肝臓癌由来培養細胞中各種トランスポーター mRNA に及ぼす 抗癌薬の

357
原
聖マリアンナ医科大学雑誌
Vol. 30, pp.357–369, 2002
著
肝臓癌由来培養細胞中各種トランスポーター mRNA に及ぼす
抗癌薬の影響
すがはら
ふみたか
くま い
とし お
かみ お
こう じ
さいとう
りょうこ
菅原
章隆 1
熊井
俊夫 2
神尾
浩司 2
斉藤
良子 2
(受付:平成 14 年 8 月 20 日)
抄
録
今回著者らは,汎用されている抗癌薬,5-fluorouracil(5FU),Cisplatin(CDDP),Irinotecan(CPT11)が,各種トランスポーターの発現に及ぼす影響を m-RNA レベルで評価することを目的とし,
肝細胞癌細胞(HepG2, Huh7 細胞)を培養し,各種抗癌薬を添加後,抗腫瘍効果を規定する有用
な因子として注目されている,multidrug resistance associated protein( MRP-1),multidrug resistance
protein-1( MDR-1), canalicular mutispecific organic anion transporter( cMOAT), breast cancer resistant
protein( BCRP)mRNA レベルの経時的変化を reverce transcription-polymerase chain reaction( RT-PCR)
および real time polymerase chain reaction( Real-time PCR)を用いて検討した。HepG2 細胞,Huh7 細
胞ともにコントロール群では細胞数の経時的増加を認めた。各種抗癌薬添加群では経時的に細胞
数減少を認めた。5FU 添加は,両細胞とも MRP-1,cMOAT,MDR-1 mRNA レベルには影響を与え
なかったが,BCRP mRNA レベルは経時的に低下させた。CDDP 添加は,両細胞とも MRP-1,
cMOAT,MDR-1 mRNA レベルには影響を与えなかったが,BCRP mRNA レベルでは HepG2 細胞に
は影響がなく Huh7 細胞のみに一過性に低下させた。SN-38 添加は,両細胞とも MRP-1,cMOAT,
MDR-1 mRNA レベルには影響を与えなかったが,BCRP mRNA レベルでは HepG2 細胞では影響が
なく,Huh7 細胞のみに一過性に低下させた。以上の結果,5FU,CDDP,SN-38 は HepG2,Huh7
両細胞で MRP-1,cMOAT,MDR-1 mRNA に影響を与えなかったことが明らかとなった。一方,
BCRP mRNA は Huh7 細胞では 5FU,CDDP,SN-38 により低下したが,HepG2 細胞では 5FU のみ
低下したことから BCRP mRNA に対する抗癌薬の低下作用は細胞により異なる可能性が示唆され
た。
索引用語
トランスポーター,抗癌薬,肝臓癌細胞
の 1 つとして抗癌薬治療法の進歩が挙げられる。しか
緒
言
しながら抗癌薬治療の問題点の 1 つとして,抗癌薬投
与によって薬剤抵抗性が獲得されることが挙げられ
近年癌治療は急速な進歩を遂げてきたが,この要因
る。薬剤抵抗性の主なる機序は癌細胞自身の薬剤抵抗
性獲得と考えられている。その主な薬剤抵抗性機構と
1 聖マリアンナ医科大学 外科学教室(消化器外科)
2 聖マリアンナ医科大学 薬理学教室
して,薬剤輸送蛋白質の過剰発現,解毒の亢進,標的
135
358
菅原章隆 熊井俊夫 ら
分子の変化,修復能の亢進などがある。そのうち,薬
剤輸送蛋白質は ATP 結合カセット(ABC)トランス
ポーターと呼ばれる一群の蛋白質であり,薬剤排出ポ
ンプとして腫瘍組織から薬剤を細胞外に排出すること
により薬剤抵抗性に大きく関与する。特に抗癌薬の薬
効に影響するトランスポーターとしては multidrug resistance associated protein( MRP-1), multi drug resistance
protein-1( MDR-1),canalicular mutispecific organic anion
transporter(cMOAT)
,breast cancer resistant protein(BCRP)
が挙げられている 1~3)。
現在,消化器癌に対する化学療法には,5-fluorouracil
(5FU),Cisplatin(CDDP),Irinotecan(CPT-11)の使用
頻度が高い。それとともにこれらの薬剤に対して薬剤
Fig. 1 Effects of 5-fluorouracil (5FU), cisplatin (CDDP),
and irinotecan (SN-38) on numbers of HepG2 and Huh7
cells. The upper panel shows HepG2 cells. The lower panel
shows Huh7 cells. Control refers to control groups. 5FU
(■) indicates the 5-fluorouracil (100% peak plasma concentration)-treated group. CDDP (▲) denotes the cisplatin
(100% peak plasma concentration)-treated group. SN-38
(×) signifies the SN-38 (100% peak plasma concentration)treated group. The X-axis shows cell numbers. The Y-axis
shows the day of treatment.
