機構学 資料

機構学
資料
2009 年度
長谷和徳
まえがき
本書は主に大学での機構学の講義で教科書に用いられることを念頭において
執筆したものである.きちんと調べたわけではないが,近年では大学の機械工
学関係の学科でも機構学が必修科目や主要科目から外され,独立した科目にな
っていない大学も多いと聞く.それは,近年の電子制御などのメカトロニクス
が全盛の時代において,機構学が古い学問という印象を持たれているからであ
ろう.かく言う著者自身も自分の専門研究分野はと言えば,純粋な機構学とは
言えない.具体的には生体力学,バイオメカニクスと呼ばれる人間や生物を対
象とした分野であり,機構学のみならず,純粋な機械すら主たる対象とはして
いな い状 態で ある .
しかし,その一方で,企業などのいわゆる機械設計の現場サイドの方のお話
を伺うと,大学では小難しい数式や流行りの学問を学んでくるのではなく,機
械工学の本当の基礎的なところをしっかりと身につけてきてほしい,というご
意見 もよ く聞 く.
自分自身の大学講義においても,このように流行りや学問的な新しさ,見た
目の 面白 さを 強調 すべ きな のか ,そ れ と も 地 味 で 少 し 古 臭 い 印 象 が あ る け れ ど ,
将来機械設計の第一線で確実に役に立ちそうな部分を強調すべきなのか,とい
う漠然とした悩みがあった.そして,この悩みに答えてくれるような適当な教
科書はないかと,少し調べてはみたものの,なかなかそのような教科書を見つ
けることができなかった.それならば,自分達の思うような教科書を作ってし
まえ,と無謀にも考えた結果,執筆したのが本書である.
面白さ,新しさをとるか,地味で実直な部分をとるか,という前述の問い答
えとして,本書ではその両方を学ぶ,いうことした.すなわち,少し地味だが
機械の機構として確実に知っておいてもらいたい部分を半分,さらにロボット
やコンピュータシミュレーションなどの今日的な機構や分析手法を意識した部
分を半分という構成にした.すなわち,本書では大まかに以下のような構成を
とっ てい る.
1)
質点ならびに剛体の運動学の復習:質点,剛体の速度,加速度など古典力
学の範囲の運動学について復習する.
2)
ロボットを想定した3次元機構学:ロボットマニピュレータを想定し,3
次元角度など3次元・多自由度の系の運動を記述する方法を述べる.
3)
機械要素に関する機構学:カム,歯車など機械要素に対するいわゆる伝統
的な 機構 学に つい て述 べる.
4)
マルチボディダイナミクス入門:コンピュータでの計算処理を前提とした
機構の計算理論について述べる.
読者の対象は大学の2,3年生程度の機械工学の基礎を学び始めた学生諸君
を想定している.このように初学者を対象とした教科書との位置付けではある
ものの,前述のようにいろいろな意図を本書に詰め込んだため,全体としては
中身が薄い印象になってしまった感は否めない.それはひとえに著者が浅学非
才なことによるのだが,逆にそれが幸いして親しみやすい入門書として考えて
いた だけ れば と思 う.
本書が多くの読者に受け入れられ,機構学に興味をもっていだくきっかけに
なれば,著者としても嬉しく思う次第である.
2009 年
著
者
1
1. 諸論・機構学とは
本章では機構学の一般的な定義と,本書で扱う機構学の考え方につい
て 述 べ る . ま た , 機 構の 自 由 度 な ど の 機 構学 の 基 礎 的 な 知 識 に つ い て
も説明する.
1.1.
機構学とは
機 械 (machine) と い う 言 葉 は 日 常 的 に も 用 い ら れ る も の で あ り , そ の た め
逆に定義があいまいなところもあるが,一般的には「機械とは,複数の部分と
なる物体から構成され,その構成物体は,ある拘束を受けた相対運動を行い,
動力源から与えられた
エネルギー
を有効な
仕事
に変換するもの」と考
える こと がで きる .
機械システムの構成要素を考えた場合,大まかには以下のような要素が考え
られ るだ ろう .
機 械 = 構造 系 + 機 構系 + 動力 系 + セン サ・ 制御 系
ここ で,機 構( mechanism)と は ,こ の 機 械 の 構 成要 素 間 の 組 み 合 わ せ と そ の
相対運動とを表したものである.機構の具体的な例としては,歯車,カム,リ
ンク機構,巻き掛け伝動装置(ベルト)などが挙げられよう.
例 えば ,自 動 車 を 考 え た 場 合 ,そ の 構 成 は 以 下 のよ う に 考 え るこ と が で き る .
自動車
= 構造系:ボディ
+ 機 構 系 : 車 軸 ・ ス テ ア リ ン グ ・ 差 動 歯 車 ...
+ 動力系:エンジン
+ センサ・制御系:電子回路
このように機構は,機械システムの中で動きの伝達・変換に関連する役割を持
ち,機械システムを構築する上で欠かすことのできない構成要素である.
機 構 学 ( study of mechanisms) と は , 機 械 ( 機 構 ) の 運 動 学 を 扱 う 学 問 領
2
域である.おもに機械・機構の運動を扱い,力の解析は基本的にはその範囲と
し な い( 静 力 学 に つ い て は 一 部 対 象 と す る ).すな わ ち ,機 構の 変 位 ,速 度 ,加
速度 の関 係を 調べ る学 問領 域で ある .機 構 の 力 を 解 析 す る 学 問 分 野 と し て は「 機
械力 学」,「 振 動 工 学 」 な ど が 対 応 す る . 本 学 科 の 講 義 と し て は , 2 年 後 期 に あ
る「 振動 学」 で機 械系 の力 学現 象を 扱う.
1.2.
本書 にお ける 機構 学
(1 )
機構 学は 古い 学問 か
確かに,単なる歯車,カムなどの機械要素の解析だけを見れば,ある程度成
熟した研究学問領域であろう(もちろん,専門的にはまだ発展・未解決問題は
沢山 ある ).ま た ,最 近 の 機 械 シ ス テ ム で は 上 記 の よ う な 歯 車・カ ム な ど の 機 構
を利用せずに,アクチュエータ,センサ,コントローラを用いて機械の動きを
電子制御してしまうことが多い.例えば,自動車では機構を用いてハンドルの
操 舵 の 動 き を タ イ ヤ ま で 伝 達 す る 必 要 が あ る が( ス テ ア リ ング 機 構 ),近 年 では
バイ・ワイ ヤ( by-wire)技術 とい う力・動き の伝 達 を,電 子制 御 機構 を介 して
行う技術の開発が盛んである.しかし,機械であるかぎり,いくら電子制御を
行っても最終的には機械的な運動を考える必要がある.つまり,機械機構なら
びに 機構 学は 決し て廃 れる こと はな い.
(2 )
これ から の機 構学
理論的な解析を考えた場合,従来は単純機構に対する解析しかできなかった
が,近年はコンピュータの発達に伴い,より複雑な機構に関しても厳密で詳細
な解析・分析ができるようになった.すなわち,平面機構だけでなく,複雑な
3次元の立体機構の構築も可能になってきた.
また,今までの機構では,要素を組み合わせ運動の自由度(自由度の説明は
後述 )を 減 ら し ,1 自 由 度 の 専 用 の 動 き を 作 り だ す こ と が 基 本 と な っ て い た が ,
近年では機構の運動の自由度を増やし,より単純な機構で汎用的で複雑な動き
を作り出すことを考えるようになってきた.ロボットアームなどがその例であ
ろう.ロボットは多くの自由度を持ち,複雑な運動を生成できる.最終的には
3
その動きは電子的な制御によって定まるが,ロボットアームの運動そのものを
記述するため,あるいはロボットの設計のためには正に機構学の知識が必要と
され る.
このように機構学で扱う運動は単純な1自由度運動,平面内運動から3次元
的な空間運動へと発展している.また,機構学は多自由度を持つ物体の空間内
における運動を記述する学問だと考えれば,機構設計以外の様々な分野への応
用が考えられる.例えば,生体内の筋骨格構造の解析にはまさに機構学的な知
見が必要となる.このように機構学は未だ実用性と可能性を秘めた学問領域で
ある (図 1.1).
立 体 的 な 機 構 の 例( パ ラ レ ル
メカニズム)
3 次 元 CAD と 連 携 し た 機 構 解 析
ソフトウエアの例
ロボットアーム機構
生体の中の機構学(筋骨格構造)
図 1.1
(3 )
いろいろな機構を持つシステム
機構 の 記 述 方 法
機構の運動の記述方法,解法として大きく分けて次の二つがある.
1)
図式解法:作図により機構の運動を知る方法.直感的,簡易的.しかし厳
4
密でなく,複雑な機構の解析は無理.
2)
数式解法:数式を前提とした解析法.計算は複雑.厳密な解が得られる.
コンピュータ処理に適している.
古い機構学の教科書には図式解法が紹介されている場合が多いが,本書では
図式解法よりも数式解法を中心に説明する.図式解法の場合,機構の運動は基
本的 には 2 次 元 平 面 内 に 限 ら れ て し ま う . 数 式 解 法 の 場 合 ,2 次元 平面 内の 解
析は もち ろん ,3 次 元 機 構 の 解 析 も 可 能 な よ う に 体 系 化 さ れ る こ と が 多 い . 一
般的にはベクトル,座標変換行列を用いた数式表現が行われるが,複素数など
を用いる場合もある.本書ではベクトル,座標変換行列を用いる表現方法につ
いて 述べ る.
(4 )
記号の定義
ここで,本書で用いる数式記号の定義についても触れておく.原則的には以
下の規則に従って数式の記号を使い分ける.
1)
スカ ラー 量
a, b, c, d ,
小文 字
2)
ベク トル 量
a,b,c,d ,
小文字の太字
3)
行列 (マ トリ クス )
A,B,C,
大文字の太字
4)
点
A, B, C ,
大文 字
5)
線分 (距 離)
AB, BC ,
点 A と点 B とを結ぶ線分(距
離)
6)
座標 系
1.3.
 A , B
シグ マ
物体の運動の記述
ここでは,機械工学における機構というよりも,力学における物体の運動の
記述 の方 法に つい て簡 単に まと める .
物体を表す概念として大きくわけて次の二つがある.
1)
質 点 ( material particle): 大 き さ を 無 視 で き , 質 量 の み を 考 慮 す る 物 体 .
2)
剛 体 ( rigid body): 物 体 を 構 成 す る 点( 質 点 ) の 相 互 の 位 置 が 変 わ ら な い
物体.つまり,変形をしない物体.
5
機構学では当然のことながら,複数の剛体を対象とした相対運動を取り扱うこ
とに なる .
一 方 , 物 体 の 運 動 を 記 述 す る と き , ど の よ う な 拘 束 ( constraint) を 受 け て
いるかを考える必要がある.例えば,拘束の種類によって以下のような種類の
運動 を考 える こと がで きる .
1)
直 線 運 動 ,曲 線 運 動 ,平 面 運 動:そ れ ぞ れ 直 線 上 ,曲 線 上 ,平 面 上 に 拘 束
された運動
2)
固 定 軸 ま わ り の 運 動:固 定 さ れ た 回 転 軸 が あ り ,そ れ に 拘 束 さ れ て い る 運
動
3)
固定点まわりの運動:固定された点があり,それに拘束されている運動
このように対象の物体と運動の拘束条件によってその運動を記述するために
必要な
変数
の数が決まってくる.この運動を記述するために必要な変数の
数の こと を自 由 度(degree of freedom)とい う .例 え ば ,物 体 と 運 動 の 種 類 に
よっ て以 下の よう に自 由度 が定 まる .
1)
質点 の直 線運 動, 曲線 運動 :1 自由 度
2)
質点 の平 面運 動: 2自 由度
3)
剛 体 の 平 面 運 動:3 自 由 度( 図 1.2 に 示 すよ うな ,位 置 x , y と 向 き(角 度)
 の3 自由 度)
4)
剛体 の空 間運 動: 6自 由度
Y

y
x
図 1.2
X
剛体 の平 面運 動の 例
6
前述のように自由度は物体の拘束条件によって決まる.複数の物体の相対運
動を考えた場合,ひとつの物体の運動が他の物体の運動によって規定されると
き,その 運動 は従 属(depend)で あ る と い う .例 え ば ,図 1.3(a)では二 つの 物
体 A,B が 上 下 方 向 に 運 動 す る が , 糸 に よ っ て
x A  2 xB  constant
という関係に拘束された従属運動をする.そのため,この系は全体として1自
由度 を持 つこ とに なる .同 様に して , 図 1.3(b)に つ い て は 物 体 A,B,C が
2 x A  2 xB  xC  constant
という関係に拘束された従属運動をする.そのため,この系は
2
自由度を
持つ 系と なる .
(a)
(b)
図 1.3
1.4.
従属 運動
機構の基本用語と基本概念
前述の用語は主に物理学的な分野で用いられている.同じような概念でも機
械工学,機構学分野では以下のような用語や考え方を用いる.
1)
機 素(machine element)
:機械 を構 成 して いる 各部 分.節( リ ン ク )
( link)
という用語も同じ意味.これは先の剛体とほぼ同じと考えることもできる
が , 柔 軟 な 機 素 も 存 在 す る ( 例 : 巻 き 掛 け 中 間 節 ).
2)
対 偶 ( た い ぐ う )( pair): 隣 り 合 っ た 機 素 が 互 い に 運 動 を し て い る と き ,
7
その結びつきを対偶という.運動の拘束,従属の関係と対応する概念であ
る.
3)
対偶の自由度:対偶をなす二つの機素の相対運動を表す変数の数.
4)
対偶の種類:対偶には以下のような様々な種類がある.
a) 接触状 態 によ る分 類
面対偶:面で接触する対偶
線対偶:線で接触する対偶
点対偶:点で接触する対偶
b) 対偶の 自 由度 によ る分 類
低次対偶:自由度が小さい対偶
高次対偶:自由度が大きい対偶
c) 1 自 由 度 の 対 偶 ( 拘束 対 偶 ) の 種 類 ( 図 1.4)
滑 り 対 偶 (sliding pair): 並 進 運 動 の み が 生 じ る 対 偶
回 り 対 偶 (turning pair):回 転運 動の みが 生じ る対 偶
ねじ対偶:相対回転角と相対変位量の間に一定の比例関係がある対偶
(a) 滑 り 対 偶
(b) 回 り 対 偶
(c) ねじ対 偶
図 1.4
拘 束 対偶 の種 類
8
5)
連 鎖 ( chain): 機 素 ( 節 ) が 対 偶 に よ っ て 次 々 と つ な が り , 全 体 が ひ と つ
の形になるとき,これを連鎖という.この連鎖から意味のある動きを作り
だすものが
機構
となる.すなわち,同じ連鎖でもどの節を固定し,ど
の節に駆動力を与えるかによって様々な機構を得ることができる.これに
ついてはリンク機構の章において詳細に説明する.
図 1.5 に 連 鎖 , 機 構 の 例 を 示 す . 図 1.5(a)は 四 つ の 節 , 三 つ の 回 り 対 偶 , 一
つの滑り対偶によって構成された平面連鎖(スライダクランク連鎖)である.
この 連鎖 のう ち,節 D を 固 定 す れ ば ,節 A の回 転 によ って
節C
が直 線往 復
運動 を行 う( ある いは 節 C の直 線 運動 によ って 節 A が回 転 運動 を行 う)機 構( ピ
スト ンク ラン ク機 構)が 得られ る( 図 1.5(b)).こ の 機 構 を 応 用 し た も の が ,エ
ンジ ンな どの 実際 の機 械に も見 られ る(図 1.5(c)).
回り対偶
A節
B節
回り対偶
回り対偶
C節
D節
滑り対偶
(a)
(b)
(c)
図 1.5
1.5.
連鎖 と機 構と 機械
連鎖の自由度
対偶と同様に,連鎖全体の動きの状態を示すのに必要な変数の数を連鎖の自
由度という.与えられた連鎖の自由度を調べることは機構の設計にとって基本
とな る問 題で ある .
連 鎖 の 運 動 が 一 つ の 平 面 内 で 行 わ れ る 平 面 連 鎖 の 場 合 ,そ の 連 鎖 の 自 由 度 f
9
は以 下の 式で 求め るこ とが でき る.
f  3(n  1)  2 p1  p2
n
(1.1)
:機 構を 構成 する 機素 の数 .
p1 : 機 構 に 含 ま れ る
1自由度
の対偶の数.
p2 : 機 構 に 含 ま れ る
2自由度
の対遇の数.
各 節 の 運 動 が 平 面 に 限 ら な い 立 体 連 鎖 の 場 合 ,そ の 自 由 度 f は 以 下 の 式 で 求
める こと がで きる .
f  6(n  1)  (6  i ) pi
(1.2)
i
n
:機 構を 構成 する 機素 の数 .
i
:対 遇 の 自 由 度
pi
: 自 由 度 i の対 遇の 数.
【例 題 2.1】
図 1.6 に 示 す 機 構 の 自 由 度 を 求 め よ .
b
B
A
c
a
C
C
図 1.6
【解答】図の機構の条件は以下の通り.
1)
平面機構
2)
節(機素)の数 n  3
3)
対 遇 a :1 自由 度の 回り 対偶
4)
対 偶 b :1 自由 度の 回り 対偶
5)
対 遇 c :2 自由 度の 回り 滑り 対遇
以上 の条 件を 式(1.1) に 代 入 す れ ば
f  3  (3  1)  2  2  1  1
10
2. 質点の運動学
本 章 で は 力 学 の 復 習 と し て , 質 点 の 運 動 の取 り 扱 い を ま と め る . 機 構
学では大きさを無視するような質点自体を取り扱うことはないが,剛
体上に位置する1点の運動を知るためには質点の運動の記述方法を
理解しておく必要がある.
2.1.
質点の直線運動
質点の直線運動は自由度1であるから,スカラー量で運動を表現できる.物
体 の 運 動 を 改 め て 定 義 す れ ば , そ の 位 置 座 標 ( position coordinate ), 速 度
( velocity), 加 速 度 ( acceleration) を 求 め る こ と で あ る . す な わ ち , 次 式 に
より 位置 x ,速 度 v ,加速 度 a が定 義 でき る.
1)
位置座標
x
2)
速度
v
dx
 x
dt
3)
加速 度
a
dv
d 2x
 v  2  
x
dt
dt
(2.1)
質 点 A と 質 点 B の 2 質点 間 の相 対運 動 xB / A , vB / A , aB / A は, そ れぞ れの 質点
の 変 位 , 速 度 , 加 速 度 の 差 で 表 さ れ る ( 図 2.1).
1)
位置
xB / A  xB  x A
または
xB  x A  xB / A
2)
速度
vB / A  vB  v A
または
vB  v A  vB / A
3)
加速度
a B / A  aB  a A
または
aB  a A  aB / A
図 2.1
2質 点の 相対 運動
(2.2)
11
2.2.
質点の曲線運動
図 2.2 に 示 す よう に 3 次 元 空間 上 で 点 P が 曲線 s に 沿 っ て 時間 t 後 に 点 P
の位 置に 移動 する 運動 を考 える .点 P の位 置ベ クト ルを r ,点 P の 位 置 ベ ク ト
ルを r  , 両 者 の 差 を r と す る .
Z
s
Pt t
r
s
r
r
Pt
Y
X
図 2.2
質点の曲線運動(位置の変化)
位 置ベ クト ルの 関係 から
r   r  r
(2.3)
この とき の速 度(velocity)は 次式 で与 えら れる .
r dr
r  r
 lim

t 0 t
t 0 t
dt
v  lim
(2.4)
速さ (speed) に つ い て は
s ds

t 0 t
dt
v  v  lim
のよ うに 表さ れる.通 常 ,速度 は
(2.5)
ベク トル 量 ,速 さ は
スカ ラー 量 を表 す.
次 に,図 2.3 の よう に点 P での 速度 が v で あ り ,こ れ が 時 間 t 後 に 速 度 v  に
変化 する 運動 を考 える .
こ こ で , 速 度 v と 速 度 v  の 変 化 v を 考 え , こ の ベ ク ト ル だ け を 取 り 出 す と
図 2.4 の よ う に な る .
12
Z
v
Pt t
v
v
v
Pt
v
Y
X
図 2.3
図 2.4
質点 の曲 線運 動( 速度 の変 化)
速度 ベクト ルの 変化
この とき ,加 速度 a は
v dv

t 0 t
dt
a  lim
(2.6)
のよ うに 与え られ る.
一般に速度ベクトル v は軌道 s に
接している
(接線方向を向く)
加速 度ベ クト ル a は 軌 道 に は 接 し て い な い こ と に な る ( 図 2.5).
Z
s
v
a
r
Pt
Y
X
図 2.5
曲 線 運動 にお ける 速度 と加 速度 の関 係
が,
13
2.3.
速度と加速度の成分
位置ベクトル,速度ベクトル,加速度ベクトルは座標軸方向の成分に
分解
して 考え るこ とが でき る. ここ で,図 2.6 の i , j , k は そ れ ぞ れ X , Y , Z 軸方 向の
単位 ベク トル を表 して いる .
Z
zk
v
P
k
i
r
j
yj
Y
xi
図 2.6
X
位 置 ベ ク ト ル r の 成 分 が r  [x
y
位 置, 速度 ベク トル の成 分
z ]T の と き , こ れ を i , j , k を 使 っ て 各 座 標
軸方 向の 成分 に分 解し て表 せば ,
r  xi  yj  zk
(2.7)
のよ うに 書く こと がで きる .速 度 v , 加 速 度 a も 同 様 に
v
dr
 xi  y j  zk
dt
(2.8)
a
dv
 
