財団法人 国際金融情報センター EUマンスリーモニター 2006年3月20日 2006年3月 Ⅱ.金融機関の買収・提携動向 (EUにおける金融機関の最近の動向を現地報道を中心に紹介します) 1.墺ライファイゼン、ロシアのインペクス・バンク買収 (2/1, Raiffeisen Int’l) オーストリアのライファイゼン・インターナショナルは2月1日、ロシアのインペクス・バンク(Impex bank)を5億5千万ドルにて完全買収すると発表した。強力な業務基盤をすでに確立した中東欧に続 き、成長期待が高いロシアへの進出を本格化する。ロシアの銀行市場は急成長の途上にあり、05年1 月から10月までの間に資産総額は39%増大して2,630億ユーロとなった。資産規模の対GDP比率 は、EU新規加盟10カ国の合計が78.1%であるのに対して、ロシアは42.5%にすぎない。とくに成 長著しい部門は、個人および中小企業金融である。また、同国は人口1億4千万人に対して銀行は1 千5百行以上あるが、総資産の46.9%は大手5行に集中している。昨年の外資による進出は、4月 に伊バンカ・インテーザがKMB Bankの株式75%を9千万ドルで、12月にはドイツ銀行がユナイテ ッド・フィナンシャル・グループ(UFG)を完全買収している。 ライファイゼン・インターナショナルは、100%子会社の ZAO Raiffeisenbank Austria が97年からロシ アで営業を開始しており、インペクスと合わせると同国では第7の大手、外資系銀行としては最大とな る。インペクスは資産規模12億ユーロのリテール行で、支店・事務所数190、消費者金融窓口350を 有する(05年6月末)。一方、ZAO Raiffeisenbank Austria は総資産30億ユーロ、23の店舗を有する ロシア第10位の大手である。リテールでは顧客数は20万超、貸出残高5億ドル超、預金残高10億ド ルとなっている。デビットおよびクレジット・カードの発行数は25万枚。ライファイゼンは、広範にリテー ルのネットワークをもつインペクスを買収したことにより、全国的な展開を加速する。地域別には(05年 6月末)、ロシアを含むCISがライファイゼン・インターナショナルの資産に占める比率は14%と大きく はないが、税引き前利益は前年を77%上回り、ROEは32.2%と最も収益性が高くなっている。 ライファイゼン・インターナショナルはウィーンを本拠地とするRZB(Raiffeisen Zentralbank Osterreich)グループの中東欧専門部門である。中東欧・バルカン 諸国のほかロシア、ウクライナなど旧ソ連も含めた15カ国において、16の子会社 を傘下に収めている。うち7カ国では上位3以内、4カ国では首位とプレゼンスは 大きい。同地域における資産規模はウニクレディト/HVB(伊・独、合併)、KBC、 (ベルギー)、Erste(墺)に次いで4番目に大きい(04年末)。店舗数は2千4百、従 業員は4万2千人。インペクスは2000年以降9件目の買収となる。昨年はウクラ <参考>中東欧、CIS におけるプレゼンス Unicredit 27.0 HVB 33.6 合計 60.6 KBC 42.2 Erste Bank 38.6 Raiffeisen Int'l 34.9 (出所)Euromoney 06年1月号 (注)資産規模、十億ドル イナで Bank Aval を買収していた。05年6月末の純利益は1億8千6百万ユーロ と前年同期比92%増とほぼ倍増した。 <表1>Raiffeisen International、地域別概要 税引き前利益 (前年比%) (シェア %) CE 122.7 SEE 88.1 CIS 62.5 合計 273.3 (出所)Raiffeisen Int'l (+34.2) (+91.5) (+76.6) (+58.1) (45) (32) (23) (100) 資産額 16,373 11,929 4,578 32,880 (金額単位:百万ユーロ、05年6月末) (前年比%) (シェア %) 経費利益率% ROE % (+25.4) (+41.3) (+50.0) (+33.9) (50) (36) (14) (100) 64.4 62.4 42.8 59.9 19.9 22.6 32.2 22.8 (注)CE:チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、スロベニア SEE:アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、コソボ、ルーマニア、セルビア・モンテネグロ CIS:ロシア、ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシ ©財団法人国際金融情報センター 1 2006年3月20日 2.