アパレル卸売業に関するアンケート調査 報告書

アパレル卸売業に関するアンケート調査
報告書
平成18年8月
香川大学経済学部
小宮一高
近畿大学経営学部
浦上拓也
は
じ
め
に
このたびは、アパレル卸売業に関するアンケート調査にご協力いただき、誠にあり
がとうございました。大変多くの企業にご協力いただき、貴重なデータを収集するこ
とができました。心より御礼申し上げます。
本冊子は、今回のアンケートの集計結果と簡単な分析をまとめたものです。近年の
アパレル卸売業の動向をはじめてとして、様々な項目について興味深い結果が得られ
ました。この分析結果が、貴社の経営に対して何らかの参考になれば幸いです。
なお、この調査結果に関するご質問等がありましたら、下記調査者代表者までご連
絡ください。今後とも、よろしくお願い致します。
平成 18 年 8 月
香川大学経済学部
小宮一高
香川大学経済学部
〒760-8523 香川県高松市幸町 2 番 1 号
E-mail:[email protected]
TEL&FAX:087-832-1873(研究室・直通)
1
第1章 調査の背景と目的
●アパレル流通のユニークな特徴の把握
アパレル業の流通システムは、一般の流通業界に比べてユニークな特徴をもっている。
例えば、生産段階が糸の生産から始まって多段階に分業化されている点。また、それに
関連して、多くの地域が産業集積を形成している点などである。また、卸売業に注目し
た場合にも、「製造卸」や「アパレル卸」と呼ばれるように、一般的な卸売業の機能を
担いながら、同時に、製品企画・開発を通して、一般的な業界で言えば生産者としての
役割を担っている業者も数多い。その中には、卸売業者と呼ばれながら、製品の企画・
開発に特化している業者も存在する。
このような独特の特徴をもつ業界を研究対象とした時には、まず、その現状を把握す
ることが不可欠である。しかし、学問的な観点から見た場合、アパレル卸売業者の現実
の姿を明らかにしようとする試みは、これまで必ずしも積極的に行われてはこなかった。
また、同時に、卸売業を営む経営者の方々が、将来に対してどのような展望をもち、ど
のような方向に経営の舵を切ろうとしているのかについても様々な可能性が考えられ
た。
以上のような、アパレル卸売業者の現状と方向性・課題を明らかにすること。これが
第1の目的である。
●注目した観点:仕入先・販売先との関係、流通の多段階性
また、同時に、我々はアパレル卸売業を分析するためにいくつかの点に注目した。ま
ず注目したのは、卸売業者の仕入先、販売先との関係である。日本の流通では、戦後か
ら生産者が自社の製品を販売する流通経路に対して強い統制をおこない、その行動をコ
ントロールしようとするシステムが構築されてきた。家電や化粧品の分野がその代表で
ある。
このようなシステムは自動車業界のように近年まで維持されている業界もあるが、そ
の多くは有効に機能しなくなったと言われる。これにはいくつもの要因が関連している
が、その代表的なものは販売先である小売業者が大規模化し、パワーを得たことである。
このような一般的な流通業界の現状に対して、アパレルの卸売業界はどのような状況に
あるのか。まずこの視点からの質問をおこなっている。
また、別の視点としては、流通の多段階性に注目している。流通の多段階性は、日本
の流通システムにおいて、そのもっとも大きな特徴として認識されており、アパレル産
業はその傾向が強いことが指摘されてきた。しかし、近年は、末端の小売業者の大規模
化が進んだこともあり、アパレルの完成品の流通については、流通の多段階性が解消さ
れる傾向がある、との見方がある。このような多段階性の現状を確認することも、調査
の主要な視点であった。これらの視点に基づいたデータを収集すること。これが本調査
2
における大きな意味での第2の目的である。
その他、卸売業者の自主開発商品や卸売業者の仕入力、販売力、といったこれまであ
まり注目されてこなかった点にも質問をおこなった。これらの観点に関するデータは、
これからの議論にとって貴重な基礎データになることが期待されるものである。
なお、アンケート票の調査項目は、以下の順序で構成されていた。本冊子も、アンケ
ートの質問順に集計結果と簡単な分析をおこなっている。
