的な生
活が 1 人では送れない HIV 感染患者に対し、福祉連
高田清式、村上雄一、中西英元、末盛浩一郎、山之
内純、中尾綾、西川典子、地域における HIV 診療
と認知機能障害に関する研究、愛媛医学 34(2):99102、2015
2. 学会発表
村上雄一、末盛浩一郎、山之内純、東太地、薬師神
芳洋、長谷川均、高田清式、安川正貴、愛媛県にお
ける HIV 外来診療の実態調査.第 89 回日本感染症
学会、京都、2015 年 4 月
高田清式、診断が不明で他院から紹介された梅毒
の 3 症例.第 11 回日本病院総合診療医学会、奈良、
2015 年 9 月
高田清式、山之内純、末盛浩一郎、村上雄一、中西
英元、安川正貴、中尾綾、辻井智明、西川典子、木
村博史、井門敬子、藤原光子、中村真理子、小野恵子、
若松綾、HIV 関連神経認知障害(HAND)における
髄液中のネオプテリン量と ART 後の変化.第 29 回
日本エイズ学会、東京、2015 年 11 月
若松綾、坂本早輝、滝本麻衣、中村真理子、岩村弘子、
藤原光子、小野恵子、中尾綾、末盛浩一郎、村上雄一、
木村博史、井門敬子、高田清式、愛媛県における訪
問看護師に対する実地研修の現状.第 29 回日本エ
イズ学会、東京、2015 年 11 月
岡崎玲子、蜂谷敦子、潟永博之、渡邊大、長島真美、
考える。さらにその福祉連携のモデル地域として今 貞升健志、近藤真規子、南留美、吉田繁、小島洋子、
森治代、内田和江、椎野禎一郎、加藤真吾、豊嶋崇
後も研究・報告を全国に発信していきたいと考える。
徳、伊藤俊広、猪狩英俊、上田敦久、石ヶ坪良明、
古賀一郎、太田康男、山元泰之、福武勝幸、古賀道子、
西澤雅子、林田庸総、岡慎一、松田昌和、服部純子、
重見麗、保坂真澄、横幕能行、中谷安宏、田邊嘉也、
白阪琢磨、藤井輝久、高田昇、高田清式、山本政、
携が円滑にできるように努めていく必要性があると
98
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
松下修三、藤田次郎、健山正男、杉浦亙、岩谷靖雅、
吉村和久、本邦の新規 HIV AIDS 診断症例における
薬剤耐性 HIV の動向.第 29 回日本エイズ学会、東京、
2015 年 11 月
井門敬子、木村博史、吉野宗宏、岩舘文佳、工藤正
樹、阿部憲介、内山真理子、石原正志、日笠真一、
治田匡平、木村智子、常友盛勝、井上千鶴、藤井健
司、嶺豊春、屋地慶子、田中亮裕、荒木博陽、薬学
部実務実習における HIV 実習普及に向けての検討.
第 29 回日本エイズ学会、東京、2015 年 11 月
知的財産権の出願・取得状況 (予定を含む)
該当なし
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
99
100
14
HIV 陽性者の地方コミュニティーでの受け入れに関する
研究
研究分担者: 榎本てる子(関西学院大学 神学部)
研究協力者: 青木理恵子(特定非営利活動法人 CHARM)
福嶋
香織(特定非営利活動法人 CHARM)
狭間明日実(特定非営利活動法人 CHARM)
伊達
直弘(特定非営利活動法人 CHARM)
小西加保留(関西学院大学 人間福祉学部)
平田
義(社会福祉法人 イエス団 常務理事)
出上
俊一(社会福祉法人イエス団神戸高齢者総合ケアセンター )
中谷
幸子(社会福祉法人イエス団神戸高齢者総合ケアセンター真愛
ケアハウス樟葉新生園)
山本
誠(社会福祉法人聖隷福祉事業団 宝塚せいれいの里)
井上
洋士(HIV Futures Japan プロジェクト代表/
放送大学 慢性看護学・健康社会学)
細川
陸也(名古屋市立大学 地域保健看護学)
片倉
直子(神戸市看護大学 地域・在宅看護学)
市橋
恵子(日本バプテスト看護専門学校)
梅田
政宏(株式会社にじいろ家族)
澤田
清信(つぼみ薬局)
白野
倫徳(大阪市立総合医療センター)
来住
知美(大阪市立総合医療センター)
岡本
学(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター)
研究要旨
本研究は関西圏において、HIV 陽性者と高齢化へのセイフティーネット構築のために必要な環境作りとし
て、医療に手厚い高齢者施設の建設と NPO による地域での HIV 陽性者に対する生活・精神的支援の在り方
を具体的に検討していく。本年度は、研究① 医療に手厚い高齢者施設の建設を目指して—フォーカスグルー
プによる研究会の開催と、研究② NPO による地域で生活する HIV 陽性者支援の可能性—聞き取り調査を実
施した。研究①では、普段定期的に集まる機会の少ない医療・福祉・介護・NPO・HIV 陽性者が集まり、医
療と連携した福祉施設の運営の制度的課題、福祉施設の現状、NPO の働き、そして HIV 陽性者にとっての
高齢化に伴う不安などを話し合い、今後の施設建設の具体化に向けての話し合いを行った。結果として、医
療に手厚い高齢者施設の建設に必要な医療と福祉の連携、制度では補えないサービスを提供する NPO の役
割を確認する機会となった。また HIV 陽性者自身が自ら参加し、環境を創造する過程を恊働することの重要
性を確認する機会となった。研究②では、特定非営利活動団体 CHARM(以下 CHARM)が関わってきてい
る 60 − 70 代の地域で一人暮らしをしている HIV 陽性者に対して、配食支援や見守り支援を行うため、定期
的に継続して自宅を訪問し、
同時に聞き取り調査を行った。聞き取り調査の結果、
HIV Futures Japan プロジェ
クトの調査結果と同様に、HIV 陽性者の抱える老後の不安として「病状に関する事」
、
「支援者の不在」
、
「在
宅サービス、施設入所」があげられる。HIV/AIDS に関する外的スティグマおよび内在化してしまっている
スティグマ(Felt Stigma)が HIV 陽性者の老後を孤立させ、支援につながりにくい環境を造り出している
と思われる。高齢期 HIV 陽性者同士の出会える場、居場所作り、地域の医療施設や介護施設と連携し、HIV
陽性者の受け入れ体制を整備していく事も地域団体の重要な役割である事が分かった。また、高齢になって
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
101
から出会うのではなく、一人暮らしなど社会とのつながりが希薄な HIV 陽性者との日常的な関わりをする事
で、高齢になった場合、NPO と繋がりやすくなる事も分かった。HIV Futures Japan プロジェクトの調査で
はインターネットを用いた調査のため高齢者の参加数が少なかった、又 CHARM の聞き取り調査も、関わっ
ている高齢者の数が限定されているため、より多くの高齢期を迎えている HIV 陽性者のニーズアセスメント
を継続し、HIV 陽性者における不安要素の抽出を行っていく事が課題として残った。また、高齢者施設スタッ
フに対する研修内容も感染予防のためのスタンダードプリコーションのみでなく、セクシュアリティを理解
する研修、薬物依存症に対する研修なども必要である事が分かった。
研究 1
に以下についての整備が必要。
医療に手厚い高齢者施設の建設を目指して
フォーカス・グループによる研究会の開催
(1)制度
医療・介護・福祉それぞれの制度と範囲が限定さ
れている現状から、分野を越えたサービスを提供
目的
するために必要となる制度が必要である。
本研究は、関西圏において HIV 陽性者と高齢化
今後の研究計画→医療と福祉の枠を越えた連携
へのセイフティーネット構築のため、分断化されて
のあり方 の検討→先行事例に学ぶ。
いる医療・福祉・介護・NPO・当事者が集まり、そ
(2)施設
れぞれの立場での現状把握と課題について話し合
「医療に手厚い施設」で提供するサービスの内容
い、お互いの理解を深め、当事者参加型の施設建築
医療との連携方法
を目指すことを目的とする。
施設職員の受け入れに向けた課題の明記→研修内
容をを作成し実行
今後の研究計画→医療現場のニーズ把握
対象と方法
医療者、ソーシャルワーカー、当事者、施設職員
関西圏で福祉施設を運営する社会福祉法人、HIV
と共同作業
拠点病院医療関係者、地域で活動するケアマネー
ジャー、HIV 関係の NPO、研究者、HIV 陽性者で
(3)介護制度と NPO ケア
現行の制度でカバーされること、カバーされない
構成するフォーカスグループによる研究会を開催
ことの明確化
し、現状の理解と課題の把握、関係性の構築を試み
NPO ケアとして行えることの検討
た。以下は、研究会の報告と予定である。ただし、
市民がケアに関わる可能性と方法の検討
第 5 回の研究会は公開講演会として行う。
(倫理面での配慮)
特になし
研究結果
1. 第 1 回研究会 「研究協力者との研究計画の立案
2. 第 2 回研究会 「先行事例から学ぶ」
日
時:2015/8/2 13:30-17:30(日)
会
場:関西学院大学梅田キャンパス 1407 号
参加者 :14 名
内訳:研究者 2 名、医療関係者 2 名、施設関係者
及び現状確認」
日
時:2015/5/19 18:30-21:00(火)
会
場:NPO 法人 CHARM 事務所
参加者:9 名
内訳
研究者 2 名、医療関係者 3 名、施設関係者
2 名、NPO 法人関係者 1 名、事務局 1 名
内
容:研究課題の内容や目的、参加者がもつ各現
場の現状や課題などについて共有した。
確認事項:HIV 陽性者の高齢化に伴うニードに対応
する環境を医療と福祉が共同でつくっていくため
7 名(講師 2 名含む)、NPO 法人関係者 2 名、事
務局 1 名
内
容:千葉県木更津市【有限会社
安心の絆】の
村串恵子氏、佐久間勲氏をお招きして、「施設で
暮らす HIV 陽性者を支えて」のタイトルで先駆
的試みであるメディカルシェアハウスの具体的業
務内容、ミッション、運営方法、課題等について
示唆を受ける。その後、関西においてのサービス
付き高齢者住宅の可能性について検討する。
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
102
(1)有限会社安心の絆の各種サービスと開始の経緯
(6)シェアハウスの医療的ケアを実現している体制
2003 年(平成 15 年)訪問看護ステーション開設。 1)介護職(14-15 名)
2004 年(平成 16 年)安心ハウス絆・豊津開設
入居者を受けとめる。入居者に対してサービスを
2014 年(平成 26 年)メディカルシェアハウス安
させていただくという姿勢。入居者の不満に対して
心ハウス絆・木更津開設
は、必要なことは改善するという姿勢を常に持つ。
(2)メディカルシェアハウスの入居者
五感を最大限に活かし入居者の日々の異変に早期に
気づく。その感覚は入居者にとっての生活の眼であ
(2015 年 8 月現在)
り家族の感覚に近い。入居者の外来受診に介護ヘル
定員 14 名
呼吸器を装着している ALS
4名
パーが同行し、検査結果の説明も一緒に聞く様に努
HIV
2名
める。
ヤコブ病
1名
パーキンソン
1名
脳血管傷害
1名
*入居者の疾患は常に変化する
(3)メディカルシェアハウスの特徴
介護ヘルパーは異変や病院での診察結果について
看護師に報告する。
2)看護師
介護職を 24 時間全面的にバックアップする。
介護職からの報告を受けてアセスメントをおこな
・病院に入院するよりも安価。
い、速やかに対応する。場合によっては、医師と対
・居宅よりも医療への距離が近く効果的
応を検討する。
医療的ケアが必要で困ったらご相談ください。
現在入院中でも在宅療養中でも、経験豊かな看護
看護師が介護職と一緒に入浴介助をして実践で看
護ケアを教える。
師、介護士、ソーシャルワーカーをはじめとした
喀痰、吸引は介護職が独自研修を行う。
スタッフがいつでもお待ちしています。
*看護師による質の高い介護職の養成が鍵とな
医療的ケアが必要な方には人工呼吸器装置、気管
る。
切開し頻回の喀痰吸引を必要とする方、胃瘻が
3)地域の内科医
あって径管栄養が必要な方、酸素吸入が必要な方、
看護師と相談しながら医療的ケアに対応。
医療的ケアを理由にお断りする事はありません。
各疾患の専門である医療機関(エイズ拠点病院等)
医療(看護)・介護・福祉の複合型施設。
と連絡をとる。
病院ではない、自宅でもない在宅医療の新しい形
です。 (メディカルシェアハウスのご案内から)
(4)メディカルシェアハウスの意義
4)専門病院(エイズ拠点病院など)
シェアハウスで患者を支えるスタッフや、地域の
医師の支援を行う。
医療的ケアを必要とする人の介護が可能であるこ (7)入居費用
とを実践し、どれだけの人材と専門性が必要なのか
を明らかにし政策に反映させる。
(5)医療的ケアを実現する為に必要なネット
ワーク
1)HIV 拠点病院(千葉大学医学部附属病院)等の
専門医療機関
2)訪問診療のできる地域の内科医
3)ケアプランを作成するケアマネージャー
項目
家賃・共益費・管理費
見守り費
プライベートナース・ヘルパー費
食費(*径管栄養の方はなし)
合計
料 金
110,000 円
30,000 円
120,000 円
50,400 円
310,400 円
*生活保護受給者及び経済的貧困者への対応
14 室の内 3 室は家賃・共益費・管理費(11 万円)
のみで受け入れる。食事代、ナース・ヘルパー費は
4)シェアハウス内の障害者計画相談員、看護師、 とれない。
介護
職、社会福祉士、
5)行政機関と担当者との連携によって 24 時間 365
日の医療福祉ケアを提供する。
(8)経営
居宅支援 (訪問看護ステーション、訪問介護ス
テーション)、介護保険事業所、障害者総合支援
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
法事業所、メディカルシェアハウスをトータルに
とらえて現時点の制度では黒字経営となってい
る。
理念の共有」
日
時: 2015/10/10(土)10:30-13:00
会
場:関西学院大学梅田キャンパス 1002 号
参加者: 13 名
内訳:研究者 2 名、医療関係者 3 名、施設関係者
4 名(講師 2 名含む)、NPO 法人関係者 1 名、当
事者 2 名、事務局 1 名
本人の意見を聞くということがこれまでされてこ
①京都市【愛隣館研修センター】の平田義常務理事
より「イエス団のミッションと愛隣館の働き」
②【神戸高齢者総合ケアセンター
きる社会であるべき。
イエス団としては、「個のニーズ」に応える努力
をすると同時に社会制度にないから出来ないのでは
なく、必要なものをつくり、政策に提言することを
大切にしながらサービスを提供していきたい。
(2)高齢者施設の可能性について(出上俊一氏)
1)高齢者施設における医療行為について
研修を受けないと医療行為をしてはいけないとい
うことになっている。
容
真愛】の出上俊
一施設長より「高齢者施設の可能性について」
(1)イエス団のミッションと愛隣館の働き
医療的行為を行う時は 2 人いる場合、研修を受
けた人が 1 人いないといけない。基本研修 50 時間
以上必要→ハードルが高い。ゆえに医療を必要とす
る人を施設で受け入れるのは困難な背景となってい
る。
2)介護保険によってすすんだこと
(平田義氏)
1)イエス団創立者賀川豊彦の働き
1990 年 12 月 24 日
利として認められ、尊重されるべき。
なかった。一人一人が希望する措置を選ぶことがで
3. 第 3 回研究会 「施設建設参加予定福祉事業団の
内
103
障害を持った人が施設に受け入れられるように
神戸市生田川地域に移り住み、 なってきた。しかし、医療的ケアが必要な人の受け
貧困の防止に取り組んだ。
入れ準備が出来ておらず、現状では介護施設でも福
イエス団のミッションステートメント 2009
祉的な事業主体の場合、医療との連携がされていな
賀川豊彦がおこした間違い(差別発言)も含めて
歴史を検証することを宣言。「隣人と共に生きる社
会を作り出す」ことを宣言している。
2)愛隣館(京都向島)各事業紹介及び方針
障がい児・者ホームヘルプ事業「ゆうりん」
医療的ケア、とろみのついた食事の提供、吸引な
ど、何が必要かを親から教えてもらい、学校が休み
の間行き場のない子どもたちを預かる。
障害を持っている人も好きなものはある。好きな
事はできる→その希望の実現を支援している。
障害を持つ人が安心して生き、尊重される社会
になっているのかという疑問。人工呼吸器や経管栄
養、胃ろうは延命措置か?そこまでして生きなくて
もいいのではという風潮が当たり前になると、措置
を使って生きるという選択肢を選ぶことができなく
なる。そこまでして生かすよりも臓器移植をして健
康になれる人に貢献する方がよいという風潮ができ
ることが怖い。「優生思想」からの解放が必要。一
人一人の生き方は多様であってよい。当たり前の権
い。
3)特別養護老人ホーム
常勤医師は、配置されていない施設が多い。連携
として嘱託医師による健康管理がある。開業医がほ
とんど。看護師も殆どの施設では夜間に配置されて
いない。急変時に対応できない。
研修は、手取り足取り組織的に養成していかなけ
ればならない。専門性を高める研修、とくに医療的
ケアが必要。→認知症の研修はある程度確立されて
おり進んでいる。医療的ケアはこれから。医療と介
護の垣根が現在はできている。施設の中での各職種
の専門性の明確化と役割の分担が必要である。
4)施設入所と費用負担
生活保護非保護者世帯は毎年増加している。神戸
市兵庫区、長田区で生活保護被保護者が利用可能な
グループホームは 9 施設の内 1 ヵ所。家賃は 42,500
円であり経済的な理由で施設に入れない人が多い。
特別養護老人ホームは待機者が多く入所できない。
介護度 3 以上が条件。介護度が低い場合はサービス
104
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
を受けることができない。
2)B さん
男性。
5)施設建設費について
血友病により 1985 年に感染が分かった。
ア)サービス付き高齢者向け住宅併設グループホーム
高齢になった人たちの中で関節障害、薬の副作用
グループホーム(定員 18 名)にサービス付き高
等を抱えながらどのように暮らしていったらよいの
齢者住宅(定員はないが仮に 28 名)を併設。訪問介護、 か不安を抱えている。親の介護をしている仲間も多
訪問看護を 24 時間体制で整備すれば在宅と同じ形
く、そのうえ自分の病気を抱えてどのように生きて
で対応できる。
いけばよいのかという不安を抱えている。C 型肝炎、
イ)「サービス付き」→単なる在宅
糖尿などを抱えている人も多く、一人では暮らして
事業者が提供するサービスには幅がある。介護度
いくことができないと感じる。施設に入れることで
が低い場合は、特養よりむしろ割高になる可能性が
安心して暮らせるのではないかと思う。仕事上サー
ある。
ビス付き高齢者住宅に行くこともあるが、自分が入
ウ)特別養護老人ホーム
ることはできないと感じる。本当に任せられるのか
介護費用に限度額が設定されており介護サービス
費 自 己 負 担(4 種 類 の み ) は 15,000 円、24,600 円、
37,200 円、44,400 円の 4 種類。
を不安に感じる。
3)C さん
女性。
1995 年に感染が分かった。
地域密着型特養(29 名定員)でも建築費 5 億円
5 年前まで実家で家族と同居していたが、今は実
かかる。工材費は下がっているが、労務費が上がっ
家を出て関西に在住。一人暮らしで仕事をしている
ている。消防設備等の基準をクリアするというハー
ので地域でつながりを作っていくことが難しい。体
ドルが高い。使用していない施設の再利用などでは
調を崩したときにかかることができる医療機関が近
むずかしい。新耐震基準、スプリンクラーの設置が
くに欲しい。高齢者施設の違いが分かってよかった
必要のため、床面積 800 平米は必要であり、市内だ (特別養護老人ホーム、グループホーム、サービス
と土地代で 1 億 5000 万円必要である。合計で 6 億
5000 万円を要しこれを家賃に反映させるとしたら、
月額 7 万円程度が必要となってしまう。実行するた
めにはお金がかかる。
(3)施設関係者と HIV 陽性者との懇談
1)A さん
65 歳男性。
付き高齢者住宅など)。
病気を持って安心して生きられるのか、住むとこ
ろがあるのか、ということが心配という。
安心した状況とは、不測の事態が起きた時に受け
入れてもらえるところがあるということ。知識や配
慮の無い医療者に常に対応しなければならないこと
感染がわかって 22 年。今後病気を抱えながら生
による精神的負担のないところ。そのために医療者
きていくことができるのかが心配。過去にうつの薬
が研修を受けることは大切だと思う。理解してくれ
の副作用から筋肉が萎縮し、3 ヶ月入院。地域の病
る、受け止めてくれる、向き合ってくれる環境を作っ
院に転院を要請してもらったが、7 つの病院いずれ
ていってほしい。常に出会う医療者、福祉関係者、
からも断られた。HIV は安定していたにも関わらず
行政の人が自分たちをうけいれてくれているのか、
入院を拒否されたという経験。
どうかを考えなければならないのは精神的に負担が
認知症になった時に一人で暮らせるのだろうかと
大きい。病気を隠さずにいられる安心した環境を待
いう不安。自分が自由に動けない場合、施設に入れ
つだけでなく、自分たち当事者も作っていく過程に
ないかと 5 ヶ所くらいに電話連絡。5 ヶ所のうち 2 ヶ
も関わりたい。
所は条件が合ったため詳しいことを相談。HIV を (4)施設関係者との懇談
持っていても大丈夫と最初は言われたが、話を進め 1)ケアマネージャーから
ていくと 1 ヶ所は入所は難しいかもしれないとの答
ケアマネージャー(福祉事業経営者)としてセ
え、もう 1 ヶ所は入所手続きをして会議にかけると
クシュアルマイノリティを公表して活動している。
の返答だった。
色々な事業所の方が HIV 陽性者、薬物依存者などの
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
105
訪問介護を経験していることを知ることがある。施
① 放送大学の井上洋士先生、名古屋市立大学の細川
設は閉鎖的なところが多いが、訪問介護ではかなり
陸也先生より「HIV と高齢化に焦点を当てた調査
受け入れているところが多い。受け入れの状況は、
結果発表」について講演。
地域(訪問介護、訪問看護)と施設ではかなり異なる。
HIV に限らずどの人も安心できない世の中である現
在、医療的ケアの必要な人に対する新しいアプロー
チが必要。
2)感染症への対応(HIV 専門医)
医療者は知識を持っている人たちであるはずであ
る。感染症マニュアルを作っているにもかかわらず、
感染症に対する誤解と無理解があることがある。
「標
準予防策(スタンダードプリコーション)」の徹底
が必要。
3)高齢者施設の施設長
HIV 陽性者の受け入れが難しい現状がある。
その理由の一つに、施設の中に No と言う人がい
れば進まない。スタンダードプリコーションを実践
すれば感染はしないなど研修が必要。昔のイメージ
を持ち続けている人たちの知識と意識を変えていく
ことが必要。
4)HIV 陽性者
『HIV 陽性者向け高齢者施設のニーズ』
〜 HIV Futures Japan プロジェクト調査データ分
析から〜
井上洋士(HIV Futures Japan プロジェクト代表/
放送大学
慢性看護学・健康社会学)
細川陸也(名古屋市立大学
地域保健看護学)
片倉直子(神戸市看護大学
地域・在宅看護学)
② 大阪市【NPO 法人 CHARM】の福嶋香織氏より
「HIV 陽性者への聞き取りから学んだこと」イン
タビュー調査結果の発表
(1)目的
HIV 脳症や PML を併発した HIV 陽性者、高齢
の HIV 陽性者では、なんらかの介護が必要性となる
可能性が高い。しかし HIV 陽性の利用者を受け入れ
る介護施設は依然限られているのが現状である。特
に入院・入所施設で受け入れ先を探すことが困難と
なっている。
施設側のあげる理由としては、経験がない、感染
不安リスクがある、職員の理解に難がある、風評被
当事者が声をあげていくことも必要。個人で声を
害を懸念する、医療区分や包括制度によって採算が
あげる必要はないが、患者団体として要望を出して
合わないなどがあるとされている。こうした施設に
いくことが必要。当事者が困っているということを
対しては、研修を通じて、施設側の拒否感を軽減し
言えるようにしていくことが重要。しかしながら、 ていくことや、密な交渉・連携により、地道に受け
ゲイの間で社会的に公表できない、対面を保つ、な
どの制限がさまざまある中で、横につながって意見
入れ先を増やしている状況にある。
今回、HIV 陽性者を受け入れる施設、恐らく介護
を合わせていくことが難しい現状もある。
付老人ホームないしはケアハウスといったものを創
5)NGO スタッフ
立したいが、そのニーズを探りたいとの問題意識が
家族との関係を断絶している人たちを地域でどの
ように支援していくかを考えるかが当面の課題。
あった。それを受けて、HIV Futures Japan プロジェ
クトが 2013 年〜 2014 年に実施した HIV 陽性者対象
の大規模ウェブ調査データ分析から、ニーズの一端
4. 第 4 回研究会 「HIV と高齢者ーニーズアセスメ
ントー」
がわかるのではないかと考え分析するに至った。
分析のためのリサーチクエスチョンとしては、以
日
時:2015/12/19(土)15:30-18:30
下のようなものを設定した。
会
場: 関西学院大学梅田キャンパス 1407 号
・老後の不安をどんな人が感じているのか。
参加者: 22 名
内
・老後の世話を期待する人として、誰も思いつかな
訳:研究者 4 名(講師 2 名含む)、医療関係者 4 名、 い人、あるいは誰の世話にもなりたくない人は、ど
施設関係者 5 名、NPO 法人関係者 2 名、当事者 6 んな人か?
名、事務局 1 名
内
容
・各種保険の加入状況についてはどのようか?
・医療者に生きる意味・自分の人生を相談したかっ
106
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
たとする人はどんな人か?