xi  
yj  
zk
dt
(2.9)
のよ うに 書く こと がで きる .
2.4.
並進運動している座標系
図 2.7 に 示 す よ う に 空 間 に 固 定 さ れ て い る 座 標 系  O ( 基 準 座 標 系 ) と , そ
れに 対し て並 進運 動し てい る座 標系  A (運 動座 標系 )を 考え る.
14
Z
B
rB / A
rB
rA
O
A
A
Y
O
X
図 2.7
並進 運動 して いる 座標系
点 B の 位 置 rB は , 運 動 座 標 系  A の 原 点 の 位 置 rA と ,  A か ら み た (  A を 基
準 と し た ;  A に 相 対 的 な ) 点 B の 位 置 rB / A に よ り , 以 下 の よ う に 記 述 で き る .
rB  rA  rB / A
(2.10)
速度,加速度についても同様に以下のように記述できる.
vB  v A  vB/ A
( 2.11)
aB  a A  aB / A
(2.12)
運 動を 記述 する 場合 ,そ れ を 記 述 す る 座標 系 の 取 り 方 に 注 意 す る 必 要 が あ る .
例 え ば , rB , v B は 基 準 座 標 系  O に 対 す る 絶 対 運 動 を 表 し , rB / A , v B / A は  A か
らみ た相 対運 動を 表す .こ のよ うに 同じ 点 B の 運動 でも 観測 する
座標系
が
異なれば,その値は異なってくる.より一般的な複数の座標系の取り扱いにつ
いて は後 に詳 しく 説明 する .
2.5.
質点の運動の接線成分と法線成分
前述のように質点の速度ベクトルは,質点の軌道の接線方向を向くが,加速
度ベクトルは軌道に接しない.そこで,質点の運動を軌道の接線方向と法線方
向の成分に分解して表すと都合が良いことが多い.
ま ず, 平面 運動 を考 える .す なわ ち,図 2.8 に示 す よう に点 P が曲 線 s に沿
って 時間 t 後に 点 P の 位置 に移 動す る場 合を 考え る .
15
Y
C

it

P
in
s
P
it
O
図 2.8
X
平面 運 動の 接線 成分 と法 線 成 分
ここ で, it , in は そ れ ぞ れ 点 P に つ い て の 軌 道 の 接 線 方 向 ,法 線 方 向 の 単 位 ベ ク
トル ,it は 点 P に つ い て の 軌 道 の接 線 方 向 単 位 ベ ク ト ル で あ る .ま た , は it
と it の な す 角 ,  は曲 率半 径で ある .
(補 足: 曲率 =
)
こ のと き, 速度 ベク トル v は 次 式 で 与 え ら れ る .
v  vit
(2.13)
一方 ,加 速度 ベク トル a は 以 下 の よ う に な る .
a
di
dv d (vit ) dv


it  v t
dt
dt
dt
dt
ここ で,
(2.14)
dit
は
dt
dit dit d ds
1

 in v

dt d ds dt
と変形できる.このとき,
(2.15)
dit
 in な る 関 係 を 用 い て い る が , こ の 関 係 式 は 図
d
2.9 のよ うに 説明 され る.
以 上に より 加速 度 a は結局
dv
v2
a
it  in

dt
( 2.16)
のよ うに 書く こと がで きる .
図 2.9
16
式 (2.16) の 加 速 度 の 式 が 意 味 す る と こ ろ を ま と め る と 以 下 の よ う な る .
1)
加速 度の 接線 成分 at は速 さ v の 時 間 変 化 率 に 等 し い .
2)
法 線 成 分 an の 大 き さ は 速 さ の 2 乗 を 経 路 の
3)
法線 成分 は常 に経 路の
曲 率中 心 C
曲率半径で除した値となる.
を向 いて いる .
こ の 関 係 を 図 2.10 に 改 め て 図 示 し て お く .
C
Y
an 
v2

in
at 
P
O
図 2.10
dv
it
dt
X
加 速 度 の 接 線 方 向成 分 と 法 線 方 向 成 分
式 (2.16) は 質点 の 平 面 運 動に つ い て 求 めた も の で あ るが , 空 間 運 動を 考え
た場合でも同様に成り立つ.すなわち,3次元の軌道における接触平面を考え
れば ,平 面運 動と 同様 な議 論が でき る.
17
3. 剛体の運動学
本章では剛体の運動を記述する方法をまとめる.ひとつの剛体に着目
し た 運 動 の 記 述 は , 力 学 の 復 習 の範 疇 に 入 る 問 題 であ る . こ れ に 複 数
の 剛 体 の 運 動 を 考 慮 し , 機 構 の 制約 を 加 味 す る こ とで , 複 雑 な 機 構 の
運動解析を行うことができる.さらに瞬間中心のように機構の運動解
析を容易にする方法についても紹介する.
3.1.
剛体運動の種類
剛体の運動には以下のような種類がある.
1)
並 進 運 動 ( translation): 物 体 ( 剛 体 ) を 構 成 す る す べ て の 質 点 が 平 行 な
軌 道 を 描 く 運 動 . そ の 軌 道 が 直 線 と な る 場 合 は 直 線 並 進 運 動 ( 図 3.1(a))
と な り ,軌 道 が 曲 線 の 場合 は 曲 線 並 進 運 動 ( 図 3.1(b)) と な り ,こ れ も 並
進運 動の 一種 であ る.
(a) 直 線 並 進 運 動
図 3.1
2)
(b) 曲 線 並 進 運 動
並進 運動
固定 軸ま わり の回 転( rotation)
:剛 体 を 構 成 す る 質 点 は 固 定 軸 上 に 中 心 を
持つ 平面 内の 円に 沿っ て動 く( 図 3.2).
3)
一般の平面運動
4)
固 定 点 ま わ り の 運 動 : コ マ の 運 動 が こ れ に 相 当 す る ( 図 3.3).
5)
一般の運動
18
以下にこれらの運動の速度,加速度を求める方法を考えていく.
図 3.2
3.2.
固 定 軸ま わり の 回 転
図 3.3
固 定 点ま わり の回 転
並進運動
剛体が並進運動するとき,物体のすべての点は任意の時刻において,同じ速
度 と 加 速 度 を 持 つ .す な わ ち ,剛 体 上 の 点 A と 点 B の 位置 ,速 度,加 速 度に つ
いて ,以 下の 関係 が成 り立 つ( 図 3.4).
rB  rA  rB / A
Z
d
rB / A  0
dt
rB / A
rA
vB  v A
aB  a A
vA
A
rB
( 3.1)
vB
B
Y
X
図 3.4
3.3.
剛 体の 並進 運動
固定軸まわりの回転
(1 )
速度
図 3.5 に 示 す よ う な 固 定 軸( AA 軸)回 り に 回 転 す る 物 体 上 の 点 P で の 速 度 v
を考 える .ま た, 図 3.6 は点 P を 含 む 回 転 軸 に 垂 直 な 平 面 ( 断 面 図 ) で あ り ,
点 P は t 後 に 点 P に 位 置 す る . こ の と き ,  回 転 す る 際 の P 点 が 描 く 弧 の
長さ s は 次 式 の よ う に な る .
19
Z
A
ω
v
B

B
P


r
P
Y
P
X
A
図 3.5
Y
固定軸まわりの回転
s  BP   (r sin  )
s
X
図 3.6
断 面図
(3.2)
した がっ て,
s 

r sin 
t t
(3.3)
とな り, P での 速度 の大 きさ v は次 のよ うに なる.
v
ds
 r sin 
dt
(3.4)
点 P の 速 度 ベ ク ト ル v は AA 軸 と r を 含 む 平 面 に 垂 直 で あ り , そ の 大 き さ は
上式 v で与 えら れる .
次 に こ の 関 係 を ベ ク ト ル 積 で 表 現 す る こ と を 考 え る . す な わ ち , AA に 沿っ
たベ クト ル ω  k ( k は AA 軸( Z 軸 )方 向を 示す 単位 ベク トル )と r とのベ
クト ル積 は次 のよ うに なる .
ω  r  ω r sin   e  r sin   e  v
(3.5)
こ こ で e は ω, r を 含 む 平 面 に 垂 直 な 単 位 ベ ク ト ル で あ る . こ の ω は 角 速 度
(angular velocity) と呼 ばれ ,結 局, 速度 v は
v
dr
 ω r
dt
ω   k  k
(3.6)
(3.7)
20
によ り与 えら れる .
(2 )
加速度
点 P で の 加 速 度 a は 以下 のよ うに 計算 でき る .
dv d
 (ω  r )
dt dt
dω
dr

 r  ω
dt
dt
dω

 r  ω v
dt
a
(3.8)
dω
は物 体の 角 加 速 度(angular acceleration)と 呼 ば れ ,こ れ を α とし,式( 3.6)
dt
の v  ω r の関係を使えば,結局,加速度は次のようになる.
a  α  r  ω  (ω  r )
(3.9)
ただ し,
α
dω
  k   k  k
dt
(3.10)
加速 度の 式( 3.9)の う ち , α  r は 接線 方向 加速 度, ω  (ω  r ) は 法 線 方 向 加 速
度を 表す .
(3 )
代表 平面 内で の回 転
固 定軸 まわ りの 物体 の回 転は ,図 3.7 に 示 す よ う に 回 転 軸 に 垂 直 な 基 準 平 面
内の 運動 に対 応さ せる と理 解し やす い.図に 示す 基準 平面 内の 点 P の 速 度 v は
次の よう にな る.
v  ω  r  k  r
( 3.11)
速度 の大 きさ v のみ を考 えれ ば,
v  r
(3.12)
とな る. また ,加 速度 a は 次 の よ う に な る .
a   k  r   2r
(3.13)
加速 度 a を 接 線 成 分 at と法 線成 分 an に 分 解 す る と 次 の よ う に な る .
at   k  r ,
an   2 r
(3.14)
21
その 大き さは
an  r 2
at  r ,
(3.15)
とな る.r と 2 回の k に よ る ベ ク ト ル 積 は ベ ク ト ル r の向き を
せる .す わな ち, 法線 成分 加速 度 an は常に r の 方 向 と
180°
逆向き
回転さ
になる.
v  k  r
Y
r
P
X
ω  k
図 3.7
3.4.
断面図
一般の平面運動
(1 )
並進 運動 と回 転運 動
一般の平面運動は,常に1つの並進運動と1つの回転との和として考えるこ
とが でき る. 例え ば,図 3.8 に 示 す よ う な 転 が る 円 板 の 運 動 は , 円 板 が 回 転 せ
ずに並進移動する運動と,並進移動せずにその場で回転する運動の和と見なす
こと がで きる .図 3.9 の よ う な 機 構 ( 両 ス ラ イ ダ ク ラ ン ク 機 構 ) に つ い て も 同
様に並進運動と回転運動とに分解して考えることができる.
B1
A1
A2
=
B2
「転がる」平面運動
B1
B2
A1
A2
Aの並進運動
図 3.8
転 が る円 板の 運 動
B2
+
A2 B2
Aまわりの回転
22
=
+
平面運動
並進運動
図 3.9
(2 )
回転
両スライダクランク機構の運動
平面 運動 の絶 対速 度と 相対 速度
式 ( 2.11) に 示 し た よ う に , 任 意 の 並 進 運 動 の 速 度 は 基 準 点 の 速 度 と 基 準 点
から みた 相対 速度 の和 によ り記 述で きる.同 様に ,一般 の平 面運 動に おい ても ,
任 意 の 点 B の 絶 対 速 度 は 基 準 点 A で の 運 動 v A と 基 準 点 に 対 す る 相 対 速 度 vB/ A
とで 表す こと がで きる .
vB  v A  vB/ A
(3.16)
平面 運動 する 物体 につ いて は図 3.10 に 示す よう に v A を点 A に 対す る並 進運 動
に, v B / A を 回 転 に 伴 う 運 動 に そ れ ぞ れ 対 応 し て 考 え る こ と が で き る .
vA
vA
A
A
vB
B
=
平面運動
k
A
vA
B
+
並進運動
図 3.10
rB / A
vB / A
B
回転
平 面運 動す る物 体
回転 に伴 う相 対速 度 v B / A は 次 の よ う に な る .
v B / A   k  rB / A
(3.17)
vB / A  r
(3.18)
結局,任意の平面運動の速度は次のように表すことができる.
v B  v A   k  rB / A
(3.19)
23
図 3.10 で は 物 体 の 回 転 を A を 基 準 に し て 考 え た が , 点 B を基 準に して 考え て
も 同 じ 結 果 を 得 る .す な わ ち ,平 面 運 動 を す る 剛 体 の 角 速 度  は 基 準 点 に 無 関
係
で ある .
【例 題 4.1】
図 3.11 に 示す よう に, クラ ンク AB は 一 定 の 角 速 度  AB で 回 転 す る . こ の と
き, ピス トン の点 C の速 度の 大き さ vC ,連接 棒 BC の 角 速 度 BC を 求 め よ .
B
l
r

A

C
図 3.11
 AB
【解 答】 点 B の 速 度 v B の大 きさ vB はク ラン ク AB の回転 より ,
vB  r AB
向き は鉛 直時 に対 して  の角 度を 持つ .図 3.12 に 示 す よ う に ,連 結 棒 BC の運
動 は B に つ い て の 並 進 運 動 と 回 転 と に 分 解 し , 回 転 に よ る 速 度 を vC / B と す る .
B
 BC
vB
A

vC / B
C
vC
 AB

図 3.12
vB
式(3.16) と 同 様 に vC は v B と vC / B と の和 によ り表 わさ れる .
vC  v B  vC / B
ここ で,ピ ス トン の点 C は水 平方 向に 動く ,つまり vC の 鉛 直 成 分 は ゼ ロ に な る
条件 より ,
vB cos   vC / B cos 
vC / B 
cos 
vB
cos 
24
とな る. よっ て vC の 大 き さ vC は 次の よう にな る.
vC  vB sin   vC / B sin 
 r (sin   cos  tan  ) AB
連接 棒 BC の角速 度 BC は vC / B  lBC の関 係よ り
BC 
vC / B r cos 

 AB
l
l cos 
とな る.
3.5.
平面運動の回転の瞬間中心
機構が複雑になると,前述のような回転・並進,絶対・相対運動による解析
は困難になる.そのため,以下の瞬間中心という図式解法が用いられる.
(1 )瞬 間中 心と は
図 3.13(a)に 示 す よ う な 並 進 運 動 と 回 転 運 動 と を 伴 う 平 面 運 動 を 行 う 剛 体 上
の質 点の 速度 は,図 3.13(b)の よ う に ,剛 体 が そ の 平面 に 垂 直 な と あ る 軸 ま わ り
に 回 転 し て い る 場 合 の 速 度 と 同 じ と な る .こ の 軸 と 平 面 と の 交 点 C を 回 転 の 瞬
間 中 心 (instantaneous axis of rotation) と 呼 ぶ . 速 度 を 考 え て い る 限 り , 剛
体は,今考えている瞬間,瞬間中心 C のまわりを回転しているように見える.
C

r  vA / 

A
vA
A
(a)
vA
(b)
図 3.13
瞬間中心
(2 )瞬 間中 心の 求め 方
物体の運動のうち既知となる条件によっていくつかの瞬間中心の求め方が考
25
えら れる .
1)
基 準 点 A の 速 度 v A と 角 速 度  が 既 知 の 場 合 : 上 の 図 3.13 に 示 す よ う に ,
速 度 ベク ト ル の 垂 線上 で 距 離 が 基 準 点 A か ら v A /  の 位置 が 瞬 間 中 心と な
る.
2)
物体 上の 2点 の速 度の 方向 が既 知の 場合:それぞ れの 速度 ベク トル の垂 線
の交 点が 瞬間 中心 とな る( 図 3.14(a)).
3)
速 度 v A , v B が線 分 AB に 対 し て 垂 直 で ,大き さが 既 知の 場合:ベ クト ル v A , v B
の先 端を 結ぶ 直線 と, 直線 AB と の 交 点 が 瞬 間 中 心 と な る ( 図 3.14(b)).
C
C
vB
B
vB
A
A
(a)
図 3.14
B
vA
(b)
vA
瞬間中心の求め方
(3 )瞬 間中 心の 性質
瞬間中心には機構の解析の上で有効な以下のようないくつかの性質がある.
1)
瞬間中心 C の点はその瞬間,二つの物体間の相対速度が
ゼロ
しかしながら,瞬間中心 C 自体の加速度は一般に
にはならない.
ゼロ
となる.
つ ま り ,瞬 間 中 心 の 位 置 は 時 々 刻 々 移 動 す る .こ の 瞬 間 中 心 が 移 動 す る 軌
跡 を 中 心 軌 跡 (centrode) と い う .
2)
機 構 を 構 成 す る 任 意 の 二 つ の 節( 機 素 / 剛 体 )の 間 に は 一 つ の 瞬 間 中 心 が
存 在 す る .し た が っ て , n 個 の 節 か ら な る 機 構 の 瞬 間 中 心 の 数 N は,次 式
のような組み合わせの総数として求めることができる.
N  n C2 
n(n  1)
2
(3.20)
26
3)
機 構 の 中 の 任 意 の 三 つ の 節 に つ い て 考 え る .三 つ の 節 の 間 の 3 個の 瞬間 中
心は
一直線上
に あ る . こ れ を 3 瞬 間 中 心 の 定 理 ( theorem of three
centers) と い う .
【例 題 4.2】
前 述の 例 題 4.1 を 瞬 間 中 心 の 方 法 を 用 い て 解 け .
【解 答】図 3.15 に 示す よ うに 速度 v B , vC の 垂 線 を 用 い て 瞬 間 中 心 D の 位 置 を 定
める .
D
 BC
B
A



vB
l

C
vC
図 3.15
図の 幾何 学的 関係 から 線分 BD と 線 分 CD の 長さ は次 のよ うに なる .
BD cos   l cos 
BD 
cos 
l
cos 
CD  BD sin   l sin 
連 接 棒 BC は 瞬 間 中 心 D の ま わ り に BC で回 転 す る . した が っ て , 点 B にお け
る速 度の 大き さと vB との 関係 より
vB  BDBC
とな る. これ より BC は 次 の よ う に 求 ま る .
BC 
vB
r cos 

 AB
BD l cos 
同様 に vC は 点 C にお け る速 度の 関係 より
27
vC  CDBC
(
r cos 
cos 
 AB  r (sin   cos  tan  ) AB
l  sin   l sin  )
l cos 
cos 
と な り , 例 題 4.1 と 同 じ 結 果 を 得 る .
28
4. 3 次元座標系と座標変換行列
これまでは一般的な質点や剛体の運動の取り扱いを見てきた.複数の
機構要素の運動をより厳密かつ一般的に取り扱うためには各機構要
素ごとに座標系を定義し,運動を座標変換によって表現する方法が便
利である.本章からは特にロボットアームへの応用を想定した問題の
設 定 を 行 う( 図 4.1).そ の た め ,運 動 は す べ て 3 次 元 空 間 内 で 行 わ れ
るものとの想定になる.
0
1
図 4.1
4.1.
2
3
想定するロボットアームのイメージ
基準 座標 系と 物体 座標 系
剛体の位置,姿勢の表現法を考える.そのためには以下の2種類の座標系を
用 意 す る ( 図 4.2).
1)
基 準 座 標 系 ( reference coordinate system): 基 準 と な る直 交 座 標 系 . 空
間 に 固 定 さ れ て い る .絶 対 座 標 系 ,ワ ー ル ド 座 標 系 ,世 界 座 標 系 ,固 定 座
標系とも呼ぶ.
2)
物 体 座 標 系 ( object coordinate system): 物 体 に 固 定 さ れ た 直 交 座 標 系 .
リンク(節)座標系,局所座標系,ローカル座標系とも呼ぶ.
物体の運動は,すなわち,基準座標系から見た物体座標系の原点位置および各
座標軸の方向によって表現することになる.
29
ZA
ZB
YB
B
物体座標系
XB
A
YA
基準座標系
XA
図 4.2
座標系の定義
回転行列
4.2.
ま ず,図 4.3 に 示 す よ う に , 原 点 が 一 致 し た 二 つ の 座 標 系 に 対 し て , 座 標 系
の回 転を 表す 行列 を考 える .
ZA
p
ZB
zB
yB
A
YA
xB
XA
YB
B
XB
図 4.3
座標系の回転
ここ で,基準 座標 系を  A ,物 体 座 標 系 を  B と す る .ま た , B の 3 軸( X B , YB , Z B )
上の 単位 ベク トル を  A で表 し たも のを
A
xB
A
yB
A
zB
30
とする.ここで,記号の意味を以下のように定義する.
左上の添え字:このベクトルを記述する座標系
A
xB
右下の添え字:このベクトルが表す物理量の区分
例え ば, A x B と は  B に 関 す る ベ ク ト ル x を  A か ら み た(  A で記述 し た;  A で
表し た) こと を表 す.
物 体 , す な わ ち , B の 姿 勢 は こ の 3 つ の ベ ク ト ル に よ っ て 表 現 で き る . こ
の ベ ク ト ル を 3×3 の 行 列 に ま と め た も の
A
RB  [ A xB
A
A
yB
zB ]
(4.1)
を回 転 行 列( rotation matrix)と呼 ぶ .す なわ ち, A RB は  B から  A への回 転
行列 (  B で 記 述 さ れ た 座 標 を  A で 表 現 す る 行 列 ) で あ る .
今 ,ベ クト ル p を  B で記 述し たと きの 成分 を
B
p  [u v w]T
とす ると ,  A で 記 述 さ れ た ベ ク ト ル
A
A
p
は,
p  u A x B  v A yB  w A z B
 [ xB
A
A
yB
A
u 
z B ]  v 
 w
(4.2)
 A RB B p
の よ う に 書 く こ と が で き る .す な わ ち ,B p に 回 転 行 列 A RB を 乗じ るこ とで ,A p
に変 換す るこ とが でき る.
回転行列の性質や別表現をまとめると以下のようになる.
1)
基本形
A
2)
A
r  A RB B r
(4.3)
RB と B RA の 関 係
B
r  B RA A r
 B RA A RB B r
B
RA A RB  I 3
(4.4)
(4.5)
31
こ こ で , I は単 位行 列で ある .
3)
逆行 列, 転置 行列
B
4)
(4.6)
第 3 の座 標系 C との 関係
A
5)
RA  ( A RB ) 1  ( A RB )T
RC  A RB B RC
(4.7)
任 意 の 座 標 系  か ら み た X A , YA , Z A 方 向 の 単 位 ベ ク ト ル を x A , y A , z A ,
X B , YB , Z B 方 向 の 単 位 ベ ク ト ル を x B , yB , z B と す る と , 回 転 行 列 A RB は
 x A  xB
A
RB   y A  x B
 z A  x B
x A  yB
y A  yB
z A  yB
x A  zB 
y A  z B 
z A  z B 
(4.8)
の よ う に 表 す こ と も で き る . A RB の 各 要 素 は ベ ク ト ル 間 の 余 弦 を 表 す .そ
のた め, A RB を
6)
方向 余弦 行列
と も呼 ぶ.
各軸 回り の 回 転
x軸回り
0
1
RX ( )  0 cos 
0 sin 
0 
 sin  
cos 
(4.9)
0 sin  
1
0 
0 cos  
(4.10)
y 軸回り
 cos
RY ( )   0
  sin 
z軸回り
cos 
RZ ( )   sin 
 0
任意軸回り
 sin 
cos 
0
0
0 
1 
( 4.11)
32
 k x k x v  c

RK ( )   k x k y v  k z s
 k x k z v  k y s

k x k z v  k y s 

k y k z v  k x s 
k z k z v  c 
k x k y v  k z s
k y k y v  c
k y k z v  k x s
(4.12)
た だ し , c  cos  , s  sin  , v  1  cos  , k  [ k x
k z ]T (回転 軸 )
ky
である.
姿勢表現
4.3.
物 体( 剛体 )の 3 次 元 空 間 で の 回 転 ( 姿 勢 ) の 自 由 度 は
3
であ る. すな
わち ,3 つ の 回 転 角 に よ っ て 物 体 の 姿 勢 を 表 現 す る こ と が で き る . こ れ に 対 し
て, 回転 行列 は 3×3 行列 ,合計 9 変 数 で あ り , 姿 勢 の 表 現 と し て は 冗 長 性 を
持っ てい るこ とに なる .
物 体の 姿勢 表現 のた め の 3 次 元 の 角 度 定 義 は 一 通 り で は な く ,様 々 な も の が
提案されている.そのうち,代表的なものは以下に説明するオイラー角とロー
ル・ ピッ チ・ ヨー 角で ある .
(1 )
オイラー角
オ イ ラ ー 角(Euler angle)では 以下 に示す 順番 に座 標系 を回 転さ せて いく( 図
4.4).
1)
基 準 座 標 系  A に 一 致 し た 座 標 系 を Z A 軸 回 り に  回 転 さ せ , A を得る .
2)
回 転 後 の YA 軸回 りに  回 転 さ せ , A を 得 る .
3)
回 転 後 の Z A 軸 ま わ り に  回 転さ せ, これ を  B と す る .