感受性の低下が見られ,臨床上大きな問題となってい
ることも事実である。しかしながら,各種抗癌薬の薬
剤感受性と薬剤輸送蛋白質との関連については未だ不
明の点が多く残されている。多くの報告は,既に過剰
発現している,あるいは過剰発現させた腫瘍由来樹立
培養細胞を用いた研究であり,実際に経時的に抗癌薬
によるトランスポーターの誘導,あるいは抑制を見た
報告は少ない 4)。
抗癌薬による治療の前に腫瘍の薬剤抵抗性を含めた
薬剤感受性の情報を簡便,迅速に得ることは臨床上重
実験方法
要なことである。特にバイオプシー等で得られた微量
1.ヒト細胞株
の腫瘍組織を用いて各種トランスポーター mRNA を
評価することによりトランスポーターの誘導,あるい
肝芽腫癌細胞株 HepG2,肝癌細胞株 Huh7(理化学
は抑制を短時間で明らかにし,薬剤感受性を予測する
研究所,筑波,茨城)の起源が違う 2 種類の培養細胞
ことが望まれる。そこで今回,上記トランスポーター
を使用した。上記細胞株を 10% fetal calf serum(FCS)
が発現していることが知られている肝細胞癌培養細胞
含有 PRMI 1640(Invitrogen Co., NY, USA)を用いて培
を用い,現在,汎用されている 5FU,CDDP,CPT-11
養した。
が,各種トランスポーターの発現に及ぼす影響を明ら
2.細胞培養法
か に す る こ と を 目 的 と し た 。 具 体 的 に は HepG2,
各々の細胞を細胞数 5.0 × 105 個とし,10% fetal calf
Huh7 肝細胞癌由来樹立培養細胞株を用い,各種抗癌
serum 含 有 PRMI 1640 中 に total 20 ml に て 37˚C, 5%
薬 添 加 後 の 細 胞 内 の MRP-1 mRNA, MDR-1 mRNA,
CO2,95% O2 条件下で培養し 2 日後を day 0 とした。
cMOAT mRNA,BCRP mRNA レベルの経時的変化を
3.抗癌薬添加および細胞凍結
reverse transcriptase-polymerase chain reaction( RT-PCR)
day 0 に 5FU(60 µg/ml),CDDP(2.49 µg/ml),SN-38
および real time polymerase chain reaction(Real-time PCR)
(25 ng/ml)を添加した。本試験に用いる抗癌薬濃度
を用いて検討した。なお,CPT-11 は体内で活性代謝
は Scheithauer らの報告 5)に基づき,臨床的に腫瘍を
物(SN-38)に変化して抗腫瘍効果を表すため,本研
抑制する量をヒトに投与したときの抗癌薬最高血中濃
究では SN-38 を用いた。
度 , peak plasma concentrations( PPC: 最 高 血 中 濃 度 )
を用い,100% PPC,50% PPC,10% PPC を添加する 3
群に分けた。各種抗癌薬添加前を day 0,経時的に
136
抗癌薬とトランスポーター
Fig. 2 Effects of 5-fuluorouracil (5FU) on the expression
of multidrug resistance-associated protein (MRP-1),
canalicular multispecific organic anion transporter (cMOAT),
multidrug resistance 1 (MDR-1), and breast cancer resistance protein (BCRP) mRNA in HepG2 cell by the methods
of reverse transcriptase polymerase chain reaction.
359
Fig. 3 Effects of 5-fuluorouracil (5FU) on the expression
of multidrug resistance-associated protein (MRP-1),
canalicular multispecific organic anion transporter (cMOAT),
multidrug resistance 1 (MDR-1), and breast cancer resistance protein (BCRP) mRNA in Huh7 cells by the methods
of reverse transcriptase polymerase chain reaction.
day 1,day 3,day 5 とした。それぞれの細胞を採取し
5.RT-PCR 法
4˚C,5 分,5000 rpm にて遠沈した。上清を吸引し下
Total RNA を RNA gents( total RNA isolation system,
Promega, WI, USA)により抽出後,RETRO script Kit
層の細胞を素早く液体窒素で凍結させた。
(Ambion Inc., Austin, TX, USA)を使用し total RNA 4 µg
4.各種トランスポーター
に dNTP, 50 µM の random decamers 2 µl の 存 在 下 ,
抗癌薬の感受性規定因子といわれている MRP-1,
MDR-1,cMOAT,BCRP の各種トランスポーターに
reverse transcriptase( MMLV)1 µg を用い滅菌水を加え
ついて mRNA 発現解析を行った。また,RT-PCR では
て総量 20 µl とし,42˚C で 60 分間逆転写反応させた。
内部標準として用いた glyceraldehyde-3-phosphate de-
その後 92˚C,10 分間加熱し reverse transcriptase を失活
hydrogenase(GAPDH)との比較によって評価した。そ
化させた。逆転写反応にて得られた cDNA を 10 pmol
れぞれのトランスポーター解析に用いたプライマーを
の primer 対,0.25 U の Taq polymerase(宝酒造,京都,
以 下 に 示 す 。 MRP-1; sense 5'-CATCCACGACCTGAT-
日本),dNTP,PCR buffer( 宝酒造,京都,日本)に
GATGT-3', antisense 5'-AATGACAGCGGTCTTGATCC-
滅菌水を加えて最終容量 100 µl に調整した。PCR 反
3', MDR-1; sense 5'-GCTGCTTACATTCAGGTTTC-3',
応条件は 92˚C, 7 分間,その後 92˚C, 1 分間,57˚C, 2 分
antisense 5'-CCAGAGCATAAGATGCATAG-3',cMOAT;
間,72˚C, 3 分間を 38 サイクル行い,最後に 72˚C, 7 分
sense 5'-CAGTCCTGGATTCAGAATGG-3', antisense 5'-
間とした。PCR 産物は 1.5% アガロースゲルにて電気
GTGTAACCAAGAGTCGAGTC-3',BCRP; sense 5'-CTT-
泳動後,エチジウムブロマイドで染色し,紫外線下撮
GGATGAGCCTACAACTG-3', antisense 5'-CTATGAGT-
影した。
6.Real-time PCR 法
GGCTTATCCTGC-3',GAPDH; sense 5'-GACAACTTTG-
上 記 と 同 様 に 逆 転 写 反 応 に て cDNA を 産 生 し ,
GTATCGTGGA-3',antisense 5'-TACCAGGAAATGAGCTTGAC-3'。なお,各プライマーは Tm 値を 67˚C ± 1˚C
10 pmol の primer 対,SYBR Green 25 ml,滅菌水にて
total 50 ml と し ABI PRISM 7000 Sequence Detector
の範囲内になるように設計した。
( Perkin-Elmer Applied Biosystems, Foster City, CA) に
137
360
菅原章隆 熊井俊夫 ら
Fig. 4 Dose response of 5-fluorouracil (5FU) on the expression of breast cancer resistance protein (BCRP) mRNA in HepG2
and Huh7 cells by the methods of real-time polymerase chain reaction. The left panel shows data for HepG2 cells. The right
panel shows data for Huh7 cells. “A” means no-treatment groups. “B” means 10% PPC-treatment groups. “C” means 50%
PPC-treatment groups. Data indicate mean ± SEM. Sample size was N=6 for all groups.