(2)対象と方法
HIV Futures Japan プロジェクトが実施したウェ
のか(56.2%)といった主に症状やお金の問題が上
位 5 項目となったが、それに次いで長期入所施設へ
の入所が 54.8%に上った。
ブ調査で得られたデータをもとに、
2 次分析を行った。
老後の世話を期待する相手として、パートナー・
同プロジェクトには、主には下記 3 つの特徴がある。
配偶者が 41.1%ともっとも多かったが、ついで介護
1.当事者参加型形式をとり、当事者性や当事者に
や医療の専門家 35.6%が上位となった。誰の世話に
とっての調査研究の必要性を最大に重視した点
もなりたくないが 24.7%、誰も思いつかないとする
2.ウェブ調査という方法をとり、これまであまり
人が 17.8%にのぼった。
調査に協力してこなかった人も回答できるように設
ウ)健康状態
計している点
3.パネル調査形式をとり追跡型の実証的研究を将
来的に可能とした点
慢性疾患については 82%が「あり」としていた。
その内容は図に示す通りである。
調査方法は無記名自記式ウェブ調査である。調査
実施期間は 2013 年 7 月 -2014 年 2 月、調査対象者は
全国の HIV 陽性者。HIV 関連 NGO・機関の 21 団体、
エイズ診療拠点病院等の HIV 診療を実施している医
療機関の協力を得て、調査への協力をお願いした。
1095 人が回答し、有効回答 913 人の回答を分析対象
とした(46 都道府県在住)。
(3)結 果
分析 1 と分析 2 の 2 つに分けて結果を紹介する。
1)分析 1
HIV 陽性高齢者のニーズ
回答者の年代としては 50 代が 65 人(7.1%)、60
代以上が 8 人(0.9%)であった。分析 1 では、これ
ら 50 代・60 代に限ってその特徴の分析を試みた。
ア)基本属性
セクシュアリティは、ゲイが 66%、バイセクシュ
アルが 27%、ヘテロセクシュアルが 7%となった。
陽性判明時期は、10 年以上前が 48%、7 〜 9 年前が
23%、4 〜 6 年前が 21%、1 〜 3 年前が 8%であった。
就労は 62%がしていた。年収は、300 万円未満
が 58%を占め、次いで 300 〜 500 万円未満が 16%、
500 万 円 〜 800 万 円 未 満 が 14 %、800 万 円 以 上 が
12%であった。同居家族なしは 45%、婚姻歴は未婚
60%、離婚 18%、結婚しているのが 22%であった。
イ)老後の不安
老後の不安をとても感じるとしたのは 63%、少
し感じるという回答は 33%であり、感じないは 4%
にとどまった。その内容については、病状の変化
(76.7%)、生活に影響するような症状の出現(68.5%)、
年金がもらえるのかどうか(63.0%)、老後への貯蓄
がどれくらい必要か(58.9%)、必要な貯蓄ができる
AIDS 発症については、34%が AIDS 発症診断経
験あり、8%は診断経験はないが、そうだと感じて
いるとしていた。日常生活動作(起床、衣服着脱、
食事、入浴等)の支障がある人については 7%にと
どまった。
精神科・心療内科受診歴があるのは 67%、精神疾
患関連の服薬状況は図に示す通りである。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale) 2)分析 2
を用いたスクリーニングの結果、不安障害について
107
生きる意味・自分の人生について相談
したかった人の特徴
は 21%で確診、19%で疑いありとなった。また、抑
913 人中 244 人が、本当は医療スタッフに相談し
うつについては 26%で確診、25%で疑いありとなっ
たかったけれども相談できなかった内容があると回
ていた。
答していた。そのうち、26.6%が、生きる意味は何
過去 1 年以内の薬物使用は、26%で認められた。 か、自分の人生について相談したかったと回答して
使用された薬物としてはラッシュが最も多かった
いた。そこで分析 2 では、生きる意味・自分の人生
が、ついで脱法ドラッグ・合法ドラッグ、覚せい剤
についてほんとうは相談したかったができなかった
となっていた。
人は、どんな人たちなのか、その一端を探ることと
エ)福祉制度の利用・保険加入状況
した。
福祉制度の利用状況は下記図に示す通りである。
関連性をみる変数のうち、こころの健康について
は、以下について複数質問項目からなる尺度にてた
ずね、それらから算出した変数を設けた。
・ SOC:ストレス対処力、周囲の資源を利用して課
題解決をする力
・ HADS :抑うつ度/不安度
・ 人生肯定感:自己肯定の感覚
・ 自律:社会的な合意を得られるような事柄に対す
る態度
・ 自信:個としての行為に対する強さ
・ 過去受容:過ぎてしまった事柄に対する受容的な
態度
特に生活保護が 18%に及んでいるところが特徴的で
ある。
各種民間保険の利用状況については、生命保険が
57.5%、医療保険が 58.9%、年金保険が 42.5%、介護
保険が 11.0%となっていた。
オ)老後に世話を期待する相手が「誰も思いつかな
い」「誰の世話にもなりたくない」と回答した方
の特徴
以下のような特徴が認められた。
・ 男性の方で、やや高い傾向
・ バイセクシャル、ゲイ・レズビアンの方で、やや
高い傾向
・就労のない方で、高い傾向
・収入が低いほど、高くなる傾向
・学歴が低くなるほど、高くなる傾向
・不安傾向が高い
・抑うつ傾向が高い
・内的スティグマが高い
・外的スティグマが高い
・SOC が低い
・ 心理学的ウェルビーイング:人生全般にわたって
のポジティブな心理的状態
・ 人格的成長:発達・可能性の連続上で新しい経験
に向けて開かれる感覚
・ 人生における目的:人生における目的と方向性の
感覚
・ 積極的他者関係:暖かく信頼できる他者関係を築
いているという感覚
ア)こころの健康
HIV 陽性者全体と比較すると概ね不良であった。
但し各々の変数の得点化法が異なるために、取りう
るレンジが異なる。そこで、それぞれの変数につい
て HIV 陽性者全体の平均値を 1 として算出しなおし
たものを図に示す。生きる意味・自分の人生につい
て相談したかった人とする人では、ストレス対処力
の低いこと、抑うつ・不安度が高いこと、人生にお
ける目的感の低いことが目立った。
108
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
イ)年代・セクシュアリティ・エイズ発症
査はウェブよるものであり、ある程度パソコンやス
年代別には偏在していたが、セクシュアリティ別
マートフォンなどに慣れた方々が回答したと考えら
にはゲイ・レズビアンの人、セクシュアリティを「決
れる。そのため、全体としても回答者が若い偏りが
めたくない」人で多くなっていた。
認められる。今後は、ウェブ調査へのアクセスビリ
AIDS 発症している人で多いという特徴も認めら
れた。
(4)まとめ
ティの低い層、特に年齢の高い層へのニーズ調査を
していくこと、それらのデータとのすり合わせをし
ていく必要性があると考えらる。
HIV Futures Japan プロジェクトが実施した調査
の対象者のうち、50 歳代・60 歳代の回答者のデー
5. 第 5 回
HIV 陽性者と高齢化
—地域における支援ネットの構築—(予定)
タを用いたところ、HIV 陽性者全体の分析結果と比
較したときに、利用者様になる可能性のある陽性者
日
時:2016/3/12(土)15:00-20:00
の特徴として、ゲイ、バイセクシャルの方が多いこ
場
所:同志社大学良心館 RY401
と、低所得世帯の方が多いこと、単身の方が多いこ
と、孤立している方が多いこと、慢性疾患を持って
いる方が多いこと、特に精神疾患を持っている方の
割合は高いこと、AIDS 発症経験のある方が多いこ
とが特徴として挙げられた。また薬物を使用されて
いる方が入居される可能性があるとも考えられた。
一方、高齢者に限らず、生きる意味・自分の人生
について相談したかった人の特徴を分析したところ、
メンタルヘルスなどをはじめ、こころの健康度が低
い人で多くなっていた。年代別にはどの層も 6 〜 8%
程度であったが、セクシュアリティではゲイ・レズ
ビアンの人やセクシュアリティを決めたくないとい
う人、AIDS 発症している人で多いという特徴があっ
た。今回は結果を示していないが、スティグマ(HIV
関連、LGBT 関連両方)に関連する経験が多い人で
相談したかった人が多いという特徴もあった。
高齢者施設を創るにあたっては、以上を留意した
あり方が求められる。
また HIV Futures Japan プロジェクトの行った調
バザールカフェ(交流会)
内
容:前 JANP+ 代表長谷川博史氏
「HIV 陽性者と高齢化—地域における支ネットの
構築」講演 加藤雄治氏
「お助けシスターズ発足の事例報告」
考察
5 回の研究会を通して、普段意見交換する機会の
少ない多職種及び HIV 陽性者がそれぞれの立場で話
しあう機会を持つことに出来、今後関西圏における
医療と福祉と NPO が連携しながら運営する医療に
手厚い高齢者施設の建設の可能性への第一歩を築く
事が出来た。福祉施設経営者が特に医療者と HIV 陽
性者と直接出会うことにより、医療者からは施設建
設への安心感を得る機会となり、HIV 陽性者からは
ニーズの緊急性と深刻性を感じ、医療に手厚い高齢
者施設建設への意欲につながった。
また、新しい環境を作る際、自分たちの声を反映
したいと願っている当事者の参加が研究会の回数を
重ねるたびに増えていった。HIV 陽性者にとっても、
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
「与えられる」環境から自分たちも参加し一緒に作っ
109
研究 2
なったのではないだろうか。今後とも HIV 陽性者の
NPO による地域で生活する HIV 陽性者支援の
可能性〜聞き取り調査結果〜
方々を含む多職種、多機関との連携を深めていく事
青木理恵子(特定非営利活動法人 CHARM 事務局長)
が、将来的に目指している医療に手厚い高齢者施設
福嶋
の運営の基盤になるのではないだろうか。
狭間明日実(特定非営利活動法人 CHARM スタッフ)
ていく過程を共にすることの意義を見いだす機会と
課題としては、福祉施設における HIV 陽性者の
受け入れに関する職員研修において、感染予防の為
のスタンダードプリコーションの研修のみではな
く、薬物依存症からの回復に取り組んでいる HIV 陽
性者に対する対応や薬物依存症に対する理解を深め
る研修、またセクシュアリティを理解する為の研修
の重要性を確認する事が出来た。
香織(特定非営利活動法人 CHARM スタッフ)
研究目的
高齢期を迎える HIV 陽性者の中には、さまざま
な背景の中で親族や地域社会から孤立して暮らして
いる人は少なくない。在宅療養に関する公的な制度
がなかった頃は、地域の NPO/NGO が HIV 陽性者
の日常生活に寄り添った個別支援を行ってきたが、
2000 年に介護保険制度が導入されてからは、生活場
結論
面における NPO/NGO が介入する機会が減り、それ
の現状と課題を分かち合う事により、施設建設への
が HIV 感染症を理由にスムーズにいかなかったり、
ちの声を主体的にあげていく機会となり、共に作っ
者にとっては切実な問題となっている。そこで地域
定期的に HIV 陽性者、医療従事者、福祉関係者、 らの活動が公的サービスにシフトしていった。しか
地域の NPO、研究者が集まり、それぞれの分野で しながら在宅療養を支えるその公的サービスの利用
モティーベションをあげる結果となった。同時に、 独居生活が難しくなったときに受け入れてくれる施
HIV 陽性者自身の参加により、当事者たちが自分た 設がほとんどないのが現状であり、高齢期 HIV 陽性
ていくという新たな方向性を打ち出せる結果となっ
た。次年度は、より具体的な運営方法を継続的に
フォーカスグループによる意見交換会を開き、「与
えられた」環境ではなく、職種、立場を超えてお互
いを理解する機会としつつ、共に「創造」していく
過程を行っていきたい。
で暮らす高齢期 HIV 陽性者の現在の暮らし、また将
来的に不安や心配に思っていることは何か、また希
望するサービスや支援とはどんなものかを知り、そ
れらのニーズに対して NPO/NGO が出来ることは何
か、その役割について明らかにする。
方法
これまでに CHARM で支援をしたことのある 60
〜 70 歳代の一人暮らしの HIV 陽性者に対し、配食
支援や見守り支援を行うため定期的・継続的に自宅
を訪問し、その際に健康状態や生活状況、困ったこ
とはないかなど対話の中での聞き取り調査を実施
し、個々人の暮らしにおける問題点やニーズをアセ
スメントした。なお収集した情報の整理とアセスメ
ントはマジョリー・ゴードンの「11 の機能的健康パ
ターン」を用いて行った。
110
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
(倫理的配慮)
4. 役割・関係
本研究を行うにあたり、ご本人には以下の項目に (1)他者との関係が希薄である、または孤立してい
ついて研究同意書に沿って説明を行い、同意を得た
(資料 1)。
る:地域の人々とのつながりがなく、HIV 陽性者・
ゲイなど同じセクシャリティーのコミュニティーに
も属していない、家族と疎遠になっている、相談相
結果
これまでの対話から得た情報から「健康の知覚・
健康管理」
「活動・運動」
「自己認識・自己概念」
「役割・
関係」の項目において、以下の問題点が抽出された。
1. 健康の知覚・健康管理
(1)健康維持を脅かす問題が顕在 / 潜在的にある状
態:身体機能、生理機能、知覚の衰えなど加齢によ
るものや、HIV 感染症やそれ以外外の病気など持病
によるもののほか、抗 HIV 薬の副作用として肝機能
や代謝機能異常、また意識障害など生命に影響を及
ぼすようなものがあることで健康維持に不安がある。
(2)健康管理のための行動が起こせない状態:健康
管理に対する億劫さがある、また健康管理について
の正しい情報を得る機会がない、ちょっとしたこと
を相談できる地域の病院がないことで、健康管理に
対する意識や意欲がわきにくい。
2. 活動・運動
持病により活動に制限がある:これまで出来てい
たことが出来なくなったり、行けていた場所に行け
なくなった。
3. 自己認識・自己概念
(1)HIV 陽性であり、老後を迎える不安:HIV 陽性
者を受入れてくれる施設や介護事業所を探すのは難
しく、治療の進歩で長生きできる病気にはなったも
のの、安心して老後を迎える具体的な方策や環境が
整っていなければ、長生きすることが不安になる。
(2)貯蓄、収入がなくなるなど金銭的な不安
手がいない、またはどうせ理解してもらえないので
相談しないなど、孤立しやすい状態にある、または
孤立している。
(2)社会での役割を失う可能性:高齢であり、いつ
まで仕事が出来るか分からない不安がある。
(3)サポートの脆弱性:家族と疎遠で頼れる人がい
ない、コミュニティに属しておらず連絡を取り合っ
たり助け合える仲間がいない、他者に迷惑を掛けた
くない、病気のことを色んな人に知られたくないの
で訪問看護や介護サービスは利用しようと思わない、
などの理由でサポートに繋がりにくい状況にある。
考察
ライフステージとしての老年期とは『加齢の様相
が顕著に現れ、社会生活や役割に変化が生じる時期
をいう。身体的な面で言えば生命現象が最も自然に
経過した人生における最終の段階である。そして老
年期は死で閉じられる。』とあり、その時期の課題
は社会関係、社会的存在、生きがいの喪失や経済的
不安という社会生活における問題のほか、過去を精
算すること、病気と共生しつつ生きる気力を持つこ
と、死を受入れることであると言われている 1)。今
回の調査結果に見られた健康維持を脅かす問題や活
動・運動が制限されていくこと、金銭的不安、役割
喪失、孤立などは老年期になれば誰しもに起こり
うることと考えられるが、HIV 陽性者固有にみら
れる問題もある。HIV Futures Japan プロジェクト
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
111
『HIV 陽性者のためのウェブ調査第 1 回』2) による
仲間や、病気やセクシャリティのことを気にせず交
と、HIV 陽性者の抱える老後の不安として病状に関
流できる仲間がいたり、自分が所属できるコミュニ
することや、支援者の不在、在宅サービスや施設入
ティがあることも安心感につながる。そしてもし、
所に関することが挙げられているが、これは今回の
家族や友人など何かを頼める相手がいなくても気軽
調査対象者にも同様に見られた。またこれらの問題
に相談できる場、誰かとのつながりを感じる場とし
については、個人的な問題というよりは HIV 陽性者
ての地域団体の存在もまた、HIV 陽性者の暮らしを
を取り巻く社会環境が大きく影響していると考えら
支える上では必要な存在であると考える。
れる。未だに HIV/AIDS に対する社会の偏見や差別、
地域医療や介護に携わる医療者や介護者の理解不足
があり、診療や受入れの拒否を多くの HIV 陽性者が
結論
高齢期を迎える HIV 陽性者が地域で安心して暮ら
経験し、感染を知られないように生活している人や
していくために NPO/NGO がまずやるべきことは、
感染したことで家族やパートナーと疎遠になった人
HIV 陽性者がいつでも相談できる関係性をつくるた
など、HIV/AIDS に関する外的スティグマ、内的ス
めに、定期的・継続的に連絡を取りながら、その時々
ティグマの存在が HIV 陽性者を孤立させ、支援に繋
にある問題について支援を行うことである。また高
がりにくい環境をつくりだしていると言える。
齢期 HIV 陽性者同士が出会える場や居場所づくり、
このような状況の中で HIV 陽性者が安心して老
地域の医療施設や介護施設と連携し HIV 陽性者の受
後を迎え暮らしていくためには、まず健康管理や日
入れ体制を整備していくことも地域団体の重要な役
常生活をサポートする医療者・介護者が HIV/AIDS
割である。そのうえで高齢期の HIV 陽性者がどのよ
やセクシャリティに理解があり、HIV 陽性者を受け
うに余生を過ごしたいと思っているか、どうやって
入れる地域診療施設、入所施設や介護事業所が存在
最後を迎えたいと思っているか、個々人の思いに寄
することが重要である。また互いに連絡を取り合う
り添った個別の支援を考えていくことを目指したい。
112
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
