大規模情報システム開発の リスク管理 2011.5.14 元日立システム 名内 泰蔵 情報システムのリスクについて 1.リスキー情報システム 曖昧要件システム その他のリスキー情報システム 2 情報システム開発リスク 3.情報システム稼働開始後のリスク 事故(ハード、ソフト)リスク 操作ミスリスク システム維持リスク 制度変更(法律、制度、等)リスク 時リスク(人事異動等) 意図的不正リスク(省略) 1,1曖昧要件システム(ユーザ調査の概要) JUAS 10調査(500人月以上178件) Q:30%不満、C:43%超過、D:44%遅延 要件定義×:○、で失敗度は約2倍(QCDともに) 日経コン 08 調査(赤字:03) QCD成功率 RFP記述 3 31.1%(26. 7%) 37.4%(20. 4%) Q失敗最大理由;要件定義不十分(36.7% ;テスト、移行問題(41.7% C失敗最大理由;追加開発 (58.9% D失敗最大理由;要件定義遅れ (43.6% 35.9%) 21.9%) 65.5% ) 37.7%) 4 5 曖昧の三角関係 客 客 200M¥ ↑ 50M¥ 50M¥ RFP ↑ 100M¥ 6 V V C C 金だけが 勝手に競争 曖昧ビジネス 1,1曖昧要件システムのリスク軽減(1) 見積もり条件書の充実 • 提案仕様、見積もり条件書の最大限記述 • 現存仕様の最大活用 • 標準パッケージの最大活用 • 定量的条件の記述、FPパラメータ等 画面数、帳票数、バッチ本数など • 想定非機能要件の定義 トラッフィク量、許容ダウンタイムなど 曖昧要件(仕様)で受注したら • 見積仕様の徹底説明、顧客意図との差の早期発見 • 差が過大であれば、契約の見直し 1,1曖昧要件システムのリスク軽減(2) 段階契約の提案 • 仕様確定の為の派遣(準委任)契約と確定後の 請負契約に分けて「馬鹿の壁」の除去 目標予算枠を設定(想定)して仕様確定に参加 • 段階契約でも予算枠意識は必須 • 枠に合わせて「作るを減らす」提案 • 既存製品、パッケージ等の活用 システム構築の目的、基本思想の明確化と追及 目的、基本思想をベースに代案提示 (参考)要件定義を充実したユーザ事例 • 800ページのRFPを(U)に支援させ2ヶ月で記述 日本ミルクコミュニテイ、基幹シス刷新50億、4347人月 • RFP;大型ファイル3冊、 2,5月で纏めた 戸田建設、25年ぶり経理シス更改(日経コン;07/9/3) • RFP1500pを外部から50名支援を受け、2億かけて作成 東証売買システムArrowhead(10/1/4稼働2.2MS) 鈴木CIOの下、コンサル(H総研、F総研、アクセンチュ ア)の支援を受け、06/6 9記述、06/12,外注先Fに決定 07/1まで要件定義書1800P、更に外部設計書として 4000P記述、内部設計以降はF社に外注 9 1,2その他のリスキーシステム(1) • 未経験大規模システム 「一升枡に二升は入らぬ」:大規模とは経験規模の2倍 • 非現実的納期システム T(最適期間)=2.5(所要人月)1/3 , ¾T以下はdeath march pj (ベーム、人月の神話) • 未経験分野システム 「見たとなめたは大違い」 • 未経験開発技術、最新技術への盲信 「習わぬ経は読めぬ」 • 二兎追いシステム 「虻蜂取らず」(よいとこどり、、) • 飢えしのぎシステム 「餓えては食を選ばず」 1,2その他のリスキーシステム(2) • 目的不明確 「的のない弓は引かれぬ」 • 他社リプレース 稼動歴14年(08調査, 04:17年)あやしいドキュメント 結果確認の難しさ 納期遅延で前システムの契約期限切れ、稼動困難 契約解消リスク大 突き詰めれば不要システム 更改時に在来との差に対する現場クレーム • 他社パッケージの活用 短所、非機能要件など潜在リスクに気づかず パッケージの過剰カスタマイズ(R/3など) 「泥沼に 沈むしかない カ(過)スタマイズ」 • 自社パッケージの活用 無償仕様変更要求続出の心配 2.