最近の着用衣料と手入れ行動の実態

KAO INFORMATION
2004年10月
この報告は、2 0 0 4 年 6 月12日、13日に開催された(社)日本繊維製品消費科学会 2 0 0 4 年
年次大会で発表したものに、これまでの研究内容を加味してまとめたものです。
最近の着用衣料と手入れ行動の実態
〜ファッションのカジュアル化にともなう意識・行動の変化について〜
加藤
1.
玲子
背景と目的
私たちを取り巻く衣生活環境は大きく変化していますが、その一つにファッションのカジ
ュアル化が挙げられます。従来、自宅では気軽なカジュアル衣料で過ごし、外出する際は、
その場所や場面などにより、カジュアルからフォーマルまで TPOに合わせて服装を選んでい
ました。しかし、近年、形式的な習慣や規範にこだわることなく、いろいろな場面に、より
気軽な服装が取り入れられているように見受けられます。このようなカジュアル化の傾向
は、衣料に対する思いや手入れ行動にも影響しているのではないかと考えました。
そこで、こうしたカジュアル化の実態を探り、またそれに伴う衣料の手入れ行動を把握す
ることで、ファッションのカジュアル化時代に対応したファブリックケアのあり方を探ること
を目的としました。
2.
調査方法
1. 郵送式アンケート
・実施時期 2003 年 5月
・対象者
首都圏在住女性 2 4 2 名(2 0 〜 6 0 代の主婦)
・調査内容
①所有衣料アイテムの把握(アイテムと素材により3 7 種類を提示)
②着用衣料アイテムと着用場面の把握(2 0 場面を提示)
③衣料アイテム別手入れ方法の把握(洗濯方法・使用洗剤など)
2.訪問調査
・実施時期
2003 年 7〜8月
・対象者
上記郵送式アンケート回答者から1 9 名(2 0 〜 6 0 代の主婦)
・調査内容
①着用場面(上記郵送式アンケートで想定した2 0 場面)のグルーピング
とグループごとの着用アイテムの確認
②着用アイテムの具体的手入れ方法
-1-
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3.
結果
1.衣料アイテムの所有状況
素材や季節性を考慮した衣料アイテムを3 7 種類提示し、それぞれの所有率を調査しました。
その結果、年代を問わず、所有率が高いアイテムは、綿素材のTシャツ・カットソー、シャ
ツ・ブラウス、セーター類、ジーンズなどで、特にTシャツは1 0 0 %の所有率でした。
一方、家庭での洗濯が難しいとされる絹や麻素材のワンピースやスーツは、全体的に所
有率が低く、所有者の中では、5 0 〜 6 0 代が多い傾向にありました。
また、これらの衣料アイテムの所有率には、職業の有無による差はありませんでした(図
1)
。
全体
N=242
衣料アイテム
Tシャツ
シャツ・ブラウス
セーター
ジーンズ
セーター
トレーナー
カットソー
スカート
スラックス
フリース
スカート
スカート
スーツ
ワンピース
スラックス
ワンピース
シャツ・ブラウス
カットソー
Tシャツ
ワンピース
スーツ
スーツ
ワンピース
20代
N=49
30代
N=117
40代
N=28
50代
N=34
60代
N=14
専業主婦
N=104
有職主婦
N=125
(綿、綿化繊)
(綿、綿化繊)
(ウール)
(綿、綿化繊)
(綿、綿化繊)
(綿)
(綿、綿化繊)
(ウール)
(化繊)
(ウール)
(綿)
(ウール)
(ウール)
(絹)
(絹)
(絹)
(麻)
(麻)
(絹)
(絹)
75%以上
図1 衣料アイテムの所有状況(アイテム抜粋)
50%以上
25%以上
2003年5月アンケート
-2-
25%未満
N=242
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2.所有衣料アイテムとその着用場面
2−1 所有アイテム別着用場面
次に、いずれの年代も行きそうな場面(自宅、スーパー、デパート、病院、レストラン、
ホテルなど)と属性の特徴が現れそうな場面(近所の公園、幼稚園の送り迎え、学校の授業
参観、通勤など)を2 0 場面提示し、3 7 種類の衣料アイテムについて着用される場面を調査
しました。
所有率の高いTシャツ、ブラウス、セーターなどのアイテムは、どの場面にも広く着用さ
れていました。一方、所有率の低い麻や絹のワンピースやスーツなどは、着用される場面も
少なく、ホテルでの食事や観劇などに限られていました(図2)。
