第 40 回 【1部】 1. 2. 3. 4. 北海道消化器内視鏡技師研究会 演題プログラム 日時:平成 25 年 11 月 16 日(土) 14:00~16:30 場所:札幌医科大学 札幌市中央区南 1 条 17 丁目 臨床講堂 座長 医療法人社団慈成会 東旭川病院 季節に伴う過酢酸製剤の劣化の変動について 独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター ○伊藤 有希子 村上 由美 内視鏡室 検査待機中のスコープの清潔保持に関する検討 ~スコープカバーの考案~ 小樽掖済会病院 消化器病センター 内視鏡技師 ○久保 亜佐子・木戸 照子・鈴木 北野 由紀 看護師 土田 祐子・三浦 沙織 臨床工学技士 千葉 勇介 内視鏡定期培養検査を業務の一環として定着するための課題 旭川赤十字病院 検査専門室 ○佐藤 綾子・斎藤 鏡 暢子・澤田 新型長期留置 PEG の使用経験 社会医療法人 母恋 みゆき・三浦 和枝 ・石田 旭子 弘美 悦子 日鋼記念病院 消化器センター内視鏡科 ○内藤 健・野木 育恵・﨑野 敬佑 横山 和典・根間 洋明・小川 悠史 岡 由衣・檜森 亮吾 5. 創部縫縮を簡便に行うためのクリップの工夫 社会医療法人 恵佑会札幌病院 看護師 ○藤巻 晴衣 6. 究極の内視鏡介助を考える~オリンパス社製回転クリップ装置の回転方法のコツ 札幌東徳洲会病院消化器内視鏡センター ○佐藤 奈緒 7. 当院内視鏡センターにおける臨床工学技士業務の可能性 KKR 札幌医療センター 斗南病院 臨床工学部 ○鎌田 豊・工藤 齊藤 高志 消化器内科 住吉 徹哉・近藤 — 休 憩 10 分 【第 2 部】 8. 9. 貴英・石田 稔 仁 - 座長 市立釧路総合病院 時間外3人体制が及ぼす影響~2 人制と比較して 伊達赤十字病院 内視鏡室 ○碁石 清野 毛利 竹井 亜紀子 久・吉田ひとみ・山本 珠美 美幸・太細めぐみ・田村美佳子 綾子・阿部 陽香・小泉 周平 内視鏡的粘膜下層剥離術における陰圧式体位固定具の術中体位保持に関する検証 北海道大学病院 中央診療検査ナースセンター ○山本佳代子・武田 桂子・佐藤 斐菜 10.大腸検査の前処置「自宅内服に対するアンケート」 医療法人 八尾徳洲会総合病院 外来 ○加藤 尚代・西山ゆり子・邨田人美 澤井 紀子 11.全大腸内視鏡検査におけるモビプレップの有用性 伊達赤十字病院 ○清野 美幸・吉田ひとみ・山本 太細めぐみ・田村美佳子・毛利 阿部 陽香・小泉 周平・碁石 珠美 綾子 久 12.看護師の検査説明に対する患者の理解度や不安についての実態調査 ~消化器内視鏡検査前に行った患者アンケートより~ KKR 札幌医療センター 斗南病院 ○岡山 裕子・光野 薫・成澤 麻紀 13.患者受容性の高い洗腸剤の検討 ~新規経口腸管洗浄剤とクエン酸マグネシウムの比較~ 小樽掖済会病院 消化器病センター ○塚本 友美子・堀越 安子・村田なつみ 高橋 理絵・坂井奈津子・北野 由紀 (発表順は当日変更となる場合があります) 《抄 発表 録》 1 季節に伴う過酢酸製剤の劣化の変動について 独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター 内視鏡室 ○伊藤有希子 はじめに 当院ではオリンパス社洗浄消毒装置(以下洗浄機)を使用して内視鏡の洗浄・消毒を行っている。洗浄機に使用 する過酢酸製剤は、使用による希釈に加えて経時的に分解されて劣化していくことがわかっており、アセサイド チェッカー®で毎回濃度確認をしていた。実際に使用していて、夏季は劣化が早くて冬季は劣化が遅い印象があ り、使用日数・回転数が少ないうちは有効濃度が十分保たれているように思えた。また、使用日数・回転数が多 くなってくるとアセサイドチェッカー®の目視判定は迷うこともあった。 目的 季節に伴う過酢酸製剤の劣化の変動を明らかにする。 当院での濃度測定の基準を作成して簡略化し、業務改善につなげる。 方法 対象は消化器検査室にある洗浄機 2 台とし、期間は平成 24 年 5~6 月(春季)、7~8 月(夏季)、10~11 月(秋 季)、平成 25 年1~2 月(冬季)のそれぞれ 4~6 週間。9 時・13 時・17 時で室温を測定、15 回転以上または 6 日目の過酢酸製剤濃度をポータブル濃度チェッカーPC-8000 で測定し、FAIL になるタイミングを調べる。 結果 平均室温は、春季・秋季・冬季では大きな違いはなかったのに対し、夏季のみ約 2℃高く、さらに 1 日中室温が 高く経過していた。 FAIL になった回転数は、春季・秋季・冬季では 5 日目で 31 回転、6 日目で 24~27 回転と室温と同様に大きな違 いはなかった。夏季では 5 日目は 14 回転で FAIL になることがあったが、23 回転まで使用できることもあった。 6 日目では 15~21 回転で、ほとんどが始業直後の濃度測定での FAIL であり、6 日目以降はほとんど使用するこ とができなかった。 また、7 日目では夏季が平均 17.5 回転なのに対し、春季・秋季は平均 23~25.3 回転と多くなり、冬季は平均 27.5 回転とさらに多くなったことに加え、8 日目、10 日目でも使用できることがあった。 同じ使用日数・回転数で過酢酸製剤濃度を季節で比較すると、夏季のみ約 0.02%低かった。 考察 ポータブル濃度チェッカーを使用することで数値として過酢酸製剤の濃度が判断でき、他の季節と比較して室温 の高かった夏季が過酢酸製剤の劣化が早く、冬季は遅くなることがわかり、季節に伴う過酢酸製剤の劣化に変動 があることが明らかになった。冬季の使用日数が長くなった要因は今回の研究では明らかにならなかったものの、 外気温が下がる夜間の室温低下が影響しているのではないかと推測される。 アセサイドチェッカー®に比べ、ポータブル濃度チェッカーは迷いなく判定できるが、使用するピペットや試薬 セルの取り扱いによっては測定値に個人差がでたこともあり、取り扱い方を習熟して統一した方法で測定する必 要があると考える。また、試薬セルはアセサイドチェッカー®と比較して約 6 倍割高で、判定までにかかる時間 も約 3 倍かかることから、安価で簡便に濃度測定ができるようになることを望む。 今回の研究をもとに濃度チェック方法を検討し、当院での測定基準を作成、始業時確認後 15 回転までは濃度チ ェックを省略可、とした。また、スタッフ間で情報を共有することにより、スタッフ個々が季節と使用状況から 過酢酸製剤の劣化の予測ができるようになり、適切な濃度チェック方法を選択して、より安全に洗浄・消毒を行 えるようになり、質の向上につながったと思われる。 