フランスでの多重債務者対策と 生活再生支援のようす

多重債務問題フランス調査報告会
フランスでの多重債務者対策と
生活再生支援のようすについて
日
時:2010年2月18日(木)10:30∼12:30
場
所:福岡県中小企業振興センター
大ホール
フランス調査報告会
式次第
<敬称略>
10:00
開場、受付
10:30
開会あいさつ
(全体司会
主催者あいさつ
(グリーンコープ生協ふくおか
組合員事務局
山崎
副理事長
シンポジウム開始(シンポジウム司会
美千恵)
小川
佐藤
ちはる)
順子)
生活再生相談室の報告と調査の趣旨について
グリーンコープ生活再生相談室
行岡
みち子
訪問先と調査団の紹介
佐藤
順子
調査研究員からの報告
高橋
伸子
鳥山
まどか
陣内
恭子
吉見
やよい
行岡
みち子
まとめ
佐藤
閉会あいさつ
順子
(グリーンコープ生協ふくおか
理事長
12:30
田原
終了
− 資料目次 −
頁
1
調査の目的について
2
調査研究員紹介
3
調査団日程・訪問先機関
4−14
調査研究員の所感
15−28
予備知識メモ(抜粋)
作成
小林
29−38
グリーンコープ生活再生相談室報告
実
幸子)
何のためにフランス調査を?―――目的について
2010年2月18日
グリーンコープ生活再生相談室
行岡みち子
グリーンコープは人と人のつながり、人と人の助け合いを組織の根幹に置く運動体です。
その運動体からグリーンコープ生活再生事業は誕生しました。社会経済が不透明な時代
を迎えて、食べものや福祉のほかにも組合員の暮らしを総合的に守る運動・事業が必要だ
と考えたからです。
〈金銭教育〉
〈消費生活支援〉
〈生活再生相談〉
〈生活再生貸付〉の4つの運動と事業を有
機的に連携させ取り組む事業として、2006年8月に組合員の総意で福岡市に生活再生
相談室を開設して丸3年がたちました。2008年4月からは福岡県との協働事業・多重
債務者生活再生相談窓口を開設し、相談室も福岡市、北九州市、久留米市、直方市に広が
り、福岡県民の〈お金の問題〉の駈け込み寺の役割を果たしています。
生活苦や借金苦がだれにでも起こりうる時代にあって、
〈生活再生〉という言葉に託した
思いがあります。それは、困難な生活の中で壊れてしまった人間としての自尊心の再生、
家族関係などの人間関係の再生、安心できる日々の生活の再生、経済生活そのものの再生
といった人が地域社会の中で生きていく上で大切な生活の機能を十全に再生させていきた
い、その支援者でありたいという思いです。
生活再生相談室は、家族や親戚や友人たちとともに未来を思い描くテーブルであり、信
頼関係を回復するあたたかい場でありたいと願いました。そのために、家計の現状を洗い
出して必要な生活資金を準備し、本人のやる気と人間関係を再生する伴走者でありたいと
考えました。
実践を重ね3年が経過しました。成果も出てきましたが、社会の状況はさらに厳しくな
っています。家計や生活へのアドバイスは本当にこれでよいのか、生活資金の貸付をもっ
と役に立たせることはできないのか、悩み始めました。だれもが活用できるような家計表
の作成など家計管理のツール(道具)をもっと改善し開発したい、具体的な生活アドバイ
スのレベルアップを図りたいと願いました。
多重債務対策では先進地のフランスに、家庭経済ソーシャルワーカーというお手本があ
ることを知りました。福祉事務所のソーシャルワーカーが生活指導とともに家計や金銭教
育もすること、その育成のための国費の職業学校もあるということでした。そこで、生活
再生のための金銭教育や家計管理ツールの改善に向け、その基礎調査として福岡県の推薦
も頂き、平成 21 年度厚生労働省社会福祉推進事業を受けて調査を開始しました。
北海道、東京、京都、地元の福岡と全国からご協力いただいた多彩な研究員の顔ぶれと
フランス現地で事前準備と翻訳や通訳を担当してくださった小林
し、予想以上の収穫があったと思います。
本日はその収穫の一部をご報告いたします。
実さんの助力が功を奏
以上
調査研究員紹介
高橋
伸子
(生活経済ジャーナリスト、金融庁多重債務者対策本部有識者会議委員)
佐藤
順子
(佛教大学福祉教育開発センター講師、全国クレジット・サラ金問題対策協
議会セーフティネット貸付実現全国会議副代表)
鳥山
まどか(北海道大学大学院教育学研究院助教)
陣内
恭子
吉見
やよい(グリーンコープ 家計とくらしの応援ワーカーズ円縁代表)
行岡
みち子(グリーンコープ生協ふくおか 生活再生相談室室長)
(マネー塾主宰、実践的金銭管理教育研究家)
(協力者紹介)
小林
実氏
フランス在住。
<ゲランドの塩>の産地との交流やヨーロッパの NON GMO の情報窓口をつとめている。
グリーンコープ連合の顧問。今回の視察調査に向けての事前準備、現地通訳、資料の
翻訳等にご尽力いただいた。
調査団日程・訪問先機関
日程
1
9月17日
訪問先:午前
10:00,-12:00
労働・社会、家族、連帯と都市関連省
14:00-15:30
ジョルジュ・グルーコヴィエゾフ氏
(旧来の労働省)社会アクション総局
レクチャー
Direction Générale de l’Action Sociale (DGAS) CICP(NPOセンター)にて
21ter, rue Voltaire 75011 Paris
11 Place des martyrs du Lycée Buffon, 75015
木
17:30- 一時間ほど
担当者:ジャクリーヌ・ルボン Jacqueline Lebon 金融セクター諮問委員会(CCSF)
la Banque de France
31 rue Croix des Petits Champs
75001 PARIS
エマニュエル・コンスタンス委員長
9:00−12:00
多重債務委員会
フランス銀行バスチーユ支店
2
9月18日 金
Antenne économique
3 bis place de la Bastille 75004 PARIS
オディル・フランス事務局長
Odile Franses
3
訪問先:午後
14:00 - 16:00
社会労働研究所
INSTITUT DE TRAVAIL SOCIAL ET
DE RECHERCHES SOCIALES(IRTS)
145 bis, avenue Parmentier 75010 PARIS
担当者: フランシス・ルトゥリエ所長
10:00−12:00
公共金融教育のための研究所
Institut pour l'éducation financière du public
14:00−16:00
スクール・カトリック(NPO)本部
Le Secours Catholique
Palais Brongniart ‒ 28, Place de la Bourse
106, rue du Bac 75006 PARIS
9月21日 月 75002 Paris
アラン・ベルナール氏 Alain BERNARD
担当者:ベルナール・マルクス氏
10:00 - 12:00
クレジュス
C ré su s-P aris (N P O )
4 9月22日 火 15 p lace
d e s A b b e sse s 75018 P aris
担当者:エマニュエル・モヤール
E m m an u e lM o yart
14:00 - 16:00
パリ市アクションセンター
Centre d’Action sociale de la Ville de Paris
5-8 avenue Daumesnil (12e), 75589
Paris Cédex 12
担当者:フランソワーズ・ポルト=ラアル、
ナタリー・ヴァンサン
金融セクター諮問委員会(CCSF)を訪れての所感
1980 年代から多重債務問題の解決に向けて取り組んでいるフランスにおいても、多
重債務問題が収束に向かわず、依然として深刻な社会問題であることを知った。とはい
え、返済が滞った人のブラック情報をフランス銀行の国定ファイルに登録する仕組みが
とられていて、国が多重債務者のデータの把握に務め、必要に応じて調査・勧告を行い、
実情に応じて法整備をスピーディに行っている点など、日本政府がお手本にすべき点が
多々あると感じた。
日本では高金利が多重債務者の発生に密接な関わりがあるとして、2006 年 12 月にグ
レーゾーン金利をなくし、上限金利を引き下げる方向で法改正が行われたが、フランス
でも「暴利」とみなされる利率を上回る貸付けは、法律で禁止されている。ただし、暴
利とされる上限金利は貸付け時点の平均的利率(4半期ごとにフランス銀行が調査して
算出)に3分の4を乗じたものなので、金利の変動を考慮している点が日本よりも優れ
ていると思った。どこからも借りられずに行き詰まる消費者が出ないようにといった理
由で、フランスでも金利規制に反対する動きがあるが、「法的な上限値が決められてい
なければ、金利は社会的には耐え難いレベルに達してしまうであろう」として上限金利
の維持を CCSF が主張し続けていることを知り、消費者保護の立場にいる者としては