(100% PPC)添加では,HepG2 の細胞数減少を認めた
て Real-time PCR を行い,定量解析を行った。
7.統計計算
が,Huh7 は細胞数が若干の増加を認めた(Fig. 1)。
2.各種トランスポーターの mRNA レベルに対する
測定値は全て平均値±標準誤差で示した。有意差検
5FU の影響
定 は ANOVA 法 の 後 , Scheffé に よ る 検 定 法 を 用 い
肝細胞癌細胞株 HepG2,Huh7 における 5FU 添加群
p<0.05 以下を有意差ありと判断した。
と非添加群の MRP-1,MDR-1,cMOAT,BCRP mRNA
の発現を Fig. 2, 3 にそれぞれ示す。MRP-1,MDR-1,
結
果
cMOAT mRNA 発現は,day 1 から day 5 まで 5FU 投与
1.各種抗癌薬による細胞数の変化
による変動は認められなかった。しかしながら,
抗癌薬非添加群では経時的に細胞数の増加が認めら
HepG2,Huh7 共に BCRP mRNA 発現は 5FU 添加前と
れた。5FU(100% PPC)添加により細胞数は HepG2,
比較し,経時的に有意な発現低下を認めた。BCRP
Huh7 共に経時的に減少を認めた。CDDP(100% PPC)
mRNA に関して,Real-time PCR を用いて定量的に解
添加により HepG2 は経時的に細胞数の減少を認めた
析した(Fig. 4)。5FU による BCRP mRNA 発現低下作
が , Huh7 で は 細 胞 数 は ほ ぼ 不 変 で あ っ た 。 SN-38
用 は HepG2, Huh7 細 胞 共 に 100% PPC, 50% PPC,
138
抗癌薬とトランスポーター
361
Fig. 5 Effects of cisplatin (CDDP) on the expression of
multidrug resistance-associated protein (MRP-1), canalicular
multispecific organic anion transporter (cMOAT), multidrug
resistance 1 (MDR-1), and breast cancer resistance protein
(BCRP) mRNA in HepG2 cell by the methods of reverse
transcriptase polymerase chain reaction.
Fig. 6 Effects of cisplatin (CDDP) on the expression of
multidrug resistance-associated protein (MRP-1), canalicular
multispecific organic anion transporter (cMOAT), multidrug
resistance 1 (MDR-1), and breast cancer resistance protein
(BCRP) mRNA in Huh7 cells by the methods of reverse
transcriptase polymerase chain reaction.