結語 1、室温管理が十分にできない施設では、過酢酸製剤は季節に伴う劣化の変動があり、夏季は劣化が早く、冬季 は劣化が遅い。 2、ポータブル濃度チェッカーPC-8000 を使用することで当院での濃度チェック基準を作成でき、安全に洗浄・ 消毒を行いながら簡略化できた。 参考文献 1) 消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン作成委員会:消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソ サエティガイドライン、2008. 2) 吉田 晃:当院における適切な過酢酸製剤管理方法の検討-室内温度による影響を明らかにして-、日本消 化器内視鏡技師会会報、No.50、76-77、2013. 3) サラヤ株式会社:アセサイド 6%消毒液、2011. 発表 2 検査待機中のスコープの清潔保持に関する検討 ~スコープカバーの考案~ 小樽掖済会病院 消化器病センター 内視鏡技師 ○久保 亜佐子・木戸 照子・鈴木 北野 由紀 看護師 土田 祐子・三浦 沙織 臨床工学技士 千葉 勇介 旭子 【背景】当院のスコープの洗浄・消毒は日本消化器内視鏡技師学会のガイドラインに沿って行っている。しかし スコープが検査待機中に検査台や医師・スタッフの身体に触れてしまう状態が散見され対策の必要性を感じ ていた。今回、待機中のスコープの現状調査を行い、その対策としてスコープカバーを考案したので報告す る。 【研究期間】2013 年 2 月~5 月 【研究方法】1.清潔保持に関するアンケート調査 1) 対象:医師 7 名・内視鏡技師 6 名・看護師 5 名・臨床工学 技士 2 名・看護助手 1 名の合計 21 名 2) 内容:待機中のスコープについて①清潔な状態を保持していると思 うか②何かに接触することがあるか③接触するのはどこか④接触する原因は何か⑤清潔保持のための対処は 必要か 2.周辺環境培養検査 1)培養検査対象①内視鏡システム 5 台②検査台 4③内視鏡システム近くの仕切り カーテン 1 枚④医師・看護師のユニホーム 2 着 2)方法:平状面積(10×10 ㎝)から計 12 検体を専用キット で採取した。3.スコープカバーの考案 【結果】1.スコープの清潔保持に関する意識調査:①清潔な状態の保持(思う 47%・まあまあ思う 43%・あま り思わない 10%)②スコープの接触について(よくある 29%・たまにある 61%・ないまたは見たことがない 10%)③接触する部位(内視鏡システム 11 名・検査台 13 名・仕切りのカーテン 9 名・スタッフの身体又はユ ニホーム 14 名)④接触する原因(検査室が狭い 14 名・動線が悪い 7 名・スタッフの不注意等 8 名)⑤清潔保持 のための対処(すぐにするべき 19%・できればしてほしい 67%・必要なし 14%)2. 周辺環境培養検査:計 12 検体の全てで病原菌は陰性だった。しかし、一般生菌数は透視室の検査台から 1100 個/拭取面積で「非常に 汚染」、透視室の内視鏡システム 2 台と内視鏡室の仕切りカーテンから 20~70 個/拭取面積で「中程度汚染」 いう判定であった。一般生菌は日常環境では常在菌として問題とはならないが、医療施設の環境基準におい て何らかの対策が必要ということを意味している。(図 1) 図 1.病院内医療施設の環境基準 検査結果 評価 一般生菌数 20 未満 清浄 一般生菌数 20~119 中程度汚染 一般生菌数 200 以上 非常に汚染 3.スコープカバーの考案:筒状のポリエチレン製ビニール(幅 7cm×長さ 110cm~ 130cm)の両端と中央の計 3 箇所にスコープ挿入口のホルダーとなるようセロハンテープを貼付した。スコープカバーの取り外しが容易 にできるよう縦にミシン目を入れた。 【考察】スタッフの 90%が清潔な状態を保持していると認識している一方で、検査待機中のスコープが何かと接 触するのを目にしていた。このことは、内視鏡システムにセッティングしてから被験者に使用するまでの間、 必ずしも清潔な状態が保障されているわけではないことを示していると思われる。接触する原因として内視 鏡室の狭さがあるが、動線としてはどうしても待機中のスコープの側を通らなければならず、急いでいると 触れてしまう事もあると思われる。今回考案したカバーは、セロハンテープを貼付しホルダーとしたことで カバーが開きやすくなりスムーズに装着することができ、カバーをつけた状態でもセッティングや使用前点 検は支障にならず行うことができた。また、ミシン目を入れたことで医師でも簡単に取り外すことができた。 「カバーをつけている」ということは視覚的にも清潔な状態であると誰もが認識できると思われた。洗浄・ 消毒だけではなく、検査に使用するまでの過程においても、「清潔」が保障されなければならず、安全なスコ ープを提供するのは内視鏡検査に携わるスタッフの務めであると思われる。 【結語】検査待機中のスコープは清潔保持のための対策が必要である。その対策のひとつとして考案したスコー プカバーは有用と思われ、今後その効果を検証していきたい。 発表 3 内視鏡定期培養検査を業務の一環として定着するための課題 旭川赤十字病院 検査専門室 ○佐藤綾子、斎藤みゆき、三浦弘美、鏡暢子、澤田和枝、石田悦子 【はじめに】 A 病院の内視鏡室では、内視鏡安全管理委員会による「内視鏡定期培養検査プロトコール」を指標とし た内視鏡定期培養マニュアル(以後培養マニュアル)を作成し、2012 年 9 月より培養検査を実施してい る。プロトコールでは年 1 回以上の培養検査の実施が推奨されている。A 病院で培養対象としているスコ ープは内視鏡室で定期的に使用しているもの、麻酔科で使用している気管支鏡、口腔外科で使用している ファイバーで、洗浄消毒はすべて内視鏡室で実施している。開始後 1 年が経過し、培養マニュアル作成に より培養検査の適正な手技習得と役割分担が明確になったが、作業人数が 1 度に 3 名必要であり、検査件 数が増加していない現状がある。定期的に日常業務の一環として培養検査が実施できるよう 1 年間の実施 状況を集計、評価、課題を明確にしたので報告する。 【目的】 培養検査が業務の一環として定着するよう、1 年間の培養検査実施状況を集計・分析し今後の課題を明確 にする。 【研究方法】 1. 期間:2012 年 9 月~2013 年 8 月 2. 方法:1)培養検査を実施したスコープの本数、月平均を算出する。 