インテーザ、ウクライナ第4位行を買収 (2/14, バンカ・インテーザ) (1)海外部門の中核は中東欧 伊バンカ・インテーザは2月14日、ウクライナのウクルソツバンク(Ukrsotsbank)を買収すると発表した。 株式の88.1%を11億6,100万ドル相当にて取得し、手続きは9月までに完了する。インテーザは05 年~07年の事業計画において、8千万人の人口を擁する中欧・南東欧での選択的買収を明示して おり、今回の買収はその戦略の一環である。ウクルソツバンクは資産規模13億8百万ドル(04年末)の ウクライナ第4の大手である。全国に527店舗を展開し、法人顧客6万、リテール顧客60万をもつ。預 金残高は10億8千万ドル、貸出残高は7億2千万ドル。一方のインテーザは資産規模2,078億ユー ロのイタリア第3の大手行である。国外では中東欧に焦点を絞って展開し、05年の「海外子会社部 門」の税引き前利益は3億7千万ユーロと、小規模であるものの前年比45%増と急伸している。地域 的展開では、クロアチア、スロバキア、セルビア・モンテネグロでは第2位、ハンガリーでは第4位となっ ているほか、ポーランド、チェコ、スロベニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ロシアにも進出している。ウク ルソツをめぐってはハンガリー最大手OTPも買収提案を出していた。 (2)外資の参入相次ぐウクライナ:BNPパリバ、ライファイゼン ウクライナ共和国(首都キエフ)は人口4千7百万人と、欧州深東部8カ国 1ではロシアに次ぐ大国で ある。経済成長率は04年には12.1%と高成長を遂げ、05年~08年も減速するとはいえ年5~6% の成長が見込まれている。高水準だったインフレ率も急降下が予想されるなど、経済は安定に向かい つつある。銀行部門は急成長の途上にあるものの未発達で、GDPに占める総資産規模は39%にす ぎず、ユーロ圏の202%はもとより、中欧主要5カ国の平均85%からも大きく遅れている。163の認可 銀行の時価総額は44億ドルと、中欧の大手1行程度の水準にとどまっている。総資産の38%は上位 5行2に、収益の55%は上位10行に集中している。近年は預貸残高の伸びが急速で、2000年から 04年には年平均で貸出残高が35%、預金残高は44%の勢いで伸びている。また、部門別には、 1世帯当たりの借入れ額が64ドルと低水準なように、リテールの成長がとくに期待できる。 <表1>欧州深東部の概要 人 口 ロシア ウクライナ カザフスタン ベラルーシ アゼルバイジャン その他 合 計 中欧(CE) 南東欧(SEE) GDP 1人当りGDP 銀行部門 (百万人) (十億ドル) (ドル) 総資産/GDP比% 143 47 15 10 8 11 234 66 44 740 83 53 23 12 15 926 765 181 5160 1770 3490 2338 1420 1394 3957 11606 4066 43 39 48 30 12 31 42 85 58 (注)CE:ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、スロベニア SEE:ブルガリア、クロアチア、ルーマニア、セルビア (出所)BNPパリバ 1 ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、グルジア、カザフスタン、アルメニア、アゼルバイジャン: 総人口2億3千万人。GDP合計9,200億ドル。 2 順に Aval/Raiffeisen, PrivatBank, Prominvestbank, Ukrsotsbank, UkrSibbank ©財団法人国際金融情報センター 2 2006年3月20日 <表2>ウクライナ:低い銀行の浸透度 ウクライナ ロシア 資産/GDP 39 43 融資残高/GDP 29 27 23 16 預金残高/GDP (単位:%) CE 85 36 51 SEE 58 31 37 ユーロ圏 202 110 90 (出所)BNPパリバ 西欧大手銀行は、中欧主要国の銀行民営化に伴う再編がほぼ一巡したことから、ウクライナを次の 有望市場として参入を開始した。昨年は仏BNPパリバと墺ライファイゼンが進出している。仏BNPパ リバは12月に UkrSibbank の株式51%の取得を発表した。同行は資産規模14億ドル、融資残高9 億5千万ドル、預金残高8億2千万ドルの国内第5の大手で、100を越える都市に763の店舗と1万 人の従業員を擁する。BNPパリバはすでにチェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、ルーマニア、 ロシアに進出しているが、とくにロシアについては今後6年間で150店舗を開設することを明らかにし ている。一方、ライファイゼンは10月にBank Avalの買収を完了している。株式の93.5%を10億2 千8百万ドルで取得した。Avalは1千4百の支店と3百万超の顧客を擁する同国第2の大手で、これ に98年から営業を開始している Raiffeisenbank Ukraine を合わせると、ウクライナの銀行部門の総資 産の11.5%を占める最大手となる。 3.フランスで国内大型合併の動き (3/12、ケス・デパルニュ、バンク・ポピュレール等) (1)3年ぶりの大型国内再編 先月、BNPパリバがイタリアの銀行BNLを90億ユーロにて買収すると発表したばかりのフランスで、 今度は国内の大型合併へ向けての動きが出てきた。4大相互銀行のうちのケス・デパルニュ(Caisse d’Epargne、国民貯蓄金庫)とバンク・ポピュレール(国民銀行)は3月12日、特定部門の合併へ向け て交渉中であることを確認した。6月1までに詳細をまとめ、年末までの合併を目指している。両行は リテールを中核とするが、発表によると今回の計画では法人金融、投資銀行、資産管理、住宅金融 を中心に合併し、新会社ナティクシス(Natixis)を発足させる。両グループ傘下の主としてIxis、Nate xisが統合の対象となる。仏最大生保のCNPは統合に含まれないもようである。新会社の株式は最 低でも25%をパリ証券取引所に新規公開し、時価総額は200億ユーロ超になると見込まれる。ケス・ デパルニュとポピュレールの新会社に対する保有分はそれぞれ34%、残りの7%程度をケス・デパ ルニュの株式35%を保有する国有CDC(預金供託金庫)が取得する。新会社の純利益の2分の1を 株主に配当として還元することも提案している。 合併が成立すれば、2003年のクレディ・アグリコルによるクレ ディ・リヨネ買収(160億ユーロ)以来の国内大型再編となる。新 会社ナティクシスの市場シェアは20%超となり、クレディ・アグリコ ルに次ぐ大手金融機関が誕生する。店舗数でも7千5百とバン ク・ポスタル(1万7千)、クレディ・アグリコル(9千)に続き、2千5百 程度のBNPパリバやソシエテ・ジェネラルを大きく引き離す。新 会社の支店網はこれまでどおり別々に営業を続ける。 ©財団法人国際金融情報センター <表1>2行の概要 ケス・ デパルニュ (04年末) バンク・ ポピュレール (05年末) 97.4 82.4 純銀行収入 営業粗利益 26.0 28.5 純利益 16.6 15.2 従業員数 55,000人 45,500人 出資者数 300万人 300万人 店舗数 4,700 2,800 (注)金額単位:億ユーロ (出所)ケス・デパルニュ、バンク・ポピュレール 3 2006年3月20日 (2)両行の概要:非課税預金を扱うケス・デパルニュ ケス・デパルニュは、ナポレオンがワーテルローの戦いで敗北した3年後の1818年にパリで誕生し た。1999年の民営化を経て、03年~04年にかけては国有銀行CDC(預金供託金庫)傘下の投資 銀行CDC Ixisと、ケス・デパルニュとCDCが合弁で設立したユーリアを合併させ、吸収している。 04年末のデータでは、資産規模が5,440億ユーロ、貸出残高および預金残高がそれぞれ1,520 億ユーロ、2,960億ユーロ、純利益は17億ユーロとなっている。会員数3百万人、支店数4千7百、 従業員5万5千人を擁する。合併の対象となるのは、傘下のIxisの法人・投資銀行とアセット・マネジ メントのユニット、Credit Foncier(住宅金融)、La Compagnie1818(富裕層向け)等となっている。 ケス・デパルニュは全国に広範な店舗網をもつリテール中心の銀行であるが、非課税預金「リブレ A」の取り扱いを認可されている点が特徴である。リブレAは国民の大半が保有する人気商品で、ケ ス・デパルニュ以外で同預金を扱えるのは、1月に郵政公社から独立したバンク・ポスタルだけである。 限度枠は15,300ユーロ(約215万円)で、現行金利は2.25%。ケス・デパルニュは口座数2,450 万ユーロ、預金残高は670億ユーロを保有し、バンク・ポスタルは2,160万口座、残高は475億ユー ロとなっている。リブレAを巡っては、BNPパリバ、クレディ・アグリコルなど大手行が3月6日、非課税 預金を2金融機関だけが取り扱うのは不公平だとする不服申し立てを提出し、開放を迫っている。 一方のバンク・ポピュレールは、第3共和政下の1878年に設立された。