10% PPC と用量相関的であることが示された(HepG2
PPC, 100% PPC 共に day 1 で p<0.01)。
4.各種トランスポーターの mRNA レベルに対する
細胞; 50% PPC では day 5 で p<0.05; 100% PPC では day
SN-38 の影響
1 で p<0.05, day 3 で p<0.01, day 5 で p<0.01: Huh7 細胞;
SN-38 添加群と非添加群の mRNA の発現を Fig. 8, 9
10% PPC, 50% PPC, 100% PPC 共に day 3 と day 5 で p<
に示す。SN-38 添加による MRP-1,MDR-1,cMOAT
0.01)。
3.各種トランスポーターの mRNA レベルに対する
mRNA 発 現 に は 有 意 な 変 動 は 認 め ら れ な か っ た 。
CDDP の影響
BCRP mRNA 発現において,HepG2 細胞では SN-38 添
CDDP 添加群と非添加群の mRNA の発現を Fig. 5, 6
加による変動は認められなかった。一方,Huh7 細胞
に示す。CDDP 添加は 5FU 添加と同様,HepG2,Huh7
では SN-38 添加後,BCRP mRNA 発現は day 1 にて一
細胞共に MRP-1,MDR-1,cMOAT mRNA 発現に変動
過性の有意な低下を認めた。その後,day 3 では上昇
を認めなかった。BCRP mRNA 発現において,HepG2
し day 5 にて BCRP mRNA 発現の回復を認めた。Real-
細胞では他のトランスポーターと同様に発現に変動を
time PCR に よ り BCRP mRNA 発 現 の 定 量 的 解 析 を
認めなかった。Real-time PCR により検討したが CDDP
行ったところ,RT-PCR の結果と同様な変動を示した
添加後,day 1 から day 5 まで有意な変化を認めなかっ
(Fig. 10)。SN-38 の BCRP mRNA 発現に対する用量相
た。Huh7 細胞では BCRP mRNA 発現は CDDP 添加後,
関性を検討したところ,Huh7 細胞で用量相関的に
day 1 にて一過性の低下を認めた。しかし,day 3 では
SN-38 は BCRP mRNA 発現を変化させることが示され
上昇して day 5 にて BCRP mRNA 発現の回復を認めた。
た(100% PPC では day 1 で p<0.01)。
5.各種抗癌薬による BCRP mRNA における IC50 値
Real-time PCR により BCRP mRNA 発現の定量的解析
を行ったところ,RT-PCR の結果と同様な変動を示し
各種抗癌薬, 細胞株の組み合わせによる BCRP mRNA
た(Fig. 7)。CDDP の BCRP mRNA 発現に対する用量
における IC50 値を示す(Table 1)。IC50 値は最大抑制
相関性を検討したところ,Huh7 細胞で用量相関的に
の見られた時点で評価した(5FU; 5FU 接触 5 日目,
BCRP mRNA 発現の一過性の低下が認められた(50%
CDDP; CDDP 接触 1 日目,SN-38; SN-38 接触 1 日目)。
139
362
菅原章隆 熊井俊夫 ら
Fig. 7 Dose response of cisplatin (CDDP) on the expression of breast cancer resistance protein (BCRP) mRNA in HepG2
and Huh7 cells by the methods of real-time polymerase chain reaction. The left panel shows data for HepG2 cells. The right
panel shows data for Huh7 cells. “A” means no-treatment groups. “B” means 10% PPC-treatment groups. “C” means 50%
PPC-treatment groups. “D” means 100% PPC-treatment groups. Data indicate mean ± SEM. N=6.
Table 1 Comparisons of IC50 levels of 5FU, CDDP, SN-38
on BCRP mRNA
点が多く残されている。その 1 つに薬剤耐性機構があ
る。その主な薬剤抵抗性機構に関与する因子として,
HepG2
Huh7
薬剤輸送蛋白質がある。今回われわれは,薬剤輸送蛋
72.734
43.775
白質に対する抗癌薬の影響について検討した。
CDDP
>100
36.362
SN-38
>100
58.409
5FU
多くの腫瘍の抗腫瘍効果抵抗性に関与していると考
えられている各種トランスポーター mRNA 発現に対
(%PPC)
す る 5FU 添 加 の 影 響 を 調 べ た 。 5FU は MRP-1,
(5FU; 5-fluorouracil, CDDP; cisplatin, SN-38; metabolites of
irinotecan (CPT-11), PPC; peak plasma)
cMOAT,MDR-1 mRNA 発現には影響を与えなかっ
IC50 値で評価したところ,HepG2 細胞より Huh7 細胞
発現を経時的に低下させた。5FU の抗腫瘍効果発現の
た。一方 5FU は HepG2,Huh7 細胞共に BCRP mRNA
機序は以下のとおりである。① 5FU が体内で酵素的
にて低い IC50 値を示した。
考
にリボシル化とリン酸化を受けて 5'-monophosphate
察
各種抗癌薬の抗腫瘍効果については臨床上,未決の
nucleotide(FUMP)と 5-fluoro-2'-deoxyuridine-5'-phosphate
(FdUMP)が形成される。② FUMP は腫瘍細胞中の
140
363
抗癌薬とトランスポーター
Fig. 8 Effects of irinotecan (SN-38) on the expression of
multidrug resistance-associated protein (MRP-1), canalicular
multispecific organic anion transporter (cMOAT), multidrug
resistance 1 (MDR-1), and breast cancer resistance protein
(BCRP) mRNA in HepG2 cell by the methods of reverse
transcriptase polymerase chain reaction.
Fig. 9 Effects of irinotecan (SN-38) on the expression of
multidrug resistance-associated protein (MRP-1), canalicular
multispecific organic anion transporter (cMOAT), multidrug
resistance 1 (MDR-1), and breast cancer resistance protein
(BCRP) mRNA in Huh7 cells by the methods of reverse
transcriptase polymerase chain reaction.
RNA に取り込まれてプロセシングなどの機能に影響
呼ばれている。cMOAT は肝臓,腎臓,腸管に多く分
を与えることにより細胞毒性を表す。③ FdUMP は
布している。ヒトで cMOAT 欠損症は Dubin-Johnson
thymidylate synthase との相互作用の結果,DNA の必
症候群として知られ,抱合ビリルビンなどの胆汁への
須構成成分である thimidine triphosphate の欠落が起こ
移送が障害されている。このことから MRP-1 同様グ
り DNA 合成阻害による細胞毒性を表す。④ dihydro
ルタチオン抱合体への関与が示唆されている
11)
10)
。
pyrimidine dehydrogenase( DPD) 活 性 の 度 合 に よ り
Koike et al.