場面
自
宅
衣料アイテム・素材
Tシャツ
(綿、綿化繊)
シャツ・ブラウス (綿、綿化繊)
セーター・カーディガン(ウール)
ジーンズ
セーター・カーディガン(綿、綿化繊)
トレーナー
カットソー・キャミソール(絹)
スカート
(綿)
スラックス・パンツ(綿、綿化繊)
フリース
スカート
(ウール)
スカート
(化繊)
スーツ
(ウール)
ワンピース
(綿)
スラックス・パンツ(ウール)
ワンピース
(ウール)
シャツ・ブラウス (絹)
カットソー・キャミソール(綿、綿化繊)
Tシャツ
(絹)
ワンピース
(麻)
スーツ
(麻)
スーツ
(絹)
ワンピース
(絹)
行く人(%) 100
所有率(%)
ス
ー
パ
ー
デ
パ
ー
ト
友
人
宅
フ
ァ
ミ
リ
ー
レ
ス
ト
ラ
ン
美
容
院
旅
行
︵
バ
ス
・
電
車
︶
レ
ス
ト
ラ
ン
病
院
ド
ラ
イ
ブ
遊
園
地
・
テ
ー
マ
パ
ー
ク
映
画
コ
ン
サ
ー
ト
・
観
劇
ホ
テ
ル
︵
食
事
︶
カ
ラ
オ
ケ
近
所
の
公
園
通
勤
・
通
学
お
稽
古
・
習
い
事
学
校
の
授
業
参
観
幼
稚
園
の
送
り
迎
え
99 97 94 93 93 92 91 89 96 86 86 81 79 68 65 61 50 35 22
100
98
97
94
91
90
89
88
84
82
80
78
71
70
60
40
34
25
24
21
19
13
12
全体N=242名の着用率
(アイテムは所有率の多い順、場面は行く人の多い順)
75%以上
50%以上
25%以上
25%未満
2003年5月アンケート
N=242
図2 所有衣料アイテムの場面別着用率(アイテム抜粋)
2−2
アイテム別着用場面の年代別解析
年代を問わず所有率の高いTシャツやジーンズについては、2 0 〜 4 0 代の着用場面が多
く、自宅だけでなくデパートや病院、映画など人が多く集まる場所にも幅広く着用されて
いましたが、5 0 〜 6 0 代はスーパー、旅行などに着用するなど比較的限られていました。ま
た、ウールのスーツは、5 0 〜 6 0 代の着用場面が多く、ホテル・観劇などに加え、デパー
ト、レストラン、友人宅、旅行などにも着用されていました(図3)。
-3-
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Tシャツ(綿、綿化繊)
場面
20代
N=49
30代
N=117
40代
N=28
50〜60代
N=48
ジーンズ
20代
N=49
30代
N=117
75%以上
50%以上
40代
N=28
スーツ(ウール)
50〜60代
N=48
20代
N=49
30代
N=117
40代
N=28
50〜60代
N=48
自宅
スーパーへ買い物
デパートへ買い物
友人宅
美容院
ファミリーレストラン
旅行(バス・電車)
レストラン
病院
映画
遊園地・テーマパーク
ドライブ
ホテル(食事)
コンサート・観劇
カラオケ
近所の公園
通勤・通学
お稽古・習い事
学校の授業参観
幼稚園の送り迎え
25%以上
25%未満
50%以上
25%以上
10%以上
2003年5月アンケート
図3 年代と衣料アイテムの場面別着用率
10%未満
N=242
綿のTシャツやカットソーなどのカジュアルな衣料は、年代・職業を問わずプライベート
からオフィシャルな場面まで着用されていました。この傾向を「カジュアル化」とすると、
カジュアル化は浸透・拡大しており、特に若い世代に顕著であることがわかりました。
次に、こうしたカジュアル化の具体的状況(着用アイテムや着用場面、衣類に対する気持
ちとの関係)と、また、どのような意識で着分けているのかを深く探るため、訪問調査をお
こないました。
3.着分け意識について
3−1 着分け意識の年代別特徴
対象者に2 0 の着用場面について、同じような服装をすると考えられる場面をグループ分
けしてもらいました(グルーピング)。
5 0 〜 6 0 代の世代では、4 〜 5 グループと、細かく着用場面をグルーピングしていたのに対
し、2 0 〜 3 0 代の若い世代では、全体的に 2 〜 3 グループと少ない傾向にありました。
さらに、グループ別にどのように衣料アイテムを着分けるかを調査したところ、5 0 〜 6 0
代では、プライベートからオフィシャルへと場面が変わるに従って、素材(綿素材から麻や