ZA  ZA
ZA
ZA


ZA

YA

YA

XA

Z A  ZB


XA

YA  YA
YB


YA
YA
YA
XA

XA
XA
図 4.4

オイ ラー 角の 定義

XA

XA

XB
33
基 準 座 標 系  A か ら 上 記 の 回 転  ,  ,  を 順 次 行 っ た 結 果 , 物 体 座 標 系  B の姿
勢 が 得 ら れた も の と し てと ら え , こ の回 転 角  ,  ,  に よ って  B の 姿 勢 を 表す .
オイラー角は回転軸の位置が前の回転に依存する点に注意する必要がある.こ
の関 係は 図 4.5 の よ う な 3 自 由 度 の 回 転 機 構 を 考 え る と 理 解 し や す い .
図 4.5
オイラー角  ,  , に
対 応 す る 3 自 由度 回転 機構
オイラー角の回転行列はそれぞれの軸回りの回転行列を
右
から順に乗じ
てい くこ とで 得ら れる .
A
RB  A RA ( Z A ,  )
A
RA (YA ,  )
A
RB ( Z A ,  )
(4.13)
ここ で, A RB (C , d ) は,座標 系  B から  A へ の 回 転 行 列 の 回 転 が C 軸 ま わ り に 角
度 d だけ回転させることで得られる,という意味である.
こ の行 列の 成分 は以 下の よう にな る.
A
RB  A RA ( Z A ,  )
c
  s
 0
 s
c
0
A
0   c

0   0
1    s
 c c c  s s

  s c c  c s

 s c

(2 )
RA (YA ,  )
A
RB ( Z A ,  )
0 s  c

1 0   s
0 c   0
c c s  s c
 s c s  c c
s s
 s
c
0
0
0 
1 
(4.14)
c s 

s s 
c 
ロ ー ル ·ピ ッ チ ·ヨ ー 角
ロ ー ル ·ピ ッ チ ·ヨ ー 角 ( roll, pitch, yaw angle) で は , 以 下 の 順 番 に 座 標 系
を回 転さ せて いく (図 4.6).
1)
基 準 座 標 系  A に 一 致 し た 座 標 系 を Z A 軸 回 り に  回 転 さ せ , A を得る .
34
2)
回 転 後 の YA 軸回 りに  回 転 さ せ , A を 得 る .
3)
回 転 後 の X A 軸 ま わ り に  回 転さ せ, これ を  B と す る .

ZA  ZA
ZA
ZA


ZA


YA
XA


YA  YA
YA

ZA
ZB



YB
YA
YA
YA

XA

XA
XA
XA
図 4.6


XA


XA  XB
ロール・ピッチ・ヨー角の定義
この とき 角度  をロ ール 角,  をピ ッチ 角,  を ヨ ー 角 と 呼 ぶ .オ イ ラ ー 角 の
とき と同 様に ,図 4.7 の よ う な 回 転 機 構 を 考 え る と , 座 標 変 換 の 過 程 を 理 解 し
やす い.


図 4.7

ロー ル・ ピッ チ・ ヨー 角  ,  , 
に 対 応 す る 3 自由 度回 転機 構
ロール・ピッチ・ヨー角による回転行列は以下のようになる.
A
RB  A RA ( Z A ,  )
(3 )
A
RA (YA ,  )
A
RB ( X A ,  )
(4.15)
固定 角に よる ロー ル・ ピッ チ・ ヨー 角
前述のロール・ピッチ・ヨー角による回転は回転軸の位置が前の回転に依存
している.そうではなく,回転軸が基準座標系に固定されていると考える方法
も あ る . す な わ ち , 以 下 の 順 番 に 回 転 さ せ て い く ( 図 4.8).
1)
基 準 座 標 系 A に 一 致 し た 座 標 系 を 基 準 座 標 系 の X A 軸 ま わ り に  回 転 さ
35
せ , A を 得 る .
2)
基 準 座 標 系 の YA 軸回 りに  回転 させ , A を 得 る .
3)
基 準 座 標 系 の Z A 軸 回 り に  回 転 さ せ , こ れ を B と す る .
先の定義のロール・ピッチ・ヨー角では Z → Y → X 軸の順番に回転させた.
一 方 ,こ の 基 準 座 標 系 の 軸 回 り の 固 定 角 に よ る 定 義 で は , X → Y → Z 軸 の よ う
に回転の順番が逆になっている点に注意されたい.
ZA

ZA

ZA
ZA
ZA


ZA


YA
YB
YA

YA
XA
XA
図 4.8
ZB


XA

XA  XA

YA

YA
YA
YA

ZA

XA

XB
固定角によるロール・ピッチ・ヨー角
この場合でも前述の結果と同じ回転行列が得られる.基準座標系を固定軸とし
た場合の各軸回りの回転行列は
A
左
RB  R( Z A ,  ) R(YA ,  ) R( X A ,  )
から順次乗じていくことになる.
(4.16)
すなわち,固定軸回りに順次行われた回転は,回転軸を順次変更していく回転
を逆 の順 序で 行っ た結 果と 一致 する .
オイラー角やロール・ピッチ・ヨー角の定義は必ずしも一通りではなく,こ
こに紹介した以外にも様々な定義がある.参考書などを見る場合には角度の定
義に 注意 をす る必 要が ある .
4.4.
同次変換
回 転 行 列 の 説 明 で は 基 準 座 標 系  A と 物 体 座 標 系  B の 原 点 位 置 が 一 致 し てい
る と し て い た . こ こ で は ,  A と  B の 原 点 位 置 が 一 致 し な い 場 合 を 考 え る .す
な わ ち , 回 転 と 併 せ て 平 行 移 動 ( 並 進 ) と を 考 慮 す る 必 要 が あ る . 図 4.9 のよ
36
うに  B の 原 点 の 位 置 ベ ク ト ル を A porg , B で表 示さ れた 点 P の 位置 ベク トル を
B
p とす る.
P
B
ZA
A
p
ZB
XB
p
A
B
YB
porg
A
YA
図 4.9
XA
同次変換
この とき,  A で 表示 され た点 P の位 置ベ クト ル A p は 以下 のよ うに 記す こと が
でき る.
A
p  A RB B p  A porg
(4.17)
次に,この計算をひとつの行列を用いた変換として表すことを考える.すなわ
ち , 以 下 の よ う な 行 列 計 算 を 考 え れ ば , 式 (4.17)と 同 等の 計 算 を 行 うこ とが
でき る.
3
1
 A p   A RB

  
    
 1  0 0 0 
  
A
porg   B p


   
1   1 
3
1
(4.18)
 B p 
 TB 

 1 
A
A
TB は
4×4
行 列 で あ り , こ れ を 同 次 変 換 行 列 ( homogeneous
transformation matrix)と呼 ぶ.
同次変換の利点のひとつは
並進と回転
をひとつの行列で表すことができ,
計算の表現をコンパクトにできることである.また,スケーリングや透視変換
などの幾何学計算,画像処理計算も同じ形式で表すことができ,コンピュータ
37
グラフィックス分野などへの適応も容易となる.このような幾何学的な線形変
換 , 平 行 移 動 の 組 み 合 わ せ の 総 称 を ア フ ィ ン 変 換 (affine transformation) と
いう .例 えば ,ス ケー リン グの 処理 は
a
0

0

0
0 0 0
b 0 0 
0 c 0

0 0 1
のよ うに 書け ,ま た透 視変 換は
1
0

0

0

0
0
1
0
0
1
0 1
f
0
0 
0

1

のよ うに 同次 変換 行列 と同 じ 4×4 行列 で表 現で きる .
一方,同次変換の欠点は無駄な行列要素計算が増えることである.例えば,
回転 のみ の場 合,


R
Trot  


0 0 0
0
0 
0

1
(4.19)
とな り, 並進 のみ の場 合は ,
Ttrans
1
0

0

0
x
y 
0 1 z

0 0 1
0 0
1 0
のよ うに ,多 くの 行列 要素 が 0 あ る い は 1 の行 列と なる .
な お, 同変 換行 列の 逆行 列は
(4.20)
38
TB 1
A
 A RB 1


 
0 0 0 

 BTA
 A RB 1 A porg 




1

(4.21)
のよ うに なる .す なわ ち,
T 1  T T
(4.22)
であ る.
【例 題 4.1】
図 4.10 の よ う に , 基 準 座 標 系  A に対 し て物 体座 標系  B が図 に示 す位 置に
固定 され てい る.すな わち,  B の 原 点 は  A の Y A Z A 平 面 上 の [a,b] T の 位置 にあ
り,X B は X A に平 行,  B は X B 軸回り に  の 角 度 を 持 っ て い る .
1)
こ の 際 の  A か ら 見 た  B の回 転行 列 A RB を 求 め よ ( a, b, を用 いて 示 せ ).
2)
こ の 際 の  A か ら 見 た  B の 同 次 変 換 行 列 A TB を 求 め よ .
ZB
ZA
YB

b
A
B
XB
a
YA
図 4.10
XA
【解 答】
1)
X B , YB , Z B 座 標 軸 の 方 向 余 弦 x B , yB , z B を  A で記述 すれ ば,
1 
A
x B   0  ,
 0 
 0 
A
yB   cos   ,
 sin  
 0 
A
z B    sin  
 cos 
39
と な り , A RB   A x B
0
1

A
RB  0 cos 
0 sin 
A
yB
A
z B  であ るか ら, 結局 ,
0 
 sin  
cos 
を得る.
2)
 A か ら 見 た  B の原 点位 置は ro  [0, a, b]T であ るか ら,


A
TB  
0

1
0

0

0
を得る.
A
rO 


0 0  1 
0
0
0
cos   sin  a 
sin  cos b 

0
0
1
RB


40
5. ロボットアームの運動学
本章では,前章で示した座標変換行列の概念を利用し,ロボットアー
ムのように多自由度で多数の節(座標系)を有する機構について,そ
の運動を記述・分析する手法について説明する.
5.1.
順運動学
n 個の関節と n 個の節(リンク)からなる n 自由度のロボットアームを考え
る. リン ク, 関節 ,座 標系 の番 号は図 5.1 に示 し たよ うな 規則 で定 めら れる と
仮定 する .
関節i-1
関節i+1
関節i
i
 i 1
リンクi
リンク
i-1
2
 i 1
リンク
i+1
 n 1
関節n
n
リンクn
0
1
図 5.1
n 自由度のロボットアーム
こ こで,ロ ボ ッ ト の 関 節 に つ い て 改 め て 考 え れ ば ,ロ ボ ッ ト の 関 節 は ,通常 ,
次の 二つ に大 別さ れる .
1)
回 転 関 節:回 転 の 自 由 度 を 持 つ 関 節 .対 偶 の 概 念 で 説 明 す れ ば ,回 り 対 偶
によ って 構成 され る関 節.
2)
直 動 関 節:並 進 の 自 由 度 を 持 つ 関 節 .対 偶 の 概 念 で 説 明 す れ ば ,滑 り 対 偶
によ る関 節 .
41
関節の動きを表す変位を関節変位と呼び,その変数を関節変数と呼ぶ.回転
関節の場合,関節角度が関節変位となり,直動関節の場合,並進変位が関節変
位と なる .
座 標系 と番 号に つい ては ,台 座(べ ー ズ)節が  0 と な り ,こ れ が 基 準 座 標 系
に対応する.また,末端節(手先節)はエンドエフェクタとも呼ばれ,座標系
は n と な る .
以上の準備をしたのち,ロボットアームの姿勢を定める問題を考える.すな
わ ち , リ ン ク 座 標 系 i と  i 1 の関 係は,関 節 i の関 節変 位,なら びに リン ク自
体の幾何構造によって決定される.この関係を同次変換行列で表現することを
考え れば ,  i を  i 1 に 関 係 付 け る 変 換 行 列 は
i 1
Ti と 記 述 で き る .さ ら に ,先 端
節座 標系  n を 台 座 の 座 標 系( す な わ ち ,基 準 座 標 系 )  0 に 変 換 す る 行 列
Tn
0
はこれを繰り返し,以下のように表される.
Tn  0T1 1T2  n1Tn
0
(5.1)
すな わち ,  n で 表 し た 手 先 位 置 ベ ク ト ル n p を  0 で表 すに は
 0 p 0  n p
   Tn  
1
1
(5.2)
とす れば よい .
ロボットアームのリンク構造が与えられているとすれば,ロボットアームの
姿勢 は関 節変 数の みの 関数 にな る.ここ で,関節 変数を qi ( i  1,, n )と表 せ
ば, 同次 変換 行列 も関 節変 数 qi の関数 とな る.
i 1
Ti 
i 1
Ti (qi )
(5.3)
また , qi を 以 下 の よ うに ベ ク ト ル ( 関 節 変 数 ベ ク ト ル ) q で表 し,ま と めて表
現す れば ,
q   q1 q2  qn 
T
0
p  0T1 (q1 ) 1T2 (q2 ) n1Tn (qn )  f p (q )
(5.4)
(5.5)
の よ う に 書 く こ と も で き る . こ こ で , f p (q ) は 非 線 形 関 数 で あ り , ロ ボ ッ ト ア
ーム の構 造で 決ま る.
42
こ の よ う に ,関 節 変 数 q が 与 え ら れ た と き ,手 先 位 置 p を求 める 問題 を順 運
0
動 学 (direct kinematics) と 呼 ぶ . ロボ ッ ト ア ー ム の 構 造 が 既 知 で , か つ q が
与えられたとき, 0 p は
一意に求められる
.( 補 足 : 順 運 動 学 が 一 意 に 求め
られ るの は, 図 5.1 に 示 す よ う に ロ ボ ッ ト の 節 が 直 列 に 接 続 さ れ て い る シ リ ア
ルリンク,あるいは開ループ構造の場合のみ.パラレルリンク,あるいは閉ル
ー プ 構 造 を 持 つ 場 合 は 順 運 動 学 問 題 の 解 を 一 意 に 定 め る こ と は で き な い .)
【例 題 5.1】
図 5.2 に 示 す よ う な 2 リ ン ク ロ ボ ッ ト ア ー ム を 考 え る . 回 転 関 節 1,2 の 回 転
軸 は Z 0 軸 に 平 行 で , ロ ボ ッ ト ア ー ム は X 0Y0 平 面 内 を 運 動 す る . ロ ボ ッ ト ア ー
ム の 長 軸 は 物 体 ( リ ン ク ) 座 標 系 の X i ( i  1, 2 ) 軸 と 一 致 す る . 角 度 1 ,  2 が
与え られ たと きの 手先 P の位 置 0 p を, 同 次変 換行 列を 用い て求 めよ .
Z0
0
Z1
Y0
1
Z 2 2
Y1
X1
1
l1
l2
Y2
P
X2
2
X0
図 5.2
【解答】基準座標系とリンク1との関係について,次の同次変換行列が得られ
る.
 c1
 s
0
T1   1
0

0
 s1
c1
0
0
0
0
1
0
0
0 
0

1
同様に,リンク1とリンク2との関係について
43
c 2
 s
1
T2   2
 0

 0
 s 2
c 2
0
0
0 l1 
0 0 
1 0

0 1
の よ う に 表 す こ と が で き る . リ ン ク 2 の 座 標 系 2 か ら 見 た 手 先 P の 位 置 ベ ク
トル を 2 p2 とする と
 l2 
2
p2   0 
 0 
とな る. よっ て,  0 か ら み た 手 先 位 置 0 p は 次 の よ う に 表 す こ と が で き る .
c1  s1 0 0   c 2  s 2 0 l1  l2 
 0 p  0 1  2 p   s1 c1 0 0   s 2 c 2 0 0   0 
   T1 T2    
0
0
1 0  0
0
1 0  0 
1
1


 
0
0 1  0
0
0 1  1 
0
c1  s1 0 0  l1  l2 c 2   c1 (l1  l2 c 2 )  l2 s1s 2 
 s
c1 0 0   l2 s 2   s1 (l1  l2 c 2 )  l2 c1s 2 
1




0
0
0
1 0  0  



 
1
0
0 1  1  

0
l1c1  l2 c(1   2 ) 
 l s  l s (   ) 
 1 1 2 1 2 


0


1


逆運動学
5.2.
ロボットアームでの作業設計では,一般的に,作業に伴う手先の軌道をまず
最初に計画し,その動きを実現するための関節の動きを次いで設計する,とい
う手順を踏むことが多い.これを式で表せば,関節変数ベクトルと手先位置と
の関 係が 次式 によ り与 えら れる とき,
0
p  f p (q )
手先位置
0
(5.6)
p を 既 知 と し て , こ れ よ り 関 節 変 数 q を 求 め る 問 題 に 対 応 す る .こ
44
の よ う な 計 算 過 程 を 逆 運 動 学 ( inverse kinematics) と 呼 ぶ . つ ま り , 逆 運 動
学と は順 運動 学を 表す 関数 f p (q ) の 逆 関 数
q  f p 1 ( 0 p)
(5.7)
を求 める 問題 であ る.
非線形関数の一般的な逆関数が存在しないのと同様に,ロボットアームの逆
運動学問題についても, q を
常に求められるとは限らない
. 例 え ば,
手先が届かない位置 p を与えてもそれを実現する q は存在しないことは容易
0
に 理 解 で き よ う . ま た , q が 存 在 し て も そ の 値 を 一 意 に 定 め る こ と が で き ない
場合 もあ る. 例え ば,図 5.3 の よ う な 3 リ ン ク の ロ ボ ッ ト ア ー ム を 考 え る と ,
手先 リン ク( リンク 3)の 位置 ・姿 勢が 同じ でも リン ク 1 と リ ン ク 2 は 二 通 り
の取 り得 る姿 勢が 考え られ る.
リンク3
姿勢1
リンク2
リンク1
姿勢2
図 5.3
逆 運動 学問 題
このように順運動学と比較して,逆運動学を解くことには厄介な問題が多く
含まれることになる.産業用ロボットの多くはこのような問題を解きやすいよ
うに関節の自由度の配置など機構の構造に工夫を凝らしていることが多く,そ
れぞれの機構構造について逆運動学の解法が提案されている.しかし,これら
の逆運動学の解法は,一般的な機構学としてはやや個別的な問題となるので,
本書 では 特に 言及 しな い.
参考:ロボットアームの運動を記述する方法として,順運動学,逆運動学に
ついて説明したが,力と加速度を含む動力学を考慮した場合,同様に順動力学
(direct dynamics), 逆動 力学 (inverse dynamics) と い う 概 念 , 方 法 論 も 存
在する.これらの動力学計算についても本書では言及しない.
45
5.3.
デ ナ ビ ッ ト - ハ ル テ ン ベ ル グ ( Denavit-Hartenberg) の 方 法 に よ る リ ン
クの座標系と運動の表現
ロボットの運動を記述する際に物体座標系(リンク座標系)をリンクに対し
てどのような位置に定義しても理論的には問題ないが,一般的には
Denavit-Hartenberg の 方 法( DH 法 )に よ り リ ン ク 座 標 系 と 運 動 の 定 義 が 行 わ
れ る こ と が 多 い . 以 下 の そ の 定 義 を 示 す ( 図 5.4).
関節i
i
関節i  1
リンクi  1
ai
yi
リンクi
Hi
i
リンクi  1
zi 1
Oi 1
図 5.4
1)
yi 1
zi
Oi
xi
di
xi 1
i
Denavit-Hartenberg の方法
リ ン ク 番 号( 座 標 系 番 号 )
:ベ ース が 0,エ ン ド エ フ ェ ク タ に 向 か っ て 順 に
1,2,3,…とす る.
2)
関 節 番 号:ベ ー ス 側 か ら エ ン ド エ フ ェ ク タ に 向 か っ て 順 に 1,2,3,…とす る.
3)
リン ク座 標 系  i (Oi  xi yi zi ):以 下 の よ う に し て 原 点 ,座標 軸の 定義 を行 う.
1.
zi 軸: i  1 番 目 の 関 節 の 回 転 軸 を zi 軸と する .
2.
zi 1 軸と zi 軸 の 共 通 法 線 を H i Oi と す る .
3.
原 点 Oi : 共 通 法 線 H i Oi と zi 軸と の交 点を 原点 Oi とす る.
4.
xi 軸:共 通 法 線 H i Oi を 含 む 直 線 上 に xi 軸 を と る .向 き は H i から Oi に
向か う方 向を 正と する .
46
yi 軸 : xi 軸 と zi 軸 に 対 し て , 座 標 系 が 右 手 系 と な る よ う に yi 軸 を 定
5.
める.
こ れ ら の 定 義 に よ り ,リ ンク 座標 系 i 1 に 対 す る i の 相 対 的 な 位 置 と 姿 勢 は
次の4つのパラメータによって表される.
1)
ai : zi 1 軸と zi 軸 の 共 通 法 線 の 長 さ ( リ ン ク の 長 さ ).
2)
di : Oi 1 か ら共 通法 線 H i Oi と zi 1 軸 と の 交 点 H i までの 長さ .
3)
 i : zi 1 軸 に 対 し て zi 軸 の な す 角 度 ( リ ン ク の ね じ れ 角 ). xi 軸 の 方 向 が
正.
4)
i : xi 1 軸 に 対 し て xi 軸 の な す 角 度 . zi 1 軸 の 方 向 が 正 .
以 上よ り,  i か ら i 1 へ の 変 換 は 以 下 の 手 順 の 同 次 変 換 に よ っ て 表 現 さ れ る .
1)
zi 1 軸 ま わ り の 角 度  i の 回 転 : Trot ( zi 1 , i )
2)
zi 1 軸, xi 軸方 向へ の di , ai の並 進: Ttrans (ai ,0, d i )
3)
xi 軸 ま わ り の 角 度  i の 回 転 : Trot ( xi , i )
DH 法 で は , こ れ ら の 一 連 の 同 次 変 換 に よ っ て ロ ボ ッ ト の 機 構 と 運 動 を 表 現 す
る. すな わち , i か ら  i 1 へ の 同 次 変 換 行 列
i 1
i 1
Ai の行 列 要素 は
Ai  Trot ( zi 1 , i ) Ttrans (ai ,0, di ) Trot ( xi , i )
cos i
 sin 
i