卸売活動の特徴(2-2-1)
対象企業の仕入力・販売力(2-2-4)
・アパレル卸のカテゴリー
・仕入力
・仕入・販売の地域的な広がり
・販売力
・取扱商品カテゴリー数
・取扱商品
自主企画商品について(2-2-5)
・直営工場、直営店の有無
・自主企画商品の有無
・販売先の統制
最大シェアの仕入先との取引に関して
(2-2-2) 地域性と多段階性(2-2-6)
・商品カテゴリー
・同一都道府県に対する販売額の割合
・仕入額全体に占める割合
・仲間卸との取引の有無
・仕入額割合の変化
・仲間卸との取引に占める割合
・仕入先との関係
・支店・系列店との取引の割合
最大シェアの販売先との取引に関して
企業の概要(2-2-7)
(2-2-3) ・正社員数
・業態
・正社員以外の従業員の割合
・商品カテゴリー
・システム化の程度
・販売額全体に占める割合
・仕入力、販売力
・販売割合の変化
・過去3年の売上と利益
・販売先との関係
・3年後の見通し
・競争力の源泉
・中抜きの対応策
・将来の展開
3
第2章 アンケート調査
2-1. 調査概要
(1) 調査方法
郵送により調査票を送付し、郵送にて回収した。
送付日
:平成 18 年 2 月 13 日
回収期限:平成 18 年 2 月末日
(2) 調査対象
調査対象は『全国繊維企業要覧 2006 年度版』より抽出した。それぞれ調査対象と企
業数は以下のとおりである。ただし、分析の都合上 300 企業にプレアンケートを行い(平
成 18 年 1 月 24 日送付、平成 18 年 2 月 7 日回収期限。回収数 45 票、回収率 15%)
、ア
ンケート票を修正した後に残る 2,708 企業に最終的なアンケート調査を実施した(この
ため、プレアンケートに協力いただいた企業に送付したアンケート票は、今回分析に用
いた最終版のアンケートと若干異なっていることをご了解いただきたい)。
対象
企業数
紳士服卸
172
婦人服卸
848
子供服卸
84
学生服卸
91
ユニホーム卸
522
ニット製品卸
590
カジュアルウェア卸
276
ジーンズ卸
27
スポーツウェア卸
154
シャツ卸
73
繊維総合卸
172
衣料総合卸
213
(合計)
3,008
(3) 回収数
発送数 2,708、回収数 500 票(回収率:18.5%)、有効回答数 489(有効回答率 18.1%)
4
アンケート調査結果
2-2-1 卸売活動の特徴
アンケートでは、まずアパレル卸全般についての質問を行った。本調査の想定するア
パレル卸の取り扱う商品とは、紳士服、婦人服、子供服、学生服、ユニホーム、ニット
製品、カジュアルウェア、ジーンズ、スポーツウェア、シャツである。
(1) アパレル卸のカテゴリー
アパレル卸のカテゴリーとして、自社ブランドの商品企画、販売促進を専業とする卸
売業者(C1)、自社のブランドを持ち、商品企画、販売促進などを手がける一方で、
他社が企画する商品の販売も行う卸売業者(C2)、他社製品を卸すことを専業とする卸
売業者(C3)
、特定アパレルメーカーの商品取扱に特化した卸売業者(C4)
、その他(C5)
と分類した。
他社製品を卸すことを専業とする卸
200
154
売業者(163 社)および自社ブランド
163
を持ちつつも同時に他社製品を扱う
150
卸売業者(154 社)で全体の約 68%を
100
占め、ついで自社ブランドのみを扱う
98
卸売業者(98 社)が全体の約 21%を
占める結果となった。
50
30
18
26
0
C1
C2
C3
C4
C5
欠損値
(2) 仕入・販売の地域的な広がり
仕入先、販売先の地域的な広がりについて質問を行った。質問の内容は、仕入先が特
定の産地などに限定されている(仕入特定)、仕入先が全国、あるいは海外内度広い範
囲にわたっている(仕入全国)
、販売先が特定の産地などに限定されている(販売特定)
、
販売先が全国、あるいは海外内度広い範囲にわたっている(販売全国)となっている。
また最後に、2つの質問をクロスし、仕入と販売を総合して地域的にどのような活動
を行っているのかを示している。
5
300
仕入先が全国または海外など広範囲
277
にわたっているとする企業(277 社)
250
200
201
