地域イベントにおける情報発信効果の分析

地域イベントにおける情報発信効果の分析
山下 幸裕(北陸先端科学技術大学院大学)
Keyword:地域イベント、情報入手経路、広報戦略
【問題・目的・背景】
昨今、地域活性化を目指し、住民が主体に地域の特性を
【研究方法・研究内容】
イベント情報の入手経路
活かしたイベントが全国各地で開催されている[1]。地域に
人々は、どのようにして地域イベントの情報を入手して
よって、一概に言うことはできないが、多くの地域は、住
いるのだろうか。日本イベント産業振興協会が行った「イ
民のリソース(人・金・物)を用いて、地域イベントが運
ベントの参加実態と参加意識に関する調査(表 1)
」による
営されている。もちろん行政からの補助はあるが、すべて
と[3]、人々のイベント情報の入手経路は、
「以前に行った
のコストを補えるほどのリソースを得られるわけではない。
ことがある(29.0%)
」
、
「友人・知人の紹介(28.2%)
」
、
「テ
地域イベントにおいて、運営者が懸念する問題の一つが
レビ(27.8%)
」
、
「地元の広報紙(27.3%)
」
、
「新聞(25.9%)
」
、
運営費用であろう。運営費用の大半は、住民の持ち出しで
「インターネット(19.5%)
」
、
「エリア情報誌(17.3%)
」
、
「家
あり、限られた予算の中で、地域イベントの準備をしなく
族(15.8%)
」
、
「雑誌(12.8%)
」
、
「ラジオ(8.3%)
」
、
「仕事関
てはならない。例えば、筆者が参加している石川県能美市
係(8.0%)
」
、
「ガイドブック(4.8%)
」という順であった。
灯台笹町と岩本町が創設した町おこし団体「灯岩そうせい
イベント別の情報入手経路を見ると、博覧会は「テレビ」
会」[2]が行った竹の子まつりでは、情報発信部門、設営部
が圧倒的に多く、フェスティバルは「以前に行ったことが
門、交通整備部門、渉外部門、竹の子掘り部門、竹の子販
ある」
、
「地元の広報紙」
、見本市・展示会は「テレビ」
、
「新
売部門、竹の子料理部門の計 7 部門で運営され、当然、各
聞」
、
「仕事関係」
、会議イベントは「インターネット」
、
「仕
部門運営には何らかの経費が発生している。
事関係」
、文化イベントは「友人・知人」
、
「テレビ」
、
「地元
地域活性化のための地域イベントの目的は、単純な営利
の広報誌」
、
「新聞」
、スポーツイベントは「友人・知人」
、
目的というよりも、他市町村への周知活動による交流人口
「テレビ」
、販促イベントは「テレビ」
、
「新聞」という結果
の増加、それに伴う定住促進が主要だと思われる。
「灯岩そ
であった。
うせい会」も、そのような目的で活動している。しかしな
年代別のイベント情報の入手経路を見ると、20 代と 30
がら、地域イベントが直接的な営利目的ではないとしても、
代男女では「友人・知人」
、40 代と 50 代男女では「以前に
経費以上の収益を上げる必要がある。そのためには、第一
行ったことがある」
、男性 60 代上では「新聞」
、女性 60 代
に地域イベントへの来客者を確保しなくてはならないため、
以上では「地元広報誌」という結果であった。
地域イベントの広報活動が重要になってくる。
情報発信には多くの手段がある。テレビやラジオといっ
表1 調査の概要
た電波を媒体する手段、新聞や雑誌、フリーペーパーとい
調査時期
2005 年 3 月
った紙を媒体する手段、ブログや facebook といったインタ
調査方法
インターネットによる全国調査
ーネットを媒体する手段があり、それぞれ無料の媒体から
調査対象
最近1年間で、何らかのイベントに参
有料の媒体まである。地域イベントでは、広報活動に多く
加した 18 歳以上~60 代以上の男女
の予算を割くことは難しいため、無料の媒体を選択するこ
サンプル数
とが多くなることが予想される。しかしながら、無料の媒
筆者により作成
男性:1000、女性:1000
体だからといっても、何らかの労力は発生するため、宣伝
効果が高い媒体を活用することが望ましい。
日本イベント産業振興協会が 2005 年に行った「イベント
本研究の目的は、地域イベントの来場者が、どのような
の参加実態と参加意識に関する調査」は、インターネット
広報媒体を見て来たかを調査し、情報発信効果を分析する
によるアンケート調査であり、2005 年時点でインターネッ
ことである。また、来客者がどのような媒体を見て来たか
ト利用者数が 8,000 万人を超えていたとしても、インター
を把握する事ができれば、ターゲット層に合わせた広報戦
ネット利用者に調査対象を限定しているため、調査結果に
略が可能になる。
偏りが生じている可能性を全て否定することは難しい。そ
こで、実際のイベント来場者からイベント情報の入手経路
の情報を発信した媒体等は以下の通りである。ただし、
を調査した結果を見る必要がある。しかし、実際のイベン
下記以外にも竹の子まつり実行委員メンバーが、単独で
ト来場者からイベント情報の入手経路を調査した研究は多
情報発信している可能性がある。
くはない。山下ら[5]の研究は、数少ないイベント来場者か