文献
1)横田ケイ子、川原礼子:老年看護学概論・老年保健 ,
P7-10, 2012
2)HIV Futures Japan プロジェクト調査結果
HIV
陽性者のためのウェブ調査第 1 回(2013 年 7 月〜
2014 年 2 月, P21)
健康危険情報
該当なし
研究発表
該当なし
知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
該当なし
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
113
資料 1
ῧ௜㈨ᩱ㸯
㈨ᩱ㸯
≉ᐃ㠀Ⴀ฼άືἲே CHARM
⌮஦㛗 ᯇᾆᇶኵ ᐄ
◊✲༠ຊྠព᭩
ᖹᡂ 27 ᖺᗘ ཌ⏕ປാ⛉Ꮫ◊✲㈝⿵ຓ㔠࢚࢖ࢬᑐ⟇◊✲஦ᴗ
HIV ឤᰁ⑕ཬࡧࡑࡢྜే⑕ࡢㄢ㢟ࢆඞ᭹ࡍࡿ◊✲⌜
◊✲௦⾲⪅䠖ⓑ㜰㻌 ⌶☻㻌
ࠕHIV 㝧ᛶ⪅ࡢᆅ᪉ࢥ࣑ࣗࢽࢸ࢕࣮࡛ࡢཷࡅධࢀ࡟㛵ࡍࡿ◊✲ࠖ
ศᢸ◊ಟ⪅㸸ᴮᮏ࡚ࡿᏊ
࠙◊✲┠ⓗࠚ
HIV 㝧ᛶ⪅ࡀᏳᚰࡋ࡚ᆅᇦ࡛ᬽࡽࡋ࡚࠸ࡃࡓࡵ࡟࡝ࡢࡼ࠺࡞ᨭ᥼ࡀᚲせ࠿ࠊࡲࡓࠊNPO ࡢᙺ๭ࡣఱ࠿ࢆ᫂ࡽ
࠿࡟ࡍࡿࠋ
࠙◊✲᪉ἲࠚ
ᆅᇦ࡛ᬽࡽࡍ HIV 㝧ᛶ⪅࡟࢖ࣥࢱࣅ࣮ࣗࢆ⾜࠺ࠋ
⚾ࡣୖグ◊✲ࡢᐇ᪋࡟࠶ࡓࡾࠊ௨ୗࡢ㡯┠࡟ࡘ࠸࡚ㄝ᫂ࢆཷࡅ⌮ゎࢆࡋࡓࡢ࡛ࠊࡇࡢ◊✲࡟༠ຊࡍࡿࡇ࡜࡟ྠ
ពࡋࡲࡍࠋ
㸯㸬◊✲ࡢ┠ⓗࠊ᪉ἲ࡟ࡘ࠸࡚
㸰㸬ಶே᝟ሗ࡟㛵ࡋ࡚ᶵᐦࡀᏲࡽࢀࡿࡇ࡜
㸱㸬࠸ࡘ࡛ࡶྠពࡢᣄྰࠊ᧔ᅇࡲࡓࡣ୰Ṇࢆࡍࡿࡇ࡜ࡀ࡛ࡁࡿࡇ࡜
㸲㸬ྠពࡢᣄྰࠊ᧔ᅇࡲࡓࡣ୰Ṇࡋࡓሙྜ࡛ࡶࠊ୙฼┈ࢆ⿕ࡿࡇ࡜ࡣ࡞࠸ࡇ࡜
㸳㸬␲ၥࡸ㉁ၥࡀ⏕ࡌࡓሙྜ࡟ࡣࠊᢸᙜ⪅࠿ࡽ㐺ษ࡞ㄝ᫂ࡀ࡞ࡉࢀࡿࡇ࡜
㸴㸬◊✲ࡢᡂᯝࡣබ⾲ࡉࢀࡿࡀࠊಶேࢆ≉ᐃ࡛ࡁࡿࡼ࠺࡞᝟ሗࡣබ㛤ࡉࢀ࡞࠸ࡇ࡜
᪥௜㸸 ᖺ ᭶ ᪥
◊✲ᑐ㇟⪅Ặྡ㸦⨫ྡ㸧
㸸 ㄝ᫂⪅㸦ᡤᒓ㸧
㸸 㸦Ặྡ㸧
㸸 114
15
大阪エイズウィークス等の啓発の企画と効果測定
研究代表者: 白阪 琢磨(国立病院機構大阪医療センター
HIV/AIDS 先端医療開発センター)
研究協力者: 山﨑 厚司(公益財団法人エイズ予防財団)
辻
宏幸(公益財団法人エイズ予防財団)
研究要旨
本研究では、感染拡大抑止の観点、また限られた資源での検査体制で効率よく感染者を治療へと結びつけ
るためには、MSM を意識しつつも男性をターゲットとして設定することが有効であるとの仮説に基づき、
男性に訴求効果の高い啓発手法の開発とその実践を行うことにより、男性の HIV 検査受検者数を増加させ
ることを目指し、次の取り組みを行った。1)男性を対象とした啓発資材制作と配布・掲示として、①男性
向け検査受検促進メッセージ記載カイロの配布、②男性向け HIV 検査受検促進メッセージポスターの交通
広告掲示、2)地域におけるマルチセクター連携による啓発の実施として、③世界エイズデー・キャンペー
ン「大阪エイズウィークス 2015」。これらの取り組みを通じて大阪府民を中心とした近畿圏在住者に対して
情報発信や啓発資材配布を行った。その効果を直接的に測ることは難しいが、大阪府内の保健所等 HIV 検
査実施機関での HIV 検査受検者の動向をみると、昨年とは異なり 12 月の受検者数が増加していた。今年は
昨年よりも月毎の受検数が低下していたが 12 月は昨年を上回った。これは本研究の啓発実施時期と重なっ
ており、特に男性受検者数が伸びを示していることから、本研究による啓発により、男性の HIV 検査受検
を促進した可能性がある。
研究目的
性をターゲットとして設定することが有効であると
エイズ発生動向によれば、わが国における HIV
の仮説に基づき、男性に訴求効果の高い啓発手法の
感染症・エイズの拡がりは、男性、特に日本国籍男
開発とその実践を行うことにより、男性の HIV 検査
性に集中している。感染経路としては、男性同性間
受検者数を増加させることを目的とした。
性的接触が多いが、異性間性的接触も少なからず報
告されており、特に AIDS 患者報告において 3 割程
研究方法
度を占めている。
1)男性を対象とした啓発資材制作と配布・掲示
その一方でポピュレーションアプローチとして
男性の HIV 検査受検者数を増加させるため、男
は、男女が意識されることなく展開されており、そ
性に向けたメッセージを発信する以下の取り組みを
のテイストやメッセージは、感染の可能性の高い成
行った。
人男性を意識したものは少なく、むしろ青少年や女
性を意識したものが多かった。実際、AC 広告や戦
略研究で展開された幾つかのキャンペーンでは、女
性の受検行動を促進した傾向がうかがえた。
① 男性向け検査受検促進メッセージ記載カイロの
配布
男性に自分自身が HIV に感染する可能性がある
そこで、感染拡大抑止の観点、また限られた資源
ことや性交渉の相手等に感染させるかもしれない可
での検査体制で効率よく感染者を治療へと結びつけ
能性があるということを認識してもらい、HIV 検査
るためには、本研究班では MSM を意識しつつも男
を受検してもらえるように、「HIV 検査 まずは、男
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
115
性から!」というメッセージと HIV/AIDS の現在の
治療情報を記載した配布資材を制作し配布した。
街頭配布時期が 11 月下旬〜 2 月と寒い時期であ
るため、使い捨てカイロにメッセージシールを貼付
することで、資材を受け取ってもらえるようにした。
I. ジョギング編(横型)
II. ソーシャルダンス編(横型)
III. バージンロード編(横型)
IV. 夜景編(横型)
V. UFO にさらわれる編(横型)
I. ジョギング編(縦型)
II. ソーシャルダンス編(縦型)
図 1:男性向け HIV 検査受検促進メッセージ記載カイロ
② 男性向け HIV 検査受検促進メッセージポスター
の交通広告掲示
HIV 検査受検を自己の問題として認識し行動を促
進するために、「身近な人から HIV 検査の受検を勧
められたら」をコンセプトにし、どの男性にとって
も、自分に対して訴えかけているメッセージである
と受け取ってもらううことができるよう 5 パターン
のポスターを作成することとした。
限られたポイントでのポスター掲示であるため、
直接見られる以外に、Twitter や Facebook などの
ソーシャルメディアなどを通じて情報が拡散するこ
とを目指し、
「こんな時ナンだけど」というメッセー
ジのもと、意外性のあるシーンで見る人にストー
リーを想起させるビジュアル表現を狙った。
Ⅰ.友人から友人へ、彼氏から彼氏へ(ジョギング編)
Ⅱ.妻から夫へ(ソーシャルダンス編)
Ⅲ.娘から父へ(バージンロード編)
Ⅳ.彼女から彼氏へ(夜景編)
Ⅴ.母から息子へ(UFO にさらわれる編)
III. バージンロード編(縦型) IV. 夜景編(縦型)
V. UFOにさらわれる編(縦型)
図 2:男性向け HIV 検査受検促進メッセージポスター
116
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
2)地域におけるマルチセクター連携による啓
発の実施
男性の HIV/AIDS に対する意識・行動の変化を
参加団体の情報共有、企画・広報調整のための連
絡会を毎月 1 回開催した。エイズ予防財団大阪事務所
が連絡会の事務局を担い、ウィークス参加企画の取
促すには、市民がエイズに対する正しい知識を持ち、 りまとめや広報の進行管理、連絡調整などを行った。
差別や偏見により HIV 陽性者が不利益を被ることな (倫理面への配慮)
く安心して暮らせる社会の実現を目指すことが必要
啓発資材の制作にあたっては、HIV 陽性者を含む、
と考え、HIV 感染症・エイズに対するイメージを変
ポスターを目にしたすべての人に不快感を与えない
えることを目指し以下の取り組みを行った。
メッセージ・写真とするよう配慮した。実施に関す
る評価指標としては、本年度は大阪府内の保健所等
③ 世界エイズデー・キャンペーン「大阪 エイズ
ウィークス 2015」
HIV 検査実施機関での HIV 検査受検者動向を用い
るため、倫理面への問題はないと判断した。
12 月 1 日の世界エイズデーに合わせて、前後の期
間を「大阪 エイズ ウィークス 2015」として、エイズ
研究結果
に関連したジャンルで活動する団体・グループ・個人
1)男性を対象とした啓発資材制作と配布・掲示
が、自治体・企業・メディア等と連携しながら、気
① 男性向け検査受検促進メッセージ記載カイロの
軽に参加できるものから深く学べるものまで様々な
配布
イベントや企画を運営し、市民のエイズへの関心を
男性向け検査受検促進メッセージ記載シールを貼
高めて感染拡大の抑止を図るとともに、感染した人々
付した使い捨てカイロを 6,000 個作成し、以下の機
も安心して暮らせる社会の実現を目指すこととした。
会に 5,960 個配布した。
公益財団法人エイズ予防財団が呼びかけ、この呼
びかけに賛同した団体・グループ・個人・企業が、
(1) 御堂筋オータムパーティ 2015 御堂筋ワンダー
ストリート
それぞれ(または協働して)得意分野でそれぞれの
(日時)11 月 29 日(日)14 時〜 17 時
対象者に焦点を当てた企画を実施した。自治体が実
(会場)ナニワンダーストリートエリア
施するエイズ予防週間の取り組みも合わせて広く市
民に対して広報を展開するとともに、各団体・グルー
(大阪市 御堂筋 新橋〜難波西口区間)
(個数)5,000 個
プ・個人・企業の広報ネットワークツールでも情報
*世界エイズデー・キャンペーン「大阪 エイズ
提供を行った。
ウィークス 2015」の共同街頭キャンペーンとして
実施した。
(2) 日本プライベートフットボール協会・西日本支
部決勝
(日時)1 月 24 日(日)13 時半〜
(会場)エキスポフラッシュフィールド(吹田市)
(個数)480 個
図 3:大阪エイズウィークス 2015 ポスター
図 4:大阪 エイズ ウィークス 2015 の
共同街頭キャンペーンでの配布資材セット
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
117
(3) 日本プライベートフットボール協会・全日本選
手権
(日時)2 月 21 日(日)13 時半〜
(会場)エキスポフラッシュフィールド(吹田市)
(個数)480 個
② 男性向け HIV 検査受検促進メッセージポスター
の交通広告掲示
5 パターンの男性向け HIV 検査受検促進メッセー
ジポスターを作成し、梅田と難波の交通広告で掲示
した。
(1) 御堂筋線なんば駅(コンコースサインボード)
(期間)2015 年 12 月 1 日〜 2016 年 1 月 3 日
(場所)御堂筋線なんば駅 改札措外 地下通路
(サイズ)H 1,600㎜× W 3,100㎜
(1 日利用人数)59,200 人なんば水槽横ボード周辺
図 6:梅田駅サイネージでの掲示の様子
通路壁面で歩行者に対して平行面の掲示となる。
歩行者の目を引くようにインパクトを持たせるた
め、大判 1 枚と小判 2 枚を掲示。
(2) 御堂筋線梅田駅(サイネージ)
(期間)2015 年 12 月 1 日〜 2016 年 1 月 3 日
(場所)御堂筋線梅田駅北改札外
2)地域におけるマルチセクター連携による啓
発の実施
③ 世界エイズデー・キャンペーン「大阪 エイズ
ウィークス 2015」
20 を超える団体や個人の参加・協力のもと 11 月
(サイズ)映像 40 インチ縦(静止画)× 2 面
21 日(土)〜 12 月 6 日(日)のコア期間を含めて 11
(1 日利用人数)梅田スマートピラー周辺 94,700 人
月〜 12 月の 2 ヶ月間、様々な取り組みが展開された。
通路真ん中の柱の両面に設置された縦型 40 イン
主唱:公益財団法人エイズ予防財団
チの電子看板で、静止画像 5 パターンが 15 秒ご
参加・協力:
とに切り替わり表示される。歩行者に対して正面
特定非営利活動法人 HIV と人権・情報センター
に設置されているので、多くの通行人の視角に入
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター
る。
特定非営利活動法人関西エイズ対策協議会
特定非営利活動法人 薬と医療の啓発塾
Café Bar an opportunity 実行委員会
特定非営利活動法人スマートらいふネット
SWASH
特定非営利活動法人 CHARM
Positively
特定非営利活動法人ネットワーク医療と人権
MASH 大阪
「みんなで性を考える団体」
みるく・る
メモリアル・キルト・ジャパン
LETTErARTS 実行委員会
図 5:なんば駅コンコースサインボードでの掲示の様子
大阪検査相談・啓発・支援センター chotCAST な
んば
コミュニティセンター dista
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
118
(個人)
エイズ予防ピアエデュケーションとは!』
大北全俊[東北大学」
主催:Positively
大畑泰次郎[開成法律事務所]
共催:大阪府立大学セクシュアリティ教育研究会
川畑拓也[大阪府立公衆衛生研究所]
日時:2015 年 11 月 22 日(日)13:00 〜 17:00
岳中美江
日高庸晴[宝塚大学]
東優子[大阪府立大学]
(企業)
FM OSAKA
FM802
(7) 大阪検査相談・啓発・支援センター chotCAST
なんば見学会
主催:特定非営利活動法人スマートらいふネット
日時:11 月 24 日(火)・26 日(木)14:00 〜 17:00
(8) 世界エイズデー特設電話相談
主催:特定非営利活動法人 HIV と人権・情報セ
THE BODY SHOP
後援:
エイズ予防週間実行委員会(大阪府・大阪市・堺市・
高槻市・東大阪市・豊中市・枚方市)
ンター
日時:2015 年 12 月 1 日(火)12:00 〜 20:00
(9) 大阪エイズウィークス 2015 協同街頭キャンペー
ン
一般社団法人大阪府医師会
出展代表:公益財団法人エイズ予防財団
一般社団法人大阪府歯科医師会
協同出展:エイズ予防週間実行委員会(大阪府・
公益社団法人大阪府看護協会
大阪市・堺市・高槻市・東大阪市・豊中市・枚方市)
一般社団法人大阪府薬剤師
THE BODY SHOP
FM OSAKA
以下の「大阪 エイズ ウィークス 2015」参加イベ
協力:「みんなで性を考える団体」 みるく・る
ントやキャンペーンを通じて、大阪府民を中心とし
特定非営利活動法人関西エイズ対策協議会
て近畿圏在住者に対して情報発信や啓発資材配布を
日時:11 月 29 日(日)14:00 〜 17:00
行った。
(1) 大阪エイズウィークス 2015 キャンペーンソン
グ『ZERO DISCRIMINATION』
企画団体:特定非営利活動法人関西エイズ対策協
議会
楽曲・動画制作:バンド HIV
期間:2015 年 10 月 16 日(金)〜現在も公開中
(2) 保健所等 HIV 検査に関する啓発ポスターの JR 電
車内掲載
(10) 平成 27 年度 HIV 医療研修会
主催:一般社団法人大阪府医師会
日時:2015 年 12 月 3 日(木)14:00 〜 16:00
(11) 第 8 回保険薬局 HIV ミーティング
共催:特定非営利活動法人 薬と医療の啓発塾
ヴィーブヘルスケア株式会社
後援:一般社団法人 大阪府薬剤師会
日時:2015 年 12 月 5 日(土)16:00 〜 18:00
(12) シンポジウム『AIDS IS NOT OVER
だから、
実施主体:エイズ予防週間実行委員会(大阪府・
ここから 〜ブラジルの経験に学ぶ ! 市民が社会
大阪市・堺市・高槻市・東大阪市・豊中市・枚方市)
を動かすために、ここから私たちは何をすべき
期間:2015 年 11 月 1 日(日)〜 30 日(月)
か !? 〜』
(3)LETTErARTS EXIBITION 2015
主催:レッテルアーツ実行委員会
期間:2015 年 11 月 17 日(火)〜 12 月 20 日(日)
(4)12/1 世界エイズデー強化 11days
共催:公益財団法人エイズ予防財団
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター
日時:2015 年 12 月 6 日(日)13:30 〜 16:30
(13) AIDS POSTER EXHIBITION
主催:THE BODY SHOP
主催:MASH 大阪
期間:2015 年 11 月 21 日(土)〜 12 月 1 日(火)
期間:12 月 7 日(月)〜 14 日(月)
(5) ラジオ番組『LOVE+RED』
放送:FM OSAKA
放送日時:毎週土曜日 21:00 〜 21:30
(6) ピアエデュケーションプログラム『生徒による
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
本年度の啓発資材の制作と配布・掲示やキャンペー
119
結論
ンの実施による効果を直接的に測ることは難しい。し
今後、6 月の HIV 検査普及週間においても啓発を
かし大阪府内の保健所等 HIV 検査実施機関での HIV
実施し、その期間の HIV 検査受検者動向を見ていく
検査受検者の動向をみると、昨年とは異なり 12 月の
予定である。
受検者数が増加している。今年は昨年よりも月毎の
受検者数が低下していたが 12 月は昨年を上回った。
健康危険情報
該当なし
考察
大阪府内の保健所等 HIV 検査実施機関での HIV
検査受検者の動向をみると、昨年とは異なり 12 月
の受検者数が増加している。また今年は昨年よりも
月毎の受検者数が低下していたが 12 月は昨年を上
回った。これは本研究による啓発実施時期と重なっ
ており、特に男性受検者数が伸びを示していること
研究発表
該当なし
知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
該当なし
から、本研究による啓発により、男性の HIV 検査受
検を促進した可能性がある。今後も啓発資材の制作
と配布・掲示やキャンペーンについての効果測定の
方法につき検討を行っていく。
表 1:資材配布数
種類・名称
大阪エイズウィークス 2015 パンフレット
男性の HIV 検査受検促進メッセージ付カイロ
オカモト&ベネトン・ハート型コンドーム
啓発用コンドーム オカモト・ラブウサコンドーム
ジェックス・グラマラスバタフライ
配布数
16,590
5,960
2,000
3,000
2,000
chotCAST なんば広報用ポケットティッシュ
4,000
大阪府における HIV 等検査・相談場所ちらし
4,000
パンフレット
2,000