が全体の約 60%を占める結果となっ
た。
150
100
50
11
0
仕入特定
仕入全国
欠損値
販売先を特定の産地に限定している
300
250
企業(250 社)と、全国あるいは海外
250
228
200
など広範囲にわたっているとする企
150
業(228 社)がほぼ同数という結果と
100
なった。
50
11
0
販売特定
販売全国
欠損値
もっとも多いのは、仕入、販売ともに
広い範囲にわたって活動している企
仕入・販売特
定, 153
仕入・販売全
国, 177
業である(177 社)。続いて、仕入・販
売ともに特定地域で活動している企
業(153 社)。仕入が全国、販売が特定
地域という企業(95 社)
、仕入が特定
仕入全国・販
売特定, 95
仕入特定・販
売全国, 47
地域で販売が全国という企業(47 社)
が続く結果になった。
(3) 取扱商品カテゴリー数
本調査で想定している商品カテゴリー10 項目のうち、実際に扱っている品目数につ
いて質問を行った。なお、実際は「その他商品」の項目も存在するため、全 11 項目の
うちのカテゴリー数となっている。
6
取扱商品カテゴリー数は、2 種類とす
100
90
86
る企業が最も多く(90 社)
、その後カ
79
80
テゴリー数が増えるほど企業数は減
63
60
49
少していく傾向を見ることができる。
45
40
29
17
20
17
6
5
3
10
11
欠損値
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
(4) 取扱商品(売上の大きいもの最大 2 つ選択)
質問(3)のうち、売上高の大きいカテゴリーを2つ答えていただくという質問を行った。
(なお、都合により欠損値のデータを省略している。
)
0
50
100
150
200
250
41
紳士服
主な取扱品目として婦人服をあげる
企業が最も多く(222 社)、ついでニ
222
婦人服
ット製品(174 社)、カジュアルウェ
29
子供服
33
学生服
ア(124 社)
、ユニホーム(87 社)の
87
ユニホーム
174
ニット製品
順となっている。
124
カジュアル
32
ジーンズ
49
スポーツ
34
シャツ
65
その他
(5) 直営工場、直営店の有無(全体は 498)
製造機能(直営工場)と小売機能(直営店)の有無についての質問を行った。
直営店を持つとする企業(142 社)が
直営店
全体の約 30%程度であり、直営工場
142
を持つとする企業(96 社)は全体の
約 20%という結果となった。
直営工場
96
0%
20%
40%
あり
60%
80%
100%
なし
7
2-2-2 最大シェアの仕入先との取引に関して
ここでは、仕入額に関して最も高いシェアを占める仕入先との取引に関する質問を行
った。
(1) 商品カテゴリー
まず、2-2-1(3)の質問における商品カテゴリーを用いて、仕入額に関して最も高
いシェアを占める仕入先との主要取引商品を質問した。
2-2-1(3)の結果とほぼ同様に最も取引
200
額の大きい仕入先からの主要取扱商
148
150
品は婦人服が最も多く、次いでニット
100
67
製品、ユニホーム、カジュアルウェア
83
50
50
24
15
21
12
27
6
という結果になった。
16
欠損値
そ の他 商 品
シ ャツ
スポ ー ツ
ジー ンズ
カ ジ ュア ル
ニ ット 製 品
ユ ニホ ー ム
学生服
子供服
婦人服
紳士服
0
20
(2) 仕入額全体に占める割合
最も高いシェアを占める仕入先の、仕入額の全体に占める割合について質問した。
当該仕入先の仕入額の全体に占める
80
70
70
割合が 30%未満とする企業(195 社)
68
57
60
が全体の約 42%である。逆に 70%以
47
50
46
39
40
31
28
26
30
上と特定企業に依存する傾向の強い
41
36
20
企業(103 社)は約 22%である。これ
らの結果を見ると、仕入先を分散させ
10
る企業のほうが多いということがわ
0
0~10
11~20
21~30 31~40
41~50
51~60
61~70
71~80 81~90 91~100 欠損値
かる。
