1.9MB - 名古屋市工業研究所

14020422:研究報告(本文)
名 古 屋 市 工 業 研 究 所
研
究
報
告
No.98(平成 25 年)
目
次
論文
1.
非線形構造解析のための熱可塑性樹脂の機械的特性評価
························································· 村田真伸、西脇武志、原田征 ········ 1
2.
マグネシアの共同分析結果
····························· 野々部恵美子、大橋芳明、柴田信行、木下武彦、小野さとみ ········ 5
3.
RF プラズマを利用したナノ炭素材料の作製
································································· 宮田康史、田中優奈 ········ 9
4.
気相法によりアルミニウムおよび合金表面へ形成した単分子膜の防食性および耐熱性
··········································································· 八木橋信 ······· 13
技術ノート
1 . 光触媒コーティング材のトイレ脱臭効果の実証試験
··········································································· 大岡千洋 ······· 17
既発表論文抄録
1.
液面プラズマによるナノ粒子酸化チタン水分散液の調製
・・・・・・ 伊藤美智子、早川雅浩、高島成剛、浅見悦男、青木猛、岡真佐人、浅野浩志、北原路郎、
中田悟、山口浩一、村瀬由明 ·························································· 20
2.
3 次元データを活用した化石の新しい展示方法
·· 岩間由希、西本昌司、近藤光一郎、飯田浩史、ヒシグジャウ=ツォクトバートル、鍔本武久 ······· 21
3.
添加剤フリーワット浴から得られたニッケルめっきの硬度と組織に及ぼすパルス電解の影響
··············································· 三宅猛司、加藤雅章、高松輝、市野良一 ······· 22
4.
架橋ジフェニルアミン系ポリマーの電気化学特性における化学構造の効果の探索
··································································· 林英樹、中尾秀信 ······· 23
5.
架橋ジフェニルアミンの酸化重合挙動
··································· 林英樹、井上紘義、中尾秀信、服部秀樹、尾之内千夫 ······· 24
6.
有効な OLED 材料の合成法開発に向けたテトラフルオロベンゼンの C-H 結合の直接アリール化反応を利用した
π共役ポリマーの合成
······························· 盧葦、桑原純平、飯島孝幸、東村秀之、林英樹、神原貴樹 ······· 25
14020422:研究報告(本文)
Research Reports
of
Nagoya Municipal
Industrial Research Institute
No.98(2013)
CONTENTS
Papers
1.
Evaluation of Mechanical Properties of a Thermoplastic for Nonlinear Structural Analysis
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Masanobu MURATA, Takeshi NISHIWAKI and Masaki HARADA・・・・・・・・1
2.
Results of Co-Operative Analysis of Magnesium Oxide
・・・・・・ ········ Emiko NONOBE,Yoshiaki OHASHI,Nobuyuki SHIBATA,Takehiko KINOSHITA and
Satomi ONO・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
3.
Synthesis of Nano-Carbon by RF Plasma Process
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Yasushi MIYATA and Yuuna TANAKA・・・・・・・・9
4.
Anti-Corrosion Properties and Thermal Durability of Monolayer formed by CVD over Aluminum and Its
Alloys
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Makoto YAGIHASHI・・・・・・・13
Technical Note
1.
Examination of Deodorizing Effect in the Restroom Using the Coating Photocatalyst Materials
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Chihiro OOKA・・・・・・・・17
Abstracts of Papers Published in Other Formals
1.
Preparation of Aqueous Dispersion of Titanium Dioxide Nanoparticles Using Plasma on Liquid Surface
・・Michiko ITO, Masahiro HAYAKAWA, Seigo TAKASHIMA, Etsuo ASAMI, Takeshi AOKI, Masato OKA, Hiroyuki
ASANO, Michiro KITAHARA, Satoru NAKATA, Koichi YAMAGUCHI and Yoshiaki MURASE・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
2.
New Approach to Fossil Exhibits Using 3D Reconstruction
・・Yuki IWAMA, Shoji NISHIMOTO, Koichiro KONDO, Kouji IIDA, Khishigjav TSOGTBAATAR and Takehisa
TSUBAMOTO・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
3.
Effect of Pulse Electrolysis on The Hardness and Texture of Nickel Deposit Obtained from Additive
Free Watt Bath
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Takeshi MIYAKE, Masaaki KATO, Akira TAKAMATSU and Ryoichi ICHINO・・・・・・・・22
4.
Investigation of The Effect of Bridging Unit and Substituent for Electrochemical Properties of Poly
(Diphenylamine) with Bridged Unit
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Hideki HAYASHI and Hidenobu NAKAO・・・・・・・・23
5.
Oxidative Polymerization Behavior of Diphenylamine with Bridged Structure
・・Hideki HAYASHI, Hiroyoshi INOUE, Hidenobu NAKAO, Hideki HATTORI and Yukio ONOUCHI・・・・・・・・・・・・24
6.
Synthesis of π-Conjugated Polymers Containing Fluorinated Arylene Units via Direct Arylation:
Efficient Synthetic Method of Materials for OLEDs
・・Wei LU, Junpei KUWABARA, Takayuki IIJIMA, Hideyuki HIGASHIMURA, Hideki HAYASHI and
Takaki KANBARA・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
14020422:研究報告(本文)
No.98(2013)
(2013)
No.98 論文
論文
1
非線形構造解析のための熱可塑性樹脂の機械的特性評価
村田真伸、西脇武志、原田征
Evaluation of Mechanical Properties of a Thermoplastic for Nonlinear Structural Analysis
Masanobu MURATA, Takeshi NISHIWAKI and Masaki HARADA
Abstract : Thermoplastic is expanding the scope of application in automotive parts, because of good formability and lightweight. In
recent years, the demand of accuracy improvement for nonlinear structural analysis of thermoplastic is increasing. In this study,
we conducted several material tests in order to obtain necessary material parameters for nonlinear structural analysis. We
selected polypropylene as a target material because it is a thermoplastic material that is most commonly used in the automotive
parts. In a tensile test, we tried to measure volumetric strain and a true stress-strain curve from the necking region using
digital image correlation (DIC). High speed tensile tests were carried out to investigate the strain rate sensitivity of the yield
stress. Further, a compression test was carried out to investigate stress state dependence of the yield stress.
1.緒 言
抽出することは容易ではない。さらに、塑性後の体積が
熱可塑性樹脂は軽量かつ成形性に優れるため、自動車
一定でないことも、計測を複雑化させる。
部品における適用範囲が拡大している。近年では、衝撃
そこで本研究では、自動車に最も多く使われている熱
吸収部材など大変形することで機能を発揮する部品へも
可塑性樹脂であるポリプロピレンを対象として、非線形
適用範囲が拡大しており、塑性変形を含む非線形構造解
構造解析を実施する際に必要となる樹脂材料特有の材料
析のニーズは年々高まってきている。
パラメータを取得することを目的とした各種の材料試験
一方、熱可塑性樹脂の非線形構造解析を精度良く実施
を実施した。引張試験ではデジタル画像相関法(Digital
するためにはいつくかの大きなハードルが存在する。一
Image Correlation :DIC)と呼ばれる非接触のひずみ解
つは金属材料とは異なる樹脂材料特有の変形特性や機械
析手法を活用し、ネッキング部のひずみ分布や変形の様
的性質である。代表的なものとしては、①内部微小損傷
子を詳細に観察することで、ネッキング部における体積
であるボイドの形成・拡張に起因する塑性体積ひずみの
変化の定量化や、真応力-真ひずみ曲線の取得を試みた。
増加 1) 、②降伏応力の顕著なひずみ速度依存性 2)、③引
また、高速引張試験と圧縮試験も実施し、材料の降伏応
3)
力がひずみ速度や変形状態によってどのように変化する
張と圧縮で降伏応力が異なる降伏応力の静水圧依存性
などが挙げられる。近年では、上記のような樹脂材料の
かを調査した。
特徴を考慮できる樹脂用材料構成則が提案され、商用の
非線形構造解析ソフトウエアにも実装され始めている
4)
。
しかしながら、いずれの特性もソフトウエアに入力する
2.引張試験
2.1
引張試験片
材料パラメータはユーザーが準備する必要があり、また
小型射出成形機(住友重機械工業製 SE18S)を用いて、
測定のための規格試験が定められているわけではないた
耐衝撃グレードのブロックポリプロピレンを JIS K 7162
め、手軽に利用できる状態にはない。
規定の 1BA 小型ダンベル状に射出成形することで引張試
もう一つのハードルは材料試験の難しさである。通常、
験片を得た。その際の射出成形条件は、シリンダ温度
非線形構造解析の基本となる材料の応力-ひずみ曲線は
230℃、金型温度 40℃である。試験片正面および側面に
簡便な一軸引張試験から取得されることが多い。しかし、
は、黒色の水性スプレーにて図 1 に示すようなランダム
多くの樹脂材料では降伏後、一様伸びをほとんど示さず
パターンを塗布し DIC での解析ターゲットとした。
に激しいネッキングを生じてひずみが不均一に分布する
ため、ここから解析に必要な真の応力とひずみの関係を
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成り立つため、引張方向のひずみから断面積および真応
力を容易に求められるのに対して、ポリプロピレンの場
合、上で示したように塑性変形に伴い大幅に体積が変化
してしまうため、金属材料と同じ方法では、断面積の正
図1
2.2
ランダムパターンを塗布した引張試験片
確な見積もりができない。
1.5
DIC によるネッキング部の詳細観察
引張試験片に対して、環境温度 23℃、チャック間距離
中のネッキング部を試験片正面および側面からデジタル
カメラ(PointGrey 社製 Grasshopper)により撮影した。
得 ら れ た 画 像 か ら DIC 解 析 シ ス テ ム ( Correlated
Logarithmic strain
70mm、引張速度 1mm/sec にて引張試験を行い、試験片途
εl
εw
εt
1.0
0.5
0.0
-0.5
Solutions 社製 VIC-2D)を用いて、ネッキング部近傍の
ひずみ分布と形状変化を解析した。図 2 には試験片正面
-1.0
0
と側面の X 方向軸ひずみ分布の DIC 解析結果例と、ネッ
5
10
15
20
Displacement of a tensile test /mm
図3
キング部における各方向のひずみの計測位置を示す。
εl
25
チャック変位量-ひずみ曲線
ε v exp(ε l + ε w + ε t ) − 1
=
Y
w
ε w = ln
w0
…(1)
w
X
0.30
εv
0.25
t
t0
Z
εv
ε t = ln
X
t
引張方向
図2
X 方向対数ひずみ分布の DIC 解析結果例と各方向の
Volumetric strain
2
0.20
0.15
0.10
0.05
ひずみの計測位置(チャック変位約 16mm)
0.00
0
εl はネッキング中央点における引張方向の局所対数ひ
ずみ(DIC 解析結果)である。 また、εw と εt はネッキン
図4
5
10
15
20
Displacement of a tensile test /mm
25
チャック変位量-体積ひずみ曲線
グ部における幅と厚みの対数ひずみであり、図 2 に示す
位置での幅(w)と厚み(t)の寸法変化から図中の式に
2.3
真応力-真ひずみ曲線の作成
より求めた。チャック変位量に対する各対数ひずみの値
前節の結果から、体積変化を考慮した真応力-真ひず
の変化を図 3 に示す。ネッキングの進行に応じて、εl は
み曲線を作成する。真ひずみはネッキング中央部の εl と
増加し、εw と εt は減少する。εw と εt が一致しないことは
した。図 3 の結果から、ネッキング部の断面積を計算し
対象が塑性異方性材料であることを示しており、興味深
真応力を求めた。作成した真応力-真ひずみ曲線(体積
い。ネッキング部における公称の体積ひずみ εvは、式(1)
変化考慮 S-S)を図 5 に示す。図中には比較のため、金
の関係を利用すると見積もることができ(図 4)
、この結
属材料と同じように εl から塑性変形後の体積一定を仮定
果は、ネッキング部において試験片の体積が 25%以上増
して断面積を計算して求めた真応力-真ひずみ曲線(体積
加していることを示している。
一定 S-S)、およびチャック変位量と試験片平行部の初期
一般に金属材料の場合、塑性変形下での体積一定則が
断面積から求めた公称応力-公称ひずみ曲線(公称 S-S)
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を合わせて示す。
0.6
各曲線を比較すると、体積変化考慮 S-S は、公称 S-S
Plastic Poisson's ratio ν p
0.5
と体積一定 S-S の中間の結果となった。金属材料と同じ
ように塑性変形後の体積一定の仮定で断面積を計算する
と、真応力を大きく見積もりすぎてしまうことが分かる。
また、得られた体積変化考慮 S-S は、ネッキング中央の
DIC による局所ひずみを採用したことで、ひずみ 1.0 を
0.4
0.3
0.2
0.1
超える範囲までの結果を得ることができた。
0.0
0.0
0.2
0.4
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
Plastic strain
100
真応力-真ひずみ(体積一定)
90
図6
真応力-真ひずみ(体積変化考慮)
80
塑性ポアソン比曲線
公称応力-公称ひずみ
70
Stress /MPa
0.6
3.高速引張試験
60
50
ポリプロピレンの降伏応力のひずみ速度依存性を評価
40
するために、引張試験で使用したダンベル試験片に対し
30
て油圧サーボ式高速引張試験機(島津製作所製
20
HITS-T10)を用いた高速引張試験を行った。チャック間
10
0
距離は 70mm、引張試験速度は 1、10、100、1000、5000mm/sec
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1.6
の 5 水準とした。
Strain
図5
図 7 に試験により得られた公称応力-公称ひずみ曲線
応力-ひずみ曲線
を示す。試験速度が速くなるにつれて、応力が大きくな
2.4
塑性ポアソン比曲線の作成
ることが確認できる。ひずみ速度の対数を横軸とした片
塑性変形下における体積ひずみを定式化するために、
対数グラフに、各試験速度における最大の公称応力値の
塑性ポアソン比(Plastic Poisson's ratio)νp というパラ
結果(試験数 n2)をプロットしたものが図 8 である。な
メータがしばしば使用される。これは式(2)のように引
.
