TIJ寄附講義「ツーリズム産業論」 戦略的観光マーケティング 株式会社ツーリズム・マーケティング研究所 高松 正人 [email protected] Masato Takamatsu 1 マーケティングの定義 フィリップ コトラー 「個人と組織の目的を満たすような交換を生み出すために、ア イデアや財やサービスの考案から、価格設定、プロモーション、 そして流通に至るまでを計画し実行するプロセス」 『コトラーのマーケティング・マネジメント ミレニアム版』(2001) 「どのような価値を提供すればターゲット市場のニーズを満た せるかを探り、その価値を生み出し、顧客に届け、そこから利 益を上げること」 『コトラーの戦略的マーケティング』(2000) ピーター ドラッカー 「マーケティングの狙いは、顧客というものをよく知って理解し、 製品が顧客にぴったりと合って、ひとりでに売れてしまうように すること」 『マネジメント』(1970) Masato Takamatsu 2 1 マーケティングのキーワード 9 プロセス 9 ターゲット市場、顧客 9 目的・ニーズ 9 価値 9 届ける、流通 Masato Takamatsu 3 観光地のマーケティング 誰に × 何を × どのように (市場・顧客) (商品・サービス) Masato Takamatsu (流通) 4 2 観光マーケティングのステップ 1.1 1.2 ターゲットとするマーケットと顧客を特定。(ターゲット市場・顧客) ターゲットとするマーケットの顧客ニーズ・ウォンツを把握。(目的・ニーズ) 2.1 地域の観光資源や観光素材を再検証(再発見)。 3.1 競合状況を含めて、当地の観光を取り巻く環境を把握。 4.1 4.2 地域のSWOT 分析 顧客ニーズを満たし、かつ経済効果につながる地域特性や機会を抽出。 5.1 地域性を活かし、顧客ニーズを満たす観光商品を開発。(価値) 6.1 6.2 6.3 6.4 具体的なマーケティング計画を策定し、実行。 適正利益が得られ、顧客が納得する価格 流通・決済のしくみ ターゲット市場の特性や動向を踏まえた、効果的かつ効率的なプロモーション Masato Takamatsu 1.1 5 ターゲットとするマーケットと顧客を特定 ターゲットとするマーケットはどこだ? – あなたの地域にとって、主要なターゲット市場は? • 従来・現在 • 今後の可能性 Masato Takamatsu 6 3 1.1 ターゲットとするマーケットと顧客を特定 顧客(となりうるセグメント)は誰だ? 顧客(となりうるセグメント)は誰だ? – ターゲット市場からあなたの地域に来ていただきたいのは、どの ような人たち(セグメント)か? • • • • • • • • • • 小中学生連れのファミリー 乳幼児連れのファミリー 新婚旅行・現地挙式 カップル 女性グループ(アラサー・アラフォー・アラフィフ) 団塊・シニア 学生・若者 修学旅行 ダイバー MICE(インセンティブ旅行・コンベンション・国際会議) Masato Takamatsu 1.2 7 マーケットの顧客ニーズ・ウォンツを明らかにする ターゲットセグメントの人たちがあなた地域を訪れるとしたら、それぞ れ期待し、価値を置くもの(観光、食、体験等)は何か? セグメント別のニーズとウォンツ ターゲットセグメント ニーズとウォンツ 小中学生連れのファミリー 乳幼児連れのファミリー 新婚旅行・現地挙式 修学旅行 女性グループ 団塊・シニア Masato Takamatsu 8 4 ターゲット市場や顧客の動向をどのように把握するか? 統計による把握 – 観光客入り込み数 – 観光消費額 – 観光行動、訪問地、満足度、再訪意向 マーケティング調査 – ターゲット市場での調査 • • • • 対消費者 対旅行流通 対マスコミ 統計・既存調査 アンケート、インタビュー インタビュー、パンフレット・ウェブサイト、広告 編集者インタビュー、記事、番組 白書類、国民の観光動向、 – 来訪観光客に対するアンケート調査 – 来訪観光客を観察し、インタビューする Masato Takamatsu 2.1 9 地域の観光資源や観光素材を再検証(再発見) あなたの地域には、観光客をひきつける観光資源があり ますか? – – – – – – – – – – 自然・景観の美しさ、動植物 歴史的・文化的遺産 郷土文化・美術、伝統工芸、祭り 郷土のグルメ ビーチ、マリンスポーツ 都市、ショッピング 人々、地域とのふれあい、 体験プログラム 町並み 高級リゾートホテル Masato Takamatsu 10 5 2.1 地域の観光資源や観光素材を再検証(再発見) あなたが観光振興しようとする地域には、どのような観光 資源がありますか? Masato Takamatsu 2.1 11 