(3) 仕入額割合の変化
(2)の割合が近年、拡大、維持、縮小しているのかどうかの質問を行った。
8
もっとも取引額の多い仕入先の、仕入
300
額の全体に占める割合が近年どのよ
264
250
うに変化しているのかという質問に
200
ついては、現状維持とする企業(264)
150
104
が多く、拡大もしくは縮小とする企業
104
100
(それぞれ 104 社)は同数という結果
50
となった。
16
0
拡大
維持
縮小
欠損値
(4) 仕入先との関係
最後に、仕入先との関係についていくつかの質問を行った。それぞれ、企業規模の格
差が大きい、仕入先の販売額において(質問を行った企業が)大きなシェアを占めてい
る、仕入先からの情報が重要、仕入先からの経営上のアドバイスが重要、仕入先からの
資金的支援が重要、ブランド商品を仕入れている、リベートの仕組みがある、仕入先は
意見を述べない、仕入先が(質問を行った企業の)取扱商品決定に影響力を持つ、仕入
先の商品の卸価格に配慮が必要、商品の説明やサービスに仕入先の指示がある、仕入先
の示した意向に議論の余地がない、という内容となっている。
これらの質問は、前半部分は仕入先がもつパワーを問う質問であり、後半部分は、仕
入先からどの程度影響を受けているか(統制されているか)を問う質問であった。
「はい」の割合が高いのは、「仕入先
0%
20%
仕入先との規模格差
40%
60%
80%
との規模格差」「仕入先からの情報の
317
159
仕入先の販売額に占めるシェア
重要性」「仕入先からのブランド商品
213
265
仕入先からの情報の重要性
294
180
仕入先からのアドバイスの重要性
51
421
仕入先からのブランド商品
253
218
仕入先とのリベート関係
34
436
仕入先の品揃えへの影響
315
160
仕入先商品の価格への配慮
318
155
はい
示す「はい」の割合は比較的少ない。
43
424
仕入先からの意向
とが予想できる。
問を見ると、影響を受けていることを
115
355
仕入先からのサービスの指示
先はある程度パワーをもっているこ
しかし、仕入先からの影響に関する質
295
179
仕入先からの意見
(の提供)」といった項目であり仕入
123
344
仕入先からの資金の重要性
いいえ
100%
(なお、「仕入先からの意見」の質問
欠損値
のみ「いいえ」が影響を受けていない
ことを示す)
。
2-2-3 最大シェアの販売先との取引に関して
ここでは、販売額に関して最も高いシェアを占める販売先との取引に関する質問を行
9
った。
(1) 業態
まず、販売先の業態について質問を行った。
販売先の業態は、一般小売店が最も多
200
171
く、次いで卸売業者、衣料品専門量販
160
店、百貨店、総合スーパーという順に
120
72
80
68
62
48
12
10
6
欠損値
そ の他
卸売業者
通信販売
一般小売店
ホ ー ム セ ンタ ー
専門量販店
総 合 スー パ ー
百貨店
0
なっている。
40
40
(2) 商品カテゴリー
2-2-1(3)の質問における商品カテゴリーを用いて、販売額に関して最も高いシェ
アを占める販売先との主要取引商品を質問した。
ここでも 2-2-1(3)の結果とほぼ同様
200
に最も取引額の大きい販売先への主
156
160
要取扱商品は婦人服が最も多く、次い
120
でニット製品、ユニホーム、カジュア
77
80
ルウェアという結果になった。
64
58
40
29
25
17
17
17
10
欠損値
そ の他 商 品
シ ャツ
スポ ー ツ
ジー ンズ
カ ジ ュア ル
ニ ット製 品
ユ ニホ ー ム
学生服
子供服
婦人服
紳士服
0
11
8
(3) 販売額全体に占める割合(%)
最も高いシェアを占める販売先の販売額全体に占める割合について質問した。
10
当該販売先の、販売額の全体に占める
180
165
割合が 10%未満とする企業(165 社)
160
が全体の約 36%を占め、10%以上
140
120
30%未満とする企業(120 社)とあわ
100
せると全体の約 62%を占める。
74
80
この結果から、仕入先よりも高いレベ
60
46
40
31
26
20
21
33
27