05年の純利益は15億ユ ーロ、会員数は約3百万人、店舗数2千8百、従業員数4万5千5百人となっている。今回の合併の 中心は傘下の法人金融・投資銀行ナテクシス(Natexis Banques Populaires)で、海外にも117の店舗 や事務所を有する。 4.ポルトガルでも国内再編 (3/13, MillenniumBCP、BPI、FT等) (1)ミレニアムBCP、中堅銀行へ買収提案 フランスで相互銀行が合併交渉を明らかにした翌日の3月13日、ポルトガルでも最大手ミレニアム BCP(Millennium BCP)が国内第5位のBPI銀行(Banco BPI)に買収提案をかけたことを発表した。 BPI1株当り5.7ユーロの現金との交換で、10日の終値に25%、過去3ヶ月間の平均株価に32% のプレミアムとなる。MillenniumBCPはBPIの株式の50%プラス1株の取得を目指す。買収総額は 43億ユーロ相当。MillenniumBCPは昨年末にルーマニア商業銀行の買収に失敗した後、中核市場 をポルトガル、ポーランド、ギリシアに絞るとコメントしていた。仮に買収が成立すれば、市場シェア 30%超の巨大銀行が誕生する。ポルトガルにおける銀行再編の第2波は、スペインからの攻勢にな るとの予想が高かったが、MillenniumBCPによるナショナル・チャンピョンの形成は外資参入に対す る防波堤とみなされている。 (2)対抗買収の可能性も しかし、この買収実現については早くも不透明になっている。BPIの取締役会は3月15日、提案を 敵対的買収として認識するとの声明を発表した。また、同取締役会は MillenniumBCPの買収提案に ©財団法人国際金融情報センター 4 2006年3月20日 先立つ3月10日には、議決権を行使できる単一株主の出資比率を12.5%から17.5%に引き上げ る案を提出し、4月20日の株主総会に諮ると発表している。これは敵対的買収を回避するための措 置とされる。BPIの株主構成をみると、Banco Itau(伯)が16.1%、La Caixa(西)が16%、アリアンツ (独)が8.8%、サンタンデル(西)が5.6%となっており、MillenniumBCPは3.9%とこれに続く。2 大株主やサンタンデルが対抗買収に出る可能性も指摘されている。サンタンデルは2000年にポル トガルの Totta Group を買収し、すでに国内12%のシェアをもつ。同じくスペインのBBVAも2月にイ タリアで中堅行BNLを仏BNPパリバに奪われていることから、ポルトガルでのシェア拡大に動く可能 性がある。さらに、MillenniumBCPとBPIの合併が成立すると、複数の事業分野において市場シェア が35%近辺となるため、競争上の問題が発生するおそれがある。 <表1>2行の概要:合併で市場シェアは強大に ミレニアムBCP BPI 顧客数 300万 140万 (人) 店舗数(国内) 909 604 総資産 (億ユーロ) 769 301 貸出残高 529 210 (22) (9) (市場シェア) (%) 預金残高 564 222 (25) (10) (市場シェア) (%) 従業員数 11,500 7,000 (人) 自己資本比率 (tier1, %) 5.3 5.9 株主資本 42 15 (億ユーロ) 時価総額 (億ユーロ) 91 36 合 計 440万 1,513 1,070 739 (31) 785 (35) 18,500 5.5 57 127 <表2>ポルトガルの5大銀行(単位:億ドル) 銀 行 名 資産規模 1 Millennium BCP 976 2 Caixa Geral de Depositos 957 3 Banco Espirito Santo 625 4 Banco Santander Totta(西) 398 5 Banco BPI 327 (出所)The Banker誌 2005/7 (出所)Millennium BCP ©財団法人国際金融情報センター このレポートは、財団法人国際金融情報センターが信頼できると思われる情報ソースから入手した情報・データをもとに作成した ものですが、財団法人国際金融情報センターは、本レポートに記載された情報の正確性・安全性を保証するものではなく、万が 一、本レポートに記載された情報に基づいて会員の皆さまに何らかの不利益をもたらすようなことがあっても一切の責任を負いま せん。本レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。 なお、当方の都合にて本レポートの全部または一部を予告なしに変更することがありますので、あらかじめご了承ください。また、 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