國友万裕 - 対人援助学会

1.男と見られたくない
2月日
★★★★★★★★★★★
京都みなみ会館で、
『マンガ肉とぼく』とい
う映画を見た。杉野希妃さんの監督・主演で、
★★★★★★★★★★★
彼女が特殊メイクで丸々と太った女子大生を
演じている。撮影が行われたのは京都なので、
あちこちに見慣れた風景がでてきて、それも
男は
痛い
!
俺にはとても楽しかったが、何よりも共感し
たのは、このヒロインだった。
彼女は太ろうと努力する。普通の若い女性
だったら痩せようとする人が多いのに、一生
懸命太ろうとする。痩せてしまうと女という
目で男から見られるから、それが彼女には耐
えられないのである。
「この気持ちわかるなあ〜」。俺は、彼女の
男バージョンだ。俺は女性に男と見られるの
がいやである。男と見られると反発する。俺
のこれまでの人生で俺を口説いてきた女性た
ちは、何か勘違いしていた。
大学の頃、俺をしょっちゅう誘ってきた女
の子は、いつだって、涙ぐんだような顔で俺
に迫っていた。彼女は何か悩みを抱えていた
ことは確かだった。だから俺にすがろうとし
ていた。最初からすがる目的の恋愛である。
しかし、普通の男はこんな口説き方でなびく
國友万裕
のだろうか。女の涙は武器だ。哀れっぽい目
で男に追いすがることは、ピストルや刀をも
って脅迫するのと同じことなのに。脅迫する
第19回
ような女と男がつきあいたいと思っているの
か。今思い出しても、恐怖の体験だった。
俺が 30 代の頃、他の男にセクハラされてい
起終点駅 ターミナル
ると訴えてきた女の子がいた。彼女は俺に自
分の悩みを分かち合ってもらおうと思ってい
た。俺に一緒になって、
「その男、ひどいやつ
だね」と共感してもらおうと思っていた。一
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般に女性は、誰か共通の嫌いな人をつくるこ
女に恋愛や性の対象として見られたくないの
とで団結しようとする。でも、俺は女のそう
だ。女は怖い!
怖い!! 怖い!!!
いうところが嫌いだ。中村先生によるとこう
いうのはモビングというのだそうだ。一丸と
2.息子と泳いだ日
なって、誰かを嫌う。俺はこれまでその女性
3月日
の習性の餌食にされてきた男だ。そんな俺に
今年の春休み、久しぶりに専門学校で教え
「モビングに加担して」と甘えることで口説
ていた男の子と会った。彼とは Facebook で
けると思っているのか。セクハラなんかだっ
つながっていたのだった。
たら、女性に相談すればよさそうなもんだ。
彼とは去年、一度は会って、ちょっとだけ
女の性の悩みを男に聞かせようとするなんて、
お茶を飲んだ。彼は専門学校から大学に編入
男へのセクハラだと思う。実際、あの時、俺
し、今は営業の仕事をしているとのことだっ
はセクハラされている気分だったのだ。
た。しかし、それきりで終わるだろうと俺は
俺が 40 代の頃、ブログをやっていた時期が
思っていた。ところがひょんなことから、ま
あった。そこに見ず知らずの女性がファンに
た会うことになって、彼はスポーツマンで水
なって、俺にコメントするようになった。彼
泳もやっているので、ちょっとだけ泳いでか
女は京都在住。30 代半ばで男に振られたばか
ら、メシでも行こうかということになった。
り。俺の顔も知らんのに、ブログを読む限り
「先生、お腹出ていますよ(笑)」
では優しそうだし、同じ京都だからつきあえ
「そりゃ、俺は 52 なんだから仕方ないよ」
ると思ったらしく、毎日のようにコメントを
と話しながらプールの中を歩いた。
入れて、モーションをかけるようになった。
彼と俺はちょうど親子ぐらいの年の差だ。
「あの人、確実に國友さんに気があるわよ。
といっても、もう社会人になった息子と一緒
30 半ばの女は焦るのよ。これ以上年をとると
にプールに入るお父さんはそうそういないだ
子供が産めなくなるから」と知り合いの女性
ろう。俺は恵まれているなあー。二人で身体
から言われた。ある時、彼女は、
「私、高校の
を動かし、あれこれ話をして、たらふく海鮮
時に、リストカットをしたことがある」と秘
料理を食べて、立派な社会人になったもんだ
密のメッセージまで送ってきた。カチン!と
なあと思ったものだった。楽しいひと時だっ
俺は切れた。リストカットをするような女を
た。
男が好きだと思っているわけ!? 俺はそう
こういうひと時を俺は小学校の頃から求め
いう女とは怖くてつきあえない!