 0

 0
cos i
 sin 
i

 0

 0
 sin i
cos  i
0
0 0  1 0 0 ai  1
0




0 0  0 1 0 0  0 cos  i
1 0  0 0 1 d i  0 sin  i


0
0 1  0 0 0 1  0
0
 sin i cos  i sin  i sin  i ai cos  i 
cos  i cos  i  cos i sin  i ai sin  i 
di 
sin  i
cos  i

0
0
1 
0
 sin  i
cos  i
0
0
0 
0

1
(5.8)
のよ うに 書く こと がで きる .回転 関節 の 場合 は  i が関節 変数 qi と な り ,直 動 関
節の 場合 は di が 関 節 変 数 qi とな る.関節 変数 以外 の 3 つ の パ ラ メ ー タ は ロ ボ ッ
トリ ンク の機 構に よっ て決 まる .
47
【例 題 5.2】
前 述の 例 題 5.1 の ロ ボ ッ ト ア ー ム の 座 標 系 の 定 義 は こ の DH 法 には 準拠 して
い な い. 例題 5.1 の ロ ボ ッ ト ア ー ム に つ い て , DH 法 に 準 拠 し て 座 標 系 を 定 義
しな おし ,そ れに 基づ いて 手先 P の位 置を 求め よ.
【解 答】DH 法 に 準 拠 し た 座 標 系 の 定 義 は 以 下 の 通 り ( 図 5.5).
Z0
Y0
0
1
Z2
Z1  2
l1
Y1
1
Y2
l2
2
P
X2
X1
X0
図 5.5
前 述の 基本 的な DH 法 だ け で は , 末 端 節と ベ ー ス 節 ( 第 0 節 =基 準座 標系 )
の座標系の定義は難しい.ここではそのような特例的な場合の座標系の定義に
は 言 及 し な い ( 機 構 学 の 講 義 で 扱 う に は 専 門 的 過 ぎ る ). ま た , こ の 例 で は 2
つ の 回 転 軸 が 平 行 な た め , zi 1 軸 と zi 軸 の 共 通 法 線 を 一 意 に 決 め ら れ な い ( 無
数に 考え られ る).こ の場 合は 通常 , H i を Oi 1 上に 選ぶ .
こ の 座 標 系 の 定 義 に 基 づ き ,順 運 動 学 問 題 を 解 く .ま ず ,基 準 座 標 系 と 1 と
の関 係に つい て同 次変 換行 列は
c1
 s
0
T1   1
0

0
 s1
c1
0
0
0 l1c1 
0 l1s1 
1
0 

0
1 
のよ うに なる .同 様に , 1 と  2 との 関係 につ いて
48
c 2
 s
1
T2   2
 0

 0
 s 2
c 2
0
0
0 l2 c 2 
0 l2 s 2 
1
0 

0
1 
が得 られ る. リン ク 2 の 座 標 系  2 か ら 見 た 手 先 位 置 2 p は
2
0 
p  0 
0 
とな るか ら,  0 か ら み た 手 先 位 置 0 p は 以 上 よ り ,
c1
 0 p  0 1  2 p   s1
   T1 T2    
0
1
1

0
 s1 0 l1c1  c 2
c1 0 l1s1   s 2
0
1
0  0

0
0
1  0
 s 2
0 l2 c 2  0 
c 2 0 l2 s 2  0 
0
1
0  0 
 
0
0
1  1 
c1  s1 0 l1c1  l2 c 2  l2 c1c 2  l2 s1s 2  l1c1 
 s
c1 0 l1s1  l2 s 2  l2 s1c 2  l2 c1s 2  l1s1 
1



0

0
0
1
0  0  


 

1
0
0
1  1  
0

l1c1  l2 c(1   2 ) 
l s  l s (   ) 
1 1 2 1 2 


0


1


のよ うに なり ,例 題 5.1 と 同 じ 結 果 を得 る.
5.4.
ヤコビ行列
ここではリンク(ロボットアーム)における微小変位や速度を取り扱うこと
を考える.そのために,最初にヤコビ行列の概念の導入を行う.
一 般に , k 次元ベ クト ル
z   z1
z2  zk 
と l 次 元ベ クト ル
T
49
y   y1
y2  yl 
T
の間 に
y  f (z)
(5.9)
が成り立つとき,この微小変動を取り扱う問題を考える.ここで l  k 行列
f1 
 f1

 z
zk 
 1
 f

J (z)  
 

 z
f
f


 
  
 z1
zk 
(5.10)
をヤ コ ビ 行 列 (Jacobian matrix)と 呼 び, これ より 微小 変位 を
f
dz
z
 J ( z ) dz
dy 
( 5.11)
と表す.ヤコビ行列は微係数の概念をベクトル変数に拡張したものと考えるこ
とが でき る.
このヤコビ行列を用いれば,ロボットアームの手先の
速度
と
関節速度
と の 関 係 を 簡 潔 に 表 現 で き る .す な わ ち ,手 先 位 置 0 p と 関節 変数 ベク トル q と
の関 係式( 順 運 動 学 )は 以 下 の よ う な 関 数 f p (q ) に よ っ て 表 す こ と が で き る が ,
0
p  f p (q )
(5.12)
これ を時 間微 分す れば ,
0
p  J (q )q
(5.13)
を得 る. ただ し,
q 
dq
dt
J (q ) 
f p (q )
q
であ る.この よう に,ヤコ ビ行 列に より 手先 速度 0 p と 関 節 速 度 q との関 係を 得
50
るこ とが でき る.一般 に式( 5.12)の q と p の関 係( 順運 動学 )は
0
ある が, 式( 5.13) に よ る 速 度 関 係 式 は
線形
非 線形
で
の関係式になる.
この速度関係式をさらに微分すれば,以下の加速度の関係式が得られる.
0

p  J (q)q  J (q)q
(5.14)
【例 題 5.3】
図 5.6 に 示 す 2 リ ン ク ロ ボ ッ ト ア ー ム を 考 え る . 関 節 角 度 1 ,  2 の とき 手先
位置 が ( x, y ) と し た 場 合 , こ の 系 の ヤ コ ビ 行 列 を 求 め よ .
( x, y )
Y
l2
2
l1
1
X
図 5.6
【解 答】 手先 位置 ( x, y ) を 1 ,  2 で 表 す 順 運 動 学 の 方 程 式 は
x  l1 cos 1  l2 cos(1   2 )
y  l1 sin 1  l2 sin(1   2 )
のよ うに なる .こ れの 微小 変動 を求 める.
dx  l1 sin 1d1  l2 sin(1   2 )(d1  d 2 )
 {l1 sin 1  l2 sin(1   2 )}d1  {l2 sin(1   2 )}d 2
dy  l1 cos 1d1  l2 cos(1   2 )(d1  d 2 )
 {l1 cos 1  l2 cos(1   2 )}d1  {l2 cos(1   2 )}d 2
これ をま とめ れば ,
 dx   l1 sin 1  l2 sin(1   2 ) l2 sin(1   2 )   d1 
 dy    l cos   l cos(   ) l cos(   )   d 
1
2
1
2
2
1
2 
2
  1
のように書ける.したがって,ヤコビ行列は
 l1 sin 1  l2 sin(1   2 ) l2 sin(1   2 ) 
J 

 l1 cos 1  l2 cos(1   2 ) l2 cos(1   2) 
とな る.
51
リンクの速度関係
5.5.
ヤコビ行列を用いれば,手先の速度,加速度をシステマティックに求めるこ
とができるが,各リンクごとの速度,角速度,加速度などを知るためにはリン
ク間の座標変換を正確に理解,計算する必要がある.
(1 )
角速 度ベ クト ルの 復習
ま ず , 角 速 度 ベ ク ト ル の 復 習 を し よ う . 図 5.7 に 示 す よ う に , 大 き さ が  ,
向 き が 回 転 軸 と 一 致 す る ベ ク ト ル を 角 速 度 ベ ク ト ル ω と す る と , ω で回 転す る
点 P の 速 度 v は位 置ベ クト ル r と の ベ ク ト ル 積
v  ω r
(5.15)
z
で表 すこ とが でき る.
ω

P
v
r
図 5.7
(2 )
角速度ベクトル
座標系の回転
次 に 座 標 系 自 体 が 回 転 し て い る 場 合 を 考 え る . す な わ ち , 図 5.8 に示 すよ う
に  B が  A に対 し て 角 速 度 度 ベ ク ト ル A ωB で回 転 し て いる と す る . また , p は
B に 対 し て
B
v
d B
( p)
dt
の速 度ベ クト ルを 持っ てい る. この ときの  A に対す る速 度
A
v
d A
( p)
dt
を求 める 問題 を考 える .
52
ZA
v
ZB
p
YB
B
YA
A
ω
XB
XA
図 5.8
座標系 の 回転
まず , A p と B p の関 係は 回転 行列 A RB を 用 い て
A
p  A RB B p
(5.16)
のように書ける.この両辺を時間微分すれば,
d A
d
( p)  ( A RB B p)
dt
dt
d
d
 A RB ( B p)  ( A RB ) B p
dt
dt
(5.17)
とな る. ここ で,
A
RB   A x B
A
yB
A
z B 
p   B px
B
py
B
pz 
B
T
とす れば ,式 (5.19) の右 辺第 二項 は
d A
d
d
d
( RB ) B p  ( A x B ) B px  ( A yB ) B p y  ( A z B ) B pz
dt
dt
dt
dt
A
A
B
A
A
B
 ωB  x B px  ωB  yB p y  A ωB  A z B B pz
 ωB  ( x B px  yB p y  z B pz )
A
A
B
A
B
A
B
 A ωB  ( A RB B p)
の よ う に 変 換 で き る こ と が わ か る . 結 局 , 式 ( 5.17),( 5.18) より
(5.18)
53
d A
d
( p)  A RB ( B p)  A ωB  ( A RB B p)
dt
dt
(5.19)
を得 る.
(3 )
リン クの 速度 の関 係
次 いで ,n 自 由 度 の ロ ボ ッ ト ア ー ム の リ ン ク 間 の 速 度 関 係 を 求 め て み る . リ
ンク 番号 ,関 節番 号を図 5.9 の よ う に 定 義 し , 座 標 系 間 の 相 対 位 置 ベ ク ト ル を
i 1
pˆ i ( i 1 の 原 点 か ら i の 原 点 ま で の 位 置 ベ ク ト ル を i 1 で 表し たも の)の よ
うに 定義 する .
関節i
i 1
 i 1
0
リンクi
リンクi-1
関節i-1
p̂i
i
pi 1
0
pi
0
図 5.9
リ ン ク座 標 系
基 準座 標系  0 か ら 見 た , n リ ン ク の ロ ボ ッ ト ア ー ム の 第 i 関節 にお ける 速度
0
p i ,角 速度 0 ωi は 次 式 に よ り 与 え ら れ る .
0
ωi  0 ωi 1  0 Ri i eqi
0
p i  0 p i 1  0 ωi 1  ( 0 Ri 1 i 1 pˆ i )
(5.20)
ここ で,第 i 関 節 は 回 転 関 節 と し ,その 回転 軸の 向き が単 位ベ クト ル i e であり ,
角度 は qi とし て ある .
加速度,角加速度は上式を微分することで得られる.
【例 題 5.4】
例 題 5.3( 図 5.6)の 2 リン クロ ボッ トア ーム につ いて,リン ク 間の 速度 の関
54
係式より関節速度と手先速度との関係を求め,それが,ヤコビ行列による表現
と一 致す るこ とを 確か めよ .
【解 答】 3 次 元 の 座 標 系 を 図 5.10 のよ うに 定め る(図 5.2 と同 様 ).
Z0
0
Z1
Y0
1 1
Z 2 2
Y1
P1
X1
l1 Y2
2
X2
P2
l2
P3
図 5.10
X0
点( 関節 ) P1 に つ い て
0  c1
0
ω1  0 ω0  0 R1 1e1  0    s1
0   0
 s1
c1
0
0  0   0 
0   0    0 
1  1  1 
 0   0   1 0 0   0    0 


0
p1  0 p 0  0 ω0  ( 0 R0 0 pˆ1 )  0   0     0 1 0  0    0 
0  0    0 0 1  0   0 
点 P2 に つ い て
 0  c(1   2 )  s (1   2 ) 0   0   0 
0
ω2  0 ω1  0 R2 2 e2   0    s (1   2 ) c(1   2 ) 0   0    0 
1  
0
0
1  2  1  2 
0
p 2  0 p1  0 ω1  ( 0 R1 1 pˆ 2 )
0   0   c1

 0    0     s1
0  1    0
点 P3 につ い ても 同様 に
 s1
c1
0
0  l1    0  l1c1   l1 s1  1 



0   0     0   l1 s1    l1c1  1 

1   0   1   0  
0

55
0
p 3  0 p 2  0 ω2  ( 0 R2 2 pˆ 3 )
 l1 s1  1   0   c(1   2 )  s (1   2 ) 0  l2  




  l1c1  1    0     s (1   2 ) c(1   2 ) 0   0  

      
0
0
0
1   0  

  1 2 
 l1 s1  1   l2 s (1   2 )  (1  2 ) 


 
  l1c1  1    l2 c(1   2 )  (1  2 ) 


 
0
0


 
 l1 s1  l2 s (1   2 ) l2 s (1   2 )  
 
  l1c1  l2 c(1   2 ) l2 c(1   2 )   1 
2 



0
0
とな る.XY 成分 だけ を見 れば ,
 x   l1 s1  l2 s (1   2 ) l2 s (1   2 )  1 
 y    l c  l c(   ) l c(   )    
2
1
2   2 
   1 1 2 1 2
となり,ヤコビ行列を用いた表現と一致する.
5.6.
ヤコビ行列による逆運動学(速度分解による逆運動学)
ロ ボ ッ トア ー ム の 関 節変 数 を q , 手 先位 置 を p と す れば , ヤ コ ビ 行 列 J を 用
いて ,
p  J (q)q
のよ うな 関係 が成 り立 つこ とを 式( 5.13)で 示し た .ここ では ,手 先位 置速 度 p
が 与 え ら れ た と し て , そ こ か ら 関 節 速 度 q を 求 め る 問 題 を 考 え る . す な わ ち,
速度 分解 によ る逆 運動 学を 求め る.
手 先位 置を 表す ため の次 元数 を m と し( 通 常 ,これ を 作 業 空 間 の 次 元 と い う ),
ま た , ロ ボッ ト ア ー ム の自 由 度 の 数 を n とし た 場 合 , m と n と の 大 小 関 係 や ヤ
コビ行列の性質によって,解が以下のように異なってくる.
(1 )
m  n でヤコビ行列が正則のとき
m  n ,すな わ ち 手 先 位 置 を 表 す 次 元 数 と 関 節 自 由 度 数 が 一 致 し て い る と き ,
J (q ) は正 方行 列と なり ,かつ J (q ) が 正則 であ れば ,そ の 逆行 列 が存 在し , q は
q  J 1 (q) p
(5.21)
56
より 求め るこ とが でき る.
こ こ で ,正 則 行 列 の 復 習 を し て お く .正 方 行 列 A に つ い て ,逆 行 列 が 存 在 す
る 場 合 ,そ の 行 列 は
分条件はその
正則
で あ る と い う .行 列 A が 正 則 で あ る た め の 必 要 十
行列式がゼロ
でないこと,すなわち,
det A  0
(5.22)
が成 り立 つこ とで ある .
このような条件の場合,ヤコビ行列の逆行列によって関節速度を求めること
ができる.さらにこれを微小変位について繰り返し計算することで,逆運動学
を解 くこ とも 可能 であ る.
(2 )
m  n だがヤコビ行列が正則でないとき
m  n ,すなわち手先位置を表す次元数と関節自由度数が一致しているが,
J (q ) が正 則行 列で はな い場 合, すな わち,
det J (q)  0
(5.23)
の と き , 式 ( 5.21) は 成 り 立 た ず , q を 求 め る こ と が で き な い . こ の と き の 姿
勢 q を 特 異 姿 勢 ( 特 異 点 )(singular configuration) と 呼 ぶ .
この特異姿勢の概念を,実際のロボットの運動と対応させて考えてみる.す
なわち,特異姿勢とは,いかなる関節速度を与えても,ある方向の手先速度を
発生できなくなってしまう姿勢のこと,あるいは,任意の手先速度を実現する
ための関節速度を求めることができない姿勢のことである.
例 えば , 図 5.11 に 示 す よ う な 2 リ ン ク の ロ ボ ッ ト ア ー ム を 考 え る . こ こ で ,
関節 角度 がθ =
0°,180°
の と き , い か な る  を 与 え て も , リ ン ク の 軸 方
向に手先速度を向けることができない.つまり,この姿勢が特異姿勢となる.
この特異姿勢の問題は,ロボットの制御において厄介な問題の一つである.
実際のロボットにおいては,この特異姿勢を回避するための機構設計や制御方
法に 工夫 をし てい る.
57
Y

 0
X
  180
可到達領域
図 5.11
(3 )
特異 姿勢
m  n の場 合
m  n ,すなわち手先位置を表す次元数よりロボットアームの関節自由度が
大 き い 場 合 , 手 先 位 置 速 度 p を 定 め る 関 節 速 度 q の 組 み 合 わ せ は 無 数 に 存 在す
る こ と に な る . こ の よ う な 場 合 , 関 節 自 由 度 が 冗 長 ( redundant) で あ る とい
う. また , n  m を 冗 長 自 由 度 と 呼 ぶ .
こ の よ う な 場 合 , 式 ( 5.21) の よ うな 逆 行 列 を 通 常 の 方法 で は 求 め るこ と が
できない.冗長自由度系の逆運動学として,擬似逆行列を用いて解く方法が提
案されているが,本書では言及しない.
【例 題 5.5】
図 5.12 に 示 す 2 リ ン ク ロ ボ ッ ト ア ー ム の 特 異 姿 勢 を 求 め よ .
( x, y )
Y
l2
2
l1
1
X
【解 答】 この 系の ヤコ ビ行 列は 例題 6.3 より
図 5.12
58
 l1 sin 1  l2 sin(1   2 ) l2 sin(1   2 ) 
J 

l
cos

l
cos(


)
l
cos(





1
1
2
1
2
2
1
2)