張方向の塑性ひずみ増分(εxxp)とその直行方向の塑性ひ
.
.
ずみ増分(εyyp もしくは εzzp)の比で定義される。金属材
お、ひずみ速度は各試験速度を試験片平行部長さ 30mm
料の場合、塑性ポアソン比は 0.5 一定である。塑性ポア
高速引張試験を実施することによって、ポリプロピレン
ソン比が 0.5 より小さくなることで体積膨張を表現する。
の降伏応力のひずみ速度依存性を評価することができた。
で除したものである。図 8 から、図中に示す式でひずみ
速度と最大公称応力値をほぼ近似できることが分かる。
弾性率一定との仮定の下、εl と εw のひずみ増分を使っ
50
て、式(2)からネッキング部の塑性ポアソン比を算出す
ると図 6 のような曲線が得られる。これは、塑性ひずみ
の拡張速度は緩やかに低下することを示唆している。な
お、今回は測定が比較的容易な εw を使って塑性ポアソン
比の計算をしたが、見込まれる体積変化量には塑性異方
性に起因する誤差が含まれるため、注意が必要である。
νp ≡−
ε yyp
ε zzp
=
−
ε xxp
ε xxp
40
Nominal stress /MPa
0.1 までの範囲でボイドの拡張が進行し、その後ボイド
5000mmps
1000mmps
100mmps
10mmps
1mmps
30
20
10
0
…(2)
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Nominal strain
図7
高速引張試験結果
1.2
1.4
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No.98
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4
40
35
y = 1.3936Ln(x) + 31.852
2
R = 0.9944
40
Nominal stress /MPa
Maximam nominal stress /MPa
45
35
30
30
25
20
15
Tensile
Compression
10
5
25
0
20
0.001
図8
0.00
0.01
0.1
1
10
Strain rate /1/s
100
0.05
0.10
0.15
Nominal strain
1000
図 10
0.20
0.25
圧縮試験結果
最大公称応力とひずみ速度との関係
5.結 言
4.圧縮試験
本研究では、熱可塑性樹脂のポリプロピレンを対象に、
ポリプロピレンの降伏応力の静水圧依存性を評価する
非線形構造解析を実施する際に必要となる樹脂材料特有
ために、引張試験で使用したダンベル試験片の中央部か
の材料パラメータを取得することを目的として、各種の
ら図 9(a)に示す小型圧縮試験片を切り出して、図 9(b)
材料試験を実施した。
に示す平板治具を用いて樹脂流動方向に対して圧縮試験
引張試験では、DIC によりネッキング部を詳細観察す
を実施した。できるだけ一軸圧縮応力状態に近づけるた
ることによって、ネッキング部における体積変化量を明
め、試験片と治具との間にシリコンオイルを塗布したテ
らかにした。また、ネッキング部の局所ひずみと体積変
フロンシートを挟んで摩擦をできるだけ低減して試験を
化を考慮したひずみ 1.0 を超える範囲までの真応力-真
実施した。圧縮試験速度は引張試験と同等のひずみ速度
ひずみ曲線を得ることができた。さらに DIC によるひず
になるように 0.2mm/sec(0.033/s)とした。
みの解析結果から、塑性ポアソン比曲線を得ることがで
圧縮試験から得られた公称応力-公称ひずみ曲線を図
10 に示す。図中には比較のために引張試験結果も載せた。
きた。
高速引張試験では、1~5,000mm/s までの速度 5 水準の
この結果から、引張試験の公称応力に対して、圧縮の公
引張試験を実施し、ひずみ速度と最大公称応力との関係
称応力は最大で 25%程度大きくなることが確認できた。
を明らかにした。
しかしながら、公称ひずみ 0.05 を越えたあたりから、試
験片端面が滑ってしまい、高ひずみ域までの応力ひずみ
線図を得ることができなかった。高ひずみ領域までの圧
縮の応力ひずみ関係の測定は今後の課題である。
圧縮試験では、引張試験の公称応力に対して圧縮の公
称応力は最大で 25%程度大きくなることを示した。
一連の材料試験から得られた材料パラメータを CAE の
材料モデルに導入することによって、樹脂材料の非線形
構造解析の精度向上につながるものと期待される。
参考文献
6.0(圧縮方向)
4
1)たとえば、築山 喜久雄 他, 第 17 回計算力学講演会
講演論文集, pp.11~12, (2004)
2)たとえば、前 博行,機械材料・材料加工技術講演会
2.0
5.0
講演論文集 2004[12], pp.195-196, (2004)
(a)
(b)
図9
圧縮試験
(a)小型圧縮試験片
(b)圧縮試験の様子
3)佐野村幸夫 他, 材料, 50[9], pp.968~972 (2001)
4)Kolling et al, 9th International LS-DYNA Users Conf,
pp15-55~74 (2006)
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55
マグネシアの共同分析結果*
野々部恵美子、大橋芳明、柴田信行、木下武彦、小野さとみ
Results of Co-Operative Analysis of Magnesium Oxide
Emiko NONOBE, Yoshiaki OHASHI, Nobuyuki SHIBATA, Takehiko KINOSHITA and Satomi ONO
Abstract : Co-operative analysis of magnesium oxide has been carried out. The analyzed components were MgO, CaO, SiO2, P2O5,
Fe2O3, Al2O3, V2O5, NiO, MnO, ZnO, Y2O3, SrO, S, and loss of ignition (LOI). There was good correspondence among the
analytical results obtained by various procedures in some components (MgO, CaO, SiO2, P2O5, Fe2O3, Al2O3, V2O5, NiO, MnO,
ZnO, Y2O3, SrO), but CV (coefficient of variation) value was high in the analytical results of LOI. The analytical results of S
were regarded as reference data because sufficient numbers of data were not reported. The reasons for the discrepancies among
the analytical results were discussed.
1.緒 言
カンパニーリミテド、三重県工業研究所および名古屋市
東海無機分析化学研究会のセラミックス部会では、
工業研究所の 10 機関である。なお、第 4 回目の共同分析
2011 年 7 月から 2013 年 3 月まで、6 回にわたりマグネシ
結果の検討会(2012 年 7 月開催)には、オブザーバーと
ア(酸化マグネシウム)の共同分析を行った。
して、独立行政法人産業技術総合研究所中部センターの
マグネシアは、各種ファインセラミックスの特性向上
森川久 氏にご出席いただいた。
のための添加成分として多く用いられており、また、ス
共同分析参加機関のうち、7 機関からデータの提出が
ピネル、フェライトなどの原料としても重要である。さ
あった。なお名古屋市工業研究所は共同分析実施者 3 名
らに鉄鋼の分野では、電磁鋼板の表面処理剤として利用
が個別に分析結果を報告したため、総データ提出数は 9
されている。
となっている。以下、機関名は任意のアルファベットで
2009 年以前には、マグネシアの化学分析に関する JIS
規格として、マグネシアの試薬に関するもの
に関するもの
示す。
1)
や耐火物
2)~4)
が発行されていた。しかし、ファイン
2.関連する規格、参考文献および標準物質
セラミックスに用いるマグネシアに対応可能な JIS が存
今回の共同分析試料に用いたマグネシアは純度の高い
在しなかったため、ファインセラミックスの化学分析方
ファインセラミックスであるため、「JIS R 1688 ファイ
法の JIS としては 5 番目となる JIS R 1688 が 2010 年 3
ンセラミックス用マグネシア微粉末の化学分析方法」6)
月 23 日付けで公示された 5),6)。
にそって、共同分析を行った。ただし、JIS R 1688 には
上記のように新しい JIS 規格が制定されたことに加え、
酸化マグネシウム(MgO)が分析項目にないため、MgO につ
これまでに東海無機分析化学研究会のセラミックス部会
ては、「JIS R 2212-4
で取り扱ったことがなかったことから、今回の共同分析
部:マグネシア及びドロマイト質耐火物」等を参考にし
試料としてマグネシアを採り上げることとした。共同分
て、共同分析を進めた。
析試料のマグネシアは(株)大同分析リサーチよりご提供
いただいた。
共同分析参加機関は、(株)大同分析リサーチ、日本軽金
耐火物製品の化学分析方法-第4
今回の共同分析試料は原料粉末であるため用いていな
いが、焼結体試料で粉砕工程における不純物の混入が問
題となるような場合は、加圧酸分解法で試料を分解する
7),8)
。この場合は以下のような方法で分析を
属(株)グループ技術センター、(株)矢作分析センター、
こともある
(株)ユニケミー、岐阜県セラミックス研究所、日鉄住金
行 う 。 0.3g の試 料片 を テフロ ン Ⓡ 製 容器 中 でフ ッ 酸
テクノロジー(株)、共立マテリアル(株)、(株)ノリタケ
0.1mL+塩酸 9.9mL と 170℃、4 時間加熱して加圧酸分解を
行う。これを純水で希釈し、ICP 発光分光分析用の測定
* 本論文を「数種の試料の共同分析結果(第 34 報)」
とする。
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6
6
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溶液とする。ケイ素の定量には、測定溶液の一部を分取
含有量 95.38mass%)がある。認証成分は、SiO2、Al2O3、
し、フッ酸のマスキングのためホウ酸を加える。
Fe2O3、MnO、CaO、MgO、Cr2O3、TiO2、P2O5、B2O3 等である。
分析結果の信頼性を評価するためには、分析試料に組
さらに高純度の認証標準物質として、BAM が供給してい
成の似た、分析値が既知の標準物質を測定試料と同じ操
る RS 6A および RS 6B がある。
これらの MgO 含有量は 99.5%
作で分析を行うことが重要である。標準物質は独立行政
以上である。
法人製品評価技術基盤機構が運営するインターネットの
3.共同分析結果および討議内容
サイトである標準物質総合情報システム
分析項目は、JIS R 1688 に規定されている酸化ケイ素、
(http://www/rminfo.nite.go.jp/)で検索を行うことが
できる。マグネシアの標準物質は各機関より認証標準物
酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化鉄、酸化マン
質(certified reference material:CRM)が供給されてい
ガン、酸化ニッケル、酸化ストロンチウム、酸化バナジ
る。国内の標準物質としては、耐火物技術協会から蛍光
ウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、硫黄(S)、強熱減量
X 線用の標準物質としてマグネシア質標準物質(第 1 種)
(LOI)の 12 項目に前もって蛍光 X 線で予備分析した際に
が 10 試料/1 セットで供給されている。認証成分は酸化
検出された酸化リンと主成分である酸化マグネシウムを
ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、
加えた 14 項目とした。
酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウムの 5 成分である。
共同分析結果を表 1-1(酸化マグネシウム~酸化バナジ
その他に微量成分として、酸化チタン(TiO2)、酸化マン
ウム)および表 1-2(酸化ニッケル~強熱減量)に示す。
ガン(MnO)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、
