SA AG A1 17 茨城 城 城

写真提供
供:岩田有史
史(京都大学
学)
アフリ
リカ・ア
アジアに生き
きる大型
型類人猿を支
支援する
る集い
SA
AGA1
17IN 茨城
茨城
日立 市かみ
みね動
動物園
2014
4 年 11 月 15 日(土)会場
場:日立シビックセンター
ー
10:0
00~【ゴリラ・シンポジウ
ウム 1】
13:3
30~【ゴリラ・シンポジウ
ウム 2】
2014
4 年 11 月 16 日(日)
主催 :SAGA17 実行委員会
実
共催 :日立市
10:0
00~【ご当地講演
演・シンポ
ポジウム 3】
3
本動物園水族
族館協会
:
(公社)日本
後援:
日立市教育
育委員会
(ダイスケ 1980 年 5 月~2012 年 6 月 10 日かみね動物園)
~目次~
スケジュール・プログラム P3
会場地図 P5
開催案内 P7
ゴリラ・シンポジウム 1 講演要旨 P9
ゴリラ・シンポジウム 2 講演要旨 P11
ご当地講演・シンポジウム 3 講演要旨 P16
ポスター発表要旨集 P20
1
お
お知らせ
11 月 155 日(土)16 日(日)日立シビッ
ックセンター
ー(館内図 P5)
P

シン
ンポジウム

ポス
スター発表・ブース展示
示 1F ギャ
ャラリー

交流
流会

世話
話人会昼食会
会
2F 多用途
途ホール
7F 会議室
1F101 号会議室
号
*館
館内は全館禁
禁煙となりま
ます。喫煙す
する方は 1F 通用口から
ら外へお周り
り下さい。
*一
一般の方の昼
昼食はイトー
ーヨーカ堂内
内及び周辺飲
飲食店をご利
利用下さい。
。
16 日(日)かみね
ね動物園(エ
エクスカーシ
ション)

無料送迎バ
バスをご利用
用下さい。
乗
乗り場は下図
図の通りで 12
1 時 15 分発
発車となりま
ます。

無料バス以
以外はタクシ
シーまたは路
路線バスをご利用下さい。
*日立駅中
中央口バス停
停 2 番のり ば

神峰公園口下車徒
徒歩 3 分
昼食はかみ
みね動物園、
、遊園地内 をご利用下さい。
んハウス、ピクニック(遊園地内
*エレファ
ァントカフェ、カバさん
内)

ネームプレ
レート着用中
中は動物園 、遊園地間の出入りが
が自由となり
ります。

事務所または係員まで
ネームプレ
レートはお帰
帰りの際、事
でお渡し下さ
さい。

前から運行します。14
日立駅行無
無料送迎バス
スは動物園前
4 時 30 分か
から 30 分おきに
16 時まで運行します。

その他はタ
タクシー、路線バスをご
路
ご利用下さい
い。タクシー
ーは事務所で
でお呼びしま
ます。

チンパンジ
ジーの森バックヤード ツアー申込
込者は時間ま
までにお越し
し下さい。

けてお帰り下さ
基本的に園
園内は自由行
行動、流れ解
解散となりま
ます。どうぞ
ぞお気をつけ
い。
《案内図》
(行き)
(
(帰り)
2
プログラム
【1 日目】11 月 15 日(土)
9:30
10:00
会場:日立シビックセンター2F 多用途ホール
受付
オープニング
開会挨拶
司会 友永 雅己(京都大学霊長類研究所)
SAGA 代表 伊谷 原一(京都大学野生動物研究センター/
公益財団法人日本モンキーセンター)
園長挨拶
日立市かみね動物園長
生江 信孝
10:20 ゴリラ・シンポジウム1
野生や海外の状況と展望
司会 中道 正之(大阪大学大学院)
◇野生ゴリラの古今東西(10:20~)
岩田 有史(京都大学)
◇国際ゴリラワークショップに行ってきました(11:00~)
田中 正之(京都市動物園)
◇北米とヨーロッパにおけるゴリラの協同管理について(11:20~)
タラ・ストインスキー(アトランタ動物園)
12:00 昼休み
13:30 ゴリラ・シンポジウム2
日本の現状と将来
司会 福守 朗(鹿児島市平川動物公園)
◇かみね動物園でのゴリラ飼育(13:30~)
正藤 陽久・山内 直朗(日立市かみね動物園)
◇両親との生活で身に付くことはなんだろう?(13:50~)
長尾 充徳(京都市動物園)
◇ペア飼育から群れ飼育までの試み(14:10~)
黒鳥 英俊(東京都恩賜上野動物園)
◇日本モンキーセンターのゴリラ飼養歴史(14:30~)
坂口 慎悟(公益財団法人日本モンキーセンター)
◇ニシローランドゴリラの群れづくりから出産まで(14:50~)
今西 鉄也(名古屋市東山動植物園)
15:10 ディスカッション
15:40 休憩
16:00 ポスターセッション
会場:1F ギャラリー
18:00 交流会(~19:30)
会場:7F 会議室
3
【2 日目】
10:00
11 月 16 日(日)
会場:日立シビックセンター2F 多用途ホール
日立市かみね動物園
ご当地講演
司会
友永
雅己(京都大学霊長類研究所)
◇茨城県から近世~近代に姿を消した大型哺乳類のその後(10:00~)
山﨑 晃司(茨城県自然博物館)
10:30 シンポジウム3 未来の動物園を語る
◇”かみね”らしさを求めて(10:30~)
生江 信孝(日立市かみね動物園)
◇地方動物園の役割と未来像(10:50~)
竹田 正人(宮崎市フェニックス自然動物園)
◇動物園間の連携(11:10~)
伊谷 原一(京都大学野生動物研究センター/
公益財団法人日本モンキーセンター)
11:30 討論・まとめ
12:00 移動 日立シビックセンター → 日立市かみね動物園
※無料送迎バスを運行します
13:00 エクスカーション
園内見学(日立市かみね動物園)
園内を自由に見学することができます。また、「チンパンジーの森」
バックヤードツアーにご案内し、飼育担当者からチンパンジー達の話を
聞くことができます。
バックヤードには 13:30、14:00、14:30 の 3 回、各 30 分程度に分けて
ご案内します。
各回 20 名(計 60 名)先着順となります。11 月 15 日の日立シビック
センターでのシンポジウム受付にてお申し込み下さい。
ブース出展
11 月 15 日(土)9:30~18:00
11 月 16 日(日)9:30~12:00
13:00~16:00
会場:日立シビックセンター1F ギャラリー
会場:日立シビックセンター1F ギャラリー
会場:日立市かみね動物園
4
会場:日立シビックセンター
〒317-0073 茨城県日立市幸町 1-21-1
電話番号:0294-24-7711
JR 常磐線日立駅中央口から徒歩 3 分
5
2F
シンポジウム会場(多用途ホール)
1F
ポスターセッション・ブース出展会場(ギャラリー)
7F
交流会会場(702~704 号会議室)
6
SAGA17 の開催にあって
SAGA17 を開催するにあたり、世話人を代表してご挨拶を申し上げます。
動物園との連携で SAGA を開催することが定着してきました。昨年は四国・高知ののいち動物園
でしたが、今年は関東地方に所を移し、茨城県日立市のかみね動物園での開催となりました。
今年の SAGA はゴリラに焦点を当てました。実は、日本国内の動物園にはゴリラが 25 個体(オ
ス 13 個体、メス 12 個体)しかいません。過去 5 年間に 5 個体のゴリラが誕生しているとは言え、
この数は危機的なものです。また、全体的に高齢化しつつあることも考え合わせると、日本の飼
育下でゴリラの正常な繁殖は期待できないと言っても過言ではないでしょう。日本の動物園から
ゴリラが姿を消す火はそう遠くないのかもしれません。
今回は、アメリカ・アトランタ動物園から飼育下におけるゴリラ研究の第一人者タラ・ストイ
ンスキー博士をお招きして特別講演をしていただきます。同動物園はこれまで、ゴリラの飼育繁
殖に関して多くの実績を上げています。また、野生ゴリラの研究者や飼育下でゴリラに関わって
いる方々から、海外の状況、国内の現状、そして今後の展望についても語っていただきます。活
発な議論と有意義な情報交換がなされることでしょう。
近年、多くの動物園で希少な動物たちの繁殖や個体数の維持が大きな課題となりつつあります。
今回のゴリラの話題が、そうした動物たちの保全や飼育下における物理的・社会的環境の改善に
貢献することを期待したいと思います。また、これまでに蓄積されてきた研究成果が、動物たち
に対するわたしたちの科学的理解や飼育技術の向上に正しく応用されることを願ってやみません。
今回の SAGA17 開催にあたり、茨城県日立市かみね動物園の生江信孝園長をはじめ、同動物園の
関係者の方々に多大なるご尽力を賜りました。この場を借りて深く御礼申し上げます。また、毎
年 SAGA 開催に際してご努力いただいている世話人会及びワーキング・グループのメンバーに心よ
り感謝いたします。
平成 26 年 11 月吉日
SAGA 世話人代表
京都大学野生動物研究センター教授
公益財団法人日本モンキーセンター園長
伊谷
7
原一
第 17 回 SAGA シンポジウム開催にあたり
第 17 回 SAGA シンポジウムが茨城県日立市で開催されるにあたり、共催者として一言ご挨拶申
し上げます。
SAGA は、アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集いとして 1998 年に第 1 回目のシン
ポジウムが犬山市で開催されました。爾来、京都大学霊長類研究所に事務局をおき、大型類人猿
を研究・飼育する大学や研究機関、動物園、NPO 法人などの世話人会メンバーにより、脈々とシン
ポジウムが開催され、本年が 17 回目になると聞き及んでおります。その地道で継続的な活動にま
ずは敬意を表するものであります。
ご存知のようにゴリラ・チンパンジー・ボノボ・オランウータンの 3 属 4 種の大型類人猿が、
私たちホモ・サピエンスであるヒトにもっとも近縁な種であることはこれまでの先人の研究から
も言を俟たないところであります。しかし、こうした類人猿が、生息環境の変化や時として人間
活動の影響により、野生においては徐々にその数を減らし、IUCN のレッドリストでは絶滅危惧種
に指定されていますことはご案内の通りであります。
かみね動物園でもチンパンジー、ゴリラを飼育していましたが、このうちゴリラはメスのアキ
が 2008 年に、オスのダイスケが 2012 年に亡くなって以降、当園から絶滅してしまいました。地
方の小さな動物園で 2 種の大型類人猿を飼育展示していたことは大きな自負であったと同時に、
特にゴリラは 1969 年の展示開始以降 40 年以上もの長きにわたり、子供たちのアイドルであり続
けました。それだけに市民のショックは大きく、いまだに多くの来園者からゴリラの展示再開を
望む声が止みません。園で実施している「園長への手紙」のそうした要望に対し、
「野生でも数を
減らし海外からの導入は極めて困難なこと、国内の展示も数を減らしその導入は難しいこと、仮
に新たな展示にしても現在の施設では困難なこと・・・」などを「園長からの返事」に託してい
るところです。
今回のシンポジウムの前に開かれた世話人会で、大きなテーマをゴリラで行こう、という流れ
になったとき、開催園である私としましてもこうした市民の声に対し、ゴリラがいなくなったか
らこそ伝えられるものがあるのではないか、むしろ SAGA という大きな船に乗って市民と一緒に情
報共有していけるのではないか、という気持ちからお引き受けした次第でした。それが日立市か
ら全国へ、そして海外へ発信できる契機となれば開催園としてこれほど喜ばしいことはありませ
ん。
これ以上地球上から大型類人猿を減らさないためにも、そしてこれからも SAGA の活動が広く周
知されるためにも、私たちも残された 1 種チンパンジーとともに応援していきたいと考えており
ます。ようこそ日立市へ。
日立市かみね動物園長
8
生江信孝
野生ゴリラの古今東西
岩田
京都大学
有史教授
ゴリラはヒガシゴリラとニシゴリラの 2 種に分類され、この 2 種はさらにそれぞれ 2 亜種
に分かれる。ヒガシゴリラはマウンテンゴリラとヒガシローランドゴリラから構成される。
野生ゴリラの研究は 1960 年代にヒガシゴリラではじまり、以降、地上性の草本食者という典
型的なゴリラ像はヒガシゴリラの研究の成果の上に形成されてきた。一方、1990 年代以降、
ニシゴリラの研究が始まり、ニシゴリラの生態が報告されるようになると、低地熱帯雨林に
生息するニシゴリラは季節的に果実を大量に採食し、非常に高い頻度で木に上り、それに伴
って行動のあり方や群の集まり方、成長の仕方がヒガシゴリラとニシゴリラの間で大きく異
なることが分かってきた。本発表ではヒガシゴリラとニシゴリラの生態、社会を比較検討し、
共通点と相違点を明確にするとともに、今後のゴリラの保全のあり方を議論するために、各々
のゴリラが現在直面している危機について情報を提供することを目的とする。
国際ゴリラワークショップに行ってきました
京都市動物園
生き物・学び・研究センター
田中 正之
2014 年 6 月 10 日から 12 日まで,アトランタ市(米・ジョージア州)で開催された,
国際ゴリラワークショップ(IGW2014)に参加し,発表を行った。目的は,京都市動物園
の新しい施設「ゴリラのおうち~樹林のすみか~」と,人工哺育になったゴリラの子,
ゲンタロウを両親に戻した過程を発表すること。そして,世界のゴリラを取り巻く現状
を知るためだ。参加人数は 184 人で,90 の動物園や NPO 等の機関から参加があった。
IGW2014 では講演や発表だけではなく,実際にゴリラに使われている用具を使ってのハズ
バンダリ・トレーニングの講習会も行われた。参加者の多くは直接ゴリラに関わるキー
パーで,実用的な技術報告とその交換が,発表以外の時間も積極的に行われていた。京
都市動物園からの発表は,多くの参加者から高い評価を得た。日本の動物園におけるゴ
リラ飼育の現状について,情報が少ないこともその背景にあったようだ。今後,日本か
らも積極的な参加と情報の開示が望まれる。
9
The Cooperative Management of Gorillas in North American and Europe
Tara Stoinski, PhD.