地域の観光資源や観光素材を再検証(再発見) • それは、あなたの地域独特のもの (Unique)ですか? ですか? それは、あなたの地域独特のもの(Unique) • それは、競合観光地が提供する観光商品より魅力的です か? Masato Takamatsu 12 6 3.1 観光を取り巻く環境を把握 あなたの地域と競合する観光地は? – ターゲットとする市場の観光客がよく訪れる他の観光地 – あなたの地域に行くことを検討している観光客が比較する地域 – あなたの地域と同じような観光資源や観光商品を提供する地域 Masato Takamatsu 4.1 13 SWOT 分析 組織(企業・事業部・団体)の事業に影響をもちうる外部・内 部要因を明らかにして、それをもとに経営・事業戦略を考え るための経営分析手法⇒これを観光に応用 – 地域の 強み(Strengths), 弱み(Weaknesses), 機会(Opportunities), 脅威(Threats) を分析 – 観光振興の環境や観光資源・商品に焦点を当てて考える ことができる。 – 地域の観光戦略の方向付け・見直しの指針となる。 Masato Takamatsu 14 7 SWOT 分析の事例 プラス要因 マイナス要因 国・ 地域(内部) 環境・市場( 外部) Strengths(強み) Weaknesses(弱み) 多様な観光資源 独特な文化 穏やかな気候、四季の変化 安全・安心 ショッピングの魅力 世界の主要市場からのアクセス利便性 滞在費が高い 言語の壁 観光情報の提供の不十分さ 首都空港の発着枠・運用時間制限 GDPに対する観光予算の低さ 観光人材の不足 Opportunities(機会) Threats(脅威) アジアの人々の同国文化への興味関心 アジア・太平洋地域の旅行市場の成長 国の成長戦略としての観光の位置づけ マーケティング活動で成果を上げ ている周辺競合国の存在 周辺国に比べて高い同国通貨 Masato Takamatsu 15 SWOT 分析⇒戦略検討の事例 Strengths(強み) Strengths(強み) Weaknesses(弱み) Weaknesses(弱み) 多様な観光資源 独特な文化 穏やかな気候、四季の変化 安全・安心 ショッピングの魅力 世界の主要市場からのアクセス利便性 滞在費が高い 言語の壁 観光情報の提供の不十分さ 首都空港の発着枠・運用時間制限 GDPに対する観光予算の低さ 観光人材の不足 Opportunities(機会) Opportunities(機会) アジアの人々の同国文化への興味関心 アジア・太平洋地域の旅行市場の成長 国の成長戦略としての観光の位置づけ 機会 × 強み (強みによって、 機会を最大限に活用) 機会 × 弱み (弱みによって、 機会を逃さない ) 脅威 × 強み (強みを活かして、 脅威による悪影響を回避) 脅威 × 弱み (弱み・リスクの最小化で 脅威をできるだけ回避) Threats(脅威) Threats(脅威) マーケティング活動で成果を上げている 周辺競合国の存在 周辺国に比べて高い同国通貨 Masato Takamatsu 16 8 4.2 顧客ニーズを満たし経済効果につながる地域特性や機会 差別化:競合する地域と自分の地域を差別化する。 – 世界中のビーチリゾートでは、‘unparalleled white sand, clear water, fresh sea food’を売り物にし ているけれど、何がどう違うの? – 日本の各地に「そば打ち体験」や「紙漉き体験」を売り にする地域があるけど・・・ – ターゲット層にアピールするような他の地域との違い を明らかにせよ。 – 「ナンバーワンになろうとするな、オンリーワン オンリーワンになれ」. Masato Takamatsu 4.2 17 顧客ニーズを満たし経済効果につながる地域特性や機会 地域独特のもの= オンリーワン ¾ 日常の生活風景が地域独特の観光資源になることだってある。 1.ベトナム 国内には4つの世界遺産があるのに、日本人観光客をひきつけてい るのは、ホーチミンやハノイの街歩きと「ザッカ」の買い物、ベトナム料 理、昭和30~40年代の日本を思わせるノスタルジックな田園風景。 2.フィンランドのオーロラ かつてフィンランド北部の田舎町の人々は、冬になれば毎晩見られる オーロラのようなあたりまえのものを見に、遥か彼方の日本から観光 客がわが町を訪れるなどと夢にも思っていなかった。 Masato Takamatsu 18 9 4.2 顧客ニーズを満たし経済効果につながる地域特性や機会 地域独特のもの= オンリーワン ☝ あなたの地域にしかないもの ☝ その「差別化」要因 Masato Takamatsu 5.1 19 顧客ニーズを満たす価値ある観光商品の開発 観光資源と観光商品 – 観光資源はそのままでは観光客を呼べない。