おおさかエイズ情報 NOW
表 3:大阪市(chotCAST なんば除く)
HIV 検査数の推移
表 2:大阪府自治体 HIV 検査数の推移
(chotCAST なんば、クリニック検査除く)
表 4:chotCAST なんば HIV 検査数の推移
120
16
メディアを用いた効果的啓発方法の開発
研究代表者: 白阪 琢磨(国立病院機構大阪医療センター
HIV/AIDS 先端医療開発センター)
研究協力者: 林
市川
清孝(エフエム大阪音楽出版株式会社)
謙(株式会社エフエム大阪
営業本部営業部)
研究要旨
FM ラジオ局の電波およびそのネットワークを活用した HIV/AIDS に対する啓発活動および意識調査の
実施。調査結果の考察・検証。
研究目的
薬害 HIV 訴訟の和解以降、メディアでのエイズ
3)成果検証展開:2)の HP 内やイベント・学生に
対して HIV/AIDS に対する意識調査を実施し、その
に関する露出が大きく減少し、エイズは終わった、 結果に関して番組のリスナーと一般市民の認識につ
あるいはエイズ問題がまだ残っている事を認識しな
き比較検討を行う。
い市民が多いとされている。エイズ動向委員会の報
告によれば、個別施策層への啓発はとりわけ重要と
研究結果
考えられる。本研究では、大阪を中心に活動してい
1)番組内容
るエフエム大阪の協力の下、効果的啓発手法の開発
①実施期間
2015 年 6 月 よ り 2016 年 3 月 末 ま
を試みた。すなわち、FM ラジオ局の電波あるいは
で の 毎 週 土 曜 日 21:00 〜 21:30、HIV/AIDS の
関連するインターネットを用い、そのネットワーク
啓 発 ラ ジ オ 番 組「LOVE+RED」( 資 料 1 〜 3) を
を活用し、大阪周辺の地域での若年層をはじめとし
放送。②番組内容
た一般市民全般を対象に、HIV/AIDS に対する正し
ストが提供する話題を DJ ミー氏とゲストのトーク
い知識の普及と HIV 陽性者の理解向上を図る事を目
を中心にし、番組の初めと最後に決めたメッセー
的とする。エイズ動向委員会の報告では感染経路は
ジ(資料 4,資料 5)を流す。なお、スポンサーは
男性同性間性的接触が多い。HIV/AIDS を取り扱う
配置せず、商品紹介は行わない。③ゲスト
毎回決めたテーマあるいはゲ
これ
上で、性的マイノリティーの理解は重要であるので、 まで、HIV/AIDS、LGBT に関連する活動をされて
この研究でも LGBT に対する啓発と現状理解も目的
いる方々 30 名を超えるゲストが出演し、様々な立
に加えた。
場からメッセージを発信した。④公式 HP
http://lovered.jp/
URL:
を開設し、情報発信とアンケー
研究方法
ト(資料 17)を実施した。アクセス数は、これまで
1)電波展開:エフエム大阪で毎週 30 分レギュラー
約 45,000 のアクセス(2016 年 1 月末日現在、資料 9)
番組 HIV/AIDS 啓発プロジェクト「LOVE+RED」 であった。
を放送。
2)WEB 展開:プロジェクト特設 HP を制作。意識
2)番組関連イベント
調査や理解度チェックなどリスナー参加型のコンテ
①学校出張収録
ンツを盛り込み、より深い理解促進を狙う。
大阪市内の中学校の協力を得
て、中学 3 年生、約 170 名を対象に、HIV 専門医師
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
121
からのある分間の授業を実施し、授業の前後でアン
をみると、「はじめて HIV/AIDS(および性感染症)
ケート(資料 11)を実施した。また、参加中学生
について考える機会となった」という回答も散見さ
の数名は後日、スタジオで専門医師との Q&A に参
れ、若年層へのアプローチ・タッチポイントの少な
加し、同年代層へのメッセージの発信を試みた。②
さが懸念され、学校等への今後のアプローチが必要
大阪市の大規模イベントへの参加
と考えた。
2015 年 11 月 29
日に開催された大阪市のイベント「御堂筋オータム
パーティ」に参加し、ブース出展を行い(資料 14, 結 論
資料 15)、参加市民への情報提供やアンケート(資
料 17)を実施した。
ラジオ電波を用いた啓発活動の成果について、意
識調査の結果から一般市民に対するラジオ電波およ
び WEB サイトを用いた啓発活動は一定の効果があ
3)HIV/AIDS 意識調査の比較検討
るといえる。
中学 3 年生に対してアンケート調査を実施し、結
継続的な啓発活動を行う事が正しい理解促進・知
果を資料 12、13 に示した。番組 HP や、イベント(11
識向上の重要な手法の一つであるので、「継続的な
月 29 日「御堂筋オータムパーティ」)でアンケート
啓発展開が可能なメディア」であるラジオを中心に、
調査を 500 名に配布し 367 名の有効回答を得た。合
WEB・ラジオ局関連イベントの活用も絡めて、今後
計で 548 名の有効回答であった。本番組の HP での
は各学校や自治体との連携につき検討し、さらにそ
アンケート調査の回答との比較検討を行った(資料
の活動を推し進めていきたいと考える。
16 〜資料 23)。LOVE + RED 特設サイトのアンケー
ト調査への有効回答(全問回答)者の結果は資料 18
健康危険情報
〜資料 23 に、「御堂筋オータムパーティ」の有効回
該当なし
答者の結果は、同資料に質問毎に併記(上段がイベ
ント参加者、下段が番組リスナー)した。年齢はリ
スナーの方が若い世代が多い傾向があった。各設問
研究発表
該当なし
については、後者の方が正答率が高い傾向があった。
特に、Q1「HIV 検査が無料匿名で受けられること
をご存知ですか?」、Q2「HIV 検査はどこで受ける
事ができるかご存知ですか?」、Q7「HIV は性交渉
で感染すると思いますか?」、Q9「HIV から AIDS
の発症を抑える薬が開発されているのをご存知です
か?」の各問いで正答率の違いが伺えた。また、前
者で実施した LGBT に関する質問 Q11、Q12(資料
23)から、「LGBT の方々に対し、概ね好意的な印
象を持っている傾向が伺えたが、年代別に見ると、
50 代以上の方々の理解は乏しい印象があった。」
考察
イベントで参加した一般の方々と、番組 HP から
回答した方々の意識調査の比較から、番組 HP から
回答した方々(番組リスナー)の方が、より正解率
が高い結果となり、番組を聴取することで、より正
しい理解につながった可能性がある。ただ、以前よ
り理解あるいは HIV/AIDS に興味のある方が番組
を選択し聴取している可能性もあり、検討が必要と
考える。また出張授業を行った中学生への意識調査
知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
該当なし
‫ٲ‬ਛટਫ਼઒ன৫
嵣+,9峕ঢ়峃峵ਔ௙৹ਪ峼ৰ઱
嵣崐崌崢崎崋嵤崗崡峒峘৴௚
໪ਏ
‫୹઀ٲ‬ਏ୩ 嵣ཟ৅&0ଧ‫ق‬ଧ¼৚‫&پك‬0ਉံ峙ઃᅚ峼岾૞ස岹峊岿岮岞
‫ٲ‬崚崡崰
嵣+,9$,'6ৄ௙঻嵣/*%7ৄ௙঻‫ق‬ୢప嵣ଢ଼஢঻嵣੍ର੮৬峔峓்ઁ岮্‫كر‬
‫ڿڹٲ‬
嵣峩岭
嵑崠崒୞ੌ
ৱમ
ৱમ
+,9$,'6峘ཟ৅峕ঢ়峹峵崮嵤嵆峼੪峕ன৫峃峵ী୞ੌ峼൐ౝଣଛ岞
+,9$,'6峕ৄ௙峘岬峵崚崡崰崛嵤崲嵤岝ਈৗ峘崳嵍嵤崡崰崼崫崗崡岝
ਫ਼ਪੲਾ岝ঢ়৴峁峉௫ශ峘2$੗ว峕峹峉峵ੲਾ峼岴ඍ岻岞
嵒崡崲嵤峢ঢ়ੱ峼੅峉峅岝ੴ௙峼਱঱岿峅峵୞ੌ峼峫峀峁峨峃岞
岬峹峅峐+,9૎ഉ峒જ峴௞峅峔岮/*%7峕ৌ峃峵৶ੰ਱঱峬প岷峔৯৓峘঳峎峑峃岞
‫ٲ‬ଣଛৎ৑
ফা‫ ع‬൐ౝଅ໫঩‫ع‬
嵑崠崒୞ੌ໪ਏ
‫پ‬୞ੌ৔‫ق‬৑峬அ峪‫ك‬峕岴岮峐岝঳ಹ嵉嵤崓嵤૚঺峘്஫嵣ૹષ峘୿ਲ਼യਤ峮
ૹષ峘&0峙૴岿峔岮岞
‫ٴ‬崿嵕崠崏崗崰્ਝ崝崌崰峼਑੿
‫ٴ‬:(%峼ણ৷峁峉崥嵤崟嵋嵓ன৫
‫ܒ‬ಲਢ৓峔ཟ৅ણ৿峼৯੐峃
‫ٴ‬崐崽崐嵈পଚ峑൐ౝী嵔崖嵍嵑嵤୞ੌ峼ன৫
‫ٲ‬ਗ਼ణன৫
ৰ઱৔ઍ‫ق‬໪ਏ‫ك‬
+,9$,'6峕ৌ峃峵ਔ௙਱঱嵣৶ੰ২峘਱঱
‫ق‬060峕峲峵૎ഉ岶੗岮岽峒峼ੳ௙岿峅岝৶ੰ岿峅峵হ峼৯৓峘঳峎
峒峃峵峉峫岝/*%7峕ৌ峃峵ཟ৅嵣ਠ૾৶ੰ峬峫峀峃‫ك‬
৯৓
଄ফಽ峼峙峂峫峒峁峉঳ಹ৘ড়৸ಹ‫ق‬060峼ਔ௙峁峎峎ઁ岹঳ಹ৘ড়峒峃峵‫ك‬
崧嵤崚崫崰
ফা‫ع‬
ৰ઱ৎ਋
ৰ઱৯৓嵣໪ਏ
嵑崠崒୞ੌ
$)/ᲴᲢǏƬƘǓᓳƪბƍƨᩎ‫׊‬ൢᲣ
‫ࣱڡ‬NAᲴᲢǏƬƘǓƔLjƠNJǔǑƏƴᲣ
NjƠNj…ƋƳƨƷ‫ٻ‬ЏƳʴƕ… HIVज़௨ၐƴƳƬƨǒ
ǍƞƠƘŴৼƖƠNJƯƘƩƞƍŵ
ƋƳƨƷദƠƍჷᜤƕŴџൢƴƳǓLJƢŵ
ɭမưƸถ‫ͼݲ‬ӼưƢƕŴ
ଐஜưƸ൑࠰ŴƓǑƦ1500ʴƷૼᙹHIVज़௨ƕƋǓŴ
‫ف‬ьͼӼƴƋǓLJƢŵ
ƜǕƸൿƠƯ˂ʴʙưƸƳƘŴ
ᅶƨƪƕ᧙࣎ǛਤƪŴᘍѣǛƢǕƹŴ
ज़௨Ǜ᧸ƙƜƱƕưƖLJƢŵ
ࣱᘍໝˌ‫ٳ‬Ʒଐࠝဃ෇ưƸŴHIVƴज़௨ƠLJƤǜŵ
ƦǕƴଔ஖ႆᙸŴଔ஖඙ၲưႆၐǛ৮ƑǔƜƱNjưƖLJƢŵ
ƩƔǒ‫ٻ‬ЏƳʴƱƍƭNjᡫǓ੗ƠƯƘƩƞƍŵ
ƋƳƨƷദƠƍჷᜤƱᘍѣƕŴǍƞƠƞƴ‫٭‬ǘǓLJƢŵ
ʻŴLjǜƳưᎋƑƯŴᘍѣƠLJƠǐƏŵ HIVŴAIDSƴƭƍƯŵ
ཟ৅&0৔ઍ⋇ 岣峬峁峬岬峔峉峘পજ峔য岶岤⑯
嵣ফা ਁ৫ઽஈ‫ق‬র৾ૅ峢峘ল୑౸঵‫ك‬੔峘র৾েফে੡‫ق‬੬৕੡岝੓৕੡‫ك‬
嵣ফা ౪ൡ൙崒嵤崧嵈崹嵤崮崋 ੡
嵣ফা‫ ع‬୞ੌ嵒崡崲嵤 ੡
⋋৘ড়峢峘ਔ௙৹ਪ峘ৰ઱
嵣崐崌崢崎崋嵤崗崡৴൪ভ峢峘૞ਸ
嵣崐崌崢崎崋嵤崗峕௚峹峵্‫ر‬峘ল౰岝৫ಈઔੴ
嵣崐崌崢੒ଆଃ੮஘峘‫ۇۅ‬崾嵤崡峕峐୞ੌ崛嵤崲嵤峼ਝ઼
‫ܒ‬ਔ௙৹ਪྴ৭ভ
⋊পଚ崐崌崢崎崋嵤崗崡峒峘৴௚
⋇崐崌崢੒ଆଃ੮ ූ ⋈ਁ৫ઽஈ੔峘র৾ে ූ ⋉୞ੌ嵒崡崲嵤 ූ
⋊౪ൡ൙崒嵤崧嵈崹嵤崮崋崌嵁嵛崰ৎ ූ ⋋岣7+(%2'<6+23岤ූ
⋌崐崽崐嵈পଚ崌嵁嵛崰ৎ ූ
ٛଦഘ੔ٜ
⋉୞ੌ崡崮崫崓嵤‫ق‬৖੿ਛ‫ك‬峘੿ਛ嵣ଦഘ
嵒嵛崗崸崲嵤ਝ઼峔峓峘崛嵛崮嵛崬峼ଦਦ岞৺‫ۋۅ‬峘崊崗崣崡岞
⋈岣/29(ٔ5('岤્ਝ崝崌崰峘਑੿嵣ઈ੾
嵣્ਝ崝崌崰峼য়峋঱岼岝୞ੌ峘嵅崫崱崕嵋崡崰ன৫岝ਔ௙৹ਪ岝৶ੰ২崩崏崫崗岝ੲਾ崝崌崰峢峘
嵒崡崲嵤峕ඍ岻峐岷峉岞
র৾ૅ峢峘ল୑౸঵峼峁峉峴岝ৈૅে峕ੈৡ岮峉峊岮峉峴岝 ૙঵嵣਼৻峼த岲峉૚্એ岵峳
岾ল౰岮峉峊岮峉岞
⋇嵑崠崒嵔崖嵍嵑嵤୞ੌଣଛ峕峲峵嵉崯崋崊峒峁峐峘ཟ৅ણ৿
嵣੗岹峘崚崡崰峘্‫ر‬峕岾ল౰岮峉峊岷岝ਠ૾嵣୳岮嵣ઔੴ峔峓஘‫ر‬峔য়ৃ岵峳峘૾ய峼
਌峔ৰ઱৔ઍ嵣ਛટ
ৱમ
ৱમ
122
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
嵑崠崒୞ੌ
嵑崠崒୞ੌ
া঩
া঩
া঩ ٕ
া঩
া঩
া঩
া঩
া঩ ির௥஘‫ق‬ఉ૧૒‫ك‬
া঩
া঩ 岽峂஘
া঩
া঩ ‫ق‬岣4:5&岤‫ك‬
岣崸嵛崱+,9岤஘‫ق‬峴峴岭岿峽岝峐峳峰岰岿峽‫ك‬
া঩ ೨ෞಘ஘‫ق‬嵔崌嵛嵄嵤崽崏崡崧ৰষ੻৩‫ك‬
ᆲਆ௏ఘ஘‫ق‬਷੃嵉崯崋崓嵓崗嵒崳崫崗‫ك‬
崓嵤嵓஘
ਕ੨೨ึ஘
‫ق‬崿嵕崯嵍嵤崝嵤岝嵔崫崮嵓崊嵤崬ৰষ੻৩ভ৻਀‫ك‬
া঩ 嵣ஜଚማ༿஘
া঩ 嵣ᎍপଚ৘৔র৾ૅর৾ে峘຦岿峽
া঩ ‫ق‬崧嵔嵛崰‫ك‬
া঩ *(1.,1*஘
ஜଚማ༿஘
া঩ ‫ਁق‬இଃ੮১য崐崌崢੒ଆଃ੮‫ك‬
া঩ ▏๒ౘ஘
া঩ ‫ق‬岣൒ষ崿嵑嵛崲嵤岤岝岣&DUO VOLQN岤崒嵤崲嵤‫ك‬
া঩ 崓嵤嵓஘
ஜଚማ༿஘
া঩
া঩
ল౰঻
ଣଛ঩
ଣଛ৚ਯ
ৱમ
ৱમ
嵉嵛崸嵤峇島峈島岝+,9$,'6ཟ৅峕峎岮峐஘‫ر‬峔঺ভ๾൴ણ৿峼ষ峍峐岜岮峵峒੉岰岽峒峑岝峇峘৔ઍ峕峎岮峐ቯ岮峨峁峉岞
峨峉岝পଚ崐崌崢崎崋嵤崗崡峕਱岻峐੿峳島峉崒嵒崠崲嵓崥嵛崘
岣=HURGLVFULPLQDWLRQ岤峬ਁ৫峁峐岮峉峊岷峨峁峉岞
পଚ峑岝/*%7峮੓ਙ峼崝嵅嵤崰峃峵ણ৿峼ষ峍峐岮峵੮৬岣4:5&岤
岶਌ಈ峃峵஘‫ر‬峔崌嵁嵛崰‫ق‬岴ภভ‫ك‬峮岝ਗ਼ਵৼ୥岝
岣য峘ୢ௜嵣ૣකঢ়બ঻峢ଦഘ峃峵ၻ৕ଲ੿崿嵕崠崏崗崰岤峘岽峒岝/*%7峢峘৶ੰ峮ਔ௙峘૗৲岝০৏峘ણ৿峘ன஦峔峓峼岴ല岷峁峨
峁峉岞
/*%7峮岝+,9峮$,'6峔峓峕峨峎峹峵১൅峮ৼ୥峘岴ਵ峼ቯ岮峨峁峉岞
া঩‫ق‬ଅ‫ك‬ႍ঴ਁୱ峑৫ಈ岿島峵嵔崌嵛嵄嵤崽崏崡崧峕峎岮峐岴ਵ峼ቯ岮峨峁峉岞
/*%7崽嵔嵛崱嵒嵤峔ඌ峕峎岮峐岝峨峉岝ূ਎崒嵒嵛崼崫崗嵣崹嵑嵒嵛崼崫崗峘৫ಈ峕峪岻峐岝峹峉峁峉峋岶ਲਗ岵峳峘崚崡崰峼岝岷峋峽峒岴峬峐峔峁峃峵峉
峫岝
লਟ峵岽峒峙‫ء‬峒岮岰崮嵤嵆峑岴ਵ峼ቯ岮峨峁峉岞
岣崊嵛崩崐崌崠嵛崘ୢ௜岤峔峓峕峎岮峐岝
峨峉岝+,9૎ഉ峮$,'6峔峓峘ਖ਻岝/*%7峕峎岮峐峬岴ਵ峼ቯ岮峨峁峉岞
+,9$,'6峘ཟ৅ણ৿峕峬೸ੱ峔崿嵕崯嵍嵤崝嵤
ਕ੨岿峽峼岴ಶ岲峁岝岣পଚ崐崌崢崎崋嵤崗崡岤峑৫ಈ峃峵崌嵁嵛崰岥(527,&(;32岦峘໪ਏ峮岝崊嵤崰峒峁峐ਫਊ峔௬੼峼ਭ岻峐岮峔岮঺ভ৓嵆
崌崶嵒崮崋峼਻౫峕峁峉੿ષ岝峬峁岹峙岝঺ভ৓嵣ਙ৓嵆崌崶嵒崮崋嵣崊嵤崮崋崡崰峘੿ષ峕峎岮峐ቯ岮峨峁峉岞
੕ૐౣ峒峁峐岝崨崌崠崏崡崰峑岴ඍ岻峁峨峁峉岞
岥+,9$,'6岦峕峎岮峐峙岝ஜଚማ༿੔ে岝▏๒ౘ岿峽ল౰৚峼岝
岥/*%7岦峕峎岮峐峙岝崓嵤嵓岿峽岝*(1.,1*岿峽ল౰৚峼崼崫崗崊崫崿峑峃岞
ಒ೬峩峨峍峉峊র峘র৾ফে峘峩峔岿峽岶崡崧崠崒峕ఃৃ‫آ‬
లਟ峘ต峼௞峁峐峬峳峍峉峴岝
ஜଚማ༿੔ে峕岝+,9$,'6峕峎岮峐஘‫ر‬峔ઑਖସਖ峼਺岼岵岻峨峁峉岞
崚崌峑岬峵岽峒峼崓嵇嵛崘崊崎崰峁岝ਠ૔যਞ૶঱ಊর峘*(1.,1*岿峽峕ল౰岮峉峊岷岝/*%7峢峘৶ੰ岝崽崉崫崟嵏嵛峘岴ਵ岝லহ峘ਵ峔峓ቯ岮峨
峁峉岞
পଚ৘৔岝ᎍর৾ૅ峘র৾ফে峘েെ岿峽୸峒঳ค峕ষ峍峉
ਁ৫ઽஈ峘ெ஘峼ଣଛ岜র৾ૅৎ৻峘岴ਵ峮岝ਙ૎ഉඪ岝+,9$,'6峘੦ຊੴ௙峕ਸ岲岝ਙ૎ഉඪ峘੒ଆ১峔峓峼৾峝峨峁峉岞
崐崌崢੒ଆଃ੮峘૽સ峮岝+,9‫ط‬$,'6峘ཟ৅峕ঢ়峹峍峐岮峵஘‫ر‬峔੮৬峘
਄峴ੌ峩峔峓峼ୁ峍峐岮峉峊岷峨峁峉岞
$&崠嵋崹嵛峘+,9ਫ਼ਪയਤ峘&0峬୞ੌ৔峑ງஂ峁峐岮峨峃
൒峮崱崌崬峘/*%7୭୆峕峎岮峐岝岴ਵ峼ቯ岮峨峁峉岞
岴૲峘岴ਵ岝岣+,9$,'6峘ཟ৅岤峮岣/*%7峘৶ੰ峼஥峫峵岤ણ৿岝৬ୡ୥峔峓峼ୁ峍峐ຘ岮峐岮峨峃岞
ஜଚ੔ে峕ௐেௌ௮੄峘岣崐崌崢৿਱੻৩ভ岤峘ਈৗ৹ਪਾઔ峕ਸ岲岝
岣ਫ峁岹ੴ峵岤岣੒ଆ嵣ਫ਼ਪ岤峕峎岮峐ୁ峍峐岮峉峊岷峨峁峉岞
਌峔৔ઍ
‫ٴ‬+,9$,'6ཟ৅岝/*%7峼਌峒峁峉ણ৿峼岿島峐岮峵峇島峈島峘্峕岴௭峁岮峉峊岷岝
੕િ੡峘্‫ر‬峕岴௭峁岮峉峊岷峨峁峉岞
୞ੌଣଛ৔ઍ‫ق‬ফ‫ع‬া‫ك‬
$)/ᲴᲢᑥƬdžƍŴ࿿ƍǤȡȸǸᲣ
ဏࣱNAᲴƳƊŴ‫ٻ‬ɣ‫پ‬ƩƬƯŵǪȬƸ‫ٻ‬ɣ‫پ‬ƩƬƯŵ
‫ࣱڡ‬NAᲴƦƷ‫ٻ‬ɣ‫پ‬ƸŴDŽǜƱƴ‫ٻ‬ɣ‫پ‬ƳǜƔᲛ
ဏࣱNAᲴƩŴ‫ٻ‬ɣ‫پ‬ǍƱ࣬Ə…
$)/ȁǧȳǸᲴᲢ‫ࣱڡ‬NAƴӳǘƤƨѬƍƷƋǔџLJƠƍǤȡȸǸᲣ
‫ࣱڡ‬NAᲴɭမɶưHIVज़௨ᎍƸ3500ɢʴŴଐஜưNj൑࠰Ŵ
ƓǑƦ1500ʴƕૼƠƘHIVƴज़௨ƠƯƯŴ‫ف‬ьͼӼƴƋǔƷǑᲛ
ဏࣱNAᲴƑᲛ‫ف‬ƑƯǔƷᲹ
‫ࣱڡ‬NAᲴƦƏŵƦǕƴɟဪ‫ٶ‬ƍज़௨ኺែƸŴࣱᘍໝƳƷŵ
ज़௨Ǜʖ᧸ƢǔჷᜤŴƪnjǜƱਤƬƯǔᲹ
ဏࣱNAᲴƍǍŴƦƷ‫ئ‬Ʒᩎ‫׊‬ൢƱƍƏƔ…
‫ࣱڡ‬NAᲴƦƏƍƏƷƕɟဪȀȡᲛNjƠNjज़௨ƠƯƨǒƲƏƢǔƷᲹ
ဏࣱNAᲴƑƬᲛƦǕƸɧ‫…ܤ‬
‫ࣱڡ‬NAᲴơnjƊŴ౨௹ƴᘍƔƳƍƱᲛ
ଔ஖ႆᙸŴଔ஖඙ၲǛƢǕƹŴႆၐƸ৮ƑǒǕǔƷǑŵ
ဏࣱNAᲴǘƔƬƨ…ദƠƍჷᜤǛਤƬƯᘍѣƢǔƜƱƕ‫ٻ‬ЏƳǜƩƶŵ
‫ࣱڡ‬NAᲴƦƏᲛHIVŴAIDSƴƭƍƯŴദƠƍჷᜤưӼƖӳƍLJƠǐƏᲛ
ཟ৅&0৔ઍ⋈ 岣崨嵉峔ೀ峒峁峍岵峴ೀ੓岤⑯
崚崡崰峘্峘嵒崗崐崡崰岶岬島峚峇峘௫ශ峼2$
ཟ৅崌嵁嵛崰嵣ਫ਼ਪੲਾ峘ઔੴ岝ਟౝ峘৔ઍઔੴ峔峓
+,9$,'6ཟ৅&0峼ଣଛ
‫ڧ‬0XVLF⋈
崐嵛崯崋嵛崘崰嵤崗‫ق‬৺ী‫ك‬
৏&0‫ق‬ଧ‫ك‬
ল౰঻
▏๒ౘ஘‫ਁق‬இଃ੮১য崐崌崢੒ଆଃ੮‫ك‬
峵峽஘‫ق‬+,9峒যਥ嵣ੲਾ崣嵛崧嵤ঢ়ਧ੍৖‫ك‬
া঩ ‫ق‬0$6+পଚ‫ك‬
া঩ ੕ૐౣ岜‫پ‬੒৒
া঩ ‫ق‬132১য崡嵆嵤崰峳岮峟崵崫崰‫پك‬੒৒
া঩ หਭ஘
া঩ 岣峵峵岹峫岮峒岤ਚര峘຦஘
া঩ পଚਿয়ૈਉৈಉ৾ૅ
া঩ ‫ق‬পଚઇ୘প৾প৾੹ਯ৾ઇ୘௧వ‫ك‬
া঩ ଽᅅீผଐ஘
া঩ ൣൎೣ಻஘
া঩ ‫ق‬岽岰ষ৆છ૒হਜਚ‫ك‬
া঩ ೨ෞಘ஘
া঩ ੕ૐౣ
া঩
া঩
ஜଚማ༿஘
া঩ /*%7ঢ়৴岜ఠ௫嵣崰崼崫崗崡ງஂ
া঩ +,9$,'6ঢ়৴岜ఠ௫嵣崰崼崫崗崡ງஂ
া঩ ▏๒ౘ஘岜岜
া঩
া঩ ‫ق‬ઙૄভ঺崌崒嵛崽崑嵔崡崰੾঵ਸ਼ਕ৖৖শ‫ك‬
া঩ ূඈ৕஘
ଣଛ঩
ଣଛ৚ਯ
ৱમ
ৱમ
/*%7峕峨峎峹峵ৼ୥峼௧୅୩ୠ峘঳峎峒峁峐঵ਜ峕਄峴ੌ峨島峐岮峵೨岿峽峼岴ಶ岲峁岝ষ৆છ૒峒岮岰岴லহ峕峎岮峐岝峨峉/*%7崽嵔嵛崱嵒嵤
峔঵ਜ峮અ岲্峼ቯ岮峨峁峉岞
+,9$,'6峕峨峎峹峵崰崼崫崗崡ງஂ峮岝આফ৫ಈ岿島峉岝౪ൡ൙嵗嵛崨嵤岜崡崰嵒嵤崰峕লன峁峉岣/29(5('崾嵤崡岤峕ඍ岮峉嵉崫崣嵤崠峔峓峼
岾ງஂ岜岜峁峨峁峉岞
આফଜ岵峳ਦ୛峕ಳ岻峐峘岝+,9$,'6峕峨峎峹峵崳嵍嵤崡峮
੘௜峕峨峎峹峵ਵ਻峕峎岮峐岝ஜଚ੔ে峕ସਖ‫ੰ٭‬ହ‫٭‬ਖ਼৒峼峁峐岮峉峊岷峨峁峉岞
ফ৯峘岣পଚ崐崌崢崎崋嵤崗崡岤峮岝০ফ峘+,9$,'6峕峨峎峹峵岜岜岜૾ய岝୭୆峼ஷ峴ନ峍峐岴ਵ峁峁峐岮峉峊岷峨峁峉岞
/*%7ঢ়৴峘崰崼崫崗峼রੱ峕岝ఠ௫峒峒峬峕ງஂ
+,9$,'6峕崡嵅崫崰峼ਊ峐峐岝ఠ௫峒峒峬峕WRSLFV峼ງஂ
崌嵁嵛崰岶ਢ岮峐岮峵岣পଚ崐崌崢崎崋嵤崗崡岤峕峎岮峐岴ਵ峼ቯ岮峨峁峉岞
岿峳峕岝ਵ਻峒峔峍峐岮峵岣崩嵋嵤嵒嵤嵣崟嵤嵛ਖ਻岤峕峎岮峐峬岾ਔৄ峼ቯ岮峨峁峉岞
岣পଚ崐崌崢崎崋嵤崗崡岤峕峎岮峐岴ਵ峼ቯ岮峨峁峉岞
峨峉岝+,9峒যਥ嵣ੲਾ崣嵛崧嵤ঢ়ਧ੍৖峘岣峵峽岤岿峽峕峬岴௭峁ຘ岷
+,9$,'6峕ঢ়峃峵ਗ਼ਵৼ୥峘ৰଙ峬ቯ岮峨峁峉岞
+,9$,'6峘ཟ৅ણ৿峕੫঵峒峁峐೸ੱ峑岬峵岣7+(%2'<6+23岤岜岜岜岜岜岿峽峕岴௭峁ຘ岷岝ཟ৅ણ৿峼峙峂峫峉岷峍岵岻嵣ూବ峕峎岮峐岝
ણ৿峼઩峫峐岵峳峘岝岴௢஘峘ଢ峮崊崗崟嵏嵛岞পଚ崐崌崢崎崋嵤崗崡峑峘઱ੁ峔峓峕峎岮峐岝岜岴ቯ岮峨峁峉岞
਌峔৔ઍ
୞ੌଣଛ৔ઍ‫ق‬ফা‫ع‬ফা‫ك‬
‫ٴ‬崚崡崰峒峘崰嵤崗
嵉崌嵛崛嵤崲嵤‫ق‬৺ী‫ك‬
嵑崠崒୞ੌ
੔ౝ峘峟峴岵岲峴岝০ౝ峘崚崡崰ງஂ岝+,9嵣/*%7峕峨峎峹峵崳嵍嵤崡崰崼崫崗崡峘ງஂ
崒嵤崿崳嵛崘崰嵤崗‫ق‬৺ী‫ك‬
‫ڧ‬0XVLF⋇
+,9$,'6ཟ৅&0峼ଣଛ
ถ಍
嵑崠崒୞ੌ
৐&0‫ق‬ଧ‫ك‬
崧崌崰嵓崛嵤嵓
৔ઍ
