フランスにおける職業分野の男女平等政策 ─ 2008年7月憲法改正による「パリテ拡大」の意義─ 糠塚康江* る。この目的のため,まず,2008年7月の憲法 はじめに 改正の端緒となった2006年3月16日の憲法院判 決の分析を通して,平等原則の射程の中で男女 50周年を迎えた2008年7月,フランス第五共 平等が如何なるものとして理解されてきたかを 1 和制憲法は過去最大規模で改正された 。改正 明らかにする(一)。その上で,2008年7月の憲 は,前年実施された大統領選挙で,統治機構改 法改正を具体化する法制度をめぐる論議の分析 革を目指す憲法改正構想が争点となったことに を通じてその意義を検討する(二) 。 端を発している。当初の改正案には含まれてい 一 平等原則の射程 なかったが,国民議会審議における修正案に よって,経済・社会領域における男女共同参画 1.男女職業平等法制の展開 条項が追加された。その後,元老院の審議過程 の中で1999年に導入された政治分野における男 フランス革命以来, 「平等」原則はフランスの 女共同参画条項(通称「パリテ」条項)とまと 共和国原理の支柱として位置づけられ,憲法典 められ,新1条2項「法律は,選挙によって選 の中で繰り返し言明されてきた。この平等原則 出される議員職および公職ならびに職業的およ の下,市民は,相互互換性が確保されるよう,性 び社会的責任ある地位(responsabilités profes� 別を含む事実上の差異をすべて捨象された抽象 sionnelles et sociales)への男女の平等なアクセ 的存在として想定される。かような普遍主義的 スを促進する」の創設に至った。この間,男女 平等概念の下では,論理上,「男女平等」という 共同参画に関する1999年の憲法改正に引き続き, テーマは成立しない。「男女平等」が政治課題と 男女平等政策とその憲法適合性とのせめぎ合い してテーマ化されるのは,1946年フランス第四 が政治部門と憲法院の間で演じられた。それは 共和制憲法前文3項が「法律は,女性に対して, フランスにおける平等原則の射程が明らかにさ すべての領域において,男性のそれと平等な諸 れる過程でもあった。政治部門が推進する男女 権利を保障する」と定めるまで待たねばならな 平等政策に対する平等原則の名による憲法院の かった。かくして,男性に対して保障された諸 異議申立てに,政治部門は憲法改正をもって応 権利を女性に拡張することが確認された。この 答したのである。 「人権主体」としての承認が「人権実体」の獲得 本稿は,上記のせめぎ合いから平等原則の射 を意味しなかったことは,つとにフェミニズム 程を明らかにし,2008年7月の憲法改正による 法学から批判されてきており2,ここで贅言を繰 「パリテ拡大」の意義を探ろうとする試みであ り返すまでもなかろう。 * 関東学院大学法学部教授 70 本稿が対象とするフランスの経済社会生活に 職業訓練など職業上のさまざまな局面で生じう おいて, 「女性は家事労働の80%を負担し, パー る男女差別を禁止し,禁止事項の違反に対して ト労働者の82%を占め,男性のそれより27%少 は刑事罰を規定する一方,他方で「男女の機会 ない給与を受け取り,平均して男性のそれより の平等を確立するために,特に女性の機会に影 3 40%少ない年金を受給している」という状況が 響を及ぼす事実上の不平等を是正するために, ある。この数字は,男性との比較において,生 女性の利益のためにだけとられる暫定的措置」 産年齢にあっては私的領域でのケア負担・家事 を定めた。具体的には,企業内で労使が交渉・ 負担に耐えながら,公的領域での労働において 協議して策定する男女職業平等計画を実施し, 十分な報酬を得ることができないまま過ごし, 従業員600人未満の中小企業では国・企業・利 貧しい老齢生活を送る女性の生涯を表現してい 害関係を有する女性労働者の3者の間で男女共 る。無論,男女格差がフランスにおいて漫然と 働契約(contrats pour la mixité des emplois) 放置されてきたわけではない。 を結び,女性の仕事の多様化を促進し,これま 1951年のILO100号条約(同一価値の労働につ であまり女性が進出していない職業への女性の いての男女労働者に対する同一報酬に関する条 参入を容易にするために,職業訓練の実施や施 約)と1957年のローマ条約(ECの原初条約)119 設の改善を行うことを内容とする。これは強制 条(現141条)に定められた「男女同一価値4労 ではなく,男女職業平等計画を策定し,男女共 働同一賃金原則」は,1972年法による労働法典 働契約を締結した場合には,政府から当該企業 改正により,国内法化された。もっとも同じ部 に対して財政援助が与えられるというインセン 門または同じ資格で男女が仕事をしているとは ティブによって導入が図られた。 限らないので,この原則の導入によって直ちに ルーディ法は, 「法律としては完璧に近い」と 男女間の賃金格差が是正されることにはならな 評価されたものの,その実効性が弱いままに い。そこで制定されたのが1983年7月13日の男 あった7。このような状況に対して,団体交渉を 5 女職業平等法(通称ルーディ法(Loi Roudy) ) 通して,男女職業平等の実現を図る法改正がな である。この法律は,EC/EUの男女均等待遇に された。これが2001年5月9日の男女職業平等 関する1976年2月9日の理事会指令(76/207/ 法,通称ジェニソン法(Loi Génisson)8である。 EEC)6の内容を国内法化したものである。 元来,フランスでは,産業部門レベルおよび企 同指令は, 2条1項において, 「均等待遇の原 業レベルでの団体交渉が,労働条件の決定にお 則」とは「直接または間接にかかわらず,特に いて重要な要素を占める。労働法において,労 婚姻または家族の状態に関連づけて,性を理由 働者保護の理念に基づき,階層的に上位にある に差別してはならないこと」だと定義する。た 規範が下位にある規範に優位するという階層秩 だし, 同指令は, その例外を3点あげている。そ 序(憲法>法律・命令>労働協約・協定>慣行 れは, ①性別が不可欠な前提となる職業活動 (2 >労働契約)が存在している。上位規範の公序 条2項) ,②女性保護,特に妊娠・出産に関する 性は,上位規範が労働者保護の最低基準を構成 規定(2条3項) , ③昇進を含む雇用および職業 するかぎりにおいてであって,労働者により有 訓練へのアクセス,労働条件について,女性の 利であれば,上位規範に対する下位規範の逸脱 機会を損なう不平等を除去して,男女の機会均 が認められるという有利性の原則を伴っている。 等を促進する措置(2条4項)である。4項が, 最近の傾向として,「法律と労働協約において, 消極的ながらも,男女の機会の平等を促進する 法律による規制から労使交渉による規制への開 目的でポジティヴ・アクション(以下PAと略 放が奨励され」, 「労使協約間の関係において,労 記)を構成国に対して授権している。これを受 働条件規制の重点が部門レベルから企業レベル けてルーディ法は,募集・採用・配置・昇進・ に移動してきている」9ことが指摘されている。 71 ジェニソン法は,男女の職業上の平等を団体交 らず,72%の企業が,職業上の平等をテーマに 渉の重要なテーマとした。すなわち,企業レベ して特別な労使交渉を組織することはなかった。 ルで使用者は,毎年,男女の職業上の平等に関 そして,女性が法律を適用させるために企業内 して団体交渉を行うことが義務づけられた。す における自分の将来を犠牲にして手続に何年も でに協定が締結されている場合は,交渉の周期 かけて裁判闘争に持ち込んでも,ケースバイ は3年とされる。 この団体交渉を使用者側が拒否 ケースで,差別状況を証明することはきわめて すると,刑事罰が科せられる。部門レベルでは, 困難である。訴訟を提起する給与所得者は,実 3年ごとに,男女平等を実現する方法および認 際のところきわめて稀である 。 められた不平等を是正する方法について,団体 2005年3月8日の演説で,シラク(Jacques 交渉を行うことが義務づけられた。男女平等に Chirac)大統領(当時)は,ジェニソン法の適 関する団体交渉では,少なくとも,1年ごとに 用が不十分であることを指摘して,男女間の給 給与,5年ごとに格付け(classification)につ 与格差を5年以内に解消することを明言した。 いて交渉することが義務づけられている。この この要請を受けて政府は「男女給与平等に関す 交渉は,男女の待遇を比較する報告書をもとに る法律案(Projet de loi relatif à l’égalité sala� 行われる。また,ジェニソン法は,各種の職能 riale entre les femmes et les hommes)」を準備 選挙における男女の均衡のとれた代表(repré� し,2005年3月24日,国民議会に提出した。政 sentation équilibrée des femmes et des hom� 府の提案理由 によれば,法案の目的は4点で mes)に関する規定をおき,労働審判所,企業 ある。 委員会, 従業員代表への女性の進出を促した。 加 第1は,明確な指標を基礎にした現状認識を えて,公務員の採用,昇格,待遇などに影響を 前提に,産業部門別および企業別で労使交渉を もつ行政内部の諮問機関や委員会への女性の登 行うことで,5年以内に男女の賃金格差を解消 12 13 10 用促進を図った 。 することである。産業部門における給与に関す る義務的労使交渉はこの目標に到達する方法を 2.2006年男女給与平等法案 検討しなければならない。合意がない場合,あ 職業上の男女平等を推進するために,政府は るいは不一致の場合,団体交渉担当大臣が関係 労使間の協議体制においていくつかの手段を設 する産業部門の労使同数委員会を招集し,当該 けた。その1つである「平等マーク」 (label 目標を取り上げていない協約の拡張(exten� 11 Égalité) は,男女共同参画(mixité)と職業上 sion)14を阻止する。企業内においては,男女間 の平等を推進した企業,団体,行政機関を顕彰 の給与格差解消に達する手段を提案するために, するために,政府主導で導入された。平等マー 被用者の組合組織の代表者と交渉が行われなけ クを取得しようとする企業は,応募書類を民間 ればならない。現実の給与に関する合意は,給 の認証専門機関に提出して審査を受け,その審 与の平等に関する労使交渉開始の報告書を伴う 査報告書をもとに,政労使代表からなる平等 ことがなければ,権限ある労働担当部局(servi� マーク認証委員会が認証を行う。 