2)スタッフの培養検査手技習得のための教育を実施した。 3)培養結果をプロトコールの合格基準に満たしているかを調査する 【結果】 1. 2012 年 9 月より対象スコープ 30 本の 1 年間の定期培養検査スケジュールを作成し、実施した。9 月から 2013 年 1 月までの 4 ヶ月間に培養したスコープは 13 本、月平均 2.6 本であった。2013 年 3 月 1 日よりオリンパス社の症例単価払いプログラム(以後 VPP)により、全ての内視鏡システムが EVIS LUCERA 260 シリーズから EVIS LUCERA ELITE 290 シリーズへと更新され、スコープも更 新となった。VPP 更新により対象スコープは 43 本となった。しかし、2 月から 4 月の培養検査は 0 件であった。5 月から培養検査を再開し 8 月までの 4 ヶ月間に培養したスコープは 7 本、月平均 1.7 本であった。 2. 2012 年 9 月から培養手技を習得しているスタッフは 3 名であったが、2013 年 5 月から培養手技が できるスタッフ増加に向け、手技説明会・デモンストレーションを行い、培養検査に関われるスタ ッフは 6 名となった。 3. 培養検査を行ったスコープ 20 本は、すべて内視鏡定期培養検査プロトコールの合格基準を満たし ていた。 【考察】 1. 定期的な培養検査は 2012 年 9 月から 2013 年 1 月まで、最初の年間スケジュール通りに実施出 来た。2 月、3 月に実施できなかったのは、VPP 更新がありスタッフの新内視鏡システム取り扱 い習熟が優先であり、説明会・トレーニングに時間を要したためである。4 月は部門変更によ り検査専門室となり従来の内視鏡検査業務だけではなく、担当する業務が放射線検査介助へと 拡大、それに伴いスタッフも増員された。新人スタッフ教育や現任者の拡大した業務習得を優 先したためであった。 2. 5 月から培養検査を再開したが検査件数が定期的に進められなかったことは、日常検査業務が 増え、お互いの業務が調整できず、培養検査には一度に 3 名のスタッフが必要であり、人員の 確保が難しかったためである。培養検査手技習得のための教育を計画的にすすめられなかった ので、今後は全スタッフ 11 名が培養検査手技を習得できるようデモンストレーションを含め た教育スケジュールが必要であると考えられた。 3. 対象スコープ 43 本を 1 年間で培養するためには1本/週以上の頻度で培養を行わなければなら ず、そのためには実施日の人員配置を含めた業務スケジュールの設定が必要である。 4. 培養結果が合格基準を満たしていたことは、自施設の内視鏡洗浄・消毒が適正に行われている と判断できる。 【まとめ】 1. 内視鏡定期培養検査を 1 年間実施し、培養検査実施状況を調査した。 2. 当初のスケジュールから逸脱した要因は、VPP 更新により培養検査対象内視鏡の変更と4月からの 部門の業務拡大による影響が考えられた。 3. 1年間の培養検査スケジュールを満たすためには、日常業務に取り入れ、スタッフ教育・人員配置 を含めた業務スケジュールの調整が課題となる。 4. 培養検査は時間と手間のかかる作業ではあるが、自施設の内視鏡洗浄消毒の質保証のインジケータ ―の一つであり、今後も業務の一環として定着できるよう活動していきたい。 発表 4 新型長期留置 PEG の使用経験 社会医療法人 母恋 日鋼記念病院 消化器センター内視鏡科 ○内藤健、野木育恵、﨑野敬佑、横山和典、根間洋明、小川悠史、岡由衣、檜森亮吾 【はじめに】胃瘻患者は国内で約 26 万人と推計され、そのほとんどが交換を必要とする胃瘻を使用している。当院で は、5 年程前よりポリウレタン製長期留置型(以下、長期留置型と略)の胃瘻を使用している。 当院で使用していた従来の長期留置型製品が販売中止となり、新製品が販売されたので使用経験を報告する。 【背景】当院では他施設より年間約 30 例胃瘻交換の依頼を受けており、近隣施設でも車で 1 時間程かかる地区から来 院される事もある。また、地域的に季節環境が厳しい事もあるため来院が困難な場合もあり、依頼施設より長期留 置型と指定される事が殆どとなった。 【製品スペック】以前使用していた製品同様、20Fr の pull タイプキットである。ポリウレタン製で劣化が少ないとさ れており、2 年近く留置され問題ないデータも報告されている。 バンパー部分が従来のポリウレタン製の薄い円盤構造ではなく、ウレタンフォームの入った中空構造となっており、 比較的柔らかく設計されていることから、従来品では不可能であった経皮的抜去が可能となった。 【当院での使用経験】2013 年 9 月現在での使用症例は 20 例である。キット内容は従来品と大きく変わらないが、穿刺 針に逆止弁が無い事、牽引糸が金属になっている事、体外ストッパーがプラスチックであり、使用に耐えない部材 などの問題があった。体外ストッパーに関しては、従来品の部材を販売代理店から提供している状況であったが、 今後はキット内に以前同様のストッパーが同梱されることとなったが、その他はメーカー対応中である。 バンパーの構造が一変した事により、事故抜去を危惧していたが、やはり従来品では頻度の低かった事故抜去を 2 例経験した。比較的短期間に自己抜去事例が起こった事から、危険性へ十分な配慮、経過観察が必要と感じた。 【まとめ】2012 年 9 月より国内発売された新しい長期留置型 PEG キットを使用したが、約 1 年と短期間ではあります が、製品として使用上には大きな問題となる点は見られない。しかし、国内で販売されている長期留置型製品は本 品のみであり、今後も継続使用するが、内容的には相当の改善が必要と感じた。 【結語】昨年、日本老年医学会において PEG の中止などについて指針が示されたが、今後も造設、交換は急激に減少 する事は無いと考える。 患者、患者家族、医療者も疲弊しないためには、管理にストレスの少ない長期留置型 PEG は有用であると考える。 発表 5 創部縫縮を簡便に行うためのクリップの工夫 社会医療法人 恵佑会札幌病院 看護師 ○藤巻 晴衣 【はじめに】大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(以下 ESD)後の偶発症として,後出血と穿孔がある.当院ではその対策と して,クリップによる創部の縫縮を行っている.しかし,ESD 後の大きな創部の縫縮に,現在使用している OLYMPUS EZ-CLIP ロングクリップ(HX-610-090L,ブルー)(以下 L クリップ)では広い創面や,大腸の襞にまたがる創面 に対してクリップが掛けにくく,技術と時間を要する. 