酸化マグネシウム
酸化クロム(Cr2O3)、酸化リン(P2O5)、酸化ホウ素(B2O3)
データ数は 7 で、分析方法は JIS R 2212-4 に準じた
の 7 成分が参考値として記載されている。MgO の認証値
EDTA 滴定法が 5 件、ICP 発光法が 2 件である。EDTA 滴定
が 81.2mass%から 99.0mass%まで段階的に変化しており、
法の試料の分解方法は、JIS R 1688 に準拠して塩酸(1+1)
これらの標準物質を使用してブリケット法やガラスビー
で分解したデータが 4 件で、 JIS R 2212-4 に準拠して、
ド法で検量線用試料を作製し、上記 5 成分について未知
炭酸ナトリウムおよびホウ酸を加え融解し、硫酸(1+9)
試料の定量分析を行うことができる。また、海外で製造
に溶解したデータが 1 件である。ICP 発光法の試料の分
されている認証標準物質は、BAS が供給している BCS-CRM
解方法は、JIS R 1688 に準拠した分解方法である。JIS R
389/1
(MgO 含有量 97.89mass%)
および BCS-CRM 319/1
(MgO
2212-4 の EDTA 滴定法では、鉄のマスキング剤として硫
表 1-1 共同分析結果
MgO
CaO
SiO2
P2O5
単位%
Fe2O3
Al2O3
V2O5
0.520
I
0.198
吸
0.046
I
0.049
I
0.036
I
0.031
I
0.530
I
0.185
I
0.050
I
0.049
I
0.037
I
0.033
I
容
0.571
I
0.194
I
0.050
I
0.049
I
0.033
I
0.031
I
99.16
容
0.519
I
0.191
吸
0.048
I
0.042
I
0.033
I
0.029
I
E
98.73
容
0.561
I
0.202
I
0.051
I
0.040
I
0.030
I
0.030
I
F
―
0.516
I
0.193
I
0.050
I
0.046
I
0.035
I
0.031
I
G
98.94
I
0.512
I
0.209
I
0.051
I
0.050
I
0.038
I
0.033
I
H
98.69
容
0.535
I
0.201
I
0.050
I
0.051
I
0.035
I
0.032
I
I
99.45
I
0.524
I
0.195
I
0.050
I
0.049
I
0.036
I
0.033
I
A
99.03
B
―
C
98.96
D
容
平均
98.99
0.532
0.196
0.050
0.047
0.035
0.032
標準偏差
0.259
0.022
0.007
0.002
0.004
0.003
0.002
CV%
0.26
4.1
3.6
3.2
7.9
7.32
4.8
容:容量法、I:ICP 発光法、吸:吸光光度法
14020422:研究報告(本文)
No.98 (2013)
7
No.98 (2013)
7
化ナトリウム溶液を採用している。シアン化カリウムが
1688 では採用されていない。JIS R 2212-4 は採用してい
鉄のマスキング剤としては非常に有効であるが、測定後
るが、酸化リンを多量に含有する試料では、モリブドリ
の廃液の処理という環境問題が伴う。今回の共同分析で
ン酸錯体によってプラスの誤差が与えられるため、ICP
は、硫化ナトリウムを用いたデータが 2 件、シアン化カ
発光法の使用が推奨されている。第1回目の共同分析結
リウムを用いたデータが 2 件、両方とも使用していない
果では、低値(0.16%程度)を報告した分析所が見受けら
データが1件であった。ICP 発光法では、主成分であり
れた。塩酸分解したところ、石英ビーカーの底にゼリー
含有量が多いため、正確な定量は難しいという意見があ
状のものが残っているので、マグネチックスターラーで
った。
撹拌したとの報告もあり、溶け残りがあった可能性が考
酸化カルシウム
えられる。アルカリ融解で再分析を行ったところ、平均
データ数は 9 である。分析方法はすべて ICP 発光法で
値に近い値が得られたとの報告があった。塩酸で試料を
ある。試料の分解方法は JIS R 1688 に準拠した塩酸分解
分解したときに、二酸化ケイ素の残留が認められ場合は、
のデータが 8 件、炭酸ナトリウムおよびホウ酸を加え融
アルカリ融解を行う必要がある。溶け残りの判定には、
解し、酸溶解したデータが 1 件である。CV 値(変動係数)
光源としてレーザーポインタなどのレーザー光を使用す
が 4.1%で分析値が 0.512%~0.571%と若干ばらつきが大
ると、濁りが容易に判定できる。
きい。高純度酸化マグネシウムを ICP 測定用のマトリッ
酸化リン
クスに使用するなど、精度のよい分析を行うにはさらな
データ数は 9 である。分析方法はすべて ICP 発光法で
る検討が必要である。酸化マグネシウムを EDTA 滴定法で
ある。試料の分解方法は、JIS R 1688 に準拠した塩酸分
分析を行う場合は、酸化カルシウムの含有率に 0.719 を
解が 8 件、王水分解が 1 件である。分析値はそろってお
かけて酸化カルシウムの量を補正する。
り、特に問題はなかった。
酸化ケイ素
酸化鉄
データ数は 9 である。分析方法は ICP 発光法が 7 件で、
データ数は 9 で、分析方法は ICP 発光法が 8 件で、1,10-
モリブデン青吸光光度法が 2 件である。試料の分解方法
フェナントロリン吸光光度法が 1 件である。ICP 発光法
は ICP 発光法ではすべて JIS R 1688 に準拠した塩酸分解
では、酸化カルシウムの測定溶液と同一の溶液で測定を
であり、モリブデン青吸光光度法では、アルカリ融解後、
行っている。1,10-フェナントロリン吸光光度法の試料分
酸溶解を行っている。モリブデン青吸光光度法は JIS R
解は、塩酸+硝酸で行っている。日常的に鉄鋼を分析し
表 1-2 共同分析結果
NiO
MnO
ZnO
Y2O3
単位%
SrO
S
LOI
A
0.010
I
0.011
I
0.0024
I
0.0015
I
0.0015
I
<0.0007 燃
0.94
重
B
0.011
I
0.012
I
0.0026
I
0.0017
I
0.0017
I
―
0.36
重
C
0.012
I
0.010
I
0.0022
I
0.0019
I
0.0016
I
―
0.65
重
D
0.0092
I
0.010
I
0.0022
I
0.0016
I
0.0015
I
―
0.34
重
E
0.011
I
0.0092
I
<0.001
I
0.0017
I
0.0015
I
―
0.36
重
F
0.011
I
0.012
I
0.0028
I
0.0017
I
0.0016
I
0.0050
0.41
重
G
0.011
I
0.011
I
0.0019
I
0.0019
I
0.0017
I
―
0.34
重
H
0.011
I
0.010
I
0.0025
I
0.0017
I
0.0015
I
0.0039
燃
0.38
重
I
0.011
I
0.010
I
0.0024
I
0.0016
I
0.0016
I
0.0037
燃
0.74
重
燃
平均
0.011
0.011
0.0024
0.0017
0.0016
0.004
0.50
標準偏差
0.001
0.001
0.0003
0.0001
0.0001
0.001
0.22
CV%
7.1
9.1
12
7.8
5.3
17
44
I:ICP 発光法、燃:燃焼赤外線吸収法、重:重量法
14020422:研究報告(本文)
No.98 (2013)
8
8
No.98 (2013)
ているところが多く、微量の鉄の分析値は若干ばらつき
に沿って共同分析を行った。分析方法を文書で確認する
が大きくなる傾向がある。
だけでなく、実際に分析を行うことは非常に重要である。
酸化アルミニウム、酸化バナジウム、酸化ニッケル、酸化マ
今後も新しく規格等が発行された際には、共同分析の場
ンガン
で採り上げていきたいと考えている。
データ数は 9 である。分析方法はすべて ICP 発光法で
最後になりましたが、日常業務の忙しさが増す中で共
ある。試料の分解方法は塩酸分解が 8 件、王水分解が 1
同分析の運営にご協力いただきました東海無機分析化学
件である。分析値はそろっており、特に問題はなかった。
研究会の各機関の皆様に心から感謝申し上げます。
酸化亜鉛
参考文献
データ数は 9 である。分析方法はすべて ICP 発光法で
ある。試料の分解方法は塩酸分解が 8 件、王水分解が 1
1)
件である。<0.001%とした分析所が1カ所あった。その
他の分析値はそろっており、特に問題はなかった。
日本工業規格
JIS K 8432「酸化マグネシウム(試
薬)」
2)
酸化イットリウム、 酸化ストロンチウム
日本工業規格
JIS R 2014「アルミナ-マグネシア
質耐火物の化学分析方法」
データ数は 9 である。分析方法はすべて ICP 発光法で
3)
日本工業規格
JIS R 2212-4「耐火物製品の化学分
ある。試料の分解方法は塩酸分解が 8 件、王水分解が 1
析方法-第4部:マグネシア及びドロマイト質耐火
件である。分析値はそろっており、特に問題はなかった。
物」
硫黄
4)
データ数は 4 である。分析方法はすべて燃焼赤外線吸
日本工業規格
析方法-第5部:クロム・マグネシア質耐火物」
収法である。データが少ないため、参考値である。助燃
5)
森川
剤には、純鉄、タングステンおよびスズを加えている。
6)
日本工業規格
7)
8)
データ数は 9 で、分析方法はすべて重量法である。分
析値は非常にばらついている。共同分析試料を配布して
JIS R 1688「ファインセラミックス
日本分析化学会
編:“分析化学便覧
改訂六版”
p45, 丸善(2011)
たところ、平均値に近い値が得られたとの報告があった。
LOI (強熱減量)
久:産総研 TODAY,10,No.05,p11(2010)
用マグネシア微粉末の化学分析方法」
試料量は 0.1g としたところが多かったが、0.1g では低
値(0.0018%程度)になったため、試料量を 0.02g に減らし
JIS R 2212-5「耐火物製品の化学分
上蓑義則, 森川
久, 柘植
明:分析化学, 56,
679(2007)
9)
野々部恵美子, 酒井光生, 大橋芳明, 木下武彦, 小
から分析を行うまで 2 年以上経過しており、試料が空気
野 さ と み : 名 古 屋 市 工 業 研 究 所 研 究 報 告 ,94,
中の水分や二酸化炭素を吸収して変質している可能性が
pp.13-16(2009)
考えられる。実際に、第 3 回目の共同分析結果より第 6
回目の共同分析結果の方が、大きな値を提出するところ
があり、分析値のばらつきが大きくなった。試料の保管
方法などの取り決めが必要である。
4.結 論
今回の共同分析では、マグネシアを初めて採り上げた。
酸化マグネシウム以外の分析項目は、ほとんどの機関で
ICP 発光法による分析となったが、試料の溶け残りなど
いくつかの問題点が挙げられた。東海無機分析化学研究
会では、今までにも JIS が改正された時に炭化ケイ素
9)
を採り上げたり、比較的最近発行された(社)日本セラミ
ックス協会規格に沿って窒化ホウ素
10)
の共同分析を行
ったりしてきた。今回も新しく発行された JIS R 1688
10)
野々部恵美子, 大橋芳明, 木下武彦, 小野さとみ:
名古屋市工業研究所研究報告,96,pp.32-37(2011)
14020422:研究報告(本文)
No.98 No.98(2013)
(2013)
9
RF プラズマを利用したナノ炭素材料の作製
宮田康史、田中優奈
Synthesis of Nano-Carbon by RF Plasma Process
Yasushi MIYATA and Yuuna TANAKA
Abstract : Carbon materials aroused great interest in the industry because of their exotic electronic properties and chemical
properties. We have prepared carbon material by using a RF plasma method. The nano-carbons of the specific shape consisting
of small pieces were obtained. In the deposition process, plasma emission spectrum was measured in order to estimate the
density of hydrogen atoms and carbon radicals. Emission intensity ratio of hydrogen atoms and carbon radicals is related to the
shape of the deposited nano-carbon.