プロジェクト推進リスク 2,1プロジェクト推進リスクの基本要因 • 無計画 「朝に夕べを謀らず」 • 雑仕事 「四角な座敷を丸く掃く」 • 不適切な道具や手段 「塗り箸で素麺」 • 能天気 「備えなければ憂いなし(こじつけ)」 • 急ぎすぎ 「卵を見て時夜を求む」 2,2工程進捗リスク • 初期工程遅延 「一日の遅れは十日の遅れ」「時は人を待たず」 NTT−D岩井敏夫氏 SI力(日経BP) 遅れの取り戻しには遅れ日数の4倍かかる • 先にやるべきことを後からやる 「渇して井を穿つ」「火事後の火の用心」 • 遅れては何の意味もない絶対納期 「十日の菊、六日の菖蒲」 五輪大会システムなど • 空約束、進捗実態隠ぺい 「紺屋の明後日、医者の只今」 「隠すより現る」 工程進捗リスクの回避(1) • 部下に任せず、リーダ自身も工程設計 リーダの 戦略示せ 工程に 139 見えぬ先 読み取り描け 工程表 131 • 定量的進捗度の事前定義 物差しが なくては測れぬ 進捗度 136 定量的進捗管理企業(03:12.8%から 08:29.9%へ) 納期遵守率;定量管理企業が1.4倍高い(日経コン08/12/1) • 査定せず、定量的に進捗度報告 質よりも まず量で言え 進捗度 152 注:数字は拙著「一日一句」の番号 工程進捗リスク回避(2) • 工程は遅れ進みがあって当然と考える 工程に 遅れ進みは あるがよし 161 • 工程表は極力書き直さない 書きなおし すれば工程 常にオンスケ 162 オンスケと 言いたきゃ毎日 書き直せ • 質的管理はレビューで レビューせず 出来た出来たと よく言うよ 154 • 本音が言える進捗会議 追い込めば 我慢できずに 嘘が出る 160 2,3品質リスク • 曖昧要件定義が品質リスクの中心 36%の顧客が品質失敗の最大原因と言う • 複雑構造、美しくない設計 • テスト設計不良 (too late,too rough) • 「異常テスト>正常テスト」戦略の欠如 • レビュー不足、レビュー遅れ 的確指摘やアドバイスなし、出るのは非難とあくび • バグの偏在:露天掘りバグ(特定個所、特定個人) • 残存バグ認識不足:バグ半減法則 • 品質実態がつかめぬ厳しすぎるプロジェクト管理 非難、責任追及、能力評価 品質リスクの回避 (1)要件の明確化 曖昧要件の品質への影響 • ユーザの35.9%が要件定義不良を、Q失敗の理由 に挙げている。(03日経コン) • バグの50%以上は要求の間違い(べーム) • バグ原因の65%は要件関係(清水吉男) • 仕様変更が発生する理由(清水吉男) 顧客からの仕様変更7% 仕様漏れ記述漏れ47% 仕様補足22% 誤記17% 動作確認後の変更7% • 要件の間違いによるバグ修正費用 設計、Cに比し、5倍以上(べーム) 17 品質リスクの回避 (2)レビューの充実 ハンフリーの提案(「チームソフトウエア開発ガイド」) • • • • • 設計レビューで単体テストの2倍以上見つけよ 詳細設計時間の5割以上を詳細設計レビューに 要件時間の25%以上を要件レビューに コードレビューにコーデイング時間の5割以上 1時間あたりのレビュー, 設計文書レビュー<2∼5頁 注;日立:1∼10頁;(PM学会誌07/10) 1頁/人時で計画せよ(「ソフトウエアインスペクション」) 詳細設計レビュー<100擬似コード、 18 コードレビュー<200行, 品質リスクの回避 (3)テストの充実 • 地道なテスト テストカバレージ、C0,C1等 やみくもに テストをしても 効果なし 219 • 独立テスト部隊の編成とテスト設計の充実 他人が見て 初めてわかる いい悪い 155 • 合理的、早めのテスト設計 再テストの自動化、テストカバレージ、ソース解析 • ユーザよる 仕様誤解の早期発見、テスト結果確認 ユーザに 見せて気がつく 勘違い 215 • 味見と味見の落とし穴 手遅れの 一歩手前で 