੦ম৓峔୞ੌਤষ崌嵉嵤崠
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
123
৹ਪ௠
ਔ௙৹ਪସਖ௠
ফা঩‫ع‬ফা঩
੕39ਯ‫؟‬
৹ਪ੥ટ
ৱમ
ৱમ
ফ
ফ
া
া
া
া
া
া
া
া
ଣଛ঩峘ଅ໫岶ਈ峬ৈ岹岝ઃ岮峑঩໫঩峘ਯஊ岶প岷岹峔峍峐岮峨峃岞
‫پ‬া峙)0পଚ崝崌崰嵒崳嵍嵤崊嵓岝া峙൐ফ৫ಈ岿島峵পૠெ૮મഃୄ崌嵁嵛崰峘
ૢ൳ਭહ਋৑峕୷峁ෳ岵峵峉峫岝39ਯ岶ੜপ峁峉峒௓೾岿島峨峃岞
ফ
া
৐઄
৏઄
727$/
:(%
આফা峘୞ੌ৫઩৏峘਋৑੕39ਯ峙৺
岣/29(ٔ5('岤ਁૄ崝崌崰 39ਯ峕峎岮峐
嵑崠崒୞ੌ
৹ਪ੥ટ
0%
20%
䛿䛔
40%
78
60%
䛔䛔䛘
80%
22
17
⏨Ꮚ
ዪᏊ
0%
20%
56
51
䛿䛔
40%
60%
䛔䛔䛘
80%
44
49
ೂ཯఻嵣ೂ཯ఇ峼ੴ峍峐岮峨峁峉岵‫ء‬
⏨Ꮚ
83
+,9峒$,'6峘ୀ岮峕峎岮峐
৶ੰ峑岷峨峁峉岵‫ء‬
ዪᏊ
৹ਪ੥ટ
100%
100%
⏨Ꮚ
ዪᏊ
0%
16
20%
41
60%
䛔䛔䛘
40%
䛿䛔
84
59
80%
100%
崛嵛崱嵤嵈峑ਙ૎ഉඪ峼੒ଆ峑岷峵峒
ੴ峍峐岮峨峁峉岵‫ء‬
ম౸঵峕ৌ峁峐঳৒峘৶ੰ岶岬峍峉岞
+,9$,'6఺峝ਙઇ୘峕ৌ峃峵ੴ௙岶ਂଌ峁峐岮峵হ岶ቯ岲峵峉峫岝
଄ফಽ峢峘ಲਢ৓峔৅ਦ岶পજ峒岮岲峵岞
র৾েਔ௙৹ਪ੥ટਾઔ
ৱમ
ৱમ
‫ٴ‬ৰ઱঩‫؟‬ফা঩‫ق‬া‫ ك‬
‫ٴ‬ৌ଴‫؟‬পଚ৘৔ᎍর৾ૅফে੡
‫ৃٴ‬ਚ‫؟‬঱੶র৾ૅ৬୘ை
‫ٴ‬ৰ઱৔ઍ‫؟‬ஜଚ੔ে峼൥ప峕ಶ岲峉岝+,9$,'6峕ঢ়峃峵౸঵峘ெ஘峼ল୑ઽஈ
峁峐ଣଛ岞
ಡ峅峐岝૞ਸ峁峉র৾ে৸৩峕岣+,9$,'6峕ঢ়峃峵ਔ௙৹ਪ岤峼ৰ઱岞
ಒ೬峩峘৏岝૞ਸ঻岵峳੡峙岝崐崽崐嵈পଚ崡崧崠崒峑ஜଚ੔ে峕ઑਖ嵣
ସਖ峼ষ岮峨峁峉岞
‫ٴ‬ଣଛ঩‫؟‬া঩岝঩
া঩岝঩
‫ٴ‬ਔ௙৹ਪ৚ਯ‫؟‬ফে੡ী‫ق‬੬৕‫؟‬੡岝੓৕‫؟‬੡‫ك‬
‫ٴ‬੥ટ‫ع؟‬嵂嵤崠૞ස
ৰ઱໪ਏ
র৾ে峢峘ল୑౸঵嵣ਔ௙৹ਪਾઔ
124
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
‫ٴ‬ৰ઱঩‫؟‬ফা঩‫ق‬঩‫ ك‬
‫ٴ‬৫ಈ崌嵁嵛崰‫؟‬岣౪ൡ൙崒嵤崧嵈崹嵤崮崋岤
‫ৃٴ‬ਚ‫؟‬岣崐崌崢੒ଆଃ੮஘岤崾嵤崡৔
‫ٴ‬ৰ઱৔ઍ‫؟‬岣+,9$,'6峕ঢ়峃峵ਔ௙৹ਪ岤峕৚௦岮峉峊岹
‫ق‬৚௦঻峙482崓嵤崱৞ী¼੡岝৸বુৢ௲ో૲ૹષଊ৞ী¼੡岶ਊ峉峵
ྴ৭ভ峕૞ਸ‫ك‬岝୞ੌ崡崮崫崓嵤嵣崧崌嵈崮嵤崾嵓峘ଦഘ
‫ٴ‬થ஍৚௦ਯ‫؟‬੡‫ق‬৸ਖ৚௦঻‫پك‬ਔ௙৹ਪ௠峘ଦഘਯ峙
‫ٴ‬੥ટ‫ع؟‬嵂嵤崠૞ස
ৰ઱໪ਏ
⋇౪ൡ൙崒嵤崧嵈崹嵤崮崋 岣崐崌崢੒ଆଃ੮岤崾嵤崡৔ણ৷ਾઔ
‫ٴ‬ঽ૓峑岮岮峔峒ઓ峍峉
‫ٴ‬峓峽峔ਞ੅峋峔峽峊峷嵤峍峐ઓ峍峉
‫ٴ‬岮峷峽峔য岶岮峵峽峊峔峒ઓ峍峉
૮ঢ়ੱ峑岬峵峒峬岮岲峵
‫஀ٴ‬岷峔峲岰峕ে岷峐岮峐岴峬峁峷岮峁岝岮岮য岶
੗岮岵峳஀岷岞
‫ٴ‬ఢ峴峕峙岮峔岮峘峑峃岶岝峇岰岮岰য峒লভ峍峉峳
৶ੰ峁峲岰峒ઓ岮峨峁峉岞
‫ٴ‬ബৌ峕ုৄ峼峬峍峐峙岮岻峔岮峒ઓ峍峉岞
‫ٴ‬ਙશ峒ੱ岶ୀ峍峐峬岝峇島峼਀峕ল峁峐ൡ‫ر‬峒
峁峐岮峵岵峳岮岮峒ઓ岰岞
‫ٴ‬೑ཿ峃峵岹峳岮峔峳ঽী峘ਞ੅峋峼ল峁峉্岶
௫峊峒ઓ岮峨峃岞
‫ٴ‬崊嵉嵒崓峑峙৊ਙ峑峘੥ฬ峬ੳ峫峳島峉峘峑岝
岽島岵峳峇岰岮峍峉岽峒岶ঽ૓峕峑岷峵峲岰峔਼ੀ
峕峔島峚岮岮峔峒ઓ岮峨峁峉岞
ৱમ
ৱમ
/*%7峕ৌ峁峐岝
శଞ峕஀ਔ৓
+,9$,'6峕峎岮峐ੂ峫峐અ岲峉嵣
ੴ௙峼੅峍峐岮峔岵峍峉峒岮岰ଢ岶
శଞ峕੗岮
‫ٴ‬ୢ৾峙঩‫ر‬૗৲峁峐岮峵峒峹岵峍峐਍ੱ峁峨峁峉
‫ٴ‬岽島峨峑峙岬峨峴੺ఞ峳峔岮峑岴岽岰峒ઓ峍峐岮峨峁峉岞
峑峬০঩ਵ峼岷岮峐ঽே峕൤ৢ峕ம峁峐岮岽岰峒ઓ岮峨峁峉岞
峇峁峐ঽী峙峇峽峔୰ਞ峕岵岵峳峔岮峲岰峕峁峍岵峴੒ଆ峁峐
岮岷峉岮峑峃岞
‫ٴ‬崐崌崢峕岵岵峍峉峳નৰ峕ଈ峖峒ઓ峍峐峉峁岝৊峂৖ો峕
岮峐峬岰峎峵峒ઓ峍峐峉岞
‫ٴ‬+,9嵣崐崌崢峘য峍峐峇峽峔峕੗岵峍峉峘岵峒ຐ岷峨峁峉岞
‫ٴ‬૎ഉ峼੒ଆ峃峵ੁ峼ੴ島峉峘峑峲岵峍峉峑峃岞
ମ੺峕峇峘峲岰峔য岶岮峔岮峘峑અ岲峉岽峒峙峔岵峍峉岻峓岝
૘峁੺ఞ峴岶峉岮峒ઓ峍峐岮峨峁峉岞
峨峉岝౎যহ峑峙峔岮岽峒岶峹岵峍峐峝峍岹峴峁峨峁峉岞
‫ٴ‬$,'6峼৅ඪ峃峵峒ಝ岹峔峍峐峁峨岰峒ઓ峍峐岮峉峘峑
峝峍岹峴峁峨峁峉岞
‫ٴ‬০৚峘ਵ峼ୂ岮峐岝൤ৢ峕েણ峁峐岮島峚পຣ୏峔峽峊峒
਍ੱ峃峵峒ુ峕岝峇島峼ੴ峍峐岮峵峊岻峑ঽী峮ఢ峴峼
೰岲峵岽峒岶岬峵峒൱૎峁峨峁峉岞
4嵔崢ҩ崚崌嵣崸崌崣崗崟嵋嵓嵣崰嵑嵛崡崠崏嵛崨嵤峔峓岝
ਙ৓૘ਯ঻ਙ৓嵆崌崶嵒崮崋峒ళ峚島峵য‫ر‬峕峎岮峐岝
০঩峘൥ଝ峼ല岮峐峓峘峲岰峔૎୳峼੅峋峨峁峉岵‫ء‬
৹ਪ੥ટ
4০঩峘൥ଝ峼ല岮峐岝ઓ峍峉峴岝
અ岲峉岽峒峙岝峓峽峔岽峒峑峃岵‫ء‬
র৾েਔ௙৹ਪ੥ટਾઔ‫ق‬ঽ૓৚௦ჷ峲峴‫ك‬
ਁଃ 崐崌崢੒ଆଃ੮‫ط‬পଚ崟崮崋ਦ৷সಛ‫ ط‬ઙ ঢ়ਧ崊嵤崸嵛਒ষ‫ਁ ط‬ଃ ব੠୨峒෤峘೗༮ভ੶୛ੈভ‫ط‬
ઙ পீૈ௳ો௲ో૲‫ ط‬ઙ ❅ਣો‫ ط‬ઙ ೔রੵਜ૲‫ ط‬ઙ 崯崋崗崣嵓‫ط‬વਲਗ਼ਞள੊ ઙ ‫ط‬਴ਆૹহ ઙ ‫ط‬
ઙ ீ੩‫ط‬ਕഇঽ৿੤ੵ঵ ઙ ‫ ط‬ઙ 嵌嵆崷嵇嵍嵤崠崫崗崠嵋崹嵛‫ط‬嵌嵛嵆嵤 ઙ ‫*ط‬/,21*5283‫;(;ط‬:(67
঳঺ 26$.$岬岵峵崗嵑崾
‫ٴ‬ৰ઱঩‫؟‬ফা‫ ع‬
‫ٴ‬ৰ઱৔ઍ‫؟‬岣/29(ٔ5('岤્ਝ崝崌崰峕ਝ઼峁峉岣+,9$,'6峕ঢ়峃峵ਔ௙৹ਪ岤峕
৚௦岮峉峊岹
‫ٴ‬થ஍৚௦ਯ‫؟‬੡‫ق‬৸ਖ৚௦঻‫ك‬
‫ٴ‬੥ટ‫ع؟‬ᅚ૞ස
ৰ઱໪ਏ
⋈岣/29(ٔ5('岤્ਝ崝崌崰 ਔ௙৹ਪ੥ટਾઔ
‫ੈٴ‬එ嵣ੈৡ
‫ٴ‬਌ಈ‫؟‬౪ൡ൙崹嵤崮崋嵤ৰষ੻৩ভ
পଚਿ‫ط‬পଚ৘‫ط‬বଅઐৢ੄੺ྡ৉্ତ૟ଂ‫ਁط‬இ঺੮১যঢ়ਧ৽ੋ৴়ভ‫ط‬পଚૹੵভ৮ਚ‫ط‬
঳ಹ঺੮১যঢ়ਧ৽ੋ৊௵ভ‫ਁط‬இଃ੮১যঢ়ਧ嵣পଚ਼౶ੈভ‫ਁط‬இଃ੮১যপଚ௴୾ଂ‫ط‬౪ൡ൙峨峋峏岹峴
崵崫崰嵗嵤崗‫ط‬পଚਿૹ૲ඌஷ௪ੌ়৴়ভ‫ط‬132১য౪ൡ൙嵣শ൘਼౶峘ভ‫ط‬র౓ਣ嵣౪ൡ൙6%-৴൪ੈ৮ভ
‫ٴ‬ৰ઱঩ৎ‫؟‬ফা঩‫ق‬঩‫ عك‬
‫ٴ‬৫ಈ崌嵁嵛崰‫؟‬岣౪ൡ൙崒嵤崧嵈崹嵤崮崋岤
‫ٴ‬崌嵁嵛崰৔ઍ‫؟‬পଚ峘ੱට嵣౪ൡ൙峼నষ঻ଠব峒峁峉পૠெ崌嵁嵛崰
崽崏嵑嵤嵒)峘னં嵣পষਤ峼峙峂峫岝
ঽ੘৬峮崘嵓嵉峔峓੗ཪ峔岝峘崾嵤崡岶౪ൡ൙峕ૐ੥
峇峘র峘‫ڭ‬峎峕岣পଚ崐崌崢崎崋嵤崗崡岤崾嵤崡峼লன
౪ൡ൙崒嵤崧嵈崹嵤崮崋 崌嵁嵛崰໪ਏ
ৱમ
ৱમ
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
125
65%
嵒崡崲嵤
35%
岮岮岲
峙岮
䛔䛔䛘
䛿䛔
4 +,9ਫ਼ਪ岶૮મᅮ੡峑
ਭ岻峳島峵岽峒峼岾ோੴ峑峃岵‫ء‬
崌嵁嵛崰૞ਸ঻
৹ਪ੥ટ
34%
55%
66%
45%
䛔䛔䛘
䛿䛔
䛔䛔䛘
䛿䛔
4 +,9ਫ਼ਪ峙峓岽峑ਭ岻峵岽峒岶
峑岷峵岵岾ோੴ峑峃岵‫ء‬
30%
34%
70%
66%
ৱમ
䛔䛔䛘
䛿䛔
䛔䛔䛘
䛿䛔
4 崐崌崢峙੘௜ఇ岶岬峴ཿਙ峘
୰ਞ峑岬峵হ峼岾ோੴ峑峃岵‫ء‬
崌嵁嵛崰峑峘৚௦঻峘ੴ௙峙঳৒嵔嵁嵓峕岬峵峒岮岲峵岶岝
໪峁峐୞ੌ嵒崡崲嵤峘্岶৶ੰ২峙ৈ岮岞
ਔ௙৹ਪ੥ટਾઔ‫ৢુق‬৚௦‫ك‬
ৱમ
嵣4 ਙ৓૘ਯ঻峼峙峂峫岝஘‫ر‬峔੗஘ਙ峼ੳ峫峵৿岷峕峎岮峐岬峔峉峙峓岰岴અ岲峑峃岵‫ء‬
嵣4 岬峔峉峘ఢ峴峕৊ਙఎ峘য岶岮峵ৃ়岝౎峘য峒৊஘峕ம峃峵হ岶峑岷峵峒ઓ岮峨峃岵‫ء‬
્ٛਝ崝崌崰峘峩ٜ
嵣೜ક৉
嵣ফೡ
嵣ਙશ
嵣4 +,9ਫ਼ਪ岶૮મᅮ੡峑ਭ岻峳島峵岽峒峼岾ோੴ峑峃岵‫ء‬
嵣4 +,9ਫ਼ਪ峙峓岽峑ਭ岻峵岽峒岶峑岷峵岵岾ோੴ峑峃岵‫ء‬
嵣4 崐崌崢峙੘௜ఇ岶岬峴ཿਙ峘୰ਞ峑岬峵হ峼岾ோੴ峑峃岵‫ء‬
嵣4 ਠ૔঩ম峑峙+,9૎ഉ঻嵣$,'6೩঻岶ੜਸ峁峐岮峵峒ઓ岮峨峃岵‫ء‬
嵣4 +,9૎ഉ঻嵣$,'6೩঻峘ৗૠਾઔ঻ਯ峕岴岻峵পଚਿ峘৸বದਜ਼峙‫ء‬
嵣4 +,9૎ഉ঻岶ઞ৷峁峉୫ஓ峼ુથ峁峉峴岝඼ু峮崕崡峼峁峉峳+,9峙૎ഉ峁峨峃岵‫ء‬
嵣4 +,9峙ਙઐ௱峑૎ഉ峃峵峒ઓ岮峨峃岵‫ء‬
嵣4 +,9峕૎ഉ峁峉峳岝峃岺$,'6峼৅ඪ峃峵峒ઓ岮峨峃岵‫ء‬
嵣4 +,9岵峳$,'6峘৅ඪ峼೪岲峵ఇ岶৫৅岿島峐岮峵峘峼岾ோੴ峑峃岵‫ء‬
嵣4 ௵য峮ੴ峴়岮峕崐崌崢೩঻峮+,9഻ਙ峘্峙岮峨峃岵‫ ء‬
ٛુৢٜ
৹ਪ௠
ਔ௙৹ਪ ৹ਪ௠
೜ક৉
89%
81%
䛭䛾௚
රᗜ
኱㜰
䛭䛾௚
ி㒔
ዉⰋ
රᗜ
኱㜰
9%
91%
嵒崡崲嵤
87%
崌嵁嵛崰૞ਸ঻
䛔䛔䛘
䛿䛔
䛔䛔䛘
䛿䛔
4 ਠ૔঩ম峑峙+,9૎ഉ঻嵣
$,'6೩঻岶ੜਸ峁峐岮峵峒
ઓ岮峨峃岵‫ء‬
13%
31%
31%
25%
23%
18%
%1
5%4%
12%
1%
3%
%
5%
5
12%
16%
14%
%
ফೡ
70௦௨ୖ
60௦
50௦
40௦
30௦
20௦
10௦
70௦௨ୖ
60௦
50௦
40௦
30௦
20௦
10௦
49%
54%
৹ਪ੥ટ
51%
46%
ਙશ
৹ਪ੥ટ
21%
%
33%
29%
37%
3%
%6%
23
23%
11%
3%
7% 1
16%
11%
%
5఩
4఩
3఩
2఩
1఩
11఩௨ୖ
6䡚10఩
5఩
4఩
3఩
2఩
1఩
4 +,9૎ഉ঻嵣$,'6೩঻峘
ৗૠਾઔ঻ਯ峕岴岻峵পଚਿ峘
৸বದਜ਼峙‫ء‬
83%
81%
17%
19%
䛔䛔䛘
䛿䛔
䛔䛔䛘
䛿䛔
4 +,9૎ഉ঻岶ઞ৷峁峉୫ஓ
峼ુથ峁峉峴岝඼ু峮崕崡峼峁峉峳
+,9峙૎ഉ峁峨峃岵‫ء‬
পଚਿ峘+,9૎ഉ঻ਯ嵣$,'6೩঻峘ৗૠਾઔ঻ਯ峕ৌ峃峵
ದਜ਼峕峎岮峐岝嵒崡崲嵤峘্岶峲峴ৈದਜ਼峕ਜ਼઼峃峵峒૎峂峐岮峵হ岶ቯ岲峵
ਔ௙৹ਪ੥ટਾઔ‫ৢુق‬৚௦‫ك‬
14%
%
5%
嵒崡崲嵤
5% 3%
1% 2%
崌嵁嵛崰૞ਸ঻
೜ક৉峙岮峄島峬পଚ岶প઄
ফೡ峙崌嵁嵛崰峘্岶峮峮ৈ岮岞
౪ൡ൙崒嵤崧嵈崹嵤崮崋 崾嵤崡৔ਔ௙৹ਪ੥ટਾઔ
ৱમ
ৱમ
ዪᛶ
⏨ᛶ
ዪᛶ
⏨ᛶ
126
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
34%
95%
5%
66%
/*%7峘্‫ر‬峕ৌ峁岝໪峗஀ਔ৓峔ഀ଴峼੅峍峐岮峵岞
ফ৻શ峕ৄ峵峒岝৻ਰ঱峘্‫ر‬峢峘৶ੰ峙࿅峁岮ൊ਱峕岬峵
৹ਪ੥ટ
ৱમ
ৱમ
䛔䛔䛘
䛔䛔䛘
90%
䛿䛔
10%
4 +,9峕૎ഉ峁峉峳岝峃岺$,'6峼
৅ඪ峃峵峒ઓ岮峨峃岵‫ء‬
䛿䛔
䛔䛔䛘
䛿䛔
4 +,9峙ਙઐ௱峑૎ഉ峃峵峒
ઓ岮峨峃岵‫ء‬
ਔ௙৹ਪ੥ટਾઔ‫્ق‬ਝ崝崌崰峘峩‫ك‬
嵒崡崲嵤
崌嵁嵛崰૞ਸ঻
৹ਪ੥ટ
ਙઐ௱峑峘+,9૎ഉ岶਌峔૎ഉ৽ଡ଼峑岬峵ਡ峕峎岮峐岝
୞ੌ峑ਯ੗岹৅ਦ峁峐岮峵হ峬岬峴岝嵒崡崲嵤峘৶ੰ২峙ৈ岮岞
ਔ௙৹ਪ੥ટਾઔ‫ৢુق‬৚௦‫ك‬
70%
60%
䛔䛔䛘
䛔䛔䛘
䛔䛔䛘
䛔䛔䛘
崝嵅嵤崰峼岴ൢ岮峁峐岮岷峉岮岞
ৱમ
⋊崡嵅嵛崝嵤峒峘崧崌崊崫崿
঱੶峕੶ൗ峁峉୞ੌ嵣崌嵁嵛崰嵣ઁਾણ৿峼੍ର峁峐岹島峵੫঵峼ৄ峎岻ল峁岝்ઁ岮ણ৿峼峃峵
୞ੌ峘35嵣ਔ௙৹ਪ峘৴௚峼ষ岮峉岮岞
峇峘峉峫峕岝ਊଢ଼஢ྉ峕岾ੈৡ峬岮峉峊岷岝পଚਿ嵣পଚ৘嵣༑৘峼峙峂峫峒峁峉ঢ়ਧ峘
૚ঽ੘৬峕ੈৡ峼ਏட峁岝峲峴ઁ岹৅ਦ峑岷峵崿嵕崠崏崗崰峒峁峐岮岷峉岮岞
⋉ঽ੘৬峒峘৴௚
ઃফ২ৰ઱峃峵ৃ়岝০ফ২峘ৰౚ峼੦峕岝ঽ੘৬峒峬৴௚峁峔岶峳岝
岿峳峕௕峍峐岮岷峉岮岞
嵣ਁ৫ઽஈ峼ැ峗峉ল୑౸঵
嵣峃峑峕ણ৿峼岿島峐岮峵৾ૅ峒峘৴௚
⋈଄ফಽ峼ඕ岷੢峽峊崿嵕崠崏崗崰峘௓ਤ
+,9$,'6峕ৌ峁峐્峕ੴ௙峘ු岮র৾嵣ৈૅ嵣প৾峒岮峍峉଄ফಽ峕ৌ峃峵崊崿嵕嵤崩峼
ৱમ
䛿䛔
䛿䛔
94%
6%
䛿䛔
䛿䛔
96%
4%
4 ௵য峮ੴ峴়岮峕崐崌崢೩঻峮
+,9഻ਙ峘্峙岮峨峃岵‫ ء‬
৹ਪ੥ટ
ਗ਼ణ岶਌峒峔峵峬峘峘岝Ⴈ঺਌ಈ嵣৏ର崌嵁嵛崰峕岴岮峐岝35崾嵤崡峼লன峁峉峴岝
ম崿嵕崠崏崗崰峼਌峒峁峉崌嵁嵛崰峼ৰ઱峃峵峔峓岝
崐崽崐嵈嵑崠崒ଂ峒峁峐峘崛嵛崮嵛崬峼ে岵峁岝ઁ岮ཟ৅ણ৿峼௓ਤ峁峐岮岷峉岮岞
30%
40%
⋇Ⴈ঺崛嵛崮嵛崬峼ে岵峁峉ཟ৅ણ৿
ୖ਻峒০৏峘ன஦
嵒崡崲嵤
崌嵁嵛崰૞ਸ঻
4 +,9岵峳$,'6峘৅ඪ峼೪岲峵ఇ岶
৫৅岿島峐岮峵峘峼岾ோੴ峑峃岵‫ء‬
ਔ௙৹ਪ੥ટਾઔ‫ৢુق‬৚௦‫ك‬
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
127
128
17
受検者の携帯を用いた効果モニターシステムの開発
研究代表者:白阪 琢磨(国立病院機構大阪医療センター
HIV/AIDS 先端医療開発センター)
研究協力者:幸田
進(有限会社ビッツシステム)
研究要旨
「HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究」(以降、
「前研究」とする)にて開発し運用している、
携帯電話またはスマートホン(以降、「携帯電話」とする)の WEB 機能を使った HIV 検査予約システムを
継続運用し、HIV 検査の現場においての携帯電話の WEB 機能を使った HIV 検査予約システムによる HIV
検査誘導が有効である事を確認するとともに、更に効果的な利用方法を模索する。
研究目的
前研究で開発し HIV 検査機関にて運用している
ステムの浸透評価を行い、また、評価データから効
果的な HIV 検査促進のためのキャンペーンポイント
HIV 検査予約システムに対して、HIV 検査を受検す (どのような層にはどのようなキャンペーンが効果
る受検者の動向をモニターするツールを開発しデー
的か。など)を検討する。
タの分析と評価を行い、HIV 検査予約システムによ (倫理面への配慮)
る検査誘導効果を検証する。
HIV 検査予約システムからの利用状況データ取得
にあたっては集計結果データのみを収集するものと
研究方法
し、収集したデータの取り扱いには十分注意する。
HIV 検査予約システムが稼動する事で得られる利
アンケートの実施についてはあらかじめ利用者に対
用履歴データをモニターするツールを作成し、HIV
して携帯画面上にて文章にて説明した上で実施する
検査予約システムによる検査誘導効果を検証する。
事とした。
また、モニターツールを活用し、行政機関や各種
団体が HIV/AIDS 関連キャンペーン / イベントを
実施した際の利用状況の変化をモニターする事で、
研究結果
HIV 検査予約システムは平成 28 年 1 月現在、3
HIV 検査予約の視点からのキャンペーン / イベント
機関にて稼動中で“図1 HIV 検査予約システム利
効果を評価する。
用状況”に示すようにいずれの検査機関でも非常に
HIV 検査を希望する受検希望者に対して、携帯
高い予約率を維持している状況であり、一定の利用
電話上で動作可能なアンケートシステムを開発し、 者層がある事が確認された。
HIV 検査予約システムと連動して稼働させる事で
HIV 検査予約システムでは、利用履歴データは検
HIV 検査を希望する受検希望者の動向を調査し評価
査終了後速やかに削除される仕様となっているため
する。
利用履歴データから直接の効果をモニターする事は
本研究で収集したアンケート結果と、検査機関が
できない。このため、本年度研究では履歴データを
独自に実施しているアンケート等とのデータ比較を
集計した集計結果データを毎日自動的に作成するプ
行い、携帯電話を利用した HIV 検査予約システムの
ログラム改良を実施した。
利用者との利用者層の差異評価や HIV 検査予約シ
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
今回、実施した主な改良項目は以下のとおりであ
る。
129
行った。広域なキャンペーン/イベント等の場合の
地域的な差異をモニターできるようにした。
・ 時間帯別利用状況の集計データ構築プログラム追加
1時間単位での利用件数を集計
アンケートシステムについては“図3 WEB アン
ケート呼び出しイメージ”に示すように、HIV 検
・ 日単位利用状況集計データ構築プログラム追加
査予約システムに対して検査予約が完了した時点
1日単位での利用状況を集計
で WEB アンケートシステムを呼び出す機能改良を
・ WEB アンケート呼び出し機能追加
行い、これと連動して動作する WEB アンケートシ
アンケートプログラムを呼び出す機能
ステムを構築した。アンケートシステムでは“図
・ 利用集中検知プログラム
4 WEB アンケートシステムイメージ”に示すよう
利用が極端に集中している状況が発生した際の通
にプログラム部分とアンケート項目部分とを切り離
知
し、アンケート項目の追加変更等を容易に行えるよ
また今回の改良では、システムが稼動している検
う設計した。具体的なアンケート項目の検討と実装
査機関を検査機関の枠を超えてシステム全体として
は次年度とした。
の状況をモニターできるように集計データの設計を
集計期間:H27.1/1~12/31
検査機関 A
毎日実施
通常21人/Day
予約者数:7,139人 (予約率:99%)
検査機関 B
第2,4日曜日
40~43人/Day
予約者数: 934人 (予約率:99%)
検査機関 C (H27.10~)
第1,3土曜日
通常62人/Day
図1
予約者数: 340人 (予約率:100%)
HIV 検査予約システム利用状況
௒ᅇసᡂ䝥䝻䜾䝷䝮
ண⣙
䠍᪥༢఩䛾฼⏝
≧ἣ㞟ィ䝕䞊䝍
ᵓ⠏䝥䝻䜾䝷䝮
䠍᪥༢఩䛾
฼⏝≧ἣ
㞟ィ䝕䞊䝍
ண⣙ᐇ⦼
䝕䞊䝍
᫬㛫ᖏู䛾฼⏝
≧ἣ㞟ィ䝕䞊䝍
ᵓ⠏䝥䝻䜾䝷䝮
᫬㛫ᖏู฼
⏝≧ἣ㞟ィ
䝕䞊䝍
䞉ྜィᯟᩘ
䞉ྜィண⣙⪅ᩘ
䞉ྜィ䜻䝱䞁䝉䝹
䞉ྜィኚ᭦
䞉⏨ዪ
䞉ᖺ௦
䠍᫬㛫༢఩䛾
฼⏝⪅ᩘ䛾㞟ィ
ྂ䛔䝕䞊䝍䜢
ᐃᮇⓗ䛻๐㝖
䝕䞊䝍๐㝖
䝥䝻䜾䝷䝮
฼⏝㞟୰᳨▱䝥
䝻䜾䝷䝮
10ศ䛾䛒䛔䛰䛻10௳䛾Ⓩ㘓䛜
䛒䛳䛯䜙⟶⌮⪅䛻䝯䞊䝹㏻▱
図2
追加プログラムと集計されるデータ
⟶⌮⏝ᦠᖏ
図3
WEB アンケート呼び出しイメージ
130
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
ண⣙᏶஢ᚋ
㡯┠䝕䞊䝍䜢ᕪ䛧᭰䛘䜛஦䛷
䛔䛴䛷䜒ኚ᭦ྍ
䜰䞁䜿䞊䝖
䝥䝻䜾䝷䝮
ㄞ䜏㎸䜏
㡯┠䜢ᒎ㛤䛧䛶⾲♧
図4
䜰䞁䜿䞊䝖
㡯┠
䝕䞊䝍
⤖ᯝ䛿㟁Ꮚ䝯䞊䝹䛷㏦ಙ
WEB アンケートシステムイメージ
平成 27 年 11 月 17 日に米国の著名俳優が HIV 感
あった。これは、平成 26 年 10 月 20 日にテレビ朝
染を告白した事で各種メディアによって HIV/AIDS
日にて放送された「ビートたけしの TV タックル(タ
が改めて取り上げられ注目されたが、HIV 検査予約
イトル:
「中高年を襲う「いきなりエイズ」忘れるな!