5FU の血中濃度に違いが表れ,抗腫瘍効果にも影響を
ンスにより cMOAT 発現を低下させても 5FU の抗腫瘍
及ぼす 6)。
効果に影響を与えないことを報告している。しかしな
はヒト肝臓癌由来培養細胞でアンチセ
がら,5FU の cMOAT 発現に対する影響についての報
MRP-1 は 膜 蛋 白 質 で あ り , ATP 結 合 領 域 を 持 ち
ABC(ATP binding cassette)スーパーファミリーに属
告は見られない。今回,私どもは 5FU が添加 5 日目
する 7)。MRP-1 は広範囲な組織に分布していること
まで cMOAT mRNA レベルに変化を与えないことを明
が知られ,骨格筋,心臓,肺,腎臓などで発現が高く
らかにした。このことは,今回用いた培養細胞におい
ホルモン輸送やグルタチオン抱合体への関与も報告さ
て 5FU は cMOAT 発現に影響を与えないことを示唆し
れている
8)
。5FU の MRP 発現との関連については
ている。
Kihara et al. 9)が胃癌由来培養細胞を用い,予め MRP-
MDR-1 は MRP1 同様,膜蛋白質である P 糖蛋白質
1 が高く発現している細胞では 5FU の抗腫瘍効果に対
をコードしている。P 糖蛋白質は肝臓,小腸,腎臓尿
する薬剤抵抗性が見られることを報告している。しか
細管,血液脳関門などに広く分布している 5)。このた
しながら,5FU の MRP 発現に対する影響を経時的に
め,生理機能として食物中の有害物が体内に吸収され
見た報告は少ない。今回,私どもは 5FU が添加 5 日
るのを防ぐとともに,血流中に入った生体異物あるい
目まで MRP-1 mRNA レベルに変化を与えないことを
は有害な代謝物が脳などに侵入するのを防ぐ防御シス
明らかにした。
テムであると考えられている 12)。また,P 糖蛋白質
cMOAT は MRP 蛋白質ファミリーで,MRP-2 とも
は抗癌薬の抗腫瘍効果抵抗性とともに発現が亢進して
141
364
菅原章隆 熊井俊夫 ら
Fig. 10 Dose response for the effect of irinotecan (SN-38) on the expression of breast cancer resistance protein (BCRP)
mRNA in HepG2 and Huh7 cells by the methods of real-time polymerase chain reaction. The left panel shows data for
HepG2 cells. The Right panel shows data for Huh7 cells. “A” means no-treatment groups. “B” means 10% PPC-treatment
groups. “C” means 50% PPC-treatment groups. “D” means 100% PPC-treatment groups. Data indicate mean ± SEM. N=6.
くることから,抗腫瘍効果抵抗性のメカニズムとして
発現しており数多くの薬剤耐性,防御機構としての役
考えられている。しかしながら,今回,私どもは 5FU
割を担っている可能性があるが,BCRP と 5FU との関
が添加 5 日目まで MDR-1 mRNA レベルに変化を与え
係を調べた報告は少ない 16)。今回,5FU は添加後
ないことを明らかにした。このことは,今回用いた培
HepG2,Huh7 両細胞共に 5 日目まで BCRP mRNA レ
養細胞において 5FU は MRP-1,cMOAT 同様 MDR-1
ベルを経時的に低下させた。このことはこれら培養細
発現にも影響を与えないことを示唆している。
胞で 5FU が BCRP 発現を持続的に低下させることを
BCRP はドキソルビシン/ベラパミルで樹立した多
示している。
剤耐性乳癌細胞株に ABC 結合カセットを有する halftransporter として発見された
次に各種トランスポーター mRNA 発現に対する
13)
。BCRP はミトキサン
CDDP 添加の影響を調べた。CDDP はグルタチオン S
トロンで樹立されたヒト大腸癌由来培養細胞から発見
トランスフェラーゼによって CDDP-グルタチオン複
されたミトキサントロン耐性トランスポーター
合体を形成して ATP 依存反応により細胞外へ放出さ
(MXR)14),ヒト胎盤に高発現している胎盤特異的
れる。このことから MRP-1,cMOAT など ATP 結合
ABC トランスポーター(ABCP)15)と同一と考えられ
カセットを持っているトランスポーターは CDDP の
ている。BCRP は肝臓,消化管,脳,胎盤などに多く
細胞外への排泄に影響することが考えられる
142
17)
。
抗癌薬とトランスポーター
365
においては CDDP 添加 1 日目に添加前に比べ有意に低
CDDP はこれら CDDP の排泄に関係する可能性のある
MRP-1,cMOAT,MDR-1 および BCRP mRNA 発現に
下し,その後 3, 5 日目と回復する趨勢を示した。BCRP
影響を与えなかった。CDDP の抗腫瘍効果発現の機序
に対する CDDP の作用に関しては無影響とする報告
は以下のとおりと考えられている。細胞内に単純拡散
が多い 22)。私どもも HepG2 細胞では他の研究者同様
により侵入した CDDP は DNA と反応して DNA 内お
に CDDP の効果を認めなかったが,Huh7 細胞では
よび DNA 間に架橋を形成する。この CDDP-DNA 架
BCRP mRNA 発現に対し一過性の低下を観察した。こ
橋複合体の形成により DNA の複製と転写が抑制され
のことは,細胞の違いによっては CDDP の BCRP 発
4)
現に差の見られることを考慮しなければならないこと
は 5FU に CDDP を 併 用 し て も
を示唆している。
て抗腫瘍効果を表す 。
Nishiyama et al.