大変勇気づけられた。
本年6月の改正貸金業法完全施行に向けて日本では今、金利規制と並んで借り手の年
収に応じて貸付額を制限する総量規制を見直すべきかどうかが大きな争点になってい
る。フランスは法律による総量規制はないものの、日本の新規制と同様、「一般的に収
入の3分の1以上のローンの貸付けは行われていない」という話を CCSF で聞いたの
は大きな収穫だった。また、日本ではブラック情報のみならずホワイト情報を含めた情
報共有をはかりたいとする事業者の要望があるが、フランスでも同様な動きがあること
もわかった。ただし、CCSF はこれも認めない立場を明らかにしている。
以上のような消費者に重大な影響を及ぼす規制の改廃がフェアでわかりやすく行わ
れている点にも目を見張った。たとえば、CCSF の討議テーマを決める際には、委員の
絶対過半数の賛成によって何人かの委員に特別な課題について調査研究を委任するこ
とができることや、委員会決議も多数決によることとされ、採決が二分した時には委員
長が採決権を持つが、消費者側の委員と事業者側の委員を同数入れることが法定されて
いる点も特筆しておきたい。フランスでは現在、リボルビング返済方式についての検討
がすすめられているようなので、どういう対応がとられるのかをウォッチしたい。
(高橋
伸子)
多重債務委員会(フランス銀行バスティ―ユ支店)を訪れての所感
フランスでは 1990 年にネエルツ法が施行された際に、海外県も含め全国各地に多重
債務者委員会が設置された。日本でも改正貸金業法の一部施行とあわせて官邸に多重債
務者対策本部を設置し、問題の解決に向けて都道府県に多重債務者対策協議会が設けら
れた。しかし、日本のそれは法定化されたものではなく、フランスのように県知事が委
員会の長を務める組織でもない。県民生活部長などが会長を務めるケースが多く、行政
機関の横の連携をとるのに難義している実態がある。また、主管が環境生活部や商工労
働部などで専管の形をとっていないので、多重債務問題はワンノブゼムのマターになり
やすく、どこの地域に住むかによって解決支援に差がでてしまう状況だ。
その点、フランスでは国が知事を任命し、多重債務委員会の事務局員はフランス銀行
の職員なので、国営機関が全国にある、とみていいだろう。多重債務状況を常に国が把
握しているので、法改正などの対応が機動的できる仕組みになっている点を何よりうら
やましく感じた。たとえば、多重債務委員会は発足当初から多重債務者は債務委員会に
債務整理を委託することができたが、多重債務委員会への書類提出がふえるにつれて多
重債務委員会の権限が強化され、ついには裁判所の役割をも果たせるようになったのだ。
行政的、法的な解決の枠組みであるがゆえに、多重債務委員会への申請に費用がかか
らないし、税金も債務帳消しの対象になっている点も驚きだった。一方、国営機関であ
るがゆえに、予算はもちろん青天井ではなく、財務監査もあるし、担当官の書類処理時
間などもきちんと管理され、納税者の負担を常に意識している。執行官が勧告を出す段
階に進めるとコスト高になるので、事務局としてはできるだけ和解提案で解決するよう
に努力している、という苦労談も伺った。
パワーポイントで各種データを投射し、質疑応答に丁寧に応じてくださったあと、
「申
請書類の現物をご覧になりたいですか?」という私たちにとっては願ってもない申し出
があり、現在、多重債務委員会にかかっている案件の書類一式を見ることができた。最
初の人は女性で2度目の申請、退職により返済困難になってしまったケースだった。利
率ゼロで1年で返済する計画だが、銀行の残高証明、給与明細、税金や社会保険の状況、
電話代、電気代、家賃の証明書、身分証明書などがファイリングされていた。次に見せ
てもらったのは、個人再生法の措置を申請しているケース。55 歳の未亡人でなんども
失業状態に陥っており、年齢的にも債務の返済ができる見込みが立たないので、5万ユ
ーロの債務が帳消しにされる見込みだという。
国の費用で債務整理や個人再生法の適用が受けられることに驚く私たちに、事務局長
は「フランス革命から権利と義務が生まれ、育ってきた。他のヨーロッパ諸国に比べる
と、独特の社会福祉的な考え方が歴史的にある。1人の給与生活者が年に収入の2カ月
分の税金を納めるが、それは“連帯”のために払うお金。国民全体が連帯して貧しい人
の分も払うことに納得している」とにこやかに語った。国の形の違いを強く感じた。
(高橋
伸子)
社会アクション総局
所感−「権利の回復」について
(報告集より抜粋)
「生活上の問題や困難を抱えている人の多くは、本来有している権利が損なわれ、自
身もその事実をわかっていないことが多い。その権利を明らかにし、回復できるように
することが重要である。」
このような発言を、今回のフランス調査においてたびたび耳にした。これが、NPO
などの支援団体関係者からだけではなく、総局や次のパリ市アクションセンターのよう
な、いわゆる「公的機関」の職員も、重要な問題として論じていた点が印象的であった。
「損なわれた権利を明らかにし、回復する」という言い方が成り立つのは、そこで言う
「権利」が、単なる「権利論」として宙に浮いているのではなく、日々の生活を支える
具体的な事柄として、人々に認識され、あるいは議論されているからこそであろうと思
われる。
翻って、日本で社会福祉に関わる政治家や官僚、公務員(この中にはソーシャルワー
ク的支援を担う職員も含まれる)といった人々が、支援を必要とする人を目の前にした
とき、あるいは、支援の在り方、制度や政策の在り方について構想するとき、「権利の
回復」ということがどのくらい意識されるだろうか。また、日本で生活している私たち
は「権利がある」ことを頭で理解していても、それを具体的な日々の生活に即して考え
たり、他の人たちと議論したりといった機会がどの程度あるだろうか。
日常の生活に結びつけられる形で「権利」を位置づけ、そこから制度や支援の在り方
について考え、議論するためには何が必要か、今後の研究や実践上の重要な課題の一つ
であろう。
(鳥山
まどか)
パリ市アクションセンター
所感―日仏の「家計管理」の違いとソーシャルワーク
(報告集より抜粋)
資料編にも掲載しているが、アクションセンターで使用されている家計管理支援モジ
ュールは、非常にシンプルなもので、日本人の目から見てそれほど目新しいものでもな
いといえるだろう。しかしながら、ヒアリング中にも強調されていたように、利用者の
抱える生活上の困難や課題には必ず「家計」の問題が関わるという事実が共通理解とし
て存在し、福祉事務所のような公的な相談機関でもソーシャルワーク実践に組み込まれ
ていることを確認できたことは、大きな収穫であった。
日本においても、様々な相談支援の場面で、家計や家計管理の問題に直面することも
多く、また家計管理に関する支援に苦労しているという話を、実際に相談支援に携わっ
ている現場の方々から伺うことが少なくない。しかし、それはあくまで各支援者個人の
悩みや試行錯誤のレベルにとどまりがちで、実践においても研究においても、それが正
面から議論されることはこれまで非常に少なかったといえる。
日本の社会福祉制度やソーシャルワークにも家計管理に関する支援を取り入れるべ
きだが、実際にはどのような形が可能か、その議論の前提となる資料を得るというのが、
今回のフランス調査の目的の一つであった。一連のヒアリングを通して、改めて、家計
管理支援の必要性を認識したところであるが、同時に、フランスと日本では、管理すべ
き「家計」の範囲が大きく異なることに留意しなくてはならないことにも気づかされた。
わかりやすい例は教育費であろう。日本の場合、高額の費用がかかる大学1、義務教
育であるにもかかわらず様々な保護者負担を要する小中学校、学校教育への不信や社会
教育サービスの未確立による学習塾や習い事、スポーツクラブ等の学校外教育活動への
支出など、日本の親たちは子どもの教育にお金をかけざるを得ない状況に立たされてい
る。このような現状の中で、親たちは早くから「子どものための」教育費負担を見据え
て家計上の準備をしていくか、教育費負担のために奨学金を借り、その後長期にわたっ
て―家庭を持ち、子どもが生まれた後も―自分で借りた奨学金=借金を返済していかな
くてはならないことが多い。このように教育費負担の影響は世代間に及ぶこともある。
つまり、日本では数十年先を見据えた家計管理計画を立て、それを合理的に実行してい
くという困難な作業が求められる現状にある。
従って、社会福祉政策や制度、あるいはソーシャルワーク実践の中に「家計管理支援」
1
2006 年 の教育支出における家計負担割合を日仏間で比較すると、全教育段階ではフランス 6.8%に対し
日本は 22.8%を占める。大学等の高等教育段階ではフランスの 10.1%に対して日本は 50.1%と、日本の家
計負担の大きさが際立っていることがわかる( OECD(2009) Education at a Glance 2009)。