2005年3月, プ ces du travail compétents)に提出されない。男 ジョー, シトローエン, ヨーロッパ航空・防衛・ 女の給与平等に関する全国委員会(commission 宇宙産業会社(EADS) ,エアバス,パリ市水道 nationale)が法律適用の段階的評価を作成す 局など10のモデル企業に平等マークが与えられ る。男女の給与平等についての交渉を開始しな た。こうした努力にもかかわらず,その成果は かった企業を対象に,必要であれば,政府は,賃 芳しいものではなかった。まず,企業が職業上 金総額に基礎付けられた分担金(contribution の平等に関する法律を適用してこなかったこと financière)を課す法案を提出する。 がある。ジェニソン法が制定されたにもかかわ 第2は,職業生活と家庭生活の両立である。法 72 案は給与・休暇・差別に対する保護について産 から復帰した被用者に対して支払われる休暇手 休中の女性の権利を強化する。法案は,労働時 当への権利,13条・14条:審議機関および裁判 間外に職業訓練を受ける目的で子どもを養育施 機関への女性のアクセス,15条:職業教育およ 設に預ける追加費用を負担する被用者のために, び職業訓練への女性のアクセス)から成ってい 職業訓練手当を最低10%増額することを定める。 た。 小規模の企業が出産休暇や養子休暇を取得した 国民議会・元老院の審議の中で修正が加えら 被用者に代わる臨時補充要員を雇うことができ れ,第2読会を経ても両院の一致が得られなかっ るよう,政府が助成する制度を設ける。 たため,両院同数合同委員会が開催された。こ 第3は,審議機関および裁判機関への女性の の同数合同委員会で妥協が成立し,5編雑則を 進出の促進である。法案は,公企業の理事会 加えた31条の編成で,2006年2月9日元老院で (conseil d’administration)などにおける男女の 採決された後,同23日に国民議会で採決された。 均衡のとれた代表の確保を目指す。法案は,労 同日,修正手続によって加えられた14条(労働 働審判所判事の次期改選時に女性割合が前回更 契約を結んでいる従業員が他の企業で派遣の仕 新時よりも増えるような仕組みを用意する。 事をすることを認める労働法の規定の補充を定 第4は,職業訓練ならびに初期および継続的 める)および30条(国立映画センターによる期 職業教育提供への未婚・既婚女性のアクセスを 間の定めのない契約による非正規従業員募集規 改善することである。 定の補充を定める)について立法手続における 法案は,男女間の給与平等のために公的アク 修正権逸脱の疑いがあるとして,国民議会議員 ションの手段を強化させることで,経済成長お 60名が違憲審査を求めて憲法院に提訴した。 よび雇用の確保という目標を正義および社会統 3.2006年3月16日憲法院判決 15 合(cohéision sociale)の要請と両立させ,EU 域内において,女性の雇用と出生率を調和させ 16 る社会モデルを提起するものであった。 憲法院は,立法手続上の観点 から,提訴の 法案は当初,上記4編15条(1条:出産休暇 対象となった14条と30条を違憲とし,同様の理 の給与への影響の補償,2条:収入に関する差 由で,9条(育児休暇(congé parentale d’édu� 別にあたる領域の拡大(収入差別と認定される cation)を要求する被用者は労働契約の停止の 事項の拡大) , 3条:産業部門別労使交渉を媒介 前に雇用者と面談する権利を有することを定め にした5年以内の給与格差解消,4条:給与平 る),18条(出産休暇または養子休暇終了後,被 等に関する労使交渉がない場合の給与に基づく 用者が権利を有する育児休暇またはパートタイ 分担金の立法手段による設定,5条・6条:仕 ム労働期間の分割に関する政府による報告の議 事と家庭責任の両立,7条:従業員50人以下の 会への提出を定める),31条(障害のある一定の 企業で出産休暇あるいは養子休暇を取得した被 公務員に対する年金の加算に関する規定の改正 用者を補充する雇用助成金の創設,8条:子ど を定める)を職権で審査し,違憲と判断した。 もを預ける追加費用がかる場合の職業訓練手当 憲法院は,加えて3編「審議機関および裁判 最低10%増額,9条:育児休暇後に雇われた新 機関への女性のアクセス」,4編「職業教育およ 規の被用者のための研修への助成,10条:妊娠 び研修へのアクセス」を職権で審査した。 を理由として差別された被用者に負わされる挙 まず,3編(21 〜 26条)について,「1789年 証責任の調整,11条:病気の子どもの看護,育 人権宣言1条が『人は,自由,かつ,権利にお 児休暇,養子休暇に関する規定を遵守しない場 いて平等なものとして生まれ,生存する。社会 合に��������������������������� おける������������������������ 急速審理手続裁判官(juge des réfé� 的差別は,共同の利益に基づくのでなければ,設 rés)への訴え,12条:出産休暇または養子休暇 けられない』と宣言し,1946年10月27日憲法前 73 文3項が『法律は,女性に対して,すべての領 業教育および職業訓練諸課程への男女の機会均 域において,男性のそれと平等な諸権利を保障 等を促進し,この目的を考慮して職業教育の発 する』と定めていることに鑑みて, また, 『フラ 展計画を策定し,初期および継続的職業教育の ンスは,出生,人種または宗教による差別なし 発展の目的を定める契約を策定するようにレジ にすべての市民の法律の前の平等を保障する… オン(régions)に促している(当該法律の)4 …』という憲法1条に従い」 (cons.12) , 「 『すべ 編の諸条項は,……憲法の条項(1946年憲法前 ての市民は,その能力に従い,かつ,その徳行 文13項「国は,子どもおよび成人の,教育,職 と才能以外の差別なしに,等しくすべての位階, 業教育および教養への機会均等を保障する」)の 地位および公職に就くことができる』という 要請を見誤ってはいないが,4編の条項は才能 1789年人権宣言6条の文言に鑑み, 憲法3条2項 の考慮よりも性の考慮を優先させる効果をもつ が『人民のいかなる部分も』国民主権の行使を ことはできないという留保の下,4編は憲法に 自己に与えることはできないと定めていること 違反しない」(cons.18)と判断した。 に鑑み」(cons.13), 「同3条5項で『法律は選 4.憲法院判決の含意 挙によって選出される議員職と公職への男女の 均等なアクセスを保障する』と定めていたとし 上記憲法院の判決の審査対象は,立法手続に ても,議会の制定作業から,この条項は政治的 関する部分とPAの平等原則との適合性に関す な議員職および公職の選挙のみに適用されるこ る部分とに分かれる。本稿のテーマと関連する とに鑑み」(cons.14) , 「選挙で選ばれる政治的 のは後者である。提訴した国民議会議員は前者 公職以外の責任ある地位への男女の均衡の取れ の観点から合憲性の審査を憲法院に求めたので たアクセス(accès équilibré des femmes et des あるが,憲法院は職権によって後者の論点を取 hommes)の追求は,上記に引用した憲法の要 り上げた。その上で,平等原則の名において政 請に反するものではないとしても,才能および 治部門の推進するPA政策を断罪した。この展開 共同の利益の配慮よりも性の配慮を優越させる は,1982年の性別クォータ制判決 を思い起こ ことはできず,したがって,公法上ないし私法 させる 。ただし,同じように平等原則に言及 上の法人の管理機関ないし諮問機関(organes しながらも,2006年判決の論理は,1982年判決 dirigeants ou consultatifs)の構成が性別に基づ の論理と異なることが以下のように確認されよ く強制的なルールによって決められることを憲 う。 法が認めていないことに鑑み」 (cons.15) , 「私 1982年性別クォータ判決は,憲法3条が「国 企業および公企業における取締役会・監査役会, 民(国)の主権は人民に属する。人民は代表者 企業委員会(comités d’entreprise)内部におい を介してあるいは人民投票を通じて主権を行使 て,従業員代表(délégués du personnel)にお する。人民のいかなる部分もいかなる個人も主 いて,労働審判所および公務員同数組織(orga� 権の行使を自己のものとすることはできない。 nismes paritaires de la fonction publique)の候 選挙は,憲法に定められる条件に従って,直接 補者名簿上において,男女間の一定の比率の尊 または間接で行われる。選挙は常に普通,平等, 重を強制することにより,付託された法律3編 秘密である。民事上および政治上の権利を享有 の諸規定は,法律の前の平等原則に反する結果 する成年男女のフランス国民はすべて,法律の になるということ,よって,憲法に反すると宣 定める条件に従って,選挙民である」と定め,人 言する理由があること,3編の他の規定もこれ 権宣言6条は「すべての市民は,法律の前に平 らの規定と不可分であるゆえに憲法に反する」 等であるから,その能力に従って,かつ,その 17 18 (cons.16)と判断した。 徳行および才能以外の差別なしに,等しく,す さらに,4編(27 〜 29条)については, 「職 べての位階,地位および公職に就くことができ 74 る」と定めていることを指摘して, ここから「市 に許容することを目的として,1982年の違憲判 民という資格は,年齢や法的無能力や国籍を理 決を乗り越えるために断行されたのであった。 由とする除外,また,選挙人の自由や選出され この憲法改正の射程は,2001年6月19日の司 た議員の独立性の保護を理由とする除外のほか 法官職高等評議会組織法判決19において,憲法 は,すべての人に同一の条件で選挙権と被選挙 院の職権によって明らかにされた。2001年判決 権を与えていること,これらの憲法的価値を有 は,1999年の憲法改正によって新設された「パ する諸原則は選挙人や被選挙人のカテゴリーに リテ条項」が議員職と政治的公職の選挙にのみ よるあらゆる区別(toute division par catégo� 適用されるとして1999年憲法改正の射程を限定 ries)に対立すること,そのことはすべての政 し,当該条項が平等原則の例外域であることを 治的選挙の原則であり,とりわけコミューン議 示した。