4)
MRP-1 レベルに影響を示さなかったことを報告して
次に各種トランスポーター mRNA 発現に対する SN-
いる。また,Giaccone et al. 18)も CDDP は MRP-1 gene
38 添加の影響を調べた。SN-38 は CPT-11 の活性代謝
レベルに影響しないことを 18 種類のヒト肺癌由来培
物であり,トポイソメラーゼ I 阻害作用を示し,DNA
養細胞を用いた研究により報告している。今回,私ど
修復能を抑制することにより DNA の複製や合成を阻
もも CDDP が添加後 5 日目まで MRP-1 レベルに影響
害して抗腫瘍効果を表わす 4)。CPT-11 の活性代謝物
を与えない結果を得た。これらのことから CDDP は
である SN-38 はグルクロン酸抱合を受けて胆汁排泄
MRP-1 レベルには影響を及ぼさないと考えられる。
される。この排泄過程に ATP 結合カセットを有する
はヒト肝臓癌由来培養細胞でアンチセ
トランスポーターが関与している。Chen et al. 23) は
ンスにより cMOAT 発現を低下させると CDDP の細胞
MRP-1 が CPT-11 や SN-38 の薬剤抵抗性に重要な役割
毒性が増加することを報告している。また,Hinoshita
を果たしていると報告している。これに対し Jansen et
et al. 19) は cMOAT(MRP-2)mRNA 発現と CDDP に対
al. 24)は MRP-1 が CPT-11 に対する薬剤感受性に影響
する薬剤抵抗性が正の相関を示すと報告している。こ
を与えないことを報告している。一方,CPT-11 や
れらの報告はいずれも CDDP が cMOAT により細胞外
SN-38 の MRP-1 発現に対する影響について経時的に
Koike et al.
11)
に排泄される可能性を示している。一方,CDDP が
調べた報告はない。今回,私どもは SN-38 が添加 5 日
cMOAT に与える影響としては Oguri et al. 20)はヒト肺
目まで MRP-1 mRNA レベルに変化を与えないことを
癌組織を用いて白金製剤が cMOAT レベルに影響を与
明らかにした。このことは,今回用いた培養細胞にお
えないことを報告している。今回,私どもは CDDP
いて SN-38 は MRP-1 発現に影響を与えないことを示
が添加 5 日目まで cMOAT mRNA レベルに変化を与え
唆している。
ないことを明らかにした。このことは,今回用いた培
Koike et al. 11) はヒト肝臓癌由来培養細胞でアンチ
養細胞において CDDP は cMOAT 発現に影響を与えな
センスにより cMOAT 発現を低下させると CPT-11 の
いことを示唆している。
細胞毒性が増加することを報告している。Chen et
Takeuchi et al.
21)
al.
は ヒ ト 肝 臓 癌 由 来 培 養 細 胞 SK-
23)
も cMOAT が CPT-11 や SN-38 の薬剤抵抗性に
Hep-1 で CDDP が MDR-1 mRNA 発現を増加させるこ
重要な役割を果たしていると報告している。これに対
とを報告している。今回,私どもは CDDP が添加 5 日
して CPT-11 や SN-38 の cMOAT 発現に対する影響に
目まで MDR-1 mRNA レベルに変化を与えないことを
ついて経時的に調べた報告はない。今回,私どもは
明らかにした。Takeuchi et al. 21)は同じ研究のなかで
SN-38 が添加 5 日目まで cMOAT mRNA レベルに変化
HepG2 細胞での CDDP に対する MDR-1 mRNA レベル
を与えないことを明らかにした。このことは,今回用
の変化は小さかったことを報告している。Takeuchi et
いた培養細胞において SN-38 は cMOAT 発現に影響を
al. と私どもの結果の差の原因は明らかではないが,
与えないことを示唆している。
Ishi et al. 16) は MDR-1 を過剰発現させた細胞では
用いた細胞の違いにより CDDP に対する反応性に差
CPT-11 に対する薬剤抵抗性が増加することを報告し
があるのかもしれない。
BCRP mRNA レベルは HepG2 細胞においては CDDP
ている。一方,Chen et al. 25) は P 糖蛋白質が CPT-11
添加の影響が認められなかったのに対し,Huh7 細胞
や SN-38 の薬剤抵抗性に影響を及ぼさないと報告し
143
366
菅原章隆 熊井俊夫 ら
Table 2 Inhibitory effects (T/C) of 5FU, CDDP, SN-38 on
cell numbers of HepG2, Huh7
ている。同様に Jansen et al. 24) も P 糖蛋白質は CPT11 や SN-38 の薬剤抵抗性に影響を及ぼさないと報告
HepG2
している。これに対して CPT-11 や SN-38 の MDR-1
発現に対する影響について経時的に調べた報告はな
い。今回,私どもは SN-38 が添加 5 日目まで MDR-1
mRNA レベルに変化を与えないことを明らかにした。
Huh7
5FU
1.03
7.43
CDDP
1.15
17.46
CPT-11
0.93
38.59
(%)
このことは,今回用いた培養細胞において SN-38 が
(5FU; 5-fluorouracil, CDDP; cisplatin, SN-38; metabolites of
irinotecan (CPT-11), T/C; cell number of treatment group vs cell
number of control group)
MRP-1,cMOAT 同様 MDR-1 発現にも影響を与えな
いことを示唆している。
Yang et al. 26) は BCRP が CPT-11 や SN-38 の薬剤抵
細胞で BCRP mRNA 抑制効果が強く,Huh7 細胞では
抗性に重要な役割を果たしていると報告している。同
様に Kawabata et al.