チラシ(A4 1200 部)
:情報発信部門が作成し、灯
らイベント情報の入手経路を調査した研究の一つであり、
台笹町および岩本町の住民に数部配布し、知り合い
来場者へのアンケート調査(表 2)により、イベント誘客
や職場等で配るように依頼した。
のために有効な情報経路の特定を目指している。山下らの

ポスター(A3 70 部)
:情報発信部門が作成し、竹
調査結果によれば、来場者のイベント情報の入手経路でも
の子まつり実行委員会メンバーに配布を依頼した。
っとも多かったのは、
「友人・知人の口コミ(41.2%、61 名)
」
、
また、能美市役所に関連施設への配布を依頼した
「チラシ(33.1%、49 名)
」
、
「ポスター(23.6%、35 名)
」
、

能美市広報(広報誌およびホームページ)
:能美市役
「テレビ、ラジオ、新聞などのマスメディア(10.1%、15
所が毎月発行する広報能美2014年4月号に記事を掲
名)
」
、
「友人・知人の facebook(2.7%、4 名)
」
、
「友人・知
載した。また、能美市役所のホームページ(能美の
人の LINE や twitter(0%、0 人)
」という結果であった。
里山 春のイベント in 2014)でも掲載した。

表 2 調査の概要
新聞:北國新聞社および北陸中日新聞社に竹の子ま
つりに関する記事が掲載された(8 回)
。

facebook:3 月 28 日に参加し、4 月 7 日から本格的
調査時期
2013 年 11 月 17 日
調査方法
対面自記入式、聞き取り法併用による
に運用した(記事投稿:24 件、いいね:192、リー
会場調査
チ数:3,523)
。
調査対象
イベント来場者
サンプル数
男性:40、女性:108

5 月 1 日の間で、まるごと nomi「市内のお出かけ情
報」で放送した。
筆者により作成

メール:4 月 22 日に北陸先端科学技術大学院大学の
関係者にメール発信した。
本研究の調査対象
イベントの情報入手経路について、インターネットによ
ケーブルテレビ(テレビ小松)
:4 月 24 日 19 時から

