造船・重機 2015年3月13日 担当: 岡田 栄司 ≫Summary 造船業の動向をみると、足元の操業度は低いものの、円安により円 ベースでの売上高が増加傾向にあることに加え、鋼材価格が軟化し Regional banks Industrial research Center ていることなどから利益率が改善方向に転じつつあり、明るさがみ られる。 一方、新規受注は、2014年半ばからの新騒音規制の適用に伴う駆け 込み需要の反動により、バルカーを中心に商談がほぼ休止状態とな っている。ただし、アメリカのシェールガス運搬用のLNG船の契約が 顕在化していることなどから、油送船(タンカー)に関しては落ち 込みが比較的軽微にとどまっている。 2015年度の受注を見通すと、企業業績が改善傾向にある国内オペレ ーターなどからの受注の増加が見込まれることに加え、海外船主に よる底値発注も予想される。そのため、新規受注は前年度比18.7% の増加を見込む。船種の内訳では、バルカーのウェイトが低下し、 タンカーにシフトすることが予想される。 ≫Overview ◆生産動向 造船業(船舶・同機関)の生産動向を生産指数(2010年=100、季調済) でみると、2014年中盤から指数が再び下げ足を速めている。直近の15年1 月は前月比1.1%低下の60.8で、およそ10年ぶりの低水準となった。足元 の造船業は著しい低操業状態にある。 ただし、今後に関しては、 造船(船舶・同機関)の生産・出荷指数(全国) 2010年=100、季調済 新造船発注ブーム時(2013年 ~2014年半ば)に契約した船 100 出荷 (3か月後方 移動平均) 舶の建造に着手する造船所が 多く、生産指数は徐々に上昇 していく可能性が高い。また 生産 75 後述するように、今後の操業 度向上を見据えて設備投資を 実施する造船所もみられる。 21 【2015年1月】 生産:60.8(前月比▲1.1%) 出荷(3か月後方移動平均):58.8(同▲12.0%) 50 . 2010年 12 11 10 11 12 出所:経済産業省「鉱工業指数」 13 13 14 14 15 15 ◆工事採算 の国際価格は、世界最大の鉄鋼生産国である中国 工事採算は、売り上げ面、コスト面ともに悪化 局面を脱して改善方向に転じつつある。 で過剰生産が続いていることなどを背景に続落し ており、今後の鋼材価格も引き続き弱含むとみら 売り上げ面をみると、足元で進捗している工事 れる。 が新造船価(船舶を建造する際の価格)のボトム 千円/トン であった2013年前後に受注した船舶であることな 千円/㌧ 16 厚鋼板と鉄鉱石価格(全国) 鉄鉱石輸入価格 (右軸) 120 どから、ドルベースの受取額1)は低迷している。 12 しかし、円安の進行により円ベースの売り上げは 増加しており、上場造船・重機企業の15年3月期 80 8 厚鋼板価格 (左軸) 第3四半期決算においても、多くの企業で造船部 40 門が増収となった。 4 厚鋼板(2015年2月):76千円/㌧(前月比▲1.3%) 鉄鉱石(2015年1月):10.7千円/㌧(同▲2.3%) 新造船価(バルカー) 60 0 0 . 12 2010年 13 11 10 11 12 13 出所:日本経済新聞社、財務省「貿易統計」 ケープ 40 14 14 15 15 なお、日銀「短観」 (2014年12月調査)において、 ハンディマックス パナマックス 造船・重機等(自動車を除く輸送用機械、全規模) の雇用判断D.I.が4四半期連続で「不足」超と 20 【2015年2月】 ハンディ:22.0百万㌦(前月比▲1.0百万㌦) ハンディマックス:26.0百万㌦(同▲0.8百万㌦) パナマックス:28.0百万㌦(同▲0.8百万㌦) ケープ:52.0百万㌦(同▲1.5百万㌦) ハンディ なるなど、造船業界において人手不足感が顕在化 しつつある。このため、業界内では今後、人件費 0 . 2010年 15 11 12 14 13 10 11 12 13 14 15 出所:Clarkson Research Studies「Shipping Intelligence Weekly」 百万ドル ◆新規受注 新造船価(タンカー) 次に新規受注(契約)の動向を輸出船契約実績 VLCC 100 がコストアップ要因となることが懸念されている。 でみると、2014年7月以降、新たな船内騒音規制 80 の適用2)に伴う駆け込み需要の反動により、大幅 スエズマックス な前年割れが続いている。直近の15年1月は隻数 60 40 20 Regional banks Industrial research Center 百万ドル アフラマックス 【2015年2月】 VLCC:96.5百万㌦(前月比±0.0百万㌦) スエズマックス:65.0百万㌦(同±0.0百万㌦) アフラマックス:53.5百万㌦(同±0.0百万㌦) も同17.4%減の118.1万総トンと、ともに前年を大 幅に下回った。 0 . 