絶賛を浴びた!“スイング・ザット・ミュージック”

WJF特別例会「サッチモとたどるジャズの歴史」<第4回>
絶賛を浴びた!“スイング・ザット・ミュージック”
TOP プレーヤー15人で編成されたビッグバンドが熱演
「日本ではもちろん初めて。世界でもおそらく初めての試みでしょう」─ジャズ評論家の瀬川昌久さんが太鼓判をおし
た。日本ルイ・アームストロング協会の第43回例会は、何ともゴージャスな日本を代表する TOP プレーヤー15人で編成
されたビッグバンドによる「スイング・ザット・ミュージック」(1935~1945)。会場を満杯にしたファンの表情が輝いた。
「素晴らしい! スイング感がまるで違う」…感動の波はいつまでも来場者の脳裏に打ち寄せているに違いない。 「外
山喜雄・恵子夫妻がご案内するサッチモワールド ルイ・アームストロングとたどるジャズの歴史」は今回が4回目。前回
3回目が2007年1月に開催されてから何と1年9ヵ月ぶりの開催。そんなにもお待たせしたのには、こんなわけがあった
のです。外山夫妻の夢を凝縮させた、今回の例会を追跡!!
(文と写真、小泉良夫)
♪むかし、むかし浦島は助けた亀に連れられて…外山
「門外不出」といわれていたサッチモのビッグバンドの譜
夫妻は、“あの日”そんな心境で“龍宮城”(ニューオリン
面を手にした外山夫妻は、実はその日から“悪戦苦闘”が
ズと NY)を訪れたに違いない。出迎えたのは乙姫様なら
始まった。
ぬサッチモ!? 夫妻は月日のたつのも忘れてここで繰
「楽譜といっても、当時のものは、(水溶性の)ペンで書
り広げられていたジャズに没頭した。いつしか別れの日が
かれたもので、演奏されるたびに楽器から飛び散るツバ
来て、サッチモは「おお、これを土産に持って行きな」と、
で汚れてしまい、中には読めなくなった個所も沢山あるん
そっと夫妻に“玉手箱”を手渡した。「いったい何がはいっ
です」と。数少ない残されたレコードから楽器のパート別
ているのかしら
に採譜してそこをコツコツと補っていくことも進めた。「い
ん!?」
やあ頭の中がオタマジャクシでいっぱいになってしまいま
あ の 日 から 、
したよ」と、外山喜雄さんが悲鳴を上げた日もあった。恵
だいぶ歳月が
子 夫人は 、例会の 前日 、心労か知 恵熱か( 単なる風
経って21世紀
邪!?)、熱発してぐったりしていた。
を迎えたある日、
夫妻はその“玉
手箱”をそっと開けてみた。なかから白い煙がもくもくと上
「世界初の試み」瀬川さん絶賛!
武田さんの名司会で幕が開き…
がって二人はみるみるお爺さんとお婆さんに…いや、ホ
そして迎え
ントの話。でも、玉手箱の底には、パンドラの匣(はこ)の
た当日。「これ
底に残された「希望」ではないけれど、サッチモが率いた
はすごい試み
ビッグバンドの“幻の譜面”(写真上) が忍ばせてあったの
です!」と解
でした。「やってみよう! サッチモのほかには、これを実
説を心から喜
現したバンドなんてないんだ!」…夫妻はこれに夢を託し
んでくださっ
た。
2008年10月29日、東京・神田駿河台(お茶の水)のア
たジャズ評論
写真左から武田さん、瀬川さん、外山夫妻
家の瀬川昌久
テネ・フランセ文化センターで開催された例会には、そん
氏が元気な姿を見せる。司会者は友情出演で夫妻ともど
な秘話が隠されていた。NY のサッチモハウス博物館の
も遠路、長野から駆け付けてくれた人気パーソナリティー、
武田徹さん(元信越放送)。武田さんは、この会報の編集
1曲目から乗りまくる外山さんに司会の武田さんは「外山
長、山口義憲さんとは同郷で「中学、高校、大学、早稲田
さん、当時のサッチモは、まだ32か3ですよ。外山さんは
ニューオリの同窓生」なのです。さすがプロ中のプロ、ハ
○×なんですから…」と心配顔。「大丈夫です、何かあり
ナから爆笑を誘う。
ましたらあちらに中村宏先生(防衛医大名誉教授でジャ
「この会場にはエレベーターが
ズ評論家=WJF 賛助会員)がい
ないんですねえ。東京にまだこん
らしていますから」と外山さん(笑
なところがあったんですか? 4階
い)。
まで階段を上ってきました。会場
外山夫妻は4年ほど前にパリ
に来ると、皆さん私よ りも年輩の
へ行って、ここでもサッチモの足
方々ばかりが多いようで、ここまで
跡をたどっている。サッチモが滞
昇ってくるのに大変だったでしょ
在したホテル、部屋もそのまま残
う! いやあ、私もいい運動になり
されている。今回はプロジェクタ
ましたよ」
ーとノート PC も駆使したスライド
緊張が一気にほぐれて温かい空
でもサッチモを追う。
気が蔓延する。なるほどご年輩の方も少なくありませんね
え (写真右上) 。会場は補助席も用意され160席。すべて
予約客で満席、当日売りなし!