Chair, AZA Ape Taxon Advisory Group
Advisor, AZA Species Survival Plan
President and CEO, The Dian Fossey Gorilla Fund
Senior Research Associate, Zoo Atlanta
This talk will present an overview of the current North American and
European populations of zoo gorillas with a primary focus on the North
American population. I will discuss how the management of gorillas within
the Gorilla Species Survival Plan has focused on promoting high levels of
cooperation between the 50 institutions housing gorillas to successfully deal
with the challenges of maintaining an equal sex ratio in a harem species. In
particular, the SSP is focused on forming breeding groups of one male and
three females and bachelor groups of two to four males; delaying male group
leadership until late teens; delaying first female reproduction until ~10 years
of age; and minimizing hand rearing through an active birth management
program that begins when an institution receives a recommendation to breed.
I will also highlight other initiatives within the Gorilla SSP, including
assessing and treating heart disease, training and enrichment, and
supporting in situ conservation and research.
北米とヨーロッパにおけるゴリラの協同管理について
アトランタ動物園/ダイアン・フォッシーゴリラ財団代表
タラ・ストインスキー博士
私は北米とヨーロッパにおける飼育下ゴリラの現状についてお話します。
まず、「ゴリラ種維持計画(Gorilla SSP)」におけるゴリラの管理が、ハーレムの中にあ
って等しい性比を維持するという難題に対し、これをうまく分配するためにゴリラを飼
育している50施設間が協力してどのように高いレベルでこれを進めたかについてお話
します。
特に Gorilla SSP は、1 頭のオスと 3 頭のメスと 2~4 頭の未婚オスによる繁殖グループ
をつくることに重点を置いています。この内容はオスのグループリーダー形成を 10 代後
半まで遅らせること、メスの最初の繁殖を 10 才まで遅らせること、そして関係機関が繁
殖推薦を受けてから始まる出産管理プログラムを通し、人間による哺育を最小限にする
ことなどです。
また、Gorilla SSP の中での他の話題、たとえば野生の保全と調査を視野に入れながら、
心臓病に関する話題やトレーニング、エンリッチメントなどにも言及します。
10
かみね動物園でのゴリラ飼育
日立市かみね動物園
正藤 陽久・山内 直朗
当園においてのゴリラ飼育は、1969 年オスメスペアーでの幼少個体の導入から始まる。
9 月 19 日にオスが来園し(愛称は大介)、その後 12 月 20 日にメス(愛称ユキ)が来園し
ている。2 頭は約 10 年間仲良く一緒に暮らすが、繁殖に至ることはなく、1979 年 11 月 20
日、大介は肺炎により亡くなる。
翌年 1980 年、新たなゴリラの飼育計画として、ユキを繁殖目的で日本モンキーセンター
に移籍させることにし、新たなペアー導入をすることになる。1980 年 5 月 15 日、2 代目“ダ
イスケ”として推定 1 才のオスの幼少個体が来園する。ダイスケのパートナーとして 9 月
25 日 2 才年上で推定 3 才のアキが来園する。
ユキが日本モンキーセンターに移動したのは、
そのあとの 11 月 17 日だったので、2 ヶ月あまりは、同居はしていないが、3 頭が飼育され
ていた。
(ユキはその後ハナコと改名)
ダイスケとアキは、その後約 30 年にわたり、一緒に暮らすが、アキが 2008 年 5 月 25 日、
ダイスケが 2012 年 6 月 10 日に亡くなり、かみね動物園でのゴリラ飼育の幕を閉じるこ
ととなる。2 頭の幼少から子ども期、大人になるまで、その関係性や変化、最期の様子を
紹介しながら、当時の反省点、これからの課題、また、日本の繁殖や移動の現状もまじ
えて、ゴリラ飼育所有が無くなった当園だからこその発信ができればと考える。
11
両親との生活で身に付くことはなんだろう?
京都市動物園
長尾 充徳
2013 年 12 月 21 日に京都市動物園でニシゴリラの雄の赤ん坊(ゲンタロウ)が誕生し
た。ゲンタロウは生後 5 日目より母親ゲンキの母乳不足により衰弱し,人工哺育を行う
こととなった。この人工哺育は,早期に両親の元へ戻すことを目標に多くの手順を踏み
行った。そして,生後約 11 か月半で無事に両親に戻すことに成功した。なぜ早期に両親
に戻す努力をしたのだろうか?それは,人工哺育で育つと,どうしてもヒトに刷り込ま
れ,ゴリラとしての社会性が身に付かずに育ってしまうからである。ゲンタロウは両親
と暮らし始め約 1 年 9 か月が経過した。父親とはプレイフェイスを見せながらレスリン
グをして遊ぶ時間もあるし,給餌時間にはシルバーバックに対する配慮(遠慮)が見ら
れるようになるなど,人工哺育を継続していれば身に付かなかったであろうことが,見
られるようになった。今後,ゲンキに次の子が誕生し,同世代ゴリラとの付き合い方も
学べることを期待している
12
ペア飼育から群れ飼育までの試み
東京都恩賜上野動物園
黒鳥 英俊
今年はゴリラ(Gorilla gorilla)が国内に初来日してからちょうど 60 年目にあ
たる。動物園には 3 年後の 1957 年、上野動物園に 3 頭が来園し、動物園での飼育
繁殖がスタートした。当園では 1972 年には京都市動物園と共同繁殖を試み、さら
にその後、オスのブルブルを中心にメス 2 頭との同居飼育をしたが、長期にわた
り繁殖にはいたらなかった。現在、国内には 25 頭のゴリラが飼育されているが、
1980 年前後には、ワシントン条約締結直後の駆け込み輸入により、国内の飼育頭
数は一時 50 頭(1990 年)にまで達した。しかし、多くの飼育園では野生本来の
群れ飼育とは違うオスとメス 2 頭のペア飼育が中心で、繁殖に成功している園館
は限られていた。そのため当時の(社)日本動物園水族館協会の繁殖検討委員会
を中心に単独、ペア飼育の園館に働きかけ、1996 年に当園に群れ飼育できる新施
設ができるのを契機に群れ飼育を行う計画が進められた。今回は上野動物園で今
までに行われた群れ飼育の過程から現在の安定した群れを確立するまでの流れを
簡単に紹介したい。
13
日本モンキーセンターのゴリラ飼養歴史
公益財団法人日本モンキーセンター
坂口 真悟
日本モンキーセンターは、今年の 4 月に財団法人から公益財団法人となり、新しいス
タートを迎えました。今まで飼育現場から SAGA に参加することが少なく、この機会に当
園の過去のゴリラ飼養をご紹介したいと考えました。最初のゴリラの歴史は 1961 年マウ
ンテンゴリラの「ムニディ」
「エミー」の来園から始まります。残念ながら長旅の疲れか
らか、到着してすぐに体調を崩し 2 頭とも亡くなります。ニシローランドゴリラの飼養
は 1973 年から始まり、オス 3 頭、メス 1 頭を飼養しました。木曽太郎(1973-1987・栗
林公園)
、ハナコ(1980‐2009・日立市かみね動物園)
、タロウ(1973‐現在・エジンバ
ラ動物園)
、リッキー(1999-2001・東山動植物園より BL)です。繁殖計画も取り組みま
したが、成功はしませんでした。現在タロウは、オス1頭の単体飼育となりました。タ
ロウにとって何が「幸せ」なのかを考え、単体飼育の「動物福祉」
「老い」の面に取り組
んでいます。
14
ニシローランドゴリラの群れづくりから出産まで
名古屋市東山動植物園
○今西鉄也,澁谷康,伊東英樹
名古屋市東山動植物園は,オキ(推定 50 歳)
,ネネ(推定 35 歳),アイ(ネネの娘,4
歳)の 3 頭のメスのニシローランドゴリラを飼育していたことから,2007 年 6 月に繁殖
を目的として海外よりオスのシャバーニ(10 歳)を導入した.そしてシャバーニを中心
とした群づくりを行ったが,オキ並びにアイとは良い関係が構築できなかったため,同
じ施設内でシャバーニとネネ,オキとアイの 2 組に分けて飼育することとした.シャバ
ーニとネネについては同居後定期的に交尾行動が観察されたものの繁殖することはなか
った.
アイに初潮が観察されたことから,2010 年に群づくりの試みを再開した.再開当初は
シャバーニとオキ並びにアイの関係は改善されず,2 組に分けての飼育を継続するも,同
年 12 月にオキが老衰で死亡した.その後,2011 年 3 月にシャバーニ,ネネ,アイの同居
に成功し,7 月にアイが妊娠,2012 年 3 月 15 日にオスを出産したが,子供はまもなく死
亡した.同年 4 月にはネネの妊娠が確認された.40 歳という高齢であったが,11 月 1 日
に無事オスを出産し,子供は順調に生育している.