27)
5FU,CDDP で IC50 値はほぼ同じ値を示し,SN-38 で
も CPT-11 の活性代謝物である
SN-38 の薬剤抵抗性に BCRP が関与していると報告し
やや IC50 値が高かった。
ている。これに対して CPT-11 や SN-38 の BCRP 発現
次に,各種抗癌薬の細胞数抑制効果は両細胞とも
に対する影響について経時的に調べた報告はない。今
5FU で顕著に見られた。また,HepG2 細胞では CDDP,
回,BCRP mRNA レベルは HepG2 細胞においては SN-
SN-38 共に 5FU 同様の抑制効果が見られたのに対し,
38 添加の影響が認められなかったのに対し,Huh7 細
Huh7 細胞では SN-38,CDDP の順に抑制効果が小さ
胞においては SN-38 添加 1 日目に添加前に比べ有意低
か っ た ( Table 2)。 一 方 , 5FU は 両 細 胞 と も BCRP
下し,その後 3, 5 日目と回復する趨勢を示した。この
mRNA 発現抑制したことから,5FU の細胞数抑制効
ことは,SN-38 添加で見られた BCRP mRNA レベルの
果に BCRP mRNA 発現抑制効果が関係している可能
変化同様,細胞の違いによっては SN-38 の BCRP 発現
性があるかもしれない。
今回の結果から CDDP,SN-38 において day 1 にて
に差の見られることを考慮しなければならないことを
一時的に BCRP mRNA の発現の低下と Control 群に対
示唆している。
今回の結果からは BCRP mRNA 発現抑制に対する
する細胞の抑制率が一致しておらず,細胞によっても
5FU,CDDP,CPT-11 の作用機序は明らかではない。
異なることから,CDDP と SN-38 では BCRP と坑腫瘍
一般に mRNA レベルの低下は遺伝子転写の抑制もし
効果には関与は少なく,また,細胞によっても異なる
くは degradation の促進によると考えられる。Bailey-
ことが示唆された。一方,5FU では経時的,用量相関
Dell et al.
28)
は BCRP 遺伝子の 5'上流のプロモーター
的に BCRP mRNA の発現の低下を認め,また Control
領域 –312 bp から –628 bp の間に負の転写調節部位の
群に対し細胞数も抑制されているため 5FU の抗腫瘍
あることを, –312 bp から –243 bp の間に正の転写調
効果に BCRP が一部関与している可能性が示唆され
節部位のあることを報告している。詳細な機序は明ら
た。
かではないが,5FU では少なくとも添加後 5 日目まで
HepG2 細胞と Huh7 細胞における CDDP,SN-38 の
持続的に,CDDP,SN-38 では添加後 1 日目に,この
BCRP mRNA 発現に対する影響の違いについての詳細
負の転写調節部位に促進的または,正の転写調節部位
も今回の研究からは明らかにはできなかった。
に抑制的に作用した結果として BCRP mRNA 発現が
Takeuchi et al. 21)は CDDP の BCRP mRNA 発現に対す
低下した可能性が考えられる。さらに 5FU,CDDP,
る作用には細胞によって差の見られることを報告して
SN-38 では BCRP mRNA 発現の低下作用に時間的な差
いる。遺伝子転写調節は 1 つの転写調節因子により制
異が認められた。このことは 5FU と CDDP,SN-38 で
御調節されているわけではなく,転写調節因子の転写
は BCRP mRNA 発現低下の機序に違いのある可能性
開始信号に伴いコアクチベーター,コリプレッサーが
がある。
相互作用した結果転写が開始する。今回,HepG2 細
また,5FU,CDDP,SN-38 の mRNA レベルへの効
胞と Huh7 細胞における CDDP,SN-38 の BCRP mRNA
果を IC50 値で評価したところ,HepG2 細胞より Huh7
発現に対する影響に差が見られたのもこれら転写調節
144
抗癌薬とトランスポーター
367
2) 日下英司, 内海健. MRP サブファミリーの薬剤耐
性への関与. Surgery Frontier 2000; 7: 321-327.
因子に加え,コアクチベーター,コリプレッサーの
HepG2 細胞と Huh7 細胞の細胞内局在の差によるもの
3) 植田和光, 駒野豊. MDR1 遺伝子の構造と機能.
Molecular Medicine 1993; 30: 688-695.
かもしれない。さらに HepG2 細胞は肝芽腫由来の培
養樹立株で,Huh7 細胞は肝細胞癌由来の培養樹立株
4) Nishiyama M, Yamamoto W, Park JS, Okamoto R,
である。これら細胞の起源の違いも上記転写調節因
Hanaoka H, Takano H, Saito N, Matsukawa M,
子,コアクチベーター,コリプレッサーの細胞内局
Shirasaka T and Kurihara M. Low-dose cisplatin and
在の違いの原因であるのかもしれない。
5-fluorouracil in combination can repress increased
今回用いた抗癌薬により BCRP mRNA 発現が低下
gene expression of cellular resistance determinants to
し,他のトランスポーター mRNA 発現は影響を受け
themselves. Cin Cancer Res 1999; 5: 2620-2628.
なかった。今までの抗癌薬に対する薬剤感受性に関す
5) Schelthauer W, Gary MC and Sydney ES. Model for
る研究の多くは,今回検討したトランスポーターの過
estimation of clinically achievable plasma concentrations for investigational anticancer drugs in man.