「ルイはスイートな曲も好きなのです。
スイング時代もまた凄い」と瀬川さん
こうして午後6時半、オープニングの幕が上がる。「この
1935年、ニューヨークに戻ったサッチモの演奏は、編
時代のルイのビッグバンドはあまり高い評価はされていな
成も大きくなり(15、6 人)、パリで受けた影響から取り上げ
かったのですが、今回、外山さんから CD も沢山お借りし
る曲にも変化が…流行歌、ハワイアン、ラテン音楽とレパ
て改めて聞いてみたんです。い
ートリーが広がる。小さな竹の橋、
やあ驚きました、ビッグバンドも
ラ・クカラチャ、リンゴの木の下で、ス
素晴らしい!」と絶賛する瀬川
ワニーリバーが CD で紹介される。ス
さん。それらの演奏が、オリジナ
ペシャル・サッチモ・ビッグバンドの
ルの譜面から“世界初”の試み
演 奏 は 『 恋 の 気 分 で ( I’m in the
として再現されることになったの
mood for love)』、そして『夕日に赤
だ。15人編成、名づけて外山
い帆(Red sails in the sunset) 』。「ル
喜雄とスペシャル・サッチモ・ビ
イはこんなスイートな曲もすきだった
ッグバンド!!
んですね」(瀬川さん)
翌36年、サッチモにハリウッド映画
スライド、映像でもサッチモを追う
負けずに乗りまくった外山さん…
初出演のチャンスが到来する。ジミー・ドーシー楽団ととも
まずは外山さんの採譜による『ダイナ (Dinah)』。ビッグ
クロスビーらと出演した映画『上流社会』より20年前のハリ
バンドの演奏を聴いて、それをパート別の譜面に作ってし
ウッド・デビュー。この映画のさわりを上映。サッチモはこ
まうなんて!素人の私には想像もつかないこと。演奏の
のころ黒人教会やゴスペル・ソングからヒントを得た曲も録
前にデンマーク映画『コペンハーゲン・カルンブルグ』の
音している。ジミーさんの牧師の物まね、バンドのコーラス
中のサッチモ・ビッグバンドの演奏する『ダイナ』が映し出
も入れて『モーゼ爺さん(Ol’ man Mose)』。そして、38年
される。そう、当時サッチモは、シカゴとニューヨークのギ
には同じくゴスペルから『聖者の行進(When the saints go
ャングたちの板挟みにあって、一時ヨーロッパに“避難”し
marchin’ in)』の歴史的な初録音。これも外山さんの採譜
ていた。「パリなどで新しい文化に触れて、ルイのエンタ
でビッグバンドが熱演する。「世はまさにスイング時代に
ーテインメント性も育まれたのでしょう」と瀬川さん。外山さ
入りましてね。ベニー・グッドマンも出てきて、みんながス
んには、だんだんサッチモが乗り移っていく。なんかジェ
イングを争ったんです」(瀬川さん)。今回の例会のタイト
スチャーまで似てきたぞ。恵子さんはバンジョー(写真上) 。
ルにもなった『スイング・ザット・ミュージック(Swing that
に出演した『戸棚の骸骨(Skelton in the Closet)』。ビング・
music)』映画のシーンが映し出されたあと、ビッグバンドの
演奏。サッチモのスイングの凄さ! 一気に盛上がったと
感動!いうことなしの2時間
外山夫妻の長年の夢も実現
玉手箱から飛び出したこれらの演奏は、『捧ぐるは愛の
ころで第1部終了。
例会“皆勤”のみなみらんぼうさん
「サッチモに病みつきになりました」
み(I can’t give you anything but love)』『アイム・コンフェ
さあ第2部をあけましょう。冒頭、もうこの例会は“皆勤”
に吹いている。まさにサッチモが乗り移っています。この