15
茨城県から近世~近代に姿を消した大型哺乳類のその後
茨城県自然博物館
首席学芸員 山﨑晃司
本州を代表する陸生大型哺乳類としては,シカ,カモシカ,イノシシ,ツキノワグマ,
サルの 5 種を挙げることができる。しかし,茨城県に目を向けると,この 5 種のうち,
現代も恒常的に生息する種はイノシシ 1 種だけという寂しさである。関東の隣県をみて
も,孤立した半島である千葉県を除き,東京,埼玉,群馬,神奈川には今でもこの 5 種
が安定して生息することと対照的である(ちなみに千葉県にも,サル,シカの 2 種が生
息している)
。
茨城県からは,イノシシを除く 4 種は,近世から近代にかけて姿を消したことが古文
書などから推察できるが,その理由はよく分かっていない。標高の低い山が多く古くか
ら森での人の活動が盛んであったことに加え,中央脊梁山地に連なっていないという地
理的特徴のため,大型動物の安定的な移入が困難であったことなどが想像できる。しか
し,最近になってクマやカモシカの再出現情報が見受けられるようになっている。クマ
の例を挙げながら,今後の予測と課題などについて論じたい。
16
〝かみね″らしさを求めて
日立市かみね動物園
園長 生江信孝
日立市かみね動物園は、市民を主体に整備がすすめられた「かみね公園」の一角に昭
和 32 年に開園した。当時は茨城県はもとより、北関東・福島周辺にも本格的動物園はな
く高度経済成長期と歩調を合わせ右肩上がりで来園者数を伸ばしていった。しかし平成
に入りバブル崩壊後来園者数は減少に転じ、一時は県へ移管する話も持ち上がったもの
の財政状況から固辞された。このため平成 19 年度より開園 50 周年にあわせた大々的な
リニューアルが断行され、その結果、徐々に回復傾向が見られるようになる。
しかし国内の動物園事情に照らすと、単なる施設整備に終わらせず、地方動物園として
そのアイデンティティが求められる時代となってきている。このため、
「未来の動物園を
語る」にあたり、
「かみね」らしさとは何なのか、目指すところは何なのかを考えてみた
い。
17
地方動物園の役割と未来像
宮崎市フェニックス自然動物園
飼育課課長 竹田 正人
昨今、野生動物だけでなく動物園自身も絶滅の危機に瀕している。1882 年に上野動物
園が開園して以来、多くの動物園が生まれ、また消えていった。現在、
(公社)日本動物
園水族館協会に加盟している動物園水族館は 154 施設で、そのうち動物園は 88 施設が存
在する。それぞれが生き残りをかけてハード、ソフトの両面で改革を進めているものの、
娯楽の多様化とバーチャル指向によって、評価の一面である入園者数は全般的に右肩下
がりの傾向にある。人口の少ない地方にある動物園の現実は更に厳しい。
では、どうやってこの荒波を乗り越えるのか!?旭山動物園のように観光資源となり
うる特徴を持つべきかもしれないが、容易なことでない。ただ、地方動物園には各々そ
の風土や自然環境を意識した動物展示と地域と連携した社会教育施設という発想も必要
だと考える。新たな地方動物園の未来像について参加者とともに考えたい。
18
動物園間の連携
公益財団法人日本モンキーセンター園長
京都大学野生動物研究センター教授
伊谷原一
いま、日本の動物園は大きく変わろうとしている。各地方の動物園で展示内容が見直
され、施設の改修工事が進んでいる。当然、各園の予算や敷地面積などの事情から、そ
の規模や内容は園によってさまざまであるが、こうした改修によって動物園の教育研究
活動が推進され、飼育現場の作業性が向上し、さらには来園者に有意義な時間を提供す
ることにつながるなら大変喜ばしいことである。ただ、施設改修にあたっては飼育現場
と運営母体との間に、予算、工事期間、施設構造、設備、動物管理、飼育作業性などを
めぐる意見のくい違いがあり、全てに満足いく施設を完成させることは難しい。
一方、生態・行動・社会学的研究の進展とその応用によって、各動物種が本来有する
特性を活かした展示や飼育技術の向上は大きく前進した。しかし、飼育動物の繁殖や個
体の維持管理に関しては、さまざまな問題が浮上しつつある。とくに希少種や絶滅危惧
種については、そもそも国内での飼育個体数が少ないこと、個体の高齢化、原産国はも
ちろん海外の飼育施設からの輸入制限などがあるため、個体数の維持や血統の多様性保
持が困難な状況に陥っている。
本講演では、動物園が抱えるこうした問題を解決する上で、動物園間の連携という視
点から話題を提供し議論を試みたい。
19
ポスター発表要旨集
会場:日立シビックセンター1F ギャラリー
発
表
番
筆頭発表者
所属
発表タイトル
号
1
小針
大助
2
山田
信宏
3
黒澤
圭貴
4
戸田 恵美
5
井上
紗奈
6
野口
忠孝
茨城大学農学部
高知県立のいち
動物園
獣舎改装工事による運動環境の変化が飼育下の
キリンの行動に及ぼす影響
チンパンジー人工哺育個体「ミルキー」の1年
京都大学霊長類
チンパンジーの認知実験におけるコインセンサ
研究所
ーの導入と今後の展望
放送大学
日本大学
生物資源学部
アフリカにおける大型類人猿保護活動<エコツ
ーリズムは持続的な活動であるのか>
アカエリマキキツネザルは青色を避ける
よこはま動物園
飼育チンパンジーにおける赤ん坊と同居大人個
ズーラシア
体との社会交渉の縦断的変化
京都市動物園のニシゴリラ新展示施設における
7
田中
正之
京都市動物園
行動評価
-樹上性のゴリラを見せることがで
きるか-
8
石塚 真太郎
9
宮川
10
11
12
悦子
山梨
郡
裕美
健一郎
福守
朗
13
早川
卓志
14
吉田
信明
京都大学農学部
横浜市立
金沢動物園
京都大学野生動
物研究センター
京都市動物園におけるアカンボウチンパンジー
の近接関係の変化に伴う行動発達
コアラにおける介添え哺育の試み
杵つきする飼育チンパンジー?:チンパンジーの
道具使用行動を促すフィーダーの作成とその評
価
宮崎市フェニッ
環境エンリッチメントの情報発信~動物リアク
クス自然動物園
ションシリーズの紹介~
鹿児島市
九州沖縄地域における飼育下チンパンジーの父
平川動物園
系について
京都大学霊長類
野生チンパンジーにおける乳幼児運搬様式の決
研究所
定要因
京都高度技術
タブレット端末を用いた来園者参加による動物
研究所
行動記録アプリケーション
20
15
濱田 千絵
16
川北
安奈
17
櫻庭
陽子
18
丸
19
木下
こづえ
20
綿貫
宏史朗
21
22
藤森
鈴木
一喜
唯
詩織
大阪大学
新展示舎への引っ越しがゴリラの行動と来園者
人間科学部
の印象に与える影響
大阪大学
メスキリンの繁殖戦略について―京都市動物園
人間科学部
で観察したフレーメン行動の分析から―
京都大学霊長類
障害をもつチンパンジーにおける認知課題を利
研究所
用した歩行リハビリテーション
旭川市立
旭山動物園
チンパンジーの活動性と温度の関係について
京都大学霊長類
ボルネオオランウータン(Pongo pygmaeus)にお
研究所
ける精子運動率と時間変化に関する基礎的研究
京都大学霊長類
研究所
京都大学霊長類
研究所
日本におけるゴリラ飼育の変遷
飼育下チンパンジーにおける食事内容の改善
岐阜大学
東山動物園との協働事業「第 3 回東山動物園検
応用生物科学部
定」の紹介
京都大学野生動
23
寺本
研
物研究センター
熊本サンクチュアリにおける体毛中コルチゾル
熊本サンクチュ
測定の試み
アリ
京都大学野生動
24
森
裕介
物研究センター
飼育チンパンジーのスクリーム音声における個
熊本サンクチュ
体差
アリ
25
八代
梓
東海大学大学院
生息環境展示施設がニホンザルの行動と来園者
農学研究科
の意識に及ぼす影響
京都大学野生動
26
鵜殿
俊史
物研究センター
携帯心電計を使った無麻酔でのチンパンジーの
熊本サンクチュ
心電図検査法の紹介
アリ
27
斎藤
美雪
28
落合
知美
29
福原
真治
帝京科学大学
動物園と大学の連携による教育プログラムの実
生命環境学部
施
京都大学霊長類
研究所
熊本市動植物園
国内血統登録書に未掲載のゴリラについて
チンパンジーにおける性皮腫脹のレベルと群れ
社会の行動変化について
21
公益財団法人
30
鏡味
芳宏
日本モンキー
センター
日本モンキーセンターにおける環境エンリッチ
メントの取り組み
京都大学霊長類
SHAPE-Japan の活動紹介~エンリッチメントを
研究所
みんなで形に!~
古賀 光莉
岐阜大学
東山動物園での協働事業「東山こどもガイド」
33
中村
智行
千葉市動物公園
34
加藤
洋子
千葉市動物公園
35
久世
濃子
国立科学博物館
36
久保
統生
岐阜大学
31
橋本
32
直子
37
足立
凌
岐阜大学
38
水野
圭
岐阜大学
39
40
並木
森田
美砂子
菜摘
41
徳山
奈帆子
42
川添
久美子
43
大栗
靖代
44
大栗
靖代
45
山内
直朗
46
山内
直朗
47
山内
直朗
48
山内
直朗
帝京科学大学
生命環境学部
ボルネオオランウータンオス個体と飼育担当者
との関係改善に伴う変化について
飼育チンパンジーの睡眠行動について
大型類人猿にも妊娠出産痕があるのか?~大型
類人猿の骨盤の耳状面前溝の種差と性差~
NPO 法人東山動物園くらぶの紹介
NPO 法人東山動物園くらぶ「公開セミナー」の紹
介
岐阜大学サークル「動物園学生くらぶ」の紹介
~NPO 法人東山動物園くらぶとの協力~
ニシローランドゴリラのコドモの成長に伴う、母
親をはじめ他個体との関係変化について(中間報
告)
横浜市立金沢動
用手法で採取したシロテテナガザル精液の凍結
物園
保存と人工授精
京都大学霊長類
研究所
日立市かみね
動物園
日立市かみね
動物園
野生ボノボの攻撃交渉における支援関係
フラミンゴ繁殖大作戦!
チンパンジーの森の変化と植樹祭の様子
日立市かみね
チンパンジーの健康管理を目的としたハズバン
動物園
ダリートレーニングの取り組みについて
日立市かみね
チンパンジーのゴウお母さんと一緒に群れに帰
動物園
るまで
日立市かみね
チンパンジーのリョウマお母さんと一緒に群れ
動物園
に帰るまで
日立市かみね
動物園
日立市かみね
動物園
ニシゴリラのアキの紹介
ニシゴリラのダイスケの紹介
22
23
01 獣舎改装工事による運動環境の変化が
と判断し痲酔下での出産介助を行った.膣
飼育下のキリンの行動に及ぼす影響
から手を入れて子を引っ張り出した.救命
1
1
2
小針大助 , 菊池紀子 ,正藤陽久 ,青木政
2
2
1
は困難と思われたが懸命の蘇生の結果,命
2
雄 , 篠原久 ( 茨城大学農学部, 日立市
をとりとめた.0 日齢の体重は 1840g,成育
かみね動物園)
状態は良好であった.子はミルキーと命名
2013 年の獣舎改装工事に伴う騒音や展示ス
した.
ペースの制限などにより、展示中のキリン
人工哺育になった場合,早期に母親の元へ
への影響が懸念された。そこで本研究では、
戻すことを最優先とし出産前からチェルシ
特に工事前後におけるキリンの行動反応に
ーに直接母乳マッサージする訓練を行った.
着目し、獣舎改装工事のキリンへの影響に
1 日齢から檻越しでの母子対面を行った.
ついて明らかにすることを目的とした。材
出産した自覚が無いためか対面した子に興
料として日立市かみね動物園で飼育されて
味は示すが直接触れなかった.しかし,拒
いたアミメキリン 2 頭(キリナ♀, シゲル
絶せず関心を示していたことから 36 日齢
♂)を使用した。調査は工事 1 ヵ月前から
に初めて母子同居を行った.4 回目の母子
新獣舎完成までの5ヵ月間行った。調査項
同居時にチェルシーが同居を強く拒んだこ
目は展示時間中の維持行動、異常行動、性
とから母子同居を断念し人工哺育の継続を
行動の出現割合、運動場の利用場所、さら
決断した.授乳回数は 6 回/日,ヒト用の
に観察時の騒音を記録した。工事開始から
哺乳瓶を使いヒト用粉ミルクを与えた.お
両個体とも摂食行動が減少し、探査行動が
おむね順調に成育していたが通常の場合の
増加した。また、異常行動が、キリナにお
チンパンジーの成育と比較して行動発達の
いて高頻度で見られるようになった。性行
遅れが懸念された.そこで 120 日齢からこ
動には大きな影響は認められなかった。利
れまでの比較行動発達研究の成果をベース
用場所は工事側から遠い場所の利用率が高
にした発達検査を開始し,現在も継続中で
くなった。以上より、長期間に渡る工事に
ある.本報では生後1年間の養育と発達検
おいては、警戒心の強いキリンへの配慮が
査によって把握されたミルキーの発達と障
必要と考えられた。
がいの状況を紹介する.