2010年 11 12 13 10 11 12 13 出所:Clarkson Research Studies「Shipping Intelligence Weekly」 ベースで前年比53.8%減の12隻、トン数ベースで 14 14 15 15 駆け込み需要発生後の14年7月~15年1月の累 計契約隻数は前年同期比57.7%減の94隻となった 一方、コスト面をみると、人件費の上昇懸念は が、船種別にみると、バルカー(ばら積み船、同 根強いものの、円安に伴う損失引当金戻し入れの 60.2%減)と貨物船(同80.0%減)が大幅に減少 増加や鋼材価格の軟化などを背景に、利益率は改 する一方で、油送船(同10.0%減)は小幅な減少 善傾向にある。 にとどまり、明暗が分かれている。 鋼材(造船コストの2~3割を占める)価格は、 バルカーに関しては、後述のとおり足元の運賃 15年2月の厚鋼板の価格が前月比1.3%低下の76 の低迷に加え、13年前後に大量発注された新造船 千円/㌧と6か月ぶりに低下するなど、水準は高い が今後逐次市場に投入され、船腹需給の緩和が当 ものの弱含みで推移している。原料となる鉄鉱石 面続くとの観測から、海外投機筋を中心に発注意 欲が減退していることが大幅減の要因である。 1)日本船舶輸出組合によると、2014 年4月~2015 年1月の輸出船 契約実績(トン数ベース)のうち、円建契約が 14.6%、円・外貨 ミックスが 4.5%、外貨建が 80.9%となっている。 2)船内の騒音を規制する国際ルール。2014 年7月1日以降に建造 契約を交わす新造船に適用されるようになった。 22 21 一方、アメリカのシェールガス運搬用のLNG船の ◆海運市況 契約が徐々に顕在化していることなどから、油送 新造船価の動向を左右する海運市況の動きをみ 船(主にタンカー)の落ち込みは比較的軽微なも ると、鉄鉱石の輸送需要が減少していることなど のにとどまっている。 から、バルカーの運賃(期間用船料)は前年の水 隻 輸出船契約実績(全国) 80 【2015年1月】 契約実績:12隻(前年比▲53.8%) バルカー6隻、油送船6隻 契約㌧数:118.1万総㌧(同▲17.4%) 準を下回る弱い動きとなっている。今後も、船腹 油送船 需給の緩和が続くとみられるため、当面は底ばい 貨物船 での推移が見込まれる。 一方、タンカーの運賃は、原油価格の値下がり 60 により輸送需要や洋上備蓄需要が高まっているこ とから、高水準となっており、今後も、強含みで 40 その他 推移するとみられる。 万ドル/日 4 運賃(バルカー) 【2015年2月】 ハンディ:0.7万㌦/日 ハンディマックス:0.8万㌦/日 パナマックス:0.8万㌦/日 ケープ:1.1万㌦/日 バルカー 0 . 2010年 11 10 11 出所:日本船舶輸出組合 13 13 12 12 14 14 15 15 ハンディマックス 低調な新規受注を背景に、輸出船の手持工事量 は緩やかに減少している。直近の15年1月は前月 2 ケープ パナマックス 比1.9%減の2,774万総トンとなった。もっとも、 その水準は直近のボトム(13年2月)と比べると 13.0%高く、大半の造船所は当面の手持工事量を ハンディ 0 確保している。 百万総トン 1 year timecharter market . 2010年 11 12 13 14 10 11 12 13 14 出所:Clarkson Research Studies「Shipping Intelligence Weekly」 輸出船手持工事量(全国) 60 【2015年1月】 手持工事量:2,774万総㌧(前月比▲1.9%) 万ドル/日 8 40 27.7 24.5 15 15 運賃(タンカー) 【2015年2月】 Tanker spot market average earnings VLCC:4.5万㌦/日 VLCC スエズマックス:4.7万㌦/日 スエズマックス アフラマックス:3.6万㌦/日 Regional banks Industrial research Center 20 6 20 4 0 . 2010年 11 10 11 出所:日本船舶輸出組合 12 12 13 13 14 14 15 15 2 足元の新造船価も、新規商談がほぼ休止状態と なっていることから弱含みで推移している。バル カーに関しては、15年2月のケープサイズの船価 が52.0百万ドルで、直近のピーク(14年5月)と 比べて10.3%低い水準となっている。タンカーも、 アフラマックス 0 . 2010年 12 11 13 14 15 10 11 12 13 14 15 出所:Clarkson Research Studies「Shipping Intelligence Weekly」 原油価格の下落に合わせて船舶の燃料に用いら VLCC(大型原油タンカー)を中心にやや弱い動き れるバンカー(船舶燃料用C重油)の価格も大幅 となっている。 に下落し、足元でトン当たり約400ドルと前年同期 今後も、バルカーに関しては引き続き下落基調 のおよそ半値となっている。