24
26
ルで販売先の分散化が行われている
16
ことがわかる。
0
0~10
11~20
21~30
31~40
41~50
51~60
61~70
71~80
81~90
91~100
欠損値
(4) 販売割合の変化
(3)の割合が近年、拡大、維持、縮小しているのかどうかの質問を行った。
もっとも取引額の多い販売先の、販売
300
257
額の全体に占める割合が近年どのよ
250
うに変化しているのかという質問に
200
ついては、現状維持とする企業(257)
150
100
が多く、縮小するとする企業(124 社)
124
100
が拡大するとする企業(100 社)を若
干上回るという結果になった。
50
8
0
拡大
維持
縮小
欠損値
(5) 販売先との関係
最後に、販売先との関係についていくつかの質問を行った。それぞれ、企業規模の格
差が大きい、販売先の販売額において(質問を行った企業が)大きなシェアを占めてい
る、販売先からの情報が重要、販売先からの経営上のアドバイスが重要、販売先からの
資金的支援が重要、販売先は意見を述べない、販売先は配送の頻度や納期に強い要求を
してくる、他の販売先に比べ取引価格に配慮が必要、品揃えに対して積極的な提案をし
てくる、仕入先の示した意向に議論の余地がない、という内容となっている。
これは仕入先における質問と同じように、前半部分は販売先がもつパワーを問う質問
であり、後半部分は、販売先からどの程度影響を受けているか(統制されているか)を
問う質問であった。
11
0%
20%
販売先との規模格差
40%
60%
販売先の仕入額におけるシェア
100%
「はい」の割合が高く、販売先はかな
りのパワーをもっていることが予想
276
193
販売先からのアドバイスの重要性
販売先からの資金的な援助の重要性
16
454
243
230
販売先からの納品への要望
る。
275
193
販売先からの品揃え提案
販売先の意向への配慮
122
343
自主企画商品への要望
相対的に見て、仕入先よりも販売先か
211
261
ている企業の割合も多く、販売先がパ
ワーを行使している様子が見て取れ
206
263
販売先との取引価格への配慮
される。また、販売先から影響を受け
107
362
販売先からの意見
規模格差や情報の重要性については
464
153
販売先からの情報の重要性
80%
317
155
らの影響の方が大きい傾向にあるよ
99
221
うだ。
いいえ
はい
欠損値
2-2-4 対象企業の仕入力・販売力
ここでは、調査対象企業の仕入れと販売の能力に関する質問を行った。
(1) 仕入力
まず、仕入に関して、仕入先の数が多い、仕入担当者の割合が高い、新たな仕入先の
開拓を積極的に行っている、海外の仕入先が多い、という質問を業界平均と比較して答
えてもらい、最後に、業界の中で重要な位置を占める仕入先と取引を行っている、とい
う質問を行った。
0%
20%
40%
242
取引可能仕入先数が多い
60%
80%
100%
「仕入担当数が多い」「海外の仕入先
数が多い」は、規模の小さい企業が多
233
かったこともあり、あまり「はい」の
384
仕入担当者数が多い
225
仕入先を積極的に開拓
216
重要な位置の仕入先との取引あり
はい
割合は高くなかった。それ以外の質問
項目は、およそ半数が「はい」と答え
248
350
海外の仕入先数が多い
いいえ
83
128
ている。
254
欠損値
(2) 販売力
仕入の場合と同様に、販売に関して、販売担当者の割合が高い、販売先と共同した取
組に積極的である、販売先に対する手厚いサポートを行っている、新たな販売先の開拓
を積極的に行っている、という質問を業界平均と比較して答えてもらい、最後に、業界
の中で重要な位置を占める販売先と取引を行っている、という質問を行った。
12
0%
20%
40%
60%
80% 100%
多くの質問が、ほぼ半々の割合で分か
れている。また、仕入力と同様「販売
345
販売担当者数が多い
128
196
新たな販売先の積極的な開拓
担当者の数が多い」の質問には、企業
規模の影響があり、低い割合にとどま
275
ったものと思われる。
256
販売先との共同した取り組みに積極的
212