02 チンパンジー人工哺育個体「ミルキー」
03 チンパンジーの認知実験におけるコイ
の1年
ンセンサーの導入と今後の展望
1
1
2
1
山田信宏 ,笠木靖 ,竹下秀子 ( 高知県立
黒澤圭貴, 友永雅己(京都大学霊長類研究
2
のいち動物公園, 滋賀県立大学)
所)
2013 年 7 月 14 日の朝,チェルシー(雌、
近年の動物園では、チンパンジーの知性展
当時 25 歳、初産)の陣痛、排臨を確認した.
示を掲げ、様々な認知課題に取り組む彼ら
排臨から数時間経っても出産に至らず,陣
の姿の展示や、コインを利用したチンパン
痛間隔も延長傾向から不明瞭になってきて
ジー用自動販売機の設置が進められている。
いため子の救命は困難,母体の生命を第一
本研究では、認知実験と自動販売機を組み
23
合わせ、コインを入れると認知実験が開始
者による現地に寄り添う支援をプランに取
される装置を導入した。現在、本装置はチ
り入れること,現地住民が自ら運営に携わ
ンパンジー4 個体を対象に運用され、うち 3
ることでエコツーリズムは持続的で有効な
個体で装置の利用を学習したことを示唆す
大型類人猿の保護活動となるのではないか。
る行動が確認されている。なお、本装置は
今後チンパンジーの意思決定研究に用いら
05
れる計画である。
「課題開始時にコイン 1 枚
る
を支払い、正解時には複数枚のコインが払
2 1
日本大学生物資
井上紗奈 1, 新藤いづみ (
い出されるが、不正解時にはそのコインが
源科学部,2 横浜市立野毛山動物園)
没収される」という実験場面を想定してお
アカエリマキキツネザルは、マダガスカル
り、チンパンジーは自分の「資産」を増や
島にのみに生息する原猿類である。本研究
そうとするのかを調査する。また、報酬量
では、視知覚認知における進化的基盤を探
や課題の難易度、課題を始めるのに必要な
るため、独自の進化をしてきた本種に焦点
支払コイン枚数などを変化させることによ
を当てた。対象は、横浜市立野毛山動物園
って、チンパンジーの意思決定に関するよ
にてペア飼育されている 2 個体である。飼
り詳細な分析もおこなう計画である。
育室の金網越しにタッチパネルモニタを設
アカエリマキキツネザルは青色を避け
置し、装置に慣れさせたのち、画面上に呈
04 アフリカにおける大型類人猿保護活動
示した画像を直接触って回答させる課題を
<エコツーリズムは持続的な活動であるの
導入した。実験 1 では、色、花写真、文字
か>
の 3 種の課題をおこなった。その結果、色
戸田恵美(放送大学)
課題においてのみ、青色の正答率の顕著な
大型類人猿はそのヒトとの近さゆえにヒト
低下が観察された。現象を確認するため実
の感染症に高い感受性を持ち,その観察に
験 2 において、実験 1 の花写真から背景を
は他の霊長類には必要のない厳しい制約が
消した写真、色付き文字の 2 種の課題をお
欠かせない。また,彼らの生息地は赤道周辺
こなったところ、実験 1 の背景つきとは異
の熱帯雨林または疎開林で,爆発的な人口
なり背景なしの花写真では、青色の正答率
増加と長引く内戦によるヒトからの脅威が
が低くなった。一方色付き文字では正答率
急激に迫っている場所でもある。多くの問
はほかの色と変わらなかった。これらの結
題を抱えながら行われているエコツーリズ
果は、アカエリマキキツネザルにおいて、
ムは,彼らの近くに暮らす現地住民にとっ
一定条件下での青色に対する忌避があるこ
ての支援となり,大型類人猿の保護活動と
とを示唆する。
なっているのかを私はアフリカのマウンテ
06 飼育チンパンジーにおける赤ん坊と同
ンゴリラを対象として考察した。
居大人個体との社会交渉の縦断的変化
結果として,エコツーリズムは持続的な
保護活動と呼べるものではなかった。だが,
野口忠孝 1,平賀真紀 1,小倉典子 1,福島翔太
環境教育を世界に広めること,日本人研究
1
,須田朱美 1,森村成樹 2(1 公益財団法人横
24
浜市緑の協会よこはま動物園, 2 京都大学野
ラ(以下ゴリラと略する)はチンパンジー
生動物研究センター)
と同様に,樹上性が高いことがわかってき
横浜市立よこはま動物園では飼育環境を
た.この知見を含めた最新の知識を伝える
野生の状態に近付けることを基本理念とし、
ための新施設として,
「ゴリラのおうち~樹
2009 年よりチンパンジー(Pan troglodytes)
林のすみか~」が 2014 年 4 月 27 日に京都
の複雄複雌集団の飼育を開始した。社会管
市動物園にオープンした.本研究では,新
理を目的として、2011 年 8 月より今日まで
施設におけるゴリラの空間利用を調査し,
行動観察を継続してきた。この間、2012 年
施設の効果を検証した.対象は当園飼育の
に赤ん坊 2 個体が誕生した。赤ん坊の発達
ゴリラ 3 個体(父 14 歳,母 28 歳,子ども
に応じて同居する母親以外の大人個体との
2 歳)である.屋外グラウンド(332.62 ㎡)
社会交渉がどのように変化するのか、縦断
にいる時間帯に,午前と午後の 1 時間ずつ,
的研究は極めて少ない。そこで交渉の相手
週に 3,4 日の頻度で行った.1 分間隔のス
および赤ん坊からの働きかけなど交渉の方
キャンサンプリング法で各個体の位置と行
向性に着目し、誕生前から 2 歳までの社会
動カテゴリーを,タブレット PC に記録した.
交渉の変遷を調べた。対象は、23~37 歳の
調査は 5 月 24 日から開始し,現在も継続し
チンパンジー7 個体(オス 2、メス 5)及び
ている.調査の結果,子どもでは調査時間
赤ん坊 2 個体(メス 2)、観察期間は 2011
の 60%以上で地上 1m 以上の空間を利用し
年 8 月 1 日から 2014 年 5 月 30 日までとし
ていた.大人 2 個体でも頻繁な高所利用が
た。行動は、放飼直後からの 30 分間を個体
見られた。今後データ解析を進め,季節や
追跡法で観察し、1 分間隔の瞬間サンプリ
時間帯による空間利用を調べたい。
ングで採餌や休息など行動レパートリー13
項目を記録した。その結果、赤ん坊の誕生
08 京都市動物園におけるアカンボウチン
後に社会交渉はすべての個体で大きく増加
パンジーの近接関係の変化に伴う行動発達
した。非血縁の未経産のメスでも顕著に社
石塚真太郎 1,松永雅之 2,島田かなえ 2,田中
会交渉が増加したが、生育歴によると考え
正之 2,山梨裕美 3(1 京都大学農学部,2 京都
られる交渉の個体差が見られた。
市動物園, 3 京都大学野生動物研究センター)
チンパンジーの行動発達は様々な社会的
07 京都市動物園のニシゴリラ新展示施設
要因を受ける。これまでの研究の多くは母
における行動評価
子間要因に焦点が当てられてきたが、本研
-樹上性のゴリラを見
究では母親以外を含む群れの全個体との近
せることができるか-
1
2
3
田中正之 ,前垣慧 ,伊藤二三夫 ,佐々木
3
3
接と行動発達の関係について調査した。対
3
智子 ,長尾充徳 ,和田晴太郎 ,吉田信明
象は京都市動物園のアカンボウ (2013 年 2
4
月 12 日生、オス)である。観察時間は 2014
1
( 京都市動物園生き物・学び・研究セン
2
3
ター京都大・ 野生動物研究センター, 京
年 2 月 12 日から 3 月 25 日まで(前期)の 27
4
都市動物園, 京都高度技術研究所)
時間、8 月 26 日から 9 月 25 日まで(後期)
近年の調査研究では,ニシローランドゴリ
の 27 時間の計 54 時間である。運動場に出
25
てから屋内に帰るまで個体追跡を行い、タ
母乳の量や濃度に何らかの問題があり、発
イムサンプリング法によって行動と最近接
育が停滞したと推測された。母親が人に慣
個体を記録した。その結果、後期では母親
れており落ち着いた性格の個体だったため、
にしがみついている比率が小さくなり、近
育児を継続させながら、母乳と粉ミルクの
接者なしの割合や非活動、移動の比率が増
併用は有効であったが、哺乳量・濃度、哺
加した。一方で母親以外の個体との近接割
乳期間などにより成長に差が見られた。
合は大きく変化せず、しがみつきの減少、
社会行動の増加が見られた。また、後期で
10
は近接者なしでの採食行動が増加し、他個
パンジーの道具使用行動を促すフィーダー
体との食物分配の頻度が減少していた。母
の作成とその評価:
親からの離遠、母親でない個体に対するし
山梨裕美 1,松永雅之 2,島田かなえ 2,門竜一
がみつきから社会行動への移行、近接者を
郎 2,小林幸雄 2,田中正之 2(1 京都大学野生
伴わない採食などの行動発達が示唆された。
動物研究センター・日本学術振興会特別研
杵つきする飼育チンパンジー?:チン
究員(PD), 2 京都市動物園)
09 コアラにおける介添え哺育の試み
近年、飼育動物が種特有の認知能力を発揮
宮川悦子,柴田枝梨(横浜市立金沢動物園)
し、新しい課題に挑戦する機会を提供する
金沢動物園では、1986 年からコアラの飼育
ことが、動物福祉の観点から重要視される
を開始し、28 年間で 46 頭を飼育し、29 頭
ようになってきた。さらに、動物園ではそ
の繁殖に成功している。このうち 2011 年と
の課題が野生で見られるような行動を促す
2013 年に繁殖した雌のコアラに対して出袋
ようなものであれば、来園者の教育にも役
後の介添え哺育を行い、一定の成果が得ら
立つかもしれない。しかし、その具体的な
れたので紹介する。
方策についてはあまり検討されていない。
2 頭は同一の両親による繁殖個体で、第一
そこで今回、ギニア共和国のボッソウで見
子は、2011 年 3 月 26 日出生、同年 10 月 11
られる「杵つき行動」を参考に、新しいタ
日(200 日齢)出袋、第二子は 2013 年 7 月 27
イプのフィーダーを作成し、京都市動物園
日出生、2014 年 2 月 1 日(190 日齢)出袋
のチンパンジー5 個体を対象として反応を
した。両頭とも嚢児期に母親の体重増加が
検討した。透明の塩ビパイプを組みあわせ、
思わしくなく、出袋後も子の低体重が続い
難易度の調整がしやすいフィーダーを作り、
たため、栄養補助目的で第一子では 268 日
徐々に道具で何度もたたいてつぶした食べ
齢から 124 日間、第二子では 227 日齢から
物を得るという行動が発現することを期待
111 日間、1 日 1~2 回の粉ミルクによる介
した。結果、枝を使って食べ物を叩き落と
添え哺乳を実施し、2 頭とも成育した。特
す行動を覚えた個体は 2 個体いた。さらに
に第二子では、嚢児期に母親の体調不良が
そのうち 1 個体がバナナをつぶして採食で
見られたことも子の低体重に影響している
きた。フィーダーの詳細と、道具使用フィ
と考えられた。
ーダーがチンパンジーの行動に与える影響
母親が同一個体であることから、もともと
について発表したい。
26
11 環境エンリッチメントの情報発信~動
にした上で繁殖計画を立案することが求め
物リアクションシリーズの紹介~
られる。血統登録台帳からは飼育状態や行
郡健一郎,浜脇幸一,福地善信,竹田正人(宮
動特性が読み取れないため、今後の個体群
崎市フェニックス自然動物園)
の動態予測は困難である。そこで九州沖縄
宮崎市フェニックス自然動物園では、Web
地域の飼育施設を対象に、繁殖の可能性が
サイト「動物園だより」やその印刷物によ
あるオスの個体数および父系の数を明らか
って、イベントの案内や動物の繁殖に関す
にすることを目的として飼育状況調査を行
る話題を中心に情報発信を行っている。
った。オスのチンパンジーの総数は 51 頭で、
2013 年 2 月から「動物園だより」の中で、
繁殖実績のある個体は 10 頭であった。その
「動物リアクションシリーズ」と題した環
平均年齢は 30.6 歳でメスと同居している
境エンリッチメントに関する話題限定の情
個体は 2 頭である。繁殖制限されていない
報配信を開始した。現在までに 9 シリーズ
個体はその内 1 頭のみである。他の 8 頭は
を配信している。
オス同士で同居している。ファウンダーと
環境エンリッチメントを実施し、動物の反
なるオスは 8 頭であった。今後チンパンジ
応(reaction)を利用者に伝えることで、
ーの遺伝的多様性を保持するために、飼育
動物の習性をより深く理解してもらうのが
施設間の連携と情報共有、具体的繁殖計画
主な目的であるが、他にも環境エンリッチ
の立案と実行が急務である。
メントとは何か?さらにはその必要性つい
ても考えてもらうきっかけになればと考え
13 野生チンパンジーにおける乳幼児運搬
ている。また、来園者に向けて動物行動観
様式の決定要因
察の誘いになればと考えている。今後は類
早川卓志 1,2, 松沢哲郎 1(1 京都大学霊長類
人猿に限らず他の動物種もとりあげていき
研究所, 2 日本学術振興会)
たい。環境エンリッチメントを通じ動物の
チンパンジーの乳幼児は、出生直後は母親
魅力を伝え、当園の動物たちの生きている
のお腹にしがみ付いて母親に運ばれるが、
証を多くの人に注目してもらいたいと考え
成長とともに背中にしがみ付いて母親に運
ている。
ばれるようになる。しかし、こうしたチン
パンジーの乳幼児運搬様式について、成長
12 九州沖縄地域における飼育下チンパン
以外の決定要因はあまり知られていない。
ジーの父系について
本研究では、2012 年 12 月から翌年 1 月に
1
2
1
福守朗 ,森村成樹 ( 鹿児島市平川動物園,
かけて、ギニア・ボッソウの 13 ヶ月齢のア
2
カンボウオス「ファンワ」が、母親の移動
京都大学野生動物研究センター熊本サン
クチュアリ)
時に背側か腹側かのどちらにしがみ付いて
チンパンジーはアフリカのみに生息する絶
いるかを個体追跡法により観察し、運搬様
滅危惧種であり、飼育下個体群の持続的管
式の決定要因について考察した。観察期間
理が保全に直結する。父系に基づく群を形
中の 3 日間に、連続記録を行った結果、腹
成するため、実質的な父系の規模を明らか
側にしがみ付く生起頻度は、地上移動(61%)
27
よりも樹上移動(13%)の方が有意に高かっ
での評価を進めているが,今後,他の動物
た(総観察時間 10 時間 24 分 24 秒)。一方、
への活用も検討している.