観光資源から観光商品を 開発する必要がある。 – 観光資源 • 観光商品になる可能性をもつもの • 本来観光とは無関係に存在しながら、その美しさ、珍しさや価値の高さなど の故に人々が訪れる、つまり観光するようになったもの 例)美しい自然・風景、由緒ある社寺など歴史・文化遺産、郷土料理・芸能 • 「観光資源」の種類 (1)「自然観光資源」…自然の手によるもの。 例)山岳・海岸・植物・自然現象など (2)「人文観光資源」…「有形人文資源」と「無形人文資源」。 例)史跡・社寺、年中行事など Masato Takamatsu 20 10 5.1 顧客ニーズを満たす価値ある観光商品の開発 観光商品 – 観光商品とは、観光資源を含めそれに付随するその他観光素材を組み合 わせ、一つの複合商品として一定の価格をもって市場に登場するもの。 – 観光商品は、商品そのものの生産過程を経て生産されるのではなく、各種 の観光関連の素材を組み合わせ、それに観光サービスを付加するという 二段階を経て生産される複合商品である。 観光商品=観光資源+他の観光素材+付加価値 (観光サービス) 例) – 自然 – 町並み – 歴史遺産 – 郷土料理 ⇒インタプリター付のエコツアー ⇒地域に詳しいガイド ⇒アクセスの整備、歴史背景の説明 ⇒観光客が利用できる施設での提供 *これに流通のしくみが加わらないと、売れる商品になりにくい Masato Takamatsu 5.1 21 顧客ニーズを満たす価値ある観光商品の開発 わか者、ばか者、よそ者を巻き込め – わか者 わか者 行動力のある人(肉体年齢には関係ない) – ばか者 自分の仕事を後回しにしてでも、地域の観光 のために先頭になって走り回る人 – よそ者 地域をマーケットや競合の視点で客観視し、 わか者やばか者に助言・指導できる人 わか者やばか者に助言・指導できる人 Masato Takamatsu 22 11 オンリーワン+ばか者 地元の人にとっては当たり前のことが、観光客にとっては この上もなく魅力的だったりもする。 キーワードは、”Only One” 「しずむ夕日が立ちどまるまち 」愛媛県双海町(現、伊予市双海) 「他の市町村を見習わない。見習ったら規 模の大小の勝負になる。オンリーワンなら、 自分たちの汗と知恵があればできる。」 Masato Takamatsu 23 写真:www.mlit.go.jp/ 観光庁観光カリスマ オンリーワン+ばか者 地元の人にとっては当たり前のことが、観光客に とってはこの上もなく魅力的だったりもする。 リンゴや梨の摘花・摘果や収穫作業、干し柿の収穫、皮むき、吊しなど、短 期間で作業を終わらせることが必要であるが、人手の確保が出来ないとい う、農家の声をヒントとして生まれた。 「飯田市の都市農村交流の最終目標は、農業そして集落が元気を取り戻 すことにある。都市にこびない。むらの豊かさと魅力を、都会へおすそわけ する」 (井上弘司) 南信州観光公社(長野県飯田市) 写真:www.mlit.go.jp/ 観光庁観光カリスマ Masato Takamatsu 24 写真:南信州観光公社ホームページ 12 6.3 流通のしくみ どんなに魅力的な観光商品でも、流通しなければ、その 商品は存在しないに等しい。 – – – – – – 観光商品の魅力を消費者に知らしめる(プロモーション)手段 ターゲットとするマーケットに応じた販売チャネル 旅行者がその商品を確実に体験できる(予約)しくみ 予約した内容を取り消したり変更したりする手段 観光商品の価値に見合った価格 旅行者が払ったお金を、商品提供者が確実に受け取れる(決済) しくみ + 取り消し・変更の場合の返金 – 販売チャネルが報酬を得るしくみ Masato Takamatsu 6.3 25 流通のしくみ 流通がうまく機能していない例: – 自治体の補助でパンフレットは作ったけれど、予算が足りないので、旅 行会社等への配布はしていない。 – ホームページを作ったがアクセスがほとんどない。 – 観光客が現地での体験プログラムの話を聞き、興味をもって参加したい と思ったが、どこで申し込んだらよいかわからない。 – お客様から予約の問い合わせがあったけど、その日はみんな本業で忙 しくて対応できないので、予約を断った。 – おもしろそうな内容だが、この料金を払うのだったら、他にもっと魅力的 な観光商品があるので、そちらにした。 – ツアーに観光商品を組み込みたいので、バウチャー精算方式にしてくれ と旅行会社から言われたが、やりかたがわからない。 – 村の事業なので、手数料(リベート)なしでやっているが、旅行会社も観 光タクシーの運転手もなかなか送客してくれない。 