を取り入れるに当たっては、同時に、家族に加重に課せられた家計負担・責任を社会化
していく方途についても構想することが重要である。この視点が抜けたまま議論が進め
られれば、「家計管理支援」の元で「家族責任」がますます強化され、貧困・低所得を
はじめとする社会的不利を負った家族を一層追い詰める結果となるだろう。
(鳥山
まどか)
所感
家計の助言者の国家資格「CESF」紹介
社会労働研究所では、家計の助言者としての国家資格(Conseiller en Economie
Sociale Familiale、以後CESF)の詳細を伺った。研究所の所長と実務と指導を行
っている女性 2 名の資格取得者に、2 時間の予定が 3 時間以上になってしまったほど熱
心に質問に答えていただいた。日本で言えば、ソーシャルワーカー、家計管理のアドバ
イスを行う一部のファイナンシャルプランナー、多重債務等の社会問題の相談員などの
役割を担う仕事で、日本語のイメージは「家庭経済ソーシャルワーカー」である。
このフランス訪問のよかった点は、各方面で活動中の方の話を伺う中で、CESFの
実務者の自己評価とかなり違った厳しい評価もあり、その部分を直接確認できたことで
ある。多重債務問題を研究する人からは、家計管理ばかりではなくもっと金融商品に関
する知識を身につけてほしいという希望がでる。実際にCESFのカリキュラムの説明
を受けると金融も家計管理も養成講座の時間数でみると少なく感じる。そこを伺うと、
理論学習だけではなく、プロのCESFに指導を受けながら実務をこなし、実践でスキ
ルを身につけるのだと回答がある。また、多重債務の相談を担う資格という意識で質問
をしていたが、幅広く低所得者の相談に応じているということが後半わかるなど、実務
者の情報からいろいろなことが見えてきた。うらやましく思ったのは職業教育基金とい
うフランスの職業訓練の仕組みで、一旦、社会人となっても希望者は、休職しスキルア
ップを図る制度が準備されていることだ。同じ会社に戻らなくてはならない縛りもなく
学びやすい環境が確保できるようだった。
日本も家計の改善や生活の再生のためにアドバイスを必要とする相談者数は増加し
ており、適切なアドバイスができる専門家の絶対数が不足すると考えられる。職業教育
コースとして、社会保障制度に精通し、家計管理と金融知識に強く、指導、教育ができ
る専門家の養成を急がなければならないという視点で既存の資格のカリキュラムをみ
ると偏りがある。CESFのような生活設計、社会保障制度、消費生活関連、福祉、金
融経済、家計管理、カウンセリング、心理学など幅広く学ぶ職業訓練はない。複数の専
門分野の知識を併せ持った、すぐに現場で相談に乗ることができる力を持つためのカリ
キュラム開発自体はすぐにできると思われる。仕事をしながら一部ずつ履修していくコ
ースと新規に学ぶコース両方で、即戦力と中長期の相談員の確保を目指すことができる
実務者養成を急ぐべきではないかと思う。人を育てる国全体の仕組みづくりにも参考に
なる制度が、フランスにはたくさんあるのではないかと感じた訪問であった。
(陣内
恭子)
所感
フランスの金融教育の実践から学んできたこと
フランスの金融教育は、今回訪問した公共金融教育研究所が積極的に学校教育への導
入を図るほか、さまざまな金融機関や団体がホームページやテレビ番組、冊子等を媒体
に、直接、間接的な学習の場を作りだしていた。
日本は、戦後から貯蓄推進の金銭教育が進められていたが、貯蓄から投資への流れの
中で金融教育の高まりを見せたのは 10 年ほど前からで、フランスの場合は、アメリカ
やイギリスの影響を受ける前の日本の金銭教育と似た状態なのではないかと感じた。
訪問先で話を伺ったベルナール・マルクス氏が経済学者であるためか、金融機関に対
して、もっと偏りのない必要な情報を出すことが大切、銀行の担当者が倫理観を持って
いないこともあるから、個人は自分を守るために学ばなくてはならないとはっきり言わ
れる点に日本も同じだと共感できた。
金銭教育を行っている立場から見て参考になったものの1つが目指すレベルの表現
方法で、専門用語ではなく人間像としてイメージできるよう置き換えると分かりやすい
ということだ。たとえば、高校生の教育で自分を守るために持つべき力は 「金融機関に
対し自分にとって必要な質問ができること」 と表現された。金融取引においても、家計
管理アドバイスでも、人の生活を数字で表現することに傾きやすいが、生活者であるこ
とを忘れないようにしなければならないと再確認した一言だった。
実践的な金融教育というのは、知識を身につけるだけではなく日常生活で活用できる
レベルの力を持たせることで、身の丈に合わせた消費、金融取引の範囲で生活するなら
ば個人の多重債務は減るはず。個人がお金を融通しあう仕組みの中で、金融経済の知識
と知恵と技術を持つことが‘幸せになるために金融と上手に付き合うこと’につながる。
これはまた、個人と金融業界の良好な関係発展のために役に立つことだろう。
これからも一層、生活者を見て、また経済社会の動向を見て、実践的な金銭教育、金
融経済教育を担い広げていきたいと思う機会となった。
(陣内
恭子)
スクール・カトリックを訪問して―所感
(報告集より抜粋)
スクール・カトリックの取り組みについて雇用、経済、連帯経済担当のアラン・ベルナ
ール氏から予定を 1 時間近く超えて説明して頂いた。行岡視察団代表よりスクール・カ
トリックの取り組みに感動したこと、日本の状況およびグリーンコープの取り組みにつ
いて報告された。「グリーンコープの生活再生事業は、スクール・カトリックのように
自ら再生に向かうように同道しながら進めてきた。自分たちが進めてきたことが間違っ
ていないことが分かり希望が持てた。もっと頑張ろうかという気持ちになった。」
アラン・ベルナール氏より「私たちは、毎日極限的な人たちと闘っている。日本は政
権交代があり、地道な活動を継続していけば大きな動きをつくっていける。法制度の改
革を訴えていくことは難しいが、今後も充実させて頑張って頂きたい」とエールを頂い
た。
スクール・カトリックの取り組みは、信仰に基づいたボランティア精神によって根付
いたものであり、博愛に満ちた精力的な活動に同席した皆が感動を覚えた。何よりも
100 万人という人々の善意ある莫大な寄付金とその寄付金に裏打ちされた支援活動、特
にマイクロクレジットの実態だった。スクール・カトリックが独自で始めたマイクロク
レジットが国や銀行を動かし、多重債務者の救済と生活再生に役立っていた。
欧米に比べ、日本にはボランティア精神が根付いていないが、善意ある人々の活動は
いろんな形でいろんな所でこれまで取り組まれてきた。グリーンコープも「生命を育む」
運動に積極的に取り組み、その一翼を担ってきたと自負している。しかし、スクール・
カトリックのようなフランス全土での取り組みや層の厚い、組織的で継続的な取り組み
には至っていない。また、国や銀行、NPOとの連携には学ぶことが多かった。
グリーンコープの生活再生事業は、多重債務問題で相談にこられる方々に寄り添い、
自ら生活が再生できるように取り組んできた。相談者はもとより社会からも評価を得て
いる。
私は 12 名のFP仲間と生活再生事業の一部を担うワーカーズとして、「家計とくらし
のワーカーズ円縁」を 2008 年 5 月に立ち上げ、2 年になろうとしている。暮らしの中の
経済的な課題である「金銭教育」や「消費生活支援」を目的に活動してきた。組合員の
自主サークル「らくらく家計簿クラブ」のサポートやライフプラン講座等の講師として
組合員に家計管理の大切について話をしてきた。2009 年度は、300 回の学習会の講師
として 3,000 人強の組合員にお金に振り回されず心豊かに生きていくことについて、共
に考えてきた。
私たちの現在の活動は生協の組合員内に留まっているが、小学校からの金銭教育の要
請があり、地域へも積極的に拡大していこうと、次年度に向けて準備を始めた。フラン
スで出会った素敵な人々の高潔な精神に感銘を受けたことにもよる。生活再生事業や行
政または地域のNPOとも連携し、幅広く重層的な取り組みを模索していきたいと考え
ている。
今後、多重債務問題を国の重点課題として取り組むためには、国や銀行、民間(NPO
を含む )の連携の仕組みづくり、そこを担う相談員(家庭経済ソーシャルワーカー)
の育成、家計管理や金銭教育のツールの開発、改善が必要だと考える。今回の調査研究
が生かされることを切に願う。
(吉見
やよい)
クレジュスを訪問して―所感
(報告集より抜粋)
<クレジュス>誕生の地は大規模な炭鉱閉山、地域産業の崩壊、失業者の多発という
キーワードで福岡県の歴史と重なり、親近感を覚えた。<クレジュス>の活動は、私た
ちの活動と共通する部分も多く、実践的に学ぶところも多かった。
まず、くらしに欠かせないお金の問題を解決しようとするとき、その人に寄り添い解
決しようとすれば、考え方や取り組む内容は似通ってくることを<クレジュス>の活動