村人や自動車が利用する道を横切るという
(本研究は,総務省戦略的情報通信研究開
危険度の高い場面において、腹側にしがみ
発推進事業(SCOPE)地域 ICT 振興型研究開
付く生起頻度に通常の地上移動時との有意
発によるものである)
な差は認められなかった(生起頻度 55%、
道渡り観察回数 35 回)。このことは、チン
15 新展示舎への引っ越しがゴリラの行動
パンジーの乳幼児運搬様式は、危険回避よ
と来園者の印象に与える影響
りも物理的な「しがみ付きやすさ」あるい
濱田千絵,中道 正之,山田 一憲(大阪大学
は「母親の運びやすさ」に、強く影響を受
人間科学部)
けていることを示唆している。
京都市動物園は 2014 年 4 月にニシローラ
ンドゴリラの飼育展示舎を新築し、ゴリラ
14 タブレット端末を用いた来園者参加に
家族は引っ越しをした。新展示舎には 3 次
よる動物行動記録アプリケーション
元構造物があり、野生のゴリラが暮らす樹
1
2
3
1
吉田信明 ,田中正之 ,和田晴太郎 ( 京都
上空間を模した豊かな飼育環境が準備され
2
高度技術研究所, 京都市動物園生き物・学
ている。本研究では 2013 年 12 月から 2014
び・研究センター,京都大学野生動物研究セ
年 10 月にかけて 53 時間のゴリラの行動観
3
ンター )
察とゴリラ舎を訪れた来園者 230 人への面
京都市動物園では,来園者向けの教育プ
接調査を行い、引っ越しの前後で比較した。
ログラムのための,タブレット端末を用い
新展示舎引っ越し後には、ゴリラは、ブラ
た動物行動記録アプリケーションを開発し
キエーションや採食を構造物の上で行うな
ている.
どし、高い頻度で建物を立体的に利用する
このアプリケーションでは,参加者は,
ようになった。構造物の上にいる時間割合
画面に表示された地図上で動物の位置と行
は 28%で、野生のニシローランドゴリラが
動を 3 次元データとして継続的に記録する.
樹上にいる割合の 20%に近くなった。それ
データは,ネットワークを介して自動的に
にともない、来園者は見上げながらゴリラ
サーバに集約・蓄積され,視覚化して参加
を観察することが増えた。新展示舎では、
者に提示可能となる.動物を一定の手法で
来園者が印象に残った行動として「寝てい
観察し,そのデータを視覚的に確認するこ
る」など活動性の低い行動を指摘すること
とで,参加者の動物行動のより深い理解に
が増加したが、ゴリラを見ていて楽しかっ
つながる.このデータは,動物の飼育環境
たという評価得点が減少することはなかっ
の改善などへの活用も期待される.
た。
このアプリケーションは,データを追
加・入れ替えすることで,様々な動物に適
16 メスキリンの繁殖戦略について―京都
用可能である.現在,京都市動物園におい
市動物園で観察したフレーメン行動の分析
て,
「ゴリラのおうち」と「アフリカの草原」
から―
28
川北安奈,中道正之,山田一憲(大阪大学人
いる.そのチンパンジーに対して歩行リハ
間科学部)
ビリテーションの導入と評価を試み,その
繁殖周期の中でキリンのメスが実際に交
事例を紹介する.認知課題が提示されるモ
尾をする期間は短く限られている。メスは
ニターと食物が落ちてくるフィーダーを 2m
広い範囲に生息しているため、オスはメス
離れた場所に設置した.チンパンジーが,
を探して遊動し、妊娠可能なメスに出会う
課題に正解しフィーダーから食物が落ちる
とそのメスに追従して繁殖する戦略をとる。
と,それを取りに歩くという行動が見られ
本研究では、京都市動物園のキリン 4 頭(成
た.その効果についてリハビリテーション
獣メス 1 頭、成獣オス 1 頭、2 歳齢幼獣メ
導入前後のビデオ記録を使って総移動距離
ス 1 頭、0 歳齢幼獣オス 1 頭)を対象とし
と移動様式の分析をおこなった.総移動距
て、2013 年 5 月から 2014 年 8 月にかけて
離 は , 平 均 136.7m か ら 506.3m に 増 加
330 時間の行動観察を行った。妊娠可能な
(P<0.01)し,移動様式は歩行が 1.2%から
時期の成獣メスが排尿すると、ほとんどの
27.2%に増加(P<0.01)していた.また,リハ
場合成獣オスによるフレーメンの対象とな
ビリテーションは自発的におこなう設定に
った。成獣メスが妊娠すると、排尿がフレ
なっているにもかかわらず,1 日の平均試
ーメンされることは少なくなった。成獣メ
行数は 4 年経っても減少が見られなかった.
スは、妊娠中よりも妊娠可能な時期に、よ
以上より,歩行リハビリテーションとして
り高頻度で排尿を行っていた。本研究には
認知課題を取りいれたものは効果があった
成獣オスが 1 頭しかいなかったという限界
といえる.
があるが、野生下では妊娠可能な時期のメ
スが、排尿の回数を増やすことで、より多
18 チンパンジーの活動性と温度の関係に
くのオスからフレーメンを受けているのか
ついて
もしれない。今回の発表では、先行研究に
丸一喜 1,森村成樹 2(1 旭川市旭山動物園,2
おいてその存在が不明瞭であったメスによ
京都大学野生動物研究センター)
野生チンパンジーと日本での飼育下チン
る配偶者選択について議論を行う。
パンジーとでは、気象条件が大きく異なる。
17 障害をもつチンパンジーにおける認知
飼育環境の温度管理はガイドライン等で指
課題を利用した歩行リハビリテーション
摘されているが、実際の飼育環境のデータ
1
2
2 1
櫻庭陽子 ,友永雅己 ,林美里 ( 京都大学霊
は乏しい。そこで、旭山動物園で飼育して
2
長類研究所日本学術振興会(DC1), 京都大
いる 13 個体のチンパンジーを対象とし、
学霊長類研究所)
2013 年 8 月から 2014 年 10 月 15 日までチ
障害をもつ動物に対する長期的ケアやリ
ンパンジーの活動性と屋外放飼場の温度環
ハビリテーションに関して,動物福祉の観
境との関係について調べた。外気温による
点からの知見はほとんどない.京都大学霊
①活動・休息、②日向・日陰の利用、③日
長類研究所に,両後肢に障害があり歩行が
向での活動・休息の割合を 28℃以上・24~
困難なオトナのオスチンパンジーが 1 個体
28℃・20~24℃・16~20℃・12~16℃・12℃
29
以下に区分し比較した。活動的な行動の割
種の基本的な精液の性状を把握するために、
合は、24℃以上で 63.6~65.3%、24℃以下
無麻酔下で採取した 3 頭の雄ボルネオオラン
で 53.5%~56.9%。日向の利用は、28℃を
ウータンの精液について、凝固部と液状部に
超えると 16.9%と少なく、20℃以下では
おける運動精子率の変化について調べた。次
58.1~73.2%と外気温が下がるにつれ日向
いで主にヒトの精子保存に利用されている P1
の利用が増えた。日向での活動割合は、28℃
保存液とマカク類の精子保存に利用されてい
以上では 21.2%と少なく、20℃以下では
る TTE 保存液を用いて、時間経過に伴う運動
55.4~72%、と日向の利用と同様の傾向を
精子率の低下について調べた。
示した。以上から、チンパンジーは日向・
日陰を利用し体温調節をおこなっていると
20 日本におけるゴリラ飼育の変遷
示唆された。
綿貫宏史朗
1,3
,落合知美 1,打越万喜子 1,友
永雅己 1,2,伊谷原一 2,3,松沢哲郎 1,2,3(1 京都
19
大学霊長類研究所,2 京都大学野生動物研究
ボルネオオランウータン(Pongo
センター,3 日本モンキーセンター)
pygmaeus)における精子運動率と時間変化に
関する基礎的研究
1
現在、日本国内では、25 個体のゴリラが
2
3
木下こづえ ,久世濃子 ,宮川悦子 ,小林智男
9 施設で飼育されている(2014 年 10 月 20
4
8
日時点)。2014 年は、日本でゴリラが飼育
( 京都大学霊長類研究所, 国立科学博物館・
されて 60 年目の節目の年となった。本発表
5
6
7
,中村智行 ,黒鳥英俊 ,木村幸一 ,尾崎康彦
1
2
3
4
日本学術振興会, 横浜市立金沢動物園, よこ
5
では、日本におけるゴリラの飼育の変遷を
6
はま動物園, 千葉市動物公園, 京都大学野
振り返る。大型類人猿情報ネットワーク
7
生動物研究センター・上野動物園, 東山動植
(GAIN)のデータベースに登録された情報
8
物園, 名古屋市立大学産婦人科)
より、日本全体の飼育個体数および施設数、
現在、国内で飼育されているオランウータン
1 施設当たりの飼育個体数の変遷について
(Pongo sp.)は約 50 頭であり、年々その数は
分析をおこなった。毎年末の個体数の変化
減少し高齢化が進んでいる。また、輸送時の
をみると、1954 年の飼育開始以来、途絶え
麻酔のリスク等が大きいことから国内外での
ることなく飼育が続いた。1987 年末に最多
個体の移動は困難であり、血統の偏りも懸念
の 52 個体となるまで増加傾向が続いてい
されている。今後、個体数が減少する中で、個
たが、以降は減少が続き、近年は当時の半
体を移動させずに繁殖を可能とする人工授精
分程度となっている。これは、輸入の停止
(AI)の応用が期待される。しかし、本種の AI
や繁殖率の低さが影響していると考えられ
の成功例は世界で 1 例(今年 5 月に LEO
る。また、飼育施設数は 1990 年前後の 24
Zoological Conservation Center にて)しかなく、
施設が最多だったが、個体の集約などによ
方法が確立されているとは言い難い。AI を成
り飼育施設数も減少している。歴史的にみ
功させるためには雌の交配適期を的確に把
るとペアまたは単独飼育がほとんどで、3
握する必要があり、それに加えて良質な精子
個体以上で飼育された例は非常に少ない。
を準備することも求められる。本研究では、本
現在、上野・東山・京都で群れづくりが進
30
められているが、余剰オスの問題などもあ
NPO 法人東山動物園くらぶは、
「動物たち
り単独飼育数はそれほど変わっていない。
は、私たちとともに暮らす貴重な命である」
現在の問題点を見直し、今後の飼育管理や
という考えのもと、市民の環境意識の向上
福祉に役立てたい。
や動物園の振興に寄与することを目的とし
ている。毎年 5 月には、東山動物園と協働
21 飼育下チンパンジーにおける食事内容
で「東山動物園検定」を開催している。試
の改善
験問題は、当団体が 2012 年に発売した「東
藤森唯,林美里(京都大学霊長類研究所)
山動物園公認ガイドブック」の内容を中心
現在、本研究所で飼育されているチンパ
に、「個体」や「歴史」、「施設」、「時事」、
ンジーを対象に、食事回数の増加と食事内
動物の「生態」、「生物」の 6 カテゴリーか
容の改善を図っている。これまでに 2 回の
ら、動物園の確認を受けた 50 問を出題する。
食事調査をおこない、各調査期間中に彼ら
解答方法は、4 択のマークシート形式で、