その結果, 「政治的性格をもたない位階, 会議員選挙についてそうであることが,帰結す 地位および公職選挙の候補者リスト作成のため る」として, 「選挙人に供される名簿の作成のた のルールは,1789年人権宣言6条によって定め めに性を理由として候補者間の区別を含む規則 られたアクセスに関する平等原則の観点から, は,上記に引用した憲法原則に反する」と断じ 性を理由とする候補者間の区別を含むことはで た(cons.6~8) 。 きない」のであるから, 「司法官高等評議会選挙 1789年の人権宣言1条は「人は,自由,かつ, の候補者名簿に性による区別を導入する……条 権利において平等なものとして生まれ,生存す 項は,憲法に違反する」(cons.58)のである。人 る」と定めた。自由と相即的に成立したこの 「 権宣言6条は,いわば「ジェンダーブラインド」 平等」 は, 「権利における平等」 「形式的平等」 の働きをしたのであった。 と理解されている。この意味での平等は,社会 これに対し,2006年判決が対象とするPA政策 契約論の論理から導かれる,一元的な一般意思 は,取締役会や理事会における「性別クォータ の支配に適合的である。法律の一般性という属 制」と「職業教育および職業訓練諸課程への男 性が「平等」 を確保するからである。1982年憲 女の機会均等促進措置」であるが, 「性別」によ 法院判決が引用する人権宣言6条は, 「法律は一 る「範疇化」自体が問題となっているわけでは 般意思の表明である」 と定式化し,さらに同3 ない。同判決は, 「男女の均衡のとれた代表」な 条は 「いかなる団体」 も「いかなる個人」も国 いし「男女の均衡のとれたアクセス」のコンセ 民の主権を行使しえないとして,淵源における プト自体を否定するものではないが,その実施 一般性を規定している。この「国民の主権」 の にあたる手段において, 「性」の考慮を「能力 行使に参加する各人が市民であり,res publica (compétences)」,「適性(aptitudes)」および としての国家の構成員となる。この市民は,相 「資格(qualifications)」の考慮に優先させるこ 互互換性が確保されるよう,性別を含む事実上 とが,平等原則に反すると判断したのである。こ の差異をすべて捨象された抽象的存在として想 の論理は,2002年1月12日の社会関係現代化法 定された。こうして,国民主権の単一不可分性 (loi de modernisation sociale)に関する憲法院 は市民の抽象性によって保障されることになり, 判決20においてすでに示されていた。 平等原則は,単一不可分の共和国の支柱となる。 2002年判決で対象となった法律は, 「職業経験 これがフランスにおける平等の原点である。こ 認証(validation des acquis de l’expérience)」21 の立場から,1982年判決は,個性を徹底的に捨 によって資格免状(diplôme)を獲得できるよう 象することで法主体化された「市民」の「性別」 に教育法典を改正する条項を含んでいた。職業 による「範疇化」そのものを否認したのである。 経験を審査するために設定される審査委員会 劈頭に触れた「パリテ条項」を挿入した1999年 (jury)は,「男女の均衡のとれた代表」となる の憲法改正は, 「政治におけるパリテ」を立法者 ように構成されることが求められた。男性と女 75 性では「職業経験」が同一でないことを考慮し, 組織または私的組織において進出の少ないある 立法者は,両者の視点が審査に反映されるよう 集団構成員の存在を直接に「強制する」ことを にジェニソン法の定式である「男女の均衡のと 狙い, 「否定的に」差別的な効果を含むものであ れた代表」を審査委員会の構成原理に採用した ると判断されたがゆえに,憲法院の職権的介入 のであった。提訴権者はこの条項の違憲性を主 を招いた 。「男女の均衡のとれた代表」という 張したわけではなかったが,憲法院は職権でこ 目標そのものは直ちに違憲とはならないとして の条項を違憲審査の対象とした。そして,憲法 も,性別の数値を予め示す「性別クォータ制」 院は,当該「審査委員会に与えられた使命から, は性の考慮を他の考慮に優先させることから, 24 当該審査委員会委員は1789年人権宣言6条の意 「機会の平等」の実現ではなく,差別的効果を生 味での『位階,地位および公職』を占めている むと判断されたのである。4編の定めるPAは こと;職業平等に関する2001年5月9日法律 「男女間の均衡のとれたアクセス」を目的とする 〔ジェニソン法〕の定式を踏襲している134条お もので,男女の比率を予め決めるものではなく, よび137条は, 男女の均衡のとれた代表という目 性の考慮を適正とモチベーションの考慮に優先 標を定めるだけであること;審査委員会設置に させる効果を持つものではないという留保の下 あたって,性別(genre)の考慮を能力,適正 で,合憲と判断されたのであった。平等原則は, および資格の考慮に優先させる目的を持たない 「男女の機会の均等」を許容しても, 「性の考慮」 し,効果も持ちえないということ;この留保の を優先させるものではない。憲法院は,このこ 下,134条および137条は憲法適合性につきなん とを確認するために,平等原則の源,特に両性 ら批判を招くものではない」 (cons.115)と判断 の平等原則の源に遡って自らの論理を補強して したのであった。 いる。その潜在的な重要性にかかわらず,その 同じく人権宣言6条を参照しながら2001年判 ときまで判例の中で参照されることがほとんど 決は違憲の結論を導いたが,2002年判決は解釈 なかった「憲法ブロック」の鍵となる2つの条 留保判決を帰結した。2002年判決が対象とした 項,1789年人権宣言1条と1946年憲法前文3項 審査委員会(より一般的には「公的領域」に属 を初めて憲法院が引用した点は注目に値する。 するすべての委員会または機関)の男女間の均 とりわけ,これまで男女平等に関わる判決にお 衡のとれた構成を追求することは,この均衡が いて1946年憲法前文3項に依拠してこなかった 「平等なメリットに基づいて」追求されていれ 点に向けられた批判に憲法院が応答した意義は ば,人権宣言6条に違反することはない。能力, 大きい。一部学説25および政府26は,この3項を 適正および資格の考慮に性別の考慮を優先させ して,男女の積極的平等を推進する根拠となり ることが, 人権宣言6条によって言明された平等 うる可能性を示唆してきた。憲法院が示した回 原則に反するのである。本判決に対する憲法院 答は,これらの条項が平等の普遍主義概念を確 の評釈は, この「読解グリル(grille de lecture) 」 立しているというもので, 「これらの規定の鏡像 は,憲法院に付託されることなく審署された と し て1999年 7 月 8 日 の 憲 法 改 正 を 位 置 づ ジェニソン法の「男女の均衡のとれた代表」解 け」27たのである。パリテの論理は,憲法が許容 釈にも役立つことを示唆した22。もっともジェ する平等原則の例外として,政治的議員職や公 ニソン法を補充する2002年5月3日のデクレは, 職の選挙に限って適用されるにすぎないのであ 審査委員会の構成員の3分の1が一方の性で占 る。 められると数値化し, 「読解グリル」は有効に機 能しなかった23。 男女給与平等法律の3編が定めるPAは,アク セスの機会の平等を促進するのではなく,公的 76 同じ部門内ないし企業内における男女の給与格 二 職業分野における男女平等 差である。責任ある地位への就任が女性にとっ て困難であることが明らかにされており, 「ガラ 1.男女給与格差是正策の法的障害 ス天井の破壊」と「家庭義務と両立しがたい特 憲法院によって違憲判断された部分を除いて, 定のマネジメントの実践に特有の拘束を控える 2006年男女給与平等法は3月24日に公布された。 労働形態の採用」の必要性が強調されている 。 同法は男女間の給与格差是正策を一覧に示して 33 「ガラス天井の破壊」の手段として提案されたの 28 いる点で, 注目に値する 。同法施行後初となっ が,取締役会,公企業の企業委員会,従業員代 た部門レベルで締結された銀行部門の男女職業 表などへの性別クォータ制の導入である 。 平等協定(2006年11月15日)によれば,銀行部 2006年3月16日の憲法院判決は,憲法上のす 門の男女の給与格差は19.6%で,その主たる原 べて平等条項の名において,職業分野における 因が幹部社員に女性が少ないことにあると分析 性別クォータ制を否認したが,それは,職業分 されている。この格差是正のため,2010年の終 野における男女平等政策の法論理を1998年に引 わりまでに幹部社員の40%を女性にするという き戻すことを意味する。この年,ジョスパン政 29 中間目標が立てられた 。2006年に労使交渉を 権(当時)は政治におけるパリテの導入を企図 締結した企業は約24,000であるが,男女の給与 して憲法3条の改正を提案した。その提案理由 格差問題を取り上げたものは400ほどにすぎな の中で,パリテの目標が奨励されるのは公的生 34 30 かった 。2007年11月26日に,男女職業・給与 活だけではなく,国民生活のあらゆる領域,職 平等に関する政労使の三者構成の会議が開催さ 業分野においても同様であるとしたうえで,職 れた。ベルトラン(Xavier Bertrand)労働社会 業分野については,憲法が「法律は,女性に対 関係連帯大臣は,2009年12月31日までに,男女 して,すべての領域において男性のそれと平等 の職業上の平等に関する現状を比較する報告書 な諸権利を保障する」(1946年憲法前文3項)と を作成せず,当該分野における交渉を締結しな 定めていることから, 「男女間で責任ある地位の かった企業に対して経済制裁を科すと発言し より均衡のとれた配分を確保するための措置を た31。実際には,この制裁は,2010年11月9日 取ることに対して,原理的障害を含まない」と o の年金改正法(loi n 2010-1330 du 9 novembre 説明していた35。1997年6月18日に採択されたア 2010 portant réforme des retraites)によって ムステルダム条約によってヨーロッパ共同体設 男女の年金格差を是正する措置の一環として導 立条約に141条4項として追加された条項(「職業 入された(同法99条により労働法典にL.2242-5- 生活における男女の完全な平等を実際に確保す 32 1 が挿入された) 。 