であ るか ら, その 行列 式 det J は
det J  l1l2 sin(1   2 ) cos 1  cos(1   2 ) sin 1 
 l1l2 sin  2
とな り, 2 =
0,180°
の 際 に det J は 0 と なる .すな わち, 2 =
0,180°
姿勢 が特 異姿 勢で あり ,こ れは 図 5.11 で 示 し た 特 異 姿 勢 と 一 致 す る .
の
59
6. ロボットアームの静力学
この章ではロボットアームが静止しているときの各リンクや手先に
作用するカやモーメントの関係を調べる.本書では力学として動きを
伴わない静力学までを対象とし,動きと力の関係を取り扱う動力学に
つ い て は 言 及 し な い . こ の 静 力 学 と 運動 学 と は
双対
の関係にある
と言われており,運動学と対比させて考えると理解しやすい.
リ ン ク 間 の カ ·モー メ ン ト 関 係
6.1.
ま ず , 隣 り 合 う リ ン ク の 力 と モ ー メ ン ト の 伝 達 を 考 え る . 図 6.1 に示 すよ う
に各リンクの作用する力とモーメント,ならびに機構の幾何特性を定義する.
i
ni
i
i 1
ni 1
i 1
i
fi
リンクi
pi
リンクi-1
i 1
図 6.1
i 1
fi 1
リンク間の力とモーメントの伝達
すな わち ,
i
fi
:  i で 表し たリ ンク i-1 か ら リ ン ク i に 作 用す る力
i
ni
:  i で 表し たリ ンク i-1 か ら リ ン ク i に 作 用す るモ ーメ ント
i 1
pi
:  i 1 で 表 し た i 1 の 原 点 か ら i の原 点ま での 位置 ベク トル
60
i 1
: i か ら i 1 への回 転行 列
Ri
である.なお,ここでは重力は考慮していない.
リンク間の力やモーメントの伝達を考える場合,作用と反作用の関係を明確
化す るこ とが 重要 とな る. ここ では ,
 fi
:リ ンク i か らリ ンク i-1 に作 用す る力
ni
:リ ンク i か らリ ンク i-1 に作 用す るモ ーメ ント
と定 義す る. 以上 の準 備に より ,リ ン ク i に 関 す る 力 と モ ー メ ン ト の つ り 合 い
式は 以下 のよ うに なる .
i 1
f i 1  i 1 f i  0
i 1
i 1
ni 1 
ni 
i 1
pi 
i 1
fi  0
(6.1)
これ より リン ク i と 隣 接 す る リ ン ク i-1 との 間の 力と モー メン トは
i 1
f i 1 
i 1
Ri i f i
i 1
ni 1 
i 1
Ri i ni  i 1 pi  ( i 1 Ri i f i )

i 1
Ri i ni  i 1 pi  i 1 f i 1
(6.2)
のよ うに 書く こと がで きる .
手 先 節 に 作 用 す る 力 と モ ー メ ン ト f i , ni が 既 知 で あ る な ら ば , す な わ ち , 手
先節に外から力やモーメントの大きさなどが何らかの力センサなどによって測
定可 能と する なら ば,式( 6.2)の 計算 をリ ンク n( 先 端 )から リ ン ク 0( 台 座 )
まで繰り返すことで,全ての関節の力・モーメントを得ることができる.
6.2.
手 先 と 関 節 の 間 の カ ·モ ー メ ン ト 関 係 ( ヤ コ ビ 行 列 を 用 い た 力 解 析 )
運動学計算においても,座標変換に基づいて,リンク間の速度の関係を調べ
る方法とヤコビ行列を用いて関節変数と手先節速度との関係を調べる方法とが
あった.ロボットアームの静力学に関しても同様な関係を導くことができる.
今 ,n 自 由 度 の ロ ボ ッ ト ア ー ム の 静 力 学 ( 静 止 状 態 ) を 考 え , ロ ボ ッ ト ア ー
ムの 手先 で発 揮さ れる カ·モー メン トベ クト ルを
f   f1
f2 
fm 
T
61
とし ,関 節駆 動力 を
τ   1  2   n 
T
と し た と き ,手 先 力 f と 駆 動 力 τ の 関係 を求 める 問題 を考 える .なお ,手 先 力
f で は 力 と モ ー メ ン ト を 一 般 化 し て 扱 っ て お り ,同 様 に 駆 動 力 τ につい ても 直
動関節,回転関節の駆動力を一般化して扱っている.
ここで,
仮想仕事の原理
の 導 入 を 行 う .一 般 に ,剛 体 に 働 く 力 f i が つ り
あっ てい る時 ,任意 の仮 想 的な 変位  ri に 対 し て 各 々 の 力 の な す 仕 事 の 和  W は
ゼロとなる.これが
仮想仕事の原理
であり,解析力学などでよく利用され
る考 え方 であ る. これ を式 で記 せば
 W   f i ri  0
(6.3)
i
となる.この仮想仕事の原理に基づけば,リンク系の仮想変位による仕事は手
先の仮想変位による仕事と等しいと考えることができる.すなわち,
f T p  τ T q
(6.4)
とな る.ここ で, dp は手 先位 置の 仮想 変位 ベク トル(m 次 元 )で あ り ,同 様 に
dq は 関 節 変 数 の 仮 想 変 位 ベ ク ト ル (n 次 元 )で ある .
ま た, ヤコ ビ行 列の 関係 より ,
 p  J (q) q
(6.5)
であ るか ら,
f T J q  τ T  q
(6.6)
f T J  τT
(6.7)
とな り, この 式の 両辺 の転 置を とれば
τ  JT f
(6.8)
なる 関係 を得 る( 注: ( AB )  B A ).結 局,ヤ コビ 行列の 転置 行列 によ って f
T
T
T
と τ の 関 係 が 与 え ら れ る . こ の 静 力 学 の 式 は , 運 動 学 に お け る ヤ コ ビ 行 列 の式
(5.13) と 双 対 的 な 関 係 に な っ て い る .
62
【例 題 6.1】
T
図 6.2 に 示 す 2 リ ン ク ロ ボ ッ ト ア ー ム の 手 先 で 力 f  [ f x
f y ] を発生 させ た
い . ヤ コ ビ 行 列 を 用 い て , 各 関 節 に 必 要 な 駆 動 力 τ  [ 1  2 ] を 求 め よ .
T
Y
f  [ fx
l2
l1
1
T
fy]
2
2
X
図 6.2
1
【 解 答 】 こ の 2 リ ン ク ロ ボ ッ ト ア ー ム の ヤ コ ビ 行 列 は 例 題 6.3 より 次式 で与 え
られ る.
 l sin 1  l2 sin(1   2 ) l2 sin(1   2 ) 
J  1

 l1 cos 1  l2 cos(1   2 ) l2 cos(1   2 ) 
手先で発生する力と関節駆動力の関係はヤコビ行列を用いて,
τ  JT f
であ るか ら,
 τ1 
T
τ   J
 2
 fx 
f 
 y
 l sin 1  l2 sin(1   2 ) l1 cos 1  l2 cos(1   2 )   f x 
 1
 f 
l2 cos(1   2 )
l2 sin(1   2 )

 y
  f x l1 sin 1  f x l2 sin(1   2 )  f y l1 cos 1  f y l2 cos(1   2 ) 


 f x l2 sin(1   2 )  f y l2 cos(1   2 )


を得 る.
【例 題 6.2】
例 題 6.1 と 同 じ 問 題 を , 力 と モ ー メ ン ト の 釣 り 合 い の 条 件 よ り 解 け .
【解答】手先に近い関節より順に求める.まず, 2 について
63
 p2, x   f x 
 f 
p
2,
y

  y
2  
l cos(1   2 )   f x 
2
 
 l2 sin(1   2 )   f y 
  f x l2 sin(1   2 )  f y l2 sin(1   2 )
つい で,  1 につ いて 解け ば,
 p1, x   f x 
 f 
p
 1, y   y 
1   2  
l cos 1   f x 
2   1
 f 
l

sin
1  y
1
  f x l1 sin 1  f x l2 sin(1   2 )  f y l1 cos 1  f y l2 cos(1   2 )
となり,ヤコビ行列を用いた解法と同じ結果を得る.
6.3.
機械 (運 動) イン ピー ダン ス
静力学からはやや外れるが,運動と力とを結び付ける概念として,機械イン
ピ ー ダ ン ス に つ い て も 簡 単 に 紹 介 す る . 機 械 イ ン ピ ー ダ ン ス ( mechanical
impedance)とは 運 動 に 関 す る 変 数( 変 位 ,速 度 ,加 速 度 )を カ ·ト ル ク に 変 換
する 物理 量の 総称 であ る.具 体 的 に は 以 下 に 示 す
慣性
1)
スティフネス
, 粘性
,
の総 称で ある .
ス テ ィ フ ネ ス ( stiffness): ス テ ィ フ ネ ス ( 剛 性 ) は 変 位 x を 力 f に 変 換
する パラ メー タで ある .す なわ ち,
f  K dx
(6.9)
こ こ で , K は ス テ ィ フ ネ ス 行 列 , dx  x  x で あ り , x は 平 衡 点 位 置 であ
る . な お , ス テ ィ フ ネ ス の 逆 を コ ン プ ラ イ ア ン ス ( compliance) と い う .
dx  Cf
(6.10)
ここ で, C はコ ンプ ライ アン ス行 列で ある .
2)
粘 性 ( viscosity): 粘 性 は 速 度 x を 力 に 変 換 す る パ ラ メ ー タ で あ る . す な
わち,
64
f = Bx
( 6.11)
ここ で, B は粘 性行 列で ある .
3)
 を 力 に 変 換 す る パ ラ メ ー タ で あ る . す な
慣 性 ( inertia): 慣 性 は 加 速 度 x
わち,

f = Mx
(6.12)
ここ で, M は 慣 性 行 列 で あ る .
これらの機械インピーダンスの総合表現として,以下のような線形モデルが
よく 利用 され る.
  Bx  Kdx
f  Mx
(6.13)
ロボットアームが運動し,外部環境と接触するとき,その接触反力の大きさ
はロボットアームの機械インピーダンスによって決まる.すなわち,機械イン
ピーダンスが大きい場合,反力は大きくなる.逆に,インピーダンスが小さい
場合 ,反 力も 小さ くな る.
例えば,ロボットアームによるボルトのねじ穴への挿入などの作業の際には
このような機械インピーダンスの調節が重要になる.インピーダンスの調整法
として,バネなどの機械要素によりハードウエアで実現する方法とソフトウエ
ア に よ り 駆 動 力 を 制 御 し て 実 現 す る 方 法 と が あ る . 図 6.3 はバ ネ によ りイ ンピ
ーダンス調整を行うロボットハンドの例である.
図 6.3
ばね特性を有したロボットハンドの例
65
7. リンク機構
前 章 ま で は ロ ボ ッ ト ア ー ム を 想 定 し ,基 本 的 に 3 次元 の運 動を 取り 扱
う 方 法 に つ い て 述 べ た . こ の 章 か ら は, 再 び 一 般 的 な 機 構 を 対 象 と し
た 運 動 解 析 を 扱 う . こ の 章 で扱 う リ ン ク 機 構 はロ ボ ッ ト ア ー ム と 構 造
が 類 似 し て い る と こ ろ が あ り , 同 様 の 分 析方 法 も 可 能 で あ る が , リ ン
ク 機 構 独 自 の 理 論 , 解 析 の 方 法 論 も も ち ろ ん あ る . ま た ,3 章 で 示 し
た瞬間中心などの剛体の運動分析の方法も有用であり,それらについ
ても再度紹介する.
7.1.
平面リンク機構
(1 )
リン ク機 構の 特徴
リ ン ク 機 構 (linkage mechanism) と は 比 較 的 細 長 い棒 状 の 剛 体 を 回 り 対 偶
や滑り対偶などの低次対偶で結びつけて作った機構である.ロボットアームと
対 比 し て 考 え れ ば , ロ ボ ッ ト ア ー ム は , 一 般 に 図 7.1(a)に 示す よう に開 ルー プ
(直鎖リンク,あるいはシリアルリンク)構造であり,多自由度の運動が可能
になっている.また,各関節にはアクチュエータが取り付けられ,能動的に制
御さ れる のが 一般 的で ある .
(a) 開 ル ー プ 機 構
図 7.1
(b) 閉 ル ー プ 機 構
開ループ構造と閉ループ構造の比較
こ れに 対し て, リン ク機 構は ,図 7.1(b)に示 す よう に
鎖( chain)) で あ り ,基 本 的 に 系 全 体 で
1自由度
閉ル ープ
構 造( 連
で あ る .そ の た め , 機 構
により定められた一定の運動を行う.アクチュエータはひとつの節のみを駆動
66
するようにし,他の節はそれに従属して運動する.
リンク機構を用いれば,単純な回転運動,直線運動を様々な運動に変換する
こと がで きる .図 7.2 は リ ン ク 機 構 を 応 用 し た カ ニ 型 ロ ボ ッ ト の 例 で あ る . ま
た,リンク機構は動力の伝達機構としても有用である.
本章では特に平面内のリンク機構について,説明を行う.
図 7.2 カ ニ 型ロ ボッ ト
(http://otonanokagaku.net/products/mechanic/crab/detail.html)
(2 )
リン ク機 構の 基本 構成
リ ンク 機構 は,通常 ,連 鎖の 自由 度 が 1 と な る よ う に 構 成 さ れ る.この よ う
に自 由度 が 1 の 連 鎖 を拘 束 連 鎖( constrained chain)と い う .平 面 内 に 拘 束 さ
れ て い る 拘 束 連 鎖 に お い て は , 連 鎖 の 自 由 度 を 1 と す るた めに は,
節が
4つ
4つ
の
の 1 自由度対偶(拘束対偶)によって拘束されている構造をとる
必 要 が あ る .こ れ は 連 鎖 の 自 由 度 の 計 算 式 で あ る 式( 1.1)にお い て ,機 素 の 数:
n  4 , 1 自 由度 対 偶 の 数: p1  4 ,2 自由 度対 偶の 数: p2  0 の と き , 連 鎖 の
自由 度 f が
f  3(n  1)  2 p1  p2
 3(4  1)  2  4  0  1
とな るこ とか らも 確か めら れる .
平 面 四 節 連 鎖 の 節 と 対 偶 と の 関 係 を , こ こ で は 図 7.3 の よう に記 す. また ,
平面四節連鎖から一つの節を固定して得られる機構を平面四節リンク機構
(planer four-bar linkage mechanism)と いう .
67
A
B
節
対偶(回り,滑り)
D
図 7.3
C
平面連鎖の構成
リンク機構の節の運動は以下のように分類される.
1)
ク ラ ン ク ( crank): 完 全 に 回 転 す る 節
2)
て こ (lever) : 揺 動 ( よ う ど う ) す る 節
3)
ス ラ イ ダ ( slider): 滑 り 運 動 す る 節
4)
滑 り 座 ( slider guide): ス ラ イ ダ の 動 き を 拘 束 す る 節
また,動力の与え方によって以下のようにも分類される.
1)
原 動 節 (driver): 外 部 か ら エ ネ ル ギー を 取 り 入 れ て 動 く 節
2)
従 動 節 (follower):外 部 に仕 事を す る 節
3)
連 接 棒 ( connecting rod):原動 節と 従動 節と を連 結す る中 間の 節
(3 )
連鎖の種類
平 面リ ンク 機構 のた めの 自由 度 1 の拘 束対 偶と して ,回り 対偶 ,滑り 対偶 が
あ る .連 鎖 を 構 成 す る 4 つ の 対 偶 の 種 類 や配 置 に よ っ て ,平 面四 節 連 鎖 に は 以
下の よう な種 類が ある .
1)
四 節 回 転 連 鎖 ( quadric crank chain, four-bar chain): 4 つ の対 偶が 回り
対偶 であ る連 鎖. 図 7.4 に そ の 模 式 図 と 対 偶 の 配 置 の 関 係 を 示 す .
回り
A
B
A
B
回り
回り
C
D
D
回り
図 7.4
2)
C
四節回転連鎖
ス ラ イ ダ ク ラ ン ク 連 鎖 ( slider crank chain):3 つ の 回 り 対 偶 ,1 つの 滑
り対 偶で ある 連鎖 (図 7.5).
68
回り
A
B
A
C
B
回り
D
回り
D
滑り
図 7.5
3)
C
スライダクランク連鎖
両 ス ラ イ ダ ク ラ ン ク 連 鎖 ( double slider crank chain): 2 つ の回 り対 偶,
2 つ の 滑 り 対 偶 が そ れ ぞ れ 連 続 し て い る 連 鎖 ( 図 7.6).
回り
B
A
B
A
回り
滑り
D
D
C
滑り
図 7.6
4)
C
両 ス ライ ダク ラン ク 連 鎖
ク ロ ス ス ラ イ ダ 連 鎖 (crossed slider chain):2 つの 回り 対偶 ,2 つの 滑
り対 偶が 交互 に配 置さ れて いる 連鎖 ( 図 7.7).
回り
A
B
A
C
B
滑り
滑り
D
回り
D
図 7.7
C
ク ロ スス ライ ダ連 鎖
以下にそれぞれの連鎖とそれに基づいた機構について紹介する.
7.2.
四節回転連鎖
(1 )
四節 回転 連鎖 の基 本特 性
まず,四節回転連鎖のひとつの節が完全に回転するための節の長さの条件を
調 べ て み る .こ の 条 件 は 次 の よ う に ま と め ら れ る .
「最短節と他のひとつの節の
長 さ の 和 が 残 り の ふ た つ の 節 の 和 よ り 小 さ い か , 等 し い .」 こ れ を グ ラ ス ホ フ
69
の 定 理 (Grashof's theorem)という .
こ の条 件を 数式 で表 す.図 7.8 に 示 す 四 節 回 転 連 鎖 の A, B, C , D 節 の 長 さ を 各
a , b, c , d と し , そ の う ち 最 短 節 を A ( 長 さ a ) と す る と , グ ラ フ ホ フ の 定 理 は
次の よう に書 くこ とが でき る.
B
ab  cd
ac bd
ad bc
C
(7.1)
A
最短節
図 7.8
D
四節 回転 連鎖
四節回転連鎖の場合,最短節に対して,どの節を固定するかによって機構の
種類 が決 まっ てく る.す な わち ,図 7.8 の よ う に 四 節 A, B, C , D の う ち 最 短 節 を
A とした場合,固定する節によって以下のような機構が得られる.
1)
て こ ク ラ ン ク 機 構 (lever crank mechanism):
B ま た は D 節( A に 隣 接 す る 節 ) を 固 定 し た 場 合
2)
両 ク ラ ン ク 機 構 ( double crank mechanism):
A 節(最短節)を固定した場合
3)
両 て こ 機 構 ( double lever mechanism):
C 節(A に対向する節)を固定した場合
以下 ,そ れぞ れの 機構 につ いて 述べ る.
(2 )
てこ クラ ンク 機構
て こク ラン ク機 構は 最短 節 A に 隣 接 す る B ま たは D 節 を 固 定 し て 得 ら れ る 機
構で ある.図 7.9 に D 節 を 固 定 し た 場 合 の て こ ク ラ ン ク 機 構 を 示 す .こ の 機 構
では A 節 は
クラ ン ク
と な り ,完 全 回 転 す る .ま た C 節 は
「てこ」
とな
り, 揺動 運動 する .ま た, B 節 が連 接棒 とな る.
てこクランク機構では,クランク節が等速で回転していても,てこ節の揺動
の 往 き と 戻 り の 時 間 が 異 な っ て く る と い う 特 徴 が あ る .こ の よ う な 運 動 を早 戻
り 運 動 (quick return motion) と い う . 具 体 的 に は ク ラ ン ク 節 A と 連 接 棒 B
と が 一 直 線 と な る 姿 勢 が 図 7.9(b)に 示 す よ う に 二 つ あ る が ( P1 , Q1 に よ っ て 示
70
され る姿 勢と P2 , Q2 によ って 示 され る姿 勢),こ の 二 つ の 姿 勢 に よ っ て 規 定 さ れ
る図 中の 角度 1 と角 度  2 の 比 が て こ 節の 往 復 運 動 の時 間 比 と な る .
1
2
(a)
(b)
図 7.9
てこ クラ ンク 機構
ク ラン ク 節 A に 運動 を 与え て,て こ 節 C がそ れに 従う 場合,す なわ ち,A が
原動 節で ,C が 従 動 節 の 場 合 , て こ の 動 き は 一 意 に 決 ま る . し か し , そ の 逆 の
場合,つま り ,てこ 節 C が 原 動 節 ,ク ラ ン ク 節 A が 従 動節 とな る場 合,ク ラン
ク節 A の運 動 とし て,時計 方向 回転 と反 時計 方向 回 転 の 2 通り の運 動が 可能 と
な り , 一 通 り に 決 め る こ と が で き な く な る こ と が あ る . 具 体 的 に は 図 7.9(b)の
クラ ンク 節 A と 連 接 棒 B とが 一直 線に なる Q1 や Q2 の 位 置 の と き で あ る . こ の
よう に運 動の 拘束 が不 完全 にな る点 を 思 案 点 ( change point)と 呼ぶ .ま た,
拘 束 運 動 の 途 中 で , 動 力 を 伝 え ら れ な く な る 点 を死 点 (dead point)と 呼ぶ .
図 7.9 の 機 構 の 場 合 , Q1 と Q2 が 思案 点で あり ,ま た死 点で もあ る .(通 常の 機
構 の 場 合 ,思 案 点 と 死 点 は 一 致 す る ).この 思案 点と いう 概念 は ,5 章 のロ ボッ
トアームの運動学で示した
(3 )
特異点(特異姿勢)
と同じと考えてよい.
両クランク機構
両 クラ ンク 機構 は最 短節 A を固 定し て 得ら れる 機構 であ る.この 場合 ,図 7.10
に 示 す よ う に B 節 と D 節 は い ず れ も 完 全 回 転 す る ク ラ ン ク と な る .こ の 2 つ の
クランクのいずれかの角速度を一定とした場合,一般に他方のクランクは一定
角速度にはならない.すなわち,角速度を変化させる回転装置に応用すること
がで きる .
71
(4 )
両てこ機構
両 て こ 機 構 は ,最 短 節 A に 対 向 す る C 節 を 固 定 し て 得 ら れ る 機 構 で あ る .こ
の場 合, 図 7.11 に 示 す よ う に B 節 と D 節 は い ず れ も 揺 動 運 動 を す る .
図 7.10
7.3.
図 7.11
両 クラ ンク 機構
両 てこ 機構
スライダクランク連鎖
ス ライ ダク ラン ク連 鎖 は 3 つの 回り 対偶 と 1 つ の 滑 り 対 偶 か ら な る 連 鎖 で あ
る. 図 7.12 に示 すよ うに 四節 A, B, C , D の う ち , C 節 を滑 り対 偶に よっ て滑 る
スライダとした場合,どの節を固定するかによって以下のような機構が得られ
る.
B
A
C
D
1)
図 7.12
スライダクランク連鎖
往 復 ス ラ イ ダ ク ラ ン ク 機 構 ( reciprocating block slider crank
mechanism)( ピ ス ト ン ク ラ ン ク 機 構 )(piston crank mechanism):
D 節 (滑 り座 )を 固定 した 場合
2)
回 転 ス ラ イ ダ ク ラ ン ク 機 構 ( turning block slider crank mechanism):
A 節を固定した場合
3)
揺 動 ス ラ イ ダ ク ラ ン ク 機 構 ( swing block crank mechanism):
B 節を固定した場合
4)
固 定 ス ラ イ ダ ク ラ ン ク 機 構 ( fixed block slider crank mechanism):
72
C 節(スライダ)を固定した場合
(1 )
往復 スラ イダ クラ ンク 機構
D節
往 復ス ライ ダク ラン ク機 構は ,図 7.13 に 示 す よ う に
を固 定し て得 ら
れる 機構 であ る. この 場合 , A 節 が ク ラ ン ク と な り 完 全 回 転 し , そ れ に 応 じ て
C 節 が 往 復 運 動 す る .図 7.13 の 機 構 で は ス ラ イ ダ が 往 復 運 動 す る 直 線 方 向 は ク
ラン ク A 節 の 回 転 中 心 と 一 致 し て い る . こ れ に 対 し て , 図 7.14 のよ うに e だ
け偏心している機構もある.これを片寄りクランク機構という.片寄りクラン
ク機構の場合,往きと戻りとで時間が異なる早戻り運動となる.
図 7.13
(2 )
往 復ス ライ ダク ラン ク機 構
図 7.14
片寄りクランク機構
回転 スラ イダ クラ ンク 機構
回 転ス ライ ダク ラン ク機 構は,図 7.15 に示 すよ うに
A節
を固 定し て得 ら
れる 機構 であ る.こ の場 合 , B 節 , D 節 ,な ら び に ス ラ イ ダ C 節 が共 に完 全回
転す る機 構と なる .
図 7.15
回転スライダクランク機構
なお,揺動スライダクランク機構ならびに固定スライダクランク機構はいず
れも応用例が多くはないため,説明を省略する.
73
7.4.
両スライダクランク連鎖
両 スラ イダ クラ ンク 連鎖 は 2 つ の 回 り 対 偶 と 2 つの 滑り 対偶 が連 続し て位 置
する 連鎖 であ る( 図 7.16). 理 論 的 に は 2 つ の ス ラ イ ダ は 直 交 し て い る 必 要 は
ないが,実用的には直交した機構が多く使われる.他の連鎖と同様に,固定す
る 節 に よ っ て い く つ か の 機 構 が 構 成 で き る が , 図 7.16 に示 す B 節 と D 節の ど
ち ら を 固 定 し て も 同 じ 機 構 と な る の で ,こ の 連 鎖 か ら 以 下 の 3 種類 の機 構が 得
られ る.
図 7.16
両ス ライ ダク ラン ク機 構
1)
往 復 両 ス ラ イ ダ ク ラ ン ク 機 構 ( reciprocating block double-slider crank
mechanism):
B 節あるいは D 節を固定した場合
2)
固 定 両 ス ラ イ ダ 機 構 (fixed block double-slider crank mechanism):
C 節を固定した場合
3)
回 転 両 ス ラ イ ダ 機 構 (turning block double-slider crank mechanism):
A 節を固定した場合
(1 )
往復 両ス ライ ダク ラン ク機 構
往 復両 スラ イダ クラ ンク 機構 は,図 7.17(a)に示す ように B 節 あ る い は D 節
を固 定し て得 られ る機 構で ある.この と き A 節 を ク ラ ン ク と し て 回 転 さ せ る と
C 節 は 往 復 運 動 を す る .す なわ ち ,クラ ンク A 節 が 一 定 角 速 度 で 回 転 す る と き ,
C 節は
単振 動
をす る こ と に な る . そ の た め , こ の 機 構 を 単 弦 運 動 機 構 と も
いう .実 際の 機構 は図 7.17(b)に 示す よ うな 形態 にな る.
(2 )
固定 両ス ライ ダ機 構
固 定両 スラ イダ 機構 は, 図 7.18 に示 すよ うに C 節 を 固 定 し て 得 ら れ る 機 構
であ る. この 機構 にお いて , B 節 , D 節 が 図 の よ う に 十 字 に 往 復 で き る よ う に
74
する と,A 節 上 の 点 P は
だ円
軌 道を 描く .そ のた め,この 機構 を
だ円
定
規機 構と もい う.
(a)
(b)
図 7.17
往復両スライダクランク機構
B
A
D
P
C
(3 )
図 7.18
固定両スライダ機構
回転 両ス ライ ダ機 構
回 転両 スラ イダ 機構 とは ,図 7.19 に 示す ように A 節 を 固 定 し て 得 ら れ る 機
構で ある .こ こで , B 節ま たは , D 節を 回転 させ ると , C 節は 滑り なが ら回 転
す る こ と に な る . こ の 機 構 を 応 用 し た の が オル ダ ム 継 手 であ る ( 図 7.20).オ
ルダム継手は 2 つの軸の中心がずれていても回転を伝えることができる.
図 7.19
回 転両 スラ イダ 機構
図 7.20
オルダム継手
なお,クロススライダ連鎖については説明を省略する.
75
7.5.
平面リンク機構の解析
(1 )
解析の分類
この章ではこれまで平面リンク機構の分類を中心に説明してきた.ここで,
3 章 の復 習も 兼ね て ,機 構 の 解 析 の 方 法 に つ い て 今 一 度 整 理 し て み た い .また ,
それに基づいてリンク機構の運動解析を行う.
機構の解析は主に以下の種類に分類される.
1) 運 動 解 析:原 動 節 の 運 動 が 与 え ら れ た と き ,そ れ に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る
各 節( 特 に 従 動 節 )の 運 動 を 求 め る 問 題 .運 動 解 析 は さ ら に 以 下 の よ う に
区分 され る .
a. 位 置 ( 変 位 ) 解 析 : 機 構 の 変 位 を 求 め る 解 析
b. 速 度 解 析 : 機 構 の 速 度 を 求 め る 解 析
c. 加 速 度 解 析 : 機 構 の 加 速 度 を 求 め る 解 析
2) 力 解 析:機構 の 力 の 伝 達の 解 析 .力 解 析 は さ らに 以 下 の よ う に 区 分 さ れ る .
a. 静 力 学 : 慣 性 力 を 無 視 で き る 場 合 の 解 析
b. 動 力 学 : 慣 性 力 を 考 慮 す る 場 合 の 解 析
次いで,運動解析の方法論の分類を考えてみる.以下の分類が考えられる.
1) 数 式 解 法 : 数 式 を 基 本 と す る 解 法 . コ ン ピ ュ ー タ で の 計 算 に 適 し て い る .
数式解法はさらに以下のように区分される.
a. 解 析 的 解 法 : 数 式 を 解 析 的 に 解 く 方 法
b. 数 値 解 法 : 主 に コ ン ピ ュ ー タ を 利 用 す る こ と を 前 提 と し た 数 値 計 算 手
法
2) 図 式 解 法:図 を 用 い て 直 感 的 に 解 く 方 法 .図 式 解 法 は さ ら に 以 下 の よ う に
区分される.
a. 写 像 法:3.4.節 で 紹 介 し た よ う な 速 度・加 速 度 な ど の ベ ク ト ル を 利 用 す
る方法
b. 瞬 間 中 心 法 : 3.5.節 で 説 明 し た よ う な 瞬 間 中 心 を 用 い る 方 法 .
ここでは,特に解析的解法による位置解析と,解析的および瞬間中心法によ
76
る速 度解 析に つい て言 及す る.
5,6 章 で 示 し た よ う な 座 標 変 換 を 基 本 と し た 数 式 解 法 も 当 然 利 用 で き る が ,
ここ では 特に 言及 しな い. ただ し, 11 章 に お い て , こ の 応 用 問 題 を 扱 う .
(2 )
解析 的解 法に よる 位置 解析
解析的な位置解析では,通常,各節の位置をベクトルで表し,これらを機構
が
閉じている
条件を示す方程式に代入して,必要な各節の変位を定める.
この 方程 式の こと を閉 ル ー プ 方 程 式 (loop-closure equation) と 呼 ぶ . 閉 ル ー
プ方 程式 の実 際を 次の 例題 で示 す.
【例 題 7.1】
図 7.21 に 示 す 四 節 回 転 連 鎖 に つ い て ,原 動 節 A の角 度  と 従 動 節 C の角度 
との 関係 を表 す式 を求 めよ .
y
Q
B