が食べているものを個体ごとに全て記録し
解答時間は 45 分である。試験会場は、園内
た。そこから各個体の採食量、摂取カロリ
にある動物会館で、参加資格は小学生以上
ー、各品目割合を算出し、体重から求めた
とした。2014 年の第 3 回開催では、6 から
エネルギー要求量も考慮して食事内容を調
60 歳までの 58 人が参加した。平均 58.36
整している。本調査の結果から、本研究所
点、最高点は、高校生が獲得した 94 点だっ
の食事内容は果実が占める割合が高く、野
た。前年度に比べ、平均が 4.12、最高が 6
菜、特に葉物野菜が占める割合が低いこと
点下がり、難易度が上がる結果となった。
もわかった。葉物野菜は低カロリーである
満点を狙って、毎年参加する参加者も複数
ため、採食量の増量やエンリッチメントへ
いるので、難易度を安定させながら問題を
の利用が期待でき、また飼育下で不足しが
変え、継続して開催することが課題である。
ちな繊維質も多く含んでいる。そこで、調
査期間中に葉物野菜の増量を試みた。嗜好
23 熊本サンクチュアリにおける体毛中コ
性の低い野菜は残されることが多かったが、
ルチゾル測定の試み
給餌時間や食物の組み合わせを調整するこ
寺本研,山梨裕美,森裕介,野上悦子,森村成
とで改善できるものもあることがわかった。
樹,平田聡(京都大学野生動物研究センター)
今後も調整を続けて、理想的な食事内容の
慢性的ストレスは、病気や繁殖抑制など
設定に努めていきたい。
にもつながるため、動物福祉を考えるうえ
で非常に重要である。このため、慢性的ス
22 東山動物園との協働事業「第 3 回東山動
トレスの指標となる体毛中コルチゾルが注
物園検定」の紹介
目されている。昨年、熊本サンクチュアリ
1
1
2
鈴木詩織 ,奥村太基 ,櫻庭陽子 ,井上立也
でも飼育しているチンパンジーの体毛中コ
2
ルチゾル濃度の長期モニタリングを開始し、
2
2
2
,柴田軒吾 ,佐藤和哉 ,落合知美 ,堤創
(
1
2
2
岐阜大学応用生物科学部, NPO 法人東
併せてコルチゾル濃度の測定体制の整備を
山動物園くらぶ)
行ってきた。
31
体毛中コルチゾルの測定には、体毛の洗
八代梓1,古家岬1,本村康隆1,渡辺志織1,吉
浄・粉砕、コルチゾルの抽出、コルチゾル
村
濃度測定の過程が必要である。まず熊本サ
田中正之3,伊藤秀一1(1東海大学農学部
ンクチュアリに洗浄から抽出までの過程が
熊本市動植物園
出1,松本充史2,中村寿徳2,村上憲一2,
2
3
京都市動物園)
行える機器を設置し、次に熊本サンクチュ
熊本市動植物園のニホンザル施設は,
アリで抽出したコルチゾルを外部機関へ委
2013 年 10 月に檻型から生息環境展示に移
託して濃度の測定を行った。結果として山
行した。展示施設の変更が、動物の行動と、
梨らの先行研究と比較すると粉砕機の違い
来園者の動物や施設に対する評価に与える
からか抽出されたコルチゾル濃度が低くい
影響を明らかにするため、ニホンザルの行
という問題点はあるが、高い相関は得られ
動観察と来園者へのアンケート調査を行っ
ている。今回はこの試みについて紹介する。
た。調査は、檻型での期間と、生息環境展
示施設に移行直後に行った。飼育個体 14 頭
24 飼育チンパンジーのスクリーム音声に
のうちの 6 頭を対象とし、20 項目の行動に
おける個体差
ついて 3 分間隔の走査サンプリングで記録
森裕介,森村成樹(京都大学野生動物研究セ
したところ、展示施設の変更により、いく
ンター)
つかの行動は変化したが、非活動的な行動
いつ、だれが、闘争に関与しているのか
はほとんど変化しないことが確認された。
をモニタリングして飼育チンパンジーの社
また、来園者へ動物の面白さや見やすさ、
会管理役立てることを目的として、熊本サ
環境の快適さ、展示施設での滞在時間、な
ンクチュアリで飼育されている雄 1 集団(5
どについてのアンケートを調査したところ、
~15 個体)を対象に、音声による個体識別
“快適な環境だと思う”や“長い間見てい
方法を検討している。音声を利用した監視
たい”との回答が生息環境展示で増加した。
では、放飼場全体をビデオカメラで監視す
生息環境展示への移行は、非活動的な行動
る場合のような死角は問題とならない。ま
の減少にはつながらなかったが、来園者の
た音声は遮蔽物に遮られることはなく、長
動物や施設に対する評価には影響を及ぼし
時間録音も可能である。闘争の際に発せら
た。
れるスクリーム音に注目し、音声スペクト
ル分析による個体識別法を試みた。フォル
26 携帯心電計を使った無麻酔でのチンパ
マントのような1つの特性で 15 個体すべ
ンジーの心電図検査法の紹介
てを識別することは難しく、ピーク周波数
鵜殿俊史,野上悦子,平田聡(京都大学野生
(音圧レベルのピークがある音の高さ)に
動物研究センター熊本サンクチュアリ)
チンパンジーを含む大型類人猿では、心筋
おける個体差など、複数の変数を利用して
の線維化による心臓病が健康管理上大きな
個体識別する方法を検討した。
問題となっている。この心臓の病的変化は、
25 生息環境展示施設がニホンザルの行動
心電図上様々な不整脈として現れるが、麻
と来園者の意識に及ぼす影響
酔下での検査では、麻酔薬の心臓への影響
32
や個体への負荷が排除できない。そこで、
曜日に、動物観察を目的とした通常プログ
携帯型心電計を導入し、チンパンジーの無
ラム 4 つと、動物たちと森林の結びつきを
麻酔での心電図検査を試みた。用いた機器
紹介する特別プログラム 1 つを合わせて行
はオムロンコーリン社製 HCG-901 で、PC へ
っているが、いずれのプログラムでも、参
の取り込みは判読支援ソフト HCG-SOFT-CL1
加者が終了後にゆっくりとその動物を見て
を用いた。電極は電源ケーブル(VVF ケー
いることが確認されている。
ブル)を加工し自作した。その結果、20
この連携による教育プログラムの実施は、
13年11月からの約一年間で、飼育する
動物園への就職を目指す学生が、上記の参
チンパンジー59個体中46個体で継続的
加者の変化に触れて、動物園の重要な社会
に心電図を記録することができた。得られ
的役割を知ることにつながっており、進路
た心電図からは、約半数の個体で各種不整
選択にも影響を与えている。
脈が確認された。一方で、麻酔下で見られ
た不整脈が無麻酔では見られない例もあっ
28 国内血統登録書に未掲載のゴリラにつ
た。この携帯心電計を使った無麻酔での心
いて
電図検査は、チンパンジーに負荷を与えな
落合知美 1,綿貫宏史朗 2,打越万喜子 2,伊谷
い非常に有用な検査法である。
原一 2,友永雅己 1,松沢哲郎 1(1 京都大学霊
長類研究所, 2 京都大学野生動物研究センタ
27 動物園と大学の連携による教育プログ
ー)
「大型類人猿情報ネットワーク」(略称
ラムの実施
1
1
1
齋藤美雪 ,安藤有佳梨 ,横前史織 ,林亜紀
GAIN)では、国内で飼育する類人猿に関す
2
る情報を収集している。現在、ゴリラは 9
3
3 1
,森角興起 ,森田菜摘 ( 帝京科学大学生命
2
3
環境学部, 多摩動物公園, 横浜市立金沢動
施設で 25 個体が飼育されており、国内血統
物園)
登録書には 100 個体のゴリラが登録されて
帝京科学大学動物園研究部は、多摩動物
いる。日本での飼育の全体像をより正確に
公園と金沢動物園において、両園の支援を
把握するため、過去にさかのぼって情報を
受けながら、動物園に関する知識や技術の
収集してきた。動物園の飼育台帳や記念誌、
習得を目標に、教育プログラムを継続的に
機関誌のバックナンバー、日本動物園水族
行っている。
館協会の月報、地域の図書館にある郷土資
多摩動物公園での活動は毎月第2・4日
料(新聞記事、報告書など)などから情報を
曜日に、お絵かきを通じて身近な昆虫をよ
収集し、血統登録書未掲載の個体の登録を
く観察しもらうことを目的とした「おえか
すすめた。その結果、血統登録されている
きっず!」というプログラムを実施してい
100 個体とは別に、19 個体のゴリラを確認
る。参加者は、普段見落としがちな昆虫の
した。そのうち 10 個体は、1961 年までに
細部のつくりに気づくことができ、他の虫
日本に輸入された個体だった。その他 9 個
や動物への興味喚起につながった事例がみ
体は、動物園に来て数ヶ月で死亡した、も
られた。金沢動物園での活動は第1・3日
しくは、移動動物園や動物プロダクション、
33
動物商などで飼育され、死亡した個体だっ
し、サル類の飼育環境向上に努めている。
た。これらゴリラの詳細について、GAIN の
環境改善のため、園内で飼育するすべての
ウ
霊長類を対象にさまざまな環境エンリッチ
ェ
ブ
で
確
認
で
き
る
。
http://www.shigen.nig.ac.jp/gain
メントを実施した。また、アヌビスヒヒを
対象に消防ホースを用いた空間エンリッチ
29 チンパンジーにおける性皮腫脹のレベ
メントを実施し、その効果について行動観
ルと群れ社会の行動変化について
察により評価をおこなった。これらの実施
1
2
3
福原真治 , 八代梓 , 伊藤秀一 , 竹田正
1
1
1
により、闘争回避場所の増設、採食時間の
1
志 ,山部哲也 ,森田聡 ,上野明日香 ,松本
1
1
1
延長、日常の健康管理や触診、チンパンジ
2
充史 ,瀧本勉 ( 熊本市動植物園, 東海大
ーの“アリ釣り”やオマキザルの“薬草利
3
用”など野生に近い行動の発現などが実現
熊本市動植物園では、チンパンジーの複
できた。アヌビスヒヒの観察評価では、消
雄複雌群による繁殖拠点を目指している。
防ホースの本数の追加により安定して座れ
今年度、当園飼育のチンパンジー5 頭{雄 1
る場所が増えることで、好んでそちらを利
頭 34 歳(マルク)、雌 4 頭 36 歳(ノゾミ)、
用する可能性が示唆された。当園における
36 歳(ユウコ)、35 歳(カナエ)、23 歳(ク
環境エンリッチメントの取り組みは未だ実
ッキー)}のうち、ユウコから発情抑制のた
践途中の段階にあるが、本発表では、組織
めに使用していたジースインプラントを摘
の改編をきっかけに、動物福祉への配慮を
出し、その後、性皮の腫脹とメンスによる
重要な使命として掲げ、園全体として飼育
発情回帰を確認した。当個体の性皮腫脹の
方針を大きく転向した点を強調したい。
学大学院農学研究科, 東海大学農学部)
レベルとそれに伴う行動の変化、及び他個
体の行動の変化について、直接観察法によ
31
る 1 分間隔のスキャンサンプリング法で記
メントをみんなで形に!~
録し、個体の性格及び飼育観察記録も踏ま
橋本直子 1,小倉匡俊 2,小山奈穂 3,田口勇輝
えて、幾つかの知見が得られたため報告す
4
る。
8 1
京都大学霊長類研究所, 2 北里大学,3
裕美(
SHAPE-Japan の活動紹介~エンリッチ
,萩原慎太郎 5,三家詩織 6,山崎彩夏 7,山梨