る観点から,均等待遇原則は,少ない性の者が 男女の給与格差をもたらす原因として,女性 職業活動を遂行するのを容易にし,または職業 が男性に比べ多くがパートタイム労働に従事し, 上のキャリアにおける不利益を防止しもしくは 給与の低い産業部門で働いていることが指摘さ 補償するための特別な便宜を定める措置を加盟 れる。雇用形態が異なる労働者間の賃金格差は, 国が採用することを妨げないものとする」)を, 雇用形態によって賃金・雇用管理制度が異なる アムステルダム条約批准に先立って審査した憲 ことから発生している。この点の改善が図られ 法院が合憲と判断したからである36。 「男女の完 ることは重要であるが,パートタイム労働に関 全な平等」確保するための「特別な便宜を定め しては男女間の賃金格差はさほどない。 「男女」 る措置」によって「性別クォータ制」が憲法上 の賃金格差問題に焦点を絞れば,正規社員・正 許容されると考えられたのである。2006年判決 規職員内での男女の賃金格差に目を向ける必要 は,1998年時点の政府の認識を否定することを がある。フランスの労使交渉が前提とするのは, 意味した。 77 先に触れたように,1976年の均等待遇指令は, 上級職位にある女性の数が男性よりも少ないと 男女の機会の平等を促進するためのPAを構成 き,適性,能力および職務上の実績において同 国に授権していた。この種の立法措置に対する 等の場合で,かつ,個々の男性候補者に有利に EC裁判所の最初の判決が,1995年のカランケ 働く特別の理由がない限り,女性の昇進が優先 37 (Kalanke)事件判決 である。対象となったの される」と規定するドイツのノルトライン・ はドイツのブレーメン州で制定された「公務部 ヴェストファーレン州の公務員法25条5項2節 門における男女均等待遇法」が含んでいた条項 であった。ここで採用されたPA措置も,広く女 で,女性比率が過少である(50%に満たない) 性比率の向上を目的とするに止まる。EC裁判所 領域で,採用あるいは1つ上のクラスの賃金グ は,開放条項(男性候補者が自分にとって優位 ループへの昇進に際し,女性候補者が男性の対 な理由を示す場合には女性が優先的に昇進すべ 抗候補者と同一の資格を有する場合には,女性 きではないとする規定)が設けられている点で の候補者が優先的配慮を受けると定めていた カランケ判決と事案を異にすると指摘して,当 (「 ク ォ ー タ 条 項 」 ) 。ここで採用されている 該公務員法は,女性を「絶対的かつ無条件に」 「クォータ制」 の目的は広く女性比率の向上にあ 優先させるものではないと認定した。客観的評 り,狭義の性別クォータ制のように予め性別の 価を保障する開放条項の存在が,性別に対する 比率を定めるものではない。 「同一資格」 である 配慮を副次的基準の1つにとどめているという か否かの判断にあたっては,家庭労働,社会的 わけである。 活動,無報酬労働等によって得られた経験や能 2002年および2006年の憲法院判決の論理は, 力も評価された。EC裁判所は,女性を「自動的 マルシャル事件判決の論理に通底するといえよ に」優先させる国内ルールは,EC法の不文の原 う。そうであるとすると,アムステルダム条約 則として認識され,1976年の均等待遇指令2条 をめぐる1997年の憲法院判決をふまえた上での 1項に実定化された均等待遇への個人的権利を 1998年の時点での政府の判断は, 「見誤り」が 侵害すると判断した。裁判所は,女性を絶対的 あったといえる。性の異なる2人の候補者が対 に優先することは機会均等の実行を超えて,そ 等の資格を有しているという状況は,それ自体 れに代わって結果の平等を実現するもので,EC 定義の上で,この2人が平等な機会を有してい 法の目的ではないというのである。この判決は, ることになり,当該2人は出発点において対等 EC裁判所があらゆる女性優遇措置に道を閉ざ な条件の下にある。そのような場合に女性を優 そうとしているという読み方も可能であったた 先することは,数的観点から女性と男性でポス め(実際この判決以降,ドイツ国内行政裁判所 トを均等に配分する結果を目指すことになり, は,カランケ事件判決に依拠して「クォータ条 もはや「機会の平等」の限界を超えることにな 項」は許されないという判断を相次いで出し る。「男女の均衡のとれた代表」という表現にと た) ,混乱を招いた。そうした状況下で,アムス どまるのであれば,それはドイツ的な「クォー テルダム条約によって141条4項が新設された。 タ条項」と解する余地があり,よって「性を優 この条項にいう「特別な便宜を定める措置」が 先させるのでなければ」という条件の下,平等 どのようなPAを許容しているのかということ 原則の「機会の平等」の射程内にある。しかし, が,先のカランケ事件判決との関係で問題と 「性別クォータ制」として数値目標を予め定める なった。この点にEC裁判所が応答したのが, ことは,当該ルールが適用される分野で働いて 1997年11月11日のマルシャル(Marschall)事件 いる男性にとって機会の平等を否定されるよう 38 判決 である。 な状況が生じる。あらゆる点において対等であ マルシャル事件判決が対象としたのは, 「公務 るのに,もっぱら性を理由として一方が優遇さ 部門の昇進に際して,職務階層における特定の れて採用されたり昇進したりするのであれば, 78 男女の機会の平等は存在しないことになる。 問委員会が,政治分野以外で責任ある地位への よって,ガラス天井を打ち破るために「性別 男女共同参画をよりよく保障する手段を立法者 クォータ制」による数値目標の設定を図るので に許すべきかどうかを検討中であることがあげ あれば,平等原則の射程を越えなければならず, られた。ワルスマン委員長は,修正案のような 憲法の改正が必要となる。 原理の表明は憲法前文が相応しい場所であるこ と,将来たとえば取締役会に性別クォータ制を 2.憲法改正 導入する法律を制定したいのであれば修正案を 職業分野における男女平等の法的障害を乗り 議決すべきだが,クォータ制を強制するつもり 越えるため,2006年5月31日,パリテ監視委員 がなければ修正案を議決する必要がないとして, 会委員長であるジンメルマン(Marie-Jo Zim� 修正案が取締役会のクォータ制導入を意味する mermann)国民議会議員が,憲法34条11項の後 ことを仄めかした。これに対して,パリテ法を に「法律は職業上のおよび社会的な責任ある地 推進してきた左派議員から修正案支持が表明さ 位への男女の均等なアクセスを促進する」とい れた。修正案が「クォータ制」を意味するとし 39 う条項を挿入する提案を行った 。これが審議 たワルスマン委員長の発言に対して, 「強制なく の俎上に上ることはなかった。 してパリテはありえない」 「クォータ制を設定す 2008年4月23日に提出された憲法改正法案は, ることではなく,職業上および社会的責任ある 「第五共和制の統治機構を現代化する」もので, 地位への男女の平等なアクセスの原理を設定す 2006年の憲法院判決以降パリテ監視委員会の懸 ることが問題なのだ」との反論が出された。修 案事項であった職業分野における男女共同参画 正案は採決に付され,126票対88票(投票総数 に関する条項を含んでいなかった。憲法改正の 222票,有効投票214票)で採択された41。 機会を捉えたジンメルマン議員は,国民議会に 国民議会案を検討した元老院の立法委員会は, おける第1読会で,上記の店晒しになっていた o ジンメルマン修正を採択した国民議会の意図は 40 憲法改正案を修正案(Amendement n 181) と 「女性がまだ過少のままにある職業上および社 して提出した。2006年3月16日の憲法院判決が 会的責務の行使において女性のプレゼンスを確 1999年7月8日の憲法改正によって改正された 保することを狙った措置を取る可能性を立法者 3条の射程を選挙による議員職と公職にとどめ に開くことにある」としたうえで,そのような たことから,職業上および社会的に責任ある地 立法措置の憲法上の障害を取り除くべきである 位への男女の平等なアクセスを法律によって確 とするなら, 「そのような原則の言明は憲法34条 保しうることを憲法上明記する必要があり,こ よりも1条に置かれるべきである」として,1999 の改正は,性による差別が誰の目にも明らかで 年7月8日の憲法改正で新設された3条5項と ある職業分野において男女の均衡のとれた代表 統合して,男女平等の関する規定を1条の新し を促進するための措置を立法者が採択するため い項(alinéa)とすると提案した。1条は「憲 に不可欠な前提であることが,その提案理由で 法前文と第1章の間に位置して,『不可分の,非 あった。 宗教的,民主的かつ社会的な』そして『すべて この修正案は5月27日に審議の対象となった。 市民の法律の前の平等』を保障するという我々 この修正案に憲法改正案を検討したワルスマン の共和国の偉大な原理の言明に当てられている。 (Jean-Luc Warsmann)立法委員会委員長とダ この条項に,『法律は,選挙によって選ばれる議 ティ(Rachida Dati)司法大臣が反対した。司 員職と公職,ならびに職業的および社会的な責 法大臣からは,反対の理由として,当時並行し 任ある地位への男女の平等なアクセスを促進す て活動中であったシモンヌ・ヴェイユ(Simone る』という条項を加える」のである42。これが Veil)を委員長とする憲法前文検討のための諮 修正509として6月18日に元老院で審議され,採 79 43 択された 。この元老院による修正は国民議会 この法案は6条から成り,①私企業・公企業 案をより強固にするものとして支持された。7 の取締役会はパリテ構成(従業員代表の候補者 月21日の両院合同会議での審議・採択を経て, リストは男女交互方式)にしなければならない 2008年7月23日の憲法的法律により,憲法1条 こと(商工業的公施設の理事会の各性の比率は 2項が新設された。 50%を越えてはならない),②実施の行程は,1 ヴェイユ委員会は,当初,2008年の6月に報 年8カ月後の各性の比率は20%を下回ってはな 告書を提出する予定であったが,実際の報告書 らず,4年後の各性の比率は40%を下回っては は,同年12月17日に大統領に提出された。同委 ならない(公施設の場合は公布後の最初の組み 員会は,並行して進行していた憲法改正業を尊 換え時に30%,2回目の組み換え時に50%とす 重し制憲者が介入した事項には立ち入らないこ る),③5年の期間においてこの比率が遵守され とを原理として掲げていたことから,パリテ関 ない取締役の任命は無効となること(ただし議 連のアリング作業を行ったものの,上記のよう 決を無効とするものではない),④取締役会(理 に憲法改正が断行されたことから,パリテに関 事会)は,毎年,職業上および給与の平等を審 する問題について見解を示すことを差し控えた 議し,男女の雇用および職業訓練状況を比較す 44 る報告書を作成すること,を内容とした。 