1.緒 言
スの解明を行った。
炭素材料は木炭や石炭として使われ始め、現在ではダ
イヤモンドやグラファイト、活性炭など身近な工業材料
2.実験方法
として使われている。炭素材料は炭素という一種類の元
2.1 炭素成膜中のプラズマ分光計測
素で構成されながら様々な構造や物性を持っているので、
炭素材料の製造法として、非平衡化学反応プロセスで
広い応用範囲がある。この多様性は炭素原子の結合の多
あり、多様な成膜条件による構造制御性に優れたプラズ
様性による。電子配置には sp,sp2,sp3 の三種類があり、
マ化学気相成長法(P-CVD 法)を用いた。成膜にはメタ
2
代表的な構造体は sp 炭素ではカルベン、sp では黒鉛や
3
グラファイト、sp ではダイヤモンドである。この中で、
2
sp からなる炭素材料は電子伝導性を示し化学的にも安
ンなどの気体原料を供給し、RF 印加によるプラズマ生成
にて成膜を行う装置(株式会社広島製)を用いた。実験
装置概略を図1に示す。
定なので電池材料として重要であり、乾電池や二次電池
反応ガス供給
の電極材に使われている。リチウムイオン二次電池では
イオン吸蔵といった特異な物性を利用し、充放電が可能
上部電極
(ガスが透過する
縦穴構造)
な電極を構成している。さらにフラーレンやカーボンナ
ノチューブ、単層グラフェンなどの発見とそれに続く物
窓
性研究により、ナノテクノロジーの隆盛とともに広く注
基板
(ターゲット)
目を集め、太陽電池への新たな応用の提案がされている。
下部電極
sp3 からなる炭素材料はダイヤモンドあるいはダイヤモ
ンド様炭素(DLC)であり、電子デバイスや表面被覆に応
排気ポンプへ
用されている。
当研究所においては、燃料電池や二次電池に関する研
図1
実験に用いた P-CVD 装置
究開発を進めており、電極材への適用や各種金属部材へ
RF
の表面処理として、炭素材料の応用研究を行っている。
反応圧力
:
13.56MHz
:
(max 300W )
1.0 Torr ~ 0.1 Torr
そこで、新しい電池材料を目指したプラズマ化学気相成
長法(P-CVD 法)による機能性炭素材料の作製について
本装置は、供給ガスとしてメタン、水素、酸素を複数
検討を行った。また、名古屋大学エコトピア科学研究所
選択でき、基板温度は 900 ℃まで制御することができる。
とは共同研究としてプラズマ分光による P-CVD のプロセ
印加 RF は 13.56 MHz であり、プラズマ成膜中に発光分光
14020422:研究報告(本文)
No.98 (2013)
10
10
No.98 (2013)
計測を行うための観測窓を備えている。直径約 15 センチ
のチャンバー内には上下二枚の平板電極を 50 mm 間隔で
3.結 果
設置し、下部電極上に試料を固定した。チャンバーの観
3.1 P-CVD における分光測定
測窓を通してプラズマ発光を光ファイバーに導き、外部
炭素成膜においては基板上での核生成から結晶成長に
のマルチチャンネル分光器(オーシャンオプティクス製
至り構造が決まるが、温度や活性化学種、その濃度や拡
USB-400)により計測した。このシステムの実用計測波長
散過程など数多くの因子が関与する。構造を決める結晶
は 350 nm から 850 nm であり、プラズマ成膜中に全域の
成長過程においても成長反応に関わる炭素活性種とエッ
波長域を計測した。波長範囲には、CH ラジカルおよび水
チングに関わる水素種などのバランスが重要となる。そ
素の発光波長が含まれている。メタン、水素のみの発光
こで本実験においては、構造に大きく寄与すると思われ
スペクトルも測定し、解析には発光強度の強い遷移モー
る炭素活性種と水素種に注目して成膜条件との関連を把
ドとして、CH 発光[CH A2Δ →
X2Π]と水素発光[Hα]
握するため、原料ガスであるメタンガスと水素ガスの供
を選択した。炭素成膜時のメタン、水素混合ガスからの
給割合を変えて、プラズマ中での活性種等の割合を、分
発光強度から各活性種の濃度を推測した。
光手法を用いて推測した。成膜条件を表 1 に記す。
2.2 P-CVD 法による炭素成膜
原料ガスのメタンと水素の割合が成膜に及ぼす影響
表1
(メタン
P-CVD における成膜条件
100 %供給)
(水素
100 %供給)
を調査するために供給比率を 10:0 から 6:4 まで変え
た。印加 RF 電力は 200 W とし、1.0 Torr を全圧力とし
た。供給比率 10:0 の場合のみ圧力の影響を調べるため、
0.1 Torr においても成膜を行った。成膜は 3 時間連続し
て行った。試料基板には SUS314 を用い、成膜した試料の
圧力
メタン比率
原料ガス メタン
水素
温度
時間
RF電力
ラマン測定と電子顕微鏡観察を行った。
Torr
%
ccm
ccm
℃
時間
W
0.1
100
60
0
100
60
0
650
3
200
1.0
80
48
12
60
36
24
2.3 分光スペクトル計算
市販の Gaussian98(32bit 版)を用い、安定化構造の計
算を行い、同時に得られる電子状態エネルギー分布と振
動モードデータから分光スペクトル計算を行った。今回
用いた計算ソフトでは、扱える原子軌道数に限界がある
ため、モデルは単層グラフェンが積層した二層クラスタ
ーモデルとした。計算手法は密度汎関数法とし、B3LYP
関数を用いた。モデルについては量子化学計算による電
子状態密度計算と振動計算を行い、構造最適化を行った。
図3
プラズマ発光スペクトル
クラスターモデルは二層構造とし、下層は 27 個、上層は
13 個の炭素原子で構成した。最適化に用いた炭素クラス
ター構造を図2に示す。得られた電子状態エネルギー分
布と振動モードデータから分光スペクトル計算を行ない、
ラマン分光測定結果と対比した。
0.1 Torr および 1.0 Torr におけるメタン、水素それ
ぞれのプラズマ発光スペクトルを図3に示す。プラズマ
温度などが圧力に依存しているので、各スペクトルの波
長は同じであるが強度は異なっている。発光強度の強い、
CH 発光[A2Δ → X2Π]に由来する 431 nm ピークと水素発
光[Hα]に由来する 656 nm ピークが確認できた。また、
メタンのプラズマ発光スペクトルにはメタンの分解によ
り生成する水素の発光スペクトルも含まれていた。
図2
計算に用いた二層構造炭素クラスター
14020422:研究報告(本文)
No.98 (2013)
11
No.98 (2013)
11
1.0Torr CH4 60%
1.0Torr CH4 80%
1.0Torr CH4 100%
0.1Torr CH4 100%
(1.0 Torr、メタン比率 80 %)
図4
メタン、水素混合ガスによる
プラズマ発光スペクトル
次にメタン、水素混合ガスによるプラズマ発光測定を
行った。一例として、1.0 Torr、メタン比率 80%におけ
る発光スペクトルを図4に示す。炭素成膜には炭素活性
図6
各種成膜条件における炭素膜の
電子顕微鏡観察結果(10 万倍観察)
種と水素種が重要な役割を果たしている。そこで炭素活
性種に相関する CH 発光に由来する 431 nm ピークと水素
発光[Hα]の 656 nm ピークの強度比をとり、炭素結晶構
1.0 Torr では平板状あるいは粒状炭素が形成された。
造との相関を考察した。図5にそれぞれの成膜条件にお
メタン比率が高いほど粒成長が進んでいるように見える。
けるピーク強度からバックグラウンドを除去した後、両
0.1 Torr のメタン比率 100 %ではランダムに配向した
者の比を取った。メタン濃度が高くなるほど CH ラジカル
ウォール状炭素が確認できた。ウォール状炭素は、厚み
のピーク強度比が大きくなり、プラズマ中の炭素活性種
が 10 nm 程度でグラファイト層が数十層積層していると
濃度が高くなっていることが推察された。
推察され、特異なナノ構造を持つ炭素材料であることが
わかった。
図5
成膜条件におけるプラズマ中の炭素活性種およ
図7
ナノウォール状炭素(0.1 Torr メタン 100%)
び水素活性種のピーク強度比
3.2 P-CVD 法による成膜
ラマン分光測定結果
このウォール状炭素のラマン分光測定結果を図7に示
圧力 1.0 Torr ではメタン比率を 100%、80%、60%と
す。D バンドと呼ばれている 1350 cm-1 付近と、G バンド
して、0.1Torr ではメタン比率を 100%として成膜を行
と呼ばれている 1560 cm-1 付近にピークが観測された。
った。それぞれの条件で成膜した後、電子顕微鏡にて表
これらのピークについて計算化学結果とともに考察する。
面形状を観察した。圧力 1.0 Torr メタン比率 60%、80%、
100%および圧力 0.1 Torr メタン比率 100 %について
観察結果を図6に示す。
3.3 計算化学
炭素クラスターの構造最適化を行った計算の結果、グ
ラファイトの層間距離は 3.35 Å、炭素間距離は 1.42
14020422:研究報告(本文)
No.98 (2013)
12
12
No.98 (2013)
Åであった。これらの値は実測値の層間距離 3.42 Å、
結晶性が低く炭素の小片からなる場合は小さいクラスタ
炭素間距離 1.45 Åとほぼ一致した。また、グラファイ
ーから構成されるため、クラスター辺縁の炭素原子の割
トの積層構造では水平方向に 1.42 Åのずれがあること
合が高くなり 1350 cm-1 ピーク(D バンド)が強くなると
がわかった。
(説明のため計算に用いた図2のクラスター
推察される。
モデルの中心部を切り出して図8に示す。)
4.考 察
今回の検討で、P-CVD 法において平板状炭素、粒状炭
素、ウォール状炭素の三種類の構造を持つ炭素成膜が可
能となった。成膜による形状の差は炭素と水素の活性種
の割合によって決まることがプラズマ分光より明らかと
なった。このうち、炭素活性種が少ないと垂直方向への
成長速度が遅く、水平方向への拡散が多くなり平板状に
図8
炭素クラスターの計算結果
成膜される。濃度が高くなると垂直方向の成長が促進さ
れ、粒子状炭素を生成する。さらにプラズマ中の炭素活
性種が多い場合は、シート状炭素がランダムに配向しな
がら垂直に結晶成長するためウォール状炭素が生成する。
これは、ラマン分光結果と計算化学の結果よりグラファ
イトの多結晶の連続体であることが推察される。しかし、
炭素活性種が多すぎると一様な結晶成長が起こるためウ
ォールの成長が見られなくなる。そのため、1.0 Torr で
はメタン濃度 100 %においてもウォールの形成は少な
く、適切な活性種濃度であった 0.1 Torr ではアスペクト
比の高い薄片状ナノウォールを得ることができた。
図9
実測したウォール状炭素のラマン分光スペクト
ルとクラスターモデルから計算したスペクトルの比較
さらに構造最適化されたクラスターモデルに対し、電
子状態エネルギー分布と振動モードデータからラマン分
5.今後の展開
本研究で開発したウォール状炭素は、特異なナノ構造
を有しており機能性材料への応用が考えられる。ウォー
光スペクトルを求めた。作製したウォール状炭素成膜の
ルの端面は上方を向いていることからロータス効果によ
ラマン分光スペクトル結果と、計算から求めた結果を併
り長期間にわたる撥水性が期待できる。また、表面積が
せて図9に示す。真空補正値は 0.92 とした。実測と計算
大きいので触媒担体などの化学プロセスへの応用も可能
-1
によるスペクトルはほぼ一致し、1350 cm 付近(D バン
性がある。また、電子伝導性があり、化学的安定性が見
ド)と 1580 cm-1 付近(G バンド)に特徴的なピークが認
込めるので電池材料への応用が期待される。
められるため、計算結果を解析したところ、クラスター
辺縁の炭素原子は 1350 cm-1 ピークに関与し、クラスタ
ー内部に位置する炭素原子は 1580 cm-1 ピークに関与し
ていることがわかった。すなわち、結晶性が高く大きな
結晶片からなる場合はグラファイト構造が平面状に伸展
しているため、大きなクラスターと同じであり、クラス
ター内部の炭素原子が多く存在するので 1580 cm-1 ピー
ク(G バンド)の強度が増加すると推察される。逆に、
今後はさらに成膜技術の検討を進め、ウォール状炭素
と金属微粒子などの複合化による高機能化を目指す。
14020422:研究報告(本文)
No.98 (2013)
13
No.98 (2013)
13
気相法によりアルミニウムおよび合金表面へ形成した
単分子膜の防食性および耐熱性
八木橋
信
Anti-Corrosion Properties and Thermal Durability of Monolayer Formed by CVD over
Aluminum and Its Alloys
Makoto YAGIHASHI
Abstract : Aluminum mirror and aluminum alloy 1%Si-Al bonding wire were photochemically oxidized and cleaned
to be modified with monolayers from alkylsilane; n-octadecyltorimethoxysilane (C18Si(OMe)3) by chemical
vapor deposition. Their anti-corrosion properties against the salt water were investigated according to JIS Z
2371. Bare aluminium and its alloys (BAl) were similarly examined as a control. BAl have corroded completely
within 96 hours, while C18Si(OMe)3 covered samples remained their original states. Thermal durability of
monolayers was also examined measuring their dynamic contact angles of water (CA) on heated samples in the
air and under a nitrogen atmosphere. CA of the sample heated in nitrogen gas at 150℃ for five hours did not
changed, though CA of the samples heated in the air for one hour decreased with the temperature (>100℃).