絹などに)
、デザイン(襟のないラフなものから襟のあるもの、刺繍やビーズなどの装飾性の
高いもの)、アイテム(ジャケットなどをはおる)などを変えて、着分けていました。一方、
2 0 〜 3 0 代は、場面が変化しても、綿素材のTシャツやカットソーを広く着用し、ボトムズ
はジーンズからコットンパンツやスカートに変える程度であり、
「普段着」と「お出かけ着」
で、同じアイテムでも色合いや装飾などで変化をつける程度でした(図4)。
-4-
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50〜60代の状況
標準
洗濯機洗い
マイルド
コース
20〜30代の状況
クリーニング
マイルド
コース
洗濯機洗い
標準
手入れ
粉末洗剤
おしゃれ着洗剤
粉末洗剤
ネット
衣料
オフィシャル
おしゃれ着洗剤
ネット
衣料
オフィシャル
アイテムや素材
デザイン(襟など)
着用
衣料
色合い
デザイン
装飾
麻ジャケット
襟付き
刺繍
ブラウス
カットソー
ウールのパンツ
綿パン
グルー
ピング
自宅、公園
スーパー
美容院
着分け
意識
自転車で
行ける
映画、病院
友人宅
デパート
テーマパーク
電車に乗る
TPO
オフィシャル
おけいこ
旅行
コンサート
ホテル(食事)
レストラン
学校の参観
友達と一緒
人目がある
TPO
オフィシャル
自宅、公園
幼稚園送迎
スーパー
ドライブ
子供と一緒
友人宅、病院、美容院
ファミリーレストラン
レストラン、カラオケ
遊園地・テーマパーク
少し遠く
デパート
ホテル(食事)
学校の参観、映画
人が集まる
人に見られる場所
普段着でははずかしい
図4 着用場面と着用衣料の年代差
3−2
就業状況差による20〜30代の着分け意識
専業主婦では、グルーピングの数が 2 〜 3 グループと少ないのに対し、有職者はグルーピ
ングの数が 4 〜 5 グループと多い傾向がみられました。こうしたグルーピングに対する意識
は、「人目がある(人に見られる)」かだけではなく、会社にふさわしい「オフィシャルなス
タイル」か、プライベートで「楽な格好」かなど、オンかオフかという基準が加わっていま
した。
さらに有職者に顕著だったのは、5 0 〜 6 0 代の特徴である、よりオフィシャルな場面へと
変化するに従って、素材やアイテムそのものを変えていくといった意識も合わせ持っていま
した(図5)。
プライベートからオフィシャルな場面に対する意識は、年代や就業によりその思いや位置
づけは異なっていましたが、グループ分けの基準は「自宅からの距離」や「電車に乗る」
「人目がある(人に見られる)」か否かであり、年代差は見られませんでした。
-5-
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20〜30代 有職主婦
洗濯機洗い
標準
マイルド
コース
20〜30代 専業主婦
クリーニング
マイルド
コース
洗濯機洗い
標準
手入れ
粉末洗剤
おしゃれ着洗剤
粉末洗剤
ネット
衣料
オフィシャル
おしゃれ着洗剤
ネット
衣料
オフィシャル
アイテム・素材
色合い、デザイン・装飾
色合い
デザイン
装飾
着用
衣料
ニット
綿パン
グルー
ピング
着分け
意識
自宅
スーパー
ファミリー
レストラン
おけいこ
日常に近い
人目は気にしない
自分の楽な格好
病院
ドライブ
旅行
遊園地
ニット
ウールパンツ
ジャケット
スカート
TPO
オフィシャル
通勤
美容院
映画
レストラン
ホテル(食事)
コンサート
女性らしく
病院、先生に
会社の雰囲気に
会うから
合う髪型にしたい
ちゃんとしなくちゃ
TPO
オフィシャル
自宅、公園
幼稚園送迎
スーパー
ドライブ
子供と一緒
友人宅、病院、美容院
ファミリーレストラン
レストラン、カラオケ
遊園地・テーマパーク
少し遠く
デパート
ホテル(食事)
学校の参観、映画
人が集まる
人に見られる場所
普段着でははずかしい
図5 着用場面と着用衣料の就業差
4.アイテム別の手入れ実態
このような衣料アイテムはどのように手入れされているのか調査しました。
Tシャツなどのカジュアル衣料は「洗濯機での標準コース」が中心でした。一方、所有
率、着用率の低い絹や麻のスーツやワンピースなどのアイテムはクリーニングが中心でした。
また絹や麻のスーツやワンピースを除く、多くの衣料アイテムは、「洗濯機のマイルドコー