販売先へのサポートがある
222
247
重要な位置の販売先との取引
215
255
いいえ
はい
欠損値
(3)仕入力、販売力の関係
ここで仕入力、販売力の関係を簡単に見ておこう。以下は、上記の質問群の内で「重
要な位置の仕入先との取引がある」「重要な位置の販売先との取引がある」という2つ
の質問をクロスさせた結果である。
もっとも多いのは、重要な仕入先、販
売先、双方と取引がある企業(160 社)
仕入・販売
なし, 126
であり、続いて双方ともない企業(126
仕入・販売
あり, 160
社)である。
この結果から断定的な結論を出すこ
とはできないが、強い企業は仕入力、
販売力ともに高く、そうでない企業は
仕入なし、販
売あり, 89
両方の能力とも低い傾向があること
仕入あり、販
売なし, 85
が推測できそうだ。
2-2-5 自主企画商品について
ここでは、自主企画商品に関する質問を行った。
(1) 自主企画商品の有無
まず、自社で企画・開発を行い、その決定権をもつブランドの有無について質問を行
った。また自主企画商品と後に訊ねた過去3年間の利益との関係のクロス表を示した。
13
自主企画商品があるとする企業(234
自主企画商品がありますか
社)とないとする企業(237 社)は
欠損値, 18
ほぼ同数となったものの、この結果
から卸企業といえども独自ブランド
を持つ企業が多数存在する結果とな
いいえ, 237
った。
はい, 234
近年利益
あ
自主企画商品
り
な
し
合計
合計
増加
維持
減少
69
79
80
228
38
102
94
234
自主企画商品の有無と過去3年の利
益との質問をクロスさせると、自主
企画商品をもつ企業は、過去3年で
利益を増加させた企業の割合が高い
傾向があることがわかった(カイ自
107
181
174
462
乗検定により 5%水準で統計的に有
意。χ2=12.95)。
なお、「直営工場の有無」「直営店の有無」「仲間卸との取引の有無」においても、同
様に過去3年間の利益との関係を検討したが、自主企画商品のように統計的に有意な関
係は見られなかった。
(2) 販売先の統制
(1)ではいと回答した企業に対し、いくつかの自主企画商品に関する質問を行った。そ
れぞれ、全体的な品揃えに対し影響力を与えられる販売先を持つ、自主企画商品の販売
希望価格がある程度の期間実現される、販売先の企画した新たな取組に対して意見を述
べることがある、販売先やプロモーションに対して指示に従う販売先が多い、販売先に
示す意向は実現されることが多い、という質問になっている。
14
自主企画商品を提供している業者は、
0%
20%
40%
80%
100%
相対的に販売先に影響をもっている
ことがわかる。
147
136
品揃えへの影響
60%
特に、価格の統制や取り組みへの提
販売価格の統制
203
70
全体的に自主企画商品がもつパワー
110
162
サービスの指示
い影響力が見て取れる。
181
94
取り組みへの提言
言、意向の実現、といった項目では高
は大きいようだ。
175
意向の実現
98
いいえ
はい
欠損値
2-2-6 地域性と多段階性
ここでは、取引の地域性と流通の多段階性の実態を把握する質問を行った。
(1) 同一都道府県内に対する販売額の割合(%)
まず、調査対象企業の本社の販売額全体に占める、同一都道府県内企業に対する販売
額の割合について質問を行った(なお、都合により欠損値の記載を省略している)
。
100
同一都道府県内企業との取引額が
93
10%未満の企業(93 社)が突出して
80
おり、販路を広域的に展開する企業が
60
54
県内との取引額が 70%以上とする企
43
40
35
33
多いことが伺えるが、逆に同一都道府
30
27
業(116 社)も全体の約 30%存在する
27
26
21
ことから、地域密着型を志向する企業
20
も少なくないということが理解され
0
0~10
11~20
21~30
31~40
41~50
51~60
61~70
71~80
81~90
91~100
る。
(2) 仲間卸との取引の有無
流通の多段階性を確認するために、仲間卸との取引の有無を質問した。
15
仲間卸との取引があるとする企業
仲間卸との取引があるか?