のみなみらんぼうさんがこの日もお見えになっていて、司
あと紹介されたエピソードによると、あのグレン・ミラー楽
会の武田さんに呼ばれてステージへ(写真下) 。「昭和19
団の大ヒット曲『インザムード』も、当時のサッチモ・バンド
年の会で外山さんと出会い、外山さんの演奏を聴いてサ
のメンバーが作曲、サッチモも演奏しているとのこと。CD
ッチモに病み
で紹介され、皆さん、認識を新たにしたのか、深くうなずく。
つきになって
そして「ルイのソロの基本」(瀬川さん)という『バーベキュ
しまいました。
ー料理で踊ろうよ(Struttin’ with some barbeque)』、サッチ
いまでは毎日、
モのテーマ曲にもなった『南部の夕暮(When it’s sleepy
サ プリメ ント を
time down south)』、『レイジー・リバー(Lazy River)』と続き、
飲むようにサッ
『ユー・ラスカル・ユー(I’ll be glad when you’re dead you
チ モ を聴い て
rascal you)』…ご存知の方も多いんでしょうねえ、まあ、意
います」と。会
訳すると、「お前がおっ死んでしまえば、わしゃそんな嬉
場には、そんな方々ばかりが詰めかけていたので、これ
しいことはないよ、このバカ野郎」なんですって!? この
はおお受け。
乱暴なタイトルの曲(演奏はなかなかユーモラスで軽快に
この2部こそ外山さんがサッチモハウス博物館から貸し
ッシン(I’m confessin’)』。外山さんはホント気持ちよさそう
スイングしました)でフィナーレ!でしたが、とっておきのも
てもらった門外不出のフルバンド譜面。1938年から194
う一曲『セ・シ・ボン(C’est si bon)』が用意されていました。
4年ぐらいまでの間、サッチモ・ビッグバンドが実際に使用
感動の、いうことなしの2時間は幕を閉じる。またまた皆さ
した譜面だ。もうラッパから飛び散ったツバのシミだらけ。
ん、玉手箱の煙で髪が白くなってしまったなあ。それでも
ほとんど判読困難なものさえある。武田さんが出演者のイ
長年の夢をかなえた外山夫妻の表情は、いつになく晴々
ンタビューに回る。「見てください、これ。五線が消えてい
と明るい。ホッと肩の荷を下ろしたばかりのお二人に、み
るのもあるんです」と聞いた武田さん、「そんなところは、ど
なさん「いやあ、最高でした。素晴らしい。で、次の予定は
うするんですか!?」「ごまかすんです」「ほー、なるほ
いつですか」と浴びせかける。「いや、いや…」と、汗をぬ
ど! さすがプロですねえ」などとジョークのやりとりで笑
ぐうお二人、そう、皆さん、次が待ち遠しいんですねえ。
いを誘う。それにしても「こんなサッチモのビッグバンドの
(これは、えらいこっちゃ!)
CD はほんどない」(瀬川さん)そうですねえ。ということは、
ここにお出でになったファンは貴重なジャズの歴史を体
感したことになる。
スペシャル・サッチモ・ビッグバンド 出演のみなさ
ん
Tp&Vo:外山喜雄
Tp:数原晋、下間哲、坂口雄麿
Sax:猪目慎一、鈴木孝二、広津誠、
小林淑郎、森川信幸
Tb:片岡雄三、粉川忠範、松本耕司 B:
藤崎羊一 P&Bj:外山恵子
特別出演:ジミー・スミス (Drms,Vo)
解説:ジャズ評論家 瀬川昌久
企画・構成:外山喜雄
司会:武田徹(元信越放送 友情出演)
楽器族(ブラストライブ)の記事に取り上げ
られました。
http://wjf-links.up.seesaa.net/image/brass20tribe2020090120Satchmo20.pdf