【目的】創部縫縮の簡便化を目的にクリップの試作・改良. 【対象】2012 年 9 月~2012 年 12 月までに大腸 ESD 後の創部縫縮を施行した 11 例.そのうち試作・検討を 4 例で行い, 改良した Ring Clip を 7 例で実施.(創部の平均長径,検討症例 30mm,実施症例 45mm) 【方法】創部縫縮の方法は,OLYMPUS EZ-CLIP ノーマルクリップ(HX-610-135,ピンク) (以下 M クリップ)のツメ にナイロン糸の輪を結び付けたもの(以下 Ring Clip)を ESD 後の創部辺縁にクリッピングし,別の L クリップの ツメをナイロン糸の輪に通して反対側の粘膜まで引き寄せながらクリッピングする.その後,通常の L クリップで 周囲を縫縮する.Ring Clip の作製方法は,手術用ナイロン糸で作った輪をクリップのツメに結び付け,緩みやズ レのないよう瞬間接着剤で固定する.以上の事を基本として,ナイロン糸の太さ,輪の大きさ,ツメの部分に輪を 固定する位置の違いによる,クリッピング処置とクリップ鉗子の操作性を追求し試作・検討した. 検討 1,輪に使用するナイロン糸の太さ 3-0,4-0 検討 2,輪の大きさ 直径 2,5mm,3mm 検討 3,ツメ部分に輪を固定する位置 ツメの先端から 2,5mm,4mm 【結果】検討 1,3-0 ナイロン糸は結び目が大きくなり,クリップを収納する際にコイルシースに引っ掛かり,スムー ズな操作ができなかったが,4-0 ナイロン糸は問題がなかった.また,クリッピング処置に際して糸の太さは問題 とならないとの医師の意見があった. 検討 2,輪の大きさは 2,5mm,3mm ともに L クリップのツメを通す上で難渋する事なく,また双方ともにクリップ鉗 子の操作性に問題はなかった.L クリップを通しやすいよう,輪の大きい 3mm を選択した. 検討 3,ツメの先端から 2,5mm に固定したものは,クリッピングした際に輪が粘膜内に 1/3 程度埋入したため,L ク リップのツメを通しにくかった.4mm は,粘膜上で輪が開く状態となり,L クリップのツメが通しやすかった. 双方ともにクリップ鉗子の操作性に問題はなかった.試作の結果,4-0 ナイロン糸で直径 3mm の輪を作り,M ク リップのツメの先端から 4mm に固定したものを採用する事とした. 【考察】ナイロン糸は大きな創面を引き寄せる張力に耐えられる強度があり,形状の保持に適している.施行中に糸 が切れる事や輪が歪む事がなかった事からナイロン糸が有効だった.輪の大きさは,小さいと通す際に困難となる が,大きすぎると創部を寄せる牽引力が弱くなる事や,クリップを収納する際に形状を保持できなくなり,展開し た際に輪が歪む.そのため,輪の大きさを 2,5mm と 3mm で検討をする事が適当であった.ツメに輪を固定する位置 を変える事で,創部で輪の開き方が変わり,クリップを輪に通す処置がスムーズに行えるかを左右する有効な検討 だった.Ring Clip を使用する事で今までの L クリップでは届かなかった大きさの創面でも寄せる事ができた.ま た実施症で Ring Clip が縫縮処置中に外れる事はなかった.創部の平均長径は 45mm(最大 59mm),平均完全縫縮 時間は 8,5 分だった. 【結語】Ring Clip は,使用症例は少ないが,ESD 後の大きな創部や大腸の襞にまたがる創部縫縮の処置を容易に行 う事ができた.今後,更なる症例を重ねて検討をしていきたい. 発表 6 究極の内視鏡介助を考える~オリンパス社製回転クリップ装置の回転方法のコツ 札幌東徳洲会病院消化器内視鏡センター ○佐藤奈緒 抄録: 内視鏡という侵襲の大きい特殊な検査・治療において安全や安楽の次に求められるのはスピードである。 この場合に おけるスピードの速さというのは、術者の考えをいち早く理解し、最低限の指示で滞りなく治療や検査がすすむよう に物品やシステムなどの環境を整え、なおかつ高度で確実な手技を行うということである。 その結果、患者はより安 全で安楽な検査・治療を受けることが出来る。定期健診やフォローアップの検査が受け入れやすくなり疾病の早期発 見治療につながる。 検査や治療が滞りなくすすむことは医師や技師、看護師など内視鏡スタッフの時間や体力の無駄 遣いを防ぎ、より多くの件数を行うことが出来ることで技術の向上や研究を行うことができる。 これらのことは経営 者にとっては残業などによる人件費の上昇を抑え、また件数増加で収入増へつながる。 より良い検査・治療を求めて 研鑽を積むことにより患者・医療者・経営者の三者に大きな成果を上げることができる。これが究極の内視鏡検査・ 治療である。 ではスピードのために内視鏡介助者ができることは何か。 例えばマニュアルの作成で決まった手順を 作ることで時間のロスを無くす、医師の指示に直ぐ反応できるように物品を整えたり医学知識をつける、予約制度な ど検査のシステムを整える、高度で確実な手技を身につけるなどである。 特に技術を磨くということは失敗すること による時間や物品のロスをなくし、偶発症による再検査など無駄な患者の身体的負担とコストの発生を避けることに つながる。そのためには生検やクリップなど日常的な手技ひとつでも、処置具の構造と特性、使用される場面を理解 してトレーニングすることが必要である。 そして内視鏡介助者は処置具に関して術者より知識と技術を持ち、必要な 場面ではアドバイスやアシストを行うことができるように学習と実践を繰り返すことが重要である。今回は技師が介 助にあたる基本的な処置のひとつでありながら、その性能を生かすために技術を要する回転クリップ装置(OLYM PUS社製)の回転について、当施設で行っている方法を報告する。 回転クリップ装置は中空のコイルシースの中にクリップを装填した操作ワイヤが通っている構造となっている。湾曲 した状態ではシースとワイヤの間に摩擦が生じ、回転させる際に回転グリップを回しても回転の力が摩擦により先端 まで伝わらない。このとき回転させようとグリップを多く回すことで摩擦より回転の力が勝りクリップは回転を始め るが、回り始めるまで回した力が一気に伝わり、一周回ってもとの位置に戻る、やり直しても同じ現象になる、とい うことがよく経験される。 回転をコントロールするためには以下の方法でスリップ操作を行う。スライダーに軽く手をかけ、指の屈伸でリング とスライダーを細かく揺らす。このとき回転グリップには手をかけない。