ていたのだろう。しかし、発達障害的で浮い
やはり、女性たちもジェンダーに染まって
た存在の子だった俺は、友達をつくろうにも
いる。弱い女を演じれば、男はそこから救っ
つくれなかった。俺はいつだって3軍の男だ
てあげたいという気持ちになる、彼女たちは
ったのだ。1軍の男は勉強ができてスポーツ
そう思っているに違いない。そういう男もた
マン。あるいは、喧嘩の強いガキ大将。2軍
くさんいるんだろうなあ。だけど、俺はそん
の男は、それなりに1軍のやつと友達になれ
な男じゃない。そんなわけで、俺は女が怖い。
る連中。しかし、変わり者で気が小さくて、
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運動神経ゼロだった俺は、3軍の男で、女の
いつだって、自分はつきあってもらっている。
子からもバカにされるようなタイプの連中と
そういう気分で俺は生きてきたのだった。
しか付き合えなかった。学校はつまらなかっ
た。学校という階級社会の中で、常に3軍で
3.男同士のパフェ
いなきゃならないというのは、自尊心を傷つ
4月日
突然、メッセージが iPad に届いていた。も
けられる辛い日々だった。
小学校の高学年からはジェンダーにとらわ
う4年ほど前の教え子からである。彼は体育
れ、男の子の仲間にいることに抵抗すら感じ
会のキャプテンで、俺になついてくれていた。
るようになっていった。男になってしまった
東京で就職したのだが、今日はたまたま大阪
ら、損をする、殴られる、理不尽な役割を負
に仕事で来たから、昼間だけ時間があるから、
わされる。そう思っていた俺は男同士のつき
「一緒に飯でも」という連絡だった。新学期
あいを拒否するようになっていった。そこか
が始まったばかりで、大学の授業が始まって
ら俺の人生は大きく潮流からそれ始めたのだ
いなくて、まだその午後は時間があった。
った。
高島屋の前で待ち合わせ、近くの寿司屋で
でも、今は自分の息子ほどの年齢の男性と
たっぷり寿司を食べた。彼はすっかりビジネ
一緒にプールに入れる。俺は彼と会う前、俺
スマンになっていて、あれこれ仕事の話をし
は良くても彼のほうが一緒にプールに入った
てくれた。今は超多忙だけど、しばらくは無
りするのはいやがるのではないかと思ってい
理してでも頑張る気でいるみたいだった。や
た。しかし、まったく違和感なく、話はそう
はり体育会あがりのやつは目上の人と付き合
いう流れになり、その後、食事の席でも気詰
うのがうまいし、爽やかである。俺は体育系
まりなく語り合えた。至福の時間だった。
になれなかったから、余計にまぶしく感じる。
彼だけじゃない。2月にもう一人、かつて
そういえば、俺よりも一回り年上の男性は、
の教え子の男の子と焼肉にいっている。去年
スポーツ万能だったにもかかわらず、体育系
の春休みもスポーツクラブのインストラクタ
の活動はいっさいしなかったと言っていた。
ーをしていたかつての教え子と温泉と寿司に
「僕たちの頃は、スポーツなんかやっている
行った。彼らはかつての教え子であり、もは
やつは、頭が悪いというイメージがあったん
や俺と利害関係はないので、無理に付き合う
だよ」とのこと。へー、そうなのか。あの頃
必要はない。だけど、彼らは俺とつきあって
は学生運動もあっただろうし、長髪世代だか
くれる。楽しい時を分かち合ってくれる。俺
ら、スポーツよりもフォークソングのような
はもっと自分に自信をもっていいのかもしれ
雰囲気だったのかもしれない。俺は生まれた
ない。これだけ若い男性と仲良く話せる 50 代
時期が間違っていたのか。俺から見ると、や
のおじさんはそうそういるものではないだろ
はりスポーツマンはステキだ。
う。そして、彼らは決して3軍タイプの男じ
たらふく寿司を食べたあと、もうしばらく
ゃない。一軍の男なのである。
時間があるので、デザートでも食べるかとい
しかし、未だに俺は自分に自信がないのだ。
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うことになり、パフェが食べたいというので、
