省 河 中 国 ・ 杭 州 訪 問 記 黄 山東省 江蘇省 安徽省 蘇州 上海市 編集部 揚 子 江 浙江中医薬大学、 老舗薬局・胡慶餘堂などを訪問研修 杭州 ここで中国の薬学教育制度に若干触れ ておくと医薬系は大学、学院の2つがあ り、薬学系は薬学院と工学院、そして大 学にある。しかも、西洋医学系と、中医 学系があり、 卒業するとそれぞれ西薬師、 中薬師となる。ただし、94年からは国 家試験制度になり、 それに合格すると 「執 業薬師」となり、都市での薬局や病院で の管理薬剤師となることができる。教育 年限も従来は3、4年であったが、最近 は4、5年となっている。ちなみに同大 学の薬学科も中薬学科もいずれも4年制 である。さらに驚くのは理学部も工学部 も文学部も同大学に存在することだ。 従って、学生数も本科生だけで9500人 以上、修士や博士課程を加えると1万人 を超えるという。付属病院は3つあり、 病床は約2000、外来患者は年間150万 人にも及び、研修施設である関連病院は さらに7つもある。 この後、研究内容に話が及び、天然物 から抽出した成分から脂肪肝や高血圧の 治療薬が開発され、 特にはと麦(薏苡仁) から抽出した成分がアメリカのFDA(食 品医薬品局)に認められ、抗がん剤「康 莱特(ONGLOITE) 」として販売されて いること、しかも大学の附属機関である 浙江省 先 科大学大学院の小野寺敏・準教授、 ごろ8月30日から4日間、昭和薬 玉川大学農学部の八並一寿・助教授(食 品機能学担当)ら一行9名とともに浙江 中医薬大学、その附属病院の1つ浙江省 中医院や製薬工場、市内の老舗漢方薬局 などを訪問研修したので、その一端をこ こに紹介する。 浙江省は上海の西南に位置し、大学 はその省都・杭州市内南にある。杭州空 港には東京国際(成田)空港から直行便 が飛び、3時間半たらずで着く。市域の 広さは東京都の7倍半ほどで、人口は約 650万だからこちらは約半分である。 「天 に楽園あり、地に蘇州、杭州あり」と形 容されたほどだから、風光明媚な歴史と 観光の街でもあるが、我々が訪れたとき は連日最高気温が40度前後もあり、い ささか歩くのにも困り果てた。 初 迎えてくれたのが肖魯偉校長(学 日訪れたのが大学本部である。出 長のこと)である。1959年の開校の歴 史から説明される。以前の名称は浙江中 医学院である。現在の名称になったのは 今年2月のことという。 肖校長の説明を聞く訪中団 呂教授の研究室の一画 共同研究の契約書を交換する小野寺昭和薬科大 学院準教授と呂圭源教授 浙江康莱特薬業有限公司で作られている ことも紹介いただき、この工場を翌日視 察した。 一行の中には毎日新聞社が発刊する医 学雑誌MMJの編集記者もおり、 「中医と 西医の違いは?」 「中医には外科があるの か?」といった質問も次々と飛び交った が、紙数の関係でここでは省略しておく。 浙江中医薬大学 こ ある呂圭源教授の研究の一端を紹 の後、同席した薬物研究所長でも 肖魯偉校長 (学長) 6 李時珍の胸像が置かれた学内の生薬標本室 MIL vol.24 2006 AUTUMN 介いただくとともに、小野寺、八並の両 助教授が、同大学の客員教授となり、特 に「桑の葉」の血糖降下作用をはじめ、 いくつかの共同研究を進めることに合意 し、互いに契約書に署名した。 呂教授の研究室は国家中医薬管理局 から重点実験室「国際天然薬物開発セン ター」として認定を受けている。入口の は西湖の小舟による観光だ。そして、清 代1877年創業という老舗漢方薬局「胡 慶餘堂」を訪ねる。漢方薬の博物館もあ 浙江省中医院の中薬処 (漢方薬の調剤室) 壁には、何首烏から抽出した脂肪肝改善 薬や「康脈心」という黄耆生脈散を原処 方にした薬剤の研究成果が紹介されてい る。李時珍(明の時代の名医で「本草綱 目」の編纂者)の胸像が置かれた広大な 生薬標本室も見学した。この夜は呂教授 ご夫妻(奥様は温州医学院中薬研究院副 院長の薬学博士)と元日本大使館員らを 囲んで、西湖の畔にあるレストランで杭 州料理に舌鼓を打った。 