(228 社)とないとする企業(244 社)
欠損値, 17
がほぼ同数という結果となった。この
結果から流通の多段階構造の程度を
断定することはできないが、少なから
いいえ, 244
はい, 228
ず存在すると見ることはできるだろ
う。
(3) 仲間卸との取引に占める割合(%)
(2)仲間卸との取引があるとした場合に、それが全体の取引額に占める割合について質
問を行った。
仲間卸との取引額の割合は 30%未満
150
とする企業(178 社)が約 79%となり、
129
仲間卸との取引への依存度が低いと
100
いうことが理解される。
50
26
23
8
5
7
41~50
51~60
3
9
5
10
0
0~10
11~20
21~30
31~40
61~70
71~80
81~90
91~100
(4) 支店・系列店との取引の割合(%)
地理的な販売先の広がりを把握するために、本社の支店に対する、もしくは系列店に
対する販売額の全体に占める割合について質問を行った。その際に、支店・系列店がな
い場合はその旨記入いただいている。
なお、この質問は支店・系列店との取引がないとする企業(353 社)が約 72%となり、
支店・系列店との取引は、全体的に多くないことがまず把握できた。
16
有効回答(136 社)の範囲内で見て
40
みると、全体に左に偏ったグラフが
34
見られる。つまり、支店・系列店と
30
の取引に依存する割合は低いとい
22
う結果となった。
20
13
10
10
9
4
2
2
61~70
71~80
3
1
0
0~10
11~20
21~30
31~40
41~50
51~60
81~90
91~100
2-2-7 企業の概要
ここでは、調査対象企業の一般的な状況について質問を行った。
(1) 正社員数(人)
まず、正社員数について質問を行った。
企業規模を把握するために正社員数
200
を答えていただいたが、4 人未満とす
171
る企業(130 社)が約 27%、5 人以上
150
10 人未満とする企業(171 社)が約
130
36%となり、正社員 10 人未満の企業
94
100
が全体の半数以上となり、比較的小規
模の企業が多いという結果になった。
56
50
13
14
11
51~100
100以上
欠損値
0
0~4
5~10
11~20
21~50
(2) 正社員以外の従業員の割合(%)
次に、(1)の企業の正確な規模を把握するために、正社員以外の従業員の割合について
質問を行った。
17
正社員の規模が正確な企業の規模を
250
反映しているのかを確認するために、
208
200
正社員以外の従業員の割合を質問し
150
たところ、10%未満とする企業(208
社)が約 47%となり、おおむね正社
100
員規模が企業規模を反映しているこ
71
52
50
45
41
24
16
8
9
61~70
71~80
8
とが理解される.
7
0
0~10
11~20
21~30
31~40
41~50
51~60
81~90 91~100 欠損値
(3) システム化の程度(オンラインによる受発注、コンピューターによる在庫管理)
システム化の状況を把握するために、オンラインによる受発注の有無、コンピュータ
ーによる在庫管理の有無、についての質問を行った。
オンラインによる受発注を行ってい
0%
20%
オンラインの受発注
40%
60%
80%
251
100%
る企業(233 社)は約 48%と半数以下
となり、またコンピューターによる在
233
庫管理を行っている企業(298 社)は
約 62%となった。近年の IT 化の進展
コンピューターによる在庫管理
185
を考慮すると、依然としてシステム化
298
が進んでいない状況が明らかとなっ
たことは予想外であった。
いいえ
はい
欠損値
(4) 仕入力・販売力
仕入と販売のどちらにより大きな強みを持っているのかについて質問を行った。
仕入と販売のどちらにより強みを持
欠損値, 32
っているのか、という質問に対して
は、販売力とする企業(226 社)が約
49%、仕入力とする企業(231 社)が
販売力, 226
約 51%となり、ほぼ同数という結果
仕入力, 231
になった。
18
(5) 過去 3 年の売上と利益
過去 3 年間の売上と利益の状況について、増加、現状維持、減少、の 3 択による質問
を行った。
過去 3 年間の売上および利益の状況
0%
20%
40%
60%
80%
100%
について質問したところ、売上・利益
売上
101
166
ともに増加もしくは現状維持とする
209
回答がそれぞれ約 56%・約 62%とな
り、比較的小規模な企業が多数を占め
利益
111
186
る中で状況はそれほど悪いものでは
182
ないということが分かった。
増加
維持
減少
欠損値
(6) 3 年後の見通し
(5)と同様に 3 年後の見通しについて質問を行った。
ここでは 3 年後の将来見通しについ
欠損値, 8
て質問したところ、見通しは明るいも
しくは横ばいとする企業(322 社)が