株式会社ティーエムバーガー,4 広島市安佐
30 日本モンキーセンターにおける環境エ
動物公園,
ンリッチメントの取り組み
園,7 多摩動物公園,8 京都大学野生動物研究
鏡味芳宏,荒木謙太,綿貫宏史朗,堀込亮意,
センター・日本学術振興会)
5
福山市立動物園,6 京都市動物
環境エンリッチメントに関する情報を交
木村直人,伊谷原一(公益財団法人日本モン
換・活用・発信する場をつくるため、2013
キーセンター)
年 4 月より
日本モンキーセンターでは、施設の老朽
化や飼育頭数の過多など動物福祉上の課題
SHAPE-Japan(http://www.enrichment-jp.o
があった。2014 年 4 月の公益財団法人化を
rg/)という団体を起ち上げ、活動を開始し
きっかけに、京都大学など関連機関と連携
た。世界中の飼育動物の飼育環境の改善に
34
取り組むために、1991 年にアメリカで設立
「最初は緊張したけど、だんだんガイドす
された The Shape of Enrichment の日本支
るのが楽しくなった」、
「(参加者対象を)6
部として活動している。これまではホーム
年生までにしないでほしい」などの感想も
ページでのエンリッチメント情報の発信、
あった。次にガイドしたい動物種は、ヘビ
行動観察のワークショップの開催、エンリ
が 17%と一番多かった。これらのアンケー
ッチメントに関する情報収集などをおこな
ト結果などをもとに、さらなる事業の質の
ってきた。ホームページでは国内の動物飼
向上に繋げていきたい。
育施設における環境エンリッチメントの事
例紹介、英語の文献や本部ニュースレター
33
を元にした最新のエンリッチメント情報、
育担当者との関係改善に伴う変化について
野生下での行動やフィールド情報などを定
中村智行,加藤洋子(千葉市動物公園)
期的に配信している。これまでの活動報告
ボルネオオランウータンオス個体と飼
千葉市動物公園では、ボルネオオランウ
と今後の展開について発表する。
ータン 2 個体(オス 1、メス 1)を飼育して
いる。オス個体と飼育担当者との関係改善
32 東山動物園での協働事業「東山こども
により、様々な変化があらわれたので報告
ガイド」
する。当該個体は 1998 年に来園し、現在に
1
1
2
2
1
2
至るまで担当者が複数回変更になった。
古賀光莉 ,久保統生 ,水野圭 ,櫻庭陽子 ,
2
井上立也 ,柴田軒吾 ,佐藤和哉 ,落合知美
2002 年 4 月にはオランウータン舎が新築さ
2
れ、それまで飼育されていた類人猿舎から
2
1
2
,堤創 ( 岐阜大学動物園学生くらぶ, NP
O法人東山動物園くらぶ)
移動し飼育環境が大きく変化した。またフ
「東山こどもガイド」の目的は、こどもた
ランジの発達もほぼ同時期にあった。この
ちが動物について正しく理解し、社会貢献
前後より、担当者との関係性が好ましくな
意識を向上させることである。事業は、3
い状態であった。2011 年に担当者の一部変
日間かけて開催し、小学校 4 から 6 年生、
更があり、2012 年秋ごろよりハズバンダリ
約 40 名が参加する。こどもたちは先生役
ートレーニングを開始した。2013 年夏ごろ
の大学生から担当動物について学び、動物
より、当該個体との接し方に一定のルール
園での実習をした後、来園者に対しその動
を設けた。それにより関係性が著しく改善
物のガイドをおこなう。多くの人にガイド
し、現在はトレーニングにより無麻酔での
を聞いてもらうため、シールラリーも同時
精液採取にも成功している。
に開催する。今年度は、9 月 23 日、28 日、
10 月 12 日に開催した。ガイドした動物は、
34 飼育チンパンジーの睡眠行動について
アジアゾウやナイルワニなど全 6 種で、各
加藤洋子(千葉市動物公園)
種 7 名のこどもが担当した。イベント終了
2012 年 3 月より、千葉市動物公園で飼育
後に、おこなったアンケートでは、参加者
されているチンパンジー3 個体(オス 1、メ
の 94%が「また参加したい」と回答した。
ス 2)を週 1 回程度、屋内展示室を使って夜
また、「今後もワニの所に行ってみたい」、
間同居させた。19:00~翌朝 7:00 までの 12
35
時間の行動をビデオカメラにて撮影し、行
圧痕の形成要因について、姿勢や運動様式と
動観察をおこなった。2012 年 3 月から 2014
の関連も踏まえて考察する。
年 3 月まで毎月 1 回の睡眠行動について分
析をおこなった。個体ごとに「睡眠」
「覚醒」
36
に行動を分類し、1 分ごとの瞬間サンプリ
久保統生 1,櫻庭陽子 2,井上立也 2,柴田軒吾
ングで記録した。睡眠行動については、総
2
睡眠時間、睡眠と覚醒のバウトについて分
動物園学生クラブ,2NPO 法人東山動物園く
析した。2012 年 5 月と 8 月には夜間同居時
らぶ)
NPO 法人東山動物園くらぶの紹介
,佐藤和哉 2,落合知美 2,堤創
2
(1 岐阜大学
に地震が発生し、また総睡眠時間が全体的
NPO 法人東山動物園くらぶとは、市民の環
に短い傾向を示していた。その後の睡眠行
境意識及び社会貢献意識を高め、動物園の
動の分析から、3 個体の睡眠の傾向につい
振興に寄与することを目的に、動物園と協
て報告する。
働で様々な活動をおこなっている団体であ
る。法人設立のきっかけは、2007 年に名古
35
屋青年会議所主催でおこなわれた「東山こ
大型類人猿にも妊娠出産痕があるの
か?~大型類人猿の骨盤の耳状面前溝の種
どもガイド」である。大学生と一緒に実行
差と性差~
したこの事業は成功し、翌年は有志が集ま
1
2 1
久世濃子 ,五十嵐由里子 ( 国立科学博物館,
り団体のもととなった。その後、参加者や
2
事業が増え、2011 年に法人格を取得した。
日本大学松戸歯学部)
ヒトでは、骨盤の仙腸関節耳状面前下部に
現在、毎年開催している定期事業としては、
溝状圧痕が見られることがあり、特に妊娠・出
「東山こどもガイド」(2007 年から)、「公
産した女性では、深く不規則な圧痕(妊娠出
開セミナー」(2010 年から)、「東山動物園
産痕)ができる。直立二足歩行に適応して骨
検定」(2012 年から)、「東山動物園寄席」
盤の形態が変化し、産道が狭くなった為にヒト
(2013 年から)である。いずれの事業にも大
は難産になった、と言われている。妊娠出産
学生スタッフの中で担当責任者を決め、動
痕もこうしたヒトの難産を反映した、ヒト経産女
物園との交渉等にも参加するようにしてい
性特有の形態的特徴であると考えられてきた。
る。2014 年度は、理事 5 名、学生スタッフ
しかし、ヒト以外での種で、耳状面前下部に圧
8 名が中心となり、事業の企画・運営をお
痕があるかどうかを確かめた報告はない。そ
こなっている。また、イベント当日のボラ
こで本研究では、博物館等に収蔵されていた
ンティアは岐阜大学の学生など約 15 名が
大型類人猿 3 属計 39 個体(ゴリラ:13、チンパ
参加する。今後も更なる発展を目指して活
ンジー:16、オランウータン:10)の耳状面前下
動したい。
部を観察し、圧痕の有無や、その形状を調べ
た。その結果、耳状面前下部に圧痕の有無に
37
は種差が見られ(圧痕があった個体;ゴリラ:6、
ナー」の紹介
チンパンジー:6、オランウータン:0)、特にゴリ
足立凌 1,野田龍之介 1,櫻庭陽子 2,井上立也
ラ雌雄で顕著な圧痕が観察された。発表では
2
NPO 法人東山動物園くらぶ「公開セミ
,柴田軒吾 2,佐藤和哉 2,落合知美 2,堤創 2 (1
36
岐阜大学 動物園学生くらぶ,2NPO 法人東山
そこで、設立経緯と活動について紹介する。
動物園くらぶ)
ZOO 学は、2010 年に同好会として発足した。
NPO 法人東山動物園くらぶでは、
「多くの
設立のきっかけは、東山動物園くらぶが主
市民が動物や動物園などに関心を持つきっ
催する「東山こどもガイド」事業に関わっ
かけをつくる」ことを目的に、2010 年から
たことである。2011 年 4 月にはサークルに
「公開セミナー」を開催している。1 年間
昇格した。本サークルの目的は、
「動物園で
に 3 回おこない、今年度の 6 月で計 12 回開
の環境教育、動物園による地域活性化及び
催している。名古屋市内の会場で 18 時から
動物園動物の飼育環境改善について主体的
約 2 時間、東山動物園の関係者を中心に動
に学び・考え・実行すること」である。普
物や動物園に関する講演をおこなう。過去
段のサークル活動は、毎週水曜日 13 から
には「人と動物の心のつなぎ方」、「夏の東
17 時に大学食堂に集まっておこなっている。
山動物園を 2 倍楽しむ」といったテーマが
NPO 法人が主催する「東山こどもガイド」
あった。参加者は回数を重ねるごとに増え
や「公開セミナー」、
「東山動物園検定」
、
「東
続ける傾向にあり、第 12 回では講演者が積
山動物園寄席」にも参加している。休暇を
極的に告知をされたことでスタッフを含め
利用して他県の動物園を訪問しており、今
て 100 名参加となった。名古屋市内を中心
年は、
「名古屋港水族館」や「豊橋総合動植
に東京や奈良からの参加もあった。この回
物公園」などを訪問した。SAGA シンポジウ
のアンケートでは「面白かった」という回
ムでは、2011 年から毎年ポスター発表をし
答が 98%、
「動物園関係に興味を持った」と
ている。今後も、これらの活動を継続する
いう回答が 90%あった。また、
「動物園の獣
とともに、サークル活動の場所をプレゼン
医師の話を聞きたい」、「同じ飼育員の話を
テーションが可能な場所に移し、動物園な
シリーズ化してほしい」などのリクエスト
どについての学習を進めることを計画して
があった。今後も参加者が動物園などにつ
いる。
いて関心を持つきっかけをつくるために、
39 ニシローランドゴリラのコドモの成長
内容を工夫していきたい。
に伴う、母親をはじめ他個体との関係変化
38 岐阜大学サークル「動物園学生くらぶ」
について(中間報告)
の紹介~NPO 法人東山動物園くらぶとの協
並木美砂子(帝京科学大学生命環境学部)
力~
上野動物園のニシローランドゴリラ「モ
1
1
2
2
モカ」は、2013 年 4 月に生まれ、母親のモ
1
モコ(31 歳)、父親のハオコ(21 歳)、姉の
水野圭 ,久保統生 ,櫻庭陽子 ,井上立也 ,
2
2
2
2
柴田軒吾 ,佐藤和哉 ,落合知美 ,堤創 (
2
岐阜大学動物園学生くらぶ, NPO 法人東山
コモモ(2009 年 11 月生まれ)、血縁のな
動物園くらぶ)
いメスのトト(36 歳)とナナ(32 歳)と同じ
岐阜大学のサークル「東山動物園学生く
群れで暮らしている。2013 年 10 月 18 日よ
らぶ(以下、ZOO 学)」は、NPO 法人「東山
り約 1 年間にわたり、モモカからみた、他
動物園くらぶ」と協力して活動している。