1.緒 言
行っている。研磨した航空機用高力アルミニウム合金
我々はアルミニウムやその合金の表面へ、特別な装置
(2024-T3) 表 面 へ n- オ ク タ デ シ ル ト リ ク ロ ロ シ ラ ン
を必要としない気相法によりアルキルシランを用いた単
(CH3(CH2)17SiCl3、以下、C18SiCl3 と示す)を形成したもの
分子膜を形成し、96 時間の中性塩水噴霧試験にも耐えう
が最もパッキング密度が高く、n-オクタデシルトリメト
る高い防食性を実現した。本稿では、アルミニウムを蒸
キシシラン(CH3(CH2)17Si(OCH3)3、以下、C18Si(OMe)3 と示
1),2)
、1%のシリコンを含むアルミニウム
す)等よりも優れた耐食性があると報告している。しかし
合金製の IC 配線用ボンディングワイヤへ防食性を付与
ながら、高い耐食性を持っているものの、C18SiCl3 はア
着した反射鏡と
した
3),4)
実例を紹介し、本単分子膜の耐熱性を報告する。
アルミニウムは反応性が高い金属であるが、空気中で
は強固で透明な自然酸化膜が形成されるため高い耐食性
ルミニウムと反応する際に腐食性の Cl-イオンを放出す
るため、単分子膜形成時に生じた微細な孔食が観察され
ている。
を持つ。表面に傷がついても、その高い反応性のため、
本研究では、Cl を含まない C18Si(OMe)3 を用いて、気
大気中であればすぐに自然酸化膜が再生されて安定な表
相法によりアルミニウムおよびその合金表面へ単分子膜
面となる。しかし、海風などの塩分を含んだ水分に曝さ
を形成した。気相法は液相法と比較して、大面積に対し
されると、塩化物イオンにより自然酸化膜の再生が妨げ
ても、配線済みの IC のように入り組んだ構造でも均質に
られ、腐食が進行する。アルミニウムや合金に含まれる
処理できるメリットがある。液相法では通常、塩酸など
不純物の表面へ、塩化物イオンを含んだ水分を付着させ
を添加してメトキシ基(-OMe)を加水分解した後に基板表
なければ、高温多湿の海辺のような厳しい環境でもアル
面 と 反 応さ せ るが 、 事前 の加 水 分 解を 必 要と し な い
ミニウムを腐食から保護することができる。
150℃以上の気相法で処理した。処理時における腐食性の
単分子膜の形成は Si ウェハに対する研究が多く、金属
の表面へ処理した研究は少ない。アルミニウム合金につ
Cl-イオンの介在を防止し、単分子膜形成時における試料
の腐食を防止した。
5)
いては、Wang らが液相法を用いて処理した研究があり、
分子鎖長(18, 8)、官能基の種類(-Cl, -OMe)および数
2.実 験
(1,3)の異なるアルキルシランを用いた防食性の比較を
2.1 試料の準備
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No.98 (2013)
No.98
(2013)
14 14
単分子膜を形成するために用いたアルキルシラン
2.2 中性塩水噴霧試験による耐食性試験
C18Si(OMe)3 は、純度 95%のものを Gelest 社から購入した
各試料の耐食性を評価するため、JIS Z 2371 に基づく
ままで用いた。試料表面への単分子膜の形成処理は図 1
96 時間の中性塩水噴霧試験(スガ試験機:STP-90)をおこ
に示す手順でおこなった。真空紫外光(172nm)照射により
なった。試料の評価は、アルミニウムミラーについては
3
1.0 × 10 Pa の大気中で 30 分間表面を酸化/洗浄した
可視光領域(360〜830nm)における反射率の変化を分光反
後、150℃で 3 時間、試料を C18Si(OMe)3 の蒸気に曝すこ
射率計(日立製作所: 340S)により測定した。単分子膜形
とにより単分子膜を形成した。
成前後の表面状態の変化は、走査型プローブ顕微鏡(エス
アルミニウムミラーは 25mm×25mm×5mm、面精度λ/4
アイアイ・ナノテクノロジー: SPA-400)の Dynamic Force
の平面ミラーを、アルミニウムのみ蒸着したもの(以下、
Mode (DFM)により観察した。1%Si-Al ワイヤの表面状態
Al ミラーと呼ぶ)と、従来の保護膜である MgF2 を更に蒸
の変化は電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ: S-4800)
着したもの(以下、MgF2 ミラーと呼ぶ)をシグマ光機から
で観察した。
購入した。試験用の試料は、処理を施さない Al ミラー、
C18Si(OMe)3 で表面に単分子膜を作製した C18Si(OMe)3/Al
ミラー、MgF2 ミラーの 3 種類を用意した。
アルミニウム合金のワイヤは、φ30.4μm、1%Si の IC
配線用アルミニウムボンディングワイヤ(以下、1%Si-Al
ワイヤと呼ぶ)を Coining 社から購入した。試験用の試料
は、未処理の 1%Si-Al ワイヤ、C18Si(OMe)3 で表面に単分
子膜を形成した C18Si(OMe)3/1%Si-Al ワイヤを用意した。
Al ワイヤは非常に細いため、単分子膜被覆処理や耐食性
試験に備え、純 Al(99.999%)製の台に巻き付け固定して
処理した。
2.3 ホットプレートによる耐熱性試験
単分子膜の耐熱性を評価するため、Al 基板および Si
基板を予め 100, 150, 200, 300, 400℃で加熱したホッ
トプレート(Corning:PC-420D)の天板に、単分子膜を形成
した面を上にして密着して置き、大気中で、1 時間放置
した。また、雰囲気中に酸素が存在しない場合の耐熱性
を評価するため、PFA 容器に Si 基板を窒素雰囲気で封入
後、150℃にて 5 時間放置した。
3.結果および考察
Al ミラーの分光反射率(初期状態を 100%とした相対
アルミニウム基板(以下、Al 基板と呼ぶ)は、純度
値)の変化を図 2 に示す。C18Si(OMe)3/Al ミラーでは 96
99.999% 、 厚 さ 0.5mm の ア ル ミ ニ ウ ム ホ イ ル を
時間の中性塩水噴霧試験後においても、反射率が低下し
Sigma-Aldrich 社から購入し、2000 番の耐水ペーパーで
なかった。一方、未処理の Al ミラーでは特に波長の短い
表面を研磨したのち、超音波洗浄器で洗浄して、10mm×
領域で最大 20%程度の反射率の変化が見られた。これは
10mm に切り分けた。シリコンウェハ基板(以下、Si 基板
腐食により蒸着したアルミニウムの一部が欠落しただけ
と呼ぶ)は S.E.H.社から購入した面方位 100 のシリコン
ではなく、残存部の表面が荒れることで、短波長の光か
ウェハを 10mm×10mm に切り分けた。Al 基板および Si 基
らの反射率が低下しているものと考えられる。MgF2 ミラ
板表面には C18Si(OMe)3 の単分子膜を形成した。
ーについては、未処理の Al ミラーよりも蒸着膜の欠落が
真空紫外光照射による
酸化/洗浄
大きく、中性塩水噴霧試験では耐食性が低下する結果と
なった。
図 3 に 1%Si-Al ワイヤへの単分子膜形成前後および、
中性塩水噴霧試験後の 1%Si-Al と C18Si(OMe)3/1%Si-Al
の表面状態を電子顕微鏡で観察した結果を示す。未処理
の表面が完全に腐食した一方、表面に単分子膜を形成し
た表面は腐食が観察されなかった。図 4 の中性塩水噴霧
試験直後の光学顕微鏡による観察でも、単分子膜で保護
(l = 172nm,10mW/cm2
, 1.0 x 103Pa, 30 分間 )
(3 時間 , 150°C)
図 1 単分子膜の形成
した C18Si(OMe)3/1%Si-Al ワイヤは塩水をはじいており、
マクロ的に見ても NaCl を含んだ水滴から保護している
ことが観察された。
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15
15
図 4 アルミニウム合金ワイヤの光学顕微鏡観察
図 2 アルミニウムミラーの分光反射率(相対)
1)
図 5 アルミニウムミラー表面の DFM 画像
図 3 の単分子膜形成前後の電子顕微鏡画像および図 5
の Al ミラー表面の走査型プローブ顕微鏡画像では、処理
前後に表面状態の変化は観察されず、Wang5)らが C18SiCl3
を用いた際に観察した単分子膜形成後の孔食が生じてい
ない。本研究で用いた気相法処理では、アルミニウムの
腐食の要因となる Cl-などの塩化物イオンの介在がない
ため、単分子膜を形成する際の腐食をも防いでいる。
表面に C18Si(OMe)3 による単分子膜を形成した Al 基板
および Si 基板の加熱による動的接触角(水)の変化を図 6
に示す。加熱温度の上昇にともない接触角の低下が観察
された。加熱された試料には周囲から常に新鮮な酸素が
供給されるため、基板表面を覆う単分子膜のアルキル鎖
が徐々に酸化/分解されることに起因すると考えられる。
窒素中で封入し、150℃で 5 時間加熱した Si 基板の接触
角はθ A/θ R= 109.8°/100.3°であり、初期状態と比較
して接触角にほぼ変化がみられなかった。つまり、樹脂
封止 IC パッケージなどで大気から遮断されていれば、
150℃に加熱しても単分子膜の状態が維持される可能性
図 3 1%Si-Al ワイヤの電子顕微鏡画像 3)
が示された。
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16 16
アルミニウムはプロジェクタや動的な回折格子に使用
される Digital Mirror Device の反射鏡など光学機器と
して利用されるだけではなく、一般工業用金属では銅に
次いで導電性が高い金属で軽量であるため、電線として
も広く用いられている 6)。特に近年では銅の価格高騰や、
軽量化への要求のため、アルミニウムおよびその合金の
電線への置き換えが進められている。本処理は膜厚が
2nm 未満でありながら共有結合により強固に結合する皮
膜をアルミニウム表面へ形成する。これを光学機器に用
いる場合には反射率の低下がなく、電線に用いる場合に
は屈曲などに起因する皮膜の剥離が生じず耐食性が低下
しない。そのため、エネルギーの利用効率や電子機器の
図 6 加熱による動的接触角(水)の変化
信頼性の向上に寄与すると期待できる。
接触角の変化で特徴的なのは、加熱温度の上昇にとも
ない Si 基板の前進/後退接触角が同じ傾向で低下する
参考文献
のに対して、Al 基板では後退接触角が Si 基板と同様に
1)八木橋信, 小島雅彦, 松本宏紀, 穂積篤: “光学特
低下するものの、前進接触角は 200℃になるまで顕著な
性に優れた単分子膜被覆アルミニウムミラーの作
低下が見られない点である。これは、表面が非常にフラ
製”, 第 121 回表面技術協会講演大会講演要旨集,
ットな Si 基板に対して、2000 番の耐水ペーパーで研磨
pp.244-245(2010).
