高校生向け連立方程式の解法 行列式, の展開定理,置換の符号 年 月 日 大阪教育大学 数理科学 片山良一 ½ 2元1次連立方程式 次の2元1次連立方程式を解いてみよう. 未知数 の求め方には,消去法と代入法があります.ここでは,消去法で解いてみます. を求めると, ゆえに 同様にすれば えよう ここで,上に現れた 個の係数 これは,数学 で学習するもので, 番目の数 と などの添え字の を入れ替えて求めても良い,なぜ良いか考 を,次のように並べて配置する. 行列といいます. 行列 ここで行列について少し解説をします. を実数として,次のように数の配置 を行列という. そして, 簡潔に とも表す について, を,それぞれを行列 の 行, 列という. この行列 に対して,下記の右辺の数値を左辺の記号で表すことにする. この を行列 の行列式といいます. すると, となるので,この行列式を用いると,式 は,次のように表わされる. (クラメール)の公式といいます. 未知数 を,式 のように表すことを ¾ ¿ 元1次連立方程式 次の問題を解いて,レポートにして提出して下さい.その解答は,できる限り 元1次連立方程式の 解法にも適用できるような答案が望ましい. 正解にたどり着く必要は必ずしもありません.工夫して考えることの方が大事な問題です.諸君の考 えた過程が分かるように 巧くいかなければ,どこが巧くいかなかったかを,レポートを書いて提出し て下さい. 問題 下記のような 元1次連立方程式を考えて見ることにします. このときの (クラメール)の公式は,次のように与えられる. ただし, 行列の行列式は,次のように定める. (ヒント) 元1次連立方程式の解法を利用する.即ち を利用する. 下記の式 で の行列の行列式を定義する この式を (ラプラス)の展開定理と いう 行列式に関して,下記の性質を使う(これも自分で示すこと) 列を入れ替えると符号が変わる ページの余白があるので,いつも大学生に勉強する態度について次のようなことを注意しています. 高校を中学校,大学を高校と読み替えれば高校生諸君にも一部通ずるものがあると思います. 高校の教科書や授業では,昔と比較しても,できる限り学生のいやがる証明の問題等を避けていま す.大学で習う数学は,計算問題が少なくなり,益々抽象化し,そして証明が中心になってきます(証 明するための計算は必要).それゆえ,大学で学年が進むにつれて,何もしなければ,次第に理解し難 くなってきます. 大学で習う数学を良く理解するには,解らない数学の概念や問題を理解できるまで考え(たとえ, そのときは理解できなくても良い), 「最後まで諦めない」ことです.すると,ある一定の数学的能力が 身に付き,それ程難しくなく理解できるようになる.そこまでは,自分の能力を信じて,各自が努力す ることです. ここに上げたレポート問題は,この考えに基づいて諸君に課した課題です.私が考えた解答は 用 紙に 枚程度です. 元1次連立方程式の解法にも適用できるような答案はそう易しくはありません.ま た,解答は複数例あります. 解答 元1次連立方程式 を解いてみよう.まず,式 と で の項を右辺に移項する. この 元 次連立方程式に を適用すると, を用いると 分母をはらうと, で整理すると, を用いると この 式を に代入して の値を求める. ここで 行列の行列式を のように定義すれば, ゆえに に示した次の式が得られる. 補題 の 行列式の列を交換すると, 倍だけ値が変化する. 下記の操作を有限回組み合わせれば列の交換ができるので,下記を示せば十分である. 証明 を第 項目に適用すると また,もう1つの場合は, を第 項目に適用すると 次に,未知数 を求めてみよう. 最初に与えられた連立方程式を,未知数 が未知数 の役割になるように工夫する.即ち 未知数 の値は, を用いると,右のように なる. 分母の行列式において, 「 列目と 列目を交換 し,次に 列目と 列目を交換すれば」,2回列 の交換を行ったので,補題 より, になり,右の分母と等しくなる.分子について も同様である. 未知数 の値についても,同様にすれば,次の ように求まる(各自確かめてみよう). 問題 次に 元1次連立方程式に対して,上で示した方法が有効であることを確かめよ. の行列式の ¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬ (ラプラス)の展開定理は,次のようになる. ¬ ¬¬ ¬¬ ¬¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬¬ ¬¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬¬ ¬ ¬ ¬¬ ¬¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬¬ ¬ ¬ ¬¬ ¬¬ ¬ ¬ ¬ ¬ ¬¬ ¬ ¬ ¬¬ ¬¬ ¬ ¿ 行列式の別の定義(置換の符号) に対して,添え字 を縦に並べて に対して,添え字 を縦に並べて を対応させる.