第5回 全国小水力発電サミット 第3分科会 事例発表 住民主体の小水力発電事業へのチャレンジ 長野県飯田市 市民協働環境部 環境モデル都市推進課 塚平賢志 1 飯田市の概要 ⻑野県南部、3千メートル級の南アルプスと 中央アルプスが東⻄に聳え、中央を天⻯川が 南下する伊那谷に位置する飯田市。 鎌倉期の文献では、共同作業で農業をする 「結い田」と表記され、その名が今日に至る。 安土桃山期には、小京都と呼ばれる今日の城 下町の街区の原型が形成され、今日に至る。 「結い」による協働性を⼤切に育みつつ、特⾊ ある山の暮らし、⾥の暮らし、街の暮らしが営 まれている。 古来より伝わる特⾊ある⺠俗文化が、今も⽣ 活の中に息づく街である。 ○面 積 658.73㎞2 ○人 口(H26.3.31) 104,954人 ○世帯数(H26.3.31) 39,108世帯 ○標高(市役所) 499.02m ○日照時間(H25年) 2,240.9時間 ○森林面積(割合) 全市域の84.6% 2 日本初の「電気利用組合」による市民発電事業 明治32年、飯田町に電燈が灯る 飯田電灯株式会社が運営する出力75kWの 水力発電所によって、飯田町(当時)に電気 供給される。 伊那電気鉄道による電気事業 飯田線(天竜峡~辰野間)を開通させた 伊那電気鉄道(当時)が、飯田の電力供給事業 に参入。 大正3年から始まった電気の地産地消 長野県下伊那郡竜丘村(現 飯田市竜丘地区)に、日本で初めての電気利用組合が住民の力で 設立され、約30kWの小水力発電により村内に電気を供給した。 電力の国家管理が行われる昭和10年代前半まで、飯田各地で電気利用組合が設立された。 歴史が語る再生可能エネルギーを自らの力で利用してきた地域 3 選定された環境モデル都市 市民参加による自然エネルギー導入、低炭素街づくり 4 飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例 (H25年4月~) 目的 市域の豊富な再エネ資源と地域の「結い」を活用して低炭素で活力ある地域づくりを推進 ⇒ 再エネによる電気の全量固定価格買取制度(FIT)を、市民が公益的に利活用できる制度を構築 ⇒ 再エネ資源の活用と、「市民」、「公共的団体」、「市行政」の関係性と役割を明確化 地域環境権 再エネ資源は市民の総有財産。そこから生まれるエネルギーは、 市民が優先的に活用でき、自ら地域づくりをしていく権利がある。 市内で活動する公共的団体が、再エネ事業を通じて行う地域づくり事業を「公民協働事業」 に位置付けて、飯田市が、事業の信用補完、基金無利子融資、助言等の支援 事業の信用補完 市 長 答申 市の支援組織 金融機関 投資家 地域の 課題解決! 基金を無利子貸付 事業化助言 融資 投資 住民主体の 再エネ事業 売電収益を 公益的再投資 5 上村地区住民による小水力発電事業へのチャレンジ 国道152号線 小沢川(こざわがわ) 導水管 ・水路方式(総落差90m)により 最大180kW程度の発電を見込む。 ・上村地区自治会が発電会社を立ち 上げて運営。 ・売電収益を活用し、住民主体で 地域課題を解決。地域再生へ! 発電所 新程橋 取水口 上村地区 人口・・・484人 発電イメージ 世帯数・・214戸 高齢化率・・51.2% 6 上村地区住民による小水力発電事業へのチャレンジ 平成21年度 小水力発電による市民共同発電実現可能性調査事業(国庫補助) 天竜川西岸上流部、天竜川西岸段丘部、天竜川東岸傾斜地、遠山川・上村川流域の4モデルの可能性調査 平成22年度 緑の分権改革推進事業(国庫補助) 上村小沢川・南原大井における地理的基礎調査、事業可能性調査ほか 平成23年度 小水力発電可能性調査 市内の準用河川、普通河川の小水力発電可能性調査(129か所) 平成24年度 農山漁村6次産業化対策事業(国庫補助) 上村の小水力発電を検討する会の開催、地域エネルギービジネスコーディネート組織検討会の開催 自然エネルギー自給コミュニティー創出支援事業(県補助) 地域エネルギービジネスコーディネート組織タスクフォースの設置による政策支援の検討、建設費用の概算、導水管ルート案 の検討ほか 7 上村地区住民による小水力発電事業へのチャレンジ 平成25年度 農山漁村活性化再生可能エネルギー事業化推進事業(国庫補助) 上村小水力発電検討協議会の開催、地域住民による先進地視察等による住民合意形成 分散型エネルギーインフラプロジェクト導入可能性調査(国庫補助) 