。 当該法案を検討した立法委員会は,3点の修 3.職業分野における「意思決定への男女共 正を行った。第1に,私企業また公的セクター 同参画」の具体化 の機構の意思決定機関の全面パリテの目標(l’ 憲法改正の後,憲法規定を具体化する制度設 objectif de parité totale) を 各 性 最 低40 % の 計の問題が浮上する。2006年の憲法院男女給与 クォータ制に置き換えた。全面パリテは男性を 平等法判決において違憲と判断された制度を可 男性に,女性を女性に入れ替える義務を含意す 能にすることが,2008年憲法改正のプラグマ るが,これは性を優先させ,1997年のEC裁判所 ティックな目的であった。私企業における意思 が下したマルシャル判決の論理に反する。また 決定過程への男女の均等アクセスを確保するた 実際的理由として,私企業の取締役や公的セク めの立法措置が課題となる45。 ターの理事のリクルートは,人物適正のみなら 2008年10月15日,ジンメルマン議員は,2006 ず,職業経験や能力を考慮する必要があり,取 年の憲法院の違憲判決によって削除された条項 締役や理事会の構成に最低限の柔軟性を持たせ 46 を復活させる法案 を提出したが,具体的に法 る必要性があると説明された。第2に,移行期 案審議に入ることはなかった。2009年3月18日, 間を6年とし,比率20%達成を法律公布後3年 ジンメルマン議員は同僚議員と共同で,新たな 後とした。第3に,取締役会の男女混成を促進 法案を提出した。2006年以来の顕著な変化とし するために,①取締役会が取締役任命ルールに て企業の意思決定機関の女性比率を40%とする 違反する場合には,株主総会の開催を求めて裁 47 ノルウェーの試み があることをふまえ,5年 判所に提訴する途を開く,②役員任命の無効の 以内に取締役会・監査役会(以下単に「取締役 適用対象から過少である性の役員の任命を排除 48 会」と記載する) の各性の最低比率を40%とす する,③ルールに違反して任命された役員の参 ることが大きな変更点であった49。以後,さま 加する取締役会の議決を無効とする制度を設け 50 ざま提案 が各性最低40%に数値を示すことに るという措置が新たに導入された52。 なった。しかし審議入りを果たしたのは,ジン 国民議会の第1読会は2010年1月20日に開催 メルマン議員,コペ(Jean-François Copé)議 された。審議の中で,①法案がパリテを原則と 員らが2009年12月3日に共同で提案したパリテ していたのに対し,委員会案が「クォータ制」 51 法案 である。 に後退したこと,②政治分野において強制され 80 ないパリテが十分な効果を上げていないことを 法委員会は両法案を統合する法案策定のために 鑑みて,40%クォータを実現するための強制措 委員会に回送することを提案 し,4月29日の 59 60 置が必要であること,③役員の兼任を制限する 元老院の審議で了承された 。立法委員会は検 ことが必要であることなどが,議論された。① 討の結果,「兼任問題は,取締役会における女性 について,報告者であるジンメルマン氏は,マ 席の問題に直接かつ排他的に結び付けられな ルシャル判決を引用して,法律は「個々のケー い」 として取り上げないこととし,国民議会案 スにおいて,女性候補者と同等の資格を有する に対し4つの修正点を示した 。第1は,国民議 男性候補者に対して,立候補が,候補者個人に 会案が上場企業を対象としていたのに対し,取 関するすべての基準を考慮し,その基準の1つ 締役会の男女混成ルールを適用する範囲を拡大 ないし複数が男性候補者に有利に働く場合には し,従業員500人以上で売上高または資産総額が 女性候補者に与えられた優先権を覆す客観的評 5000万ユーロを越えるものとした点である。第 価の対象となることを保証」しなければならな 2は,第三者の権利と経済生活を尊重して,サ いからだと説明し, 「40%という比率は, 時期が ンクションが比例のとれたものにすることであ 来れば,取締役会の席の半分以上が女性によっ る。委員会は,均衡のとれた代表の原理を侵害 て占められるようになることを意味している。 するような取締役の任命を無効にすることは必 厳密に半分ということではないのだ」という見 要と考えるが,議決の無効は比例を失し,危険 61 62 53 通しを述べた 。②について,ジンメルマン氏 であると結論づけた。第3は,公企業の資格を は, 「企業を危機に陥れることは雇用を危機に陥 もたない国の商工業的公施設と行政的公施設の れること」に鑑みて, 「立法者は, 男女混成の目 理事会に均衡のとれた代表の原則を拡張する条 標と商事会社の日常業務にかかわる行為の法的 項は適用できないから,廃止する方がよいとい 安定性を両立させなければならない」から,任 う点である。国の公施設とそれを規制する規程 命の無効は十分なサンクションであって,取締 は多様で,法案の一般的定式での規制が難しい 役会の議決の無効は法的安全を危うくする強す からである。第4は,均衡のとれた代表の原則 54 ぎるサンクションであるという判断を示した 。 が会社に強制する新しい義務を分かりやすくす ③について,フランスのマネージメントの世界 るために,文言の若干の手直しをする必要があ をリードしている階層が 「同じ経歴をたどり, お るということである。 互いに認め合い,閉鎖的な環境で生きる男性か 10月27日の元老院第1読会においては,①委 55 ら構成されている」 点が弱点であるという指 員会が兼任禁止を取り上げなかったこと,②取 摘に対し,ジンメルマン氏は「ここで提起され 締役会の議決無効のサンクションが否定された ている問題の核心はそこにある」と同じ認識に こと,③国の行政的公施設が対象外とされたこ 立っていることを認めたが,兼任制限に賛同し とへの不満が表明された。①については,兼任 なかった。長期的には,兼任の制限を設けるこ 禁止を求める修正案(Amendement no 18 recti� とになるかもしれないが,短期的には,現に取 fié ter)が提出されたが,賛成158票,反対175 締役会の席を置く経験を持つ女性が,上場企業 票(投票総数339票,有効投票333票)で否決さ が男女混成の義務を果たすにあたり,別の取締 れた63。②については,第三者の保護の観点か 役会に任命されることの妨げになるかもしれな ら政府,委員会が譲らず,委員会案通りとなっ 56 いからである 。 た。③については,国が範を垂れる必要がある 国民議会の第1読会を通過した法案は2010年 との指摘64があり,立法委員会は5条を復活さ 1月21日に元老院に受理され,立法委員会に回 せる修正案(Amendement no 2 rectifié ter)を 57 送された 。その後社会党の元老院議員から, 取 提案し採択された65。こうして,政府は,2015 締役の兼任を制限する法案58が提出された。立 年末までに,非対象となった国の行政的公施設 81 における女性の地位に関する報告書を議会に提 の政治」と呼ばれるようなより弱い者に対する 出することを義務づけられた。これらの機関も 配慮に結びついた政策の主導)の強調は,両性 各性の比率を40%に近づけるために行う努力に 間の非対称性(性差本質主義)に直面すること 66 ついても報告することになった 。元老院の修 になる。政治分野における意思決定過程への男 正案を検討した国民議会立法委員会は,元老院 女共同参画という政治におけるパリテの論理は, 修正案は国民議会案と致命的な対立点がないこ あらゆる分野における意思決定過程における男 とを確認して,国民議会に対して元老院修正案 女の不平等,女性の排除ないし過少を再審に付 を修正なしで受け入れるよう,報告書を結論づ した。1999年の憲法改正後,政治部門(政府・ 67 けた 。2011年1月13日に開催された国民議会 議会あるいはパリテ委員会)のディスクールは, 第2読会で,元老院から回送されてきた法案は パリテの論理を政治分野以外の男女平等政策の 68 修正なしで可決された 。 推進力に利用してきたように観察される。2006 年������������������������� 3������������������������ 月����������������������� 4���������������������� 日の官報に「パリテ主義����������� (���������� paritaris� むすびにかえて me) 」を「男女平等のための活動」 「ジェンダー・ メインストリーミングと同じ」とする,専門用 取締役会の各性比率を最低40%にするという 語および新語形成統括委員会(commission gé� 法律の効果は, 国民議会の第1読会段階で現れて nérale de terminologie et de néologie)による いる。CAC指数40社をはじめとする大企業は, 定義が掲載された 。これに対して「両性の平 女性取締役の採用に積極的であるといわれてい 等を推進するために実施される措置をパリテに る69。この変化が給与格差解消に有効に働くか 同一視する傾向をディスクールの次元で公認す 72 70 どうかは今後注視する必要がある 。憲法院の るものである」73との批評があるが,定義自体 違憲判決を乗り越えるために憲法改正を行い, は,政治部門の「用法」を端的に表現している その後それを具体化する制度設計を法案審議の といえよう。 中で行う道筋は,政治におけるパリテに似た展 人権宣言以来,人は人権の主体として普遍的 開である。しかし,本稿のテーマとの関連で重 な存在であるにとどまらず,政治的権利の主体 要なのは, 2010年の議会における審議過程で 「パ として市民であり,経済・社会的権利の主体と リテの原則」が「40%性別クォータ制」に置き して経済人であると把握されてきた。平等原則 換えられた点である。 は,人の態様に応じて作用が異なる。このこと 「パリテ」という言葉に「意思決定過程への は人権宣言の1条と13条の比較から知ることが 男女共同参画」の意味を獲得させたのは,1990 できる。一方で平等原則は人の一般性を担保す 年代のパリテ推進運動の結果である。当初政治 る支柱として作用し,個人の根源的な平等を意 分野を念頭に置いたパリテの論理には,2つの 味する。他方平等原則は,現実の文脈の中に位 理路がある71。