心臓腫瘍に合併したincessant型多形性心室頻拍に

.
.
(
.
): ∼ 一般講演
5
心臓腫瘍に合併したincessant型多形性心室頻拍に
対するアミオダロン静注薬の有効性
片岡 直也
中谷 洋介
水牧 功一
西田 邦洋
山口 由明
井上 博*
岩本譲太郎
常はなく,CRPは00
. 4 mg/dLであった.BNPは2
672
.
はじめに
pg/mLと高値を示した.
今回われわれは,心臓腫瘍に合併したincessant型多
5 bpm,正常軸の範囲
入院時心電図所見:心拍数は7
形性心室頻拍
(VT)に対してアミオダロン静注薬が有
内であった.特に,異常Q波やST変化は認めなかった.
効であった1例を経験したので報告する.
この時点でV5誘導のQTcは03
. 9 secと延長していな
かった.VTは右室流出路を起源とした左脚ブロック
症例提示
タイプの下方軸を呈し,電気軸や移行帯が刻々と変化
するという特徴を認めた
(図1)
.
4歳,男性.
症 例:7
0秒程度持続したVTがinモニター心電図所見:数1
主 訴:頭の熱くなる感じ,眩暈.
(2
0
0
0年)
,アルコール性肝硬変
既 往 歴:腎細胞癌
cessantに出現した.
(2004年),食道静脈瘤破裂
(2
0
0
5年),肝細胞癌
(20
1
0
(CTR)は6
0%と心拡
入院時胸部X線所見:心胸郭比
年).ただし,2
0
1
1年の時点で各種がん再発の兆候は
大を認め,肺門部血管陰影の増強を認めた.VTがin-
ない.
cessantに出現したため,肺うっ血を呈したものと考え
現病歴:肝細胞癌に対するラジオ波焼灼術後状態で
られる.
経過観察のため当院消化器内科に通院中であり,2
0
10
(LVEF)
は58%と保
入院時心エコー所見:左室駆出率
年10月のCT検査では再発を指摘されなかった.2
0
11
たれていたが,心室中隔基部に2×3cm程度の腫瘤性
年3月2日から1日に2∼3回,頭が数秒間熱くなり,
病変を認めた.
その後自然軽快する症状が出現した.3月6日には頻
その他の画像所見:造影CT所見では,心室中隔基部
度が増加し,同時に眩暈を自覚するようになったため
に造影剤で濃染される占拠性病変を認めた.また,
当院を受診した.自覚症状と一致して非持続性心室頻
MRI所見ではT1強調画像で比較的境界明瞭な腫瘤性
拍(non―sustained VT)をincessantに繰り返したため,
病変を認めた
(図2)
.
精査加療目的に緊急入院となった.
ガリウムシンチでは,心臓に明らかな集積は認めら
7
0 cm,体 重60 kg,血 圧152/80
身 体 所 見:身 長1
れなかった.また,肝細胞癌の既往から心筋への転移
mmHg,脈拍8
9回/分,SpO29
8%
(室内気)
.その他特
を疑い,肝細胞特異的に集積するピリドキシルメチル
記すべき身体所見の異常はなし.
トリプトファン
(PMT)
シンチを行ったが,心臓への集
血液検査所見:トロポニンT,ヒト心臓由来脂肪酸結
積は認められず,心筋への転移は否定された.
合タンパク(H―FABP)は陰性であり,急性冠症候群
冠動脈造影検査では第一中隔枝の末梢に異常血管の
(ACS)に伴うVTは否定できると思われる.電解質異
発達を認め,これは心エコー所見で認めた心室中隔基
部と一致した.以上の画像所見から,腫瘍の性状とし
*
N. Kataoka, K. Mizumaki, Y. Yamaguchi, J. Iwamoto, Y.
Nakatani, K. Nishida, H. Inoue:富山大学医学部第二内科
て血管腫が疑われた.
―
(
433)―
0 mgを静注した
臨床経過:救急外来でリドカイン5
. ¿
V1
À
V2
Á
V3
VR
V4
VL
V5
VF
V6
a
a
a
図1 心室頻拍
CT
MRI
RV
LV
LV
Ao
RV
図2 心臓腫瘍
RV:右心室,LV:左心室,Ao:大動脈.
結果VTは抑制され,その後さらに5
0 mgを追加した.
を開始したが,再びVTが増加したためニフェカラン
心臓腫瘍に合併した心室頻拍に対する
アミオダロンの効果
トを中止し,リドカイン1mg/kg/時,さらにアミオダ
心臓腫瘍に合併したVTに対してアミオダロンの効
ロン静注薬495
. mg/時
(6時間)
の負荷投与を開始した.
果を示した報告を表1にまとめた.いずれも多形性VT
その後VTが消失し,アミオダロン静注薬を継持量で
で,incessantに出現しているのが特徴である.1例の
ある255
. mg/時に減量し,1週間継続した.
みアミオダロン静注薬,そのほかは経口アミオダロン
しかし,20
1
1年3月1
1日に発生した東日本大震災関
でVTを抑制した.また,本症例のように,β遮断薬
連の報道を視聴して再びVTが出現し,QTcは04
. 9 sec
追加によりVTを抑制したものもある.
と延長していた.交感神経活動の緊張が原因と考えて
心室性不整脈の原因としては,リエントリー性と撃
メトプロロール30 mgを開始したところ,翌日にはVT
発活動
(triggered activity)
,異常自動能が考えられる.
心室不応期延長を目的にニフェカラント03
. mg/kg/時
が消失した.翌13日からアミオダロン4
0
0 mg内服に切
IKrチャネル遮断薬で,リエントリー性に有効であるニ
り替え(図3),1週間後に2
0
0 mgへ減量した.その後
フェカラントは本症例で無効であったことから,この
のVT再発は認めない.