明るい, 109
約 67%と見通しは厳しいとする企業
厳しい, 159
を上回っており、(5)の質問とあわせて
考えてみても、今後の見通しに期待を
横ばい, 213
持っている企業が多いということが
明らかになった。
(7) 競争力の源泉
調査対象企業の競争力の源泉について質問を行った。
19
競争力の源泉として多かったのは、や
0%
20%
40%
60%
80%
100%
った。また、自主企画商品のブランド
260
高い仕入力
力も高い割合を占めている。
208
高い商品(ブランド)企画力
逆に系列関係は大きな影響力をもた
161
高い情報収集・処理・活用力
ない結果となった。
74
強固な系列関係
39
その他
非該当
はり「仕入」と「営業(販売)」であ
236
高い営業力
該当
欠損値
(8) 中抜きの対応策
昨今、メーカーの卸の中抜き問題が取りざたされているが、それに対する対応につい
て質問を行った。
中抜き対策としては、仕入企業との関
0%
20%
40%
60%
80%
係を強化する、という回答が多かっ
仕入先企業との取引関係を強化する(系列関
係を強化する)
240
207
情報化によって取引の迅速化・効率化を実現
し費用削減に努める
257
190
仕入先企業もしくは販売先企業との経営統合
を目指す
取り扱い品目を絞り込んで経営資源を集中さ
せる。
その他
非該当
該当
た。また、情報化への期待も高い。
67
381
337
逆に、大規模チェーンとの取引を強化
26
421
企業規模の拡大・販売地域の拡大によって大
規模小売店チェーンとの取引を強化
多品種の製品を扱うことでリスクの分散を図る
100%
111
407
また、取扱品目は多様化よりは集中化
に取り組む傾向が強いという結果に
なった。
190
258
したい、という割合は多くなかった。
41
欠損値
(9) 将来の展開
将来に向けて新たな展開があるとすれば、どの方向性が最も現実的と考えるか、とい
う質問を行った。
20
0%
20%
40%
取扱品目の範囲を拡大する
主要取引先との系列関係を強める
異業種に進出するという,いわゆる多角化を行う.
該当
う先の結果を反映していると思われ
429
43
375
285
97
への進出や直営店を出店することに
187
367
387
る。
また、他の卸売業界と同様に、他地域
273
対しても、高い意向が見られる結果と
105
なった。
84
447
その他
非該当
主企画商品が強いパワーをもつ、とい
205
199
新たな展開として高い割合を示した
のは、企画機能であった。これは、自
149
267
製造機能をもつ,あるいは,強化する。
販売機能(小売店)をもつ,あるいは,小売店を増
加させる。
100%
122
323
販路を縮小し地域密着企業を目指す
企画機能をもつ,あるいは,強化する。
80%
350
取扱品目の範囲を縮小し主力商品に特化する
他地域に販路を広げる
60%
25
欠損値
21
第3章 総括
アンケート調査の総括として、以下の5点を挙げたい。
①卸売業者の現状と方向性
調査結果からは、卸売業者の近年の業績はそれほど悪くなく、将来的な見通しについ
ても期待をもっている企業が多いことがわかった。
また、今後の方向性としては自主企画商品をもつことへの意向が高く、営業地域の広
域化や小売機能の獲得といった方向への期待が強いことがわかった。
②自主企画商品について
アパレル業界の卸売業の特徴として、多くの卸売業者が自主企画商品をもっているこ
とが挙げられる。今回の調査結果を見ても、約半数の企業が自主企画商品をもつことが
わかった。また、その内の3割を超える企業が、卸売業者でありながら、自主企画の商
品だけの取扱をおこなう「アパレル卸」「製造卸」である。
自主企画商品と利益との関係を分析すると、自主企画商品をもつ企業の方が、利益を
増加させている傾向があることがわかった。これら卸売業者が企画する自主企画商品に
ついての調査・分析は、より一層進めていくことが必要である。
③仕入先、販売先との関係について
最大シェアをもつ仕入先と販売先との関係を見たが、相対的に見た場合、販売先から
の影響を強く受けている傾向があるようだ。これは、アパレルの商品特性として、アイ
テム数が非常に多く、仕入先は小規模多数の性質を持つのに対して、販売先は近年特に
大規模化していることが影響していると思われる。
④仕入力、販売力について
卸売業者全体としてみると、仕入力、販売力に違いがあり、その力はある程度相関し
ていることがわかった。つまり仕入力、販売力が強い企業が多い一方で、双方とも弱い
企業も多いという傾向がある。今後は、このような違いがどこから発生し、具体的な企
業活動としてどのような違いがあるのかについて、さらに詳細な検討をおこなう必要が
ある。
⑤流通の多段階性
調査では、仲間卸との取引は存在するものの、その依存度は決して高くない、という
結果となった。時系列の分析をおこなっていないために明らかにできない面もあるが、
この結果だけから見ると、多段階性はそれほど高い状況にはないと考えることができる。
22