1つは,パリテの論理を当初フ 置づけられた人々をその経済的・社会的状況に ランス国内で推し進めた論理であり,今1つは, 応じて別異取扱いすることを許容するのであ 1999年の憲法改正を実現しそれを具体化するい る74。この伝統の下,フランスにおけるPAは二 わゆるパリテ法を制定した際の論理である。前 様に把握されてきた75。社会慣行や性差別に基 者は,市民性(citoyenneté)の二元性に基づく づく不平等に対処するためのPAは,対象者を同 共和主義的普遍主義を打ち立てる構想を持つも 定するために個人のアイデンティティを構成す のであった。これに対して後者は, 「機会の平 るもののうち「人種」や「性」など個人の選択 等」と「他者と異なること=差異」という両義 したものではない生来の要素に着目することか 的な論理で積極的是正策を正当化しようとする ら,フランスの平等原則の名において否認され ものであった。 政治における女性の徳性( 「ケア てきた。他方,社会経済的不平等の縮減を目的 82 とするPAについては,受益者同定の基準は社会 年に公表された第3次男女共同参画基本計画で 経済状態に根ざしており,変化可能と捉えられ は,2020年までに指導的地位に女性が占める割 ている。この方向でのPAは平等原則と両立可能 合 を30 % に す る と い う 目 標 達 成 の た め に, 76 で,フランスにおいて活発に実施されている 。 クォータ制導入を視野におくことを明示した。 パリテは,政治分野における前者の平等原則の 形式的性差別撤廃の要請は積極的是正措置と本 限界を超えるための概念装置であった。パリテ 来相容れない。フランスにおける平等原則と「パ は「男女」間の「機会の平等」の実質化( 「候補 リテの論理」のせめぎ合いは,日本にとって貴 者」のパリテであって「議員」のパリテではな 重な先例となるかもしれない。 い)を求めているのであって, 「結果の平等」を 注 77 求めているのではない 。その本質は,男女が 意思決定の責任を共に負うことである。 それでは社会経済分野における意思決定過程 への「男女間の平等なアクセス」はどうであろ うか。それが「パリテの論理」の社会経済分野 への拡大を意味するのであれば, 「男女」の「機 会の平等」の実質化によって,社会経済分野に おける意思決定の責任を「男女」で共に負うこ とになるはずである。他方,この分野での「男 女」は,具体的存在として特定の社会状況に置 かれている。この分野では,個人の能力,適性, 資格は性の考慮に優先される。 「取締役会・監査 役会内部における男女の均衡のとれた代表と職 業平等に関する法律」が定める「40%クォータ 制」は, その政治的な妥協点を示している。 ジェ ニソン法はすでに「男女の均衡のとれた代表」 という表現を使っていた。社会経済分野におけ る「パリテの論理」の具体化が政治分野におけ るそれと異なることは,既定のことであった。 「男女の均衡のとれた代表」 を客観的に数値化し て公企業および私企業に到達目標を示すために, 憲法改正が必要とされたのであった。 日本では,2006年に改正された雇用機会均等 法が,従来からの女性差別に対する差別禁止規 定を男女双方に対する差別禁止規定に内容を改 めた。性別は憲法14条1項後段の列挙事由の1 つであることを手掛かりに,憲法学説の動向は 形式的性差別撤廃を厳しく求めている78。一方, 雇用機会均等法は改正後も女性に対する優遇措 置を維持し,男女共同参画社会基本法は男女格 差を是正するための積極的改善措置を定めてい る。2009年8月のCEDAWの勧告を受け,2010 83 1 すでに多くの論考によって紹介・分析されて いるが,ここでは,辻村みよ子『フランス憲法 と現代立憲主義の挑戦』 (有信堂, 2010年)第Ⅱ 章をあげておく。 2 辻村みよ子『憲法とジェンダー』 (有斐閣, 2009年) ,南野佳代「女性の人権」愛敬浩二編 『人権論の再定位2─人権の主体』 (法律文化 社,2010年)117頁以下を参照。 3 Communiqué de Presse du 27 septembre 2010 par l’Observatoire de la parité entre les femmes et les hommes, 〈Réforme des retraites: Attention aux discriminations indirectes et aux sanctions inefficaces〉(http://www.obser� vatoire-parite.gouv.fr/espace_presse/commu� niques/pdf/CP_Retraites_270910.pdf) 4 何をもって「同一価値」労働とみなすかは, 困難な問題となる。後述する1983年法は, 「職業 上の知識」 「経験」 「職責」 「肉体的または精神的 (physique ou nerveuse)負担」の4基準を定め た。解釈の困難さは残るものの,法文の開かれ た構造が裁判官に解釈の余地を与えるものと考 えられた。この点については,voir, A.N., Rap� port nº 2282 fait au nom de la commission des affaires cultuerelles, familiales et sociales sur le projet de loi déposé le 3 mai 2005, p.16. 5 Loi nº 83-635 du 13 juillet 1983 portant modi� fication du code du travail et du code pénal en ce qui concerne l’égalité professionnelle entre les femmes et les hommes 法 文 に つ い て は http://eleuthera.free.fr/pdf/173.pdf/を参照。ま た,糠塚康江「雇用分野におけるフランスの男 女平等政策─『積極的是正措置』と『パリテ』 」 関東学院法学16巻2号(2006年)51-52頁を参 照。 6 法 文 に つ い て はhttp://eur-lex.europa.eu/ LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:31976 L0207:FR:HTMLを参照。また,大藤紀子「欧州 連合(EU)における男女共同参画政策とポジ ティヴ・アクション」辻村みよ子編『世界のポ ジティヴ・アクションと男女共同参画』 (東北大 学出版会,2004年)51-53頁を参照。 7 この評価は,神尾真知子「フランスの男女職 業平等関連資料」尚美学園大学総合政策論集2 号(2005年)95頁による。 8 Loi nº 2001-397 du 9 mai 2001 relative à l’ égalité professionnelle entre les femmes et les hommes ジェニソン法については,福岡英明 「フランスの労働法・公務員法と男女共同参画」 前掲『世界のポジティヴ・アクションと男女共 同参画』注6)167頁以下を参照。 9 奥田香子「第2章 欧米諸国の労働条件決定 システム─第1節 フランス」 『社会経済構造 の変化を踏まえた労働条件決定システムに再構 築─プロジェクト研究「労働条件決定システ ムの再構築に関する研究」中間報告─』 (労働 政策研究報告書No.56,2006年)37頁(http:// www.jil.go.jp/institute/reports/2006/docum ents/056_2.pdf)。 10 特に男女平等を取りあげて,その実現を目的 とするものではないが, 「差別との闘いに関する 2001年11月16日 法 律(Loi nº 2001-1066 du 16 novembre 2001 relative à la lutte contre les discriminations)が制定されている。この法律 は,1990年代の労働分野に関するEU指令を国内 法化することを目的としていた。内容概略につ き,糠塚・注5)70頁注12)を参照。2004年12 月30日法律によって,「差別と闘い,平等を促進 する高等機関(HALDE:La haute autorité de lutte contre les discriminations et pour l’égali� té)」が創設された。その後,3つのEU指令(「人 種および民族的出自に関する均等待遇指令 (2000/43/EC)」・「雇用および職業における均 等待遇のための一般的枠組み設定指令 (2000/78/EC)」・「男女の雇用,職業訓練,昇進 および労働条件に関する均等待遇指令 (2002/73/EC)」)を国内法化する「差別禁止法: 差別防止領域における共同体法の適用のための 諸 条 項 に 関 す る2008年 5 月27日 法 律(Loi nº 2008-496 du 20 mai 2008 portant diverses dis� positions d’adaptation au droit communautaire dans le domaine de la lutte contre les discrimi� nations)」が制定された。HALDおよび差別禁 止法については,神尾真知子「差別との闘い」 ジュリスト1369号(2008年)96頁,鈴木尊紘「フ ランスにおける差別禁止法及び差別防止機構法 制」外国の立法242号(2009年)44頁以下を参 照。 11 神尾真知子「モデル企業に『平等マーク』 」 ジュリスト1331号(2007年)125頁を参照。 12 以上のジェニソン法評価については,voir, Sénat, Rapport nº435 fait au nom de la com� mission des affaires sociales, sur le projet de loi, adopté par l’Assemblée nationale, relatif à l’ égalité salariale entre les femmes et les hom� mes, pp.25-27. 13 A.N.,Projet de loi nº 2214 relatif à l’égalité salaire entre les femmes et les hommes enre� gistré le 24 mars 2005, pp.4-5. 14 フランスが採用している「労働協約拡張適用 方式」は,所定の用件を満たす労働協約の協約 条項が,労働省令によって一定の地域内の同一 業種企業全てに拡張適用されるという方式であ る。