この や を 次の置換という 前者は に, に移す写像と に移す写像を表わす.前者を恒等置換といい,後者を互換という. 考える.後者は に, そして,簡略に と表す. には を, そして 式を参考に, これを次のように表し,置換の符号という すると, には の数を対応させる. 行列式は,次のように表される. 次に, の行列式に対する 式がどうなるか考えてみよう. の (ラプラス)の展 開定理による定義式は, である.右辺の第 項で現れる項は であり,それに対応する 次の置換は,添え字 と を縦に並べれば,それぞれ なる. 置換 ここで置換について少しまとめておくことにします. の数に対して,互いに重ならないように 次の置換といいます.即ち の数を つ対応させたものを 例えば 下記のように,ある つの数だけが互いに別の数に対応している置換を互換といい で表す. そして, つの置換の積を写像の合成で定める.例えば,下の置換の積では, 右の置換から, ,ゆえに などとなり,次のようになる. そして,その符号は を を と考えれば, ただし,ここで と見なせるので, の右辺の第 項は それに対応する 次の置換は,それぞれ ここで,置換の積を用いて,少し工夫をする. とする.そして,その符号は ゆえに 最後に, の右辺の第 項を取り扱う. ゆえに であり,それに対応する 次の置換は,それぞれ 積で表すと である.それぞれを置換の 以上の事柄をまとめる. により 次置換 を 個の互換の積で表すとき となることがわかる.そして,行列式は,次のように表される. ただし, 定義 記号 ¾¿ 記号 ½ は 次の置換全体を表す は「 は集合 の要素である」ことを表す. ¾ ¿ は を表す. 問題 元 次連立方程式の解法により, 次の置換 を 個の互換の積で表すとき, が成り立つことを考察せよ. 注意 ¾ 大学での行列式の定義は,次のようになります. ½ ¾ ¿ ただし, は を 個の互換の積で表す数, は 次の置換全体とする. この解説は,なぜ上のような定義をするかを「連立方程式を解く」という立場から説明するものである. 行列式の歴史: 吉田光由(よしだ みつよし)( )「塵劫記」初版( ),算盤の普及と数学的興味の 喚起に力があった.京都嵯峨野生まれ 関 孝和(せき たかかず)()( )「解伏題之法」4次の行列式を発見,群馬県出 身 4次までの行列式の展開公式あり,5次以上の行列の展開式があるが間違っていた 井関知辰(いせき ともとき)()「算法発揮」 行列式で世界最初の書物,6次までの行列 の展開式がある 田中吉真(たなか よしざね)()「算学紛解」高次連立方程式の変数の消去に行列式の 考えを使っている これらの事実は,鎖国より西洋数学に影響を与えなかった.また,明治以後,西洋数学を取り入 れることに熱心であり,行列に関する和算の業績を西洋に知らせることもなかった. ライプニッツ( ) () の行列式は知っていた.ライプニッツ( )の ロピタル(! "#$%)への手紙に,行列式のことが書かれている. クラメール(&'&)( ) 年出版の著書の 付録に,3次の行列式が書いてあり, が一般のときは,符号を導入すれば出来ると書かれている.後の数学史家がこれをクラメールの 公式と呼んで今日に至っている(この時より前に,マクローリンの死後出版された「(&% $) &」()から判断して マクローリンも行列式の研究していたことが知られている マクローリン *+& ) 年に(死後に刊行された) 次の方程式の解が正 しい形で表されている ベズー(, $+%)()(フランスの数学者)行列式の計算方法を表した著書 の中 で,行列式は &'& によると書き表したため,以後今日に至っている ファンデルモント( 年 が続き、 年にはラプラスによって展開 式 の公式が確立した ラ プラスは 年に「行列式は &'& と , $+% により与えられた」と記している 歴史に関しては,松本堯生氏(広島大学)「行列式と終結式の歴史」の講演を参考にした. 次のページは算法発揮(井関知辰 著)からのコピー.
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