新京極の有名なパフェの店でいちごパフェを
は大きい。52 歳になって、俺はやっと自分の
注文し、二人で向かい合って食べた。昔の男
息子ぐらいの子にたどり着いたのだった。
だったら、男二人でいちごパフェなんて、嫌
5.ホモマゾ
だと思うやつが多かっただろう。しかし、今
の若い男は平気だ。体育会の猛者であっても、
東京大学の先生で女装ですっかり有名にな
さりげなく男同士でパフェが食べれる。やは
った安富歩さんが、
「ホモマゾ」という言葉を
り時代は変わるなあー
使って男の世界を表現していた。まさにこの
言葉は的を射ている。ホモマゾとは、ホモソ
4. 焼肉、風呂、ラーメン
ーシャル+マゾヒズムである。
5月日
男たちはホモソーシャルな男の世界で、女
飛び石連休の途中の平日、かつての教え子
にはないような苦しみはたくさんあるけど、
とばったり会った。彼は学校の先生をしてい
でも俺たちは男なんだから皆で痛みを共有し
るのだが、運動部の顧問をしているせいか、
ようねというマゾ的な快感を支えに生きてい
日に焼けてますます精悍になっていた。彼も
るのだ。
俺になついてくれていて、2年前にも偶然会
安富さんはそういう世界からはおりたいか
ったときも、メシ、風呂、ラーメンと過ごし
ら女装になったのだろう。俺は逆だ。俺はそ
た。
もそもホモマゾの世界に入ったことがない。
「あれから連絡がなかったし、Facebook も
だから、未だに男同士でプールに入ったりと
更新していないみたいだから、どっか他の街
いう小学生のような友情をたっぷり味わいた
にでもいったのかと思っていたよ」
いという段階に留まっている。俺が一軍の男
「いや、同じ学校で働いていますよ」
たちと親密なつきあいができるようになった
じゃあ、2年前と同じことをもう一度しよ
のは 40 代になってからであり、それまではそ
うかということになり、次の週末に待ち合わ
ういう男の関係に憧れながらも、入れないが
せした。二人で焼肉に行った後、ラーメン、
ために、まるで同性愛のようにそういう関係
風呂、そしてかき氷で閉めた。若い男の子は、
に焦がれていた。40 過ぎて、人間関係には恵
焼肉やラーメンが好きだ。風呂もつきあって
まれるようになり、親密な友人関係を結んで
くれる。彼は、好きな女の子がいるみたいで、
くれる男性はたくさんできた。しかし、俺は
もうそろそろ結婚することも考えているみた
まだ女性とのつきあいには躊躇している。
いだった。
俺は子供の頃から、男たちが、平気でジェ
彼と話していると結婚も悪くないなあと思
ンダーを受け入れてしまうことがわからなか
えてくる。彼は俺のちょうど半分の年なのだ
った。せっかく一生懸命働いてお金を稼いで
が、もし 20 代の頃にこうやって一緒にメシや
も、妻や子供に吸い取られる。離婚なんてこ
風呂につきあってくれる男の相棒がいたら、
とになったら、子供は女にとられる。結婚な
俺だって普通に結婚していたのかもしれない
んて、女の術中にはめられる行為である。
のだ。つくづく学校へ行かなかったブランク
おそらく、大概の男たちはそこまで考えて
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いない。最初から一軍の男で、ホモマゾに生
もってしまう。外人の場合だと文化のギャッ
きてきた男たちは、結婚し、妻子を養うのが
プがあるから、最初から理解してもらえない
一軍の男のイメージだから、他の男もしてい
部分があって当たり前という気持ちで接して
ることだから、つらくても頑張ろうとホモマ
いるからだ。しかし、日本人の女性だと、
「な
ゾの理論で生きている。だけど、俺はホモマ
ぜ、これくらいのことがわからないん
ゾ理論を受け入れることができなかったので
だ!!!」と俺は激昂してしまうのである。
ある。
困ったものだ。
今は、男性とのつきあいという部分ではホ
女性と喧嘩しないためには、俺はホモマゾ
モマゾが受け入れられるようになったが、女
にならなくてはならない。目一杯、他の男に
性とのつきあいの部分ではまだできていない。
同一化する。男たちと仲間意識を持つ。そし
なぜなのだろう?