能美市内放送
る過去のイベント参加者へのアンケート調査結果と対面自
記入式および聞き取り法併用によるイベント来場者へのア
調査概要
ンケート調査結果を見たが、イベント情報の入手経路は、
調査の概要を表 3 に示す。2014 年 5 月 3 日(午前 9 時~
イベントの規模・種類や性別・年代によって異なる。また、
11 時 30 分)に灯岩そうせい会が開催した「灯台笹・岩本
これまでになかった新たな情報発信手段の確立(facebook
町 第 1 回竹の子まつり」の来場者に対してアンケート調
や twitter)やイベント主催者がどの情報発信媒体に力を
査を実施した。
入れるのか等によってもイベントの情報入手経路は異なる
表 3 調査の概要
ことが予想される。
本研究が対象とした地域イベントは、石川県能美市内に
調査時期
2014 年 5 月 3 日
ある灯台笹町と岩本町の 2 町が、地域活性化を図るために
調査場所
灯台笹公民館前および館内
発足した「灯岩そうせい会」の活動第一弾である「灯台笹・
調査方法
対面自記入式、聞き取り法併用による
会場調査
岩本町 第 1 回竹の子まつり」であり、地域住民が主体的
に運営している地域イベントである。この地域イベントの
調査対象
イベント来場者
来場者に対して、どのようにして竹の子まつりを知ったか
回収数
117 件
等についてアンケート調査を実施した。
アンケート項目は、どのように竹の子まつりを知ったか
情報発信
を尋ねる項目の他に、今度の地域活性化のための基礎資料
灯岩そうせい会竹の子まつり実行委員会情報発信部門
となるよう竹の子まつりの評価や灯台笹・岩本町について
(以下、情報発信部門)および他部門が、竹の子まつり
尋ねる項目から構成している。具体的なアンケート項目は
以下の通りである。なお、アンケート回答者の属性データ
表 5 回答者の年代
および情報発信媒体の効果に関する質問が、本研究の研究
度数
対象となる。

10 未満
4
3.4
10 代
2
1.7
アンケート回答者の属性データ
20 代
4
3.4
-
性別
30 代
28
23.9
-
年齢
40 代
17
14.5
-
来訪者の所在地
50 代
9
7.7
-
来訪者の構成
60 代
34
29.1
70 代以上
18
15.4
116
99.1
1
0.9