から確認することができた。国が違ってもこと人間のくらしにかかわる問題は万国共通
の課題として、いくらでも良いお手本があり、私たちの取り組みも捨てたものではない
と、勇気を抱くこともできた。さらに、<クレジュス>を訪れた人たちにその人が有す
る権利を丁寧に知らせ、人としての尊厳を何時でも身近に確信できるように取り組んで
いるのは、私たちが大切にしたいことにも通じ、あたたかさに溢れていた。
<クレジュス>は家計管理金融教育の取り組みはもちろんのこと、家計に必要な生活
資金の手当て(マイクロクレジット)のために社会福祉事務所での給付以外に、銀行と
連携した低利の貸付に取り組んでいる。多重債務や生活困窮者の掘り起こしのために、
電気やガス会社と連携し、彼らの利用料金の低減にも取り組んでいる。
多重債務や貧困の問題を地域社会の課題に押し上げ、<クレジュス>や市民団体や
様々なNPOがフランス共和国の大きな連帯の器の中で、相互に、銀行や企業や福祉事
務所や行政と強力に連携して解決を模索している。その活動資金は行政の助成金と市民
の寄付金とで賄われ、多くのボランティアが支えている。連帯と言うことばが人々や社
会を動かし実態を形成し、積み上げられ地域が再生されつつあると感じた。
振り返って、金融庁の多重債務問題改善プログラムには、「借りられなくなった人に
対する顔の見えるセーフティネット貸付けの提供」として「『顔の見える融資』を行う
モデルを広げていく取組み」を謳いあげている。しかし、日本における私たちは、例え
ば福岡県と協力関係が形成されはじめた熊本県を除き、他県での行政との連携はほとん
どとれず、孤独に取り組んでいる。多重債務問題改善プログラムは、その意味では各地
の細々とした努力と自然成長に委ねられたままである。
『顔の見える融資(貸付け)』が
共に生きる関係として地域社会に広がるように、国や地方行政が、もう一段の具体的な
方策を模索されるよう強く求めていきたい。
(行岡
みち子)
多重債務問題フランス調査団
予備知識メモ(抜粋)
2009 年 9 月 17-22 日
作成
小林
実
目次
1. フランスの多重債務問題の経緯と現況
2.多重債務問題に関する法律(概要)
3.消費者金融における消費者保護の主な法律(概要)
4.訪問先機関
5.家庭社会経済アドバイザー養成と資格獲得について
6.文献資料
1.フランスの多重債務1 問題の経緯と現況
フランスは、貯金が多く、また世帯の債務も多い変わった国である。
2006 年の INSEE(国立統計経済調査研究所)によると、確実なリズムで債務が増大して
いるという。
1992 年初頭において、債務を持った家庭は 43%であったのにたいし、2004 年では、
47%に上昇している。たとえ、債務の主な理由が住居の購入であることが変わらないに
しろ、この違いは、消費者ローンが行き渡り始めたためである。90%のローンは,問題
なく返済されているが、金融企業協会(ASF)によると、60 日以内に問題が解決する
ようなトラブルが 8%、2%が深刻な問題を抱えているという。
しかし、フランスは、最も大きな多重債務を抱える世帯が多い国の一つとされている。
2006 年末のフランス銀行の多重債務問題のバロメーターを見る2 と、2002 年 1 月か
ら 2006 年 12 月まで、865,000 件、つまり年平均 173,000 件の申請書が多重債務委員
会に提出されていることになり、増加率は 6,5%である。
歴史的経緯
19 世紀末の産業社会の発展にとって、金融ローンは不可欠なファクターだった。20
世紀初頭に、自動車を購入するためのローンが初めて現れた。1950 年代になると購入
することとは切り離されたクレジット(信用貸し付け)が現れ(消費者金融会社<ソフ
ィンコ>、<セトレム>、<コフィノガ>など)、販売会社の真のパートナーとなった。
1970 年代になると住民の銀行使用が一般化するにつれ、一般銀行もこの手の金融商品
を販売するようになった。
1974 年に、経済社会評議会3 は、消費者金融の不正を非難している。「経済的に組織
されていない消費者金融は、社会的にも不公平で、…中略…
情報が消費者に十分行き
届いていない、あるいは普通の金融企業から貸付を受けられない消費者は、ときには高
利貸しといえる悪質な組織に貸付を依頼に行くことがあった」。しかし、この時代はま
1 多重債務のフランスの定義:多重債務とは、個人が、要求されまた支払い期限になっている職業的でな
い複数の債務にたいして、また個人経営者あるいは個人経営者がその企業の責任者ではないときの債務返
済を連帯保証した誓約にたいして、誠実な債務者として 、返済、履行不可能に陥っている状況をいう。
(消
費者法 L330-1 による)
2 2009 年 9 月の最新バロメーターによると、提出件数:年間 212814 件、受理された書類件数: 178393
件。
3 Conseil économique et social : 1925 年第三共和制下で創設された全国経済評議会を引き継ぐ形で,1958
年に、国民議会と元老院と共に、 58 年 10 月 4 日の憲法で改編されたもの。 2008 年 7 月 21 日に環境問題
が加えられた。評議会は全国の関連組織の代表者を集めた協議機関。
だ多重債務については、示唆されていない。
多重債務問題の出現
1982 年、経済社会評議会は、クロード・デュポールの勧告4 において、初めて多重債
務現象を表明した。「消費者金融を奨励することは、世帯の債務率の問題を起こし、質
素な収入源の世帯や、若い消費者が多重債務に陥るリスクを拡大している」
これは、1979 年に貸付全国評議会が、ローンに関する規則を全廃すると、80 年代に
入り、消費者金融が爆発的に成長した帰結である。前述の勧告に記載されているリスク
は、定常的貸付あるいはリボルビング貸付の発展にともない、明らかに増大した。これ
らのローンの利率はしばしば高く、ときには 10−19%にもなっている。
2004 年の終わりに、消費者ローンの 23%が更新可能ローンであり、多重債務の提出
書類の 80%がこの種のローンである。
1980 年代を通じて、消費者金融の議論は、多重債務問題に移っていった。リボルビ
ング貸付の増大は、債務者のリスクも大きく増大させた。
当時の勧告にあった多重債務の定義は大きく進展したにせよ、この現象の出現に言及
している時点において、法的規定は何もなかった。
1877 年 2 月 1 日のドイツ帝国法が 1918 年以降も引き継がれ、とりわけ、商人の自
己破産と清算は、ライン地方、モーゼル地方に住む商人ではない個人にも適用され、こ
の地域での処理方法が満足いくものとされ、1986 年に消費者庁から提案されたが、財
務省の拒否にあった。1989 年に、多重債務観測所がもうけられ、政界でも業界でも関
心が高かった証拠といえる。
ネエルツ法:多重債務問題に対処する最初の法律
同年に、初めて多重債務に関する法律が生まれる。ネエルツ法と呼ばれる<個人と家
族の多重債務に関連する困難の予防と解消に関する 1989 年 12 月 31 日法>(法令 N°
89-1010)である。この法律は、良識のある債務者が職業的ではない借金に関し、その
債務全体への支払いが不可能になった場合、多重債務委員会に申請書を提出した後、委
4 クロード・デュポールは、当勧告で以下のように述べている。
「前略、…それは 、消費者の責任を免除す
るということではない。したがって、裁判の審問に付されていない限り、一つないし複数のローンが進行
中であるからといって、権益の付与あるいは貸付金額を全く機械的に条件づけることはできない。(中略)
多重債務問題は、二つの視点から取り扱われるべきである。すなわち、量的な様相が最も明らかである。
つまり、使用できる収入源に比べて、債務の重さである。評価するのに難しい質的な様相は、家計の基本
構造に及ぼすこの多重債務の影響や、異なった消費項目の間に引き起こされるかも知れない歪みに触れる
ものであり、ある幾つかのケースにおいては、多重債務は、余剰部分に対して、本質的な部分を犠牲にし
なければならなくなる。それが、多重債務ということである。」
員会から合意が得られると、その困難を和解によって解決する途が与えられることを可
能にする法律である。<裁判権の組織化と民事、刑事、行政手続きに関する 1995 年 2
月 8 日法>(法令 N° 95-125)によって、多重債務委員会の処理の複雑さを避けるため
に、処理方法が統合され、<〔社会的〕排除への対策に関する方針 1998 年 7 月 29 日
法>(法令 N° 98-657)が処理方法を明確にし、多重債務委員会に、債務の部分的ない
しは全面的な取り消しを宣言できる権利を与えた。それは、多重に債務を負った人の申
請数が記録的に増加したことに対する措置でもあった。
ボルロー法と呼ばれる<街と都市再開発の方針と計画 2003 年 8 月 1 日法>(法令 N°
2003-710)が個人の再生の手続きを決めた。この法が今までの法的処理の論理の延長上
