上越国境秋深し 秋色の 谷川縦走路 Traverse path of Tanigawa of Autumn 宮川 哲=文 岡野朋之=写真 =モデル なっちゃん&あやや (おとな女子登山部) 2016 AUTUMN 06 谷川の秋って、 こんなに深かったんだ。 りで、天高き空も広がっている。が、 だから、泊まった谷川岳肩の小屋も快 展望台から見渡せるトレイルにはたく 適そのもの。これは期待できるぞ、と さんの人、人、人。さすが谷川。一般 思っていたら、期待できるどころでは 取材を実施したのは、昨年 10 月の ルートならアプローチも歩きやすさも ない……ぼくらはこの先、驚くような 初旬。月曜からの 3 日間なので山はそ 関東随一の山なだけに、平日といえど 谷川の秋の実力を目の当たりにするこ んなに込んでないだろう、なんて思っ もこの有様。そりゃそーだ。紅葉の時 とになる。 ていたのが甘かった。 「なんだか大込 期は短いだけに人が集中するのも無理 翌日以降の話だけれど、この先に続 みですね」となっちゃんが言う。土合 はない。かくゆうぼくらもここにいる。 くトレイルには、ほぼ人っ子ひとりい 口からロープウェイ、リフトを乗り継 でも驚いたことに、この人込みは斜 なかった。この奥深き秋の国境稜線を、 いで天神峠へとたどり着いたときだっ 光の時間帯になるとパタッとなくなっ まさにふたり占め。赤に黄に朱色に、 た。「でも、スッゴい紅葉 !!」。 てしまった。なるほど、みな日帰り登 山全体が秋色のパッチワークのように 標高を一気に稼いだだけに、山はす 山なのだ。ロープウェイの時間に合わ 独特の彩りを見せるなか、ただひたす でに秋の只中にあった。時期もぴった せて、そそくさと山頂を後にしている。 ら空間に染まりながら歩き続けていく。 谷川岳主稜線縦走 *8,'( 【参考コースタイム】●1日目〈歩行計/ 2時間45分〉 天神峠(45 分)熊穴沢避難小屋(45分)天狗の溜まり場(40分)谷川岳肩の小 屋(10分)トマの耳(10分)オキの耳(15分)谷川岳肩の小屋[泊] /●2日目〈歩行計/ 3時間50分〉谷川岳肩の小屋(20分)オキの 耳(50分)一ノ倉岳(20分)茂倉岳(1時間40分)武能岳(40分) 蓬ヒュッテ[泊]/●3日目〈歩行計/ 4時間10分〉蓬ヒュッテ(1 時間)白樺避難小屋(1時間30分)JR見張小屋(15分)旧道(30分) 【山小屋】●谷川岳肩の小屋 TEL090-3347-0802 /●蓬ヒュッテ TEL025-787-3268 【アクセス情報】●公共交通機関:JR上越新幹線上毛高原駅から土 合口まで関越交通バスの「谷川岳ロープウェイ行き」で約50分。JR 上越線水上駅からは同じく「谷川岳ロープウェイ行き」バスで約25 分。JR上越線土合駅から土合口までは、徒歩で20分ほど。/●マイ カー:関越自動車道水上ICから国道291号線経由で14km、約25分で 土合口。谷川岳ロープウェイ土合口駅に有料の駐車場がある。/● ロープウェイ:谷川岳ロープウェイ 土合口∼天神平 片道1,230 円/天神平ペアリフト 天神平∼天神峠 片道410円 ※谷川岳ロープウェイおよび天神峠ペアリストは、11月下旬から冬期営業となるた め、営業時間および料金体系に変更あり。詳しくは、谷川岳ロープウェイのHPへ。 http://www.tanigawadake-rw.com/ 07 2016 AUTUMN Traverse path of Tanigawa of Autumn 谷川の夜空を覆う大宇宙 谷川の秋の深さは 星々の数にも表現される 秋の日は釣瓶落としで、日が暮れるとあたりはアッという間に真っ暗になっ た。トマの耳にほど近い谷川岳肩の小屋での夕食を済ませると、あとはビール の栓を抜くくらいでやることがない。手持ち無沙汰でいると「うわッ」という 心底驚いたようなあややの声が上がった。窓から外を覗いている。釣られて夜 空を見上げてみると、一瞬息が止まってしまうほどの満天の星。月は山陰に隠 れているのか、見えているのは星だけだ。天の川が夜空を大きく横断し、幾多 もの星々が輝いている。これは、谷川がくれた夜の贈り物。山頂にほど近いだ けに、宇宙と直接つながっているような不思議な感覚に襲われてしまう。 2016 AUTUMN 08 2016 AUTUMN どちらが表でどちらが裏か。 上越国境の秋空をたどる 越後サイドは晴れマーク。 上野サイドはドン曇り。 谷川岳肩の小屋に泊まった翌朝、いよいよ縦走路 の核心部へと歩を進めていった。トマの耳とオキの 耳の双耳のピークを踏み、稜線は一ノ倉岳のピーク へと向かう。あの一ノ倉沢の絶壁とは比べものにな らないほどに、その山頂はなだらかだった。どちら が表か裏かはわからないが、稜線を隔てたその山容 のあまりのちがいに、谷川が持つ無限の奥深さを感 じていた。越後は晴れ、上野は雲の中。天気さえも キッパリと分かつ、ここは上越国境線。ルートは、 茂倉岳から武能岳を経て、蓬峠へと向かう。 世界に誇る山岳。 一ノ倉沢の大岩壁 上から見下ろすよりも、 下から見上げた方がいいのかも この山塊を縁取っているスカイラインに谷川岳の縦走 路がある。稜線から見下ろせば、東側に切れ落ちた断崖 絶壁は、言わずと知れた一ノ倉沢。長いクライミングの 歴史と数々のドラマを繰り返しながらも、未だ世界最悪 の遭難者数を誇るクライマーたちの聖地である。オキの 耳から覗き込んだ断崖は、厚いベールに包まれたまま。 そして足元の傍には、置かれて間もない生花が無造作に 置かれたままになっていた。こことあそこは別世界。事 故なきようにと祈る気持ちばかりが募っていく。 2016 AUTUMN 10
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