この結果,未組織労働者にも適用され,業 種ごとの熟練度別最低賃金水準が均一化する傾 向にある。盛誠吾「フランス・労働協約拡張制 度の展開」一橋論叢102巻1号(1989年)1頁以 下を参照。 15 Décision nº 2006-533 du 16 mars 2006 憲法 院 判 決 に つ い て は, 憲 法 院 の サ イ ト(http:// www.conseil-constitutionnel.fr)に掲載のものを 参照した。以下,同様である。 16 この観点からの分析については,voir Valérie Ogier-Bernaud, «L’évolution décisive de la ju� risprudence constitutionnelle relative à l’exer� cice du droit d’amendement en cours de na� vette parlementaire», in Revue française de droit constitutionnel, nº67, 2006, pp.499 et s. 17 Décision nº 82-146 DC du 18 novembre 1982 本件の事実の概要および判決の抄訳について は,糠塚康江「ポジティヴ・アクション」浅倉 むつ子=角田由紀子『比較判例ジェンダー法』 (不磨書房,2006年)270頁以下を参照。 18 糠塚康江『パリテの論理』 (信山社,2005年) 58頁,また同215頁注47)を参照。 19 Décision nº 2001-445 DC du 19 juin 2001 20 Décision nº 2001-455 DC du 12 janvier 2002 21 職業経験認証制度については,簡便には,労 働政策研究・研修機構による海外労働情報サイ トを参照(http://www.jil.go.jp/jihou/2008_10/ france_01.htm) 。 22 Commentaire de la décision nº 2001-455 DC du 12 janvier 2002, in Cahiers du Conseil 84 constitutionnel, nº12 (以下を参照http://www. conseil-constitutionnel.fr/conseil-constitution nel/root/bank/download/2001-455DC-ccc_455 dc.pdf) 23 その結果, 「違憲合法状態」が生まれたことに なる。この点については,糠塚・注18)208頁以 下を参照。 24 Commentaire de la décision nº 2006-533 DC du 16 mars 2006, in Cahiers du Conseil consti︲ tutionnel, nº20, p.44. 25 糠塚・注18)193頁参照。 26 たとえば,1998年12月24日の元老院議員によ る「レジオン議会議員とコルシカ議会議員選挙 及びレジオン議会運営に関する法律」の違憲審 査 提 訴 に 対 す る 政 府 の 見 解 を 参 照。http:// www.conseil-constitutionnel.fr/conseil-consti tutionnel/francais/les-decisions/acces-par-da te/decisions-depuis-1959/1999/98-407-dc/obser vations-du-gouvernement.47055.html/ 27 Ferdinand Mélin-Soucramanien, «La parité n’est pas l’égalité…», in Recueil Dalloz, 2006, nº13, p.873. 28 内容を概観,分析するものとして鈴木尊紘「フ ランスにおける男女給与平等法─男女給与格 差の是正をめぐるフランスの試み─」外国の 立法236号(2008年)56頁以下を参照。末尾に同 法の抄訳が付されている。 29 銀行部門の協定については,神尾真知子「男 女賃金平等法は男女賃金格差是正をめざす」 ジュリスト1350号(2008年)50頁の指摘による。 30 “Égalité salariale : Bertrand menace de sanc� tions financiers”, in Le Figaro, 27 novembre 2007. 31 “Des pénaliéts pour faire respecter l’égalité salariale”, in Le Monde, 28 novembre 2007. 32 法 文 に つ い て は,http://www.legifrance. gouv.frに掲載のものを参照。 33 Voir Conférence tripartite égalité profession� nelle et égalité salariale : Résumé du docu� ment de cadrage, 01/08/2007, pp.15-17.日本で の男女賃金格差の是正についても,正社員にお ける男女の賃金格差を問題にするようになって きている。この点について,厚生労働省「変化 する賃金・雇用制度の下における男女間賃金格 差に関する研究会報告書」(2010年4月公表)を 参 照(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r 985200000057do-img/2r985200000059h4.pdf)。 34 Rapport nº 2282 supra note 4, pp.29-32. 35 政府の提案理由については,糠塚・注18)50 -51頁注2)を参照。 36 Décision nº 97-394 DC du 31 décembre1997 37 Case C-450/93 Eckhard Kalanke v. Freie Hansestadt Bremen [1995] ECR I-3051 カラン ケ事件判決の内容については, 糠塚・注17)265266頁を参照。 38 Case C-409/95 Hellmut Marschall v. Land Nordrhein-Westfalen, [1997] ECR I-6363 マ ル シャル事件の概要・法務官意見・判旨について は,糠塚・注17)264-269頁を参照。 39 A.N., Proposition de loi constitutionnelle nº 3115 relative à l’égalité des sexes dans les res� ponsabilités professionnelles et sociales, pré� sentée par Mme Marie-Jo Zimmermann 40 A.N., Amendement nº181 présenté par Mme Z i m m e r m a n n e t M m e G r e f f , 19 m a i 2008 (http://www.assemblee-nationale.fr/13/amen dements/0820/082000181.asp) 41 A.N., 3ème séance du mardi 27 mai 2008 (http://www.assemblee-nationale.fr/13/cra/ 2007-2008/171.asp) 42 Sénat, Rapport nº 387 de M. Jean-Jacques Hyest, fait au nom de la commission des lois, déposé le 11 juin 2008 (http://www.senat.fr/ rap/107-387/107-38727.html) 43 Sénat, séance du 18 juin 2008 (http:// www. senat.fr/seances/s200806/s20080618/s2008061 8008.html) 44 Comité de réflexion sur le Préambule de la Constitution présidé par Simon Veil, Rapport au Président de la République, Redécouvrir le Préambule de la Constitution, La documenta� tion Française, 2009, pp.51-52. これに対してPA については詳細に検討しており, その基礎が 「機 会の平等観念」 にあることを明らかにした上で, 法の前の平等を定める憲法1条に, 「共和国は機 会 の 平 等 を 推 進 す る(promeut l’égalité des chances)」を挿入するよう提案している(ibid., p.64) 。同報告書は新しい人権論の問題点を総合 的に検討した研究書の体をなしているとの評価 がある(辻村・注1)92頁) 。 45 2010年4月15日は,国連が組織した「国際給 与平等の日」 (Journée internationale de l’éga� lité salariale)であったが,NGO(Business & Professional Women)がこれに参加し, 「2009 年にフランスの男性が得た平均年収を得るため に,女性は2010年に一体あと何日(男性より) 85 余計に働かなければならないか ─79日!」と いうキャンペーンを張った。詳細については, BPWのサイト(http://bpw-france.org/)を参 照。 46 A.N., Proposition de loi nº 1183 relative à l’ accés des femmes aux responsabilités profes� sionnelles et sociales, présentée par Mme Ma� rie-Jo Zimmermann et al. 47 ノルウェーの試みについては,三井マリ子『ノ ルウェーを変えた髭のノラ─男女平等社会は こうしてできた─』(明石書店,2010年)を参 照。 48 1966年の会社法改正により,会社の形態とし て,経営責任が問われる執行役会と監査責任が 問われる監査役会の分離型も選択できるように 改正された。 