した Al 基板は表面粗さが大きいため、前進接触角が高め
2)八木橋信, 穂積篤, 小島雅彦, 大司達樹: “アルミ
に観察されたものと推測される。後退接触角は表面の欠
ニウム反射鏡およびアルミニウム反射鏡の製造方
陥に敏感に影響されるため、Al 基板も Si 基板同様、加
法”, 特願 2010-054593.
熱温度が高くなるに従って、単調に減少していると考え
3)八木橋信, 松本宏紀, 村瀬真, 小島雅彦, 穂積篤:
られる。このことからも、表面の評価には動的接触角の
“単分子膜被覆によるアルミニウム配線の防食”,
測定が必須であることが示唆された。
第 122 回 表 面 技 術 協 会 講 演 大 会 講 演 要 旨 集 ,
pp.149-150(2010).
4.まとめ
4)八木橋信, 穂積篤, 小島雅彦: “半導体デバイスお
気相法によりアルキルシラン系単分子膜を Al ミラー
よびその製造方法”, 特願 2011-32726.
や Al 合金製のワイヤ表面に形成し、中性塩水噴霧試験に
5 ) D. Wang, Y. Ni, Q. Huo and D. E. Tallman:
よって、塩水の霧に 96 時間曝露しても腐食が生じない処
“Self-assembled monolayer and multilayer thin
1)-4)
-
。本処理法では、処理過程に Cl に代表
films on aluminum 2024-T3 substrates and their
される塩化物イオンの混入がないため、アルミニウムお
corrosion resistance study”, Thin Solid Films,
よびその合金のような塩化物イオンと水分の組み合わせ
471, pp.177-185(2005).
理を確立した
で腐食を生じやすい金属に適している。
また、表面を研磨した Al 基板や Si 基板表面の分子膜
の耐熱性を調べ、大気中では 200℃以上に加熱すること
で顕著に接触角(水)が低下することを確認した。窒素雰
囲気にした PFA 容器内に 150℃で 5 時間放置した場合に
は接触角の低下はみられず、酸素が供給されない状態で
あれば 150℃でも単分子膜の特性を維持できることを確
認した。
6 ) 軽 金 属 協 会 編 : “ ア ル ミ ニ ウ ム 技 術 便 覧 ”,
p.1120(1996).
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No.98(2013)
(2013)
No.98 技術ノート
技術ノート
17
17
光触媒コーティング材によるトイレ脱臭効果の実証試験
大岡
千洋
Examination of Deodorizing Effect in the Restroom Using the Coating Photocatalyst Materials
Chihiro OOKA
1.緒言
定期的な臭気測定を実施することで、その効果の実証試
光触媒を利用して、空気や水の浄化を行うという試み
験を行ったので報告する。
1)
が盛んである 。その中で筆者は酸化チタン/粘土複合多
孔体に着目し、その吸着性能と光触媒性能を利用した吸
2.実験方法
着濃縮型の高効率光触媒の研究を続けてきた 2)-7)。
(1)光触媒施工
酸化チタン/粘土複合多孔体は層間架橋粘土とも呼ば
れ、図1に示すように酸化チタンのような金属酸化物の
ナノ粒子が、粘土の板状結晶の層間に入り込み、いわば
立体駐車場のようなナノ空間を形成させたミクロポアあ
るいはメソポア多孔体である。このナノ空間内で粘土層
間の内部表面と物質の吸着が起こり、希薄物質が濃縮さ
れ、さらに層間に挟まれた酸化チタンの光触媒作用によ
り、効率的に酸化分解される。図1はあくまでも理想的
工業研究所と(株)鯤コーポレーションが開発した光
触媒コーティング材
8),9)
(鯤コーポレーション商品名:
TPX-HLID)を、名古屋市国際展示場のトイレのタイル壁
およびモルタル天井にコーティング施工した。展示場の
交流センター・男子トイレおよび女子トイレ各 1 カ所、
第2展示館男子トイレ 1 カ所、第3展示館男子トイレ 1
カ所の合計 4 カ所に施工し、未施工のトイレと比較した
な概念図であり、実際は図2のようにデラミネーション
(施工日:平成 24 年 9 月 27~28 日)。
(カードハウス)構造と呼ばれる乱れた凝集構造を取っ
(2)施工場所の光強度測定
ていることが多い 2)。
施工場所の光強度は照度計(アズワン LM-332)で測定
この酸化チタン/粘土複合多孔体を含有した光触媒コ
ーティング材を企業と共同開発し
8)
、そのコーティング
材を学校教室に施工したところ、室内の総 VOC(揮発性
有機化合物)濃度を大幅に低減することができた 9)。
今回は、名古屋市国際展示場(ポートメッセなごや)
した。
(3)臭気測定方法
ニオイセンサー(NP-329ⅢR、新コスモス電機製)で臭
気測定をした。ただし、臭気全体を測るものであり、そ
の中には悪臭も芳香も含まれ、臭い物質の種類に対する
のトイレの小便臭(特に男子トイレ)を低減することを
目的に、同じ光触媒コーティング材を施工し、その後、
図1
層間架橋粘土の理想的な構造概念図
図2
層間架橋粘土の実際的な構造概念図 2)
14020422:研究報告(本文)
No.98 (2013)
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18 18
感度も異なる。したがって、小便の悪臭のみを計測した
わけではない。
施工したトイレの臭気値と未施工のトイレの臭気値を
同日に測定し比較することで、光触媒コーティングの効
果を評価した。
臭気は、その日の条件によって異なるため、トイレの
入り口前で臭気を測定し、トイレ内の測定臭気値からト
イレ入り口前の測定臭気値を差し引き、トイレ臭気値と
した。
図3
施工したトイレの内部風景例
測定は、イベント開催の有無、季節の異なる下記の6
回の日で行い。その平均値を取った。
1)平成24年11月10日(異業種交流展示会
メッ
セナゴヤ 2012 開催中)
2)平成 24 年 11 月 30 日(次世代ものづくり基盤技術産
業展 TECH Biz EXPO 2012 開催中)
3)平成 24 年 12 月 11 日(イベントなし)
4)平成 25 年 1 月 4 日(イベントなし)
5)平成 25 年 3 月 12 日(イベントなし)
図4
施工風景
前処理(付着していた汚れの除去)
6)平成 25 年 3 月 20 日(イベントなし)
3.結果
(1)施工したトイレの光環境条件
施工したトイレの内部風景の例を図3に示す。さらに
施工風景を図4~6に示す。
図3のように、いずれのトイレでも、窓がないか窓が
小さいため太陽光の採光が弱く、東西南北といったトイ
レ室の向き、朝、昼、晩などで室内の採光状況は大きく
は変わらなかった。
表1にトイレの場所ごとの照度測定の結果を示す。天
図5
施工風景
小便器横のタイル壁への施工
井に設置されている蛍光灯の近くは、ある程度の照度が
確保されていたが、床付近では、概ね 100lux 程度であっ
た。またこれらのトイレは展示場が使用されている時は
照明がつけられるが、イベントがなく使用されていない
表1 施工場所の光強度(照度)
測定 交流
交流
第2
位置 センター センター 展示館
男子
女子
男子
トイレ
トイレ
トイレ
照 度 天井
1400
500
520
(lux)
-1700
床
70-110
80-100
70-250
第3
展示館
男子
トイレ
290
-360
50-160
図6
施工風景
天井への施工
14020422:研究報告(本文)
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19
No.98 (2013)
交流センター
第2展示館
第3展示館
男子施工
男子未施工
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
男子施工
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
男子未施工
女子施工
女子未施工
男子施工
男子未施工
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
19
図7
施工したトイレ
の臭気測定の結果
(縦軸はセンサーが示
した無単位の値)
時は窓からの採光のみであり、暗い状態になっている。
開催時以外は照明の蛍光灯も使われない。このように光
施工は図4のように、あらかじめ付着していた汚れの
の少ない状態でも、この光触媒コーティング材は、脱臭
除去を行い、図5~6のようにスプレー塗付した。
効果を示したと結論できる。
(2)臭気測定結果
ニオイセンサーによる臭気測定結果を図7に示す。棒
参考文献
グラフの数値は、測定した6回の結果の平均値である。
臭気測定結果は、測定日ごとに大きくばらついた。イ
ベント開催時は、多くの参加者の体臭により数値が上昇
1)
図書、(2007).
2)
した。また展示場内に飲食物を販売するスタンドがある
Mater. Chem., 9, pp2943-2952 (1999).
3)
pp313-321 (2003).
4)
5)
(2004).
6)
C. Ooka, H. Yoshida, K. Suzuki and T. Hattori,
7)
特許第 4140729 号
8)
特許第 4107512 号
9)
大岡千洋、名古屋市工業研究所研究報告、
Applied Catal. A: General, 260, pp47-53 (2004).
のは、女性の化粧や香水によるものと判断される。
このように、正確な測定を阻害するばらつきの要因が
大きかったが、測定回数を増やすことにより、影響を平
均化することができ、図7のように全ての施行場所で、
未施工よりも施工したトイレの方が臭気値は低い傾向を
示した。
トイレ室内は、窓からの採光が微弱であり、イベント
C. Ooka, H. Yoshida, K. Suzuki and T. Hattori,
Microporous Mesoporous Mater., 67, pp143-150
よるものと考えられ、これは測定者の官能にも感じられ
た。また女子トイレの方が男子トイレよりも数値が高い
C. Ooka, H. Yoshida, K. Suzuki and T. Hattori.
Chem. Lett., 32, pp.896-897 (2003).
また交流センターのトイレ臭気値は、展示館よりも高
い値を示したが、これは設置してある液体石鹸の芳香に
C.Ooka, H. Yoshida, M. Horio, K. Suzuki and T.
Hattori, Applied Catal. B: Environ., 41,
により、空気中の臭い成分量が変化することも影響した
と考えられ、秋季よりも冬季の方が低い数値を示した。
C. Ooka, S. Akita, Y. Ohashi, T. Horiuchi, K.
Suzuki, S. Komai, H. Yoshida and T. Hattori, J.
