近況(第2弾) - 久里浜医療センター

海外研修便り‐2
東7下病棟 看護師 中尾知子
こんにちは。こちらに来て早3ヶ月が経とうとしています。
日中もだいぶ暖かくなり、先月は町のあちこちで満開の桜を見る
ことができました。今年は日本がアメリカに友好の象徴として桜
を寄贈して100周年にあたるそうで、首都ワシントンDCでは先月
末から1ヶ月にわたる盛大な「全米桜まつり」が開催されています。
研修の方は、皆さんに協力して頂きながら順調にすすんでいます。
今回は病棟プログラムについてお伝えします。久里浜と比較して印象的なのは、多様なプログラムに様々な職種
のスタッフが関わっていること、クラスの教材やAAミーティングが充実していることです。
プログラムは3~4クラス/日、1週間にわたりスケジュールが組まれています。内容を紹介すると、看護師は酒
歴発表や回復プランの発表、認知行動グループ、男女別ミーティングなど多くのクラスを担当します。その他レ
クリエーションセラピストによるリラクゼーショントレーニングやレジャー教育、ソーシャルワーカーによる行
動変容の講義、栄養士による栄養指導、アートセラピストによるアートセラピー、職業訓練セラピストによるリ
ハビリ、宗教家によるスピリチュアリーセッションなどがあります。それぞれの担当スタッフは、患者さんの話
に十分耳を傾け、共感しながらコミュニケーションをとっています。会話のなかで患者さんの言語化していない
思いや、断酒に対するモチベーションの変化などをしっかり捉え、明確に反映、フィードバックしている姿勢は
とても勉強になります。
クラスの教材として、酒歴発表には“ジェリネックチャート”をもとにした資料が使われます。これは、アルコ
ール依存症の進行を特徴的な51項目の段階であらわしたものです。患者さんは項目に沿って、自身の飲酒問題を
振り返ります。回復プランの発表には、ヘーゼルデン(アメリカの著名な依存症治療施設)の再発予防ガイドが
使われます。ここでは「再発の理解」から「回復プログラムの構築」まで合わせて10項目に及ぶテーマごとの課題
を通して、患者さんは具体的な回復プランを検討していきます。個々の課題にはそれぞれ詳しい解説や具体的な
提案が添えられているため、幅広いプランをイメージしやすくなっています。その他補助教材として「怒りのコ
ントロール」「家族のなかでの役割」等のクラスでは、専門家のDVDが用いられます。
AAミーティングには病棟から専用のシャトルバスが出ていて、5日/週、それぞれ特徴の異なるミーティング(年
齢・人種の傾向やミーティングのすすめ方・グループの大きさの違い、NAもあり)に参加することができます。
プログラムに参加させて頂くなかで感じたことは、多様なプログラムを通して、患者さんにはいろんな側面から
飲酒問題を振り返り、自身について見つめ直す機会、具体的なイメージを持ち回復プランを検討する機会が多く
与えられているということです。研修中の例を挙げると、はじめAAに否定的だった患者さんが、数ヶ所のAAを
巡るうちひとつの気に入ったミーティングに出会い、そこにだけは毎週すすんで通うようになったという変化が
みられました。このことからも、ひとりひとり好みや性格、生き方や状況の違う患者さんに対し、様々な回復モ
デルを提供することの意義に気づかされます。
日本はアメリカに比べると、まだまだアルコール医療に関連した施設や人的資源、AAの数や種類も乏しい状況
ですが、限られた資源のなかでも情報を活用し、様々な分野に視野を広げることで、患者さんにより多くの回復
へのヒントや選択肢を示せる可能性があるように思います。
当院でもプログラムの改良に向け様々な取り組みがなされていますが、それを扱う私たちもまた、プログラム内
容を良く理解し、効果的に提供できるようさまざまなスキルを身につけていく必要があることを改めて考えさせ
られています。