49 A.N., Proposition de loi nº 1533 tendant à fa� voriser l’égal accès des femmes aux responsa� bilités professionnelles et sociales, présentée par Mesdames et Messieurs Marie-Jo Zimmer� mann et al. 50 たとえば,Rapport préparatoire à la concer� tation avec les partenaires sociaux sur l’égalité professionnelle entre les femmes et les hom� mes, par Brigitte GRESY, membre de l’inspec� tion générale des affaires sociales (juillet 2009); L’Accès et la représentation des femmes dans les organes de gouvernance d’intreprise, Insti� tut Français des Administrateur-European PWN-Orse (septembre 2009) ; A.N., Rapport d’ Activité pour 2009, L’accès des femmes aux responsabilités dans l’entreprise, au nom de la délégation aux droits des femmes et à l’égalité des chanses entre les femmes et les hommes (Nº2125), présenté par Mme Marie-Jo Zimmer� mann, (1er décembre 2009). 51 A.N., Proposition de loi nº 2140 relative à la représentation équilibrée des femmes et des hommes au sein des conseils d’administration et de surveillance et à l’égalité professionnelle présentée par Medames et Messieurs JeanFrançois Copé, Marie-Jo Zimmermann et al. 52 A.N., Rapport nº 2205 fait au nom de la com� mission des lois par Mme Marie-Jo Zimmer� mann le 22 décembre 2009, pp.30-32. 53 A.N., séances du 20 janvier 2010, l’interven� tion de Mme Zimmermann, in A.N., J.O., Compte rendu intégral du 21 janvier 2010, p.260. 54 Ibid., p.262. 55 フランス企業の取締役会は,フランスの行政 学・経営学・工学のエリート養成機関,グラン ゼコール出身の男性が占拠する「仲良しクラブ (cozy club) 」で,経営者がほかの大企業の取締 役も兼任することが多いと批判されてきた。 2009年に実施された調査によれば,CAC40指数 構成企業では,全取締役の22%にあたる98人の 取締役が,取締役会の議決権の43%を握ってい るとされる。参照,Tara Patel, French Women Storm the Corporate Boardroom, Blooming Businessweek (http://www.businessweek. com/print/magazine/content/10_25/b4183015 410606.htm) 56 J.O., supra n.53, p.264. 57 Sénat, Proposition de loi nº 223 relative à la représentation équilibrée des femmes et des hommes au sein des conseils d’administration et de surveillance et à l’égalité professionnelle adoptée par l’Assemblée nationale. 58 Sénat, Proposition de loi nº 291 relative aux règles de cumul et d’incompatibilité des man� dats sociaux dans les sociétiés anonymes et à la représentation équilibrée des femmes et des hommes au sein des conseils d’administration et de surveillance, présentée par Mme Nicole Bricq et al. 59 Sénat, Rapport nº 394 fait au nom de la com� mission des lois par Mme Marie-Hélène Des Esgaulx, p.14 60 Sénat, séance du 29 avril 2010 (http://www. senat.fr/seances/s201004/s20100429/s201004 29004.html). 61 Sénat, Rapport nº 38 fait au nom de la com� mission des lois par Mme Marie-Hélène Des Esgaulx, p.30. 62 Ibid., pp.41-43. 委員会報告は2010年10月13日 に受理されているが,その直後の10月19日に, Rapport d’information nº 45, fait au nom de la délégation aux droits des femmes et à l’égalité des chances entre les femmes et les hommes sur la représentation équibrée des femmes et des hommes dans les conseils d’administration des enterprises, par Mme Joëlle-GarriaudMaylamが提出された。 63 Sénat, séances du 27 octobre 2010, J.O., Compte rendu intégral du 28 octobre 2010, 86 p.9147. 64 Lʼintervention de Mme Catherine Morin-De� sailly, ibid., p.9174. 65 Ibid., p.9183. 66 Sénat, Proposition de loi nº 11 modifiée par le Sénat relative à la représentation équilibrée des femmes et des hommes au sein des conseils d’administration et de surveillance et à l’égalité professionnelle 67 A.N., Rapport nº 3041 fait au nom de la com� mission des lois par Mme Marie-Jo Zimmer� mann le 15 décembre 2010. e 68 A.N., 2 séance du 13 janvier 2011, in J.O., Compte rendu intégral du 14 janvier 2011, p.187. 69 CAC指数40社の取締役の女性比率は,2010年 9月現在で15.3%である。フランスの民間企業団 体は,2010年4月19日に,ガヴァナンス・コード に取締役会の女性比率強化を導入した。Voir, Rapport d’information supra n.62, pp.10 et s. 70 すでに本文で指摘したように,家庭責任を女 性が多く負っていることから,可処分時間の点 で女性は男性より不利な状態に置かれている。 この構造を家庭責任における男女共同参画ない し別の方法によって変革できるかどうかという 文化次元の問題がある。総合的取組みが必要と なるであろう。「ガラス天井を壊す」だけでは, 「女女格差」 (橘木俊詔『女女格差』 (東洋経済新 報社,2008年)を参照)の批判に口実を与える だけに終わる可能性がある。 71 パリテ正当化の2つの論理については,糠塚 康江『現代代表制と民主主義』(日本評論社, 2010年)第4章を参照。 72 Avis de la commission générale de termino� logie et de néologie, in J.O., du 4 mars 2006 (joe_20060304_0054_0113[1].pdf) 73 Réjane Sénac-Slawinski, La parité,《Que saisje?》,PUF, 2008, p.102. 74 糠塚康江「フランス社会と平等原則」日仏法 学22号(1999年)70頁参照。 75 フランスにおけるPAの2つの態様について は,糠塚康江「フランスにおける平等概念とパ リテ」ジェンダーと法4号(2007年)81頁以下 を参照。 76 2003年7月の年金改革法は,年金額の算定に 際して醵出期間に育児加算を行う制度を含んで いたが,その対象者を「母親」に限っていた。 育児に携わった「父親」を差別していることを 理由に提訴されたが,憲法院は,男女別の統計 資料をもとにした比較によって, 「男女」間の不 平等の補償措置として,育児加算制度を合憲と 判断した(Décision no 2003-483 DC du 14 août 2003) 。本判決については, 糠塚・注5)55-61 頁を参照。 77 この点については,糠塚・注71)を参照。 78 国際女性の地位協会編『コンメンタール女性 差別撤廃条約』 (尚学社,2010年)324頁[君塚 正臣執筆]参照。 ※ 参照したサイトの最終閲覧は,2011年1月30 日である。 87
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