P
A
C


O
x
R
D
図 7.21
   
【解 答】節 A, B, C , D の 位置 をベ クト ル OP , PQ , QR , RO で表す .この ベク トル
を用い,機構が閉じていることを表す閉ループ方程式を考えれば,
   
OP  PQ  QR  RO  0
とな り, 図の よう に xy 座 標 を 考 え ,そ れ ぞ れ の 軸 方 向 の 成 分 を 考 え る と
a cos   b cos   d  c cos 
a sin   b sin   c sin 
とな る. これ らの 式か ら  を消去 し,  と  の 関 係 を 得 る た め に は
b 2 cos 2   (d  c cos   a cos ) 2
b 2 sin 2   (c sin   a sin  ) 2
のよ うに 変形 し, これ らの 和を とれ ば,
(d  c cos   a cos ) 2  (c sin   a sin  ) 2  b 2
77
を得 る.
理 想 的 には   f ( ) の 形 で 表 現で き れ ば よ いが , 通 常 は 上式 の よ う な 陰関 数
に な り , 陽 に  と  の 関 係 を 得 る こ と が で き な い . そ の 場 合 は , 通 常 , こ こか
ら数 値計 算を 行う .
(3 )
解析 的解 法に よる 速度 解析
前述のような位置解析により機構の位置の関係式が導出されている場合,そ
れを微分することで,速度の関係式を得ることができる.
【例 題 7.2】
例 題 7.1 の 四 節 回 転 連 鎖 の 原 動 節 A の 角 速 度 が a と 与え られ たと き,従 動 節
C の 角 速 度 c を 求 め よ .
【解 答】 前述 の位 置解 析よ り
a cos   b cos   d  c cos 
a sin   b sin   c sin 
となる方程式が得られている.この両辺を時間で微分すれば,
aa sin   bb sin   cc sin 
aa cos  bb cos   cc cos 
とな る. ただ し
a 
d
d
d
, b 
, c 
dt
dt
dt
であ る. ここ から b を消 去す れば
aa (sin  cos   cos sin  )  cc (sin  cos   cos  sin  )
よっ て, 角速 度 c は
c 
a sin(   )
a
c sin(   )
とな る.
(4 )
瞬間 中心 法に よる 速度 解析
第 3 章 で 示 し た よ う な瞬 間 中 心 を 用 い る こ と で も 機 構 の 速 度 を 得 る こ と が で
きる .
78
【例 題 7.3】
例 題 7.1 の 四 節 回 転 連 鎖 の 原 動 節 A の 角 速 度 が a と 与え られ たと き,従 動 節
C の 角 速 度 c を 瞬 間 中 心 法 に よ り 求 め よ .
【解 答】図 7.22 に 示 す よ う に 固 定 節 D に 対 す る節 B の 瞬 間 中 心 Ob を ま ず 定 義
す る . Ob 回 り の 節 B の運 動 を 考 え れば , 点 P と 点 Q の 速 さ は 瞬 間 中 心 Ob か ら
点 P , Q ま で の距 離 に比 例 す る . 点 P , Q で の速 さ はそ れ ぞ れ aa , cc とな る か
ら, 結局
cc ObQ

aa Ob P
となる.さらに図のような幾何学的関係から
Ob PQ    
ObQP  180  (   )
とな り, また , Ob か ら 直 線 PQ に 垂 線 を 下 ろ し , そ の 交 点 を H とす ると
Ob H  Ob P sin(   )
 ObQ sin(   )
となる.これを先ほどの関係式に代入すれば,
cc ObQ sin(   )


aa Ob P sin(   )
Ob
とな る. した がっ て, 角速 度 c は
c 
a sin(   )
a
c sin(   )
と な り , 例 題 7.2 と 同 じ 結 果 を 得 る .

 
aa
P
A

cc
H
B
C


O
a
Q
D
図 7.22
R c
79
8. カム
この章ではカム装置について紹介する.まず,カム装置の種類につい
て 簡 単 に 紹 介 し , カ ム 装 置 の 速 度解 析 に つ い て も 言及 す る . ま た , カ
ム の 形 状 の 総 合 ( 設 計 ) の 問 題 につ い て も 説 明 す る. こ の 総 合 , す な
わち,望まれる仕様から具体的な機構を決定していくことは,カム装
置だけでなく,他の機構にとっても重要な課題である.
8.1.
カムの種類
(1 )
カム
特 殊 な 形 状 を 持 つ 板 状 の 物 体 を 原 動 節 と し ,こ れ に 回 転 運 動 を 与 え る こ と で ,
従動節が原動節の形状に応じて複雑な運動をすることができる.このような装
置をカ ム 装 置 (cam device)と い う ( 図 8.1). 原 動 節 と な る 板 状 の 機 素 をカ ム
(cam), 従 動 節 と な る 機 素 を フ ォ ロ ア (follower) とい う.
フォロア
カム
図 8.1
カムの例
カムはリンク機構などと比較して単純な機構であるので,設計の自由度が高
い.そのため,以下のようにカムには多くの種類と分類がある.
(2 )
1)
カム の形 状に よる 分類
平 面 カ ム ( plane cam): 各節 が平 面運 動す るカ ム
a.
板 カ ム (plate cam): 平 面 板 の 縁 に 所 定 の 輪 郭 曲 線 を つ け た も の . カ ム
の代 表的 なも の( 図 8.1).
80
b.
正 面 カ ム : 平 面 板 の 正 面 に 溝 を 切 り , こ れに フ ォ ロ ア の 先 端が は ま り 従
属運 動す るも の( 図 8.2(a)).
c.
直 動 カ ム : カ ム が 往 復 直 線 運 動 す る も の ( 図 8.2(b)).
d.
反 対 カ ム : フ ォ ロ ア の ほ う に カ ム 構 造 が あ る も の ( 図 8.2(c)).
(a) 正 面 カ ム
(b) 直 動 カ ム
図 8.2
2)
(c) 反 対 カ ム
平面 カム の種 類
立 体 カ ム ( three-dimensional cam): 各 節 が 立 体 運 動 す る カ ム
a.
実 体 カ ム (solid cam): 円 筒 , 円 す い , 球 な ど の 形 状 物 体 の 表 面 に 溝 を
切り,それにフォロアの先端がはまり従属運動するもの.物体の形状に
よ っ て ,さ ら に ,円 筒 カ ム ,円 す い カ ム ,球 面 カ ム な ど に 分 類 さ れ る( 図
8.3).
(a) 円 筒 カ ム
図 8.3
b.
(b) 円 す い カ ム
(c) 球 面 カ ム
立体 カム の種 類( 実体 カム )
端 面 カ ム : 円 筒 の 端 面 に 曲 線 を 与 え , そ れに フ ォ ロ ア が 従 う構 造 を も つ
もの (図 8.4(a)).
c.
斜 板 カ ム : 円 板 を 回 転 軸 に 対 し て 傾 け て 取 り 付 け , そ の傾 斜 面 に 沿 っ て
フォ ロア を動 かす もの ( 図 8.4(b)).
81
(a) 端 面 カ ム
図 8.4
(b) 斜 板 カ ム
立体 カム の種 類
(2 )カ ムの 作動 に仕 方に よる 分類
1)
確 動 カ ム (positive-return cam): 正面 カ ム の よ う に フ ォロ ア の 動 き がカ
ム に 拘 束 さ れ ,重 力 や バ ネ の 助 け を 借 り な く て も フ ォ ロ ア が 確 実 に 追 従 で
きるカム.
2)
不 確 動 カ ム:確 動 カ ム の 逆 の 定 義 .フ ォ ロ ア の 動 き が ,重 力 や バ ネ の 助 け
を借りなければカムの動きに追従できないもの.
3)
片寄りカム:フォロアの運動方向の軸線がカムの回転軸を通らないもの.
(3 )フ ォロ アの 分類
1)
ポ イ ン ト フ ォ ロ ア (point follower):線 (ある いは 点 )対偶 によ っ てカム
と接 する フォ ロア (図 8.5(a)).
2)
ロ ー ラ フ ォ ロ ア( roller follower):接 触 部が 転が り接 触と なる よう に,フ
ォロ アの 先端 にロ ーラ をお いた もの ( 図 8.5(b)).
3)
曲 面 フ ォ ロ ア : 曲 面 で 作 ら れ た フ ォ ロ ア ( 図 8.5(c)).
4)
平面 フォ ロア :平 面で 作ら れた フォ ロア.
(a)
図 8.5
(b)
(c)
フォ ロア の種 類
82
8.2.
フォロアの速度解析
カムとフォロアの形状が与えられ,カムが一定の角速度  で回転している.
この場合におけるフォロアの速度を求めてみる.ここではポイントフォロアの
みを 仮定 する (図 8.6).
法線 n
v c  v 
vc

v

接線
t
v 
P
t
vc

N
Q
O

n
図 8.6
フォ ロア の速 度解 析
図 に 示 す フ ォ ロ ア と の 接 触 点 P に お け る カ ム の 速 度 を vc ( vc  OP ) と し ,
フ ォ ロ ア の 速 度 を v と す る . ま た , カ ム と フ ォ ロ ア の 速 度 を カ ム の 輪 郭 の 共通
接線 ( t  t  ) と法 線方 向( n  n ) に 分 解 し て 考 え る . す な わ ち ,
vc :カ ムの 速度 の法 線方 向成 分
vc :カ ムの 速度 の接 線方 向成 分
v : フ ォ ロ ア の 速 度 の 法 線 方 向 成 分
v  :フ ォロ アの 速度 の接 線方 向成 分
とす る.
カムとフォロアが接触を保つ条件は,両者の法線方向速度が一致
こと ,す なわ ち,
する
83
vc  v 
(8.1)
とな るこ とで ある . vc , v が 共 通 法 線 と な す 角 を そ れ ぞ れ  と  と す れ ば ,
vc  vc cos    OP cos 
v  v cos 
(8.2)
とな り, これ らを 式( 8.1) に 代 入 し て
v cos    OP cos 
v
(8.3)
OP cos 

cos 
を得 る.
次 い で ,図 に 示 す よ う に カ ム の 回 転 中 心 O か ら 共 通 法 線 へ 下し た 垂 線 と 共 通
法線 との 交点 を N ,O を 通 り フ ォ ロ ア の 運 動 方 向 に 直 交 す る 線 と 共 通 法 線 と の
交点 を Q と す れ ば,
PON   ,
NOQ  
とな るの で, 式(8.3) は さ ら に
OP cos   ON
(8.4)
OP cos 
ON

 OQ
cos 
cos 
(8.5)
v  OQ
(8.6)
のよ うに 書く こと がで きる .すなわ ち,点 Q は カム とフ ォロ アの 間の
心
瞬間中
とな る.
角度  (接触点におけるカムの輪郭とフォロアとの共通法線とフォロアの運
動方 向と のな す角 )を 圧力 角( pressure angle)と い う. 圧力 角が 大き いと 摩
擦が 大き くな り,伝 動の 効 率が 悪く なる .一般 に圧 力 角は 30°以 下で ある こと
が望 まし いと され てい る.
8.3.
図式解法による板カムの輪郭曲線の求め方
カムの運動を記述するために,カムの変位量を横軸にとり,フォロアの変位
量を縦軸にとったカム線図が用いられる.望みの運動がカム線図によって与え
84
られていると仮定し,そこから望みの運動を実現するカムの輪郭曲線を求める
問題を考える.ここでは,図式解法によってポイントフォロアに対する板カム
の輪郭曲線を求める方法について簡単に紹介する.
カ ム線 図は 図 8.7 の 左 に 示 す よ う に 与 え ら れ て い る . カ ム 線 図 の 横 軸 の 延 長
線上 にフ ォロ アの 先端 があ ると し,その 下に 点 O を 中 心 と し た 適 当 な 大 き さ の
円を描く.これがカムの基礎円となる.カムを回転させる代わりに,基礎円を
固定し,基礎円のまわりにフォロア自体をカムの回転と逆向きに回転させるよ
うに考える.その際に,カム線図が表す変位に応じてフォロアの変位を上下さ
せる よう にす れば ,そ の 先 端 が 描い た 曲 線 が カ ム の 輪 郭 曲 線 と な る .す な わ ち ,
図に示すように直交座標系で示されたカム線図の変位を基礎円上の
極座標
に変 換し てい く作 業を 行う .
片寄りカムやローラフォロアなどの場合についても同様に図の描画法を工夫
することによって輪郭曲線を得ることができる.
図 8.7
図式解法によるカムの輪郭曲線の求め方
カムの基礎円の大きさはフォロアの運動パターンの決定には無関係であるが,
通常,基礎円が大きい方が圧力角は小さくなるので,その意味では基礎円は大
きい 方が 望ま しい .
8.4.
数式解法による板カムの輪郭曲線の求め方
先と同様に,任意のフォロアの動きを実現するためのカムの輪郭曲線を求め
85
る 問 題 を こ こ で は 数 式 解 法 に よ っ て 求 め る .フ ォ ロ ア は ポ イ ン ト フ ォ ロ ア と し ,
また 片寄 りが ない 板カ ムを 想定 する .
図 8.8 の よ う に ,カ ム の 回 転 軸に 原 点 を 置 く極 座 標 を 考 え ,カム の回 転角  と
フォ ロア の変 位量 r との 関係 が
r  f ( )
(8.7)
と与えられるとする.これはカム線図の数式表現となる.これはすなわち,カ
ムの輪郭形状の極座標表現と考えることもできる.つまり,カムの基礎円の半
径を r0 とす れば ,カ ムの 輪郭 曲線 rc は
rc  f ( )  r0
(8.8)
となる.これをカムの回転軸に原点を置く直交座標系で表せば,
x  { f ( )  r0 }sin 
y  { f ( )  r0 }cos 
(8.9)
とな る. さら に, ここ から  を 消 去 で き れ ば , パ ラ メ ー タ  を含ま ない
y  F ( x)
の形式の輪郭曲線の式も得ることができる.
図 8.8
カムの輪郭曲線の極座標表示
カムの輪郭曲線がフォロアの速度や加速度に基づいて規定される場合もある.
フォ ロア の速 度は ,式 (8.7) を 時 間 微 分 し て
df ( )
r  
d
のように与えられる.また,加速度も同様に
(8.10)
86
df ( )  2 d 2 f ( )


r 

d
d 2
( 8.11)
のよ うに なる .これ らの 式 に基 づき ,所 定の 速度・加 速度 が得 られ るよ うに f ( )
を適 宜定 める よう にす る.
【例 題 8.1】
以下の条件を満たすカムの輪郭曲線の式を求めよ.輪郭曲線式は回転軸に原
点を 置い た極 座標 (角 度  , 半 径 r ) で 表 現 し た 数 式 と し て 表 せ .
1)
カム は一 定の 角速 度  で回転 する .
2)
カ ム の 角 度  が 0 の と き , フ ォ ロ ア の 変 位 は 最 小 値 a をとる .
3)
カ ム の 角 度  が 0 か ら  まで の 間 , フォ ロ ア は 等 速で 上 昇 し , 角度  の 時
点で フォ ロア の変 位は b ( b  a ) と な る .
4)
残 り の 半 回 転(  か ら 2 )でフ ォ ロ ア は 等 速 度 で 下 降 し ,角 度 2 の時 点
で , 最 初 の 位 置 a まで戻 る.
5)
フォロアはポイントフォロアで片寄りがない.
【 解 答 】 フ ォ ロ ア は 等 速 で 動 く た め , 式 ( 8.10) よ り
df ( )
r  
 k
d
とお く. ただ し k は 定 数 で あ る . こ れ を 積 分 し て
r  k  c
( c  constant )
を得 る.
ま ず,     2 にお いて ,   0 の と き , r  a であ る から ,
ca
   のと き, r  b であ るか ら,
b  k  a
k
ba
これ より