にあり、たとえモーゼル・アルザスの制度と識別されるとしても、それが十分ではなか
ったということで、債務者の債務を帳消しにするばかりではなく、第二のチャンスを与
える権利を多重債務委員会に与えた。それが少なくともこの法律の精神である。しかし
現実に行われる実践は与えられた可能性を充分活かしているとはいえない。
ところで、フランス銀行は、消費者法(L.333-4)で決められた国定ファイル・リス
ト(FICP=fichier national recensant les informations sur les incidents de paiement caractérisés liés
aux crédits accordés aux personnes physiques pour des besoins non professionnels)を作成して
いる。このファイルに、私的なクレジットの貸し付けを受けて支払い事故が起こったケ
ースの情報を登記しなければならない。多重債務者で、多重債務委員会に申請し受理さ
れた債務者は、必然的にこのファイルに登録されることになる。
現況
多重債務問題は、今日では明らかに一つの社会現象となった。最大の原因は、しばし
ば、構造的に不充分な収入しか得ることのできない住民がますます増大していることで
ある。経済的困難に立ち向かう脆弱不安定になったひとびとは、必ずしもそれがもたら
す帰結を考慮することなく、安易で高いローンに手をつけてしまい、多重債務の悪循環
のスパイラルに落ち込むのである。
したがって、一方で、解決策と社会的取り組みの不足を補い、もう一方で、脆弱なこ
うした状況に対して必ずしも常に適応しているとは思えないローンを少なくすること
はできる。こうした状況の確認によって、多重債務問題に取り組むアクターたちの責任
と関与を再検討すべきなのだろう。
法的に見れば、ネエルツ法以来、三つの改革法案̶1995 年、1998 年、2003 年̶によ
って、多重債務委員会と調停者の権限が大幅に強められた。
フランスでは, 2005 年には、貧困限度は、一人、税金と社会保障経費を差し引いた
平均給与の半分にあたる 681 ユーロだとした。2006 年には、60%に引き上げ、880 ユ
ーロにした。国立統計経済計画研究所(INSEE)の貧困の限度を超えた貧困者が前者
の枠組みを適用すれば、約 400 万、後者の枠組みで統計を取れば、800 万人いることに
なる。それは、全人口の 13,4%にあたる。
2004 年と同じように、70%の多重債務者が月 1500 ユーロと同等か以下の収入であ
る。SMIC(社会同化最低賃金)と同等かそれ以下の人たちが 10%増して 55%。多重債務
者のうち、不動産を持っている人は、10%から 8%に落ちた。多重債務者の 80%近い
人たちが、借家人である。
2006 年のフランス銀行の調査によると、得ている収入の 68,4%を世帯のローン返済
に充てていると推定している。(2005 年では 64,1%)2004 年には47%の世帯がロー
ン返済を抱えており、主に住居購入のためだが、消費材の購入も含まれる。今日、ロー
ン返済を抱えている世帯は、50,9%にもなっている。
今日、すでに非常に緊迫した経済状態の中にあった世帯が、アクシデント(失業、病
気、離婚など)によって、決定的な多重債務状態に追い込まれてきていることが分かっ
ている。2000 年以降、収入の減少や、発生したアクシデントによって多重債務状態に
なった人々は、多重債務申請者 4 人のうち 3 人にあたり、この傾向が強まっている。す
なわち、多重債務になった要因の多くが、失業(31%)、離婚、別離、伴侶の死亡(17%)
なのである。個人再生法適用に向いている人たちの 88%である。
しかしながら、社会経済学者ジョルジュ・グルーコヴィエゾフは、経済社会評議会金
融部会での公聴会での証言で、「多重債務問題を受動的要因によるものか,能動的要因
によるものかという議論だけに限ってはならない。なぜなら多重債務問題の要因を生活
のアクシデントに限定してしまうと、債権者の責任を<債務者の状況が悪化するのを予
測することはできない>という議論の陰に隠すことになる」と述べている。
ところで、フランスの多重債務問題の提出書類の 4%のみが、日常生活の借金として
も、96%は何らかの消費者ローンなのである。多くの研究調査が、消費者ローンを使う
大多数が利率の高いローンを収入不足を補うために使い、高利であっても返済している
ことを示している。(消費者ローンの 90%は返済されている。10 件に 1 件、問題が発
生する。)つまり、銀行や消費者ローン貸付機関は、高利の消費者ローンを積極的に商
品として売り込む商業的理由があるのである。
多重債務者の多くが、一人で住む成人であり、2001 年には 58%、2004 年には 64%、
2007 年には 66%の人々が,独身、離婚経験者、ないしは未亡人である。
2003 年 8 月 1 日法(ボルロー法)によって、個人再生法を適用すべき人々が、83%
いる。少なくともひとりの扶養者をかかえる多重債務者が全体の 51%、存在する。年
齢層でいうと、35-54 歳の層が多重債務者の過半数を占める。しかし 2004 年に比べる
と年齢層が高くなっている。55 歳の人がいっそう増え、35 歳の人は減少傾向だ。多重
債務者の 53%が、サラリーマンか労働者/職人である。また活動していない失業者が
2004 年に 34%、2007 年に 36%である。
『ル・モンド』紙(2009 年 5 月 4 日付け)によると、フランス銀行の多重債務委員
会に提出された申請は、今年は、3 月にピークに達し、21,747 件となった。すでに 2
月に 2万件を超え、2004 年 3月以来の増大となった。今年に入って 3ヶ月だけで、58,188
件を数え、3 月の申請受理数は、1990 年以来,最も高い数値となった。2008 年では、
フランス銀行は、年に、記録的数 188,485 件の申請書を受つけたが、受理されたのは、
158,940 件となった。申請書の数は、過去 5 年定常的で、2004 年 188,176 件から 2008
年 188,485 件の間を変化している。2007 年 2 月以降、債務から解放される世帯は、70
万世帯より少し多く、安定している。
クリスティーヌ・ラギャルド経済相は、家庭の多重債務を予防するために、消費者ロ
ーンの枠組みを作る計画だ。とりわけ更新可能貸付ないし多重債務者の 85%に観られ
るローン返済途上での備蓄金となっているリボルビング支払いに関する法の改革を考
えている。多重債務委員会に申請する債務者の大半は、5 つ以上のローンを抱えている。
社会経済学者ジョルジュ・グルーコヴィエゾフの見方によるなら,多重債務者問題に
は、「ある個人が、銀行サービスへのアクセスも利用も出来なくなると、まっとうな社
会生活を営むことができなくなる」という問題も横たわっている。
多重債務委員会に提出された申請書の数の推移((『ル・モンド』紙が公表した統計数字)
1990:90,170
1995:70,110
2000:148,430
2004:188,150
原因(『ル・モンド』紙が公表した統計数字。クローズマリー女史の数字と多少異なる)
<受動的要因>
失業:27%
別離/離婚:16%
病気/事故:9%
収入減:7%
伴侶の死亡:2%
その他:4%
<積極的要因>
過剰ローン:19%
財務管理の悪さ:8%
費用のかかりすぎる住宅:3%
過剰経費:2%
その他:3%
(以上は 、ピエレット・クロー ズマリー女史の経済社 会評議会への報告書『 個人の多重債務問題』( 2007
年 7 月 1 日)5と、プレス記事、様々な機関が出している多重債務問題資料を通読して要約したもの)
2.多重債務問題に関する法律(概要のみ)
(省略)
3.消費者金融における消費者保護の主な法律(概要のみ)
(省略)
4.訪問先機関
1.労働・社会、家族、連帯と都市関連省(旧来の労働省)社会アクション総局
Direction Générale de l’Actio n Sociale (DGAS)
14, avenue Duquesne, 75350 Paris Cedex 07 tél : 0140566000
担当者: Jacqueline Lebon (ジャクリーヌ・ボン)
http://www.travail-solidarite.gouv.fr/ministere/presentation-organigramme/ministre-du-travail-rela
tions-sociales-famille-solidarite-conjointement-avec-ministre-du-logement-ville-autorite/directiongenerale-action-sociale-dgas.html
5
« Le surendettement des particuliers »,
oct, 2007.