湾曲してシースとワイヤの間に回転を妨げ る摩擦がある場合はクリップは自然に回転し動かなくなる。この動かなくなった位置がニュートラルな位置であり、 ここから回転グリップを操作し始めるが、その際もスライダーを細かく揺らしながら少しずつ回転させる。手技に慣 れれば非常に強いアングルが掛かっているような状態でも、任意の位置へ回転させることが出来る。回転を十分にコ ントロールできないということは術者の望んだ位置や向きにかけるまでに時間を要し、蠕動や送気でより悪い条件で の治療につながる。 発表 7 当院内視鏡センターにおける臨床工学技士業務の可能性 KKR 札幌医療センター 斗南病院 臨床工学部、○鎌田 豊、工藤 貴英、石田 稔、齊藤 高志 消化器内科、 住吉 徹哉、 近藤 仁、 【はじめに】 臨床工学技士(以下 CE)の業務は人工透析業務、保守点検業務、呼吸治療業務が大半を占めており、消化器 内視鏡業務に従事している CE は少なくその業務指針は確立していない。 当院では、内視鏡センターにおいて 2003 年から必要時に医療機器の保守点検を行ってきたが、2011 年 12 月 より非常駐ではあるが CE1 名が内視鏡業務に携わるようになった。 【目的】 当院消化器内視鏡センターにおける CE の役割について検討を行った。 【方法】 1.CE が現在行っている業務内容を看護師と 比較し、その業務分担について検討した。 2.医師・看護師を対象に、CE の内視鏡業務に関する意識調査をアンケートにて行った。 【結果】 1.CE は①医療機器に関する操作・点検・トラブル時の対応②内視鏡検査・治療の術中介助③手術室にて行う ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の内視鏡セッティング・介助④メンテナンス契約の把握と改善を業務とした。 ②において Ns と業務が重なり③においては Ns 部門間の業務交差がなく内視鏡 Ns の出向が難しいため CE が 担当する業務となった。 2.アンケート結果より医療機器に精通する CE の必要性はほぼ全員が必要と考え、また CE の内視鏡業務参加 によって安全性が向上し、処置の効率化につながる事を期待する結果となった。 【考察】 医療安全の観点から CE が保守業務を担当する期待度は高く常駐が望ましいと考えられた。 ME の内視鏡業務参入の期待度は高く、常駐化の必要性が示唆され CE の特性を活かした業務展開が必要と考え る。 【まとめ】 医療機器の安全な運用管理を行う上で、チーム医療の一員として内視鏡センターで CE が果たす役割は大きい とことが示唆された。 発表 8 時間外3人体制が及ぼす影響 ~2 人制と比較して 伊達赤十字病院 ○碁石 久 吉田ひとみ 山本珠美 清野美幸 太細めぐみ 田村美佳子 毛利綾子 阿部陽香 小泉周平 はじめに 近年の医療技術の進歩に伴い、検査・処置は多種多様化、複雑化している。A 病院内視鏡・放射線処置室(以 下内視鏡室)では、検査・処置が時間外超過勤務(以下時間外)に及ぶ場合も多い。 これまで、時間外体制を2人までとしてきたが、実際には 3 人以上が時間外業務を行うケースも増加傾向にある と感じていた。今回、時間外 3 人制を導入したことで、どのような影響を及ぼすのか調査・考察したので報告す る。 背景と勤務体制 2008 年、看護協会は看護師の 1 ヶ月の平均残業時間は 23.4 時間という調査結果を発表した。これを受けて、A 病院内視鏡室においても調査を行い、2009 年~2012 年まで約三年間で、1ヶ月の平均残業時間は 19.5 時間で あった。 A病院内視鏡室では、外来予約検査を出来るだけ時間内に施行し、ERCPなどの入院治療などは時間外で 施行する場合が多い背景が存在する。具体的な時間外体制としては、残り番制とし、原則的に連日の残業を行 っていない。また、時間外の検査数や検査内容・処置内容により、適宜人員を増減し確保している。3 人以上 のスタッフ確保を有する場合は、前日の時間外などを参考に人選し、管理職が業務を依頼する。 研究目的 「平日の時間外 3 人体制が 2 人体制より有用であるか検討すること」 対象・期間 対象:A病院内視鏡スタッフ 7 名 年齢 23~46 歳(平均 38.8 歳) 男性 1 名 女性 6 名 期間:2012 年 2 月 1 日~2013 年 1 月 31 日とし 2 月 1 日~7 月 31 日を 2 人群、8 月 1 日~1 月 31 日までを 3 人群とした。 方法 1)勤務日数、残業日数、残業時間、帰宅時間について 2 人群と 3 人群で比較する。 2)3 人体制の有用性について、A 病院内視鏡スタッフへのアンケート調査を実施した。 3)必要な場合はt検定を用い、有意水準を5%とした。 倫理的配慮 使用したデータ・アンケート等は研究のためだけに使用すること、個人が特定できないよう配慮することなど を文面で説明し協力を得た。 結果 1)2 人制群(表1) 勤務日数 124 日に対して、時間外日数は 113 日であった。時間外人数の平均は 4.2 人であった。一ヶ月の時間 外平均は 20.8 時間であった。3 人以上の時間外日数は 89 日であった。帰宅時間の平均は 19 時 25 分であった。 2)3 人制群(表 1) 勤務日数 123 日に対して、時間外日数は 84 日であった。時間外人数の平均は 3.5 人であった。一ヶ月の時間 外平均は 20.1 時間であった。3 人以上の時間外日数は 60 日であった。帰宅時間の平均は 19 時 27 分であった。 3)両群の比較 両群の時間外人数の平均の差は 0.7 人であり、3 人制群が低値である結果が見られた。 一ヶ月の時間外平均の差は 0.73 時間であり、約 47 分間の短縮となった。 帰宅時間の平均には差は見られなかった。 4)アンケート結果(図 4、図 5) 「検査が多い時は 3 人で残った方が良い」の問いでは、少し思うを含めると 86%が「良い」と回答した。「残 り番の予定は決まっていた方が働きやすい」の問いには全員が分担表での実施を希望した。 表1 図1「検査が多い時は 3 人で残った方が良い」 図2「残り番の予定は決まっていた方が働きやすい」 考察 残業者の平均において、3 人群が低値であったのは、時間外での検査を効率良く分散させ、3 人での検査援助 が効果的に実施できていたと考える。一ヶ月の時間外も短縮され、スタッフへの身体的な負担も軽減されてい ると考える。 3 人体制の利点 ・効率的な準備、片付けに反映することが出来る。 ・複数人で作業することで、精神的・身体的な安定が図れる。 ・患者へ安全・安心な医療が提供できる。 