87
r
ba

 a
( 0   )
を得 る.同様 に,    2 にお いて ,   の と き , r  b ,なら びに   2 の
とき , r  a の 条 件 よ り ,
b  k   c
a  k 2  c 
これ らを , k , c  に つい て解 けば
c  2b  a
k 
a b

以上 より ,輪 郭曲 線は 次の よう にな る.
ba

r
 a

c



r  a  b   2b  a
 c

(0     )
(    2 )
一 般に 極座 標表 示で r  a  c( a, c  constant )で表 さ れ る 曲 線 を ア ル キ メ デ
ス 渦 線 と い う . こ こ で 求 め た 輪 郭 曲 線 は 図 8.9 に示 す よう なア ルキ メデ ス渦 線
の一部をつなぎ合わせた形となる.このようなカムはその形からハートカム
(heart cam)と も呼 ばれ る.
b
a
図 8.9
ハ ート カム
例 題 8.1 の 輪郭 曲 線 は   0,  で式が 不連 続と なり,理論 上は加 速度 が無 限大
88
になり,フォロアは大きな衝撃を受けることになる.そのため,実際のカムの
設計の際には,輪郭曲線の勾配が急激に変化しないような工夫を施す必要があ
る.
89
9. 摩擦車
節と節との間で運動を伝える方式の一つとして,ここでは摩擦を利用
した摩擦車について説明する.摩擦車は次章の歯車の基本となる性質
も有している.
9.1.
摩擦車
二つの節が接触し,一方から他方へ運動を伝えるとき,接触点で滑りを伴う
場 合 と 伴 わ な い 場 合 が あ る .滑 り を 伴 う 接 触 を 滑 り 接 触(sliding contact),滑
りを 伴わ ない 接触 を転 が り 接 触 ( rolling contact)と いう .
転がり接触をなす二つの曲線を輪郭に持つ車によって回転運動を伝える伝動
機 構 が あ る .こ こ で 使 わ れ る 車 を 摩 擦 車(friction wheel)ま た は 転 が り 接 触 車
(rolling wheel) と い う . 転 がり 接 触 の 条 件 を 満 た せ ば , 例 え ば 図 9.1 に 示 す
ような複雑な形状の摩擦車も実現可能である(図の摩擦車は対数渦巻き線に基
づく輪郭曲線を有し,その形状から
木の葉車
とも呼ばれている.詳細,後
述す る).
図 9.1
摩擦 車の 例( 木の 葉車)
摩擦車は運動や力の伝達を摩擦によって行われているため,大きな動力を伝
え る こ と は 難 し い( そ の よ う な 場 合 は 通 常 ,歯 車 が 用 い ら れ る ).以下 では ,摩
擦車の伝動の基本となる転がり接触の運動学などについて述べ,滑り接触につ
いて は次 章の 歯車 のと ころ で説 明す る.
90
9.2.
転がり接触の条件
図 9.2 に 示 す よ う に ,二 つ の 節 A, B が OA , OB を 中 心 に 回 転 運 動 を し て ,点 P
で接触している.二つの節が滑りを伴わず,転がり接触にて接触するための条
件を 考え る.
vB
接線 t
vA
法線
n
v A
v B
v B
B
A
P
v A
OA
OB
n
t
図 9.2
転が り接 触
点 P が 節 A に あ る と 考 え た 場 合 の 速 度 を vA , 点 P が 節 B に あ る と 考 え た 場
 
合 の 速 度 を v B と す る ( v A , v B は OA P , OB P の 向 きと 回 転 角 速 度で 決 ま る ). 二つ
の 節 が 接 触 す る た め の 条 件 は , v A , vB の 接 触 点 に お け る 輪 郭 曲 線 の 共 通 法 線
( n  n )方向 の速 度 v A , v B が等し い こと ,す なわ ち ,
v A  v B
(9.1)
で あ る . 一 方 , 二 つ の 節 が 滑 ら な い た め 条 件 は , v A , vB の 接 触 点 に お け る 輪 郭
曲線 の共 通接 線( t  t  )方 向の 速度 v A , v B が等 し いこ と, すな わ ち ,
v A  v B
(9.2)
である.法線方向,接線方向の速度が一致するということは,結局,
v A  vB
(9.3)
で あ る 必 要 が あ る . さ ら に , 2 節 の 接 触 に お け る 速 度 ベ ク ト ル v A , vB が 完 全 に
一致 する ため には ,点 P は
OA , OB を 結 ぶ 直 線 上
に位置しなければならな
91


い( なな ぜな ら, v A , v B は OA P , OB P に そ れ ぞ れ 直 交 す る た め ).
すなわち,二つの節が転がり接触するための条件のひとつ(条件1)は「接
触点が二つの節の回転中心を結ぶ直線上にある」ことである.
次 に , 2 節 間 の 角 速 度 比 の 条 件 を 考 え る た め , 条 件 1 に 基 づ い て , 図 9.3 に
示すような接触点が二つの回転中心を結ぶ直線上にある2節を仮定する.
v A  vB
P
OA
A
図 9.3
OB
B
転が り接 触の 条件 1
こ こ で , 点 P に お け る 節 A 側 の 速 度 v A , 節 B 側 の 速 度 vB の 大 き さ は そ れ ぞ
れ,
v A  OA P   A
vB  OB P  B
(9.4)
と 表 わ さ れ る . 転 が り 接 触 の 場 合 , こ の 両 者 は 一 致 す る ( v A  vB )か ら,
 B OA P

 A OB P
(9.5)
となる.すなわち,転がり接触のための条件の二つめ(条件2)は「二つの節
の角速度比が回転中心から接触点までの距離の
逆比
に等しくなる」ことで
ある .
9.3.
転がり接触する輪郭曲線の条件
上 記の 転が り接 触の 条件 は,接触 点 P で 接 触 し て い る 瞬間 に 対 し て の も の で
あった.これに対して,二つの節が転がり接触を続けて回転するためには,接
触する節の輪郭曲線の条件がさらに必要となる.
図 9.4 に 示 す よ う に ,2 節 A, B の 回転 中心 を OA , OB と し ,点 P で接 触し てい
92
る . OA OB  l と す る . 二 つ の 輪 郭 曲 線 上 に 回 転 後 に 接 触 す る こ と に な る 2 点
QA , QB を 任 意 に 定 め ,こ れ ら の 点 に お け る 接 線 と 動 径( OAQA  rA , OB QB  rB )
と の な す 角 を  A , B と す る . 2 節 A, B が 転 が り 接 触 を 続 け , 2 点 QA , QB が 接 す
る 状 態 に な っ た と き ,転 が り 接 触 の 条 件 よ り ,2 点 QA , QB は 中心 連結 線 OA OB の
上 に く る . そ の た め ,接 触 す る 輪 郭 曲 線 上 の 任 意 の 点 QA , QB につ いて,次 の二
つが転がり接触のための輪郭曲線の条件となる.
rA  rB  l
(9.6)
 A  B  
(9.7)
 , PQ
 についても
さら に, これ らの 条件 から ,弧 の長 さ PQ
A
B
  PQ

PQ
A
B
(9.8)
との 条件 も導 出す るこ とが でき る.
QA
A
rA
OA
A
QB
A
B
B
P
rB
OB
B
l
図 9.4
9.4.
輪郭 曲線 の条 件
転がり接触する輪郭曲線の求め方
一つの節の輪郭曲線が与えられたとき,これと転がり接触をする相手の節の
曲 線 を 求 め る 問 題 を 考 え る . す な わ ち , 図 9.4 に示 す 二つ の節 のう ち, 節 A の
輪郭 曲線 が回 転中 心 OA を極 と した 極座 標 rA  f A ( A ) で 与え られ ると き,こ れ と
転が り接 触す る節 B の輪 郭曲 線 rB  f B ( B ) を求め る.
ま ず , 前 節 で 示 し た 接 線 角 に 関 す る 転 が り 接 触 の 条 件 式 (9.7) を変 形し ,
tan  A  tan(  B )   tan B
(9.9)
なる関係を得る.また,一般に極座標では
tan  
rd
dr
(9.10)
93
とい う関 係が 成り 立つ ので (※ ), 上の 式( 9.9) は さ ら に
rA d A
r d
 B B
drA
drB
( 9.11)
のよ うに 書き 換え るこ とが でき る.
ま た , 転 が り 接 触 の も う ひ と つ の 条 件 式 (9.6) の 微小 量を とれ ば,
drA  drB
とな るの で, 式(9.11) は さ ら に
rA d A  rB d B  (l  rA )d B
(9.12)
とな り, 結局 ,
d B 
rA
d A
l  rA
(9.13)
を得 る. これ を積 分す れば ,
B  
rA
d A  c
l  rA
f ( )
  A A d A  c
l  f A ( A )
(9.14)
と な る . た だ し , c  constant で あ る . こ の 式 と , 転 が り 接 触 の 条 件 式 ( 9.6),
すな わち ,
rB  f B ( B )  l  rA
 l  f A ( A )
(9.15)
の二 つが 求め る輪 郭曲 線の 方程 式と なる.こ こか ら, A ある いは rA を介 して  B
と rB の関 係 を求 める こと がで きる .
(※ )補 足( tan  
rd
につ いて ): 図 9.5 に 示 す よ う に , 極 座 標 に お け る 2
dr
点 P ( r ,  ) と P ( r  dr ,   d ) の 間 の ds と 接 線 角  と の 関 係 は , 図 の 幾
何的な関係より,以下のように表わされる.
sin  
rd
ds
(9.16)
94
cos  
dr
ds
(9.17)
tan  
rd
dr
(9.18)
rd
dr
P
r
ds
d
O

P
r
図 9.5
【例 題 9.1】
節 A の輪郭曲線が
rA  rA0 e A
(a)
で与 えら れる とき( rA0 ,  は定 数 ),こ れ と 転 が り 接 触 す る 節 B の 輪郭 曲線 を求
めよ .
【解 答】 式( a) の 微 小 変 化 は
drA  rA0 e A d A
とな り, これ を変 形し て,
drA
dr
 A
 A
 rA
rA0 e
d A 
を得 る.輪 郭 曲線 の式(9.14)に, rA が パ ラ メ ー タ と な る よ う に 上 式 を 代 入 す
れば ,
B  

rA
d A  c
l  rA
drA
c
  l  rA
1

1

ln(l  rA )  c
を 得 る . こ こ で , c  constant で あ る . こ れ を 変 形 し , さ ら に 式 ( 9.15) よ り ,
95
rB  l  rA  e ( B  c )
c
を得 る. さら に, e
 rB 0 と す れ ば ,
rB  rB 0 e  B
(b)
を得 る.
極 座標 系に おい て,式( a)で 表 わ さ れ る 曲 線 を 対 数 渦 巻 き 線 と い う .式( b)
に示すように,対数渦巻き線を輪郭曲線とする節は,逆回りの対数渦巻き線を
持つ 節と 転が り接 触を する .図 9.6 に 二 つ の 対 数 渦 巻 き 線 で 作 ら れ た 摩 擦 車 の
例を 示す .こ の 線 の 動 径 は 回 転 角 と と も に 単 調 減 少 あ る い は 単 調 増 加 す る の で ,
実際 には図 9.1 に 示 し た よ う に , 摩 擦 車 を 一 定 角 度 ご と に 分 割 し , 単 調 増 加 と
単調減少の対数渦巻き線を交互に配置した構造とする.
図 9.6
対数渦巻き線による摩擦車
96
10. 歯車
この章では,滑り接触を利用した伝達機構である歯車を取り上げる.
前章の摩擦車と比較して歯車は確実に大きな動力を伝えることがで
き る 特 徴 が あ り , 実 用 的 に 広 く 利用 さ れ て い る . こ こ で は 主 に 歯 車 の
基本的定義と種類,ならびに歯形の形状の特徴について説明する.
10.1. 歯 車 の 定 義
歯 車 ( toothed wheel, gear) と は 2 軸 の 間 の 回 転 運 動 を 伝 え る 車 に お い て 接
触面 に歯 (tooth) を つ け , か み 合 わ せ に よ り 伝 動 を 確 実 に し た も の で あ る .
歯 車 の 運 動 は , 図 10.1 に 示す よ う に , その 歯 車 と 同 じ運 動 に な る
摩擦車
(転がり接触車)を想定すると理解しやすい.この歯車に対応する摩擦車の輪
郭 曲 線 を ピ ッ チ 線 ( pitch line), 特 に ピ ッ チ 線 が 円 の 場 合 , ピ ッ チ 円 ( pitch
circle) と い う . ま た ,二つ の 歯 車 の ピ ッ チ 円 の 接 点 をピ ッ チ 点 ( pitch point)
とい う.
ピッチ円
摩擦車
図 10.1
歯車
歯 車と 対応 する 摩擦 車
10.2. 歯 車 の 用 語 と 名 称
歯 車各 部の 用語 ・名 称を 図 10.2 に簡 単に まと める .
97
バックラッシュ( w  s )
円ピッチ( t  w  s )
歯溝の幅
歯厚
歯先円
ピッチ円
歯底円
歯末の丈(たけ)
歯元の丈
頂げき( h f  hk )
全歯丈
歯面(歯の表面のかみ合いに関与する面)
歯幅(歯車の軸方向に測った歯の幅)
図 10.2
歯車の用語・名称
ピッチ円上で測った隣り合う二つの対応する点の間の距離 t を円ピッチ
(circular pitch)と い う .歯 車 の 歯 数 を z ,ピッ チ 円 の 直 径 を d と す れ ば ,円
ピッ チ t は
t
d
z
(10.1)
となる.円ピッチは歯の大きさを決める基礎寸法であり,かみ合う歯車の円ピ
ッチ は等 しく しな けれ ばな らな い.し かし,円 ピッ チ では  があ り, 取り 扱い
に不 便な ので (無 理数 にな る),通 常は ,
m
d
z
(10.2)
で与 えら れる 量を 考え る.d を mm の単 位 で表 した もの をモ ジ ュ ー ル( module)
と呼び,これを歯車の寸法を表す基準の数として用いられている.
98
10.3. 歯 車 の 種 類
歯 車 に は 多 く の 種 類 が あ り ,ま た 分 類 法 も 様 々 で あ る が ,図 10.3 に 基本 的な
種類にまとめた一覧を示す.このように様々な種類の歯車があるが,本書では
最も一般的な歯車である平歯車を対象とした説明を行う.
99
図 10.3
歯 車の 種 類
【例 題 10.1】
二 つの 平歯 車 A, B の歯数 がそ れぞれ 18,45,モ ジュ ール は A, B とも 3mm と
与え られ てい る. この とき ,
1)
歯 車 A, B のピ ッチ 円の 直径 d A , d B を 求 め よ .
2)
歯 車 A, B をか み合 わせ ると きの 中心 軸間 距離 a を 求 め よ .
3)
円 ピ ッ チ t を求 めよ .
4)
平 歯 車 A, B が か み 合 っ て 回 転が 伝 え ら れ る と き ,角速 度比  A / B を求 めよ .
【解 答】
1)
d A  mz A  3  18  54[mm]
d B  mz B  3  45  135[mm]
d A  d B 54  135

 94.5[mm]
2
2
2)
a
3)
t   m  3  9.42[mm]
4)
歯車の動きはピッチ円で定義される摩擦車と同じであるとすれば,式
( 9.5)よ り ,
 A d B 135


 2.5
B d A 54
10.4. 滑 り を 伴 う 接 触 の 条 件
ここでは,歯車同士の接触の基本となる滑り接触の条件について調べる.す
なわち,9章で示した転がり接触と同様な条件を考える.
図 10.4 に 示 す よ う に ,二つ の節 A, B が OA , OB を中心 に角 速度  A , B で 回 転 運
動を して ,点 P で 接 触 し て い る .点 P が節 A に あ る と 考 え た 場 合 の 速 度 を v A ,
点 P が 節 B に あ る と 考 え た 場 合 の 速 度 を v B と す る . 節 A, B が 接 触 を 保 つ に は
両節 の法 線( n  n )方 向 の 成 分 v A , v B が
v A  v B
等し く
なる 必要 があ る.すな わち ,
(10.3)
であ る必 要が ある .こ こで , v A , v B が共 通 法線 とな す角 を  A , B と す れ ば
100
vA
接線 t
n
法線
vB
v A
A
v B
A
A
OA
B
v A  vB
B
N
P
A
B
B
OB
Q
t
M
n
図 10.4
滑 り接 触の 条件
vA  v A cos A  OA P  A cos  A
vB  vB cos  B  OB P  B cos B
(10.4)
であ るの で, これ を式 (10.3)に代 入し て,
OA P  A cos  A  OB P B cos  B
(10.5)
を得 る. これ より ,二 つの 節の 角速 度  A , B の 比 を u とす れば ,
u
B OA P cos A

 A OB P cos B
(10.6)
の よ う に 書 け る . こ こ で , OA , OB か ら 共 通 法 線 に 垂 線 を お ろ し , そ の 交 点 を
M , N とす れば ,
OA P cos  A  OA M
OB P cos  B  OB N
(10.7)
とな るの で, 角速 度比 u は
u
OA M
OB N
(10.8)
の よ う に 書 け る . さ ら に , 共 通 法 線 が 直 線 OAOB と 交わ る点 を Q と す れ ば ,
△OAQM  △OB QN
であ るか ら,
(10.9)
101
OA M O A Q

OB N OB Q
( 10.10)
とな り, 結局 ,
u
 B OAQ

 A OB Q
( 10.11)
を得る.以上より,滑り接触の条件は「2節の接触点における共通法線が回転
中心を結ぶ線分を分ける長さの比と2節の角速度比の
逆比
が一致する」こ
とで ある .
10.5. 歯 形 の 条 件
歯車の歯形は前述のようにピッチ線で表わされる摩擦車と同じ運動を行うよ
うに設計する必要がある.そのための条件を考える.
図 10.5 に 示 す よ う に , 回 転 中 心 OA , ピ ッ チ 線 l A で 表わ され る歯 車 A が 角 速
度  A で 動 く .同 様 に OB , lB , B で 表わ され る歯 車 B の歯が 歯車 A の歯 と接 触点
C で 接 触 し て い る . 接 触 点 C に お い て 歯 面 の 共 通 法 線 が 中 心 連 結 線 OAOB と 交
わる 点を P  と す る と , 前 節 の 議 論 よ り , 二 つ の 歯 車 間 の 角 速 度 比 u  は
u 
 B OA P 

 A OB P 
( 10.12)
のように表わされる.一方,点 P で転がり接触する摩擦車の角速度比 u は式
(9.5)よ り
図 10.5
歯形の条件
102
u
 B OA P