情報発信媒体の効果に関する質問

竹の子まつりに関する質問

パーセント
-
竹の子まつりの評価
-
竹の子まつりの企画
-
次回の参加の有無
-
意見(自由記述)
合計
欠損値
表 6 回答者の同行者
度数
灯台笹町、岩本町に関する質問
-
認知度
-
印象(自由記述)
1人
12
10.3
友人
22
18.8
家族
76
65.0
6
5.1
116
99.1
1
0.9
その他
【研究・調査・分析結果】
パーセント
合計
アンケート結果は以下の通りであった。
欠損値
回答者の属性
回答者は、男性が 39 名(33%)
、女性が 76 名(65%)
、
表 7 回答者の居住地
欠損値が 2 件(2%)であった(表 4)
。
度数
回答者の年代は、60 代(34 名、29%)が一番多く、次
パーセント
いで 30 代(28 名、24%)
、70 代以上(18 名、15%)の順
能美市
66
56.4
であった(表 5)
。10 歳未満の回答者がいたが、これは家
金沢市
9
7.7
族での来場者だと思われる。
小松市
13
11.1
白山市
15
12.8
回答者の同行者で、一番多かったのは、家族(76 名、
65%)で、次いで友人(22 名、19%)
、1 人(12 名、10%)
野々市市
1
0.9
の順であった(表 6)
。なお恋人と来たという回答者はい
加賀市
1
0.9
なかった。
その他県内
3
2.6
回答者の居住地で、一番多かったのは、能美市(66 名、
北陸先端大
2
1.7
56%)で、次いで白山市(15 名、13%)
、小松市(13 名、
その他県外
3
2.6
113
96.6
4
3.4
11%)の順であった(表 7)
。その他県内からは内灘町、
合計
その他県外からは東京都、神奈川県、岡山県であった。
欠損値
表 4 回答者の性別
回答者の情報入手経路
度数
パーセント
回答者の情報入手経路で、一番多かったのは、チラシ
男性
39
33.3
(30 件)で、次いで新聞・知人(27 件)
、能美市広報(25
女性
76
65.0
件)の順であった。その他の回答には、能美市内放送、
115
98.3
通りがかり、ラジオ、仕事、パソコン等があった。
2
1.7
合計
欠損値
表 8 回答者の情報入手経路(複数回答)
度数
チラシ
30
ポスター
14
能美市広報
25
新聞
27
facebook
3
知人より
27
テレビ
3
JAIST 広報
5
その他
14
チ
ラ
シ
能美市
金沢市
小松市
白山市
野々市市
加賀市
その他県内
JAIST
その他県外
合計
能
ポ 美 新
ス 市
タ 広 聞
ー
報
24 9 24 9
0 2 0 2
1 1 0 8
2 0 1 6
0 0 0 0
0 0 0 1
0 0 0 0
0 0 0 0
0 0 0 1
27 12 25 27
facebook
情報媒体
表 10 「住居地」と「情報入手経路」のクロス集計
知 テ メ そ
人 レ ー の 合
よ ビ ル 他 計
り
1 14
0 1
0 1
1 6
0 1
0 0
1 2
0 0
0 2
3 27
3
0
0
0
0
0
0
0
0
3
0 6
1 3
1 2
1 2
0 0
0 0
0 0
2 0
0 1
5 14
90
9
14
19
1
1
3
2
4
143
回答者の年齢と情報入手経路の関係
回答者の年齢と情報入手媒体の関係を分析するために、
「年齢」と「どのように竹の子まつりを知ったか(複数
回答)
」をクロス集計した結果を表 9 に示す。回答者数が
多い 30 代以上と情報入手媒体を見ると、30 代はチラシと
知人を主な情報源としているが、年代が上がるにつれて、
情報源を能美市広報と新聞とする回答者が多くなる傾向
【考察・今後の展開】
本研究の結果は、日本イベント産業振興協会[3]と山下
ら[5]の調査結果と同様の傾向が見られた。つまりイベン
トの情報入手経路としては、知人、ポスター・チラシ、
新聞、地元広報誌が多かった。しかしながら、本研究と
山下ら[5]の調査結果では、ソーシャルネットワークを見
た参加者が少なかった。インターネットのイベント認知
が見られる。
媒体としての強さ[3]という点で、日本イベント産業振興
表 9 「年齢」と「情報入手経路」のクロス集計
協会とは異なる傾向も見られた。インターネットが地域
イベントの情報入手経路になっていなかった理由として
10 未満
10 代
20 代
30 代
40 代
50 代
60 代
70 以上
合計
1
1
1
12
3
1
7
4
30
ポ
ス
タ
ー
2
0
0
3
2
0
4
3
14
0
0
0
2
4
2
8
9
25
新
聞
facebook
チ
ラ
シ
能
美
市
広
報
知
人
よ
り
テ
レ
ビ
メ
ー
ル
そ
の
他
合
計
は、インターネットで地域イベントの情報を見て参加し
たくても、開催地が遠方で参加することができないこと
があり、必ずしもアクセス数がイベント参加者数に結び
0
1
2
1
4
4
10
5
27
0
0
0
2
0
1
0
0
3
0
0
1
12
2
1
8
3
27
0
0
0
0
0
0
2
1
3
0
0
1
2
1
0
0
1
5
1
4
0
2
0
5
2 36
5 21
1 10
2 41
3 29
14 148
つくとは限らない。
今後の展開としては、本年度の第 2 回灯台笹・岩本町
竹の子まつりでも同様の調査を実施したので、本結果と
比較し、地域イベントの情報入手経路の研究の深化を図
っていきたい。
【引用・参考文献】
[1]地域活性化センター:地域イベント助成事業
回答者の住居と情報入手経路の関係
回答者の住居地と情報入手媒体の関係を分析するため
に、
「どこから来たか」と「どのように竹の子まつりを知
ったか」のクロス集計した結果を表 10 に示す。回答者数
が多い能美市在中の回答者の情報入手媒体を見ると、チ
ラシ、能美市広報、知人を主な情報源としているが、能
美市以外に在中の回答者は、情報源を新聞と知人として
いる傾向が見られる。
[2]https://www.facebook.com/touiwasouseikai
[3]宮本宗治、メディアの地殻変動とイベントの再生、
日経広告研究報告、229 号、2006 年
http://www.jace.or.jp/archives/0601/000100.html
[4] 総務省:平成 24 年通信利用動向調査
[5] 山下永子・岡部千鶴・眞鍋真紀子、産学官連携地域
イベントにおける誘客方策に関する一考察、久留米信愛
女学院短期大学研究紀要、第 37 号、pp.49-57、2014