結論 A 病院内視鏡室において、時間外 3 人体制は 2 人体制より有用である。 現在は 3 人体制が確立している。しかし、今後も業務改善に及ぼす影響を考察し、患者への安全な看護を実践 すると共に、看護職員の働きやすい勤務環境を整備していきたい。 引用・参考文献 1) iryo-de-hatarako.net/:人は何時間働くと過労死するのか 2) ウィキペディア:ワークライフ・バランス 3) 看護師仕事.com:看護師の残業 4) 看護協会ホームページ:看護職の労働時間 5) 宇治由美子:未来を変えるストレスマネジメント法 発表 9 内視鏡的粘膜下層剥離術における陰圧式体位固定具の術中体位保持に関する検証 北海道大学病院 中央診療検査ナースセンター ○山本 佳代子 武田桂子 佐藤 斐菜 【研究目的】 静脈麻酔下での胃・食道 ESD を受ける患者の体位固定に陰圧式体位固定具(以下マジックベッドⓇ)を使用し 安全に安定した側臥位を保つ事が出来るかを検討する。 【研究方法】 1)研究対象 北海道大学病院に入院中の胃・食道 ESD を受ける満 20 歳以上の患者 20 人麻痺・骨折・著しい疼痛がある場 合及び BMI15 未満・35 以上は対象から除外した。 2)研究方法 ①検査台の準備~検査台にマジックベッドⓇ、その上にソフトナースⓇを敷き、頭部にアネスピロⓇを使用。 (図 1)マジックベッドは左腋窩下から足元までの範囲とし、ソフトナースⓇは頸部から足先まで覆う範囲と した。(図 2) ②患者体位~体幹は 70 度前傾の左側臥位とした。頭部は脊柱と水平になる様に枕の高さを調整し、耳介が屈 曲しないよう確認。上肢は肩関節より 90 度以上挙上しない。 ③体位固定の実際~腋窩下から骨盤にかけて体を包み、下肢は大腿から下は固定しない。(図 3) ④統一した基本体位で固定出来る様に体位固定チェックリストによる確認~①②③の内容を看護師 2 名で確認。 体位固定指導経験がある看護師から技術訓練を受け、研究開始 10 症例の体位固定には、指導看護師が立ち 会った。体位固定チェックリストは参考資料1)を用いて作成した。 ⑤治療開始前の確認~痺れ・発赤の有無(左側)・離握手・底背屈・爪色・静脈怒張・左腋下に手掌が入る・ 左耳介の痛み・左側胸部圧迫感・頸部の過伸展・息苦しさ・上肢の過度の外転、外旋、過伸展について確認 した。 ⑥術中の体位確認及び体位修正~治療中は1時間毎に⑤の観察項目のうち、医師の手技の妨げにならずかつ客 観的に観察できる項目を確認した。 (表1)体位修正の目安は背部に設置した角度計 80 度に体が 1 分以上接 触した場合とした。修正した場合は、修正時間・理由・修正に要した時間を記載する事とした。 3)データ収集方法 患者基本情報(年齢・性別・身長・体重・BMI・治療部位)及び観察項目・体位固定チェックリストに沿って 治療前・中・直後・一週間後に確認した。 4)データ分析方法 カイ 2 乗検定による単純集計 5)倫理的配慮 対象者に、紙面と口頭により研究内容の説明と同意を得た。本研究は北海道大学病院自主臨床倫理審査会の 承認を得て実施した。 【結果】 対象は男性 16 名、女性 4 名。BMI 平均値 22.48。年齢 40 歳台 1 名 50 歳台 2 名 60 歳台 3 名 70 歳台 9 名 80 歳 台 5 名。部位は食道 6 名胃 14 名。治療中は体位修正を行った件数は 0 件。褥瘡や神経損傷、発赤の有無、身 体の疼痛の出現数も 0 件であった。 【考察】 静脈麻酔で治療を実施する際には無意識反射などによる体動が起こることは避けられず、特に右上下肢・頭 部は自由に動く事が予想される。にもかかわらず体位修正が必要になるレベルの不良体位は生じなかった。こ れはマジックベッドⓇの体面に沿った形状で固定される特徴から、接触面積が多く取れ、体幹と密着できたこ とでずれが生じにくくなったと考えられる。 【結論】 静脈麻酔下での胃・食道 ESD を受ける患者の体位固定に陰圧式体位固定具(マジックベッドⓇ)を使用し安全 に安定した側臥位を保つ事が出来た。今後は、さらに症例数を増やし、薬剤投与量との関係や、今回除外さ れた対象についても研究を加えて実用化に向けて継続していく。 【参考資料】 1)三浦優子他.みる看るわかる手術患者の体位アセスメント-術前・術中・術後の観察ポイント.メディカ 出版、12-57、2005. 発表 10 大腸検査の前処置 「自宅内服に対するアンケート」 医療法人 八尾徳洲会総合病院 外来 ○加藤尚代,西山ゆり子,邨田人美,澤井紀子 1.はじめに 大腸検査の患者は、前処置であるマグコロール P(以後、マグ P と略す)1800mlを午前中に内服し、腸 内容物を排泄できた患者から検査を始める。そのような中、数名の患者から「自宅で飲むことはできない のか」との質問があった。 そこで、自宅服用を希望している患者がどの程度いるのかと疑問を感じた。大腸検査を受ける患者 100 名にアンケートを実施し、患者の意見を明らかにしたのでここに報告する。 2.研究方法 1) 調査期間:2011 年 10 月 1 日~10 月 23 日 2) 研究対象:大腸検査を受ける患者 100 名 3.結果 「大腸検査で何が一番つらいですか」という設問では、 「下剤服用」が 53%、 「検査」が 20%、 「待ち時間」 27%であった(図 3 参照)。「下剤はスムーズに飲むことができましたか」という設問では、 「飲めた」が 83%、 「飲めない」が 10%であり、比較的スムーズに飲めていた(図 4 参照)。 「次回検査をする時は下剤を 自宅で服用したいと思いますか」という設問では、 「自宅希望」が 53%であり、 「いいえ」と回答したのが 44%であった(図 6 参照) 。そして、 「自宅で服用するとしたら、聞いておきたいことや、心配な事はあり ますか」という設問では、 「色の違い」 「自宅と病院との間で便意があった時」 「一応、最終的なジャッジ」 「自分では判断が難しい」 「自宅服用後、病院に来るまでに便を感じたら心配である」との意見があった。 4.考察 大腸検査が「初めて」と回答したのは 53%、 「2 回目」が 29%であり、8 割を占めている。このことも、検 査そのものに慣れないことが不安やつらさといった形で表出していると考える。「検査部門は、一見流れ 作業的で看護本来の職能が果たせないが、緊張感は高く満足感の低い分野」1)との意見もある。しかし、 個々の患者に即した、精神的なケアについても考慮していくべきだと考える。 「下剤はスムーズに飲むことができましたか」という設問に、83%が「飲めた」と回答している。