システム上では“図5
平成 27 年 11 月度利用状況” エイズ最前線」)の時と大きく異なる結果であった。
に示すように表立った変動は確認できない結果で
検査機関 A
140
120
100
予約者数
80
60
40
20
0
図5
平成 27 年 11 月度利用状況
900
1,502
1,000
300
南新宿検査室HP訪問者数
検査予約到達数
250
750
~
~
訪問者数
600
200
450
150
300
100
150
50
0
0
図6
TV タックル放送による予約状況変化
検査予約数
~
~
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
考察
131
健康危険情報
本年度研究では、HIV 検査予約システムに対し
該当なし
て受験者の動向をモニターするための基礎データを
作成するプログラム改良までに留まったが、改良し
た HIV 検査予約システムが収集する集計データやア
研究発表
該当なし
ンケート結果データを組み合わせて評価する事で、
HIV 検査予約システムのより効果的なポジションで
の使い方が模索できるものと思われる。また、行政
機関や各種団体の HIV/AIDS キャンペーン/イベン
ト実施時の動向を、集計データやアンケート結果を
組み合わせて評価する事で、キャンペーン/イベン
トにより HIV 検査を促進する効果がどの程度あった
かを HIV 検査予約システムの利用状況の変動の面か
ら観測する事ができるため、実施キャンペーン/イ
ベントがどのような年齢層に作用していたのか、男
性に作用しているのか、女性に作用しているのか、
地域限定なのか広範囲に作用しているのか、などを
評価する事ができるようになるため、より効果的な
キャンペーン/イベントの実施に繋がるデータが収
集できるものと思われる。
結論
今年度の HIV 検査予約システムの運用では、現
在稼動している3検査機関の予約率は何れも 99 ~
100%を常時維持し、HIV 検査予約システムとして
年間で約 9,500 人規模の受検希望者データを収集で
きるに至っている。
本年度研究では評価の基礎となる集計データを収
集するために前研究で構築した HIV 検査予約システ
ムへのデータ集計機能の実装およびアンケートシス
テムの構築に留まり、具体的なモニター項目やアン
ケート項目の検討は次年度としたが、米国著名俳優
の HIV 感染告白によって HIV/AIDS が大きく注目
される機会があり、これが HIV 検査にどう影響する
ものかをデータ的にモニターできる機会があった。
しかし結果は“図5
平成 27 年 11 月度利用状況”
に示すように HIV 検査予約システム上では変化が現
れない結果となり、HIV/AIDS がメディアの話題に
大きく取りあげられ注目されたが、観察した 3 機関
は必ずしも HIV 検査の受検者数の増加につながって
いない結果があった。これは、以前のエイズ番組報
道の反応と異なる結果であった。
知的財産権の出願・取得状況 (予定を含む)
該当なし
132
18
啓発手法の効果の評価に関する研究
研究分担者: 江口
有一郎(佐賀大学医学部肝疾患医療支援学講座・消化器病学、
肝臓病学(佐賀大学医学部))
研究協力者: 遠峰
良美 (株式会社キャンサースキャン
介入研究事業部)
網野
舞子 (株式会社キャンサースキャン
介入研究事業部)
研究要旨
HIV 検査の啓発手法の開発と効果測定システムの確立を目的とし、肝炎対策でその効果が実証されたソー
シャルマーケティング手法に基づき、ターゲットセグメントごとの行動制御要因を明らかにするためのイン
ターネットによる行動疫学調査を実施した。行動疫学調査に至る前段階として、
HIV 感染のハイリスクグルー
プである MSM を対象とした半構造化面接を実施し、個々人における HIV 検査受検の促進要因および阻害要
因を把握した上で仮説を構築し、その仮説を基に調査項目を策定した。行動疫学調査においては、今後の啓
発の主なターゲットとなり得る性交渉経験のある 18 歳から 49 歳男性(HIV 感染のハイリスクグループであ
る MSM 含む)を対象とし、1,200 名(うち、MSM600 名)からの有効回答を得た(実施時期:2015 年 12 月
18 日〜 22 日)
。統計解析の結果、HIV 感染のハイリスクグループである MSM(特に、ゲイ・バイセクシャ
ルを自認するもの)においては、その受検意図ごとに大きく異なる特徴が認められ、それらのセグメントを
分かつ制御要因が特定された。
これらの結果を踏まえ、次年度においては、優先的に啓発を行うべきセグメントについて慎重な検討を加
えた上で、
ターゲットとするセグメント(受検意図)に焦点を当てた具体的啓発メッセージを開発し、
パイロッ
ト地区(大阪地区)における介入を実施して、その効果検証を行うものとする。
研究目的
HIV 感染症の治療における近年の目覚ましい進歩
であり、そのための、有効な普及啓発手法の開発の
必要性が指摘されている。
で HIV 感染症は慢性疾患と位置づけられ、感染者は
本研究においては、個人においては早期発見と早
寿命を全う出来る時代となった。しかし、治癒は無
期治療、社会においては感染の拡大防止に結びつく
く、生涯治療費も高額(約 1 〜 2 億円)であり感染
早期発見に焦点を当て、肝炎での実践経験に立脚し
者および国に与える影響は未だに軽視できない。エ
たソーシャルマーケティング手法による、ターゲッ
イズ動向委員会の報告によれば、わが国の年間新規
トセグメントごとの行動制御要因を踏まえた HIV 検
HIV 感染者および新規 AIDS 患者の報告数は合わ
査の啓発手法の開発と効果測定システムの確立を目
せて、2007 年以降、およそ 1500 件台で推移してお
指す。
り、横ばい傾向にある。同様に、年間の新規 HIV 感
ソーシャルマーケティングとは、社会的に推奨さ
染者報告数と新規 AIDS 患者報告数の合計数に占め
れる行動を普及させるための戦略的なプロセスであ
る AIDS 患者の割合(いわゆる、いきなりエイズ率) るが 1)、公衆衛生分野に特有の科学哲学や手法を取
も約 3 割で、横ばい傾向で推移している。過去約 30
り入れるために、諸外国における疾病予防・健康増
年間、一次予防・二次予防に関する様々な普及啓発
進行動の普及にかかる方法論(表 1 参照)もあわせ
が行われてきたが、感染防止・早期発見いずれの側
て参考にした。
面においても、この横ばい傾向を打開する事が必要
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
133
表 1.諸外国における疾病予防・健康増進行動の普及にかかる方法論
国
カナダ
アメリカ
機関名
Health Canada Social Marketing
Division
National Center for Health Marketing
National Social Marketing Centre
設立年
1981
2004
2006
所轄組織
Health Canada
Centers of Disease Control and
Prevention
National Consumer Council
関連施策
Lalonde Report(1974)
Futures Initiative(2003)
Choosing Health White Paper (2004)
ウエブ
サイト
http://www.hc-sc.gc.ca/ahc-asc/
activit/marketsoc/index-eng.php
http://www.cdc.gov/
healthmarketing/
http://thensmc.com/
特に本年度は、今後の啓発の主なターゲットとな
イギリス
ち、HIV 検査過去受検者 5 名、未受検者 3 名 )
り得る性交渉の経験のある 18 歳から 49 歳男性(HIV 【リクルーティング手法】A 社保有のモニター登録
感染のハイリスクグループである MSM 含む)にお
者を対象に、事前にスクリーニング質問(インター
ける定量的な評価を通して、啓発の主なターゲット
ネットアンケート)をメール配信し、回答のあっ
とすべきセグメントを特定すると共に、彼らの HIV
た者のうち「18 歳〜 49 歳男性」・「同性との性的接
検査受検行動を促進するための有効な制御要因を
触経験がある」という条件に合致した者にインタ
明らかにすることを目的とする。これらの知見は、 ビュー調査への協力を依頼した。
H28 年度において HIV 検査の有効な啓発手法を開発 【実施日】2015 年 8 月 18 日〜 21 日
するための重要な基礎情報となる。
(倫理面への配慮)
研究参加者候補には、オンライン型のインフォー
研究方法
ムドコンセントによって研究目的や手法について事
1.制御要因に関する仮説の構築および調査項
前に説明し、承諾を得た上で調査会場への来場を依
目策定
頼した。また、面接開始前に再度口頭で説明を行っ
本研究では、HIV 感染のリスクがある者の、HIV
た上で、質問する機会、および同意するかどうかを
検査受検における制御要因を網羅的に理解・把握す
判断するための十分な時間を与え、本研究の内容を
る事が非常に大切となる。そのため、HIV 感染のハ
十分に理解したことを確認した上で、自由意思によ
イリスクグループである MSM を対象とした半構造
る同意を得た。
化面接を通して、個々人における HIV 検査受検の促
進要因および阻害要因を把握し、それらの知見を基
1-2.HIV 陽性者(8 名)に対する半構造化面接
に構築した仮説を基に、調査項目を策定した。研究 【調査方法】半構造化面接法による個別面接(90 分)
対象者が日々の生活の中でどんなことを考え、感じ 【対象者】独立行政法人国立病院機構大阪医療セン
て、信じているのか、そしてさらにその意識の背景
ターに通院中の HIV 陽性者 8 名(うち、自主検査に
にはどのような潜在的なニーズ、ウォンツ、価値観、 より陽性が判明した患者 5 名、通院に伴い付随的に
障害などの「深層心理(インサイト)」が存在して
陽性が判明した患者 3 名 )
いるのか、対象者の内面を深く理解することは、ソー 【リクルーティング手法】独立行政法人国立病院機
シャルマーケティング手法において重要なプロセス
構大阪医療センターに通院中の HIV 陽性者のうち、
の一つであるが、本研究では、広く一般からリクルー 「男性」かつ「過去 2 年以内に HIV 感染症と診断され、
トした MSM(8 名)に加え、HIV 陽性者(8 名)にも、 かつ当院に初回受診のため来院」という条件に合致
HIV 検査未受検時〜初回受検〜 2 回目以降の受検〜
した患者を看護師が選定し、文書および口頭で調査
受診・受療の経緯を振り返る形で、受検行動の促進
への協力を依頼した。
要因・阻害要因についての定性的な検討を行った。
【実施日】2015 年 9 月 4 日、5 日、10 月 26 日
(倫理面への配慮)
1-1.MSM(8 名)に対する半構造化面接
研究参加者候補には、調査研究開始前に、調査研
【調査手法】半構造化面接法による個別面接(90 分)
究担当者が研究目的や手法について文書および口頭
【対象者】同性との性的接触経験がある男性 8 名(う
で十分に説明を行った。研究参加者候補には質問す
134
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
る機会、および同意するかどうかを判断するための
説明し、承諾を得た後に質問票回答に進むシステム
十分な時間を与え、本研究の内容を十分に理解した
とした。また、質問票の回答途中であっても自由に
ことを確認した上で、自由意思による同意を得た。 研究参加を取りやめることが可能であることを付記
研究参加者候補から同意が得られる場合は、研究
した。
参加者候補からの同意文書等への署名または記名捺
研究結果
印、および同意年月日の記入を得た。
※独立行政法人国立病院機構大阪医療センター
倫
理研究審査(15049)
第 一 に HIV 感 染 の ハ イ リ ス ク グ ル ー プ で あ る
MSM における受検意図と受検経験、HIV 感染不安
や性行動、またソシオエコノミックステータスや
1-3.質問票構成内容
HIV に関する知識 / 認識の関係を把握する事を目的
質問票は、基本属性(年齢、居住都道府県、学歴、 とし、MSM を対象とした分析を実施した。MSM に
年収など)、HIV 検査の受検経験、受検行動への関
おいては、セクシャリティ認識が「ゲイ」(23%)
・
「バ
心、HIV/AIDS についての知識・主観的評価、HIV
イセクシャル」(34% )・
「ヘテロセクシャル」(36% )・
「そ
検査についての知識・主観的評価、HIV 治療につい
の他/分からない・答えたくない」(8% ) が混在した
ての知識・主観的評価、規範意識、性的指向、性行
が、受検経験や受検意図、感染不安や性行動に、ゲイ・
動(セックスの相手やコンドームの使用状況、売買
バイセクシャルと明らかに違いが見られた「ヘテロ
春の経験)、ゲイ男性との交友関係(ゲイの友人の
セクシャル」(36% )・「その他/分からない・答えた
数)、ゲイ向け商業施設(ハッテン場やゲイバーなど) くない」(8% ) を除き、ゲイ・バイセクシャルを自認
の利用状況、周囲との関係、HIV に関する周囲との
する MSM のみを対象に分析を行った。
会話の有無、健康行動(健康診断やがん検診受診経
験)、喫煙、アルコール・薬物使用状況、自尊心尺度、 1.ゲイ・バイセクシャルを自認する MSM にお
などから構成した。(別添 1 参照)
ける HIV 検査受検意図
ゲイ・バイセクシャルを自認する MSM において
2.日本在住の男性(HIV 感染のハイリスクグ
は、HIV 検査を「半年以内に受けたい」が 26%、
「い
ループである MSM 含む)を対象とした定
つかは受けたい」が 37%と、何らかの受検意図を持
量調査の実施
つものが過半数を占めた。一方で、「受けるつもり
【調査方法】B 社保有のモニター登録者を対象とし
はない」が 25%、
「分からない」が 12%であった(図 1)。
た無記名自記式のインターネット調査。回答システ
ムは、インターネット環境の多様化を鑑み、PC、ス
マートフォン、タブレット、携帯電話のいずれの端
12%
末からも回答可能な形で構築した。
25%
37%
26%
【対象者】性交渉経験のある 18 歳から 49 歳の日本
在住の男性 1,200 名(うち、MSM600 名を含む)。な
お、各年代における MSM と MSM 以外の男性の意
識の差異を比較するため、各年代(18 〜 29 歳、30
0%
N=347
【実施日】2015 年 12 月 18 日〜 22 日
【統計解析】研究参加者のセクシャリティや HIV 検
査の受検意図に基づき解析を行った。分析には、
SPSS と STATA を使用した。
(倫理面への配慮)
研究参加者には、オンライン型のインフォームド
コンセントによって研究目的や方法について事前に
分からない
40%
60%
つもりなし
80%
いつかは
100%
半年以内
図1
〜 39 歳、40 〜 49 歳)において MSM と MSM 以外
の男性それぞれ 200 名ずつの割り付けを行った。
20%
2.受検意図と受検経験の相関関係
「半年以内に受けたい」と回答したうち、78%に
は受検経験があった。一方で、「いつかは受けたい」
と回答していても、受検経験があるものは 52%に留
まった。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
OR=2.26
(p<0.05)
135
5.受検意図を分かつ制御要因(知識・主観的
OR=3.28
(p<0.001)
評価)
5-1.「半年以内に受けたい」vs.「いつかは受けたい」
ステップワイズ法(P<0.1)により変数選択をお
78%
こなったロジスティック回帰分析の結果、受検の意
図(「半年以内に受けたい」vs.「いつかは受けたい」)
52%
に影響する要因が明らかとなった(別添 2 参照)。
「半
32%
つもりなし・分からない(n=128)
いつかは(n=126)
半年以内(n=90)
受検経験あり
図2
*P 値は Wald 検定による
3.受検意図と感染不安 / 性行動
重回帰分析によると、感染の心配(P<0.001)や
6 カ月以内の経験人数(P=0.029)は、受検意図との
相関がみられた。
表2
年以内に受けたい」セグメントが、治療に関する具
体的な知識(「抗 HIV 薬によりエイズの発症を抑え
ることができる」)や、早期発見のメリット(「治療は、
一日一回で良い飲み薬もある」)について認知して
いた(P<0.05)。一方で、陽性判明時の不安(「感染
が判った時にそれを受け止めることが心配だ」・「感
染による体調不良が心配だ」)は大きいことが判明
した(P<0.05)。
半面、「感染していないことを知って安心したい」
といった項目については、「いつかは受けたい」セ
グメントの方が有意に高かった(P<0.05)。
4.受検意図と意識、周囲との関係、ソシオエ
コノミックステータス
受検意図のステージが高くなるにつれ、HIV をよ
り身近と感じ、感染を心配する率が有意に高かった。
また、自分のセクシャリティに関する肯定度が高く、
ゲイの友人の数が多かった。また、学歴にも、有意
差が見られた。
表3
図 3(別添 2 参照)
5-2.「いつかは受けたい」vs.「受けるつもりはな
い / わからない」
ステップワイズ法(P<0.1)により変数選択をお
こなったロジスティック回帰分析の結果、受検の意
図(「いつかは受けたい」vs.「受けるつもりはない
/ わからない」)に影響する要因が明らかとなった(別
添 3 参照)。「いつかは受けたい」セグメントが、検
査に関する知識(「保健所でも受けられる」)を認知
していた(P<0.05)。また、「感染していないことを
知って安心したい」という気持ちは強い。一方で、
陽性判明時の不安(「感染により仕事に影響が出る」)
は大きいことが判明した(P<0.05)。
136
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
が 24%と、MSM に比べ受検意図が低い傾向が見ら
れた。
考察
性交渉経験のある 18 歳から 49 歳の日本在住の男
性 1,200 名(うち、MSM600 名を含む)から、HIV
検査への関心度や、HIV/AIDS の疾患自体や検査、
その治療法に関する知識、主観的評価、受検のきっ
かけといった情報を得た。HIV 感染のハイリスクグ
図 4(別添 3 参照)
ループである MSM(特に、ゲイ・バイセクシャル
を自認するもの)においては、その受検意図を分か
6.受検意図に影響する要因(決定木分析)
知識・主観的評価以外の、きっかけやゲイコミュ
ニティとの距離、周囲との関係なども含めて決定木
分析を行ったところ、受検意図に最も大きく影響し
た要因は、「家族や友人と HIV について話したこと
がある」というきっかけであった(P<0.001)。続い
て影響が大きかったのは、「感染していないことを
知って安心したい」という検査のメリットであった
(P<0.001)。(別添 4 参照)
つ知識や主観的評価は、受検意図のセグメント(「半
年以内に受けたい」、「いつかは受けたい」、「受ける
つもりはない / 分からない」)ごとに、異なること
が今回の調査で示された。受検意図に応じた啓発
メッセージを開発することで、より効果的な啓発が
可能となると考えられる。
次年度においては、いずれのセグメントに対し
て優先的に啓発を行うべきか慎重な検討を加えた上
で、ターゲットとするセグメント(受検意図)に応
7. 18 歳 か ら 49 歳 に お け る 男 性 全 体 と MSM、
ゲイ・バイセクシャルを自認する MSM お
よびヘテロセクシャルもしくはその他/分
からない・答えたくないの MSM における
受検意図、受検経験
ゲイ・バイセクシャルを自認する MSM において
は、HIV 検査を「半年以内に受けたい」が 26%、
「い
つかは受けたい」が 37%と、何らかの受検意図を持
つものが過半数を占めたのに対し、男性全体では、
「半年以内に受けたい」が 5%、「いつかは受けたい」
0%
全体
(N=1200:
MSMの出現率を
4.1%で調整)
20%
区として大阪地区を対象とした介入を実施し、効果
検証を行う予定である。
結論
HIV 感染のハイリスクグループである MSM(特
に、ゲイ・バイセクシャルを自認するもの)におい
ては、受検意図ごとに大きく異なる特徴が認められ、
それらのセグメントを分かつ制御要因が特定され
た。
40%
19%
MSM(n=600)
14%
MSM/(ゲイ・バイセクシャル(n=347)
12%
MSM/へテロ・その他(n=253)
じた具体的啓発メッセージを開発し、パイロット地
60%
80%
53%
24%
32%
34%
25%
43%
分からない
つもりなし
26%
29%
いつかは
5%
20%
37%
16%
100%
12%
半年以内
*MSMの出現率については先行研究を参照(引用:厚生労働科学研究費補助 エイズ対策研究事業「MSMのHIV感染対策の企
画、実施、評価の体制整備に関する研究─平成25年度 総括・分担研究報告書─」)
図5
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
健康危険情報
該当なし
研究発表
該当なし
知的財産権の出願・取得状況 (予定を含む)
該当なし
別添 1
137
参考文献・資料
1)Kotler P, Lee NR. Social Marketing: Influencing
Behaviors for Good. Sage Publications; 2008.
138
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
139
140
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
141
142
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
143
144
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
КชᲫ
別添 2
᧙࣎஖ăแͳ஖ǛЎƚǔჷᜤᲢ0Უ
ǪȃǺൔ
2 ͌
ᲫଐᲫ‫ׅ‬Ძᥪưᑣƍ᫩LjᕤNjƋǔ
‫ܭ‬ૠ
èǹȆȃȗȯǤǺඥƴǑǓ‫٭‬ૠǛᢠ৸
̮᫂ғ᧓
᧙࣎஖ăแͳ஖ǛЎƚǔॖᜤᲢ0Უ
̮᫂ғ᧓
ǪȃǺൔ
2 ͌
ज़௨ƠƯƍƳƍƜƱǛჷƬƯ‫࣎ܤ‬Ơƨƍ
ज़௨ƴǑǓ˳ᛦɧᑣƴᒊƠljƜƱǛ࣎ᣐ
ज़௨ƴǑǓˁʙƴࢨ᪪ƕЈǔƜƱǛ࣎ᣐ
ज़௨ƕЎƔƬƨ଺ƴƦǕǛ
ӖƚഥNJǔƜƱǛ࣎ᣐ
৴ *+8 ᕤƴǑǓǦǤȫǹƷ‫ف‬഻Ǜ৮ƑǒǕŴ
ǨǤǺƷႆၐǛ᧸ƙƜƱƕưƖǔ
඙ၲƴǑǔ᣿᥉ႎ᝟ਃǛ࣎ᣐ
ƭǒƍൢਤƪǍ᧭၏ဃ෇Ǜ
ӖƚഥNJǔƜƱǛ࣎ᣐ
Ტ‫ܭ‬ૠᲣ
èǹȆȃȗȯǤǺඥƴǑǓ‫٭‬ૠǛᢠ৸
КชᲬ
別添 3
໯᧙࣎஖ă᧙࣎஖ǛЎƚǔჷᜤᲢ0Უ
̮᫂ғ᧓
ǪȃǺൔ
2 ͌
я঺᣿ǛМဇƢǕƹᐯࠁ᝟ਃƸ‫ݲ‬ƳƘƳǔ
1
౨௹Ƹ̬ͤ৑ሁưNjӖƚǒǕǔ
඙ၲᝲƷᐯࠁ᝟ਃ᫇ƕ᭗ƍ
ज़௨ƠƯNj࣏ƣǨǤǺǛႆၐƢǔƱƸᨂǒ
Ƴƍ
Ტ‫ܭ‬ૠᲣ
èǹȆȃȗȯǤǺඥƴǑǓ‫٭‬ૠᢠ৸
໯᧙࣎஖ă᧙࣎஖ǛЎƚǔॖᜤᲢ0Უ
̮᫂ғ᧓
ǪȃǺൔ
2 ͌
ज़௨ƠƯƍƳƍƜƱǛჷƬƯ‫࣎ܤ‬Ơƨƍ
ज़௨ǛჷƬƨჷʴȷӐʴƔǒࠀКǍ੎ᨊǛƏ
ƚǔƜƱǛ࣎ᣐ
ज़௨ƴǑǓˁʙƴࢨ᪪ƕЈǔƜƱǛ࣎ᣐ
ज़௨ƴǑǓŴᐯЎƷǻǯǷȣȪȆǣǍȗȩǤ
ȐǷȸǛԗ‫׊‬ƴჷǒǕƯƠLJƏƜƱǛ࣎ᣐ
Ტ‫ܭ‬ૠᲣ
èǹȆȃȗȯǤǺඥƴǑǓ‫٭‬ૠᢠ৸
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
別添 4
受検意図を阻害/促進する要因は?
(決定木分析)
①
②
③
④
受検意図のカテゴリ
半年以内に受けたい
いつかは受けたい
受けるつもりはない
分からない
145
受検意図
ノード0
%
n
① 26.1 88
② 37.7 127
③ 24.3 82
④ 11.9 40
合計 100.0 337
家族や友人とHIVの話をしたことがある
調整P値=0.000, カイ2乗=57.942, df=3
ほとんどない/
全くない
よくある/
時々ある
ノード1
%
n
① 15.5 34
② 35.2 77
③ 33.8 74
④ 15.5 34
合計 65.0 219
ノード2
%
n
① 45.8 54
② 42.4 50
③ 6.8
8
④ 5.1
6
合計 35.0 118
感染していないことを知って安心したい
調整P値=0.000, カイ2乗=38.470, df=3
あまり / 全く
そう思わない
そう思う/
ややそう思う
ノード3
%
n
① 19.0 32
② 41.7 70
③ 23.2 39
④ 16.1 27
合計 49.9 168
ノード4
%
① 3.9
② 13.7
③ 68.6
④ 13.7
合計 15.1
プライバシーを周囲に知られる
長期に渡り健常時と変わらない生活ができる
調整P値=0.008, カイ2乗=11.744, df=3
とても /
やや心配
ノード6
%
① 9.6
② 36.5
③ 25.0
④ 28.8
合計 15.4
CD4陽性リンパ球が免疫を低下させる
調整P値=0.016, カイ2乗=10.391, df=3
そう思う/
ややそう思う
ノード9
%
① 29.3
② 35.4
③ 25.6
④ 9.8
合計 24.3
n
24
29
21
8
82
調整P値=0.047, カイ2乗=7.961, df=3
あまり / 全く
心配でない
ノード5
%
n
① 23.3 27
② 44.0 51
③ 22.4 26
④ 10.3 12
合計 34.4 116
n
2
7
35
7
51
あまり / 全く
そう思わない
そう思う/
ややそう思う
ノード7
%
① 0.0
② 18.9
③ 67.6
④ 13.5
合計 11.0
n
5
19
13
15
52
エイズを発症 しても回復できる
調整P値=0.004, カイ2乗=13.455, df=3
n
0
7
25
5
37
ノード8
%
① 14.3
② 0.0
③ 71.4
④ 14.3
合計 4.2
n
2
0
10
2
14
家族との関係は良好
調整P値=0.021, カイ2乗=7.711, df=2
あまり / 全く
そう思わない
あまり / 全く
そう思わない
そう思う/
ややそう思う
とても / どちらかと
言えば良好
ノード10
%
n
① 8.8
3
② 64.7 22
③ 14.7 5
④ 11.8 4
合計 10.1 34
ノード11
%
n
① 0.0
0
② 32.4 11
③ 32.4 11
④ 35.3 12
合計 10.1 34
ノード12
%
n
① 27.8 5
② 44.4 8
③ 11.1 2
④ 16.7 3
合計 5.3 18
ノード13
%
n
① 0.0
0
② 23.8 5
③ 76.2 16
④ 0.0
0
合計 6.2 21
どちらかと言えば/
まったく良好でない
ノード14
%
n
① 0.0
0
② 12.5 2
③ 56.2 9
④ 31.2 5
合計 4.7 16
146
19
急性感染期の診断および治療に関する研究
研究分担者: 渡邊
研究協力者: 上平
蘆田
大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター)
朝子(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 感染症内科)
美紗(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター)
鈴木佐知子(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター)
松本絵梨奈(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター)
研究要旨
【目的】急性 HIV 感染症の診断と治療の課題を解決するために二つの研究を行った(1: 残存プロウイルス量