CROSEMARIE Pierrette , Conseil économique et social, 17
社会アクション総局は、労働省の一部門として 1970 年に創設されたが、2000 年に、社
会同化最低賃金法の省間代表部を吸収した構造改革が行なわれた。
任務:
労働̶連帯、住居̶都市と健康といった軸を考慮しつつ社会的取り組みの一般的な方向付
けを行ない,社会的取り組み、医療社会的、また連帯的取り組みの重要な任務を担う。
現在 208 名の職員が働く。
2. ジョルジュ・グルーコヴィエゾフ氏 Georges GLOUKOVIEZOFF
http://lefi.ish-lyon.cnrs.fr/membres/ggloukoviezoff.htm
http://gloukoviezoff.wordpress.com
経済学博士、社会学者、経済学者。リヨン・リュミエール大学
企業及び公的機関の経済ラボラトリー(LEFI)研究員。
専門研究テーマは、銀行からの個人の排除。その他、銀行サービスの適度のアクセス、
多重債務、個人のマイクロ・クレジット、予算に関する援護。
専門分野を基礎とした調査分析多数。公聴会での証言も行なっている。
(ジョルジュ・グルーコヴィエゾフ氏からは、今回の調査団訪問先について ,多くのアドバイスを頂いた)
3.金融セクター諮問委員会(フランス銀行内)
Comité consultatif du secteur financier (CCSF)
Banque de France,
31, rue Croix des Petits Champs, 75001 Paris
担当者: Emmanuel Constans (président) エマニュエル・コンスタンス委員長
2003 年 8 月 1 日法(Loi LSF n° 2003-706 du 1er août 2003 =金融セキュリティーに関する
2003 年 8 月 1 日法)によって、フランス銀行内に設置された。金融機関、投資機関、
また金融保険企業とその顧客との関係に関する問題点を調査研究し、一般的勧告、意見
書という形で、これらの問題の解決を図る対策を提案することを目的とする。従来あっ
た、クレジットおよび証券全国評議会諮問委員会と保険全国評議会保険諮問委員会に置
き換わる組織である。
委員会は経済相から指名を受けた 30 名の委員から構成される。委員会は、経済相、顧
客の組織、委員が所属する専門業界の組織によって、審議されるべきテーマが付託され
る。また委員会の過半数によって特定の問題の審議請求をなし得る。
諮問委員会の規則、及び委員、委員長の任命条件は、2004 年 8 月 23 日法で定義されて
いる。
諮問委員会は年に一度、大統領と議会に報告書を提出する。この報告書は公開される。
委員長補佐団は,委員長を含めて 5 名。委員長のエマニュエル・コンスタンス氏は、財
務総監督官。4名は大学教授、うち 2 名が副委員長。残り一名は、スクール・カトリッ
クの理事。
30 名の委員のうち、元老院から一名、国民議会から一名、金融・投資機関から 5 名、
保険企業界の代表として、3 名、保険代理業界から 2 名、金融・銀行・保険・投資業界
の組合組織の代表 5 名、金融、保険、投資機関の個人の顧客の代表として 6 名、金融、
保険、投資機関の業界顧客の代表として 4 名。そして補欠メンバーがいる。
様々な刊行物、アニュアル・リポートを発行しているが、債務問題では、『ヨーロッパ
の世帯の債務̶2005 年 8 月』があり、購入も可能。勧告の中では、<クレジット経のア
クセスの拡大と、多重債務の状況への意見書>(2006 年 5 月 16 日)がある。
4.多重債務委員会(フランス銀行内)パリ市バスチーユ支店
Commission de surendettement
Antenne Bastille, 3 bis, Place de la Bastille, 75004 Paris
担当者: Odile Franses オディル・フランス (バスチーユ支部多重債務委員会事務局長)
1989 年のネエルツ法によって設置された。多重債務者問題を解決する目的で作られた。
多重債務に苦しむ人は、誰でも無償でこの委員会に介助の申請を提出することができる。
全国各地域ごとに、フランス銀行支店内部に多重債務委員会が設けられている。
この提出書類は、
@家族状況
@収入
@資産
@社会保障にかかる費用
@債務
を明記しなければならない。
申請されると、書類は、委員会により、債務者の返済能力を換算した上で、返済に使え
ると考えられる収入、そして債務者の債務を確定する。こうした調査の結果、委員会で
申請が受理されると、再建プランが出される。プランは、債務返済のスケジュールを練
り直すか、債務の免除、あるいは削減、ないしは債務返済を困難にしている利率の削除
を想定して作成される。
再建プランは,債権者にも渡され、プラン実行前に、債権者たちから合意を得る。
多重債務委員会は、再建プランを確定するまでに最高 2 ヶ月の猶予を持つ。もし,委員
会が既成の再建プランを作成することができない場合は、債務者は 15 日以内に、勧告
委員会に書留で、再度申請することができる。勧告委員会は、勧告を出すために、二ヶ
月の猶予を持つ。この勧告は再建プランとは異なり、必ずしも債権者との交渉によるも
のではないが、債務者に、より有利な勧告を出す場合もある。
5.社会的労働と社会的リサーチのための研究所(ソーシャルワーカー養成学校)
INSTIT UT DE TRAVAIL SOCIAL ET DE RECHERCHES SOCIALES(IRTS)
145, avenue Parmentier 75010 Paris Tel : 01.42.03.08.31
http://www.irtsparisidf.asso.fr/web/
担当者: M. Letellier (ルティリエ教務部長)
パルマンチエ研究所によって、パリの IRTS は、管理運営されている。1990 年に社会問題省に
認可を受けた。2004 年に、家庭介護ならびに施設介護の研究と養成研究所 IFRAD (Institut
de Formation et de Recherche en Aide à Domicile et en établissement)と合併した。
パリ首都圏に三つの組織を持っている。パリ 11 区パルマンチエ通りの研究所が本部で、南郊
外のマラコフ、東郊外のムランにそれぞれ研究所を持つ。
社会的労働(社会福祉、社会医療関連)の職業の養成学校であると同時に、社会的研究
活動も行っている。
6.公共金融教育のための研究所
Institut pour l'éducation financière du public
Palais Brongniart – 28, Place de la Bourse 75002 Paris Tél : 01 49 27 55 36
http://www.laf inancepourtous.com/L-Institut-pour-l-Education.html
担当者: Bernard Marx ベルナール・マルクス
2006 年に金融市場局の提言で出来た NPO で、フランス市民(青少年、親、教師)に金
融に関する教養を身につけられるように,金融に関する情報や教育を広く普及させるこ
とを目的とする。NYSE Euronext(世界で最も上位ランクされている金融企業), la
FBF(フランス銀行連盟), la Banque de France , la France Mutualiste の後援を受け
ている。また国民教育省とも協力している。旧証券取引所だったブロンニィヤール宮の
中にある。
7.スクール・カトリック
Le Secours Catholique
13 rue St Ambroise 75011 PARIS tél : 01 48 07 58 21
http://www.secours-catholique.org/
担当者: Alain Bernard アラン・ベルナール
フランスでも代表的なカトリック系の国際人道支援 NGO。フランス国内各地にあるだけ
ではなく、世界中に支部を持ち、国内では多重債務問題を含めた社会問題や、海外では
多くの人道支援を行なっている。
(アラン・ベルナール氏からは、今回の調査団訪問先について,多くのアドバイスを頂いた)
8.CRESUS (Chambres régionales du surendettement social)パリ支部
Crésu s-Paris
15 place des Abbesses 75018 Paris tél : 01 4606 6227
担当者: Annick Bidan, Emmanuel Moyart
http://cresus.paris.free.fr/
『社会的多重債務の地方会議所』という名称のイニシャル。1992 年に出来た参加型 NPO。
現在、全国 16 カ所に支部を持っている。とりわけ、アルザスーロレーヌ地方で先駆的
な活動を行なってきた。当会では、多重債務に陥っている人を受入れ、彼らに情報を与
え、アドヴァイスし、当人と共に、財務的、社会的、法的、心理学的解決方法を見つけ
る努力を行う。
9.パリ市社会アクション・センター
Centre d’Action sociale de la Ville de Paris
5 boulevard Diderot (12e), 75589 Paris Cédex 12. (本部)
5-8, avenue Doumésnil, 75012 Paris (今回の訪問場所)