2 日目はまず杭州経済技術開発区を 訪問した。ここでも管理委員会の 張学寧副主任が自ら説明役を買って出て くれる。その事由はこの視察旅行を主催 したPASの中国側責任者である徐守宇 氏は浙江大学医学部を卒業して、在日 10年、しかも順天堂大学で医学博士を 取得した中国人医師であり、かつての同 級生が政府、官僚をはじめ、大学や研究 機関などのトップクラスだからである。 訪問の目的は一行の中に健康食品会社の オーナー社長もおり、中国で健康食品(中 国では「保健食品」といい、国家食品薬 品監督管理局(SFDA)の認可が必要) として販売するために工場建設の“野望” 杭州経済技術開発区の説明を聞く訪中団 れば、薬膳料理のレストランも併設され ている。漢方薬はOTCとして売られて いる。ちなみに、 以前は医療用医薬品(処 方薬)でも薬局で購入できたが、北京、 上海など大都市では今年から処方せんな しでは買えなくなった。医薬分業も試験 が あ る か ら で も あ る。 管 理面積は104.7km2あり、 日 本 か ら も 東 芝、 松 下、 テルモ、コーセー、キユー ピ ー、 カ ゴ メ な ど 数 多 く の 企 業 が 工 場 を 建 設 し、 生産している。その1つ、 旭 化 成 の 子 会 社 で、 人 工 腎臓を生産している工場 を 訪 問 後、 浙 江 康 莱 特 薬 業有限公司に立ち寄った。 ロ ビ ー の 一 画 に あ る25m 1877年創業の老舗漢方薬局「胡慶餘堂」 にもおよぶ玉壁画はまさ に中国漢方の歴史絵巻 「中国中薬発展史」 的に行われているが、院内投薬が圧倒的 で、絢爛豪華。これは近々弊社から印刷 である。ただ、大型薬局では退職した医 物として刊行する予定であり、ご期待い 師を雇い、 薬局内に診療部門を併設して、 ただきたい。 薬局内で調剤しているケースがある。 午後は浙江省中医院(病院のこと)の よいよ最終日だ。空港からかなり 訪問見学である。先に紹介した呂教授は 離れた浙江賜富医薬有限公司を訪 SFDAの医薬品、保健食品の審査員でも 問した。 総経理 (社長) の柯傳奎氏を始め、 あるので、 「保健食品の現状と許可基準」 若手技術陣が10名以上も出迎えてくれ についてご講演いただいた。市場は年率 る。すぐに柯社長自ら中国三大生薬の1 25%増で500億元(2005年、1元=15 つ、冬虫夏草の説明をされる。「我が社 円)という。謳える効能は 「増強免疫力」 、 の冬虫夏草以外はすべて偽物です。液体 「抗氧化」(抗老化) 、 「補助降血糖」 、 「増 培養したものとチベット原産のものと遺 加骨密度」等々 28分野である。先に紹 伝子配列が同一であることも証明されて 介した社長はブラジル原産のノウゼンカ いる」と強調する。販売を担当する杭州 ズラ科植物の樹皮(別名ノペ、 商品名「タ 問松堂生物技術有限公司の楊国良総経理 ヒボ」)の発酵物とムイラブアマ(ドリ も黙って肯く。柯社長の著書「中国冬虫 ンク剤「ゼナ」の成分の1つ)等を含有 夏草研究」 (中国科学技術出版社)を土 している商品で、増強免疫力と抗老化で 産に一行は帰国の途についた。 の申請を検討しているようだ。 入院病棟( 「住院部」という)や外来 病棟(「門診部」という)の鍼灸推摩科 などを見学した後、中薬処(漢方薬の調 剤室)の内部を案内して貰った。 「よく 使う生薬は300種ほど」と黄平主任医師 (教授クラス)は説明されるが、大型薬 味ダンスの引き出しは1000を軽く超え る感じ。中医院だが、中薬だけでなく、 西洋薬も調剤されるので、西薬処も別棟 にある。この日の夜は杭州市人民公会堂 のすぐ横のレストランで、中医院の幹部 陣との会食である。 い 翌 茶」を茶農家で嗜みつつ、家庭の 日は中国で一番有名な緑茶「龍井 「中国中薬発展史」絵巻の玉壁画 味、まさに田舎料理を味わった後、禅宗 十大寺院の1つ「霊隠寺」を参拝。午後 MIL vol.24 2006 AUTUMN 「中国冬虫夏草研究」 7
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