味見する 味見して 意外のうまさに 惑わされ 227 2,4プロジェクトリーダリスク • 間違ったことを押し付ける 「鹿を指して馬となす」 • 自分で汗をかかない、実務力なし 「伴食宰相」 • 規則ばかり押し付ける 「繁文縟礼」 • 叱責を繰り返す: 「三度目の腹立ち」 • 方針が変わる:「朝令暮改」 方針を 変えたら変えたと 言ってくれ • Leader でなく Reader 268 自分で考えない、見ない、書かない、部下任せ • 「相連報」でなく「報連相」ばかり言う 2,5プロジェクトメンバリスク • 特徴なし、主体性なし 「くせなき馬は行かず」「云うなり地蔵」 • 裏表あり 「面従腹背」 • 実行力なし 「家を出ぬ出家、山に伏さぬ山伏」 :知式人 • 何でもできるが何も出来ない 「多芸は無芸」 • 柔軟性なし 「石部金吉金兜 いしべきんきちかなかぶと」 2,6プロジェクトチームリスク • 役に立たない者ばかりのチーム 「烏合の衆」 • メンバ間の関係に問題あり 「船頭多くして舟山に上がる」 • 問題メンバがいるチーム 「城狐社鼠」 • コミュニケーションの悪いチーム 「ことづてと坊主の髪はゆうたことなし」 • 考えないチーム 「一鶏鳴けば万鶏歌う」 3.情報システム稼働後のリスク 3,1 システム事故リスク事例と対策 • 絶対避けたい事故の明確化と最大対策 座席予約(マルス):二重発売、ダブルチェック論理の組み込み 運行管理(コムトラック):異線進入:2重化3台系システム • 正確な復旧より素速い復旧 座席予約システム(素早く)vs金融システム(正確に) • システムダウンより部分ダウン、極力止めない、回復最優先 不特定多数ユーザ(銀行、マルスなど)への対応:部分ダウン 原因究明より回復、止めて何ができるか考える • 呼の集中対策:‐取引所、コムトラックなど正帰還形トラッフィク 入力抑止手段の用意 3,2オペミス事故リスク事例と対策 • 取り消しミス マルス:三重発売、取り消し座席の間違い入力 現在は発売済み切符の入力で回避 • 数字入力ミス:口座番号など 確認メッセージの出力:ATMなど • ミス確認の落とし穴:慣れ過ぎた操作ミス:確認無視 61万円 1 株と 1 株 61万株 • システム回復後の操作ミス 回復後は再操作すればよいという原則の堅持 3,3システム維持リスク事例と対策 • 技術者の確保リスク 伊勢神宮式年遷宮(20年)の知恵の活用; 出雲大社:60年に一度5年かけ修繕(仮遷宮) • ドキュメントの維持リスク 定期的更新工事の必要性 • 法改正、制度改正への対応リスク 絶対納期を死守すべき最低機能の見極め • 日付リスク :2000年問題、2038、うるう年 境界日付の事前確認 • 量的拡大による桁あふれ 上限値の事前確認 3,3システム維持リスク事例 • トラブル回復方法忘却 定期的消防訓練 • 緊張感の忘却からの油断 17年目(長期安定稼働後)の危機への備え • 暗黙知の伝承とぎれ 老人の知恵、失敗事例の記述の徹底 • 常識の変化:建設時前提とした条件が変わる 初めの使い勝手と習熟後の使い勝手を考慮 • 慣れたら不要なガイダンス プロが使うならガイダンスなんて不要 著書の紹介 曖昧性とのたたかい ■ ■ ■ ■ 27 ■ A5判 230ページ 価格 本体2,400円 +税 ISBN 4-7981-0905-X 株式会社 翔泳社 2005年 3月17日発行 曖昧性との共存 ■ ■ ■ ■ ■ A5判 254ページ 価格 本体2,400円 +税 ISBN 4-7981-1143-X 株式会社 翔泳社 2006年 4月17日発行 著書の紹介 カルタでカタル プロジェクト管理(PM学会誌) 楽しく学ぶプロジェクト管理 PM格言カルタ プロマネ「一日一句」 日経BP社 28 大規模情報システム開発の リスク管理 2011、5、14 名内 泰蔵
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