Masato Takamatsu 26 13 6.4 観光プロモーション活動 デスティネーションのプロモーション活動 消費者 旅行会社 メディア 情 報 便宜 その他 パンフレット、ウェブサイト ガイドブック・地図 インフォメーションセンター セミナー・旅行フェア トラベルカフェ 広告宣伝(電波・印刷・交通) エージェント・マニュアル モデルプラン フォトギャラリー 旅行会社用サイト ニューズレター トレードショー・セミナー プレスレリース 記者会見・記者懇談会 プレスキット 画像提供 会員組織(CRM) 共同キャンペーン 顧客への招待状 手配サポート ファムトリップ、優待提供 取材旅行・ファムトリップ 取材サポート フィルムコミッション モニターツアー 宣伝費補助(パンフ、広告) ツアー企画コンテスト 表敬訪問 観光大使 Masato Takamatsu 6.4 27 コミュニケーションとプロモーション 「顧客のことば」を使う 海外にプロモーションをする場合に、その国の言葉(自然 言語)を使うのは当然・・・ 「社会的言語」で観光地の価値を伝えることは、マーケッ トの言語を使うことと同様に重要。 – 一人旅、家族旅行、カップル、シニア夫婦、修学旅行、企業の招 待旅行担当者: それぞれが使う「社会的言語」は異なる。 – それぞれのターゲット層の興味を引くことばで情報提供する。 – 政府観光局の中には、マーケット×ターゲットごとに異なるプロ モーションツールやウェブサイトを用意している。 Masato Takamatsu 28 14 6.4 コミュニケーションとプロモーション アジア各国の観光ウェブサイトで使われている言語 日本 韓国 香港 タイ ○(国際、 ○(国際、英、米、加、 アジア) 豪、 NZ、ASEAN) 英語 ○ 中国語(繁) ○ ○ ○ ○ 中国語(簡) ○ ○ ○ ○ 韓国語 ○ ○ ○ ○ タイ語 ○ ○ ○ ○ フランス語 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ドイツ語 ○ ○ ○ ○ ロシア語 ○ イタリア語 スペイン語 ○(香港、英、米、星、豪、北欧) ○ ○ ○ ○ ○ ○ 日本語 ○ ○ ○ ○ その他の 言語 ポルトガ ル アラビア、 トルコ マレーシア、オランダ ベトナム、マレーシア、ギリシャ、ヘブライ、ポル トガル、オランダ、オランダ(ベルギー)、ルーマ ニア、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク Masato Takamatsu 6.4 29 コミュニケーションとプロモーション 「距離と期待の法則」 空間的・時間的・心理的に遠い目的地に行くときは、そこでの観光体 験により大きな期待を持つ 近距離 期待 市場 期待 長距離 Masato Takamatsu 30 15 6.4 コミュニケーションとプロモーション どこまでの範囲をひとつの‘目的地(Destination)’として認識 するかは、出発地(マーケット)がどこであるかによって異なる。 出発地と目的地の距離が長いほど、「目的地」の範囲は広く なる。(ラケットの法則) Masato Takamatsu 31 遠くに旅行すればするほど 「目的地」の範囲は広くなる。 Masato Takamatsu 32 16 旅行距離が近いほど 「目的地」の範囲は狭くなる Masato Takamatsu 33 ソウルから見ると、東京、大阪、福岡、沖縄 はそれぞれ異なる「目的地」 Masato Takamatsu 34 17 シンガポールから見ると、 西日本に韓国を加えたエリアや、 沖縄と台湾がひとつの「目的地」となる。 Masato Takamatsu 6.4 35 コミュニケーションとプロモーション 遠い市場をターゲットとする場合は、周囲の地域と連携したプ ロモーションが有効 • 九州観光推進機構 広域連携の事例 – 九州7県+JR九州+主要旅行会社+航空会社で設立 – 九州をひとつのデスティネーションとしてプロモーション 他地域でも広域連携の動き *「観光圏」の法制化 – – – – 東北観光推進機構 北海道観光推進機構 メルコスール観光局(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ ) GMS(Greater Mekong Subregion: ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、 ミャンマー、中国雲南省) Masato Takamatsu 36 18 質問・コメント等 Masato Takamatsu 37 19
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