剰発現が抗癌薬の薬剤抵抗性に関係することを示唆す
Cancer Reports 1996; 70: 1379-1382.
るものであった。しかし,今回の結果からはトランス
6) Chabner BA, Ryan DP, Paz-Ares L, Carbonero RG
ポーターの誘導による薬剤抵抗性を示すものではな
and Calabresi P. Antineoplastic agents. In: Hardman
く,むしろ抗癌薬がトランスポーター発現を抑制する
JG, Limbird LE and Gilman AG (eds.),
ことを示唆している。これらのことは,抗癌薬に対す
Pharmacological Basis of Therapeutics, tenth ed.,
る腫瘍の薬剤抵抗性がトランスポーターの誘導に関係
The
McGraw-Hill, New York, 2001: 1389-1460.
7) 植 田 和 光 . 生 体 異 物 排 出 ポ ン プ P-糖 蛋 白 質 と
MRP の 構 造 と 活 性 . 癌 と 化 学 療 法 1997; 2190-
しているかを,より詳細に検討していく必要性を示唆
している。
2195.
抗癌薬に対する薬剤抵抗性の多くに各種トランス
ポーターの関与が指摘されている。今回の結果から,
BCRP 過剰発現により薬剤抵抗性を示す腫瘍において
8) 鈴木洋史, 杉山雄一. 異物排除におけるトランス
ポーターの役割. 蛋白質 核酸 酵素 1997; 42:
1273-1284.
は低濃度の 5FU でも BCRP 発現を抑制するため薬剤
9) Kihara Y, Yamamoto W, Toge T and Nishiyama M.
輸送が防がれ,また低濃度のため副作用も少なく,さ
Dihydropyrimidine dehydrogenase, multidrug resist-
らに他の抗癌薬併用によって腫瘍を抑制する新たな治
ance-associated protein, and thymidylate synthase
療法の開発の可能性が考えられる。今後,各種トラン
gene expression levels can predict 5-fluorouracil
スポーター発現の誘導と抑制の機序を明らかにすると
resistance in human gastrointestinal cancer cells. Int J
Oncol 1999; 14: 551-556.
ともに各種トランスポーターの基質となる抗癌薬とト
10) Borst P, Evers R, Kool M and Wijnholds. A family
ランスポーター発現を抑制する薬剤の併用について研
of drug transporters: the multidrug resistance-associated
究を進めることにより薬剤抵抗性を克服する治療法を
proteins. J Natl Cancer Inst 2000; 92: 1295-1302.
開発していく必要がある。
11) Koike K, Kawabe T, Tanaka T, Toh S, Uchiumi T,
Wada M, Akiyama S, Ono M and Kuwano M. A
謝
辞
稿を終えるにあたり,本論文の御指導,御校閲を賜った
聖マリアンナ医科大学消化器外科学 山口晋教授,同薬理
学 小林真一教授に深甚なる謝意を表します。また,本研
究に多大なる御協力をいただいた,消化器外科学,薬理学
教室の諸先生方に厚く御礼申し上げます。
canalicular multispecific organic anion transporter
(cMOAT) Antisense cDNA enhances drug sensitivity
in human hepatic cancer cells. Cancer Res 1997; 57:
5475-5479.
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specific organic anion transporter (cMOAT), genes
146
Biochim
抗癌薬とトランスポーター
369
Abstract
Effects of Anti-cancer Drugs on the Expression of Various Drug Transporter
mRNAs in Cultured Cells
Fumitaka Sugahara1, Toshio Kumai2, Koji Kamio2, and Ryoko Saitoh2
We have studied the effects of anti-cancer drugs on various drug transporters in cultured cells. The number of
HepG2 cells and Huh7 cells gradually increased in the control group. The number of HepG2 cells was decreased
dose-dependently by treatment with anti-cancer drugs. The number of Huh7 cells was slightly increased or there
was no change following treatment with these drugs. 5-fluorouracil (5FU), cisplatin (CDDP), and irinotecan (CPT11) significantly decreased the number of HepG2 and Huh 7 cells dose-dependently. 5-FU did not change the
expression of multidrug resistance-associated protein (MRP-1), canalicular multispecific organic anion transporter
(cMOAT), or multidrug resistance 1 (MDR-1) mRNAs in HepG2 and Huh7 cells. On the other hand, 5-FU significantly decreased the expression of breast cancer resistance protein (BCRP) mRNA in HepG2 and Huh7 cells.
CDDP did not change the expression of MRP-1, cMOAT, and MDR-1 mRNA in HepG2 and Huh7 cells and did
not change the expression of BCRP mRNA in HepG2 cells. CDDP significantly decreased the expression of
BCRP mRNA in Huh7 cells on day 1, although expression had returned to control levels by day 5. CPT-11 did not
change the expression of MRP-1, cMOAT, or MDR-1 mRNA in HepG2 and Huh7 cells. CPT-11 also did not
change the expression of BCRP mRNA in HepG2 cells. CPT-11 significantly decreased the expression of BCRP
mRNA in Huh 7 cells on day 1, but expression had returned to baseline by day 5. These results suggest that
various anti-cancer drugs decrease the expression of BCRP mRNA in different cell lines.
(St. Marianna Med. J., 30: 357–369, 2002)
1 Division of Gastroenterological Surgery, Department of Surgery
2 Department of Pharmacology
St. Marianna University School of Medicine, 2-16-1 Sugao, Miyamae-ku, Kawasaki 216-8511, Japan
147