http://www.paris.fr/portail/accueil/Portal.lut?page_id=5391&document_type_id=5&document_id=
8672&portlet_id=11605
担当者: Françoise Portes フランソワーズ・ポルト
パリ市が設置した公的組織で、いわばパリ市の社会福祉局。パリ市内の予防と社会的発
展のための一般的アクションを行なう。それら以外に、ホームレスの介助、支援、エイ
ズの予防対策、保育所探し、家庭菜園、シルバー・エイジのためのプログラム、身障者、
住居問題などへの連帯的活動、また困難に遭遇している様々な人への相談、支援などを
行なっている。
5.家庭社会経済アドバイザー養成と資格獲得について
(省略)
6.文献資料
多重債務問題:
Droit du surendettement des particuliers (個人の多重債務の権利)
著者: Vincent Vigneau, Guillaume Xav ier Bourin
Editeur : Editions Litec (21 fév rier 2007)
Le surendettement, et vous ? : Les risques, les causes, les solutions (多重債務、あなたは? リスク、原因、解決
法)
著者: Valérie Goutte, Véronique Neiertz
Editions Cristel (18 nov embre 2008)
De l'emprunt au surendettement : La situation des ménages en France (借金から多重債務:フランスの世帯
の状況)
著者: Belkacem Karima
Editions L'Harmattan (25 juin 2009)
Surendettement des particuliers ((個人の多重債務問題)
著者: Icédap
Editions ICEDAP (1 janvier 2008)
報告書
Le surendettement des particuliers ((個人の多重債務問題)
CROSEMARIE Pierrette ,
FRANCE. Conseil économique et social, 17 oct, 2007
以下のアドレスで、ダウンロードできる。(Télécharger el rapport と書かれてあるところをクリック)
http://www.ladocumentationfrancaise.fr/rapports-publics/074000707/index.shtml
家庭社会経済アドバイザー関連:
Le métier de conseiller(ère) en économie sociale familiale : Prof essionnalité et enjeux (家庭社会経済アドバ
イザーの職業:その職業性と掛け金)
著者: Isabelle Benjamin, François Ménard, François Aballéa
Editions La Découv erte (29 mars 2006)
Métier : conseiller en économie sociale familiale : Formation, diplôme, carrière (家庭社会経済アドバイザー
の職業:養成、認定書、キヤリア)
著者:Rémi Remondière, Patrick Ref alo, Corinne Rougagnou
Editions ASH (mai 2005)
グリーンコープ生活再生相談室報告
2010年2月18日
グリーンコープ生協ふくおか
一、福岡県の生活再生相談室の所在地
生活再生相談室(福岡県多重債務者生活再生相談窓口)
・ 福岡相談室
福岡市博多区博多ビル10F
℡092−482−7788
・ 北九州相談室 北九州市小倉北区AIMビル7F ℡093−512−6670
・ 直方相談室
直方市古町商店街そば
℡0949−29−5888
・ 久留米相談室 久留米市西鉄久留米駅徒歩3分
℡0942−36−8877
二、2009年4月∼2010年1月までの生活再生相談室の実績
(1)電話件数
1742件
(2)面談件数
1076件
・ 電話件数は(2008 年度 3431 件から 2009 年度 1 月までで 1076 件へ)昨年に比較
し、減少しました。
・ 昨年度は福岡県との協働事業の初年度にあたり、新聞・テレビでの紹介も多く、相
談件数が一気に増加し、時間に追われた。今年度は新聞報道が少なく、口コミ中心の
相談となり、電話件数は減少しました。それでも2007年度の2倍近い相談件数に
なります。
(3)面談者の女性比率
2009 年度 1 月まで 60.2% 2008 年度 52%
(4)面談者の組合員比率 2009 年度 1 月まで 39.2% 2008 年度 10%
・ 組合員比率は増加 (08 年度 10%から 09 年度 1 月まで 39%へ)
・ 全体の相談件数が減少している点はありますが、昨年のリーマンショック以降の経
済不況が組合員の生活に影を落としはじめているためと予想しています。組合員の生
活にとって、この事業を始めておいて本当に良かったと最近しみじみ思います。
(5)面談結果:解決に向かい始めた件数とその割合 937件(87.1%)
・ 相談室での面談による解決が増加(08 年度 57 件から 09 年度 1 月まで 84 件へ)
・ 他団体への紹介による解決も増加(08 年度 44 件から 09 年度 1 月まで 90 件へ)
・ 生活再生相談室での丁寧な面談による解決や他団体への同行にも時間をさいた結果、
たとえば、貸付以外の医療費や生活費の相談などもワンストップでの解決に結びつけ
てきました。伴って解決率は 87.1%の結果でした。
(6)再度の債務整理相談の発生 28.9%
・ 過去に債務整理した人の再相談は今年度は 28.9%を占めています。
再度、相談が必要になるのは、整理した借金の残金支払いが困難となったと言う理
由が多く、主に収入が減少して返済できなくなったと言う社会的原因が背景にありま
す。あわせて、債務整理のときの生活再生に向かう家計の見立てが不十分で、予測を
見誤ったと言う事例もあります。
・ 経済状況が不安定な昨今であればあるほど、相談者の家庭の状況を良く聴きとり、
その実情に合わせた家計の再生計画を小まめにたてる必要があり、家族が力を合わせ、
将来を見据えて家計を立て直していけるよう相談員が寄り添いながら相談に乗る必
要を痛感します。
(7)2009 年度 1 月までの生活再生貸付の発生 151 件 9314 万円
・ 貸付の希望件数
628件(63.1%)
・ 貸付の実行実績(09年度1月まで)151件(
9314万円)平均62万円
・ 貸 付 残 高(09年度1月現在)330件(1億8881万円)平均57万円
・ 開業累計貸付件数
398件(3億 319万円)平均76万円
・ 今年度、相談件数は減少しましたが、その分、じっくり相談者との相談を繰り返す
ことが出来て、貸付の件数は2008年度(128件)より件数は伸びましたが、平
均の貸付額(2008年度73万円)は減少しました。
・ 貸付の内容は
終末期の病院代・薬代・葬儀費用の支払い、難病治療費の一部支払い、住居補修費、
年金支給日までの生活費、給与支給までの生活費、雇用保険支給までの生活費、子ど
もの結婚費用の一部、滞納家賃の支払い、高校や大学の前・後期学納金の支払い、車
輌の修理代、車検費用、交通違反罰金の支払い、中古車の購入費用、故障した電気製
品の購入費用、滞納税金の支払い、移転のための費用、滞納水道光熱費の支払い、自
宅担保の借金の債務整理費用、子ども名義の借金の整理費用、銀行への返済金、滞納
住宅ローンの支払い、少額・短期の債務整理などです。
・ 貸付により生活再生が軌道に乗り、将来に希望が見えてきたと言うお礼の手紙も届
いています。
(8)<かさじぞう基金>を創設
ホームレス状態までは至っていないが、手元に3000円しかないと言う状態で相
談にくる人たちが増えてきています。「もう少ししたら雇用保険が入る」「年金受給ま
であと少しだけど・・」
「生活保護が出るまでの3∼4日が・・」と言う相談である。
子どもがいて、今日・明日の食事にも事欠きそうな相談者をそのまま帰すのは忍びな
い。しかし、返済の見込みのない貸付けは出来ない。相談員の悩みは尽きません。
その対応策として、今年度6月<かさじぞう基金>を創設しました。資金はすべて
カンパでまかない、半年で170万円が集まりました。無利子、相談員の即決でお貸
しし、2010年1月までの貸出は45件40万円、その内の25件20万円は返済
され、心温まるエピソードがたくさん生まれています。
三、金銭教育事業について
(1)家計簿クラブの活動が広がり始めている
・ 家計と暮らしのW.Co円縁(ワーカーズ・コレクティブ)の活動が広がり、子ど
もの金銭教育(お小使いゲーム)や大人向けの講演会を各地で開催しました。
・ 九州全域に広がる83サークル(参加者600人弱)の家計管理・金融教育のため
の自主サークル「らくらく家計簿クラブ」の活動をサポートしながら、家計管理や家計
設計の方法などを学習・指導しています。
・ あすばるフォーラムでの子どもたちの金銭教育のためのワークショップに参加した
教育現場の母親たちから、小・中・高校での金銭教育の打診があり、熊本県では小学
校の金銭教育授業を受け持ちました。子どもたちからとても感謝されました。
四、相談者の変化から見える社会状況