これは、 「大腸検査で何が一番つらいですか」という設問に「下剤服用」と 53%が回答しているにもかかわらず、 検査前処置ととらえて、服用している現状がうかがえる。 「マグ P の自宅服用を希望しますか」には、 「自宅希望」が 53%、 「いいえ」が 44%であり、拮抗した結果 であった。当初、自宅でマグ P 服用を希望する患者が多くいると予測していたが、意外な結果となった。 その理由として、大腸検査を受けることができる状態になったか否かの判断ができない事があげられるの ではないだろうか。また、病院までの移動中に便意があった時に、スムーズにトイレにいけないことも理 由としてあげることができる。 5.結論 1) マグ P の自宅服用希望患者は 53%であった。 2) 大腸検査で辛いのは「下剤内服」 「待ち時間」 「検査」という順番であった。 6.まとめ 今回患者の調査から、マグ P 服用の前処置が、患者の負担になっている事を再認識した。前処置は、医学 的指示によるもので変更は現在のところ考えられない。しかし、看護師として患者の負担感を少しでも軽 減することができないか、改めて考えなければならない。 医師からは自宅服用に関しては、特に問題はないとの意見をもらっている。今後、自宅服用希望者には、 ①一度本病院にて検査したことがある方②独居ではなく気分不良時には誰かに伝える事ができる ③主治医の許可がある ④簡便の判断には写真入りの冊子を渡す⑤便失禁の予防にナプキン・オムツの使用 などをふまえて、実施することができないか前向きな検討をしていきたいと考える。 発表 11 全大腸内視鏡検査におけるモビプレップの有用性 伊達赤十字病院 ○清野 美幸 田村美佳子 吉田ひとみ 山本珠美 毛利綾子 阿部陽香 小泉周平 太細めぐみ 碁石久 【背景】当院で使用している全大腸内視鏡検査(TCS)の前処置に使用する経口腸管洗浄剤はポリエチレン グリコール(ニフレック)とリン酸ナトリウム製剤(ビジクリア)であった。ニフレックは服用する量が 多く、服用中に嘔気などの副作用が現れることも少なくない。一方、2013 年 6 月に発売されたマグコロ ール製剤(モビプレップ)は、ニフレックに比べ服用量が少ないという利点が報告されており当院でも導 入することになった。 【目的】外来の TCS 前処置におけるモビプレップの有用性について検討する 【方法】対象は、2013 年 6 月~9 月に外来でモビプレップを服用した 160 例(年齢 24~87 歳、平均 68.6 歳、男性 91 例、女性 69 例)と 2011 年 11 月~2012 年 1 月に外来でニフレックを服用した 134 例(年齢 32~88 歳、平均 67.9 歳、男性 76 例、女性 58 例)。両群ともに大腸切除の既往のある例は除外した。TCS 前日の就寝時にラキソベロン 10ml と、前日および当日にガスモチン 3 錠服用後前処置を行った。前処置 の所要時間、盲腸到達時間、総検査時間、服用不可能例、洗腸追加例、服用量、有害事象、腸管洗浄度につ いて、モビプレップ服用群(M 群)とニフレック服用群(N 群)で有意差水準 5%以下として比較検討した。 腸管洗浄度は、施行医師(6 人)が Aronchick scale(Aronchick CA : GIE 2000)および Boston bowel preparation scale(BBPS、Lai EJ : GIE 2009)を用いて判定した。 【結果・考察】M 群および N 群の平均前処置所要時間、平均盲腸到達時間、平均総検査時間はそれぞれ 214 分 / 204 分、8 分 40 秒 / 7 分 14 秒、18 分 13 秒 / 17 分 4 秒で有意差は認めなかった。M 群および N 群の服用不可能 例、洗腸追加例はそれぞれ 0.6% / 0%、27.5% / 14.2%であり、洗腸追加例で有意差を認めた(P=0.0085) 洗腸追加例を含む M 群および N 群の Aronchick scale による腸管洗浄度では、それぞれ Excellent 53% /58%、 Good 37% / 34%、Fair 10% / 7%、Inadequate 0% / 1%、BBPS では、右側結腸、横行結腸、左側結腸、 それぞれ 2.3 / 2.4、2.6 / 2.7、2.5 / 2.8 であり両群間に有意差を認めなかった。服用量では M 群 1.45L (+水分 0.7L)は、N 群 2.5L に比して有意に少なかった(P=0.0012)。M 群および N 群ともに前処置による 重篤な有害事象はなかった。 【結論】TCS の前処置においてモビプレップはニフレックと同様に有用であるが、洗腸追加例減少に向けた対応 が今後必要である。 発表 12 看護師の検査説明に対する患者の理解度や不安についての実態調査 ~消化管内視鏡検査前に行った患者アンケートより~ KKR 札幌医療センター 斗南病院 ○岡山 裕子 光野 薫 成澤 麻紀 はじめに 消化管内視鏡検査は、検査前の食事制限や休薬、大腸検査では下剤の服用等、患者の理解に基づいた協力が必 要であり、検査説明の担う役割は大きい。 当院では、外来患者の検査説明を中央処置室で集約して行っている。しかし、中央処置室の業務は採血・注 射・検査に必要な血管確保・救急車対応・入院前検査説明など多岐にわたり、ゆっくりと説明ができる環境で はない。説明後、前処置内容の問い合わせが入ることもあり、患者がどれだけ説明内容を理解しているのか、 不安があるのではないかと疑問を持つことがあった。 そこで、看護師の検査説明に対する患者の理解度や不安について実態調査を行い、検討したのでここに報告 する。 方法 調査期間:2013 年 1 月~5 月 対象:アンケート調査に同意が得られ、中央処置室で内視鏡検査の説明を受けた 300 名 (上部 150 名、下部 150 名) 方法:①年齢・性別・検査回数・検査への不安の有無・検査説明がわかりやすかったかどうかについてアンケ ート調査を行った。 ②配布・回収方法:アンケートは研究の趣旨を口頭説明すると共に、検査当日の待ち時間中にアンケー トに記載してもらい、内視鏡検査室受付の回収箱での回収とした。 ③倫理的配慮:アンケートは無記名とし、提出は任意とした。 結果 平均年齢 63.6 歳。性別、男 154 名・女 145 名。アンケート回収率 100% 「看護師の説明」について、とてもわかりやすかった 38%・わかりやすかった 48%・普通 12%であった。 「内容の理解」では、とても理解した 61%・理解した 36%。