ス」や「手洗い」でも洗濯されていました(図6)。
このような手入れ行動には、年代・職業の有無による差はありませんでした。しかし、前
述3の着分け意識でもわかるようにカジュアル衣料でも「お出かけ着」とされるものは、
「伸び・縮み、色褪せ・傷みなどを防ぎたい」「大切に洗いたい」という意識からか、洗濯
機で「ネット利用の標準コース」や「マイルドコース」を選び、洗剤は「粉末洗剤」では
なく「おしゃれ着洗剤」が使用されていました(図4・5)
。
こうした手入れで使用される「洗剤のイメージ」について確認したところ、粉末洗剤につ
いては、子供の泥んこなどの「汚れが良く落ちる」「徹底的に洗える」など洗浄力が強いイ
メージでした。一方、おしゃれ着洗剤については、
「色物や新品衣料が色落ちしない」
「粉末
よりもやわらかく仕上がる」
「大切なものがやさしく洗える」などのイメージがありました。
-6-
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洗濯機マイルド
洗濯機標準
クリーニング
手洗い
Tシャツ
(綿、綿化繊)
シャツ・ブラウス(綿、綿化繊)
セーター
(ウール)
ジーンズ
セーター
(綿、綿化繊)
トレーナー
カットソー
(綿、綿化繊)
スカート
(綿)
スラックス
(綿、綿化繊)
フリース
スカート
(ウール)
スカート
(化繊)
スーツ
(ウール)
ワンピース
(綿)
スラックス
(ウール)
ワンピース
(ウール)
シャツ・ブラウス(絹)
スカート
(麻)
カットソー
(絹)
Tシャツ
(絹)
ワンピース
(麻)
スーツ
(麻)
スーツ
(絹)
ワンピース
(絹)
0
25
50
75
100 0
25
50
75
100 0
25
50
75
100 0
25
50
2003年5月アンケート
図6 アイテム別手入れ実態
75 100(%)
N=242
また、「大切なカジュアル衣料をどう洗いたいか」については、Tシャツやカットソーな
どは肌に直接触れるものなので、汚れはしっかり落とし、しかも「首回りの伸びや型くずれ
をおさえたい」「洗濯物同士がこすれたり、よれたりせずに洗いたい」「シワをできるだけ少
なく洗いたい」「表面のケバ立ちを防ぎたい」などの意識がありました。こうした意識が、
マイルドなイメージのある洗剤の使い分けにつながっていました。
4.
まとめ
1) 綿のTシャツやカットソーなどのカジュアルな衣料は、年代・職業を問わずプライベ
ートからオフィシャルな場面まで着用され、カジュアル化は、社会に広く浸透・拡大
しており、特に若い世代において顕著に見られました。
2) カジュアル衣料の中には「お出かけ着」として大切にしているものが存在し、「自宅か
らの距離」や「人目がある」などの着分け基準によって「デザイン性」
「装飾性」が高
いもの、「色合い」のきれいなものが「お出かけ着」とされていました。
3) 「お出かけ着」の手入れ方法は、汚れはしっかり落とし、伸びや傷み、型崩れを防ぎ
大切に洗いたいという意識から「洗濯機のマイルドコース」「ネット使用」「おしゃれ
着洗剤の使用」など、洗い方に配慮がなされていました。
従来、カジュアル衣料は、「洗濯機でザブザブ洗えるもの」というイメージでしたが、カ
ジュアル化の浸透・拡大にともない、「大切にしたいカジュアルな衣料」が登場し、その手
入れとして「型崩れせず」しかも「洗濯機で大切に洗いたい」という新しい意識が生まれ
ており、今後は、このような手入れ意識に合った洗剤類の開発や洗い方についての情報提
供が必要と思われます。
-7-
KAO INFORMATION
■参考
しっかり洗えて 傷みを防ぐために
ファッションのカジュアル化にともない、若年世代を中心に着用衣料や手入れ行動に変
化が見られました。花王は、洗剤メーカーとして、このようなカジュアル衣料の手入れを
サポートするための商品開発や情報提供をおこなっていきたいと考えております。
〒131-8501 東京都墨田区文花 2-1-3 TEL.03-5630-9963(月〜金
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9:00〜17:00)
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O
2004.10.5000 ○
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