円安と併せて日本の をたどるとみられる一方、タンカーに関しては、 海運業者や船主の経営環境は改善傾向にあり、今 一部で商談が活発化していることや、運賃が上昇 後、タンカーを中心に新造船発注や代替建造(リ トレンドにあることなどから、新造船価が上昇に プレース)意欲が増大すると期待される。 転じる可能性が高い。 23 21 120 100 600 80 バンカー価格 (左軸) 400 まず、日米の金利差拡大観測を背景にドル円相 円/ドル バンカー価格とドル円相場 ドル円相場 (右軸) 場が円安トレンドをたどる見通しであることに加 え、原油価格の低迷に伴いバンカー価格も低水準 で推移するとみられる。その結果、国内船主やオ 60 40 200 20 0 ペレーターの業績改善が続き、リプレース案件を 中心に投資マインドも持ち直す展開となろう。 また、足元ではほぼ途絶えている投機筋を含め 0 . 2010年 11 10 11 注:いずれも月中平均値。 13 13 12 12 14 14 た海外からの発注に関しても、バルカーを中心に 15 15 出所:日本銀行、日本経済新聞社 新造船価が引き続き弱含みで推移するとみられる ◆設備投資 ことから、底値をねらった投機的な発注が再び顕 日銀「短観」 (2014年12月調査)によると、造船・ 在化する可能性が考えられる。 重機等(自動車を除く輸送用機械、全規模)の設 以上のことから、当センターでは、15年度の輸 備判断D.I.(「過剰」マイナス「不足」)は▲3 出船契約隻数を前年比18.7%増の318隻と予測し となり、2四半期連続で「不足」超となった。足 ている。 元の操業度は低いものの、今後の操業度改善が見 隻 輸出船契約隻数の実績と予測 600 込まれることから、設備の不足感が顕在化しつつ あり、設備投資計画を公表する造船所も一部にみ 476 430 400 られる3)。 日銀「短観」の設備判断D.I.(造船・重機等(全規模)、全国) 生産・営業用設備「過剰」-「不足」、 回答社数構成比、%ポイント 予測→ 576 542 336 418 321 330 318 302 268 198 196 200 119 20 0 2002 03 年度 10 0 ▲3 -10 ▲2 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 注:2014年度と2015年度は地銀連携産業調査センターによる予測値。 出所:日本船舶輸出組合資料より当センター作成 受注船種の内訳では、船腹需給の緩和や運賃の 下落トレンドが続くとみられるバルカーのウェイ -20 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 2008年 09 10 11 12 13 14 15 注:造船・重機等は自動車を除く輸送用機械。2015年3月は見通し。 出所:日本銀行「短観」 Regional banks Industrial research Center ドル/トン 800 トが低下する一方で、原油輸送需要の増加に合わ せて船腹需給がひっ迫しつつあるVLCCや、シェー ルガス運搬用として需要が増加しているLNG船な ≫Forecast ◆2015年度の新規受注は前年比18.7%増を見込む 足元で多くの造船所が2~3年分の手持工事量 を確保し、無理な受注を手控えていることもあり、 2014年度後半から新規受注は大幅に減少した。そ の結果、14年度の新規受注は前年度比35.9%減の 268隻と、大幅な前年割れで着地する見通しである。 続く2015年度の新規受注を展望すると、国内の オペレーターや船主からリプレース案件や、海外 の投機筋からの底値発注の増加により、再び増加 ど、タンカーの割合が増加すると予想される。 なお15年度においても、14年度の船内騒音規制 と同様に新共通構造規則(H-CSR)4)と窒素酸化物 (NOx)3次規制5)という2つの新たな規制が適用 される。2015年6月までに建造契約を交わし、16 年1月までに起工する船舶にはこれらの規制が適 用されないため、規制回避をねらった駆け込み需 要が夏場にかけて一定程度発生すると想定される。 ただし、その後の反動減も勘案すると、15年度を 通した受注隻数に与える影響は限定的とみられる。 に転じると予想される。 3)具体例として、業界最大手の今治造船は 400 億円を投じてメガ コンテナなどの超大型船の建造に対応できる大型ドックを新設す る。また、三井造船はエコシップや海洋資源開発分野の受注拡大の ため、大型クレーンの増設や自動化設備の導入を予定している。 4)バルカーとタンカーのそれぞれの国際的な船体構造に関するル ール(CSR)を調和化した新ルール。 5)排出規制海域(ECA)において、NOx 排出量を1次規制と比べて 80%削減することを義務付ける規制。 24 21
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