年齢別でみると 20~60 歳は、とても理解した 36%・ 理解した 49%。70 歳以上は、とても理解した 42%・理解した 46%。 検査回数別でみると初回は、とても理解した 48%・理解した 46%。2 回目以上は、とても理解した 64%・理 解した 34%。 「検査に対する不安」について、とてもあった 10%・少しあった 31%・ほとんど無かった 32%・無かった 27%。 「説明後不安を軽減できたか」出来た 53%・だいたい出来た 37%・出来なかった 3%。 「不安な点」は検査の苦しさ 32%・検査のイメージができない 6%・検査時間 4%・費用 4%・結果が不安 3% などが挙げられた。 「職員の説明でわかりにくかった」点は、早口、声が小さかったという理由で話が聞き取りにくかったことが 挙げられた。 考察 採血などの処置をしながら、限られた時間と慌ただしい雰囲気の中で行っている内視鏡検査の検査説明は、看 護師側から見ると充分な理解が得られずに表出できない不安があるのではないかと考えていた。しかし、アン ケート結果より、86%の患者が説明はわかりやすく、97%の患者が理解できたという結果を得ることができた。 60 歳代未満と 70 歳代の年齢別で理解度を比較したが、年齢による理解の差はないという結果となった。し かし、検査を初めて受ける患者は検査経験のある患者と比較して理解が得られていない傾向があることがわか った。検査経験があるとそのイメージが残っており、深い理解につながると考えられる。このことから、初め て内視鏡検査を受ける患者の説明を重視し、イメージしやすいような内容で行う必要があることがわかった。 「検査に対する不安」は説明前に 41%の患者にあり、説明によりその 90%が軽減できている。結果が出な いと解消されない不安があり、100%軽減することは難しいが、不安の内容も多岐にわたるため、その内容に 対応できるスタッフが必要になると考える。 中央処置室の看護師は、内視鏡看護を経験していないスタッフがほとんどであり、今後は説明する看護師か らも調査を行い、説明の教育を検討する必要があると考えた。 結論 1. 現在の説明方法は、理解できる内容であった。 2. 年齢による理解度の差はなかった。 3. 初めて検査を受ける患者と 2 回目以降の患者では理解度に差があった。 今後の課題 1. 検査を初めて受ける患者には、検査のイメージがわかる説明が必要。 2. 検査のイメージや不安解消の対応のため、スタッフ教育が必要。 発表 13 患者受容性の高い洗腸剤の検討 ~新規経口腸管洗浄剤とクエン酸マグネシウムの比較~ 小樽掖済会病院 消化器病センター ○塚本 高橋 友美子・堀越 理絵・坂井 安子・村田 奈津子・北野 なつみ 由紀 【はじめに】 大腸内視鏡検査前には、診断の精度をあげるため多量の腸管洗浄剤(以下洗腸剤)を飲用しなければなら ない。飲用量が低減され日本人の味覚に合わせて飲みやすくしてあるというモビプレップ®(以下モビ) が、新規に国内製造販売された。今回、当院で従来から使用してきたクエン酸マグネシウム(マグP)と モビについて患者受容度と腸管内洗浄度を比較検討したので報告する。 【期間】 2013 年 3 月 1 日~7 月 31 日 【対象】 当院で大腸内視鏡検査を行った患者 1118 例中、研究参加に同意した 163 例(大腸切除患者を除く) 。モビ 群:63 例、マグ群 100 例。男女比:81:82、年齢:18 歳~87 歳(平均 64.7 歳) 【検討項目】1.洗腸完 了までの服用量 2.服用時間 3.受容性に関するアンケート調査①服用量②飲みやすさ(味)4.腸管内洗 浄度の評価①良好な観察が可能②観察に支障をきたさない③観察に支障をきたす④観察不可能⑤判定不 能。各郡間の比較はカイ 2 乗検定を用いて 5%以下で有意差ありとした。 【前処置法】両群とも、最大服用 可能量を限度とし、当院の排便観察基準に合わせ洗腸剤を服用した。 服用方法 モビプレップ® ・溶解液 200ml を 10 分おきに 1000ml 服用後、半量の水かお茶を服 用する。最大量 2000ml(+1000ml) マグコロール® ・溶解液 200ml を 10 分おきに服用する。最大 2400ml 【結果】 1. 洗腸完了までの平均服用量は、モビ群 1504ml、マグ群 2116ml であった。ただし、モビ群は溶解液の 他にその半量の水を飲用しなければならず、それを加えると 2278ml であった。 2. 平均服用時間は、モビ群 141 分、マグ群 138 分で両群に大きな差はなかった。 3.アンケート結果①服用量については「すごく多い」 「やや多い」はモビ群 43%、マグ群 47%で、 「ちょう どよい」はモビ群 55%、マグ群 51%とほぼ同等であった。また、 「すごく少ない」 「やや少ない」は、両 群ともほとんどいなかった。 「まだまだ飲めそう」 「もう少し飲めそう」はモビ群 54%、マグ群 53%、 「な んとか飲めた」はモビ群 43%、マグ群 45%であった。 「飲みきれなかった」は、モビ群 3%、マグ群 2%と 両群ともごく少数であった。②飲みやすさ(味)については「飲みやすい」 「やや飲みやすい」はモビ 群 59%、マグ群 79%で、マグ群が多かった。 4.腸管洗浄度の評価は、 「良好な観察が可能」がモビ群 42%、マグ群 45%で両群に有意差はなかった。 「観察に支障をきたさない」はモビ群 50%、マグ群 39%とモビ群が有意に多く(P<0.05)、 「観察に 支障をきたす」はモビ群 8%、マグ群 16%とマグ群が有意に多かった(P<0.01) 。 「観察不可能」 「判 定不能」は両群とも 0%であった。 【まとめ】 モビプレップ®単独ではマグコロール®Pより約 3 割少ない量で腸管洗浄が可能であったが、追加水分量を 加えたモビ群とマグ群の服用量はほぼ同等であった。飲みやすさ(味)についてはマグコロール®Pの方 が好まれる傾向があった。モビ群の感想では「味が濃く、飲みにくい」という意見が多く、これは等張液 のマグコロール®Pの味がさっぱりしているのに比べ、高張液のモビプレップ®は味が濃く口に残ることが 要因ではないかと思われた。洗腸に要する時間はほぼ同等であったが、全体的な腸管洗浄効果については、 モビ群が優位であった。 【結語】 1、飲みやすさはマグ群が有意であったが、服用量及び服用時間は同等で洗浄効果はモビ群が優位であった。 2、モビプレップ®は洗腸剤として有用な選択肢になり得ると思われた。
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