VT機序には撃発活動,異常自動能が関与していると
思われる.一方,アミオダロンはマルチチャネル遮断
―
(
434)―
第16回アミオダロン研究会講演集
ニフェカラント
0.3 mç/kç/時
ア
ミ
オ
ダ
ロ
ン
400
mç
内
服
アミオダロン静注
49.5 mç/時
6 時間
リドカイン 50 mç
静注(追加50 mç)
アミオダロン静注 25.5 mç/時
リドカイン
1 mç/kç/時
心
室
頻
拍
の
頻
度
3/6
14時
3/6
16時
3/6
18時
メトプロロール
30 mç
3/6
20時
3/7
3/8
3/9
3/11
3/12
3/13
図3 経過図
表1 心臓腫瘍に合併した心室頻拍に対するアミオダロンの効果
原疾患
年 齢
性 別
VTの
種類
肺扁平上皮癌
心筋転移
67歳
女 性
多形性
AIVR
肺扁平上皮癌
心筋転移
66歳
男 性
多形性
アミオダロン600 mgを4週間,
文献2)より引用
その後400 mg内服
心臓脂肪腫
22歳
男 性
不詳
アミオダロン200 mg内服
+アテノロール50 mg
文献3)より引用
心線維腫
21歳
男 性
多形性
アミオダロン200 mg内服
+アテノロール75 mg
文献3)より引用
腎細胞癌
心筋転移
61歳
男 性
多形性
アミオダロン200 mg内服
文献4)より引用
薬物療法
リドカイン50 mg
+アミオダロン49
. 5 mg/時
(その後,200 mg内服)
備 考
文献1)より引用
AIVR:促進心室固有調律
薬であることから,本症例の機序にも有効であり,さ
らにβ遮断薬を追加することで撃発活動や異常自動能
の抑制効果より増強されたものと思われる.
おわりに
心臓腫瘍に合併したincessant型VTの1例を経験し
た.本症例ではリドカインによるVTの抑制効果が認
められたが,ニフェカラントは無効でアミオダロン静
注薬が有効であった.
文 献
1)木下勝弘, 埴淵昌毅, 岸 昌美ほか:心室頻拍をきたし
た肺扁平上皮癌心筋転移の1例.日呼吸会誌 20
0
9;
2.
47:8
17―82
2)Leak D:Amiodarone for control of recurrent ventricular tachycardia secondary to cardiac metastasis. Tex
0.
Heart Inst J 19
98;2
5:19
8―20
3)西井伸洋,江森哲朗,原岡佳代ほか:心室頻拍を合併
し た 心 臓 腫 瘍 の 3 例.心 電 図 2
0
03;23:5
3
1
(abstract)
.
4)村本明彦,舟田 晃,坂元裕一郎ほか:転移性心臓腫
瘍により多形成心室頻拍をきたした一例.日心臓病会
誌 2
00
9;4
(Suppl)
:490.
(
―
435)―
. 質疑応答
(長崎国際大学健康管理学部健康栄養学科教授)
座 長/矢野 捷介
(筑波大学医学医療系循環器内科学教授) 青沼 和隆
(富山大学医学部第二内科) 演 者/片岡 直也
矢野(座長) どうもありがとうございました.心臓
く,腫瘍増大も認められていません.
腫瘍を合併した本症例の機序として,撃発活動,異常
青沼
(座長)
本症例以外にも,アミオダロン無効例
自動能が挙げられていますが,腫瘍そのものから生じ
や情動によるVT再発例に対してβ遮断薬を追加した
ているのでしょうか.
ことはありませんか.
片岡(演者) われわれは腫瘍周辺の心筋から生じて
片岡 そのような経験はあまりないのですが,一般
いると考えています.また機序については,MRIで境
的には,アミオダロン単独では効果が乏しい症例にβ
界明瞭であったように本症例は良性腫瘍であり,正常
遮断薬を追加すると不整脈がさらに抑制されるといわ
心筋への浸潤が認められませんでした.とすればリエ
れています.
ントリー性のVTの際に遅延伝導や一方向性ブロック
矢野 ニフェカラントとアミオダロンの有効性の違
の基質となる瘢痕組織がないと推測されます.このこ
いについて,腫瘍との関連はありませんか.
とからもリエントリー性のVTは否定的と考えました.
片岡 先ほど申し上げたとおり,周囲への浸潤がな
また,心不全発生時のVTの機序を説明する際によく
く,それに伴う遅延伝導もないことから,リエント
用いられる言葉として“Mechanoelectrical feedback”
リー性の不整脈ではなかったのだろうと推測します.
があります.本症例も腫瘍によって正常心筋が圧迫さ
その結果,心室不応期を延長させるニフェカラントは
れ,mechanoelectrical feedbackが生じ,伸展感受性イ
無効だったと考えています.
オンチャネルが開放し,その結果静止膜電位が上昇す
矢野 症例は高齢の方でしたが,年齢は関係あるの
2+
る,または細胞内Ca 濃度が上昇するといったこと
でしょうか.
が原因で,遅延後脱分極や異常自動能によりVTが発
片岡 関係ないと思われます.腫瘍の種類により異
生するという機序を考えました.
なりますが,良性腫瘍を合併している症例は若年者に
矢野 経口アミオダロンに切り替えてから6カ月ほ
多く報告があり,2
0歳代が2∼3例報告されています.
ど経過していますが,近況を教えてください.
一方50∼6
0歳代では,悪性腫瘍が心筋に転移した結果,
片岡 外来で経過観察中ですが,VT再発は全くな
VTが出現したという報告もあります.
―
(
436)―