場合は、食品等から発生する臭いが場内からトイレ内に
も流入し、数値は大きく上昇した。また季節の温度変化
例えば、「光触媒応用技術」、橋本和仁監修、東京
93,pp1-10 (2008)
14020422:研究報告(本文)
No.98
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既発表論文抄録
既発表論文抄録
20 20
液面プラズマによるナノ粒子酸化チタン水分散液の調製
伊藤 美智子*、早川 雅浩*、高島 成剛*、浅見 悦男*、青木 猛*、
岡 真佐人**、浅野 浩志**、北原 路郎**、中田 悟**、山口 浩一、村瀬 由明
微粒子を水などの溶媒中に安定な状態で散在させる分
TiO2 懸濁液に対して 2 時間、プラズマ処理を行った。プ
散技術は塗料、インク、電子材料、化粧品、医薬品、セ
ラズマ処理は空気雰囲気あるいは Ar 雰囲気にて行った。
ラミック製品など幅広い産業において重要である。
プラズマ処理中は超音波照射を併用した。比較実験とし
微粒子は通常、粉体の状態では一次粒子が凝集した二
次粒子として存在している。この二次粒子を解きほぐし、
て超音波照射のみによる分散処理を行った。
まず、液面プラズマ処理により調製した TiO2 水分散液
より微細かつ均質に分散させることが製品の性能・品質
と超音波処理のみにより調製した分散液について、24 時
の維持・向上に不可欠である。しかし、ナノ粒子(一般に
間静置後の状態を比較した。超音波のみでは微粒子の沈
一次粒子径が 100 nm 以下)は表面エネルギーが高いため
降が見られたのに対して、プラズマ処理した場合には粒
凝集しやすく、二次粒子を解きほぐして再凝集すること
子の沈降がなく、良好な分散状態を維持していた。
なく良好な分散状態を維持するためには煩雑な工程を要
動的光散乱法により分散液の粒度分布を調べたところ、
する。従来法ではビーズミルや高圧ホモジナイザーなど
超音波のみで調製した分散液では粒子が多分散であり、
の強力な機械的外力や凝集した粒子の解砕を促す界面活
µm オーダーの凝集体を含んでいた。一方、プラズマ処理
性剤などの分散剤が用いられている。
の場合では良好に分散しており、平均粒子径は空気雰囲
分散・凝集の過程は微粒子の表面状態に強く影響され
気の場合で 150 nm、Ar 雰囲気では 180 nm であった。ま
ることから、我々はナノサイズ領域の微粒子を水中に分
た、プラズマ処理により得られた TiO2 分散液中のタング
散させる手法として、表面改質処理などに活用されてい
ステン濃度は検出限界以下であり、放電電極に起因する
るプラズマ技術の利用可能性を検討し、液面プラズマに
重金属のコンタミネーションがないことを確認した。
より分散剤を用いることなく微粒子酸化チタンの水分散
液の調製が可能であることを見出した。
図 1 に TiO2 水分散液の調製に用いた液面プラズマ処理
超音波処理のみ、および Ar 雰囲気中でのプラズマ処理
で調製した分散液の pH はともに 5.6 であり、TiO2 の等電
点とほぼ等しい値であった。ゼータ電位測定の結果では、
装置の概略図を示した。水面上部の気体中と水中に電極
超音波処理のみの場合には等電点から予想されるように
を配置し、この一対の電極間に電圧を印加することで気
TiO2 粒子はほとんど帯電していなかった。それに対し、
中電極と水面間にプラズマを発生させる。気中電極には
プラズマ処理の場合では正に帯電していた。分散状態の
タングステン線(φ1 mm)、水中電極にはアルミニウムを
維持はプラズマ処理により TiO2 粒子間に静電反発力が
用いた。被処理液
生じるためであることがわかった。Ar 雰囲気中で調製し
は テ イ カ 社 製
た分散液では pH が TiO2 の等電点とほぼ等しいにもかか
MT-500B ( ル チ ル
わらず帯電したことは注目すべき点であり、プラズマ処
型、一次粒子径 35
理による微粒子の表面改質効果の現れと考えている。
nm) 0.1 g を純水 1
本研究は JST の助成 (A-STEP, AS232Z01985C)を受けた。
L に加えた TiO2 懸
掲載誌:Jpn. J. Appl. Phys., 51, 116201 (2012).
濁液である。気中
Preparation of Aqueous Dispersion of Titanium Dioxide
電極と液面間の距
Nanoparticles using Plasma on Liquid Surface
離 5 mm、印加電圧
Michiko ITO, Masahiro HAYAKAWA, Seigo TAKASHIMA, Etsuo
1.5 kV の 条 件 で
図 1 液面プラズマ装置
ASAMI, Takeshi AOKI, Masato OKA, Hiroyuki ASANO, Michiro
KITAHARA, Satoru NAKATA, Koichi YAMAGUCHI and Yoshiaki
*
**
(公財)名古屋産業振興公社 プラズマ技術産業応用センター
日本メナード化粧品(株)
MURASE
14020422:研究報告(本文)
No.98 No.98(2013)
(2013)
21
21
3 次元データを活用した化石の新しい展示方法
岩間
由希、西本 昌司*、近藤 光一郎、飯田 浩史、
ヒシグジャウ=ツォクトバートル**、鍔本 武久***
近年、3次元データの研究への活用が増加しており、
科学館などでの展示を始めとした見せ方(プレゼンテー
ション)においても、3次元データが今後重要な役割を
果たしていくと予測される。
古生物学においては、試料内部を非破壊で観察できる
せるなど、化石の研究および研究成果の効果的な見せ方
において、X 線 CT は大変有用であるといえる。
一方3次元造形機(3D プリンタ)は、コンピュータ上
のバーチャルモデルを元に実際に手に取れる実物モデル
を制作するもので、形状確認や機能検証などの強力なツ
X 線 CT が積極的に利用されつつある。今回、工業用 X 線
ールとして近年注目されている。造形用の形状データは、
CT 装置を使用して絶滅哺乳類の顎化石を測定し、試料の
通常は CAD 上の3次元図面を使用するが、X 線 CT や3次
内部構造を含めた詳細な3次元データを取得した。
元デジタイザなどで得られる3次元形状データも活用し、
図1に X 線 CT 撮影結果を示す。3次元データとしてコ
ンピュータ上で扱うことで、貴重な試料を切断すること
CAD 図面の無い、または複雑で図面に描けないものの造
形も実施しており、応用範囲は非常に広い。
なく、任意方向や断面での観察が可能となり、試料構造
図2で得られた化石の形状データから、手に取れる実
の理解に大変有用な見せ方を提示できた。また X 線吸収
物モデルを造形した。図3のように歯と顎とを個別かつ
率の違いにより、試料形状のみならず材質等の推定およ
2分割モデルとして造形し、組み合わせ状態や内部構造
び表現にも用いることができた。更に図2に示すように、
を観察できるようにした。実物化石ではこうした展示方
X 線 CT 測定結果から3次元形状データ(コンピュータ上
法は難しく、造形物を用いる大きな利点である。造形機
のバーチャルモデル)を作成し、部分ごとに分けて表現
は硬く耐久性の高いプラスチックで造形できるため、直
した。本来であれば試料を破壊しなければ取り出せない
感的な理解や記憶を深めるハンズオン展示も容易である。
内部の構造も、そのままの形状で表現することができた。
また形状不鮮明部はデータ上で修正し、複製作成や、実
他にも、地層中に埋まった化石をそのままの産状で表
寸の2倍サイズでの造形など、コンピュータ上のデジタ
ルデータであることも活かして造形できた。
図1
X 線 CT 撮影結果(任意断面表示)
図3
3次元造形機による造形モデル
3次元データを効果的に活用し、更に個々の装置単独
のみならず X 線 CT や3次元造形機、様々なソフトを連携
した複合的な展開により、試料や研究成果の様々な見せ
方の可能性が大きく広がることが示された。
掲載誌:名古屋市科学館紀要,[39] pp. 39-43 (2013)
図2
X 線 CT から得られた形状モデル
New
Approach
to
Fossil
Exhibits
Using
3D
Reconstruction
*
名古屋市科学館・
***
**
モンゴル古生物学センター・
林原自然科学博物館
Yuki IWAMA, Shoji NISHIMOTO, Koichiro KONDO, Kouji
IIDA, Khishigjav TSOGTBAATAR and Takehisa TSUBAMOTO
14020422:研究報告(本文)
No.98 (2013)
No.98
(2013)
22 22
添加剤フリーワット浴から得られたニッケルめっきの
硬度と組織に及ぼすパルス電解の影響
三宅猛司、加藤雅章、高松輝*、市野良一**
4
一般に、めっき膜の微細化やピット防止の目的で無
Hardness / GPa
機・有機化合物が添加剤として用いられる。これら添
加剤はめっき浴の長寿命化や再利用の点から悪影響を
及ぼすため、添加剤フリー浴が望まれる。パルス電解
は添加剤フリー浴から微細なめっきを得る有効な手法
である。そこで、パルス電解条件と得られるめっき膜
3
の硬度と組織への影響について調べた。
2
本実験で用いためっき浴はワット浴である。パルス
0.01
電解条件 Iav(平均電流密度)=5Adm-2 に固定し、Ton time
(パルス通電時間)=0.1~5ms、Dyty 比=0.03~0.33
Duty 比の影響
○:T =0.1ms, △:T =0.5ms, □:T =1ms, ◇:T =5ms.
係を図 1 に示す。この結果より、Ton time=0.5ms では
on
Duty 比=0.05 で最大硬度 3.7GPa、Ton time=1ms 以上で
on
Hardness / GPa
て、硬度は Duty 比に依存することが分かった。
次に、Duty 比=0.1 に固定し、Iav=2~10Adm-2 、Ton
time=0.1~5ms に変化させた時の膜硬度への影響を図
2 に示す。参考までに直流電解(析出電流密度 2、5、7、
-2
10Adm )で得られた結果もプロットした。この結果か
ら、直流電解とパルス電解で得られた膜で比較すると
on
4
3
2
0
パルス電解で得られた方が高硬度を示し、パルス電解
2
の優位性が明らかになった。さらに、Iav と硬度の関係
4
6
Iav / Adm
では、Ton time=0.5ms 以上において Iav が増加するにつ
図2
-2
れ硬度も増加したが、Iav=7Adm と 10Adm で得られた
膜の硬度差は小さい。また、同一 Iav において、Ton
8
10
-2
Duty 比=0.1(一定)条件下での硬度に及ぼす
Iav の影響
●:DC, ○:T =0.1ms, △:T =0.5ms,
on
on
□:T =1ms, ◇:T =5ms.