長期観察研究、2: 感染早期例の特徴と早期診断に寄与する因子の検討)。
【方法】(1)抗 HIV 療法が導入され血中 HIV-RNA 量が検出限界未満で維持されている症例を対象に、末梢
血 CD4 陽性 T リンパ球中の残存プロウイルス量を測定した。(2)大阪医療センターにおける急性感染検査
外来(HIV 抗原抗体検査 +NAT 検査)についてレビューを行った。また、2003 年から 2010 年の新規診断
症例の診断前の受検行動について検討した。
【結果】(1)抗 HIV 療法によって血中 HIV-RNA 量が検出限界未満で維持されている 76 症例を対象に測定
を行った。限界希釈法の結果がない 2 症例と、TaqMan PCR 法と限界希釈法との結果の乖離が 5 倍以上の 6
症例は解析から除外した。残存プロウイルス量は慢性期治療例(61 例)と比較して急性期治療例(7 例)で
低く抑えられていた。残存プロウイルス量の低下と治療期間・CD4 数の最低値に関連性を認めたが、急性期
治療が最も強い関連性を示した。51 症例については約 2.3 年後に再検査を行った。フォローアップの残存プ
ロウイルス量はベースラインよりも有意に低下しており、特に急性感染期に抗 HIV 療法を開始した症例で
低値であった。(2)21 ヶ月で 47 件の急性感染検査外来を行った。HIV スクリーニング検査(抗原抗体検査)
と NAT 検査の両者を施行したが、陽性検体を認めなかった。2003 年から 2010 年の新規診断患者を対象に、
HIV 感染症の診断前の受検行動について診療録より後方視的に検討した。1199 例の新規診断患者のうち、
献血歴のある 33 例を除外した。検査歴ついて記載のなかった症例を除くと、急性 HIV 感染症と診断された
67 症例のうち 49 症例 (73% ) に診断前の検査歴があった。一方、無症候性キャリアとした診断された 705 症
例のうち検査例があった症例は 51%にとどまった。特に、診断から過去 1 年以内の検査歴で顕著な差を認めた。
【考察】(1) 急性期に抗 HIV 療法を導入することが残存プロウイルス量を低く抑えることに最も強く関連する
因子であることが示された。(2) 急性感染の診断のための NAT 検査の需要が存在することが確認できた。ま
た、急性 HIV 感染症と診断された症例では診断前の検査歴があった症例が多く、診断に患者側の因子とし
て受検行動が関与している可能性が示唆された。
研究目的
に維持されることと、残存プロウイルス量は治療期
HIV 感染の急性期における唯一の特異的な治療法
間との関連性は低いことを報告した(D. Watanabe
は抗 HIV 療法である。しかし、国内では自覚症状
et al., BMC Infect Dis, 2011)。しかし、その研究で
や身体障害者手帳の取得の条件等を照らし合わし、 は残存プロウイルス量が測定感度未満の症例が 1 割
その適応を個々の症例で判断せざるを得ないのが実
以上存在したことから、感度と精度が不十分であっ
情である。一方、我々は先行研究で、急性期での抗
た可能性が考えられた。また、横断的調査による限
HIV 療法導入例では残存プロウイルス量が低レベル
界も存在していた。より高感度・高精度な測定法の
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
開発を行い、横断的調査と縦断的調査の両者で残存
プロウイルス量の長期観察研究(1)を行うことと
した。
平成 24 年度の感染早期例の解析から、HIV の初
147
に情報を収集し、単純集計を行った。
2003 年から 2010 年に当院を受診した HIV 感染者
の新規診断症例について、診断時の病期・HIV 検査
歴・最終陰性検査時期について診療録より後ろ向き
感染に関わる重要な三つの事項が明らかとなった。 に情報を収集した。
まず、初感染症状と思われる症状の自覚があった症 (倫理面への配慮)
例では早期に免疫が低下していた。特に急性 HIV 感
各研究について、院内の倫理委員会に相当する受
染症と診断されたことと初診時の CD4 数が低いこ
託研究審査委員会で倫理審査を行い、承認を取得し
とが独立した早期の免疫低下に関連した因子であっ
た(承認番号 0973・0913・13016)。この審査委員会
た。これは初感染症状を有する症例の早期診断の必
で審査・受理された方法で研究を遂行し、具体的に
要性を意味している。二つ目が、初感染症状を自覚
は文書での同意の取得や、検体処理やデータ管理の
した症例では自覚しなかった症例より最終陰性検
際の匿名化などを行った。
査から初回陽性検査までの期間が統計学的有意に短
かったことがあげられる。すなわち初感染症状の自
研究結果
覚が検査受検の促進につながったこと、急性感染検 (1)残存プロウイルス量の測定に関しては、抗 HIV
査外来の需要が存在する可能性があることを意味し
療法によって血中 HIV-RNA 量が測定感度未満で維
ている。三つ目としては、近年症状を伴う早期診断
持されている 76 症例を対象に測定を行った。2 症例
症例が増加していることである。先行研究では 2003
については限界希釈法による測定が一度も行われな
年から 2010 年と、8 年間にわたる症例について後方
かったため解析から除外した。対象となった全例が
視的に検討を行った。前半 4 年間と後半 4 年間に分
男性であり、62 例(84%)の HIV 感染リスクが同
けたとき、初感染症状の自覚のない症例は前半 4 年
性間性的接触であった。抗 HIV 療法の投与期間は中
と後半 4 年はほぼ同数であった。一方で、最終陰性
央値で 3.7 年であり、検体採取の CD4 数の中央値は
検査から初回陽性検査の間に初感染症状を自覚した
506/µL と、多くの症例で CD4 数は回復していた。
症例数は後半 4 年間で増加していた。このような結
まず、改良を行った TaqMan PCR 法による測定系
果をうけて、昨年度まで大阪医療センターにおける
と限界希釈法の両者の測定値の比較を行った。良好
匿名・有料の急性感染検査外来を行ったため、その
な一致性を認めたが、6 症例で測定値の 5 倍以上の
最終結果を報告する。加えて、2003 年から 2010 年
乖離を認めた。いずれも TaqMan PCR 法による測
の新規診断症例について、診断前の受検行動に注目
定値が限界希釈法により測定値より低値であり、こ
して、急性 HIV 感染症と診断された症例の特徴につ
の 6 症例を解析から除外した。次に、急性期治療例
いて検討した。
7 例と慢性期治療例 61 例に分類して、残存プロウイ
ルス量の比較を行った。CD4 陽性 T リンパ球 100 万
研究方法
個あたりのコピー数で算出した場合、急性期治療例
(1)残存プロウイルス量については、抗 HIV 療法が
における残存プロウイルス量は中央値で 138 コピー
導入され血中 HIV-RNA 量が検出限界未満で維持さ
と、慢性期治療例(中央値 240 コピー)と比較する
れている症例を対象とした。末梢血を採取し、CD4
と低値であった(Wilcoxon の検定;p=0.0278)。ま
陽性 T リンパ球を分離したのちに DNA を抽出した。 た、残存プロウイルス量と CD4 数の最低値、残存プ
精 製 し た DNA を 鋳 型 と し て、Lightcycler DX400
ロウイルス量と治療期間(年)との関連性について
を用いて TaqMan PCR 法を用いてコピー数を決定
は、最小二乗法で検討を行った。いずれも統計学的
し た。HIV-DNA 量 は CD4 陽 性 T リ ン パ 球 100 万
有意な逆相関の関係を認めた(それぞれ、p=0.0029
個当たりに含まれるコピー数として算出した。また、 と p=0.0032)。次に、ロジスティック回帰分析によ
限界希釈法を用いてコピー数を決定し、TaqMan
る多変量解析を行った。連続変数については中央値
PCR 法との比較を行った。
付近をカットオフ値として、2 群に分類した。急性
(2)大阪医療センターにおける匿名・有料の急性感
期で抗 HIV 療法を開始した(オッズ比 9.2、95%信
染検査外来については、受検情報について後ろ向き
頼区間 1.2-200)こと、CD4 数の最低値が 100/µL よ
148
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
り高いこと(オッズ比 4.0、95%信頼区間 1.2-14)が
の期間は中央値で 29 日であり、一般の HIV 検査と
独立した残存プロウイルス量の低値との関連因子で
比較して早期に受検が行われていた。また、全件で
あった。急性期治療が最も大きいオッズ比を示した。 インターネットを介して当検査を知り、少なくとも
最後に 57 例について縦断的観察を行った。2 回以上
19 件が NAT 検査を希望して当院に来院した。感染
TaqMan PCR 法とポワソン PCR 法の比較を行えた
リスクについては同性間を 4 件(9%)しか認めなかっ
症例は、46 症例であり、上記と同様に 5 倍以上の乖
た。全検体とも HIV 抗原抗体検査・血中 HIV-RNA
離の有無を判定した。1 回目の 2 回目の判定結果が
は陰性であった。
不一致であった症例は 1 例のみであった。この症例
最後に 2003 年から 2010 年の新規診断症例におけ
の 1 回目の測定は、両者の結果が 5 倍以上乖離し、2
る受検行動について検討した。新規診断症例は 1199
回目は 5 倍以内であった。この症例を含め、5 倍以
例であった。そのうち輸血歴のある 33 例を除外し、
上乖離した 6 症例を解析から除外した。観察期間の
1166 例について解析を行った。急性期で診断された
中央値は 2.3 年(範囲 1.7 〜 3.4 年)であった。ベー
症例は 91 例(8%)であり、無症候性キャリア期は
スラインにおいてもフォローアップにおいても、急
789 例(68%)、AIDS 期は 286 例(25%)であった。
性期治療例(7 例)で残存プロウイルス量は低レベ
このうち受検行動に関する情報が欠損している症例
ルに抑えられていた。
は 259 例(22%)であり、AIDS 発症例(151 例)が
(2) 大阪医療センターにおける急性感染検査外来の計
半数以上を占めていた。受検行動に関する情報が欠
画・立ち上げを行った。匿名・有料検査(16,000 円) 損した症例を除外して解析を行うと、急性 HIV 感染
とし、土曜日 14 時〜 16 時に診察・検体採取を、水
症と診断された症例では受検歴がある症例の割合・
曜日 17 時 30 分から結果説明を行うこととした。検
診断の 1 年以内に受検歴がある症例の割合がそれぞ
査についてのホームページを立ち上げ、検査相談
れ 73%と 31%であり、無症候性キャリア期で診断さ
マップに登録した。2013 年 7 月〜 2015 年 3 月に 47
れた症例ではそれぞれの割合は 51%と 14%であった
件の受検があった。調査可能な有効回答は 46 件で ( χ 2 乗 検 定;p<0.0001)。 以 上 の こ と か ら、 急 性
あった(表 1)。性別は男性 41 件、女性 1 件、教え
HIV 感染症と診断された症例では診断前に HIV 検
たくないが 1 件であった。感染リスクから検査まで
査の受検歴のある症例が多く、特に診断の過去 1 年
表1
年齢
性別
感染リスク
急性感染検査外来の実績
10 歳代
1 件(2%)
20 歳代
19 件(41%)
30 歳代
16 件(35%)
40 歳代
7 件(15%)
50 歳代
2 件(4%)
教えたくない
1 件(2%)
男性
41 件(89%)
女性
4 件(9%)
教えたくない
1 件(2%)
同性間
4 件(9%)
中央値
感染リスクから検査までの期間
症状の有無
四分位範囲
19-36 日
最小・最大
1 ー 730 日
有もしくは消失
29 件(63%)
無
17 件(37%)
ネット
当検査外来を知った方法
HIV 陽性検体
46 件(100%)
検査相談マップ
33 件(70%)
検索サイト
11 件(26%)
当院のホームページ
当検査外来を選択した理由
29 日
NAT 検査
4 件(9%)
19 件
0 件(0%)
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
149
の間に受検している症例を多く含んでいた。
の需要が存在していることを意味している。急性
考察
HIV 感染症と診断されたことは、診断前の受検行動
先行研究と比較し、本研究で解明された重要事項
と関連していた。
が 2 点存在する。第一に、抗 HIV 療法の継続により
残存プロウイルス量が低下することが、横断的調査
健康危険情報
と縦断的調査の両者によって示されたことである。
該当なし
先行研究では、TaqMan PCR 法のみで解析してい
ためプライマー・プローベミスマッチによる低いコ
ピー数の検体の除外が不可能であった。本研究では
TaqMan PCR 法と限界希釈法の両者を組み合わせる
ことにより、そのような偽陰性と考えられる結果の
排除が可能になった。次に、急性期治療の残存プロ
ウイルス量に対する長期的な効果である。約 2.5 年
の治療の継続を行っても慢性期治療例と急性期治療
例の残存プロウイルス量の差が縮まらないことは急
研究発表
1.
論文発表
○ Watanabe D, Suzuki S, Ashida M, Shimoji Y,
Hirota K, Ogawa Y, Yajima K, Kasai D, Nishida Y,
Uehira T, and Shirasaka T. Disease progression of
HIV-1 infection in symptomatic and asymptomatic
seroconverters in Osaka, Japan: a retrospective
observational study. AIDS Res Ther. 2015;12:19.
性感染期に抗 HIV 療法を開始することの重要性を示
Yagura H, Watanabe D, Ashida M, Kushida H,
Hirota K, Ikuma M, Ogawa Y, Yajima K, Kasai D,
先行研究で初感染症状を自覚した症例では早期 Nishida Y, Uehira T, Yoshino M, and Shirasaka
に HIV 検査を受検していた。このことから急性感 T. Correlation between UGT1A1 polymorphisms
染検査外来の需要は存在していると考えられた。実 and raltegravir plasma trough concentrations
際、検査外来に来院した症例の少なくとも 19 例は、 in Japanese HIV-1-infected patients. J Infect
Chemother. 2015;21(10):713-7.
NAT 検査の実施を希望され当院での検査を選択さ
れた。残念ながら、感染リスクの低い症例の受検が 渡邊 大:診断と治療の Topics「ドルテグラビルの
多く、検査外来の一時中断を余儀なくされることに 臨床評価」、HIV 感染症と AIDS の治療(メディカ
ルレビュー社)、2015 年、6 巻 1 号、P19-24
なった。今後このような目的で検査外来を再開する
場合には、感染リスクの高い症例を集める工夫が必 小川吉彦、渡邊 大:エイズに見られる感染症と悪
性腫瘍(24)「マルネッフェイ型ペニシリウム症」、
要である。
化学療法の領域(医薬ジャーナル社)、2015 年、31
最後の解析においては、急性 HIV 感染症と診断
巻 6 号、P1228-1234
された症例の約 1/4 が、診断の過去 1 年以内に検査
櫛田宏幸、冨島公介、矢倉裕輝、吉野宗宏、廣田和之、
を受検していた。2006 年の CDC の指針では、感染
伊熊素子、小川吉彦、矢嶋敬史郎、笠井大介、渡邊
リスクがある方は少なくとも 1 年に 1 回は HIV 検査
大、西田恭治、上平朝子、白阪琢磨。当院 HIV 感染
を受検するべきとされている。リスクがあると自認
症症例におけるニューモシスチス肺炎に対するアト
している受検者は CDC の推奨通り通りに検査を受 バコンの使用状況。日本エイズ学会誌、2015 年、17
けていることになる。受検者の HIV 感染症に対する 巻、P101-105
している。
知識の普及とその実践が、急性期での診断を可能に
したのかもしれない。
結論
残存プロウイルス量は、急性期治療・CD4 数の最
低値が高いこと・抗 HIV 療法の治療期間が長いこ
とに関連しており、急性期治療が最も強い影響を及
ぼしていると考えられた。大阪医療センターで急性
感染検査外来を実施し、47 件の NAT 法を併用した
HIV 検査を行った。これは急性感染における VCT
2.学会発表
小川吉彦,廣田和之,伊熊素子,矢嶋敬史郎,笠井
大介,渡邊 大,西田恭治,上平朝子,白阪琢磨:髄
液 中 Adenosine deaminase 高 値 を 示 し た 急 性 HIV
感染症の一例。第 89 回日本感染症学会学術講演会、
京都、2015 年 4 月
渡邊 大,鈴木佐知子,蘆田美紗,松本絵梨奈,廣
田和之,伊熊素子,矢嶋敬史郎,笠井大介,西田恭治,
上平朝子,白阪琢磨:HIV 感染者におけるカポジ肉
150
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
腫関連ヘルペスウイルスに対する抗体保有率と抗体
陽転率の検討。第 29 回近畿エイズ研究会学術集会、
大阪、2015 年 6 月
矢倉裕輝,渡邊 大,蘆田美紗、櫛田宏幸,冨島公介,
廣田和之,伊熊素子,矢嶋敬史郎,笠井大介,西田
恭治,吉野宗宏,上平朝子,白阪琢磨:日本人 HIV
− 1 感染症患者における UGT1A1 遺伝子多型とラ
ルテグラビル血漿トラフ濃度の関連。第 29 回近畿
エイズ研究会学術集会、大阪、2015 年 6 月
渡邊大,上平朝子,山本雄大,湯川理己,上地隆史,
廣田和之,伊熊素子,矢嶋敬史郎,笠井大介,西田
恭治,白阪琢磨:当院の HIV 感染者における長期
合併症の有無と抗 HIV 薬の選択の関連性の検討。第
29 回日本エイズ学会学術集会・総会、東京、2015
年 11 月
小川吉彦,渡邊 大,小川 拓,米川真輔,宇野健
司,中村(内山)ふくみ,古西満,笠原敬,白阪琢磨,
三笠桂一:長期間 HIV western blot 法の陽転化を認
めず免疫機能不全を呈した HIV 感染症の一例。第
29 回日本エイズ学会学術集会・総会、東京、2015
年 11 月
伊熊素子,廣田和之,小川吉彦,矢嶋敬史郎,笠
井大介,渡邊大,西田恭治,上平朝子,白阪琢磨:
HIV 患者に生じた Penicillium marneffei の脳膿瘍の
一例。第 29 回日本エイズ学会学術集会・総会、東京、
2015 年 11 月
矢嶋敬史郎,矢倉裕輝,山本雄大,湯川理己,廣田
和之,伊熊素子,笠井大介,渡邊大,西田恭治,上
平朝子,白阪琢磨:当院におけるドルテグラビル中
止例に関する検討。第 29 回日本エイズ学会学術集会・
総会、東京、2015 年 11 月
矢倉裕輝,櫛田宏幸,冨島公介,山本雄大,湯川理己,
廣田和之,伊熊素子,上地隆史,矢嶋敬史郎,笠井
大介,渡邊 大,西田恭治,吉野宗宏,上平朝子,
白阪琢磨:日本人 HIV − 1 感染症患者における 1 日
1 回ドルテグラビル投与時の血漿トラフ濃度に関す
る検討。第 29 回日本エイズ学会学術集会・総会、東京、
2015 年 11 月
知的財産権の出願・取得状況 (予定を含む)
該当なし
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
151
152
20
HIV 感染症における倫理的課題に関する研究
研究分担者: 大北
全俊(東北大学 医学系研究科)
研究協力者: 遠矢
和希(国立循環器病研究センター)
加藤
穣(石川県立看護大学)
Franziska Kasch ( 大阪大学 文学研究科 )
花井
十伍(ネットワーク医療と人権)
横田
恵子(神戸女学院大学 文学部)
研究要旨
海外文献のデータベースについては、テーマ分類の妥当性を補強する方法を定めた。また本年度より海外
の議論と日本の議論との照合を始め、検査に関する議論より着手した。新聞記事調査については、現在に至
る偏見の起源とされるエイズパニック当時の報道内容のアーカイブ作成に着手した。これら歴史的経緯を踏
まえた調査及び分析と並行して、HIV/AIDS 対策の倫理的な枠組みに関する理論研究として human rights
及び social justice に関する文献研究に着手した。
研究目的
での分類方法によって分類を一通り終了している
昨年度までの研究と基本的には同じく、HIV 感染 (一部本年度初めまで作業を継続したため、4 月分を
症の諸事象について、倫理的な議論の枠組みを明確
含んでいる)。しかし、各テーマに関する議論の変
にし、今後の議論および対策等のたたき台を作成す
遷をより明確に示すため、文献数の変化に妥当性を
ることを目的としている。
もたせる根拠を再検討した。pubmed のシソーラス
HIV 感染症に関する「倫理 /ethics」として海外
である MeSH のアステリスク表示のある用語を分類
でどのような議論がなされてきたのか議論内容を整
作業の根拠として分類を再検討することとした。分
理するとともに、関連文献のデータベースを作成。 類作業については研究協力者の遠矢氏と加藤氏と共
同時に日本の HIV 感染症をめぐる倫理的な議論を明
同で、また分類手法の再検討および検査に関する海
確にし、両者を照合させることで、日本における倫
外の議論の調査については加藤氏と共同で行った。
理的課題の明確化を目的としている。
また、本年度は検査に関する議論について主に
調査を進めることとしたため、昨年度までに終えた
研究方法
海外および日本でなされている議論の枠組みを明
データベースのテーマ分類のうち、検査 [testing or
screening] に関する文献をピックアップ。さらに、
確化するために、継続的に網羅的な文献調査を進め
WHO や米国 CDC のガイドラインも視野に入れて調
ている。
査した。主に加藤氏の担当とし、加藤氏自身が分類
(1)海外文献調査
を担当した 2010 年以降を主に調査した。
pubmed に 基 づ き、HIV/AIDS の 倫 理 的 な 議 論
に関する文献をピックアップしデータベースを作 (2)日本文献調査
成。検索キーワードは[Tittle:HIV/AIDS, Tittle/
本年度は日本エイズ学会学会誌および日本の生命
Abstract:ethics/ethical/moral]。 デ ー タ ベ ー ス に
倫理/医療倫理の学術専門誌に掲載されている関連
基づき、全体の議論の歴史的経緯および各主要テー
文献をピックアップし議論の枠組みについて析出し
マの議論の枠組みを析出する。分類作業は 1983 年
た。日本の文献については文献数が限定されている
から 2015 年 4 月までの文献については、前年度ま
こともあり、必ずしも倫理に関する議論に限定せず、
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
テーマに関する論考をすべてピックアップし目を通
研究結果
した。そのうえで、倫理に関係する議論の枠組みを
文献研究について
153
析出した。本年度は、検査に関する議論について調 (1)海外文献調査
査を行った。
PubMed を使用した文献調査について。遠矢氏
と加藤氏と三者で共同して、昨年度の方法に基づき
(3)日本の新聞報道に関する調査
行った分類作業は 2015 年 4 月までの文献について
論文や研究報告書とはまた別種の文献として、 は終了したものの、経年的な議論の推移を文献数で
花井氏が新聞報道等を独立して調査。現在に至る
提示するには、分類についてより客観的な妥当根拠
HIV/AIDS への差別的なイメージを形成するもとと
が必要と判断。加藤氏と検討した結果、MEDLINE
なったと言われている、
「エイズパニック」および「後
のシソーラスである MeSH のアステリスクがつけ
天性免疫不全症候群の予防に関する法律(エイズ予
られている Major Topic を分類の検討項目に追加す
防法)」を中心に 1980 年代の関連する記事を、見出
ることとした。MeSH そのものが医学用語の見出し
しをもとにピックアップして分類し、その報道内容
であるため、必ずしも倫理に関するテーマと合致し
を調査。その他に、明らかに誤りと思われる内容に
ないが、テーマ分類が困難な場合、例えば、個々の
ついての記事など、HIV/AIDS の偏見につながりう
医療専門職の職業倫理を議論しているのか、health
るものをピックアップした。
care の一般的なあり方について議論しているのか、
などの場合、MeSH の Major Topic に、professional
(4)倫理および政治哲学に関する文献研究
pubmed に基づく海外文献の調査から、おおよそ
の議論の枠組みの析出は可能と考えているが、しか
competence などが含まれていたら職業倫理に関す
る文献として分類する方が妥当、というようにより
分類の妥当性が増すものと考えた。
し、議論を基礎付ける理論そのもの探求については
遠矢氏、加藤氏と大北、それぞれが個別に分類し
また別途アプローチが必要であることも調査の過程
たためデータベースのフォーマットが不統一である
で 見 え て き た。 特 に、J. Mann ら が HIV/AIDS な
ため、データベースに MeSH の Major Topic を追加
どの公衆衛生 public health の領域に導入し始めた
する作業とフォーマットを整備する作業を、同時に
human-rights based approach について、その内容と
多人数で実施した方が効率的と判断したため、来年
可能性について検討するためには、理論文献の精査
度初めに作業を再開することとした。
が必要である。理論文献の精査とともに、関連する
検査に関する文献調査について
研究者との研究会などを通してその理論的含意と実
2010 年 以 降 の 検 査 に 関 す る 議 論 の ト ピ ッ ク
際の HIV/AIDS 対策への応用可能性について検討す (pubmed に基づくデータベースよりピックアップし
ることとした(研究会の開催は 2016 年 2 月 28 日に
東北大学東京分室にて、樽井正義氏(ぷれいす東京)
と岡島克樹氏(大阪大谷大学)を招いて実施予定)
。
(倫理面への配慮)
本年度の調査はすべて公開されている文献に関す
る調査のため、特に倫理的配慮は必要ないものとし
て進めている。ただし、歴史的な資料を調査対象と
しているため、当時は公開されていたような情報で
も、今日の規程や感覚から考えて、特に固有名等公
開可能なものとみなせるか否か、一定の注意をもっ
て取り扱った。
た文献)は主に以下の通りであった。
2010 ・低所得国での検査体制
インド、アフリカなど
VCT モデルの限界について
ルーチン検査の可能性
・医療者への検査(イングランド)
2011 ・CDC2006 ガイドラインに関する議論
・妊婦スクリーニング
opt-out について
・救急
・PITC
・例外主義の見直し
・自己検査
154
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
2012 ・妊婦スクリーニング(rights-based に
関する議論)
・歯科医
・低所得国での検査体制
アフリカ
・医療者暴露時の同意なしの検査
・CDC2006 ガイドライン
・非連結匿名検査(途上国)
2013 ・population-based の検査の結果返却
・CDC2006 ガイドライン
・学校での検査?(南アフリカ)
・囚人の検査(アメリカ)
・妊婦スクリーニング
・test-and-treat
己検査のリスクとベネフィットの比較をしつつ、リ
スクに関する十分な情報の周知、治療や社会的・心
理的支援に関する情報の周知、国家としての認可
など諸条件が満たされれば、倫理的に自己検査の普
及は妥当、という議論などであった(Allais L et al.