(1)債務発生の原因(2009 年度上半期)
悪徳商法・その他・
不明
5.6%
娯楽・ギャンブル・
飲食
5.4%
事業資金・賠償・補
償責務・娯楽
7.5%
生活費・教育費・税
金・冠婚葬祭・医療
44.5%
借金返済
20.4%
住宅ローン・物品・
カーローン
16.6%
(2)相談者の組合員比率
2007 年度(761 件)
2008 年度(1744 件)
組合員
10%
2009 年度上半期(1076 件)
組合員
39%
組合員
65%
(3)相談者の職業(2009 年度上半期)
主婦
54人
その他
119人
2009 年度上半期:28.2%
2008 年度
:29.9%
2007 年度
:29.4%
2009 年度上半期:8.5%
2008 年 度
:7.5%
2007 年 度
:14.0%
無職
84人
2009 年度上半期:13.2%
2008 年度
:11.1%
2007 年 度
: 8.9%
2009 年度上半期:31.5%
2008 年 度
:28.1%
2007 年 度
:29.7%
会社員
180人
パート・アルバイト
201人
(4)相談者本人の年収(2009 年度上半期)
2009 年度上半期:28.0%
2008 年度
:8.2%
2007 年度
:4.5%
401万円以上
28人
2009 年度上半期:56.7%
2008 年 度
:55.7%
2007 年度
:90.9%
301∼400万円
45人
2009 年度上半期:10.8%
2008 年 度
:12.7%
2007 年度
:4.5%
201∼300万円
107人
2009 年度上半期:25.7%
2008 年度
:23.3%
2007 年 度
:0%
0∼200万円
236人
(5)世帯人数(2009 年度上半期)
2009 年度上半期:8.2%
2008 年 度:10.8%
2007 年度:13.7%
1人
8.2%
2人
11.1%
3人
19.6%
4人以上
61.1%
2009 年度上半期:11.1%
2008 年度:13.0%
2007 年度:30.7%
2009 年度上半期:19.6%
2008 年度:20.6%
2007 年度:44.2%
2009 年度上半期:61.1%
2008 年度:55.6%
2007 年度:11.4%
(6)年間家計収入(2009 年度上半期)
2009 年度上半期:6.8%
2008 年度
:8.1%
2007 年度
:5.6%
401∼600万円
141人
601万円以上
39人
0∼200万円
236人
2009 年度上半期:21.1%
2008 年 度:24.5%
2007 年 度:28.9%
2009 年度上半期:47.2%
2008 年度:42.9%
2007 年度:43.8%
2009 年度上半期:24.7%
2008 年度
:24.6%
2007 年度
:21.6%
201∼400万円
269人
(7)相談したい内容(上位3つの理由の変化)
借金整理・返済額
軽減
2 009年度
上半期
貸付の利用 家計の問題
借金整理・返済額
軽減
2 008年度
貸付の利用 家計の問題
借金整理・返済額
軽減
2 007年度
0%
10%
20%
その他
30%
40%
その他
貸付の利用 家計の問題 その他
50%
60%
70%
80%
90%
100%
(8)家賃・税金・電器・ガス・水道の滞納
2008 年度上半期
2008 年度下半期
不明
11.6%
不明
8.6%(55
件)
不明
7.6%
ある
45.4%
ない
43.0%
2009 年度上半期
ある
48.0%(30
6件)
ある
47.1%
ない
45.3%
ない
43.4%(27
7件)
以 上
<相談者からの手紙>
グリーンコープ生活再生相談室
北島様
昨年の7月から大変お世話になりました。お久し振りでございます。今年も
あとひと月余りとなりました。
北島さんには 2008 年 7 月の面談から相談。H 弁護士への紹介。そして何度も
立ち合って頂いたり、何度も Fax で私の悩み(不安、不平不満 etc)を聞いてア
ドバイスして頂いた事、本当に有難く思っています。私の自己破産の申請から
確定まで家計も私の心も不安定でした。
2008 年の家計簿(月平均)と 2009 年(1 から 10 月までの月平均)の家計簿
を書き出して改めて北島さんにお礼のお手紙を書きたくなったのです。
今月の4月までは収入も少なく 1∼3 月で¥53 万母に借金したので(主人が
独断で)この先どうなるのかと泣きました…。が、お陰様でひとつずつ片付き
少しずつ落ち着いているところです。本当に有難いです。
1.
今年 1 月にすぐにパートの仕事が見つかったこと。うちから近いので朝
はバスで、帰りは歩いて 20∼25 分位。週 2 日から入れてもらって 4 月から
下の子が小学校に入学したので 5 月から月 10 日程度入れてもらっています。
お盆も正月も休みはありませんが、シフト制ですので希望通りに働けます。
専業主婦 10 年の私にとってはすごくハード(体力)でしたが、焦らず、精
一杯感謝して働くようにしています。姑との関係もすごくいいです。主人も
日曜日は色々やってくれて助かります。本当に恵まれて(仕事)うれしい限
りです。
2.
主人の個人再生の返済が今年 1 月で無事終了したこと
3.
社長への借入金(2008・3 月¥40 万)が今年 5 月完済できたこと
4.
母への借入金(1∼3 月¥53 万)が 6 月から¥3 万ずつ返せること
5.
4 月末定額給付金と子育て応援特別手当(¥10 万)頂けたこと
6.
4 月に申請した「就学援助」が受けられたこと
7.
医療費の扶助も受けられること
8.
毎月の国保税や固定資産税等が払えるようになったこと
学期毎に支給
9.
毎月の町税分割納付も払えるようになったこと
10. 今年 8 月母の生命保険が満期になり(10 年)母から¥10 万頂けたこと
11. 主人の収入が 5 月受取から¥30 万で安定してきたこと
12. 今年家族 5 人皆元気で過ごせたこと(健康は財産)
13. 主人の外食が減った事(朝はおにぎりとコーヒーを持たせ、昼は毎日家
で 1:00 頃。夜も 7:30 に帰宅して家で。缶ビール 1 本と)
昨年はチャーターで不規則でしたし、収入も不安定でした。
朝は毎日ウエストのうどん(そば)と缶コーヒーでした。
今年は主人が地域の組合長で集会(会合)や行事も多いのですが、地域のた
めに働くことでプラスになると思っています。(おつき合いも大切)年末∼年始
と出費は増えると思いますが、欲張りすぎず謙虚であり続けたいと思います。
まずは毎日『感謝』です。北島さんもお忙しい毎日と思いますが、風邪やイン
フルエンザに気を付けて、どうぞこれからも多くの人を導いて下さい。
2009.11.26
<相談者の報告>
私は、20 年以上も多重債務者でした。
私には、重度障害の子供がいます。若かったせいか無知のせいか、直るはずは
ないのにゴマ供養、土地供養と、ばかみたいにお金をつぎ込みました。
それが最初でした。
気が付けば、借りては返す、返しては借りる、その繰り返しの生活にいつの間
にかなっていました。
どうにか返せていました。子供に下りるお金も、返済に充てていました。
あと一年、あと一年と思いながら、がんばってきましたが、何時からか叙序に
苦しくなってきました。
お父さんのリストラ、子供の学校、私の病気、ここ 4∼5 年は本当に苦しかった
です。
6 社で、10 万くらい返済していました。収入の半分以上支払いです。
もう先が見えている状態でしたが、借りたものは返さなくては、と思って二人
で頑張って返済してきましたが、去年子供をグループホームに入れることがで
きて子供のことは安心できたのですが、お金に関しては、あの子のお金が全部
入ってこなくなって、支払いの方が完全にアウト状態になってしまいました。
その時、ずっと前に○○でグリーンコープに勤めている友達から、「会社で生
活再生事業をしているので相談してみたら、力になってもらえるよ」って声を
かけてくれたのですが、その時はまだ、苦しかったけれどどうにか返せていた
ので、相談にいく勇気がなくて、今回はもうお手上げ状態で、恥ずかしい話で
すが、相談にいきました。
丸山さんに全部お話して、丸山さんから「もう頑張らなくてもいいですよ」っ
て言われた瞬間体から、何かすーと抜けたような気がしました。
すぐ司法書士の先生を紹介していただき、又一緒に行ってお話をしていただき、
たった一日で地獄から天国に変わりました。
その時点で、ガス、水道、家賃の残もたくさん残っていたのですが、こちらの
貸付制度を利用させてもらって、支払いをしました。又、家計の指導もしてい
ただきました。
今は、もっと早く相談に行けば良かったのにと思いますが、相談に行くのも勇
気が要ります。私と同じような人もたくさん居ると思いますが、勇気を出して
相談に行ってもらいたいと思います。本当に幸せになれますから。
もっとたくさんの人にこのような、相談する機関があることを知ってもらいた
いと思っています。
ほんの一年前までは、あんなに辛く苦しかったのに、遠い昔のような気がしま
す。
今がほんとうに幸せで、人並みの生活ができているので、本当に感謝の気持ち
で一杯です。今回お話を伺ったとき、私みたいなものが話をするのは・・と思
ったのですが、私が話しをすることで、少しでも恩返しができればと思い、お
受けしました。
ありがとうございました。
2009 年 11 月 28 日
<第 29 回全国クレジット・サラ金・商工ローン・ヤミ金被害者交流集会>
<第 15 分科会・セーフティネット貸付実現に向けて>の会場でご本人が読みあげ報告され
たものです。