 A OB P
( 10.13)
で与えられる.歯車がピッチ線で表わされる摩擦車と同じ運動をするためには
両者 の角 速度 比 u , u  は
一致
一致
し て い る 必 要 が あ る .す なわ ち,点 P と 点 P  が
している必要がある.これより,歯形が満たすべき条件は「任意の瞬間
に歯と歯の接触点において歯形に立てた法線がその瞬間のピッチ点を通る」こ
とである.この条件を歯形が満たせば,歯車の角速度比は一定で,変化するこ
とがなく,ピッチ線で表現された摩擦車と同じ運動を行うことができる.
歯形の基本条件として上記の条件を満たす様々な歯形の輪郭曲線が考えられ
るが,実際には加工性の容易さや材料強度などの実用的な条件も考慮される.
現在,実用的に利用されているサイクロイド歯形とインボリュート歯形につい
て以 下に 説明 する .
10.6. サ イ ク ロ イ ド 歯 形
図 10.6 に 示 す よ う に ,固 定 さ れ た 直 線 ま た は 円 に 沿 っ て ,一 つ の 円( 転 が り
円 ) が 転 が る と き , 円 周 上 の 点 の 描 く 軌 跡 を サ イ ク ロ イ ド ( cycloid) と い う .
固定された直線上を転がり円が転がるときに得られる軌跡を普通サイクロイド
(図 10.6(a)), 固 定 さ れ た 円 の 外 側 に 沿 っ て 転 が り 円 が 転 が る と き に 得 ら れ る
軌跡 を外 転 サ イ ク ロ イ ド( epicycloid)( 図 10.6(b)),内側 を 転 が す と き の 軌 跡
を内 転 サ イ ク ロ イ ド(hypocycloid)
( 図 10.6(c))とい う.サイ クロ イド 上の 任
意の点の法線は,その点に転がり円がきたときの転がり円と固定円とが接する
点を通る.なぜなら,接触点は転がり円の瞬間中心
となっているからで
ある .
サ イ ク ロ イ ド 歯 形(cycloid tooth profile)は こ のサ イク ロイ ド曲 線を 用い た
も の で あ る ( 図 10.7).す な わち , ピ ッ チ 円の 内 側 に 沿 って 転 が り 円 を転 がし
てできた内転サイクロイドを歯元の曲線とし,ピッチ円の外側に沿って転がり
円を転がしてできた外転サイクロイドを歯末の曲線とする.
サイクロイド歯形は,接触点における共通法線がピッチ点を通るという歯形
103
の条 件を 満足 する.すな わ ち,図 10.8 に 示 す よ う な 二 つ の ピ ッ チ 円 と 転 が り 円
の関 係を 考え る.3 つ の円 は点 P で 接 触 し て い る . 内 転 サ イ ク ロ イ ド と 外 転 サ
イク ロイ ドの 接触 点 P  の法線 は,サ イク ロ イド 曲線 の性 質よ り ,常 に 転が り円
がピ ッチ 円と 接す る点 を通 る.すな わち ,ピッチ 点 P を 通 る .こ の 性 質 は 図 に
示すように歯車が回転して接触点位置がずれても常に成り立つ.
図 10.6
サイクロイド曲線
図 10.7
サイ ク ロ イ ド 歯 形
104
(a)
(b)
(c)
図 10.8
サ イク ロイ ド歯 形の かみ 合 い
10.7. イ ン ボ リ ュ ー ト 歯 形
図 10.9 に 示 す よ う に ,円 の ま わ り に 糸 を 巻 き つ け ,その 端 を 持 って 引 っ 張 り
なが ら糸 を巻 きほ どい てい く.こ のと き ,糸の 端の 描 く軌 跡を 円の イ ン ボ リ ュ
ー ト 曲 線 (involute curve) と い う . 糸 の 巻 き つ い た 円 を 基 礎 円 ( base circle)
とい う.
こ こで , 図 10.10(a)に 示 す よ う な , イン ボ リ ュ ー ト 曲 線 か ら な る 二 つ の 歯 車
の か み 合 い を 考 え る .二 つ の イ ン ボ リ ュ ー ト は 作 用 点 P1 で接 触し てい る.イン
ボ リ ュ ー ト の 性 質 よ り , 二 つ の 基 礎 円 へ の 共 通 接 線 T1T2 が イ ン ボ リ ュ ー ト の 共
105
通 法 線 と な る .ま た ,そ の 共 通 法 線 は 二 つ の 基 礎 円 の 中 心 連 結 線 O1O2 と点 P で
交差 する .さ らに , 図 10.10(b)に 示 す よ う に 二 つ の 歯車 が 回 転 し , イ ン ボ リ ュ
ート 曲線 間の 接触 位置 が P1 に移動 して も,共通 法線 は点 P( T1T2 と O1O2 の 交 点 )
を通 る.そこ で,点 P を
ピ ッチ 点
, O1 P , O2 P を
ピッチ円の半径
とすれ
ば,こ の イ ン ボ リ ュ ー ト 曲 線 か ら な る 機 構 は 歯 形 の 条 件 を 満 足 す る こ と に な る .
図 10.9
(a)
(a)
図 10.10
インボリュート曲線
(b)
(b)
イ ンボ リュ ート 歯形 のか み合 い
106
このようなインボリュート曲線からなる歯形をインボリュート歯形
(involute tooth profile) と い う . イ ン ボ リ ュ ー ト 歯 形 に は 次 に 示 す よ う な い
くつ かの 特徴 があ る.
1)
基 礎 円 の 共 通 接 線 T1T2 が 接 触点 ( 作 用 点 )軌 跡 と な る .す な わ ち , イン ボ
リ ュ ー ト 歯 車 の 動 き は ,基 礎 円 の 共 通接 線 T1T2 を ベ ル ト, 基 礎 円 を ベル ト
車と見立てた
2)
巻き掛け伝動
装置と等価と考えることができる.
接触点において歯形に立てた共通法線と,ピッチ円の共通接線となす角,
を 圧 力 角 (pressure angle) と い う . こ れ は 歯 形 の 接 触 点 に お け る 共 通 接
線 と ピ ッ チ 円 の 中 心 連 結 線 と の な す 角 な ど と も 等 し く ,図 10.10 中 に  で
示 し て あ る .イ ン ボ リ ュ ー ト 歯 形 で は 歯 車 の か み 合 い の 位 置 に よ ら ず 圧 力
角は
3)
常 に一 定
とな る.
二 つ の 歯 車 の 角 速 度 比 2 1 は , 二 つ の 歯 車 の ピ ッチ 円 半 径 を r1 , r2 , 基 礎
円 半 径 を rb1 , rb 2 ,圧 力角 を  とすれ ば,
2 r1 rb1 cos  rb1
 

1 r2 rb 2 cos  rb 2
(10.14)
と な り ,角 速 度 比 は ピ ッ チ 円 半 径 だ け で な く ,基 礎 円 半 径 に つ い て も そ の
逆比 に一 致す る.
【例 題 10.2】
図 10.11 に 示 す 二 つ の イ ン ボ リ ュ ー ト 歯 車 は 図 10.10 に 示し た 歯車 と同 じで
あ る が ,中 心 距 離 が a から a  a に 増 大 し てい る . こ の とき の 二 つ の 歯車 間 の
角速 度比 を求 めよ .
【解答】中心距離の変化に伴い,ピッチ円半径や圧力角は変化するので,それ
ぞ れ の 値 を r1 , r2 な ら び に   と す る . し か し な が ら , 歯 車 の 角 速 度 比 は 式
( 10.14) に 示 す よ う に 最 終 的 に は 中 心 距 離 と は 関 係 な い 基 礎 円 半 径 の 比 に よ
って 規定 され る. つま り,
2 r1 rb1 cos   rb1



1 r2 rb 2 cos   rb 2
とな り, 式 10.14 の 結 果 と 変 わ ら な い .
107
図 10.11
中心間距離の変化
上 の 例 題 で 示 し た よ う に ,イ ン ボ リ ュ ー ト 歯 車 で は 歯 車 間 の 中 心 距 離 が 変 化
しても角速度比が
一定に保たれる
特 性 が あ る .つ ま り ,歯車 の 取 り 付 け の
と き に 中 心 距 離 に 多 少 の 誤 差 が 生 じ て も ,歯車 の か み 合い は 正 し く 行わ れ る こ
とになる.これはインボリュート歯車の実用上の大きな利点の一つである.
10.8. サ イ ク ロ イ ド 歯 形 と イ ン ボ リ ュ ー ト 歯 形 と の 比 較
以下に,これまで言及しなかった事項も含めてサイクロイド歯形とインボリ
ュー ト歯 形の 特性 の比 較を まと める .
108
サイクロイド歯形
インボリュート歯形
容 易 .歯 形 は ひ と つ の イ ン ボ リ ュ
困難.歯末と歯元で別の曲線を
加工性
用いる必要があるため,加工は
容易でない.
ート曲線で表される.
ラック
形工具を用いて切削加工を行う
ことでインボリュート歯形を創
り出すことができる.
小さい.歯の接触する場所によ
摩擦 ,滑 り
大 き い .さ ら に ,接 触 す る 場 所 に
らず滑りは一様である.そのた
よって滑りの大きさが異なる.
め静音に優れる.
歯車間の距離が変わると速度比
歯車の軸
が変化してしまう.そのため,
歯車間の距離を変化させても速
間距離
高い取り付け加工精度を要求さ
度比に変化はない.
れる.
時計など小型化と高精度化を要
実用性
求される特殊な用途に利用され
ている.
一般的に広く利用されている.
109
11. マルチボディダイナミクス入門
機械システムはこれまで見てきたように,リンク,カム,歯車などの
多くの機械要素から成り立っている.これまでの機構学では本講義で
も 示 し た よ う に , こ れ ら の 機 械 要素 を 個 別 に 分 析 して き た . し か し な
がら,近年ではコンピュータの発達に伴い,コンピュータでの数値解
析を前提とし,機構の運動を統一的に扱う方法論が確立されてきた.
これ が マ ル チ ボ デ ィ ダ イ ナ ミ ク ス ( multi body dynamics) と呼 ばれ
る方法である.
マルチボディダイナミクスの詳細は高度な数学的な知識を要求され,
講義としては大学院レベルになるであろう.しかし,今後の機構学と
しては必須の方法論であると考えている.そのため,本章ではその基
本的な概念を簡単に紹介したい.
11.1. マ ル チ ボ デ ィ ダ イ ナ ミ ク ス の 基 本
マ ル チ ボ デ ィ ダ イ ナ ミ ク ス の 基 本 的 な 考 え は 分 割 と 再 統 合 で あ る( 図 11.1).
まず,機械システムが与えられた場合,一般には個々の機械システムは何らか
の対偶によって拘束されている.マルチボディシステムでは一旦,このような
対偶のような拘束をはずし,個々の機械要素が自由に運動できる状態を考える
(分 割).つ い で ,与 え ら れ た 対 偶 の よ う な 運 動 の 拘 束 を 拘 束 式 と し て 並 べ ,数
値 解 法 を 用 い て こ れ を 統 合 的 に 解 い て い く ( 再 統 合 ).
例 えば,図 11.1 のよ うな 平面 四節 リン ク機 構の 運動 を,マ ルチ ボ ディ ダイ ナ
ミクスでは4つの独立した剛体の平面運動と4組の回転関節の拘束条件と1組
の絶対位置拘束条件により定式化する.それらの式を数値計算により解いてい
く.
110
回転拘束
回転拘束
平面四節リンク機構(1自由度)
回転拘束
絶対位置拘束
回転拘束
マルチボディダイナミクス
剛体の平面運動
回り対偶(回転関節)の拘束条件
絶対位置の拘束条件
図 11.1
×4
×4
×1
マルチボディダイナミクスの基本
11.2. 運 動 の 記 述
マ ルチ ボデ ィダ イナ ミク スで は運 動を 一 般 化 座 標(generalized coordinates)
を用 いて 表現 する .
2 次 元 運 動 にお い て nb 個 の 剛 体 が あ る 場 合 , 剛 体 i の デ カ ル ト ( 直 交 ) 座 標
系に おけ る座 標が xi , yi ,i で 与 え ら れ る と す れ ば , 一 般 化 座 標 q は
y1 1  xnb
q  [q1  qn ]T  [ x1
ynb  nb ]T
( n  3nb )
で与 えら れる (図 11.2).
Y
nb
( x2 , y 2 ,  2 )
2
1
( xnb , ynb ,  nb )
i
( xi , yi ,  i )
( x1 , y1 , 1 )
X
図 11.2
2 次 元運 動の 一般 化座 標
3次元運動の場合,剛体は6自由度を持ち,6つの一般化座標で運動を記述
できるが,実際にはさらにオイラーパラメータと呼ばれる変数を導入し,7つ
の 一 般 化 座 標 で 運 動 を 記 述 す る こ と が 多 い ( 詳 細 省 略 ).
111
11.3. 運 動 の 拘 束 ( 2 次 元 )
(1 )
一般式
機構学における対偶として表される物体間の接続関係をマルチボディダイナ
ミク スで は拘 束 式(constraints)によ って 記述 す る .一般 に拘 束 式は 以下 のよ
うに 書く こと がで きる .
c(q1 , q2 ,, qn , t )  0
( 11.1)
この よう な拘 束方 程式 を幾 何学 的拘 束( geometrical constraints)や 運動 学的
拘束 (kinematic constraints) な ど と 呼 ぶ .
拘束式としてはこのほかにも速度拘束やホロノミック拘束/ノンホロノミッ
ク拘束などの種類があるが,説明は省略する.
以下に,2次元平面機構の拘束式の例をいくつか示す.
(2 )
2次 元回 転関 節( 回り 対偶 )
2次元の回転関節(回り対偶)は,物体 i と物体 j とが点 P を共有している
とい う拘 束に よっ て定 義さ れる.すな わ ち,図 11.3 に示 すよ うに 物体 i と 物 体
j と に 座 標 系 を 定 義 し ,原 点 の 位 置 ベ ク ト ル を ri , r j ,点 P の物 体座 標系 から の
位置 ベク トル を si , s j とすれ ば,
cr ( i , j )  ri  si  rj  s j
 ri  Ri i si  r j  R j j s j
( 11.2)
0
が, 回転 関節 の拘 束式 とな る. ここ で Ri , R j は 回転 行列 であ る.
yi
body i
Y
si
P
yj
xi
sj
ri
rj
X
body j
xj
図 11.3
回転関節
112
これ を成 分で 書け ば,
cr ( i , j )
 rx ,i  i sx ,i cos i  i s y ,i sin  i  rx , j  j sx , j cos  j  j s y , j sin  j 

0
i
i
j
j
r
s

s

r
s

s

sin
cos
sin
cos






x ,i
i
y ,i
i
y, j
x, j
j
y, j
j
 y ,i
( 11.3)
とな る.
(3 )ポ イン トフ ォロ アを 用い たカ ム機構
カ ム と ポ イ ン ト フ ォ ロ ア の 拘 束 も 前 述 の 回 転 関 節 と 同 様 に 物 体 i( フ ォ ロ ア )
と物 体 j (カ ム )と が 点 P を 共 有 し て い る と い う 拘 束 に よ っ て 表 現 で き る( 図
11.4).た だ し ,点 P の 位 置 a j がカ ム の角 度  j の 関 数 a j ( j ) とな る.すな わち ,
拘束 式は 以下 のよ うに 表す こと がで きる.
cr ( i , j )  ri  si  r j  a j
 ri  Ri i si  r j  R j j a j ( j )
( 11.4)
0
yi
body i
xi
si
P
Y
yj
ri
aj
xj
body j
rj
X
図 11.4
カム
(4 )絶 対拘 束
物 体 i に 固 定 さ れ た 点 Pi の 座 標 ( px ,i , p y ,i ) と 角 度  i を そ れ ぞ れ 一 定 値
(cx , c y , c ) に 拘 束 す れ ば ,物 体 を 基 準 座 標 系 に 固 定 す る 絶 対 拘 束 を 表 す こ と に な
る( 図 11.5).す なわ ち, 次式 を得 る.
113
ca , x ( i )  px ,i  cx
 rx ,i  i sx ,i cos  i  i s y ,i sin  i  cx  0
ca , y ( i )  p y ,i  c y
 ry ,i  i sx ,i sin  i  i s y ,i cos i  c y  0
ca , (i )  i  c  0
( 11.5)
body i
xi
yi
Y
c
si
cy
Pi
ri
図 11.5
cx
絶対拘束
X
(5 )駆 動拘 束
前述の拘束条件は運動中にも変化しないものであった.これに対して,リン
ク機構における原動節のようにその動きがあら予め与えられる場合がある.こ
れを駆 動 拘 束 (driving constraints) と 呼 ぶ . これ は 前 述 の よう な 幾 何 拘 束 に
時間 項 c(t ) を 付 加 す る こ と で 表 現 す る .
例 え ば ,物 体 i と 物 体 j とが 回転 駆動( relative rotational driver)され てい
る場 合,前 述 の回 転拘 束に 加え て,以 下 の よ う な 駆 動 拘 束 を 考 慮 す る(図 11.7).
crrd ( i , j )   j  i  c(t )  0
( 11.6)
yj
xj
Y
c(t )
yi
body j
P
xi
body i
X
図 11.6
回 転駆 動拘 束
114
11.4. 運 動 の 解 析
(1 )拘 束条 件の 整理
幾 何拘 束の 条件 をま とめ て cK (q ) と 表 し ,駆動拘 束も まと めて cD (q, t ) とす る.
シス テム 全体 では 拘束 条件 は
 c (q ) 
c (q, t )   K
0
 c D (q, t ) 
( 11.7)
と表 され る.
(2 )位 置解 析
対 象と する 機構 に剛 体が nb 個 存 在 す る と き ,一 般 化 座 標 の 数 n は2次 元機 構
の場 合, n  3nb と な る .こ こ で ,幾 何 拘 束 の 式 が nh 個 存 在 す る と き ,機 構 の 自
由度 ndof は ndof  n  nh となる .さ らに ,駆 動 拘 束 の 数 が 機 構 の 自 由 度 の 数 ndof と
一 致 す る と き , 時 刻 t に お い て , 拘 束 条 件 c (q, t )  0 の 方 程 式 を q に つ い て 解 く
こ と に よ り , こ れ を 満 た す 一 般 化 座 標 q を 求 め る こ と が で き る . す な わ ち ,機
構の 位置 解析 を行 うこ とが でき る.
一 般 に , 拘 束 条 件 の 方 程 式 c (q , t )  0 は 非 線 形 連 立 方 程 式 と な る . そ の た め ,
Newton-Raphson 法 な ど の 数 値 計 算 方 法 を 用 い て こ れ ら を 解 く こ と に な る .
(3 )速 度解 析
拘 束条 件式 c (q, t )  0 を時 間で 微分 すれ ば,
c
dc
0
q 
q
dt
ここ で,
( 11.8)
c
c
dc
は 第 5 章 で も 示 し た ヤ コ ビ 行 列 で あ る .こ の
や
は c (q , t )  0
q
q
dt
より 解析 的に 求め るこ とが でき る.し た が っ て ,上 式 を 位 置 解 析 と 同 様 に 速 度 q
について数値的に解くことで,機構の速度を得ることができる.
【例 題 11.1】
図 11.8 に 示す よう な平 面2 リン ク 機 構(ロ ボッ ト アー ム)の 運 動を マル チボ
ディダイナミクスの考え方に基づいて表現せよ.
115
Y
y2
body 2
2
y1
body 1
y0
x2
L2
x1P
A
1
L2
L1
L1
図 11.7
X
x0
【解答】図に示すように物体座標系をとれば,この2リンク一般化座標は
q  [q1  q6 ]T  [ x1
y1 1
x2
y2  2 ]T
とな る. 点 P に おけ る回 転関 節の 条件 は
 x  cos1
cr (1,2)   1   
 y1   sin 1
 sin 1   L1   x2  cos  2


cos1   0   y2   sin  2
 sin  2    L2  0 

cos  2   0  0 
とな る.また ,点 A の 位 置 が 絶 対 座 標 系 に ( x0 , y0 ) の位 置に 拘束 され てい ると い
う絶 対拘 束の 条件 は
 x   cos1
ca (1)   1   
 y1   sin 1
 sin 1    L1   x0  0 
  
cos 1   0   y0  0 
の よ う に 表 さ れ る . こ れ に 二 つ の 回 転 関 節 の 駆 動 拘 束 crrd (0,1) , crrd (1,2) を 仮 定 す
れば,このリンク機構の運動を規定することができる.
11.5. 補 足
1)
上記の例でも明らかなようにマルチボディダイナミクスでは運動を記述
す る た め の 変 数 や 拘 束 条 件 の 式 の 数 が 多 く な っ て し ま い ,計 算 コ ス ト が か
か る 問 題 が あ る .そ の た め ,拘 束 式 や 座 標 変 数が 増 大 し な い よ う に 座 標 系
のとり方に工夫を施す方法も提案されている.
2)
 の よ うな 運 動 方 程 式を 考 慮 し て い な い .
こ こ で紹 介 し た 方 法論 で は f  mx
す な わ ち ,厳 密 に は マ ル チ ボ デ ィ「 ダ イ ナ ミ ク ス 」に は な っ て い な い .真
の意味でのマルチボディダイナミクスではここで紹介したような幾何拘
束 に 加 え て ,各 物 体 に つ い て 立 て た 運 動 方 程 式 を 考 慮 し ,こ れ ら を 連 立 さ
116
せ て 同 時 に 解 く よ う に す る .すな わ ち ,微 分 方 程 式 と 代 数 方 程 式 と が 混 在
す る微 分 代 数 方 程 式( differential algebraic equation)を 解 く 必 要 があ る.
3)
歯 車 な ど 他 の 機 械 要 素 に つ い て も 同 様 な 拘 束 条 件 に 表 現 す る こ と で ,統 一
的 に 機 構 を 定 式 化 で き る .ま た ,3次 元 の運 動 の 解 析 も 基 本 的 に は 2 次 元
の運動解析と同じである.ただし,前述のように3次元では姿勢(角度)
表 現 の た め ,オ イ ラ ー パ ラ メ ー タ と 呼 ば れ る パ ラ メ ー タ を 導 入 す る な ど の
工夫 をす る必 要が ある .
4)
マ ル チ ボ デ ィ ダ イ ナ ミ ク ス の 考 え 方 に お い て も ,第 5 章 の ロ ボ ッ ト 機 構 で
も 示 し た よ う な 特 異 姿 勢 を 考 慮 す る 必 要 が あ る .す な わ ち ,運 動 が 実 現 で
き な い 場 合 や 2 通 り 以 上 の 運 動 が 可 能 な 状 態 に な る 場 合 が 存 在 す る .数 値
計算のうえでは,これらを避ける工夫が必要となる.
117
参考文献
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(2006)
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京電 機大 学出 版局 (2006)