小水力発電を含むインフラ整備に関する総合的な検討 水水力コーディネーターの雇用(県補助) 電力会社OB(水力発電専門家)の雇用による技術検討に関する支援 平成26年度 農山漁村6次産業化対策事業 (国庫補助) 測量、地質調査、発電所の基礎的設計、建設工事概算検討ほか(地元による本発注に備えた各種検討) 自然エネルギー地域発電推進事業(県補助) 事業主体設計、設立検討、売電収益の公共再投資に関する検討ほか 水水力コーディネーターの雇用 技術検討や設備認定、接続協議に向けた実務的支援 8 上村地区住民による小水力発電事業へのチャレンジ 上村地域の推進体制 【上村小水力発電検討協議会】 中核作業部会の成果をもとに、上村まちづくり委員会と連携を取り、地 域全体の事業化合意形成を推進する。 【中核作業部会】 ○10名により構成。 ○事業主体設立、事業化最終調査や事業化の実現に向けた取り組みが 地区内で円滑に行われるよう、上村地区の関係者との調整を図る。 ○個別部会で取り組む事業化推進に向けた成果を吸い上げ、事業化に 向けて上村小水力検討協議会へ上申し、合意形成を図る。 9 上村地区住民による小水力発電事業へのチャレンジ 【3役リーダー部会】 事業主体の担い手として、各種原案を意思決定し、株式会社が行う発電事業の資金調 達、関係行政機関との交渉を行う。 ○流水占用許可、保安林作業許可、国道横断占用許可等、県の関係機関との協議(交渉には、飯田市環境モデル都市推 進課職員が窓口として支援) ○事業資金調達に係る金融機関との協議 ○発電設備認定にかかる経済産業省関東経済局、中部電力との協議 ○小沢川小水力発電事業に関する委員会委員、飯田市の支援を受けて、協議の主体となる。 【発電事業主体設立実務部会】 事業主体設立に向けた実務について、再エネ審査会の法律専門委員の指導助言等を受 けながら、発電事業を行う株式会社の設立実務を担う。 ○法律専門委員のアドバイスにより、発電事業を行う株式会社を設立するための勉強会、検討会等(毎週火曜日に定例部 会を開催) ○小水力コーディネーターによる設備認定取得に向けたレクチャーを受け、原案決定 ○地元推進役リーダー3名と、飯田市環境モデル都市推進課、上村自治振興センター(まちづくり委員会の事務局)で構成 ○部会の研究費用は県の自然エネルギー発電補助金を活用。 【売電収益活用検討部会】 発電事業の売電収益を上村地区全体の地域づくりにつなげていく活用先、活用手法、活 用体制について検討する。 ○上村小水力発電検討協議会より4~5名程度選出し構成員とする。 ○まちづくり専門委員のコーディネートにより、売電収益の活用について検討する。 ○部会のコーディネート費用は県の自然エネルギー発電補助金を活用。 10 その他事例 野池地区におけるマイクロ小水力発電実証事業 飯田市千代地区にある野池キャンプ場 のバーベキューハウスに電気を灯して います。 取水口での作業風景 安定した電力供給への課題 1 取水口でのゴミ 2 導水パイプのつまり 3 発電機への水流の当たり方 落差測定風景 電球6個点灯 (約150W程度) 発電機と水車 11 その他事例 新たな環境ビジネスの創出 ~小水力発電機~ NESUC IIDA(地元企業による開 発グループ)による開発(科学技術振 興機構からの依頼) 飯田市内の農業用水での実証実験 のほか、大学、企業等に納品し、実 証実験を継続中。 ○定格出力 2.4kW(最大3kW) ○定格電圧 AC200V ○相 数 3相 ○定格回転数 1,000rpm ○動作温度 0~30℃ ○使用環境 水中及び屋内外 ○発電機寸法 140φ 約600ミリ 将来的には一般に普及させ、手軽に 小規模分散型発電を可能に! 12 その他事例 農業用水(伊賀良井)取り入れ口付近での実証事業 1kW程度の安 定した電力を得 た。 プロペラの改良などにより、さらに 電力が見込まれる。 13 まとめ 住民主体による小水力発電事業で目指すもの 売電収益を住民主体の地域振興事業に再投資することで、地 域固有の再生可能エネルギー資源を地域振興に直接活用する ことが可能 地域の自然資源を財貨に変換して地域内で循環 一定の雇用創出も期待 (固定価格買取制度のメリットを地域全体で享受) 利益配分、リスク管理を地域住民の意思で決定し、実行するこ とで、住民自治力がより強化される。(社会関係資本の強化) 分権型エネルギー自治の実現 14
© Copyright 2024 Paperzz