The ethical, legal and human rights concerns raised
by licensing HIV self-testing for private use, AIDS
Behav. 2014 Jul;18 Suppl)。
その他には、医療者への検査に関する議論(イン
グランド)や医療者が暴露した場合の患者の血液検
査の同意の有無に関する議論などがあった。
WHO の ガ イ ド ラ イ ン に つ い て は、2007 年 の
Guidance on provider-initiated HIV testing and
2014 ・ICU(アフリカ)
・移民
・自己検査
・MSM、アウトリーチ検査(アフリカ)
・低所得国での検査体制
アフリカ
counselling in health facilities で PITC を 提 示 し た
文献数としては、米国 CDC が 2006 年に提示し
ラインにも明記されているように、このガイドライ
た ガ イ ド ラ イ ン Revised recommendations for HIV
ンより、counselling を含むプロセスとして、service
testing of adults, adolescents, and pregnant women in
の用語を名称に用い、HIV testing services とする
health-care settings(本報告書では「CDC2006 ガイ
ようになった。
ものとして調査対象としたが、目を引いたのは 2015
年 に 提 示 さ れ た Consolidated guidelines on HIV
testing services である。VCT から PITC に至るまで、
検査体制について記述するにあたり、counselling が
その名称につけられてきたが、2015 年の上記ガイド
ドライン」と表記)に関する議論が最も多く、2011
年の The American Journal of Bioethics での特集な (2)日本文献調査
どが挙げられる(昨年度までの研究報告参照)
。そ
日本エイズ学会の学会誌より検査について論じ
の 影 響 も あ る が、VCT(Voluntary Counselling and
た論文全てをピップアップした結果、2002 年から
Testing)から PITC(Provider-initiated HIV Testing
2015 年までで 41 本。主なトピックは下記の通り。
and Counselling)や CDC2006 ガイドラインへの検査
検査手法に関するものは省略。
ポリシーの移行に関する議論、つまり opt-out 方式の
採用や検査前後のカウンセリングの位置付けをめぐ
る議論が最も多くみられた。妊婦スクリーニングに
関する議論も、opt-out 方式の採用による、患者の自
律性の尊重と医療・公衆衛生上のメリットとのバラ
ンスに関する議論が主なものと言ってよく、大きく
は、opt-in から opt-out への移行をめぐる議論であっ
た。結論としては、治療方法等の進展をもとに推奨
する議論と、未だ環境が整っていないということで
導入に慎重あるいはより配慮や対策が必要という議
論に分かれていた。最も、これからの議論の多くは、
低所得国における opt-out 導入をめぐる議論である
ため、その地域の状況と照合しながら、その倫理的
妥当性を位置付けているか、確認する必要がある。
また、自己検査に関する議論が散見された。自
2002 ・献血:血液センターにおける検査
サービス提供の試み
2003
なし
2004 ・妊婦スクリーニング
・保健所検査等
・予防カウンセリング
2005 ・妊婦スクリーニング
・術前検査
2006 ・PITC
2007 ・即日検査
・妊婦スクリーニング
・術前検査
2008 ・即日検査
2009 ・クリニック検査
・研修のあり方
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
155
2010 ・郵送検査
・PITC
妊婦スクリーニングに関する議論
2011 ・PITC
・服薬の予防効果に触れたもの
(言及のみ)
がおおよそで、2004 年からほぼ継続して論じられて
2012 ・PITC
2013 ・妊婦スクリーニング
・PITC
2014 ・検査相談
・妊婦スクリーニング
2015 ・歯科での検査の周知
上記のように、検査については、PITC の導入を
めぐる議論、妊婦スクリーニングに関する議論が文
献数としては多く、次いで術前検査、郵送検査など
についての議論が挙げられる。2007 年前後には即日
検査導入をめぐり活発に議論がなされたという報告
があるが、2008 年以降特に議論は見られない。
PITC に関する議論
PITC という用語を使用した文献は、2010 年の中
瀬克己他『わが国における HIV 検査戦略』が初出と
思われる。その後、毎年 1 本ずつ PITC に関して言
及している文献が出されている。概ね PITC 導入に
慎重な論調が多く、肯定的なものもある地域に限定
した議論として導入に肯定的であった。PITC の論
点を整理し、まとまって議論しているものとして、
神田浩路他『わが国の HIV 検査相談に関する一考
察:PITC の導入について』(2011)が挙げられる。
PITC に関する懸念事項として「偏見や差別、暴力
の助長」を上げながら、導入の条件として「社会・
職場・学校・家庭などにおいて差別・偏見が受忍可
能な程度に軽減され、また、HIV 感染を理由とする
人権侵害に対して、利益を回復するための有効な紛
争処理機関が存在していること」と「HIV/AIDS 関
連疾患および精神医療などに対する治療・ケア・予
防サービスの充実とアクセスへの柔軟性、などの条
件」を満たすこととし、現在の日本では両方の点で
改善が必要として PITC 導入に慎重な結論を導き出
していた(上記 2 条件は、稲葉雅紀:エイズ対策の
広大な「エア・ポケット」としてのアジア太平洋=
移住労働者対策と「サービス提供者主導検査・カウ
ンセリング」(PITC)について= . 第 8 回アジア太
平洋地域エイズ国際会議参加報告書、より引用して
いる)。
母子感染予防対策と包括的に取り上げている文献
いる。十分なインフォムドコンセントなしに行われ
ていること、陽性判明後の妊婦の負担、転院にあたっ
ての問題、妊娠継続あるいは中絶などの選択をめぐ
る問題、プライバシーの保護、偽陽性の説明などの
課題が指摘され、インフォームドコンセント、転院
時の配慮、偽陽性への対応、早期の心理介入の必要
性などの指摘がなされている(古家野淳子・矢永由
里子『女性と HIV カウセリングを通して考える』、
2004)。その後、上記の議論のフレームワークは大
きな変更はないまま、妊婦スクリーニングの普及の
必要性が強調されていく。
(3)日本の新聞報道に関する調査
エイズパニックと呼ばれる松本事件、神戸事件、
高知事件について、またエイズ予防法の策定過程に
関して、相当数の新聞報道記事があるが、恐怖をあ
おるものやエイズ予防法の必要性を主張するものが
散見されると同時に、プライバシーや人権への配慮
を訴える声を拾う記事も相当数あった。エイズパ
ニック時の事件で、検討するべき論点が多く含まれ
ている記事として、例えば、高知での陽性者の妊婦
の出産をめぐる報道が挙げられる。陽性と分かった
時点で担当医が結婚と妊娠を避けるように説得され
たこと、また妊娠が分かった時点で「出産を思いと
どまるよう」説得したが、説得を押し切って出産し
たという報道と同時に、「(妊婦の)個人の意思の尊
重」を肯定する論を紹介する、と言った記事もあっ
た(「エイズ感染妊婦が出産
赤ちゃん感染の有無、
4 週間後に判明」読売新聞 1987.3.16)。
また、注目するべきものとしては、「エイズを本
気で心配しよう」(社説・朝日新聞 1987.1.19)とい
う記事でレトロウイルスの性質について「ウイルス
は細胞の中で変身して遺伝子の中に入り、次の世
代にまで伝えられる」と解説しているものがあっ
た。いわゆるエイズパニックなどの記事ではないが、
誤った理解などに基づくイメージの形成に寄与した
可能性のある記事についても別カテゴリーとして収
集する予定である。
差別を助長する偏見等につながる記事などの収集
について別の角度から示唆的なものとして以下のよ
うなものがあった。「「エイズは性病」と山梨県の広
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
156
報
患者ら「理解不足だ」」(朝日新聞 1989.5.11)と
は CDC2006 ガイドラインに関する The American
して、感染経路より「一種の性病」と広報をした山
Journal of Bioethics の特集によるものであった。こ
梨県が患者や支援グループより「患者への偏見を助
の時点で賛否両論あるとして、おおむね PITC やルー
長する。苦しみを理解しない行為」として訴えられ、 チン検査化に肯定的な議論が目立った。
当時の感染者の多くが輸入血液製剤による感染で
しかし、ちょうど同じく 2011 年は HPTN052 の
あったため、厚生省(当時)も「『性病』という言
臨床試験により、服薬による予防効果のエビデンス
葉は適当ではない」と回答している。当時の WHO
を示す報告がなされた年である。その後、服薬によ
などの認識と合致し、また現在では必ずしも偏見の
る予防 treatment as prevention が予防ポリシーに導
助長とはされないものでも、当時の文脈でそのよう
入され始め、HIV/AIDS 対策が世界的に転換をし始
に位置付けられるものと言えるだろう。
めた。予防効果だけではなく、早期服薬による陽性
者自身のメリットに関するエビデンスも報告され始
(4)倫理学および政治哲学に関する文献研究
め、2010 年前後で HIV/AIDS 対策のフレームワー
HIV/AIDS の報告により、第二次世界大戦後の
クは大きく転換したと言っていい。その転換を示す
米国を中心に発展をしてきた医療倫理及び生命倫
ように、2011 年以降予防方法及びその研究をめぐる
理 bioethics は、医療機関での診療及び医学研究に
倫理的な議論が文献数としては増加している。
おける被験者保護の観点から、患者・被験者の自律
しかしながら検査に関する議論は必ずしもその動
性の尊重を第一に進展してきていた。そこに、新た
向に沿って展開をしていないように見受けられる。
な感染症として HIV/AIDS が登場することで、い
2010 年以降の pubmed に基づく文献調査の結果は本
わば個人主義的な倫理の枠組みでは対応が困難な事
報告でなされた通りだが、treatment as prevention
象が発生し始めていた。感染症対策など公衆衛生の
を受けて議論を展開しているものはあまり見受け
倫理的妥当性について議論するための枠組みとして
られない。もっとも米国について言えば、すでに
J. Mann らによって導入されたのが human rights 概
CDC2006 ガイドラインによって、ルーチン検査の枠
念である(J. M. Mann, Medicine and Public Health,
組みを導入しているため、特に検査体制としては大
Ethics and Human Rights, Hastings Center Report
きな転換をする必要はない、ということかもしれな
27(3) 1997, p6-13.)。
い。ただしその場合でも、CDC2006 ガイドラインの
その後も HIV/AIDS に関する議論を敷衍し、公
衆衛生に関する倫理的な議論の枠組みとして human
是非をめぐる議論の論点に変化がありうるので、こ
の点は今後精査が必要である。
rights や social justice に関する議論も継続されてい
また今後調査を必要とするのが、WHO による
る(M. Power & R. Faden, Social justice the moral
counselling の用語に変えて services の用語を使用
foundations of public health and health policy,
するようになった根拠と経緯についてである。HIV
Oxford, 2006.)。これらは国家及び社会が、公衆衛生
検査において counselling の重要性は、80 年代に設
に関する事象に介入する倫理的な根拠について提示
定された VCT モデル以来継続して訴えられてきて
するものであり、介入の正当性と同時に必要性、及
いる。クライアントの自律性の尊重という、検査に
びその程度や優先順位などの理論的根拠を提示する
対する倫理的な要請の根幹に関わる手続きとしてこ
ものである。
れまで尊重されてきた。CDC2006 ガイドラインで
counselling の必要性に疑問が提示されたとはいえ、
考察
検査関係の文献調査及び新聞報道記事調査につい
て考察する。
(1)検査関係文献調査より
昨年度までの研究によって、およそ 2011 年ごろ
までの検査に関する海外の議論の枠組みは析出して
いた。主に米国であるが、検査に関する議論の文献
数としては 2011 年でピークに達しているが、これ
その後も WHO のガイドラインでは検査体制に関す
るガイドラインのタイトルには couselling の用語が
使用され続けていた。services の中に counselling も
包括されるとはいえ、検査におけるクライアントの
自律性の尊重などの諸価値の位置付けについて、一
定の変更が行われたか否か確認が必要だろう。
本報告で紹介した日本における検査の議論、中で
も PITC に関する議論は 2011 年前後のものであり、
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
未だ treatment as prevention などによる転換を踏ま
健康危険情報
えた議論ではない。これから海外の議論をより精査
該当なし
157
することで、2010 年以降の treatment as prevention
や早期治療開始による健康上のメリットに関するエ
ビデンスを踏まえた、検査における本人利益の位置
研究発表
該当なし
付けの変化について確認することを踏まえて、日本
での議論を検討する必要があるものと考えている。 知的財産権の出願・取得状況(予定を含む)
郵送検査や自己検査の倫理的な議論の枠組みについ
ても、2011 年以降の枠組みの転換の可能性を確認し
つつ検討をすることが必要と考える。
また、術前検査や妊婦スクリーニングについては、
別途検討する必要のあるものと考える。
(2)日本の新聞報道記事に関する調査について
現在に至る偏見の起源にあたると考えられている
エイズパニック当時の報道内容及び報道のあり方に
関するアーカイブを作成することを目的としている。
しかしながら、本報告で紹介されたものだけを一瞥
するだけでも、偏見とは何か、またそれは誰の誰に
対するものか、必ずしも自明とは言えない。
「性病」
という記述を偏見の助長と訴える患者や支援者をど
う位置付けるか、陽性者の出産どころか妊娠や結婚
まで控えるように(おそらくは善意と信念を持って)
「説得」する医療者をどのように考えるか、歴史的文
脈を無視して安易に是非を決めることは避けるべき
だろう。その当時の議論をより精査しつつ、アーカ
イブ作成にあたりカテゴリー分けの仕方などについ
て注意深く検討する必要があるものと考える。
結論
検査関係の文献調査についてはまだ進行途上の
ため、結論としては暫定的だが、その時々の HIV/
AIDS を巡る状況の変化(治療や予防などのテクノ
ロジーの変遷やその時の社会状況、またどのような
地域やコミュニティでの議論かなど)によって、ク
ライアントの最善の利益の尊重と言っても、それは
変化していく。また、海外の議論の推移についても
タイムラグがあり、CDC2006 ガイドラインもその
倫理的な是非について中心的に議論がなされたのは
2011 年であり 5 年のタイムラグがある。2010 年以
降の HIV/AIDS 対策の枠組みの変化などを踏まえつ
つ、検査をめぐる本人利益などの諸価値に関する議
論をより精査することが求められるだろう。
該当なし
158
21
Web サイトを活用した情報発信と情報収集、閲覧動向に
関する研究
研究代表者:白阪 琢磨(国立病院機構大阪医療センター
HIV/AIDS 先端医療開発センター)
研究協力者:湯川 真朗(有限会社キートン)
研究要旨
Web サイト www.haart-support.jp は、平成 16 年(2004 年)に「多剤併用療法服薬の精神的、身体的負
担軽減のための研究」班で開設し、「服薬アドヒアランスの向上・維持に関する研究」班を経て、本研究班
まで継続的に情報発信を行なっている。
平成 18 年(2007)年 2 月 15 日からはアクセス解析ツール(Google Analytics)を導入し、アクセス数の集計や、
どのようなキーワードで当サイトに訪れているかなどを分析している。また Web サイト全体に対するアン
ケートに加え、個別ページからもその内容の有用性について検討するため、ユーザーが評価できるシステム
を導入している。(ページアンケート)
本報告書では平成 27 年度に新たに追加したコンテンツの報告と、Web サイト全体のアクセス解析を行い、
その閲覧状況を報告する。
研究目的
現在、医療機関や NGO、他の研究班などが多数
(3)個別ページから送信するページアンケート
各ページ下部には、「このページは役に立ちまし
の Web サイトを運営し、情報発信を行っている。 たか?」との設問に下記の評価をクリック操作で選
当サイトはそれに先駆け 2004 年に開設し、患者さ
択、送信できるプログラムを設置している。
ん向けから医療関係者向けまで幅広い情報を発信す
ると共に、新たな研究や新薬を追加するなどアップ
デートを重ねてきた。
このような流れの中で、アクセス状況を定期的に
把握するとともに、効果的な情報発信の手法を構築
することを目的とする。
研究方法
(1)情報発信
図1
ページアンケート
分担研究者の研究内容や研究成果を随時ホーム
ページ上に公開する。
(2)アクセスログの解析
各ページにはアクセス解析のためのトラッキング
コード(追跡コード)を埋め込み、訪問者数やペー
ジビュー数、どのホームページから訪れたかなどを
解析できるようにしている。
これにより、閲覧者はコンテンツを閲覧した直
後にその評価を送信できる。どのページから送信さ
れたのかも把握できるため、ページごとに評価を分
析できるようにしている。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
(4)Web サイト全体に関するアンケート
サイト全体に関するアンケート投稿ページを設置
している。設問内容は以下のとおり。
問 1. このホームページをどこでお知りになりまし
たか?
159
2)推奨処方のエビデンスとなる臨床試験(研究分
担者
鯉渕智彦)
平成 27 年 10 月 27 日にインデックスページを全
面改訂すると共に、ECHO, THRIVE, FLAMINGO
の各試験を追加した。
【選択項目】検索エンジン/他のホームページか
らのリンク/友人・知人に教えてもらった/その
他
問 2.お薬情報コーナーで役に立った内容はどれで
すか?
【選択項目】薬カード/ Q & A /患者向説明文書
(翻訳)/添付文書
問 3.このホームページに追加してほしい情報があ
れば、ご記入ください。
問 4.このホームページに関するご意見、ご要望が
あればご記入ください。
問 5.抗 HIV 薬の服薬を支援する方法を検討するため、
定期的にアンケート調査を実施したいと考えてい
ます。アンケート調査のお知らせをご連絡しても
いい場合は、メールアドレスをご記入ください。
3)平成 26 年度報告書 PDF および平成 24-26 年度総
合研究報告書をアップした。(平成 27 年 5 月 29 日)
問 6.年齢
4)介護保険施設の HIV ケアと学校基盤の HIV 予防
問 7.性別
における拡大戦略の研究(研究分担者 佐保美奈子)
問 8.あなたの立場についてお教えください。
【選択項目】患者/患者の家族・友人等/医療関
係者/その他
平成 27 年 4 月 20 日に研究タイトル名を変更した。
また以下を追加した。
・第 10 回および第 11 回の HIV サポートリーダー養
成研修の案内および申し込み送信フォーム
研究結果
(1)情報発信
1)抗 HIV 治療ガイドライン(研究分担者 鯉渕智彦)
平成 27 年 4 月 17 日に 2015 年 3 月版 PDF をアッ
プした。
(平成 27 年 4 月 20 日)
・看護、介養、養護教諭研修会の PDF(平成 27 年 5
月 14 日)
・研修風景の写真(平成 27 年 5 月 29 日)
・大阪府内高等学校等への出前講義スケジュール(平
成 27 年 5 月 29 日)
・ 第 5 回 HIV ネ ッ ト ワ ー ク 会 議 議 題 / 申 し 込 み
FAX 用紙(平成 27 年 6 月 2 日)
5)平成 27 年 6 月 5 日に「リンク」ページに啓発研究:
HIV/AIDS 啓発番組「LOVE+RED」
(エフエム大阪)
を追加した。
6)平成 27 年 9 月 25 日に研究者プロフィールを更
新した。
7)平成 27 年 9 月 25 日に研修会のお知らせを掲載
した。
8)おくすりガイドの抗 HIV 薬全般の Q & A(第 9 版)
を更新した。
160
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
表1
1 ヶ月ごとのユーザー数
平成 27 年
1月
2月
セッション数
11,179
10,325
3月
8,673
4月
10,963
6月
10,776
5月
10,370
7月
9,881
8月
8,071
9月
8,235
10 月
9,033
11 月
9,383
12 月
合計
8,861
115,750
② ページビュー数
ページビュー(PB)数は、ユーザーが閲覧したペー
ジをすべて集計したものである。平成 27 年 1 月 1
日から同年 12 月 31 日までの累計ページビュー数は
207,394 であった(表 2)。昨年は 209,664 で 2,270 減
であった。
表2
1 ヶ月ごとのページビュー数
平成 27 年
1月
20,380
3月
15,469
2月
4月
5月
① セッション(訪問数)
セッション(訪問数)とは、ユーザーが当サイト
に訪れて他のサイトに移動する(またはブラウザを
閉じる)までの一連の操作のことである。他のサイ
トに移動(またはブラウザを閉じる)して 30 分を
経過すると、同じユーザーでも新たなセッションと
してカウントされる。1 つのセッション内で閲覧し
たページ数は考慮しない。平成 27 年 1 月 1 日から
同年 12 月 31 日までの延べ人数は 115,750 であった
(表 1)。昨年は 105,657 で 10,093 増であった。
18,067
8月
16,039
10 月
16,729
11 月
計を以下に示す。
19,088
19,906
9月
平成 27 年 1 月 1 日から同年 12 月 31 日までの集
18,521
6月
7月
(2)アクセス解析
PV 数
12 月
合計
17,106
14,941
15,817
15,331
207,394
③ カテゴリー別ページビュー
平成 27 年 1 月 1 日から同年 12 月 31 日までのカテ
ゴリー別のページビュー数は表 3 のとおりである。な
お各カテゴリーは構成するページ数や公開時期が異
なるため、ページビュー数の単純な比較はできない。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
表3
⑥ HIV 診療における外来チーム医療マニュアル
カテゴリー別ページビュー
カテゴリー
PV 数
HIV 感染症ってどんな病気?
63,607
おくすりガイド
61,550
抗 HIV 治療ガイドライン
26,430
外来チーム医療マニュアル
22,769
感染初期の診療
8,097
HIV 陽性者の歯科診療の課題と対策
2,684
推奨処方のエビデンスとなる臨床試験
2,211
介護保険施設の HIV ケアと学校基盤の
HIV 予防における拡大戦略の研究
1,889
HIV 感染症とメンタルヘルス
1,567
その他資料・冊子のダウンロード
1,783
症状から探す重大な副作用
1,120
研究者プロフィール
908
当研究班について
877
④ 抗 HIV 治療ガイドライン
HIV 診療における外来チーム医療マニュアルは
平成 27 年 1 月 1 日〜同年 12 月 31 日までの PDF
閲覧数は 10,900 であった。
HTML 版 と PDF 版 を 公 開 し て い る。 平 成 27 年 1
月 1 日〜同年 12 月 31 日までの HTML 版のページ
ビューは 22,769 で、PDF 版の閲覧数は 376 であっ
⑤ 推奨処方のエビデンスとなる臨床試験
平成 27 年 1 月 1 日〜同年 12 月 31 日までの各試
験ごとのページビュー数は表 4 のとおり。なお一部
た。HTML 版各ページのページビュー数を表 5 に示
した。
表5
は平成 27 年 10 月 26 日に公開した。
表4
SPRING-2
HPTN052
試験名
PV 数
※1
132
99
SINGLE
NA-ACCORD ※ 1
STARTMRK
ACTG5142 ※ 1
ARTEMIS
GS102
71
67
66
49
GS103
※2
CASTLE
GS934
ECHO ※ 2
THRIVE ※ 2
ALERT
CNA30024
※2
80
58
ASSERT ※ 1
※1
94
60
D:A:D ※ 1
FLAMINGO
143
126
ACTG5202
:平成 27 年 10 月 26 日削除
:平成 27 年 10 月 26 日追加
ページビュー数
ページ
試験別ページビュー
SMART ※ 1
161
資料 1)医療者が普段から備えておき
たい援助的コミュニケーションスキル
について
PV 数
4,717
第 1 章 4)チームとは
1,921
資料 6)自立支援医療
1,409
第 3 章 5)抗 HIV 薬・抗 HIV 療法
第 2 章 iv HIV 感染症と精神科診療
資料 5)身体障害者手帳
第 1 章 5)各医療者の役割
1,903
981
802
765
資料 2)服薬における患者と医療者の
コミュニケーション事例
573
第 3 章 6)院外処方の留意点
475
第 1 章 3)加算
418
36
⑦ 介護保険施設の HIV ケアと学校基盤の HIV 予防
27
平成 26 年 5 月から、研修の紹介や申し込み受け
31
24
22
20
16
9
における拡大戦略の研究
付けなどをホームページで行った。平成 27 年 1 月 1
日〜同年 12 月 31 日までの各ページビュー数を表 6
に示した。
162
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
表6
トップページ
ページビュー数
ページ
第 11 回 HIV サポートリーダー養成研修
のご案内
PV 数
⑨ おくすりガイド
1,200
309
第 10 回 HIV サポートリーダー養成研修
のご案内
124
研修風景
69
⑧ HIV 感染症とメンタルヘルス
研修会の報告やお知らせ、HIV 陽性者やその家族・
パートナーの方を対象にしたチェックシート(「こ
んな症状に気づいたら、一度相談してみましょう」)
PDF、HIV 感染症と精神疾患ハンドブック PDF、
研究報告書 PDF などを掲載した。
平成 27 年 1 月 1 日から同年 12 月 31 日までのペー
ジビュー数は 1,567 であった。
HIV 感染症とメンタルヘルスで公開している各
PDF の閲覧数を表 7 に示した。
表7
抗 HIV 薬の添付文書や Q&A、薬カード、患者
向説明文書などを掲載している。平成 27 年 1 月 1
PDF 閲覧数
日〜同年 12 月 31 日までの各ページビュー数を表 8
PDF
閲覧数
HIV 感染症と精神疾患ハンドブック
Ve.2
191
こんな症状に気づいたら、一度相談
してみましょう
142
に示した。
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
表8
⑪ その他資料・冊子のダウンロード
ページビュー数
ページ
TVD の添付文書
抗 HIV 薬全般に関する Q&A
RAL の添付文書
ATV の添付文書
163
PV 数
6,993
6,968
4,356
3,737
TDF の添付文書
2,584
EZC の添付文書
2,179
AZT の添付文書
1,683
EFV の添付文書
2,138
カレトラの添付文書
ABC の添付文書
1,526
1,337
⑩ HIV 感染症ってどんな病気?
ここでは、HIV 感染症や免疫に余りなじみのない
方の理解を助けるために作成し、2006 年末に公開し
た。平成 27 年 1 月 1 日〜同年 12 月 31 日までの各ペー
ジビュー数を表 9 に示した。
表9
ページビュー数
ページ
CD4 陽性リンパ球細胞の数
PV 数
8,102
抗 HIV 薬について
4,934
CCR5 阻害薬
3,797
病気から体を守る免疫
3,664
インテグラーゼ阻害薬
HIV について
プロテアーゼ阻害薬
治療法について
HIV に感染すると…
CCR5 阻害薬
4,627
3,703
3,651
3,446
3,052
3,797
ここでは、各研究で作成した資料や冊子、研究報
告書の PDF を公開している。平成 27 年 1 月 1 日か
ら同年 12 月 31 日までの各 PDF の閲覧数を表 10 に
示した。
平成 27 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業
164
表 10
PDF 閲覧数
た。
PDF
閲覧数
HIV/AIDS の正しい知識[全章版]
(山内哲也)
381
HIV/AIDS の正しい知識[抜粋版]
(山内哲也)
病院のなかの臨床心理(暫定版)
(仲倉高広)
HIV 検査相談 要確認・陽性告知のポ
イント(桜井健司)
退院援助のための支援シート
(小西加保留)
ポジティブな SEX LIFE ハンドブック
(井上洋士)
HIV 感染症と精神疾患ハンドブック
(廣常秀人)
平成 26 年度報告書
平成 24 - 26 年度報告書
【送信日時】2015 年 11 月 25 日
87
【評価】
69
【メッセージ】
135
58
在宅医療を支えるみんなに知ってほ
しいこと(下司有加)
【送信ページ】DRV の添付文書
78
204
191
19
15
⑫ 早わかり!症状から探す重大な副作用
役に立った
中学校の性感染症の調べてる途中でこのページを見る
ことが出来、阻害薬の仕組みなどについてもよく理解
することができました。
【送信ページ】
「HIV 感染症ってどんな病気?」の「治療法について」
【送信日時】2016 年 1 月 26 日
【評価】
なし
【メッセージ】
過去のガイドラインも、当サイトのどこかに置いてく
ださるとたすかります。
【送信ページ】抗 HIV 治療ガイドライン
このシステムは症状を選び、次に服用している抗
HIV 薬を選択することで、重大な副作用に該当する (4)Web サイト全体に関連するアンケートの集計
かどうかを判定するシステムで、平成 21 年(2009 年)
平成 27 年 1 月 1 日から同年 12 月 31 日までのア
2 月より公開している。システムにはオンラインで
ンケート送信数は 1 件であった。
利用できるものと、オフライン環境でも使えるアプ
リケーションがある。平成 27 年 1 月 1 日〜同年 12
送信日:2015 年 11 月 3 日
月 31 日まで、オンラインでシステムを利用したの
[1. どこで知りましたか ]
は 137、オフラインでも動作するアプリケーション
のダウンロード数は 3 であった。
[2. 役に立ったお薬情報 ]
[0] : 添付文書情報
[3. 欲しい情報 ]
(3)ページアンケートの集計
アンケートの回答は、平成 27 年 1 月 1 日から同
年 12 月 31 日までに 18 件あった。評価の内訳は表
11 のとおり。
表 11
[0] : 検索エンジン
今は特にありません。
[4. ご意見、ご要望 ]
北里大の大村先生や熊本大学満屋裕明先生のテレビ番
組から偶然たどり着き、少し発奮しました。HIV の患
ページアンケートの集計結果
評価
役に立った
一部、役に立った
役に立たなかった
回答数
件数
16
2
0
18
このページアンケートでは、以下の意見などが寄
せられた。
【送信日時】2015 年 11 月 3 日
【評価】
一部、役に立った
【メッセージ】
満屋博士のテレビを見ていてたどり着く。ヤンセンは
精神科領域ばかりでなく、世界に貢献しているのを知っ
者の件は、たまに書類等にみられ、関心はありました。
[5. メールアドレス ]
あり
[6. 年齢 ]
60 代以上
[7. 性別 ]
男性
[8. あなたの立場 ]
医療関係者
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
考察
閲覧数は年々緩やかながらも増加し、アンケート
結果からも有用な情報発信ができていると考える。
結論
ホームページに掲載している内容は、HIV/AIDS
に関する基本的な知識から、医療従事者を対象とし
た専門的な情報まで多岐にわたり、他の研究班には
無い有効な情報発信としての機能を果たしていると
考える。
またホームページ制作技法として当時の最先端
の技術を駆使するとともに、視覚障碍者が利用する
音声読み上げにも対応したユニバーサルデザインを
積極的に取り入れてホームページを構築した。しか
しホームページを立ち上げたのが平成 16 年(2004
年)で、今では 10 年以上が経過し、その制作技法
が古くなってきた。当時には存在しなかったスマー
トフォンやタブレット端末が、今ではユーザーの閲
覧環境の半分近くを占めるものの、ホームページは
それに対応しておらず、スマートフォンでの表示が
PC での表示形態の縮小版でしかない。平成 27 年の
1 年間の閲覧者の環境がデスクトップ 52%、モバイ
ル 43%、タブレット 5%であることから、早期にスマー
トフォンに最適な表示ができるよう対応が必要と考
える。
健康危険情報
該当なし
研究発表
該当なし
知的財産権の出願・登録状況(予定を含む)
該当なし
165
厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業(エイズ対策政策研究事業)
HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究
平成 27 年度 研究報告書
発
行:平成 28 年 3 月
発行者:HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究班
研究代表者 白阪 琢磨
〒 540-0006 大阪市中央区法円坂 2-1-14
国立病院機構大阪医療センター
HIV/AIDS 先端医療開発センター
TEL 06-6942-1331