個体との「距離」を指標として、モモカの
37
群れ内での行動変化を追跡したので報告す
精子の活力 (++) の中央値は 65% (60-75%)
る。観察は、モモカが放飼場に出ている時
であり,良好な活性を示していたことから、
間に行われ、
「距離」は、
「接触」
「互いに手
同種において用手法による精液採取で良好
を伸ばせば届く距離」「5m以下」「5m以
な精液を採取できること、その精液性状に
上」の4基準で 60 秒毎の瞬間サンプリング
関する雄性学的知見、TTE を用いた遺伝子
によって記録され、特徴的な行動について
資源の保存が可能であることが示され
は記述を行った。総観察時間は、約 60 時間
た。 今後はこの凍結精液を用いて、当園の
であった。その結果、主な変化としては、
雌個体に人工授精を行うことを計画してい
モモカが生後 8 ヶ月を超える頃より自主的
る。
に母親から離れる場合が増え、母親による
連れ戻しが減り、姉との接触が増えた。生
41
後 15 ヶ月あたりからは、血縁のないメスた
係
ちへの自主的な接近が増加し、逆に母親が
徳山奈帆子(京都大学霊長類研究所社会生
連れ戻し行動はほとんどみられなくなった。
態部門)
野生ボノボの攻撃交渉における支援関
全てのオスがメスより優位であるチンパ
なお、ドラミングや引きずり行動なども観
察されたため、それらについても紹介する。
ンジーと比べ、ボノボではメスとオスが同
程度の順位関係を持つ。メス同士が密接な
40 用手法で採取したシロテテナガザル精
親和的関係を持ち、攻撃交渉の際に支援し
液の凍結保存と人工授精
高須正規 1,○森田菜摘2,上口卓志2,田島俊
一郎2,前田昌美1,村瀬哲磨1(1 岐阜大学応
用生物科学部・2(公財)横浜市緑の協会/金
沢動物園)
あうことが、メスの社会的地位の高さに結
金沢動物園で飼育しているシロテテナガ
討した。コンゴ民主共和国ルオー保護区に
ザルが陰茎刺激により射精することが認め
おいて、野生ボノボ Pe 集団を対象として観
られたため、その精液を採取し、精液性状
察を行った。攻撃交渉を全生起法で、グル
検査及び凍結を試みた。2013 年 3 月より計
ーミング行動をスキャンサンプリング法で
5 回採取した精液の量(g)、精子活性(%)、
記録した。527 回の攻撃交渉のうち 85 回で、
精子濃度(/ml)を算出し、TTE で希釈し 2 時
2 個体以上で協力して他個体を攻撃する行
間かけて 4℃に冷却した後、グリセリンを
動が見られた。そのうち 6 回がオス同士、
加えた等量の二次希釈液を 1 時間かけて添
41 回がメス同士の支援行動だった。グルー
加し、投げ込み法にて液体窒素で凍結した。
ミングをよく行うペアが支援をよくし合う
採取した射出精液量の中央値、精子濃度の
という関係は見られなかったが、年上のメ
中央値、総精子数の中央値は、それぞれ
スが年下のメスを支援する傾向が見られた。
びついていると考えられている。そこで、
メス同士のグルーミング関係が、攻撃交渉
の際の支援関係と相関しているかどうか検
9
0.19g (0.09-0.26 g)、1.38×10 sperms/ml
42 フラミンゴ繁殖大作戦!
(1.20-1.53 × 109 sperms/ml) 、 0.26 × 109
9
sperms (0.11-0.40×10 sperms) であった。
38
川添久美子,村山正巳,會澤喜久男(日立市
44
かみね動物園)
チリーフラミンゴ Phoenicopterus
チンパンジーの健康管理を目的とした
ハズバンダリートレーニングの取り組みに
chilensis は南米チリやアルゼンチンの湖
ついて
沼・海岸に群れで生息する鳥である。全国
大栗靖代,山内直朗(日立市かみね動物園)
各地の動物園・水族館で飼育されており繁
かみね動物園では 2014 年の 5 月からメス
殖も頻繁に行われているが、当園では 2011
のヨウ推定 41 歳のチンパンジーに対し健
年~2013 年の 3 年間産卵が一切見られなか
康管理を目的としたハズバンダリートレー
った。飼育個体の老齢化なども懸念された
ニングを始めた。これまでは挨拶やコミュ
ためそれまで行っていた来園者からのエサ
ニケーションの一環として手を出してもら
やりの中止、盛り土、巣側からの観覧中止、
ったり、性皮の確認をするためお尻を向け
繁殖用餌の使用、擬卵の使用など、フラミ
てもらったりはしていたが、しっかりとし
ンゴの繁殖に向けて様々なことを試し、
たトレーニングはしてこなかった。
2014 年は産卵・雛の孵化に成功。現在 11
健康面や安全性、不要なストレスに配慮
羽(内 2 羽は人工育雛による)が育ってい
し飼育管理を円滑に行うためにも必要なも
る。
のとされ、まずはこちらの指示で体の部位
念願の雛誕生までの紆余曲折、新たに見
をだしてもらうことを進めている。現在ま
えてきた今後の課題、そして現在の雛たち
での状況を紹介する。
の様子について発表する。
45 チンパンジーのゴウ
43
チンパンジーの森の変化と植樹祭の様
お母さんと一緒
に群れに帰るまで
子
山内直朗,大栗靖代(日立市かみね動物園)
大栗靖代,山内直朗(日立市かみね動物園)
2011 年 2 月 11 日、かみね動物園で 19 年
かみね動物園では 2008 年に新しくなっ
ぶりとなるチンパンジーの子供が誕生した。
たチンパンジー達の運動場、
「チンパンジー
子供はメスでゴウと名付けた。母親のヨウ
の森」において名前の通りの緑豊かな小さ
は、出産時 38 才、前飼育園で 3 回出産して
な森を目指し植樹祭を始めた。市民の方々
いたが、いずれも育児をすることはなく、
に好きな樹木を持ってきてもらい直接運動
子供は人工哺育となっていた。そのため事
場に植えてもらうイベントとし、毎年 1 回
前育児練習として、親子の映像を見せるこ
これまでに 6 回行っている。自分たちの植
ととヌイグルミを抱く練習を行い、介添え
えた木でチンパンジー達が遊んだり、食べ
哺育ができるように直接飼育でスキンシッ
たり、運動場が緑豊かになっていく姿を一
プをはかった。しかし出産時、ヨウはゴウ
緒に観察することで、市民の方々に動物た
を抱くことはおろか触ることもしなかった
ちのエンリッチメントについても考えても
ため人工哺育をすることとなる。出産当日
らう機会になっている。
から介添えで子供を抱くことを促し、3 週
今回はこれまでの運動場の変化、市民た
間がたったある日、突然ゴウを自分の胸に
ちの植樹の様子を紹介する。
受入れ、抱いてくれた。それから約 1 年間
39
かけて母子間の関係づくりを行い、1 才 4
のニシゴリラのアキ。
ヶ月で他の大人たちの暮らす群れに復帰す
愛嬌のあるかわいらしい顔つきとのんび
ることができた。現在、ゴウは 3 才 9 ヶ月
り、マイペース、優しい性格で多くの市民、
になり、かわいい盛りのおてんば娘、元気
来園者に愛されていた。良い意味でしたた
に 2 才 7 ヶ月になる弟と毎日遊んでいる。
かな性格。嫌いな食べ物も少なく、食べる
生まれてから今に至るまでの様子を紹介す
ことと寝ることが大好きだった。肥満傾向
る。
にあったため、ダイエットに取り組んでい
た。
46
チンパンジーのリョウマ
お母さんと
幼少期から 2 才年下のオスのダイスケと
一緒に群れに帰るまで
一緒に暮らしてきた。子どもの頃は仲の良
山内直朗,大栗靖代(日立市かみね動物園)
い 2 頭で、繁殖を期待していたが、大人に
前年に続き 2012 年 4 月 27 日、チンパン
なったダイスケは、異性であるアキへの接
ジーのオスの子供、リョウマが誕生した。
し方の戸惑いや環境そのもののストレスか
母親のマツコは、2008 年に 30 才で来園し、
らと察する攻撃行動が目立つようになり、
今回 34 才にして初めての出産だった。これ
2000 年から 2005 年まで別居生活をするこ
は、国内最高齢初産記録となった。マツコ
とになる。原因をもっとよく考察しての対
は出産時、リョウマをしっかり抱いていた
策を取るべきだったと反省をしている。
が、リョウマの体があまりにも小さく(950
2005 年から環境改善、エンリッチメントに
g)、子供の生命保護のために人工哺育をす
取り組み、再同居をする事になり、微妙な
ることになった。10 ヶ月でマツコの元に返
距離感はあるものの平穏な日々を送ってい
し、ちょうど 1 才で群れ復帰することがで
た。そんな中、上野動物園への移籍話が決
きた。人工哺育期間中、マツコは母親とし
まり、2008 年夏前の移動実施に向けて手続
ての認識と愛情を持ち続けてくれて、安心
きを行っていた最中の突然の訃報を迎えて
してスムーズに育児の引き継ぎをすること
しまった。
ができた。
かみね動物園で暮らした彼女の 31 年の
現在、リョウマは 2 才 7 ヶ月になり、1 才
生涯を振り返り紹介します。
年上のお姉ちゃんと元気に毎日遊びまわり、
私たちに微笑ましい姿をみせてくれている。
48 ニシゴリラのダイスケの紹介
生まれてから今に至るまでの様子を紹介す
山内直朗,上西聡子(日立市かみね動物園)
る。
オスのニシゴリラのダイスケは、1980 年
5 月に推定 1 歳でかみね動物園に来園し、
47 ニシゴリラのアキの紹介
同年 9 月に来園したアキ(推定 3 歳)と翌
山内直朗,上西聡子(日立市かみね動物園)
年から 2 頭は同居生活を開始する。ダイス
1980 年 9 月に推定 3 歳で来園し、2008 年
ケが幼かったため、いつも 2 才年上のお姉
5 月 28 日に亡くなるまで一度も他園に移籍
ちゃんのアキにべったりくっついている状
することなくかみね動物園で暮らしたメス
態だった。とても仲が良く、よく遊び、一
40
緒に接近していることが多かった 2 頭だっ
た。10 才前後の頃は、アキを異性として意
識するようになり、性的関心を感じる行動
が見られるようになる。しかし、交尾行動
にはいたる事はなかった。それ以降、有り
余る体力、どう接して良いかわからぬ事、
環境によるストレスからと思われる攻撃行
動が目立つようになり、2000 年から 2005
年まで別居生活をすることになる。2005 年
から環境改善、エンリッチメントに取り組
み、再同居をする事になり、微妙な距離感
はあるものの平穏な日々を送っていた。そ
んな中のダイスケが 29 才のとき、アキが急
性心不全により突然死亡する。一人暮らし
になったダイスケの精神的ケアに気をつけ
ていたが、2012 年 6 月 10 日、心臓からく
る循環障害により亡くなった。
若いころは、筋肉に張りがある逆三角形
のきれいな体系とハンサムな顔立ち、アク
ティブでドラミングや物投げなどの自己表
現が豊かなゴリラで多くのゴリラファンか
ら愛されてきた。
かみね動物園でのゴリラ飼育が終了した
ことになるが、彼の 33 年の生涯を振り返り
紹介する。
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