time=0.5ms より Ton time=1ms の方が高硬度であり、Ton
time=1ms 以上ではほぼ同値であった。
on
5
は Duty 比=0.1 で最大硬度 3.8GPa を示した。したかっ
-2
0.5 1
Iav=5Adm-2(一定)条件下での硬度に及ぼす
図1
に変化させたときの膜について、膜硬度と Duty 比の関
0.05 0.1
Duty ratio
on
on
掲載誌:表面技術 63 [9] pp.591-595 (2012)
このような硬度の変化は、めっき膜の結晶粒径が影
“Effect of Pulse Electrolysis on The Hardness and
響していると考え、ホールペッチ式(1)を適用し、硬
Texture of Nickel Deposit Obtained from Additive Free
度とめっき膜の平均結晶粒径の関係をプロットした結
Watt Bath” Takeshi MIYAKE, Masaaki KATO, Akira
果、相関関係があることが分かった。
TAKAMATSU, Ryoichi ICHINO
H
Hv + k
=
v
0
1
式(1)
d
ここで Hv0 と K は固有値であり、d は平均結晶粒径である。
*
(株)中央製作所、**名古屋大学エコトピア科学研究所
14020422:研究報告(本文)
No.98 No.98(2013)
(2013)
23
23
架橋ジフェニルアミン系ポリマーの
電気化学特性における化学構造の効果の探索
林英樹、中尾秀信*
1.はじめに
架橋構造を持つジフェニルアミン化合物は、
が-H に変換された。また、R’にペンタメチルフェニル
電気的光学的な興味の対象として有力な化合物であり、
基を導入した PPhenaz-Ph においては、電気化学反応によ
こういったユニットを含むポリマーについても盛んに研
り生成したラジカルカチオンの安定性がさらに高くなっ
究が行われている。そこで、架橋ジフェニルアミンユニ
ていた。
ットを主鎖に持つポリマーの電気化学特性における化学
続いて、ケイ素架橋ユニットの効果について調べたと
ころ、酸化側の CV の可逆性は、架橋ユニットがモノシラ
構造の効果について調べた。
2.ケイ素架橋ジフェニルアミン系ポリマー
図 1 に示し
ン>シロキサン>ジシランの順であり、N 原子を通した
た架橋ジフェニルアミン系ポリマーの合成を行い、電気
π共役の広がりと一致した。さらに、PAR における共重
化学特性における置換基効果についての検討を行った。
合の効果についても調べたところ、導入する Ar によって、
モノシラン架橋型ホモポリマーの PPhenaz の CV 測定を
酸化側還元側ともに CV 挙動が変化した。
行ったところ、ポリジフェニルアミン化合物で一般的に
3.架橋ユニットがケイ素以外のものについて
ケイ素架
観測される可逆な二対の酸化還元応答を示した。PPhenaz
橋ジフェニルアミンは、モノマーが市販されていない。
のキャストフィルムの CV 挙動はキャスト溶媒に依存し
そこで、ポリマーの製造コストの低減を図るため、市販
た。このような挙動は架橋ユニットがエチレンの場合は
の架橋ジフェニルアミン化合物の水溶媒での酸化重合を
観測されなかったので、この挙動には架橋ユニットによ
試みた。その結果、図 2 に示したように、架橋ユニット
る依存性があると考えられる。また、この架橋ケイ素ユ
がエチレン(Azep)の場合、重合が進行して対応するポリ
ニットは、ポリ(ジフェニルアミン)ユニットから発生し
マー(PAzep)が得られたものの、硫黄(Phen)の場合では重
たラジカルカチオンの吸収波長の長波長シフトに寄与し
合 体 は 得 ら れ ず 、 S 原 子 が 酸 化 さ れ た S- オ キ シ ド
ていた。
(Phen-O)になっていた。そこで、Phen と Phen-O との CV
続いて、電気化学特性に対する PPhenaz の置換基効果
を比較した。その結果、酸化側は Phen-O の方が高い酸化
を調べた。R’にアリールメチル基を導入した
電位を示しており、かつ、Phen-O は酸化側のみならず還
PPhenaz-CH2Ar の場合、電気化学還元により側鎖の-CH2Ar
元側にも活性を示していた。
Ar =
X
N
R'
X
n
S
Ar
N
Me
2,5-Th
OC6 H13
n
X = -SiR 2-, -SiMe 2SiMe2 -, SiMe2 OSiMe2 C6 H13O
1,4-diOhexPh
図1
架橋ジフェニルアミン系ポリマーの化学構造
表1
合成したケイ素架橋ジフェニルアミン系ポリマー
図2
市販の架橋ジフェニルアミンの酸化重合挙動
4.おわりに
架橋ジフェニルアミン系化合物の置換基効
果については、様々な化学修飾が可能なため、用途に応
じた機能性薄膜材料への発展が期待できる。
掲載誌:日本接着学会誌
49[3] pp.98-105
Investigation of The Effect of Bridging Unit and
Substituent
for
Electrochemical
Properties
Poly(Diphenylamine) with Bridged Unit
Hideki HAYASHI and Hidenobu NAKAO
*
物質・材料研究機構
of
14020422:研究報告(本文)
No.98 (2013)
No.98
(2013)
24 24
架橋ジフェニルアミンの酸化重合挙動
林英樹、井上紘義*、中尾秀信**、服部秀樹***、尾之内千夫*
架橋ジフェニルアミン化合物を主鎖に持つポリマーは、
解析を IR スペクトルおよび LC-MS により行った。その結
機能性材料として期待できる。その中で、酸化重合によ
果、図 2 に示したような S-オキシド体や S,S-ジオキシド
るポリマーの合成は簡便な合成手段として盛んに検討さ
体が得られることがわかった。
れている。筆者らは、以前、図 1 の要領で、空気雰囲気
続いて、Phen-HCl を、図 3 の要領で中性かつ水に可溶
下、水を溶媒として、市販の架橋ジフェニルアミンの酸
なアンモニウム塩(Phen-MeI)に変換し、光照射による
化重合を行ったところ、モノマーとしてイミプラミン塩
酸化反応を行った。その結果、化学酸化の場合と同様に
酸塩(X=-CH2CH2-:Azep-HCl)を用いた場合、対応するポ
S-オキシド体の生成が確認できた。
リマーが得られたのに対し、プロマジン塩酸塩
(X=-S-:Phen-HCl)を用いた場合、重合反応が進行しな
いことを示している。
1) NaOH
2) MeI
hν
Phen-HCl
N
N
Phen-MeI
X
X = -CH2CH2-
N
N
1) (NH4)2S2O8
2) NH2NH2
NMe2HCl
X = -CH2CH2-:Azep-HCl
X = -S-:Phen-HCl
図1
O
S
S
n
NMe2
X = -S-
no polymer
図3
N+Me3I-
Phen-MeI の合成経路と光反応
N+Me3I-
この酸化挙動について詳細を調べるため、非水溶媒中、
不活性ガス下でフェノチアジン誘導体のサイクリックボ
架橋ジフェニルアミンの酸化反応挙動
ルタンメトリー(CV)測定を行った。その結果、通常の
そこで、より詳細に架橋ジフェニルアミンの酸化重合
ジフェニルアミン系化合物と同様、N 原子の酸化と思わ
挙動を調べるため、プロマジン塩酸塩の酸化反応により
れる可逆な CV 挙動がみられたことから、先の酸化反応の
どのような化合物が得られるかを調べた。
系では、空気中の酸素または水を酸素源として S-オキシ
まず、架橋ジフェニルアミンの N 原子を通したπ共役
ド体が生成していると考えられる。
の広がりをモノマーの X 線結晶構造解析から調べたとこ
これらの事をまとめると、架橋ユニットの違いによる
ろ、架橋ユニットがモノシラン、エチレン、硫黄すべて
重合挙動の違いは、以下のようになる。まず、架橋ジフ
の場合において重合が進行するしないに関わらず変化が
ェニルアミンからラジカルカチオンが発生する。つづい
ほとんどなく、この種の化学構造が重合挙動に影響を与
て、X = -CH2CH2-の場合、重合反応が進行する。これに
えないことがわかった。
対し、X = -S-の場合は、S 原子に酸素や水が作用するこ
そこで、プロマジン塩酸塩の酸化反応時の中間体の化
とにより S-オキシド体が生成する。
学構造を調べた。通常、酸化重合によるジフェニルアミ
これらのことから、架橋ジフェニルアミンの酸化重合
ン系ポリマーの合成においては、重合反応後に還元剤を
時のモノマーの選定に、架橋ユニットが大きな影響を及
用いて脱ドープを行うことによりポリマーが得られる。
ぼすことがわかった。
そこで、Phen-HCl の脱ドープする前の酸化重合体の構造
掲載誌:International Journal of Polymer Analysis and
Characterization 17 [3], pp.189-198.
O
S
S
N
R
(NH4)2S2O8
R = -N+HMe2Cl-
図2
*
愛知工業大学
O
O
S
with Bridged Structure
N
R
monooxide
N
R
dioxide
Phen-HCl の酸化反応の生成物
**
Oxidative Polymerization Behavior of Diphenylamine
物質・材料研究機構
***
愛知医科大学
Hideki HAYASHI, Hiroyoshi INOUE, Hidenobu NAKAO,
Hideki HATTORI and Yukio ONOUCHI
14020422:研究報告(本文)
No.98 No.98(2013)
(2013)
25
25
有効な OLED 材料の合成法開発に向けた
テトラフルオロベンゼンの C-H 結合の直接アリール化反応を
利用したπ共役ポリマーの合成
盧葦*、桑原純平*、飯島孝幸**、東村秀之**、林英樹、神原貴樹*
有機発光ダイオード(OLED)や有機太陽電池といった有
ェニルとのクロスカップリング反応により合成した。合
機電子デバイスの材料として π 共役ポリマーの研究が
成したポリマーを表 1 に示す。モノマーとして、2,7-ジ
数多くなされている。π 共役ポリマーの工業的な実用化
ブロモ-N-オクタデシルカルバゾールを用いた場合、有機
を目指すためには、環境にやさしい合成法の開発が求め
溶媒に不溶であったが、その他のポリマーは汎用の有機
られる。そのため、いわゆる“直接アリール化”を経由
溶媒に可溶であった。
するクロスカップリング反応が開発されてきている。そ
ポリマーの分光特性を表 2 に示す。m=1 の場合、Ar の
の一環として、筆者らは、1,2,4,5-テトラフルオロベン
π 共役の広がりに応じて吸収極大波長が変化していた。
ゼンと 2,7-ジブロモ-9,9-ジオクチルフルオレンとの共
また、m の数で比較した場合、F 原子の存在による主鎖の
重合について報告している。さて、通常、π 共役ポリマ
ねじれのため、m が 1 から 2 になっても吸収極大波長は
ーに強い電子吸引性置換基を導入すると HOMO レベルが
ほとんど変化しなかった。
低下し、OLED のホールブロッキング層(HBL)として有効
表2
合成したポリマーの吸収極大波長と HOMO 準位
polymer
λmax (nm)a
EHOMO (eV)b
PDOF-TP
344
-5.96
3,6-POC-TP
302 (340)c
-5.74
2,7-POC-TP
d
d
PDOP-TP
361
-5.68
PDOF-OD
335
-5.82
となることが知られている。さらに、テトラフルオロベ
ンゼンを導入したポリマーを OLED に用いた素子は、無置
換のフェニレンが導入されたポリマーを用いた素子より
も優れた特性を示すことが知られている。そこで、テト
ラフルオロベンゼンの直接アリール化を経るクロスカッ
プリング反応により種々の π 共役ポリマーの合成を行
い、本合成法で得られたポリマーを OLED の HBL として評
価した。
ポリマーは、図 1 の要領で、ジハロゲン化芳香族化合
物とテトラフルオロベンゼンまたはオクタフルオロビフ
a
CHCl3 溶液。括弧内はショルダー。b イオン化ポテンシャルより求めた。
テトラクロロエタンを溶媒に用いた。d 溶媒に溶けなかったので測定で
きなかった。
c
続いて、合成したポリマーのうち、塗布による膜作製
が可能だったものについて、OLED の HBL としての評価を
行った。その結果、HOMO 準位が一番深い PDOF-TP を用い
た場合、HBL として有効であることがわかった。
これらの結果から、テトラフルオロベンゼンを主鎖に
F
n Br-Ar-Br
F
+ n H
F
F
F
組み込んだ様々な π 共役ポリマーの合成が容易となっ
Ar
H
F
F
m = 1, 2
F
m
m
n
た。さらに、得られたポリマーが OLED の HBL としての可
能性があることが示されたことから、本重合は、有機デ
バイス向けの材料開発の手法として今後も期待できる。
DOF
2,7-OC
3,6-OC
DOP
図 1 ジブロモ芳香族化合物とテトラフルオロベンゼン
化合物との共重合
表1
合成したポリマーとその合成結果
掲載誌:Macromolecules, 45 [10], pp.4128−4133 (2012)
Synthesis
of
π-Conjugated
Polymers
Containing
Fluorinated Arylene Units via Direct Arylation:
Efficient Synthetic Method of Materials for OLEDs
Wei LU, Junpei KUWABARA, Takayuki IIJIMA, Hideyuki
HIGASHIMURA, Hideki HAYASHI and Takaki KANBARA
a
GPC により測定 b 溶媒に溶けなかったので測定できなかった。
*
筑波大学
**
住友化学
14020422:研究報告(本文)
名古屋市工業研究所研究報告№98
平 成 26年 2月 発 行
発行部数
500部
無 料
特定配付
発
行
名古屋市工業研究所
名古屋市熱田区六番三丁目4番41号
TEL 〈052〉661-3161(代表)
編集担当 名古屋市工業研究所支援総括室