て、女性は異星人だと思って、ある程度の距
去年の対人援助学会で、女性から理解された
離を保つ。わかってもらえなくてもかまわな
くないという話がでた。ある若い男性が、女
いと割り切る。それが女性恐怖を防ぐ秘訣の
性に自分のことを理解してもらうのはむしろ
ようである。これからはそれを実践に移して
不愉快だというのだ。分かる気はする。普通
いかなくてはならない。
の男性はそうなのだろう。普通の男は、相手
が妻や娘であっても、ある程度の距離はおい
6.『起終点駅 ターミナル』(2015)
て、自分のすべてを知ってもらおうとは思っ
5月日
ていないように見える。
ホモマゾになりたいという思いもあって、
俺は逆だった。俺はフェミニズムを一生懸
シネコンで『64』の前編を見た。主演の佐藤
命勉強して、女性を理解しようと努めてきた。
浩市を筆頭に男性スターがたくさん登場する
だから、女性にももっと男のことをわかって
映画でまさしくホモマゾ。この映画のポスタ
くれと思ってしまい、わかってくれない女性
ーを見ればわかるのだが、男たちは皆不機嫌
とはすぐに喧嘩してしまう。これが俺が女性
そうな顔で写っている。不機嫌そうな顔をし
とつきあえない大きな原因である。
ながらも、これしか男の生きる道はない。煩
『男性は火星から、女性は金星から』とい
わしい政治的な人間関係や家族とのしがらみ
う有名な本がある。俺たち男は火星人、女は
に引き裂かれつつも、男という運命を生きて
金星人。だから分かり合えなくて仕方がない
いる男たち。
んだと割り切らなくては男女の関係は上手く
俺は男の運命を受け入れることができなか
いかない。
った。そういえば、だいぶ前に中村先生から、
女性にわかってもらおうとする俺が間違っ
「國友さんとつきあっているとすぐに傷つく
ているのだ。もっと冷めた目で異星人として
から面白い」と言われたことがあった。俺は
女性を見ることができれば、俺の女性恐怖は
傷つきを表に出しすぎるのだ。普通の男は傷
マシになるのだろう。考えてみると俺は、日
ついていても、それを表に出そうとしない。
本人の女性よりも外人の女性のほうに好感を
表に出さないのは問題だとこれまでの男性学
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の人たちは訴えてきたが、俺みたいに表出的
やりとりがでてくる。確かにノスタルジーと
すぎてホモマゾに入れないのも問題なのだ。
いう言葉は女よりも男に似合う言葉である。
『64』は、久々に充実した邦画の大作であ
過去が好きなのは女よりも男だ。
る。タイトルの 64 とは、わずか7日間で終わ
佐藤浩市は 55 歳。俺より3つ上だが、渋み
った昭和 64 年のことだ。この時、天皇崩御の
がでていい役者となった。彼のような男でも、
ニュースに紛れて、ほとんど報道されること
四半世紀を超える時間、過去を引きずってい
もなかった女児誘拐事件に今も捕らわれ続け
るのだから、俺が過去をひきずっているのも
る男たちを描いている。昭和に取り残された
異常なことではないだろう。
男たちには、昭和は今も終わっていない。
ただ残念ながら、男になれないことがきっか
俺にとっても昭和は終わっていない。俺は
けでトラウマを背負う男の話は今のところ見
昭和が終わる時アメリカに留学中だった。し
つからない。この映画のように女を死なせて
たがって、あの時、日本がどういう様子だっ
しまったことが原因という話はしばしば見ら
たのか全然知らない。あの時、俺が日本にい
れるのだけど。やはり、世間は女にトラウマ
なかったのは、俺の人生は平成に変わっても、
を負わされた男よりも、女にトラウマを負わ
昭和のトラウマを引きずり続けることを暗示
せた(女を死に追いやった)男の方に同情的
していたのかもしれないのだ。
なのである。
俺は 1964 年生まれ。64 という数字も因縁
男は加害者でなきゃいけないなんて、そん
めいている。この映画との出会いは俺にとっ
なの変! やはり男は痛い!!です。
ては運命だったのかもしれない。
佐藤浩市の初老ぶりにうたた感慨である。
佐藤浩市は、『起終点駅
ターミナル』(篠原
哲雄監督)でも同じような役で出ている。こ
れも昭和から平成にまたがる話なのだが、昭
和の終わり、女性が突然自分の前で死んだこ
とのトラウマに引きずられ、25 年間、一人で
暮らしていた弁護士が、新たな若い女性との
出会いと別れにより、長年会っていなかった
息子とも和解し、新たな人生を踏み出す話で
ある。
「25 年間、俺は逃げ込んでいただけだ」と
いうセリフが出てくる。男は一度トラウマを
追うとなかなかそこから抜け出すのに時間が
かかる。女性の方が潔い。この映画でも、
「私
何もいらなくなっちゃったんです」
「うらやま
しいよ。男にもそれができたらなあ」という
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